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特許7467759磁気ディスク用基板、磁気ディスク、円環形状基板、および磁気ディスク用基板の製造方法
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  • 特許-磁気ディスク用基板、磁気ディスク、円環形状基板、および磁気ディスク用基板の製造方法 図1
  • 特許-磁気ディスク用基板、磁気ディスク、円環形状基板、および磁気ディスク用基板の製造方法 図2
  • 特許-磁気ディスク用基板、磁気ディスク、円環形状基板、および磁気ディスク用基板の製造方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】磁気ディスク用基板、磁気ディスク、円環形状基板、および磁気ディスク用基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/73 20060101AFI20240408BHJP
   G11B 5/82 20060101ALI20240408BHJP
   G11B 5/84 20060101ALI20240408BHJP
   B24B 1/00 20060101ALI20240408BHJP
   B24B 9/00 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
G11B5/73
G11B5/82
G11B5/84 C
G11B5/84 Z
B24B1/00 D
B24B9/00 601G
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2023502500
(86)(22)【出願日】2022-02-24
(86)【国際出願番号】 JP2022007710
(87)【国際公開番号】W WO2022181715
(87)【国際公開日】2022-09-01
【審査請求日】2024-01-16
(31)【優先権主張番号】P 2021027888
(32)【優先日】2021-02-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】弁理士法人グローバル・アイピー東京
(72)【発明者】
【氏名】東 修平
(72)【発明者】
【氏名】滝澤 利雄
【審査官】川中 龍太
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-273030(JP,A)
【文献】特開2009-173295(JP,A)
【文献】特許第5574392(JP,B1)
【文献】特開2006-040361(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/62 - 5/82
G11B 5/84 - 5/858
B24B 1/00
B24B 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の主表面と外周端面とを備える磁気ディスク用基板であって、
前記外周端面は、前記主表面それぞれと接続する一対の面取面と、前記一対の面取面の間を外側に凸となるよう湾曲して延びる側壁面と、を有し、
前記磁気ディスク用基板の板厚方向に沿った断面において、前記側壁面は、1100μm以上の曲率半径を有している、ことを特徴とする磁気ディスク用基板。
【請求項2】
前記側壁面の曲率半径は2000μm以下である、請求項1に記載の磁気ディスク用基板。
【請求項3】
前記面取面の前記主表面との接続位置と、前記側壁面の最も外側に凸となる位置との間の前記主表面と平行な方向の長さは100μm以下である、請求項1又は2に記載の磁気ディスク用基板。
【請求項4】
前記面取面は、外側に凸となるよう湾曲しており、
前記磁気ディスク用基板の板厚方向に沿った断面において、前記面取面は、前記側壁面の曲率半径より小さい曲率半径を有している、請求項1から3のいずれか1項に記載の磁気ディスク用基板。
【請求項5】
前記面取面の曲率半径は100~1000μmである、請求項4に記載の磁気ディスク用基板。
【請求項6】
前記磁気ディスク用基板の板厚方向に沿った断面において、前記面取面と前記主表面との接続位置の側に位置する前記面取面のうちの接続領域は、前記主表面と平行な方向に対し30~70度の角度で傾斜している、請求項1から5のいずれか1項に記載の磁気ディスク用基板。
【請求項7】
前記磁気ディスク用基板の板厚方向に沿った断面において、前記面取面と前記側壁面の境界部分が丸みを有している、請求項1から6のいずれか1項に記載の磁気ディスク用基板。
【請求項8】
板厚が0.6mm未満である、請求項1から7のいずれか1項に記載の磁気ディスク用基板。
【請求項9】
前記磁気ディスク用基板はガラス製の基板である、請求項1から8のいずれか1項に記載の磁気ディスク用基板。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載の磁気ディスク用基板の表面に少なくとも磁性膜を有する、ことを特徴とする磁気ディスク。
【請求項11】
一対の主表面と、外周端面及び内周端面とを備える円環形状基板であって、
前記外周端面は、前記主表面それぞれと接続する一対の面取面と、前記一対の面取面の間を外側に凸となるよう湾曲して延びる側壁面と、を有し、
前記円環形状基板の板厚方向に沿った断面において、前記側壁面は、1100μm以上の曲率半径を有している、ことを特徴とする円環形状基板。
【請求項12】
請求項11に記載の円環形状基板の主表面を少なくとも研磨する処理を含む、ことを特徴とする磁気ディスク用基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一対の主表面と外周端面とを備える磁気ディスク用基板、磁気ディスク、円環形状基板、および磁気ディスク用基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のクラウドコンピューティングの隆盛に伴って、クラウド向けのデータセンターでは記憶容量の大容量化のために多くのハードディスクドライブ(HDD)装置が用いられている。HDD装置には、記憶媒体として、円環形状の非磁性の磁気ディスク用基板に磁性層を設けた磁気ディスクが用いられる。HDD装置の記憶容量を増やすためには、磁気ディスクを薄くして、磁気ディスクの搭載枚数を増やすことが好ましい。
