(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】有機物付着多孔質無機酸化物粒子
(51)【国際特許分類】
C01B 33/18 20060101AFI20240409BHJP
【FI】
C01B33/18 E
(21)【出願番号】P 2019216812
(22)【出願日】2019-11-29
【審査請求日】2022-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000005496
【氏名又は名称】富士フイルムビジネスイノベーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】恵利 祥史
(72)【発明者】
【氏名】水口 卓裕
(72)【発明者】
【氏名】竹内 栄
(72)【発明者】
【氏名】銭谷 優香
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 孝治
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-142395(JP,A)
【文献】特開2017-142388(JP,A)
【文献】特開2017-141378(JP,A)
【文献】特開2017-141375(JP,A)
【文献】特開2017-057094(JP,A)
【文献】特開2012-236752(JP,A)
【文献】特開2014-162681(JP,A)
【文献】特開2006-332021(JP,A)
【文献】国際公開第2016/117344(WO,A1)
【文献】特開2014-185069(JP,A)
【文献】特開2016-186508(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00-33/193
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ粒子からなる多孔質無機酸化物粒子と、前記多孔質無機酸化物粒子の表面に付着した有機物
であって、シリコーンオイル、パラフィンオイル、及びフッ素オイルよりなる群から選択される少なくとも1種の有機物と、を有し、
X線光電子分光法(XPS)により、洗浄後の粒子表面を測定したときの炭素量Cf(atom%)と、表面エッチングを2分施した後の粒子表面を測定したときの炭素量Ce(atom%)と、の関係が、(Cf-Ce)/2>1を満たす、
有機物付着多孔質無機酸化物粒子。
【請求項2】
前記炭素量Cf(atom%)と前記炭素量Ce(atom%)と、の関係が、
(Cf-Ce)/2≧1.5を満たす請求項1に記載の有機物付着多孔質無機酸化物粒子。
【請求項3】
前記多孔質無機酸化物粒子の個数平均粒径が、7nm以上150nm以下である請求項1又は請求項2に記載の有機物付着多孔質無機酸化物粒子。
【請求項4】
前記多孔質無機酸化物粒子の個数平均粒径が、7nm以上60nm以下である請求項3に記載の有機物付着多孔質無機酸化物粒子。
【請求項5】
前記多孔質無機酸化物粒子が、気相法シリカ粒子である請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の有機物付着多孔質無機酸化物粒子。
【請求項6】
前記
シリコーンオイルが、非反応性シリコーンオイルである請求項
1~請求項5のいずれか1項に記載の有機物付着多孔質無機酸化物粒子。
【請求項7】
洗浄後の前記多孔質無機酸化物粒子に対する前記有機物の付着量が、4質量%以上8質量%以下である請求項1~請求項
6のいずれか1項に記載の有機物付着多孔質無機酸化物粒子。
【請求項8】
洗浄後の前記多孔質無機酸化物粒子に対する前記有機物の付着量が、3質量%以上6質量%以下である請求項
7に記載の有機物付着多孔質無機酸化物粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機物付着多孔質無機酸化物粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
