(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】滅菌方法及び滅菌装置
(51)【国際特許分類】
A61L 2/20 20060101AFI20240409BHJP
【FI】
A61L2/20 100
A61L2/20 106
(21)【出願番号】P 2020057990
(22)【出願日】2020-03-27
【審査請求日】2022-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000175272
【氏名又は名称】三浦工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】高橋 裕一
(72)【発明者】
【氏名】溝部 智之
【審査官】岡田 三恵
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-505797(JP,A)
【文献】特表2010-532198(JP,A)
【文献】特開2020-000924(JP,A)
【文献】特開2016-154835(JP,A)
【文献】特開2017-018267(JP,A)
【文献】国際公開第2005/094907(WO,A1)
【文献】特開2013-158704(JP,A)
【文献】特開2012-024385(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 2/20
A61L 2/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバーに収容された滅菌対象物を滅菌する方法であって、
前記チャンバーの内部を減圧する滅菌減圧工程と、
前記滅菌減圧工程における減圧下で行う滅菌工程と、を含み、
前記滅菌工程は、
前記チャンバーの内部に、過酸化水素の第1水溶液から生成された蒸気を注入する第1蒸気注入工程と、
前記第1蒸気注入工程の後に、前記チャンバーの内部にオゾンガスを注入するオゾン注入工程と、
前記オゾン注入工程の後に、前記チャンバーの内部に、過酸化水素の第2水溶液から生成された蒸気を注入する第2蒸気注入工程と、
を含み、
前記チャンバーに注入する、前記第2水溶液に含まれる過酸化水素の総量は、
前記チャンバーに注入する、前記第1水溶液に含まれる過酸化水素の総量以下であ
り、
前記滅菌減圧工程及び前記滅菌工程を必要回数繰り返し、
前記滅菌工程の後、エアーレーション工程を経て終了する、滅菌方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、滅菌方法及び滅菌装置に関する。
【背景技術】
【0002】
病院において手術や治療に使用される医療機器のうち再利用されるものには、血液やたんぱく質などの付着物を除去するために十分に洗浄された後、滅菌するための処理が施される。
【0003】
このような滅菌処理を行う方法として、より滅菌効率を向上させるために、滅菌ガスとして過酸化水素を主体とし、さらに別の気体を用いる滅菌方法がある。特許文献1は、滅菌対象物を収容したチャンバーの減圧後、過酸化水素水溶液の蒸気を注入して滅菌・保持し、その後、オゾンガスを注入して滅菌・保持する一連の工程を含む滅菌方法及び装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されている滅菌方法では、オゾンガスが注入された後は、滅菌・保持が行われるのみである。この場合、オゾンガスによる滅菌効果がさほど向上しないことが発明者による再現試験により明らかになった。したがって、複数の滅菌ガスを用いる滅菌方法及び装置において滅菌効率を向上させるためには、更なる改良の余地がある。その一方で、滅菌効率を向上させることのみに着目し、滅菌ガスの使用量を単に増やすのでは、滅菌装置の運転コストの上昇や環境への影響などの観点から望ましくない。
【0006】
そこで、本開示は、滅菌処理全体として、滅菌効率を向上させつつ、過酸化水素の使用量を低減させることが可能な滅菌方法及び滅菌装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の第1の態様に係る滅菌方法は、チャンバーに収容された滅菌対象物を滅菌する方法であって、チャンバーの内部に、過酸化水素の第1水溶液から生成された蒸気を注入する第1蒸気注入工程と、第1蒸気注入工程の後に、チャンバーの内部にオゾンガスを注入するオゾン注入工程と、オゾン注入工程の後に、チャンバーの内部に、過酸化水素の第2水溶液から生成された蒸気を注入する第2蒸気注入工程と、を含み、第2水溶液に含まれる過酸化水素の総量は、第1水溶液に含まれる過酸化水素の総量以下である。
【0008】
また、本開示の第2の態様に係る滅菌装置は、滅菌対象物を収容するチャンバーと、チャンバーと連通し、過酸化水素の第1水溶液、又は、過酸化水素の第2水溶液を蒸発かつ充てんさせる蒸発器と、チャンバーと連通し、オゾンガスを生成するオゾン発生器と、蒸発器で生成された蒸気、又は、オゾン発生器で生成されたオゾンガスのチャンバーの内部への注入動作を制御する制御部と、を備え、第2水溶液に含まれる過酸化水素の総量は、第1水溶液に含まれる過酸化水素の総量以下であり、制御部は、チャンバーの内部に、第1水溶液から生成された蒸気を注入した後にオゾンガスを注入させ、オゾンガスを注入した後に、第2水溶液から生成された蒸気を注入させて、前記滅菌対象物を滅菌させる。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、滅菌処理全体として、滅菌効率を向上させつつ、過酸化水素の使用量を低減させることが可能な滅菌方法及び滅菌装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の第1実施形態に係る滅菌装置の構成を示す概略図である。
【
図2】第1実施形態に係る滅菌方法の流れを示すフローチャートである。
【
図3】第1実施形態におけるチャンバー内部の圧力変化を示すグラフである。
【
図4】第1実施形態に係る滅菌装置が実施する各処理モードを示す表である。
【
図5】第1実施形態における滅菌工程の流れを示すフローチャートである。
【
図6】第2実施形態に係る滅菌方法の流れを示すフローチャートである。
【
図7】第2実施形態における滅菌処理試験での各種の条件を示す表である。
【
図8】
図7に示す条件で滅菌処理試験が行われた場合の結果を示す表である。
【
図9】比較例1の場合のチャンバー内部の圧力変化を示すグラフである。
【
図10】比較例2の場合のチャンバー内部の圧力変化を示すグラフである。
【
図11】実施例の場合のチャンバー内部の圧力変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の各実施形態について図面を参照して詳細に説明する。ここで、各実施形態に示す寸法、材料、その他、具体的な数値等は例示にすぎず、特に断る場合を除き、本開示を限定するものではない。また、実質的に同一の機能及び構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、本開示に直接関係のない要素については、図示を省略する。
【0012】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る滅菌装置100の構成を示す概略図である。滅菌装置100は、滅菌ガスで滅菌対象物を滅菌する。本実施形態で用いられる滅菌ガスを構成する物質は、主として過酸化水素(H
2O
2)及びオゾン(O
3)である。
【0013】
滅菌対象物としては、病院において手術や治療に使用され、血管系や無菌の組織に接するような医療機器が想定される。このような医療機器としては、例えば、鉗子や攝子、剪刃等の耐熱性の鋼製品、腹腔鏡手術用のステンレススチール製の硬性内視鏡、又は、気管支や泌尿器手術用の軟性内視鏡及びその付属品である電源ケーブルなどの非耐熱性の樹脂製品などがある。また、滅菌対象物は、滅菌後の再汚染を抑止するために、予め包装材に包装された状態で滅菌装置100のチャンバー11に収容されるものとする。包装材は、例えば不織布であり、網の目が細かいため、滅菌ガスは通すが、細菌類を通しづらい。不織布は、ポリエチレン等の樹脂を主体とするものであってもよい。このような包装材は、滅菌バッグや滅菌ラップと呼ばれる場合もある。
【0014】
滅菌装置100は、チャンバーユニット10と、過酸化水素供給ユニット20と、オゾン供給ユニット30と、排気ユニット40と、大気導入ユニット50と、制御ユニット60とを備える。
【0015】
