IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大成建設株式会社の特許一覧 ▶ 株式会社北川鉄工所の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】搬送装置および荷物移動方法
(51)【国際特許分類】
   B66D 1/40 20060101AFI20240408BHJP
   B66C 13/06 20060101ALI20240408BHJP
   E01D 21/00 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
B66D1/40 Z
B66C13/06 E
E01D21/00 B
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023180604
(22)【出願日】2023-10-19
【審査請求日】2023-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000154901
【氏名又は名称】株式会社北川鉄工所
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】森田 秀人
(72)【発明者】
【氏名】阿藻 徳彦
(72)【発明者】
【氏名】岡田 拓也
【審査官】中田 誠二郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-214858(JP,A)
【文献】特表2006-501115(JP,A)
【文献】特開2015-218035(JP,A)
【文献】特開2004-123248(JP,A)
【文献】特開2022-169347(JP,A)
【文献】特開2021-070978(JP,A)
【文献】特開2018-100564(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66D 1/00-5/34
B66C 9/00-15/06
E01D 21/00-24/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持架台と、
前記支持架台に支持された横行手段と、
荷物を前記横行手段に向けて上昇させる吊持手段と、
前記荷物に取り付けられる吊り治具とを備え、
前記横行手段は、前記支持架台に備わる支持レールに沿って移動可能な横行台車と、前記横行台車に支持された保持部とを有し、
前記吊持手段は、少なくとも三本のスリングと、前記各スリングの繰り出し長さを個別に調節可能な操出部とを有し、
前記吊り治具は、前記スリングを接続可能なスリング接続部と、前記保持部に掛合可能な受け部とを有することを特徴とする搬送装置。
【請求項2】
前記吊持手段は、前記保持部と前記受け部との位置合わせを補助するガイド部を有することを特徴とする請求項1に記載の搬送装置。
【請求項3】
前記吊り治具は、前記ガイド部に案内される位置決め部を有することを特徴とする請求項2に記載の搬送装置。
【請求項4】
前記吊り治具は、前記受け部を有する本体部と、前記本体部に着脱可能に取り付けられたアタッチメントとを有し、
前記スリング接続部および前記位置決め部が前記アタッチメントに形成されている、ことを特徴とする請求項3に記載の搬送装置。
【請求項5】
前記吊持手段は、四本の前記スリングを有し、
前記吊り治具は、前記受け部を有する本体部と、前記本体部に着脱可能に取り付けられた一対のアタッチメントとを有し、
前記各アタッチメントに二つの前記スリング接続部が形成されている、ことを特徴とする請求項3に記載の搬送装置。
【請求項6】
アタッチメントが前記支持レールと平行に配置された棒状のアタッチメント本体を有し
前記各アタッチメントが本体部に対して前記支持レールの長手方向にスライド可能である、ことを特徴とする請求項5に記載の搬送装置。
【請求項7】
前記ガイド部および前記位置決め部の一方がパイプ材からなり、他方が前記パイプ材に挿入される棒材からなる、ことを特徴とする請求項3に記載の搬送装置。
【請求項8】
前記ガイド部は、上方に向けて移動可能であることを特徴とする請求項7に記載の搬送装置。
【請求項9】
前記横行手段は、前記支持レールの下側に配置されており、
前記吊持手段は、前記支持レールの上側に配置されており、
前記スリングは、前記横行手段の周囲に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の搬送装置。
【請求項10】
搬送装置に備わる支持架台に支持された吊持手段の複数のスリングを荷物に接続する吊上げ準備工程と、
前記吊持手段を使用して前記荷物を上昇させる吊上げ工程と、
前記吊持手段に吊持された前記荷物を前記支持架台に備わる支持レールに支持された横行手段に保持させ、前記スリングに引張力が作用しない非吊持状態にすることで、前記荷物を前記吊持手段から前記横行手段に受け渡す横行準備工程と、
前記横行手段を前記支持レールに沿って横方向に移動させる横行工程と、を備える荷物移動方法であって、
前記吊上げ工程では、少なくとも1本の前記スリングの繰り出し長さを個別に調節して前記荷物の姿勢を修正した後、全ての前記スリングを同じ速度で巻き取ることで、前記荷物を前記横行手段まで上昇させることを特徴とする荷物移動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送装置および荷物移動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば道路橋等における床版取替工事では、既設床版を搬出する作業や新設床版を搬入し設置する作業を繰り返し行う必要がある。このような作業は、クレーン車を用いて行うことができるが、作業時におけるアウトリガーの張出幅員制限や空頭制限等によって最適なクレーン車を使用できない場合には、床版を搬送可能な搬送装置を作業エリアに設置する場合もある。
クレーン車に代わる搬送装置として、特許文献1~3には、作業エリアの上方に横架されるレールと、当該レールに沿って横行可能なチェーンブロック(巻上機)とを備えるものが開示されている。特許文献1~3の搬送装置では、巻上機によって床版を吊り上げ、そのまま横行させることで、床版を移動させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-300688号公報
【文献】特開2004-300689号公報
【文献】特開2022-169347号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
巻上機に吊り上げられた床版は、前後左右に揺れやすい状態にあり、横行の開始・停止時は、床版に作用する慣性力によって床版の揺れが大きくなる虞がある。しかも、橋梁上は強風に晒されやすいため、横行の開始・停止時のみならず、巻上機の横行中においても、慎重な作業が要求される。
巻上機を床版の昇降作業のみに使用し、別途用意した台車等で床版を横行させるという作業手順を採用すれば、上記の問題は解消できるが、床版の重心と吊り位置がずれていると、巻上機に吊り上げられた床版を水平に保つことが難しくなるため、床版の受け渡し作業に手間が掛かる虞がある。特に、壁高欄付きの床版を搬送する場合には、重心位置が壁高欄側に偏心するため、吊り上げた床版を水平に保つことがより一層困難になる。
このような観点から、本発明は、横行手段と吊持手段との間で荷物を受け渡す作業を効率良く行うことが可能な搬送装置および荷物移動方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る搬送装置は、支持架台と、前記支持架台に支持された横行手段と、荷物を前記横行手段に向けて上昇させる吊持手段と、前記荷物に取り付けられる吊り治具とを備えている。前記横行手段は、前記支持架台に備わる支持レールに沿って移動可能な横行台車と、前記横行台車に支持された保持部とを有する。前記吊持手段は、少なくとも三本のスリングと、前記各スリングの繰り出し長さを個別に調節可能な操出部とを有する。前記吊り治具は、前記スリングを接続可能なスリング接続部と、前記保持部に掛合可能な受け部とを有する。
【0006】
本発明に係る搬送装置は、吊持手段によって荷物を吊り上げ、横行手段によって荷物を横行させる。すなわち、本発明に係る搬送装置は、少なくとも三本のスリング(ワイヤーロープスリング、チェーンスリング、ベルトスリング等)に吊られた荷物を横行手段に受け渡した後、横行手段によって荷物を横行させることができる。
そして、本発明によれば、少なくとも三本のスリングの繰り出し長さを個別に調節できるので、重心が偏心するなどして荷物が3次元的に傾いている場合であっても、吊り上げた荷物の姿勢を横行手段に受け渡し易い姿勢に修正することができ、ひいては、横行手段と吊持手段との間で荷物を受け渡す作業を効率良く行うことが可能となる。
【0007】
前記吊持手段は、前記保持部と前記受け部との位置合わせを補助するガイド部を有することが好ましい。
さらに、前記吊り治具は、前記ガイド部に案内される位置決め部を有することが好ましい。
このようにすると、横行手段と吊持手段との間で荷物を受け渡す作業を迅速に行うことが可能となる。
【0008】
前記吊り治具は、前記受け部を有する本体部と、前記本体部に着脱可能に取り付けられたアタッチメントとを有するものでもよい。この場合、前記スリング接続部および前記位置決め部は、前記アタッチメントに形成することが好ましい。
このようにすると、アタッチメントを本体部から取り外すことで荷物を吊持手段から分離できるので、横行手段と吊持手段との間で荷物を受け渡す作業を迅速に行うことが可能となる。
また、前記吊持手段が四本の前記スリングを有している場合には、一対の前記アタッチメントを設け、前記各アタッチメントに二つの前記スリング接続部を形成することが好ましい。
アタッチメントは、前記支持レールと平行に配置された棒状のアタッチメント本体を有し、前記各アタッチメントは、本体部に対して前記支持レールの長手方向にスライド可能とすることが好ましい。このようにすると、吊持手段で吊り上げた荷物を横行手段に受け渡した後、横行手段を支持レールに沿って移動させることでアタッチメントを本体部から取り外すことができるので、アタッチメントを取り外す作業が容易になる。
【0009】
前記ガイド部および前記位置決め部は、一方をパイプ材とし、他方を前記パイプ材に挿入される棒材とすることが好ましい。
このようにすると、前記保持部と前記受け部との位置合わせを簡易な構成で実現できる。
前記ガイド部は、上方に向けて移動可能であることが好ましい。このようにすると、横行手段と吊持手段との間で荷物を受け渡す高さを超えて荷物を上昇させることが可能となる。
【0010】
前記横行手段は、前記支持レールの下側に配置されており、前記吊持手段は、前記支持レールの上側に配置されていることが好ましい。この場合、前記スリングは、前記横行手段の周囲に配置されていることが好ましい。
このようにすると、横行手段がスリングと干渉しないので、吊り上げた荷物を横行手段に受け渡した後、横行手段を速やかに横行させることが可能となる。
【0011】
本発明に係る荷物移動方法は、搬送装置に備わる支持架台に支持された吊持手段の複数のスリングを荷物に接続する吊上げ準備工程と、前記吊持手段を使用して前記荷物を上昇させる吊上げ工程と、前記吊持手段に吊持された前記荷物を前記支持架台に備わる支持レールに支持された横行手段に保持させ、前記スリングに引張力が作用しない非吊持状態にすることで、前記荷物を前記吊持手段から前記横行手段に受け渡す横行準備工程と、前記横行手段を前記支持レールに沿って横方向に移動させる横行工程と、を備える荷物移動方法である。前記吊上げ工程では、少なくとも1本の前記スリングの繰り出し長さを個別に調節して前記荷物の姿勢を修正した後、全ての前記スリングを同じ速度で巻き取ることで、前記荷物を前記横行手段まで上昇させる。
本発明に係る荷物移動方法によれば、荷物ごとに重心位置が異なる場合でも、荷物の姿勢を容易に修正でき、荷物の姿勢を修正した後は、その姿勢を維持したまま荷物を横行手段まで吊り上げることができるので、横行手段と吊持手段との間で荷物を受け渡す作業を効率良く行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、重心が偏心するなどして荷物が3次元的に傾いている場合であっても、スリングの繰り出し長さを個別に調節することで姿勢を修正できるので、横行手段と吊持手段との間で荷物を受け渡す作業を効率良く行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態に係る搬送装置を示す斜視図である。
図2】実施形態に係る搬送装置を示す図であって、(a)は平面図、(b)は側面図である。
図3図2(b)のA-A断面図である。
図4A】第一の架台ユニットを示す斜視図である
図4B】第二の架台ユニットおよび電源ユニットを示す斜視図である。
図5】横行手段を示す図であって、(a)は斜視図、(b)は側面図である。
図6】横行手段の保持部を示す図であって、(a)は図5(b)のB-B断面図、(b)は(a)のC-C断面図、(c)はロックピンを進出させた状態を示す断面図である。