シリカ粒子、チタニア粒子、アルミナ粒子等の多孔質酸化物粒子は、トナー、化粧品、ゴム、研磨剤等の添加成分または主成分として用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、「原体シリカ粉末を非反応性シリコーンオイルにより表面処理したシリカ粉末であって、前記表面処理シリカ粉末に含まれるカーボン量をC(質量%)、前記原体シリカ粉末の比表面積(m2/g)をSとするとき、前記表面処理シリカ粉末の1m2当りのカーボン量(C/S)が0.02以下であり、疎水率が85%以上であることを特徴とする表面処理シリカ粉末。」が提案されている。
【0004】
また、特許文献2には、「シリコーンオイルで疎水化処理された疎水性シリカ微粒子であって、粉末表面に残存する炭素含有量が5.0~10wt%であり、平均一次粒子経が7~25nm、疎水率が95%以上、遊離炭素量が1.0~3.0wt%であることを特徴とする疎水性シリカ微粒子。」が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-162681号公報
【文献】特開2012-236752号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、多孔質無機酸化物粒子と、多孔質無機酸化物粒子の表面に付着した有機物と、を有する有機物付着多孔質無機酸化物粒子において、X線光電子分光法(XPS)により、洗浄後の粒子表面を測定したときの炭素量Cf(atom%)と、表面エッチングを2分施した後の粒子表面を測定したときの炭素量Ce(atom%)と、の関係が、(Cf-Ce)/2≦1を満たす場合に比べ、有機物の機能維持性に優れた有機物付着多孔質無機酸化物粒子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する手段は、以下の態様を含む。
【0008】
<1>
多孔質無機酸化物粒子と、前記多孔質無機酸化物粒子の表面に付着した有機物と、を有し、
X線光電子分光法(XPS)により、洗浄後の粒子表面を測定したときの炭素量Cf(atom%)と、表面エッチングを2分施した後の粒子表面を測定したときの炭素量Ce(atom%)と、の関係が、(Cf-Ce)/2>1を満たす、
有機物付着多孔質無機酸化物粒子。
<2>
前記炭素量Cf(atom%)と前記炭素量Ce(atom%)と、の関係が、
(Cf-Ce)/2≧1.5を満たす<1>に記載の有機物付着多孔質無機酸化物粒子。
<3>
前記多孔質無機酸化物粒子の個数平均粒径が、7nm以上150nm以下である<1>又は<2>に記載の有機物付着多孔質無機酸化物粒子。
<4>
前記多孔質無機酸化物粒子の個数平均粒径が、7nm以上60nm以下である<3>に記載の有機物付着多孔質無機酸化物粒子。
<5>
前記多孔質無機酸化物粒子が、気相法シリカ粒子である<1>~<4>のいずれか1項に記載の有機物付着多孔質無機酸化物粒子。
<6>
前記有機物が、オイルである<1>~<4>のいずれか1項に記載の有機物付着多孔質無機酸化物粒子。
<7>
前記オイルが、非反応性シリコーンオイルである<5>に記載の有機物付着多孔質無機酸化物粒子。
<8>
洗浄後の前記多孔質無機酸化物粒子に対する前記有機物の付着量が、3質量%以上8質量%以下である<1>~<7>のいずれか1項に記載の有機物付着多孔質無機酸化物粒子。
<9>
洗浄後の前記多孔質無機酸化物粒子に対する前記有機物の付着量が、4質量%以上6質量%以下である<8>に記載の有機物付着多孔質無機酸化物粒子。
【発明の効果】
【0009】
<1>、<6>、又は<7>に係る発明によれば、多孔質無機酸化物粒子と、多孔質無機酸化物粒子の表面に付着した有機物と、を有する有機物付着多孔質無機酸化物粒子において、X線光電子分光法(XPS)により、洗浄後の粒子表面を測定したときの炭素量Cf(atom%)と、表面エッチングを2分施した後の粒子表面を測定したときの炭素量Ce(atom%)と、の関係が、(Cf-Ce)/2≦1を満たす場合に比べ、有機物の機能維持性に優れた有機物付着多孔質無機酸化物粒子が提供される。
【0010】
<2>に係る発明によれば、前記炭素量Cf(atom%)と前記炭素量Ce(atom%)と、の関係が、洗浄後の粒子表面を測定したときの炭素量Cf(atom%)と、表面エッチングを2分施した後の粒子表面を測定したときの炭素量Ce(atom%)と、の関係が、(Cf-Ce)/2<1.5を満たす場合に比べ、有機物の機能維持性に優れた有機物付着多孔質無機酸化物粒子が提供される。