チャンバーユニット10は、滅菌対象物を収容するチャンバー11とその周辺構成を含む。チャンバーユニット10は、扉12を含むチャンバー11と、第1ヒーター13と、第1圧力計14とを備える。
【0016】
チャンバー11は、滅菌対象物を内部に配置して収容可能な容器である。チャンバー11は、滅菌庫とも呼ばれる。チャンバー11は、ステンレススチール又はアルミニウム合金製であり、真空・減圧に耐えられる構造を有する。以下、一例として、チャンバー11の内部の容積は100Lであるものとする。扉12は、チャンバー11に対して開閉可能である。チャンバー11は、扉12が閉じられ、チャンバー11の内部が減圧されたときには、真空リークや滅菌ガスの漏れを抑えるために密閉される。
【0017】
第1ヒーター13は、チャンバー11の周囲に保温材とともに設置され、滅菌処理時のチャンバー11の内部の温度を一定に保持する。なお、チャンバー11の温度は、チャンバー11に設置された不図示の温度計で計測される。
【0018】
第1圧力計14は、チャンバー11に設置され、チャンバー11の内部の圧力を計測する真空計である。
【0019】
過酸化水素供給ユニット20は、滅菌処理時に、チャンバー11に過酸化水素の蒸気を供給する。過酸化水素供給ユニット20は、本実施形態では、2つの過酸化水素の水溶液からそれぞれ生成された蒸気を個別に供給可能である。以下、一方の過酸化水素の水溶液を「第1水溶液」と表記し、他方の過酸化水素の水溶液を「第2水溶液」と表記する。第1水溶液若しくは第2水溶液に含まれる過酸化水素の濃度、又は、第1水溶液若しくは第2水溶液に含まれる過酸化水素の総量は、以下で詳説するが、滅菌対象物の管腔の有無や滅菌対象物の材質に基づいて規定される。過酸化水素供給ユニット20は、ボトル21と、抽出配管22と、チューブポンプ23と、貯蔵部24と、蒸発器26と、第2ヒーター29とを備える。
【0020】
ボトル21は、過酸化水素の水溶液を収容する。ボトル21は、いわゆる使い捨てとして用いられるものについては、カートリッジとも呼ばれる。本実施形態では、2つの過酸化水素の水溶液が用いられるため、第1水溶液を収容した第1ボトル21aと、第2水溶液を収容した第2ボトル21bとが存在する。
【0021】
抽出配管22は、ボトル21から過酸化水素の水溶液を抽出し、抽出された水溶液を貯蔵部24まで供給する。本実施形態では、第1ボトル21aから第1水溶液を抽出する第1抽出配管22aと、第2ボトル21bから第2水溶液を抽出する第2抽出配管22bとが存在する。
【0022】
チューブポンプ23は、抽出配管22の途中に設置され、ボトル21から過酸化水素の水溶液を適量ずつ吸い出す。本実施形態では、第1抽出配管22aの途中に設置される第1チューブポンプ23aと、第2抽出配管22bの途中に設置される第2チューブポンプ23bとが存在する。また、抽出配管22には、不図示であるが、例えば光学式の液位センサーが設置されていてもよい。チューブポンプ23は、液位センサーが反応するまで過酸化水素の水溶液を汲み上げ、液位センサーが反応したら、一旦停止させてから既定の回転数だけ回転して、規定量を貯蔵部24に供給する。
【0023】
貯蔵部24は、抽出配管22に接続され、ボトル21から吸い上げた規定量の過酸化水素の水溶液を、蒸発器26に送る前に一旦貯留する。貯蔵部24としては、内部の液量が見える半透明のフッ素系樹脂チューブなどが採用可能である。チューブポンプ23は、大気圧下で駆動する方が定量を安定的に供給できるので、貯蔵部24は、大気圧となるように第1フィルター25を介して大気を導入してもよい。第1フィルター25は、例えばHEPAフィルターである。
【0024】
蒸発器26は、第1供給配管27を介して貯蔵部24と連通し、貯蔵部24から導入された過酸化水素の水溶液を蒸発させる。蒸発器26は、過酸化水素の腐食に耐えられるように例えばステンレススチール製であり、チャンバー11と同時に減圧されるため、真空・減圧に耐えられる構造を有する。
【0025】
第1供給配管27には、第1電磁弁70が設置されている。第1電磁弁70が開くと、貯蔵部24にある過酸化水素の水溶液は、減圧された蒸発器26に向けて吸い込まれる。このとき、貯蔵部24は、第1フィルター25を通して大気を導入し大気圧下となっているので、過酸化水素の水溶液とともに大気も吸い込まれる。これにより、貯蔵部24や第1供給配管27に残留している過酸化水素の水溶液も蒸発器26に吸い込まれるので、過酸化水素の蒸気は、定量かつ安定してチャンバー11の内部に送り込まれる。
【0026】
また、蒸発器26は、複数の注入配管28を介してチャンバー11と連通している。本実施形態では、天井部に互いに対角に設置された第1注入配管28aと第2注入配管28bとが存在する。第1注入配管28aには、第2電磁弁71が設置されており、第2注入配管28bには、第3電磁弁72が設置されている。蒸発器26において過酸化水素の水溶液が蒸発して蒸発器26の内部の圧力が高まったときに、第2電磁弁71又は第3電磁弁72を一定時間開けることで、過酸化水素の水溶液の蒸気がチャンバー11の内部に注入される。注入配管28は、このように複数設置されることで、チャンバー11の内部における蒸気の拡散がより均一化される。また、蒸発器26には、蒸気の注入後に、既定の圧力範囲内であるかどうかにより、規定量の蒸気が貯蔵部24から供給されたかどうかを判定するための圧力センサー39が設置されていてもよい。
【0027】
第2ヒーター29は、蒸発器26の周囲に設置され、蒸発器26の内部の温度を一定に保持する。蒸発器26の内部は、例えば65~120℃の間の所定の温度で一定に保温されている。
【0028】
オゾン供給ユニット30は、滅菌処理時に、チャンバー11にオゾンガスを供給する。本実施形態では、オゾンガスは、オゾン供給ユニット30内で生成される。オゾン供給ユニット30は、酸素発生装置31と、オゾン発生器32と、オゾン濃度計33と、バッファータンク34と、第2圧力計35とを備える。
【0029】
酸素発生装置31は、オゾンの原料となる酸素(O2)を生成する。酸素発生装置31の方式としては、例えば、空気中の窒素をゼオライト等の吸着剤に吸着させて高濃度の酸素を生成するPSA(Pressure Swing Adsorption)方式が採用可能である。具体的には、酸素発生装置31は、吐出圧力がゲージ圧で0.03~0.08MPa程度で、流量が1~4L/min程度のPSA装置であってもよい。酸素発生装置31とオゾン発生器32とを連通する配管には、第4電磁弁73が設置されている。第4電磁弁73の開閉が適宜制御されることで、オゾン発生器32への酸素の供給量が調整される。
【0030】
オゾン発生器32は、酸素発生装置31が生成した酸素からオゾンガスを生成する。オゾン発生器32の方式としては、例えば、高周波の高電圧を酸素に印加して放電・分解させることでオゾンを生成する無声放電方式が採用可能である。オゾン供給ユニット30では、一例として、オゾン発生器32が2台、存在する。例えば、オゾン発生器32の生成能力は、(2g/hr×2台)=4g/hrのように表現される。この場合、オゾン発生器32は、例えば、1L/minの酸素の供給を受けながら1.5分間作動することで、(4g×1.5分/60分)=0.1gのオゾンを生成することができる。オゾン発生器32は、第2供給配管36を介してバッファータンク34と連通している。
【0031】
オゾン濃度計33は、オゾン発生器32で生成されたオゾンガスの第2供給配管36中での濃度を計測する。例えば、1L/minの流量で1.5分間、第2供給配管36内にオゾンガスを流した場合のオゾン濃度計33の計測値が70g/m3であったとする。この場合、生成されたオゾン量は、(1L/min×1.5分×70g/1000L)=0.105gに相当する。そして、容積が100Lのチャンバー11の内部に0.105gのオゾンガスが注入され、さらに空気が入れられて大気圧になったとする。このときのチャンバー11におけるオゾン濃度は、オゾンの分子量48及び標準気体22.4Lより、(0.105g/48g×22.4L/100L×1,000,000)=490ppmの体積濃度に相当する。
【0032】
第2供給配管36におけるオゾン濃度計33とバッファータンク34との間には、第5電磁弁74が設置されている。また、第2供給配管36におけるオゾン濃度計33と第5電磁弁74との間は、第6電磁弁75を含む配管系Xを介して、排気ユニット40と連通するものとしてもよい。つまり、第5電磁弁74が閉で、第6電磁弁75が開であると、オゾン発生器32から流通してきたオゾンガスは、排気ユニット40側に供給される。
【0033】
