(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】画像形成装置、画像形成装置の制御方法、および画像形成装置の制御プログラム
(51)【国際特許分類】
B41J 2/21 20060101AFI20240409BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
B41J2/21
B41J2/01 451
B41J2/01 125
B41J2/01 301
(21)【出願番号】P 2020040866
(22)【出願日】2020-03-10
【審査請求日】2023-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】楠 貴大
【審査官】中村 博之
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-162851(JP,A)
【文献】特開2010-076322(JP,A)
【文献】特開2017-170628(JP,A)
【文献】特開2015-020358(JP,A)
【文献】特開平04-039057(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体を加熱するための媒体加熱装置と、
インクを吐出するインクヘッドおよび前記インクヘッドを加熱するヘッド加熱部を有し、前記媒体加熱装置で加熱された記録媒体にインクを吐出して画像を形成するインク供給装置と、
前記記録媒体に形成された画像を読み取る画像読取装置と、
前記画像読取装置で読み取った読取画像に基づいて前記媒体加熱装置および前記インク供給装置を制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、
前記画像の基準画像と前記読取画像との間に生じた色変動の変動要因が、前記記録媒体の温度であるか前記インクヘッドの温度であるかを判断する色変動要因判断部を備えた
画像形成装置。
【請求項2】
前記制御装置は、色空間色度図における色相角度の変動と彩度の変動を、前記色変動として算出する色変動方向演算部を備え、
前記色変動要因判断部は、前記色変動方向演算部で算出した前記色変動に基づいて、前記色変動の要因を判断する
請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記色変動方向演算部は、前記色変動が、前記色相角度の何れの方向への変動であるか、前記彩度の何れの方向への変動であるかを検出し、
前記色変動要因判断部は、前記色変動方向演算部で検出した前記色変動の方向によって、前記色変動の要因を特定する
請求項2に記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記色変動方向演算部は、前記読取画像における色相角度および彩度の少なくとも一方が所定範囲を超えた場合に、前記基準画像に対して前記読取画像が色変動したと判断する
請求項2または3に記載の画像形成装置。
【請求項5】
前記色変動要因判断部は、前記色相角度の変動および前記彩度の変動と、前記記録媒体の温度および前記インクヘッドの温度との相関関係に基づき、前記色変動の要因を判断する
請求項2~4のうちの何れか1項に記載の画像形成装置。
【請求項6】
前記色変動要因判断部は、前記相関関係として、前記変動の大きさを保持する
請求項5に記載の画像形成装置。
【請求項7】
前記色変動要因判断部は、
複数色のインク液滴を積層した二次色以上で構成された画像におけるインク液滴の積層順に基づいて前記判断を実施し、前記色変動方向演算部で算出した前記色変動が下層側のインク液滴の色方向である場合、前記色変動の変動要因が前記記録媒体の温度であると判断する
請求項
2~6のうちの何れか1項に記載の画像形成装置。
【請求項8】
前記色変動要因判断部は、前記記録媒体上に形成したテストチャートに基づいて前記判断を実施する
請求項1~
7のうちの何れか1項に記載の画像形成装置。
【請求項9】
前記色変動要因判断部は、画像形成ジョブにおいて前記記録媒体上に形成した画像に基づいて前記判断を実施する
請求項1~
7のうちの何れか1項に記載の画像形成装置。
【請求項10】
