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特許7467808ビールテイスト発酵アルコール飲料およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】ビールテイスト発酵アルコール飲料およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12G 3/02 20190101AFI20240409BHJP
   C12G 3/04 20190101ALN20240409BHJP
【FI】
C12G3/02
C12G3/04
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2017228734
(22)【出願日】2017-11-29
(65)【公開番号】P2019097414
(43)【公開日】2019-06-24
【審査請求日】2020-10-19
【審判番号】
【審判請求日】2022-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000253503
【氏名又は名称】キリンホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107342
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 修孝
(74)【代理人】
【識別番号】100155631
【弁理士】
【氏名又は名称】榎 保孝
(74)【代理人】
【識別番号】100137497
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 未知子
(74)【代理人】
【識別番号】100207907
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 桃子
(74)【代理人】
【識別番号】100217294
【弁理士】
【氏名又は名称】内山 尚和
(72)【発明者】
【氏名】杉山 巧
(72)【発明者】
【氏名】太田 拓
(72)【発明者】
【氏名】今井 健夫
(72)【発明者】
【氏名】加藤 優
(72)【発明者】
【氏名】太田 惣介
(72)【発明者】
【氏名】土屋 友理
【合議体】
【審判長】淺野 美奈
【審判官】植前 充司
【審判官】中村 和正
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-49070(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101948719(CN,A)
【文献】関税中央分析所報、38、1998年、pp.1-6
【文献】食品工業科技、2016年、37(2)、pp.204-208
【文献】Brauindustrie、1984年、69(7)、pp.484-492
【文献】Brauindustrie、1984年、69(21)、pp.1718-1728
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12G 3/02
C12G 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビールテイスト発酵アルコール飲料であって、飲料中のプリン体濃度が3.0mg/100mL以下であり、飲料のオリジナルエキス濃度(OE濃度)が2~14°Pであり、かつ、飲料中のOE濃度(°P)に対する飲料中のクエン酸濃度(mg/L)の比率(クエン酸濃度(mg/L)/OE濃度(°P))が8~30である、ビールテイスト発酵アルコール飲料(但し、吸着剤処理によりプリン体濃度を低減したビールテイスト発酵アルコール飲料を除く)。
【請求項2】
プリン体濃度が2.6mg/100mL以下である、請求項1に記載のビールテイスト発酵アルコール飲料。
【請求項3】
プリン体濃度が0.5mg/100mL未満である、請求項1または2に記載のビールテイスト発酵アルコール飲料。
【請求項4】
クエン酸濃度(mg/L)/OE濃度(°P)が8~20である、請求項1~3のいずれか一項に記載のビールテイスト発酵アルコール飲料。
【請求項5】
麦芽および/または未発芽の麦類を少なくとも原料の一部とする、請求項1~4のいずれか一項に記載のビールテイスト発酵アルコール飲料。
【請求項6】
麦芽として少なくとも小麦麦芽を使用する、請求項5に記載のビールテイスト発酵アルコール飲料。
【請求項7】
ビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法であって、少なくとも小麦麦芽が配合された麦汁を発酵させる工程を含んでなり、製造された飲料中のプリン体濃度が3.0mg/100mL以下であり、製造された飲料のオリジナルエキス濃度(OE濃度)が2~14°Pであり、かつ、製造された飲料中のOE濃度(°P)に対する製造された飲料中のクエン酸濃度(mg/L)の比率(クエン酸濃度/OE濃度)が8~30である、ビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法(但し、吸着剤処理によりプリン体濃度を低減するビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法を除く)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はビールテイスト発酵アルコール飲料およびその製造方法に関し、より詳細にはプリン体濃度が低減されたビールテイスト発酵アルコール飲料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発酵麦芽飲料であるビール中には、プリン体化合物が40~100mg/L程度存在するといわれている。プリン体化合物は、食餌として摂取された場合、尿酸に分解される。高尿酸血症における食餌制限では、このプリン体化合物の摂取の制限がなされる場合があるが、より高含有食物としての肉、卵、肝等の制限に加えて、ビール等の発酵麦芽飲料についても食餌制限を受けることがある。このため、ビール等の発酵麦芽飲料についてもプリン体化合物を低減した製品が望まれる。
【0003】
これまでに、ビール等の発酵麦芽飲料においてプリン体化合物を低減化する技術としては、ビールの麦汁にヌクレオシド・フォスフォリラーゼおよび/またはヌクレオシダーゼを作用させて、麦汁中のヌクレオシドを分解させ、プリン体化合物の濃度を低減させる技術(特許文献1)が知られている。また、発酵麦芽飲料の製造工程において、プリン体化合物を選択的に吸着する吸着剤でプリン体化合物を吸着、除去する処理を、糖化工程以降、ホップ添加前の工程において、25℃以上、かつ糖化工程に用いる温度以下の温度範囲で行うことにより、発酵麦芽飲料のプリン体化合物濃度を低減させる技術(特許文献2)も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第96/25483号
【文献】特開2004-290071号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らが確認したところ、プリン体濃度が低減されたビールテイスト発酵アルコール飲料では、味の厚みに改善の余地があることが分かった。
【0006】
本発明は、プリン体濃度が低減されつつも、味の厚みが実現されたビールテイスト発酵アルコール飲料およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、プリン体濃度が低減されたビールテイスト発酵アルコール飲料において、飲料中のオリジナルエキス濃度(OE濃度)(°P)に対する飲料中のクエン酸濃度(mg/L)の比率(クエン酸濃度/OE濃度、以下、単に「クエン酸比率」ということがある)を特定範囲内にすることで、プリン体濃度が低減されたビールテイスト発酵アルコール飲料において味の厚みを実現できることを見出した。本発明はこの知見に基づくものである。
【0008】
本発明によれば、以下の発明が提供される。
[1]ビールテイスト発酵アルコール飲料であって、飲料中のプリン体濃度が3.0mg/100mL以下であり、かつ、飲料中のオリジナルエキス濃度(OE濃度)(°P)に対する飲料中のクエン酸濃度(mg/L)の比率(クエン酸濃度(mg/L)/OE濃度(°P))が8~30である、ビールテイスト発酵アルコール飲料。
[2]プリン体濃度が2.6mg/100mL以下である、上記[1]に記載のビールテイスト発酵アルコール飲料。
[3]プリン体濃度が0.5mg/100mL未満である、上記[1]または[2]に記載のビールテイスト発酵アルコール飲料。
[4]クエン酸濃度(mg/L)/OE濃度(°P)が8~20である、上記[1]~[3]のいずれかに記載のビールテイスト発酵アルコール飲料。
[5]麦芽および/または未発芽の麦類を少なくとも原料の一部とする、上記[1]~[4]のいずれかに記載のビールテイスト発酵アルコール飲料。
[6]麦芽として少なくとも小麦麦芽を使用する、上記[5]に記載のビールテイスト発酵アルコール飲料。
