(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】異常検知システム、車載器、異常検知方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01C 21/28 20060101AFI20240408BHJP
G16Y 10/40 20200101ALI20240408BHJP
G16Y 20/20 20200101ALI20240408BHJP
G16Y 40/10 20200101ALI20240408BHJP
【FI】
G01C21/28
G16Y10/40
G16Y20/20
G16Y40/10
(21)【出願番号】P 2023500209
(86)(22)【出願日】2021-02-18
(86)【国際出願番号】 JP2021006068
(87)【国際公開番号】W WO2022176093
(87)【国際公開日】2022-08-25
【審査請求日】2023-05-01
(73)【特許権者】
【識別番号】309036221
【氏名又は名称】三菱重工機械システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】是永 剛志
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼尾 健司
(72)【発明者】
【氏名】山田 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】知識 陽平
【審査官】白石 剛史
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-215228(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0253656(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 21/28
G16Y 10/40
G16Y 20/20
G16Y 40/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されたGNSSレシーバを介して、GNSS衛星から受信した衛星信号に関する情報、及び当該衛星信号から推定される前記車両の位置に関する情報を含むGNSS測位データを収集する状態観測部と、
前記GNSS測位データを用いて学習された生成モデルにより、疑似GNSS測位データを生成する生成部と、
新たなGNSS測位データが取得された場合に、生成された前記疑似GNSS測位データとの対比に基づいて、新たに取得された当該GNSS測位データが異常であるか否かを判定する異常判定部と、
前記状態観測部が収集した正常な前記GNSS測位データを用いて前記生成モデルを学習する学習部と、
を備え、
前記状態観測部は、前記車両の周辺環境に関する周辺環境情報をさらに収集し、
前記学習部は、前記周辺環境情報をさらに用いて前記生成モデルを学習し、
前記周辺環境情報は、車載カメラ又はLiDAR(Light Detection and Ranging)を通じて取得された情報であって、衛星信号を遮蔽する遮蔽物の有無を示す情報である、
異常検知システム。
【請求項2】
前記状態観測部は、前記GNSS測位データの測位誤差をさらに収集し、
前記学習部は、前記測位誤差をさらに用いて前記生成モデルを学習する、
請求項1に記載の異常検知システム。
【請求項3】
前記状態観測部は、前記GNSSレシーバの特性を検出可能なレシーバ情報をさらに収集し、
前記学習部は、前記レシーバ情報をさらに用いて前記生成モデルを学習する、
請求項1又は2に記載の異常検知システム。
【請求項4】
前記状態観測部は、前記GNSSレシーバの取付環境を示す取付環境情報をさらに収集し、
前記学習部は、前記取付環境情報をさらに用いて前記生成モデルを学習する、
請求項1から3のいずれか一項に記載の異常検知システム。
【請求項5】
前記学習部は、前記GNSS測位データを用いて、前記疑似GNSS測位データを生成するための潜在変数を出力する潜在変数モデルをさらに学習し、
前記生成部は、前記潜在変数モデルから出力された前記潜在変数を前記生成モデルに入力して、前記疑似GNSS測位データを生成する、
請求項1から4のいずれか一項に記載の異常検知システム。
【請求項6】
車両に搭載されたGNSSレシーバを介して、GNSS衛星から受信した衛星信号に関する情報、及び当該衛星信号から推定される前記車両の位置に関する情報を含むGNSS測位データを収集する状態観測部と、
前記GNSS測位データを用いて学習された生成モデルにより、疑似GNSS測位データを生成する生成部と、
新たなGNSS測位データが取得された場合に、生成された前記疑似GNSS測位データとの対比に基づいて、当該GNSS測位データが異常であるか否かを判定する異常判定部と、
前記状態観測部が収集した正常な前記GNSS測位データを用いて前記生成モデルを学習する学習部と、
を備え、
前記状態観測部は、前記車両の周辺環境に関する周辺環境情報をさらに収集し、
前記学習部は、前記周辺環境情報をさらに用いて前記生成モデルを学習し、
前記周辺環境情報は、車載カメラ又はLiDAR(Light Detection and Ranging)を通じて取得された情報であって、衛星信号を遮蔽する遮蔽物の有無を示す情報である、
車載器。
【請求項7】
車両に搭載されたGNSSレシーバを介して、GNSS衛星から受信した衛星信号に関する情報、及び当該衛星信号から推定される前記車両の位置に関する情報を含むGNSS測位データを収集するステップと、
前記GNSS測位データを用いて学習された生成モデルにより、疑似GNSS測位データを生成するステップと、
新たなGNSS測位データが取得された場合に、生成された前記疑似GNSS測位データとの対比に基づいて、当該GNSS測位データが異常であるか否かを判定するステップと、
前記収集するステップで収集した正常な前記GNSS測位データを用いて前記生成モデルを学習するステップと、
を有し、
前記収集するステップでは、前記車両の周辺環境に関する周辺環境情報をさらに収集し、
前記学習するステップでは、前記周辺環境情報をさらに用いて前記生成モデルを学習し、
前記周辺環境情報は、車載カメラ又はLiDAR(Light Detection and Ranging)を通じて取得された情報であって、衛星信号を遮蔽する遮蔽物の有無を示す情報である、
異常検知方法。
【請求項8】
車両に搭載されたGNSSレシーバを介して、GNSS衛星から受信した衛星信号に関する情報、及び当該衛星信号から推定される前記車両の位置に関する情報を含むGNSS測位データを収集するステップと、
前記GNSS測位データを用いて学習された生成モデルにより、疑似GNSS測位データを生成するステップと、
新たなGNSS測位データが取得された場合に、生成された前記疑似GNSS測位データとの対比に基づいて、当該GNSS測位データが異常であるか否かを判定するステップと、
前記収集するステップで収集した正常な前記GNSS測位データを用いて前記生成モデルを学習するステップと、
を車載器のコンピュータに実行させるプログラムであって、
前記収集するステップでは、前記車両の周辺環境に関する周辺環境情報をさらに収集し、
前記学習するステップでは、前記周辺環境情報をさらに用いて前記生成モデルを学習し、
