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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】親水性基材及び親水性基材作製方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 183/00 20060101AFI20240409BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20240409BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
C09D183/00
C09K3/00 R
B32B27/00 101
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019182374
(22)【出願日】2019-10-02
(65)【公開番号】P2021055035
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-08-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】皆川 康久
(72)【発明者】
【氏名】瀧井 美都子
【審査官】仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-516822(JP,A)
【文献】特開2006-076829(JP,A)
【文献】特開平11-100234(JP,A)
【文献】国際公開第2017/026439(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/122503(WO,A1)
【文献】特表2019-523696(JP,A)
【文献】特開2008-048684(JP,A)
【文献】特開2009-185088(JP,A)
【文献】国際公開第1998/025761(WO,A1)
【文献】特開2008-132474(JP,A)
【文献】特開2010-196055(JP,A)
【文献】特表2002-511509(JP,A)
【文献】特表2009-543895(JP,A)
【文献】国際公開第2018/230313(WO,A1)
【文献】特表2009-523237(JP,A)
【文献】特開2007-121786(JP,A)
【文献】特開2010-065082(JP,A)
【文献】特表2004-505124(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 183/00
C09K 3/00
B32B 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水化処理済の基材表面の少なくとも一部に親水性シラン化合物層が形成され
前記親水化処理は、アルカリ溶液処理及び/又は紫外線照射処理であり、
前記親水性シラン化合物層にフィブロネクチンが吸着されており、
前記親水性シラン化合物層は、下記式(I)で表される親水性シラン化合物を用いて形成されたものであり、
水の接触角が80度以下である親水性基材。
【化1】
(式中、R 11 は、1価の炭化水素基を表す。R 12 及びR 13 は、同一若しくは異なって、2価の炭化水素基を表す。X 11 は、同一若しくは異なって、アルコキシ基を表す。X 12 は、同一若しくは異なって、1価の炭化水素基又はハロゲン基を表す。mは、1~50を表す。nは、0~3を表す。)
【請求項2】
前記親水性シラン化合物層は、親水性シラン化合物溶液及び/又は親水性シラン化合物分散液を用いて形成されたものである請求項記載の親水性基材。
【請求項3】
前記親水性シラン化合物層は、前記親水化処理を施した後、3時間以内に前記親水性シラン化合物溶液及び/又は前記親水性シラン化合物分散液による処理を開始して形成されたものである請求項記載の親水性基材。
【請求項4】
前記式(I)で表されるシラン化合物は、下記式(I-1)で表される化合物である請求項1~3のいずれかに記載の親水性基材。
【化2】
(式中、R21は、メチル基又はエチル基を表す。X11は、同一若しくは異なって、アルコキシ基を表す。X12は、同一若しくは異なって、1価の炭化水素基又はハロゲン基を表す。pは、1~8を表す。mは、1~50を表す。nは、0~3を表す。kは、1~20を表す。)
【請求項5】
前記親水性シラン化合物層の厚みが1~50nmである請求項1~のいずれかに記載の親水性基材。
【請求項6】
基材表面を親水化処理した後、前記親水化処理を施した親水化処理表面の少なくとも一部に親水性シラン化合物層を形成し、
前記親水化処理は、アルカリ溶液処理及び/又は紫外線照射処理であり、
前記親水性シラン化合物層にフィブロネクチンを吸着させ、
前記親水性シラン化合物層は、下記式(I)で表される親水性シラン化合物を用いて形成されたものであり、
水の接触角が80度以下である親水性基材作製する方法。
【化3】
(式中、R 11 は、1価の炭化水素基を表す。R 12 及びR 13 は、同一若しくは異なって、2価の炭化水素基を表す。X 11 は、同一若しくは異なって、アルコキシ基を表す。X 12 は、同一若しくは異なって、1価の炭化水素基又はハロゲン基を表す。mは、1~50を表す。nは、0~3を表す。)