【0011】
<3>、又は<4>に係る発明によれば、前記炭素量Cf(atom%)と前記炭素量Ce(atom%)と、の関係が、(Cf-Ce)/2≦1を満たす場合に比べ、多孔質無機酸化物粒子の個数平均粒径が、7nm以上150nm以下(好ましくは、7nm以上60nm以下)であっても、有機物の機能維持性に優れた有機物付着多孔質無機酸化物粒子が提供される。
【0012】
<5>に係る発明によれば、前記炭素量Cf(atom%)と前記炭素量Ce(atom%)と、の関係が、(Cf-Ce)/2≦1を満たす場合に比べ、多孔質無機酸化物粒子が、気相法シリカ粒子であっても、有機物の機能維持性に優れた有機物付着多孔質無機酸化物粒子が提供される。
【0013】
<8>、又は<9>に係る発明によれば、洗浄後の多孔質無機酸化物粒子に対する有機物の付着量が、3質量%未満(又は、4質量%未満)である場合に比べ、有機物の機能維持性に優れた有機物付着多孔質無機酸化物粒子が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の一例である実施形態について説明する。これらの説明及び実施例は実施形態を例示するものであり、実施形態の範囲を制限するものではない。
【0015】
本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0016】
本明細書において、「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。
組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計量を意味する。
【0017】
<有機物付着多孔質無機酸化物粒子>
本実施形態に係る有機物付着多孔質無機酸化物粒子(以下、「有機物付着粒子」とも称する)は、多孔質無機酸化物粒子と、多孔質無機酸化物粒子の表面に付着した有機物と、を有する。
そして、本実施形態に係る有機物付着粒子は、X線光電子分光法(XPS)により、洗浄後の粒子表面を測定したときの炭素量Cf(atom%)と、表面エッチングを2分施した後の粒子表面を測定したときの炭素量Ce(atom%)と、の関係が、(Cf-Ce)/2>1を満たす。
【0018】
流動性等の機能性を高めるために、多孔質無機酸化物粒子に、オイル等の有機物を表面処理して、付着させること知られている。
しかし、例えば、多孔質無機酸化物粒子の表面に付着した有機物は、経時で移行するため、粒子表面の有機物量が減少し、有機物により付与される機能が低下する。具体的には、例えば、流動性を付与する目的で、有機物としてオイルを多孔質無機酸化物粒子の表面に付着させた場合、有機物付着粒子を配管移送すると、経時で粒子表面のオイルが配管内壁に移行し、粒子表面のオイル量が低下する。それにより、オイルにより付与される流動性が低下する。
【0019】
それに対して、本実施形態に係る有機物付着粒子は、有機物付着粒子を洗浄後に、X線光電子分光法(XPS)により、有機物付着粒子表面を測定したときの炭素量Cf(atom%)と、洗浄後に、有機物付着粒子に対して表面エッチングを2分施した後、X線光電子分光法(XPS)により、有機物付着粒子表面を測定したときの炭素量Ceを測定したときの炭素量Ce(atom%)と、の関係を、式(1):(Cf-Ce)/2>1を満たすようにする。
この式(1)を満たすとは、表面に付着した有機物を洗浄で除去した後も、有機物付着粒子表面に有機物が存在し、かつ、細孔奥深くまで有機物が存在することを意味する。
つまり、上記式(1)を満たす有機物付着粒子は、粒子表面から有機物が移行しても、粒子の細孔内部から表面に有機物が染み出してくる。それにより、粒子表面の有機物量が維持され易くなる。
【0020】
そのため、本実施形態に係る有機物付着粒子は、有機物の機能維持性に優れる。
なお、細孔内部にまでシリコーンオイル処理するために、ゾルゲルシリカ粒子に超臨界二酸化炭素中でシリコーンオイルを表面処理する技術も知られているが、機能維持性について、さらなる向上が求められている。
そして、本実施形態に係る有機物付着粒子は、本技術の表面処理シリカ粒子に比べ、有機物の機能維持性に優れる。
【0021】
以下、本実施形態に係る有機物付着粒子の詳細について、説明する。
【0022】