[7]ビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法であって、少なくとも小麦麦芽が配合された麦汁を発酵させる工程を含んでなり、製造された飲料中のプリン体濃度が3.0mg/100mL以下であり、かつ、製造された飲料中のオリジナルエキス濃度(OE濃度)(°P)に対する製造された飲料中のクエン酸濃度(mg/L)の比率(クエン酸濃度/OE濃度)が8~30である、ビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法。
【0009】
本発明によれば、プリン体濃度が3.0mg/100mL以下のビールテイスト発酵アルコール飲料において、クエン酸比率を特定範囲内に調整することによって、プリン体濃度を低減しつつも、味の厚みを実現したビールテイスト発酵アルコール飲料を提供することができる。このため本発明は、消費者の健康志向等、多様なニーズに応えることができる点で有利である。
【発明の具体的説明】
【0010】
本発明において「ビールテイスト」とは通常にビールを製造した場合、すなわち、酵母等による発酵に基づいてビールを製造した場合に得られるビール特有の味わい、香りを意味する。
【0011】
本発明において「ビールテイスト発酵アルコール飲料」は、炭素源、窒素源および水等を原料として酵母により発酵させた飲料を意味し、ビール、発泡酒および原料として麦芽を使用するビールや発泡酒にアルコールを添加してなる飲料(例えば、酒税法上、「リキュール(発泡性)(1)」に分類されるリキュール系新ジャンル飲料)が挙げられる。ビールテイスト発酵アルコール飲料の好ましい態様としては、麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料(すなわち、発酵麦芽飲料)が挙げられる。
【0012】
本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料は麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とするものとすることができ、好ましくは、麦由来の原料として少なくとも麦芽(例えば、小麦麦芽、大麦麦芽)を使用するものとすることができる。本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料が麦芽を原料の少なくとも一部として使用する場合、麦芽使用比率にかかわらず味の厚みを実現することができるが、その場合の麦芽使用比率は、例えば、50%未満、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、3分の2未満あるいは3分の2以上とすることができる。本発明において「麦芽使用比率」とは、醸造用水を除く全原料の質量に対する麦芽質量の割合をいう。
【0013】
本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料は、プリン体濃度が低減されており、具体的には、本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料のプリン体濃度は、3.0mg/100mL以下であり、これよりも低い濃度(例えば、2.6mg/100mL以下、1.5mg/100mL未満、1.0mg/100mL未満、0.5mg/100mL未満)に設定することができる。なお、プリン体濃度が0.5mg/100mL未満の飲料は「プリン体ゼロ飲料」に対応する。
【0014】
プリン体の測定は公知の方法によって行うことができ、例えば、過塩素酸による加水分解後にLC-MS/MS(液体クロマトグラフィー質量分析法)を用いて検出する方法(「酒類中のプリン体の微量分析のご案内」、一般財団法人・日本食品分析センター、URL:http://www.jfrl.or.jp/item/nutrition/post-31.html 参照)により測定することができる。なお、本明細書中、「プリン体濃度」とは、アデニン、キサンチン、グアニン、ヒポキサンチンのプリン体塩基4種の総量を指す。
【0015】
本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料ではオリジナルエキス濃度(OE濃度)(°P)の上限値は適宜設定することができるが、例えば14とすることができる。OE濃度の下限値は飲み応え付与の観点から、2以上とすることができ、好ましくは7以上、より好ましくは8以上である。本発明において、OE濃度の範囲は、2~14とすることができ、好ましくは7~14、より好ましくは8~14である。本発明において「オリジナルエキス濃度」はビールのコクや味の濃淡に影響し、ビール濃度の指標となるものであり、市販の機器(例えば、アルコライザー(アントンパール社製))を用いて測定することができる。なお、麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料では「オリジナルエキス濃度」を「原麦汁エキス濃度」と言い換えることができる。
