(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】水中物体捜索支援装置、水中物体捜索支援方法及びそのプログラム
(51)【国際特許分類】
G01S 7/52 20060101AFI20240409BHJP
G01S 15/46 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
G01S7/52 U
G01S15/46
(21)【出願番号】P 2020038560
(22)【出願日】2020-03-06
【審査請求日】2023-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】亀井 恵斗
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 亮平
【審査官】山下 雅人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/038773(WO,A1)
【文献】実開昭62-176775(JP,U)
【文献】特開2000-249760(JP,A)
【文献】国際公開第2018/211575(WO,A1)
【文献】特開2015-190914(JP,A)
【文献】特開2015-007597(JP,A)
【文献】特開2007-040734(JP,A)
【文献】特開平05-209957(JP,A)
【文献】米国特許第05568450(US,A)
【文献】海洋音響学会,第15章 水中物体の探知(アクティブソーナー),海洋音響の基礎と応用 ,日本,株式会社成山堂書店,2004年04月28日,p.190~199
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 5/18- 5/30
G01S 7/52- 7/64
G01S15/00-15/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
捜索海域に設置した送波器
が水中音響信号
を出力する強度を示すソースレベル値から前記水中音響信号を受波器により受信することで生成される入力信号
の信号レベルを減算して前記捜索海域の前記水中音響信号の伝搬損失の推定値である伝搬損失推定値
を算出するとともに、音波伝搬の実測結果と予察結果の間にある経路差の量を示す経路差情報、前記入力信号の時系列情報を含むノイズレベル実測情報及び前記入力信号のノイズレベルの標準偏差を算出するソナーパラメータ推定部と、
前記捜索海域に関する海象データ、海底地形データ、センサ諸元情報を少なくとも含む入力データに基づき算出される
伝搬損失予報値を前記伝搬損失推定値で置換した値をマスキングレベル値として出力するとともに、前記ノイズレベル実測情報により示される前記入力信号の大きさが直接波を受信している期間を示している場合に前記ノイズレベル実測情報をマスキングレベル値として出力し、かつ、前記捜索海域中の前記水中音響信号に関するエコーレベル値を出力する予察部と、
前記エコーレベル値及び前記マスキングレベル値に基づきシグナルエクセス値を算出するシグナルエクセス算出部と、
前記シグナルエクセス値と前記ノイズレベルの標準偏差とに基づき探知確率の距離特性を示す探知距離特性情報を算出する探知確率算出部と、
前記探知距離特性情報と
、探知可能距離を分母として、隣接するセンサ間距離をどれだけ重複させるかを示す捜索範囲の重複率と
、に基づきセンサの設置間隔を算出するセンサ間隔算出部と、
を有する水中物体捜索支援装置。
【請求項2】
前記予察部は、
前記伝搬損失の推定値を示す伝搬損失推定値に基づき前記水中音響信号の残響レベルの予報値である残響レベル予報値を算出する残響レベル算出部と、
前記経路差の推定値を示す経路差情報に基づき前記残響レベル予報値を補正して、残響レベル補正値を算出する残響レベル補正処理部と、
前記入力データに基づき前記ノイズレベルの予報値であるノイズレベル予報値を算出するノイズレベル算出部と、
前記ノイズレベル予報値を前記ノイズレベル実測情報に置換するノイズレベル置換処理部と、
前記残響レベル補正値と前記ノイズレベル実測情報のうち大きな値となる方を選択して、選択した値を前記マスキングレベル値として出力するマスキングレベル算出部と、
前記伝搬損失推定値と前記送波器の出力レベルを示すソースレベル値とに基づき前記捜索海域中の前記水中音響信号に関する前記エコーレベル値を算出するエコーレベル算出部と、
をさらに有する請求項1に記載の水中物体捜索支援装置。
【請求項3】
前記ソナーパラメータ推定部は、
前記送波器が前記水中音響信号を出力する強度を示すソースレベル値から前記入力信号の信号レベルを減算して前記伝搬損失推定値を出力する伝搬損失推定部と、
前記入力信号の信号レベルに基づき前記水中音響信号が残響レベルで伝搬する期間を残響領域期間として判定して、前記残響領域期間を示す残響レベル判定情報を出力する残響レベル判定部と、
前記残響レベル判定情報
から把握される実測残響ピークと前記残響レベル予報値
から把握される予報残響ピークとの時間差から算出される距離に対する経路差比を前記経路差情報として算出する経路差算出部と、
前記入力信号に基づき前記入力信号の時系列情報であるノイズレベル実測情報を出力するノイズレベル実測部と、
前記ノイズレベル実測情報に基づき前記入力信号の前記ノイズレベルの前記標準偏差を算出する標準偏差算出部と、
