(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】油脂組成物
(51)【国際特許分類】
A23D 9/00 20060101AFI20240409BHJP
A23D 7/01 20060101ALI20240409BHJP
A23L 27/60 20160101ALN20240409BHJP
A23L 35/00 20160101ALN20240409BHJP
【FI】
A23D9/00 518
A23D7/01
A23L27/60 A
A23L35/00
(21)【出願番号】P 2019237511
(22)【出願日】2019-12-26
【審査請求日】2022-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002826
【氏名又は名称】弁理士法人雄渾
(72)【発明者】
【氏名】宇野 秀一
【審査官】村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-151834(JP,A)
【文献】特開2002-000231(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D、A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油中水型乳化物の製造に使用するための油脂組成物であって、
以下の成分(A)~(B):
(A)食用油脂
(B)ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル
2.0~8.0質量%
を含み、
(A)食用油脂は、(a1)融点が25℃未満の食用油脂と、(a2)融点が25℃以上の食用油脂3.0~8.0質量%と、を含み、
(a1)と(a2)の質量比[a1:a2]が、(15~20):1であり、
10℃及び35℃の固体脂含量は、0.1~5.0%であり、
10℃及び35℃の温度における粘度が400~100000mPa・sであ
り、
10℃と35℃の粘度の差が、5000mPa・s以下であり、
35℃以下で、水相部と混合、撹拌することにより油中水型乳化物を得るために用いる、油脂組成物。
【請求項2】
請求項
1に記載の油脂組成物を含む、油中水型乳化物。
【請求項3】
前記油脂組成物を、油相部として15~35質量%含有する、請求項2に記載する油中水型乳化物。
【請求項4】
請求項
1に記載の油脂組成物からなる油相部と水相部を混合することを特徴とする、油中水型乳化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱や冷却といった温度管理が不要で、ホモジナイザーのような乳化機を使用することなく、撹拌装置や調理器具で撹拌するだけで安定な乳化物を得ることができる油脂組成物に関するものである。さらには、該油脂組成物を含有する食肉加工品、またはドレッシング及びソースに関する。
【背景技術】
【0002】
水と油は互いに混ざり合わないため、水に油を分散させる、または油に水を分散させる場合には、乳化剤が配合された油脂組成物が使用される。このような油脂組成物は乳化剤の界面張力低下能により、水または油を連続相に分散させる。
【0003】
油に水を分散させた油中水型乳化物を作成する場合、乳化力の高いポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルなどが使用されており、このような油中水型乳化物は幅広い食品に使用されている。
【0004】
しかしながら、安定な乳化物を得るには、油脂に乳化剤を溶解させるための加熱工程後、水を少しずつ加えて十分に撹拌(予備乳化)し、ホモジナイザーといった乳化機や、リアクテーター、コンビネーターなどの急冷可塑化機が必要となり、煩雑な作業や、特殊な乳化機を必要とする。このような乳化機は一部の食品製造メーカーしか保有していない。
【0005】
乳化機を保有していない食品製造メーカーや、一般家庭において、加熱工程や乳化機を必要とせず、油脂と水を容器に全て入れて撹拌するだけで安定な乳化物が得られるようになることは非常に有用である。
【0006】
一方で、単純にポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを液状油脂に溶解させた油脂組成物を用いる場合でも、安定な乳化物を得るには、油脂組成物を容器に入れて、撹拌装置で撹拌しながら少しずつ水を入れるなどの煩雑な工程が必要となる。油脂組成物と水の全てを一度に容器に入れて撹拌した場合、水に油が分散してしまい、目的とする安定な油中水型乳化物を得ることができない。これは油脂組成物の量よりも水の量が多いときに、より顕著となり、乳化不良が起きやすくなる。
