IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ コニカミノルタ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-画像形成装置 図1
  • 特許-画像形成装置 図2
  • 特許-画像形成装置 図3
  • 特許-画像形成装置 図4
  • 特許-画像形成装置 図5
  • 特許-画像形成装置 図6
  • 特許-画像形成装置 図7
  • 特許-画像形成装置 図8
  • 特許-画像形成装置 図9
  • 特許-画像形成装置 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/01 20060101AFI20240409BHJP
【FI】
B41J2/01 303
B41J2/01 301
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020052703
(22)【出願日】2020-03-24
(65)【公開番号】P2021151729
(43)【公開日】2021-09-30
【審査請求日】2023-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小田 昌司
【審査官】加藤 昌伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-071472(JP,A)
【文献】特開2013-132758(JP,A)
【文献】特開2011-218761(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01 - 2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャリッジ筐体とともに静止状態でノズルからインクを吐出することにより、記録媒体に画像を形成するインクジェットヘッドと、
メンテナンス時に、異なる色のインクを吐出する複数の前記インクジェットヘッドが前記キャリッジ筐体から一体的に移動するように案内する案内部と、を備え、
前記案内部は、前記異なる色の前記インクを吐出する複数の前記インクジェットヘッドを、前記キャリッジ筐体から水平方向に移動可能に案内すると共に、前記記録媒体が搬送される搬送方向に沿った方向に引き出し可能に案内する、
画像形成装置。
【請求項2】
前記案内部は、複数の前記インクジェットヘッドを有する第1のインクジェットヘッド群を前記搬送方向の上流側に引き出し可能に案内する、
請求項に記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記案内部は、複数の前記インクジェットヘッドを有する第2のインクジェットヘッド群を前記搬送方向の下流側に引き出し可能に案内する、
請求項に記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記第1のインクジェットヘッド群および前記第2のインクジェットヘッド群の少なくとも一方は、前記異なる色の前記インクを吐出す複数の前記インクジェットヘッド
である、
請求項に記載の画像形成装置。
【請求項5】
前記案内部は複数の前記インクジェットヘッドの高さに応じて案内量が異なる、
請求項からの何れか一項に記載の画像形成装置。
【請求項6】
前記キャリッジ筐体の前記搬送方向における中央に、前記異なる色の前記インクを吐出す複数の前記インクジェットヘッドが移動された後の前記キャリッジ筐体の変形量を抑制するように支持する支持部を備える、
請求項からの何れか一項に記載の画像形成装置。
【請求項7】
キャリッジ筐体とともに静止状態でノズルからインクを吐出することにより、記録媒体に画像を形成するインクジェットヘッドと、
メンテナンス時に、異なる色のインクを吐出する複数の前記インクジェットヘッドが前記キャリッジ筐体から一体的に移動するように案内する案内部と、を備え、
前記キャリッジ筐体は、前記案内部によ複数の前記インクジェットヘッドの案内前および案内後において複数の前記インクジェットヘッドを駆動する駆動部を保持する
画像形成装置。
【請求項8】
前記案内部によ複数の前記インクジェットヘッドの案内後において複数の前記インクジェットヘッドの前記ノズルを加湿する加湿部を備える、
請求項1からの何れか一項に記載の画像形成装置。
【請求項9】
画像形成時における前記インクジェットヘッドの前記ノズルの位置に応じて、前記インクジェットヘッドから前記インクが吐出されるタイミングを補正する制御を行う制御部を備える、
請求項1からの何れか一項に記載の画像形成装置。
【請求項10】
キャリッジ筐体とともに静止状態でノズルからインクを吐出することにより、記録媒体に画像を形成するインクジェットヘッドと、
メンテナンス時に、異なる色のインクを吐出する複数の前記インクジェットヘッドが前記キャリッジ筐体から一体的に移動するように案内する案内部と、
前記キャリッジ筐体に収納された前記異なる色の前記インクを吐出す複数の前記インクジェットヘッドの前記キャリッジ筐体に対する移動を阻止するようにロックするロック部と、
前記ロック部の状態を検知するロック検知部と、
ロック状態が検知されている場合、前記インクジェットヘッドの高さ変更の動作を許可する制御を行う制御部と、を備える、
画像形成装置。
【請求項11】
前記ロック部は、前記異なる色の前記インクを吐出す複数の前記インクジェットヘッドが搭載される基台を、前記キャリッジ筐体に固定する、
請求項10に記載の画像形成装置。
【請求項12】
前記制御部は、前記インクジェットヘッドの高さ変更の動作を許可した後に前記ロック状態の解除が検知された場合、前記インクジェットヘッドの高さ変更の動作を停止する制御を行う、
請求項10または11に記載の画像形成装置。
【請求項13】
キャリッジ筐体とともに静止状態でノズルからインクを吐出することにより、記録媒体に画像を形成するインクジェットヘッドと、
メンテナンス時に、異なる色のインクを吐出する複数の前記インクジェットヘッドが前記キャリッジ筐体から一体的に移動するように案内する案内部と、備え、
前記案内部は、
前記異なる色の前記インクを吐出する複数の前記インクジェットヘッドが搭載される基台を、前記キャリッジ筐体に対して出し入れ可能に案内すると共に、
前記異なる色の前記インクを吐出す複数の前記インクジェットヘッドが搭載される第1の基台を案内する第1の案内部と、
前記異なる色の前記インクを吐出す複数の前記インクジェットヘッドが搭載される第2の基台を案内する第2の案内部と、を備える、
画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、紙、布帛等の種々の記録媒体に対して高精細な画像を記録する装置として、インクジェットヘッド(以下、単にヘッドとも称する)のノズルからインクを吐出する方式によるインクジェット画像形成装置が広く普及している(例えば特許文献1を参照)。
【0003】
ここで、インクジェット画像形成装置における印刷方式としては、インクジェットヘッドが搭載されたヘッドキャリッジ(以下、「キャリッジ筐体」という)を副走査方向に往復移動させながら印刷を行うスキャン方式と、キャリッジ筐体を固定(静止)したままで印刷を完成させるシングルパス(ワンパスともいう)方式とに大別される。
【0004】
ところで、近年の産業用のインクジェット画像形成装置は、使用されるインクや記録媒体の多様化、印刷の生産性など、種々の観点から性能(印刷能力)の向上が図られており、かかる印刷能力の向上につれて、機械全体が大型化してきている。
【0005】
特に、シングルパス方式のインクジェット画像形成装置では、印刷性能向上の要求に応えるべく、インクジェットヘッドの搭載数が肥大化する傾向にあり、この結果、作業者によるインク吐出面の点検や調整等のメンテナンス性を確保することが難しくなっている。
【0006】
これに関し、特許文献1に記載の技術では、メンテナンス時に、記録媒体の搬送方向にインクジェットヘッドを移動する構成が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2015-17182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の技術は、インクジェットヘッドのノズル(インク吐出面)を自動でクリーニングすることを前提としており、作業者が手作業で行うメンテナンス、例えばインクジェットヘッド等の交換、ノズルの点検や清掃等に対する作業性は考慮されていない。
【0009】