【請求項7】
前記親水性シラン化合物層は、親水性シラン化合物溶液及び/又は親水性シラン化合物分散液を用いて形成されたものである請求項記載の親水性基材作製する方法。
【請求項8】
前記親水性シラン化合物層は、前記親水化処理を施した後、3時間以内に前記親水性シラン化合物溶液及び/又は前記親水性シラン化合物分散液による処理を開始して形成されたものである請求項記載の親水性基材作製する方法。
【請求項9】
前記親水性シラン化合物層の厚みが1~50nmである請求項のいずれかに記載の親水性基材作製する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水化処理済の基材表面に親水性シラン化合物層が形成された親水性基材、及びその作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血液及び体液中の特定の細胞(血球細胞、血液・体液中に存在するがん細胞等)を捕捉するための器具を作製するために、基材表面を特殊な高分子でコーティングする技術が提案されている。
【0003】
しかしながら、特殊な高分子の中には、コーティングで平滑な表面を作製し難いものがあり、表面の凹凸性は、特定細胞の捕捉性能に影響することから、がん細胞等の特定細胞の捕捉性能等に優れた凹凸性がコントロールされた表面が形成された基材の提供が望まれている(特許文献1等参照)。また、通常、水溶液中で特定細胞の捕捉が行われるため、水溶液中での表面の凹凸性や平滑性がコントロールされた表面を有する基材の提供も望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2005-523981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記課題を解決し、表面の凹凸性が少なく、平滑性が高い親水性シラン化合物層が形成された親水性基材、及びその作製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、親水化処理済の基材表面の少なくとも一部に親水性シラン化合物層が形成された親水性基材に関する。
【0007】
前記親水性基材において、前記親水化処理は、アルカリ溶液処理であることが好ましい。
前記親水性基材において、前記親水化処理は、紫外線照射処理、電子線照射処理、イオン照射処理、及びプラズマ処理からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0008】
前記親水性基材において、前記親水性シラン化合物層は、親水性シラン化合物溶液及び/又は親水性シラン化合物分散液を用いて形成されたものであることが好ましい。
【0009】
前記親水性基材において、前記親水性シラン化合物層は、前記親水化処理を施した後、3時間以内に前記親水性シラン化合物溶液及び/又は前記親水性シラン化合物分散液による処理を開始して形成されたものであることが好ましい。
【0010】
前記親水性基材において、前記親水性シラン化合物層は、下記式(I)で表される親水性シラン化合物を用いて形成されたものであることが好ましい。
【化1】
(式中、R11は、1価の炭化水素基を表す。R12及びR13は、同一若しくは異なって、2価の炭化水素基を表す。X11は、同一若しくは異なって、アルコキシ基を表す。X12は、同一若しくは異なって、1価の炭化水素基又はハロゲン基を表す。mは、1~50を表す。nは、0~3を表す。)
【0011】
前記親水性基材において、前記式(I)で表されるシラン化合物は、下記式(I-1)で表される化合物であることが好ましい。
【化2】
(式中、R21は、メチル基又はエチル基を表す。X11は、同一若しくは異なって、アルコキシ基を表す。X12は、同一若しくは異なって、1価の炭化水素基又はハロゲン基を表す。pは、1~8を表す。mは、1~50を表す。nは、0~3を表す。kは、1~20を表す。)
【0012】
前記親水性基材において、前記親水性シラン化合物層にフィブロネクチンが吸着されていることが好ましい。
前記親水性基材において、前記親水性シラン化合物層の厚みが1~50nmであることが好ましい。
【0013】
本発明はまた、基材表面を親水化処理した後、前記親水化処理を施した親水化処理表面の少なくとも一部に親水性シラン化合物層を形成する親水性基材作製方法に関する。
【0014】
前記親水性基材作製方法において、前記親水化処理は、アルカリ溶液処理であることが好ましい。
前記親水性基材作製方法において、前記親水化処理は、紫外線照射処理、電子線照射処理、イオン照射処理、及びプラズマ処理からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0015】
前記親水性基材作製方法において、前記親水性シラン化合物層は、親水性シラン化合物溶液及び/又は親水性シラン化合物分散液を用いて形成されたものであることが好ましい。
【0016】
前記親水性基材作製方法において、前記親水性シラン化合物層は、前記親水化処理を施した後、3時間以内に前記親水性シラン化合物溶液及び/又は前記親水性シラン化合物分散液による処理を開始して形成されたものであることが好ましい。
【0017】
前記親水性基材作製方法において、前記親水性シラン化合物層は、下記式(I)で表される親水性シラン化合物を用いて形成されたものであることが好ましい。
