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特許7467890インクジェット用インク及び画像形成方法
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  • 特許-インクジェット用インク及び画像形成方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】インクジェット用インク及び画像形成方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/328 20140101AFI20240409BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
C09D11/328
B41J2/01 501
B41J2/01 125
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019205497
(22)【出願日】2019-11-13
(65)【公開番号】P2021075670
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-10-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000006150
【氏名又は名称】京セラドキュメントソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100168583
【弁理士】
【氏名又は名称】前井 宏之
(72)【発明者】
【氏名】小島 誠司
【審査官】仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-111168(JP,A)
【文献】特開2018-177876(JP,A)
【文献】特開平10-251568(JP,A)
【文献】特開平07-196965(JP,A)
【文献】特開2004-300224(JP,A)
【文献】特開2019-182941(JP,A)
【文献】特表平11-510537(JP,A)
【文献】特開2004-107481(JP,A)
【文献】米国特許第05985988(US,A)
【文献】特開平07-133455(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0204162(US,A1)
【文献】国際公開第2015/045633(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/328
B41J 2/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性媒体と、複合体粒子とを含有し、
前記複合体粒子は、硫黄原子含有極性基を有するポリエステル樹脂と、染料との複合体の粒子であり、
前記ポリエステル樹脂は、非結晶性であり、
前記ポリエステル樹脂は、前記硫黄原子含有極性基を有する多価カルボン酸由来の第1繰り返し単位と、前記硫黄原子含有極性基を有さない多価カルボン酸由来の第2繰り返し単位と、多価アルコール由来の第3繰り返し単位とを有し、前記第1繰り返し単位及び前記第2繰り返し単位の総量における、前記第1繰り返し単位の含有率は、7mol%以上10mol%以下であり、
前記複合体粒子における、前記ポリエステル樹脂の含有率は、50質量%以上80質量%以下であり、
前記第3繰り返し単位は、エチレングリコール由来の繰り返し単位、及びビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物由来の繰り返し単位である、インクジェット用インク。
【請求項2】
前記染料は、分散染料、又は油溶性染料である、請求項1に記載のインクジェット用インク。
【請求項3】
前記硫黄原子含有極性基は、スルホン酸基、又はスルホン酸基のアルカリ金属塩である、請求項1又は2に記載のインクジェット用インク。
【請求項4】
前記第1繰り返し単位は、5-スルホイソフタル酸ナトリウム由来の繰り返し単位である、請求項1~3の何れか一項に記載のインクジェット用インク。
【請求項5】
前記第2繰り返し単位は、テレフタル酸由来の繰り返し単位、イソフタル酸由来の繰り返し単位、及びナフタレンジカルボン酸由来の繰り返し単位、並びにこれらの酸のアルキルエステル由来の繰り返し単位のうちの少なくとも2種の繰り返し単位である、請求項1~4の何れか一項に記載のインクジェット用インク。
【請求項6】
前記第1繰り返し単位、前記第2繰り返し単位、及び前記第3繰り返し単位の総量における、芳香族炭化水素を含む繰り返し単位の含有率は、50mol%以上である、請求項1~の何れか一項に記載のインクジェット用インク。
【請求項7】
前記複合体粒子の体積中位径は、20nm以上300nm以下である、請求項1~の何れか一項に記載のインクジェット用インク。
【請求項8】
ブロックイソシアネート化合物を更に含有する、請求項1~の何れか一項に記載のインクジェット用インク。
【請求項9】
顔料を含有しない、請求項1~の何れか一項に記載のインクジェット用インク。
【請求項10】
記録ヘッドの吐出面から記録媒体へインクを吐出する吐出工程を含み、
前記インクは、請求項1~の何れか一項に記載のインクジェット用インクである、画像形成方法。
【請求項11】
記録ヘッドの吐出面から記録媒体へインクを吐出する吐出工程を含み、
前記インクは、請求項1~の何れか一項に記載のインクジェット用インクであり、
前記記録媒体に着弾した前記インクを加熱する加熱工程を更に含み、
前記インクは、架橋剤であるブロックイソシアネート化合物を更に含有し、
前記記録媒体は、ヒドロキシ基を有し、
前記加熱により、前記記録媒体が有するヒドロキシ基と、前記複合体粒子が含有する前記ポリエステル樹脂が有するヒドロキシ基とが、前記架橋剤により架橋される、画像形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット用インク及び画像形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置を用いて布のような繊維製品に画像を印刷するための、デジタル捺染用のインクが検討されている。例えば、特許文献1に記載のインクジェット用ホットメルトインクは、固体タイプのインクであり、染料と、染料をインク中に保持する常温で固体の水溶性物質とを含有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-265836号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載のホットメルトインクは、固体タイプのインクであるため、ホットメルト型インクジェット記録装置において使用される必要がある。ホットメルト型インクジェット記録装置は、例えば常温で固体のホットメルトインクを加熱して液体化し、記録ヘッドのノズルから吐出させる構成を備える。このため、装置構成の複雑化を招く。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、インクジェット記録装置の構成の複雑化を招くことなく、インクの分散性及び吐出安定性に優れ、摩擦堅牢度に優れた画像を印刷できるインクジェット用インクを提供することである。また、本発明の別の目的は、画像不良が少なく、摩擦堅牢度に優れた画像を印刷できる画像形成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るインクジェット用インクは、水性媒体と、複合体粒子とを含有する。前記複合体粒子は、硫黄原子含有極性基を有するポリエステル樹脂と、染料との複合体の粒子である。前記ポリエステル樹脂は、非結晶性である。前記ポリエステル樹脂は、前記硫黄原子含有極性基を有する多価カルボン酸由来の第1繰り返し単位と、前記硫黄原子含有極性基を有さない多価カルボン酸由来の第2繰り返し単位と、多価アルコール由来の第3繰り返し単位とを有する。前記第1繰り返し単位及び前記第2繰り返し単位の総量における、前記第1繰り返し単位の含有率は、1mol%以上10mol%以下である。前記複合体粒子における、前記ポリエステル樹脂の含有率は、50質量%以上100質量%未満である。
【0007】
本発明に係る画像形成方法は、記録ヘッドの吐出面から記録媒体へインクを吐出する吐出工程を含む。前記インクは、上記インクジェット用インクである。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るインクによれば、インクジェット記録装置の構成の複雑化を招くことなく、分散性及び吐出安定性に優れ、摩擦堅牢度に優れた画像を印刷できる。また、本発明に係る画像形成方法によれば、画像不良が少なく、摩擦堅牢度に優れた画像を印刷できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の第2実施形態に係る画像形成方法に使用されるインクジェット記録装置の構成の一例を示す図である。
図2】本発明の第2実施形態に係る画像形成方法の吐出工程を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
まず、本明細書で用いる用語の意味、及び測定方法を説明する。化合物名の後に「系」を付けて、化合物及びその誘導体を包括的に総称する場合がある。化合物名の後に「系」を付けて重合体名を表す場合には、重合体の繰り返し単位が化合物又はその誘導体に由来することを意味する。酸価は、何ら規定していなければ、「JIS(日本産業規格)K0070-1992」に従い測定した値である。軟化点(Tm)は、何ら規定していなければ、高化式フローテスター(株式会社島津製作所製「CFT-500D」)を用いて測定した値である。以上、本明細書で用いる用語の意味、及び測定方法を説明した。次に、本発明の実施形態について説明する。
【0011】
[第1実施形態:インクジェット用インク]
本発明の第1実施形態は、インクジェット用インク(以下、インクと記載する)に関する。第1実施形態のインクは、例えば、インクジェット記録装置を用いて布のような繊維製品に画像を印刷するための、デジタル捺染用のインクとして使用できる。デジタル捺染は、スクリーン印刷及びロータリースクリーン印刷と比較して、糊剤を除く工程が不要であるといった利点、及び染色排水を低減できるといった利点を有する。また、デジタル捺染は、多量の繊維を染色する先染め法及び浸染法と比較して、少量のロットで印刷できるといった利点、及び染色する色を変更する際に生じる廃液が発生しないといった利点を有する。