具体的には、特許文献1に記載の技術は、メンテナンス時に、全てのインクジェットヘッドをキャリッジ筐体と一緒に移動させる構成である。このため、例えばインクジェットヘッドの搭載数やキャリッジ筐体の構成(形状、重量等)によっては、上記の手作業時において作業員が窮屈な姿勢を強いられるなど、作業性が悪くなる。
【0010】
本発明の目的は、インクジェットヘッドに関するメンテナンス性の向上を図ることが可能な画像形成装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る第1の画像形成装置は、
キャリッジ筐体とともに静止状態でノズルからインクを吐出することにより、記録媒体に画像を形成するインクジェットヘッドと、
メンテナンス時に、異なる色のインクを吐出する複数の前記インクジェットヘッドが前記キャリッジ筐体から一体的に移動するように案内する案内部と、を備え、
前記案内部は、前記異なる色の前記インクを吐出する複数の前記インクジェットヘッドを、前記キャリッジ筐体から水平方向に移動可能に案内すると共に、前記記録媒体が搬送される搬送方向に沿った方向に引き出し可能に案内する。
本発明に係る第2の画像形成装置は、
キャリッジ筐体とともに静止状態でノズルからインクを吐出することにより、記録媒体に画像を形成するインクジェットヘッドと、
メンテナンス時に、異なる色のインクを吐出する複数の前記インクジェットヘッドが前記キャリッジ筐体から一体的に移動するように案内する案内部と、を備え、
前記キャリッジ筐体は、前記案内部による複数の前記インクジェットヘッドの案内前および案内後において、複数の前記インクジェットヘッドを駆動する駆動部を保持する。
本発明に係る第3の画像形成装置は、
キャリッジ筐体とともに静止状態でノズルからインクを吐出することにより、記録媒体に画像を形成するインクジェットヘッドと、
メンテナンス時に、異なる色のインクを吐出する複数の前記インクジェットヘッドが前記キャリッジ筐体から一体的に移動するように案内する案内部と、
前記キャリッジ筐体に収納された前記異なる色の前記インクを吐出する複数の前記インクジェットヘッドの前記キャリッジ筐体に対する移動を阻止するようにロックするロック部と、
前記ロック部の状態を検知するロック検知部と、
ロック状態が検知されている場合、前記インクジェットヘッドの高さ変更の動作を許可する制御を行う制御部と、を備える。
本発明に係る第4の画像形成装置は、
キャリッジ筐体とともに静止状態でノズルからインクを吐出することにより、記録媒体に画像を形成するインクジェットヘッドと、
メンテナンス時に、異なる色のインクを吐出する複数の前記インクジェットヘッドが前記キャリッジ筐体から一体的に移動するように案内する案内部と、備え、
前記案内部は、
前記異なる色の前記インクを吐出する複数の前記インクジェットヘッドが搭載される基台を、前記キャリッジ筐体に対して出し入れ可能に案内すると共に、
前記異なる色の前記インクを吐出する複数の前記インクジェットヘッドが搭載される第1の基台を案内する第1の案内部と、
前記異なる色の前記インクを吐出する複数の前記インクジェットヘッドが搭載される第2の基台を案内する第2の案内部と、を備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、インクジェットヘッドに関するメンテナンス性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施の形態におけるインクジェット画像形成装置の概略構成を説明する側面図である。
図2図1の状態におけるインクジェット画像形成装置の平面図である。
図3】印刷前に、図1に示す状態から保湿桶が除去される様子を示す図である。
図4】スライドレールやロック部材等の構成を説明するための一部切り欠き斜視図である。
図5図1に示す状態から作業員が下流側の印字ユニットを移動させる様子を示す図である。
図6図5の状態におけるインクジェット画像形成装置の平面図である。
図7図1に示す状態から作業員が上流側の印字ユニットを移動させる様子を示す図である。
図8図1に示す状態からキャリッジ筐体等を上昇させて、作業員が下流側の印字ユニットを移動させる様子を示す図である。
図9】キャリッジ筐体および基台等の変形例を説明するための平面図である。
図10】メンテナンスの際に制御部が実行する処理を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0015】
図1は、本実施の形態におけるインクジェット画像形成装置1の概略構成を示す一部切り欠き側面図である。また、図2は、インクジェット画像形成装置1の平面図である。
【0016】
インクジェット画像形成装置1は、ベルト搬送装置2と、画像形成部3と、メンテナンス作業を行う作業者(図5等に示す作業員を参照、以下「作業員L」とも称する)の足場となるキャットウォーク4,5と、を備えている。
【0017】
他にも、インクジェット画像形成装置1は、作業者により操作される種々のスイッチ、各部の位置や姿勢等を検知するためのセンサー、装置の状態を表示する表示部、PCなどの外部装置から画像データ等を受信するための通信インターフェース等を備えているが、これらは公知の構成であるため図示を省略する。
【0018】
インクジェット画像形成装置1のベルト搬送装置2は、所定の間隔をおいて平行に配置された複数(図示の例では2つ)のローラー21,22(図2を参照)に亘って所定幅の無端状の搬送ベルト23が張架されている。これらローラー21、22間に架け渡された搬送ベルト23の上面は、記録媒体(図示せず)を密着させて載置する載置面とされている。
【0019】
なお、搬送ベルト23の表面には、搬送中の記録媒体を搬送ベルト23の上面に密着させるために、地張りと呼ばれる粘着剤が塗布されている。
【0020】
また、一方のローラー21は、図示しない副走査モーターによって駆動される駆動ローラーであり、他方のローラー22は従動ローラーである。ローラー21は、制御部の制御の下、上記の副走査モーターが回転することによって、図1中の矢印(反時計)方向に回転する。
【0021】
ベルト搬送装置2では、副走査モーターの回転によって駆動ローラー21が図1中の反時計方向(矢印参照)に所定速度で回転することにより、従動ローラー22との間に架け渡された搬送ベルト23を回転移動させる。かかる動作により、搬送ベルト23の上面(載置面)に密着された記録媒体は、副走査方向である図2中の矢印A方向に搬送される。
【0022】
以下、矢印A方向すなわち記録媒体が搬送される方向を「搬送方向」と称し、かかる搬送方向における上流側(キャットウォーク4が位置する側)および下流側(キャットウォーク5が位置する側)を、単に「上流側」および「下流側」という場合がある。また、平面視において搬送方向に直交する方向を「幅方向」と称する。
【0023】
また、説明の便宜のため、各部材の面に関し、搬送方向または幅方向における中央側(内方)を臨む面を「内方面」と称し、この逆すなわち搬送方向または幅方向における外側(外方)を臨む面を「外方面」と称する。
【0024】
本実施の形態のインクジェット画像形成装置1では、記録媒体として、例えば、紙、布帛、プラスチックフィルム、ガラス板等、インクジェット記録に通常使用される記録媒体を使用することができる。かかる記録媒体は、所定サイズに裁断されたシート状であってもよいし、ロール状に巻回された元巻から連続して繰り出される長尺状であってもよい。
【0025】
キャットウォーク4,5は、長椅子またはベンチ状の形状を有する部材であり(図2等も参照)、各々、搬送ベルト23の幅よりも長い幅を有する水平台、かかる水平台の搬送方向の端部から上方に延びる壁部、水平台の幅方向の両端から下方に延びる脚部などを備える。図1ではキャットウォーク4および5の脚部を切り欠いて示しており、この点、図3図5図7および図8も同様である。
【0026】
なお、キャットウォーク4および5は、互いに同一の構成であるため、ここではキャットウォーク4について説明する。キャットウォーク4の脚部は、搬送ベルト23を跨ぐように4本設けられ、各々の脚部の先端が床面に設置されることでキャットウォーク4の全体を支持する。
【0027】
かくして、キャットウォーク4とキャットウォーク5は、ベルト搬送装置2上で、画像形成部3を挟むように対抗して位置し、かつ、ベルト搬送装置2および画像形成部3の構成部材と干渉しないように配置されている。
【0028】
図1に示すように、画像形成部3は、搬送ベルト23の載置面の上方に備えられるインクジェットヘッド30、インクジェットヘッド30の周囲を囲むように設けられた平面枠状(図2を参照)の骨格部32、骨格部32の周囲および画像形成部3の全体を覆う外装部31(図1中の点線を参照)を備える。上記のうち、インクジェットヘッド30は、平面略矩形の基台350上に搭載されており、メンテナンス(交換)の際には基台350から脱着される。
