(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】歯車装置及びロボット
(51)【国際特許分類】
F16H 1/32 20060101AFI20240409BHJP
F16H 57/04 20100101ALI20240409BHJP
B25J 17/00 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
F16H1/32 B
F16H57/04 Z
B25J17/00 E
(21)【出願番号】P 2019211021
(22)【出願日】2019-11-22
【審査請求日】2022-09-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】片岡 祐哉
【審査官】小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-048699(JP,A)
【文献】特許第6494783(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
F16H 57/04
B25J 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯車装置であって、
内歯歯車と、
前記内歯歯車に部分的に噛み合って前記内歯歯車に対して回転軸まわりに相対的に回転する可撓性を有する外歯歯車と、
前記外歯歯車の内周面に接触し、前記内歯歯車と前記外歯歯車との噛み合い位置を前記回転軸まわりの周方向に移動させる波動発生器と、
を備え、
前記波動発生器は、楕円形状の外周面を有するカムと、前記外歯歯車の前記内周面と前記カムの前記外周面との間に配置された軸受と、を有し、
前記外歯歯車の前記内周面にはグリースが塗布されており、
前記外歯歯車の前記内周面と前記軸受の外周面の少なくとも一方に、前記回転軸に沿って溝が設けられている
(ただし、前記溝が、外歯と平行で且つ前記外歯と同一のピッチで前記外歯歯車の前記内周面に形成されている場合を除く)、歯車装置。
【請求項2】
請求項1に記載の歯車装置であって、
前記溝と前記回転軸との成す角度は、5度以下である、歯車装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の歯車装置であって、
前記回転軸に沿った前記外歯歯車の2つの端部は、開口している第1端部と、前記第1端部と反対側の第2端部とを有し、
前記波動発生器は、前記外歯歯車の前記第2端部よりも前記第1端部に近い位置において前記外歯歯車の前記内周面に嵌め込まれており、
前記溝は、前記外歯歯車の前記内周面に設けられており、
前記溝は、前記第1端部から前記第2端部に向けて延び、前記外歯歯車の前記内周面のうち前記波動発生器の前記軸受と接触する部分に渡って設けられている、歯車装置。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の歯車装置であって、
前記溝は、前記軸受の前記外周面に設けられており、
前記溝は、前記回転軸に沿って前記軸受の前記外周面の両端に渡って設けられている、歯車装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の歯車装置であって、
前記溝は、複数個設けられている、歯車装置。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の歯車装置であって、
前記外歯歯車の前記内周面と前記軸受の前記外周面の少なくとも一方に、前記溝と交差する他の溝が設けられている、歯車装置。
【請求項7】
ロボットであって、
基台またはアームを構成している第1部材と、
前記第1部材に対して回動可能に設けられているアームを構成している第2部材と、
前記第1部材および前記第2部材の一方側から他方側へ駆動力を伝達する歯車装置と、を備え、
前記歯車装置は、
内歯歯車と、
前記内歯歯車に部分的に噛み合って前記内歯歯車に対して回転軸まわりに相対的に回転する可撓性を有する外歯歯車と、
前記外歯歯車の内周面に接触し、前記内歯歯車と前記外歯歯車との噛み合い位置を前記回転軸まわりの周方向に移動させる波動発生器と、
を備え、
前記波動発生器は、楕円形状の外周面を有するカムと、前記外歯歯車の前記内周面と前記カムの前記外周面との間に配置された軸受と、を有し、
前記外歯歯車の前記内周面にはグリースが塗布されており、
前記外歯歯車の前記内周面と前記軸受の外周面の少なくとも一方に、前記回転軸に沿って溝が設けられている