図7】(a)(b)は横行手段の保持部を、旋回体の回転中心から横方向にスライドさせた状態を示す側面図である。
図8】吊持手段を示す斜視図である。
図9】実施形態に係る搬送装置の機能ブロック図である。
図10】吊り治具を床版に取り付けた状態を示す斜視図である。
図11】吊り治具を示す図であって、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は横行手段の保持部を吊り治具の受け部に掛合した状態を示す断面図である。
図12】支持架台の可動モードを説明する図である。
図13】搬送装置を構成する第一の架台ユニットを運搬車両に積載した状態を示す図であって、(a)は平面図、(b)は側面図である。
図14】搬送装置を構成する第二の架台ユニットを運搬車両に積載した状態を示す図であって、(a)は平面図、(b)は側面図である。
図15】実施形態に係る搬送装置の組立方法を説明する図であって、(a)~(c)は第一の搬入工程を示す斜視図である。
図16】実施形態に係る搬送装置の組立方法を説明する図であって、(a)~(c)は第一の搬入工程を示す斜視図である。
図17】実施形態に係る搬送装置の組立方法を説明する図であって、(a)~(c)は架台設置工程を示す斜視図である。
図18】実施形態に係る搬送装置の組立方法を説明する図であって、(a)は第二の搬入工程を示す斜視図、(b)は第一の設備ユニット移動工程を示す斜視図、(c)は第一の設備ユニット取付工程を示す斜視図である。
図19】実施形態に係る搬送装置の組立方法を説明する図であって、(a)は設備ユニット引出工程を示す斜視図、(b)は第二の設備ユニット移動工程を示す斜視図、(c)は第二の設備ユニット取付工程を示す斜視図である。
図20】他の実施形態に係る搬送装置の組立方法を説明する図であって、(a)(b)は第一の搬入工程を示す斜視図、(c)は架台設置工程を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、実施形態に係る搬送装置を示す斜視図である。
図2は、実施形態に係る搬送装置を示す図であって、(a)は平面図、(b)は側面図である。
図3は、図2(b)のA-A断面図である。
図4Aは、第一の架台ユニットを示す斜視図であり、図4Bは、第二の架台ユニットおよび電源ユニットを示す斜視図である。
本実施形態に係る搬送装置100は、橋梁上の既設床版を新設床版に取り替える際に使用する床版搬送用の工事用設備である。作業現場に搬出入する荷物(吊荷)は床版であり、搬送装置100によって搬送される作業対象物(以下、「搬送対象物」という。)は、「吊り治具8を取り付けた床版7」または「吊り治具8のみ」である。なお、図1図3に示された床版7は、既設の床版であるが、新設の床版であってもよい。また、床板の形状等に制限はなく、平板状の床版のみならず、壁高欄と一体になったL型の床版等も含まれる。
【0015】
図1に示すように、本実施形態の搬送装置100は、作業エリアA(図1においてドットを付したエリア)および準備エリアBに設置される。作業エリアAは、既設床版を撤去する作業および新設床版を設置する作業を行うエリアである。準備エリアBは、既設床版を運搬車両に積み込む作業および新設床版を運搬車両から積み降ろす作業を行うエリアであり、作業エリアAに隣接している。
なお、搬送装置100は、作業エリアAにおいて既設床版の撤去作業および新設床版の設置作業の両方を行う場合だけでなく、作業エリアAにおいて既設床版の撤去作業のみを行う場合や、作業エリアAにおいて新設床版の設置作業のみを行う場合にも使用できる。
【0016】
搬送装置100は、図1図3に示すように、支持架台1と、搬送対象物を横行させる横行手段2と、搬送対象物を昇降させる吊持手段3とを備えている。また、搬送装置100は、横行手段2および吊持手段3を制御する制御装置4(図9参照)と、横行手段2や吊持手段3に電力を供給する電源ユニット5と、床版7に取り付けられる吊り治具8とを備えている。
すなわち、搬送装置100は、搬送対象物を吊り上げて横行させるための各種設備ユニット(横行手段2、吊持手段3、電源ユニット5など)を支持架台1に搭載して構成した工事用設備である。
【0017】
<支持架台>
支持架台1は、設備ユニットを支持する構造体であり、作業エリアAおよび準備エリアBに設置される。
支持架台1は、設備ユニットを使用して床版を搬出入するときの形態である固定モード(図1図2参照)と、搬送装置100を移設するときの形態である可動モード(図12参照)とを切替可能である。
【0018】
支持架台1自体を作業現場に搬出入するとき(図13図14参照)は、複数(本実施形態では二つ)の架台ユニット1A,1Bに分割された形態となる。すなわち、本実施形態の支持架台1は、二つの架台ユニット1A,1Bを連結したものである。本実施形態では、連結桁ユニット1Cを介して架台ユニット1A,1Bが連結されている。固定モードでは、一方の架台ユニット1A(第一の架台ユニット1A)が作業エリアAに設置され、他方の架台ユニット1B(第二の架台ユニット1B)が準備エリアBに設置される。なお、支持架台1の分割数や架台ユニット1A,1Bの設置場所は、支持架台1の大きさや作業現場の状況に応じて適宜設定すればよい。
【0019】
支持架台1は、作業エリアAおよび準備エリアBの上方に並設された複数の支持レール11と、支持レール11を支持する複数の支持体12と、隣り合う支持レール11,11を繋ぐ横桁13A,13B,13Cと、前端部に配置された左右の支持体12,12を繋ぐ横桁13D(図4A参照)と、支持レール11の側方に配置された補強架構16とを備えている。本実施形態では、支持レール11、支持体12、横桁13A,13B,13C,13Dおよび補強架構16が支持架台1の本体(固定モードにおける架構)を構成している。
また、支持架台1は、固定モード以外の形態において使用される設備として、走行手段14と、荷役用支持脚15と、運搬用支持脚17A,17Bとを備えている。
さらに、支持架台1は、設備ユニットを昇降可能な昇降機構18を備えている。
【0020】
以下の説明においては、便宜上、支持レール11の長手方向を前後方向(図1の左側を「前側」、右側を「後側」)とし、支持レール11の長手方向に直交する横方向を左右方向とする。
【0021】
支持レール11は、横行手段2および吊持手段3を支持する部材であり、搬送対象物の移動元および移動先の上方に設置される。本実施形態では、二本の支持レール11,11が左右に間隔をあけて並設されている。
支持レール11は、設備ユニットおよび搬送対象物の重量に耐え得る強度・剛性を有した桁材であり、フランジを上下に配したI形鋼からなる。支持レール11の上側フランジの上面は、吊持手段3の走行面であり、上側軌条11aを備えている。上側軌条11aは、吊持手段3の横行をガイドする部材であって、支持レール11の上側フランジの上面に固定されている。
【0022】
支持レール11の下側フランジの上面は、横行手段2の走行面である。本実施形態では、支持レール11のウェブの下端から他方の支持レール11に向かって張り出す下側フランジの上面を、横行手段2の走行面としている。なお、外側に向かって張り出す下側フランジの上面を、横行手段2の走行面としてもよい。また、支持レール11の下側フランジ等に下側軌条を取り付けてもよい。
なお、支持レール11を構成する鋼材の種類は特に限定されず、I形鋼、H形鋼、溝形鋼、角形鋼管などの中から適宜選択できる。
【0023】
図1および図2に示すように、各支持レール11は、作業エリアAの上方に配置される作業側レール部11Aと、準備エリアBの上方に配置される準備側レール部11Bと、作業側レール部11Aと準備側レール部11Bとの間に介設される連結レール部11Cとを有する。作業側レール部11Aは、第一の架台ユニット1Aを構成する部材であり、準備側レール部11Bは、第二の架台ユニット1Bを構成する部材である。連結レール部11Cは、連結桁ユニット1Cを構成する部材である。
【0024】
支持体12は、支持レール11を支持する部材であり、床版に立設されている。本実施形態では、各支持レール11の両端部および中間部に支持体12が配置されており、第一の横桁13Aを介して支持レール11を支持している。なお、支持体12の位置や数は、図示のものに限定されず、支持レール11の長さや設備ユニットの重量等に応じて変更可能である。
本実施形態の支持体12は、長さ調節機構を有する支柱を備えている。当該支柱は、横桁13Aの端部から下方に向かって延出している。本実施形態の支持体12は、上筒と、上筒に挿入された下筒と、下筒に挿入された脚部と、脚部の下端に取り付けられたシューと、上筒に対して下筒を進退させる直動アクチュエータ(例えば油圧ジャッキ等)とを備えている。
【0025】
一つの支持レール11を支持する三つの支持体12のうちの一つは、作業側レール部11Aの前端部に接続されており、残り二つは、準備側レール部11Bの両端部に接続されている。作業側レール部11Aに接続された支持体12は、第一の架台ユニット1Aを構成する部材であり、準備側レール部11Bに接続された支持体12は、第二の架台ユニット1Bを構成する部材である。
図4Aおよび図4Bに示すように、第一の架台ユニット1Aの前端側および第二の架台ユニット1Bの前端部に配置された支持体12の上端部は、ブラケット12aにも支持されている。ブラケット12aは、支持レール11の外側面から側方に向かって張り出していて、支持レール11と支持体12とを繋いでいる。ブラケット12aの一端は、ヒンジを介して支持レール11の側面に接続されており、ブラケット12aの他端は、ヒンジを介して支持体12の側面に接続されている。
【0026】
第一の横桁13A、第二の横桁13Bおよび第三の横桁13Cは、左右に隣り合う支持レール11,11の間隔を保持する部材である。
なお、横桁13A,13B,13Cの位置や数は、図示のものに限定されるわけではなく、支持レール11の長さ等に応じて変更可能である。
【0027】
第一の横桁13Aは、左右に隣り合う支持体12,12の間において、支持レール11,11に架設されている。すなわち、横桁13Aは、支持レール11の両端部および中間部に配置されている。
第一の横桁13Aは、左右の支持レール11,11に横架される桁本体部13bと、桁本体部13bから側方に向かって張り出す桁張出部13a,13aとを備えている。
桁本体部13bの端部は、支持レール11のウェブを貫通しており、ウェブの外面側に突出している。桁本体部13bの外周面は、支持レール11に溶接されている。桁本体部13bは、角筒状の鋼材からなり、桁張出部13aを収容可能である。
桁張出部13aの基端側は、桁本体部13bに挿入されている。桁張出部13aの先端は、支持体12の外周面に接合されている。桁張出部13aは、桁本体部13bに対してスライド可能である。桁張出部13aと桁本体部13bとをスライド可能に連結することによって、横桁13Aの長さ調節機構が形成されている。すなわち、桁本体部13bに対する桁張出部13aの挿入長さを大きくすると、横桁13Aが縮んだ状態となり、桁本体部13bから桁張出部13aを引き出すと、横桁13Aが伸びた状態となる。
なお、桁張出部13aは、桁本体部13bの一端側のみに配置してもよい。この場合には、桁本体部13bの他端を支持レール11に直接固定する。
【0028】
第二の横桁13Bおよび第三の横桁13Cは、左右の支持レール11,11に横架されている。第二の横桁13Bは、鋼材からなり、支持レール11のウェブに接合されている。
第三の横桁13Cは、角筒状の鋼材からなり、支持体11のウェブに形成された開口に連通している。
【0029】
第四の横桁13Dは、作業側レール部11Aの前端部に配置された左右の支持体12,12の間隔を保持する部材である。第四の横桁13Dは、第一の横桁13Aの下方において左右の支持体12,12に横架される桁本体部13dと、桁本体部13dから側方に向かって張り出す桁張出部13c,13cとを備えている。桁本体部13dは、角筒状を呈する部位を有し、桁張出部13cを収容可能である。桁張出部13cは、桁本体部13dに対してスライド可能である。桁張出部13cと桁本体部13dとをスライド可能に連結することによって、横桁13Dの長さ調節機構が形成されている。
【0030】
走行手段14は、搬送装置100(または組立途中の搬送装置100)を移動させる際に使用される。本実施形態の支持架台1には、左右に二つずつ、合わせて四つの走行手段14,14,…が備わっている。四つの走行手段14,14,…は、いずれも架台ユニット1Bに設けられている。
走行手段14は、無軌条式台車であり、車軸を回転させる駆動源(例えばインホイールモータ)を備えている。なお、走行手段14は、軌条式台車であってもよいし、軸数、輪数、駆動源の種類、駆動源の有無にも制限はない。
本実施形態の走行手段14は、補強架構16の下端に取り付けられており、走行面(床版の上面等)に垂直な軸回りに回転可能である。すなわち、走行手段14は、床版上を支持レール11の長手方向(橋軸方向)に走行可能であるとともに、床版上を横桁13A,13B,13Cの長手方向(橋軸直角方向)に走行可能である。本実施形態では、図12に示すように、横行手段2、吊持手段3を第二の架台ユニット1Bに移動させるとともに、搬送装置100全体を低空頭にすることにより、搬送装置100の重心が架台ユニット1B側かつ下側に移動し、四つの走行手段14だけで走行可能となる。