前記制御装置は、前記色変動要因判断部での判断に基づいて、前記媒体加熱装置と前記インク供給装置の制御条件を補正する
請求項1~
8のうちの何れか1項に記載の画像形成装置。
【請求項11】
前記制御装置は、前記色変動要因判断部での判断に基づいて、前記媒体加熱装置および前記ヘッド加熱部による加熱温度の設定を補正する
請求項
10に記載の画像形成装置。
【請求項12】
前記制御装置は、前記色変動要因判断部での判断に基づいて、前記インクヘッドの駆動条件を補正する
請求項
10に記載の画像形成装置。
【請求項13】
記録媒体を加熱するための媒体加熱装置と、インクを吐出するインクヘッドおよび前記インクヘッドを加熱するヘッド加熱部を有し、前記媒体加熱装置で加熱された記録媒体にインクを吐出して画像を形成するインク供給装置と、前記記録媒体に形成された画像を読み取る画像読取装置とを備えた画像形成装置の制御方法であって、
制御装置は、前記画像読取装置で読み取った読取画像に基づいて、前記媒体加熱装置および前記インク供給装置を制御し、
前記制御装置の色変動要因判断部は、前記画像の基準画像と前記読取画像との間に生じた色変動の変動要因が、前記記録媒体の温度であるか前記インクヘッドの温度であるかを判断する
画像形成装置の制御方法。
【請求項14】
前記制御装置は、前記色変動要因判断部での判断に基づいて、前記媒体加熱装置と前記インク供給装置の制御条件を補正する
請求項
13に記載の画像形成装置の制御方法。
【請求項15】
記録媒体を加熱するための媒体加熱装置と、インクを吐出するインクヘッドおよび前記インクヘッドを加熱するヘッド加熱部を有し、前記媒体加熱装置で加熱された記録媒体にインクを吐出して画像を形成するインク供給装置と、前記記録媒体に形成された画像を読み取る画像読取装置とを備えた画像形成装置の制御プログラムであって、
制御装置に対して、前記画像読取装置で読み取った読取画像に基づく前記媒体加熱装置および前記インク供給装置の制御を実施させ、
前記制御装置の色変動要因判断部に対して、前記画像の基準画像と前記読取画像との間に生じた色変動の変動要因が、前記記録媒体の温度であるか前記インクヘッドの温度であるかを判断させる
画像形成装置の制御プログラム。
【請求項16】
前記制御装置に対して、前記色変動要因判断部での判断に基づいて、前記媒体加熱装置と前記インク供給装置の制御条件を補正させる
請求項15に記載の画像形成装置の制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像形成装置、画像形成装置の制御方法、および画像形成装置の制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット方式の画像形成装置に関する技術として、下記特許文献1に開示の技術がある。引用文献1に開示の技術は、液滴によって画像が形成される記録媒体を加熱する加熱手段と、前記記録媒体を乾燥する乾燥手段と、液滴の温度を検出する検出手段とを備え、前記検出手段によって検出された前記液滴の温度に基づいて、前記加熱手段、又は前記乾燥手段のうち少なくとも一方を制御する技術である。これにより、非浸透メディアへの印字が可能であるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、インクジェット方式の画像形成装置においては、記録媒体に供給するインクヘッドの温度およびインク供給前の記録媒体の温度が、記録媒体に形成される画像の色変動を発生させ、画質を低下させる因子となっている。しかしながら、従来の画像形成装置においては、画像の色変動に対して上述した色変動の変動因子の特定がなされておらず、画像の色変動の発生を高精度に防止することができなかった。
【0005】