【化3】
(式中、R11は、1価の炭化水素基を表す。R12及びR13は、同一若しくは異なって、2価の炭化水素基を表す。X11は、同一若しくは異なって、アルコキシ基を表す。X12は、同一若しくは異なって、1価の炭化水素基又はハロゲン基を表す。mは、1~50を表す。nは、0~3を表す。)
【0018】
前記親水性基材作製方法において、前記親水性シラン化合物層の厚みが1~50nmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、親水化処理済の基材表面の少なくとも一部に親水性シラン化合物層が形成された親水性基材であるので、表面の凹凸性が少なく、平滑性が高い親水性シラン化合物層が形成された親水性基材を提供できる。従って、がん細胞等の特定細胞の捕捉性能の向上が期待できる。また、親水性シラン化合物層が強固に親水化処理済の基材表面に結合しているため、表面の洗浄等で有機溶媒等を用いた場合でも、溶け出ることがほとんどなく、溶出を充分に抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の親水性基材は、親水化処理済の基材表面の少なくとも一部(一部又は全部)に親水性シラン化合物層が形成されたものである。予め親水化処理を施した基材の表面に親水性シラン化合物層を形成することにより、表面の凹凸性がコントロールされ、表面粗さが小さく、平滑性の高い親水性シラン化合物層が被覆された親水性基材を提供できる。
【0021】
血中循環腫瘍細胞(数個~数百個/血液1mL)等の体液中にでてきた腫瘍細胞(がん細胞等)は、非常に数が少なく、検査に供するには、採取した体液中に存在する腫瘍細胞をできる限り多く捕捉することが重要と考えられる。本発明は、親水化処理を施した基材の表面に親水性シラン化合物を被覆することで、表面の凹凸性がコントロールされ、表面粗さが小さく、平滑性の高い親水性シラン化合物層が形成される。そして、親水性シラン化合物層の凹凸性はがん細胞等の特定細胞の捕捉性に影響を与え、表面の凹凸性をコントロールし、平滑性を高くすることで、優れた特定細胞の捕捉性能を奏することが期待される。従って、親水化処理済基材表面の親水性シラン化合物層に捕捉された腫瘍細胞の数を測定することで、体液中の腫瘍細胞数が判り、がん治療効果の確認等を期待できる。また、捕捉した腫瘍細胞を培養し、その培養した細胞で抗がん剤等の効き目を確認することで、抗がん剤等の投与前に、体の外で、抗がん剤等の効き目を確認できると同時に、抗がん剤等の選定にも役立つ。
【0022】
前記親水化処理済の基材(基材表面)は、基材の表面に親水化処理を施すことにより作製できる。基材としては、ソーダ石灰ガラス、ほうケイ酸ガラス等のガラス、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸等のアクリル樹脂(ポリアクリル樹脂)、シクロオレフィン樹脂(ポリシクロオレフィン)、カーボネート樹脂(ポリカーボネート)、スチレン樹脂(ポリスチレン)、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル樹脂、ポリジメチルシロキサン等が挙げられる。基材としては更に、金属基材も使用できる。金属基材を構成する金属材料としては、ステンレス、ニッケル-チタン合金、鉄、チタン、アルミニウム、スズ、亜鉛-タングステン合金などの金属が挙げられる。なかでも、生体適合性の観点からは、ステンレス、ニッケル-チタン合金が好ましい。
【0023】
親水化処理としては、基材表面の親水化処理が可能な任意の方法を使用でき、例えば、アルカリ溶液処理、紫外線照射処理、電子線照射処理、イオン照射処理、プラズマ処理等が挙げられる。なかでも、親水性シラン化合物層の凹凸性のコントロールの観点から、アルカリ溶液処理、紫外線照射処理が好ましい。
【0024】
アルカリ溶液処理(アルカリ溶液による表面処理)に用いるアルカリ化合物としては、例えば、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、アンモニア水等の無機アルカリ化合物、テトラメチルアンモニウムオキサイド等の有機アルカリ化合物が挙げられる。なかでも、親水性シラン化合物層の凹凸性のコントロールの観点から、無機アルカリ化合物が好ましく、アルカリ金属水酸化物がより好ましい。アルカリ金属水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等が列挙される。アルカリ土類金属水酸化物としては、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム等が列挙される。アルカリ化合物は、単独又は2種以上を併用してもよい。
【0025】
アルカリ溶液(アルカリ化合物を溶解した液)としては、アルカリ化合物の水溶液、有機溶液等が挙げられる。なかでも、アルカリ化合物の水溶液(アルカリ水溶液)が好ましい。アルカリ溶液の濃度は、処理効率、親水性シラン化合物層の凹凸性等を考慮して適宜設定すればよく、例えば、0.01~5M(モル/L)の溶液を使用できる。下限は、好ましくは0.05M以上、より好ましくは0.10M以上である。上限は、好ましくは4M以下、より好ましくは3M以下である。
【0026】
