(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】冷却構造
(51)【国際特許分類】
H01L 23/34 20060101AFI20240409BHJP
H01L 23/36 20060101ALI20240409BHJP
H02M 3/00 20060101ALI20240409BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20240409BHJP
H05K 7/20 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
H01L23/34 A
H01L23/36 Z
H02M3/00 Y
H02M7/48 Z
H05K7/20 B
H05K7/20 Z
(21)【出願番号】P 2019129768
(22)【出願日】2019-07-12
【審査請求日】2022-06-14
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼野 翔
【審査官】高橋 優斗
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-004708(JP,A)
【文献】特開2018-157071(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108112226(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L23/34-23/473
H02M3/00-3/44
H02M7/42-7/98
H05K7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体内に配置されて熱源から発生する熱が伝達されるヒートシンクと、
前記筐体内にて前記ヒートシンクに対向して配置され、該ヒートシンクから放射される赤外線を吸収する吸収部材とを備え、
前記吸収部材は、前記ヒートシンクに対向する対向領域が凹凸形状に形成され
、
前記対向領域には、前記ヒートシンク側に突出する山形突出部が複数並べて形成され、
前記山形突出部は、直線上を延びる頂部と、該頂部を挟む一対の傾斜面とを備えた形状に形成され、
前記山形突出部の高さが赤外線の波長の1/4以上に設定され、前記山形突出部の前記頂部における角度が40°以下に設定されることを特徴とする冷却構造。
【請求項2】
前記山形突出部は、少なくとも一方向に等間隔に並んで形成されていることを特徴とする請求項
1に記載の冷却構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却構造に関し、特に、ヒートシンクを介して熱源で発生した熱を放射する冷却構造に関する。
【背景技術】
【0002】
電力変換等を行う半導体素子を備えたパワエレユニットにおいては、熱源となる半導体素子で発生した熱を逃がすためにヒートシンクを用いている(特許文献1参照)。かかるヒートシンクを用いたパワエレユニットにおいては、半導体素子だけでなくヒートシンクも筐体内に配設した構成を採用する場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記ヒートシンクにおいては熱放射が行われ、熱放射は物体が熱を赤外線として放出する現象である。ヒートシンクから放出された赤外線は、筐体の内面に反射されてヒートシンクに戻る(入射する)場合があり、その分は放熱が妨げられて十分な冷却効果が得られない、という問題がある。特に、近時においては、パワエレユニット自体の小型化が要求されており、筐体の内部空間が狭く、ヒートシンクと筐体の内面とが接近するので、筐体内面で反射されてヒートシンクに戻る熱量が多くなるために上記問題が顕出することとなる。
【0005】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、筐体内に熱源及びヒートシンクが配置される場合の放熱を良好に行うことができる冷却構造を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明における一態様の冷却構造は、筐体内に配置されて熱源から発生する熱が伝達されるヒートシンクと、前記筐体内にて前記ヒートシンクに対向して配置され、該ヒートシンクから放射される赤外線を吸収する吸収部材とを備え、前記吸収部材は、前記ヒートシンクに対向する対向領域が凹凸形状に形成され、前記対向領域には、前記ヒートシンク側に突出する山形突出部が複数並べて形成され、前記山形突出部は、直線上を延びる頂部と、該頂部を挟む一対の傾斜面とを備えた形状に形成され、前記山形突出部の高さが赤外線の波長の1/4以上に設定され、前記山形突出部の前記頂部における角度が40°以下に設定されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ヒートシンクに対向して吸収部材を設けたので、ヒートシンクから放出される赤外線が筐体で反射されてヒートシンクに戻ることを抑制することができる。これにより、ヒートシンクでの放熱効率を高めて冷却効果を良好に発揮でき、ヒートシンクと筐体の内面とが接近する場合でも、ヒートシンクの放熱を良好に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施の形態に係る冷却構造を模式的に示す部分正面断面図である。