を有する請求項2に記載の水中物体捜索支援装置。
【請求項4】
前記予察部は、
前記ノイズレベル実測情報により示される前記入力信号の大きさが直接波を受信している期間を示している場合に前記マスキングレベル算出部の出力を前記ノイズレベル実測情報に置換して前記マスキングレベル値を出力するマスキングレベル置換処理部をさらに有する請求項3に記載の水中物体捜索支援装置。
【請求項5】
前記標準偏差算出部は、前記ノイズレベル実測情報から前記残響領域期間の情報を除外するピーク除外判定部を有し、前記残響領域期間を除外した前記ノイズレベル実測情報に基づき前記標準偏差を算出する請求項3に記載の水中物体捜索支援装置。
【請求項6】
前記予察部は、
前記入力データに基づき前記捜索海域における前記水中音響信号の前記伝搬損失の予報値である伝搬損失予報値を算出する伝搬損失算出部と、
前記伝搬損失予報値を前記伝搬損失推定値に置換する伝搬損失置換部と、をさらに有する請求項2乃至5のいずれか1項に記載の水中物体捜索支援装置。
【請求項7】
捜索海域に関する海象データ、海底地形データ、センサ諸元情報を少なくとも含む入力データに基づき水中音響信号のエコーレベル値及びマスキングレベル値を算出する予察部と、
前記エコーレベル値及び前記マスキングレベル値に基づきシグナルエクセス値を算出するシグナルエクセス算出部と、
前記シグナルエクセス値に基づき探知確率の距離特性を算出する探知確率算出部と、
前記探知確率の距離特性と
探知可能距離を分母として、隣接するセンサ間距離をどれだけ重複させるかを示す捜索範囲の重複率とに基づきセンサの設置間隔を算出するセンサ間隔算出部と、を有する水中物体捜索支援装置における水中物体捜索支援方法であって、
前記捜索海域に設置した送波器
が水中音響信号
を出力する強度を示すソースレベル値から前記水中音響信号を受波器により受信することで生成される入力信号
の信号レベルを減算して前記捜索海域の前記水中音響信号の伝搬損失の推定値
である伝搬損失推定値を算出するとともに、音波伝搬の実測結果と予察結果の間にある経路差の量を示す経路差情報、前記入力信号の時系列情報を含むノイズレベル実測情報及び前記入力信号のノイズレベルの標準偏差を算出し、
前記予察部において、
前記エコーレベル値及び前記マスキングレベル値を算出する際に前
記伝搬損失推定値を用いて残響レベル予報値を算出し、
前記経路差情報により前記残響レベル予報値を補正して残響レベル補正値を算出し、
前記入力データに基づき前記ノイズレベルの予報値であるノイズレベル予報値を算出し、
前記ノイズレベル予報値を前記ノイズレベルの推定値であるノイズレベル推定値に置換し、
前記残響レベル補正値と前記ノイズレベル推定値のうち大きな値となる方を選択して、選択した値を前記マスキングレベル値として出力し、
前記伝搬損失推定値と前記送波器の出力レベルを示すソースレベル値とに基づき前記捜索海域中の前記水中音響信号に関する前記エコーレベル値を算出し、
前記探知確率算出部において、
前記シグナルエクセス値に前記ノイズレベルの前記標準偏差を加味して前記探知確率の距離特性を算出する水中物体捜索支援装置おける水中物体捜索支援方法。
【請求項8】
演算装置上で実行され、捜索海域に関する海象データ、海底地形データ、センサ諸元情報を少なくとも含む入力データと、前記捜索海域に設置した送波器から発せられた水中音響信号を受波器により受信することで生成される入力信号と、に基づきセンサの設置間隔を算出する水中物体捜索プログラムであって、
前記水中音響信号を出力する強度を示すソースレベル値から前記入力信号
の信号レベルを減算してから前記捜索海域における前記水中音響信号の伝搬損失の推定値
である伝搬損失推定値を算出すると共に、音波伝搬の実測結果と予察結果の間にある経路差の量を示す経路差情報、前記入力信号の時系列情報を含むノイズレベル実測情報及び前記入力信号のノイズレベルの標準偏差を算出するソナーパラメータ推定処理と、
前記入力データに基づき算出される
伝搬損失予報値を前記伝搬損失推定値で置換した値をマスキングレベル値として出力するとともに、前記ノイズレベル実測情報により示される前記入力信号の大きさが直接波を受信している期間を示している場合に前記ノイズレベル実測情報をマスキングレベル値として出力し、かつ、前記捜索海域中の前記水中音響信号に関するエコーレベル値を出力する予察処理と、
前記エコーレベル値及び前記マスキングレベル値に基づきシグナルエクセス値を算出するシグナルエクセス算出処理と、
前記シグナルエクセス値と前記ノイズレベルの標準偏差とに基づき探知確率の距離特性を算出する探知確率算出処理と、
前記探知確率の距離特性と
、探知可能距離を分母として、隣接するセンサ間距離をどれだけ重複させるかを示す捜索範囲の重複率とに基づき前記センサの設置間隔を算出するセンサ間隔算出処理と、
を行う水中物体捜索支援プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水中物体捜索支援装置、水中物体捜索支援方法及びそのプログラムに関し、特に、捜索海域の状況に応じた最適なセンサの配置間隔を計算する水中物体捜索支援装置、水中物体捜索支援方法、およびそのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