(ただし、前記溝が、外歯と平行で且つ前記外歯と同一のピッチで前記外歯歯車の前記内周面に形成されている場合を除く)、ロボット。
【請求項8】
歯車装置であって、
内歯歯車と、
前記内歯歯車に部分的に噛み合って前記内歯歯車に対して回転軸まわりに相対的に回転する可撓性を有する外歯歯車と、
前記外歯歯車の内周面に接触し、前記内歯歯車と前記外歯歯車との噛み合い位置を前記回転軸まわりの周方向に移動させる波動発生器と、
を備え、
前記波動発生器は、楕円形状の外周面を有するカムと、前記外歯歯車の前記内周面と前記カムの前記外周面との間に配置された軸受と、を有し、
前記外歯歯車の前記内周面にはグリースが塗布されており、
前記外歯歯車の前記内周
面に、前記回転軸に沿って
ホーニング溝が設けられている、歯車装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、歯車装置、及び、歯車装置を備えるロボットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ロボットでは、一般に、ロボットアームの関節部を駆動するため、モーターの駆動軸に減速機が設けられる。このような減速機として、例えば、特許文献1に記載された歯車装置が知られている。
【0003】
この歯車装置は、円環状の内歯歯車と、内歯歯車と部分的に噛み合う可撓性の外歯歯車と、外歯歯車の内周面に接触して内歯歯車と外歯歯車との噛み合い位置を回転軸まわりの周方向に移動させる波動発生器と、を備える。波動発生器は、楕円形状の外周面を有するカムと、外歯歯車の内周面とカムの外周面との間に配置された軸受と、を有する。軸受は、内輪と外輪との間に複数のボールが保持された深溝玉軸受である。外歯歯車の内周面にはグリース溜まりがあり、このグリースが外歯歯車の内周面と軸受の外輪の外周面との間、及び、外歯歯車の内歯歯車との間に流れて潤滑剤として機能する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本開示の発明者は、波動発生器の回転に伴って波動発生器の軸受の外輪が外歯歯車に対して回転するため、外歯歯車の内周面と軸受の外輪の外周面との間に十分なグリースを保持することが難しく、この結果、波動発生器が滑らかに回転し難くなるという問題があることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の第1の形態によれば、歯車装置が提供される。この歯車装置は、内歯歯車と前記内歯歯車に部分的に噛み合って前記内歯歯車に対して回転軸まわりに相対的に回転する可撓性を有する外歯歯車と、前記外歯歯車の内周面に接触し、前記内歯歯車と前記外歯歯車との噛み合い位置を前記回転軸まわりの周方向に移動させる波動発生器と、を備える。前記波動発生器は、楕円形状の外周面を有するカムと、前記外歯歯車の前記内周面と前記カムの前記外周面との間に配置された軸受と、を有する。前記外歯歯車の前記内周面にはグリースが塗布されており、前記外歯歯車の前記内周面と前記軸受の外周面の少なくとも一方に、前記回転軸に沿って溝が設けられている(ただし、前記溝が、外歯と平行で且つ前記外歯と同一のピッチで前記外歯歯車の前記内周面に形成されている場合を除く)。
他の形態では、前記外歯歯車の前記内周面に、前記回転軸に沿ってホーニング溝が設けられている。
【0007】
本開示の第2の形態によれば、ロボットが提供される。このロボットは、基台またはアームを構成している第1部材と、前記第1部材に対して回動可能に設けられているアームを構成している第2部材と、前記第1部材および前記第2部材の一方側から他方側へ駆動力を伝達する歯車装置と、を備える。前記歯車装置は、内歯歯車と、前記内歯歯車に部分的に噛み合って前記内歯歯車に対して回転軸まわりに相対的に回転する可撓性を有する外歯歯車と、前記外歯歯車の内周面に接触し、前記内歯歯車と前記外歯歯車との噛み合い位置を前記回転軸まわりの周方向に移動させる波動発生器と、を備える。前記波動発生器は、楕円形状の外周面を有するカムと、前記外歯歯車の前記内周面と前記カムの前記外周面との間に配置された軸受と、を有する。前記外歯歯車の前記内周面にはグリースが塗布されており、前記外歯歯車の前記内周面と前記軸受の外周面の少なくとも一方に、前記回転軸に沿って溝が設けられている(ただし、前記溝が、外歯と平行で且つ前記外歯と同一のピッチで前記外歯歯車の前記内周面に形成されている場合を除く)。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本開示のロボットの実施形態の概略構成を示す図。
【