【0007】
ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを含有させたショートニングの場合では、低温では固い物性となってしまうために一般家庭にあるような調理器具では水と乳化させることができない。ショートニングが適当な軟らかさになるよう調温する必要があるが、作業が非常に煩雑となる。
【0008】
そのため、加熱や冷却、調温を必要とせず、特殊な乳化機を使用しなくても、使用者が油脂、水、調味料を任意の比率で添加し、混合するだけで食肉加工食品用の乳化物を作ることができれば非常に有用となる。
【0009】
安定な油中水型乳化物を得る方法として、特定の比率の植物油脂と食用精製加工油脂を含む油相部が35重量%以下の油中水型乳化させた低脂肪マーガリンや(特許文献1)、特定の乳化剤を含有する高水分油中水型乳化油脂組成物(特許文献2)があるが、いずれも乳化物を製造するためには加熱や冷却が必要であったり、リアクテーターなどの急冷可塑化機を使うことを前提としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2016-158572号公報
【文献】特開平5-49398号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、水や液体調味料、香辛料を加え、撹拌装置や調理器具で撹拌するだけで、安定な油中水型乳化物を得ることができる油脂組成物を提供することである。また、当該の油脂組成物を利用したソース、ドレッシングあるいは食肉加工食品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、食用油脂に対してポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを添加し、特定の粘度の油脂組成物とすることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。すなわち本発明は以下の通りである。
【0013】
[1]
油中水型乳化物の製造に使用するための油脂組成物であって、
以下の成分(A)~(B):
(A)食用油脂
(B)ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル
を含み、10℃及び35℃の温度における粘度が400~100000mPa・sである油脂組成物。
[2]
(A)食用油脂は、(a1)融点が25℃未満の食用油脂と、(a2)融点が25℃以上の食用油脂と、を含む、[1]に記載の油脂組成物。
[3]
[1]又は[2]に記載の油脂組成物を含む、油中水型乳化物。
[4]
[1]又は[2]に記載の油脂組成物からなる油相部と水相部を混合することを特徴とする、油中水型乳化物の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の油脂組成物によれば、低温から常温の幅広い温度において、優れた乳化性を有する油脂組成物を提供することができる。そのため、加熱や冷却の工程や、特殊な乳化機を使用しなくても、一般的な撹拌装置や調理器具で撹拌するだけで安定な油中水型乳化物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を更に詳細に説明する。
<油脂組成物>
本発明の油脂組成物は、油中水型乳化物を形成するための油脂組成物であって、(A)食用油脂、(B)ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを含み、10℃及び35℃の温度における粘度が400~100000mPa・sであることを特徴とする。
本発明の油脂組成物によれば、高い乳化性を有し、水分や必要に応じて糖類や調味料のような水溶性成分を添加して撹拌装置や調理器具で撹拌することにより安定な乳化物を作ることができる。
【0016】
本発明の油脂組成物は、その物性が10~35℃のいずれの温度においても粘度が400~100000mPa・sである。この範囲であれば、油脂組成物は、10~35℃のいずれの温度においても粘性液体から半固形状などの流動性を有する状態となる。そのため、加熱などの処理を行わなくても、油脂と水を容器に全て入れて一般的な撹拌装置や、調理器具で混合するだけで安定な乳化物を得ることができる。粘度が400mPa・s未満では、油脂組成物の粘度が低いために、油が水中に分散してしまい、目的の油中水型乳化物を得ることが困難となる。粘度が100000mPa・sよりも高い場合には、撹拌装置や調理器具では混合が困難となり、安定な乳化物を得ることができない。もしくは、油脂組成物の物性調整のために加熱工程が必要となり、作業が煩雑となる。