バッファータンク34は、オゾン発生器32で生成されたオゾンガスを、蒸発器26に送る前に、一旦貯留する。バッファータンク34は、過酸化水素の腐食に耐えられるように例えばステンレススチール製であり、減圧に耐えられる構造を有する。以下、一例として、バッファータンク34の容積は2Lであるものとする。バッファータンク34は、第3供給配管37を介して蒸発器26と連通している。第3供給配管37には、第7電磁弁76が設置されている。第7電磁弁76が閉であるときに、バッファータンク34にオゾンガスが注入されると、バッファータンク34の内部の圧力は一時的に高くなる。
【0034】
第2圧力計35は、バッファータンク34に設置され、バッファータンク34の内部の圧力を計測する真空計である。制御部61は、第2圧力計35を用いてバッファータンク34の内部の圧力を監視することで、バッファータンク34に既定の圧力までオゾンが注入されているか、又は、第2供給配管36などでのオゾン漏れや詰りが生じていないかなどを確認することができる。
【0035】
また、本実施形態では、バッファータンク34から供給されたオゾンガスは、チャンバー11に対して、直接的に注入されるのではなく、蒸発器26を経由して注入される。つまり、チャンバー11への滅菌ガスの導入ポートは、過酸化水素とオゾンガスとで共通化されている。
【0036】
なお、別の実施形態として、オゾンガスは、蒸発器26を経由せず、バッファータンク34からチャンバー11に直接投入されてもよい。この場合、蒸発器26を経由しないでオゾンガスがチャンバー11内に注入される分、オゾンガスのチャンバー11内での拡散が早くなるという利点がある。また、この場合、蒸発器26とチャンバー11との間の第2電磁弁71及び第3電磁弁72が閉じていれば、チャンバー11内のオゾン濃度が高くなるという利点がある。
【0037】
排気ユニット40は、チャンバー11の内部の雰囲気を排気することで、チャンバー11の内部を減圧したり、チャンバー11の内部に存在するガスを外部に排出したりする。具体的には、排気ユニット40は、滅菌処理時の滅菌効果を向上させるために、滅菌処理の前に、チャンバー11や滅菌対象物自体から余分なガスを抜いて、例えば100Pa以下の中真空レベルまでチャンバー11の内部を減圧する。また、排気ユニット40は、滅菌処理の後に、チャンバー11や滅菌対象物に残留した滅菌ガスを排除する。排気ユニット40は、真空ポンプ41と、触媒槽と、ヒーターとを備える。
【0038】
真空ポンプ41としては、例えば、中真空対応のスクロールポンプ等のドライポンプ又はロータリーポンプ等の油回転ポンプなどが採用可能である。本実施形態では、真空ポンプ41は、油回転ポンプである。真空ポンプ41とチャンバー11とは、排気配管38を介して連通している。排気配管38には、第8電磁弁77が設置されている。例えば減圧時には、チャンバー11の内部の圧力が既定値に到達したら、制御部61は、第8電磁弁77を閉じ、真空ポンプ41の動作を停止させる。
【0039】
触媒槽は、例えばステンレススチール製であり、ペレットタイプ又はハニカムタイプなどの触媒を含む。触媒は、例えば二酸化マンガンを主成分として、過酸化水素とオゾンとを分解する。本実施形態では、真空ポンプを腐食させるおそれのあるガスを分解することと、排気速度を適度に維持することとを考慮し、触媒槽は、真空ポンプ41の上流側と下流側との2箇所に設置されている。第1触媒槽42は、真空ポンプ41の上流側に設置されている触媒槽である。第2触媒槽43は、真空ポンプ41の下流側に設置されている触媒槽である。
【0040】
ここで、上述のとおり、オゾン供給ユニット30は、オゾン発生器32、第5電磁弁74及び第6電磁弁75が適宜制御されることで、配管系Xを介して排気ユニット40にオゾンガスを供給可能である。
【0041】
ヒーターは、触媒槽を例えば60~90℃で保温する。第3ヒーター44は、第1触媒槽42を保温する。第4ヒーター45は、第2触媒槽43を保温する。
【0042】
大気導入ユニット50は、チャンバー11の内部に大気を導入する。大気導入ユニット50は、第2フィルター51と、複数の導入ポートとを備える。
【0043】
第2フィルター51は、大気を導入するときに、大気中のごみがチャンバー11の内部に入らないようにする。第2フィルター51としては、例えば、目の細かい不織布のフィルターであるHEPAフィルターが採用可能である。
【0044】
導入ポートは、第2フィルター51を通じて導入された大気をチャンバー11の内部に導入する。導入ポートは、大気の導入に合わせてチャンバー11の内部でのガス濃度を均一化させるために、チャンバー11の互いに異なる位置に複数設置されることが望ましい。本実施形態では、一例として、天井部に互いに対角に設置された第1導入ポート52と第2導入ポート53との2つの導入ポートが存在する。第1導入ポート52には、第9電磁弁78が設置されている。第2導入ポート53には、第10電磁弁79が設置されている。制御部61は、第9電磁弁78又は第10電磁弁79の開閉を個別に制御することで、互いに異なる位置から適切なタイミングでチャンバー11の内部に大気を導入することができる。
【0045】
なお、導入ポートは、チャンバー11に対して直接的に設けられるものに限らない。別の実施形態として、導入ポートは、例えば、蒸発器26を経由してチャンバー11に連続するものであってもよい。又は、導入ポートは、例えば、バッファータンク34を経由してチャンバー11に連続するものであってもよい。さらには、導入ポートは、例えば、蒸発器26とバッファータンク34との両方を経由してチャンバー11に連続するものであってもよい。
【0046】
制御ユニット60は、各種の動作指令に基づいて、滅菌装置100を構成する各ユニット内の動力系要素の駆動を制御する。制御ユニット60は、制御部61と、タッチパネル62とを備える。制御部61は、各種の動力系要素や計測系要素などに電気的に接続されている。制御部61は、例えば、タッチパネル62を介して入力された指令、予め保持している制御シーケンス、又は、各センサーからの検知信号などに基づいて、各種の動力系要素の動作を制御する。タッチパネル62は、制御部61に電気的に接続され、オペレーターが情報や指令を入力したり、装置側から提示された情報を視認したりするのに用いられる。
【0047】
次に、滅菌装置100を用いた本実施形態に係る滅菌方法の流れについて説明する。
【0048】
図2は、本実施形態に係る滅菌方法の流れを示すフローチャートである。
図3は、本実施形態に係る滅菌方法の流れに沿った、経過時間に対するチャンバー11の内部の圧力変化を示すグラフである。
【0049】
本実施形態に係る滅菌方法は、処理モード選択工程S100と、前減圧工程S200と、オゾン吸着工程S300と、滅菌減圧工程S400と、滅菌工程S500と、エアーレーション工程S700とを含む。
【0050】
まず、処理モード選択工程S100を開始する前に、病院看護師等のオペレーターは、チャンバー11の中に、包装材に包装された滅菌対象物を配置し、扉12を閉じてチャンバー11の内部を密閉状態とする。なお、この時点では、すでに滅菌装置100の電源がONであり、暖機運転等が終了しているものとする。
【0051】
本実施形態における滅菌処理では、オペレーターは、滅菌対象物の種類に合わせて処理モードを選択することができる。滅菌対象物の種類は、例えば、滅菌対象物の形状や材質などから分類される。特に、滅菌対象物の形状は、管腔の有無により分類してもよい。処理モード選択工程S100は、オペレーターが選択した処理モードを滅菌装置100に入力する工程である。
【0052】
図4は、滅菌装置100が実施することが可能な各処理モードを示す表である。処理モードとしては、例えば、以下の3つのモードを設定してもよい。ショートモードは、滅菌対象物が管腔を有さない医療機材である場合に適用される。この場合の医療機材は、例えば、鉗子等の鋼製品などの主に表面滅菌が施されるものである。標準モードは、滅菌対象物が管腔を有する樹脂製の医療機材である場合に適用される。ロングモードは、滅菌対象物が管腔を有するステンレススチール製の医療機材である場合に適用される。この場合の医療機材は、例えば、内径がおおよそ1mmの細管である硬性内視鏡などである。
【0053】
処理モードごとに、例えば、以降の工程における処理時間、過酸化水素の水溶液の注入量、又は、暴露回数が異なる。ここで、
図4における表中の過酸化水素の水溶液の注入量の欄には、以下の滅菌工程S500の1回に相当する1パルス当たりの数値の取り得る範囲が記載されている。特に上段には、第1水溶液の注入量に関する代数が示されており、下段には、第2水溶液の注入量に関する代数が示されている。