(有機物付着粒子)
本実施形態に係る有機物付着粒子において、X線光電子分光法(XPS)により、洗浄後の粒子表面を測定したときの炭素量Cf(atom%)と、表面エッチングを2分施した後の粒子表面を測定したときの炭素量Ce(atom%)と、の関係は、下記式(1)を満たすが、有機物の機能維持性向上の観点から、下記式(12)を満たすことが好ましく、下記式(13)を満たすことがより好ましい。
式(1) :(Cf-Ce)/2>1
式(12):(Cf-Ce)/2≧1.3
式(13):(Cf-Ce)/2≧1.5
【0023】
ただし、炭素量Cf(atom%)と炭素量Ce(atom%)との関係は、 粒子同士の凝集抑制の観点から、3≧(Cf-Ce)/2が好ましい。
【0024】
炭素量Cfは、有機物付着粒子を洗浄した後、X線光電子分光法(XPS)により、洗浄後の有機物付着粒子の表面を測定したときの炭素量である。
洗浄は、次の通り実施する。
有機物付着粒子をテトラヒロドフラン(THF)と混合し(固形分濃度10%)、超音波分散器により、50Hz、1時間で、分散処理を行う。その後遠心分離装置を用いて遠心分離し、上澄みを除去することで洗浄後の有機物付着粒子が得る。
【0025】
炭素量Ceは、上記洗浄した有機物付着粒子に対して表面エッチングを2分実施した後、X線光電子分光法(XPS)により、洗浄かつ表面エッチングした後の有機物付着粒子の表面を測定したときの炭素量である。
表面エッチングは、次の通り実施する。
エッチング用の装置として「VG製 ESCALAB-220i」を使用し、エッチング用ガスとしてアルゴンを用いたアルゴンモノマーエッチング手法にて、加速電圧2kV、エミッション電流20mA、ラスターサイズ2×2の条件で2分間エッチングを行う。
【0026】
X線光電子分光法(XPS)による炭素量Cf及び炭素量Ceの測定は、各々、次の通りである。
XPS測定装置として「VG製 ESCALAB-220i」を使用し、X線源として単色化されたAlKα線を用い、加速電圧を10kV、エミッション電流を20mVに設定して測定を実施した。具体的には、分析領域を1mmφ、検出深さを5nmとして、炭素原子について、C1sスペクトルを測定し、測定された炭素原子のスペクトルに基づいて炭素原子の個数を求め、測定領域における全原子量に対する炭素量を算出する。
【0027】
有機物付着粒子の個数平均粒径は、有機物の機能維持性向上の観点から、7nm以上50nmが好ましく、7nm以上100nm以下がより好ましく、7nm以上60nm以下、10nm以上60nm以下がさらに好ましく、10nm以上40nm以下がもっとも好ましい。
なお、有機物付着粒子の個数平均粒径は、多孔質無機酸化物粒子の個数平均粒径と同様に測定する。
【0028】
(多孔質無機酸化物粒子)
多孔質無機酸化物粒子は、有機物が付着する対象の粒子である。
多孔質無機酸化物粒子としては、シリカ、アルミナ、酸化チタン、チタン酸バリウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、酸化銅、酸化亜鉛、酸化スズ、ケイ砂、クレー、雲母、ケイ灰石、ケイソウ土、酸化クロム、酸化セリウム、ベンガラ、三酸化アンチモン、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、炭化ケイ素、窒化ケイ素等の粒子、又は、これらの混合粒子若しくは複合粒子が挙げられる。
これらの中でも、多孔質無機酸化物粒子は、個数平均粒径や粒度分布の制御性の観点から、シリカ粒子、チタニア粒子、アルミナ粒子が好ましく、シリカ粒子がより好ましい。
【0029】
シリカ粒子としては、シリカ、すなわちSiO2を主成分とする粒子であればよく、結晶性でも非晶性でもよい。
シリカ粒子は、水ガラスやアルコキシシラン等のケイ素化合物を原料に製造された粒子であってもよいし、石英を粉砕して得られる粒子であってもよい。
具体的には、シリカ粒子は、ゾルゲルシリカ粒子、水性コロイダルシリカ粒子、アルコール性シリカ粒子、気相法シリカ粒子(つまりフェームドシリカ粒子)、溶融シリカ粒子が挙げられ、これらの中でも、気相法シリカ粒子がよい。
【0030】
特に、気相法シリカ粒子は、細孔径が小さく、有機物による機能維持性が低い傾向がある。しかし、上記式(1)を満たす有機物付着粒子は、気相法シリカ粒子を適用した場合であっても、有機物による機能維持性に優れる。