水中の物体を捜索する水中物体捜索装置としてソナー装置がある。このソナー装置には、大別すると、パッシブソナー装置とアクティブソナー装置とがある。パッシブソナー装置とは、水中(水面含む)に存在する目標(例えば、潜水艦や水中機雷等)が発生する音波を捉え、目標の存在と目標位置(方位)算出する装置である。また、アクティブソナー装置は、送波器から海中に音波を放射して、目標物からの反射音を受波器にて検出し、送波器が放射する放射音と目標物が反射する反射音との時間差、或いは、反射音の検出方位に基づき目標物の位置や距離、速度を測定する装置である。
【0003】
また、アクティブソナー装置には、送波器と受波器が離れた位置にある形態を有するマルチスタティックソナー装置がある。このマルチスタティックソナー装置では、1つの送波器に対して、複数の位置に受波器を設置する場合もある。このマルチスタティックソナー装置では、目標からの反射音以外に、送波器から直接伝搬した音(例えば、直接波)も受波信号に含まれる。
【0004】
マルチスタティックソナー装置においては、受波器を複数配置し、マルチスタティックソナーシステムとして作動するものがある。この例について、ソノブイを用いる形態について説明する。ソノブイとは、水中音響信号を受信して、電波を送信する航空機投下式の対潜水艦用音響捜索機器であり、受波器のみを備えたソノブイをパッシブソノブイ、送波器を備えたものをアクティブソノブイという。ソノブイを用いたマルチスタティックソナーシステムでは、これら2種類を組み合わせてシステムを構成する。また、ソノブイが潮流で流された場合や、目標の存在圏が絞られた場合などにはソノブイを追加敷設することがある。
【0005】
ここで、ソナー装置を用いた水中物体捜索の支援に必要となる技術である水測予察について説明する。水測予察とは、ソナー装置の捜索海域における水温や背景雑音およびソナー装置の特性などから、その海域におけるソナー装置の探知可能距離を定められた条件と方法によって予測することである。水測予察は捜索の実施前に行われるため、ソナーの使用海域の水温や風速、周囲雑音について予報値や統計値を用いて計算するのが一般的である。そこで、水測予察に関する技術が特許文献1に開示されている。
【0006】
特許文献1に記載の送受信装置の配置決定装置は、複数の送信装置と複数の受信装置とを備え、各送信装置からの音波を探索領域に送信し、当該探索領域内の水中物体により反射されたエコー信号を受信装置により受信することにより、水中物体を探索する水中物体捜索支援装置において、所定の探索領域で所定の送受信装置数にて所定のカバレッジ率以上となるように探知して上記複数の送信装置と上記複数の受信装置の配置を決定する送受信装置の配置決定装置であって、探知判定のために必要な実環境測定値を測定し、上記測定した実環境測定値に基づいて上記配置による残響を考慮したカバレッジを計算し、上記カバレッジの計算結果に基づいて、所定の最適化手法を用いて上記複数の送信装置と上記複数の受信装置の配置を決定する配置計算部を備え、上記配置計算部は、上記各送信装置のコストと、上記複数の送信装置の個数と、上記各受信装置のコストと、上記複数の受信装置の個数とを含むコスト関数の値が最小となるように上記複数の送信装置と上記複数の受信装置の配置を決定することを特徴とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、捜索海域における捜索可能距離は、捜索海域の水温や環境雑音により大きく変化するものの、予報や統計と差異があることが多く、探知可能距離の見積もりが大きくずれることがある。そこで、特許文献1に記載の送受信装置の配置決定装置では、しかしながら、探知判定のために必要な実環境測定値を測定し、測定した実環境測定値に基づいて配置による残響を考慮したカバレッジを計算する。
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の送受信装置の配置決定装置では、実環境測定値を用いた残響を考慮したカバレッジを計算する具体的な手法については開示されていない。そして、例えば、実環境測定値として水温のみを用いた場合、十分な探知可能距離を算出できない問題が生じる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明にかかる水中物体捜索支援装置の一態様は、捜索海域に設置した送波器から発せられた水中音響信号を受波器により受信することで生成される入力信号から前記捜索海域の前記水中音響信号の伝搬損失の推定値である伝搬損失推定値、音波伝搬の実測結果と予察結果の間にある経路差の量を示す経路差情報、前記入力信号の時系列情報を含むノイズレベル実測情報及び前記入力信号のノイズレベルの標準偏差を算出するソナーパラメータ推定部と、前記捜索海域に関する海象データ、海底地形データ、センサ諸元情報を少なくとも含む入力データに基づき算出される予報値を、前記ソナーパラメータ推定部で算出された値で置換、または、補正することにより前記捜索海域の前記水中音響信号のエコーレベル値及びマスキングレベル値を算出する予察部と、前記エコーレベル値及び前記マスキングレベル値に基づきシグナルエクセス値を算出するシグナルエクセス算出部と、前記シグナルエクセス値と前記ノイズレベルの標準偏差とに基づき探知確率の距離特性を示す探知距離特性情報を算出する探知確率算出部と、前記探知距離特性情報とオペレータが指定した捜索範囲の重複率とに基づきセンサの設置間隔を算出するセンサ間隔算出部と、を有する。
【0011】