【0054】
次に、前減圧工程S200は、以後に実施されるオゾン吸着工程S300の前工程として、大気圧に対してチャンバー11の内部を減圧する工程である。
図3では、前減圧工程S200が実施される期間をH11と表記している。前減圧工程S200では、チャンバー11の内部が例えば100Paまで減圧される。
【0055】
オゾン吸着工程S300は、前減圧工程S200における減圧下で、オゾンガスをチャンバー11の内部に注入し、滅菌対象物を包装している包装材にオゾンガスを吸着させる工程である。本実施形態では、以後、オゾン吸着工程S300とは別に、オゾン注入工程S505が実施される。もし、オゾン吸着工程S300が実施されないとすると、オゾン注入工程S505においてチャンバー11の内部に注入されたオゾンガスが、滅菌対象物を包装している包装材に吸着する場合がある。このような吸着物としてのオゾンは、引き続き供給されるオゾンガスの滅菌対象物への到達を阻害することもあり得る。そこで、本実施形態では、オゾン注入工程S505が実施される前に、オゾン吸着工程S300において包装材にオゾンガスを吸着させて、包装材を飽和状態又は飽和状態に近い状態とする。このように予め包装材を飽和状態又は飽和状態に近い状態としておくことで、オゾン注入工程S505においてオゾンガスがチャンバー11の内部に注入されたとき、オゾンガスは、包装材で吸着されにくくなり、結果として滅菌対象物に到達しやすくなる。なお、オゾン吸着工程S300において注入されるオゾンガスは、包装材に吸着するものだけでなく、滅菌対象物に到達して滅菌に寄与するものもある。
【0056】
ここで、オゾン吸着工程S300においてチャンバー11の内部に供給されるガス内のオゾンガスの濃度を高くすれば、以後のオゾン注入工程S505を不要とすることも考えられる。これとは反対に、オゾン注入工程S505においてチャンバー11の内部に供給されるガス内のオゾンガスの濃度を高くすれば、このオゾン吸着工程S300を不要とすることも考えられる。しかし、これらのようにオゾンガスの濃度を高くするほど、滅菌対象物の材質等によっては、例えば、滅菌対象物に変形を生じさせるなどの意図しない影響が及ぼされることもあり得る。これに対して、本実施形態のように、滅菌方法に含まれる一連の工程において、オゾンガスをチャンバー11の内部に注入する工程を複数に分散させることで、滅菌対象物の形状や組成等へのオゾンガスの影響が、より緩和される。このようなオゾンガスの影響を緩和させることも考慮すると、オゾンガスの濃度に関する規定としては、オゾン吸着工程S300においてチャンバー11の内部に供給されるガスには、オゾンガスがおおよそ1%包含される。なお、本実施形態のように、オゾンガスがオゾン供給ユニット30において生成されるものとすると、このとき、チャンバー11の内部に供給されるガスのうちオゾンガス以外のおおよそ99%は酸素となる。例えば、オゾンガスの濃度をより高く規定すると、オゾンガスを生成するオゾン発生器32等の構成要素に高機能化が要求されることもあり得る。そのため、オゾンガスの濃度を1%程度に規定することは、オゾン発生器32でのオゾン生成のしやすさの点で好ましい。また、オゾンガスの濃度を1%程度に規定すると、チャンバー11の内部に注入された後のオゾンガスの濃度を500ppm以下にすることができるので、滅菌対象物に対して意図しない影響が生じることを抑える点で好ましい。
【0057】
図3では、オゾン吸着工程S300が開始されるタイミングをT11と表記している。また、オゾン吸着工程S300でオゾンガスがチャンバー11の内部に注入された後は、
図3に示すように、期間H12の間、チャンバー11の内部状態が保持されてもよい。例えば、処理モードがショートモードである場合、オゾン吸着工程S300におけるオゾンガスの濃度は、おおよそ400ppmであり、期間H12に相当する保持時間は、おおよそ3分であってもよい。この場合、オゾンガスの暴露条件は、おおよそ、400(ppm)×3(分)=1200(ppm・分)となる。なお、オゾンガスを注入する際の制御部61による制御は、以後説明するオゾン注入工程S505での制御と同様である。また、オゾン吸着工程S300の前には、以後説明するオゾン準備工程S504と同様の準備工程があってもよい。
【0058】
上記例示したように、オゾン吸着工程S300でチャンバー11の内部に供給されるガスでは、オゾンガスの含有量に比べると、酸素の含有量の方が非常に多い。一方、本実施形態では、以後、第1蒸気注入工程S502として、チャンバー11の内部に過酸化水素の第1水溶液の蒸気が注入される。チャンバー11の内部に酸素が大量に残留している状態では、第1蒸気注入工程S502においてチャンバー11の内部に第1水溶液の蒸気を注入しても、過酸化水素が滅菌対象物の表面に到達しづらい。滅菌減圧工程S400は、このような事情を考慮し、第1蒸気注入工程S502の前に、チャンバー11の内部に残留している酸素を取り除く工程である。また、滅菌減圧工程S400においてチャンバー11の内部を減圧することで、滅菌対象物への過酸化水素の到達性を向上させることができる。
【0059】
滅菌減圧工程S400において、制御部61は、真空ポンプ41を起動させた後に、第8電磁弁77を開とすることで、
図3に示す期間H13の間、チャンバー11の内部を減圧させる。このとき、制御部61は、第2電磁弁71、第3電磁弁72及び第7電磁弁76をそれぞれ開とすることで、チャンバー11とともに、蒸発器26及びバッファータンク34のそれぞれの内部も減圧させる。
図4における表中の処理時間は、このときの減圧開始の時点から起算されるものである。
【0060】
滅菌減圧工程S400における目標圧力は、酸素を取り除くのに十分で、かつ、以後の第1蒸気注入工程S502において過酸化水素の第1水溶液の蒸気が滅菌対象物に確実に到達する圧力である。例えば、このときの目標圧力は、50Pa以下とし、より具体的には、25~35Paであることが望ましい。
【0061】
制御部61は、この目標圧力に到達したら、第2電磁弁71、第3電磁弁72、第7電磁弁76及び第8電磁弁77を閉として、真空ポンプ41を停止させる。制御部61は、滅菌減圧工程S400の後、滅菌工程S500に移行する。なお、滅菌減圧工程S400の後、
図3に示すように、期間H14の間、チャンバー11の内部状態が保持されてもよい。
【0062】
ここで、処理モードがロングモードである場合、滅菌対象物は、例えば、ステンレススチール製の細管である。そのため、ロングモード選択時には、予め滅菌対象物の温度を上げておくとともに、到達した圧力状態のまま、例えば2分程度の一定時間保持させることで、管腔内の結露の影響を可能な限り小さくしてもよい。
【0063】
図5は、滅菌工程S500の流れを示すフローチャートである。滅菌工程S500は、滅菌対象物の滅菌に主として寄与する工程である。滅菌工程S500は、第1蒸気準備工程S501と、第1蒸気注入工程S502と、第1状態保持工程S503とを含む。
【0064】
第1蒸気準備工程S501は、次の第1蒸気注入工程S502において注入される第1水溶液の蒸気を生成する工程である。まず、制御部61は、第1チューブポンプ23aを回転させて、第1ボトル21aから第1水溶液を吸い上げさせ、その後、規定量の等分割の量だけ貯蔵部24に注入する。ここで、規定量は、1パルス当りの合計投入量であり、
図3に示すとおり、処理モードによって異なる。例えば、処理モードがショートモードである場合、第1水溶液に含まれる過酸化水素の濃度は、30~60%の間の所定の濃度(x1)であり、規定量は、1~4mlの間の所定の量(y1)である。例えば、規定量を2分割して投入する場合には、規定量の等分割の量は、y1の半分の0.5~2mlの間の所定の量(y1÷2)となる。次に、制御部61は、例えば5秒間の一定時間、第1電磁弁70を開とする。蒸発器26の内部はすでに減圧されているので、第1水溶液は、蒸発器26に瞬時に吸い込まれる。このとき、貯蔵部24は第1フィルター25を介して大気と通じているので、大気が貯蔵部24に入ることで、貯蔵部24や第1供給配管27などに残留した第1水溶液も蒸発器26に送り込まれることになる。次に、制御部61は、第1電磁弁70を閉として、例えば5秒間の一定時間、蒸発器26で第1水溶液を蒸発させる。このとき、蒸発器26は、例えば65~120℃の間の所定の温度で一定に加温されている。例えば、容積が0.5~2Lの間の所定の値で、圧力が50Paの蒸発器26の内部では、ほぼ完全に蒸発するように第1水溶液の量を調整して投入すると、飽和蒸気圧程度まで圧力が高まると考えられる。制御部61は、第1蒸気準備工程S501の後、第1蒸気注入工程S502に移行する。