【0017】
10~35℃における油脂組成物の粘度の下限値は、好ましくは1000mPa・s以上であり、より好ましくは3000mPa・s以上であり、更に好ましくは5000mPa・s以上である。また、10~35℃における油脂組成物の粘度の上限値は、好ましくは50000mPa・s以下であり、より好ましくは30000mPa・s以下であり、更に好ましくは20000mPa・s以下であり、特に好ましくは10000mPa・s以下である。なお、本発明における粘度は、東機産業(株)のB型粘度計により測定した。
【0018】
また、10℃における粘度と35℃における粘度の差(10℃における粘度-35℃における粘度)は、特に制限されないが、好ましくは50000mPa・s以下であり、より好ましくは30000mPa・s以下であり、更に好ましくは10000mPa・s以下であり、特に好ましくは5000mPa・s以下である。10℃における粘度と35℃における粘度の差が小さい場合には、常温における状態の安定性が優れるという効果がある。
【0019】
以下に、各成分について詳細に説明する。
[(A)食用油脂]
本発明で使用する食用油脂は、本発明に必要な油脂組成物の物性を付与するために用いられる。本発明で使用する食用油脂は、例えば、菜種油、大豆油、ヒマワリ油、綿実油、落花生油、米油、トウモロコシ油、サフラワー油、オリーブ油、ゴマ油、月見草油、およびパーム油、シア油、サル脂、イリッペ脂、ボルネオタロー脂、カカオ脂、ヤシ油、パーム核油等の分別油、ならびに乳脂、牛脂、豚脂、魚油、鯨油等の動物性油脂の分別油、ならびに中鎖脂肪、更には、原料に応じて硬化、分別、エステル交換等の処理を施したものが使用できる。また、これらの油脂を各々単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0020】
本発明の油脂組成物における(A)食用油脂の含有量は、特に制限されないが、好ましくは60.0~98.5質量%である。その下限値としては、より好ましくは70.0質量%以上であり、更に好ましくは80.0質量%以上であり、特に好ましくは90.0質量%以上である。(A)食用油脂の含有量の上限値を98.5質量%以下とすることにより、本発明に必要な乳化剤などを配合することができる。
【0021】
本発明の油脂組成物は、(A)食用油脂として(a1)融点が25℃未満の食用油脂を含有することが好ましい。融点が25℃未満の食用油脂を含むことにより、常温(25℃)において適度な流動性を付与することができるため、水相部との混合性に優れるという効果を奏する。
なお、油脂の融点は、基準油脂分析試験法「2.2.4.2 融点(上昇融点)」に準じて測定することができる。以下、本発明における「融点」の測定は、この方法に準じる。
(a1)融点が25℃未満の食用油脂は、このましくは融点10℃以下の液状油脂である。融点10℃以下であると、本発明の油中水型乳化油脂組成物の冷蔵保管時に結晶が生じず、より安定な乳化状態を保つことができる。
【0022】
本発明の油脂組成中における(a1)融点が25℃未満の食用油脂の含有量は、特に制限されないが、好ましくは60.0~96.0質量%である。下限値としては、より好ましくは70.0質量%以上であり、更に好ましくは80.0質量%以上であり、特に好ましくは85.0質量%以上である。一方、上限値としては、より好ましくは95.0質量%以下である。60.0質量%以上の場合には、常温において適度な流動性を付与することができる。96.0質量%以下の場合には、本発明に必要な乳化剤や常温で固体状の油脂などを含有させることができる。
【0023】
本発明の油脂組成物は、(A)食用油脂として(a2)融点が25℃以上の食用油脂を含有することが好ましい。(a2)融点が25℃以上の食用油脂を含有することにより、(a1)融点が25℃未満の食用油脂に対して粘度を付与し、本発明の油脂組成物の粘度を調整することができる。
ここで、(a2)融点が25℃以上の食用油脂とは、好ましくは融点35℃以上であり、より好ましくは融点45℃以上であり、更に好ましくは融点55℃以上である。高融点の固体状の油脂を使用することにより、少量の配合量で(a1)融点が25℃未満の食用油脂に適度な粘度を付与することができ、10~35℃における粘度の変化が小さい油脂組成物を調製することができる。
【0024】
本発明の油脂組成中における(a2)融点が25℃以上の食用油脂の含有量は、特に制限されないが、好ましくは0.1~30.0質量%である。下限値としては、より好ましくは1.0質量%以上であり、更に好ましくは3.0質量%以上である。一方、上限値としては、より好ましくは20.0質量%以下であり、更に好ましくは10.0質量%以下であり、特に好ましくは8.0質量%以下である。0.1質量%以上の場合には、常温で液状の油脂に適度な粘度を付与することができる。30.0質量%以下の場合には、本発明に必要な乳化剤や常温で液状の油脂などを含有させることができる。