図2】本開示の実施形態に係る歯車装置を示す分解斜視図。
【
図5】外歯歯車の内周面と軸受の外周面における溝形成の一例を示す説明図。
【
図6】外歯歯車の内周面と軸受の外周面における溝形成の他の例を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、本開示のロボットの実施形態の概略構成を示す図である。
図1に示すロボット100は、6軸の垂直多関節ロボットであり、例えば、精密機器やこれを構成する部品の給材、除材、搬送および組立等の作業を行うことができる。
【0010】
ロボット100は、基台111と、基台111に接続されたロボットアーム120と、ロボットアーム120の先端部に設けられた力検出器140およびハンド130と、を有する。また、ロボット100は、ロボットアーム120を駆動させる動力を発生させる複数の駆動源を制御する制御装置110と、を有している。駆動源は、モーター150および歯車装置1を含んでいる。
【0011】
基台111は、ロボット100を任意の設置箇所に取り付ける部分である。なお、基台111の設置箇所は、特に限定されず、例えば、床、壁、天井、移動可能な台車上などが挙げられる。
【0012】
ロボットアーム120は、第1アーム121と、第2アーム122と、第3アーム123と、第4アーム124と、第5アーム125と、第6アーム126とを有し、これらが基端側から先端側に向ってこの順に連結されている。第1アーム121は、基台111に接続されている。第6アーム126の先端には、例えば、各種部品等を把持するハンド130などのエンドエフェクターが着脱可能に取り付けられている。このハンド130は、2本の指131、132を有しており、指131、132で例えば各種部品等を把持することができる。
【0013】
基台111には、第1アーム121を駆動するサーボモーター等のモーター150と減速機としての歯車装置1とを有する駆動源が設けられている。また、図示しないが、各アーム121~126にも、それぞれ、モーターおよび減速機を有する複数の駆動源が設けられている。そして、各駆動源は、制御装置110により制御される。
【0014】
このようなロボット100では、歯車装置1が、第1部材としての基台111および第2部材としての第1アーム121の一方側から他方側へ駆動力を伝達する。より具体的には、歯車装置1が、第1アーム121を基台111に対して回動させる駆動力を基台111側から第1アーム121側へ伝達する。ここで、歯車装置1が減速機として機能することにより、モーター150からの駆動力の回転を減速して第1アーム121を基台111に対して回動させることができる。なお、「回動」とはある中心点に対して一方向またはその反対方向を含めた双方向に動くこと、および、ある中心点に対して回転することを含むものである。
【0015】
このように、ロボット100は、基台を構成している第1部材である基台111と、基台111に対して回動可能に設けられているアームを構成している第2部材である第1アーム121と、基台111および第1アーム121の一方側から他方側へ駆動力を伝達する歯車装置1と、を備える。
【0016】
なお、第2アーム122から第6アーム126のうち、第1アーム121側から順次任意の数選択したアームを「第2部材」と捉えてもよい。すなわち、第1アーム121、および、第2アームから第6アーム126のうち第1アーム121側から順次任意の数選択したアームからなる構造体が「第2部材」であるとも言える。例えば、第1アーム121と第2アーム122からなる構造体が「第2部材」であるとも言えるし、ロボットアーム120全体が「第2部材」であるとも言える。また、「第2部材」がハンド130を含んでいてもよい。すなわち、ロボットアーム120およびハンド130からなる構造体が「第2部材」であるとも言える。
【0017】
以上説明したようなロボット100は、以下に説明する歯車装置1を備える。以下、本開示の歯車装置の一例として歯車装置1について説明する。
【0018】
図2は、本開示の一実施形態に係る歯車装置を示す分解斜視図である。
図3は、
図2に示す歯車装置の縦断面図である。
図4は、
図2に示す歯車装置の正面図である。なお、各図では、説明の便宜上、必要に応じて各部の寸法を適宜誇張して図示しており、各部間の寸法比は実際の寸法比とは必ずしも一致しない。
【0019】
図2ないし