【0003】
ところで、磁気ディスク用基板を製造するとき、最終製品である磁気ディスク用基板の端面は、微細なパーティクルが発生しないようにする観点から、表面を滑らかにすることが好ましい。また、磁気ディスクを精度よくHDD装置に組み込む点等から、端面を目標形状に揃えることが好ましい。
【0004】
従来、磁気ディスク用基板の端面形状として、主表面それぞれと接続する一対の面取面と、面取面の間を板厚方向に延びる側壁面と、を有する形状が知られている。このような端面形状は、例えば、目標となる面取面と側壁面の形状に対応した形状の研削面を有する総型砥石を用いて、端面研削を行うことで得られる(特許文献1)。また、従来、主表面と外側面との間の領域が連続した凸状曲面を有する端面形状のガラス基板が知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-238302号公報
【文献】特開2006-40361号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
端面を目標形状に加工した円環形状の板(円環形状基板)は、さらに、両面研磨装置を用いて主表面が研磨される。両面研磨装置を用いた研磨(両面研磨)は、円環形状基板を保持する保持部材(キャリア)の保持孔に円環形状基板を収容し、円環形状基板を上下両側から定盤で挟み込んだ状態で行われる。このとき、キャリアの厚みは円環形状基板の厚みよりも薄くする必要がある。このような両面研磨を、曲面を有する端面形状の円環形状基板に対し行うと、円環形状基板がキャリアの保持孔から外れ、キャリアの上に乗り上げてしまう場合がある。特に、研磨される円環形状基板の板厚が薄いと、キャリアの板厚はそれよりさらに薄くする必要があるため、円環形状基板のキャリアへの乗り上げが発生しやすくなる。円環形状基板がキャリアに乗り上げた状態で研磨を続けると、主表面に傷がつきやすくなる。さらに、定盤とキャリアとの間に挟まれた円環形状基板に強い力がかかることで、円環形状基板にひびや割れが生じ、損傷する場合がある。上記の現象は、保持部材を用いて円環形状基板の両主表面を研削する場合に発生することもある。
【0007】
そこで、本発明は、円環形状基板の両面研削または両面研磨を行う際に、円環形状基板を保持する保持部材から円環形状基板が外れ難い円環形状基板、磁気ディスク用基板、磁気ディスク、および磁気ディスク用基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、一対の主表面と外周端面とを備える磁気ディスク用基板である。当該磁気ディスク用基板は、
前記外周端面は、前記主表面それぞれと接続する一対の面取面と、前記一対の面取面の間を外側に凸となるよう湾曲して延びる側壁面と、を有し、
前記磁気ディスク用基板の板厚方向に沿った断面において、前記側壁面は、1100μm以上の曲率半径を有している、ことを特徴とする。
【0009】
前記側壁面の曲率半径は2000μm以下である、ことが好ましい。
【0010】
前記面取面の前記主表面との接続位置と、前記側壁面の最も外側に凸となる位置との間の前記主表面と平行な方向の長さは100μm以下である、ことが好ましい。
【0011】
前記面取面は、外側に凸となるよう湾曲しており、
前記磁気ディスク用基板の板厚方向に沿った断面において、前記面取面は、前記側壁面の曲率半径より小さい曲率半径を有している、ことが好ましい。
【0012】
前記面取面の曲率半径は100~500μmである、ことが好ましい。
【0013】
前記磁気ディスク用基板の板厚方向に沿った断面において、前記面取面と前記主表面との接続位置の側に位置する前記面取面のうちの接続領域は、前記主表面と平行な方向に対し30~70度の角度で傾斜している、ことが好ましい。
【0014】
前記磁気ディスク用基板の板厚方向に沿った断面において、前記面取面と前記側壁面の境界部分が丸みを有している、ことが好ましい。
【0015】
板厚が0.6mm未満である、ことが好ましい。
【0016】
前記磁気ディスク用基板はガラス製の基板である、ことが好ましい。
【0017】
本発明の別の一態様は、磁気ディスクである。当該磁気ディスクは、
前記磁気ディスク用基板の表面に少なくとも磁性膜を有する、ことを特徴とする。
【0018】
本発明の別の一態様は、一対の主表面と、外周端面及び内周端面とを備える円環形状基板である。当該円環形状基板は、
前記外周端面は、前記主表面それぞれと接続する一対の面取面と、前記一対の面取面の間を外側に凸となるよう湾曲して延びる側壁面と、を有し、
前記円環形状基板の板厚方向に沿った断面において、前記側壁面は、1100μm以上の曲率半径を有している、ことを特徴とする。
【0019】
本発明の別の一態様は、前記円環形状基板の主表面を少なくとも研磨する処理を含む、ことを特徴とする磁気ディスク用基板の製造方法である。
【発明の効果】
【0020】
上述の磁気ディスク用基板、磁気ディスク、および円環形状基板によれば、円環形状基板の両面研削または両面研磨を行う際に、円環形状基板を保持する保持部材から円環形状基板が外れ難くすることができる。また、上述の磁気ディスク用基板の製造方法によれば、そのような磁気ディスク用基板が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】一実施形態である磁気ディスク用基板の外観形状を表す図である。
図2】磁気ディスク用基板の外周端面の断面形状の一例を示す図である。
図3】保持孔に円環形状基板を保持した保持部材を示す図である。
図4】保持孔から外れ、保持部材に乗り上げた円環形状基板を示す図である。
図5】総型砥石を用いた端面研削を説明する図である。
図6】面取面と側壁面の境界部分の曲率半径を求める方法を説明する図である。