アルカリ溶液による表面処理の方法は、アルカリ溶液と基材表面が接触可能な方法を適宜使用でき、例えば、アルカリ溶液への浸漬方法、刷毛等による塗布方法、スプレー法等が挙げられる。アルカリ溶液処理の処理温度及び処理時間は、親水性シラン化合物層の凹凸性、処理効率等を考慮して適宜設定すればよく、例えば、処理温度は5~80℃、処理時間は1秒~6時間が適当である。
【0027】
アルカリ溶液処理は、親水性シラン化合物層の凹凸性の観点から、アルカリ溶液を攪拌、振とう等をしながら、実施することが好ましい。アルカリ溶液処理は、1回でも複数回でも良く、親水性シラン化合物層の凹凸性等を考慮して適宜設定すればよい。
【0028】
アルカリ溶液処理の後、必要に応じて、水によるリンス洗浄、高圧洗浄、スクラブ洗浄等より基板表面からアルカリ溶液を除去し、乾燥処理等を行う。
【0029】
紫外線照射処理としては、公知の紫外線照射装置を用いて実施できる。該装置としては、光源、灯具、電源、冷却装置、搬送装置等を備えたものが挙げられる。光源としては、水銀ランプ、メタルハライドランプ、カリウムランプ、水銀キセノンランプ、フラッシュランプなどが挙げられる。光源の波長や、紫外線照射の条件は、特に制限はなく、適宜選択すればよい。
【0030】
電子線照射処理は、電子を照射する処理の全般であり、アーク放電、コロナ放電等の放電現象、γ線照射処理等が挙げられる。加速電圧は、基材へのダメージ等を考慮して適宜選択すればよい。
【0031】
イオン照射処理としては、水素イオン照射、アルゴンイオン照射等の公知の方法が挙げられる。プラズマ処理としては、水素プラズマ照射、アルゴンプラズマ照射等の公知の方法が挙げられる。照射条件は、基材へのダメージ等を考慮して適宜選択すればよい。
【0032】
前記親水化処理済の基材表面(親水性シラン化合物層未形成)の少なくとも一部(一部又は全部)は、水の接触角が50度以下であることが好ましく、40度以下であることがより好ましく、30度以下であることが更に好ましい。下限は特に限定されず、小さいほど良好である。
本明細書において、水の接触角は、後述の実施例に記載の方法で測定可能である。
【0033】
前記親水性基材は、親水化処理済の基材表面の少なくとも一部(一部又は全部)に親水性シラン化合物層が形成されたものであるが、基材表面と親水性シラン化合物層との間にプライマー層を形成してもよい。プライマー層としては、例えば、後述の親水性シラン化合物以外のアルコキシ基を有するシラン化合物を用いて形成される層を好適に使用できる。該アルコキシ基の炭素数は、好ましくは1~22、より好ましくは1~16である。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基及びブトキシ基からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。なかでも、エトキシ基及び/又はブトキシ基を有するシラン化合物がより好ましく、エトキシ基及びブトキシ基を有するシラン化合物が更に好ましい。前記アルコキシ基を有するシラン化合物は、アルキル基等の炭化水素基を有する化合物でもよい。該アルキル基の炭素数は、1~6が好ましく、1~4がより好ましい。アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等の炭素数1~8のアルキル基等が挙げられる。
【0034】
プライマー層を構成する前記シラン化合物としては、1個のアルコキシ基を有するモノアルコキシシラン、2個のアルコキシ基を有するジアルコキシシラン、3個のアルコキシ基を有するトリアルコキシシラン、4個のアルコキシ基を有するテトラアルコキシシランが挙げられ、下記式(1)で示される化合物等を使用できる。
11 Si(OR124-k (1)
(式中、各々のR11、R12は、同一若しくは異なって、炭素数1~8の飽和又は不飽和炭化水素基を表し、R11とR12は同一の基でも異なる基でもよい。kは0~3の整数を表す。)
なかでも、2個以上のアルコキシ基を有する化合物が好ましく、3個以上のアルコキシ基を有する化合物がより好ましい。
【0035】
前記式(1)において、R11、R12の炭素数は、好ましくは1~6、より好ましくは1~4である。R11、R12は、飽和炭化水素基であることが好ましい。
【0036】
具体的なモノアルコキシシランとしては、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリメチルプロポキシシラン、トリエチルメトキシシラン、トリエチルエトキシシラン、トリプロピルプロポキシシランなどが挙げられる。ジアルコキシシランとしては、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジプロポキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、メチルエチルジメトキシシラン、メチルエチルジエトキシシラン、ジプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。トリアルコキシシランとしては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ブチルトリメトキシシランなどが挙げられる。テトラアルコキシシランとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、ジブトキシジエトキシシラン、ブトキシトリエトキシシラン、エトキシトリエトキシシランなどが挙げられる。