前記周辺環境情報は、車載カメラ又はLiDAR(Light Detection and Ranging)を通じて取得された情報であって、衛星信号を遮蔽する遮蔽物の有無を示す情報である、
プログラム。
【請求項9】
車両に搭載されたGNSSレシーバを介して、GNSS衛星から受信した衛星信号に関する情報、及び当該衛星信号から推定される前記車両の位置に関する情報を含むGNSS測位データを収集する状態観測部と、
前記GNSS測位データを用いて学習された生成モデルにより、疑似GNSS測位データを生成する生成部と、
新たなGNSS測位データが取得された場合に、生成された前記疑似GNSS測位データとの対比に基づいて、新たに取得された当該GNSS測位データが異常であるか否かを判定する異常判定部と、
前記状態観測部が収集した正常な前記GNSS測位データを用いて前記生成モデルを学習する学習部と、
を備え、
前記学習部は、前記GNSS測位データを用いて、前記疑似GNSS測位データを生成するための潜在変数を出力する潜在変数モデルをさらに学習し、
前記生成部は、前記潜在変数モデルから出力された前記潜在変数を前記生成モデルに入力して、前記疑似GNSS測位データを生成する、
異常検知システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、異常検知システム、車載器、異常検知方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両等の移動体の走行位置を特定する技術として、全地球航法衛星システム(Global Navigation Satellite System、以下、GNSSとも記載する。)が知られている。たとえば特許文献1には、車両に搭載されたGNSS受信器(車載器)がGNSS衛星から発信される衛星信号を受信して、受信した衛星信号に基づいて車両の位置を推定する技術が記載されている。
【0003】
また、受信した衛星信号の情報、衛星信号から推定される自己位置情報等を含むGNSS測位データの時系列変化から車両の走行経路を特定して、走行経路に応じた通行料金を課金するGNSS課金システムが考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
GNSS課金システム等に用いられるアプリケーションでは、開発段階の動作検証、運用後の車載器の不調の検出、GNSS測位データのスプーフィング及びジャミングといった不正の検出等を行うために、GNSS測位データの異常チェックがライフサイクル全体に渡って必要となる。
【0006】
しかしながら、位置誤差の大きさ、信号強度等のGNSS測位データの品質は、車載器の機種別の特性、車載器が搭載された車両の特性、車載器の使用環境(走行経路の周辺に存在する建造物の有無等)といった様々な要素に左右される。このため、閾値との比較といった単純な条件分岐を組み合わせたルールベースの判定処理によって、GNSS測位データの異常を検知することが困難であった。
【0007】
本開示は、このような課題に鑑みてなされたものであって、学習済みの生成モデルにより生成された疑似GNSS測位データを用いて、実測されたGNSS測位データの異常を検知可能な異常検知システム、車載器、異常検知方法、及びプログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様によれば、異常検知システムは、車両に搭載されたGNSSレシーバを介して、GNSS衛星から受信した衛星信号に関する情報、及び当該衛星信号から推定される前記車両の位置に関する情報を含むGNSS測位データを収集する状態観測部と、前記GNSS測位データを用いて学習された生成モデルにより、疑似GNSS測位データを生成する生成部と、新たなGNSS測位データが取得された場合に、生成された前記疑似GNSS測位データとの対比に基づいて、新たに取得された当該GNSS測位データが異常であるか否かを判定する異常判定部と、を備える。
【0009】
本開示の一態様によれば、車載器は、車両に搭載されたGNSSレシーバを介して、GNSS衛星から受信した衛星信号に関する情報、及び当該衛星信号から推定される前記車両の位置に関する情報を含むGNSS測位データを収集する状態観測部と、前記GNSS測位データを用いて学習された生成モデルにより、疑似GNSS測位データを生成する生成部と、新たなGNSS測位データが取得された場合に、生成された前記疑似GNSS測位データとの対比に基づいて、当該GNSS測位データが異常であるか否かを判定する異常判定部と、を備える。
【0010】
本開示の一態様によれば、異常検知方法は、車両に搭載されたGNSSレシーバを介して、GNSS衛星から受信した衛星信号に関する情報、及び当該衛星信号から推定される前記車両の位置に関する情報を含むGNSS測位データを収集するステップと、前記GNSS測位データを用いて学習された生成モデルにより、疑似GNSS測位データを生成するステップと、新たなGNSS測位データが取得された場合に、生成された前記疑似GNSS測位データとの対比に基づいて、当該GNSS測位データが異常であるか否かを判定するステップと、を有する。
【0011】
本開示の一態様によれば、プログラムは、車両に搭載されたGNSSレシーバを介して、GNSS衛星から受信した衛星信号に関する情報、及び当該衛星信号から推定される前記車両の位置に関する情報を含むGNSS測位データを収集するステップと、前記GNSS測位データを用いて学習された生成モデルにより、疑似GNSS測位データを生成するステップと、新たなGNSS測位データが取得された場合に、生成された前記疑似GNSS測位データとの対比に基づいて、当該GNSS測位データが異常であるか否かを判定するステップと、を車載器のコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0012】
本開示に係る異常検知システム、車載器、異常検知方法、及びプログラムによれば、学習済みの生成モデルにより生成された疑似GNSS測位データを用いて、実測されたGNSS測位データの異常を検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本開示の第1の実施形態に係る異常検知システムの全体構成を示す図である。
【
図2】本開示の第1の実施形態に係る異常検知システムの機能構成を示す図である。
【
図3】本開示の第1の実施形態に係る学習部の機能構成、及び学習処理の一例を示す図である。
【
図4】本開示の第1の実施形態に係る異常検知処理の一例を示す図である。
【
図5】本開示の第2の実施形態に係る学習部の機能構成、及び学習処理の一例を示す図である。
【
図6】本開示の第2の実施形態に係る異常検知処理の一例を示す図である。
【
図7】本開示の第3の実施形態に係る異常検知システムの機能構成を示す図である。
【
図8】本開示の一実施形態に係る車載器及びセンタサーバのハードウェア構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<第1の実施形態>
以下、本開示の第1の実施形態に係る異常検知システム1について、
図1~
図4を参照しながら説明する。
【0015】
(異常検知システムの全体構成)
図1は、本開示の第1の実施形態に係る異常検知システムの全体構成を示す図である。
図1に示すように、異常検知システム1は、複数の車載器10と、センタサーバ20とを備えている。
【0016】
