(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】インクジェット記録装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/175 20060101AFI20240409BHJP
B41J 2/18 20060101ALI20240409BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
B41J2/175 501
B41J2/175 121
B41J2/18
B41J2/01 401
B41J2/01 451
(21)【出願番号】P 2020010486
(22)【出願日】2020-01-27
【審査請求日】2022-11-17
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黒須 重隆
【審査官】小野 郁磨
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-215626(JP,A)
【文献】特開2019-014171(JP,A)
【文献】特開2007-064290(JP,A)
【文献】実開昭56-129669(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2010/0039460(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを貯留する複数のタンクと、前記複数のタンクの圧力を制御する制御部と、前記制御部に電源を供給する電源部とを備え、前記制御部が前記複数のタンク間の圧力差によって前記複数のタンク間でのインクの流動を制御するインクジェット記録装置であって、
停電によって前記電源部による電源の供給が停止したことにより、前記複数のタンク間のインクの流動を停止させるインク流動切替部
と、
前記圧力差によってインクの流動が制御されたインク流路に設けられ、前記制御部の制御によってインクを自在に吐出させるインクヘッドとを有し、
前記インク流路を介して前記インクヘッドに接続されたタンクは、前記制御部の制御によって内部が負圧に保たれ、
前記複数のタンクのうち、前記インクヘッドに対して前記インク流路の上流側に配置された上流側タンクには、ポンプを介してインクを供給する供給タンクが接続され、
前記上流側タンクと前記供給タンクとの間のインク流路に、前記インク流動切替部が設けられた
インクジェット記録装置。
【請求項2】
前記インク流動切替部は、温度変化によって動作するバルブを備える
請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記インク流動切替部は、停電によって前記電源部による電源の供給が停止したことにより、前記複数のタンク間の圧力差を解消する
請求項1または2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記インク流動切替部は、前記複数のタンクの気相部間を接続する気相連通路と、停電によって前記電源部による電源の供給が停止したことにより前記気相連通路を開通させる連通路開放部とを有する
請求項1~3の何れか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記連通路開放部は、バイメタルと前記バイメタルを加熱するヒーターとを備え
前記制御部は、前記ヒーターの制御によって前記バイメタルを加熱することにより前記気相連通路を閉塞する
請求項4に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記インク流動切替部は、停電によって前記電源部による電源の供給が停止したことにより、前記タンク間のインク流路を閉塞する
請求項1または2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
前記インク流動切替部は、バイメタルと前記バイメタルを加熱するヒーターとを備え
前記制御部は、前記ヒーターの制御によって前記バイメタルを加熱することにより前記インク流路を開通させる
請求項6に記載のインクジェット記録装置。
【請求項8】
前記複数のタンクは、内部の気相空間の圧力を調整する圧力調整部を有し、
前記制御部は、前記圧力調整部の制御により、前記複数のタンク間に圧力差を発生させる