【0016】
本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料では、飲料中のオリジナルエキス濃度(OE濃度)(°P)に対する飲料中のクエン酸濃度(mg/L)の比率(クエン酸濃度/OE濃度)が特定範囲内であることを特徴とする。本発明において、クエン酸比率の下限は、味の厚み付与の観点から8とすることができ、好ましくは9である。また、ビールテイスト発酵アルコール飲料中のクエン酸濃度が高まると飲料の酸味が強くなることから、ビールテイスト発酵アルコール飲料の味のバランスの観点から、クエン酸比率の上限は30とすることができ、好ましくは25、より好ましくは20である。またクエン酸比率の範囲としては、8~30が挙げられ、好ましくは8~25、より好ましくは8~20、特に好ましくは9~20である。
【0017】
本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料のクエン酸濃度は、クエン酸比率が特定範囲内であれば特に限定されないが、例えば、40~300mg/Lとすることができ、好ましくは50~270mg/Lであり、より好ましくは80~200mg/Lである。
【0018】
本発明においてクエン酸濃度はキャピラリー電気泳動法により測定することができる。なお、クエン酸が塩の形態で配合される場合には、遊離形態の酸を基準に濃度が決定される。
【0019】
本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料のエキス分は特に限定されないが、例えば、0.3~5.0度とすることができ、好ましくは0.5~3.0度であり、より好ましくは0.6~2.9度である。本発明において「エキス分」は、市販の機器(例えば、アルコライザー(アントンパール社製))を用いて測定することができる。
【0020】
本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料は、プリン体濃度が低減されているにもかかわらず、味の厚みが付与されたことを特徴とする。ここで、「味の厚み」とは、味の広がり、複雑さ、ボディ感等により認識される香味感覚を意味する。
【0021】
ビールテイスト発酵アルコール飲料においては、醸造アルコール等のアルコールの添加により味の厚みを付与することができ、本発明でも味の厚みをよりよく達成するために場合によってはアルコールを添加することができる。この場合、添加するアルコールの量は、飲料に最終的に含まれる全アルコール分の80%を上限とすることができる。一方で、後記実施例に示される通り、本発明ではこのようなアルコール添加によらずに、プリン体濃度が低減されたビールテイスト発酵アルコール飲料において味の厚みを付与することができる。従って、本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料は、原料としてアルコールを含まないものとすることができ、本発明の製造方法においては、原料としてアルコールを配合する工程を含まないものとすることができる。
【0022】
本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料は、飲料中のプリン体濃度が所定の範囲内に低減され、かつ、飲料中のクエン酸比率が所定の範囲内に調整される限り、その製造手順に制限はなく、例えば、下記のように製造することができる。すなわち、麦芽、ホップ、副原料、醸造用水等の醸造原料から調製された麦汁に発酵用ビール酵母を添加して発酵を行い、得られた発酵液を低温にて貯蔵した後、濾過工程により酵母を除去することによりビールテイスト発酵アルコール飲料を製造することができる。飲料におけるプリン体含量の低減は後記に記載の通り公知の方法に従って行うことができる。このようにして得られたプリン体濃度が低減されたビールテイスト発酵アルコール飲料に、クエン酸比率が所定値となるようにクエン酸を添加し、本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料とすることができる。ビールテイスト発酵アルコール飲料へのクエン酸の配合は発酵後の発酵液への添加により行うことができ、このようにしてプリン体濃度が低減され、かつ、クエン酸が配合されたビールテイスト発酵アルコール飲料を製造することができる。