図7】磁気ディスク用基板の外周端面の断面形状の別の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、一実施形態の磁気ディスク用基板、磁気ディスク、円環形状基板、および磁気ディスク用基板の製造方法について詳細に説明する。なお、以降の説明では、磁気ディスク用基板や円環形状基板の材料としてガラス製基板を用いた例で説明するが、ガラス製基板の他に金属製基板が材料として用いられてもよい。
【0023】
図1は、一実施形態である磁気ディスク用基板の一例であるガラス基板の外観形状を表す図である。ガラス基板1の外周は円形状である。図1に示す例のガラス基板1は、上記円形状の円と同心円の内孔3があいて内周を有する円環形状の基板である。すなわち、図1に示す例のガラス基板1は、一対の主表面1p,1p(図2参照)、外周端面5、及び内周端面7を備える。なお、図1において、ガラス基板1の後述する面取面及び側壁面の図示は省略されている。
【0024】
ガラス基板1は、磁気ディスク用ガラス基板である。ガラス基板1のサイズは制限されないが、例えば、公称直径2.5インチや3.5インチの磁気ディスク用ガラス基板のサイズである。公称直径2.5インチの磁気ディスク用ガラス基板の場合、外径(直径)が55~70mm、例えば、外径が65mmや67mm、58mmであり、内孔の径(直径)が20mmであり、板厚が0.3~1.3mmである。公称直径3.5インチの磁気ディスク用ガラス基板の場合、外径(直径)が85~100mm、例えば、外径が95mmや97mm、89mmであり、内孔の径(直径)が25mmであり、板厚が0.3~1.3mmである。ガラス基板1の板厚T(図2参照)は、磁気ディスクを薄くしてHDD装置への搭載枚数を増やせる点で、薄いほど好ましく、0.6mm未満、0.56mm以下、0.51mm以下、0.46mm以下、0.41mm以下の順により好ましい。なお、上記の直径や板厚の数値は公称値であるので、生産上のバラツキ等によって数値が若干外れるものも含みうる。また、ガラス基板の替わりに、アルミニウム合金基板の表面にニッケル合金めっき膜を形成した基板を用いる場合、上記の値はニッケル合金めっき膜の厚みを含む基板全体に対応する。
【0025】
図2に、ガラス基板1の板厚方向に沿った外周端面5の断面形状の一例を示す。
外周端面5は、一対の面取面1c,1cと、側壁面1tと、を有している。
【0026】
一対の面取面1c,1cは、主表面1p,1pそれぞれと接続する面である。なお、本発明では、後述のように面取面が湾曲面などの平坦面ではない場合でも、面取面と呼ぶ。
【0027】
側壁面1tは、面取面1c,1cの間を外側に凸となるよう湾曲して延びる面である。そして、側壁面1tは、ガラス基板1の外周の円形状の中心を通る、ガラス基板1の板厚方向に沿った断面(以降、板厚方向に沿った断面、あるいは、単に断面という)において、1100μm以上の曲率半径Rtを有している。このような形態の側壁面1tを備えるガラス基板1は、ガラス基板1の素板となるガラス製の円環形状基板(以降、ガラス板ともいう)を両面研削または両面研磨したときに、ガラス板が保持部材(キャリア)の保持孔から外れ難い。そのため、ガラス板のキャリアへの乗り上げが発生し難く、ガラス板がキャリアに乗り上げた状態で両面研削または両面研磨を続けることでガラス板の主表面に傷が生じたり、割れ、ひび等が生じたりすることを抑制できる。なお、上記の断面形状は、例えば株式会社ミツトヨ製のコントレーサなどの輪郭形状測定機を用いて測定することができる。
【0028】
ガラス板の両面研削または両面研磨は、遊星歯車機構を備えた両面研削装置または両面研磨装置を用いて行われる。両面研削装置を用いた両面研削や両面研磨装置を用いた両面研磨では、図3に示すように、キャリア18の保持孔18aにガラス板Gを収容し、ガラス板Gを上下両側から定盤14,12で挟み込んだ状態で行われる。図3に示すガラス板Gは、研削部材または研磨パッド20を介して定盤14,12に挟み込まれている。図3において、ガラス板Gの面取面及び湾曲した側壁面の図示は省略されている。キャリア18の厚さは、ガラス板Gの両主表面の取り代を確保するため、ガラス板Gの板厚より薄くなっている。また、高い研磨レートを確保するためには、キャリア18の厚さは薄いほどよい。このため、ガラス板の側壁面の曲率半径が小さすぎると、ガラス板G´(図4参照)の板厚方向の中央部において外側に尖った形状となるため、両面研削または両面研磨を行う間に、ガラス板G´と当接するキャリア18の縁部がガラス板G´に対して板厚方向に滑りやすく、ガラス板Gは保持孔18aから外れやすくなる。このため、図4に示すように、保持孔18aから外れたガラス板G´はキャリア18の上に乗り上げやすくなる。ガラス板G´がキャリア18に乗り上げた状態で研削または研磨を続けると、キャリア18との接触によりガラス板G´の主表面に傷がつきやすく、定盤14,12とキャリア18との間に挟まれたガラス板G´に強い力がかかることで、ガラス板にひびや割れが生じ、損傷する場合がある。特に、板厚の薄いガラス板の両面研削または両面研磨には、さらに厚さの薄いキャリア18が用いられるため、ガラス板の保持孔18aからの外れが一層起こりやすくなる。本実施形態のガラス基板1では、側壁面1tの曲率半径Rtを1100μm以上に制限することにより、ガラス板Gが薄い場合の保持孔18aからの外れを抑制している。この点で、側壁面1tの曲率半径Rtは、1200μm以上であることが好ましい。
【0029】
ガラス基板1は、後述するように、端面加工あるいは端面研磨により作製されたガラス板Gから作製されるため、ガラス板Gの外周端面が備える側壁面及び面取面の断面形状は、ガラス基板1においても維持される。また、磁気ディスク用ガラス基板1の表面に磁性膜等を成膜して後述の磁気ディスクを製造する場合、磁性膜等の合計の膜厚は例えば100nm以下であり板厚に対して十分に薄い。したがって、ガラス基板1の外周端面が備える側壁面及び面取面の断面形状は、磁気ディスクにおいても維持される。
【0030】
なお、本明細書において、外側とは、ガラス基板1の外周の円形状の中心から離れる側を意味し、外側に凸とは、側壁面1tまたは面取面1cの板厚方向の両端を結ぶ直線に対し外側に突出していることを意味する。
【0031】