【0012】
第1実施形態のインクは、水性媒体と、複合体粒子とを含有する。第1実施形態のインクは、水性媒体を含有する水性インクである。インクが複合体粒子を含有することで、分散性及び吐出安定性に優れたインクが得られ、インクを用いて形成された画像の摩擦堅牢度も向上する。以下、複合体粒子、及び水性媒体について、説明する。
【0013】
<複合体粒子>
複合体粒子は、硫黄原子含有極性基を有するポリエステル樹脂と、染料との複合体の粒子である。複合体粒子は、例えば、水性媒体中で分散(例えば、乳化分散)している。インクが複合体粒子を含有することで、次の利点が得られる。
【0014】
複合体粒子を含有するインクが記録媒体(例えば、ポリエステル布及び綿布のような繊維製品)に着弾した際に、複合体粒子中のポリエステル樹脂を介して、記録媒体と複合体粒子とが接着する。その結果、形成画像の摩擦堅牢度が向上する。
【0015】
複合体粒子中のポリエステル樹脂が硫黄原子含有極性基を有しているため、複合体粒子に適度な親水性が付与される。その結果、水性媒体中で複合体粒子が良好に乳化分散し、分散性に優れたインクが得られる。
【0016】
複合体粒子は、上記のような適度な親水性を有しているものの、水性媒体に溶解しない程度の適度な疎水性も有している。このため、複合体粒子中のポリエステル樹脂が、水性媒体に溶解して、インクジェット記録装置が備える記録ヘッドのノズル内に付着し、乾燥により固化することを抑制できる。その結果、ノズルの目詰まりを抑制でき、ノズルからインクを安定的に吐出できる。
【0017】
また、複合体粒子を含有するインクが記録媒体に着弾して熱処理される場合に、記録媒体上で、ポリエステル樹脂の塑性変形に伴い、複合体粒子も塑性変形する。塑性変形された複合体粒子が記録媒体の表面に広がるため、少量のインクを用いた場合であっても、高い画像濃度を有する画像を印刷できる。また、記録媒体の繊維に沿って毛細管現象により広がる染料の滲みとは異なり、複合体粒子の塑性変形により染色面積が広がるため、複合体粒子を含有するインクを用いて印刷された画像が鮮明となる。以上、インクが複合体粒子を含有することで得られる利点について説明した。
【0018】
複合体粒子の体積中位径(D50)は、20nm以上300nm以下であることが好ましく、100nm以上150nm以下であることがより好ましい。複合体粒子のD50が300nm以下であると、水性媒体中で複合体粒子が好適に乳化分散され、分散安定性に優れたインクが得られる。その結果、インクの粘度が上昇することなく安定する。また、複合体粒子のD50が300nm以下であると、インクが含有する複合体粒子が凝集し難く、記録ヘッドのノズルの目詰まりが更に抑制される。また、形成画像の発色性も向上する。複合体粒子のD50は、例えば、後述する複合体粒子調製工程における攪拌条件(より具体的には、攪拌速度、攪拌時間、及びアミンのような中和剤の有無等)を変更することにより、調整できる。複合体粒子のD50は、例えば、水性媒体の種類を変更することによっても、調整できる。
【0019】
(複合体粒子を構成するポリエステル樹脂)
複合体粒子を構成するポリエステル樹脂は、非結晶性である。結晶性ポリエステル樹脂は、染料により染色され難い。一方、非結晶性ポリエステル樹脂が有する非結晶領域には、結晶領域よりも染料が十分に染み込む傾向がある。結晶領域は緻密で軟化し難いが、非結晶領域は温度の上昇に伴って軟化して樹脂鎖の絡み合いが弱まり、染料が容易に染み込むからである。このため、染料により非結晶性ポリエステル樹脂が有する非結晶領域が染色されて、非結晶性ポリエステル樹脂と染料とが良好に複合体化される。ポリエステル樹脂が非結晶性であることは、例えば、示差走査熱量測定(DSC)によって確認できる。即ち、ポリエステル樹脂がガラス転移点(Tg)を有するが明確な融点(Mp)を有していない場合、ポリエステル樹脂は非結晶性であると判断される。なお、ポリエステル樹脂がガラス転移点(Tg)と融点(Mp)とを有する場合には、ポリエステル樹脂は結晶性であると判断される。
【0020】
形成画像のムラを抑制するために、複合体粒子において、ポリエステル樹脂中に染料が均一に分散していることが好ましい。ポリエステル樹脂が有する非結晶領域は、染料によって容易に染色される。このため、ポリエステル樹脂中に非結晶領域が均一に配置されていると、ポリエステル樹脂中に染料が均一に分散した複合体粒子が得られ易い。
【0021】
既に述べたように、複合体粒子を構成するポリエステル樹脂は、硫黄原子含有極性基を有する。ポリエステル樹脂は、第1繰り返し単位と、第2繰り返し単位と、第3繰り返し単位とを有する。第1繰り返し単位は、硫黄原子含有極性基を有する多価カルボン酸由来の繰り返し単位である。第2繰り返し単位は、硫黄原子含有極性基を有さない多価カルボン酸由来の繰り返し単位である。第3繰り返し単位は、多価アルコール由来の繰り返し単位である。
【0022】
ポリエステル樹脂は、第1モノマーと、第2モノマーと、第3モノマーとを縮合重合することにより得られる。つまり、ポリエステル樹脂は、第1モノマーと、第2モノマーと、第3モノマーとの縮合重合物である。第1モノマーは、硫黄原子含有極性基を有する多価カルボン酸である。第2モノマーは、硫黄原子含有極性基を有さない多価カルボン酸である。第3モノマーは、多価アルコールである。縮合重合によって、第1モノマー、第2モノマー、及び第3モノマーから、各々、第1繰り返し単位、第2繰り返し単位、及び第3繰り返し単位が形成される。つまり、第1繰り返し単位、第2繰り返し単位、及び第3繰り返し単位は、各々、第1モノマー由来の繰り返し単位、第2モノマー由来の繰り返し単位、及び第3モノマー由来の繰り返し単位である。ポリエステル樹脂が有する第1モノマー、第2モノマー、及び第3モノマーは、各々、1種であってもよく、2種以上であってもよい。
【0023】
第1モノマーが「A」である場合、第1繰り返し単位である第1モノマー由来の繰り返し単位は「A由来の繰り返し単位」である。このため、以下、第1モノマーの例示を記載することで、第1繰り返し単位の例示の記載を兼ねる。例えば、第1モノマーの例として5-スルホイソフタル酸を記載する場合、第1繰り返し単位の例として5-スルホイソフタル酸由来の繰り返し単位も記載したこととする。同じように、第2モノマーの例示、及び第3モノマーの例示を記載することで、各々、第2繰り返し単位の例示、及び第3繰り返し単位の例示の記載を兼ねる。
【0024】
第1繰り返し単位及び第2繰り返し単位の総量(総物質量)における、第1繰り返し単位の含有率は、1mol%以上10mol%以下である。以下、「第1繰り返し単位及び第2繰り返し単位の総量における、第1繰り返し単位の含有率」を、「第1繰り返し単位率」と記載することがある。
【0025】
第1繰り返し単位が有する硫黄原子含有極性基によって、ポリエステル樹脂に適度な親水性が付与される。しかし、第1繰り返し単位率が1mol%未満であると、硫黄原子含有極性基の数が少なくなり、ポリエステル樹脂の親水性が低下する。親水性が低下した結果、水性媒体中でポリエステル樹脂を含有する複合体粒子が乳化分散され難くなり、インクの分散性が低下する。また、親水性が低下した結果、水性媒体中での乳化による複合体粒子の形成が困難となることもある。
【0026】
一方、第1繰り返し単位率が10mol%を超えると、ポリエステル樹脂の親水性が高くなり過ぎ、複合体粒子中のポリエステル樹脂が水性媒体に溶解してしまう。溶解したポリエステル樹脂が、インクジェット記録装置が備える記録ヘッドのノズル内に付着し、乾燥し固化することで、ノズルが目詰まりし、ノズルからのインクの吐出安定性が低下する。また、インクの製造時に水性媒体にポリエステル樹脂が溶解してしまい、複合体粒子の形成が困難となることもある。また、ポリエステル樹脂の親水性が高くなり過ぎるため、複合体粒子を含有するインクを用いて印刷された画像の耐水性が低下する。
【0027】
分散性及び吐出安定性に優れ、形成画像の摩擦堅牢度に優れたインクを得るために、第1繰り返し単位率は、3mol%以上10mol%以下であることが好ましく、5mol%以上10mol%以下であることがより好ましく、7mol%以上10mol%以下であることが更に好ましい。
【0028】
第1繰り返し単位率は、例えば、ポリエステル樹脂を縮合重合する際の、第1モノマーの添加量と第2モノマーの添加量とを変更することにより、変更できる。第1繰り返し単位率は、例えば、核磁気共鳴装置(NMR)を用いてポリエステル樹脂を分析し、第1繰り返し単位に特徴的なピークと第2繰り返し単位に特徴的なピークとの比率を得ることにより測定できる。
【0029】
以下、第1繰り返し単位について説明する。第1繰り返し単位が有する硫黄原子含有極性基としては、例えば、スルホン酸基又はスルホン酸基の金属塩が好ましい。スルホン酸基の金属塩としては、スルホン酸基のアルカリ金属塩が好ましく、スルホン酸基のナトリウム塩、カリウム塩、又はリチウム塩がより好ましい。
【0030】
第1繰り返し単位を形成するための第1モノマーとしては、例えば、硫黄原子含有極性基を有する2価カルボン酸、より具体的には、硫黄原子含有極性基を有する芳香族2価カルボン酸が挙げられる。硫黄原子含有極性基を有する芳香族2価カルボン酸としては、例えば、5-スルホイソフタル酸、4-スルホフタル酸、2-スルホテレフタル酸、3,5-ジカルボメトキシベンゼンスルホン酸、4-スルホナフタレン-2,7-ジカルボン酸、及び5-(4-スルホフェノキシ)イソフタル酸、並びにこれらの金属塩が挙げられる。これらの金属塩としては、アルカリ金属塩が好ましく、ナトリウム塩、カリウム塩、又はリチウム塩がより好ましい。
【0031】
第1モノマーが有する硫黄原子含有極性基が金属塩の形態である場合、このような第1モノマーの具体例としては、5-スルホイソフタル酸ナトリウム、5-スルホイソフタル酸カリウム、2-スルホテレフタル酸ナトリウム、2-スルホテレフタル酸カリウム、4-スルホフタル酸ナトリウム、4-スルホフタル酸カリウム、3,5-ジカルボメトキシベンゼンスルホン酸リチウム、3,5-ジカルボメトキシベンゼンスルホン酸ナトリウム、及び3,5-ジカルボメトキシベンゼンスルホン酸カリウムが挙げられる。
【0032】
