(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】インクジェット記録装置、インクジェット記録方法、及び水性インク組成物
(51)【国際特許分類】
B41J 2/175 20060101AFI20240409BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20240409BHJP
C09D 11/30 20140101ALI20240409BHJP
【FI】
B41J2/175 141
B41J2/175 169
B41M5/00 120
C09D11/30
(21)【出願番号】P 2019179756
(22)【出願日】2019-09-30
【審査請求日】2022-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100148323
【氏名又は名称】川▲崎▼ 通
(74)【代理人】
【識別番号】100168860
【氏名又は名称】松本 充史
(72)【発明者】
【氏名】水瀧 雄介
(72)【発明者】
【氏名】隈本 聖観
(72)【発明者】
【氏名】有賀 友洋
(72)【発明者】
【氏名】伊東 淳
(72)【発明者】
【氏名】丸山 友暉
(72)【発明者】
【氏名】小池 保則
【審査官】大浜 登世子
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-261901(JP,A)
【文献】特開2005-161645(JP,A)
【文献】特開2005-186589(JP,A)
【文献】特開2005-161635(JP,A)
【文献】米国特許第06076913(US,A)
【文献】中国実用新案第206106650(CN,U)
【文献】特開2001-301196(JP,A)
【文献】特開平10-044463(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01 - 2/215
C09D 11/30
B41M 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性インク組成物と、
前記水性インク組成物が収容されるインク収容体と、
前記水性インク組成物を吐出する記録ヘッドと、
前記インク収容体及び前記記録ヘッドを往復移動可能なキャリッジと、
を備えたインクジェット記録装置であって、
前記キャリッジは前記インク収容体を一体として搭載し、
前記インク収容体は、前記水性インク組成物を充填するための開閉可能な注入口を有し、
前記注入口は、前記インク収容体の上方に形成されており、前記注入口にはユーザーにより操作される蓋部材が設けられており、
前記キャリッジの往復移動方向と平行な方向における前記インク収容体の最大外形長が、15.0mm以上30.0mm以下である、インクジェット記録装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記インク収容体を構成する壁部のうち前記キャリッジの往復移動方向と平行な方向に垂直な前記壁部の厚さの最小値が0.1mm以上5.0mm以下である、インクジェット記録装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において、
前記インク収容体内の気液体積比(気体/液体)が、3/16以上である、インクジェット記録装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか一項において、
前記インク収容体内の気液体積比(気体/液体)が、16/3以下である、インクジェット記録装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか一項において、
前記インク収容体の内壁面に対する前記水性インク組成物の接触角は、40°以下であ
る、インクジェット記録装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか一項において、
前記水性インク組成物は、染料又は顔料を含有する、インクジェット記録装置。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか一項において、
前記キャリッジは、複数の前記インク収容体を搭載し、
前記記録ヘッドは、各前記インク収容体に収容された水性インク組成物をそれぞれ吐出する、インクジェット記録装置。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか一項において、
前記インク収容体は、10mL以上の前記水性インク組成物を収容する、インクジェット記録装置。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれか一項において、
前記キャリッジの往復移動方向と平行な方向における前記インク収容体の最大内寸が10mm以上である、インクジェット記録装置。
【請求項10】
水性インク組成物と、
前記水性インク組成物が収容されるインク収容体と、
前記水性インク組成物を吐出する記録ヘッドと、
前記記録ヘッドを往復移動可能なキャリッジと、を備えたインクジェット記録装置を用いた記録方法であって、
前記キャリッジは前記インク収容体を一体として搭載し、
前記インク収容体は、前記水性インク組成物を充填するための開閉可能な注入口を有し、
前記注入口は、前記インク収容体の上方に形成されており、前記注入口にはユーザーにより操作される蓋部材が設けられており、
前記キャリッジの往復移動方向と平行な方向における前記インク収容体の最大外形長が、15.0mm以上30.0mm以下であり、
前記記録ヘッドから前記水性インク組成物を吐出し、記録媒体に前記水性インク組成物を付着させることを含む、インクジェット記録方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置、インクジェット記録方法、及び水性インク組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
家庭用、オフィス用などの比較的小型のインクジェット記録装置の分野において、インクを記録ヘッドに供給するためのインク収容体の容量を大きくすることや、インクジェット記録装置の本体のサイズを小型化することが要請されている。
【0003】
従来のシリアル型のインクジェット記録装置には、記録ヘッドに対してインク組成物を供給する容器として、小容量のカートリッジや、大容量のインクタンクが用いられてきた。カートリッジは、記録ヘッドを往復移動させるための機構であるキャリッジに、記録ヘッドとともに搭載され、ユーザーによりキャリッジに対して着脱可能な容器である。しかし、カートリッジは容量が小さいために交換の頻度が高かった。
【0004】
そこで、例えば特許文献1には、大容量のインクタンクが提案されている。インクタンクを大容量にすることにより、交換や注ぎ足しの頻度を小さくできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、インクタンクが大きいと、キャリッジに搭載することが難しく、インクタンクをキャリッジに搭載せずに、インクタンク内のインク組成物をチューブ等を介して記録ヘッドに供給している。そこで、インクタンクを、オンキャリッジ方式とすることで、大インク容量と小型化を両立することが考えられる。
【0007】
例えば、従来のカートリッジよりも大きく、従来のインクタンクよりも小さい程度の大きさのインク収容体を採用すれば、これを記録ヘッドとともにキャリッジに搭載することができる。このようにすれば、インク収容体に収容されるインク組成物の量が少なすぎることなく、かつ、装置が大型化することを緩和できると考えられる。
【0008】
しかしながら、キャリッジに搭載されたインク収容体に、ユーザーがインク組成物を補充・充填する際に、インク収容体内に気泡が発生することがあった。また、キャリッジの動作によりインク収容体内のインク組成物が揺動されて気泡が発生することがあった。特にインク収容体の形状によっては、インク収容体内のインク組成物の揺れが大きくなることに起因して気泡を発生しやすい場合があった。気泡がノズル近傍に達すると連続印字安定性の不良を生じることがあった。また、気泡の発生を抑制するためにオフキャリッジとすると記録物の色ムラを生じてしまうことがあった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るインクジェット記録装置の一態様は、
水性インク組成物と、
前記水性インク組成物が収容されるインク収容体と、
前記水性インク組成物を吐出する記録ヘッドと、
前記インク収容体及び前記記録ヘッドを往復移動可能なキャリッジと、
を備えたインクジェット記録装置であって、