【0029】
なお、本実施の形態において、インクジェットヘッド30および基台350は、上流側の印字ユニット35Aを構成するものと、下流側の印字ユニット35Bを構成するものとに分けられるが、この詳細については後述する。
【0030】
また、画像形成部3は、上記の基台350を支持するキャリッジ筐体34と、外装部31に固定され、キャリッジ筐体34の上下方向(昇降方向)の移動動作を支援するための複数(この例では4本)の柱状のリニアガイド33(図2も参照)と、を備える。
【0031】
上記のうち、キャリッジ筐体34は、平面略「H」字状の外形を有し搬送ベルト23の上面と平行に配置される底部34aと、底部34aの幅方向両端から垂直に立ち上がるように設けられた一対の側部34bと(各々、図1を参照)と、を有する。この実施の形態では、キャリッジ筐体34に梁34cが設けられており、かかる梁34cの構成については後述する。
【0032】
なお、理解を容易にするため、図1では、一対の側部34bのうち、前側の側部34bの図示を省略しており、この点、図3図5図7および図8も同様である。また、キャリッジ筐体34のさらなる詳細および他の構成要素は、図4等を参照して後述する。
【0033】
さらに、画像形成部3は、キャリッジ筐体34の側部34bの外方面における搬送方向の中央に固定される一対の柱36,36(図2も参照)と、各々の柱36に対応して設けられた昇降モーター37,37とを備える。
【0034】
また、画像形成部3は、インクジェットヘッド30を駆動するための電気回路(インクジェットヘッド駆動部)が形成され、使用するインクジェットヘッド30の色数(この例では8色)分の回路基板38と、搬送ベルト23とインクジェットヘッド30との間に配置された保湿桶39とを備える。
【0035】
以下、上述した各部の構成を、より詳しく説明する。
【0036】
本実施の形態におけるインクジェット画像形成装置1で使用されるインクジェットヘッド30(以下、適宜「ヘッド」と略称する)は、記録媒体への画像形成時に、キャリッジ筐体34とともに静止状態でインクを吐出する、シングルパス方式のヘッドである。
【0037】
すなわち、ヘッドがキャリッジとともに幅方向に移動(走査方向にスキャン)しながらインクを吐出するスキャン方式とは異なり、静止状態でインクを吐出するシングルパス方式によれば、幅方向の全体にインクを吐出できるように、複数のヘッドを配列する必要がある。
【0038】
この点に関し、本実施の形態における画像形成部3は、図2に示すように、一色にあたり複数のインクジェットヘッド30が幅方向に沿って千鳥状に配列されており、かつ、幅方向において吐出されるインクの隙間が発生しないように、隣り合うヘッドが密集して配列される。
【0039】
また、この画像形成部3では、任意の8色のインクを選択的に吐出できるようになっている。一具体例では、図2に示すように、一色につき8個のヘッド、合計で64個(=8色×8列)のインクジェットヘッド30が、平面略矩形の板状の基台350(図4を参照)の上に搭載される。
【0040】
図示の例では、上流側から、紫(V)、イエロー(Y)、オレンジ(O)、青(B)、ブラック(K)、マゼンタ(M)、シアン(C)、およびホワイト(W)のインクを吐出するインクジェットヘッド30が、各々8個ずつ、互いにノズルの重複領域(ヘッド間オーバーラップ)を設けるように配列される。
【0041】
図示しないが、各々のインクジェットヘッド30には、インクを貯留する圧力室と、圧力室の壁面に設けられた圧電素子と、インクを吐出するノズルとを各々有する複数の記録素子が設けられている。この記録素子は、圧電素子を変形動作させる駆動信号が入力されると、圧電素子の変形により圧力室が変形して圧力室内の圧力が変化し、圧力室に連通するノズルからインクを吐出する。
【0042】
また、本実施の形態では、ヘッドの列毎に、言い換えると使用されるインクの色毎に、当該ヘッドを駆動する電気回路(インクジェットヘッド駆動部)を構成する種々の電子部品が搭載された回路基板38が備えられる(図4も参照)。
【0043】
上記のインクジェットヘッド駆動部は、図示しない制御部の制御に基づいて、インクジェットヘッド30の記録素子に対して適切なタイミングで、画像データに応じて圧電素子を変形動作させる駆動信号を供給することにより、インクジェットヘッド30のノズルから画像データの画素値に応じた量のインクを吐出させる。
【0044】
なお、制御部は、インクジェット画像形成装置1の全体動作を統括制御するものであり、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、記憶部などを有する。かかる制御部を構成する各部は公知の構成であるため、図示および詳細な説明を省略する。
【0045】
この例では、上記の8色のインクジェットヘッド30を使用することから、図2に示すように、インクジェットヘッド駆動部を構成する8つの回路基板38が、各々、キャリッジ筐体34の搬送方向に沿った略中央に、後述する梁34cを跨ぐように配列されている。
【0046】
一具体例では、各々の回路基板38は、キャリッジ筐体34における梁34cの上部に固定されるように配置される。図2に示す例では、各々の回路基板38は、インクジェットヘッド30の交換時に干渉しないように、平面視において搬送方向に対して所定の角度を設けた向きで配列(固定)される。
【0047】
図4を参照すると、インクジェットヘッド30と対応する回路基板38とは、ヘッドケーブル343を通じて電気的に接続される。また、インクジェットヘッド30のインク流入口にインクチューブ344が接続されることによって、配管345に連なるインクの流路が形成される。なお、配管345は、ポンプを介してインク貯留タンクへと連なっているが、かかるインク流路に関する構成は公知であるため、説明を省略する。
【0048】
上記のヘッドケーブル343およびインクチューブ344は、キャリッジ筐体34(この例では底部34a)に組み付けられたケーブルベア(登録商標)などの保護案内部342を通じて束ねられることにより、メンテナンスの際に互いに絡まる等の不具合を防止ないし抑制することができる。
【0049】
なお、簡明のため、図4では、保護案内部342によって束ねられるヘッドケーブル343およびインクチューブ344の本数を、実際よりも少なく示している。同様の観点から、図4では、保護案内部342から引き出されて対応するインクジェットヘッド30に接続される側のヘッドケーブル343およびインクチューブ344の図示を省略している。
【0050】
一方、実際の運用上は、インクジェットヘッド30のノズル(インク吐出面)の点検、清掃等の際に、基台350等がキャリッジ筐体34から大きく外方に移動させられることになる(図8を参照)。このため、保護案内部342から引き出されてインクジェットヘッド30に接続される側のヘッドケーブル343およびインクチューブ344の長さは、当該移動距離を考慮した十分な長さとされる。
【0051】
図2に示すように、このインクジェット画像形成装置1では、上述した複数(この例では8色×8列=64個)のインクジェットヘッド30を囲うように、骨格部32が配置されている。なお、理解を容易にするため、図1では骨格部32の一部の断面形状だけを示している。
【0052】
骨格部32は、図1および図2に参照されるように、断面略矩形のパイプ状の部材を4本組み合わせて形成される。一具体例では、外装部31の内方面が骨格部32の外方面に固定され、骨格部32または外装部31の下側には、床面(図示せず)に設置されて外装部31および骨格部32を支持する脚部が設けられる。
【0053】
また、図2に示すように、骨格部32のうち搬送ベルト23の幅方向の縁部(辺)に平行に配列されている部材の内側には、キャリッジ筐体34等の上下移動(昇降動作)を支援ないしガイドするための平面矩形の柱状をなすリニアガイド33が固定されている。
【0054】
本実施の形態では、2×2すなわち幅方向および搬送方向に2つずつ合計4つのリニアガイド33が、外装部31内で上下方向に伸びるように設けられている。
【0055】
なお、図1では、リニアガイド33の上側を切り欠いて示しており、この点、図3図5,および図7も同様である。実際には、各リニアガイド33の上側の部分は、外装部31の天井の付近まで伸びている(図8を参照)。
【0056】
各々のリニアガイド33は、キャリッジ筐体34等の昇降時における姿勢を一定に保つように昇降動作を支援する役割を有するものであり、外装部31および骨格部32に固定されている。具体的には、各リニアガイド33の上端は、外装部31の図示しないフレームに接続されており、各リニアガイド33の外方面の一部は、枠状の骨格部32を構成する部材のうち、搬送ベルト23と平行に配列されている部材の内方面に固定されている(図2を参照)。