【0037】
プライマー層を構成する前記シラン化合物として、下記式(2)で示される化合物も好適に使用できる。
(R21O)Si(OR22 (2)
(式中、R21及びR22は、同一若しくは異なって、炭素数1~8の飽和又は不飽和炭化水素基を表す。平均値として、m+n=4、m≧n≧0である。)
【0038】
前記式(2)において、R21、R22の炭素数は、好ましくは1~6、より好ましくは1~4である。また、R21、R22は、飽和炭化水素基であることが好ましい。
【0039】
前記式(2)で示されるシラン化合物としては、例えば、下記式(2-1)で示されるブトキシ/エトキシ系テトラアルコキシシラン(フロロテクノロジー製「プライマーコートPC-3B」)を使用できる。
式(2-1)
(HC-CH-CH-CH-O-)-Si-(O-CH-CH
(式中、平均値として、m+n=4、m>n>0である。)
【0040】
プライマー層の形成は、親水化処理済の基材表面と、プライマー層を構成する前記シラン化合物とを接触させることが可能な任意の方法で実施できる。例えば、親水化処理済の基材表面への前記シラン化合物やその溶液の塗布、噴霧(吹き付け)、前記シラン化合物やその溶液への親水化処理済の基材の浸漬、等の方法が挙げられる。処理(形成)後、公知の手法で、洗浄、乾燥等を適宜行ってもよい。なお、前記シラン化合物の溶液は、その種類に応じて、溶媒、濃度等を適宜選択して調製すればよい。
【0041】
前記親水性基材には、親水化処理済の基材表面の少なくとも一部(一部又は全部)に、必要に応じてプライマー層を介して、親水性シラン化合物層が形成されている。親水性シラン化合物層を構成する親水性シラン化合物としては、親水性を有するシラン化合物を適宜選択すればよい。親水性シラン化合物は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0042】
親水性シラン化合物層を構成する親水性シラン化合物としては、親水性を有するシラン化合物を任意に選択すればよいが、親水性シラン化合物層の凹凸性等の観点から、ポリアルキレンオキシド基を含有する親水性シラン化合物等が好ましく、例えば、[メトキシ(ポリエチレンオキシ)プロピル]トリメトキシシラン等の[アルコキシ(ポリアルキレンオキシ)アルキル]トリアルコキシシラン等を好適に使用できる。
【0043】
ポリアルキレンオキシド基を含有する親水性シラン化合物としては、親水性シラン化合物層の凹凸性等の観点から、例えば、下記式(I)で表される化合物を好適に使用できる。なお、式(I)で表される化合物を用いる場合、親水性シラン化合物として、1種又は2種以上の式(I)で表される化合物の他、1種又は2種以上の式(I)で表される化合物と1種又は2種以上の他のシラン化合物との混合物も好適に使用できる。
【化4】
(式中、R11は、1価の炭化水素基を表す。R12及びR13は、同一若しくは異なって、2価の炭化水素基を表す。X11は、同一若しくは異なって、アルコキシ基を表す。X12は、同一若しくは異なって、1価の炭化水素基又はハロゲン基を表す。mは、1~50を表す。nは、0~3を表す。)
【0044】
式(I)において、R11の1価の炭化水素基としては、直鎖、環状若しくは分枝のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基等が挙げられ、特にアルキル基が好ましい。1価の炭化水素基は、置換又は非置換のいずれでもよい。式(I)において、R11の炭素数は、1~18が好ましく、1~10がより好ましく、1~4が更に好ましい。R11の1価の炭化水素基の具体例としては、置換若しくは非置換のメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等が挙げられる。
【0045】
式(I)において、R12及びR13の2価の炭化水素基としては、直鎖、環状若しくは分枝のいずれの基でもよく、特に直鎖状の基が好ましい。2価の炭化水素基は、置換若しくは非置換のいずれでもよい。式(I)において、R12の2価炭化水素基として、具体的には、置換若しくは非置換の炭素数1~30のアルキレン基、炭素数2~30のアルケニレン基、炭素数5~30のシクロアルキレン基、炭素数6~30のシクロアルキルアルキレン基、炭素数6~30のアリーレン基、炭素数7~30のアラルキレン基等が挙げられる。なかでも、R12は、置換若しくは非置換の炭素数1~18のアルキレン基が好ましく、炭素数1~10のアルキレン基がより好ましく、炭素数1~6のアルキレン基が更に好ましい。R13は、置換若しくは非置換の炭素数1~20のアルキレン基が好ましく、炭素数1~14のアルキレン基がより好ましく、炭素数1~12のアルキレン基が更に好ましい。R12及びR13の具体例としては、置換若しくは非置換のメチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基などが挙げられる。
【0046】