側壁面1tの曲率半径Rtは、板厚方向に異なる側壁面1t上の特定の3点を通る円弧の半径として特定される。図2に示す例において、側壁面1tの曲率半径Rtは、例えば、ガラス基板1の板厚方向の中心を通り、主表面1pと平行な平面と交差する側壁面1t上の点をT3とするとき、T3及びT3を中心として半径100μmの仮想円を描いたときの当該仮想円と側壁面1tとの2つの交点の3点を通る円弧の半径として特定できる。なお、側壁面1tの長さが200μmに満たず、上記仮想円の円弧と側壁面1tとのフィッティングがうまくいかない場合は、上記仮想円の半径を適宜小さくしてよい。
【0032】
側壁面1tを含むガラス基板1の外周端面5の断面形状は、例えば、図5に示す総型砥石30を用いてガラス板Gを作製することで得られる。図5に、総型砥石30と、ガラス板Gに加工される端面研削前の板材(以降、ガラス板材という)を示す。図5において、ガラス板材の領域のうち破線を付けた領域は、端面研削により除去される領域を示す。また、図5において、左方向を指す矢印は、端面研削を行う際の総型砥石30の、ガラス板材に対する相対的な移動方向を示す。総型砥石30は、例えば全体が円柱状又は円筒状に形成されているとともに、外周側面に溝31を有する。溝31は、ガラス板Gの側壁面及び面取面を同時に研削加工により形成できるよう構成されている。具体的に、溝31は、側壁部31bと、その両側に位置する面取部31aとを有する研削面を備える。溝31の側壁部31b及び面取部31aは、ガラス板Gあるいはガラス基板1の外周端面の仕上がり目標の形状を考慮して、所定の寸法形状に形成されている。
【0033】
一実施形態によれば、側壁面1tの曲率半径Rtは2000μm以下であることが好ましい。曲率半径が2000μmを超える側壁面1tは、板厚方向に略直線状に延びているため、側壁面1tと面取面1cの間の角部が尖りやすい。このような角部となるガラス板材の部分には、総型砥石30を用いてガラス板Gを作製する際に、総型砥石30から荷重を受けることで負荷が集中しやすい。このため、チッピングが生じる場合がある。特に、板厚の薄いガラス基板1となるガラス板材は、板厚が薄く、剛性が低下しやすいので、総型砥石30からの荷重を受けて撓みやすく、角部となる部分への負荷の集中が起きやすい。この点で、側壁面1tの曲率半径Rtは、1800μm以下であることがより好ましい。
【0034】
一実施形態によれば、面取面1cの主表面1pとの接続位置Pcと、側壁面1tの最も外側に凸となる位置との間の主表面1pと平行な方向の長さLc(図2参照)は100μm以下であることが好ましい。このように長さLcが制限されていることで、外周端面5の断面形状の全体としての外側への尖りが抑制されて、ガラス板Gの保持孔18aからの外れを抑制する効果の向上に寄与する。これは、外周端面5の断面形状の尖りの程度が小さくなるほど、上下定盤との隙間が小さくなるためと推定される。この点で、上記長さLcは、80μm以下であることがより好ましい。上記長さLcの上限は例えば150μmである。一方、上記長さLcは、ガラス板Gの取り扱い時のチッピング防止のため、20μm以上であることが好ましい。また、上記尖りの程度をLc/Tの値で表す場合、Lc/Tは0.25以下であることが好ましい。Lc/Tが0.25超の場合、上記尖りが大きくなりすぎてガラス板Gが保持孔から外れやすくなる場合がある。他方、Lc/Tは0.1以上であることが好ましい。Lc/T値が0.1未満の場合、チッピングが生じやすくなる場合がある。これらの観点から、Lc/T値は0.1~0.25の範囲内であるとより好ましい。
【0035】
一実施形態によれば、面取面1cは、外側に凸となるよう湾曲していることが好ましい。この場合、面取面1cは、ガラス基板1の板厚方向に沿った断面において、側壁面1tの曲率半径Rtより小さい曲率半径Rcを有していることが好ましい。このような形態の面取面1cを備えることで、外周端面5の断面形状の全体としての外側への尖りが緩和されたものとなりやすく、ガラス板Gの保持孔18aからの外れを抑制する効果の向上に寄与する。また、上記形態の面取面1cを備えることで、面取面1cと側壁面1tのなす角が小さくなり難くなり(すなわち、面取面1cと側壁面1tの境界部分1b(後述)が尖りにくくなり)、総型砥石30を用いてガラス板Gを作製する際の、面取面1cと側壁面1tの間の角部となるガラス板材の部分への負荷の集中を抑制し、チッピングの発生を抑制する効果が向上する。すなわち、上記形態の面取面1cを備えることで、ガラス板Gの保持孔18aからの外れを抑制しつつ、総型砥石30を用いてガラス板Gを作製する際のチッピングの発生を抑制する効果が向上する。この点で、面取面1cの曲率半径Rcは100~1000μmであることが好ましい。
【0036】
面取面1cが湾曲している場合の曲率半径Rcは、板厚方向に異なる面取面1c上の特定の3点を通る円弧の半径として特定される。すなわち、面取面1cの曲率半径Rcは、(1)一方の主表面側の接続位置Pc、(2)前記接続位置Pcから板厚方向に30μmの位置における面取面1c上の位置、(3)接続位置Pcから板厚方向に60μmの位置における面取面上の位置、の3点を通る円弧の半径として特定できる。
【0037】
また、ガラス基板1の板厚方向に沿った断面において、面取面1cの主表面1pとの接続位置Pcの側に位置する面取面1cのうちの接続領域1caは、主表面1pと平行な方向に対し30~70度の傾斜角度θで傾斜していることが好ましい。このように傾斜した面取面1cとすることで、湾曲した側壁面1tとの接続が比較的滑らかになるため、ガラス板Gの保持孔18aからの外れを抑制しつつ、総型砥石30を用いてガラス板Gを作製する際のチッピングの発生を抑制する上記効果が向上する。なお、接続領域1caは、例えば、接続位置Pcから板厚方向に5~20μmの範囲の領域である。ここで、接続位置Pcのごく近傍(主表面1pから板厚方向に5μm未満の領域)を除く理由は、接続位置Pcは、図面上においては曲率半径を有しないように見えても、現実的には物理的に有限の曲率半径を有するためである。このことは断面の画像を拡大することによって理解できる。接続位置Pcが丸みを持っている場合や面取面1cが湾曲面である場合の上記接続領域の傾斜角度θは、接続位置Pcから板厚方向に10μmの位置における接続領域1caの位置での接線が主表面1pと平行な方向に対して傾斜する角度とすればよい。