【0057】
また、各々のリニアガイド33におけるキャリッジ筐体34と対抗する面には、キャリッジ筐体34の側部34bの外方面に固定された受け部34gが当接している。以下、本実施の形態におけるキャリッジ筐体34の機能等を説明する。
【0058】
本実施の形態において、キャリッジ筐体34は、インクジェットヘッド30が搭載された基台350を収容ないし収納し、画像形成時に基台350ひいては全てのインクジェットヘッド30を所定位置に設定する(すなわち画像形成位置に固定する)役割を担う。
【0059】
また、本実施の形態において、キャリッジ筐体34は、上記の基台350を搬送方向における上流および下流側に移動可能に支持する役割、同基台350の上流および下流方向への移動を禁止(ロック)および当該ロックを解除する役割を担う。
【0060】
さらに、キャリッジ筐体34は、キャリッジ筐体34自体が上下方向に昇降することで、上記の基台350ひいてはインクジェットヘッド30のインク吐出面の高さ位置を調整する役割を担う。
【0061】
より具体的には、キャリッジ筐体34は、図2に示すように、上流側および下流側の両端が開放された、略「H」字状の平面形状となっている。かかる形状とすることにより、基台350を上流および下流方向に移動させる際に、基台350とキャリッジ筐体34との干渉が発生しないメリットが得られる。
【0062】
図4を参照すると、キャリッジ筐体34は、平板状かつ平面略「H」字状の底部34aと、キャリッジ筐体34の側面を形成し底部34aから立ち上がるように設けられた一対の板状の側部34b,34bと、を備える。加えて、キャリッジ筐体34における搬送方向における中央位置には、板状の梁34cが架け渡されている。
【0063】
なお、図4では、梁34cの突起部分(図4中に示す梁34cの左側端部を参照)と側部34bの溝部分との係合状態を明示するために、側部34bの上側を切り欠いて示している。実際には、図1に示すように、側部34bの上端は、外装部31の高さの略半分程度の高さ位置にある。
【0064】
このように、キャリッジ筐体34の中央の領域が梁34cで支持されることにより、基台350が引き出されて除去された後もキャリッジ筐体34の剛性を確保することができる。
【0065】
本実施の形態において、梁34cは、基台350を含む印字ユニット35A(35B)がキャリッジ筐体34から移動された後のキャリッジ筐体34の変形を防止(変形量を抑制)するように支持する部材であって、本発明の「支持部」に対応する。
【0066】
また、図2を参照すると、キャリッジ筐体34の搬送方向に沿った中央かつ幅方向における両端(すなわち各々の側部34bの外方面)には、一対の柱36,36が立設されている。各々の柱36は、上述した側部34bの外方面に固定されており、側部34bの上端の略半分程度の高さを有している(図1を参照)。
【0067】
かかる柱36,36は、対応する昇降モーター37,37の駆動力が伝達されることにより、キャリッジ筐体34およびインクジェットヘッド30が搭載された基台350等を一体的に上下動(昇降動作)させる役割を担う。
【0068】
具体的には、各々の昇降モーター37は、上述した外装部31内のフレーム(図示せず)に固定されており、昇降モーター37の軸にはギアボックス37bが取り付けられ、ギアボックス37bから突出する回転軸37cの一部が柱36にねじ込まれている。ここで、回転軸37cには雄ネジが形成されており、柱36には雌ネジが形成されている。なお、理解を容易にするため、図2ではギアボックス37bの図示を省略している。
【0069】
そして、昇降モーター37が正方向に回転駆動されると、かかる昇降モーター37の駆動力が回転軸37cに伝達され、回転軸37cが所定方向(例えば平面時計方向)に回転することによって、柱36およびキャリッジ筐体34等が一体的に上昇する。
【0070】
この後、昇降モーター37が逆方向に回転駆動されると、同様に回転軸37cが逆方向(例えば平面反時計方向)に回転することによって、柱36およびキャリッジ筐体34等が一体的に下降する。
【0071】
かかる昇降動作の際に、キャリッジ筐体34の側部34bに固定された複数(この例では4×2=合計8個)の受け部34gがリニアガイド33にガイドされながらスライド移動(昇降)することで、側部34bひいてはキャリッジ筐体34全体の姿勢が保たれる。
【0072】
本実施の形態では、キャリッジ筐体34等を昇降させるための種々の部品、具体的には、外装部31側の昇降モーター37、ギアボックス37b、回転軸37c、リニアガイド33、キャリッジ筐体34側の柱36、受け部34gは、本発明の「昇降部」として機能する。
【0073】
図1および図2に示すように、保湿桶39は、矩形の平面形状を有し、搬送ベルト23の上方かつ画像形成部3の下方に配置される。保湿桶39は、所定の液体(例えば水)を収容し、収容された液体を蒸発させることによって、不使用時における各々のインクジェットヘッド30のインク吐出面(ノズル)を加湿して、ノズルの目詰まり等を防止する役割を担う。
【0074】
また、本実施の形態において、保湿桶39は、印字ユニット35A(第1のインクジェットヘッド群)または印字ユニット35B(第2のインクジェットヘッド群)のノズルを、キャリッジ筐体34から移動する前および移動した後に加湿する役割を担っている。なお、保湿桶39は本発明の「加湿部」に対応するものであり、より詳細な構成については後述する。
【0075】
図3は、印刷ジョブの実行前に、図1に示す状態から保湿桶39を下流側に引き出している途中の状態を示している。この後、制御部の制御の下、上述した昇降モーター37が駆動されてキャリッジ筐体34の高さが幾分下げられることにより(図3中に示す白抜き矢印を参照)、インクジェットヘッド30のインク吐出口と搬送ベルト23との隙間(距離)が予め定められた距離に接近する。
【0076】
かくして、印刷時には、制御部の制御の下、搬送ベルト23の回転駆動(記録媒体の搬送制御)、入力画像データに基づくインクジェットヘッド30の駆動(回路基板38の駆動信号を通じたV~Wインクの吐出制御)等が行われることで、所定速度で搬送される記録媒体に対してフルカラーの画像を形成することができる。
【0077】
ところで、上述のように、近年のインクジェット画像形成装置は、機械全体が大型化しており、かかる大型化に伴って、メンテナンス作業を行う作業者の負担が益々大きくなっている。
【0078】
特に、本実施の形態のような産業用かつシングルパス方式のインクジェット画像形成装置1では、多色用かつ色毎に、インクジェットヘッド30が搬送方向かつ幅方向に多数配列されており、これらのインク吐出口のメンテナンス(点検、清掃等)を行うだけでも多大な労力を要する。
【0079】
この点に関し、上述した特許文献1に記載の技術では、作業者の手作業によるメンテナンス時の利便性が考慮されていない。
【0080】
具体的には、特許文献1に記載の技術は、メンテナンス時に、全てのインクジェットヘッドをキャリッジ筐体と一緒に移動させる構成である。このため、例えばインクジェットヘッドの搭載数やキャリッジ筐体の構成(形状、重量等)によっては、作業員が窮屈な姿勢を強いられるなど、作業性が悪くなる。
【0081】
総じて、特許文献1に記載の技術は、スキャン方式とシングルパス方式とで共通に適用できる構成、単色印刷方式とカラー印刷方式の両方に適用できる構成を前提としており、カラー印刷を行うシングルパス方式のインクジェット画像形成装置における上記の課題に対応できない。
【0082】
また、従来、カラー印刷を行うシングルパス方式のインクジェット画像形成装置では、メンテナンス時に一度に出し入れ可能なヘッドが色毎である機種が一般的であった。このため、搭載されるインクの色数の増化に伴って、作業者の手作業によるメンテナンスの作業性が悪くなる問題があり、さらには以下のような問題もあった。
【0083】
すなわち、カラー印刷を行う上記のような機種では、作業者によるヘッドの出し入れ作業時における力の入れ具合、あるいは装置の耐久や機械的誤差などにより、ヘッドの位置が色毎に微少にずれやすくなり、結果として、色毎の位置ずれなど画像品質の低下が発生する問題があった。
【0084】
上記の問題に鑑みると、メンテナンスの際に、複数の色のインクを吐出する複数のヘッドを一度に出し入れできる構成とすることが望ましいと考えられる。
【0085】
加えて、従来の産業用のインクジェット画像形成装置における多くの機種では、複数のヘッドを出し入れする機構に関し、単純に水平方向(搬送方向と直交する幅方向)に出し入れする構成に留まっていた。このため、作業員Lがインク吐出面の点検や清掃等を行う際に、しゃがみ込む或いは仰向けに寝そべる等の窮屈な姿勢を強いられ、作業性が悪くなる等の問題もあった。