そこで本発明は、画像の色変動を高精度に防止することが可能な画像形成装置、画像形成装置の制御方法、および画像形成装置の制御プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的を達成するための本発明は、記録媒体を加熱するための媒体加熱装置と、インクを吐出するインクヘッドおよび前記インクヘッドを加熱するヘッド加熱部を有し、前記媒体加熱装置で加熱された記録媒体にインクを吐出して画像を形成するインク供給装置と、前記記録媒体に形成された画像を読み取る画像読取装置と、前記画像読取装置で読み取った読取画像に基づいて前記媒体加熱装置および前記インク供給装置を制御する制御装置とを備え、前記制御装置は、前記画像の基準画像と前記読取画像との間に生じた色変動の変動要因が、前記記録媒体の温度であるか前記インクヘッドの温度であるかを判断する色変動要因判断部を備えた画像形成装置である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、画像の色変動を高精度に防止することが可能な画像形成装置、画像形成装置の制御方法、および画像形成装置の制御プログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態に係る画像形成装置の構成図である。
【
図2】実施形態に係る画像形成装置の要部を上方から見た模式図である。
【
図3】実施形態に係る画像形成装置に設けられたヘッドユニットの底面図である。
【
図4】インクヘッドから吐出したインク液滴による画像形成を説明する図である。
【
図5】記録媒体上に着弾したインク液滴によって表される各色を説明するための色度図である。
【
図6】形成画像における各色の色変動の方向を説明する図である。
【
図7】変動の要因毎の各色の色変動の方向を説明する図である。
【
図8】形成画像における色変動の要因と色変動の方向との相関関係を示す図である。
【
図9】実施形態に係る画像形成装置の制御方法を示すフローチャート(その1)である。
【
図10】実施形態に係る画像形成装置の制御方法を示すフローチャート(その2)である。
【
図11】各色の色変動の許容範囲の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を適用した画像形成装置、画像形成装置の制御方法、および画像形成装置の制御プログラムの実施の形成を説明する。
【0010】
≪画像形成装置≫
図1は実施形態に係る画像形成装置1の構成図であって、インクジェット方式の画像形成装置1における画像形成部を側方から見た図である。また
図2は、実施形態に係る画像形成装置の要部を上面から見た模式図である。これらの図に示すように、第1実施形態に係るインクジェット方式の画像形成装置1は、媒体搬送装置10、インク供給装置20、媒体加熱装置30、画像読取装置40、制御装置50、および操作装置60を備えている。これらは、次のように構成されている。
【0011】
<媒体搬送装置10>
媒体搬送装置10は、記録媒体Pを所定方向に搬送するためのものである。この媒体搬送装置10は、例えばベルト搬送装置であって、駆動ローラー11、従動ローラー12、およびこれらに張架された無端ベルト13を備え、駆動ローラー11の回転によって無端ベルト13を周回動作させる。無端ベルト13は、駆動ローラー11と従動ローラー12との間の外周面部分が、記録媒体Pの載置面13sとなっている。無端ベルト13は、載置面13s上に供給された記録媒体Pを、載置面13sに対して吸着した状態で無端ベルト13の周回方向に搬送する。
【0012】
以下においては、載置面13sにおける無端ベルト13の周回方向を、記録媒体Pの搬送方向xとする。また、無端ベルト13の載置面13s内において、搬送方向xと垂直な方向を幅方向yとする。このような媒体搬送装置10によって搬送される記録媒体Pは、例えばロールから巻き出されてロールに巻き取られる長尺のシート状のものであってもよいが、搬送方向xの長さが一定のものであってもよい。このような記録媒体Pは、普通紙や塗工紙といった紙のほか、布帛またはシート状の樹脂等、シート状の主面に着弾したインクを定着させることが可能な種々の材質のものであってよい。
【0013】
<インク供給装置20>
インク供給装置20は、媒体搬送装置10によって搬送される記録媒体Pに対してインクを供給するためのものである。このインク供給装置20は、記録媒体Pの搬送方向xに沿って配置された複数のヘッドユニット21を備えている。本実施の形態における画像形成装置1では、一例としてイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の4色のインクにそれぞれ対応する4つのヘッドユニット21y、21m、21c、21kが、記録媒体Pの搬送方向xの上流側から順に、所定の間隔で並ぶように配列されている。これらの各ヘッドユニット21は、インクヘッド22と、ヘッド加熱部23とを備えている。