請求項1~7のうちの何れか1項に記載のインクジェット記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置およびインクジェット記録装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置は、インクを吐出する複数のノズルと、各ノズルからのインクの吐出を制御する圧力室とを有するインクヘッドを備え、さらにインクヘッドにインクを供給するためのインク供給システムを備えている。インク供給システムの一例として、下記特許文献1には、インクジェット式記録ヘッドにおける一方のインク導入口をサブタンクに、また他方のインク導入口をインクカートリッジに接続し、インクをインクカートリッジからインクジェット式記録ヘッドを経由してサブタンクに補充する構造が開示されている。また、このようなインク供給システムにおいて、2つの空間の圧力差を利用することで一方向にインクを流動させる構成を有するものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、2つの空間の圧力差を利用することで一方向にインクを流動させる構成の場合、インク流動中に停電などによって電源供給が断たれても、2つの空間の圧力差が保持されるため、一方向へのインクの流動が持続する。これにより、インクの流動先の空間においてインクが溢れ出すおそれがあった。
【0005】
そこで本発明は、2つの空間の圧力差を利用してインクを一方向に流動させる構成において、電源供給が断たれた場合にインクの流動を停止させてインクの溢れ出しを防止することが可能なインクジェット記録装置およびインクジェット記録装置の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的を達成するための本発明は、インクを貯留する複数のタンクと、前記複数のタンクの圧力を制御する制御部と、前記制御部に電源を供給する電源部とを備え、前記制御部が前記複数のタンク間の圧力差によって前記複数のタンク間でのインクの流動を制御するインクジェット記録装置であって、前記電源部による電源の供給が停止された場合に、前記複数のタンク間のインクの流動を停止させるインク流動切替部を有するインクジェット記録装置である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、2つの空間の圧力差を利用してインクを一方向に流動させる構成において、電源供給が断たれた場合にインクの流動を停止させてインクの溢れ出しを防止することが可能なインクジェット記録装置およびインクジェット記録装置の制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態に係るインクジェット記録装置の概略構成を示す図である。
【
図2】実施形態に係るインクジェット記録装置に設けられたヘッドユニットの底面図である。
【
図3】実施形態に係るインクヘッドの斜視図である。
【
図4】実施形態に係るインク供給機構の構成図である。
【
図5】実施形態に係るインク流路閉塞部の構成を示す図(その1)である。
【
図6】実施形態に係るインク流路閉塞部の構成を示す図(その2)である。
【
図7】実施形態に係る連通路開放部の構成を示す図(その1)である。
【
図8】実施形態に係る連通路開放部の構成を示す図(その2)である。
【
図9】実施形態に係るインクジェット記録装置のブロック図である。
【
図10】電源供給が断たれた場合のインク供給機構の動作を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明のインクジェット記録装置およびインクジェット記録装置の制御方法の実施の形態を、この順に説明する。
【0010】
≪インクジェット記録装置の構成≫
図1は、実施形態に係るインクジェット記録装置1の概略を示す構成図である。この図に示すインクジェット記録装置1は、媒体供給部10、画像形成部20、インク供給機構30、媒体排出部40、制御装置50、および電源部60を備え、記録媒体Pへの画像の形成を実行する。記録媒体Pは、シート状のものであって、普通紙や塗工紙といった紙のほか、布帛またはシート状の樹脂等、シート状の主面に着弾したインクを定着させることが可能な種々の媒体を用いることができる。以下、このようなインクジェット記録装置1の各部の構成を説明する。
【0011】
<媒体供給部10>
媒体供給部10は、記録媒体Pを格納する給紙トレー11と、給紙トレー11から画像形成部20へ記録媒体Pを搬送する媒体搬送部12とを有する。
【0012】
<画像形成部20>
画像形成部20は、搬送ドラム21と、受け渡しユニット22と、加熱部23と、ヘッドユニット24と、定着部25と、デリバリー部26とを有する。これらの構成は次の通りである。
【0013】
[搬送ドラム21]
搬送ドラム21は、円柱形をなしており、その側周面が、記録媒体Pを吸着保持する搬送面となっている。搬送ドラム21は、その搬送面上に記録媒体Pを保持した状態で、円柱形の中心軸を回転軸として一方向(図面上においては反時計回り方向)に回転する。これにより、搬送面に吸着保持した記録媒体Pを、搬送面に沿った経路で搬送する。
【0014】
[受け渡しユニット22]