図4に示す歯車装置1は、波動歯車装置であり、例えば減速機として用いられる。この歯車装置1は、剛性の内歯歯車2と、内歯歯車2に部分的に噛み合って内歯歯車2に対して回転軸aまわりに相対的に回転する可撓性を有する外歯歯車3と、外歯歯車3の内周面に接触し、内歯歯車2と外歯歯車3との噛み合い位置を回転軸aまわりの周方向に移動させる波動発生器4と、を有している。また、図示しないが、歯車装置1内の摺動部及び接触部には、必要に応じて、グリース等の潤滑剤が適宜配置されている。例えば、外歯歯車3の内周面311にはグリースが塗布されており、グリース溜まりとして機能している。
【0020】
本実施形態では、内歯歯車2が前述したロボット100の第1部材である基台111に対して固定され、外歯歯車3が前述したロボット100の第1部材である第1アーム121に対して接続され、波動発生器4が前述したロボット100のモーター150の回転軸に接続されている。
【0021】
モーター150の回転軸が回転すると、波動発生器4はモーター150と同じ回転速度で回転する。そして、内歯歯車2および外歯歯車3は、互いに歯数が異なるため、互いの噛み合い位置が周方向に移動しながら、これらの歯数差に起因して軸線aまわりに相対的に回転する。軸線aを「回転軸a」とも呼ぶ。本実施形態では内歯歯車2の歯数の方が外歯歯車3の歯数より多いため、モーター150の回転速度よりも低い回転速度で外歯歯車3を回転させることができる。すなわち、波動発生器4を入力軸側、外歯歯車3を出力軸側とする減速機を実現することができる。
【0022】
なお、内歯歯車2、外歯歯車3および波動発生器4の接続形態は、前述した形態に限定されず、例えば、外歯歯車3を基台111に対して固定し、内歯歯車2を第1アーム121に対して接続しても、歯車装置1を減速機として用いることができる。また、外歯歯車3をモーター150の回転軸に接続しても、歯車装置1を減速機として用いることができ、この場合、波動発生器4を基台111に対して固定し、内歯歯車2を第1アーム121に対して接続すればよい。また、歯車装置1を増速機として用いる場合、前述した入力側であるモーター150側と出力側である第1アーム121側との関係を反対にすればよい。
【0023】
以下、歯車装置1の構成を簡単に説明する。
図2ないし
図4に示すように、内歯歯車2は、径方向に実質的に撓まない剛体で構成された歯車であって、内歯23を有するリング状の歯車である。本実施形態では、内歯歯車2は、平歯車である。すなわち、内歯23は、軸線aに対して平行な歯スジを有する。なお、内歯23の歯スジは、軸線aに対して傾斜していてもよい。すなわち、内歯歯車2は、はすば歯車またはやまば歯車であってもよい。
【0024】
外歯歯車3は、内歯歯車2の内側に挿通されている。この外歯歯車3は、径方向に撓み変形可能な可撓性を有する歯車であって、内歯歯車2の内歯23に噛み合う外歯33を有する外歯歯車である。また、外歯歯車3の歯数は、内歯歯車2の歯数よりも少ない。このように外歯歯車3および内歯歯車2の歯数が互いに異なることにより、減速機を実現することができる。
【0025】
本実施形態では、外歯歯車3は、
図3の軸線a方向の左端に開口35を有するカップ状をなし、その外周面に外歯33が形成されている。ここで、外歯歯車3は、軸線aまわりの円筒状の胴部31と、胴部31の軸線a方向での一端部側、すなわち
図3の軸線a方向の右側、に接続されている底部32と、を有する。
【0026】
図3に示すように、外歯歯車3の底部32には、軸線aに沿って貫通した孔321と、孔321の周囲において貫通した複数の孔322と、が形成されている。孔321は、出力側の図示しない軸体を挿通することができる。また、孔322は、出力側の軸体を底部32に固定するためのネジを挿通するネジ孔として用いることができる。なお、これらの孔は、適宜設ければよく、省略することもできる。
【0027】
図3および
図4に示すように、波動発生器4は、外歯歯車3の内側に配置され、軸線aまわりに回転可能である。そして、波動発生器4は、外歯歯車3の胴部31の横断面を長軸Laおよび短軸Lbとする楕円形または長円形に変形させて外歯33を内歯歯車2の内歯23に噛み合わせる。ここで、外歯歯車3および内歯歯車2は、同一の軸線aまわりに回転可能に互いに内外で噛み合わされることとなる。
【0028】
外歯歯車3は、軸線aに沿った方向において2つの端部331,332を有する。2つの端部331,332のうち、開口35側の端部331を「第1端部331」と呼び、第1端部331と反対側の端部332を「第2端部332」と呼ぶ。第1端部331近傍の胴部31は、コーニングによる大きな変形が生じる部分である。コーニングとは、
図4に示す長軸La側では胴部31が軸線aに対して外側に開き、短軸Lbでは胴部31が軸線aに対して内側に狭まる3次元的な変形を意味する。
【0029】