前記キャリッジは前記インク収容体を一体として搭載し、
前記インク収容体は、前記水性インク組成物を充填するための開閉可能な注入口を有し、
前記キャリッジの往復移動方向と平行な方向における前記インク収容体の最大外形長が、30.0mm以下である。
【0010】
上記インクジェット記録装置の態様において、
前記インク収容体を構成する壁部のうち前記キャリッジの往復移動方向と平行な方向に垂直な前記壁部の厚さの最小値が0.1mm以上5.0mm以下であってもよい。
【0011】
上記インクジェット記録装置のいずれかの態様において、
前記キャリッジの往復移動方向と平行な方向における前記インク収容体の最大外形長が、10.0mm以上であってもよい。
【0012】
上記インクジェット記録装置のいずれかの態様において、
前記インク収容体内の気液体積比(気体/液体)が、3/16以上であってもよい。
【0013】
上記インクジェット記録装置のいずれかの態様において、
前記インク収容体内の気液体積比(気体/液体)が、16/3以下であってもよい。
【0014】
上記インクジェット記録装置のいずれかの態様において、
前記インク収容体の内壁面に対する前記水性インク組成物の接触角は、40°以下であってもよい。
【0015】
上記インクジェット記録装置のいずれかの態様において、
前記水性インク組成物は、染料又は顔料を含有してもよい。
【0016】
上記インクジェット記録装置のいずれかの態様において、
前記キャリッジは、複数の前記インク収容体を搭載し、
前記記録ヘッドは、各前記インク収容体に収容された水性インク組成物をそれぞれ吐出してもよい。
【0017】
本発明に係るインクジェット記録方法の一態様は、
水性インク組成物と、
前記水性インク組成物が収容されるインク収容体と、
前記水性インク組成物を吐出する記録ヘッドと、
前記記録ヘッドを往復移動可能なキャリッジと、を備えたインクジェット記録装置を用いた記録方法であって、
前記キャリッジは前記インク収容体を一体として搭載し、
前記インク収容体は、前記水性インク組成物を充填するための開閉可能な注入口を有し、
前記キャリッジの往復移動方向と平行な方向における前記インク収容体の最大外形長が、30.0mm以下であり、
前記記録ヘッドから前記水性インク組成物を吐出し、記録媒体に前記水性インク組成物を付着させることを含む。
【0018】
本発明に係る水性インク組成物の一態様は、
水性インク組成物であって、
前記水性インク組成物と、
前記水性インク組成物が収容されるインク収容体と、
前記水性インク組成物を吐出する記録ヘッドと、
前記記録ヘッドを往復移動可能なキャリッジと、を備え、
前記キャリッジは前記インク収容体を一体として搭載し、
前記インク収容体は、前記水性インク組成物を充填するための開閉可能な注入口を有し、
前記キャリッジの往復移動方向と平行な方向における前記インク収容体の最大外形長が、30.0mm以下である、インクジェット記録装置に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施形態に係るインクジェット記録装置の一例を示す概略斜視図。
【
図2】実施形態に係るインク収容体を模式的に示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明の実施形態について説明する。以下に説明する実施形態は、本発明の例を説明するものである。本発明は以下の実施形態になんら限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形形態も含む。なお以下で説明される構成の全てが本発明の必須の構成であるとは限らない。
【0021】
1.インクジェット記録装置
本実施形態のインクジェット記録装置は、水性インク組成物と、水性インク組成物が収容されるインク収容体と、水性インク組成物を吐出する記録ヘッドと、記録ヘッドを往復移動可能なキャリッジと、を備える。
【0022】
1.1.水性インク組成物
本実施形態のインクジェット記録装置に備えられる水性インク組成物は、水、色材、界面活性剤、有機溶剤、その他の成分を含有してもよい。
【0023】
1.1.1.水
本実施形態に係る水性インク組成物は、水を含んでもよい。水としては、例えば、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、及び蒸留水等の純水、並びに超純水のような、イオン性不純物を極力除去したものが挙げられる。また、紫外線照射又は過酸化水素の添加等によって滅菌した水を用いると、水性インク組成物を長期保存する場合に細菌類や真菌類の発生を抑制することができる。
【0024】
水の含有量は、水性インク組成物の総量(100質量%)に対して、好ましくは40質量%以上であり、より好ましくは45質量%以上であり、さらに好ましくは50質量%以上である。水の含有量が40質量%以上であることにより、水性インク組成物が比較的低粘度となる。また、水の含有量の上限は、水性インク組成物の総量に対して、好ましくは90質量%以下であり、より好ましくは85質量%以下であり、さらに好ましくは80質量%以下である。
【0025】
1.1.2.色材
水性インク組成物は、色材を含んでもよい。水性インク組成物が色材を含むことにより、着色インク組成物として使用することができる。着色インク組成物は記録媒体を着色するために用いられる。色材は、顔料及び染料のうち少なくとも一方を用いることができる。
【0026】
(顔料)
色材として顔料を用いることにより、水性インク組成物の耐光性を向上させることができる。顔料としては、無機顔料及び有機顔料のいずれも使用することができる。顔料は、例えば、シアン、イエロー、マゼンタ、ブラックなどの着色顔料や、白色顔料、光輝性顔料などの特色顔料を挙げることができる。
【0027】
有機顔料としては、キナクリドン系顔料、キナクリドンキノン系顔料、ジオキサン系顔料、ジオキサジン系顔料、フタロシアニン系顔料、アントラピリミジン系顔料、アンサンスロン系顔料、インダンスロン系顔料、フラバンスロン系顔料、ペリレン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ペリノン系顔料、キノフタロン系顔料、アントラキノン系顔料、チオインジゴ系顔料、ベンツイミダゾロン系顔料、チオインジゴ系顔料、イソインドリノン系顔料、アゾメチン系顔料、染料キレート、染色レーキ、ニトロ系顔料、ニトロソ系顔料、アニリンブラック、及び、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、アゾレーキ、キレートアゾ顔料などのアゾ系顔料、等が挙げられる。
【0028】
有機顔料の具体例としては下記のものが挙げられる。
シアン顔料としては、C.I.ピグメントブルー1、2、3、15:3、15:4、16、22、60等;C.I.バットブルー4、60等が挙げられ、好ましくは、C.I.ピグメントブルー15:3、15:4、及び60からなる群から選択される単独あるいは二種類以上の混合物である。
【0029】
マゼンタ顔料としては、C.I.ピグメントレッド5、7、12、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、112、122、123、168、184、202、C.I.ピグメントバイオレット19等が挙げられ、好ましくはC.I.ピグメントレッド122、202、及び209、C.I.ピグメントバイオレット19からなる群から選択される単独あるいは二種類以上の混合物である。
【0030】
イエロー顔料としては、C.I.ピグメントイエロー1、2、3、12、13、14C、16、17、73、74、75、83、93、95、97、98、119、110、114、128、129、138、150、151、154、155、180、185、等が挙げられ、好ましくはC.I.ピグメントイエロー74、109、110、128、及び138からなる群から選択される単独あるいは二種類以上の混合物である。
【0031】
オレンジ顔料としては、C.I.ピグメントオレンジ36もしくは43またはこれらの混合物である。
【0032】
グリーン顔料としては、C.I.ピグメントグリーン7もしくは36またはこれらの混合物である。
【0033】
ブラック顔料としては、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャネルブラック等(C.I.ピグメントブラック7)、市販品として、No.2300、900、MCF88、No.20B、No.33、No.40、No.45、No.52、MA7、MA8、MA100、No2200B等(商品名、三菱化学株式会社製)、カラーブラックFW1、FW2、FW2V、FW18、FW200、S150、S160、S170、プリテックス35、U、V、140U、スペシャルブラック6、5、4A、4、250等(商品名、デグサ社製)、コンダクテックスSC、ラーベン1255、5750、5250、5000、3500、1255、700等(以上全て商品名、コロンビアカーボン社製)、リガール400R、330R、660R、モグルL、モナーク700、800、880、900、1000、1100、1300、1400、エルフテックス12等(商品名、キャボット社製)が挙げられる。これらのカーボンブラックは単独ある