受け渡しユニット22は、媒体供給部10と搬送ドラム21との間の位置に設けられている。この受け渡しユニット22は、媒体供給部10の媒体搬送部12から搬送された記録媒体Pの一端を保持して取り上げ、搬送ドラム21の搬送面上に記録媒体Pを引き渡す。
【0015】
[加熱部23]
加熱部23は、記録媒体Pの搬送方向において、受け渡しユニット22の下流側に設けられ、搬送ドラム21によって搬送される記録媒体Pが所定の温度範囲内の温度となるように記録媒体Pを加熱する。このような加熱部23は、例えば、赤外線ヒーター等を用いて構成され、制御装置50から供給される制御信号に基づいて赤外線ヒーターに通電して加熱が行われる。
【0016】
[ヘッドユニット24]
ヘッドユニット24は、記録媒体Pの搬送方向において、加熱部23の下流側に設けられ、搬送ドラム21の回転に応じた適切なタイミングで、搬送ドラム21に保持された記録媒体Pに対してインクを射出して画像を形成する。本実施の形態におけるインクジェット記録装置1では、一例としてイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の4色のインクにそれぞれ対応する4つのヘッドユニット24が、搬送ドラム21の回転方向の上流側から順に、所定の間隔で並ぶように配列されている。
【0017】
図2は、実施形態に係るインクジェット記録装置に設けられたヘッドユニット24の底面図であり、
図1に示したヘッドユニット24のうちの1つを、搬送ドラム21側に向かうインク吐出面24a側から見た図である。各ヘッドユニット24は、インク吐出面24aが搬送ドラム21の搬送面に対向して所定の距離を置いて配置される。
【0018】
図2に示すように、ヘッドユニット24は、インク吐出面24aに沿って、複数のインクヘッド240を配列したものである。ヘッドユニット24のインク吐出面24a側には、1つまたは複数のインクヘッド240のノズル面240aが配置されている。図示した例では、一対のインクヘッド240を1組とし、複数組(ここでは8組)のインクヘッド240の組が、2列の千鳥状に配置された構成となっている。各インクヘッド240のノズル面240aには、複数のノズル開口240bが配列されている。
【0019】
図3は、実施形態に係るインクヘッド240の斜視図である。
図2および
図3に示す各インクヘッド240は、筐体241、および筐体241と嵌合するカバー部材242からなる外装材を備えている。外装材の内部には、ここでの図示を省略した、インクを貯留するインク室、インク室の底面に設けられたヘッドチップ、および駆動回路基板などが収容されている。
【0020】
ここでヘッドチップは、インク液滴吐出のための駆動源として圧電アクチュエータを用いたピエゾ方式のものの他、サーマル方式のものであってもよい。このようなヘッドチップは、基板材の厚み方向に複数のノズルを形成したノズル基板を有する。このノズル基板の基板面が、上述したノズル面240aとなっている。またヘッドチップは、上述したインク室と各ノズルとを個別に連通するインク圧力室またはインク加熱室を有する素子基板を備える。
【0021】
またインクヘッド240は、カバー部材242を介してインク室に連通する供給用コネクタ243と、排出用コネクタ244とを有する。
【0022】
以上のようなインクヘッド240を有する各ヘッドユニット24は、インクヘッド240のノズル開口240bが配置されたノズル面240aを同一面に配置し、ノズル面240aが配置された面をインク吐出面24aとしている。また各ヘッドユニット24は、インクヘッド240のノズル開口240bが配置された領域が、先の
図1に示した搬送ドラム21によって搬送される記録媒体Pの軸方向の全域にわたって配置されることとする。このようなヘッドユニット24を有するインクジェット記録装置1は、シングルパス方式の装置である。
【0023】
[定着部25]
図1に戻り、定着部25は、記録媒体Pの搬送方向において、ヘッドユニット24の下流側に設けられている。定着部25は、搬送ドラム21の軸方向にわたって配置された発光部を有する。このような定着部25は、搬送ドラム21の搬送面に保持された記録媒体Pに対して発光部から紫外線等のエネルギー線を照射し、記録媒体P上に射出されたインクを硬化させて定着させる。
【0024】
[デリバリー部26]
デリバリー部26は、搬送ドラム21と媒体排出部40との間の位置であって、記録媒体Pの搬送方向において、定着部25の下流側に設けられている。デリバリー部26は、搬送ドラム21の搬送面において搬送されている記録媒体Pの一端を保持して取り上げ、記録媒体Pを媒体排出部40の排紙トレー41上に送出する。
【0025】
<インク供給機構30>
インク供給機構30は、画像形成部20の各ヘッドユニット24にインクを供給する。
図4は、実施形態に係るインク供給機構30の構成図である。この図に示すインク供給機構30は、ヘッドユニット24(
図1および