【0038】
一実施形態によれば、ガラス基板1の外周端面5は、ガラス基板1の板厚方向に沿った断面において、面取面1cと側壁面1tの境界部分1b(図6参照)が丸みを有していることが好ましい。境界部分1bは、面取面1cと側壁面1tの間に介在し、面取面1c及び側壁面1tに接続する部分である。このような境界部分1bを備えることで、面取面1c及び側壁面1tが滑らかな曲線で接続され、外周端面5の断面形状が全体として滑らかな曲線形状となりやすい。このような外周端面5の断面形状は、ガラス板Gの保持孔18aからの外れを抑制しつつ、総型砥石30を用いてガラス板Gを作製する際のチッピングの発生を抑制する上記効果の向上に寄与する。
【0039】
上記観点から、境界部分1bは、ガラス基板1の板厚方向に沿った断面において、150~1500μmの曲率半径を有していることが好ましく、150~400μmの曲率半径を有しているとより好ましい。なお、境界部分1bの曲率半径は、側壁面1tの曲率半径よりも小さい。境界部分の曲率半径Rは、以下のようにして求められる。
図6は、境界部分1bの断面形状の曲率半径を求める方法を説明する図である。図6において、Rbは、断面形状における境界部分1bの曲率と同等の曲率を形成する円C2の半径であって、境界部分1bの形状の曲率半径である。先ず、面取面1cの直線部又は上述の円弧を延ばした仮想線L1と、側壁面1tを、側壁面1tの上述の円弧に沿って延ばした仮想円弧L2との交点をP1とする。次に、交点P1を通り、且つ、仮想線L1に対して垂直に延びる仮想線L3を設定する。次いで、境界部分1bと、仮想線L3との交点をP2とする。次いで、ガラス基板1の断面において、交点P2を中心として所定の半径(例えば25μm)を有する円C1を設定する。次いで、境界部分1bと、円C1の外周との2つの交点をそれぞれP3,P4とする。さらに、3つの交点P2,P3,P4のそれぞれを通る円C2を設定する。こうして、円C2の半径を求めることによって、境界部分1bの断面形状の曲率半径Rが求められる。なお、境界部分1bの位置がはっきり認識しづらく、上記の仮想線L1及び/又は仮想円弧L2をうまく設定できない場合は、境界部分1bと思われる部分の周辺において上記の円C2の曲率半径Rbが最も小さくなったときの値とすればよい。このとき、交点P2の位置は端面上に仮設置して、適宜ずらしながら円C2をそれぞれ設定すればよい。なお、このとき、交点P3及び交点P4についても端面上に位置している必要がある。
【0040】
図7は、ガラス基板1の外周端面5の断面形状の別の一例を示す図である。ガラス基板1の外周端面5の断面形状は、図7に示すように、面取面1c、接続位置Pc及び境界部分1b(図2のT1,T2)の全てが湾曲し(又は丸みを有し)、全体として湾曲した1つの湾曲面形状であってもよい。また、ガラス基板1の外周端面5の断面形状は、面取面1c、接続位置Pc及び境界部分1b(図2のT1,T2)の少なくとも1つが湾曲した(又は丸みを有した)形状であってもよい。
【0041】
側壁面1tの板厚方向の長さLt(図2参照)は、特に制限されないが、例えば、0.2~0.5mmである。
面取面1cの板厚方向の長さLc2(図2参照)は、特に制限されないが、例えば、0.02~0.15mmである。
面取面1cの主表面1pと平行な方向の長さLc1(図2参照)は、特に制限されないが、例えば、0.02~0.15mmである。
【0042】
ガラス基板1の内周端面7の断面形状は、外周端面5の断面形状と同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0043】
(円環形状基板)
一実施形態の円環形状基板の一例であるガラス板Gは、一対の主表面と、外周端面及び内周端面とを備え、円環形状を有している。ガラス板Gの外周端面は、主表面それぞれと接続する一対の面取面と、面取面の間を外側に凸となるよう湾曲して延びる側壁面と、を有している。ガラス板Gは、ガラス板の板厚方向に沿った断面において、側壁面は、1100μm以上の曲率半径を有している。ガラス板Gは、上記実施形態のガラス基板1の素板として用いられる。
【0044】
ガラス板Gの側壁面の曲率半径は2000μm以下であることが好ましい。
ガラス板Gの面取面の主表面との接続位置と、ガラス板Gの側壁面の最も外側に凸となる位置との間の主表面と平行な方向の長さは200μm以下であることが好ましい。
ガラス板Gの面取面は、外側に凸となるよう湾曲しており、ガラス板Gの板厚方向に沿った断面において、ガラス板Gの面取面は、ガラス板Gの側壁面の曲率半径より小さい曲率半径を有していることが好ましい。
ガラス板Gの面取面の曲率半径は100~500μmであることが好ましい。
【0045】
ガラス板Gの板厚方向に沿った断面において、面取面の主表面との接続位置の側に位置する面取面のうちの接続領域は、主表面と平行な方向に対し10~70度の角度で傾斜していることが好ましい。接続領域は、ガラス基板1の接続領域1caと同様に構成される。
【0046】
ガラス板Gの板厚方向に沿った断面において、面取面と側壁面の境界部分が丸みを有していることが好ましい。境界部分は、ガラス基板1の境界部分1bと同様に構成される。
【0047】
ガラス板Gの板厚Tは0.6mm未満であることが好ましい。
【0048】
(磁気ディスク用基板の製造方法)
一実施形態の磁気ディスク用基板の製造方法は、円環形状基板の主表面を少なくとも研磨する処理を含む。研磨の対象となる円環形状基板は、上記実施形態の円環形状基板である。以下、円環形状基板として、上記ガラス板を用いる場合を例に説明する。ガラス板は特に制限されないが、例えば、フロート法、ダウンドロー法、あるいはプレス法により製造されたガラス板材からつくられる。例えば、フロート法やダウンドロー法により製造された広いシート状のガラス板材から内孔の設けられた円環形状のガラス板材を複数枚、取りだすことができる。広いシート状のガラス板材から円環形状のガラス板材を取りだす方法は、周知のスクライバ(カッター)を用いた切筋形成及び割断によって行ってもよいし、レーザー光をガラス板材に照射して、円形状に欠陥を形成して切り出すことによって行ってもよい。内孔は、上記円形状の円と略同心円の孔である。