【0086】
上述のような種々の問題点に鑑みて、本実施の形態におけるインクジェット画像形成装置1では、メンテナンス時に、異なる色のインクを吐出する複数のインクジェットヘッド30を、キャリッジ筐体34から一体的に移動させるように案内する「案内部」を設けることとした。
【0087】
上記のような「案内部」を設けることにより、複数の色のインクを吐出する複数のインクジェットヘッド30を一度に出し入れできるので、メンテナンス時における作業員Lの負担を大幅に減らすことができ、作業性の向上を図ることができる。また、上述した色毎の位置ずれの問題を防止ないし大幅に抑制することができる。
【0088】
本実施の形態の「案内部」は、複数の色のインクを吐出する複数のインクジェットヘッド30を、キャリッジ筐体34から水平方向に移動可能に案内する構成とする。
【0089】
図示の例では、複数の色のインクを吐出する複数のインクジェットヘッド30が搭載された基台350を、キャリッジ筐体34から水平方向に移動(出し入れ)できるように案内する構成とした。
【0090】
かかる構成によれば、キャリッジ筐体34から基台350を水平方向に移動させることで、複数色のインクを吐出する複数のインクジェットヘッド30を一度に出し入れできるので、メンテナンス時の作業性の向上を図ることができる。
【0091】
さらに、本実施の形態によれば、上述した「昇降部」により、キャリッジ筐体34の高さを調整することができる。かかる構成によれば、複数色のインクを吐出する複数のインクジェットヘッド30の出し入れを、作業内容等に応じた複数の高さ位置で行うことができるので、作業時の作業員Lの姿勢の自由度を確保することができ、メンテナンス時の作業性の向上を図ることができる。
【0092】
他の側面からは、本発明における「案内部」は、キャリッジ筐体34の高さに応じて、基台350を異なる引き出し量で引き出せるような構成とすることが望ましい。かかる構成の具体例については後述する。
【0093】
以下は、上述した「昇降部」との区別を明確にするため、本発明における「案内部」を「引出部」と言い換えて説明する。
【0094】
本実施の形態では、「引出部」による基台350の出し入れの方向(図5中の両矢印を参照)は、記録媒体の搬送方向に沿った方向(すなわち同一方向および逆方向)とする。
【0095】
言い換えると、「引出部」は、複数色のインクを吐出する複数のインクジェットヘッド30を、出し入れ可能に支持するとともに、搬送方向に沿った方向に引き出せるように案内する役割を担う。
【0096】
かかる構成とすることにより、インクジェットヘッド30の出し入れを(搬送方向と直交する)幅方向で行う従来機種で確保する必要があった余剰スペースが、最小化される或いは不必要となる。また、本実施の形態のインクジェット画像形成装置1を工場等に複数台設置(並設)する場合、従来よりも多くの台数を設置することができる。
【0097】
一方、インクジェット画像形成装置1に搭載される全て(この例では64個)のインクジェットヘッド30を一度に出し入れ可能な構成とした場合、搭載されるインクジェットヘッド30の総数等、装置の規模によっては、却って作業性が悪くなるおそれがある。
【0098】
また、インクジェット画像形成装置1に搭載される全てのインクジェットヘッド30を一度に出し入れ可能な構成とした場合、当該インクジェットヘッド30等の重量によっては、引き出された際の支持側(この例ではキャリッジ筐体34)の荷重が過大化する問題がある。言い換えると、全てのインクジェットヘッド30を一度に出し入れ可能な構成を採用する場合、インクジェットヘッド30等を出し入れ可能に支持するキャリッジ筐体34等の支持構造を相当に頑強にする必要があるため、コスト増や装置全体の大型化を招く問題がある。
【0099】
上記のような課題に鑑みて、本実施の形態における引出部(案内部)は、インクジェット画像形成装置1に搭載される全てのインクジェットヘッドを一度に出し入れするのではなく、複数のインクジェットヘッド30を有する第1のインクジェットヘッド群を搬送方向の上流側に引き出し可能に案内し、複数のインクジェットヘッド30を有する第2のインクジェットヘッド群を搬送方向の下流側に引き出し可能に案内する。
【0100】
具体的には、本実施の形態では、「第1の引出部(案内部)」および「第2の引出部(案内部)」の2つ(いわば別個の島)を設ける構成を採用した。
【0101】
この例では、「第1の引出部」に割り当てられた複数のインクジェットヘッド30を搭載する基台350と、「第2の引出部」に割り当てられた複数のインクジェットヘッド30を搭載する基台350とが、搬送方向の上流側と下流側とに分かれる(離別する)ように別個に引き出し可能な構成とした。
【0102】
図示の例では、上流側の印字ユニット35Aの基台350が「第1の基台」に対応し、印字ユニット35Aの下流側に配置される印字ユニット35Bの基台350が「第2の基台」に対応する。
【0103】
かかる構成とすることにより、上流側の基台350(印字ユニット35A)と下流側の基台350(印字ユニット35B)とが対応する各々の引出部(案内部)によって別々に出し入れされる。この結果、メンテナンス時における作業性の確保と、「引出部」の構成の簡素化ないし低コスト化の両立を図ることができる。
【0104】
次に、図を参照して、印字ユニット35Aおよび35Bの出し入れ作業の概要等について説明する。
【0105】
本実施の形態では、メンテナンスの実行時には、図1に示す状態から保湿桶39を移動させずに、保湿桶39による保湿能力を享受できる範囲内で、印字ユニット(35A,35B)をキャリッジ筐体34から出し入れすることができる。この出し入れ作業の概要を、図5図7を参照して説明する。
【0106】
ここで、図5は、図1に示す状態から作業員Lが下流側の印字ユニット35Bに対するメンテナンス作業(ヘッドの交換等)を行う様子を示す図である。また、図6は、図5の状態におけるインクジェット画像形成装置1の平面図である。
【0107】
さらに、図7は、図1に示す状態から作業員Lが上流側の印字ユニット35Aに対するメンテナンス作業(ヘッドの交換等)を行う様子を示す図である。
【0108】
図7および図5に参照されるように、本実施の形態によれば、作業員Lは、キャットウォーク4または5上に搭乗し、上半身を骨格部32に寄せた姿勢で腕を伸ばすことにより、奥側(この例ではBインクまたはKインク)のインクジェットヘッド30の交換作業を行うことができる。
【0109】
したがって、本実施の形態によれば、作業員Lは、いずれのインクジェットヘッド30を交換する場合でも、交換作業を容易に行うことができ、メンテナンス性の向上を図ることができる。
【0110】
また、本実施の形態では、搬送方向において保湿桶39内の液体が蒸発する端部、言い換えると搬送方向における保湿桶39(加湿部)による加湿能力の範囲は、通常時(画像形成時)における基台350の端部よりも外側に位置している。
【0111】
言い換えると、保湿桶39は、キャリッジ筐体34に対する基台350の引き出し量が所定範囲内(保湿桶39の端部まで)である場合、当該基台350に搭載された全てのインクジェットヘッド30のインク吐出面を加湿できるような大きさ(平面形状)を有する。
【0112】
したがって、本実施の形態によれば、図5および図7に示すように、インクジェットヘッド30の交換等のために基台350が引き出された場合でも、保湿桶39から蒸発される液体(水等)によって、各々のインクジェットヘッドのノズル面を保湿することができる。
【0113】
次に、図4を参照して、印字ユニット35Aおよび35B(第1および第2のインクジェットヘッド群)を搬送方向に沿ってキャリッジ筐体34から一体的に移動させるように案内する「引出部(案内部)」の具体的な構成例について説明する。
【0114】
なお、図4では、印字ユニット35B側の構成の一部を抽出して示しているが、印字ユニット35A側(上流側)についても同様の構成であるため、図示および説明を省略する。
【0115】
図4に示すように、キャリッジ筐体34の上述した底部34aにおける内方面(より詳細には搬送方向と平行かつ基台350と対抗する面)には、搬送方向に沿ってスライドレール341が備えられている。
【0116】
簡明のため、図4では下流側の印字ユニット35Bの幅方向の一端側の端部に対応位置するスライドレール341を示しているが、キャリッジ筐体34の底部34aの他端側にも同一のスライドレール341が設けられている。
【0117】