図2参照)毎に設けられたもので、ヘッドユニット24が有する各インクヘッド240を含むインク循環路を構成する。
【0026】
このようなインク供給機構30は、メインタンク300、第1サブタンク301、第2サブタンク302、第3サブタンク303、およびインクヘッド240を備え、インク流路としての配管311~315を介してこれらが相互に接続された構成となっている。さらにインク供給機構30は、インク流動切替部としてのインク流路閉塞部33と、気相連通路34および連通路開放部35とを備えている。以下、インク供給機構30を構成する各部を説明する。
【0027】
[メインタンク300]
メインタンク300は、他のサブタンクと比較して大容量の大型のタンクであり、ヘッドユニット24が有する各インクヘッド240に供給する各色のインクを貯留する。このメインタンク300は、第1配管311によって第1サブタンク301と接続されている。
【0028】
メインタンク300と第1サブタンク301とを接続する第1配管311は、第1ポンプ311pを有する。第1ポンプ311pは、例えばダイヤフラムポンプであって、この第1ポンプ311pの駆動によって、メインタンク300から第1サブタンク301にインクを供給する構成となっている。
【0029】
[第1サブタンク301]
第1サブタンク301は、メインタンク300から供給されたインクを貯留し、第2サブタンク302にインクを供給するための供給タンクである。この第1サブタンク301は、第2配管312によって第2サブタンク302と接続され、第3配管313によって第3サブタンク303と接続されている。
【0030】
第1サブタンク301と第2サブタンク302とを接続する第2配管312は、第2ポンプ312pと、インク流路閉塞部33を備える。第2ポンプ312pは、例えばダイヤフラムポンプであって、この第2ポンプ312pの駆動によって、第1サブタンク301から第2サブタンク302にインクを供給する構成となっている。インク流路閉塞部33は、電源部60からの電源の供給が停止した状態におい、第2配管312を閉塞するものである。このインク流路閉塞部33の詳細は、以降に説明する。
【0031】
第1サブタンク301と第2サブタンク302とを接続する第3配管313は、第3ポンプ313pを有する。第3ポンプ313pは、例えばダイヤフラムポンプであって、この第3ポンプ313pの駆動によって、第3サブタンク303から第1サブタンク301にインクが戻される構成となっている。
【0032】
以上のような第1サブタンク301は、開閉自在なバルブ301vを有する空気配管301aを備えている。空気配管301aは、通常のインクジェット記録装置1の稼働時には、バルブ301vにより外部に開放された状態となっている。一方、空気配管301a、メンテナンス時においてはバルブ301vを閉じて内部の空気圧を高めることが可能な構成となっている。
【0033】
[第2サブタンク302]
第2サブタンク302は、第1サブタンク301から供給されたインクを貯留するタンクである。また第2サブタンク302は、インクヘッド240の供給用コネクタ243から延設された供給管314に接続されている。供給管314は、インク流路としての配管である。第2サブタンク302は、この供給管314を介してインクヘッド240にインクを供給する。このような第2サブタンク302は、インクヘッド240に対してインク流路の上流側に配置された上流側タンクである。
【0034】
また第2サブタンク302は、空気配管302aを介して圧力調整部302cに接続され、内部の気相空間の負圧状態が自在に調整される構成となっている。圧力調整部302cによる第2サブタンク302内の負圧制御は、第3サブタンク303内の圧力よりも高圧に制御される。
【0035】
また第2サブタンク302は、内部に貯留したインクの液面高さを検知するための液面検知部302fを有する。この液面検知部302fは、例えばフロート式のレベルスイッチであってよい。
【0036】
[第3サブタンク303]
第3サブタンク303は、インクヘッド240から第1サブタンク301に戻すインクを貯留するためのタンクである。この第3サブタンク303は、インクヘッド240の排出用コネクタ244から延設された排出管315に接続されている。排出管315は、インク流路としての配管である。第3サブタンク303は、この排出管315を介してインクヘッド240から排出されたインクを貯留する。排出管315は、開閉自在なバルブ315vを備え、メンテナンス時においてはバルブ315vを閉じてインクヘッド240の空気圧を高めることが可能な構成となっている。
【0037】
このような第3サブタンク303は、空気配管303aを介して圧力調整部303cに接続され、内部の気相空間の負圧状態が自在に調整される構成となっている。圧力調整部303cによる第3サブタンク303内の負圧制御は、第2サブタンク302内の圧力よりも低圧に制御される。