(a2)常温(25℃)で固体状の油脂として、例えば、パーム油、豚脂、牛脂、菜種極度硬化油、パーム極度硬化油、大豆極度硬化油、豚脂極度効果油、牛脂極度効果油、ヤシ極度硬化油、ハイオレイックナタネ極度硬化油、などを1種または2種以上を配合して、用いることができる。好ましくは、経時的保管で結晶変化の少ない極度硬化油である。
【0025】
本発明の油脂組成物は、(A)食用油脂として(a1)融点が25℃未満の食用油脂と(a2)融点が25℃以上の食用油脂を含む。(a1)と(a2)の配合比率は、本発明の油脂組成物の粘度が所定の範囲になるように配合すればよく、たとえば、(a1)と(a2)の質量比[a1:a2]として(3~200):1とすることができる。好ましくは(10~100):1であり、さらに好ましくは(15~20):1である。
【0026】
[(B)ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル]
本発明に使用するポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルは、ひまし油を原料とするリシノレイン酸を縮合したポリリシノレイン酸をポリグリセリンに結合させた油溶性乳化剤である。親油性が強いことから、油中水型乳化に適している。また、乳化力が強いことから、撹拌装置や調理器具での混合でも安定な乳化物を得ることができる。
【0027】
本発明に使用するポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルは、ポリグリセリンの平均重合度が2~16、リシノレイン酸の縮合度が2~16、HLBは0.5~5のものが好ましく用いられる。この範囲であれば、優れた乳化性が得られ、撹拌装置や調理器具での混合でも安定な乳化物を得ることができる。ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルは、リシノレイン酸を脱水縮合した縮合リシノレイン酸とポリグリセリンとのエステル化により得られるが、実際的には市販品を使用するのが簡便で経済的である。ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルの市販品としては、阪本薬品工業(株)のSYグリスターCR-310、CR-500、CR-ED、CRS-75、太陽化学(株)のサンソフトNo.818DG、818SK、818R、818H、理研ビタミン(株)のポエムPR-100、PR-300等が適宜使用できる。
【0028】
本発明の油脂組成物中におけるポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルの含有量は特に制限されないが、好ましくは1.5~10.0質量%である。下限値として、より好ましくは2.0質量%以上である。一方、上限値として、より好ましくは8.0質量%以下であり、更に好ましくは6.0質量%以下である。1.5質量%以上の場合には、優れた乳化力を得ることができる。また、10.0質量%以下の場合には、乳化剤特有の好ましくない風味を感じることなく、優れた乳化力を得ることができる。
【0029】
[その他の成分]
本発明においては、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル以外の公知の乳化剤、例えばレシチン、グリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルなどを本発明の効果を損ねない程度に併用してもよい。
【0030】
本発明において、物性や風味の調整のために水溶性および不溶性の成分、例えば食塩、アミノ酸、糖類、セルロース、食物繊維、粉乳、香辛料、乾燥野菜などを本発明の効果を損ねない程度に併用してもよい。
【0031】
[固体脂含量]
本発明の油脂組成物の10~35℃における固体脂含有量(SFC)は、特に制限されないが、好ましくは0.1~15である。下限値として、より好ましくは0.3以上であり、更に好ましくは0.5以上である。一方、上限値として、より好ましくは12以下であり、更に好ましくは10以下である。SFCが0.1以上の場合には、油脂組成物の粘度を適度に向上することができるため、一般的な撹拌装置や調理器具で簡単に油中水型乳化物が得られるという本発明の効果をより発揮する。また、SFCが15以下の場合には、適切な粘度の油脂組成物を得ることができる。
【0032】