【0049】
ガラス板のガラスの材料として、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、ボロシリケートガラスなどのアモルファスのガラスを用いることができる。ガラス板のガラス転移温度Tgは、例えば450~850℃である。
【0050】
円環形状のガラス板材(ガラス製基板)は、端面加工を経て、ガラス板にされる。端面加工は、総型砥石を用いた端面研削や、レーザー光を照射してガラス板材の端面を溶解する端面溶解により行うことができる。この方法を用いると、研削加工によるチッピングを回避しつつ、端面全体が滑らかに湾曲してつながった1つの湾曲面形状にできる。また、そのような端面にすることで、主表面の研削・研磨や磁性膜成膜等の後工程時に発生するチッピングも低減できる。端面加工後、さらに、ガラス板の端面を研磨する端面研磨を行うことができる。端面研磨は、遊離砥粒を端面に供給しながら研磨ブラシ用いて行うことができる。レーザー光を用いた端面溶解により端面加工を行った場合、端面加工後の端面研磨は、行ってもよく、行わなくてもよい。
【0051】
ガラス板の外周端面は、例えば、総型砥石の研削面の形状や、研磨ブラシを用いた端面研磨の条件を調整することで、上述した断面形状にすることができる。
【0052】
本実施形態の製造方法では、以下に説明する、研削、第1研磨、第2研磨、化学強化、洗浄の各種処理を行うことができる。
【0053】
研削処理では、両面研削装置を用いて、ガラス板の主表面に対して研削を行う。具体的には、両面研削装置のキャリアの保持孔内にガラス板を収容し、ガラス板の外周端面を保持しながらガラス板の両主表面の研削を行う。両面研削装置は、上下一対の定盤(上定盤および下定盤)を有しており、上定盤および下定盤の間にガラス板が狭持される。そして、上定盤または下定盤のいずれか一方、または、双方を移動操作させ、クーラントを供給しながらガラス板と各定盤とを相対的に移動させることにより、ガラス板の両主表面を研削する。例えば、ダイヤモンドを樹脂で固定した固定砥粒をシート状に形成した研削部材(ダイヤモンドパッド)を定盤に装着して研削することができる。また、ダイヤモンドパッドとクーラントの組み合わせの代わりに、鋳鉄製の定盤とアルミナ砥粒等を含むスラリの組み合わせを用いてもよい。なお、キャリアの厚さは、上述の通り保持対象のガラス板の厚さよりも小さい必要があるが、具体的にはガラス板の厚さと比較して0.05mm以上小さいと好ましく、0.1mm以上小さいとより好ましく、0.15mm以上小さいとより一層好ましい。また、保持孔の直径は、保持対象のガラス板の直径よりも大きい必要があるが、例えばガラス板の直径より0.1~3.0mm大きければよい。
【0054】
第1研磨は、研削後のガラス板の主表面に施される。具体的には、両面研磨装置のキャリアの保持孔内にガラス板を収容し、ガラス板の外周端面を保持しながらガラス板の両主表面の研磨を行う。第1研磨は、研削処理後の主表面に残留したキズや歪みの除去、あるいは微小な表面凹凸(マイクロウェービネス、粗さ)の調整を目的とする。第1研磨は鏡面研磨であることが好ましい。
【0055】
第1研磨処理では、両面研削装置と同様の構成を備えた両面研磨装置を用いて、遊離砥粒を含んだ研磨スラリを与えながらガラス板の両主表面の研磨を行う。第1研磨に用いる遊離砥粒として、例えば、酸化セリウム、ジルコニア等の砥粒が用いられる。両面研磨装置も、両面研削装置と同様に、上下一対の定盤の間にガラス板が狭持される。下定盤及び上定盤の表面には、研磨パッド(例えば、樹脂ポリッシャ)が取り付けられている。研磨パッドは、発泡ポリウレタン等の樹脂製で表面に微細な開口を有するスウェードタイプのものであると、ガラス板の表面が傷つきにくく、鏡面化しやすいため好ましい。そして、上定盤または下定盤のいずれか一方、または、双方を移動操作させることで、ガラス板と各定盤とを相対的に移動させることにより、ガラス板の両主表面を研磨する。研磨砥粒の大きさは、平均粒径(D50)で0.5~3μmの範囲内であることが好ましい。
【0056】
第2研磨は、第1研磨後のガラス板に施される。第2研磨処理は、主表面の鏡面研磨を目的とする。第2研磨においても、第1研磨に用いる両面研磨装置と同様の構成を有する両面研磨装置が用いられる。具体的には、両面研磨装置のキャリアの保持孔内にガラス板を収容し、ガラス板の外周端面を保持しながら、ガラス板の両主表面の研磨を行う。第2研磨処理では、第1研磨処理とは、遊離砥粒の種類及び粒子サイズが異なり、樹脂ポリッシャの硬度が異なる。樹脂ポリッシャの硬度は第1研磨処理よりも小さいことが好ましい。例えばコロイダルシリカを遊離砥粒として含む研磨液が両面研磨装置の研磨パッドとガラス板の主表面との間に供給され、ガラス板の主表面が研磨される。第2研磨に用いる研磨砥粒の大きさは、平均粒径(d50)で5~50nmの範囲内であることが好ましい。研磨パッドは、発泡ポリウレタン等の樹脂製で表面に微細な開口を有するスウェードタイプの研磨パッドを用いると、ガラス板の表面が傷つきにくく、鏡面化しやすいため好ましい。
【0057】
化学強化を行う場合は、第2研磨の前または後に行うのがよい。化学強化処理では、化学強化液として、例えば硝酸カリウムと硝酸ナトリウムの混合熔融液等を用い、ガラス板を化学強化液中に浸漬する。これにより、イオン交換によってガラス板Gの表面に圧縮応力層を形成することができる。化学強化処理の要否は、ガラス組成や必要性を考慮して決定され、適宜選択される。
【0058】
第1研磨処理及び第2研磨処理の他にさらに別の研磨処理を加えてもよく、第1研磨処理及び第2研磨処理を1つの研磨処理で済ませてもよい。また、上記各処理の順番は、適宜変更してもよい。
【0059】
洗浄は、最後に行われる研磨処理又は化学強化処理のうち後で行われる処理の後に、洗浄液(例えば水)を用いて行われる。また、上記の研削、研磨、化学強化などの工程間において別の洗浄処理を適宜追加してもよい。
【0060】