本発明にかかる水中物体捜索支援装置おける水中物体捜索方法の一態様は、捜索海域に関する海象データ、海底地形データ、センサ諸元情報を少なくとも含む入力データに基づき水中音響信号のエコーレベル値及びマスキングレベル値を算出する予察部と、前記エコーレベル値及び前記マスキングレベル値に基づきシグナルエクセス値を算出するシグナルエクセス算出部と、前記シグナルエクセス値に基づき探知確率の距離特性を算出する探知確率算出部と、前記探知確率の距離特性とオペレータが指定した捜索範囲の重複率とに基づきセンサの設置間隔を算出するセンサ間隔算出部と、を有する水中物体捜索支援装置における水中物体捜索支援方法であって、前記捜索海域に設置した送波器から発せられた水中音響信号を受波器により受信することで生成される入力信号から前記捜索海域の前記水中音響信号の伝搬損失の推定値、音波伝搬の実測結果と予察結果の間にある経路差の量を示す経路差情報、前記入力信号の時系列情報を含むノイズレベル実測情報及び前記入力信号のノイズレベルの標準偏差を算出し、前記予察部において、前記エコーレベル値及び前記マスキングレベル値を算出する際に前記伝搬損失の推定値である伝搬損失推定値を用いて残響レベル予報値を算出し、前記経路差情報により前記残響レベル予報値を補正して残響レベル補正値を算出し、前記入力データに基づき前記ノイズレベルの予報値であるノイズレベル予報値を算出し、前記ノイズレベル予報値を前記ノイズレベルの推定値であるノイズレベル推定値に置換し、前記残響レベル補正値と前記ノイズレベル推定値のうち大きな値となる方を選択して、選択した値を前記マスキングレベル値として出力し、前記伝搬損失推定値と前記送波器の出力レベルを示すソースレベル値とに基づき前記捜索海域中の前記水中音響信号に関する前記エコーレベル値を算出し、前記探知確率算出部において、前記シグナルエクセス値に前記ノイズレベルの前記標準偏差を加味して前記探知確率の距離特性を算出する。
【0012】
本発明にかかる水中物体捜索支援プログラムの一態様は、演算装置上で実行され、捜索海域に関する海象データ、海底地形データ、センサ諸元情報を少なくとも含む入力データと、前記捜索海域に設置した送波器から発せられた水中音響信号を受波器により受信することで生成される入力信号と、に基づきセンサの設置間隔を算出する水中物体捜索プログラムであって、前記入力信号から前記捜索海域における前記水中音響信号の伝搬損失の推定値、音波伝搬の実測結果と予察結果の間にある経路差の量を示す経路差情報、前記入力信号の時系列情報を含むノイズレベル実測情報及び前記入力信号のノイズレベルの標準偏差を算出するソナーパラメータ推定処理と、前記入力データに基づき算出される予報値を、前記ソナーパラメータ推定処理で算出された値で置換、または、補正することにより前記捜索海域の前記水中音響信号のエコーレベル値及びマスキングレベル値を算出する予察処理と、前記エコーレベル値及び前記マスキングレベル値に基づきシグナルエクセス値を算出するシグナルエクセス算出処理と、前記シグナルエクセス値と前記ノイズレベルの標準偏差とに基づき探知確率の距離特性を算出する探知確率算出処理と、前記探知確率の距離特性とオペレータが指定した捜索範囲の重複率とに基づき前記センサの設置間隔を算出するセンサ間隔算出処理と、を行う。
【発明の効果】
【0013】
本発明にかかる水中物体捜索支援装置、水中物体捜索支援方法及びそのプログラムによれば、捜索可能距離の算出精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施の形態1にかかる水中物体捜索支援装置のブロック図である。
【
図2】実施の形態1にかかる伝搬損失置換処理部の処理を説明する伝搬損失の特性図である。
【
図3】実施の形態1にかかる残響レベル判定部の処理を説明する残響の特性図である。
【
図4】水中音響信号の伝搬経路の予報値と実測値との違いを説明する図である。
【
図5】経路差に起因する残響ピーク位置推定方法を説明する図である。
【
図6】オペレータが指定した目標想定速力におけるマスキングレベルの計算方法を説明する図である。
【
図7】シグナルエクセス値と探知確率の特性の標準偏差による違いを説明するグラフである。
【
図8】センサの探知可能距離と重複率の関係を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
説明の明確化のため、以下の記載及び図面は、適宜、省略、及び簡略化がなされている。また、様々な処理を行う機能ブロックとして図面に記載される各要素は、ハードウェア的には、CPU(Central Processing Unit)、メモリ、その他の回路で構成することができ、ソフトウェア的には、メモリにロードされたプログラムなどによって実現される。したがって、これらの機能ブロックがハードウェアのみ、ソフトウェアのみ、またはそれらの組合せによっていろいろな形で実現できることは当業者には理解されるところであり、いずれかに限定されるものではない。なお、各図面において、同一の要素には同一の符号が付されており、必要に応じて重複説明は省略されている。
【0016】