【0014】
図3は、実施形態に係る画像形成装置に設けられたヘッドユニット21の底面図であり、
図1および
図2に示したヘッドユニット21のうちの1つを、媒体搬送装置10に対向する面側から見た図である。
【0015】
[ヘッドユニット21]
図3に示すように、ヘッドユニット21は、媒体搬送装置10側に向かう底面に沿って複数のインクヘッド22を配列したものである。ここではヘッドユニット21の一例として、記録媒体Pの搬送方向xに対して垂直な幅方向yに配列された4個のインクヘッド22の列が互い違いに2列配置された構成となっている。各インクヘッド22の媒体搬送装置10に向かう面は、複数のインク吐出ノズルのノズル開口22bが配列されたノズル面22aとなっている。
【0016】
ここで各インクヘッド22は、インクを貯留するインク室と、インク室の底面に設けられたヘッドチップ、および駆動回路基板などを有する。このうちヘッドチップは、インク液滴吐出のための駆動源として圧電アクチュエータを用いたピエゾ方式のものの他、サーマル方式のものであってもよい。このようなヘッドチップは、基板材の厚み方向に複数のノズルを形成したノズル基板を有する。ノズル基板の基板面が、上述したノズル面22aとなっている。またヘッドチップは、上述したインク室と各ノズルとを個別に連通するインク圧力室またはインク加熱室を有する素子基板を備えている。これにより、各ノズル開口22bからのインク吐出が、個別に制御される構成となっている。
【0017】
図1および
図2に戻り、以上のような構成の各ヘッドユニット21は、媒体搬送装置10で搬送される記録媒体Pの幅方向yを覆う大きさで設けられており、記録媒体Pのほぼ全面にインクを供給可能な構成となっている。
【0018】
ここで
図4には、インクヘッドから吐出したインク液滴による画像形成を説明する図を示す。次に、
図4および先の
図1を参照し、インク供給装置20による記録媒体Pへの画像形成を説明する。すなわち、インク供給装置20は、搬送方向xの上流側からのヘッドユニット21の配置順に、各色のインクを記録媒体P上に供給することによって、記録媒体P上に画像を形成する。
【0019】
図示した一例のように、赤Rの画像を形成したい場合であれば、イエローYの下層液滴101の上部に、マゼンタMの上層液滴102を供給する。緑Gの画像を形成したい場合であれば、イエローYの下層液滴101の上部に、シアンCの上層液滴102を供給する。青Bの画像を形成したい場合であれば、マゼンダMの下層液滴101の上部に、シアンCの上層液滴102を供給する。さらに、3色以上のインク液滴を積層させて黒の画像を形成する。
【0020】
[ヘッド加熱部23]
また、各ヘッドユニット21に設けられたヘッド加熱部23は、各インクヘッド22を個別に加熱することが可能な構成となっている。このようなヘッド加熱部23は、インクヘッド22を加熱することにより、各インクヘッド22内のインクを加熱するものとなっている。
【0021】
<媒体加熱装置30>
媒体加熱装置30は、媒体搬送装置10によって搬送される記録媒体Pを所定温度に加熱するためのものである。この媒体加熱装置30は、媒体搬送装置10における搬送方向xに対して、インク供給装置20の上流側に配置され、インク供給装置20によってインクが供給される前の記録媒体Pを加熱する。
【0022】
このような媒体加熱装置30は、媒体搬送装置10で搬送される記録媒体Pの幅方向xを覆う大きさで設けられており、記録媒体Pの全面を加熱することが可能な構成となっている。またこの媒体加熱装置30は、幅方向yに分割された各部において、個別に加熱の制御が可能な構成となっている。
【0023】
なお、このような媒体加熱装置30は、媒体搬送装置10によって搬送される記録媒体Pを直接加熱する構成であってもよいが、無端ベルト13を加熱し、無端ベルト13を介して記録媒体Pを加熱する構成ものであってもよい。
【0024】
<画像読取装置40>
