(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】ブレーキパッドおよびアンダーレイヤ材組成物
(51)【国際特許分類】
F16D 69/00 20060101AFI20240409BHJP
F16D 65/092 20060101ALI20240409BHJP
F16D 69/02 20060101ALI20240409BHJP
C09K 3/14 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
F16D69/00 B
F16D65/092 C
F16D69/02 A
C09K3/14 520M
C09K3/14 520G
C09K3/14 530H
(21)【出願番号】P 2020059080
(22)【出願日】2020-03-27
【審査請求日】2023-02-10
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 秀輔
(72)【発明者】
【氏名】岡山 勝弥
(72)【発明者】
【氏名】西岡 将人
【審査官】山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-079252(JP,A)
【文献】特開2013-166920(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 49/00-71/04
C09K 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅の配合量が0.5重量%以下の摩擦材と、
バックプレートと、
前記摩擦材と前記バックプレートとの間に配置され、
曲げモードにおいて-50℃~0℃における平均損失弾性率が500MPa以上であるアンダーレイヤ材を有する、ブレーキパッド。
【請求項2】
前記アンダーレイヤ材は、熱硬化性樹脂、摩擦調整剤、ゴムおよびアラミド繊維を含んで構成される、請求項1に記載のブレーキパッド。
【請求項3】
前記アンダーレイヤ材における前記ゴムの量は、20体積%以上であり、かつ、
前記アンダーレイヤ材における前記アラミド繊維の量は、6体積%以下である、請求項2に記載のブレーキパッド。
【請求項4】
前記アンダーレイヤ材は、鉄繊維および鉱物繊維を含み、かつ前記アンダーレイヤ材における前記鉄繊維および前記鉱物繊維の合計量は、25体積%以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載のブレーキパッド。
【請求項5】
前記アンダーレイヤ材は、20体積%~40体積%の量のゴムで構成される、請求項1~4のいずれか一項に記載のブレーキパッド。
【請求項6】
前記アンダーレイヤ材は、3体積%~6体積%の量のアラミド繊維で構成される、請求項1~5のいずれか一項に記載のブレーキパッド。
【請求項7】
前記アンダーレイヤ材は、25体積%~50体積%の量の鉄繊維および鉱物繊維で構成される、請求項1~6のいずれか一項に記載のブレーキパッド。
【請求項8】
銅の配合量が0.5重量% 以下の摩擦材およびバックプレートを有するブレーキパッドに用いられ、前記摩擦材と前記バックプレートとの間に積層されるアンダーレイヤ材を構成するアンダーレイヤ材組成物であって、
曲げモードにおいて-50℃~0℃の平均損失弾性率が500MPa以上である、アン
ダーレイヤ材組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキパッドおよびアンダーレイヤ材組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今の技術革新に伴いエンジンや車体等のノイズが飛躍的に改善されている。これら以外の望ましくない車両ノイズの別の発生源として、ブレーキ操作に付随するブレーキ鳴き(以下、鳴きとよぶ) がある。この鳴きは、運転者によって比較的頻繁に認識され、他の車両ノイズより大きな問題となる場合がある。
【0003】
この鳴きはブレーキ構成部品同士の複雑な関係により発生することからブレーキシステム全体で解析が進められ、個々の部品の問題として対処される傾向がある。
【0004】
さらに、鳴きは、自励振動現象であることから、そのメカニズムは、起振動、共振/結合および減衰などの様々な観点から研究され、対策が提案されてきた。
【0005】
具体的には、鳴きに対する既知の対策例として、圧縮変形量を高めて連成を緩和する方法、減衰性の高いブレーキパッドシムを用いる方法、および摩擦材およびアンダーレイヤにゴムを添加する方法があげられる。
【0006】
特開2007―154154号公報は、非アスベストの摩擦材を用いて、摩擦および摩耗性能に関する摩擦材自体の性能を著しく損なうことなくブレーキ鳴きに対処する別の方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、これらは、ブレーキパッドアッセンブリにおける圧縮変形量の増大による運転者のブレーキフィーリングの低下、引き摺りトルクの増加に起因する燃費の悪化、といったものを生じさせる可能性があり、新たな問題が提起され得る。
【0009】