いは二種類以上の混合物として用いてよい。
【0034】
光輝性顔料としては、媒体に付着させたときに光輝性を呈しうるものであれば特に限定されないが、例えば、アルミニウム、銀、金、白金、ニッケル、クロム、錫、亜鉛、インジウム、チタン、及び銅からなる群より選択される1種又は2種以上の合金(金属顔料ともいう)の金属粒子や、パール光沢を有するパール顔料を挙げることができる。パール顔料の代表例としては、二酸化チタン被覆雲母、魚鱗箔、酸塩化ビスマス等の真珠光沢や干渉光沢を有する顔料が挙げられる。また、光輝性顔料は、水との反応を抑制するための表面処理が施されていてもよい。
【0035】
また、白色顔料としては、金属酸化物、硫酸バリウム、炭酸カルシウム等の金属化合物が挙げられる。金属酸化物としては、例えば二酸化チタン、酸化亜鉛、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム等が挙げられる。また、白色顔料には、中空構造を有する粒子を用いてもよい。
【0036】
上記顔料は、1種単独でも、2種以上を併用してもよい。顔料は、耐光性、耐候性、耐ガス性などの保存安定性の観点から有機顔料であることが好ましい。
【0037】
顔料は、インク中で安定に分散できることが好ましい。例えば、オゾン、次亜塩素酸、発煙硫酸等により、顔料表面を酸化、あるいはスルホン化して顔料粒子の表面を修飾することにより、自己分散型の顔料として使用してもよいし、高分子分散剤によって分散させて使用してもよい。
【0038】
(染料)
水性インク組成物には、色材として染料を用いてもよい。染料としては、特に限定されることなく、酸性染料、直接染料、反応性染料、塩基性染料、及び分散染料が使用可能である。染料として、例えば、C.I.アシッドイエロー17、23、42、44、79、142、C.I.アシッドレッド52、80、82、249、254、289、C.I.アシッドブルー9、45、249、C.I.アシッドブラック1、2、24、94、C.I.フードブラック1、2、C.I.ダイレクトイエロー1、12、24、33、50、55、58、86、132、142、144、173、C.I.ダイレクトレッド1、4、9、80、81、132、225、227、C.I.ダイレクトブルー1、2、15、71、86、87、98、165、199、202、C.I.ダイレクトブラック19、38、51、71、154、168、171、195、C.I.リアクティブレッド14、32、55、79、141、249、C.I.リアクティブブラック3、4、35が挙げられる。
【0039】
また、染料としては、下記式(y-1)で表される化合物又はその塩、
【0040】
【0041】
(式(y-1)では、4つのスルホン酸基を含むが、それらはそれぞれ独立にスルホン酸塩の形態であってもよい。式(y-1)で表される化合物の塩のカウンターイオンとしては、水素イオン(プロトン)、リチウム、ナトリウム、カリウム、アンモニウム等が挙げられ、4つのスルホン酸基におけるカウンターイオンは同じでも異なってもよい。)
【0042】
下記式(y-2)で表される化合物又はその塩、
【0043】
【0044】
(式(y-2)では、4つのカルボキシ基を含むが、それらはそれぞれ独立にカルボン酸塩の形態であってもよい。式(y-2)で表される化合物の塩のカウンターイオンとしては、水素イオン(プロトン)、リチウム、ナトリウム、カリウム、アンモニウム等が挙げられ、4つのカルボキシ基におけるカウンターイオンは同じでも異なってもよい。)
【0045】
下記式(y-3)で表される化合物又はその塩、
【0046】
【0047】
(式(y-3)では、4つのカルボキシ基を含むが、それらはそれぞれ独立にカルボン酸塩の形態であってもよい。式(y-3)で表される化合物の塩のカウンターイオンとしては、水素イオン(プロトン)、リチウム、ナトリウム、カリウム、アンモニウム等が挙げられ、4つのカルボキシ基におけるカウンターイオンは同じでも異なってもよい。)
【0048】
下記式(y-4)で表される化合物又はその塩、
【0049】
【0050】
下記式(y-5)で表される化合物又はその塩、
【0051】
【0052】
下記式(m-1)で表される化合物又はその塩、
【0053】
【0054】
(式(m-1)で表される化合物の塩のカウンターイオンとしては、水素イオン(プロトン)、リチウム、ナトリウム、カリウム、アンモニウム等が挙げられ、4つのカルボキシ基、2つのスルホン酸基におけるカウンターイオンは同じでも異なってもよい。)
【0055】
下記式(m-2)で表される化合物又はその塩、
【0056】
【0057】
(式(m-2)で表される化合物の塩のカウンターイオンとしては、水素イオン(プロトン)、リチウム、ナトリウム、カリウム、アンモニウム等が挙げられ、4つのカルボキシ基、6つのスルホン酸基におけるカウンターイオンは同じでも異なってもよい。)
【0058】
下記式(m-3)で表される化合物又はその塩、
【0059】
【0060】
(式(m-3)中、R1、R5、R6及びR10は、それぞれ独立に、アルキル基を表す。R3及びR8は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、又はアリールオキシ基を表し、アルキル基、アルコキシ基、及びアリールオキシ基は、アルキル基、アリール基、アリールアルキル基、ヒドロキシル基、カルバモイル基、スルファモイル基、アルコキシ基、シアノ基、ハロゲン原子、及びイオン性基からなる置換基群より選択される少なくとも1種の置換基を有していてもよい。R2、R4、R7及びR9は、それぞれ独立に、水素原子、又は下記式(m-3’)で表されるアシルアミノ基を表し、R2、R4、R7及びR9の少なくとも1つは下記式(m-3’)で表されるアシルアミノ基である。Zは、SO3H基、SO3M基(Mはアンモニウムイオン又はアルカリ金属イオンを表す)、又はスルファモイル基を表す。R2、R3、R4、R7、R8及びR9の少なくとも1つが、イオン性基で置換されている場合には、nは0乃至3の整数を表し、イオン性基で置換されていない場合には、nは1ないし3の整数を表し、Zが存在する場合は芳香環の少なくとも1つの水素原子の位置に置換している。)
【0061】
【0062】
(式(m-3’)中、R11は、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アリールアルキル基、アルケニル基、又はヘテロ環基を表し、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アリールアルキル基、アルケニル基、及びヘテロ環基は、アルキル基、アリール基、アリールアルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、シアノ基、アルキルアミノ基、スルホアルキル基、カルバモイル基、スルファモイル基、スルホニルアミノ基、ハロゲン原子、及びイオン性基からなる置換基群より選択される少なくとも1種の置換基を有していてもよい。*は式(m-3)の芳香環との結合部位を表す。)
【0063】
(式(m-3)で表される化合物の塩のカウンターイオンとしては、水素イオン(プロトン)、リチウム、ナトリウム、カリウム、アンモニウム等が挙げられる。)
【0064】
下記式(m-4)で表される化合物又はその塩、
【0065】
【0066】
(式(m-4)で表される化合物の塩のカウンターイオンとしては、水素イオン(プロトン)、リチウム、ナトリウム、カリウム、アンモニウム等が挙げられ、4つのスルホン酸基におけるカウンターイオンは同じでも異なってもよい。)
【0067】
下記式(m-5)で表される化合物又はその塩、
【0068】
【0069】
(式(m-5)において、n1は、1又は2であり、3つのMは、それぞれ、ナトリウム又はアンモニウムであり、3つのMは同一でも異なっていてもよく、R0は、カルボキシ基で置換された炭素原子数1~8のモノアルキルアミノ基である。)
【0070】
下記式(c-1)で表される化合物又はその塩、
【0071】
【0072】
(式(c-1)中、bは、0≦b≦4を満たし、cは、0≦c≦4を満たし、b+cは、1≦(b+c)≦4を満たす整数を表し、環A1、A2及びA3は、それぞれ、ベンゼン環、2,3-ピリジン環及び3,2-ピリジン環から選択され、かつ、環A1、A2及びA3の少なくとも一つは、2,3-ピリジン環又は3,2-ピリジン環であり、環A1、A2及びA3は同一でも異なっていてもよい。)