【0065】
第1蒸気注入工程S502は、蒸発器26で生成された第1水溶液の蒸気をチャンバー11の内部に注入させる工程である。
図3では、第1蒸気注入工程S502が開始されるタイミングをT12と表記している。まず、制御部61は、例えば10秒間の一定時間、第2電磁弁71及び第3電磁弁72を開とする。これにより、第1水溶液の蒸気は、圧力差に応じて勢いよくチャンバー11の内部に注入される。このとき、滅菌対象物が特に管腔を有する場合には、圧力差が大きいほど、管腔の内部まで蒸気が浸透しやすくなる。また、上記のとおり、蒸気がチャンバー11の内部で均一化されやすくなる。次に、制御部61は、第2電磁弁71及び第3電磁弁72を閉とする。その後、制御部61は、処理モードに応じて同じ手順で第1水溶液の蒸気の注入を繰り返す。例えば、処理モードがショートモードである場合、1パルス当り30~60%の間の所定の濃度(x1)×1~4mlの間の所定の量(y1)の第1水溶液の蒸気が蒸発器26に注入されることになる。このとき、第1水溶液は、一度に大量に注入されると、蒸発器26の内部で飽和蒸気圧に達してしまい、十分に蒸発できずに残留することもあり得る。そこで、制御部61は、第1水溶液を例えば半分ずつの2回に分けて蒸発させて、その都度、チャンバー11に注入してもよい。ここで、制御部61は、さらに複数回に分けて第1水溶液の蒸気を注入してもよい。制御部61は、第1蒸気注入工程S502の後、第1状態保持工程S503に移行する。
【0066】
第1状態保持工程S503は、チャンバー11において第1水溶液の蒸気を一定時間保持させることで、滅菌対象物を滅菌する工程である。
図3では、一定時間保持される期間をH15と表記している。このときの保持時間は、処理モードごとに異なる。ショートモードの場合の保持時間は、例えば3分である。標準モードの場合の保持時間は、例えば4分である。ロングモードの場合の保持時間は、例えば6分である。つまり、ショートモード、標準モード及びロングモードの順で、徐々に保持時間が長くなる。
【0067】
次に、滅菌工程S500は、オゾン準備工程S504と、オゾン注入工程S505とを含む。
【0068】
オゾン準備工程S504は、次のオゾン注入工程S505において注入されるオゾンガスを生成する工程である。オゾン準備工程S504は、必ずしも第1状態保持工程S503の終了を待って実行されるものではなく、オゾン注入工程S505が開始される前までに実行され、オゾンガスが準備されていればよい。まず、制御部61は、第4電磁弁73を開として、高濃度の酸素をオゾン発生器32に供給させる。ここで、制御部61は、オゾン発生器32を駆動させてから数十秒程度は、第5電磁弁74を閉とし、第6電磁弁75を開とすることで、酸素及びオゾンの濃度が安定するまでオゾンガスをバッファータンク34には送らずに第1触媒槽42の配管系に流してもよい。次に、制御部61は、第6電磁弁75を閉とし、第5電磁弁74を開とすることで、一定流量、一定濃度、かつ、一定時間だけ、バッファータンク34にオゾンガスを充てんさせる。次に、制御部61は、バッファータンク34へのオゾンガスの充てんが完了した後、第5電磁弁74を閉じ、オゾン発生器32の駆動を停止させる。
【0069】
オゾン注入工程S505は、オゾン準備工程S504で生成されたオゾンガスをチャンバー11に注入する工程である。
図3では、オゾン注入工程S505が開始されるタイミングをT13と表記している。オゾン注入工程S505は、第1状態保持工程S503が終了した後に実行される。制御部61は、例えば5秒間の一定時間、第7電磁弁76並びに第2電磁弁71及び第3電磁弁72を開として、オゾンガスをチャンバー11に注入する。ここで、バッファータンク34の内部の圧力は、例えば、ゲージ圧で最大0.03~0.08MPa程度の間の所定の圧力、又は、絶対圧で0.13~0.18MPa程度の間の所定の圧力である。そのため、絶対圧で3000Pa以下である減圧下のチャンバー11の内部へのオゾンガスの注入は、この圧力差によって、数秒程度で完了するものと想定される。
【0070】
このように、オゾン供給ユニット30は、バッファータンク34においてオゾンガスの圧力が高まったときに、オゾンガスをチャンバー11の内部に注入させる。オゾンガスがこのように注入されると、チャンバー11の内部におけるオゾンガスの拡散がより均一化しやすくなる。また、オゾンガスは、管腔を有する滅菌対象物の管内部にまで進入しやすくなる。
【0071】
また、オゾン注入工程S505では、オゾンガスは、蒸発器26の内部を通過してチャンバー11の内部に注入されるので、オゾンガスを用いて蒸発器26に残っている過酸化水素をチャンバー11に押し出し、滅菌効果をより向上させることができる。また、滅菌装置100としては、チャンバー11に設置される導入ポートに関して、過酸化水素が導入されるポートと、オゾンガスが導入されるポートとを共通化することができるので、チャンバー11の周辺構成を簡略化させることができる。
【0072】
また、滅菌工程S500は、第2蒸気準備工程S506と、第2蒸気注入工程S507と、外気注入工程S508と、第2状態保持工程S509とを含む。
【0073】
第2蒸気準備工程S506は、次の第2蒸気注入工程S507において注入される第2水溶液の蒸気を生成する工程である。第2蒸気準備工程S506は、必ずしもオゾン注入工程S505の終了を待って実行されるものではなく、第2蒸気注入工程S507が開始される前までに実行され、第2水溶液の蒸気が準備されていればよい。第2水溶液の蒸気の生成は、第1蒸気準備工程S501における第1水溶液の蒸気の生成と同様の手順で行われてもよい。
【0074】
まず、制御部61は、第2チューブポンプ23bを回転させて、第2ボトル21bから第2水溶液を吸い上げさせ、その後、規定量の等分割の量だけ貯蔵部24に注入する。例えば、処理モードがショートモードである場合、第2水溶液に含まれる過酸化水素の濃度は、0.1~10%の間の所定の濃度(x2)であり、規定量は、2~8mlの間の所定の量(y2)である。例えば、規定量を2分割して投入する場合には、規定量の等分割の量は、y2の半分の1~4mlの間の所定の量(y2÷2)となる。次に、制御部61は、例えば5秒間の一定時間、第1電磁弁70を開とする。蒸発器26の内部はすでに減圧されているので、第2水溶液は、蒸発器26に瞬時に吸い込まれる。このとき、貯蔵部24は第1フィルター25を介して大気と通じているので、大気が貯蔵部24に入ることで、貯蔵部24や第1供給配管27などに残留した第2水溶液も蒸発器26に送り込まれることになる。次に、制御部61は、第1電磁弁70を閉として、例えば5秒間の一定時間、蒸発器26で第2水溶液を蒸発させる。このとき、蒸発器26は、例えば65~120℃の間の所定の温度で一定に加温されている。例えば、容積が0.5~2Lの間の所定の値で、圧力が50Paの蒸発器26の内部では、ほぼ完全に蒸発するように第2水溶液の量を調整して投入すると、飽和蒸気圧程度まで圧力が高まると考えられる。制御部61は、第2蒸気準備工程S506の後、第2蒸気注入工程S507に移行する。
【0075】
第2蒸気注入工程S507は、蒸発器26で生成された第2水溶液の蒸気をチャンバー11に注入させる工程である。
図3では、第2蒸気注入工程S507が開始されるタイミングをT14と表記している。オゾンは、単独では滅菌に寄与しづらいが、水分が添加されることで反応性が増す。これは、細菌の表面でオゾンが水分又は残留した過酸化水素と反応するときにOHラジカル等が生成され、細菌の細胞壁を効果的に破壊しているからと考えられる。そこで、本実施形態では、チャンバー11の内部に対して、オゾンガスの注入が終了したら、すぐに第2水溶液の蒸気を注入させる。チャンバー11の内部に注入された蒸気中の過酸化水素は、オゾンによって破壊された細胞壁から細菌の細胞の中に侵入して細胞核を攻撃することで、滅菌効果を向上させているものと推測される。
【0076】
ここで、第1水溶液と第2水溶液との関係として、第2水溶液に含まれる過酸化水素の濃度は、第1水溶液に含まれる過酸化水素の濃度以下であってもよい。
【0077】
第1水溶液の蒸気の注入は、過酸化水素を滅菌ガスの材料とした、主たる滅菌処理として位置付けられる。一方、第2水溶液の蒸気の注入は、オゾンガスの注入による滅菌処理の滅菌効率を向上させるための補助的な処理と位置付けられる。そのため、第2蒸気注入工程S507において第2水溶液の蒸気が注入される場合には、水溶液に含まれる過酸化水素の濃度は、第1水溶液に比べて、第2水溶液の方が少ないか、又は、同等とすることができる。これにより、本実施形態に係る滅菌方法において、第1水溶液と第2水溶液との双方が用いられるとしても、滅菌処理全体として、過酸化水素の使用量を低減させることができる。また、過酸化水素の使用量を低減することで、結果として、滅菌対象物の表面やチャンバー11の内部に残留するおそれのある過酸化水素の量も比例して低減させることができる。