第1モノマーは、5-スルホイソフタル酸、4-スルホフタル酸、及び3,5-ジカルボメトキシベンゼンスルホン酸、並びにこれらのアルカリ金属塩うちの少なくとも1つであることが好ましく、5-スルホイソフタル酸ナトリウム、4-スルホフタル酸ナトリウム、及び3,5-ジカルボメトキシベンゼンスルホン酸ナトリウムのうちの少なくとも1つであることがより好ましく、5-スルホイソフタル酸ナトリウムであることが更に好ましい。なお、第1繰り返し単位である5-スルホイソフタル酸ナトリウム由来の繰り返し単位は、下記化学式(1)で表される。
【0033】
【化1】
【0034】
次に、第2繰り返し単位について説明する。第2繰り返し単位を形成するための第2モノマーとしては、例えば、硫黄原子含有極性基を有さない芳香族2価カルボン酸、硫黄原子含有極性基を有さない脂肪族2価カルボン酸、硫黄原子含有極性基を有さない脂環式2価カルボン酸、及び硫黄原子含有極性基を有さない3価以上のカルボン酸が挙げられる。
【0035】
硫黄原子含有極性基を有さない芳香族2価カルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸(例えば、1,5-ナフタレンジカルボン酸、及び2,6-ナフタレンジカルボン酸)、ベンジルマロン酸、4,4’-ジカルボキシジフェニルエーテル、ジフェン酸、及びフェニレンジアクリル酸が挙げられる。
【0036】
硫黄原子含有極性基を有さない脂肪族2価カルボン酸としては、例えば、マロン酸、ジメチルマロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、トリメチルアジピン酸、ピメリン酸、2,2-ジメチルグルタル酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、チオジプロピオン酸、ジグリコール酸、メサコン酸、及びシトラコン酸が挙げられる。
【0037】
硫黄原子含有極性基を有さない脂環式2価カルボン酸としては、例えば、1,3-シクロペンタンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロペンタンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、2,5-ノルボルナンジカルボン酸、及びアダマンタンジカルボン酸が挙げられる。
【0038】
硫黄原子含有極性基を有さない3価以上のカルボン酸としては、例えば、トリメリット酸、トリメシン酸、アダマンタントリカルボン酸、及びピロメリット酸が挙げられる。
【0039】
第2モノマーは、第2モノマーとして例示した上記カルボン酸のアルキルエステルであってもよい。このようなアルキルエステルとしては、炭素原子数1以上6以下のアルキルエステルが好ましく、炭素原子数1以上3以下のアルキルエステルがより好ましく、メチルエステルが更に好ましい。
【0040】
第2モノマーとしては、硫黄原子含有極性基を有さない芳香族2価カルボン酸及びこの酸のアルキルエステルのうちの少なくとも1種の化合物であることが好ましい。第2モノマーとしては、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェン酸、及び4,4’-ジカルボキシジフェニルエーテル、並びにこれらの酸のアルキルエステルのうちの少なくとも1種の化合物であることがより好ましい。第2モノマーとしては、テレフタル酸、イソフタル酸、及びナフタレンジカルボン酸、並びにこれらの酸のアルキルエステルのうちの少なくとも1種の化合物であることが更に好ましい。第2モノマーとしては、テレフタル酸、イソフタル酸、及びナフタレンジカルボン酸、並びにこれらの酸のアルキルエステルのうちの少なくとも2種の化合物であることが一層好ましい。
【0041】
なお、第2繰り返し単位である、テレフタル酸由来の繰り返し単位、及びテレフタル酸アルキルエステル由来の繰り返し単位は、何れも、下記化学式(2A)で表される。第2繰り返し単位である、イソフタル酸由来の繰り返し単位、及びイソフタル酸アルキルエステル由来の繰り返し単位は、何れも、下記化学式(2B)で表される。第2繰り返し単位である、ナフタレンジカルボン酸由来の繰り返し単位、及びナフタレンジカルボン酸アルキルエステル由来の繰り返し単位は、何れも、下記化学式(2C)で表されることが好ましく、化学式(2D)で表されることがより好ましい。
【0042】
【化2】
【0043】
【化3】
【0044】
次に、第3繰り返し単位について説明する。第3繰り返し単位を形成するための第3モノマーとしては、例えば、脂肪族多価アルコール、脂環式多価アルコール、芳香族多価アルコール、及びその他の多価アルコールが挙げられる。
【0045】
脂肪族多価アルコールは、2価の脂肪族アルコール、又は3価以上の脂肪族アルコールである。2価の脂肪族アルコールとしては、例えば、炭素原子数2以上8以下の2価の脂肪族アルコール(より具体的には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、2,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジメチロールヘプタン、ジプロピレングリコール、及び2,2,4ートリメチル-1,3-ペンタンジオール等)、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、及びポリテトラメチレングリコールが挙げられる。3価以上の脂肪族アルコールとしては、例えば、ソルビトール、1,2,3,6-ヘキサテトラオール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、1,2,4-ブタントリオール、1,2,5-ペンタントリオール、2-メチル-1,2,3-プロパントリオール、2-メチル-1,2,4-ブタントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、及びグリセリンが挙げられる。
【0046】
脂環式多価アルコールとしては、例えば、炭素原子数6以上12以下の脂環式多価アルコール(より具体的には、1,4-ソルビタン、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,2-シクロヘキサンジメタノール、及びイソソルビド等)、スピログリコール、トリシクロデカンジオール、トリシクロデカンジメタノール、水素化ビスフェノールA、水素化ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物、及び水素化ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物が挙げられる。
【0047】
芳香族多価アルコールとしては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物、p-キシリレングリコ-ル、パラキシレングリコール、メタキシレングリコール、オルトキシレングリコール、1,4-フェニレングリコール、1,3,5-トリヒドロキシメチルベンゼン、1,4-フェニレングリコールのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノキシエタノールフルオレン、及びビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンが挙げられる。
【0048】
その他の多価アルコールとしては、ε-カプロラクトンのようなラクトン類を開環重合することにより得られる、ラクトン系ポリエステルポリオールが挙げられる。
【0049】
非結晶性ポリエステル樹脂を得るために、第3モノマーは、ビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物を少なくとも含むことが好ましい。ビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物は、比較的大きな分子であり、結晶化の際に立体的な障害となる。このため、ビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物を使用することで、結晶領域が形成され難くなり、非結晶領域を有する非結晶性ポリエステル樹脂が得られ易い。ビスフェノールAに対するアルキレンオキサイドの付加モル数は2以上6以下であることが好ましく、2であることがより好ましい。ビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物としては、ビスフェノールAの炭素原子数2以上4以下のアルキレンオキサイド付加物が好ましく、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物又はビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物がより好ましく、ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物が更に好ましく、ビスフェノールAプロピレンオキサイド2モル付加物が特に好ましい。なお、第3繰り返し単位であるビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物由来の繰り返し単位の好適な例は、下記一般式(3A)で表される。
【0050】
【化4】
【0051】
一般式(3A)中、Rは各々直鎖状又は分枝鎖状のアルキレン基を表し、mは0以上の整数を表し、nは0以上の整数を表し、m及びnの和は2以上6以下である。Rは、各々、直鎖状又は分枝鎖状の炭素原子数2以上4以下のアルキレン基を表すことが好ましく、エチレン基又はプロピレン基を表すことがより好ましく、プロピレン基を表すことが更に好ましい。m及びnの和は2であることが好ましい。
【0052】
ビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物の具体例としては、ポリオキシプロピレン-(2.3)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシエチレン-(2.0)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン-(2.0)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン-(2.2)-ポリオキシエチレン-(2.0)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン(6)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン-(2.2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン-(2.4)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、及びポリオキシプロピレン-(3.3)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンが挙げられる。