【0038】
これにより、第2サブタンク302と第3サブタンク303との間に圧力差が生じ、第2サブタンク302から第3サブタンク303にインクが流動する。そして、第2サブタンク302と第3サブタンク303との間に配置されたインクヘッド240にインクが流動的に供給される構成となっている。
【0039】
さらに第3サブタンク303内のインクは、第3配管313に設けた第3ポンプ313pの駆動によって第1サブタンク301に戻される構成となっている。このため、第1サブタンク301、第2サブタンク302、インクヘッド240、第3サブタンク303、および第1サブタンク301をこの順に接続してインクを循環させるインク循環路が形成される。
【0040】
また第3サブタンク303は、内部に貯留したインクの液面高さを検知するための液面検知部303fを有する。この液面検知部303fは、例えばフロート式のレベルスイッチであってよい。
【0041】
[インク流路閉塞部33]
インク流路閉塞部33は、インク流動切替部の一つであって、第1サブタンク301と第2サブタンク302とを接続する第2配管312に設けられている。このインク流路閉塞部33は、インク供給機構30を備えたインクジェット記録装置1に対して電源が供給されている状態においては第2配管312を開通状態とする。一方、このインク流路閉塞部33は、例えば停電などによってインクジェット記録装置1への電源の供給が停止した状態においては、第2配管312を閉塞する構成のものである。このようなインク流路閉塞部33の一例として、バイメタルを用いた構成が例示される。なお、
図4は、インクジェット記録装置1に対して電源が供給されている状態を示している。
【0042】
図5および
図6は、実施形態に係るインク流路閉塞部33の構成を示す図(その1)および(その2)であって、バイメタルを用いた構成のものである。このうち
図5は、インクジェット記録装置1に対して電源が供給されている状態の図である。また
図6は、インクジェット記録装置1に対して電源の供給が停止した状態の図である。以下、
図5および
図6に基づいて、インク流路閉塞部33の構成を説明する。
【0043】
まず、これらの図に示すように、このインク流路閉塞部33が設けられる部分の第2配管312は、可撓性材料で構成された可撓性配管部312aであることとする。このような第2配管312に設けられたインク流路閉塞部33は、一方向が開放された筐体3301と、筐体3301に挿入された支持部材3302とを有する。支持部材3302は、筐体3301に挿入された先端3302aがフランジ状に広がる形状を有する。
【0044】
またインク流路閉塞部33は、筐体3301の底面と、支持部材3302の先端3302aとの間に挟持されたバイメタル3303を有する。バイメタル3303は、筐体3301の底面と、支持部材3302の先端3302aとの間に積層された状態で配置されていることとする。またインク流路閉塞部33は、筐体3301内に収容されたバイメタル3303を加熱するためのヒーター3304を有する。
【0045】
さらにインク流路閉塞部33は、第2配管312に対して固定された固定部材3305を有する。この固定部材3305は、第2配管312に対して固定された状態で、筐体3301の開放部を閉塞し、その一部から支持部材3302の後端部3302bを突出させている。
【0046】
このような固定部材3305と、支持部材3302の先端3302aとの間には、支持部材3302の先端3302aを介してバイメタル3303を筐体3301の底面に押し圧する弾性部材3306が挿入されている。このような弾性部材3306は、例えば圧縮ばねであることとする。
【0047】
またインク流路閉塞部33は、支持部材3302の後端部3302bに対して回動自在に留め付けられた閉塞部材3307を有する。閉塞部材3307は、長尺状のものであって、一方の端部3307aが支持部材3302の後端部3302bに対して回動自在に留め付けられ、中間部が支点3307bとして第2配管312に対して固定されている。また閉塞部材3307の他方の端部は、第2配管312側に向かって突出する閉塞端3307cとして構成されている。
【0048】
このような構成のインク流路閉塞部33は、インクジェット記録装置1に対して電源が供給されている状態においては、ヒーター3304によってバイメタル3303が加熱される。このため、
図5に示すように、バイメタル3303が積層方向に湾曲し、支持部材3302を押し下げる。これにより、閉塞部材3307における一方の端部3307aが、第2配管312側に押し下げられ、閉塞部材330が支点3307bを中心にして回動する。このため、閉塞部材3307の閉塞端3307cが第2配管312側から引き上げられ、第2配管312が開通状態となる。
【0049】