【0078】
又は、第1水溶液と第2水溶液との関係として、第2水溶液に含まれる過酸化水素の総量は、第1水溶液に含まれる過酸化水素の総量以下であってもよい。
【0079】
第2水溶液に含まれる過酸化水素の総量が第1水溶液に含まれる過酸化水素の総量以下であれば、第2水溶液に含まれる過酸化水素の濃度が第1水溶液に含まれる過酸化水素の濃度より高くても、滅菌処理全体として過酸化水素の使用量を低減させることができる。
【0080】
また、第1水溶液若しくは第2水溶液に含まれる過酸化水素の濃度、又は、第1水溶液若しくは第2水溶液に含まれる過酸化水素の総量は、滅菌対象物の管腔の有無又は滅菌対象物の材質に基づいて規定されてもよい。
【0081】
本実施形態では、滅菌対象物の管腔の有無又は滅菌対象物の材質の相違により、3つの処理モードを例示している。例えば、標準モードで滅菌処理可能な滅菌対象物としては、樹脂製の細管が挙げられる。一方、ロングモードで滅菌処理可能な滅菌対象物としては、ステンレススチール製の細管が挙げられる。これらの樹脂細管とステンレススチール細管とを比較すると、一般に、ステンレススチール細管を滅菌する方が、樹脂細管を滅菌するよりも困難である。これは、例えば、ステンレススチールに含まれるFe,Mo又はCrなどの遷移元素と過酸化水素との反応性が高いため、過酸化水素が処理の途中で分解され、細管の内部まで十分な過酸化水素が行き届きづらいと考えられるからである。又は、ステンレススチール細管の方が樹脂細管よりも熱伝導度が高く減圧環境下では冷えやすいので、細管の内部で過酸化水素が結露しやすく、内部まで十分な過酸化水素が行き届きづらいとも考えられる。
【0082】
これに対して、本実施形態によれば、例えば、ステンレススチール細管を滅菌する場合には、第2水溶液に含まれる過酸化水素の濃度を、他の処理モードにおける第2水溶液に含まれる過酸化水素の濃度より高くすることで対応することができる。ただし、この場合でも、第2水溶液に含まれる過酸化水素の濃度は、第1水溶液に含まれる過酸化水素の濃度を超えない。又は、第2水溶液に含まれる過酸化水素の濃度が第1水溶液に含まれる過酸化水素の濃度と同等であっても、第2水溶液の投入量を低減できる。つまり、ステンレススチール細管を滅菌する場合には、従来の滅菌方法よりも、特に過酸化水素の合計の使用量(第1水溶液及び第2水溶液の過酸化水素の濃度×過酸化水素の投入量の合計値)を低減させることができる可能性がある。この点、第2水溶液に含まれる過酸化水素の総量が、第1水溶液に含まれる過酸化水素の総量以下であっても同様であり、過酸化水素の合計の使用量(第1水溶液の過酸化水素の総量と第2水溶液の過酸化水素の総量との合計値)を確実に低減させることができる。
【0083】
なお、第2水溶液に含まれる過酸化水素の濃度をより高くすると、滅菌効果が増す。そして、このように第2水溶液に含まれる過酸化水素を高濃度とする方が、処理時間を短縮することができる場合もあり得る。そこで、本実施形態では、一例として、処理モードがロングモードの場合には、第2水溶液に含まれる過酸化水素の濃度を第1水溶液に含まれる過酸化水素の濃度と同等の30~60%の間の所定の値(x1)としている。一方で、1パルス当りの投入量は、ショートモードや標準モードでは、2~8mlの間の所定の値(y2)であるのに対して、ロングモードでは、1~5mlの間の所定の量(y3)などと低く設定され得る。
【0084】
上記のとおり、第2蒸気注入工程S507は、オゾン注入工程S505が終了した後、すぐに実行される。第2水溶液の蒸気の注入は、第1蒸気注入工程S502における第1水溶液の蒸気の注入と同様の手順で行われてもよい。
【0085】
まず、制御部61は、例えば10秒間の一定時間、第2電磁弁71及び第3電磁弁72を開として、第2水溶液の蒸気をチャンバー11に注入する。次に、制御部61は、第2電磁弁71及び第3電磁弁72を閉とする。その後、制御部61は、処理モードに応じて同じ手順で第2水溶液の蒸気の注入を繰り返す。ここでも、処理モードがショートモードである場合には、制御部61は、第2水溶液を例えばy2(2~8ml)の半分ずつの2回に分けて蒸発させて、その都度、チャンバー11に注入してもよい。又は、制御部61は、さらに複数回に分けて第2水溶液の蒸気を注入してもよい。制御部61は、第2蒸気注入工程S507の後、外気注入工程S508に移行する。
【0086】
ここまでの説明では、第2蒸気注入工程S507では、過酸化水素の第2水溶液の蒸気を注入するものとしているが、第2水溶液に代えて、例えば、以下に示す水又は揮発性成分を含む溶液から生成された蒸気が注入されてもよい。まず、このとき蒸気を生成する水は、パイロジェンを除去若しくは不活化させた水、又は、菌若しくは微生物を除去若しくは不活化させた水であってもよい。パイロジェンを除去若しくは不活化させた水、又は、菌若しくは微生物を除去若しくは不活化させた水を用いることで、パイロジェン等による滅菌対象物の汚染を予め抑止することができる。なお、ここでいう水は、滅菌や殺菌処理が施された精製水等の純水又は超純水であってもよい。また、揮発性成分は、次亜塩素酸ナトリウム又はアルコール類であってもよい。アルコール類は、例えばエタノールであってもよい。
【0087】
一例として、第2蒸気注入工程S507において第2水溶液に代えて純水の蒸気を注入するものとすると、第2ボトル21bには、純水が収容される。そして、蒸発器26では、純水が蒸発されることになる。このように、第2水溶液に代えて純水が用いられても、上記のようなオゾンガスの反応性を向上させるのに有効となり得る。ここで、
図3に示す表の例では、ショートモード及び標準モードでは、第2水溶液に含まれる過酸化水素の濃度(x2,0.1%~10%の間の所定の値)は、第1水溶液に含まれる過酸化水素の濃度(x1,30~60%の間の所定の値)よりも大幅に低い。そこで、例えば、これら2つの処理モードのいずれかを選択し得る場合で、かつ、滅菌対象物に対して滅菌効果が必要以上に要求されない場合には、第2水溶液に代えて純水が用いられてもよい。これにより、滅菌処理全体として、過酸化水素の使用量を減らすことができる。
【0088】
外気注入工程S508は、チャンバー11の内部に、大気又は乾燥窒素ガスである外気を注入する工程である。
図3では、外気注入工程S508が開始されるタイミングをT15と表記している。本実施形態では、一例として、外気が大気であるものとする。外気注入工程S508は、第2蒸気注入工程S507が終了した後、すぐに実行される。チャンバー11の内部に大気が注入されることで、例えば、特に管腔を有する滅菌対象物の管腔内の途中で停滞していた過酸化水素やオゾンガスが押し込まれて、滅菌がさらに促進される。また、チャンバー11の内部に大気が注入されることで、チャンバー11の内部に存在するガスの濃度分布が均一化し、滅菌がムラなく行われる。さらに、チャンバー11の内部に大気が注入されると、内部の圧力が上昇して、蒸気中の過酸化水素が滅菌対象物の表面でわずかに凝縮するので、滅菌効果が向上する。ここでの凝縮は、マイクロコンデンセーションと呼ばれることもある。外気が特に大気である場合には、注入するガスの原料コストがかからず、また、大気をチャンバー11の内部に注入するための構成も簡略化させることができるので、滅菌装置100の製造コストの上昇を抑えることができる。
【0089】
制御部61は、大気導入ユニット50を介して、大気をチャンバー11の内部に注入させる。具体的には、制御部61は、第9電磁弁78及び第10電磁弁79の開閉を適宜制御することで、第2フィルター51を通じて導入される大気の注入量を調整する。このとき、大気は、ある一定圧力に到達するまで注入される。本実施形態では、制御部61は、チャンバー11の内部の圧力が大気圧の約90%である90kPa程度となるまで大気を注入したら、第9電磁弁78及び第10電磁弁79を閉とする。チャンバー11の内圧と外圧とが同じになってしまうと、扉12のシール部分からガスが外部に漏れるおそれがあるためである。制御部61は、外気注入工程S508の後、第2状態保持工程S509に移行する。
【0090】
このように、外気注入工程S508は、滅菌対象物が管腔を有する場合に適用される標準モード又はロングモードの選択時に特に有効である。一方、滅菌対象物が管腔を有さずに、主に滅菌対象物の表面滅菌を行うショートモードの場合で、所望の滅菌効果が得ることが可能であるならば、工程内容の簡略化の観点から、外気注入工程S508は実行されなくてもよい。