【0053】
第3モノマーは、上記ビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物に加えて、脂肪族多価アルコールを更に含むことが好ましい。第3モノマーがビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物及び脂肪族多価アルコールの両方を含むことで、ポリエステル樹脂に非結晶性を付与しながら、ポリエステル樹脂のガラス転移点を高くすることができる。脂肪族多価アルコールとしては、2価の脂肪族アルコールが好ましく、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、グリセリン、エチレングリコール、及びジエチレングリコールのうちの少なくとも1種の化合物が好ましく、エチレングリコール、及びジエチレングリコールのうちの少なくとも1種の化合物がより好ましく、エチレングリコールが特に好ましい。なお、エチレングリコール由来の繰り返し単位は、下記化学式(3B)で表される。
【0054】
【化5】
【0055】
ポリエステル樹脂に非結晶性を付与しながら、ポリエステル樹脂のガラス転移点を高くするために、第3モノマーは、2種であり、エチレングリコール及びビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物であることが好ましい。
【0056】
非結晶領域の含有率が高い非結晶性ポリエステル樹脂を得るためには、結晶領域を形成するための規則性を形成しないように、第1モノマー、第2モノマー、及び第3モノマーを選択することが好ましい。同じ理由から、ポリエステル樹脂は、少なくとも2種(例えば、2種)の第2繰り返し単位を有することが好ましい。同じ理由から、ポリエステル樹脂は、少なくとも2種(例えば、2種)の第3繰り返し単位を有することが好ましい。非結晶性ポリエステル樹脂中の非結晶領域の含有率が高くなるほど、非結晶性ポリエステル樹脂が染料によって染色され易くなり、複合体粒子を製造し易くなる。
【0057】
第1繰り返し単位、第2繰り返し単位、及び第3繰り返し単位の総量における、芳香族炭化水素を含む繰り返し単位の含有率は、50mol%以上であることが好ましく、50mol%以上90mol%以下であることがより好ましく、50mol%以上80mol%以下であることが更に好ましく、50mol%以上70mol%以下であることが一層好ましく、55mol%以上65mol%以下であることが特に好ましい。以下、「第1繰り返し単位、第2繰り返し単位、及び第3繰り返し単位の総量における、芳香族炭化水素を含む繰り返し単位の含有率」を、「芳香族単位率」と記載することがある。複合体粒子に含有される染料は芳香族炭化水素を有することが多い。芳香族単位率が50mol%以上であると、染料が有する芳香族炭化水素と、ポリエステル樹脂が有する芳香族炭化水素とがスタッキングして相互作用が高まり、染料とポリエステル樹脂とが複合体化し易い。
【0058】
ポリエステル樹脂のガラス転移点(Tg)は、40℃以上75℃以下であることが好ましく、45℃以上75℃以下であることがより好ましく、45℃以上65℃以下であることが更に好ましい。ポリエステル樹脂のガラス転移点が40℃以上であると、室温環境下においてポリエステル樹脂が軟化し難く、保存安定性に優れたインクが得られる。一方、ポリエステル樹脂のガラス転移点が75℃以下であると、複合体粒子を含有するインクが記録媒体に着弾した後に加熱されない場合又は低い温度で加熱される場合であっても、記録媒体に対して、ポリエステル樹脂を含有する複合体粒子が良好に接着する。また、ポリエステル樹脂のガラス転移点が40℃以上75℃以下であると、複合体粒子を含有するインクが記録媒体に着弾して加熱される場合に、記録媒体上で複合体粒子が好適に塑性変形する。塑性変形された複合体粒子が記録媒体の表面に広がるため、少量のインクを用いた場合であっても、高い画像濃度を有する画像を印刷することができる。
【0059】
ポリエステル樹脂の軟化点(Tm)は、80℃以上200℃以下であることが好ましい。軟化点が80℃以上であると、定着性及び保存性が良好なインクが得られる。記録媒体に対して、ポリエステル樹脂を含有する複合体粒子を良好に接着させるためには、ポリエステル樹脂の軟化点は、130℃以上200℃以下であることが好ましい。
【0060】
水性媒体中で乳化(例えば、転相乳化)により良好に複合体粒子を形成するためには、ポリエステル樹脂の酸価が、10mgKOH/g以上100mgKOH/g以下であることが好ましい。
【0061】
ポリエステル樹脂の数平均分子量は、2500以上30000以下であることが好ましく、4000以上30000以下であることがより好ましく、10000以上30000以下であることが更に好ましい。ポリエステル樹脂の数平均分子量が2500以上であると、印刷された画像を構成するインク膜の強度が向上する。ポリエステル樹脂の数平均分子量が30000以下であると、複合体粒子の調製時に、ポリエステル樹脂を含有する液の粘度が高くなり過ぎないため、ポリエステル樹脂と染料とを均一に複合体化することができる。
【0062】
染料と複合体化し易いことから、ポリエステル樹脂は、線状ポリマーであることが好ましい。ただし、ポリエステル樹脂は、インク中での分散安定性に寄与する官能基を有する架橋剤によって架橋されていてもよい。
【0063】
(ポリエステル樹脂率)
複合体粒子における、ポリエステル樹脂の含有率は、50質量%以上100質量%未満である。以下、「複合体粒子における、ポリエステル樹脂の含有率」を、「ポリエステル樹脂率」と記載することがある。ポリエステル樹脂率が50質量%未満であると、ポリエステル樹脂の量が少なくなるため、記録媒体に複合体粒子を含有するインクが着弾した際に、記録媒体と複合体粒子とが接着し難く、摩擦堅牢度が低下する。形成画像における摩擦堅牢度を向上させるために、ポリエステル樹脂率は、60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。高い画像濃度を有する画像を形成するために、ポリエステル樹脂率は、95質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましい。ポリエステル樹脂率は、例えば、複合体粒子を調製する際のポリエステル樹脂の添加量と染料の添加量とを変更することにより、変更できる。
【0064】
(複合体粒子を構成する染料)
複合体粒子を構成する染料は、特に限定されない。染料としては、例えば、分散染料、及び油溶性染料が挙げられる。
【0065】
分散染料又は油溶性染料は、親水性が低い。しかし、親水性基である硫黄原子含有極性基を有するポリエステル樹脂と複合体化されることで、分散染料又は油溶性染料を含有する複合体粒子を、水性媒体中で良好に乳化分散させることができる。
【0066】
また、分散染料及び油溶性染料は、ニトロ基及びキノン構造のうちの少なくとも1つを有することが多い。ニトロ基及びキノン構造は、ポリエステル樹脂が有するエステル結合に対する親和性が高い。このため、ポリエステル樹脂の非結晶領域が温度の上昇に伴って軟化して樹脂鎖の絡み合いが弱まると、樹脂鎖に沿って非結晶領域中に分散染料及び油溶性染料が容易に染み込む。このため、分散染料及び油溶性染料は、ポリエステル樹脂と簡便な方法(例えば、溶剤及び分散剤を用いることなく、分散染料又は油溶性染料とポリエステル樹脂とを混合する方法)で複合体化できる。
【0067】
また、通常、分散染料又は油溶性染料を用いて綿布に印刷することは困難である。しかし、複合体粒子中のポリエステル樹脂を介して綿布と複合体粒子とが接着するため、分散染料又は油溶性染料を用いた場合であっても、綿布に対して印刷可能である。従って、分散染料又は油溶性染料を用いた場合であっても、記録媒体の種類(例えば、綿布、及びポリエステル布)を問わず、印刷可能となる。
【0068】
分散染料としては、例えば、C.I.ディスパースイエロー51、54、及び60;C.I.ディスパースオレンジ5、7、20、及び23;C.I.ディスパースレッド50、53、59、60、239、及び240;C.I.ディスパースバイオレット8、11、17、26、27、28、及び36;C.I.ディスパースブルー3、5、26、35、55、56、72、81、91、108、及び359;C.I.ディスパースイエロー42、49、76、83、88、93、99、119、126、160、163、165、180、183、186、198、199、200、224、及び237;C.I.ディスパースオレンジ29、30、31、38、42、44、45、53、54、55、71、73、80、86、96、118、及び119;C.I.ディスパースレッド73、88、91、92、111、127、131、143、145、146、152、153、154、179、191、192、206、221、258、283、302、323、328、及び359;C.I.ディスパースバイオレット26、35、48、56、77、及び97;並びにC.I.ディスパースブルー27、54、60、73、77、79、79:1、87、143、165、165:1、165:2、181、185、197、225、257、266、267、281、341、353、354、358、364、365、368、359、及び360が挙げられる。
【0069】
油溶性染料としては、例えば、C.I.ソルベントイエロー114;C.I.ソルベントオレンジ67;C.I.ソルベントレッド146;並びにC.I.ソルベントブルー36、63、83、105、及び111が挙げられる。
【0070】
なお、複数色の染料を混合することで黒色に調色した染料を使用してもよい。例えば、主成分であるブルー染料に、オレンジ染料及びレッド染料を配合した混合染料を、黒色染料として使用してもよい。また、このような黒色染料に、オレンジ染料及びレッド染料以外の染料を更に配合することで、色合いを微調整してもよい。