画像読取装置40は、媒体搬送装置10によって搬送される記録媒体Pの主面を撮像するためのものである。この画像読取装置40は、媒体搬送装置10における搬送方向xに対して、インク供給装置20の下流側に配置され、インク供給装置20からのインク供給によって記録媒体P上に形成された画像を読み取る。このような画像読取装置40は、撮像素子を配列したラインセンサーであってよく、撮像素子は、CCD(Charge Coupled Device)であっても他の素子であってもよい。
【0025】
<制御装置50>
制御装置50は、媒体搬送装置10、インク供給装置20、媒体加熱装置30、および画像読取装置40の駆動を制御するためのものであって、マイクロコンピューターなどの計算機によって構成されている。計算機は、CPU(Central Processing Unit:中央処理装置)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)を備える。さらに、計算機は、不揮発性ストレージおよびネットワークインタフェースを備えてもよい。
【0026】
このような制御装置50において実施する制御のうちの一つは、以降に説明する画像形成装置の制御方法において詳細に説明する特徴的な制御である。このような特徴的な制御の手順は、画像形成装置1の各部の動作を制御するための制御プログラムとして、ROMに保存されたプログラムであるか、または外部装置からRAMまたは不揮発性ストレージにロードされた保存されたプログラムである。この制御プログラムは、以降の画像形成装置の制御方法においてにおいて説明するステップを計算機に実行させる。
【0027】
このような制御装置50は、機能的要素として、色変動方向演算部51、色変動要因判断部52、および駆動制御部53を備える。次に、これらの構成要素の機能を説明する。
【0028】
[色変動方向演算部51]
色変動方向演算部51は、画像読取装置40で読み取った画像を処理し、記録媒体Pの各部に形成された画像の色変動の方向を算出する。以下に色変動の方向を説明する。
【0029】
図5は、記録媒体上に着弾したインク液滴によって表される各色を説明するための色度図である。この色度図は、L
*a
*b
*色空間色度図であって、ab二次元色座標を示している。このような色度図は、イエローY、マゼンダM、シアンCの各色インク、およびこれらのインク液滴を積層した赤R、緑G、青Bの各色の色度の値を示している。この図に示すように、各色は、原点[O]からの距離(彩度)[d]と、原点[O]から+a
*方向の軸を基準とした色相角度[h]と、ここでは図示されない明度とを、各色の固有の値として有する。
【0030】
図6は、形成画像における各色の色変動の方向を説明する図であって、イエローYとマゼンダMのインク液滴を積層させた赤Rの色変動を例示した図である。この図に示すように、赤Rの色変動は、赤Rの基準色(a)に対して、距離(彩度)[d]方向と、色相角度[h]方向に色変動する。これらの各方向への色変動は、インクヘッドの温度と、インク液滴が着弾する記録媒体Pの温度とに依存する。これは、他の色でも同様であり、インクの色変動は、色度の変動として現れる。
【0031】
色変動方向演算部51(
図1参照)は、画像読取装置40で読み取った画像を処理することにより、あらかじめ設定されている各色の基準色(a)の値に対して、記録媒体Pに形成された画像の色変動の方向を算出する。この際、色変動方向演算部51は、基準色(a)の値を基準値とし、この基準値に対する距離(彩度)[d]のずれ量と、色相角度[h]のずれ量とを、変動の大きさとして算出する。
【0032】
[色変動要因判断部52]
色変動要因判断部52は、色変動方向演算部51で算出した色変動の方向に基づいて、形成画像の各部における色変動の要因が、インクヘッド22の温度であるか、記録媒体Pの温度であるか、またはその両方であるかを判断する。
【0033】
図7は、色変動の要因毎の各色の色変動の方向を示す図である。以下、
図6および
図7を参照し、インクヘッドの温度と、記録媒体Pの温度による色変動を説明する。なお、ここでは、インクヘッドから吐出するインクが、温度上昇によって低粘度化する物性のものである場合を例示して説明を行う。
【0034】