波動発生器4は、カム41と、カム41の外周に装着されている軸受42と、を有している。カム41は、軸線aまわりに回転する軸部411と、軸部411の一端部から外側に突出しているカム部412と、を有している。ここで、カム部412の外周面は、軸線aに沿った方向から見たときに、
図3および
図4中の上下方向を長軸Laとする楕円形または長円形をなしている。軸受42は、可撓性の内輪421および外輪423と、これらの間に配置されている複数のボール422と、を有している。
【0030】
ここで、内輪421は、カム41のカム部412の外周面に嵌め込まれ、カム部412の外周面に沿って楕円形または長円形に弾性変形している。それに伴って、外輪423も楕円形または長円形に弾性変形している。外輪423の外周面444は、胴部31の内周面311に当接している。また、内輪421の外周面および外輪423の内周面は、それぞれ、複数のボール422を周方向に沿って案内させつつ転動させる軌道面431,441となっている。これらの軌道面431,441は、横断面がボール422の半径よりわずかに大きい半径の円弧をなしている。また、複数のボール422は、互いの周方向での間隔を一定に保つように、図示しない保持器により保持されている。
【0031】
このような波動発生器4は、カム41が軸線aまわりに回転することに伴って、カム部412の向きが変わり、それに伴って、外輪423も変形し、内歯歯車2および外歯歯車3の互いの噛み合い位置を周方向に移動させる。なお、このとき、内輪421は、カム部412の外周面に対して固定的に設置されているため、変形状態は変わらない。
【0032】
図5は、外歯歯車3の内周面311と波動発生器4の軸受42の外周面424における溝形成の一例を示す説明図である。ここでは、外歯歯車3については、軸線aを通る切断面で切断された部分断面が描かれている。一方、波動発生器4については、断面ではなく外観が描かれている。前述したように、外歯歯車3の内周面311には、グリースGRが塗布されている。
【0033】
この例では、外歯歯車3の内周面311に、回転軸aに沿った溝351が設けられている。また、溝351は複数本設けられている。これらの溝351を「第1の溝351」とも呼ぶ。「回転軸aに沿った溝351」という語句は、回転軸aに平行な線分を内周面311に描いたときに、その線分と溝351との成す角度が30度以下であることを意味する。溝351を設けることにより、外歯歯車3の内周面311と軸受42の外周面424との間でグリースGRを容易に保持することが可能である。溝351は、外歯歯車3と内歯歯車2の間にグリースGRを導く機能も有する。この機能のためには、溝351と回転軸aとの成す角度を5度以下とすることが好ましく、特に、溝351と回転軸aとが平行であることが好ましい。また、溝351は、複数設けられていることが好ましい。更に、複数の溝351は、互いに平行に延びていることが好ましい。
【0034】
図5の例において、溝351は、外歯歯車3の第1端部331から第2端部332に向けて延びている。また、溝351は、外歯歯車3の内周面311のうち、波動発生器4の軸受42と接触する部分R42に渡って設けられていることが好ましい。この構成によれば、溝351が外歯歯車3の内周面311のうちで波動発生器4の軸受42と接触する部分R42に渡って設けられているので、外歯歯車3と波動発生器4の軸受42との間にグリースGRを容易に保持できる。また、溝351は外歯歯車3の開口35側の第1端部331から第2端部332に向けて延びているので、第1端部331を介して外歯歯車3と内歯歯車2の間にグリースGRを容易に導くことができる。また、
図5の例では、溝351は、第1端部331から始まり、外歯歯車3の外歯33の全範囲に相当する部分に渡って形成されている。こうすれば、外歯歯車3と波動発生器4の軸受42との間に十分なグリースGRを容易に保持できる。また、仮に部分R42が回転軸aに沿った方向に移動したとしても、外歯歯車3の内周面311と軸受42の外周面424との間でグリースGRを容易に保持することが可能である。
【0035】