【0071】
画像形成時の加熱工程に適していることから、染料としては、熱転写適性を有する分散染料及び油溶性染料であることが好ましい。熱転写適性を有する分散染料としては、C.I.ディスパースイエロー51、54、及び60;C.I.ディスパースオレンジ5、7、20、及び23;C.I.ディスパースレッド50、53、59、60、239、及び240;C.I.ディスパースバイオレット8、11、17、26、27、28、及び36;並びにC.I.ディスパースブルー3、5、26、35、55、56、72、81、91、108、及び359が好ましい。熱転写適性を有する油溶性染料としては、C.I.ソルベントイエロー114;C.I.ソルベントオレンジ67;C.I.ソルベントレッド146;並びにC.I.ソルベントブルー36、63、83、105、及び111が好ましい。
【0072】
複合体粒子は、1種の染料のみを含有してもよく、2種以上の染料を含有してもよい。染料の含有率は、インクの質量に対して、0.5質量%以上10.0質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以上7.0質量%以下であることがより好ましく、1.0質量%以上3.0質量%以下であることが更に好ましい。染料の含有率がインクの質量に対して0.5質量%以上であると、形成画像において十分な画像濃度を確保できる。染料の含有率がインクの質量に対して10.0質量%以下であると、形成画像において十分な彩度を確保できる。
【0073】
<水性媒体>
水性媒体とは、水を主成分とする媒体である。水性媒体は、溶媒として機能してもよく、分散媒として機能してもよい。水性媒体の具体例としては、水、又は水と親水性有機溶媒との混合液が挙げられる。水性媒体に含有される親水性有機溶媒の例としては、ケトン溶媒(より具体的には、アセトン等)、アルコール溶媒(より具体的には、メタノール、エタノール、及びイソプロピルアルコール等);及びグリコールエーテル溶媒(より具体的には、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、及びエチレングリコールモノターシャリーブチルエーテル等)が挙げられる。水性媒体における水の含有率は、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが一層好ましい。インクは、1種の水性媒体のみを含有してもよく、2種以上の水性媒体を含有してもよい。水性媒体は、水、又は水とエチレングリコールモノブチルエーテルとの混合溶媒であることが好ましい。
【0074】
水性媒体の含有率は、インクの質量に対して、5質量%以上99質量%以下であることが好ましく、50質量%以上90質量%以下であることがより好ましい。水性媒体の含有率がこのような範囲内の値であると、適切な粘度を有するインクを得ることができる。
【0075】
<界面活性剤>
インクは、必要に応じて、界面活性剤を含有してもよい。インクが界面活性剤を含有することで、記録媒体に対する濡れ性に優れるインクが得られる。界面活性剤としては、例えば、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、及び両性界面活性剤が挙げられる。インクは、1種の界面活性剤のみを含有してもよく、2種以上(例えば、2種、又は3種)の界面活性剤を含有してもよい。
【0076】
界面活性剤としては、ノニオン界面活性剤が好ましく、アセチレングリコール構造を有する界面活性剤がより好ましく、アセチレンジオールエチレンオキサイド付加物が更に好ましい。界面活性剤のHLB値は、1以上5以下であることが好ましい。界面活性剤のHLB値は、例えば、グリフィン法により式「HLB値=20×(親水部の式量の総和)/分子量」から算出される。
【0077】
界面活性剤の含有率は、インクの質量に対して、0.01質量%以上0.50質量%以下であることが好ましい。界面活性剤の含有率がこのような範囲内であると、複合体粒子の分散安定性に優れたインクが得られる。また、界面活性剤の含有率が0.50質量%以下であると、インクジェット記録装置が備える記録ヘッドのノズル内で、インクから気泡が発生し難く、ノズルからインクを安定的に吐出できる。
【0078】
<保湿剤>
インクは、必要に応じて、保湿剤を含有してもよい。インクが保湿剤を含有すれば、インクからの液体成分の揮発を抑制できる。保湿剤としては、例えば、ソルビトール、ポリアルキレングリコール類、アルキレングリコール類、及びグリセリンが挙げられる。ポリアルキレングリコール類としては、例えば、ポリエチレングリコール、及びポリプロピレングリコールが挙げられる。アルキレングリコール類としては、例えば、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリメチレングリコール(即ち、1,3-プロパンジオール)、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2,6-ヘキサントリオール、チオジグリコール、1,3-ブタンジオール、及び1,5-ペンタンジオールが挙げられる。保湿剤は、アルキレングリコール類及びグリセリンのうちの少なくとも1つであることが好ましく、プロピレングリコール及びグリセリンのうちの少なくとも1つであることがより好ましい。保湿剤の含有率は、インクの質量に対して、0.1質量%以上10.0質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上5.0質量%以下であることがより好ましい。
【0079】
<添加剤>
インクは、必要に応じて、ブロックイソシアネート化合物を更に含有することが好ましい。ブロックイソシアネート化合物は、例えば、架橋剤として機能する。ブロックイソシアネート化合物による架橋反応、及びインクがブロックイソシアネート化合物を含有することにより得られる利点については、第2実施形態において後述する。ブロックイソシアネート化合物としては、ブロックイソシアネート構造を含むポリウレタンが好ましい。ブロックイソシアネート化合物は、例えばラテックス粒子の状態で、インク中に分散している。ブロックイソシアネート化合物の含有率は、インクの質量に対して、0.1質量%以上5.0質量%以下であることが好ましい。
【0080】
インクは、必要に応じて、上記ブロックイソシアネート化合物以外の添加剤(より具体的には、粘度調整剤、溶解安定剤、浸透剤、酸化防止剤、及び紫外線吸収剤等)を更に含有してもよい。
【0081】
なお、インクは、顔料を含有しないことが好ましい。粒子径が比較的大きい顔料を含有しないことで、画像が印刷された記録媒体のごわつきを抑制し、摩擦堅牢度を向上できる。また、粒子状の顔料が記録媒体内部(例えば、布が有する繊維の目の中)に入り込むことによって引き起こされる画像濃度の低下及び彩度の低下を抑制できる。
【0082】
<インクの製造方法>
次に、第1実施形態のインクを製造する方法の一例について説明する。第1実施形態のインクを製造する方法は、例えば、ポリエステル樹脂調製工程、複合体粒子調製工程、及び混合工程を含む。
【0083】
(ポリエステル樹脂調製工程)
ポリエステル樹脂調製工程において、硫黄原子含有極性基を有するポリエステル樹脂を調製する。詳しくは、ポリエステル樹脂調製工程において、第1モノマーと、第2モノマーと、第3モノマーとを縮合重合させることにより、ポリエステル樹脂が得られる。
【0084】
ポリエステル樹脂調製工程において、第1モノマー及び第2モノマーの総量(総物質量)に対して、1mol%以上10mol%以下の量(物質量)の第1モノマーが添加される。以下、「第1モノマー及び第2モノマーの総量に対する、第1モノマーの量の百分率」を、「第1モノマー率」と記載することがある。第1モノマー率がこのような範囲内であることで、第1繰り返し単位率を1mol%以上10mol%以下に調整することができる。分散性及び吐出安定性に優れ、形成画像の摩擦堅牢度に優れたインクを得るために、第1モノマー率は、3mol%以上10mol%以下であることが好ましく、5mol%以上10mol%以下であることがより好ましい。
【0085】
縮合重合は、公知の方法のより実施することができる。縮合重合させる方法としては、例えば、真空重合法、減圧重合法、及び酸クロライド法が挙げられる。減圧重合法は、真空重合法と比較して、分子量が低いポリエステル樹脂が得られ易い。
【0086】
以下、縮合重合させる方法の一例について、説明する。第1モノマーと、第2モノマーと、第3モノマーとを、触媒の存在下、所定圧力に減圧しながら、攪拌する。このようにして、第1モノマーと、第2モノマーと、第3モノマーとを縮合重合させる。触媒としては、例えば、酢酸亜鉛、及び三酸化アンチモンが挙げられる。所定圧力は、1mmHg以上10mmHg以下であることが好ましい。縮合重合させる時間は、例えば、0.5時間以上10時間以上であることが好ましく、1時間以上5時間以下であることがより好ましい。
【0087】
縮合重合させる温度は、130℃以上250℃以下であることが好ましい。各モノマーの添加量比率が反応性優位な添加量比率である場合、縮合重合させる温度を低くすることが好ましい。例えば、第3モノマーがビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物を含む場合、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物の添加量が少なくなる程、縮合重合させる温度を低くすることが好ましい。また、第1モノマー及び第2モノマーが三価のカルボン酸を含む場合、三価のカルボン酸の添加量が多くなる程、縮合重合させる温度を低くすることが好ましい。また、カルボキシ基の総数に対するヒドロキシ基の総数が少ない程、縮合重合させる温度を低くすることが好ましい。
【0088】
(複合体粒子調製工程)
複合体粒子調製工程において、ポリエステル樹脂と染料との複合体の粒子である複合体粒子を調製する。
【0089】
複合体粒子調製工程において、まず、ポリエステル樹脂と染料とを混合して、混合物を得る。混合の際に、複合体粒子を形成するための材料(例えば、ポリエステル樹脂及び染料)の総質量に対して、50質量%以上100質量%未満の量で、ポリエステル樹脂が添加される。このような量でポリエステル樹脂が添加されることにより、複合体粒子のポリエステル樹脂率を50質量%以上100質量%未満に調整できる。ポリエステル樹脂中に均一に染料を分散させるために、得られたポリエステル樹脂と染料との混合物を、必要に応じて、混練し、粉砕してもよい。粉砕により得られる粉砕物は、例えば、チップ状である。