図7の基準状態(a1)は、インクヘッドの温度および記録媒体Pの温度が基準温度である場合に、記録媒体Pに着弾したインク液滴の状態を示している。この基準状態(a1)に対する状態(b1)は、各インクヘッドの温度が基準状態(a1)よりも上昇した場合の状態を示す。この場合、インクヘッドから吐出するインクが低粘度化し、各色のインク液滴の吐出量が増加し、下層液滴101および上層液滴102の容量が増加する。この場合の形成画像は、
図6に示すように、基準色(a)に対して色相角度[h]は変化せずに、距離(彩度)[d]のみが増加する方向に色変動した変動色(b)となる。
【0035】
また
図7の基準状態(a1)に対して、上層液滴を供給するインクヘッド温度のみ上昇した状態(c1)では、上層液滴102の容量のみが増加する。この場合の形成画像は、
図6に示すように、基準色(a)に対して色相角度[h]が、上層液滴の色方向に変化した変動色(c)となる。なお、変動色(c)は、基準色(a)に対して、距離(彩度)[d]の変化がみられる場合もある。
【0036】
さらに
図7の基準状態(a1)に対して、記録媒体Pの温度が上昇した状態(d1)では、記録媒体P上に着弾したインク液滴が、記録媒体P上において広がり易くなる。このため、複数色のインクを積層して画像形成する場合においては、記録媒体Pに直接着弾する下層のインク液滴のみが、記録媒体P上において広がる。この場合の形成画像は、
図6に示すように、基準色(a)に対して、色相角度[h]が、下層液滴の色方向に変化した変動色(d)となる。なお、変動色(d)は、基準色(a)に対して、距離(彩度)[d]の変化がみられる場合もある。
【0037】
以上は、形成画像の色変動の一例であり、例えば単色のインクを用いた場合、インクヘッドの温度と、記録媒体Pの温度による色変動は、距離(彩度)[d]方向のみとなる。
【0038】
そこで、色変動要因判断部52は、インクヘッドの温度の変動および記録媒体Pの温度の変動と、各色の変動方向との相関関係をあらかじめ保持しておく。
図8は、このような相関関係の一例を示す図である。このような相関関係は、例えば予備実験やシミュレーションによって予め取得し、制御装置50を構成するRAMまたは不揮発性ストレージに保存されていることとする。
【0039】
なお、
図8は、色変化の方向のみを示しているが、色変動要因判断部52は、各方向への変動量の大きさも保持することが好ましい。すなわち色変動要因判断部52は、インクヘッドの温度の変動および記録媒体Pの温度の変動の値と、各色の基準値に対する距離(彩度)[d]のずれ量と、色相角度[h]のずれ量との相関関係をあらかじめ保持しておくことが好ましい。
【0040】
[駆動制御部53]
図1に戻り、駆動制御部53は、次に説明する操作装置60からの操作と、色変動要因判断部52での判断結果とに基づいて、媒体搬送装置10、インク供給装置20、媒体加熱装置30、および画像読取装置40の駆動を制御する。この駆動制御部53は、色変動要因判断部52での判断結果に基づいて、形成画像が基準色(a)となるように制御を行う。駆動制御部53によるこのような制御は、インク供給装置20のヘッド加熱部23および媒体加熱装置30に対して実施される。また駆動制御部53によるこのような制御は、インクヘッド22の駆動条件に対して実施されてもよい。
【0041】
<操作装置60>
操作装置60は、この画像形成装置1を用いて実施される画像形成に関する各種の設定を入力する部分である。このような操作装置60は、例えば操作部と表示部とを備えており、操作部での操作の内容を表示部に表示する。このような操作装置60は、制御装置50との間でデータの受け渡しのための通信が可能なパーソナルコンピューターや、プリンターコントローラーなどの外部装置であってもよい。
【0042】
≪画像形成装置の制御方法≫
図9は、実施形態に係る画像形成装置の制御方法を示すフローチャート(その1)である。このフローチャートに示す画像形成装置の制御方法は、上述した制御装置50において実施される画像形成装置1の制御方法である。以下、
図9のフローチャートに沿って、先の
図1~
図8および必要に応じた他の図を参照しつつ、画像形成装置1の制御方法の手順を説明する。
【0043】
<ステップS101>