複数の車載器10は、それぞれ車両Aに搭載される。車載器10は、GNSS衛星40が発信する衛星信号を受信して、当該信号に基づいて自機が搭載された車両Aの位置を推定する。また、車載器10は、受信した衛星信号に関する情報、車両Aの推定位置に関する情報等を含むGNSS測位データを収集して記録する。
【0017】
センタサーバ20は、車載器10と無線通信用のネットワークN(セルラーネットワーク等)を介して通信可能に接続される。センタサーバ20は、複数の車載器10それぞれからGNSS測位データを収集して、各車載器10における正常なGNSSデータを模擬した疑似GNSSデータを生成する生成モデルを学習する。また、センタサーバ20は、学習済みの生成モデルを用いて、各車載器10において実測されたGNSS測位データの異常を検知する。
【0018】
(異常検知システムの機能構成)
図2は、本開示の第1の実施形態に係る異常検知システムの機能構成を示す図である。
図2に示すように、車載器10は、GNSSレシーバ100と、センサ情報取得部101と、状態観測部102と、出力部103と、記憶媒体104とを備えている。
【0019】
GNSSレシーバ100は、GNSS衛星40から発信される衛星信号を受信して、車両Aの位置を推定する。また、GNSSレシーバ100は、受信した衛星信号に関する信号受信情報、及び車両Aの位置に関する推定位置情報を含むGNSS測位データを生成して、状態観測部102に出力する。
【0020】
信号受信情報は、GNSSレシーバ100が受信した衛星信号の信号強度、衛星数、仰角、方位角等を含む。推定位置情報は、信号受信時点における車両Aの推定位置(緯度、経度、高度)、推定速度等を含む。
【0021】
センサ情報取得部101は、車両Aが有する車載センサ30からセンサ情報を取得する。車載センサ30は、たとえば、路側に設けられた位置情報配信ビーコンから、車両Aの位置を検出可能なビーコン信号を受信する受信器である。車載センサ30は、路側に設けられたスピード計測機器から、スピード計測機器の設置位置における車両Aの車速を検出可能な信号を受信する受信器であってもよい。また、車載センサ30は、車両Aの周辺環境(周辺の建造物の有無等)を検出可能な車載カメラ、LiDAR(Light Detection and Ranging)であってもよい。さらに、車載センサ30は、車両Aの車速センサ、加速度センサ、角速度センサ等であってもよい。センサ情報取得部101は、車載センサ30を介して取得した各種センサ情報を、状態観測部102に出力する。
【0022】
状態観測部102は、GNSSレシーバ100を介して、GNSS測位データを収集する。
【0023】
また、状態観測部102は、GNSS測位データの測位誤差をさらに収集する。測位誤差は、車両Aの衛星信号に基づく推定位置と、実際の位置との差分(位置誤差)である。また、測位誤差は、車両Aの衛星信号に基づく推定速度と、実際の速度との差分(速度誤差)を含んでいてもよい。
【0024】
たとえば、状態観測部102は、記憶媒体104に予め記憶された地図データに基づいて、車両Aの地図データのリンク上の位置を特定し、車両Aの推定位置と、リンク上の位置との距離を位置誤差として求める。なお、状態観測部102は、車両Aの推定位置と、センサ情報取得部101が取得した位置情報配信ビーコンのビーコン信号に基づいて特定された車両Aの位置との差分を位置誤差として求めてもよい。また、状態観測部102は、車両Aの推定速度と、センサ情報取得部101を介して路側のスピード計測機器、又は車両Aの車速センサから得た車両Aの速度との差分を、速度誤差として求める。
【0025】
また、状態観測部102は、GNSSレシーバ100の特性を示すレシーバ情報と、GNSSレシーバ100の取付環境を示す取付環境情報と、車両Aの周辺の遮蔽物の有無等を示す周辺環境情報とをさらに収集してもよい。
【0026】
GNSSレシーバ100の特性とは、アンテナ感度、指向性、周波数特性等である。レシーバ情報は、たとえば、GNSSレシーバの型式を含む。また、レシーバ情報は、GNSSレシーバ100の製造時期及び車両Aへの取付期間を示す情報を含んでいてもよい。製造時期及び取付期間から、GNSSレシーバ100の経年劣化による影響を検出することができる。
【0027】
取付環境情報は、GNSSレシーバ100が搭載された車両に関する情報(型式等)、アンテナ取付位置、アンテナ取付角度を含む。
【0028】
周辺環境情報は、車両Aの周辺に存在する建造物等、GNSS衛星40の衛星信号を遮蔽する遮蔽物の有無を検出可能な情報である。周辺環境情報は、たとえばセンサ情報取得部101が取得した車載カメラの映像、LiDARの計測結果である。
【0029】
状態観測部102は、GNSSレシーバ100がGNSS測位データを生成する度に、生成されたGNSS測位データをセンタサーバ20に送信する。他の実施形態では、状態観測部102は、所定期間毎に、又は所定数のGNSS測位データが記憶媒体104に蓄積される毎に、蓄積された複数のGNSS測位データをまとめてセンタサーバ20に送信してもよい。また、状態観測部102は、測位誤差、レシーバ情報、取付環境情報、周辺環境情報を収集している場合は、これらをGNSS測位データとともにセンタサーバ20に送信する。
【0030】
出力部103は、液晶ディスプレイ等の表示装置であり、GNSS測位データの異常に関する異常検知情報を出力(表示)する。なお、出力部103は異常検知情報を音声等で出力するスピーカをさらに有していてもよい。
【0031】
記憶媒体104には、車載器10の各部が取得、生成した各種データが記憶される。たとえば、記憶媒体104には、センサ情報取得部101が取得したセンサ情報、状態観測部102が収集したGNSS測位データ等が記憶される。
【0032】
また、センタサーバ20は、学習部200と、生成部201と、異常判定部202と、記憶媒体203とを備えている。
【0033】
学習部200は、車載器10から受信した学習データを用いて、疑似GNSS測位データを生成する生成モデルを学習する。学習データには、車載器10の状態観測部102が収集したGNSS測位データが含まれる。また、学習データには、車載器10のレシーバ情報、取付環境情報、車載器10が搭載された車両Aの周辺環境に関する情報がさらに含まれていてもよい。
【0034】
生成部201は、学習部200により学習された生成モデルにより、疑似GNSS測位データを生成する。
【0035】
異常判定部202は、車載器10から新たなGNSS測位データが取得された場合に、生成部201によって生成された疑似GNSS測位データとの対比に基づいて、当該GNSS測位データが異常であるか否かを判定する。
【0036】
記憶媒体203には、センタサーバ20の各部が取得、生成した各種データが記憶される。たとえば、記憶媒体203には、車載器10それぞれから収集したGNSS測位データ、学習部200により学習された生成モデル等が記憶される。
【0037】
(学習処理)
本開示の第1の実施形態に係る学習部の機能構成、及び学習処理の一例を示す図である。
本実施形態に係る学習部200は、敵対的生成ネットワーク(Generative adversarial networks)の技術を用いて、疑似GNSS測位データを生成するための生成モデルを学習する。
図3に示すように、学習部200は、ジェネレータ2001と、ディスクリミネータ2002とを有している。
【0038】