【0090】
次いで、得られたポリエステル樹脂と染料との混合物を、水性媒体中で攪拌して、乳化分散させる。その結果、複合体粒子が得られる。複合体粒子調製工程で使用される水性媒体には、ポリエステル樹脂と染料との混合物以外の成分が、添加されていないことが好ましい。例えば、複合体粒子調製工程で使用される水性媒体には、中和剤、及び分散剤(より具体的には、乳化剤、及び界面活性剤等)が、添加されていないことが好ましい。硫黄原子含有極性基を有するポリエステル樹脂によって複合体粒子に適度な親水性が付与されるため、中和剤及び分散剤が添加されない場合であっても、水性媒体中で複合体粒子が、良好に乳化分散される。
【0091】
攪拌する際の水性媒体の温度は、ポリエステル樹脂のガラス転移点以上の温度であることが好ましい。このような温度であると、ポリエステル樹脂が有する非結晶領域が軟化して、樹脂鎖の絡み合いが弱まり、樹脂鎖に沿って非結晶領域中に染料が染み込み易い。
【0092】
なお、染料がポリエステル樹脂に導入されたか否かは、次の方法により確認できる。複合体粒子が形成された後、複合体粒子を含有する水性媒体を採取する。遠心分離機を用いて、15000rpmの回転速度で、30分間、複合体粒子を含有する水性媒体を遠心分離する。遠心分離後、上澄み液を回収する。分光光度計(例えば、日立製作所製)を用いて、吸光度法により、上澄み液に含有される染料を定量する。上澄み液に含有される染料の量が、ポリエステル樹脂に導入されなかった染料の量に相当する。
【0093】
(混合工程)
混合工程において、水性媒体と前記複合体粒子とを混合する。混合には、例えば、攪拌機が使用される。なお、必要に応じて添加されるインク成分(より具体的には、界面活性剤、保湿剤、及び添加剤のうちの少なくとも1つ)を更に添加して、混合してもよい。得られた混合液を、必要に応じて濾過する。その結果、第1実施形態のインクが製造される。以上、第1実施形態のインクの製造方法について説明した。
【0094】
[第2実施形態:画像形成方法]
本発明の第2実施形態は、画像形成方法に関する。第2実施形態の画像形成方法は、例えば、吐出工程を含む。吐出工程では、記録ヘッドの吐出面から記録媒体へインクが吐出される。吐出されるインクは、第1実施形態のインクである。
【0095】
形成画像の摩擦堅牢度を向上させるために、第2実施形態の画像形成方法は、吐出工程に加えて、加熱工程を更に含むことが好ましい。加熱工程において、記録媒体に着弾したインクが加熱される。
【0096】
第2実施形態の画像形成方法には、第1実施形態のインクが使用される。第1実施形態のインクは分散性及び吐出安定性に優れるため、このようなインクを使用する第2実施形態の画像形成方法によれば、画像不良が少ない画像を印刷できる。また、第1実施形態のインクは摩擦堅牢度に優れた画像を印刷できるため、このようなインクを使用する第2実施形態の画像方法によれば、摩擦堅牢度に優れた画像を印刷できる。
【0097】
また、第2実施形態の画像形成方法は、昇華捺染法と比較して、短時間で昇華転写させる必要がないために使用される染料の分子量が制限されないといった利点、形成画像の摩擦堅牢度が優れるといった利点、及び転写紙を使用しないために転写紙に残存する染料が発生しないといった利点を有する。なお、昇華捺染法は、インクジェット記録装置を用いてインクを転写紙に吐出した後、加熱により転写紙から記録媒体にインク中の昇華染料を昇華転写させる方法である。
【0098】
また、第2実施形態の画像形成方法は、複合体化されていない染料を含有するインクを使用した場合と比較して、記録媒体の繊維に沿って毛細管現象により広がる染料の滲みが発生し難く、エッジが鮮明な画像を形成できるといった利点、及び定着していない染料を洗い流す後処理が不要であるといった利点を有する。
【0099】
以下、図1を用いて、第2実施形態に係る画像形成方法の一例を具体的に説明する。図1は、第2実施形態に係る画像形成方法に使用されるインクジェット記録装置1の構成を示す。図2は、第2実施形態に係る画像形成方法の吐出工程を説明する図である。図2は、図1に示すインクジェット記録装置1が備える記録ヘッド4の側面を示している。ここで、図1図2に示すX軸、Y軸、及びZ軸は、互いに直交する。
【0100】
図1に示すインクジェット記録装置1は、給紙部3と、記録ヘッド4と、液体収容部5と、加熱部6と、用紙搬送部7と、排出部8とを備える。
【0101】
給紙部3は、複数個の給紙カセット31と、複数個の給紙ローラー32aとを有する。給紙カセット31には、複数枚の記録媒体S(例えば、布又はコピー用紙)が重ねられた状態で収納されている。
【0102】
図2に示すように、記録ヘッド4には、ノズル41と、インク流入口43と、インク流出口45とが設けられている。また、記録ヘッド4は、吐出面47を有する。ノズル41は、吐出面47において開口しており、インクを記録媒体S(図1参照)へ向かって吐出する。記録ヘッド4は、例えば、ラインヘッドである。インクは、インクタンク51(図1参照)に収容されている。インクは、インクタンク51からインク流入口43を通って記録ヘッド4へ流入し、インク流出口45を通って記録ヘッド4から流出する。
【0103】
図1に示すように、液体収容部5は、インクタンク51を有する。インクタンク51は、第1実施形態のインクを収容する。
【0104】
加熱部6は、加熱装置60を有する。加熱装置60は、第2搬送ユニット72の第2搬送面72aに対向する位置に設けられる。
【0105】
用紙搬送部7は、第1搬送ユニット71と、第2搬送ユニット72とを有する。排出部8は、排出トレイ81を有する。
【0106】
図1に示すインクジェット記録装置1を用いて、記録媒体Sに画像を形成する方法を説明する。まず、給紙ローラー32aが、給紙カセット31に収納された記録媒体Sを最上部から一枚ずつ取り出す。そして、給紙ローラー32aが、取り出された記録媒体Sを第1搬送ユニット71へ送出する。
【0107】
次に、吐出工程が実施される。吐出工程において、記録媒体Sが吐出面47(図2参照)に対向する位置に到達すると、インクが、吐出面47(より具体的にはノズル41の開口)から、第1搬送ユニット71の第1搬送面71a上の記録媒体Sへ吐出される。インクが着弾した記録媒体Sは、第1搬送ユニット71から第2搬送ユニット72へ搬送される。
【0108】
次に、加熱工程が実施される。加熱工程において、加熱装置60は、第2搬送ユニット72の第2搬送面72a上の記録媒体Sを加熱する。このようにして、記録媒体Sに着弾したインクが加熱される。加熱により、複合体粒子中のポリエステル樹脂を介して、記録媒体Sと複合体粒子とが接着する。また、記録媒体Sが非結晶領域を有するポリエステル樹脂で形成されたポリエステル繊維布である場合、加熱により、複合体粒子中の染料の一部が、ポリエステル繊維布のポリエステル樹脂の非結晶領域に移動し、ポリエステル繊維布と染料とが一体化する。
【0109】
加熱装置60は、例えば、記録媒体Sに熱風を吹き付ける乾燥装置である。記録媒体Sの触感を良好にするために、加熱装置60が記録媒体Sを加熱する温度(例えば、熱風の温度)は、200℃以下であることが好ましく、180℃以下であることがより好ましい。形成画像の摩擦堅牢度を向上させるために、熱処理の温度は、100℃以上であることが好ましく、130℃以上であることがより好ましい。
【0110】
形成画像の摩擦堅牢度を向上させるために、インクは、架橋剤であるブロックイソシアネート化合物を更に含有し、記録媒体Sは、ヒドロキシ基を有することが好ましい。インク中の複合体粒子が含有するポリエステル樹脂は、ヒドロキシ基を有する。従って、このようなインク及び記録媒体Sが用いられる場合に、加熱装置60によって記録媒体Sに着弾したインクが加熱されることにより、記録媒体Sが有するヒドロキシ基と、インク中の複合体粒子が含有するポリエステル樹脂が有するヒドロキシ基とが、架橋剤(ブロックイソシアネート化合物)により架橋される。
【0111】
以下、ブロックイソシアネート化合物による架橋反応について説明する。ブロックイソシアネート化合物は、2個のブロックイソシアネート基を有する。ブロックイソシアネート基は、ブロック剤で封止されたイソシアネート基である。インクの未加熱時には、イソシアネート基がブロック剤で封止されているため、ブロックイソシアネート化合物は、ヒドロキシ基と反応しない。しかし、インクが加熱されると、ブロックイソシアネート基からブロック剤が脱離することにより、イソシアネート基が形成され、ヒドロキシ基と反応する。ブロックイソシアネート化合物が有する2個のブロックイソシアネート基からブロック剤が脱離して形成された2個のイソシアネート基のうちの一方が、記録媒体Sが有するヒドロキシ基と反応する。2個のイソシアネート基のうちの他方が、インク中の複合体粒子が含有するポリエステル樹脂が有するヒドロキシ基と反応する。これらの反応によって、記録媒体Sが有するヒドロキシ基と、インク中の複合体粒子が含有するポリエステル樹脂が有するヒドロキシ基とが、架橋剤由来の(ブロックイソシアネート化合物由来の)架橋構造を介して、結合する。記録媒体Sと複合体粒子とが架橋構造を介して結合した結果、複合体粒子に含有される染料が記録媒体Sから脱離し難くなり、形成画像の摩擦堅牢度が向上する。以上、ブロックイソシアネート化合物による架橋反応について説明した。
【0112】
上記加熱工程が実施された後、記録媒体Sは、第2搬送ユニット72から排出トレイ81へ排出される。
【0113】
以上、図1及び図2を用いて第2実施形態に係る画像形成方法の一例を説明した。但し、第2実施形態に係る画像形成方法は、上記方法に限定されず、例えば以下の点を変更可能である。
【0114】
インクタンク51を備えるインクジェット記録装置1を使用した画像形成方法を説明したが、インクタンクを含むカートリッジをインクジェット記録装置に装着して画像を形成してもよい。カートリッジは、インクジェット記録装置に対して着脱可能である。
【0115】
加熱装置60として記録媒体Sに熱風を吹き付ける乾燥装置を説明したが、加熱装置は、例えば、加圧加熱装置、又はスチーム加熱装置であってもよい。また、加熱装置60を備えるインクジェット記録装置1を使用した画像形成方法を説明したが、加熱装置はインクジェット記録装置内に設けられなくてもよい。例えば、インクジェット記録装置を用いて記録媒体に画像を形成した後、インクジェット記録装置とは独立した(即ち、インクジェット記録装置とは別の)加熱装置を用いて、画像が形成された記録媒体を加熱してもよい。また、所望の摩擦堅牢度を有する画像を形成できる場合には、加熱工程は省略されてもよい。