【0031】
荷役用支持脚15は、運搬車両6によって運ばれてきた第一の架台ユニット1Aを荷台61から降ろすとき、あるいは、架台ユニット1Aを荷台61に積み込むときに使用される(図16(b)(c)参照)。架台ユニット1Aには、左右に一つずつ合わせて二つの荷役用支持脚15,15が備わっている(図2(a)参照)。なお、荷役用支持脚15の位置や数は、架台ユニット1Aや大きさや重量等に応じて変更可能である。
【0032】
荷役用支持脚15は、図4Aに示すように、第三の横桁13Cに取り付けられたブラケット15aと、ブラケット15aに取り付けられた補助支柱15bとを備えている。
ブラケット15aは、角筒状を呈していて、第三の横桁13Cに挿入されている。ブラケット15aは、第三の横桁13Cに対して進退可能である。すなわち、第三の横桁13Cの中に箱型のブラケット15aが挿入されていて、ブラケット15aを横桁13Cから引き出すことが可能である。
補助支柱15bは、ブラケット15aの端部に取り付けられている。補助支柱15bは、支持レール11の側面に沿う収納状態(図4A参照)と、鉛直方向に沿う使用状態(図16(b)(c)参照)とを選択可能である。収納状態と使用状態を切り替える場合には、ブラケット15aを第三の横桁13Cから引き抜き、補助支柱15bを90度回転させた後、ブラケット15aを横桁13Cに挿入すればよい。補助支柱15bは、長さ調節機構を有している。本実施形態の補助支柱15bは、直動アクチュエータ(例えばボールジャッキ等)であり、ブラケット15aに取り付けられたシリンダと、シリンダに対して出没可能なロッドと、ロッドの先端に取り付けられたシューとを備えている。補助支柱15bは、床版に立設された状態で、第一の架台ユニット1Aを昇降可能である。
上記のとおり、荷役用支持脚15は、固定モード以外の形態において使用されるものであり、第一の架台ユニット1Aの本体(作業側レール部11A)から側方に向けて延出可能な延出部(ブラケット15a)と、延出部から下向きに延出可能な補助支柱15bを備えている。
【0033】
補強架構16は、図4Bに示すように、支持レール11の長手方向に隣り合う支持体12,12に横架されている。
第二の架台ユニット1Bには、準備側レール部11B,11Bを挟んで対向するように二つの補強架構16,16が備わっている。
【0034】
補強架構16は、柱と梁とを備えた架構であり、支持レール11と平行に配置されている。本実施形態の補強架構16は、支持体12に取り付けられたブラケット16aと、上下一対の梁部16b,16bと、上下の梁部16b,16bを繋ぐ複数の補助支柱16cおよび複数の縦材16dと、を備えている。
ブラケット16aは、補助支柱16cから支持体12に向かって張り出していて、支持体12の外側面に接合されている。本実施形態では、一つの支持体12に対して上下二つのブラケット16a,16aが配置されている。上下のブラケット16a,16aは、上下の梁部16b,16bと同じ高さに配置されている。
梁部16bは、前後に隣り合う補助支柱16c,16cに横架されている。本実施形態の補強架構16は、上下二つの梁部16b,16bを備えている。
補助支柱16cは、ブラケット16aと梁部16bとの間に介設されている。補助支柱16cは、長さ調節機構を有している。本実施形態の補助支柱16cは、直動アクチュエータ(例えばボールジャッキ等)であり、梁部16bに取り付けられたシリンダと、シリンダに対して出没可能なロッドとを備えている。ロッドの下端は、走行手段14に取り付けられている。補助支柱16cは、走行手段14が走行面(床版の上面等)に接地した状態(補助支柱16cが走行面に立設された状態)で、架台ユニット1Bを昇降可能である。
縦材16dは、前後に隣り合う補助支柱16c,16cの間において、上下の梁部16b,16bを繋いでいる。
なお、本実施形態では、補強架構16が柱梁架構である場合を例示したが、補強架構16は、他の架構(例えばトラス架構等)でもよい。
【0035】
図4Aに示す運搬用支持脚17A,17Bは、第一の架台ユニット1Aを運搬車両6によって運搬するときに使用される(図13参照)。すなわち、運搬用支持脚17A,17Bは、運搬時に架台ユニット1Aの安定性を高めるものであり、荷台61上に立設可能である。
第一の運搬用支持脚17Aは、左右の支持体12,12の間に配置されており、第四の横桁13Dの桁本体部13dから下方に向かって延出している。本実施形態では、左右の支持体12,12の間に一対の運搬用支持脚17A,17Aが配置されている。
第二の運搬用支持脚17Bは、左右の支持レール11,11にそれぞれ配置されている。なお、運搬用支持脚17A,17Bの位置や数は、図示のものに限定されず、架台ユニット1Aや大きさや重量等に応じて変更可能である。
第二の運搬用支持脚17Bは、支持レール11の作業側レール部11Aに取り付けられた回動台座17aと、回動台座17aに取り付けられた補助支柱17bとを備えている。
回動台座17aは、作業側レール部11Aの下面(下側のフランジ)に取り付けられている。
補助支柱17bは、回動台座17aに取り付けられている。補助支柱17bは、回動台座17aに備わる横軸回りに回動可能であり、支持レール11に沿う収納状態(図1参照)と、鉛直方向に沿う使用状態(図13参照)とを選択可能である。
【0036】
昇降機構18は、設備ユニットを昇降させる機能を備えている。本実施形態の昇降機構18は、支持架台1の端部に設けられた支持軸18aと、支持軸18aを中心に上下方向に回動可能な回動フレーム18bと、回動フレーム18bを支持する引張手段18cとを備えている
支持軸18aは、支持架台1の軸受けブラケット18dに支持されている。軸受けブラケット18dは、支持架台1の端部に位置する支持体12の上端部に支持されている。
回動フレーム18bは、設備ユニットを吊り下げた状態で回動可能である。回動フレーム18aは、支持架台1の外側に向かって張り出す第一ポジションと、回動フレーム18aに吊持された設備ユニットの少なくとも一部が支持架台1の上方に位置する第二ポジションとの間で回動可能である。昇降機構18により設備ユニットを昇降させる工程における回動フレーム18bの回動範囲は、支持軸18aを通る水平面の上側において当該水平面と回動フレーム18bのなす角度が90度以下となる範囲である。第一ポジションおよび第二ポジションは、設備ユニットを昇降させる工程における回動範囲の下限位置および上限位置に対応している。未使用時の回動フレーム18bは、第一ポジションまたは第二ポジションを越える位置まで回動可能である。例えば、支持架台1の搬出入時等においては、第一ポジションにある回動フレーム18bを下向きに回動させると、回動フレーム18bを支持架台1の支持体12に沿わせた状態で収納することができる。また、第二ポジションにある回動フレーム18bを第一ポジションから遠ざかる方向に回動させると、回動フレーム18bを補強架構16の上側の梁部16bに沿わせた状態で収納することができる。
引張手段18cは、下向きに回動しようとする回動フレーム18bを支持するとともに、回動フレーム18bを第二ポジションに向けて回動させる機能を備えている。本実施形態の引張手段18cは、回動フレーム18bと補強架構1との間に張設されたチェーンブロックからなり、チェーンの長さを調節することで水平面に対する回動フレーム18bの角度を変更することができる。
【0037】
本実施形態の回動フレーム18bは、左右一対のアーム181,181と、両アーム181,181を繋ぐ支持梁182と、引張手段18cの接続先となる接続ブラケット183とを備えている。
アーム181は、長さ調節機構を有している。本実施形態のアーム181は、支持軸18aに接続される第一腕部181aと、第一腕部181aに対して出没可能な第二腕部181bとを備えている。第一腕部181aは、鋼管などからなる筒状の部材である。第二腕部181bの一端側は、第一腕部181aに挿入されており、第二腕部181bの他端は、支持梁182に接合されている。
支持梁182は、長さ調節機構を有している。本実施形態の支持梁182は、第一梁部182aと、第一梁部182aに対して出没可能な一対の第二梁部182b,182bとを備えている。第一梁部182aは、鋼管などからなる筒状の部材である。第二梁部182bの一端側は、第一梁部182aに挿入されており、第二梁部182bの他端は、アーム181の先端(第二腕部181bの先端)に固定されている。
接続ブラケット183は、第一腕部181aの先端部に固定されている。なお、接続ブラケット183は、第二腕部181bに固定してもよいし、支持梁182に固定してもよい。
【0038】
<横行手段>
横行手段2は、図3に示すように、搬送対象物(吊り治具8を取り付けた床版7等)を横行させる機能を有するものであり、支持架台1に支持されている。本実施形態の横行手段2は、吊持手段3に吊持されていない搬送対象物を保持した状態で、支持レール11に沿って移動可能である。横行手段2は、支持レール11の下側に配置されている。
図5は、横行手段2を示す図であって、(a)は斜視図、(b)は側面図である。なお、図5では、支持レール11の図示を省略している。
横行手段2は、前後方向に移動(横行)するための構成として、支持レール11(図1図3参照)に沿って走行可能な横行台車21と、横行台車21に駆動力を付与する台車用駆動源22を備えている。また、横行手段2は、搬送対象物を保持可能な保持部23と、保持部23に駆動力を付与する保持部用駆動源24とを備えている。
【0039】
横行台車21は、懸垂式の台車であり、図5(a)に示すように、駆動輪21aおよび従動輪21bを備えている。駆動輪21aおよび従動輪21bは、支持レール11(図3参照)の下側フランジに掛合し、下側フランジの上面を転動する。なお、駆動輪21aおよび従動輪21bの数、配置等は、台枠の形状や荷重バランス等に応じて適宜設定すればよい。
なお、図示は省略するが、横行台車21の横行(前後方向への移動)を阻止する状態と許容する状態を切り替えるロック機構として、支持架台1に係合するストッパを横行台車21に設けるか、横行台車21に係合するストッパを支持架台1に設けてもよい。
【0040】
横行台車21は、車輪(駆動輪21aおよび従動輪21b)を備える走行体21cと、走行体21cに支持された旋回体21dと、旋回体21dに駆動力を付与する旋回体用駆動源21eとを備えている。
走行体21cは、旋回体21dを支持する本体部211と、本体部211の上に間隔をあけて並設された一対の車軸受け212,212とを備えている。本体部211には、旋回体用駆動源21eが取り付けられている。車軸受け212には、駆動輪21a、従動輪21bおよび台車用駆動源22が取り付けられている。
旋回体21dは、上下方向の軸を中心に回動可能であり、円筒状を呈する基部213と、基部213から側方に向かって張り出す張出部214,214と、基部213の上端部の外周に円周状に配置されたギア215と、張出部214に取り付けられた反力受け部216とを備えている。図示は省略するが、基部213は、走行体21cに設けられた環状の受部(例えばスラスト玉軸受)に支持される。張出部214には、左右方向に延在するガイドスリット217が形成されている。
旋回体用駆動源21eは、旋回体21dを回動させる駆動源(例えば電動モータ)であり、本体部211内に配置されたウォームギヤ等の歯車機構(図示略)を介してピニオン218を回動させる。ピニオン218は、ギア215に歯合しており、旋回体用駆動源21eの駆動力をギア215に伝達する。すなわち、旋回体用駆動源21eを作動させると、旋回体21dが上下方向の軸を中心に回動する。ギア215とピニオン218によって旋回体21dを回動させれば、保持部23に保持された搬送対象物の向きを容易に変更することが可能となる。
【0041】
台車用駆動源22は、駆動輪21aの車軸を回転させる駆動源(例えば電動モータ)であり、横行台車21の走行体21cに搭載されている。なお、横行台車21をワイヤー等で牽引する場合は、台車用駆動源を支持架台1に取り付ける。
【0042】
保持部23は、横行台車21に支持されており、吊持手段3に吊持されていない搬送対象物を保持した状態においても、横行台車21に対して横方向に移動可能である。本実施形態の保持部23は、横行台車21の旋回体21dにスライド移動な状態で支持される基部23aと、吊り治具8に掛合する掛合機構23bとを備えている。
基部23aは、ガイドスリット217に挿入されるガイドピン231を備えている。ガイドピン231は、ガイドスリット217の縁部に係止され、ガイドスリット217の延在方向に移動可能である。すなわち、基部23aは、旋回体21dに対して横方向に移動可能である。ここで、図7(a)は、旋回体21dの回転中心Pから保持部23を右方向にスライドさせた状態を示しており、図7(b)は、旋回体21dの回転中心Pから保持部23を左方向にスライドさせた状態を示している。なお、図7では、支持レール11の長手方向に直交する横方向(左右方向)に保持部23が移動するが、旋回体21dを図7の位置から90度回転させた場合には、支持レール11の長手方向に沿う横方向(前後方向)に保持部23が移動可能となり、旋回体21dを図7の位置から45度回転させた場合には、支持レール11の長手方向に斜交する横方向保持部23が移動可能となる。