また、10℃におけるSFCと35℃におけるSFCの差(10℃におけるSFC-35℃におけるSFC)は、特に制限されないが、好ましくは5以下であり、より好ましくは3以下であり、更に好ましくは1以下である。10℃におけるSFCと35℃におけるSFCの差が小さい場合には、常温における状態の安定性が優れるという効果がある。
【0033】
本発明において固体脂含量(SFC)は、基準油脂分析試験法「2.2.9 固体脂含量(NMR法)」に準じて測定した。測定装置は、「SFC-2000R」(アステック株式会社製)を使用し、本発明における固体脂含量は、この測定装置を用いて測定した。
【0034】
<油脂組成物の製造方法>
本発明の油脂組成物は、必要な原材料を均一に溶解、混合することができればよく、特に制限されない。例えば、加熱処理等により均一に溶解、混合することで調製され、その後冷却されることにより、低温から常温で均質のものが得られる。
【0035】
<油中水型乳化物>
本発明の油脂組成物を用いた油中水型乳化物は、油相部として本発明の油脂組成物を含有する。油中水型乳化物における油相部の含有量は、好ましくは10~50質量%であり、より好ましくは15~35質量%である。油中水型乳化物における水相部の含有量は、好ましくは50~90質量%であり、より好ましくは65~85質量%である。水相部に含まれる成分は、特に限定されず、水、水溶性成分の混合物を用いることができる。
【0036】
本発明の油中水型乳化物の常温(25℃)における粘度は、特に制限されないが、好ましくは400~100000mPa・sである。上限値として、好ましくは50000mPa・s以下であり、より好ましくは30000mPa・s以下であり、更に好ましくは20000mPa・s以下であり、特に好ましくは10000mPa・s以下である。
【0037】
[ソース、ドレッシング]
本発明の油脂組成物はソースやドレッシングに用いることができる。ソースやドレッシングは油を含んだ乳化物であることが多く、水と油を均一に分散させた、乳化状態とすることが重要となる。乳化させたソースやドレッシングは滑らかな外観やコク味を有しているが、十分に乳化させるには、油または水を少しずつ添加したり、原料の投入順序に留意したり、適切な乳化機を選定して撹拌するなど、乳化に関する知識、技術が必要となる。また、安定な乳化物を得るための乳化剤を溶解させるために加熱や冷却の工程を要し、煩雑な工程が必要となる。乳化がうまくいかないと、油と水が分離して外観を損ねたり、油っぽさを感じたり、必要な物性が得られないなどの不都合が生じる。かつ、ソースやドレッシングは単純な水と油の乳化物ではなく、塩類や食酢が入ったり、香辛料のような不溶性の香辛料が入ったりする。これらの成分は乳化を不安定化させる要因であり、これらを含みながらも乳化が安定したソースやドレッシングを作るのはさらに難易度が高い。そのため、使用者が油脂と水、調味料などを任意の比率で添加し、加熱や冷却のような煩雑な工程を経ることなく、撹拌するだけで安定した乳化物を得ることができれば、特殊な装置を保有していない食品メーカーや、一般家庭において必要な時に必要な分だけ安定した乳化状態のソースやドレッシングを得ることができるようになる。
【0038】
本発明の油中水型乳化物は、油相部として前記の油脂組成物を10~50質量%、水相部を50~90質量%含有する。水相部としては特に限定されず、水、水溶性調味料の混合物を用いることができる。油脂組成物が10~50質量%とすることにより、食用に適したソース、ドレッシングを得ることができる。油脂組成物と水、水溶性調味料、香辛料などを容器に投入し、撹拌装置や調理器具を用いて混合することで乳化の安定したソース、ドレッシングを得ることができる。
【0039】
本発明の油中水型乳化物に用いる水相部は、水以外に、水に溶解する物質を水と混合して用いることができる。例えば食塩やアミノ酸などの水溶性調味料、醤油や食酢などの液体調味料、ブイヨンなどの動物および植物から抽出したエキスを混合して用いることができる。
【0040】
[食肉加工食品]
本発明の油中水型乳化物は、食肉加工食品(ミンチ肉加工食品)に用いることができる。通常、ハンバーグや肉団子等のミンチ肉加工食品は、食品工場において鉄板やオーブンなどを使用して焼成(一次加熱)した製品を冷凍もしくは真空包装後、冷凍状態で冷凍食品として流通している。その後、これらの冷凍食品は業務用、家庭用を問わず、使用時には、電子レンジや熱湯等で解凍したり、フライパンで焼く等の加熱処理(二次加熱)をされ、喫食される。こうして加熱処理を繰り返すと食肉加工食品の肉汁が流出してしまい、食感がボソボソとしたものとなり、いわゆるジューシー感が失われてしまう。