このスライドレール341は、「引出部」すなわち本発明の「案内部」に対応する部材であり、印字ユニット35Aと印字ユニット35Bとを別々に案内(出し入れ)できるように、各々2個ずつ、合計4個備えられている(図9を参照)。
【0118】
一具体例では、スライドレール341は、基台350の幅方向における端部を下から支持することにより、インクジェットヘッド30が搭載された基台350を搬送方向(図5等に両矢印で示す上流側および下流側、以下同じ)にスライド移動可能に保持する。
【0119】
他の例では、スライドレール341は、基台350の幅方向における端部を上下から挟むことにより、インクジェットヘッド30が搭載された基台350を搬送方向にスライド移動可能に保持する。
【0120】
さらに他の例では、基台350の幅方向における2つの側面に、スライドレール341に対して移動可能に契合する契合部材を設ける構成としてもよい(図9を参照)。
【0121】
なお、引出部(すなわち本発明の「案内部」)は、上述した構成に限られず、他にも様々な構成を採用することができる。
【0122】
さらに、本実施の形態では、インクジェットヘッド30に関するメンテナンスの作業内容に応じて、印字ユニット35Aおよび35Bを、上下方向における2カ所で引き出せるようになっている。
【0123】
かかる2カ所の引き出し位置(作業員Lが手作業でメンテナンスを行う際の「メンテナンス位置」)におけるインクジェットヘッド30の高さ位置は、画像形成位置すなわち印刷ジョブ実行時に設定(固定)されるインクジェットヘッド30の高さ位置(図3中の白抜き矢印を参照)とは異なる位置に設定される。
【0124】
具体的には、図5および図7に示すように、画像形成位置よりも若干高い高さ位置、具体的には保湿桶39のサイズおよび保湿性を考慮した高さ位置(以下「第1位置」という)が、作業員Lがインクジェットヘッド30等の交換作業を行う位置に対応する。
【0125】
また、図8に示す高さ位置、すなわち図5および図7に示す第1位置よりも高い「第2位置」は、作業員Lがインクジェットヘッド30のノズル面の点検や清掃等を行う位置に対応する。
【0126】
本実施の形態では、作業員Lによりインクジェットヘッド30またはその付属物(インクチューブ344など)の交換がなされる場合、画像形成位置に近い(直ぐ上の)第1位置において、印字ユニット35A(35B)の引き出し作業が行われる(図5および図7を参照)。
【0127】
この際、交換対象となるインクジェットヘッド30が作業員Lの手の届く程度に基台350が引き出されれば足りる。このため、第1位置では、印字ユニット35A(35B)は、保湿桶39上すなわち保湿桶39の保湿能力の範囲内で出し入れすれば足りる。
【0128】
したがって、インクジェットヘッド30が交換される際に、全てのインクジェットヘッド30のインク吐出面(ノズル)が保湿桶39内の液体(この例では水)によって加湿されるため、当該メンテナンス作業後に速やかに印字動作に移行することができる。
【0129】
簡明のため、第1位置は、予め定められた固定位置(図5または図7に示す高さ位置)であることを前提とする。一方で、第1位置(高さ位置)は、作業員Lの腕の長さ等に応じて微調整できるようにしてもよい。但し、第1位置は、基台350を引き出した際にインクジェットヘッド30が骨格部32等に干渉しない高さにすべきである。
【0130】
一方、作業員Lがインクジェットヘッド30のノズル(インク吐出面)の点検や清掃を行う場合、上記の第1位置よりも高い第2位置において、印字ユニット35A(35B)の引き出し作業が行われる(図8を参照)。
【0131】
この際、基台350に搭載された全てのインクジェットヘッド30のノズル(インク吐出面)の点検や手作業での清掃を行うためには、作業員Lは、キャリッジ筐体34から、基台350の大部分、最終的には基台350のほぼ全てを引き出す必要がある。
【0132】
図8では、作業員Lが複数色(K,M,CおよびW色)用の複数(32個)のインクジェットヘッド30が搭載されている基台350の全てをキャリッジ筐体34から引き出して、外装部31からも露出させた状態で、各々のノズル等を点検している場面を示している。
【0133】
このとき、作業員Lは、異なる色(K,M,CおよびW色)のインクを吐出するインクジェットヘッド30および基台350等の総重量を支える必要があるが、このときの作業員Lの作業労力は、従来機の場合と比較して格段に楽になる。
【0134】
すなわち、本実施の形態によれば、キャリッジ筐体34を外装部31内に残存させたまま、上述したスライドレール341の案内(ガイド移動)により必要最低限の部品だけ出し入れすることができるので、作業員Lの重量面での負荷が大幅に軽減され、作業性が向上する。
【0135】
なお、作業員Lによる作業性向上の観点からは、第2位置は、作業員Lが基台350の引き出し作業およびインクジェットヘッド30のインク吐出面の清掃作業等をしやすい高さに設定されることが望ましい。
【0136】
簡明のため、第2位置は、予め定められた固定位置(図8に示す高さ位置)であることを前提とする。一方で、第2位置(高さ位置)は、作業員Lの身長や腕の長さ等に応じて微調整できるようにしてもよい。但し、第2位置は、キャリッジ筐体34(側部34bなど)が外装部31に干渉しない高さにすべきである。
【0137】
また、図8に示すように、作業員Lが基台350の全てをキャリッジ筐体34から引き出す場合があり得ることを考慮すると、外装部31の内方面にも、上述したスライドレール341と同様の機能を有する支持部を設けてもよい。かかる支持部を設けることにより、作業員Lが基台350を支持するために必要となる労力(腕や足腰に掛かる負担など)が一層軽減される。
【0138】
なお、インクジェットヘッド30のノズル(インク吐出面)の清掃時には、加湿された布(図示せず)等によりインク吐出面が拭かれることによって、適宜ノズルを加湿することができる。したがって、第2位置を保湿桶39から離れた位置に設定しても、特に問題はない。
【0139】
かくして、本実施の形態では、キャリッジ筐体34および多数(複数色分)のヘッドが搭載された基台350を、メンテナンスの作業内容(目的)に応じて第1位置/第2位置という2段階の高さ位置に切り変え可能とし、かつ、各々の高さ位置で複数色分のインクジェットヘッド30を引き出せるように構成した。
【0140】
かかる構成とすることにより、作業員Lは、低い位置すなわち保湿桶39に近い第1位置ではヘッド等の部品交換を行いながらノズル面の乾燥を防止することができ、一方、より高い第2位置では、より楽な姿勢でノズル面の清掃等の作業を行うことができる。
【0141】
そして、キャリッジ筐体34を外装部31内に残存させたまま、上述したスライドレール341の案内(ガイド移動)により必要最低限の部品だけ出し入れできるようにした本実施の形態によれば、いずれの高さ位置においても、作業員Lの重量面での負荷が大幅に軽減され、作業性が向上する。
【0142】
また、本実施の形態によれば、上述した第1位置および第2位置のいずれの高さ位置においても、スライドレール341の案内(ガイド移動)により、回路基板38から遠ざかる方向に、インクジェットヘッド30(複数色のインク吐出部)が引き出される(図6等を参照)。
【0143】
言い換えると、本実施の形態のキャリッジ筐体34は、インクジェットヘッド群がスライドレール341によって案内(出し入れ)される前後において、当該インクジェットヘッド群を駆動するための回路基板38(インクジェットヘッドヘッド駆動部)を保持する。
【0144】
かくして、本実施の形態では、インクジェットヘッド群がキャリッジ筐体34から引き出された場合でも、通常はメンテナンス(部品点検等)が要求されない回路基板38はキャリッジ筐体34内に残存するため、作業員Lは、当該インクジェットヘッド群の点検等に専念することができる。
【0145】
また、本実施の形態では、スライドレール341により下方側(第1位置)でインクジェットヘッド30(複数色のインク吐出部)が引き出された状態(図4図6を参照)において、各々のインク吐出部を保湿することが可能な保湿桶39(保湿部)を備える。
【0146】
かかる構成により、下方側(第1位置)では、一番奥のインクジェットヘッド30(図4の事例ではK色のインクを吐出するヘッド)およびそのヘッドケーブル343やインクチューブ344等に作業者の手が届き、かつ、一番手前のインクジェットヘッド30(Wインクを吐出するヘッド)のノズル面にも保湿桶39の湿気(蒸気)を供給することができる。
【0147】
さらに、本実施の形態では、図4で説明したように、キャリッジ筐体34の搬送方向における中央の領域が梁34c(支持部)で支持されている。
【0148】