式(I)において、X11のアルコキシ基は、分岐、非分岐のいずれでもよい。式(I)において、アルコキシ基の炭素数は、1~12が好ましく、1~8がより好ましく、1~5が更に好ましい。アルコキシ基の具体例としては、メトキシ基、エトシキ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、iso-ブトキシ基、sec-ブトシキ基、tert-ブトシキ基、ペンチルオキシ基、へキシルオキシ基、へプチルオキシ基、2-エチルヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、ノニルオキシ基などが挙げられる。
【0047】
式(I)において、X12の1価の炭化水素基としては、R11の1価の炭化水素基と同様の基が挙げられる。X12のハロゲン基(ハロゲン原子)としては、フッ素、塩素、臭素などが挙げられる。
【0048】
式(I)において、mは、1~40が好ましく、1~30がより好ましく、1~25が更に好ましい。
式(I)において、nは、1~3が好ましく、2~3がより好ましい。
なお、式(I)において、R11、R12、R13、X11、X12の置換基は、特に限定されず、水酸基などの官能基が挙げられる。
【0049】
前記式(I)で表される親水性シラン化合物としては、例えば、下記式(I-1)で表される親水性シラン化合物を好適に使用できる。なお、式(I-1)で表される化合物を用いる場合、親水性シラン化合物として、1種又は2種以上の式(I-1)で表される化合物の他、1種又は2種以上の式(I-1)で表される化合物と1種又は2種以上の他のシラン化合物との混合物も好適に使用できる。
【化5】
(式中、R21は、メチル基又はエチル基を表す。X11は、同一若しくは異なって、アルコキシ基を表す。X12は、同一若しくは異なって、1価の炭化水素基又はハロゲン基を表す。pは、1~8を表す。mは、1~50を表す。nは、0~3を表す。kは、1~20を表す。)
【0050】
式(I-1)において、X11、X12、m、nは、前記と同様である。pは、1~5が好ましく、1~3がより好ましい。なお、-C2pO-で示される基は、直鎖若しくは分枝のいずれでもよく、特に直鎖状が好ましい。kは、1~16が好ましく、1~12がより好ましい。
【0051】
親水性シラン化合物層(親水性シラン化合物を用いて形成される層)の膜厚は、好ましくは1~50nm、より好ましくは1~30nm、更に好ましくは1~20nmである。親水性シラン化合物層がこのような薄い膜厚の場合、層表面の凹凸がほとんど生じない。そのため、平滑性の高い層が形成され、がん細胞、幹細胞等の特定細胞について、良好な接着性、粘着性に繋がる。
【0052】
親水性シラン化合物層の表面(前記親水性基材における親水性シラン化合物層の表面)の少なくとも一部(一部又は全部)は、水の接触角が80度以下であることが好ましく、60度以下であることがより好ましく、50度以下であることが更に好ましい。下限は特に限定されず、小さいほど良好である。
【0053】
親水性シラン化合物層の表面(前記親水性基材における親水性シラン化合物層の表面)は、表面粗さRaが0.1以下であることが好ましく、より好ましくは0.05以下、更に好ましくは0.025以下である。下限は特に限定されず、小さいほど良好である。
なお、本明細書において、表面粗さRaは、JIS B0601-2001で規定される中心線表面粗さRaである。
【0054】
前記親水性シラン化合物層は、基材に親水化処理を施して作製された親水化処理済の基材の表面に、親水性シラン化合物を処理する(接触させる)ことにより、形成可能である。例えば、親水化処理済の基材表面に、親水性シラン化合物溶液及び/又は親水性シラン化合物分散液を接触させることが可能な任意の方法により、親水性シラン化合物層を形成できる。
【0055】
なお、親水性シラン化合物層は、親水化処理を施した後、3時間以内に親水性シラン化合物溶液及び/又は親水性シラン化合物分散液による処理を開始して形成されることが好ましい。例えば、紫外線照射処理を施して親水化処理済の基材を作製した後、長時間経過すると、親水化が時間と共に低下する。そのため、3時間以内に親水性シラン化合物による処理を開始する方が望ましい。3時間以内に処理を開始できない場合でも、親水化処理後に水及び/又はアルコール等の極性溶媒を親水化処理済みの基材に接触させておくことにより、長時間経過後も親水化を維持できる。
【0056】
具体的には、(1)親水性シラン化合物を各種溶剤に溶解・分散した親水性シラン化合物溶液・分散液を、親水化処理済の基材表面に滴下又は注入し、所定時間保持、乾燥する方法、(2)該親水性シラン化合物溶液・分散液を基材表面に塗工(噴霧)しい、所定時間保持、乾燥する方法、等、公知の手法により、親水化処理済の基材表面の全部又は一部に親水性シラン化合物溶液・分散液を接触させ、所定時間保持、乾燥することで、親水性シラン化合物により形成される親水性シラン化合物層が形成された親水性基材(親水性シラン化合物からなる親水性シラン化合物層が表面の一部又は全部に形成された親水性基材)を製造できる。そして、親水化処理済の基材表面に親水性シラン化合物層が形成された親水性基材に、必要に応じて他の部品を追加することで、特定細胞の捕捉、培養、検査等が可能な装置を製造できる。
【0057】
溶剤、注入方法、塗工(噴霧)方法などは、従来公知の材料及び方法を適用できる。