一方、このような構成のインク流路閉塞部33は、インクジェット記録装置1に対して電源の供給が停止した状態においては、ヒーター3304によってバイメタル3303が加熱されることがない。このため、
図6に示すように、バイメタル3303の湾曲状態が解消され、支持部材3302が弾性部材3306によって押し上げられる。これにより、閉塞部材3307の端部3307aが、第2配管312側から引き上げられるように、閉塞部材330が支点3307bを中心にして回動する。このため、閉塞部材3307の閉塞端3307cは、第2配管312の可撓性配管部312aを押しつぶし、第2配管312を閉塞する。
【0050】
なお、このようなインク流路閉塞部33は、インクの流路構成に応じて複数配置してもよい。各インク流路閉塞部33は、動作温度設定の異なる複数種類のバイメタル3303を用いた構成とすることで、時間差でインク流路となる配管を閉塞する構成であってもよい。
【0051】
[気相連通路34および連通路開放部35]
図4に戻り、気相連通路34および連通路開放部35は、インク流動切替部の一つであって、第2サブタンク302と第3サブタンク303との間に設けられている。このうち気相連通路34は、第2サブタンク302と第3サブタンク303の上部の気相部間を接続する空気配管である。また連通路開放部35は、インク供給機構30を備えたインクジェット記録装置1に対して電源が供給されている状態においては、気相連通路34を閉塞状態とする。一方、この連通路開放部35は、インクジェット記録装置1に対して電源の供給が停止した状態においては、気相連通路34を開放状態として、第2サブタンク302と第3サブタンク303の上部空間を連通させる構成のものである。このような連通路開放部35の一例として、バイメタルを用いた構成が例示される。なお、
図4は、インクジェット記録装置1に対して電源が供給されている状態を示している。
【0052】
図7および
図8は、実施形態に係る連通路開放部35の構成を示す図(その1)および(その2)であって、バイメタルを用いた構成のものである。このうち
図7は、インクジェット記録装置1に対して電源が供給されている状態の図である。また
図8は、インクジェット記録装置1に対して電源の供給が停止した状態の図である。以下、
図7および
図8に基づいて連通路開放部35の構成を説明する。
【0053】
まず、これらの図に示すように、この連通路開放部35が設けられる部分の気相連通路34は、可撓性材料で構成された可撓性配管部34aであることとする。このような気相連通路34に設けられる連通路開放部35は、一方向が開放された筐体3501と、筐体3501に挿入された支持部材3502とを有する。支持部材3502は、筐体3501に挿入された先端3502aがフランジ状に広がる形状を有する。
【0054】
また連通路開放部35は、筐体3501の底面と、支持部材3502の先端3502aとの間に挟持されたバイメタル3503を有する。バイメタル3503は、筐体3501の底面と、支持部材3502の先端3502aとの間に積層された状態で配置されていることとする。また連通路開放部35は、筐体3501内に収容されたバイメタル3503を加熱するためのヒーター3504を有する。
【0055】
さらに連通路開放部35は、気相連通路34に対して固定された固定部材3505を有する。この固定部材3505は、気相連通路34に固定された状態で、筐体3501の開放部を閉塞し、その一部から支持部材3502の後端部を突出させている。
【0056】
このような固定部材3505と、支持部材3502の先端3502aとの間には、支持部材3502の先端3502aを介してバイメタル3503を筐体3501の底面に押し圧する弾性部材3506が挿入されている。このような弾性部材3506は、例えば圧縮ばねであることとする。
【0057】
また連通路開放部35は、支持部材3502の後端部が、気相連通路34の可撓性配管部34aを押圧して閉塞する閉塞端3502bとして構成されている。
【0058】
このような構成の連通路開放部35は、インクジェット記録装置1に対して電源が供給されている状態においては、ヒーター3504によってバイメタル3503が加熱される。このため、
図7に示すように、バイメタル3503が積層方向に湾曲し、支持部材3502を押し下げる。これにより、支持部材3502の閉塞端3502bが、気相連通路34の可撓性配管部34aを押しつぶし、気相連通路34を閉塞状態に保つ。
【0059】
一方、このような構成の連通路開放部35は、インクジェット記録装置1に対して電源の供給が停止した状態においては、ヒーター3504によってバイメタル3503が加熱されることがない。このため、
図8に示すように、バイメタル3503の湾曲状態が解消され、支持部材3502が弾性部材3506によって押し上げられる。これにより、支持部材3502の閉塞端3502bが、気相連通路34の可撓性配管部34aから引き上げられ、気相連通路34が開通状態となる。