掛合機構23bは、吊り治具8に設けられた受け部81に対して上下方向に移動不能、かつ、上下方向の軸を中心に回動不能な状態で掛合する。
【0043】
図6は、横行手段2の保持部23を示す図であって、(a)は図5(b)のB-B断面図、(b)はロックピンを進出させた状態を示す断面図、(c)は(a)のC-C断面図断面図である。
本実施形態の掛合機構23bは、収容部232と、収容部232の中央に配置された中心軸部233と、収容部232内に配置された回転テーブル234と、回転テーブル234を回転させる駆動源235と、収容部232に対して出没する複数(本実施形態では4つ)のロックピン236とを備えている。
【0044】
収容部232は、円筒状の外周面を有する外筒232aと、外筒232aの内側に配置された内筒232bと、外筒232aの下端部に配置されたテーパ部232cと、内筒232bの下部に配置された平面視十字状の補剛材232dとを備えている。収容部232の中心は、保持部23が中立位置にあるときは、旋回体21dの回動中心P(図7参照)と同心となる。
中心軸部233は、補剛材232dの中央部に軸支されており、回転テーブル234を貫通している。中心軸部233の上端部には、側方に向かって張り出すレバー233aが形成されている。
【0045】
回転テーブル234は、中心軸部233に固定された円板であり、中心軸部233を中心に周方向に回動可能である。回転テーブル234には、複数(本実施形態では4つ)のロックピンガイド233bが形成されている。ロックピンガイド233bは、円弧状のスリットからなる。ロックピンガイド233bの両端部のうち、回転テーブル234の中央寄りに設けられた端部(中央側端部)は、中心軸部233を中心とする仮想円上に配置されており、回転テーブル234の外周寄りに設けられた端部(外周側端部)は、前記仮想円よりも大径の仮想円上に配置されている。
駆動源235は、ロックピン236を進退させる直動アクチュエータ(例えば、電動シリンダー)であり、内筒232bの内周面とレバー233aとの間に配置されている。駆動源235(直動アクチュエータ)のロッドを進退させると、中心軸部233を中心にして回転テーブル234が回動する。
【0046】
ロックピン236は、回転テーブル234の半径に沿って配置されている。複数のロックピン236は、回転テーブル234の周方向に間隔をあけて配置されている。すなわち、複数のロックピン236は、中心軸部233を中心として放射状に配置されている。ロックピン236は、収容部232の外筒232aおよび内筒232bを貫通するピン本体236aと、ピン本体236aから中心軸部233に向かって延出する連結体236bとを備えている。連結体236bの端部は、ロックピンガイド233bに係合している。
【0047】
ロックピン236は、回転テーブル234の回動に伴って回転テーブル234の径方向に進退する。例えば、駆動源235(直動アクチュエータ)のロッドを縮退させた状態では、ロックピン236の連結体236bの端部がロックピンガイド233bの中央側端部に係合し、ピン本体236aの全体が収容部232内に没した状態(外筒232aから突出しない状態)となる。この状態から、駆動源235(直動アクチュエータ)のロッドを進出させると、回転テーブル234が回転(図6(b)においては反時計回りに回転)し、ロックピンガイド233bも周方向に移動する。ロックピン236の向きが不変であるため、ロックピンガイド233bが周方向に移動すると、連結体236bの端部が回転テーブル234の径方向に移動し、これに伴い、ロックピン236が収容部232から押し出される。図6(c)に示すように、収容部232からのロックピン236の突出長は、連結体236bの端部がロックピンガイド233bの外周側端部に係合した状態となったときに最大となる。収容部232から突出したロックピン236を縮退させる場合には、駆動源235(直動アクチュエータ)のロッドを縮退させる。
【0048】
図5に示す保持部用駆動源24は、横行台車21に対して保持部23を移動させる駆動源である。本実施形態の保持部用駆動源24は、旋回体21dに配置された直動アクチュエータ(例えば電動アクチュエータ)であり、シリンダと、当該シリンダに対して進出・縮退するロッドとを備えている。保持部用駆動源24は、旋回体21dの張出部214と保持部23の基部23aとに固定される。本実施形態では、ロッドの先端が保持部23の基部23aに固定されており、シリンダが旋回体21dの張出部214に固定されている。保持部用駆動源24は、横行台車21に反力をとって保持部23の基部23aを押し引きすることで、張出部214のガイドスリット217をガイドとして保持部23をスライドさせる。なお、保持部用駆動源24の最大出力は、搬送対象物を保持した状態の保持部23を移動させることができない大きさとすることが好ましい。なお、本実施形態では、二つの保持部用駆動源24を旋回体21dの基部213の前後に配置した場合を例示したが、保持部用駆動源24の数や位置は変更可能である。
【0049】
<吊持手段>
吊持手段3は、図3に示すように、支持架台1に支持されており、搬送対象物を搬送元から横行手段2に向けて上昇させる機能、および、搬送対象物を横行手段2から搬送先に向けて下降させる機能を備えている。吊持手段3は、横行手段2の上方に配置されている。このようにすると、吊持手段3の揚程を短くすることが可能となる。
【0050】
本実施形態の吊持手段3は、支持レール11の上側に配置されており、搬送対象物を吊持していない状態であれば、支持レール11に沿って移動可能である。すなわち、吊持手段3は、スリング33を介して搬送対象物を昇降可能であるとともに支持レール11に沿って移動可能である。なお、搬送対象物を吊持していない状態とは、例えば、スリング33が搬送対象物から外れた状態や、スリング33が搬送対象物に接続されているもののスリング33が弛んだ状態である。
吊持手段3は、前後方向に移動(横行)するための構成として、支持レール11に沿って走行可能な吊持台車31と、吊持台車31に駆動力を付与する台車用駆動源32(図3参照)とを備えている。さらに、吊持手段3は、搬送対象物を昇降させるための構成として、搬送対象物に接続される複数のスリング33と、各スリング33の繰り出し長さを調節する操出部34と、各スリング33に作用する引張力を測定するロードセル35とを備えている。
【0051】
図8は、吊持手段3を示す斜視図である。
図8に示すように、吊持台車31は、鋼材を組み合わせて形成した基台31cと、基台31cに設けられた駆動輪31aおよび従動輪31bと、基台31cから張り出すガイド支持部31dと、ガイド支持部31dに支持されたガイド部31eとを備えている。
【0052】
駆動輪31aおよび従動輪31bは、支持レール11の上側軌条11a(図4A参照)に掛合し、上側軌条11aの上面を転動する。なお、駆動輪31aおよび従動輪31bの数、配置等は、基台31cの形状や荷重バランス等に応じて適宜設定すればよい。
なお、図示は省略するが、吊持台車31の横行(前後方向への移動)を阻止する状態と許容する状態を切り替えるロック機構として、支持架台1に係合するストッパを吊持台車31に設けるか、吊持台車31に係合するストッパを支持架台1に設けてもよい。
図3に示す台車用駆動源32は、駆動輪31aの車軸を回転させる駆動源(例えば電動モータ)であり、吊持台車31の基台31cの下に搭載されている。台車用駆動源32の最大出力(最大トルク)は、吊持手段3に搬送対象物を吊り下げた状態で駆動輪31aの車軸を回転させることができない大きさとすることが好ましい。なお、吊持台車31をワイヤー等で牽引する場合は、台車用駆動源を支持架台1に取り付ける。
【0053】
基台31cは、吊持手段3を構成する機器や部材を固定するための取付座やブラケットを備えている。
ガイド支持部31dは、基台31cの左右両側に設けられている。ガイド支持部31dは、基台31cの側部から側方に向かって張り出す基部311と、基部311から前後に向かって張り出す一対の張出部312,312と、各張出部312の先端に設けられた支持筒313とを備えている。
ガイド部31eは、ガイド支持部31dから下方に向かって延在するパイプ材または棒材であり、支持筒313に挿入されている。ガイド部31eの上端には、抜け止め用のフランジが形成されている。ガイド部31eの上端部は、支持筒313の上端面に係止される。ガイド部31eは、支持筒131の上端面に係止された状態(すなわち、支持筒131から下方に向かって延在する状態)を基本のポジションとしているが、上向きの力を受けたときは、上方に向けて移動可能である。ガイド部31eの上端部が支持筒131の上端面に係止された状態のとき、ガイド部31eの下端は、横行手段2の旋回体21dの側方に位置する。本実施形態のガイド部31eは、パイプ材からなる。ガイド部31eの下端部は、錘台状に拡径されている。
【0054】
スリング33は、吊持手段3から垂れ下がり、横行手段2の側方を通って搬送対象物に至る。スリング33は、例えばワイヤーロープスリング、チェーンスリング、ベルトスリング等などである。本実施形態では、左右の支持レール11,11を挟んで両側に二本ずつ合計四本のスリング33が配置されている。四本のスリング33は、横行手段2の周囲に配置されている。スリング33の下端は、吊り治具8のアタッチメント8Bに掛止される。
【0055】
操出部34は、スリング33の繰り出し長さを調節するものであり、吊持台車31の基台31cに搭載されている。操出部34は、四本のスリング33の繰り出し長さを個別に調節可能である。
本実施形態の操出部34は、基台31cに支持された固定シーブ34aと、スリング33を巻き取るドラム34bと、ドラム34bに駆動力を付与する巻上用駆動源34cとを備えている。固定シーブ34a、ドラム34bおよび巻上用駆動源34cは、四本のスリング33に対応して四つ配置されている。
【0056】
固定シーブ34aは、吊持台車31の基台31cの側部に二つずつ配置されている。各固定シーブ34aは、基台31cから張り出すブラケットに支持されている。左右に隣り合う二つの固定シーブ34a,34aの高さ位置は、上下にずらされている。
ドラム34bは、吊持台車31の基台31cの四隅に配置されている。
巻上用駆動源34cは、ドラム34bに隣接して配置されている。本実施形態の巻上用駆動源34cは、電動モータである。巻上用駆動源34cとして油圧モータを用いても差し支えない。
【0057】
本実施形態の吊持手段3において、搬送対象物からドラム34bに向かうスリング33は、固定シーブ34aを介してドラム34bに至る。
より具体的に説明すると、搬送対象物から上方に向けて延びる右側のスリング33は、右側の固定シーブ34aに略1/4周ほど掛け回され、右側のドラム34bの上方または下方を通って左側のドラム34bに向かう。一方、搬送対象物から上方に向けて延びる左側のスリング33は、左側の固定シーブ34aに略1/4周ほど掛け回され、左側のドラム34bの上方または下方を通って右側のドラム34bに向かう。
【0058】
ロードセル35は、スリング33に作用する引張力を測定する荷重計である。本実施形態のロードセル35は、固定シーブ34aの回転軸に装着されている。
【0059】
<制御装置>
図9は、実施形態に係る搬送装置100の機能ブロック図である。
制御装置4は、ロードセル35で取得されたデータまたはコントローラDからの指令に基づいて横行手段2および吊持手段3を制御する。制御装置4は、支持架台1や設備ユニット(横行手段2、吊持手段3、電源ユニット5)に設けることができる。本実施形態の制御装置は、補強架構16に取り付けられている。制御装置4は、判定手段41と、横行制御手段42と、昇降制御装置43と、回転制御手段44とを備えている。
【0060】
判定手段41は、搬送対象物がスリング33に吊られた状態(吊持状態)であるか否かを判定し、判定結果を横行制御手段42、昇降制御装置43および回転制御手段44に出力する。
本実施形態の判定手段41は、ロードセル35で取得されたデータ(荷重の大きさ)に基づいて吊持状態であるか否かを判定する。すなわち、判定手段41は、ロードセル35で計測された荷重の大きさが閾値を超えた場合には、搬送対象物がスリング33に吊られた状態(吊持状態)であると判定し、閾値以下である場合には、搬送対象物がスリング33に吊られていない状態(非吊持状態)であると判定する。ロードセル35から出力される荷重の値は、スリング33に作用している引張力を反映した値であるので、ロードセル35で取得されたデータを使用すると、吊持状態であるか否か(すなわち、操出部34に搬送対象物の重量が作用しているか否か)を容易かつ確実に判定できる。
閾値は、搬送対象物(床版7および吊り治具8)の重量に基づいて都度設定してもよいし、搬送対象物が吊り治具8のみの場合を想定し、吊り治具8の重量を下回る固定値としてもよい。