溝351の幅及び深さは、グリースGRに含まれる固体添加剤のサイズに応じた適切なサイズに設定されることが好ましい。例えば、固体添加剤のサイズが10μm以下である場合には、溝351の幅を少なくとも10μmとすることが好ましい。また、溝351の深さは、幅よりも小さくすることが好ましく、例えば、幅の半分とすることが好ましい。溝351の深さを幅よりも小さくする理由は、固体添加剤が外歯歯車3と波動発生器4の軸受42の両方に接する深さとすることによって、グリースGRの保持性を向上させることができるからである。また、外歯歯車3と波動発生器4の軸受42によって固体添加剤に圧力を掛けたい場合が考えられるので、溝351の深さを幅よりも小さくすることが好ましい。グリースGRとしては、例えば固体添加剤として有機モリブデンを使用し、増ちょう剤としてリチウム石鹸基を使用するものを採用できる。溝351の深さが過度に小さい場合には、グリースGRを保持する機能を発揮できないので、固体添加剤のサイズに拘わらず、溝351の深さを5μm以上とすることが好ましく、10μm以上とすることが更に好ましい。
【0036】
溝351は、例えば、ホーニング加工によって形成することが可能である。すなわち、ホーニング加工機の砥石を回転軸aに沿った方向に往復運動させることによって、外歯歯車3の内周面311に、回転軸aに沿った複数の溝351を形成することが可能である。
【0037】
図5の例では、溝351を外歯歯車3の内周面311に形成していたが、この代わりに、溝351を軸受42の外周面424に形成するようにしてもよい。また、外歯歯車3の内周面311と軸受42の外周面424の両方に溝351を設けるようにしてもよい。換言すれば、外歯歯車3の内周面311と軸受42の外周面424の少なくとも一方に、回転軸aに沿って溝351を設けることが好ましい。
【0038】
図6は、外歯歯車3の内周面311と波動発生器4の軸受42の外周面424における溝形成の他の例を示す説明図である。この例では、外歯歯車3の内周面311に設けられた溝351に加えて、軸受42の外周面424に他の溝451が設けられている。溝451は、回転軸aに沿って軸受42の外周面424の両端に渡って設けられている。また、溝451は複数本設けられている。これらの溝451を「第2の溝451」又は「他の溝451」とも呼ぶ。第2の溝451の方向や深さ及び幅に関する好ましい値は、前述した第1の溝351と同様である。また、第2の溝451は、第1の溝351と交差することが好ましい。この理由は、第1の溝351と第2の溝451が平行である場合には、両者が回転抵抗となる可能性があるからである。第1の溝351と第2の溝451の成す角度θは、10度以下であることが好ましく、5度以下であることが更に好ましい。
【0039】
第2の溝451は、第1の溝351と同じ面に形成されていても良い。具体的には、第1の溝351が外歯歯車3の内周面311に形成されている場合に、第2の溝451も外歯歯車3の内周面311に形成するようにしてもよい。また、第1の溝351が軸受42の外周面424に形成されている場合に、第2の溝451も軸受42の外周面424に形成するようにしてもよい。但し、
図6の例のように、溝351,451の一方を外歯歯車3の内周面311と軸受42の外周面424の一方に形成し、溝351,451の他方を外歯歯車3の内周面311と軸受42の外周面424の他方に形成することが好ましい。
【0040】
以上のように、上述した実施形態では、外歯歯車3の内周面311と軸受42の外周面424の少なくとも一方に、回転軸aに沿って溝351が設けられている。この結果、波動発生器4の回転に伴って軸受42の外周面424が外歯歯車3に対して回転しても、回転軸aに沿った溝351により、外歯歯車3の内周面311と軸受42の外周面424との間のグリースGRを容易に保持できる。
【0041】
上述した実施形態では、カップ型の外歯歯車3を使用していたが、この代わりに、ハット型の外歯歯車を使用してもよい。ハット型の外歯歯車を有する歯車装置においても、前述した
図5及び
図6で説明した溝を適用することが可能であり、これにより、上述した効果と同様の効果を得ることができる。
【0042】
本開示は、上述した実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実現することができる。例えば、本開示は、以下の形態(aspect)によっても実現可能である。以下に記載した各形態中の技術的特徴に対応する上記実施形態中の技術的特徴は、本開示の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、本開示の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【0043】