【
図2】実施の形態に係る吸収部材の概略斜視図である。
【
図3】吸収部材における赤外線の吸収要領の説明図である。
【
図4】山形突出部の角度と赤外線の入射との関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施の形態に係る冷却構造について、添付の図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は、下記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲内で適宜変形して実施することができるものである。以下の図においては、説明の便宜上、一部の構成を省略することがある。また、以下においては、本発明に係る冷却構造を、電力変換装置や、電圧調整装置、インバータ装置、コンバータ装置をはじめとした半導体を用いた電力変換装置全般を含むパワエレユニットに適用する場合について説明する。
【0010】
図1は、実施の形態に係る冷却構造を模式的に示す部分正面断面図である。
図1に示すように、実施の形態に係るパワエレユニット1では、熱源となる半導体素子10と、ヒートシンク20及び吸収部材30を備えてなる冷却構造とを有している。パワエレユニット1において、半導体素子10と、ヒートシンク20及び吸収部材30は、筐体3における内部空間に配置される。
【0011】
筐体3は、所定間隔を隔てて配置された頂壁3a及び底壁3bと、これらの外周を囲う側壁3cとを備えている。
図1の筐体3は、一例として概略的に表したものであり、周辺機器等に応じて大きさや形状が適宜変更される。
【0012】
半導体素子10は、例えば、電力変換を行う素子とされ、樹脂材によってパッケージされた状態で形成される。半導体素子10は、ヒートシンク20に対向する面が放熱面として形成され、該放熱面から電力変換時に発生した熱が主として放出される。
【0013】
半導体素子10は、積層基板12に搭載されている。積層基板12は、セラミック基板等の絶縁基板12aと、絶縁基板12aの両面に形成された銅板等からなる導電性板12bとを有している。積層基板12は、はんだ接合等によってヒートシンク20に固定されている。
【0014】
ヒートシンク20は、板状のベース21における厚さ方向の一方の面(吸収部材30側の面)から立設された複数の放熱フィン22を備えている。ヒートシンク20には、アルマイト表面加工したアルミニウム等の金属や、セラミックスのような熱放射率の高いものを用いることができる。ヒートシンク20では、半導体素子10から発生する熱がベース21を経て放熱フィン22に伝達し、放熱フィン22の表面とこれに触れる空気との間で熱交換が行われてヒートシンク20が冷却される。また、ヒートシンク20では、主として放熱フィン22において半導体素子10から伝達される熱を赤外線として放射し、放熱して冷却するようになる。
【0015】
ヒートシンク20は、筐体3内にて支持されており、特に限定されるものでないが、本実施の形態では、筐体3の側壁3cに対しブラケット状の支持部材24を介して支持されている。
【0016】
吸収部材30は、概略板状に形成され、筐体3内にてヒートシンク20に対向して配置されている。吸収部材30は、厚さ方向がヒートシンク20との離間方向と平行に配置され、且つ、筐体3の底壁3bの内面に取り付けられている。
【0017】
吸収部材30は、
図1中上面がヒートシンク20に対向する対向領域31とされ、かかる対向領域31が凹凸形状に形成されている。具体的には、対向領域31には、ヒートシンク20側に突出する複数の山形突出部32が形成されている。
【0018】
各山形突出部32は同一形状に形成される。また、山形突出部32は、
図1中左右方向に等間隔に並んで形成され、左右方向に隣り合う山形突出部32同士が相互に接した状態に設けられる。従って、吸収部材30は、対向領域31にてV字状の溝が左右方向に等間隔に並んだ形態とも言えることができ、左右方向に隣り合う溝同士は相互に接した状態となる。
【0019】
吸収部材30は、赤外線を吸収しやすい材質とされ、アクリル樹脂やエポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂を用いることが例示できる。これら樹脂の一般的な適用温度は、以下のようになっており、想定される温度によって使い分けることができる。
アクリル樹脂:~90℃、エポキシ樹脂:~130℃、ポリウレタン樹脂:~200℃
【0020】
図2は、実施の形態に係る吸収部材の概略斜視図である。
図2に示すように、山形突出部32は、その突出方向と並び方向との両方に直交して延出するリブ状に形成されている。山形突出部32は、その延出方向と平行な直線上を延びる頂部32aと、頂部32aを挟む両側に形成された一対の傾斜面32bとを備えている。山形突出部32は、頂部32aに向かって細くなる尖った形状に形成され、
図1に示す正面視では二等辺三角形状に形成される。
【0021】
図3は、吸収部材における赤外線の吸収要領の説明図である。
図3に示すように、ヒートシンク20(