【0031】
多孔質無機酸化物粒子の個数平均粒径は、有機物の機能維持性向上の観点から、7nm以上50nmが好ましく、7nm以上100nm以下がより好ましく、7nm以上60nm以下、10nm以上60nm以下がさらに好ましく、10nm以上40nm以下がもっとも好ましい。
【0032】
多孔質無機酸化物粒子の個数平均粒径の測定は、次の通りである。
多孔質無機酸化物粒子を走査型顕微鏡で観察し、多孔質無機酸化物粒子の画像解析を行うことで測定する。具体的には、多孔質無機酸化物粒子を走査型顕微鏡により観察し、多孔質無機酸化物粒子の画像解析によって、多孔質無機酸化物粒子の円相当径を測定する。球相当径の測定を磁性粒子100個分について行う。そして、得られた球相当径の個数基準の累積頻度における50%径(D50p)を「多孔質無機酸化物粒子の個数平均粒径」とする。
【0033】
(有機物)
有機物は、多孔質無機酸化物粒子の流動性、粒子圧縮時の凝集性等の向上を目的とする表面処理剤である。
【0034】
有機物としては、オイルが代表的な材料として例示される。有機物としては、その他、フッ素オイル、パラフィン系オイル等も挙げられる。
【0035】
オイルとしては、潤滑油及び油脂からなる群から選択される1以上の化合物が挙げられる。オイルとして具体的には、例えば、シリコーンオイル、パラフィンオイル、フッ素オイル、植物性オイル等が挙げられる。オイルは、1種で用いてもよいし、複数種用いてもよい。
【0036】
シリコーンオイルとしては、例えば、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、クロルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイル、アルキル変性シリコーンオイル、フッ素変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、アルコール変性シリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、エポキシ変性シリコーンオイル、エポキシ・ポリエーテル変性シリコーンオイル、フェノール変性シリコーンオイル、カルボキシル変性シリコーンオイル、メルカプト変性シリコーンオイル、アクリル、メタクリル変性シリコーンオイル、αメチルスチレン変性シリコーンオイル等が挙げられる。パラフィンオイルとしては、例えば、流動パラフィン等が挙げられる。フッ素オイルとしては、例えば、フッ素オイル、フッ素塩化オイル等が挙げられる。
鉱物油としては、例えば、機械油等が挙げられる。
植物性オイルとしては、例えば、ナタネ油、パーム油等が挙げられる。
【0037】
これらオイルの中でも、非反応性シリコーンオイルが好ましい。オイルとして非反応性シリコーンオイルを適用すると、多孔質無機酸化物粒子の細孔径が小さくても、オイルが細孔深くまで到達し易く、有機物(シリコーンオイル)の機能性(例えば、流動性向上)が高まる。
ここで、非反応性シリコーンオイルとは、多孔質無機酸化物が有する官能基と反応する官能基(好ましくは、シリコーンオイルが接触する物質(有機物付着粒子が配合される対象の組成物の成分)と反応する官能基)を有さないシリコーンオイルを意味する。
【0038】
オイルの粘度(25℃)は、有機物の機能維持性向上の観点から、1cSt以上1000cSt以下が好ましく、10cSt以上500cSt以下がより好ましく、50cSt以上300cStがさらに好ましい。
【0039】
オイルの粘度の測定は、次の通りである。
有機物付着粒子1gにトルエン100gを加え、超音波分散器により、100Hz、30分間で、トルエンに有機物付着粒子を分散させる。その後、上澄みを回収する。次に、上澄み液中のオイル濃度を調整し、オイル濃度1g/100mLのオイル含有トルエン溶液とする。このときの比粘度〔ηsp〕(25℃)を下記式(A)により求める。
・式(A):ηsp=(η/η0)-1
(η0:トルエンの粘度、η:溶液の粘度)
次に、比粘度〔ηsp〕を下記式(B)に示すHugginsの関係式に代入し、固有粘度〔η〕を求める。
・式(B):ηsp=〔η〕+K’〔η〕2
(K’:Hugginsの定数 K’=0.3(〔η〕=1~3の適応時))