【0061】
横行制御手段42は、横行可能な構成要素(横行手段2の横行台車21と保持部23、吊持手段3の吊持台車31)の移動方向および移動速度がコントローラDの操作通りとなるよう各種駆動源の出力等を制御する機能を備えている。本実施形態の横行制御手段42は、さらに、横行手段2および吊持手段3の移動を阻止する状態(横行阻止状態)と許容する状態(横行許容状態)とを切り替える機能を備えている。すなわち、横行制御手段42は、判定手段41により吊持状態であると判定されたときは、横行手段2および吊持手段3の移動(前後方向への移動および左右方向への移動)を阻止する制御(横行阻止制御)を実行し、判定手段41により非吊持状態であると判定されたときは、横行手段2および吊持手段3の移動を許容する制御(横行許容制御)を実行する。
判定手段41により吊持状態であると判定され、横行制御手段42により横行阻止制御が実行されると、横行手段2および吊持手段3は横行阻止状態となり、コントローラDを介して横行手段2または吊持手段3の移動(前後方向への移動または左右方向への移動)を制御装置4に指示しても、停止状態が維持される。
横行阻止制御は、例えば、横行手段2の駆動源(台車用駆動源22、保持部用駆動源24)および吊持手段3の駆動源(台車用駆動源32)を非作動とする制御である。駆動源が電動である場合は、駆動源を非作動とする制御として、駆動源への電力の供給を停止する制御(電源回路の開閉器をオフにする制御)を実行することが好ましい。駆動源が流体圧(油圧や空気圧など)で作動する場合は、駆動源を非作動とする制御として、流体の供給を停止する制御(ポンプを停止する制御や流体の流路に設けた開閉弁を閉じる制御など)や、流体圧をリリーフする制御を実行することが好ましい。
なお、横行台車21、保持部23および吊持台車31の横行を阻止するロック機構(ストッパなど)を備えている場合には、横行制御手段42は、横行阻止制御として、ロック機構を作動させる制御(ストッパを出現させる制御等)を実行する。
【0062】
昇降制御装置43は、搬送対象物を昇降させる動作がコントローラDの操作通りになるよう操出部34の巻上用駆動源34cを制御する機能を備えている。
回転制御手段44は、横行手段2の旋回体23dの回転方向がコントローラDの操作通りになるよう旋回体用駆動源21eを制御する機能を備えている。
【0063】
<電源ユニット>
図1に示す電源ユニット5は、電動の駆動源や制御装置4に電力を供給する設備ユニットであり、支持架台1から片持ち状に張り出した状態で支持架台1に支持されている。
図4に示すように、電源ユニット5は、台枠51と、台枠51に載置された発電機52とを備えている。
台枠51は、床板51aと、床板51aの四隅に立設された縦枠51bと、縦枠51b51bを繋ぐ横枠51cと、床板51aの四隅から下方に延出する脚部51dとを備えている。四つの脚部51dのうち、支持架台1側の脚部51dは、支持レール11の端部に固定されている。
電源ユニット5は、台枠51の脚部51dを介して支持レール11,11に支持されるとともに、台枠51を跨ぐように配置された昇降機構18の回動フレーム18bによって支持されている。なお、台枠51は、チェーンブロック等(図示略)を介して回動フレーム18bに吊持する。
【0064】
発電機52の電力供給先に制限はないが、本実施形態では、横行手段2の駆動源(旋回体用駆動源21e、台車用駆動源22、保持部用駆動源24、ロックピン236用の駆動源235)、吊持手段3の駆動源(台車用駆動源32、巻上用駆動源34c)、ロードセル35、制御装置4などに図示せぬ電力ケーブルを介して電力を供給している。
なお、搬送装置100を移設する過程において、支持架台1の形態を可動モード(図8(c)参照)にするとき(搬送装置100を補助支柱16cだけで自立させるとき)は、電源ユニット5がカウンターウエイトとなる。台枠51と発電機52の重量だけでバランスが取れない場合は、錘となる部材(図示略)を支持架台1に搭載してもよい。
【0065】
<吊り治具>
吊り治具8は、図1に示すように、横行手段2および吊持手段3に掛合可能な機構を備える床版搬送用の冶具であり、荷物である床版7に取り付けられる。
図10は吊り治具を床版に取り付けた状態を示す斜視図、図11は吊り治具を示す図であって、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は横行手段の保持部を吊り治具の受け部に掛合した状態を示す。
図10に示すように、吊り治具8は、横行手段2の保持部23(図11(c)参照)に掛合可能な受け部81と、スリング33を接続可能なスリング接続部88と、を備えている。すなわち、吊り治具8は、横行手段2の保持部23に掛合可能な受け部81とスリング33を接続可能なスリング接続部88とを別々に備えるものである。
このような吊り治具8を床版7に取り付ければ、スリング33で吊り上げた搬送対象物(吊り治具8を取り付けた床版7)を横行手段2に受け渡すことができ、あるいは、横行手段2に保持された搬送対象物を吊持手段3に受け渡すことができる。
本実施形態の吊り治具8は、本体部8Aと、本体部8Aに着脱可能に取り付けられた一対のアタッチメント8B,8Bとを備えている。
【0066】
本体部8Aは、受け部81と、受け部81を支持するフレーム82と、フレーム82に設けられた案内レール83(図11(a)(b)参照)と、床版7に固定される固定部84と、床版7への固定位置を調節する位置調節機構85A,85Bと、アタッチメント8Bを掛合可能なアタッチメント掛合部86と、を備えている。
【0067】
受け部81は、図11(c)に示すように、横行手段2の保持部23と掛合する部位であり、本体部8Aの中央に配置されている。本実施形態の受け部81は、保持部23を挿入可能な筒部81aを備えている。
筒部81aは、円筒状を呈しており、保持部23の掛合機構23bの外周面(外筒232aの外周面)に対向する内周面を備えている。図10に示すように、筒部81aの内周面には、係合穴811が形成されている。係合穴811は、保持部23のロックピン236を挿入可能な穴径を有している。筒部81aとフレーム82との間には、係合穴811から突き出たロックピン236を収容可能な空間が確保されている。
本実施形態の筒部81aは、90度ピッチで放射状に配置された四つのロックピン236に対応する四つの係合穴811を備えている。四つの係合穴811は、周方向に等しい間隔をあけて配置されている。筒部81aは、床版7の上方に配置されており、床版7の上面と筒部81aの下端との間には、受け部81の下側に突き出た保持部23の下部を収容可能な空間が確保されている。筒部81aの位置は、吊り治具8の重心が筒部81aの内側に位置するように設定する。
【0068】
フレーム82は、受け部81を囲む矩形の中央枠部82aと、案内レール83の上方に延出するレール保持部82b,82bとを備えている。フレーム82は、複数の鋼材を縦横に組み合わせて形成されている。
中央枠部82aは、受け部81の周囲に配置された鋼材により形成されており、中央枠部82aから受け部81の筒部81aに至る補強部材を介して、受け部81を支持している。中央枠部82aの四つの内隅は、受け部81の係合穴811に対向している。
レール保持部82bは、案内レール83の上方に配置された鋼材により形成されている。本実施形態では、一対のレール保持部82b,82bが中央枠部82aを挟んで両側に配置されている。レール保持部82bは、案内レール83を支持する複数の支持棒82c,82cを備えている。
【0069】
案内レール83は、フレーム82と固定部84との間に介設される部位であり、レール保持部82bの下側に配置されている。本実施形態では、一対の案内レール83,83がレール保持部82bの下側に配置されている。一対の案内レール83,83は、複数の繋ぎ材83aによって連結されている。
案内レール83は、固定部84が摺動するフランジを有する鋼材からなる。案内レール83の上面には、フレーム82の支持棒82cに連結される連結部83bが突設されている。
【0070】
固定部84は、フレーム82の下方に配置されている。本実施形態では、一対の固定部84,84が受け部81を挟んで両側に配置されている。固定部84は、案内レール83と交差する方向に延在しており、床版7を貫通する締結部品(PC鋼棒やアンカーボルト等)または床版7に植設された締結部品を介して床版7に固定される。
固定部84は、床版7の上面に載置される鋼材からなる。固定部84の両端部には、挿通孔が形成されている。挿通孔には、床版7から突出するPC鋼棒等が挿通される。固定部84の上面には、案内レール83のフランジの上面に掛合する摺動部84a(図10参照)が形成されている。
【0071】
位置調節機構85A,85Bは、直動アクチュエータからなる。
第一の位置調節機構85Aは、案内レール83を支持棒82cに沿って移動させるボールジャッキであり、フレーム82のレール保持部82bに取り付けたギアケースと、ギアケースから延出するネジ棒と、ネジ棒に螺合するナットとを備えている。ネジ棒は、支持棒82cと平行に設けられており、ナットは、案内レール83の連結部83bに固定されている。
第二の位置調節機構85Bは、固定部84を案内レール83に沿って移動させるボールジャッキであり、案内レール83の端部に取り付けたギアケースと、ギアケースから延出するネジ棒と、ネジ棒に螺合するナットとを備えている。ネジ棒は、案内レール83と平行に設けられており、ナットは、固定部84に固定されている。
【0072】
アタッチメント掛合部86は、フレーム82の上面に設けられている。本実施形態のアタッチメント掛合部86は、フレーム82の内外方向に間隔をあけて対向する一対の掛合部材からなる。各掛合部材は、鉤状(逆L字状)を呈しており、フレーム82を構成する鋼材の上面に立設されている。すなわち、アタッチメント掛合部86は、一対の掛合部材によって形成された断面逆T字状の掛合溝を備えている。
フレーム82には、固定部84の長手方向に沿う第一のアタッチメント掛合領域82d,82dと、案内レール83の長手方向に沿う第二のアタッチメント掛合領域82e,82eとが設けられている。第一のアタッチメント掛合領域82dには、固定部84の長手方向に間隔をあけて一対のアタッチメント掛合部86,86が配置されており、第二のアタッチメント掛合領域82eには、案内レール83の長手方向に間隔をあけて一対のアタッチメント掛合部86,86が配置されている。
【0073】
アタッチメント8Bは、スリング33と本体部8Aとの間に介設されるアタッチメント本体87と、アタッチメント本体87に設けられたスリング接続部88と、アタッチメント本体87から上方に向けて延出する位置決め部89とを備えている。
本実施形態のアタッチメント8Bは、支持レール11の長手方向(図3の紙面垂直方向)に延在しており、図8に示すように、二つのスリング接続部88,88を備えている。すなわち、アタッチメント8Bは、支持レール11と平行に配置されており、支持レール11の長手方向に隣り合う二本のスリング33,33に吊持されている。
【0074】
アタッチメント本体87は、断面逆T字状を呈する棒状部材からなり、掛合フランジ87aと、掛合フランジ87aの幅方向の中央部に立設された掛合ウェブ87bとを備えている。アタッチメント本体87は、アタッチメント掛合部86(図10参照)の掛合溝に横から挿入可能な断面形状を備えている。掛合フランジ87aの上面には、掛合凹部87cが形成されている。掛合凹部87cは、アタッチメント掛合部86に対応する位置に設けられており、アタッチメント掛合部86の掛合部材の先端部を受け入れ可能な大きさを備えている。
スリング接続部88は、アタッチメント本体87の端部に形成されている。本実施形態のスリング接続部88は、アタッチメント本体87の掛合ウェブ87bに形成された孔からなる。スリング接続部88には、スリング33の下端部が抜出し不能な状態で接続されている。
位置決め部89は、吊持手段3のガイド部31eに挿入可能な棒材からなり、掛合ウェブ87bの上面に立設されている。
【0075】
なお、吊り治具8を床版7に取り付ける方法に制限はないが、床版7に貫設したPC鋼棒、床版7に植設したアンカーボルト、床版7のインサートナットに螺着したボルトなどを吊り治具8に締着することが好ましい。
【0076】
<搬送装置の使用例>
搬送装置100を使用すると、吊持手段3によって搬送対象物を吊り上げ、吊り上げた搬送対象物を横行手段2に受け渡した後、横行手段2によって搬送対象物を横行させることができる。
また、搬送装置100は、搬送対象物がスリング33に吊られた状態(負荷状態)であるか否かを判定することができ、かつ、負荷状態であると判定されたときは横行手段2および吊持手段3の横行を阻止する状態となる。すなわち、搬送装置100を使用すると、搬送対象物をスリング33に吊った状態で横行させないという作業手順を遵守することができる。ちなみに、スリングに吊った搬送対象物を横行できない機構を備えている搬送装置100は、クレーン等安全規則におけるクレーンに該当するものではない。
【0077】
以下、搬送装置100の使用例として、橋梁上の既設床版を新設床版に取り替える床版取替方法を例示する。