【0073】
(式(c-1)で表される化合物の塩のカウンターイオンとしては、水素イオン(プロトン)、リチウム、ナトリウム、カリウム、アンモニウム等が挙げられ、スルホン酸基におけるカウンターイオンは同じでも異なってもよい。)
【0074】
下記式(c-2)で表される化合物又はその塩、
【0075】
【0076】
(式(c-2)で表される化合物の塩のカウンターイオンとしては、水素イオン(プロトン)、リチウム、ナトリウム、カリウム、アンモニウム等が挙げられ、4つのスルホン酸基におけるカウンターイオンは同じでも異なってもよい。)
【0077】
下記式(c-3)で表される化合物又はその塩、
【0078】
【0079】
(式(c-3)で表される化合物の塩のカウンターイオンとしては、水素イオン(プロトン)、リチウム、ナトリウム、カリウム、アンモニウム等が挙げられ、2つのスルホン酸基におけるカウンターイオンは同じでも異なってもよい。)
【0080】
下記式(c-4)で表される化合物又はその塩、
【0081】
【0082】
(式(c-4)中、環A、B、C、及びDはそれぞれ独立に芳香性を有する6員環であり、かつ、環A、B、C、及びDの少なくともひとつはピリジン環又はピラジン環である。Eはアルキレン基である。Xは、スルホ置換アニリノ基、カルボキシ置換アニリノ基、又はホスホノ置換アニリノ基であり、該置換アニリノ基はさらに、スルホン酸基、カルボキシ基、ホスホノ基、スルファモイル基、カルバモイル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アミノ基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アリールアミノ基、ジアリールアミノ基、アセチルアミノ基、ウレイド基、アルキル基、ニトロ基、シアノ基、ハロゲン、アルキルスルホニル基、及びアルキルチオ基からなる群から選ばれる置換基を1乃至4個有してもよい。Yはヒドロキシ基又はアミノ基である。aは、1.0≦a≦2.0を満たし、bは、0.0≦b≦3.0を満たし、cは、0.1≦c≦3.0を満たし、かつ、a、b及びcは、1.0≦a+b+c≦4.0を満たす。)
【0083】
(式(c-4)で表される化合物の塩のカウンターイオンとしては、水素イオン(プロトン)、リチウム、ナトリウム、カリウム、アンモニウム等が挙げられる。)
【0084】
下記式(c-5)で表される化合物又はその塩、及び、
【0085】
【0086】
(式(c-5)で表される化合物の塩のカウンターイオンとしては、水素イオン(プロトン)、リチウム、ナトリウム、カリウム、アンモニウム等が挙げられ、3つのスルホン酸基におけるカウンターイオンは同じでも異なってもよい。)
【0087】
下記式(c-6)で表される化合物又はその塩から選択される少なくとも1種を挙げることができる。
【0088】
【0089】
(式(c-6)中、環A1、A2及びA3は、それぞれ、ベンゼン環、2,3-ピリジン環及び3,2-ピリジン環から選択され、かつ、環A1、A2及びA3の少なくとも一つは、2,3-ピリジン環又は3,2-ピリジン環であり、環A1、A2及びA3は同一でも異なっていてもよく、aは、1.0≦a≦3.0を満たし、bは、0.2≦b≦1.8を満たし、cは、0.8≦c≦1.6を満たし、かつ、a、b及びcは、0≦a+b+c≦4を満たし、xは、1≦z≦3を満たす整数であり、R1は、炭素原子数1以上6以下の直鎖アルキレン基である。)
【0090】
これらの色材は、顔料、染料の別を問わず、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0091】
色材の合計の含有量は、水性インク組成物の総質量(100質量%)に対して、1質量%以上20質量%以下が好ましい。色材を含まない、若しくは、着色することを目的としない程度に色材を含有する(例えば0.1質量%以下)、クリア組成物(クリアインク)としてもよい。
【0092】
1.1.3.界面活性剤
水性インク組成物は、界面活性剤を含有してもよい。界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、アセチレングリコール系界面活性剤、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、両性界面活性剤のいずれでもよく、これらを組み合わせて用いてもよい。
【0093】
界面活性剤の市販品としては、サーフィノールSE、サーフィノール61、サーフィノール104、サーフィノール420、サーフィノール82、サーフィノールDF110D、サーフィノール104S、サーフィノール104PG50、サーフィノール420、サーフィノール82、サーフィノールMD-20、サーフィノール485、オルフィンE1004、オルフィンE4300、オルフィンE1010、オルフィンEXP4300、(以上、商品名、アセチレングリコール系界面活性剤、日信化学工業社製)、ノイゲンET-116B、ノイゲンDL-0415、ノイゲンET-106A、ノイゲンDH-0300、ノイゲンYX-400、ノイゲンEA-160(以上、商品名、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル系界面活性剤、第一工業製薬社製)、ニューコール1006、1006-AL(商品名、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル系界面活性剤、日本乳化剤株
式会社製)、BYK-348(商品名、シリコーン系界面活性剤、ビックケミー・ジャパン株式会社製)、エマルゲン1108(商品名、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、花王株式会社製)、KF-6011、KF-6013、KF-6004、KF-6020、KF-6043、KF-643、KF-640、KF-351A、KF-354L、KF-945、X-22-6191、X-22-4515、KF-6015、KF-6017、KF-6038(以上、商品名、ポリシロキサン系界面活性剤、信越シリコーン株式会社製)、L-720、L-7002、FZ-2123、FZ-2105、L-7604、FZ-2104、FZ-2116、FZ-2120(以上、商品名、ポリシロキサン系界面活性剤、東レ・ダウコーニング社製)等を用いることができる。
【0094】
両性界面活性剤としては、例えば、アルキルピリジウム塩、アルキルアミノ酸塩、アルキルジメチルベタイン等を挙げることができる。両性界面活性剤の例としては、下記式(b-1)で表されるベタイン系界面活性剤を挙げることができる。
【0095】
(R)p-N-[L-(COOM)q]r ・・・(b-1)
(式(b-1)中、Rは、水素原子、アルキル基、アリール基、又は複素環基を表す。Lは2価以上の連結基を表す。Mは水素原子、アルカリ金属原子、アンモニウム基、プロトン化された有機アミンもしくは含窒素複素環基、4級アンモニウムイオン基を表し、式(b-1)中のN原子からなるアンモニウムイオンの対イオンとなる場合は、カチオンとして存在しない基を表す。qは1以上の整数を表し、rは1以上4以下の整数を表す。pは0以上4以下の整数を表し、p+rは3もしくは4である。p+rが4である場合はNは4級アミンを構成する窒素原子となる。pが2以上の時はRは同じでも異なっていてもよい。qが2以上の時はCOOMは同じでも異なっていてもよい。rが2以上の時はL-(COOM)qは同じでも異なっていてもよい。)
【0096】
さらに水性インク組成物は、前記式(b-1)で表されるベタイン系界面活性剤が、下記式(b-2)で表される化合物であることが好ましい。
【0097】
(R1)(R2)(R3)N+-X-COO- ・・・(b-2)
(式(b-2)中、R1~R3は、それぞれ独立に炭素数が1~20のアルキル基を表し、Xは、2価の連結基を表す。)
【0098】
さらに水性インク組成物は、前記式(b-2)で表される化合物が、下記式(b-3)で表される化合物(ミリスチルベタイン;或いはN-テトラデシル-N,N-ジメチルグリシン)であることが好ましい。
【0099】
(n-C14H29)(CH3)2N+-CH2-COO- ・・・(b-3)
【0100】
界面活性剤の含有量は、水性インク組成物の全質量に対して、好ましくは0.01質量%以上2.0質量%以下であり、より好ましくは0.05質量%以上1.50質量%以下であり、さらに好ましくは0.10質量%以上1.20質量%以下である。界面活性剤の含有量が0.01質量%以上であることにより、例えば、吐出安定性を向上させることができる。
【0101】