ジェネレータ2001は、入力された潜在変数zから、正常なGNSS測位データを模擬した疑似GNSS測位データx´を生成する生成モデルである。つまり、ジェネレータ2001は、入力された潜在変数zを、実測された複数のGNSS測位データからなる観測空間にマッピングするものである。センタサーバ20の記憶媒体203には、予め車載器10により実測された正常時のGNSS測位データが学習データとして蓄積されている。ジェネレータ2001は、この学習データを用いて、正常時に取得された本物のGNSS測位データに近い疑似GNSS測位データを生成できるように学習を行う。なお、正常なGNSS測位データは、たとえば、技術者等により正常であると判断されたGNSS測位データである。また、正常なGNSS測位データは、故障等がなく正常動作していると確認されたGNSSレシーバ100により収集されたGNSS測位データであってもよい。
【0039】
ディスクリミネータ2002は、入力されたGNSS測位データが、車載器10により実測されたGNSS測位データxであるか、ジェネレータ2001により生成された疑似GNSS測位データx´であるかを識別する。ディスクリミネータ2002は、記憶媒体203に蓄積された学習データに基づいて、本物のデータであるGNSS測位データと、偽物である疑似GNSS測位データとを識別できるように学習を行う。
【0040】
なお、上記したように、学習データは、測位誤差をさらに含んでいてもよい。このような学習データを用いることにより、ジェネレータ2001は、本物のGNSS測位データにより近い測位誤差を含んだ疑似GNSS測位データを生成するように学習される。また、ディスクリミネータ2002は、GNSS測位データに測位誤差が含まれていても、より正確にデータの真偽の識別できるように学習される。
【0041】
また、学習データは、レシーバ情報(GNSSレシーバ100の型式、製造時期、仕様期間等)、取付環境情報(GNSSレシーバ100取付位置等)、周辺環境情報(衛星信号を遮蔽する遮蔽物の有無等)をさらに含んでいてもよい。GNSS衛星40の信号受信情報(信号強度、衛星数等)、及び受信した衛星信号から求められる車両Aの推定位置情報は、レシーバの型式に応じた特性、取付環境、又は車両A(GNSSレシーバ100)の周辺の遮蔽物の有無等の条件に応じて変化する。たとえば、レシーバの特性(アンテナ感度、指向性、周波数特性)は、GNSSレシーバ100の型式毎に異なっている。このため、二つの車載器10がそれぞれ型式の異なるGNSSレシーバ100を有している場合、同じ時刻に同じ位置で衛星信号を受信したとしても、各車載器10が出力するGNSS測位データに含まれる信号受信情報及び推定位置情報が相違する場合がある。同様に、GNSSレシーバ100の取付環境、遮蔽物の有無等の周辺環境によっても、GNSS測位データが相違する場合がある。このため、ジェネレータ2001は、学習データに含まれるレシーバ情報、取付環境情報、周辺環境情報をさらに学習することにより、これら情報に応じたより本物のGNSS測位データに近い疑似GNSS測位データを生成できるようにする。同様に、ディスクリミネータ2002は、GNSS測位データにレシーバ特性、取付環境、遮蔽物の有無による影響が含まれていても、より正確にデータの真偽の識別できるように学習される。
【0042】
また、学習部200は、ジェネレータ2001で生成した疑似GNSS測位データを、ディスクリミネータ2002で本物か偽物か識別させる訓練を繰り返すことにより、ジェネレータ2001及びディスクリミネータ2002をさらに学習させる処理を行う。以下、この学習処理の流れについて、
図3を参照しながら説明する。
【0043】
まず、ジェネレータ2001は、入力された潜在変数zに基づいて疑似GNSS測位データx´を生成する(ステップS101)。ここでは、潜在変数zとして、たとえば乱数が用いられる。
【0044】
次に、ディスクリミネータ2002に、ジェネレータ2001が生成した疑似GNSS測位データx´、又は記憶媒体203に蓄積されたGNSS測位データxが入力される(ステップS102)。
【0045】
ディスクリミネータ2002は、入力されたデータがGNSS測位データx(本物)であるか、疑似GNSS測位データx´(偽物)であるか識別し、識別結果Pを出力する(ステップS103)。
【0046】
ディスクリミネータ2002の学習を行うフェーズでは、識別結果Pの正否に基づいて、ディスクリミネータ2002がより正しく偽物と本物とを識別できるように学習(パラメータ調整等)を行う(ステップS104)。このとき、ジェネレータ2001は変更せずに固定したままとする。
【0047】
また、ジェネレータ2001の学習を行うフェーズでは、識別結果Pに基づいて、ジェネレータ2001がより本物に近い(ディスクリミネータ2002に本物であると誤認させるような)疑似GNSS測位データを生成できるように学習を行う(ステップS105)。このとき、ディスクリミネータ2002は変更せずに固定したままとする。
【0048】
学習部200は、上述の各ステップを繰り返し実行することにより、ジェネレータ2001及びディスクリミネータ2002を交互に学習させる。これにより、学習部200は、より本物に近い疑似GNSS測位データx´を生成可能な生成モデルを学習することができる。学習済みのジェネレータ2001(生成モデル)は、記憶媒体203に記憶され、センタサーバ20が後述の異常検知処理を行う際に生成部201により利用される。
【0049】
(異常検知処理)
図4は、本開示の第1の実施形態に係る異常検知処理の一例を示す図である。
以下、
図4を参照しながら、異常検知システム1におけるGNSS測位データの異常検知処理の流れについて説明する。なお、この異常検知処理は、前述した学習処理(
図3)が完了した後に行われる。
【0050】
まず、車載器10の状態観測部102は、GNSSレシーバ100を介してGNSS測位データを取得する(ステップS111)。また、状態観測部102は、センサ情報取得部101を介してセンサ情報を取得する(ステップS112)。
【0051】
また、状態観測部102は、GNSS測位データの異常を検知するための評価データをセンタサーバ20に送信する(ステップS113)。評価データには、GNSS測位データが含まれる。また、評価データには、状態観測部102が収集した測位誤差、レシーバ情報、取付環境情報、及び周辺環境情報のうち少なくとも一つが含まれていてもよい。
【0052】
次に、センタサーバ20の生成部201は、学習部200によって学習済みの生成モデルを用いて、疑似GNSS測位データx´を生成する(ステップS114)。なお、本実施形態において、正常なGNSS測位データに対応する潜在変数zは不明である。このため、生成部201は、潜在変数zの取り得る全ての値をたとえば順に入力して、各値に基づく複数の疑似GNSS測位データx´を生成する。そうすると、生成した複数の疑似GNSS測位データのうちいずれかは、本物のGNSS測位データに近いものとなる。
【0053】
次に、センタサーバ20の異常判定部202は、車載器10から取得した実測データであるGNSS測位データxと、生成部201が生成した疑似GNSS測位データx´とを対比して、GNSS測位データxの異常の有無を判定する(ステップS115)。
【0054】