【0060】
なお、このような気相連通路34および連通路開放部35は、インクの流路構成に応じて複数配置してもよく、さらに1つの気相連通路34対して複数の連通路開放部35を設けてもよい。複数の連通路開放部35は、動作温度設定の異なる複数種類のバイメタル3503を用いた構成とすることで、時間差で気相連通路34を連通させる構成であってもよい。
【0061】
<媒体排出部40>
再び
図1に戻り、媒体排出部40は、画像形成部20から排出された記録媒体Pが載置される板状の排紙トレー41を有し、画像形成後の記録媒体Pを格納する。
【0062】
<制御装置50>
制御装置50は、媒体供給部10、画像形成部20、インク供給機構30、および媒体排出部40を構成する各部材の動作を制御する。
図9は、実施形態に係るインクジェット記録装置のブロック図であって、制御装置50の構成を説明するための図である。
図1おおよび
図9に示すように、制御装置50は、操作部51と、表示部52と、制御部53とを備え、媒体供給部10、画像形成部20、インク供給機構30、および媒体排出部40に接続されている。
【0063】
[操作部51]
操作部51は、このインクジェット記録装置1を用いて実施される画像形成に関する各種の設定を入力する部分である。このような操作部51は、表示部52と一体に設けたタッチパネルであってもよく、表示部52とは別に設けた操作ボタンを有していてもよい。さらにこのような操作部51は、以降に説明する制御部53との間でデータの受け渡しのための通信が可能なパーソナルコンピューターや、プリンターコントローラーなどの外部装置であってもよい。
【0064】
[表示部52]
表示部52は、操作部51での操作の内容、操作部51での設定内容、さらにはその他の表示を行う。
【0065】
[制御部53]
制御部53は、操作部51での操作に基づいて、外部装置から入力された画像データの処理と、インクジェット記録装置1の各駆動部分の動作を制御する。このような制御部53は、計算機によって構成されている。計算機は、いわゆるコンピュータとして用いられるハードウェアである。計算機は、CPU(Central Processing Unit:中央処理装置)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)などのメモリを備える。さらに、計算機は、不揮発性の記憶部およびネットワークインタフェースと備える。
【0066】
この制御部53は、媒体供給部10、画像形成部20、インク供給機構30、および媒体排出部40を構成する各部を制御することにより、記録媒体Pに画像を形成する。制御部53による各部の制御の詳細は、次のインクジェット記録装置1の制御方法において説明する。
【0067】
<電源部60>
電源部60は、インクジェット記録装置1の媒体供給部10、画像形成部20、インク供給機構30、媒体排出部40、および制御装置50の各部に、外部電源から供給された電力を供給する部分である。インクジェット記録装置1の各部は、電源部60からの電源の供給によって、電源部60から電源が供給された制御部53からの指示に基づいて駆動する。
【0068】
≪インクジェット記録装置の制御方法≫
次に、制御部53によって実施されるインクジェット記録装置1の制御方法を説明する。制御部53によって実行される各部の制御は、メモリに保存されたプログラム、または外部装置からメモリまたは記憶部にロードされて保存されたプログラムであることとする。
【0069】
<電源供給開始時の始動制御>
図9および他の図を参照し、インクジェット記録装置1に電源部60からの電源が供給された場合の始動制御を説明する。制御部53は、次のように各部の制御を実施する。
【0070】
先ず、
図4、
図5、および
図9を参照し、制御部53は、インク供給機構30におけるインク流路閉塞部33のヒーター3304をオン状態とする。これにより、第1サブタンク301と第2サブタンク302との間の第2配管312を開通状態とする。また、第2ポンプ312pを駆動して、第1サブタンク301から第2サブタンク302へのインクの供給を開始する。この際、液面検知部302fにより、第2サブタンク302の液面が所定高さとなるように、第2ポンプ312pの駆動を制御する。
【0071】
さらに、
図4、
図7、および
図9を参照し、制御部53は、連通路開放部35のヒーター3504をオン状態とする。これにより、第2サブタンク302と第3サブタンク303との間の気相連通路34を閉塞状態とする。また、第3ポンプ313pを駆動して、第3サブタンク303から第1サブタンク301へのインクの供給を開始する。この際、液面検知部303fにより、第3サブタンク303の液面が所定高さとなるように、第3ポンプ313pの駆動を制御する。
【0072】