【0091】
第2状態保持工程S509は、外気注入工程S508が終了した後に、チャンバー11の内部の状態を一定時間保持する工程である。
図3では、一定時間保持される期間をH15と表記している。チャンバー11の内部の状態がこのように一定時間保持されることで、外気注入工程S508で説明したような滅菌作用がさらに促進される。ここでの保持時間は、処理モードごとに異なる。ショートモードの場合の保持時間は、例えば2分である。標準モードの場合の保持時間は、例えば3分である。ロングモードの場合の保持時間は、例えば5分である。
【0092】
ここまでの滅菌工程S500は、滅菌対象物に応じて必要回数繰り返されてもよい。そこで、制御部61は、第2状態保持工程S509が終了した後、
図2に示すように、滅菌工程S500の反復が必要かどうかを判断する(S600)。1回の滅菌工程S500は、暴露回数として1回とカウントし、以下、暴露回数をパルス数で表記する。ここで、制御部61は、さらに滅菌工程S500を要すると判断した場合には(YES)、滅菌減圧工程S400に移行して減圧し、2パルス目の滅菌工程を実行する。一方、制御部61は、さらなる滅菌工程を要しないと判断した場合には(NO)、次のエアーレーション工程S700に移行する。
【0093】
ここで、必要なパルス数は、10-6以下の滅菌性保障水準(SAL<10-6)が実現されるように規定される。なお。この水準を達成するためには、1パルスに相当するハーフサイクルの滅菌工程で10-6個以上の指標菌が全死滅することが条件である。本実施形態では、一例として、3つの処理モードのすべてにおいて、2パルスをフルサイクルとしている。
【0094】
エアーレーション工程S700は、チャンバー11の内部を一定の真空度まで減圧することで滅菌ガスとしての過酸化水素やオゾンを除去し、その後、大気を大気圧近くまで注入して滅菌ガスを希釈する工程である。本実施形態では、処理モードがショートモードの場合とその他のモードの場合とでは、エアーレーション工程S700での処理が異なる。
【0095】
第1に、処理モードがショートモードである場合のエアーレーション工程S700での処理について説明する。ショートモードでは、滅菌ガスと滅菌対象物との接触時間が他のモードに比べて短い。そこで、この場合のエアーレーション工程S700は、処理時間を短くするために、例えば、以下のような処理工程を含む。
【0096】
まず、制御部61は、第2状態保持工程S509が終了した後に、可能な限り迅速に真空ポンプ41を起動させ、第8電磁弁77を開として、チャンバー11の内部の減圧を開始する。同時に、制御部61は、第2電磁弁71及び第3電磁弁72並びに第7電磁弁76を開として、蒸発器26及びバッファータンク34の内部の残留ガスも排出させる。ショートモードでは、チャンバー11の内部の圧力が例えば100Paに到達するまで減圧が持続される。排出された滅菌ガスは、第1触媒槽42と第2触媒槽43とを通過することで、過酸化水素は、無害である水と酸素に、一方、オゾンは、無害である酸素にそれぞれ分解されて、安全管理値以下の濃度で滅菌装置100の外部に排気される。次に、制御部61は、チャンバー11の内部の圧力が既定の減圧圧力に到達したら、第8電磁弁77を閉とする。
【0097】
次に、制御部61は、第9電磁弁78及び第10電磁弁79を開として、第2フィルター51を通じて大気をチャンバー11の内部に注入する。同時に、制御部61は、第2電磁弁71及び第3電磁弁72並びに第7電磁弁76を開として、蒸発器26及びバッファータンク34の内部にも大気を注入する。注入された大気は、チャンバー11の内部に残留しているガスを拡散して希釈し、また、滅菌対象物やチャンバー11の内面に付着している滅菌ガスを除去する。次に、制御部61は、チャンバー11の内部の圧力が大気圧の約90%である90kPa程度となるまで大気を注入したら、第9電磁弁78及び第10電磁弁79を閉とする。
【0098】
そして、制御部61は、このような減圧と大気注入とを規定回数だけ繰り返す。ショートモードの場合、例えば、合計3回繰り返すものとしてもよい。この場合のエアーレーション工程S700には、減圧にかかる時間がおよそ3分で、大気注入にかかる時間がおよそ0.5分であるとすると、3.5分×3回=10.5分ほど費やされることになる。制御部61は、規定回数だけ減圧と大気注入とを繰り返した後、大気注入によりチャンバー11の内部を大気圧まで戻して、エアーレーション工程S700を終了する。制御部61は、エアーレーション工程S700の後、滅菌処理を終了する。
【0099】
第2に、処理モードがショートモード以外のモードである場合のエアーレーション工程S700での処理について説明する。ショートモード以外の処理モードでは、滅菌ガスと滅菌対象物との接触時間が長かったり、滅菌対象物に付着する過酸化水素の量や、チャンバー11の内部に残留する過酸化水素の量が多かったりする。そこで、この場合のエアーレーション工程S700は、例えば、以下のような処理工程を含む。
【0100】
まず、減圧と大気注入との基本動作は、処理モードがショートモードの場合と同様である。ただし、減圧時の到達圧力は、ショートモードでは例えば100Pa以下としたのに対して、ショートモード以外のモードでは滅菌対象物に管腔が含まれ得ることから、ショートモードの場合よりも厳しい条件として、例えば50Pa以下とする。
【0101】
次に、制御部61は、1回目の減圧と大気注入とが終了した後、引き続き、大気注入しながらの減圧を実行する。具体的には、制御部61は、真空ポンプ41を起動させ、第8電磁弁77を開として減圧を開始させた後、例えば2秒程度遅れて、第9電磁弁78及び第10電磁弁79を開として、第2フィルター51を通じて大気注入を行わせる。ここで、減圧後に大気注入する回で大気注入を停止させるタイミングを、チャンバー11の内部の圧力がおおよそ90kPa以上となったときと仮定する。この場合、大気注入しながら減圧が行われる回で大気注入を停止させるタイミングは、チャンバー11の内部の圧力がおおよそ90kPa以下のときとしてもよい。このように大気注入しながら排気することで、大気の流れが活発化し、滅菌対象物やチャンバー11の内面に付着した滅菌ガスが積極的に除去される。特に、通常の滅菌処理時は、滅菌対象物は包装材で包装されているので、包装材に吸着した滅菌ガスを除去するのに効果的である。ここでの大気注入しながら減圧する時間は、例えば5分程度とする。また、この場合、大気注入しながら排気する1回の処理にかかる時間は、減圧後に大気注入する1回の処理に比べて短くなるので、結果として、エアーレーション工程S700全体に要する時間を短縮させることができる。
【0102】
そして、制御部61は、さらに、最初に実行した減圧と大気注入と同様の動作を繰り返す。この場合、例えば2回繰り返すものとしてもよい。
【0103】
この場合のエアーレーション工程S700には、1回目の減圧及び大気注入にかかる時間が3.5分、大気注入しながらの減圧にかかる時間が5分、2回目の減圧及び大気注入にかかる時間が3.5分×2=7分で、合計15.5分ほど費やされることになる。制御部61は、その後、大気注入によりチャンバー11の内部を大気圧まで戻して、エアーレーション工程S700を終了する。制御部61は、エアーレーション工程S700の後、滅菌処理を終了する。
【0104】
なお、エアーレーション工程S700では、上記のように減圧と大気注入とを複数回繰り返すが、繰り返し回数が多くなればなるほど、残留している滅菌ガスの排除には有効であるものの、処理時間が長くなる。そこで、例えば、減圧と大気注入とを5回繰り返すという場合には、5回のうちの2回分の繰り返しに費やす時間より短い時間、例えば(3分×2回)である6分よりも短い5分を、その次の繰り返しの1回分に置き換えてもよい。これにより、チャンバー11の内部に残留している滅菌ガスをより効率よく排気することができ、また、エアーレーション工程S700に要する時間の短縮にもつながる。
【0105】
以上の本実施形態に係る滅菌処理に係る処理時間は、処理モードごとに、おおむね
図3に示す表に記載のとおりとなる。一連の滅菌処理の終了後、オペレーターは、チャンバー11から滅菌対象物を取り出す。
【0106】
次に、本実施形態に係る滅菌方法及び当該滅菌方法を実施し得る滅菌装置100による効果について説明する。
【0107】