本発明の油脂組成物を使用した油中水型乳化物は、ミンチ肉の成分と混合されることにより、さらに安定な乳化状態となり、ミンチ肉加工食品の冷凍時や加熱中の乳化破壊を防止し、ドリップを防止する効果がある。そのため、ミンチ肉加工食品のクッキングロスを改善し、ジューシー感を向上させる効果がある。
本発明の油脂組成物を使用した油中水型乳化物を、ハンバーグ、ミートボール、餃子、小籠包、肉まん、シューマイ、メンチカツ、ロールキャベツ、魚肉つみれなど、畜肉、魚肉などのミンチ肉加工冷凍食品に5~20質量%練り込むことによりジューシー感を向上させる効果を発揮することができる。本発明の油脂組成物を使用した冷凍食品は、加熱時のクッキングロスを低減し、挽肉加工食品の歩留まりを向上させたり、2次加熱後のジューシー感を向上させる効果がある。
【0041】
<油中水型乳化物の製造方法>
油中水型乳化物は、前記の油相部と水相部を混合することにより得ることができる。水相部と油相部の全てを容器に入れ、プロペラ撹拌のような撹拌装置や、泡立て器のような調理器具での混合で乳化物を得ることができる。
【0042】
本発明の油中水型乳化物の製造方法によれば、撹拌力の弱い簡易的な撹拌装置や調理器具を用いて油中水型乳化物を得ることができる。また、加熱などの処理を行うことなく、簡単な操作により油中水型乳化物を得ることができる。
なお、本発明の油中水型乳化物の製造方法は、撹拌力の強い特殊な装置や、加熱処理などの工程を行ってもよく、従来の油中水型乳化物の製造方法による実施を除外するものではない。
【実施例】
【0043】
次に実施例をあげて本発明を具体的に説明する。
[油脂組成物の製造]
(実施例1)
表1の配合組成(質量%)で以下の方法により油脂組成物を製造した。すなわち、油相部として菜種油(融点0℃以下)1800gに、菜種極度硬化油(融点67℃)60g、ハイエルシン酸菜種極度硬化油(融点60℃)40g、ポリグリセリン縮合リシノイン酸エステル100gを添加し、プロペラ攪拌にて撹拌しながら70℃に加熱し5分間保持して溶解させたのち、その後リアクテーターを用いて冷却捏和することで本発明の油脂組成物を得た。
【0044】
(実施例2~7、比較例1~4)
実施例2~7および比較例1~4は表1および表2に示した配合で、実施例1に準じて油脂組成物を製造した。なお、パームステアリンの融点は51℃、パーム油の融点は34℃である。
【0045】
実施例に使用した原料を以下に示す。
(乳化剤)
*「サンソフト818H」(太陽化学(株)製):ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル
*「SYグリスターCR-ED」(阪本薬品工業(株)製):ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル
【0046】
<低温での油脂組成物の乳化性評価>
上記のようにして得られた油脂組成物の乳化性を評価した。すなわち、10℃の恒温槽で一晩保管した油脂組成物100gと水(10℃)300gを2L容量のボウルに入れ、泡立て器(家庭用ナス型、攪拌部の大きさ:長さ12cm、直径8cm)を用いて1秒間に3回の速さで撹拌し、撹拌を開始してから乳化が完了するまでの時間を評価した。乳化の完了は、水の分離・染み出しがない状態とし、目視にて判断した。3分未満を◎、3分以上6分未満を○、6分以上9分未満を△、9分以上を×とした。
【0047】
<乳化物の保管安定性評価(低温)>
得られた乳化物を7℃の冷蔵庫で3日間冷蔵保管した後、分離の有無について目視にて評価した。分離が全くないものを◎、表面に点状に水が浮き出ているものを△、乳化物に分離がみられるものを×とした。
【0048】
<常温での油脂組成物の乳化性評価>
35℃の恒温槽で一晩保管した油脂組成物100gと水(35℃)300gを2L容量のボウルに入れ、泡立て器(家庭用ナス型、攪拌部の大きさ:長さ12cm、直径8cm)を用いて1秒間に3回の速さで撹拌し、撹拌を開始してから乳化が完了するまでの時間を評価した。乳化の完了は、水の分離・染み出しがない状態とし、目視にて判断した。3分未満を◎、3分以上6分未満を○、6分以上9分未満を△、9分以上を×とした。
【0049】
<乳化物の保管安定性評価(常温)>
得られた乳化物を20℃にて3日間保管した後、分離の有無について目視にて評価した。分離が全くないものを◎、表面に点状に水が浮き出ているものを△、乳化物に分離がみられるものを×とした。
【0050】
<乳化物の風味評価>
得られた乳化物の風味を官能評価にて評価した。官能評価においては、乳化剤特有の異味が感じられないものを3点、わずかに異味を感じるものを2点、異味を感じるものを1点とした。パネラー8名の平均値が、2.5点以上3.0点を◎、2.0点以上2.5点未満を○、1.5点以上2.0点未満を△、1.5点未満を×と評価した。