(1)、(2)の保持、乾燥時間は、基材の大きさ、導入する液種、等により適宜設定すれば良い。保持時間は、10秒~100時間が好ましく、1分~60時間がより好ましく、5分~40時間が更に好ましい。乾燥は、20~80℃で行うことが好ましく、20~60℃で行うことがより好ましい。また、減圧して乾燥しても良い。更に、保持して一定時間後、適宜、余分な親水性シラン化合物溶液・分散液を排出し、乾燥してもよい。
【0058】
溶剤としては、親水性シラン化合物の溶解が可能なものであれば特に限定されず、使用する親水性シラン化合物に応じて適宜選択すれば良い。例えば、水、有機溶媒、これらの混合溶媒が挙げられ、有機溶媒としては、メタノール、エタノール、n-プロパノール、i-プロパノール、メトキシプロパノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;テトラヒドロフラン、アセトニトリル、酢酸エチル、トルエン、DMSO(ジメチルスルホキシド)等が列挙される。
【0059】
親水化処理済の表面上に親水性シラン化合物層を形成した後(親水性シラン化合物溶液・分散液を親水化処理済の基材表面に接触、所定時間保持した後等)、更に、湿度50%以上の条件下に保持してもよい。湿度50%以上の環境下に保持することにより、基材表面に対する親水性シラン化合物層の反応性(結合性)を高めることができる。前記湿度は、60%以上がより好ましく、70%以上が更に好ましい。上限は特に制限されず、100%でもよい。
【0060】
湿度50%以上の条件下の保持において、該保持時間、保持温度は、基材表面に対する親水性シラン化合物層の接着性(結合性)の観点から、適宜設定すればよく、例えば、保持時間は0.5~60時間、保持温度は20~60℃が好ましい。
【0061】
親水性シラン化合物層表面にフィブロネクチンが吸着されていることが好ましい。
該親水性シラン化合物層の表面に更にフィブロネクチンが吸着させているため、がん細胞等の特定細胞が吸着性(接着性)が向上する。
【0062】
親水性シラン化合物層にフィブロネクチンを吸着させる方法は特に限定されず、公知の方法を適用できる。例えば、親水性シラン化合物層にフィブロネクチンの緩衝溶液(リン酸緩衝生理食塩水PBS等)を公知の方法で接触させ、所定温度で所定時間放置し、必要に応じて洗浄する方法、等で吸着させることができる。温度、時間は適宜設定すればよく、例えば、10~60℃、0.1~24時間程度で実施できる。
【0063】
親水性シラン化合物層上にフィブロネクチンを吸着させるという点から、フィブロネクチン濃度を、好ましくは0.5~500μg/ml、より好ましくは1~250μg/mlに調整した溶液、分散液等を用いることが好適である。上記範囲内の濃度に調整することで、がん細胞等の特定細胞について優れた捕捉性が得られる。
【0064】
本発明の親水性基材作製方法は、基材表面を親水化処理した後、前記親水化処理を施した親水化処理表面の少なくとも一部に親水性シラン化合物層を形成する方法である。前述のように、先ず基材表面に親水化処理を施し、次いで、該処理が施された親水化処理済の表面上に親水性シラン化合物層を形成することにより、表面の凹凸性がコントロールされ、表面粗さが小さく、平滑性の高い親水性シラン化合物層を形成できる。
【0065】
例えば、試料(血液又は体液)を、親水化処理済の基材表面の少なくとも一部に親水性シラン化合物層が形成された親水性基材に接触させることで、特定細胞の捕捉が期待できる。そして、捕捉した特定細胞の数を測定することで、採取した血液又は体液中の特定細胞数が判り、がん治療効果の確認等が期待される。
【実施例
【0066】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0067】
(実施例1)
スランドチャンバー(スライドガラス部:ソーダ石灰ガラス、チャンバーサイズ:20mm×20mm)表面に、1N NaOH水溶液を1mL注入し、1時間静置した(23℃)。その後、NaOH水溶液を吸出し、水で3回洗浄し、親水化を行った(親水化処理済の基材)。
Gelest社製の「SIM6492.7」(2-[メトキシ(ポリエチレンオキシ)プロピル]トリメトキシシラン、CHO-(CHCHO)6-9-(CHSi(OCH)の水/メタノール(50質量%/50質量%)の0.5質量%溶液を作製した。
親水化を行ったスランドチャンバー(親水化処理済の基材)に、親水化後1時間以内に前記溶液を200μl注入して、室温で静置した(20時間)。その後、高湿下(湿度75%)、40℃の条件で4時間静置した。その後、50℃4時間で真空乾燥した後、水およびメタノールで洗浄することで、親水性シラン化合物層が形成された基材(親水性基材)を作製した。
【0068】
(実施例2)
Gelest社製の「SIM6492.7」をGelest社製の「SIM6492.72」(2-[メトキシ(ポリエチレンオキシ)プロピル]トリメトキシシラン、CHO-(CHCHO)9-12-(CHSi(OCH)に変更した以外は、実施例1と同様に親水性シラン化合物層が形成された基材(親水性基材)を作製した。
【0069】
(実施例3)
スランドチャンバー(スライドガラス部:ソーダ石灰ガラス、チャンバーサイズ:20mm×20mm)表面に、UV照射装置((株)オーク製作所製:HMW-615N-4、9.6mW/cmの低圧UV)で、UVを30分照射して、親水化を行った(親水化処理済の基材)。