ステップS101において、駆動制御部53は、操作装置60から画像形成ジョブの開始が入力されたか否かを判断する。駆動制御部53は、操作装置60から画像形成ジョブの開始が入力された(YES)と判断されるまで処理を繰り返し、入力された(YES)と判断した場合に次のステップS102に進む。
【0044】
<ステップS102>
ステップS102において、駆動制御部53は、適正化処理を開始するタイミングであるか否かを判断する。この際、駆動制御部53は、予め設定されたタイミングとなった時点で、適正化処理を開始するタイミングである(YES)と判断し、次のステップS103に進む。なお、適正化処理を開始するタイミングは、例えば操作装置60からの入力によって設定されたタイミングであってよく、画像形成のジョブの実行中であってよい。
【0045】
<ステップS103>
ステップS103において、駆動制御部53は、媒体搬送装置10、インク供給装置20、および媒体加熱装置30の駆動を制御し、検査画像の形成を実施する。ここで形成する検査画像は、画像調整用のテストチャートであってよい。この検査画像は、単色で出力してもよいが、検査画像の形成面積を縮小できる観点から、複数色のインク液滴を積層させた二次色以上の画像として出力することが好ましい。また検査画像は、記録媒体Pの幅方向yにわたって形成されることが好ましい。なお、媒体搬送装置10および媒体加熱装置30は、画像形成ジョブでの設定にしたがって制御すればよい。
【0046】
また、特別に検査画像を形成することなく、ジョブで形成した画像を検査画像として用いてもよいが、この場合には、本ステップS103は省略する。
【0047】
<ステップS104>
ステップS104において、駆動制御部53は、記録媒体P上に形成された検査画像を検知して色情報を取得する。この際、画像読取装置40は、画像読取装置40の駆動により、記録媒体Pに形成された検査画像を読み取って読取画像を取得し、検査画像の色情報を得る。
【0048】
<ステップS105>
ステップS105において、制御装置50は、画像読取装置40で取得した色情報に基づく補正処理を実施する。
図10は、実施形態に係る画像形成装置の制御方法を示すフローチャート(その2)であって、
図9のステップS105の補正処理の手順を示す図である。以下、
図10のフローチャートに沿って、先の
図1~
図8および必要に応じた他の図を参照しつつ、補正処理の手順を説明する。
【0049】
[ステップS501]
先ずステップS501において、色変動方向演算部51は、検査画像について取得した色情報に基づき、検査画像上の各部についての色度、すなわち二次元色座標上における色相角度[h]と距離(彩度)[d]を算出する。
【0050】
[ステップS502]
ステップS502において、色変動要因判断部52は、ステップS501において算出した検査画像上の各部の色の色相角度[h]が、所定範囲内であるか否かを判断する。この際、色変動要因判断部52は、検査画像の各部を構成する基準色の色相角度[h]を基準値とし、この基準値に対して設定したプラスマイナスの閾値の範囲を所定範囲として、この判断を実施する。ここでの判断は、検査画像の各部に対して個別に実施する。
【0051】
図11は、各色の色変動の許容範囲の一例を示す図である。ここでは一例として、上記基準値に対して、プラス10%の値を+閾値とし、マイナス10%の値を-閾値として示した。色変動要因判断部52は、検査画像上の各部の色の色相角度[h]が、基準値に対する+閾値と-閾値との間の範囲内であれば、色相角度[h]が所定範囲内である(YES)と判断して、ステップS503に進む。
【0052】
一方、色変動要因判断部52は、検査画像上の各部の色の色相角度[h]が、基準値に対しての+閾値と-閾値との間の範囲内でなければ、色相角度[h]が所定範囲内ではない(NO)と判断して、ステップS504に進む。この際、色変動要因判断部52は、色相角度[h]が所定範囲内ではないと判断された検査画像上のアドレスに対して、色変動の方向であって、ここでは色相角度[h]のずれ方向を関連付けして保持させる。また色変動要因判断部52は、基準値に対する色相角度[h]のずれ量を関連付けして保持してもよい。
【0053】
[ステップS503]