また、制御部53は、第2サブタンク302の圧力調整部302cと、第3サブタンク303の圧力調整部303cとを、オン状態とする。この際、第3サブタンク303内の圧力が、第3サブタンク303内の圧力よりも低くなるように、第2サブタンク302と第3サブタンク303内の圧力を所定状態に減圧する。これにより、第2サブタンク302と第3サブタンク303との間に圧力差を発生させ、第2サブタンク302から、インクヘッド240を介して第3サブタンク303にインクを流動させる。
【0073】
<画像形成制御>
図4および
図9を参照し、以上のような状態において、操作部51からの操作によって画像形成のジョブが入力されると、制御部53は、媒体供給部10、画像形成部20、および媒体排出部40を駆動させ、記録媒体Pへの画像形成を開始する。この場合、制御部53は、第2サブタンク302と第3サブタンク303との間に圧力差を利用してインクを一方向に流動させた状態としつつ、インクヘッド240から記録媒体Pに対してインクを吐出させる。これにより、記録媒体Pにインクを着弾させて画像を形成する。
【0074】
また制御部53は、第1ポンプ311pの駆動制御により、インクヘッド240からの吐出によって消費されたインクを、メインタンク300から第1サブタンク301に供給する。
【0075】
<電源の供給が停止した場合の動作>
以上のような制御の実施において、例えば停電などの予期せぬ事態によって、電源部60を介しての電源の供給が停止した場合のインクジェット記録装置1の動作を説明する。
図10は、電源の供給が断たれた場合の供給機構の動作を説明する図である。
【0076】
図10に示すように、電源の供給が停止したことにより、インク供給機構30においては、第1ポンプ311p、第2ポンプ312p、および第3ポンプ313pの駆動が停止する。また圧力調整部302c,303cおよびインクヘッド240の駆動も停止する。この状態においては、圧力調整部302cが接続された第2サブタンク302内の負圧状態と、圧力調整部303cが接続された第3サブタンク303内の負圧状態が維持される。これにより、第2サブタンク302と第3サブタンク303との間の圧力差が維持される。
【0077】
ここで
図6および
図10を参照し、電源の供給が停止すると、第1サブタンク301と第2サブタンク302とを接続する第2配管312に設けたインク流路閉塞部33は、ヒーター3304によるバイメタル3303の加熱が停止する。これにより、第2配管312が閉塞状態となり、圧力調整部302cの停止後にも負圧状態が維持される第2サブタンク302に、第1サブタンク301からインクが流れ込むことが防止される。
【0078】
また
図8および
図10を参照し、電源の供給が停止すると、第2サブタンク302と第3サブタンク303との間の気相連通路34に設けた連通路開放部35は、ヒーター3504によるバイメタル3503加熱が停止する。これにより、気相連通路34が開通状態となり、第2サブタンク302と第3サブタンク303とが連通する。このため、第2サブタンク302と第3サブタンク303との間の圧力差が解消され、第2サブタンク302から第3サブタンク303へのインクの流動が停止する。
【0079】
なお、第1サブタンク301と第3サブタンク303とを接続する第3配管313に設けた第3ポンプ313pは、第3サブタンク303から第1サブタンク301にインクを供給するためのものである。このため、第1サブタンク301から、負圧状態が維持された第3サブタンク303にインクが流れ込むことはない。
【0080】
≪実施形態の効果≫
以上説明したように本実施形態によれば、第2サブタンク302と第3サブタンク303との間に圧力差を利用してインクを流動させる構成において、圧力差が維持された状態で電源供給が断たれた場合であっても、インクの流動を停止させることができる。したがって、インクの溢れ出しを防止することが可能であり、インクの漏れ出しに起因する装置不良を防止できる。
【0081】
なお、圧力差によってインクを流動させる第2サブタンク302と第3サブタンク303との間には、気相連通路34と連通路開放部35とを有するインク流動切替部を設けた構成とした。しかしながら、第2サブタンク302と第3サブタンク303との間の気相連通路34と連通路開放部35とに替えて、供給管314または排出管315にインク流動切替部としてインク流路閉塞部33を追加してもよい。
【符号の説明】
【0082】
1…インクジェット記録装置
33…インク流路閉塞部(インク流動切替部)
34…気相連通路(インク流動切替部)
35…連通路開放部(インク流動切替部、バルブ)
53…制御部
60…電源部
240…インクヘッド
301…第1サブタンク(供給タンク)
302…第2サブタンク(上流側タンク)
303…第3サブタンク
3303,3503…バイメタル
3304,3504…ヒーター
302c,303c…圧力調整部