【0023】
ビールテイスト発酵アルコール飲料におけるプリン体含量の低減は公知の方法に従って行うことができ、例えば、発酵前液や発酵液を活性炭やゼオライト等の吸着剤と接触させて飲料中のプリン体含量を低減させる方法(特開2003-169658号公報、特開2004-290071号公報、特開2004-290072号公報、特開2015-112090号公報等参照)や、プリン体の持込みが少ない麦芽以外の原料(例えば、大豆タンパク、コーングリッツ)を用いて飲料中のプリン体含量を低減させる方法(特開2014-117204号公報、特開2014-117205号公報等参照)により飲料中のプリン体濃度を所定値にすることができる。
【0024】
上記製造手順において麦汁の作製は常法に従って行うことができる。例えば、醸造原料と醸造用水の混合物を糖化し、濾過して、麦汁を得、その麦汁にホップを添加した後、煮沸し、煮沸した麦汁を冷却することにより麦汁を調製することができる。また、麦汁は、糖化工程中に市販の酵素製剤を添加して作製することもできる。例えば、タンパク分解のためにプロテアーゼ製剤を、糖質分解のためにα-アミラーゼ製剤、グルコアミラーゼ製剤、プルラナーゼ製剤等を、繊維素分解のためにβ-グルカナーゼ製剤、繊維素分解酵素製剤等をそれぞれ用いることができ、あるいはこれらの混合製剤を用いることもできる。
【0025】
本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料の製造では、麦芽以外に、未発芽の麦類(例えば、未発芽大麦(エキス化したものを含む)、未発芽小麦(エキス化したものを含む));米、とうもろこし、こうりゃん、馬鈴薯、でんぷん、糖類(例えば、液糖)、果実(例えば、果汁、濃縮果汁)、コリアンダーまたはその種、香辛料またはその原料(例えば、こしょう、シナモン、さんしょう)、ハーブ(例えば、カモミール、セージ、バジル)、野菜(例えば、かんしょ、かぼちゃ)、そばまたはごま、含糖質物(例えば、ハチミツ、黒糖)、食塩、みそ、花、茶、コーヒー、ココア(茶、コーヒーおよびココアはその調製品を含む)、海産物(例えば、牡蠣、こんぶ、わかめ、かつお節)等の副原料;タンパク質分解物や酵母エキス等の窒素源;香料、色素、起泡・泡持ち向上剤、水質調整剤、発酵助成剤等のその他の添加物を醸造原料として使用することができる。本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料は、醸造用水以外の使用原料を少なくとも麦芽およびホップとすることができ、場合によっては更に糖類、米、とうもろこし、でんぷん等を使用原料とすることができる。なお、ビールテイスト発酵アルコール飲料のうちオールモルトビールは、麦芽、ホップ、水から製造できることはいうまでもない。
【0026】
本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料は、また、麦芽比率の調整、クエン酸含有量の多い果実等の原料を使用すること等により、飲料中のクエン酸濃度を調整でき、ひいてはクエン酸比率を所定の範囲内に調整することができる。これらの手順以外は上記のように、飲料中のプリン体濃度を所定の範囲内に低減する方法を実施しつつ通常のビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法に従って製造することができる。
【0027】
本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料は、また、少なくとも小麦麦芽が配合された麦汁を発酵させることにより製造することができる。すなわち、本発明によれば、少なくとも小麦麦芽が配合された麦汁を発酵させる工程を含んでなり、製造された飲料中のプリン体濃度が3.0mg/100mL以下であり、かつ、製造された飲料中のオリジナルエキス濃度(OE濃度)(°P)に対する製造された飲料中のクエン酸濃度(mg/L)の比率(クエン酸濃度/OE濃度)が8~30である、ビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法が提供される。
【0028】
本発明の製造方法においては、少なくとも小麦麦芽を麦芽原料として用いること以外は、通常のビールテイスト発酵アルコール飲料の製造手順に従って製造することができる。すなわち、麦芽(一部または全部が小麦麦芽である)、ホップ、副原料、醸造用水等の醸造原料から調製された麦汁に発酵用ビール酵母を添加して発酵を行い、得られた発酵液を低温にて貯蔵した後、濾過工程により酵母を除去することによりビールテイスト発酵アルコール飲料を製造することができる。