ステップS503において、色変動要因判断部52は、ステップS501において算出した検査画像上の各部の色の距離(彩度)[d]が、所定範囲内であるか否かを判断する。この際、色変動要因判断部52は、検査画像の各部を構成する基準色の距離(彩度)[d]を基準値とし、この基準値に対して設定したプラスマイナスの閾値の範囲を所定範囲として、この判断を実施する。ここでの判断は、検査画像の各部に対して個別に実施する。
【0054】
図11には、一例として、上記基準値に対して、プラス10%の値を+閾値とし、マイナス10%の値を-閾値として示した。色変動要因判断部52は、検査画像上の各部の色の距離(彩度)[d]が、基準値に対する+閾値と-閾値との間の範囲内であれば、距離(彩度)[d]は所定範囲内である(YES)と判断する。この場合、色変動要因判断部52は、基準画像に対して検査画像の色変動はないと判断して補正処理を終了させる。
【0055】
一方、色変動要因判断部52は、検査画像上の各部の色の距離(彩度)[d]が、基準値に対しての+閾値と-閾値との間の範囲内でなければ、距離(彩度)[d]が所定範囲内ではない(NO)と判断して、ステップS504に進む。この際、色変動要因判断部52は、距離(彩度)[d]が所定範囲内ではないと判断された検査画像上のアドレスに対して、色変動の方向であって、ここでは距離(彩度)[d]のずれ方向を関連付けして保持させる。また色変動要因判断部52は、基準値に対する、距離(彩度)[d]のずれ量を関連付けして保持してもよい。
【0056】
[ステップS504]
ステップS504において、色変動要因判断部52は、基準色に対する色変動の方向が関連付けされた検査画像上の各アドレスについて、色変動の変動因子を判断するこの際、色変動要因判断部52は、予め保持しているインクヘッドの温度の変動および記録媒体Pの温度の変動と、各色の変動方向の相関関係に対して、各アドレスに関連付けされた色変動の方向を照らし合わせる。これにより、色変動の要因が、インクヘッドの温度の変動であるか、または記録媒体Pの温度の変動であるか、またはその両方であるのかを判断する。
【0057】
なお、色変動要因判断部52が、変動要因の変動の大きさと、色変動のずれ量との相関関係を保持していている場合であれば、各アドレスに関連付けされた色変動のずれ量から、色変動の変動要因を判断してもよい。
【0058】
[ステップS505]
ステップS505において、駆動制御部53は、色変動の補正を実施する。この際、駆動制御部53は、ステップS504で判断した変動要因、すなわちインクヘッドの温度および記録媒体Pの温度を、基準色に対する色変動を打ち消すように制御する。
【0059】
ここで、各色変動は、検査画像の各アドレスに対して関連付けされている。このため、駆動制御部53は、検査画像のアドレスに対応する部分ごとに、ヘッド加熱部23によるインクヘッド22の温度の制御、および媒体加熱装置30による記録媒体Pの温度の制御を実施する。
【0060】
ヘッド加熱部23および媒体加熱装置30の温度制御の解像度が、検査画像について色情報の取得の解像度に対して粗い場合には、駆動制御部53は、温度制御の解像度に合わせて平均化した値で変動要因の制御を実施すればよい。
【0061】
以上により、色情報に基づく補正処理を終了し、その後は
図9に示したステップS106に進む。
【0062】
<ステップS106>
ステップS106において、駆動制御部53は、画像形成のジョブが終了したか否かの判断を実施する。そして、ジョブが終了した(YES)と判断された場合には、全体の処理を終了させ、ジョブが終了していない(NO)と判断された場合には、ステップS102に戻り、以降の処理を繰り返し実施する。
【0063】
≪実施形態の効果≫
以上説明した実施形態によれば、色変動の変動要因が、インクヘッドの温度であるかインク供給前の記録媒体Pの温度であるかを判断することにより、インクヘッドの温度よび記録媒体Pの温度を高精度に制御することが可能となる。この結果、形成画像の色変動を高精度に防止することが可能となる。
【符号の説明】
【0064】
1 画像形成装置
10 媒体搬送装置
20 インク供給装置
22 インクヘッド
23 ヘッド加熱部
30 媒体加熱装置
40 画像読取装置
50 制御装置
51 色変動方向演算部
52 色変動要因判断部
101…下層液滴(インク液滴)
102…上層液滴(インク液滴)
P…記録媒体