また、上述したプログラムは、様々なタイプの非一時的なコンピュータ可読媒体を用いて格納され、コンピュータに供給することができる。非一時的なコンピュータ可読媒体は、様々なタイプの実体のある記録媒体を含む。非一時的なコンピュータ可読媒体の例は、磁気記録媒体(例えばフレキシブルディスク、磁気テープ、ハードディスクドライブ)、光磁気記録媒体(例えば光磁気ディスク)、CD-ROM(Read Only Memory)、CD-R、CD-R/W、半導体メモリ(例えば、マスクROM、PROM(Programmable ROM)、EPROM(Erasable PROM)、フラッシュROM、RAM(Random Access Memory))を含む。また、プログラムは、様々なタイプの一時的なコンピュータ可読媒体によってコンピュータに供給されてもよい。一時的なコンピュータ可読媒体の例は、電気信号、光信号、及び電磁波を含む。一時的なコンピュータ可読媒体は、電線及び光ファイバ等の有線通信路、又は無線通信路を介して、プログラムをコンピュータに供給できる。
【0017】
実施の形態1
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。実施の形態1にかかる水中物体捜索支援装置1は、データベース10に格納された海象データ、海底地形データ及びセンサ諸元情報に基づき捜索海域に設置するセンサの最適な配置間隔を示すセンサ間隔距離を算出する水測予察処理を行う。ここで、海象データには、捜索海域に設置されたブイから取得される気温、湿度、気圧、雨量、日射、海水の流れ、水温、塩分濃度等の情報(例えば、ブイ情報BT)が含まれる。また、センサ諸元情報としては、送波器T及び受波器Rで利用される水中音響信号の周波数、送波器T及び受波器Rが設置される深度等の情報が含まれる。
【0018】
そして、実施の形態1にかかる水中物体捜索支援装置1では、捜索海域に設置した送波器Tと受波器Rとを用いて捜索海域において伝搬させた水中音響信号により入力信号Siを取得する。そして、実施の形態1にかかる水中物体捜索支援装置1では、入力信号Siから算出する値(例えば、ソナーパラメータ推定値)を用いてセンサ間隔距離の算出に用いるパラメータを置換又は補正する。実施の形態1にかかる水中物体捜索支援装置1では、上記水測予察処理において入力信号Siを用いて算出したソナーパラメータ推定値を用いるところに特徴の1つを有する。そこで、以下で、実施の形態1にかかる水中物体捜索支援装置1について詳細に説明する。
【0019】
図1に実施の形態1にかかる水中物体捜索支援装置1のブロック図を示す。
図1に示すように、実施の形態1にかかる水中物体捜索支援装置1は、データベース10、予察部11、入力信号処理部12、ソナーパラメータ推定部13、シグナルエクセス算出部14、探知確率算出部15、センサ間隔算出部16、表示部17を有する。また、
図1では、水中物体捜索支援装置1が利用するセンサとして送波器T及び受波器Rを示した。なお、
図1では、送波器T及び受波器Rを1組のみ示したが、送波器T及び受波器Rは、いずれか一方、或いは、両方が複数用いられるものとし、その個数は適宜変更可能である。
【0020】
データベース10、予察部11、入力信号処理部12、ソナーパラメータ推定部13、シグナルエクセス算出部14、探知確率算出部15、センサ間隔算出部16、表示部17は、1つの装置として実装されていても、分散した別の装置として実装されていても良い。また、予察部11、入力信号処理部12、ソナーパラメータ推定部13、シグナルエクセス算出部14、探知確率算出部15、センサ間隔算出部16は、例えば、演算装置(例えば、コンピュータ)上で実行されるプログラムにより実現することが可能である。
【0021】
予察部11は、捜索海域に関する海象データ、海底地形データ、センサ諸元情報を少なくとも含む入力データDiに基づき算出される予報値を算出する。そして、予察部11は、ソナーパラメータ推定部13で算出された値で算出した予報値を置換、または、補正することにより捜索海域の水中音響信号のエコーレベル値EL1及びマスキングレベル値ML2を算出する。
【0022】
入力信号処理部12は、捜索海域に設置した送波器Tから発せられた水中音響信号を受波器Rにより受信することで生成される入力信号をコンピュータが処理可能な入力信号Diに変換する。入力信号処理部12における信号処理の内容は、ソナーの送信波形によって異なる。送波器Tが発する水中音響信号がFM(Frequency Modulation)いわゆるチャープ信号である場合は、伝搬損失置換処理部21は入力信号についてレプリカ相関処理を行い、受信レベルを算出する。また、送波器Tが発する水中音響信号がPCW(Pulsed Continuous Wave)であった場合は、入力信号処理部12は、FFT等の周波数分析処理により、周波数ごとに受信レベルを算出する。当該処理は送波器Tからの発振の有無に関わらず常時行う。
【0023】
ソナーパラメータ推定部13は、入力信号Siから伝搬損失推定値TLe、残響レベル判定情報RLe、経路差情報RTd、ノイズレベル実測情報NLe、標準偏差SDを算出する。伝搬損失推定値TLeは、捜索海域の水中音響信号の伝搬損失の推定値である。残響レベル判定情報RLeは、入力信号Siの信号レベルが水中音響信号の残響レベルで伝搬する期間を示す情報である。経路差情報RTdは、音波伝搬の実測結果と予察結果の間にある経路差の量を示す情報である。ノイズレベル実測情報NLeは、入力信号の時系列情報を含む情報である。標準偏差SDは、入力信号Di(つまり、水中音響信号)のノイズレベルの標準偏差である。
【0024】