図1に示すように、床版取替方法に使用する搬送装置100は、作業エリアA(図1においてドットを付したエリア)および準備エリアBに設置される。
本実施形態に係る床版取替方法は、搬送装置100を使用した床版移動方法によって既設の床版7を所定の搬出先(準備エリアB)に移動する床版撤去工程と、床版7の搬出先に運び込まれた新設の床版(図示略)を、搬送装置100を使用した床版移動方法によって床版7の搬出元(作業エリアA)に移動する床版設置工程と、を備える。
【0078】
床版撤去工程では、作業エリアAにおいて吊持手段3によって搬送対象物(吊り治具8を取り付けた既設の床版7)を上昇させ(図3参照)、作業エリアAの上方において搬送対象物を横行手段2に受け渡した後(図1参照)、横行手段2によって搬送対象物を準備エリアBの上方まで横行させる。
また、床版撤去工程では、空荷状態の吊持手段3を横行手段2の上方まで回送させ、準備エリアBの上方において搬送対象物を横行手段2から吊持手段3に受け渡した後、吊持手段3によって搬送対象物を運搬車両の荷台まで下降させる。
【0079】
以下、床版撤去工程を例にして、本実施形態に係る床版移動方法をより詳細に説明する。
本実施形態に係る床版移動方法は、吊上げ準備工程(図10)、吊上げ工程および横行準備工程(図1図3)、横行工程、回送工程および吊下げ準備工程、吊下げ工程を備えている。
【0080】
吊上げ準備工程は、搬送対象物を吊り上げる前に行われる工程である。吊上げ準備工程には、治具搬送作業、治具受替え作業、治具下降作業、治具固定作業などが含まれている。図10は、吊下げ準備工程が完了した状態を示している。
治具搬送作業は、吊上げ準備工程における搬送対象物である吊り治具8の本体部8Aを、横行手段2を用いて床版7の上方まで移動させる作業である。吊り治具8の本体部8Aは、横行手段2の保持部23に保持させる。なお、治具搬送作業中は、吊持手段3のスリング33に引張力が作用しない非吊持状態となる(図9に示す判定手段41により非吊持状態であると判定される)ため、横行手段2および吊持手段3の移動(横行)が許容される。横行手段2を前後方向に横行させて吊り治具8の本体部8Aを撤去対象の床版7の上方まで移動させたら、治具受替え作業に進む。
【0081】
治具受替え作業は、横行手段2に保持された吊り治具8の本体部8Aを吊持手段3に受け渡す作業である。治具受替え作業では、吊り治具8のアタッチメント掛合部86にアタッチメント8Bを掛合し、吊り治具8の重量をスリング33に作用させた後、横行手段2のロックピン236を縮退させ(図6(a)参照)、横行手段2の掛合機構23bと吊り治具8の本体部8Aの受け部81との掛合状態を解除する。
治具下降作業は、スリング33に吊り下げられた吊り治具8を、床版7まで下降させる作業である。治具下降作業は、吊持手段3の操出部34を作動させることにより行う。
治具固定作業は、吊り治具8の本体部8Aを床版7に固定する作業である。治具固定作業は、例えば、床版7に貫設したPC鋼棒等の締結部品を吊り治具8の固定部84に締着することにより行う(図11(b)参照)。床版7に設けたPC鋼棒等の位置は、床版7の重心位置や鉄筋の位置等に応じて床版7ごとに異なるため、吊り治具8を床版7に固定する際には、位置調節機構85A,85Bを用いて固定部84の位置を調節する。
なお、治具下降作業の完了後、吊り治具8のアタッチメント8Bを本体部8Aから取り外した場合は、治具固定作業の完了後に、アタッチメント8Bを本体部8Aに接続する作業を行う。
【0082】
吊上げ工程は、図3に示すように、吊持手段3を使用して搬送対象物(吊り治具8を取り付けた床版7)を上昇させる工程である。吊上げ工程は、吊持手段3の操出部34を作動させることにより行う。
吊上げ工程では、少なくとも1本のスリング33の繰り出し長さを個別に調節して床版7の姿勢を修正した後、全てのスリング33を同じ速度で巻き取ることで、床版7を横行手段2まで上昇させる。
吊上げ工程では、床版7の重心が偏心するなどして搬送対象物が3次元的に傾いている場合であっても、スリング33の繰り出し長さを個別に調節することで姿勢を修正できるので、床版7ごとに重心位置が異なる場合でも、床版7の姿勢を容易に修正でき、床版7の姿勢を修正した後は、その姿勢を維持したまま床版7を横行手段2まで吊り上げることができる。すなわち、吊り上げた搬送対象物の姿勢を横行手段2に受け渡し易い姿勢に修正することができ、ひいては、横行手段2と吊持手段3との間で搬送対象物を受け渡す作業を効率良く行うことが可能となる。
【0083】
横行手段2の保持部23の下方まで搬送対象物を上昇させたら、吊持手段3のガイド部31eに吊り治具8の位置決め部89を挿入し、ガイド部31eをガイドとして搬送対象物をさらに上昇させ、保持部23を吊り治具8の受け部81に挿入する(図11(c)参照)。保持部23の下端部にテーパ部232cが形成されているため、受け部81に対して容易に保持部23を脱着できる。また、ガイド部31eに位置決め部89を挿入した後は、位置決め部89がガイド部31eに案内され、横行手段2の保持部23と搬送対象物の受け部81との位置決めがなされるので、横行手段2と吊持手段3との間で搬送対象物を受け渡す作業を迅速に行うことが可能となる。
なお、吊上げ工程中は、吊持手段3のスリング33に引張力が作用する吊持状態となる(判定手段41により吊持状態であると判定される)ため、横行手段2および吊持手段3の移動(横行)は阻止される。
【0084】
横行準備工程は、横行手段2に搬送対象物を保持させ、吊持手段3に吊持された搬送対象物を横行手段2に受け渡す工程である。横行準備工程では、横行手段2のロックピン236を進出させて吊り治具8の受け部81の係合穴811に入り込ませ(図11(c)参照)、その後、スリング33を緩ませる。
スリング33を緩ませると、搬送対象物の自重が横行手段2に作用し、吊持手段3のスリング33に引張力が作用しない非吊持状態となる(判定手段41により非吊持状態であると判定される)ため、横行準備工程後は、横行手段2および吊持手段3の移動(横行)が許容される。なお、スリング33を緩ませると、吊り治具8の本体部8Aのアタッチメント掛合部86とアタッチメント8Bの掛合凹部87c(図8参照)との掛合状態が解除される。
搬送対象物の一部分が作業エリアAからはみ出す虞がある場合には、搬送対象物の全体が作業エリアAの上空に位置するよう、横行手段2の保持部23を横行台車21に対して横方向(支持レール11と交差する方向)に移動させる。
【0085】
横行工程は、横行手段2を前後方向に移動させる工程である。横行手段2の周囲に四本のスリング33が配置されており、横行手段2とスリング33とが干渉しないので、搬送対象物を吊持手段3から横行手段2に受け渡した後、横行手段2を速やかに横行させることが可能となる。
横行工程では、横行台車21を支持レール11に沿って走行させ、搬送対象物を作業エリアAの上方から準備エリアBの上方まで移動させる。
二本のアタッチメント8Bが支持レール11と平行に配置されているため、吊持手段3を停止させた状態で横行手段2を支持レール11に沿って横行させると、吊り治具8のアタッチメント8Bが本体部8Aに対して前後方向にスライドし、アタッチメント8Bがアタッチメント掛合部86から取り外される。横行手段2を支持レール11に沿って横行させるだけで、四本のスリング33を搬送対象物から取り外すことができるので、横行手段2と吊持手段3との間で搬送対象物を受け渡す作業を迅速に行うことが可能となる。
【0086】
横行準備工程の完了後、横行工程を開始する前、または、横行工程の途中で、搬送対象物の向きを変更する回転工程を行ってもよい。図2(a)に示すように、本実施形態では、搬送対象物の長手方向の寸法が、左右に隣り合う支持体12,12の間隔よりも大きいため、横行工程の途中で、搬送対象物の短手方向が左右方向となるように搬送対象物を90度回転させる。回転工程は、横行手段2の旋回体21dを回転させることにより行う。
搬送対象物の向きを変更する過程で搬送対象物の一部分が作業エリアAからはみ出す虞がある場合には、旋回体21dを回動させる前に、旋回体21dに対し保持部23を横方向(支持レール11と交差する方向)に移動させる。
横行工程および回転工程においては、横行手段2の保持部23が搬送対象物の受け部81に対して上下方向に移動不能、かつ、上下方向の軸を中心に回動不能な状態で掛合しているので、スリングに搬送対象物を吊り下げた状態で横行等する場合に比べて、搬送対象物に大きな揺れが発生し難い。
【0087】
回送工程は、空荷状態の吊持手段3を搬送対象物の移動先(図1においては準備エリアB)の上方に移動させる工程である。回送工程では、吊持台車31を支持レール11に沿って走行させる。本実施形態では、横行工程の完了後に回送工程を行っているが、横行準備工程の完了後(すなわち、非吊持状態にあるとき)であれば、横行工程の前に回送工程を行ってもよいし、横行工程と同時に回送工程を行ってもよい。
横行手段2の移動先まで吊持手段3を回送させれば、横行手段2に保持された搬送対象物を下降させる際にも吊持手段3を利用することが可能となる。
【0088】
吊下げ準備工程は、搬送対象物の移動先の上方において吊持手段3のスリング33を搬送対象物に接続し、横行手段2に保持された搬送対象物を吊持手段3に受け渡す工程である。吊下げ準備工程では、吊持手段3を横行手段2の真上に向けて移動させながら吊り治具8のアタッチメント8Bを本体部8Aのアタッチメント掛合部86に掛合し、搬送対象物の重量をスリング33に作用させた後、横行手段2のロックピン236を縮退させ、横行手段2の掛合機構23bと吊り治具8の受け部81との掛合状態を解除する。
【0089】
吊下げ工程は、吊持手段3を使用して搬送対象物を下降させる工程である。本実施形態の吊下げ工程では、スリング33に吊り下げられた搬送対象物を、運搬車両6の荷台61(図2参照)まで下降させる。吊下げ工程は、吊持手段3の操出部34を作動させることにより行う。
搬送対象物を荷台61上に載置したら、床版7から吊り治具8の本体部8Aを取り外し、吊持手段3を使用して本体部8Aを上昇させる。
吊下げ工程が完了したら、運搬車両6により床版7を準備エリアBから作業現場外に運び出す。
【0090】
床版撤去工程の後、引き続き床版設置工程を行う場合には、運搬車両6によって新設の床版を準備エリアBに運び込み、床版撤去工程と逆の手順により、新設の床版を作業エリアAまで移動させる。
すなわち、床版設置工程では、荷台61に載置された搬送対象物(吊り治具8を取り付けた新設の床版)を吊持手段3によって上昇させ、準備エリアBの上方において搬送対象物を吊持手段3から横行手段2に受け渡した後、横行手段2によって搬送対象物を作業エリアAの上方まで横行させる。
さらに、床版設置工程では、空荷状態の吊持手段3を横行手段2の上方まで回送させ、作業エリアAの上方において搬送対象物を横行手段2から吊持手段3に受け渡した後、吊持手段3によって搬送対象物を作業エリアAまで下降させる。
【0091】
なお、吊持手段3を支持レール11に沿って移動できない構成とした場合には、搬送対象物の位置が変わる度に搬送装置100全体を移動させる必要があるが、本実施形態の吊持手段3は、空荷状態であれば支持レール11に沿って移動できるため、支持レール11の長手方向に並んでいる複数の搬送対象物を順次移動させる場合であっても、支持架台1全体を都度移動させる必要はなく、効率良く作業することができる。
【0092】
<搬送装置の移動方法>
作業エリアAでの床版取替作業が完了したら、搬送装置100を移動させる。図12は、支持架台1の可動モードを説明する図である。
本実施形態の搬送装置移動方法は、支持架台1の形態を固定モードから可動モードに変更する第一のモード変更工程と、搬送装置100を自走させる自走工程と、支持架台1の形態を可動モードから固定モードに変更する第二のモード変更工程を備えている。なお、固定モードは、支持体12が床版(走行面)に接地する形態であり、可動モードは、走行手段14のみが床版に接地する形態である。
【0093】
第一のモード変更工程には、第一の重心移動作業、第二の重心移動作業、受替え作業が含まれている。
第一の重心移動作業は、吊り治具8を保持した横行手段2を支持架台1の後部(第二の架台ユニット1B)に移動させるとともに、吊持手段3を支持架台1の後部(第二の架台ユニット1B)に移動させる作業である。すなわち、第一の重心移動作業は、支持架台1に搭載された設備ユニット(横行手段2、吊持手段3、電源ユニット5)および吊り治具8を第二の架台ユニット1Bに集約し、搬送装置100の重心位置を架台ユニット1B内に移動させる作業である。
【0094】
第二の重心移動作業は、支持架台1の支持レール11,11を下降させる作業である。すなわち、第二の重心移動作業は、支持架台1に搭載された設備ユニット(横行手段2、吊持手段3、電源ユニット5)および吊り治具8を支持レール11,11とともに下降させ、搬送装置100の重心位置を下側に移動させる作業である。本実施形態では、支持体12の長さ調節機構(直動アクチュエータ)を作動させ、支持体12を縮めることで、支持レール11,11を下降させる。