1.1.4.有機溶剤
水性インク組成物は、有機溶剤を含有してもよい。水性インク組成物は、有機溶剤を含有しなくてもよいが、有機溶剤を含有することにより、乾燥性と吐出安定性の両立がより容易となる。有機溶剤は水溶性の有機溶剤であることが好ましい。
【0102】
有機溶剤の機能の一つは、記録媒体に対するインク組成物の濡れ性を向上させることや
、水性インク組成物の保湿性を高めることが挙げられる。有機溶剤としては、エステル類、アルキレングリコールエーテル類、環状エステル類、含窒素溶剤、多価アルコール等を挙げることができる。含窒素溶剤としては環状アミド類、非環状アミド類などを挙げることができる。非環状アミド類としてはアルコキシアルキルアミド類などが挙げられる。
【0103】
エステル類としては、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、
プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、メトキシブチルアセテート、等のグリコールモノアセテート類、エチレングリコールジアセテート、ジエチレングリコールジアセテート、プロピレングリコールジアセテート、ジプロピレングリコールジアセテート、エチレングリコールアセテートプロピオネート、エチレングリコールアセテートブチレート、ジエチレングリコールアセテートブチレート、ジエチレングリコールアセテートプロピオネート、ジエチレングリコールアセテートブチレート、プロピレングリコールアセテートプロピオネート、プロピレングリコールアセテートブチレート、ジプロピレングリコールアセテートブチレート、ジプロピレングリコールアセテートプロピオネート、等のグリコールジエステル類が挙げられる。
【0104】
アルキレングリコールエーテル類としては、アルキレングリコールのモノエーテル又はジエーテルであればよく、アルキルエーテルが好ましい。具体例としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチエレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル類、及び、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルブチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールメチルブチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル等のアルキレングリコールジアルキルエーテル類が挙げられる。
【0105】
環状エステル類としては、β-プロピオラクトン、γ-ブチロラクトン、δ-バレロラクトン、ε-カプロラクトン、β-ブチロラクトン、β-バレロラクトン、γ-バレロラクトン、β-ヘキサノラクトン、γ-ヘキサノラクトン、δ-ヘキサノラクトン、β-ヘプタノラクトン、γ-ヘプタノラクトン、δ-ヘプタノラクトン、ε-ヘプタノラクトン
、γ-オクタノラクトン、δ-オクタノラクトン、ε-オクタノラクトン、δ-ノナラクトン、ε-ノナラクトン、ε-デカノラクトン等の環状エステル類(ラクトン類)、並びに、それらのカルボニル基に隣接するメチレン基の水素が炭素数1~4のアルキル基によって置換された化合物を挙げることができる。
【0106】
アルコキシアルキルアミド類としては、例えば、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-メトキシ-N,N-ジエチルプロピオンアミド、3-メトキシ-N,N-メチルエチルプロピオンアミド、3-エトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-エトキシ-N,N-ジエチルプロピオンアミド、3-エトキシ-N,N-メチルエチルプロピオンアミド、3-n-ブトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-n-ブトキシ-N,N-ジエチルプロピオンアミド、3-n-ブトキシ-N,N-メチルエチルプロピオンアミド、3-n-プロポキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-n-プロポキシ-N,N-ジエチルプロピオンアミド、3-n-プロポキシ-N,N-メチルエチルプロピオンアミド、3-iso-プロポキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-iso-プロポキシ-N,N-ジエチルプロピオンアミド、3-iso-プロポキシ-N,N-メチルエチルプロピオンアミド、3-tert-ブトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-tert-ブトキシ-N,N-ジエチルプロピオンアミド、3-tert-ブトキシ-N,N-メチルエチルプロピオンアミド、等を例示することができる。
【0107】
環状アミド類としては、ラクタム類が挙げられ、例えば、2-ピロリドン、1-メチル-2-ピロリドン、1-エチル-2-ピロリドン、1-プロピル-2-ピロリドン、1-ブチル-2-ピロリドン、等のピロリドン類などが挙げられる。これらは後述する樹脂粒子の皮膜化を促進させる点で好ましく、特に2-ピロリドンがより好ましい。
【0108】
また、非環状アミド類として、下記式(1)で表される化合物であるアルコキシアルキルアミド類を用いることも好ましい。
R1-O-CH2CH2-(C=O)-NR2R3 ・・・(1)
【0109】
上記式(1)中、R1は、炭素数1以上4以下のアルキル基を示し、R2及びR3は、それぞれ独立にメチル基又はエチル基を示す。「炭素数1以上4以下のアルキル基」は、直鎖状又は分岐状のアルキル基であることができ、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、iso-ブチル基、tert-ブチル基であることができる。上記式(1)で表される化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
【0110】
多価アルコールとしては、1,2-アルカンジオール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール(別名:プロパン-1,2-ジオール)、トリエチレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,2-ヘプタンジオール、1,2-オクタンジオール等のアルカンジオール類)、1,2-アルカンジオールを除く多価アルコール(ポリオール類)(例えば、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール(別名:1,3-ブチレングリコール)、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2-エチル-2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチルペンタン-2,4-ジオール、トリメチロールプロパン、グリセリン等)等が挙げられる。
【0111】
インク組成物は、上記例示した有機溶剤を一種単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。インク組成物に有機溶剤を配合する場合、インク組成物全体に対する有機溶剤の合計の含有量は、3.0質量%以上30.0質量%以下、好ましくは5.0質量%以上25.0質量%以下、より好ましくは10.0質量%以上20.0質量%以下である。
【0112】
1.1.5.その他の成分
水性インク組成物は、その他の成分として、pH調整剤、防かび剤・防腐剤、キレート化剤、防錆剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤、蒸発促進剤等を含有してもよい。
【0113】
pH調整剤としては、例えば、尿素類、アミン類、モルホリン類、ピペラジン類、アルカノールアミン等のアミノアルコール類、を例示できる。尿素類としては、尿素、エチレン尿素、テトラメチル尿素、チオ尿素、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン等、が挙げられる。アミン類としては、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン等が挙げられる。pH調整剤を含有することにより、例えば、インク流路を形成する部材からの不純物の溶出を抑制したり、促進したりすることができ、インク組成物の洗浄性を調節することができる。
【0114】