ここで、円環形状基板の材料として金属製基板を用いた場合の磁気ディスク用基板の製造方法について説明する。金属製基板の材料として、例えば、ニッケル合金の膜を表面に有するアルミニウム合金を用いることもできる。アルミニウム合金には、例えば、少なくともマグネシウムを含むAl-Mg(アルミニウム-マグネシウム)系合金を用いることができる。ニッケル合金の膜には、例えば、少なくともリンを含むNi-P(ニッケル-リン)系合金のめっき膜を用いることができる。また、アルミニウム合金の代わりにチタン合金や単結晶シリコン等を用いてもよいし、ニッケル合金の膜がなくてもよい。これらの中でも、比較的軽量かつ高強度であり加工がしやすい、ニッケル合金の膜を表面に有するアルミニウム合金製基板を好適に用いることができる。
【0061】
ガラス基板の代わりにニッケル合金の膜を表面に有するアルミニウム合金基板を製造する場合、例えば、アルミニウム合金板材から円盤形状の板材(アルミニウム合金製基板)を切り出し、所定の温度及び時間で加熱して焼鈍し、その後、主表面の切削加工と端面の形状加工を行う。端面の形状加工においては、総型バイトや一本バイトなどの工具を用いて端面を所定の形状に研削又は切削加工する。ここで、アルミニウム合金製基板の端面加工においては、ガラス板におけるチッピングに対応するように、微小な凹部が発生する場合がある。これは、基板表面と工具との摺動による表面のむしれや晶出物の脱落によるものと考えられる。この微小な凹部は、ニッケル合金膜や磁性膜等を形成した後も表面に残り、磁気ディスクを高速で回転させた時に不安定な気流を発生させて磁気ディスクのフラッタリングを悪化させる原因となるので好ましくない。この微小な凹部は、端面の目標形状の影響を受けて増減する。焼鈍は端面や表面の加工後に行ってもよい。その後、ニッケル合金のめっき膜を例えば3~20μmの厚さで表面に形成すればよい。ここで、めっき膜の厚みは基板全体の厚みに対して十分小さいので、研削又は切削加工により形成した端面の形状は、めっき膜の形成後もほぼ同形状で維持される。その後、ニッケル合金めっき膜付アルミニウム合金基板(円環形状基板)の表面を研磨する。研磨加工工程は、表面品質向上と生産性向上の両立の観点から、上記のガラス板の研磨と同様に2段階以上の研磨工程を採用するのが好ましい。具体的な研磨方法については、第1研磨(粗研磨)でアルミナ砥粒を含む研磨液を用いることが好ましい点を除き、上記のガラス板の研磨とほぼ同様にできる。
【0062】
こうして、上述した断面形状の外周端面を備える円環形状基板を製造した後、円環形状基板の主表面を少なくとも研磨することにより、磁気ディスク用基板に要求される条件を満足した磁気ディスク用基板が製造される。
この後、磁気ディスク用基板の主表面に少なくとも磁性膜を形成することにより、磁気ディスクが製造される。そして、当該磁気ディスクと、磁気ヘッドとを含むHDDが製造される。
【0063】
(磁気ディスク)
一実施形態の磁気ディスクは、磁気ディスク用基板の表面に少なくとも磁性膜を有している。磁性膜は、好ましくは、少なくとも磁気ディスク用基板の主表面に形成されていればよいが、一般的には磁気ディスク用基板の端面にも形成される。磁気ディスクは、好ましくは、磁気ディスク用基板の表面側から順に、下地膜、磁性膜、保護膜などの膜を有している。
【0064】
(実験例1―1)
本発明の効果を調べるため、研削面の形状が種々異なる総型砥石を用いて端面研削を行った。下記表1に示す曲率半径Rtの側壁面を外周端面に備える円環形状のガラス板(円環形状基板)を作製し、それぞれについてガラス板の端面研磨、主表面の研削を行った後、酸化セリウムの遊離砥粒とスウェードタイプの研磨パッドとを用いて上述の第1研磨を行い、ガラス板がキャリアの保持孔から外れる頻度を調べた。
【0065】
第1研磨には、下記仕様のガラス板を用いた。なお、端面に関する仕様はいずれも外周端面に関するものである。
・外径97mm、内径25mm、板厚0.53mm
・曲率半径Rtは表1のとおり
・面取面は、断面において略直線形状、接続領域の傾斜角度45°、板厚方向の長さ85μm
・側壁面と面取面の境界部分の曲率半径は150μm未満
・アルミノシリケートガラス製の円環形状のガラス板
第1研磨での主表面の取り代(研磨代)は、板厚基準で25μm(片側12.5μmずつ)とした。また、キャリアの厚みは0.3mmとした。
【0066】
第1研磨は、5個の保持孔をそれぞれ有する5枚のキャリアに計25枚のガラス板Gを収容して行った(1バッチ25枚)。このような第1研磨を20回行い、第1研磨を終了するごとに、保持孔から外れキャリアに乗り上げていたガラス板の数を数え、その合計枚数が、第1研磨に用いたガラス板の全枚数の2%未満だった場合をA、2%以上4%未満だった場合をB、4%以上だった場合をCと評価した。評価がA及びBであれば、ガラス板の保持孔からの外れの発生頻度(発生率)が低いため合格である。結果を表1に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
実施例と比較例の比較から、ガラス板の側壁面の曲率半径Rtが1100μm以上であることで、ガラス板の保持孔からの外れの発生頻度が低くなることがわかる。
実施例1と実施例2~4の比較から、ガラス板の側壁面の曲率半径Rtが1200μm以上であることで、ガラス板の保持孔からの外れの発生頻度がさらに低くなることがわかる。
【0069】
(実験例1-2)
第1研磨に用いるガラス板の仕様において、板厚を0.48mmに変更した以外は、実験例1-1及び表1と同様の条件で第1研磨をそれぞれ行ったところ(比較例3,4、実施例5~8)、表1と同等の結果が得られた。
【0070】
(実験例1-3)
第1研磨に用いるガラス板の仕様において、板厚を0.43mmに変更した以外は、実験例1-1及び表1と同様の条件で第1研磨をそれぞれ行ったところ(比較例5,6、実施例9~12)、表1と同等の結果が得られた。
【0071】
(実験例1-4)
第1研磨に用いる円環形状基板を、ガラス板に替えてアルミニウム合金基板の表面にNiP合金めっき膜を10μm形成した基板に変更し、遊離砥粒をアルミナの砥粒に変更した以外は、実験例1-1及び表1と同様の条件で第1研磨をそれぞれ行ったところ(比較例7,8、実施例13~16)、表1と同等の結果が得られた。