疑似GNSS測位データx´は、車載器10の状態が正常であるときに取得されると推定されるGNSS測位データを模擬したものである。したがって、車載器10の状態が正常であれば、車載器10で実測されたGNSS測位データxは、生成部201が生成した複数の疑似GNSS測位データx´のいずれかに近いデータとなっているはずである。このため、異常判定部202は、たとえば、GNSS測位データxと、複数の疑似GNSS測位データx´それぞれとの一致度を算出し、一致度が所定以上の値となる疑似GNSS測位データx´がある場合、GNSS測位データxは正常であると判定する。一方、異常判定部202は、一致度が所定以上の疑似GNSS測位データx´がない場合、GNSS測位データxは異常であると判定する。
【0055】
判定が完了すると、異常判定部202は、異常の有無を示す判定結果を含む異常検知情報を車載器10に送信する(ステップS116)。なお、異常検知情報は、異常判定部202が算出した一致度を含んでもよい。
【0056】
また、車載器10の出力部103は、センタサーバ20から受信した異常検知情報を出力して、車両Aの搭乗者に提示する(ステップS117)。なお、出力部103は、異常検知情報にGNSS測位データxが異常であることを示す情報が含まれている場合のみ、警告として異常検知情報を出力するようにしてもよい。
【0057】
異常検知システム1は、状態観測部102がGNSS測位データを取得する度に、又は、所定時間毎に、
図4に示す一連の処理を実行し、GNSS測位データの異常の有無を判定する。
【0058】
(作用効果)
以上のように、本実施形態に係る異常検知システム1は、状態観測部102が取得したGNSS測位データxと、生成部201により学習済みの生成モデルを用いて作成された疑似GNSS測位データx´との対比に基づいて、取得したGNSS測位データxが異常であるか否かを判定する。
このようにすることで、異常検知システム1は、GNSSレシーバ100により実測されたGNSS測位データxが疑似GNSS測位データx´と乖離している場合、GNSS測位データxが異常であることを検知することができる。
【0059】
また、異常検知システム1のセンタサーバ20は、状態観測部102が収集した正常なGNSS測位データを用いて、疑似GNSS測位データを生成する生成モデルを学習する学習部200をさらに備える。
このようにすることで、異常検知システム1は、GNSSレシーバ100の状態が正常である場合に取得されると推定されるデータを模擬した疑似GNSS測位データを生成可能な生成モデルを学習することができる。よって、異常検知システム1は、このように学習された生成モデルを用いることにより、正常時のデータを模擬した疑似GNSS測位データx´から、実測されたGNSS測位データxが乖離している場合は、GNSS測位データxが異常であると精度よく判定することができる。
【0060】
また、状態観測部102はGNSS測位データの測位誤差をさらに収集し、学習部200は測位誤差をさらに用いて生成モデルを学習する。
実測されるGNSS測位データには、測位誤差が含まれている場合がある。このため、本実施形態に係る異常検知システム1は、測位誤差も含めて生成モデルの学習を行うようにしている。これにより、異常検知システム1は、実際の車載器10(GNSSレシーバ100)に生じる測位誤差についても模擬することができるので、このような測位誤差を含む疑似GNSS測位データを生成することが可能となる。そうすると、異常検知システム1は、より本物に近い疑似GNSS測位データを生成することができるので、異常検知の精度を向上させることができる。
【0061】
また、状態観測部102はGNSSレシーバ100の特性を検出可能なレシーバ情報を更に収集し、学習部200はレシーバ情報をさらに用いて生成モデルを学習する。
GNSSレシーバ100の型式に応じて、レシーバの特性(アンテナ感度、指向性、周波数特性等)が異なる場合がある。つまり、異なるGNSSレシーバ100を用いると、同じ時刻の同じ場所であっても、測位結果(GNSS測位データの内容)が異なる可能性がある。このため、本実施形態に係る異常検知システム1は、GNSSレシーバ100のレシーバ情報(型式)も含めて生成モデルの学習を行うようにしている。これにより、異常検知システム1は、GNSSレシーバ100の特性に応じた、より本物に近い疑似GNSS測位データを生成することができる。この結果、GNSSレシーバ100毎の特性の違いを考慮した異常検知が可能となり、異常検知の精度を向上させることができる。
【0062】
また、レシーバ情報は、GNSSレシーバ100の製造時期及び使用期間を特定可能な情報を含んでいてもよい。
これにより、異常検知システム1は、GNSSレシーバ100の経年劣化による特性の変化をさらに学習させることができる。この結果、GNSSレシーバ100毎の経年劣化を考慮した異常検知が可能となり、異常検知の精度を向上させることができる。
【0063】
また、状態観測部102はGNSSレシーバ100の取付環境を示す取付環境情報をさらに収集し、学習部200は取付環境情報をさらに用いて生成モデルを学習する。
たとえば、車両A内におけるGNSSレシーバ100の搭載車両や、取付位置等が変わると、GNSSレシーバ100が受信する衛星信号の信号強度等に影響が出る場合がある。そうすると、同じ型式のGNSSレシーバ100であっても、測位結果が異なる可能性がある。このため、本実施形態に係る異常検知システム1は、GNSSレシーバ100の取付環境情報も含めて生成モデルの学習を行うようにしている。これにより、異常検知システム1は、GNSSレシーバ100の取付環境に応じた、より本物に近い疑似GNSS測位データを生成することができる。この結果、GNSSレシーバ100の取付環境を考慮した異常検知が可能となり、異常検知の精度を向上させることができる。
【0064】
また、状態観測部102は車両Aの周辺環境に関する周辺環境情報をさらに収集し、学習部200は周辺環境情報をさらに用いて生成モデルを学習する。
車両Aの周辺に衛星信号を遮蔽するような建造物がある場合、GNSSレシーバ100が受信する衛星信号の信号強度等に影響が出る場合がある。そうすると、車載器10(GNSSレシーバ100)の状態が正常であっても、車両Aの走行位置によって測位誤差等が大きく変動する可能性がある。このため、本実施形態に係る異常検知システム1は、車両Aの周辺環境情報も含めて生成モデルの学習を行うようにしている。これにより、異常検知システム1は、車両Aの周辺の遮蔽物の有無に応じた、より本物に近い疑似GNSS測位データを生成することができる。この結果、車両A周辺の遮蔽状況を考慮した異常検知が可能となり、異常検知の精度を向上させることができる。
【0065】
<第2の実施形態>
次に、本開示の第2の実施形態に係る異常検知システム1について、
図5~
図6を参照しながら説明する。
第1の実施形態と共通の構成要素には同一の符号を付して詳細説明を省略する。
【0066】
(学習処理)
図5は、本開示の第2の実施形態に係る学習部の機能構成、及び学習処理の一例を示す図である。
図5に示すように、本実施形態に係る学習部200は、エンコーダ2003をさらに有している。
【0067】
エンコーダ2003は、ジェネレータ2001に入力する最適な潜在変数z´を求めるモデル(潜在変数モデル)である。エンコーダ2003は、記憶媒体203に蓄積されたGNSS測位データを潜在空間にマッピングして、GNSS測位データを入力したときに、入力されたデータに対応する潜在変数z´を出力できるように学習する。
【0068】