そして、シグナルエクセス算出部14は、エコーレベル値EL1及びマスキングレベル値ML2に基づきシグナルエクセス値SE1を算出する。探知確率算出部15は、シグナルエクセス値SE1とノイズレベルの標準偏差SDとに基づき探知確率の距離特性を示す探知距離特性情報SRを算出する。センサ間隔算出部16は、探知距離特性情報SRとオペレータが指定した捜索範囲の重複率とに基づきセンサの設置間隔を算出する。表示部17は、センサ間隔算出部16が算出したセンサの設置間隔を表示する。また、表示部17は、水中物体捜索支援装置1を操作するためのユーザーインタフェースを表示する。
【0025】
ここで、実施の形態1にかかる水中物体捜索支援装置1では、予察部11及びソナーパラメータ推定部13における処理に特徴の1つを有する。そこで、以下では、予察部11及びソナーパラメータ推定部13の詳細について説明する。
【0026】
予察部11は、伝搬損失算出部20、伝搬損失置換処理部21、ノイズレベル算出部22、ノイズレベル置換処理部23、残響レベル算出部24、残響レベル補正処理部25、マスキングレベル算出部26、マスキングレベル置換処理部27、エコーレベル算出部28を有する。また、ソナーパラメータ推定部13は、伝搬損失推定部30、残響レベル判定部31、ノイズレベル実測部32、経路差算出部33、標準偏差算出部34を有する。実施の形態1にかかる水中物体捜索支援装置1では、予察部11及びソナーパラメータ推定部13に実装される処理ブロックを協働させて動作させることで、演算を行う。
【0027】
伝搬損失算出部20は、入力データDiを読み込んで伝搬損失予報値TL1を算出する。伝搬損失予報値TL1は、天気予報、定点観測点(例えば、気象観測用ブイ)により取得された海象データ、海底地形データ及びセンサ諸元等の事前に取得された情報に基づき計算されるものであり、捜索海域における水中音響信号の伝搬損失の予報値である。伝搬損失推定部30は、送波器Tが水中音響信号を出力する強度を示すソースレベル値から入力信号Siの信号レベルを減算して伝搬損失推定値TLeを出力する。伝搬損失置換処理部21は、伝搬損失予報値TL1を伝搬損失推定値TLeに置換して伝搬損失置換値TL2を出力する。つまり、伝搬損失置換値TL2は、伝搬損失推定値TLeと同じモノと考えることができる。
【0028】
ここで、伝搬損失算出部20、伝搬損失推定部30及び伝搬損失置換処理部21による伝搬損失置換値TL2の算出処理について説明する。そこで、
図2に実施の形態1にかかる伝搬損失置換処理部の処理を説明する伝搬損失の特性図を示す。
図2に示す例では、受波器Rとの距離が異なる3つのセンサ(
図2中のセンサA~C)から取得した入力信号Siに基づき3点の伝搬損失推定値TLeを算出した例である。伝搬損失置換処理部21では、伝搬損失推定部30が算出した伝搬損失推定値TLeに基づき伝搬損失の推定特性曲線を生成する。
図2では、伝搬損失の推定特性曲線を破線で示した。また、
図2では、
図2では、伝搬損失算出部20が算出した伝搬損失予報値TL1を用いた予報特性曲線を実線で示した。伝搬損失置換処理部21では、予報特性曲線を推定特性曲線で置き換えることで伝搬損失置換値TL2を出力する。
【0029】
ノイズレベル算出部22は、入力データDiに基づきノイズレベルの予報値であるノイズレベル予報値NL1を算出する。また、ノイズレベル実測部32は、入力信号Siに基づき入力信号Siの時系列情報であるノイズレベル実測情報NLeを出力する。より具体的には、ノイズレベル実測部32は、入力信号Siの受信レベルに対してソナー装置の諸元(DI(受波器の指向性利得)、受信周波数帯域等)を加味して、ノイズレベル実測情報NLeを算出する。ノイズレベル置換処理部23は、ノイズレベル予報値NL1をノイズレベル実測情報NLeに置換してノイズレベル置換値NL2を出力する。なお、このノイズレベル実測情報NLeには、入力信号Siの信号レベルが残響レベルを示す残響レベル判定情報RLeが含まれる。
【0030】
残響レベル算出部24は、伝搬損失の推定値を示す伝搬損失推定値TLe(或いは伝搬損失置換値TL2)に基づき水中音響信号の残響レベルの予報値である残響レベル予報値RL1を算出する。残響レベル判定部31は、入力信号Siの信号レベルに基づき水中音響信号が残響レベルで伝搬する期間を残響領域期間として判定して、残響領域期間を示す残響レベル判定情報RLeを出力する。この残響レベル判定情報RLeは、ノイズレベル実測部32及び経路差算出部33に出力される。
【0031】
ここで、
図3に実施の形態1にかかる残響レベル判定部31の処理を説明する残響の特性図を示す。そして、
図3を参照して、残響レベル判定部31の処理について説明する。
図3に示すように、残響レベル判定部31は、送波器Tからの発振後の入力信号Siの信号レベルと発振前に計測したノイズレベル実測情報NLeとを毎時刻ごとに比較し、2つの差分があらかじめ設定していた閾値を超える場合は、当該時刻を水中音響信号の残響領域と判定する。
【0032】
続いて、経路差算出部33は、残響レベル判定情報RLeと残響レベル予報値RL1とに基づき経路差情報RTdを算出する。ここで、
図4に水中音響信号の伝搬経路の予報値と実測値との違いを説明する図を示し、
図5に経路差に起因する残響ピーク位置推定方法を説明する図を示す。そして、
図4及び
図5を参照して経路差算出部33における経路差情報の算出方法について詳細に説明する。
【0033】