(1)本開示の第1形態によれば、歯車装置が提供される。この歯車装置は、内歯歯車と、前記内歯歯車に部分的に噛み合って前記内歯歯車に対して回転軸まわりに相対的に回転する可撓性を有する外歯歯車と、前記外歯歯車の内周面に接触し、前記内歯歯車と前記外歯歯車との噛み合い位置を前記回転軸まわりの周方向に移動させる波動発生器と、を備える。前記波動発生器は、楕円形状の外周面を有するカムと、前記外歯歯車の前記内周面と前記カムの前記外周面との間に配置された軸受と、を有する。前記外歯歯車の前記内周面にはグリースが塗布されており、前記外歯歯車の前記内周面と前記軸受の外周面の少なくとも一方に、前記回転軸に沿って溝が設けられている。
この歯車装置によれば、波動発生器の回転に伴って軸受の外周面が外歯歯車に対して回転しても、回転軸に沿った溝により、外歯歯車の内周面と軸受の外周面との間のグリースを容易に保持できる。この結果、波動発生器を滑らかに回転させることができる。
【0044】
(2)上記歯車装置において、前記溝と前記回転軸との成す角度は、5度以下であるものとしてもよい。
この歯車装置によれば、溝が回転軸にほぼ平行な方向に延びているので、外歯歯車と内歯歯車の間にグリースを容易に導くことができる。
【0045】
(3)上記歯車装置において、前記回転軸に沿った前記外歯歯車の2つの端部は、開口している第1端部と、前記第1端部と反対側の第2端部とを有し、前記波動発生器は、前記外歯歯車の前記第2端部よりも前記第1端部に近い位置において前記外歯歯車の前記内周面に嵌め込まれており、前記溝は、前記外歯歯車の前記内周面に設けられており、前記溝は、前記第1端部から前記第2端部に向けて延び、前記外歯歯車の前記内周面のうち前記波動発生器の前記軸受と接触する部分に渡って設けられているものとしてもよい。
この歯車装置によれば、溝が外歯歯車の内周面のうち波動発生器の軸受と接触する部分に渡って設けられているので、外歯歯車と波動発生器の軸受との間にグリースを容易に保持できる。また、溝は外歯歯車の開口している第1端部から第2端部に向けて延びているので、第1端部を介して外歯歯車と内歯歯車の間にグリースを容易に導くことができる。
【0046】
(4)上記歯車装置において、前記溝は、前記軸受の前記外周面に設けられており、前記溝は、前記回転軸に沿って前記軸受の前記外周面の両端に渡って設けられているものとしてもよい。
この歯車装置によれば、溝が波動発生器の軸受の外周面の両端に渡って設けられているので、外歯歯車と波動発生器の軸受との間にグリースを容易に保持できる。
【0047】
(5)上記歯車装置において、前記溝は、複数個設けられているものとしてもよい。
この歯車装置によれば、外歯歯車と波動発生器の軸受との間に十分なグリースを容易に保持できる。
【0048】
(6)上記歯車装置において、前記外歯歯車の前記内周面と前記軸受の前記外周面の少なくとも一方に、前記溝と交差する他の溝が設けられているものとしてもよい。
この歯車装置によれば、交差する溝が設けられているので、交差する溝の両方でグリースを保持できる。
【0049】
(7)本開示の第2の形態によれば、ロボットが提供される。このロボットは、基台またはアームを構成している第1部材と、前記第1部材に対して回動可能に設けられているアームを構成している第2部材と、前記第1部材および前記第2部材の一方側から他方側へ駆動力を伝達する歯車装置と、を備える。前記歯車装置は、内歯歯車と、前記内歯歯車に部分的に噛み合って前記内歯歯車に対して回転軸まわりに相対的に回転する可撓性を有する外歯歯車と、前記外歯歯車の内周面に接触し、前記内歯歯車と前記外歯歯車との噛み合い位置を前記回転軸まわりの周方向に移動させる波動発生器と、を備える。前記波動発生器は、楕円形状の外周面を有するカムと、前記外歯歯車の前記内周面と前記カムの前記外周面との間に配置された軸受と、を有する。前記外歯歯車の前記内周面にはグリースが塗布されており、前記外歯歯車の前記内周面と前記軸受の外周面の少なくとも一方に、前記回転軸に沿って溝が設けられている。
このロボットによれば、波動発生器の回転に伴って軸受の外周面が外歯歯車に対して回転しても、回転軸に沿った溝により、外歯歯車の内周面と軸受の外周面との間のグリースを容易に保持できる。この結果、波動発生器を滑らかに回転させることができる。
【符号の説明】
【0050】
1…歯車装置、2…内歯歯車、3…外歯歯車、4…波動発生器、23…内歯、31…胴部、32…底部、33…外歯、35…開口、41…カム、42…軸受、100…ロボット、110…制御装置、111…基台、120…ロボットアーム、121~126…アーム、130…ハンド、131,132…指、140…力検出器、150…モーター、311…内周面、321,322…孔、331…第1端部、332…第2端部、351…溝、411…軸部、412…カム部、421…内輪、422…ボール、423…外輪、424…外周面、431,441…軌道面、444…外周面、451…溝