また、学習部200は、ジェネレータ2001、ディスクリミネータ2002、及びエンコーダ2003をさらに学習させる処理を行う。以下、この学習処理の流れについて、
図5を参照しながら説明する。
【0069】
まず、ジェネレータ2001は、第1の実施形態と同様に、入力された潜在変数zに基づいて疑似GNSS測位データx´を生成する(ステップS201)。
【0070】
また、エンコーダ2003は、入力されたGNSS測位データxから、このデータに対応する潜在変数z´を求める(ステップS202)。
【0071】
次に、ディスクリミネータ2002に、GNSS測位データと潜在変数との組み合わせからなるデータが入力される(ステップS202)。ここで入力されるデータは、ジェネレータ2001が生成した疑似GNSS測位データx´とその生成に用いられた潜在変数zからなる組(x´,z)、又は、エンコーダ2003に入力されたGNSS測位データxとそれに対応する潜在変数z´からなる組(x,z´)である。
【0072】
ディスクリミネータ2002は、入力されたデータが、GNSS測位データx(本物)であるか、疑似GNSS測位データx´であるか識別し、識別結果Pを出力する(ステップS204)。
【0073】
ディスクリミネータ2002及びジェネレータ2001は、第1の実施形態と同様に、それぞれの学習フェーズにおいて、識別結果Pに基づいて学習を行う(ステップS205、S206)。
【0074】
また、エンコーダ2003の学習フェーズにおいて、エンコーダ2003は、ディスクリミネータ2002によりGNSS測位データxが本物のデータであると識別されるように、GNSS測位データxを潜在空間にマッピングし、適切な潜在変数z´を出力できるように学習を行う。
【0075】
学習部200は、上述の各ステップを繰り返し実行することにより、ジェネレータ2001、ディスクリミネータ2002、及びエンコーダ2003を交互に学習させる。これにより、学習部200は、より本物に近い疑似GNSS測位データx´を生成可能な生成モデルを学習するとともに、より適切な潜在変数z´を出力可能な潜在変数モデルを学習することができる。学習済みのジェネレータ2001(生成モデル)及びエンコーダ2003(潜在変数モデル)は、記憶媒体203に記憶され、センタサーバ20が後述の異常検知処理を行う際に生成部201により利用される。
【0076】
(異常検知処理)
図6は、本開示の第2の実施形態に係る異常検知処理の一例を示す図である。
以下、
図6を参照しながら、異常検知システム1におけるGNSS測位データの異常検知処理の流れについて説明する。なお、この異常検知処理は、前述した学習処理(
図5)が完了した後に行われる。
【0077】
まず、車載器10の状態観測部102は、GNSS測位データを取得する(ステップS211)とともに、センサ情報を取得する(ステップS212)。また、状態観測部102は、GNSS測位データの異常を検知するための評価データをセンタサーバ20に送信する(ステップS213)。これらの処理は、第1の実施形態(
図4)のステップS111~S113と同様である。
【0078】
次に、センタサーバ20の生成部201は、学習部200によって学習済みの潜在変数モデルに対し、車載器10から取得したGNSS測位データを入力して、このGNSS測位データに対応する潜在変数z´を求める(ステップS214)。
【0079】
また、生成部201は、潜在変数モデルから出力された潜在変数z´を生成モデルに入力して、この潜在変数z´から疑似GNSS測位データx´を生成する(ステップS215)。
【0080】
次に、センタサーバ20の異常判定部202は、車載器10から取得した実測データであるGNSS測位データxと、生成部201が生成した疑似GNSS測位データx´とを対比して、GNSS測位データxの異常の有無を判定する(ステップS216)。本実施形態では、生成部201は、潜在変数z´に基づく一つの疑似GNSS測位データのみを生成している。このため、異常判定部202は、GNSS測位データxと、生成された一つの疑似GNSS測位データx´とを対比するのみでよい。判定が完了すると、異常判定部202は、異常の有無を示す判定結果を含む異常検知情報を車載器10に送信する(ステップS217)。車載器10の出力部103は、センタサーバ20から異常検知情報を受信すると、この情報を出力して車両Aの搭乗者に提示する(ステップS218)。これらの具体的な処理は、第1の実施形態(
図4)のステップS115~S117と同様である。
【0081】
異常検知システム1は、状態観測部102がGNSS測位データを取得する度に、又は、所定時間毎に、
図6に示す一連の処理を実行し、GNSS測位データの異常の有無を判定する。
【0082】
(作用効果)
以上のように、本実施形態に係る異常検知システム1において、学習部200は、GNSS測位データを用いて潜在変数モデルをさらに学習する。また、生成部201は、潜在変数モデルから出力された潜在変数z´を生成モデルに入力して、疑似GNSS測位データx´を生成する。
本実施形態に係る異常検知システム1は、学習済みの潜在変数モデルを用いてGNSS測位データから潜在変数z´を特定することができるので、第1の実施形態のように、複数の潜在変数それぞれに基づく複数の疑似GNSS測位データを生成し、全ての疑似GNSS測位データとGNSS測位データとを対比させる必要がない。このため、異常検知システム1は、生成部201及び異常判定部202における処理負荷を大幅に低減させることができる。
【0083】
<第3の実施形態>
次に、本開示の第3の実施形態に係る異常検知システム1について、
図7を参照しながら説明する。
第1及び第2の実施形態と共通の構成要素には同一の符号を付して詳細説明を省略する。
【0084】
第1及び第2の実施形態に係る異常検知システム1では、センタサーバ20が複数の車載器10それぞれにおいて収集されるGNSS測位データの異常の有無を判定していた。これに対し、本実施形態に係る異常検知システム1では、複数の車載器10それぞれが、自身が取得したGNSS測位データの異常の有無を判定する。
【0085】
また、本実施形態に係るセンタサーバ20の学習部200は、第1又は第2の実施形態に係る学習部200と同様の機能構成を有している。学習部200が生成モデル及び潜在変数モデルの学習を完了すると、これら学習済みのモデルは各車載器10に配布されて、車載器10の記憶媒体104に記憶される。
【0086】
(異常検知システムの機能構成)
図7は、本開示の第3の実施形態に係る異常検知システムの機能構成を示す図である。
図7に示すように、本実施形態に係る車載器10は、生成部111及び異常判定部112をさらに備えている。
【0087】
生成部111及び異常判定部112は、第1又は第2の実施形態に係るセンタサーバ20の生成部201及び異常判定部202と同様の機能を有している。
【0088】
すなわち、センタサーバ20から生成モデルのみが配布されている場合、生成部111は、第1の実施形態(
図4)のステップS114と同じ処理を行い、複数の疑似GNSS測位データx´を生成する。また、異常判定部112は、第1の実施形態(
図4)のステップS115と同じ処理を行い、状態観測部102が取得したGNSS測位データxと、複数の疑似GNSS測位データx´それぞれとを対比して、異常の有無を判定する。
【0089】
また、センタサーバ20から生成モデル及び潜在変数モデルが配布されている場合、生成部111は、第2の実施形態(