まず、予報や統計により生成される海象データを用いた場合、実際の音波伝搬の状況と海象データを用いて予察した音波伝搬の状況との間には差異が発生することがある。
図4では、予報情報から算出した音波伝搬経路である予報経路と実測値から導き出される音波伝搬経路である実測経路の間に差異が生じたケースを示している。この用は伝搬経路の差異が生じた場合、
図5の上図に示したような残響レベル予報値に含まれる予報残響ピークと実測結果から得られる実測残響ピークとの間に差異が生じる。
図5では、予報値に比べ実測値の伝搬経路が長い場合を示すものである。そのため、
図5に示す例では、伝搬経路の経路差の分だけ残響ピークを受信する時間が遅くなっている。
【0034】
ここで、
図1に示したセンサA~Cを用いた残響ピーク到来時刻の推定処理について説明する。具体的には、センサA、Bを既設のセンサとし、センサCの位置における残響ピーク到来時刻を推定する処理について説明する。まず、経路差算出部33は、センサA、センサBの受信レベルを計測し、残響レベルがピークとなる時刻を算出する。次に、経路差算出部33は、残響レベル予報値RL1に基づき予察によって算出した残響到来時刻を認識し、実測残響ピークと予報残響ピークとの時間差を求め、距離に対する経路差比を求める。そして、経路差算出部33は、算出された経路差比を経路差情報RTdとして出力する。この経路差情報RTdは、残響レベル補正処理部25により用いられる。
【0035】
残響レベル補正処理部25は、経路差情報RTdに基づき残響レベル予報値RL1を補正して、残響レベル補正値RL2を算出する。より具体的には、残響レベル補正処理部25は、残響レベル予報値RL1のうちセンサCの予察の残響レベル到来時間に経路差比を乗算し、ピーク時刻を補正する。
【0036】
なお、残響レベル補正処理部25における残響レベル補正処理の方法は、更新後の伝搬損失(例えば、伝搬損失置換値TL2)を使用する方法以外にも考えられる。例えば、既設のセンサの受信レベルからデータを補間し、任意の位置における残響レベルを算出してもよい。また、残響レベルの補正処理は、目標の速力が既知の場合や、周波数分析結果(スペクトログラム等)から目標速力を把握した場合は、速力に合致する周波数帯域の時系列データからマスキングレベル値MLを計測して残響レベルRLを推定する方式としてもよい。この方式では、速力を考慮して更に残響レベルの精度を高めることができる。
【0037】
ここで、マスキングレベル値MLから残響レベルを推定する方式について説明する。
図6にオペレータが指定した目標想定速力におけるマスキングレベルの計算方法を説明する図を示す。
図6に示すように、この方式では、入力信号Siに対してスペクトラム分析を行う。そして、目標物体と受波器Rとの相対速力に合致する周波数帯域の時系列データからマスキングレベル値MLを計測することで残響レベルRLを推定することができる。
【0038】
マスキングレベル算出部26は、残響レベル補正値RL2とノイズレベル置換値NL2(例えば、ノイズレベル実測情報NLe)から算出されるノイズレベル値のうち大きな値となる方を選択して、選択した値をマスキングレベル値(例えば、マスキングレベル計算値ML1)として出力する。ここで、マスキングレベル値ML1は、次の2つの場合によって異なる。妨害雑音として雑音が支配的な場合(雑音制限状態)では、マスキングレベル値ML=ノイズレベルNL-受波器の指向性利得DIとなる。つまり、この雑音制限状態では、マスキングレベル値MLは、すでにノイズレベルNLから受信器の指向性利得DIが考慮されたノイズレベル実測情報NLeとなる。一方、妨害雑音として残響が支配的な場合(残響制限状態)では、マスキングレベル値ML=残響レベル補正値RL2となる。一般的に、送波器Tが発振した直後では残響レベルが支配的となり、一定時間が経過するとノイズレベルが支配的となる。
【0039】
マスキングレベル置換処理部27は、ノイズレベル実測情報NLeにより示される入力信号Siの大きさが直接波を受信している期間を示している場合にマスキングレベル算出部26の出力をノイズレベル実測情報NLeに置換してマスキングレベル値ML2を出力する。つまり、マスキングレベル値ML2は、直接波測定時はノイズレベル実測情報NLe相当の値となり、ノイズレベル実測情報NLeが直接波測定時以外の期間はマスキングレベル計算値ML1となる。
【0040】
エコーレベル算出部28は、伝搬損失推定値(例えば、伝搬損失置換値TL2)と送波器Tの出力レベルを示すソースレベル値SLとに基づき捜索海域中の水中音響信号に関するエコーレベル値ELを算出する。エコーレベル値EL1は、ソースレベル値をSL、反射帯が音を反射する強度であるターゲットストレングスをTS、往路の伝搬損失をTLa、復路の伝搬損失をTLbとするとEL1=SL-TLa-TLb+TSで算出される。
【0041】
ここで、シグナルエクセス算出部14におけるシグナルエクセス値の算出について説明する。マルチスタティックソナー装置では、シグナルエクセス算出部14は、シグナルエクセス値をSE1、マスキングレベル値をML2、反射された音をオペレータが視認できるレベルの閾値となる探知閾値をDTとすると、SE1=EL1-ML2-DTとの演算によりシグナルエクセス値SE1を算出する。
【0042】
そして、実施の形態1にかかる水中物体捜索支援装置1では、シグナルエクセス値SE1を用いて探知距離特性情報SRを算出するが、このとき標準偏差SDを加味して探知距離特性情報SRを算出する。そこで、標準偏差SDを算出する標準偏差算出部34及び探知距離特性情報SRを算出する探知確率算出部15の動作について説明する。