防かび剤・防腐剤としては、プロキセルCRL、プロキセルBDN、プロキセルGXL、プロキセルXL2、プロキセルIB、又はプロキセルTN(いずれも商品名、Lonza社製)などを挙げることができる。防かび剤・防腐剤を含有することにより、カビや細菌の増殖を抑制することができ、インク組成物の保存性がより良好となる。
【0115】
キレート化剤としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸塩(EDTA)や、エチレンジアミンのニトリロトリ酢酸塩、ヘキサメタリン酸塩、ピロリン酸塩、又はメタリン酸塩等が挙げられる。
【0116】
1.1.6.水性インク組成物の接触角
水性インク組成物のインク収容体の内壁面に対する接触角は、40°以下であることが好ましく、35°以下であることがさらに好ましい。このようにすれば、インク収容体に水性インク組成物を充填する際の気泡排出性が向上し、インク組成物とインク収容体の間に気泡が残りにくくなる点でより好ましい。これにより、残留する気泡がノズルに移動し、吐出不良が生じることを防ぐことができる。特にインク収容体に初めて水性インク組成物を充填する際に、顕著な効果が得られ、すなわち初期充填性を良好にすることができる。
【0117】
接触角は、インク収容体と同様の材質で作成したシートを用い、協和界面化学社製、動的表面張力計PCA-1を用いて測定することができる。具体的には、例えば、シートに対して水性インク組成物の液滴を滴下して20秒後の接触角を測定する。
【0118】
水性インク組成物の接触角は、例えば、水、有機溶剤、及び界面活性剤の少なくとも一つの、種類、組合せ、及び使用量の少なくとも1つを調節することにより、調整することができる。また、インク収容体の材質を選ぶことにより、水性インク組成物の接触角を調整してもよい。
【0119】
1.1.7.水性インク組成物の用途
上述の水性インク組成物は、該水性インク組成物と、水性インク組成物が収容されるインク収容体と、水性インク組成物を吐出する記録ヘッドと、記録ヘッドを往復移動可能なキャリッジと、を備え、キャリッジがインク収容体を一体として搭載し、インク収容体が、水性インク組成物を充填するための開閉可能なインク注入口を有し、キャリッジの往復移動方向と平行な方向におけるインク収容体の最大外形長が、30.0mm以下である、
インクジェット記録装置に用いられる。以下、本実施形態のインクジェット記録装置について述べる。
【0120】
1.2.インクジェット記録装置の構成
本実施形態のインクジェット記録装置は、上述の水性インク組成物を備えるが、水性インク組成物以外の構成について、インクジェット記録装置1を一例として概略的に説明する。インクジェット記録装置1は、水性インク組成物と、水性インク組成物が収容されるインク収容体7と、水性インク組成物を吐出する記録ヘッド3と、記録ヘッド3を往復移動可能なキャリッジ4と、を備え、キャリッジ4がインク収容体7を一体として搭載し、インク収容体7が、水性インク組成物を充填するための開閉可能なインク注入口71を有する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0121】
インク収容体7にインク注入口から適宜インク組成物を補充する本実施形態のインクジェット記録装置においては、インク収容体7中に多少の残液が存在する状態で、インク組成物が補充されることとなる。インク組成物を補充しながら使用する形態では、例えばカートリッジを交換する形態のようにインク組成物が完全にリフレッシュされることが無く、経時したインク組成物の蓄積によって組成の変化が進行しやすい場合がある。より具体的には、徐々に色材が沈降することがある。これに対し、本実施形態のインクジェット記録装置によれば、キャリッジ4がインク収容体7を一体として搭載していることで、キャリッジの往復移動に伴って、インク収容体7中のインク組成物が攪拌される。これによって、色材の沈降が抑制され、記録物の色ムラを良好に低減することができる。
【0122】
インクジェット記録装置1は、水性インク組成物の微小な液滴を吐出する水性インク組成物吐出部としての記録ヘッド3によって、記録媒体2に液滴を着弾させて記録を行う装置である。
図1は、インクジェット記録装置1を示す概略斜視図である。
【0123】
図1に示すように、インクジェット記録装置1は、記録ヘッド3、キャリッジ4、主走査機構5、プラテンローラー6、インクジェット記録装置1全体の動作を制御する制御部(図示せず)を有する。キャリッジ4は、記録ヘッド3を搭載すると共に、記録ヘッド3に供給される水性インク組成物を収納するインク収容体7a,7b,7c,7dを搭載している。すなわちキャリッジ4は、記録ヘッド3を往復移動可能とし、インク収容体7a,7b,7c,7dを一体として搭載している。なお、図示のインク収容体7a,7b,7c,7dは、それぞれインク収容体7の例を示している。
【0124】
インク収容体7a,7b,7c,7dは、ユーザーによってキャリッジ4から着脱することができないように固定されている。すなわち、キャリッジ4がインク収容体7を一体として搭載している。なお、キャリッジ4がインク収容体7を一体として搭載する構成としては、キャリッジ4とは別に製造されたインク収容体7がキャリッジ4にネジや接着剤等の手段により固定されるものであってもよく、キャリッジ4とインク収容体7とが一体成形されるものであってもよい。インク収容体7a,7b,7c,7dは、キャリッジ4に固定された状態で、開閉可能なインク注入口71から水性インク組成物をユーザーが充填、注ぎ足し等を行う態様となっている。インク収容体7の詳細については後述する。
【0125】
主走査機構5は、キャリッジ4に接続されたタイミングベルト8、タイミングベルト8を駆動するモーター9、ガイド軸10を有する。ガイド軸10は、キャリッジ4の支持部材として、キャリッジ4の走査方向、すなわち主走査方向に架設されている。キャリッジ4は、タイミングベルト8を介してモーター9によって駆動され、ガイド軸10に沿って往復移動が可能である。これにより、主走査機構5は、キャリッジ4を主走査方向に往復移動させる機能を有する。
【0126】
プラテンローラー6は、記録を行う記録媒体2を、上記主走査方向と直交する副走査方向、すなわち、記録媒体2の長さ方向に搬送する機能を有する。これにより、記録媒体2は副走査方向に搬送される。記録ヘッド3及びインク収容体7a,7b,7c,7dが搭載されるキャリッジ4は、記録媒体2の幅方向と略一致する主走査方向に往復移動が可能であり、記録ヘッド3は記録媒体2に対して主走査方向及び副走査方向へ相対的に走査が可能に構成される。
【0127】
インク収容体7a,7b,7c,7dは、独立した4つのインク収容体である。インク収容体7a,7b,7c,7dには、それぞれ同種又は異種の水性インク組成物を収容することができる。これらのインク収容体には、例えば、ブラック、シアン、マゼンタ、イエロー等の色を呈する水性インク組成物が個別に収納され、任意に組み合わせて用いることが可能である。
図1では、インク収容体の数を4個としているが、これに限定されるものではない。インク収容体7a,7b,7c,7dの底部には、各インク収容体に収納された水性インク組成物を記録ヘッド3へ供給するための排出口(
図1では隠れている)が設けられている。インク収容体7a,7b,7c,7dは、キャリッジ4に一体として搭載されているため、カートリッジ式のように供給口が露出することがない。そのため、供給口から気泡等が混入することを抑制することができる。
【0128】
記録ヘッド3は、インク収容体7a,7b,7c,7dから供給される水性インク組成物を制御部(図示せず)による制御のもとで複数のノズルから記録媒体2に噴射して付着させる手段である。記録ヘッド3は、水性インク組成物を付着させる記録媒体2と対向する面に、水性インク組成物を吐出して記録媒体2へ付着させる複数のノズル(
図1では隠れている)を備える。これらの複数のノズルは列状に配列されてノズル列が形成され、ノズル列は各色水性インク組成物に対応して個別に配置される。各水性インク組成物は、各インク収容体から記録ヘッド3に供給され、記録ヘッド3内のアクチュエーター(図示せず)によって、ノズルから液滴として吐出される。吐出された水性インク組成物の液滴は記録媒体2に着弾し、記録媒体2に水性インク組成物による画像、テキスト、模様、色彩等が形成される。
【0129】
ここで、記録ヘッド3では、駆動手段であるアクチュエーターとして圧電素子を用いているが、この方式に限定されない。例えば、アクチュエーターとしての振動板を静電吸着により変位させる電気機械変換素子や、加熱によって生じる気泡によって水性インク組成物を液滴として吐出させる電気熱変換素子を用いてもよい。
【0130】
なお、