【0029】
上記製造手順において麦汁の作製は、前記と同様に常法に従って行うことができる。また、麦芽以外の使用可能な醸造原料も、前記と同様のものを用いることができる。
【0030】
本発明の製造方法において、原料として配合する炭素源および窒素源は、麦芽のみとすることができ、この場合、オールモルトビールを製造することができる。本発明の製造方法においてはまた、原料として配合する炭素源および窒素源は、麦芽に加えて、前記の副原料等を使用することができ、麦芽使用比率は50%未満、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、3分の2未満あるいは3分の2以上とすることができる。
【0031】
本発明の製造方法において、原料として配合する麦芽は、少なくとも小麦麦芽を含むものであり、小麦麦芽のみを原料麦芽として配合しても、小麦麦芽以外の麦芽(例えば、大麦麦芽)をさらに配合してもよい。原料麦芽に占める小麦麦芽の割合は、例えば、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上あるいは100%とすることができる。
【0032】
本発明の別の面によれば、クエン酸を有効成分として含んでなる、プリン体濃度が低減されたビールテイスト発酵アルコール飲料の風味改善剤と、該飲料の風味改善方法が提供される。本明細書において「ビールテイスト発酵アルコール飲料の風味改善」とは、プリン体濃度が低減されたビールテイスト発酵アルコール飲料において、味の厚みが実現されることを意味するものとする。本発明の風味改善剤と風味改善方法は本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料および該飲料の製造方法についての記載に従って実施することができる。
【実施例
【0033】
以下の例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0034】
プリン体濃度の測定
以下の実施例においてプリン体濃度は以下のようにして測定した。すなわち、BCОJビール分析法(ビール酒造組合、8.30 プリン体;HPLC-UV法によるビール、発泡酒、新ジャンルの総プリン体定量)を参考に試料を70%過塩素酸で分解し、遊離型のプリン体化合物量を液体クロマトグラフィー質量分析計により測定した。
【0035】
クエン酸濃度の測定
以下の実施例においてクエン酸濃度は、BCОJビール分析法(ビール酒造組合、8.24.2 キャピラリー電気泳動法)により測定した。具体的には、分析機器としてCE7100(Agilent社製)を用い、前記BCОJビール分析法に記載の方法を参考にして測定した。
【0036】
オリジナルエキス濃度の測定
以下の実施例において、オリジナルエキス濃度はBCOJビール分析法(ビール酒造組合、8.3.6、8.4.3および8.5)に準じて測定した。測定はアルコライザー(アントンパール社製)を用いて実施した。
【0037】
エキス分の測定
以下の実施例において、エキス分はBCOJビール分析法(ビール酒造組合、8.4.3)に準じて測定した。測定はアルコライザー(アントンパール社製)を用いて実施した。
【0038】
実施例1:クエン酸比率が味の厚みへ与える影響
(1)サンプル飲料の調製
プリン体濃度が低減されたビールテイスト発酵アルコール飲料におけるクエン酸比率の影響を精査するために、プリン体濃度が近い対照品あるいは混合液を複数用いて、異なるクエン酸比率を有するサンプル飲料を調製し、味の厚みについて評価を行った。具体的には、プリン体濃度が低減された市販のビールテイスト発酵アルコール飲料(対照品A、B、C、D、E、F)を準備し、これらを単独でまたは混合して使用し、プリン体濃度が低減されたビールテイスト発酵アルコール飲料を準備した。試験対象となる飲料のプリン体濃度とOE濃度は以下の通りであった。
対照品A:プリン体濃度0.4mg/100mL、OE濃度7.06°P
対照品B:プリン体濃度0.5mg/100mL、OE濃度7.21°P
対照品C:プリン体濃度2.6mg/100mL、OE濃度7.93°P
混合液X(対照品DおよびEと水の混合液):プリン体濃度3.0mg/100mL、OE濃度9.44°P
混合液Y(対照品AおよびFの混合液):プリン体濃度0.5mg/100mL、OE濃度8.57°P
【0039】