Gelest社製の「SIM6492.7」(2-[メトキシ(ポリエチレンオキシ)プロピル]トリメトキシシラン、CHO-(CHCHO)6-9-(CHSi(OCH)の水/メタノール(50質量%/50質量%)の0.5質量%溶液を作製した。
親水化を行ったスランドチャンバー(親水化処理済の基材)に、親水化後1時間以内に前記溶液を200μl注入して、室温で静置した(20時間)。その後、高湿下(湿度75%)、40℃の条件で4時間静置した。その後、50℃4時間で真空乾燥した後、水およびメタノールで洗浄することで、親水性シラン化合物層が形成された基材(親水性基材)を作製した。
【0070】
(実施例4)
Gelest社製の「SIM6492.7」をGelest社製の「SIM6492.72」(2-[メトキシ(ポリエチレンオキシ)プロピル]トリメトキシシラン、CHO-(CHCHO)9-12-(CHSi(OCH)に変更した以外は、実施例3と同様に親水性シラン化合物層が形成された基材(親水性基材)を作製した。
【0071】
(実施例5)
Gelest社製の「SIM6492.7」をGelest社製の「SIM6492.73」(2-[メトキシ(ポリエチレンオキシ)プロピル]トリメトキシシラン、CHO-(CHCHO)21-24-(CHSi(OCH)に変更した以外は、実施例3と同様に親水性シラン化合物層が形成された基材(親水性基材)を作製した。
【0072】
(実施例6)
Gelest社製の「SIM6492.7」をGelest社製の「SIM6493.4」(メトキシトリエチレンオキシプロピルトリメトキシシラン、CHO-(CHCHO)-(CHSi(OCH)の水/n-ブタノール(25質量%/75質量%)に変更した以外は、実施例3と同様に親水性シラン化合物層が形成された基材(親水性基材)を作製した。
【0073】
(実施例7)
Gelest社製の「SIM6492.7」をGelest社製の「SIM6493.7」(メトキシトリエチレンオキシウンデシルトリメトキシシラン、CHO-(CHCHO)-(CH11Si(OCH)の水/n-ブタノール(25質量%/75質量%)に変更した以外は、実施例3と同様に親水性シラン化合物層が形成された基材(親水性基材)を作製した。
【0074】
(実施例8)
スランドチャンバー(スライドガラス部:ソーダ石灰ガラス、チャンバーサイズ:20mm×20mm)表面に、UV照射装置((株)オーク製作所製:HMW-615N-4、9.6mW/cmの低圧UV)で、UVを30分照射して、親水化を行った(親水化処理済の基材)。
Gelest社製の「SIM6492.7」(2-[メトキシ(ポリエチレンオキシ)プロピル]トリメトキシシラン、CHO-(CHCHO)6-9-(CHSi(OCH)の水/メタノール(50質量%/50質量%)の0.5質量%溶液を作製した。
親水化を行ったスランドチャンバー(親水化処理済の基材)に、親水化後1時間以内に前記溶液を200μl注入して、室温で静置した(20時間)。その後、高湿下(湿度75%)、40℃の条件で4時間静置した。その後、50℃4時間で真空乾燥した後、水およびメタノールで洗浄することで、親水性シラン化合物層が形成された基材を作製した。
更に、形成した親水性シラン化合物層の表面に、フィブロネクチンを吸着させた。具体的にはフィブロネクチンのPBS溶液(リン酸緩衝生理食塩水)200μg/mlを作製し、40℃1時間放置した後、PBS溶液で洗浄することで親水性シラン化合物層が形成された基材(親水性基材)を作製した。
【0075】
(比較例1)
スランドチャンバー(スライドガラス部:ソーダ石灰ガラス、チャンバーサイズ:20mm×20mm)を使用した(未処理)。
【0076】
実施例、比較例で作製した親水性シラン化合物層が形成された基材(親水性基材)を、以下の方法で評価した。
【0077】
〔水の接触角(親水化処理済の基材)〕
親水化処理済の基材の表面に蒸留水2μlを滴下し、30秒後の接触角をθ/2法(室温)で測定した。
なお、実施例1、2はNaOH水溶液処理後1時間後に、実施例3~8はUV処理後10分後に接触角を測定した。UV処理による親水化は時間と共に効果が少なくなり、3時間後には接触角が10度を超えた。
【0078】
〔水の接触角(親水性基材)〕
作製された親水性基材の表面(親水性シラン化合物層の表面)に蒸留水2μlを滴下し、30秒後の接触角をθ/2法(室温)で測定した。
【0079】
〔親水性シラン化合物層(コーティング層)の膜厚〕
親水性基材の親水性シラン化合物層の膜厚は、親水性シラン化合物層の断面を、TEMを使用し、加速電圧15kV、1000倍で測定(撮影)した。
【0080】
〔表面粗さRa〕
レーザー顕微鏡を用いて、非接触で表面粗さを1つの親水性基材(親水性シラン化合物層)で4箇所(第1ピーク)測定し、そのRaの4点の平均を表面粗さRaとした(JIS B 0601-2001で規定される中心線表面粗さRaの平均)。
【0081】
【表1】
【0082】
水の接触角(親水化処理済の基材)が低く、親水性シラン化合物が十分に反応して、表面に固定された。実施例1~8の親水性シラン化合物層が形成された基材(親水化基材)は、比較例1と同程度に無色透明であった。このため、表面が平滑であると推定され、実際にRaも比較例同様に0.01より小さく十分に平滑であった。また、親水性シラン化合物層が強固に親水化処理済の基材表面に結合しているため、表面の洗浄等で水溶系および有機溶媒等を用いた場合でも、溶け出ることがほとんどなく、未反応物等を十分洗浄で除去できる。