受替え作業は、図12に示すように、搬送装置100の自重を支持体12から走行手段14に受け替える作業である。本実施形態では、補強架構16の補助支柱16cの長さ調節機構(直動アクチュエータ)を作動させ、補助支柱16cを伸ばすことで、搬送装置100の自重を支持体12から走行手段14に受け替える。走行手段14が床版(走行面)に接地したら、補助支柱16cをさらに伸ばし、支持体12を宙に浮かせた状態とする。受替え作業が完了すると、支持架台1の形態が可動モードに切り替わり、準備エリアBに配置した四つの走行手段14のみによって搬送装置100が支持される。
【0095】
自走工程は、搬送装置100を移設先まで自走させる工程である。支持架台1の形態が可動モードであるときは、走行手段14を備えた第二の架台ユニット1Bによって搬送装置100が支持され、第一の架台ユニット1Aは床版から浮いた状態となる。したがって、準備エリアB側(図12においては右側)に向けて搬送装置100を自走させると、作業エリアAを走行せずに搬送装置100を移設できる。
【0096】
第二のモード変更工程は、支持架台1の形態を固定モードに戻す工程である。第二のモード変更工程には、搬送装置100の自重を走行手段14から支持体12に受け替える作業と、支持架台1に搭載された設備ユニット(横行手段2、吊持手段3、電源ユニット5)および吊り治具8を支持レール11,11とともに上昇させる作業が含まれている。
本実施形態では、補助支柱16cを縮めることで、搬送装置100の自重を走行手段14から支持体12に受け替え、支持体12を伸ばすことで、設備ユニットとともに支持レール11,11を上昇させる。
第二のモード変更工程が完了すると、支持架台1の形態が固定モードに切り替わり、支持体12によって搬送装置100が支持される。
【0097】
このように、本実施形態の搬送装置移動方法によれば、作業エリアAを走行せずに搬送装置100を移設できるので、新設の床版上に敷鉄板を敷設する作業(新設の床版を防護する作業)を省略あるいは簡略化できる。
また、支持体12が長さ調節可能であり、補強架構16が長さ調節可能な補助支柱16cを備えているので、固定モードと可動モードの切り替えが容易である。
【0098】
<搬送装置の搬入・搬出方法>
搬送装置100は、図13および図14に示すように、運搬車両6に搭載可能なユニットに分けて作業現場に搬入され、あるいは作業現場から搬出される。
図13は、搬送装置100を構成する第一の架台ユニット1Aを運搬車両6に積載した状態を示す図であって、(a)は平面図、(b)は側面図である。図14は、搬送装置100を構成する第二の架台ユニット1Bを運搬車両6に積載した状態を示す図であって、(a)は平面図、(b)は側面図である。
本実施形態では、支持架台1を第一の架台ユニット1Aと第二の架台ユニット1Bに分けて運搬車両6に積載する。図示は省略するが、吊持手段3は支持架台1から取り外し、架台ユニット1A,1Bとは別の運搬車両に積載する。
【0099】
図13(a)に示すように、第一の架台ユニット1Aを運搬車両6の荷台61に積載する際は、横桁13Aを縮めて、架台ユニット1Aの幅寸法を運搬車両6の車幅よりも小さくする。また、図13(b)に示すように、支持体12を縮めて第一の運搬用支持脚17A(図4A)を荷台61に立設するとともに、第二の運搬用支持脚17Bの補助支柱17bを鉛直方向に沿う状態に切り替えて荷台61に立設することにより、運搬用支持脚17A,17Bによって架台ユニット1Aを荷台61上に自立させる。架台ユニット1Aは、運搬車両6の荷台61上で自立するため、架台ユニット1Aを運搬するにあたり、荷台61上に運搬用架台(架台ユニット1Aを支える架台)設置する必要がない。
【0100】
図14(a)に示すように、第二の架台ユニット1Bを荷台61に積載する際は、前後の横桁13A,13Aを縮めて、架台ユニット1Bの幅寸法を運搬車両6の車幅よりも小さくする。また、図14(b)に示すように、支持体12を縮めたうえで、四つの支持体12,12,…によって架台ユニット1Bを荷台61上に立設させる。
本実施形態では、電源ユニット5を荷台61に積載し、台枠51を運搬用架台として利用している。この場合には、台枠51の上に支持レール11,11を載置する。電源ユニット5の台枠51を運搬用架台として利用すれば、専用の運搬用架台を別途設置する必要がない。
本実施形態では、昇降機構18が荷台61の後部側に位置するように架台ユニット1Bを荷台61に積載している。このような向きで架台ユニット1Bを荷台61に積載すると、荷台61の前方に余剰スペースが形成されるので、連結桁ユニット1Cを架台ユニット1Bの前端に接続した状態で運搬できる。
なお、架台ユニット1Aを図13の向きは逆向きにして荷台61に積載する場合(すなわち、運搬用支持脚17Bが荷台71の前部に位置するように架台ユニット1Aを積載する場合)は、連結桁ユニット1Cを架台ユニット1Aに接続した状態で運搬できる。
【0101】
<搬送装置の組立方法>
搬送装置100は、クレーン車を使用せずに組み立てることができる。
以下、図15図19を参照して、搬送装置100の組立方法を説明する。図15図19は、搬送装置100の組立方法を説明する図である。
本実施形態の組立方法は、第一の架台ユニット1Aおよび第二の架台ユニット1Bを準備エリアBに搬入する第一の搬入工程(図15図16)と、準備エリアBに支持架台1を設置する架台設置工程(図17)と、吊持手段3を準備エリアBに搬入する第二の搬入工程と(図18(a))、昇降機構18を用いて吊持手段3を支持架台1上に移動させる第一の設備ユニット移動工程(図18(b))と、吊持手段3を支持架台1に取り付ける第一の設備取付工程(図18(c))と、支持架台1の内部に配置された電源ユニット5を支持架台1の外部に引き出す設備ユニット引出工程(図19(a))と、昇降機構18を用いて電源ユニット5を支持架台1上に移動させる第二の設備ユニット移動工程(図19(b))と、電源ユニット5を支持架台1に取り付ける第二の設備取付工程(図19(c))とを備えている。
【0102】
以下の説明においては、2車線の道路橋のうち、左車線Lの床版を取り替える場合を例示する。図15図19においては、資機材の搬入路が右車線Rに設けられ、左車線Lに作業エリアA(図示略)と準備エリアBが設けられている。また、作業エリアAの後方に準備エリアBと運搬車両の出入口Cが設けられている。
本実施形態では、第二の架台ユニット1Bを搭載した運搬車両6を到着させ、その後、第一の架台ユニット1Aを搭載した運搬車両6を到着させる。以下の説明では、第二の架台ユニット1Bを搭載した運搬車両を「先着運搬車両」と称し、第一の架台ユニット1Aを搭載した運搬車両を「後着運搬車両」と称する場合がある。
【0103】
1.第一の搬入工程
第一の搬入工程では、図15(a)に示すように、まず、先着運搬車両6の荷台61に積載した第二の架台ユニット1Bを作業現場に搬入する。具体的には、第二の架台ユニット1Bを積載した先着運搬車両6を準備エリアBに入場させ、先着運搬車両6の前方に作業エリアA(図示略)が位置するように先着運搬車両6を停車させる。なお、右車線Rを走行してきた先着運搬車両6は、出入口Cから前向きで左車線Lの準備エリアBに進入させ、その後、出入口Cの後方まで後退させる。
続いて、図15(b)に示すように、補強架構16,16を荷台61の側方に向けて移動させ、第二の架台ユニット1Bを拡幅する。本実施形態では、電源ユニット5の台枠51(図14(b)参照)を架台ユニット1Bの運搬用架台として利用しており、荷台61から支持体12が浮いているため、補強架構16を側方に移動させることができる。補強架構16を側方に移動させると、第一の横桁13Aの桁張出部13aが桁本体部13bから引き出された状態となる。
【0104】
その後、図15(c)に示すように、先着運搬車両6から第二の架台ユニット1Bを降ろす。具体的には、支持体12を伸し、支持体12を床版(走行面)に接地させる。
電源ユニット5は、支持レール11を走行可能なトロリー等に吊持させる。
その後、支持体12をさらに伸ばし、第二の架台ユニット1Bと電源ユニット5を荷台61から浮かせた状態にする。
架台ユニット1Bおよび電源ユニット5を荷台61から浮かせたら、先着運搬車両6を出入口Cから退場させる。
【0105】
続いて、図16(a)に示すように、後着運搬車両6の荷台61に積載した第一の架台ユニット1Aを作業現場に搬入する。具体的には、第一の架台ユニット1Aを積載した後着運搬車両6を準備エリアBに入場させ、後着運搬車両6の前方に作業エリアA(図示略)が位置し、かつ、後着運搬車両6の後方に第二の架台ユニット1Bが位置するように後着運搬車両6を停車させる。なお、右車線Rを走行してきた後着運搬車両6は、出入口Cから前向きで左車線Lの準備エリアBに進入させ、その後、出入口Cの後方まで後退させる。
続いて、図16(b)に示すように、第一の横桁13Aの桁本体部13bに収容されている桁張出部13aを引き出し、支持体12を荷台61の側方に位置させる。
また、架台ユニット1Aに収納されている荷役用支持脚15を使用時の形態に変化させる。具体的には、第三の横桁13Cに収容されているブラケット15aを引き出すとともに、ブラケット15aの端部において横軸回りに補助支柱15cを回転させ、荷台61の側方において補助支柱15cを鉛直方向に沿う状態にする。
【0106】
その後、図16(c)に示すように、支持体12および補助支柱15cを伸し、支持体12および補助支柱15cの下端が床版(運搬車両6の走行面)に接地したら、支持体12および補助支柱15cをさらに伸ばし、架台ユニット1Aを荷台61から浮かせた状態にする。
架台ユニット1Aを荷台61から浮かせたら、後着運搬車両6を出入口Cから退場させる。
上記のような手順で架台ユニット1A,1Bを搬入すると、車線規制を行いながら既設道路橋の床版更新工事を実施する場合など、運搬車両6を転回させるスペースが確保できない場合でも、架台ユニット1A,1Bをスムーズに搬入できる。
【0107】
2.架台設置工程
架台設置工程では、図17(a)に示すように、まず、第一の架台ユニット1Aおよび第二の架台ユニット1Bの全高を下げる。
具体的に、第一の架台ユニット1Aでは、支持体12および補助支柱15cを縮めることで、架台ユニット1Aの全高を下げる。第二の架台ユニット1Bでは、支持体12を縮めるとともに補助支柱16cを伸ばし、架台ユニット1Bの自重を支持体12から走行手段14に受け替える。
【0108】
続いて、図17(b)に示すように、第二の架台ユニット1Bを走行手段14で自走させて、第一の架台ユニット1Aに隣接する位置まで移動させる。
次に、架台ユニット1Bに予め接続されている連結桁ユニット1Cの連結レール部11Cを架台ユニット1Aの作業側レール部11A,11A(図1参照)に接続し、連結桁ユニット1Cを介して架台ユニット1A,1Bを連結する。その後、荷役用支持脚15を収納状態に切り替え、支持架台1を形成する。
以上のような作業を経ると、第一の架台ユニット1Aの一端と第二の架台ユニット1Bの一端とを連結してなる支持架台1が準備エリアBに設置される。
【0109】
次に、支持架台1に予め搭載されている設備ユニット(横行手段2、電源ユニット5、吊り治具8)を第二の架台ユニット1Bに集約し、搬送装置100の重心位置を架台ユニット1B内に移動させる。さらに、第一の架台ユニット1Aの支持体12を縮め、四つの走行手段14のみによって支持架台1が支持された状態とする(図12参照)。
その後、支持架台1を作業エリアAに向けて移動(自走)させる。
図17(c)に示すように、支持架台1は、出入口Cの前方に移動させ、第一の架台ユニット1Aを作業エリアAに位置させる。支持架台1を所定位置まで移動させたら、支持体12を伸ばすとともに補助支柱16cを縮め、支持架台1の自重を走行手段14から支持体12に受け替える。また、昇降機構18の回動フレーム18bを上方に回動させ、第一のポジションと第二のポジションとの間に位置させる。電源ユニット5は、支持レール11に沿って第一の架台ユニット1A側に移動させる。
【0110】
3.第二の搬入工程
第二の搬入工程では、図18(a)に示すように、まず、吊持手段3を作業現場に搬入する。具体的には、吊持手段3を積載した設備運搬車両6を準備エリアBに入場させるとともに、支持架台1に向けて前進させ、設備運搬車両6上の吊持手段3が昇降機構18の下方に位置するように設備運搬車両6を停車させる。
なお、右車線Rを走行してきた先着運搬車両6は、出入口Cから前向きで左車線Lの準備エリアBに進入させ、先着運搬車両6の前部を支持架台1の内部空間に進入させる。荷台61上の吊持手段3は、昇降機構18の回動フレーム18bの下方に位置させる。その後、図示は省略するが、回動フレーム18bの支持梁182(図4B参照)と吊持手段3との間にチェーンブロック等を介設する。
上記のような手順で吊持手段3を搬入すると、車線規制を行いながら既設道路橋の床版更新工事を実施する場合など、運搬車両6を転回させるスペースが確保できない場合でも、吊持手段3をスムーズに搬入できる。
【0111】
4.第一の設備ユニット移動工程