次に、固有粘度〔η〕を下記式(C)に示すA.Kolorlovの式に代入し、分子量Mを求める。
・式(C):〔η〕=0.215×10-4M0.65
分子量Mを下記式(D)に示すA.J.Barryの式に代入してオイル粘度〔η〕を求める。
・式(D):logη=1.00+0.0123M0.5
【0040】
洗浄後の多孔質無機酸化物粒子に対する有機物の付着量は、有機物の機能維持性向上の観点から、4質量%以上が好ましく、4.5質量%以上がより好ましく、5質量%以上がさらに好ましい。
ただし、洗浄後の多孔質無機酸化物粒子に対する有機物の付着量の上限は、粒子同士の凝集抑制の観点から、7質量%以下が好ましく、6質量%以下がより好ましい。
なお、洗浄後の多孔質無機酸化物粒子に対する有機物の付着量とは、既述の方法により有機物付着粒子を洗浄した後、測定される、多孔質無機酸化物粒子に対する有機物の付着量を意味する、
【0041】
有機物の付着量は、次の通り測定する。
洗浄後の有機物付着粒子を、窒素雰囲気下で700℃、1時間焼成を行い、焼成前後の重量差分から求める。すなわち、焼成前の重量をWb、焼成後の重量をWaとしたとき、以下の式から算出される。
有機物付着量=(Wb-Wa)/Wb×100
【0042】
<有機物付着多孔質無機酸化物粒子の製造方法>
本実施形態に係る有機物付着粒子の製造方法は、例えば、次の方法が挙げられる。
まず、分散媒に、多孔質無機酸化物粒子を分散する共に、有機物を溶解した分散液を調整する。
次に、分散液を密閉反応器内へ未処理のシリカ粒子を投入する。
次に、密閉容器内に超臨界二酸化炭素を流通(つまり密閉反応器内への超臨界二酸化炭素を導入・排出)させながら、超臨界二酸化炭素と共に分散媒を密閉容器の系外へ排気して、多孔質無機酸化物粒子を乾燥させる。
【0043】
以上の工程を経ることで、有機物による多孔質無機酸化物粒子の表面処理が行われ、本実施形態に係る有機物付着粒子が得られる。
【0044】
<有機物付着粒子の用途>
本実施形態に係る有機物付着粒子は、トナー、化粧品、ゴム、研磨剤、等の添加成分または主成分としての用途が例示できる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例及び比較例を挙げ、本実施形態をより具体的に詳細に説明するが、本実施形態はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。また、「部」は特に断りがない限り「質量部」を示す。
【0046】
<実施例1>
以下に示すようにして、シリカ粒子に対して、オイルによる表面処理を行った。なお、表面処理には、二酸化炭素ボンベ、二酸化炭素ポンプ、エントレーナポンプ、撹拌機付きオートクレーブ(容量500ml)、圧力弁を具備した装置を用いた。
【0047】
まず、分散媒としてメタノール:80部に対して、多孔質無機酸化物粒子として「ヒュームドシリカ粒子(商品名OX50、AEROSIL社製」20部を分散すると共に、有機物として、ジメチルシリコーンオイル(KF-96-100cs、信越化学工業社製)2部を溶解させた。
【0048】
得られた分散液300部を、撹拌機付きオートクレーブ(容量500ml)へ投入し、撹拌機を100rpmで回転させた。その後、オートクレーブ内に液化二酸化炭素を注入し、ヒーターにより昇温しながら二酸化炭素ポンプにより昇圧し、オートクレーブ内を150℃、15MPaの超臨界状態とした。圧力弁でオートクレーブ内を15MPaに保ちながら二酸化炭素ポンプより超臨界二酸化炭素を流通させ、分散液から分散媒を除去した。
これら操作により、有機物で表面処理された(つまり、有機物が付着した)有機物付着粒子(S1)を得た。
【0049】
<実施例2~12>
表1に従って、多孔質無機酸化物粒子、分散媒、有機物の種類および量を変更した以外は、実施例1と同様にして、有機物で表面処理された(つまり、有機物が付着した)有機物付着粒子(S2)~(S3)を得た。
【0050】
<比較例1>
分散媒を使用せず、撹拌機付きオートクレーブ(容量500ml)へ、多孔質無機酸化物粒子として「ヒュームドシリカ粒子(OX50、 AEROSIL社製、」20部と共に、有機物として、ジメチルシリコーンオイル(KF-96-100cs、信越化学工業社製)2部を投入した以外は、有機物で表面処理された(つまり、有機物が付着した)有機物付着粒子(SC1)を得た。