図1において示すX-Y-Z座標系は、X方向が記録ヘッド3及びインク収容体7a,7b,7c,7dの移動方向(すなわちキャリッジ4の往復移動方向と平行な方向)であるとともに、当該インクジェット記録装置1の幅方向である。また、Y方向がインクジェット記録装置1の奥行き方向(すなわち記録媒体2の移動方向)、Z方向がインクジェット記録装置1の高さ方向を示している。また、
図1において+Y方向をインクジェット記録装置1の前面側あるいは前方側とし、-Y方向をインクジェット記録装置1の背面側あるいは後方側とする。また、インクジェット記録装置1の前面側から見て右側を+X方向、左側を-X方向とする。また、+Z方向をインクジェット記録装置1の上方(上部、上面等を含む)とし、-Z方向をインクジェット記録装置1の下方(下部、下面等を含む)とする。
【0131】
1.3.インク収容体
上記のインクジェット記録装置1にはインク収容体7a,7b,7c,7dの4つのインク収容体が備えられているが、いずれも水性インク組成物を充填するための開閉可能なインク注入口71を有する。以下、インク収容体7a,7b,7c,7dのいずれとして
も用いることができるインク収容体7について
図2を参照しながら説明する。
図2は、インク収容体7を模式的に示す斜視図である。なお、
図2において示すX-Y-Z座標系は、X方向が記録ヘッド3及びインク収容体7の移動方向(すなわちキャリッジ4の往復移動方向)である。また、水性インク組成物が収容される収容室72は、
図2において、一点鎖線で表される直方体形状の空間となっている。
【0132】
1.3.1.インク収容体の形状
インク収容体7は、少なくとも、水性インク組成物を充填するための開閉可能なインク注入口71を有する。
図2の例では、インク収容体7は、インク注入口71、収容室72と、インク排出口74と、を有する。
【0133】
収容室72は、水性インク組成物を収容する。収容室72は、筐体により区画されて略直方体の形状を有している。収容室72を区画する壁は、プラスチック成形体やフィルム等により構成される。また、収容室72及び筐体は、水性インク組成物を収容、排出でき、キャリッジ4に固定して搭載できる限りにおいて任意の形状とすることができる。例えば、収容室72内には、筐体の構造的強度を高めるためにリブやピラー等の部材が設けられてもよい。
【0134】
インク収容体7は、キャリッジ4の動作にともなって、X方向に揺動される。
【0135】
収容室72は、インク注入口71及びインク排出口74に連通している。インク注入口71は、収容室72に連通する開口である。インク注入口71は、収容室72の上方(Z方向における上)に形成されている。インク注入口71には、図示せぬ蓋部材が設けられる。蓋部材は、開閉可能となっており、水性インク組成物の注ぎ足し等の必要に応じてユーザー等により操作される。
【0136】
インク排出口74は、インク注入口71は、収容室72に連通する開口である。インク排出口74は、収容室72の下方(Z方向における下)に形成されている。インク排出口74は、収容室72に収容された水性インク組成物を記録ヘッド3に向かって排出する開口である。インク排出口74には、後述するフィルター80が設けられている。
【0137】
水性インク組成物は、インク注入口71から収容室72に導入され、インク排出口74から排出される。水性インク組成物が収容室72に導入される場合には、重力の作用により、下方(Z方向における下)側に貯留され、上方(Z方向における上)側には気体が存在する状態となる。インクジェット記録装置1を用いた記録により水性インク組成物が記録ヘッド3から吐出される際には、インク排出口74から吐出量に従った水性インク組成物が排出される。なお、インク収容体7は、収容室72の内圧を調節する開口や弁、内部の水性インク組成物の量を検出する検出部等を備えてもよい。
【0138】
1.3.2.インク収容体の寸法
インク収容体7は、Y方向及びZ方向の幅に比較して、X方向の幅が小さい形状となっており、X方向がキャリッジ4の往復移動する方向(主走査方向)に一致している。本実施形態のインクジェット記録装置1では、キャリッジ4の往復移動方向に平行な方向(主走査方向)におけるインク収容体7の最大外形長が、30.0mm以下である。
【0139】
ここで、最大外形長とは、インク収容体7を+Y方向に投影した場合の±X方向の長さのうち最大の長さのことを指す。図示の例では、インク収容体7を構成する壁部のうちキャリッジ4の移動方向に垂直な壁部75の外側面は、平面となっているが、曲面であってもよいし、突起や窪みが形成されていてもよい。このような場合であっても、同様にして最大外形長を定義することができる。
【0140】
インク収容体7の主走査方向における最大外形長の上限は、より好ましくは25.0mm以下である。また、インク収容体7の主走査方向における最大外形長の下限は、好ましくは10.0mm以上、より好ましくは15.0mm以上である。
【0141】
インク収容体7の主走査方向における最大外形長がこの範囲であれば、キャリッジ4の動作にともなって、水性インク組成物を効率よく撹拌でき色材等の沈降による色ムラを抑制できるとともに、水性インク組成物の過度の撹拌による泡立ちによる連続印字安定性の低下を抑制することができるような、収容室72を形成することができる。
【0142】
インク収容体7を構成する壁部のうちキャリッジの移動方向に垂直な壁部75の厚さの最小値は、0.1mm以上5.0mm以下とすることが好ましい。より好ましくは、0.5mm以上5.0mm以下であり、さらに好ましくは1.0mm以上3.00mm以下であり、殊更に好ましくは1.5mm以上2.5mm以下である。壁部75の厚さをこの程度とすることにより、十分に水性インク組成物を撹拌できる大きさの収容室72を形成することができる。また、壁部75の厚さをこの程度とすることにより、インク収容体7の堅牢性を確保することができる。
【0143】
インク収容体7の収容室72の寸法について述べる。キャリッジ4の往復移動する方向における収容室72の最大内寸は、29.8mm以下であり、29.0mm以下であることがより好ましい。ここで、キャリッジ4の往復移動する方向における収容室72の最大内寸は、±X方向の最大長さということができる。すなわち、±X方向に平行な仮想直線でインク収容体7を貫通した場合、当該直線の収容室72内の部分の長さのうちの最大の長さである。キャリッジ4の往復移動する方向における収容室72の最大内寸の下限は、10.0mm以上、好ましくは15.0mm以上である。なお、収容室72内にリブやピラー等の部材が設けられた場合も同様である。
【0144】
収容室72の主走査方向における最大内寸がこの範囲であれば、キャリッジ4の動作にともなって、水性インク組成物を効率よく撹拌できるとともに、水性インク組成物の撹拌による泡立ちを抑制することができる。
【0145】
収容室72の容積は、一般的なインクカートリッジよりも大きく、例えば、10mL以上100mL以下、好ましくは20mL以上80mL以下、より好ましくは30mL以上50mL以下である。収容室72の容積は、上述のキャリッジ4の往復移動する方向の各寸法を確保した上で、例えばZ方向やY方向の大きさを変更することで調節することができる。
【0146】
1.3.3.インク収容体の材質
インク収容体7の材質は、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ABS樹脂、それらのブレンド、共重合体等とすることができる。インク収容体7の内壁面に対する水性インク組成物の接触角を、インク収容体7の材質を変更することにより調節してもよい。さらに、少なくともインク収容体7の内壁面に親水・撥水処理を施してもよく、これにより接触角を調節してもよい。
【0147】
1.3.4.インク収容体内の気液体積比
インク収容体には、インク組成物が収容されるが、収容されるインク組成物の量には特に好ましい範囲が存在する。すなわち、インク収容体中における液体の体積に対する気体の気液体積比(気体/液体)が、2/17以上、好ましくは3/16以上である場合に、主走査に伴うキャリッジ移動によるインク組成物の流動、攪拌の効率が非常に高くなる。ここで、液体はインク組成物であり、気体はインク収容体が密閉された場合の空気あるい
は揮発成分である。さらに、流動、撹拌の効率は、インク組成物の占める割合が小さすぎると低下することから、気液体積比(気体/液体)は、18/1以下、好ましくは15/4以下である。
【0148】
1.3.5.複数のインク収容体
本実施形態のインクジェット記録装置は、複数のインク収容体を有してもよいことは既に述べた。この場合、複数のインク収容体のそれぞれには、分散色材を含む水性インク組成物又は水溶性染料を含む水性インク組成物が収容されることができる。したがって1つのインクジェット記録装置には、分散色材を含む水性インク組成物のインク収容体のみが複数搭載されても良いし、水溶性染料を含む水性インク組成物のインク収容体のみが複数搭載されても良い。さらに、分散色材を含む水性インク組成物のインク収容体と、水溶性染料を含む水性インク組成物のインク収容体とが、搭載されてもよい。