【0043】
まず、標準偏差算出部34は、ピーク除外判定部35を有する。標準偏差算出部34は、ノイズレベル実測部32が算出した時系列のノイズレベル実測情報NLeを入力とし、その標準偏差SDを算出する。ここで、ノイズレベル実測情報NLeは、時間とともに変動するため、正確な探知確率の算出には、標準偏差SDを求めて探知確率の計算に加味する必要がある。
【0044】
ここで、シグナルエクセス値と探知確率の特性の標準偏差による違いを説明するグラフを
図7に示す。そして、
図7を参照して標準偏差が探知確率に与える影響を説明する。
図7では、ノイズレベルの標準偏差をσとして、σ=0dB、3dB、6dBとしたときの探知可能確率Pの特性を示したものである。ここで、標準偏差SDの算出時に残響制限領域の受信データを加えてしまうと、標準偏差SDが極端に大きくなってしまい、探知可能確率Pの精度を低くしてしまう。そこで実施の形態1にかかる標準偏差算出部34では、ピーク除外判定部35を設けあらかじめピークを除外することで、標準偏差SDの精度を高めた構成としている。
【0045】
ピーク除外判定部35の処理について説明する。ピーク除外判定部35は、時刻ごとの入力信号Siの受信レベルに対応するノイズレベル実測情報NLeと探索海域のノイズレベル予報値とのレベルの差を計測し、閾値処理を行い、大きすぎる時刻のデータを計算する対象から除外する。そして、標準偏差算出部34は、除外判定した領域のノイズレベル実測情報NLeから標準偏差SDの算出を行う。そして、この標準偏差SDを用いて探知確率算出部15が探知距離特性情報SRを出力する。
【0046】
続いて、センサ間隔算出部16について説明する。そこで、
図8にセンサの探知可能距離と重複率の関係を説明するグラフを示す。センサ間隔算出部16では、探知距離特性情報SRを用いてオペレータが指定した重複率となるセンサ間隔を算出する。ここで、重複率とは、探知可能距離を分母として、隣接するセンサ間距離をどれだけ重複させるかを示す値であり式(1)より算出されるものである。ここで、探知可能距離とは、探知距離特性情報SRにより示されるものである。
重複率=1-((センサ間距離-探知可能距離)/探知可能距離)・・・(1)
【0047】
図8に示す例では、上図に重複率として75%を指定したセンサ配置例を示し、下図に重複率として12.5%を指定したセンサ配置例を示した。また、
図8に示す例では、水中物体捜索支援装置1を用いて算出された探知距離特性情報SRに基づき1つのセンサのカバレッジ範囲となる探知可能距離を1.6海里(1.6NM)とした例である。
図8に示すように、重複率を変更するとセンサ間距離を2NM或いは3NMとすることが可能になる。センサ間隔算出部16では、重複率と探知距離特性情報SRに基づきこのセンサ間距離を算出する。
【0048】
上記説明より、実施の形態1にかかる水中物体捜索支援装置1では、センサを敷設する捜索海域で送波器T及び受波器Rを用いて取得した捜索海域の水中音響信号の特性から予察部11でもちいるソナーパラメータの推測値を算出する。そして、実施の形態1にかかる水中物体捜索支援装置1では、ソナーパラメータ推定部13で算出された推定値により予察部11が算出するエコーレベル値EL1及びマスキングレベル値ML2の算出に用いる予報値を置き換え、或いは、補正する。このようにして算出した値を用いて、シグナルエクセス値SE1及び探知距離特性情報SRを算出することで、水中物体捜索支援装置1では、探索海域における水中音響信号の伝搬特性を演算結果に反映して、センサの探知可能距離の精度を高めることができる。
【0049】
また、実施の形態1にかかる水中物体捜索支援装置1では、水中物体捜索支援装置1で用いるソナーパラメータを実測により得られた値で置き換えるのみであるため、予察部11を用いた計算時間が長くなることを防止することができる。
【0050】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0051】
1 水中物体捜索支援装置
10 データベース
11 予察部
12 入力信号処理部
13 ソナーパラメータ推定部
14 シグナルエクセス算出部
15 探知確率算出部
16 センサ間隔算出部
17 表示部
20 伝搬損失算出部
21 伝搬損失置換処理部
22 ノイズレベル算出部
23 ノイズレベル置換処理部
24 残響レベル算出部
25 残響レベル補正処理部
26 マスキングレベル算出部
27 マスキングレベル置換処理部
28 エコーレベル算出部
30 伝搬損失推定部
31 残響レベル判定部
32 ノイズレベル実測部
33 経路差算出部
34 標準偏差算出部
35 ピーク除外判定部
Di 入力データ
Si 入力信号
TL1 伝搬損失予報値
TL2 伝搬損失置換値
RL1 残響レベル予報値
RL2 残響レベル補正値
NL1 ノイズレベル予報値
NL2 ノイズレベル置換値
TLe 伝搬損失推定値
RLe 残響レベル判定情報
RTd 経路差情報
NLe ノイズレベル実測情報
SD 標準偏差
EL1 エコーレベル値
ML1 マスキングレベル計算値
ML2 マスキングレベル値
SE1 シグナルエクセス値
SR 探知距離特性情報
AS 想定目標速力情報
SL 送波レベル情報
T 送波器
R 受波器