得られた各飲料に、飲料に元々含まれるクエン酸の含有量を考慮した上で、クエン酸を表1に示すクエン酸比率となるように添加し、サンプル飲料(A-1~A-4、B-1~B-4、C-1~C-4、X-1~X-4およびY-1~Y-4)を調製した。さらに、得られた各サンプル飲料について味の濃さの指標の1つであるエキス分を測定した。
【0040】
(2)サンプル飲料中のクエン酸比率の分析
サンプル飲料中のクエン酸比率は以下の算出式にて求めた。
【数1】
【0041】
(3)官能評価
上記(1)で得られた飲料を官能評価に供した。具体的には、「味の厚み」について、感じられる(9点)から感じられない(1点)の9段階で評価を行った。ここで、「味の厚み」とは、味の広がり、複雑さ、ボディ感等により認識される香味感覚をいう。官能評価は以下の手順で訓練されたパネラー5名により実施した。まず、対照品について評点を5点と固定して官能評価を行い、香味感覚と評点をパネラー間で共通の認識とした。次いで、クエン酸を添加してクエン酸比率を12.0に調整したサンプル飲料について官能評価を行い、パネラー5名の評点の平均値±標準偏差を算出し、平均値をパネラー全員で確認した。これらの手順により対照品とクエン酸比率が12.0のサンプル飲料の香味感覚と評点をパネラー間の共通の認識としたうえで、クエン酸比率が8.0、20.0および30.0の他のサンプル飲料について官能評価を行い、これらの飲料についてもパネラー5名の評点の平均値±標準偏差を算出した。また、官能評価の際のパネラーからのコメントを記録した。上記の官能評価の手順を対照品A、対照品B、対照品C、混合液Xおよび混合液Yそれぞれに適用して官能評価を行った。
【0042】
(4)評価結果
官能評価の結果を表1に示す。なお、コメント欄の括弧内の数字はコメントの指摘人数を示す。
【表1】
【0043】
表1の結果から、プリン体濃度が3.0mg/100mL以下のビールテイスト発酵アルコール飲料であっても、エキス分にかかわらず、クエン酸比率を8~30に調整することで、味の厚みを実現できることが確認された。
【0044】
実施例2:ビールテイスト発酵アルコール飲料の調製およびクエン酸比率が味の厚みに与える影響の分析
(1)ビールテイスト発酵アルコール飲料の製造
パイロットプラントでビールテイスト発酵アルコール飲料の製造を行った。ビールテイスト発酵アルコール飲料の製造においては、主原料として小麦麦芽を使用した。糖化の温度および時間を調整し、濾過することで、異なる組成の煮沸前麦汁を得た。
【0045】
(ア)サンプル番号1の糖化条件
50℃の湯100質量部に対して、小麦麦芽35質量部および酵素製剤を投入して40分保持後、68℃に昇温して15分保持した。その後、78℃に昇温して5分保持してから濾過して煮沸前麦汁を得た。得られた煮沸前麦汁にホップを投入し、以降は(ウ)の操作に従った。
【0046】
(イ)サンプル番号2の糖化条件
50℃の湯100質量部に対して、小麦麦芽21質量部および酵素製剤を投入して25分保持した。その後、65℃に昇温して50分保持し、78℃に昇温して5分保持してから濾過して煮沸前麦汁を得た。得られた煮沸前麦汁にホップ、さらに、糖類9質量部投入し、以降は(ウ)の操作に従った。
【0047】
(ウ)煮沸および発酵工程
上記の煮沸前麦汁調製工程(ア)または(イ)に続いて100℃で90分間煮沸した後、麦汁静置を行ない、トリューブを分離した後、冷却して発酵前液を得た。その後、発酵前液に下面発酵酵母を添加し、常法に従って主発酵および後発酵を行なった。続いて、後発酵後の発酵液をより低温で保持することにより貯蔵を行ない、濾過して清澄なビールテイスト発酵アルコール飲料(サンプル番号1および2)を得た。
【0048】
(2)ビールテイスト発酵アルコール飲料の分析および官能評価
製造して得られたビールテイスト発酵アルコール飲料に関して、前述の記載に従ってプリン体濃度およびエキス分を測定するとともに、クエン酸濃度およびオリジナルエキス濃度を測定し、クエン酸比率を算出した。結果を表2に示す。
【0049】
【表2】
【0050】
いずれのサンプルも、プリン体濃度が3.0mg/100mL以下であり、かつ、クエン酸比率が8~30の範囲内であることを確認した。
【0051】
サンプル番号1および2のサンプル飲料を、訓練されたパネラー5名による官能評価に供した。評価項目は実施例1(3)に記載されている「味の厚み」とした。官能評価の結果、いずれの飲料も、味の厚みが実現されていることを確認した。すなわち、プリン体濃度が3.0mg/100mL以下のビールテイスト発酵アルコール飲料であっても、クエン酸比率を8~30に調整することで味の厚みを実現できることが確認された。