【0149】
本実施形態のインクジェット記録装置によれば、色材等の沈降による記録物の色むらの発生や、気泡の発生による連続印字安定性の低下を良好に抑制することができるが、一方で、最大外形長の制限によりインク組成物の収容量が限られる。複数のインク収容体を設けることによって、合計のインク収容量を増やしつつ、色むらや連続印字安定性の観点でも優れたものとすることができる。
【0150】
本実施形態のインクジェット記録装置のキャリッジに複数のインク収容体が搭載される場合には、記録ヘッドは、各インク収容体に収容された水性インク組成物を吐出するようにしてもよい。
【0151】
2.インクジェット記録方法
本実施形態に係るインクジェット記録方法は、
水性インク組成物と、水性インク組成物が収容されるインク収容体と、水性インク組成物を吐出する記録ヘッドと、記録ヘッドを往復移動可能なキャリッジと、を備えたインクジェット記録装置を用いた記録方法であって、キャリッジは前記インク収容体を一体として搭載し、インク収容体は、前記水性インク組成物を充填するための開閉可能な注入口を有し、キャリッジの往復移動方向と平行な方向における前記インク収容体の最大外形長が、30.0mm以下であり、記録ヘッドから前記水性インク組成物を吐出し、記録媒体に前記水性インク組成物を付着させることを含む。
【0152】
記録媒体としては、特に限定されず、水性インク組成物を吸収する記録面を有するものであっても、水性インク組成物を吸収する記録面を有しないものであってもよい。したがって記録媒体としては、特に制限はなく、例えば、紙、フィルム、布、金属、ガラス、高分子等を用いることができる。
【0153】
3.実施例及び比較例
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。以下、「部」「%」は、特に記載のない限り、質量基準である。また、表1の数値の単位は、質量%であり、色材については固形分の含有量とした。
【0154】
3.1.水性インク組成物の調製
実施例及び比較例の水性インク組成物の組成を表1に示す。水性インク組成物は、表1に記載の成分を混合し、30分以上撹拌し、濾過することにより調製した。各成分の混合方法としては、メカニカルスターラーを備えた容器に、材料を順次添加して撹拌、混合した。その後フィルター濾過をしてインク1~インク6の水性インク組成物とした。なお、表1中の各成分の含有量を示す数値の単位は質量%である。
【0155】
【0156】
表1中の略号の成分は以下の通りである。
・BAYSCRIPT Cyan BA:Lanxess社製
・自己分散顔料:カーボンブラック(オリヱント化学工業株式会社製 CW-1)
・TEGmBE:トリエチレングリコールモノブチルエーテル(試薬、東京化成社製)
・オルフィンEXP4300:アセチレングリコール系界面活性剤、日信化学工業社製
・オルフィンE1010:アセチレングリコール系界面活性剤、日信化学工業社製
・サーフィノール104PG50:アセチレングリコール系界面活性剤、日信化学工業社製
【0157】
3.2.評価方法
表2、3に示す各条件を用いて、実施例及び比較例のインクジェット記録装置につき以下のように評価を行った。
【0158】
3.2.1.印刷
実施例及び比較例の記録装置は、セイコーエプソン株式会社製、「PX-S170T」を元にして表2、表3に示す構成を有するように改造したものを用いた。なお、キャリッジの往復移動方向と平行な方向に垂直な壁部の厚さは0.5mmとした。なお、表2、表3中、「外形の幅」とは、キャリッジの往復移動方向と平行な方向におけるインク収容体の最大外形長を表す。表中には示さないが、最大内寸は、最大外形長から1.0mm(壁部2つ分の厚さ)を差し引いた値となる。また、「気液比率」とは、インク収容体内の気液体積比(気体/液体)を表す。
【0159】
また、表2、表3中の容器の設置場所の欄に「オン」と記載した例は、オンキャリッジのことを指し、上記実施形態で説明したような、容器(インク収容体)がユーザーによって取り外しができないようにキャリッジに固定、搭載されたことを指す。「オフ」は、オフキャリッジのことを指し、インク収容体がキャリッジに搭載されておらず、装置筐体に設置された容器(インク収容体)からチューブを介してキャリッジに搭載された記録ヘッドに水性インク組成物が供給されることを指す。なお、容器の材質は、いずれもポリプロピレン製とした。
【0160】
3.2.2.接触角の測定
水性インク組成物の容器の内壁面に対する接触角は、協和界面化学社製、動的表面張力計PCA-1を用いて測定した。ポリプロピレンのシートに対して液滴を滴下して20秒後の接触角を読み取った。結果を表2、表3に記載した。
【0161】
3.2.3.色ムラの評価
まず、記録媒体に、JEITA CP3901パターンを印刷した。この印刷結果を初期状態の画質とした。次に、インク収容体を外し、遠心機(himac CF9RX(工機ホールディングス社製))にインク収容体の底面に向かって遠心力が印加されるように導入して、430rpmで360時間、稼働させた。水性インク組成物の成分の撹拌が生じないように、再度プリンターに設置した。そして、EPSON写真用紙(セイコーエプソン株式会社製)にJEITA CP3901パターンを10枚、印刷した。なお、インク収容体の取り外しは、メーカーにて行った。
【0162】
記録媒体は、Epson写真用紙(セイコーエプソン株式会社製)を用いた。
【0163】
得られたパターンを、測色機il(Xrite社製)を用いて色濃度を測定し、遠心前後での色差ΔEを求めた。以下の基準で評価して表2、表3に結果を記載した。なお、評価基準はインクの色材種ごとに以下の通りとした。
(インクの色材種が染料の場合)
A:色差ΔEが1以下
B:色差ΔEが1超2以下
C:色差ΔEが2超
(インクの色材種が顔料の場合)
A:色差ΔEが4以下
B:色差ΔEが4超10以下
C:色差ΔEが10超
【0164】
3.2.4.連続印字安定性の評価
初期充填性の評価試験の後、各プリンターを2日間放置した。2日間の放置は、インク流路に気泡がある場合に、これを安定化させることを意図して行った。その後、プリンターに設定された初期充填不良を避けるための動作としての強力クリーニングを実施した。
強力クリーニングにより、インク流路に気泡が残っていた場合には気泡が排出されると考えられる。その後、A4普通紙にISO24712にある5つの画像を1セットとして印刷し、これを1000枚印刷した。1000枚の印刷を通じて、非吐出ノズルの数により、以下の基準で評価して表2、表3に結果を記載した。
A:3本以下
B:4本以上10本未満
C:10本以上
【0165】
3.2.5.初期充填性の評価
未使用のプリンターの空のインク収容体に対して各水性インク組成物を充填し、A4普通紙にベタ画像を100枚印刷した。インク流路に気泡がある場合には、画像に抜けやヨレが発生するが、100枚の印刷を通じて、抜け・ヨレの合計数により、以下の基準で評価して表2、表3に結果を記載した。なお、抜けとはノズルチェックパターンを印刷して確認される非吐出部分を意味し、ヨレとは、ノズルチェックパターンを印刷して確認される飛行曲がりを生じる部分を意味する。
A:0本
B:1本以上5本以下
C:6本以上
【0166】
【0167】
3.3.評価結果
表2、表3に示されるように、水性インク組成物と、水性インク組成物が収容されるインク収容体と、水性インク組成物を吐出する記録ヘッドと、インク収容体及び記録ヘッドを往復移動可能なキャリッジと、を備えたインクジェット記録装置であって、キャリッジがインク収容体を一体として搭載し、インク収容体が、水性インク組成物を充填するための開閉可能な注入口を有し、キャリッジの往復移動方向と平行な方向におけるインク収容体の最大外形長が、30.0mm以下である、インクジェット記録装置である各実施例では、色ムラ及び連続印字安定性を両立できることが分かった。なお、染料インクにおいて
、染料が溶解している場合には、顔料インクのような分散系に比べ成分の沈降は生じにくいものではあるものの、溶解系であっても濃度分布が生じるため、これが染料インクにおける色ムラの原因となる。
【0168】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0169】
1…インクジェット記録装置、2…記録媒体、3…記録ヘッド、4…キャリッジ、5…主走査機構、6…プラテンローラー、7a,7b,7c,7d…インク収容体、8…タイミングベルト、9…モーター、10…ガイド軸、71…インク注入口、72…収容室、73…導出路、74…インク排出口、75…壁部