第一の設備ユニット移動工程では、図18(b)に示すように、昇降機構18を用いて吊持手段3を支持架台1上に移動させる。本実施形態では、図4Bに示すように、左右のアーム181,181に接続された引張手段18cを用いてアーム181,181を引き起こすことで、回動フレーム18bを上方に回動させる。回動フレーム18bを上方に回動させると、吊持手段3が上方に吊り上げられる。回動フレーム18bは、吊持手段3の少なくとも一部が支持架台1の上方に位置するまで回動させる。
回動フレーム18bが門形を呈しており、左右のアーム181,181の間で吊持手段3を吊持できるので、アーム181を長尺にせずとも支持軸18aよりも高い位置まで回動フレーム18bを上昇させることができる。
【0112】
5.第一の設備取付工程
第一の設備取付工程では、図18(c)に示すように、吊持手段3を支持架台1に取り付ける。
具体的には、まず、吊持手段3と支持梁182(図4B参照)との間に介設されたチェーンブロック等を利用して、吊持手段3を支持レール11,11に向けて下降させる。吊持手段3の少なくとも一部が支持レール11,11に載置されたら、吊持手段3に接続されたチェーンブロックを緩めつつ、吊持手段3の全体が支持レール11,11上に載置されるまで、吊持手段3を前方に移動させる。
【0113】
6.設備ユニット引出工程
設備ユニット引出工程では、図19(a)に示すように、支持架台1の内部に配置されていた電源ユニット5を支持架台1の外部に引き出し、回動フレーム18bの下方に位置させる。本実施形態では、支持レール11を走行可能なトロリーに電源ユニット5が吊持されているため、電源ユニット5を容易に移動させることができる。
その後、回動フレーム18bに装着したチェーンブロック等を電源ユニット5に接続する。
【0114】
7.第二の設備ユニット移動工程
第二の設備ユニット移動工程では、昇降機構18を用いて電源ユニット5を上方に移動させる。具体的には、図4Bに示すように、左右のアーム181,181に接続された引張手段18cを用いてアーム181,181を引き起こすことで、昇降機構18の回動フレーム18bを上方に回動させる。回動フレーム18bを上方に回動させると、電源ユニット5が上方に吊り上げられる。図2(b)に示すように、電源ユニット5の支持架台1側の脚部51dが支持レール11,11と同じ高さになったら、回動フレーム18bの回動を停止する。
【0115】
8.第二の設備取付工程
第二の設備取付工程では、電源ユニット5を支持架台1に取り付ける(図19(c)参照)。
本実施形態では、支持レール11,11の端部に電源ユニット5の脚部51dを固定する。左右のアーム181,181に接続された引張手段18c,18cは、そのまま残置する。
【0116】
なお、図15図19に示す搬送装置100の組立手順は、作業エリアAの後方に運搬車両の出入口Cが設けられる場合の手順であるが、適宜変更してもよい。
例えば、作業エリアAの前方に運搬車両の出入口Cが設けられる場合の第一の搬入工程および第二の搬入工程は、図20に示すとおりである。
図20では、第一の架台ユニット1Aを搭載した運搬車両6を到着させ、その後、第二の架台ユニット1Bを搭載した運搬車両6を到着させる。以下の説明では、第一の架台ユニット1Aを搭載した運搬車両を「先着運搬車両」と称し、第二の架台ユニット1Bを搭載した運搬車両6を「後着運搬車両」と称する。
【0117】
作業エリアAの前方に運搬車両の出入口Cが設けられる場合の第一の搬入工程では、まず、第一の架台ユニット1Aを積載した先着運搬車両6を準備エリアBに入場させるとともに、図20(a)に示すように、作業エリアAに向けて後進させ、作業エリアAの近傍の準備エリアBまたは作業エリアA内に先着運搬車両6が位置するように先着運搬車両6を停車させる。
その後、先着運搬車両6から第一の架台ユニット1Aを降ろし、先着運搬車両6を準備エリアBから退場させる。
【0118】
次に、図20(b)に示すように、第二の架台ユニット1Bを積載した後着運搬車両6を準備エリアBに入場させるとともに、第一の架台ユニット1Aに向けて後進させ、後着運搬車両6の後方に第一の架台ユニット1Aが位置するように後着運搬車両6を停車させる。
その後、後着運搬車両6から第二の架台ユニット1Bを降ろし、後着運搬車両6を準備エリアBから退場させる。
【0119】
続いて、図20(c)に示すように、第二の架台ユニット1Bを走行手段14で自走させて、第一の架台ユニット1Aに隣接する位置まで移動させる。
次に、架台ユニット1Aに予め接続されている連結桁ユニット1Cの連結レール部11Cを架台ユニット1Bの準備側レール部11B,11B(図1参照)に接続し、連結桁ユニット1Cを介して架台ユニット1A,1Bを連結する。その後、荷役用支持脚15を収納状態に切り替え、支持架台1を形成する。
【0120】
作業エリアAの前方に運搬車両の出入口Cが設けられる場合の第二の搬入工程では、図示は省略するが、吊持手段3を積載した設備運搬車両6を準備エリアBに入場させるとともに、支持架台1に向けて後進させ、設備運搬車両6上の吊持手段3が昇降機構18の下方に位置するように設備運搬車両6を停車させる。
上記のような手順で架台ユニット1A,1Bを搬入すると、車線規制を行いながら既設道路橋の床版更新工事を実施する場合など、運搬車両6を転回させるスペースが確保できない場合でも、架台ユニット1A,1Bをスムーズに搬入できる。
【0121】
<搬送装置の解体方法>
搬送装置100は、クレーン車を使用せずに解体(分解)することができる。
図示は省略するが、搬送装置100の解体方法は、組立方法と逆の手順で行う。解体途中の様子は、図15図19に示す組立途中の様子と同様である。
すなわち、本実施形態の解体方法は、支持架台1から設備ユニットを取り外す設備分解工程と、支持架台1を分解する架台分解工程とを備える。
【0122】
設備分解工程は、支持架台1と運搬車両6とを利用して搬送装置100から設備ユニット(吊持手段3および電源ユニット5)を取り外す工程である。
設備分解工程では、まず、昇降機構18を利用して電源ユニット5を支持架台1から取り外す。取り外した電源ユニット5は、トロリー等を用いて支持レール11に吊り下げ、第一の架台ユニット1A側に移動させる。
次に、運搬車両6の荷台61の少なくとも一部を支持架台1の内部空間内に進入させる。
その後、昇降機構18を利用して吊持手段3を支持架台1から取り外し、荷台61に積載する。
運搬車両6を支持架台1の内部空間から退出させたら、電源ユニット5を第二の架台ユニット1B側に移動させる。
【0123】
架台分解工程は、架台ユニット1A,1Bの連結を解除する分離作業と、架台ユニット1A,1Bを運搬車両6の荷台61に積み込む積載作業と、支持架台1の幅を狭める縮幅作業と、を備える。
分離作業では、まず、架台ユニット1Aに収納されている荷役用支持脚15を使用時の形態に変化させる。その後、連結桁ユニット1Cと第一の架台ユニット1A(または第二の架台ユニット1B)との接続を解除する。
第一の架台ユニット1Aの積載作業では、まず、支持体12を伸ばし、支持レール11の下方に運搬車両6の荷台61を進入させ得る空間を形成する。その後、運搬車両6の荷台61を支持レール11の下方に進入させる。
運搬車両6を所定位置に停車させたら、運搬用支持脚17Bを使用時の形態に変化させる。その後、支持体12および荷役用支持脚15を縮め、運搬用支持脚17A,17Bを荷台61上に立設する。支持体12および荷役用支持脚15は、下端部が荷台61の上面よりも高い位置になるまで縮める。
【0124】
その後、第一の横桁13Aを縮めて、架台ユニット1Aの幅を狭める。荷役用支持脚15を収納したら、運搬車両6を退出させる。
第二の架台ユニット1Bの積載作業では、まず、支持体12を伸ばし、電源ユニット5の下方に運搬車両6の荷台61を進入させ得る空間を形成する。また、昇降機構18を下方向に回動させ、支持体12に沿わせた状態にする。その後、運搬車両6の荷台61を支持レール11の下方に進入させる。
運搬車両6を所定位置に停車させたら、支持体12を縮め、電源ユニット5を荷台61上に載置する。支持体12は、下端部が荷台61の上面よりも高い位置になるまで縮める。
その後、第一の横桁13Aを縮めて、架台ユニット1Bの幅を狭めたら、運搬車両6を退出させる。
【0125】
<搬送装置の作用効果>
搬送装置100は、吊持手段3のスリング33に吊られた搬送対象物をそのまま横行させるのではなく、吊持手段3に吊持された搬送対象物を横行手段2に受け渡した後、横行手段2によって搬送対象物を横行させるものである。搬送装置100は、以下のような作用効果を奏する。
(1)搬送対象物を吊った状態にあるときは横行させないという作業手順を遵守することができる。
(2)作業エリアAに立設される支持体12と準備エリアBに立設される支持体12とによって支持レール11が支持されるので、支持体12の本数や間隔を適宜設定することにより、支持レール11の長さ(すなわち、搬送対象物の横行可能距離)を大きくすることができる。また、搬送装置100(支持架台1)を可動モードにすると、準備エリアBに配置した走行手段14によって搬送装置100が支持されるので、作業エリアAを走行せずに搬送装置100を移設できる。
(3)クレーン車を使用せずに荷台61への架台ユニット1A,1Bの積み込みまたは荷台61からの架台ユニット1A,1Bの積み下ろしが可能となる。
(4)クレーン車を使用することなく支持架台1に設備ユニットを脱着することができる。
(5)施工条件に応じて搬送装置100の諸元やレイアウトを容易に変更することができる。
(6)搬送対象物を横行させる際の安定性を高めることが可能となる。
(7)スリング33に吊持されていない搬送対象物を横行させることができるため、スリング33に吊り下げたまま横行させる場合に比べて、横行時に大きな揺れが発生することを抑制できる。
(8)吊り治具8を使用すると、横行手段2と吊持手段3との間で搬送対象物を受け渡す作業を効率良く行うことができる。
(9)搬送対象物を保持した保持部23を横行台車21に対して横方向に移動させることができるので、保持部23に保持された搬送対象物の一部分が作業エリアAからはみ出すことを回避できる。
(10)搬送対象物の受け部81に対して横行手段2の保持部23が上下方向に移動不能、かつ、上下方向の軸を中心に回動不能な状態で掛合するので、スリングに搬送対象物を吊り下げた状態で横行する場合に比べて、横行時に大きな揺れが発生することを抑制できる。
(11)四本のスリング33の繰り出し長さを個別に調節できるので、床版7の重心が偏心するなどして搬送対象物が3次元的に傾いている場合であっても、吊り上げた搬送対象物の姿勢を横行手段2に受け渡し易い姿勢に修正することができ、ひいては、横行手段2と吊持手段3との間で荷物を受け渡す作業を効率良く行うことが可能となる。
(12)支持架台1に支持される設備ユニット(吊持手段3,電源ユニット5)を支持架台1に備わる昇降機構18によって昇降させることができるので、クレーン車を使用せずに設備ユニットを支持架台1に取り付けることができる。
【符号の説明】
【0126】
100 搬送装置(工事用設備)
1 支持架台
1A 架台ユニット
1B 架台ユニット
1C 連結桁ユニット
11 支持レール
11A 作業側レール部
11B 準備側レール部
11C 連結レール部
12 支持体
13A 第一の横桁
14 走行手段
15 荷役用支持脚
16 補強架構
17A,17B 運搬用支持脚
18 昇降機構
18a 支持軸
18b 回動フレーム
18c 引張手段
181 アーム
182 支持梁
2 横行手段(設備ユニット)
21 横行台車
21a 駆動輪
21b 従動輪
21c 走行体
21d 旋回体
21e 旋回体用駆動源
215 ギア
218 ピニオン
22 台車用駆動源(直動アクチュエータ)
23 保持部
23b 掛合機構
232 収容部
232c テーパ部
235 駆動源(直動アクチュエータ)
236 ロックピン
24 保持部用駆動源
3 吊持手段(設備ユニット)
31 吊持台車
31a 駆動輪
31b 従動輪
31e ガイド部
32 台車用駆動源
33 スリング
34 操出部
4 制御装置
5 電源ユニット(設備ユニット)
51 台枠
52 発電機
6 運搬車両
61 荷台
7 床版(搬送対象物)
8 吊り治具(搬送対象物)
8A 本体部
81 受け部
81a 筒部
811 係合穴
82 フレーム
83 案内レール
84 固定部
8B アタッチメント
88 スリング接続部
89 位置決め部
A 作業エリア
B 準備エリア
C 出入口
【要約】
【課題】横行手段と吊持手段との間で荷物を受け渡す作業を効率良く行うが可能な搬送装置を提供する。
【解決手段】
支持架台1と、支持架台1に支持された横行手段2と、荷物を横行手段2に向けて上昇させる吊持手段3と、荷物に取り付けられる吊り治具8とを備え、横行手段2は、支持架台1に備わる支持レール11に沿って移動可能な横行台車21と、横行台車21に支持された保持部23とを有し、吊持手段3は、少なくとも三本のスリング33と、各スリング33の繰り出し長さを個別に調節可能な操出部36とを有し、吊り治具8は、スリング33に掛合可能なスリング接続部88と、保持部23に掛合可能な受け部81とを有する。
【選択図】図3
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20