かかる構造によれば、例えば印字ユニット35Aおよび35Bの一方が引き出されてキャリッジ筐体34の中央に掛かる荷重(応力)が変動した場合でも、当該荷重(応力)を梁34cで吸収することでキャリッジ筐体34全体の剛性(変形防止)を確保することができる。
【0149】
さらに、本実施の形態では、印字ユニット35A(35B)をキャリッジ筐体34に格納した状態において、これら印字ユニット35A(35B)をキャリッジ筐体34に完全に固定(ロック)するために、言い換えると案内部による案内を禁止するために、ロック機構を備える構成とした。
【0150】
ロック機構の一具体例としては、図4に示すように、ハンドル348hおよびクランプ348rを備えたトグルクランプ348と、トグルクランプ348によって固定される被クランプ部350aとを備える。
【0151】
図4に示す例では、トグルクランプ348がキャリッジ筐体34側(梁34c)に配置され、被クランプ部350aが基台350側に配置(ネジ等で固着)されているが、図9で後述するように、この逆の配置であってもよい。
【0152】
すなわち、いずれの配置であっても、インクジェットヘッド群が搭載された基台350をキャリッジ筐体34に固定する(インクジェットヘッド群のキャリッジ筐体34に対する移動を阻止する)ロック状態とすることができる。
【0153】
図4に示す例では、トグルクランプ348のハンドル348hを矢印B方向すなわち梁34cに接近させる方向に回転させた場合、梃の原理によってクランプ348rが矢印C方向すなわち反対方向に回転する。
【0154】
一方、インクジェットヘッド30が搭載された基台350は、図4に示す状態からスライドレール341に組み付けて、キャリッジ筐体34における底部34aの対抗面に突き当てられることにより、キャリッジ筐体34に完全に収容(収納)される。
【0155】
かかる収納状態において、トグルクランプ348のハンドル348hを矢印B方向に回転させることにより、クランプ348rが矢印C方向に回転して被クランプ部350aに契合し、以後は、キャリッジ筐体34に対する基台350の移動が物理的に阻止されるロック状態となる。
【0156】
このように、キャリッジ筐体34に収納された基台350をキャリッジ筐体34に固定することによってスライドレール341(案内部)をロックするロック機構(ロック部)を備えた本実施の形態によれば、多くのインクジェットヘッド30等が一度に移動することに起因して発生し得る、作業員Lの怪我あるいは部品の破損等を未然に防止することができる。
【0157】
本実施の形態では、制御部は、印字ユニット35A側および印字ユニット35B側の両方がロック状態であるか否かを判定し、かかる判定結果がYESである場合に、キャリッジ筐体34の昇降動作を許可する制御を行う。
【0158】
より具体的には、制御部は、作業員Lによりキャリッジ筐体34を上昇または下降させるためのスイッチ(図示せず)が押された場合、直ちに昇降モーター37を駆動するのではなく、まず、全て(この例では4つ)のトグルクランプ348がロック状態になっているか否かを判定する。
【0159】
一具体例では、この判定は、例えばキャリッジ筐体34の底部34a上に、対応するトグルクランプ348のハンドル348hの位置を検知するセンサー、例えば公知の近接センサーを各々設け、かかる近接センサーの検知結果に基づいて行うことができる。
【0160】
上記の近接センサーは、本発明の「ロック検知部」に対応する。
【0161】
そして、制御部は、全て(4つ)のトグルクランプ348がロック状態になっている(近接センサーによってロック状態が検知されている)と判定した場合、昇降動作を許可し、昇降モーター37を駆動してキャリッジ筐体34を上昇または下降させる。
【0162】
一方、制御部は、いずれか一つ以上のトグルクランプ348がロック状態になっていないと判定した場合、昇降モーター37を駆動せず、作業員Lに向けて、その旨および全てのトグルクランプ348をロック状態にすべき旨の警告を表示する。
【0163】
かかる構成とすることにより、例えば作業員Lの不注意等によりロックをし忘れたような場合であっても、キャリッジ筐体34の昇降動作中に印字ユニット35A(または35B)が搬送方向に移動することに起因する種々のトラブルを未然に防止することができる。なお、この場合のトラブルとしては、作業員Lが怪我をする或いは印字ユニット35A(35B)が骨格部32にぶつかって破損すること、などである。
【0164】
また、制御部は、上記の昇降動作を許可した後にいずれかのトグルクランプ348のロックの解除が検出された場合、昇降モーター37の駆動を止めて昇降動作(すなわちインクジェットヘッド群の高さ位置の変更)を緊急的に停止する制御を行うようにする。
【0165】
かかる構成とすることにより、上記の昇降動作中に万が一トグルクランプ348によるロックが外れたような場合でも、昇降モーター37および昇降動作が停止することにより、昇降モーター37の回転等に起因する振動等がキャリッジ筐体34に伝達されなくなる。したがって、かかる昇降動作を停止させることにより、印字ユニット35A(または35B)が搬送方向に移動することを防止することができる。
【0166】
次に、図9を参照して、上述した実施の形態に対する付加的または代替的な構成について説明する。
【0167】
図9に示す例では、印字ユニット35A(35B)における各々の基台350に、作業員Lが把持するための「U」字状のハンドル355,356が設けられている。このうち、ハンドル355は、印字ユニット35Aの基台350には上流側を臨む側面に設けられ、印字ユニット35Bの基台350には下流側を臨む側面に設けられている。
【0168】
一方、ハンドル356は、インクジェットヘッド30が搭載される基台350の上面における略中央の二つのインクジェットヘッド30(図9に示す例では、YヘッドとOヘッドとの間、およびCヘッドとMヘッドとの間)の隙間の領域に設けられている。
【0169】
かかるハンドル356は、基台350上のインクジェットヘッド30を交換する際に、当該インクジェットヘッド30に干渉せず、さらには交換作業の邪魔にならないような位置に配置されることが望ましい。
【0170】
かかる構成とすることにより、作業員Lは、基台350を搬送方向に移動させる作業を行う際に、ハンドル355またはハンドル356を握って行うことができるので、かかる作業の際の利便性が向上する。
【0171】
また、上記のようなハンドル355,356を設けることにより、基台350を搬送方向に移動させる際に、作業員Lがいずれかのインクジェットヘッド30に触れてしまい当該ヘッドのノズルの位置や吐出角度が僅かにずれる等の不具合を防止することができる。
【0172】
また、図9に示す例では、上述したトグルクランプ348が基台350側に設けられ、上述した被クランプ部350aに相当する突起がキャリッジ筐体34側(底部34a)に設けられた態様を模式的に示している。この場合、上述した近接センサーは、基台350上に設けることができ、あるいはキャリッジ筐体34(底部34a)に設けてもよい。
【0173】
さらに、図9に示す例では、基台350におけるキャリッジ筐体34(底部34a)と突き当たる側の側面に位置決めピン359を設け、対応する底部34aの位置(この例では幅方向の略中央)に、かかる位置決めピン359がはめ込まれる位置決め穴349を設けている。
【0174】
この場合、位置決めピン359と位置決め穴349との嵌合時における摩擦等の作用により、トグルクランプ348のロックが解除された場合であっても、昇降動作中に基台350がキャリッジ筐体34から直ちに移動する等の不慮の事態を防止することができる。
【0175】
上述のように、本実施の形態では、複数色のインクを吐出する多数のインクジェットヘッド30を、印字ユニット35Aおよび印字ユニット35Bの2つの島に纏めて、各々がキャリッジ筐体34に対して搬送方向に出し入れできる構成を設けた。
【0176】
このため、本実施の形態によれば、従来技術で問題となっていた、印字ユニットの出し入れに伴って色毎の画像形成位置の微少な位置ずれ(誤差)が生じる不具合を最小限に抑えることができる。
【0177】
より詳細には、本実施の形態で採用した構成であっても、例えば耐久や温湿度の変化等によりキャリッジ筐体34や基台350の形状が僅かに歪む等によって、画像形成位置(インク吐出位置)の微少な位置ずれ(誤差)が発生し得る。
【0178】
一方で、本実施の形態では、仮に画像形成位置(インク吐出位置)の位置ずれ(ノズルの位置の誤差)が発生した場合でも、4色分(図4の例ではK,M,C,およびW色)のヘッドの位置ずれ(誤差)の値がほぼ同一になる。したがって、本実施の形態のインクジェット画像形成装置1では、インクジェットヘッド群のノズル位置のずれを補正する制御を容易に行うことができる。