【0051】
【0052】
【0053】
実施例1~7の油脂組成物を用いた、油中水型乳化物はいずれも、分離等なく乳化性に優れていた。比較例1の油脂組成物は、(B)ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを含まないため、油中水型乳化物の製造において乳化不良となった。比較例2、3,4の油脂組成物は本願発明における所定の粘度範囲を満たさないため、乳化性が悪かった。
【0054】
[製造例1 ドレッシングの製造]
実施例1の油脂組成物250g、食酢200g、醤油93g、食塩10g、味の素5g、水440g、胡椒2gを2L容量のボウルに全量入れ、泡立て器(家庭用ナス型、攪拌部の大きさ:長さ12cm、直径8cm)を用いて1秒間に3回の速さで撹拌することによりドレッシングを得た。なお製造前後のドレッシングの温度は10~20℃の範囲であった。
【0055】
<ドレッシングの乳化性評価>
撹拌を開始してから乳化が完了するまでの時間を評価した。3分未満を◎、3分以上6分未満を○、6分以上9分未満を△、9分以上を×とした。乳化の完了は、油脂以外の液状成分の分離・染み出しがない状態とし、目視にて判断した。
【0056】
<ドレッシングの保管安定性評価(低温)>
得られたドレッシングを7℃の冷蔵庫で3日間冷蔵保管した後、分離の有無について評価した。分離が全くないものを◎、表面に点状に水が浮き出ているものを△、乳化物に分離がみられるものを×とした。
【0057】
<ドレッシングの風味評価>
得られたドレッシングの風味を官能評価にて評価した。官能評価においては、乳化剤特有の異味が感じられないものを3点、わずかに異味を感じるものを2点、異味を感じるものを1点とした。パネラー8名の平均値が、2.5点以上3.0点を◎、2.0点以上2.5点未満を○、1.5点以上2.0点未満を△、1.5点未満を×と評価した。
【0058】
【0059】
実施例1の油脂組成物を用いたドレッシングは、乳化性、保管安定性に優れ、風味も良好であった。
【0060】
[製造例2 ハンバーグの製造]
<ハンバーグ練りこみ用乳化物>
10℃の水400g、粉末状スープの素(商品名:味の素コンソメ、味の素(株)製)4gを2L容量のボウルに全量入れ、粉末状スープの素を水に完全に溶解したのち、実施例1の油脂組成物100gを入れ、泡立て器(家庭用ナス型、攪拌部の大きさ:長さ12cm、直径8cm)を用いて1秒間に3回の速さで、3分間撹拌することでハンバーグ練りこみ用乳化物を得た。
<ハンバーグ>
表4に示した配合にて、挽肉、たまねぎソテー、パン粉、全卵、食塩を混合し、さらにハンバーグ練りこみ用乳化物を加えて混合して、ハンバーグの生地を調製した。80gの円形に成型し、230℃のオーブンにて8分間加熱(一次加熱)した後、急速冷凍機を用いて凍結し、-20℃で7日間冷凍保管した。冷凍されたハンバーグを500Wの電子レンジで2分間加熱(二次加熱)して、評価に用いた。評価項目は、「二次加熱後のジューシー感の評価(焼成歩留)」、「二次加熱直後のジューシー感の評価(目視評価)」とし、評価結果は、表4に示した。
【0061】
<二次加熱後のジューシー感の評価(焼成歩留)>
二次加熱したハンバーグの重量を測定し、焼成前の生地重量で除して、焼成歩留を計算した。焼成歩留が大きいほうが、一次加熱、二次加熱で肉汁がドリップせず、ジューシー感が維持できていることを表す。
8枚測定した平均値にて以下の通りジューシー感を評価した。
◎:85.0%以上
○:82.5%以上、85.0%未満
△:80.0%以上、82.5%未満
×:80.0%未満
【0062】
<二次加熱直後のジューシー感の評価(目視評価)>
二次加熱したハンバーグを半分に切り、レオメーターにてφ30mmの円形平板冶具で50Nの荷重をかけたときに断面から流れ出る肉汁の量について、8名のパネラーで、以下の評価基準で目視評価した。目視評価においては、一次加熱のみ(冷凍なし)したものと同等である場合を2点とし、それよりも肉汁が多ければ3点、少なければ1点とした。パネラー8名の平均値が、2.5点以上3.0点を◎、2.0点以上2.5点未満を○、1.5点以上2.0点未満を△、1.5点未満を×と評価した。
【0063】
【0064】
実施例1の油脂組成物を用いたハンバーグ練りこみ用乳化物は、泡立て器を用いた単な攪拌のみで乳化液とすることでき、乳化性に優れていた。
また、このハンバーグ練りこみ用乳化物は、ハンバーグを構成するミンチ肉とあわさることにより乳化安定性が高くなり、一次加熱、冷凍、冷凍後の二次加熱にも乳化物の乳化破壊を防止することができ、その結果、ハンバーグの焼成歩留、ジューシー感を向上させることができた。