図6)のステップS214と同じ処理を行い、GNSS測位データを潜在変数モデルに入力して潜在変数z´を得る。また、生成部111は、この潜在変数z´を生成モデルに入力して、一つの疑似GNSS測位データx´を生成する。異常判定部112は、第2の実施形態(
図6)のステップS216と同じ処理を行い、状態観測部102が取得したGNSS測位データxと、疑似GNSS測位データx´とを対比して、異常の有無を判定する。
【0090】
(作用効果)
以上のように、本実施形態に係る車載器10は、GNSS測位データを収集する状態観測部102と、学習済みの生成モデルを用いて疑似GNSS測位データを生成する生成部111と、新たに取得されたGNSS測位データxと疑似GNSS測位データx´との対比に基づいて、当該GNSS測位データxが異常であるか否かを判定する異常判定部112とを備える。
このようにすることで、各車両Aに搭載された車載器10が、自身が収集したGNSS測位データの異常を検知することが可能となる。これにより、異常検知システム1は、車載器10とセンタサーバ20との間で頻繁に評価データ(GNSS測位データ)を送受信する必要がなくなるので、通信量を大幅に低減させることができる。また、センタサーバ20が複数の車載器10の異常検出処理を行う態様と比較して、各車載器10に異常検出処理の負荷を分散させることができるので、センタサーバ20の処理負荷を大幅に低減させることができる。
【0091】
<ハードウェア構成>
図8は、本開示の一実施形態に係る車載器及びセンタサーバのハードウェア構成の一例を示す図である。
図8に示すように、コンピュータ900は、CPU901、主記憶装置902、補助記憶装置903、インタフェース904を備える。
【0092】
上述の各実施形態に係る車載器10及びセンタサーバ20は、それぞれ、コンピュータ900に実装される。そして、上述した各処理部の動作は、プログラムの形式で補助記憶装置903に記憶されている。CPU901は、プログラムを補助記憶装置903から読み出して主記憶装置902に展開し、当該プログラムに従って上記処理を実行する。また、CPU901は、プログラムに従って、上述した各記憶部に対応する記憶領域を主記憶装置902に確保する。
【0093】
プログラムは、コンピュータ900に発揮させる機能の一部を実現するためのものであってもよい。たとえば、プログラムは、補助記憶装置903に既に記憶されている他のプログラムとの組み合わせ、または他の装置に実装された他のプログラムとの組み合わせによって機能を発揮させるものであってもよい。なお、他の実施形態においては、コンピュータ900は、上記構成に加えて、または上記構成に代えてPLD(Programmable Logic Device)などのカスタムLSI(Large Scale Integrated Circuit)を備えてもよい。PLDの例としては、PAL(Programmable Array Logic)、GAL(Generic Array Logic)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)、FPGA(Field Programmable Gate Array)が挙げられる。この場合、CPU901によって実現される機能の一部または全部が当該集積回路によって実現されてよい。
【0094】
補助記憶装置903の例としては、磁気ディスク、光磁気ディスク、光ディスク、半導体メモリ等が挙げられる。補助記憶装置903は、コンピュータ900のバスに直接接続された内部メディアであってもよいし、インタフェース904または通信回線を介してコンピュータ900に接続される外部記憶装置910であってもよい。また、このプログラムが通信回線によってコンピュータ900に配信される場合、配信を受けたコンピュータ900が当該プログラムを主記憶装置902に展開し、上記処理を実行してもよい。少なくとも1つの実施形態において、補助記憶装置903は、一時的でない有形の記憶媒体である。
【0095】
また、当該プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。
さらに、当該プログラムは、前述した機能を補助記憶装置903に既に記憶されている他のプログラムとの組み合わせで実現するもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
【0096】
以上のとおり、本発明に係るいくつかの実施形態を説明したが、これら全ての実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態及びその変形例は、発明の要旨および技術的範囲に含まれる。
【0097】
たとえば、上述の各実施形態において、学習部200は、正常時のGNSS測位データを学習データとして用いる例について説明したが、これに限られることはない。たとえば、状態観測部102は、異常時のGNSS測位データをさらに収集してもよい。この異常時のGNSS測位データには、「異常」であることを示すラベルを付加する。また、学習部200は、ジェネレータ2001が「異常」のラベルが付されたGNSS測位データに近い疑似GNSS測位データを生成した場合にペナルティを与える。これにより、ジェネレータ2001(生成モデル)は、正常時のGNSS測位データに近い疑似GNSS測位データのみを生成するように学習することができる。
【0098】
また、上述の各実施形態において、異常判定部202、112がGNSS測位データxと疑似GNSS測位データx´との一致度に基づいて異常の有無を判定する例について説明したが、これに限られることはない。他の実施形態では、異常判定部202、112は、学習部200により学習された識別器(ディスクリミネータ2002)を用いて異常の有無を判定するようにしてもよい。たとえば、識別器(ディスクリミネータ2002)は、入力されたデータが本物であると識別する確率を識別結果Pとして出力する。このとき、異常判定部202、112は、GNSS測位データxが本物である確率P1が、疑似GNSS測位データx´が本物である確率P2よりも低い場合、GNSS測位データxは異常であると判定する。また、異常判定部202、112は、多少の誤差を許容するために、確率P1が確率P2よりも所定値以上低い場合に、GNSS測位データxが異常であると判定してもよい。
【0099】
<付記>
上述の実施形態に記載の異常検知システム、車載器、異常検知方法、及びプログラムは、たとえば以下のように把握される。
【0100】
本開示の第1の態様によれば、異常検知システム(1)は、車両に搭載されたGNSSレシーバ(100)を介して、GNSS衛星から受信した衛星信号に関する情報、及び当該衛星信号から推定される前記車両の位置に関する情報を含むGNSS測位データを収集する状態観測部(102)と、前記GNSS測位データを用いて学習された生成モデルにより、疑似GNSS測位データを生成する生成部(111、201)と、新たなGNSS測位データが取得された場合に、生成された前記疑似GNSS測位データとの対比に基づいて、新たに取得された当該GNSS測位データが異常であるか否かを判定する異常判定部(112、202)と、を備える。
【0101】
このようにすることで、異常検知システムは、GNSSレシーバにより実測されたGNSS測位データが疑似GNSS測位データと乖離している場合、GNSS測位データが異常であることを検知することができる。