【0179】
一具体例では、インク吐出位置のずれ(インクジェットヘッド群のノズル位置の誤差)を検知するために、公知のリニアエンコーダー(磁気スケールおよび磁気検出ヘッド)を用いる。具体的には、基台350上に磁気スケールを配置し、キャリッジ筐体34側に磁気検出ヘッドを配置する、あるいはこの逆の配置であってもよい。
【0180】
そして、制御部は、印刷ジョブの実行時に、リニアエンコーダー(磁気検出ヘッド)による検知結果に基づいて、インクジェットヘッド30(インク吐出位置)の基準位置からのずれ量を特定し、特定されたずれ量に応じてインクジェットヘッド30からインクが吐出されるタイミング(吐出タイミング)を補正する制御をヘッド毎に行う。
【0181】
このとき、上述のように、4色分(印字ユニット35AではV,Y,O,およびB色、同35BではK,M,C,およびW色)のヘッドの位置ずれ(誤差)の値がほぼ同一であるため、制御部は、吐出タイミングの補正値を印字ユニット35A(35B)内の各ヘッドに対して同一に設定すればよい。
【0182】
次に、図10のフローチャートを参照して、上述したロック部(トグルクランプ348)によるロック状態に関連して制御部が実行する制御について説明する。
【0183】
制御部は、ステップS100で、作業員Lのスイッチ操作によるキャリッジ筐体34(印字ユニット35A,35Bの全体)の移動指示(この例では上昇指示)を検知した後に、ステップS120に移行する。
【0184】
ステップS120において、制御部は、印字ユニット35Aおよび35B内の各々の近接センサーの出力信号を取得してステップS140に移行する。
【0185】
ステップS140において、制御部は、取得された出力信号から、全てのトグルクランプ348(ロック部)がロック状態になっているか否かを判定する。
【0186】
ここで、制御部は、全てのトグルクランプ348がロック状態になっていると判定した場合(ステップS140、YES)、上述した引出部(案内部)がロックされているものと判断して、上述した昇降部によるキャリッジ筐体34の高さ変更動作を行うべく、ステップS160に移行する。
【0187】
一方、制御部は、いずれかのトグルクランプ348がロック状態になっていないと判定した場合(ステップS140、NO)、その旨の警告を出力(表示部に表示)して、ステップS140でYESと判定されるまで、ステップS140の判定を繰り返す。
【0188】
全てのトグルクランプ348がロック状態になっていると判定した後のステップS160において、制御部は、上述した2つの昇降モーター37を駆動制御して、印字ユニット35A,35Bが収容されたキャリッジ筐体34全体の上昇を開始させる。
【0189】
続くステップS180において、制御部は、昇降モーター37のトルクおよび各々の近接センサーの出力信号を監視して、キャリッジ筐体34の上昇完了前に、いずれかのトグルクランプ348のロック状態が解除されたか否かを判定する。
【0190】
ここで、制御部は、いずれのトグルクランプ348のロック状態も解除されずにキャリッジ筐体34の上昇が完了したと判定した場合(ステップS180、NO)、異常なしと判断して一連の処理を終了する。
【0191】
一方、制御部は、上昇完了前に、いずれかのトグルクランプ348のロック状態が解除されたと判定した場合(ステップS180、YES)、引出部(案内部)のロックが解除されたため不具合発生のおそれありと判断して、各々の昇降モーター37を緊急的に停止させる(ステップS200)。このとき、制御部は、ロック状態が解除されたために上昇を停止させた旨の警告を出力(表示部に表示)する。
【0192】
上記のような制御を行う本実施の形態のインクジェット画像形成装置1によれば、作業員Lの安全を確保するとともに、故障や部品の落下等の事故の発生を未然に防止することができる。
【0193】
なお、上述した実施の形態では、キャリッジ筐体34から印字ユニット35A,35Bを出し入れする作業を作業員Lが手作業で行う例を説明したが、これに限られない。
【0194】
すなわち、キャリッジ筐体34から印字ユニット35A(35B)を自動または半自動で出し入れできる構成としてもよい。
【0195】
この場合の構成例としては、キャリッジ筐体34側または基台350に図示しないアクチュエーターを配置し、作業員Lが図示しないスイッチを操作して、水平移動指示(取出し又は収容の指示)を制御部に入力する。制御部は、かかる水平移動指示の内容に従った移動動作を行うように上記のアクチュエーターを制御して、キャリッジ筐体34に対して印字ユニット35A(35B)を移動させる。
【0196】
このとき、制御部は、キャリッジ筐体34(インクジェットヘッド30)の高さ位置に応じた移動量で、水平移動指示の対象となる印字ユニット35A(35B)を水平方向(搬送方向)に移動させる制御を行う。
【0197】
一具体例では、制御部は、キャリッジ筐体34が上述した第1位置(図5等を参照)にある場合、保湿桶39によるインク吐出面の加湿が可能な範囲内で、水平移動指示対象となる印字ユニット35A(35B)を移動させる。
【0198】
一方、制御部は、キャリッジ筐体34が上述した第2位置(図8を参照)にある場合、水平移動指示対象となる印字ユニット35A(35B)を、第1位置の場合よりも長い距離(例えば予め定められた設定距離)だけ移動させる。
【0199】
なお、第2位置の場合、水平移動の設定距離によっては、作業員Lが不在の場合に印字ユニット35A(35B)がキャリッジ筐体34から落下するおそれがある。したがって第2位置の場合、水平移動の設定距離は、上記の落下のおそれがない程度の距離とし、その後の印字ユニット35A(35B)の引き出し作業を作業員Lが手作業で行うようにする(すなわち半自動とする)とよい。
【0200】
上記のような構成とすることにより、キャリッジ筐体34ひいてはインクジェットヘッド30の高さ位置に応じた好適な移動量(スライドレール341による異なる案内量)で、印字ユニット35A(35B)を自動的に搬送方向に移動させることができる。
【0201】
以上、詳細に説明したように、本実施の形態のインクジェット画像形成装置1では、キャリッジ筐体34とともに静止した状態でノズルからインクを吐出することにより、搬送中の記録媒体に画像を形成するシングルパス方式のインクジェットヘッド30と、メンテナンス時に、異なる色のインクを吐出する複数のインクジェットヘッド30(印字ユニット35A,35B)がキャリッジ筐体34から一体的に移動するように案内する案内部(スライドレール341)とを備える。
【0202】
かかる構成により、作業員Lの手作業によるメンテナンスの作業性が向上し、かつ、かかる作業後の画像形成時における色毎の位置ずれ等の画質劣化を抑制することができる。したがって、本実施の形態によれば、インクジェットヘッド30に関するメンテナンス性の向上を図ることができる。
【0203】
上述した実施の形態および変形例は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の一例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその要旨、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【0204】
例えば、印字ユニット35Aおよび印字ユニット35Bのうちの一方の基台350に搭載されるインクジェットヘッド群で、一色のインクを吐出するように構成しても構わない。
【符号の説明】
【0205】
1 インクジェット画像形成装置
2 ベルト搬送装置
3 画像形成部
4,5 キャットウォーク
30 インクジェットヘッド(第1のインクジェットヘッド群、第2のインクジェットヘッド群)
31 外装部
32 骨格部
33 リニアガイド
34 キャリッジ筐体
34a 底部
34b 側部
34c 梁(支持部)
34g 受け部
35A 印字ユニット(第1のインクジェットヘッド群)
35B 印字ユニット(第2のインクジェットヘッド群)
36 柱
37 昇降モーター(昇降部)
37b ギアボックス
37c 回転軸
38 回路基板
39 保湿桶(加湿部)
341 スライドレール(案内部)
342 保護案内部
343 ヘッドケーブル
344 インクチューブ
345 配管
348 トグルクランプ(ロック部)
348h ハンドル
348r クランプ
349 位置決め穴
350 基台(第1の基台、第2の基台)
350a 被クランプ部
355,356 ハンドル
359 位置決めピン
L 作業員
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10