【0116】
記録媒体Sに画像を形成する前に、記録媒体Sに前処理が実施されてもよい。前処理を実施することで、印刷される画像の滲みが抑制され、発色性及び鮮明度が高い画像を印刷することができる。
【0117】
形成画像の堅牢度を向上させるために、画像が形成された記録媒体Sに、金属イオン処理、酸処理、又はアルカリ処理が更に施されてもよい。
【実施例
【0118】
次に、本発明の実施例を説明する。なお、誤差が生じる評価においては、誤差が十分小さくなる相当数の測定値を得て、得られた測定値の算術平均を評価値とした。
【0119】
[ポリエステル樹脂の調製]
まず、ポリエステル樹脂(A1)~(A4)及び(B1)~(B2)(以下、それぞれを、樹脂(A1)~(A4)及び(B1)~(B2)と記載する)を調製した。樹脂(A1)~(A4)及び(B1)~(B2)の組成を、下記表1に示す。
【0120】
【表1】
【0121】
表1中の各用語の意味を説明する。「Tg」は、ガラス転移点(単位:℃)を示す。「DMT」は、テレフタル酸ジメチルを示す。「IPA」は、イソフタル酸を示す。「NDCN」は、2,6-ナフタレンジカルボン酸ジメチルを示す。「SSIPA」は、5-スルホイソフタル酸ナトリウムを示す。「BPO-PO」は、ビスフェノールAプロピレンオキサイド2モル付加物を示す。「EG」は、エチレングリコールを示す。「-」は、該当するモノマーを使用していないことを示す。
【0122】
「第1繰り返し単位率」は、第1繰り返し単位及び第2繰り返し単位の総量における、第1繰り返し単位の含有率(単位:mol%)を示す。第1繰り返し単位率は、式「第1繰り返し単位率=100×(第1繰り返し単位の物質量)/[(第1繰り返し単位の物質量)+(第2繰り返し単位の物質量)]=100×(5-スルホイソフタル酸ナトリウム由来の繰り返し単位の物質量)/[(5-スルホイソフタル酸ナトリウム由来の繰り返し単位の物質量)+(テレフタル酸ジメチル由来の繰り返し単位の物質量)+(イソフタル酸由来の繰り返し単位の物質量)+(2,6-ナフタレンジカルボン酸ジメチル由来の繰り返し単位の物質量)]」から算出される。
【0123】
「芳香族単位率」は、第1繰り返し単位、第2繰り返し単位、及び第3繰り返し単位の総量における、芳香族炭化水素を含む繰り返し単位の含有率(単位:mol%)を示す。芳香族単位率は、式「芳香族単位率=100×(芳香族炭化水素を含む繰り返し単位の物質量)/[(第1繰り返し単位の物質量)+(第2繰り返し単位の物質量)+(第3繰り返し単位の物質量)]=100×[(5-スルホイソフタル酸ナトリウム由来の繰り返し単位の物質量)+(テレフタル酸ジメチル由来の繰り返し単位の物質量)+(イソフタル酸由来の繰り返し単位の物質量)+(2,6-ナフタレンジカルボン酸ジメチル由来の繰り返し単位の物質量)+(ビスフェノールAプロピレンオキサイド2モル付加物由来の繰り返し単位の物質量)]/[(5-スルホイソフタル酸ナトリウム由来の繰り返し単位の物質量)+(テレフタル酸ジメチル由来の繰り返し単位の物質量)+(イソフタル酸由来の繰り返し単位の物質量)+(2,6-ナフタレンジカルボン酸ジメチル由来の繰り返し単位の物質量)+(ビスフェノールAプロピレンオキサイド2モル付加物由来の繰り返し単位の物質量)+(エチレングリコール由来の繰り返し単位の物質量)]」から算出される。
【0124】
なお、縮合重合反応前のモノマーの物質量と、縮合重合反応後の対応する繰り返し単位の物質量とは、同一である。このため、各繰り返し単位の物質量は、式「[繰り返し単位の物質量(単位:mol)]=[添加された対応するモノマーの物質量(単位:mol)]=[添加された対応するモノマーの質量(単位:g)]/[モノマーのモル質量(単位:g/mol)]」から算出される。なお、モノマーのモル質量は、モノマーの分子量に相当する。例えば、樹脂の調製において、モノマーであるイソフタル酸(モル質量:166g/mol)を45g添加した場合、イソフタル酸由来の繰り返し単位の物質量は、式「イソフタル酸由来の繰り返し単位の物質量=添加されたイソフタル酸の物質量=添加されたイソフタル酸の質量(45g)/イソフタル酸のモル質量(166g/mol)」から0.27molと算出される。以上、表1中の各用語の意味を説明した。
【0125】
<樹脂(A1)の調製>
分留管、窒素導入管、温度計、及び攪拌機を備えた四つ口フラスコを準備した。このフラスコに、テレフタル酸ジメチル(50g)、5-スルホイソフタル酸ナトリウム(5g)、ビスフェノールAプロピレンオキサイド2モル付加物(70g)、エチレングリコール(30g)、及び触媒である酢酸亜鉛(0.1g)を入れた。2時間かけて130℃から170℃までフラスコ内容物を昇温させた。次いで、フラスコ内に、イソフタル酸(45g)、及び三酸化アンチモン(0.1g)を添加した。2時間かけて170℃から200℃までフラスコ内容物を昇温させた。次いで、200℃から250℃までフラスコ内容物を徐々に昇温させながら、常圧から5mmHgまでフラスコ内を徐々に減圧させた。フラスコ内温250℃且つフラスコ内圧5mmHgの条件で、1時間、フラスコ内容物を縮合重合反応させて、樹脂(A1)を得た。
【0126】
<樹脂(A2)~(A4)及び(B1)~(B2)の調製>
表1に示す種類及び添加量のモノマーを使用したこと以外は、樹脂(A1)と同じ方法で、樹脂(A2)~(A4)及び(B1)~(B2)の各々を調製した。
【0127】
<ガラス転移点及び融点の測定>
樹脂(A1)~(A4)及び(B1)~(B2)のガラス転移点(Tg)及び融点(Mp)は、示差走差熱量計(株式会社島津製作所製「DSC-60」)を用いて、JIS(日本産業規格)K7121-2012に準拠する方法により測定した。
【0128】
樹脂(A1)~(A4)及び(B1)~(B2)のガラス転移点を、上記表1に示す。樹脂(A1)~(A4)及び(B1)~(B2)は何れも、吸熱曲線においてガラス転移点は確認されたが明確な融点は確認されず、非結晶性ポリエステル樹脂であると判断された。
【0129】
[乳化分散体の調製]
次に、乳化分散体(DA-1)~(DA-8)及び(DB-1)~(DB-4)を調製した。これらの乳化分散体の組成を、表2に示す。乳化分散体(DA-1)~(DA-8)及び(DB-1)~(DB-4)は、各々、複合体粒子(CA-1)~(CA-8)及び(CB-1)~(CB-4)を含有している。これらの複合体粒子の組成を、表2の「組成」欄に示す。
【0130】
【表2】
【0131】
表2中の各用語の意味を説明する。「EG-MBE」は、エチレングリコールモノブチルエーテルを示す。「水」は、イオン交換水を示す。表2、及び後述する表3において、「部」は「質量部」を示す。「D.B.359」、「D.R.60」、及び「D.Y.54」は、以下に示すとおりであり、何れも分散染料である。
D.B.359:C.I.ディスパースブルー359
D.R.60 :C.I.ディスパースレッド60
D.Y.54 :C.I.ディスパースイエロー54
【0132】
「含有率」は、ポリエステル樹脂率(単位:質量%)を意味する。ポリエステル樹脂率は、式「ポリエステル樹脂率=100×(ポリエステル樹脂の質量)/(複合体粒子の質量)=100×(ポリエステル樹脂の質量)/[(ポリエステル樹脂の質量)+(染料の質量)]」から算出される。以上、表2中の各用語の意味を説明した。
【0133】
<乳化分散体(DA-1)の調製>
FMミキサー(日本コークス工業株式会社製)を用いて、樹脂(A1)(160質量部)及びC.I.ディスパースブルー359(40質量部)を混合し、混合物を得た。2軸押出機(株式会社池貝製「PCM-30」)を用いて、混合物を混練し、混練物を得た。粉砕機(ホソカワミクロン株式会社製「ロートプレックス(登録商標)」)を用いて、混練物を粉砕して、チップ状の着色混練物を得た。次いで、窒素導入管、還流冷却管、攪拌器、及び熱電対を装備した四つ口フラスコに、着色混練物(200質量部)、イオン交換水(700質量部)、エチレングリコールモノブチルエーテル(100質量部)を入れた。フラスコ内容物を、90℃で2時間混合して、着色混練物を乳化し分散させた。次いで、フラスコ内容物を、攪拌しながら室温まで冷却して、乳化分散体(DA-1)を得た。
【0134】
乳化分散体(DA-1)には、チップ状の着色混練物が乳化により微粒子化した複合体粒子(CA-1)が含有されていた。160質量部の樹脂(A1)及び40質量部のC.I.ディスパースブルー359から形成された着色混練物が、乳化により微粒子化されて複合体粒子(CA-1)が得られたため、複合体粒子(CA-1)における樹脂(A1)の含有率は、式「100×160/(160+40)」から、80質量%と算出された。
【0135】
<乳化分散体(DA-2)~(DA-8)及び(DB-1)~(DB-4)の調製>
表2に示す種類及び量の樹脂を使用したこと、表2に示す種類及び量の染料を使用したこと、表2に示す量のエチレングリコールモノブチルエーテルを使用したこと、及び表2に示す量のイオン交換水を使用したこと以外は、乳化分散体(DA-1)と同じ方法で、乳化分散体(DA-2)~(DA-8)及び(DB-1)~(DB-4)の各々を調製した。
【0136】
乳化分散体(DA-2)~(DA-8)及び(DB-3)~(DB-4)には、各々、チップ状の着色混練物が乳化により微粒子化した複合体粒子(CA-2)~(CA-8)及び(CB-3)~(CB-4)が含有されていた。
【0137】
一方、乳化分散体(DB-1)の調製においては、チップ状の着色混練物が乳化されずに塊状の凝集物となり、微粒子状の複合体粒子(CB-1)を形成することができなかった。また、乳化分散体(DB-2)の調製においては、チップ状の着色混練物が完全に溶解してしまい、微粒子状の複合体粒子(CB-2)を形成することができなかった。
【0138】
[インクの調製]
<インク(IA-1)の調製>
次に、インク(IA-1)を調製した。インク(IA-1)の組成を、表3に示す。
【0139】
【表3】
【0140】