【0102】
本開示の第2の態様によれば、第1の態様に係る異常検知システム(1)は、前記状態観測部(102)が収集した正常な前記GNSS測位データを用いて前記生成モデルを学習する学習部(200)をさらに備える。
【0103】
このようにすることで、異常検知システムは、GNSSレシーバの状態が正常である場合に取得されると推定されるデータを模擬した疑似GNSS測位データを生成可能な生成モデルを学習することができる。よって、異常検知システムは、このように学習された生成モデルを用いることにより、正常時のデータを模擬した疑似GNSS測位データから、実測されたGNSS測位データが乖離している場合は、GNSS測位データが異常であると精度よく判定することができる。
【0104】
本開示の第3の態様によれば、第2の態様に係る異常検知システム(1)において、前記状態観測部(102)は、前記GNSS測位データの測位誤差をさらに収集し、前記学習部(200)は、前記測位誤差をさらに用いて前記生成モデルを学習する。
【0105】
このようにすることで、異常検知システムは、実際のGNSSレシーバの測位誤差も精度よく模擬することができる。そうすると、異常検知システムは、より本物に近い疑似GNSS測位データを生成することができるので、異常検知の精度を向上させることができる。
【0106】
本開示の第4の態様によれば、第2又は第3の態様に係る異常検知システム(1)において、前記状態観測部(102)は、前記GNSSレシーバ(100)の特性を検出可能なレシーバ情報をさらに収集し、前記学習部(200)は、前記レシーバ情報をさらに用いて前記生成モデルを学習する。
【0107】
このようにすることで、異常検知システムは、GNSSレシーバの特性に応じた、より本物に近い疑似GNSS測位データを生成することができる。この結果、GNSSレシーバ毎の特性の違いを考慮した異常検知が可能となり、異常検知の精度を向上させることができる。
【0108】
本開示の第5の態様によれば、第2から第4のいずれか一の態様に係る異常検知システム(1)において、前記状態観測部(102)は、前記GNSSレシーバ(100)の取付環境を示す取付環境情報をさらに収集し、前記学習部(200)は、前記取付環境情報をさらに用いて前記生成モデルを学習する。
【0109】
このようにすることで、異常検知システムは、GNSSレシーバの取付環境に応じた、より本物に近い疑似GNSS測位データを生成することができる。この結果、GNSSレシーバの取付環境を考慮した異常検知が可能となり、異常検知の精度を向上させることができる。
【0110】
本開示の第6の態様によれば、第2から第5のいずれか一の態様に係る異常検知システム(1)において、前記状態観測部(102)は、前記車両の周辺環境に関する周辺環境情報をさらに収集し、前記学習部(200)は、前記周辺環境情報をさらに用いて前記生成モデルを学習する。
【0111】
このようにすることで、異常検知システムは、車両の周辺環境に応じた、より本物に近い疑似GNSS測位データを生成することができる。この結果、車両周辺の遮蔽状況を考慮した異常検知が可能となり、異常検知の精度を向上させることができる。
【0112】
本開示の第7の態様によれば、第2から第6のいずれか一の態様に係る異常検知システム(1)において、前記学習部(200)は、前記GNSS測位データを用いて、前記疑似GNSS測位データを生成するための潜在変数を出力する潜在変数モデルをさらに学習し、前記生成部(111、201)は、前記潜在変数モデルから出力された前記潜在変数を前記生成モデルに入力して、前記疑似GNSS測位データを生成する。
【0113】
潜在変数が特定できない場合、生成部は潜在変数を一つずつ変更して、各潜在変数に基づく複数の疑似GNSS測位データを生成し、GNSS測位データと複数の疑似GNSS測位データそれぞれとを個別に対比する必要があった。しかしながら、上述の態様に係る異常検知システムは、学習済みの潜在変数モデルを用いて潜在変数を特定することができるので、生成部及び異常判定部における処理負荷を大幅に低減させることができる。
【0114】
本開示の第8の態様によれば、車載器(10)は、車両に搭載されたGNSSレシーバ(100)を介して、GNSS衛星から受信した衛星信号に関する情報、及び当該衛星信号から推定される前記車両の位置に関する情報を含むGNSS測位データを収集する状態観測部(102)と、前記GNSS測位データを用いて学習された生成モデルにより、疑似GNSS測位データを生成する生成部(111)と、新たなGNSS測位データが取得された場合に、生成された前記疑似GNSS測位データとの対比に基づいて、当該GNSS測位データが異常であるか否かを判定する異常判定部(112)と、を備える。
【0115】
このようにすることで、各車両に搭載された車載器が、自身が収集したGNSS測位データの異常を検知することが可能となる。これにより、異常検知システムは、車載器とセンタサーバとの間で頻繁に評価データ(GNSS測位データ)を送受信する必要がなくなるので、通信量を大幅に低減させることができる。また、各車載器に異常検出処理の負荷を分散させることができる。
【0116】
本開示の第9の態様によれば、異常検知方法は、車両に搭載されたGNSSレシーバ(100)を介して、GNSS衛星から受信した衛星信号に関する情報、及び当該衛星信号から推定される前記車両の位置に関する情報を含むGNSS測位データを収集するステップと、前記GNSS測位データを用いて学習された生成モデルにより、疑似GNSS測位データを生成するステップと、新たなGNSS測位データが取得された場合に、生成された前記疑似GNSS測位データとの対比に基づいて、当該GNSS測位データが異常であるか否かを判定するステップと、を有する。
【0117】
本開示の第10の態様によれば、プログラムは、車両に搭載されたGNSSレシーバ(100)を介して、GNSS衛星から受信した衛星信号に関する情報、及び当該衛星信号から推定される前記車両の位置に関する情報を含むGNSS測位データを収集するステップと、前記GNSS測位データを用いて学習された生成モデルにより、疑似GNSS測位データを生成するステップと、新たなGNSS測位データが取得された場合に、生成された前記疑似GNSS測位データとの対比に基づいて、当該GNSS測位データが異常であるか否かを判定するステップと、を車載器(10)のコンピュータ(900)に実行させる。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本開示に係る異常検知システム、車載器、異常検知方法、及びプログラムによれば、学習済みの生成モデルにより生成された疑似GNSS測位データを用いて、実測されたGNSS測位データの異常を検知することができる。
【符号の説明】
【0119】
1 異常検知システム
10 車載器
100 GNSSレシーバ
101 センサ情報取得部
102 状態観測部
103 出力部
104 記憶媒体
111 生成部
112 異常判定部
20 センタサーバ
200 学習部
2001 ジェネレータ
2002 ディスクリミネータ
2003 エンコーダ
201 生成部
202 異常判定部
203 記憶媒体
30 車載センサ
40 GNSS衛星
900 コンピュータ
901 CPU
902 主記憶装置
903 補助記憶装置
904 インタフェース
910 外部記憶装置