【0051】
<比較例2、5~6>
表1に従って、多孔質無機酸化物粒子、分散媒、有機物の種類および量を変更した以外は、実施例1と同様にして、有機物で表面処理された(つまり、有機物が付着した)有機物付着粒子(SC2)、(SC5)~(S6)を得た。
ただし、有機物付着粒子(SC5)は、大気を流通させ、分散液から分散媒を除去して製造した。
【0052】
<比較例3>
有機物付着粒子(SC2)として、ジメチルシリコーンオイル処理されたシリカ粒子(商品名「NY50」、日本AEROSIL社製)を準備した。
【0053】
<比較例4>
有機物付着粒子(SC3)として、ジメチルシリコーンオイル処理されたシリカ粒子(商品名「RY50」、日本AEROSIL社製)を準備した。
【0054】
<特性評価>
各例の有機物付着粒子について、既述の方法に従って、下記特性を測定した。
・孔質無機酸化物粒子の個数平均粒径(D50p)
・多孔質無機酸化物粒子の細孔径(PS)
・有機物付着粒子の個数平均粒径(D50p)
・有機物付着粒子の細孔径(PS)
・洗浄後の有機物付着粒子表面を測定したときの炭素量Cf(atom%)
・表面エッチングを2分施した後の粒子表面を測定したときの炭素量Ce(atom%)
・(Cf-Ce)/2の値
・洗浄後の前記多孔質無機酸化物粒子に対する有機物の付着量(表中、初期)
【0055】
<評価>
(配管通過前後の特性変化)
配管内径φ47.8mm、長さ10m、吸入口から5mの位置にR90°のエルボ部分を要したSUS304製試験配管を用意し、排出口からフィルターを介しブロワーを用いて粉体吸引試験にて樹脂粒子の空送を行った。その際、配管内線速度が5.0m/min、固気比0.5条件下で樹脂粒子30kg空送する作業を5回繰り返した。
そして、配管通過後の、多孔質無機酸化物粒子に対する有機物の付着量、および圧縮凝集度を調べ、下記評価基準で評価した。
【0056】
-多孔質無機酸化物粒子に対する有機物の付着量-
配管通過後の有機物の付着量(表中、経時)と、配管通過前の有機物の付着量(表中、初期)との変化率(=(初期-経時/初期×100)を調べた。そして、下記基準で評価した。
・A+(◎):3%未満
・A(〇):3%以上5%未満
・B(△):5%以上10%未満
・C(×):10%以上
【0057】
-圧縮凝集度-
配管通過後の有機物付着粒子の圧縮凝集度を調べた。そして、下記基準で評価した。
・A+(◎):94%以上
・A(〇):90%以上94%未満
・B(△):85%以上90%未満
・C(×):85未満
【0058】
なお、圧縮凝集度は、以下に示す方法により算出した。
直径6cm、円盤状(ディスク状)の金型に、有機物付着粒子を6.0g充填する。次いで、圧縮成型機(前川試験機製作所社製)を用いて圧力2.0t/cm2で金型を60秒圧縮し、圧縮された円盤状の有機物付着粒子の成形体(以下、「落下前の成形体」と称する)を得る。その後、落下前の成形体の質量を測定する。
次いで、落下前の成形体を600μmのふるい網上に配置し、振動ふるい機(筒井理化学機器社製:品番VIBRATING MVB-1)により、落下前の成形体を、振動数95Hz、振幅1mmの条件下で落下させる。これにより、落下前の成形体から前記ふるい網を介して有機物付着粒子が落下し、前記ふるい網上に有機物付着粒子の成形体が残存する。その後、残存した有機物付着粒子の成形体(以下、「落下後の成形体」と称する)の質量を測定する。
そして、以下の式を用いて、落下後の成形体の質量と落下前の成形体の質量との比から、圧縮凝集度を算出する。
・式:圧縮凝集度=(落下後の成形体の質量/落下前の成形体の質量)×100
【0059】
表中の略称の詳細は、次の通りである。
DSO: ジメチルシリコーンオイル
デムナム: フッ素オイル(デムナムS-20(ダイキン工業(株)製))
HSトランスN: パラフィン系絶縁油(HSトランス N(JXTGエネルギー(株)製))
【0060】
【0061】
【0062】
以上の結果から、本実施例の有機物付着粒子は、配管通過前後の有機物の付着量の変化率が少なく、配管通過後の有機物付着粒子の圧縮凝集度も良好であることがわかる。
それにより、本実施例の有機物付着粒子は、有機物の機能維持性に優れることがわかる。