図3では不図示)から赤外線IRが放射されると、ヒートシンク20に対向する吸収部材30に赤外線IRが入射される。かかる入射によって、山形突出部32にて赤外線IRの一部が傾斜面32bを通過して吸収部材30に吸収され、残りが傾斜面32bにて反射される。反射された赤外線IRは、山形突出部32で吸収された分、傾斜面32bに達する前の赤外線IRに比べて強度が弱くなる。
【0022】
また、赤外線IRが図中上下方向に対して傾いた傾斜面32bに入射されることで、反射された赤外線IRは、ヒートシンク20側に向かわず、赤外線IRが入射した傾斜面32bの隣の山形突出部32における傾斜面32bに入射され易くなる。このように入射された赤外線IRも、一部が傾斜面32bを通過して山形突出部32に吸収され、残りが傾斜面32bにて2回目の反射がなされる。2回反射された赤外線IRは、山形突出部32で吸収された分、反射前より強度が弱くなり、また、ヒートシンク20側に向かわず、山形突出部32の更に基部側に進行される。そして、最初に赤外線IRが入射した傾斜面32bに再度入射され、以後は上記と同様に吸収及び反射が繰り返される。
【0023】
以上のように、上記実施の形態によれば、ヒートシンク20から放射される赤外線IRを吸収する吸収部材30を設けたので、ヒートシンク20から放出される赤外線IRが筐体3内面での反射によってヒートシンク20に戻ることを抑制することができる。これにより、ヒートシンク20での放熱効率を高めることができ、筐体3内にヒートシンク20が配置される場合でも冷却効果を良好に発揮することができる。特に、パワエレユニット1の小型化の要求によってヒートシンク20と筐体3の内面とが接近する場合でも、ヒートシンク20に赤外線IRが戻って放熱効率が低下することを抑制でき、かかる小型化の要求に良好に対応することができる。
【0024】
また、吸収部材30における対向領域31に凹凸形状を形成したので、吸収部材30で赤外線IRが反射されても、反射した赤外線IRを吸収部材30に再度入射させ易くして赤外線IRを吸収でき、ヒートシンク20への戻りを防ぐことができる。特に、対向領域31に複数の山形突出部32を等間隔に並べて形成することで、広範囲に亘って安定して赤外線IRの吸収作用を得ることができる。
【0025】
更に、山形突出部32が頂部32aを挟む一対の傾斜面32bを備えた形状とされるので、吸収部材30で入射される赤外線IRの反射を繰り返す回数を多くしつつ、ヒートシンク20に戻るような反射が発生することを抑制することができる。これにより、吸収部材30での赤外線IRの吸収効率を高めつつ、ヒートシンク20の放熱効率をより向上することができる。
【0026】
図4は、山形突出部の角度と赤外線の入射との関係を示す説明図である。ここで、
図4に示すように、山形突出部32の頂部32aにおける角度αを40°以下にすることが好ましく、かかる角度範囲に設定することで、赤外線IRにおける広い範囲の入射角θに対応することができる。例えば、頂部32aの角度αを40°とすると、山形突出部32の基部両側の角度βが70°となり、赤外線IRの入射角θが70°未満となれば、隣り合う山形突出部32の傾斜面32bに向けて反射することができる。
【0027】
また、山形突出部32の高さh(
図2参照)は、赤外線IRの波長(λ)の1/4以上とすることが望ましい。赤外線IRの波長は、長波長赤外線の波長:~15μm、遠赤外線の波長:~1000μmとされ、かかる波長の1/4以上に高さhが設定されるとよい。高さhを上記範囲に設定した理由を以下に述べる。赤外線IRは波動であり、その入射波が吸収部材30の表面となる傾斜面32bに到達したときに、一部は表面反射波として反射され、残りは吸収部材内に入って裏面側で裏面反射波として反射される。表面反射波及び裏面反射波が逆の位相になり、互いに打ち消し合うようにするためには、高さhを赤外線IRの波長の1/4にする必要がある。また、高さhを1/4の倍数にした場合でも同様の効果が得られるため、高さhを赤外線IRの波長の1/4以上に設定している。
【0028】
本発明の実施の形態は上記の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の趣旨を逸脱しない範囲において様々に変更、置換、変形されてもよい。さらには、技術の進歩又は派生する別技術によって、本発明の技術的思想を別の仕方で実現することができれば、その方法を用いて実施されてもよい。したがって、特許請求の範囲は、本発明の技術的思想の範囲内に含まれ得る全ての実施態様をカバーしている。
【0029】
吸収部材30の対向領域31における形状は、上記実施の形態に限定されるものでなく、対向領域31に赤外線の反射を抑制する凹凸形状が設けられていればよい。よって、山形突出部32の先端を円弧状にしたり、複数の山形突出部32にて異なる形状としたりする他、
図5に示すように、山形突出部35を錐状(
図5では四角錐状)に形成して交差する複数方向(
図5では直交二方向)に所定間隔毎に並べて形成してもよい。
【0030】
また、吸収部材30の対向領域31において、上述した形状に形成することに加え、ナノカーボンを塗布して理想黒体に近付ける等、赤外線吸収を効率化できるコーティングを施してもよい。
【符号の説明】
【0031】
1 パワエレユニット
3 筐体
10 半導体素子(熱源)
20 ヒートシンク(冷却構造)
30 吸収部材(冷却構造)
31 対向領域
32 山形突出部
32a 頂部
32b 傾斜面
IR 赤外線