本実施形態に係る滅菌方法は、チャンバー11に収容された滅菌対象物を滅菌する方法であって、チャンバー11の内部に、過酸化水素の第1水溶液から生成された蒸気を注入する第1蒸気注入工程S502を含む。滅菌方法は、第1蒸気注入工程S502の後に、チャンバー11の内部にオゾンガスを注入するオゾン注入工程S505を含む。また、滅菌方法は、オゾン注入工程S505の後に、チャンバー11の内部に、過酸化水素の第2水溶液から生成された蒸気を注入する第2蒸気注入工程S507を含む。このとき、第2水溶液に含まれる過酸化水素の総量は、第1水溶液に含まれる過酸化水素の総量以下である。
【0108】
一方、本実施形態に係る滅菌装置100は、滅菌対象物を収容するチャンバー11と、チャンバー11と連通し、過酸化水素の第1水溶液、又は、過酸化水素の第2水溶液を蒸発かつ充てんさせる蒸発器26を備える。滅菌装置100は、チャンバー11と連通し、オゾンガスを生成するオゾン発生器32を備える。また、滅菌装置100は、蒸発器26で生成された蒸気、又は、オゾン発生器32で生成されたオゾンガスのチャンバー11の内部への注入動作を制御する制御部61を備える。このとき、第2水溶液に含まれる過酸化水素の総量は、第1水溶液に含まれる過酸化水素の総量以下である。制御部61は、チャンバー11の内部に、第1水溶液から生成された蒸気を注入した後にオゾンガスを注入させ、オゾンガスを注入した後に、第2水溶液から生成された蒸気を注入させて、滅菌対象物を滅菌させる。
【0109】
このような滅菌方法及び滅菌装置100によれば、滅菌対象物に対して、第1水溶液の蒸気を用いた滅菌処理が行われた後に、オゾンガスを用いた滅菌処理が行われる。このとき、本実施形態では、オゾンガスがチャンバー11の内部に注入された後に、さらに第2水溶液の蒸気が注入される。これにより、オゾンガスの反応性を向上させることができるので、オゾンガスを用いた滅菌処理では、オゾンガス単独で滅菌処理を行う場合よりも滅菌効率を向上させることができる。
【0110】
また、第1水溶液の蒸気の注入は、過酸化水素を滅菌ガスの材料とした、主たる滅菌処理として位置付けられる。一方、第2水溶液の蒸気の注入は、オゾンガスの注入による滅菌処理の滅菌効率を向上させるための補助的な処理と位置付けられる。そのため、第2蒸気注入工程S507において第2水溶液の蒸気が注入される場合には、水溶液に含まれる過酸化水素の総量は、第1水溶液に比べて、第2水溶液の方が少ないか、又は、同等とすることができる。これにより、滅菌処理全体として、過酸化水素の使用量を低減させることができる。また、過酸化水素の使用量を低減することで、結果として、滅菌対象物の表面やチャンバー11の内部に残留するおそれのある過酸化水素の量も比例して低減させることができる。
【0111】
したがって、本実施形態に係る滅菌方法及び滅菌装置100によれば、滅菌処理全体として、滅菌効率を向上させつつ、過酸化水素の使用量を低減させることができる。
【0112】
(第2実施形態)
図6は、第2実施形態に係る滅菌方法の流れを示すフローチャートである。第1実施形態に係る滅菌方法では、滅菌対象物を包装している包装材に予めオゾンガスを吸着させるためのオゾン吸着工程S300が設けられている。これに対して、オゾン注入工程S505においてチャンバー11の内部に注入されたオゾンガスが包装材に吸着する吸着量が、滅菌効率に大きく影響するものではないと予め想定される場合もあり得る。このような場合には、第1実施形態で採用してオゾン吸着工程S300と、それに伴う前減圧工程S200及び滅菌減圧工程S400とを採用しなくてもよい。
【0113】
本実施形態に係る滅菌方法では、
図6に示すように、上記のとおり、前減圧工程S200、オゾン吸着工程S300及び滅菌減圧工程S400は採用しない。また、これに伴い、滅菌工程S500における第1蒸気注入工程S502の前には、チャンバー11の内部を減圧する必要があるので、新たに、第1減圧工程S110が設けられる。ただし、第1減圧工程S110における目標圧力や、この目標圧力に到達するまでの制御部61による制御などは、滅菌減圧工程S400におけるものと同等としてよい。
【0114】
ここで、本実施形態に係る滅菌方法及び滅菌装置100に関する実施例について、2つの比較例と参照しながら説明する。
【0115】
図7は、比較例1及び比較例2、並びに、本実施形態に係る実施例についての各滅菌処理試験における各種の条件を示す表である。
図8は、
図7に示す条件で試験が行われた場合の結果を示す表である。
図8では、試験ごとの陰性率が示されている。陰性率の左欄には、併せて、使用された下記のバイオロジカルインジケーターの個数に対して陰性を示した個数が示されている。また、これらの試験は3日に分けて実施されたため、陰性率の欄のかっこ内には、実施日ごとの結果が表示されている。
【0116】
各試験では、滅菌効果の比較のしやすさの観点から、滅菌対象物として、主に表面滅菌の評価に好適なストリップ型のバイオロジカルインジケーター(BI)を採用した。具体的には、今回採用されたBIは、APEX社製の型式HMV-091(菌番号:ATCC12980、2.1×106 cfu/disc、D値:1.0分)である。なお、D値とは、供試菌の90%を死滅させ、生存率を1/10にまで低下させるのに要する時間をいう。そして、このBIを試験1回当たり3~5個暴露した。また、BIが管腔を有するような細管ではないことから、特に実施例と比較例1とでは、比較のしやすさを優先し、本実施形態における外気注入工程S508に相当する大気注入を省略している。
【0117】
また、試験で使用されたチャンバーは、上記例示したチャンバー11と同様の構造及び条件下にあるものとする。具体的には、チャンバー11の容積は100Lであり、予め50℃に加温されている。チャンバー11には、予めBIのみが収容されている。その他の各試験条件は、
図8に示すとおりである。ここで、1回目に注入される過酸化水素の水溶液(以下、便宜上、すべての試験において「第1水溶液」と表記する)の注入量は、比較のために、すべての試験において同一としている。
【0118】
図9は、比較例1の場合のチャンバー11の内部の圧力変化を示すグラフである。比較例1における滅菌工程は、特許文献1に開示されている滅菌方法を模擬している。比較例1では、減圧後、タイミングT21において第1水溶液の蒸気がチャンバー11の内部に注入され、期間H21の間、保持される。その後、タイミングT22においてオゾンガスがチャンバー11の内部に注入され、期間H22の間、保持される。最後に、タイミングT23からエアーレーション工程が行われる。
【0119】
図10は、比較例2の場合のチャンバー11の内部の圧力変化を示すグラフである。比較例2における滅菌工程では、オゾンガスの注入が行われない。比較例2では、減圧後、タイミングT31において第1水溶液の蒸気がチャンバー11の内部に注入され、期間H31の間、保持される。その後、タイミングT32において大気がチャンバー11の内部に注入される。最後に、エアーレーション工程が実施される。
【0120】
図11は、本実施形態に係る実施例の場合のチャンバー11の内部の圧力変化を示すグラフである。実施例では、減圧後、タイミングT1において第1水溶液の蒸気がチャンバー11の内部に注入され(第1蒸気注入工程S502)、期間H1の間、保持される(第1状態保持工程S503)。その後、タイミングT2においてオゾンガスがチャンバー11の内部に注入される(オゾン注入工程S505)。引き続き、タイミングT3及びT4において蒸気がチャンバー11の内部に注入され(第2蒸気注入工程S507)、期間H2の間、保持される(第2状態保持工程S509)。ここで、上記説明した滅菌工程では、第2蒸気注入工程S507において第2水溶液の蒸気を注入するものと例示したが、実施例では、仮に単独で用いられた場合には滅菌効果がないとされている例としての純水の蒸気としている。最後に、タイミングT5からエアーレーション工程が行われる。
【0121】
図8に示すように、これらの試験を実施して得られた結果として、試験ごとの陰性率を比較すると、実施例の陰性率が比較例1又は比較例2よりも陰性率が高く、すなわち、実施例の方が比較例1及び比較例2よりも滅菌効果が高いことが分かる。
【0122】
このような滅菌方法によれば、オゾン吸着工程S300がなされなくても滅菌効果を低減させることなく、オゾン吸着工程S300に係る時間分を削減することができるので、滅菌方法を実施する滅菌装置100の稼働時間をより短縮させることができる。
【0123】
このように、本開示は、ここでは記載していない様々な実施の形態などを含むことは勿論である。
【符号の説明】
【0124】
11 チャンバー
26 蒸発器
32 オゾン発生器
61 制御部
100 滅菌装置