乳化分散体(DA-1)(100.0質量部、複合体粒子の含有率:20質量%)、プロピレングリコール(20.0質量部)、グリセリン(20.0質量部)、界面活性剤(日信化学工業株式会社製「サーフィノール(登録商標)104PG-50」、アセチレングリコール構造を有する界面活性剤、HLB値:4、有効成分濃度:50質量%)(0.5質量部)、及び架橋剤(ブロックイソシアネート構造を含むポリウレタン、明成化学工業株式会社製「メイカネートCX」、4.5質量部)を、攪拌機を用いて、20℃で15分間攪拌し、インク(IA-1)を得た。
【0141】
インク(IA-1)の最終的な染料濃度は2.7質量%であった。また、インク(IA-1)の粘度は、5.5mPa・sであった。なお、インク(IA-1)の粘度は、「JIS(日本産業規格)Z 8803:2011 液体の粘度測定方法」に記載の方法に準拠して、25℃の環境下で測定した。
【0142】
<インク(IA-2)~(IA-8)及び(IB-1)~(IB-4)の調製>
後述する表4に示す乳化分散体を使用したこと以外は、インク(IA-1)と同じ方法で、インク(IA-2)~(IA-8)及び(IB-1)~(IB-4)を調製した。
【0143】
<インクに含有される複合体粒子の体積中位径の測定>
インクに含有される複合体粒子の体積中位径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(マルバーン社製「ゼータサイザー ナノZS」)を用いて、ISO 22412:2017に記載の方法に準拠して測定した。測定された複合体粒子の体積中位径を、表4に示す。
【0144】
[評価方法]
評価対象であるインク(IA-1)~(IA-8)及び(IB-3)~(IB-4)の各々を用いて、以下に示す評価を行った。なお、インク(IB-1)及び(IB-2)については、後述する理由により、評価を行うことができなかった。
【0145】
<インクの分散状態の評価>
メンブランフィルター(平均孔径:5μm)を用いて、インクを濾過した。フィルターを通過することなくフィルター上に残存した粗粒子(粗い複合体粒子)の量を目視にて確認し、下記基準に従ってインクの分散状態を評価した。評価結果を、表4に示す。評価がA又はBであるインクを分散状態が良好と、評価がCであるインクを分散状態が不良と判定した。
評価A:フィルター上に粗粒子が全く残らない。
評価B:フィルター上に粗粒子が若干残るが、その影響によって濾過が妨げられない。
評価C:フィルター上に粗粒子が残り、その影響によって濾過が妨げられる。
【0146】
<吐出安定性及び摩擦堅牢度の評価>
吐出安定性及び摩擦堅牢度の評価には、記録ヘッド(京セラ株式会社製インクジェットプリントヘッド「KJ4B」)を備えたインクジェット印刷実験用治具を用いた。上記<インクの分散状態の評価>においてメンブランフィルター(平均孔径:5μm)を用いて濾過したインクを、各インクの色に対応するインクタンクに充填した。充填したインクタンクを、治具にセットした。
【0147】
(吐出安定性)
吐出されるインクの液滴量が8pL(ピコリットル)となる条件で、治具が備える記録ヘッドのノズルから、30分間連続してインクを吐出させた。なお、8pLの液滴量は、100%の画像濃度を有する画像を印刷する際に吐出されるインクの液滴量に相当する。インクの吐出後、10分間治具を放置した。放置後、治具が備える記録ヘッドのノズルのうち、インクが吐出されないノズル(不吐出ノズル)の数を確認した。不吐出ノズルの数から、下記基準に従って、インクの吐出安定性を評価した。評価結果を、表4に示す。評価がA又はBであるインクを吐出安定性が良好と、評価がCであるインクを吐出安定性が不良と判定した。
評価A:不吐出ノズルが、0個である。
評価B:不吐出ノズルが、1個以上3個以下である。
評価C:不吐出ノズルが、4個以上である。
【0148】
(摩擦堅牢度の評価)
吐出されるインクの液滴量が8pLとなる条件で、治具を用いて、100%の画像濃度を有する画像を、ポリエステル繊維布(テトロンポンジ生地布)に印刷した。プレス機(アサヒ繊維機械工業株式会社製「卓上自動平プレス機AF-54TEN型」)を用いて、温度180℃、圧力0.20N/cm2、且つ処理時間60秒の条件で、印刷したポリエステル繊維布に熱処理を行った。熱処理により、ポリエステル繊維布と画像とを一体化させて、評価布を得た。JIS(日本産業規格)L-0849(摩擦に対する染色堅牢度試験方法)に記載の乾燥試験法に従って、評価布の摩擦堅牢度の等級を判定した。1級から5級の等級のうち、等級の数値が大きい程(5級に近づく程)、摩擦堅牢度が優れている。摩擦堅牢度の等級から、下記基準に従って、摩擦堅牢度を評価した。評価結果を、表4に示す。評価がA又はBであるインクを摩擦堅牢度が良好と、評価がCであるインクを摩擦堅牢度が不良と判定した。
評価A:摩擦堅牢度が4級以上である。
評価B:摩擦堅牢度が3級以上4級未満である。
評価C:摩擦堅牢度が3級未満である。
【0149】
【表4】
【0150】
表4中の各用語の意味を説明する。「複合体D50」は、複合体粒子の体積中位径(単位:nm)を示す。
【0151】
既に述べたように、インク(IB-1)に含有される乳化分散体(DB-1)の調製においては、チップ状の着色混練物が乳化されずに塊状の凝集物となり、微粒子状の複合体粒子(CB-1)が形成されなかった。インク(IB-1)の「乳化せず」は、複合体粒子(CB-1)が形成されなかったために、その体積中位径が測定できなかったことを示す。また、インク(IB-1)の「-」は、複合体粒子(CB-1)が形成されなかったために、インク(IB-1)の評価を実施しなかったことを示す。
【0152】
既に述べたように、インク(IB-2)に含有される乳化分散体(DB-2)の調製においては、チップ状の着色混練物が完全に溶解して、微粒子状の複合体粒子(CB-2)が形成されなかった。インク(IB-2)の「完全溶解」は、複合体粒子(CB-2)が形成されなかったために、その体積中位径が測定できなかったことを示す。インク(IB-2)の「-」は、複合体粒子(CB-2)が形成されなかったために、インク(IB-2)の評価を実施しなかったことを示す。以上、表4中の各用語の意味を説明した。
【0153】
ここで、インク(IA-1)~(IA-8)は、各々、次の構成を有していた。表4に示されるように、インク(IA-1)~(IA-8)の各々は乳化分散体(DA-1)~(DA-8)を含有し、表2に示されるように、乳化分散体(DA-1)~(DA-8)の各々は複合体粒子(CA-1)~(CA-8)を含有していた。表1及び表2に示されるように、インク(より具体的には、インク(IA-1)~(IA-8)の各々)が含有する複合体粒子(より具体的には、複合体粒子(CA-1)~(CA-8)の各々)が、硫黄原子含有極性基を有するポリエステル樹脂(より具体的には、樹脂(A1)~(A4)のうちの1種)と、染料(より具体的には、C.I.ディスパースブルー359、C.I.ディスパースレッド60、及びC.I.ディスパースイエロー54のうちの1種)との複合体の粒子であった。上記<ガラス転移点及び融点の測定>で確認されたように、樹脂(A1)~(A4)は何れも、非結晶性ポリエステル樹脂であった。表1に示すように、樹脂(A1)~(A4)は、第1繰り返し単位と、第2繰り返し単位と、第3繰り返し単位とを有していた。表1に示すように、樹脂(A1)~(A4)の第1繰り返し単位率は、1mol%以上10mol%以下であった。表2の「含有率」欄に示すように、ポリエステル樹脂率は、50質量%以上100質量%未満であった。
【0154】
表4に示すように、インク(IA-1)~(IA-8)の分散状態の評価はA又はBであり、これらのインク中で複合体粒子が良好に乳化分散していた。また、インク(IA-1)~(IA-8)の吐出安定性の評価はBであり、インクジェット記録装置が備える記録ヘッドのノズルからこれらのインクを良好に吐出することができた。また、インク(IA-1)~(IA-8)を用いて形成された画像の摩擦堅牢度の評価はA又はBであり、これらのインクを用いて形成された画像の摩擦堅牢度は良好であった。
【0155】
表1に示されるように、インク(IB-1)に含有される複合体粒子(CB-1)の調製に使用された樹脂(B1)は、第1繰り返し単位を有していなかった。このため、既に述べたように、インク(IB-1)に含有される乳化分散体(DB-1)の調製において、チップ状の着色混練物が乳化されず、微粒子状の複合体粒子(CB-1)を形成できなかった。
【0156】
表1に示されるように、インク(IB-2)に含有される複合体粒子(CB-2)の調製に使用された樹脂(B2)の第1繰り返し単位率は、10mol%を超えていた。このため、既に述べたように、インク(IB-2)に含有される乳化分散体(DB-2)の調製において、チップ状の着色混練物が完全に溶解してしまい、微粒子状の複合体粒子(CB-2)を形成できなかった。
【0157】
表2に示されるように、インク(IB-3)が含有する複合体粒子(CB-3)、及びインク(IB-4)が含有する複合体粒子(CB-4)において、ポリエステル樹脂率は、50質量%未満であった。このため、表4に示されるように、インク(IB-3)及び(IB-4)を用いて形成された画像の摩擦堅牢度の評価はCであり、これらのインクを用いて形成された画像の摩擦堅牢度は不良であった。これは、ポリエステル樹脂率が低く、記録媒体(より具体的には、ポリエステル繊維布)に対して複合体粒子が接着し難かったからだと考えられる。
【0158】
以上のことから、本発明に係るインクは、分散性及び吐出安定性に優れ、摩擦堅牢度に優れた画像を印刷できることが示された。また、本発明に係るインクは、常温で液体であるため、ホットメルト型ではない通常のインクジェット記録装置において使用でき、記録ヘッドを加熱する構成を省略でき、装置構成の簡略化を図ることができる。また、このようなインクを用いた本発明に係る画像形成方法は、画像不良が少なく、摩擦堅牢度に優れた画像を印刷できると判断される。
【産業上の利用可能性】
【0159】
本発明に係るインクは、例えば、インクジェットプリンターを用いて、布のような記録媒体に画像を印刷するために利用できる。
【符号の説明】
【0160】
1 :インクジェット記録装置
3 :給紙部
4 :記録ヘッド
5 :液体収容部
6 :加熱部
7 :用紙搬送部
8 :排出部
31 :給紙カセット
32a :給紙ローラー
41 :ノズル
43 :インク流入口
45 :インク流出口
47 :吐出面
51 :インクタンク
60 :加熱装置
71 :第1搬送ユニット
71a :第1搬送面
72 :第2搬送ユニット
72a :第2搬送面
81 :排出トレイ
S :記録媒体
図1
図2