【0072】
(実験例1-5)
第1研磨に用いる円環形状基板を、ガラス板に替えてアルミニウム合金基板の表面にNiP合金めっき膜を10μm形成した板厚0.48mmの基板に変更し、遊離砥粒をアルミナの砥粒に変更した以外は、実験例1-1及び表1と同様の条件で第1研磨をそれぞれ行ったところ(比較例9,10、実施例17~20)、表1と同等の結果が得られた。
【0073】
(実験例1-6)
第1研磨に用いるガラス板の仕様において、側壁面と面取面との境界部分の曲率半径を150~400μmの範囲内となるように変更した以外は、実験例1-1及び表1と同様の条件で第1研磨をそれぞれ行ったところ(比較例11,12、実施例21~24)、表1と同等の結果が得られた。
【0074】
(実験例1-7)
第1研磨に用いるガラス板の仕様において、板厚を0.43mmへ変更し、側壁面と面取面との境界部分の曲率半径を150~400μmの範囲内となるように変更した以外は、実験例1-1及び表1と同様の条件で第1研磨をそれぞれ行ったところ(比較例13,14、実施例25~28)、表1と同等の結果が得られた。
【0075】
(実験例1-8)
第1研磨に用いるガラス板を、レーザー光による端面溶解とその後の両主表面の研削加工により、全体が滑らかに湾曲してつながった1つの湾曲面のように見える外周端面としたこと以外は、実験例1-1の実施例3と同様の条件で第1研磨を行ったところ(実施例29)、保持孔からの外れの発生頻度の評価はAであった。なお、外周端面の仕様は下記のとおりである。
・曲率半径Rtは1500μm
・面取面は、断面において曲率半径が200~500μmの湾曲形状、主表面との接続領域の傾斜角度40°、Lcが100μm
・側壁面と面取面の境界部分の曲率半径は100~500μm
【0076】
(磁気ディスク用基板及び磁気ディスクの製造)
上記の「実施例」で得られた第1研磨後の円環形状基板のうち、保持孔から外れたもの、チッピング、微小凹部などの問題が発生したものを除いた残りの円環形状基板を洗浄後、上記の第2研磨を、板厚基準による取り代5μm(片側2.5μm)で実施した。第1研磨と第2研磨の取り代の合計は板厚基準で30μmであるので、例えば第1研磨前の板厚が0.53mmの場合、第2研磨後の板厚は0.50mmとなる。第2研磨では、コロイダルシリカを含む研磨液とスウェードパッドとを用いた。その後、洗浄を実施して、外径97mm、内径25mm、板厚が0.40~0.50mmの磁気ディスク用ガラス基板、又はアルミニウム合金基板の表面にニッケル合金めっき膜を形成した磁気ディスク用基板を得た。その後、各磁気ディスク用基板の表面に、下地膜、磁性膜、保護膜などを順次形成して、磁気ディスクを得た。各磁気ディスク用基板及び磁気ディスクの外周端面の形状を確認したところ、Lc、Lc1、Lc2といった面取面の長さが主表面研磨の影響で若干小さくなったものの、側壁面の曲率半径などその他のパラメータについては第1研磨前の形状がほぼ維持されていた。
【0077】
(実験例2-1)
実験例1と同様に種々の総型砥石を用いて端面研削を行い、端面研削後のガラス板におけるチッピングの発生頻度を調べた。
【0078】
端面研削には、下記仕様のガラス板材を用いた。なお、端面に関する仕様はいずれも外周端面に関するものである。
・外径98mm、内径24mm、板厚0.59mm
・端面は断面において主表面に対して略直角に延びる形状
・アルミノシリケートガラス製の円環形状の板材
端面研削の取代は外径、内径ともに直径基準で1mmとした。
また、端面研削後のガラス板の面取面の目標形状は、断面において直線形状であり、接続領域の傾斜角度は45°、板厚方向の長さは115μm、Lt=360μm、LcはRtに応じて可変、側壁面と面取面の境界部分の曲率半径は150μm未満、とした。
なお、参考例では、端面研削後のガラス板の外周端面の側壁面は、板厚方向に直線状に延びる形状とした。
【0079】
各実験例では、上記の目標形状及び下記表2に示す曲率半径Rtに対応する形状の研削面を有する総型砥石を用いて、それぞれガラス板材を500枚加工し、端面研削終了後のガラス板の外周端面を暗室内で集光ランプを用いて検査し、チッピング(欠け)が発生した枚数を数えてチッピングの発生頻度(発生率)を算出した。チッピングが発生した板材の合計枚数が全体の2%未満だった場合をA、2%以上だった場合をBと評価した。
【0080】
【表2】
【0081】
実施例と参考例の比較から、曲率半径Rtが2000μm以下の側壁面を備えるガラス板を作製することで、チッピングの発生頻度が低くなることがわかる。ガラス板の端面にチッピングが発生した場合、例えば、その後の端面研磨において取代を増やす必要があったり、不良品が多くなったりするので生産効率の観点で好ましくない。
【0082】
(実験例2-2)
端面研削後のガラス板の面取面の目標形状において、側壁面と面取面との境界部分の曲率半径を150~400μmの範囲内となるように総型砥石の形状を変更した以外は実験例2-1及び表2の実施例101~104と同様の条件で上記端面研削をそれぞれ行ったところ(実施例105~108)、チッピングの発生頻度はそれぞれ対応する実施例からいずれも90%以下に低減することがわかった。
【0083】
以上、本発明の磁気ディスク用基板、磁気ディスク、円環形状基板、および磁気ディスク用基板の製造方法について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態及び実施例に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0084】
1 磁気ディスク用ガラス基板(磁気ディスク用基板)
1b 境界部分
1c 面取面
1ca 接続領域
1t 側壁面
1p 主表面
3 内孔
5 外周端面
7 内周端面
10 両面研削装置
11 両面研磨装置
12 下定盤
14 上定盤
18 保持部材(キャリア)
18a 保持孔
20 研削部材または研磨パッド
30 総型砥石
31 溝
31a 面取部
31b 側壁部
G ガラス板(円環形状基板)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7