そこで、本発明では、鳴きを抑制しつつ、ブレーキフィーリングあるいは引き摺りトルクの増加による燃費等の悪化を抑制することが可能なブレーキパッドおよびアンダーレイヤ材組成物を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題の解決に向け鋭意研究を行った結果、アンダーレイヤ材における原料の配向により、圧縮変形量と動的粘弾性に異方性が生じることを突き止め、圧縮変形量の増大を抑え、鳴き低減効果が期待される動的弾性率の減衰能を向上できる可能性を見出した。この減衰能については、具体的には曲げモードにおける損失弾性率LMを示し、その値を増大させることで、ブレーキパッドの曲げ振動の減衰性が向上され、鳴き低減効果があることを究明した。
【0011】
本発明によるブレーキパッドは、銅の配合量が0.5重量%以下の摩擦材と、バックプレートと、前記摩擦材と前記バックプレートとの間に積層され、曲げモードにおいて-50℃~0℃の平均損失弾性率が500MPa以上とされたアンダーレイヤ材と、を備える。
【0012】
上述の構成において、アンダーレイヤ材は、熱硬化性樹脂、摩擦調整剤、ゴムおよびアラミド繊維を含有してもよく、この場合、ゴムの量は、好ましくは、20体積%~40体積%であり、アラミド繊維の量は、好ましくは、3体積%~6体積%である。
【0013】
上述の構成において、アンダーレイヤ材は、鉄繊維および鉱物繊維を含んでもよく、この場合、鉄繊維および鉱物繊維の量は、好ましくは、25体積%~50体積%である。
【0014】
この構成では、高い減衰および適切な圧縮性を保持することができ、アンダーレイヤ材の成形性も確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1A】
図1Aは、一実施形態におけるブレーキパッドの説明図である。
【
図2】
図2は、鳴き発生率と損失弾性率LMとの相関を示す説明図である。
【
図3】
図3は、実施例、比較例および性能評価の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明によるアンダーレイヤ材およびブレーキパッドについて詳述する。
【0017】
以下に示される実施形態におけるブレーキパッドの構成、ならびに当該構成によってもたらされる作用および結果(効果)は一例であり、当該構成以外によっても実現可能である。
【0018】
図1Aおよび
図1Bは、一実施形態におけるブレーキパッドの説明図である。
【0019】
図1Aは、一実施形態におけるブレーキパッドの外観斜視図であり、
図1Bは、
図1Aの切断線1B-1Bに沿った断面図である。
【0020】
図1A、Bに示すように、ブレーキパッド10は、鉄製で第1の表面F1を有するバックプレート11と、第1の表面F1に面しかつ第1の表面F1と接触する第2の表面F2を有するアンダーレイヤ材12と、第2の表面F2に面しかつ第2の表面F2と接触する第3の表面F3を有する摩擦材(ライニング)13とを含む。したがって、第3の表面F3は、第2の表面F2に対向し同時に第2の表面F2に略平行でもあるように位置合わせされる。同様に、第2の表面F2は、第1の表面F1に対向し同時に第1の表面F1に略平行でもあるように位置合わせされる。
【0021】
この場合、アンダーレイヤ材12は、バックプレート11と摩擦材13との間に積層された状態で配置される。アンダーレイヤ材12は、約1.0mm~2.5mmの厚さ、より好ましくは1.2mm~2.2mm、さらに好ましくは1.5mm~2.0mmの厚さを有する。
【0022】
アンダーレイヤ材12は、摩擦性能よりも主に圧縮変形量および耐久性を補完するように機能することから、アンダーレイヤ材12は、摩擦材13よりも設計上、高い自由度を有する。
【0023】
したがって、本実施形態においては、アンダーレイヤ材12を、鳴き性能を向上させるように用いることとした。
【0024】
以下、鳴き性能を向上させることが可能な一実施形態のアンダーレイヤ材12の構成等について説明する。
【0025】
第1に、このアンダーレイヤ材では、原料が平面方向(
図1におけるXY平面)に配向し、その特徴が動的粘弾性に現れることから、ブレーキパッド11が曲げ振動する時の減衰に寄与すると考え、曲げ振動モードでの動的粘弾性を測定した。
【0026】
試験片は、ブレーキパッド10が曲げ振動する時の振動方向を想定して、
図1に示したX方向長さ、Y方向長さ、およびZ方向厚さを有する試料を作成し、NETZSCH社のDMA242E Artemisモデルを用い、以下の測定条件で測定を行った。
【0027】
[曲げ振動モードでの動的粘弾性測定条件]
・測定方法:3点曲げモード
・試験片のサイズ:50mmx8mmx2mm(=X方向長さ×Y方向長さ×Z方向厚さ)
・温度:-100℃~300℃(昇温速度2℃/分)
・周波数:1Hz、5Hz、10Hz
【0028】
ところで、アンダーレイヤ材12の曲げ振動モードにおける動的粘弾性と鳴き性能との関係を考察する上では、温度特性だけでなく周波数特性にも配慮する必要がある。
【0029】
このため、1Hz、5Hz、10Hzの周波数についてそれぞれ-100℃~300℃の温度領域で測定を行った後、Williams-Landel-Ferry Equationを用いて温度周波数換算を行い、周波数特性を示すマスターカーブを作成することで、実際に鳴き発生の周波数帯となる1kHz~20kHz付近に対応する温度範囲を求めた。得られた範囲として-50~0℃の損失弾性率LMの平均値を減衰性のパラメータとして用いることとした。
【0030】
以下、鳴き試験について説明する。
【0031】
この場合、ブレーキパッドとしては、同一の摩擦材を用いることで摩擦係数を同等とし、圧縮変形量も88~90μm のサンプルを用いることで、アンダーレイヤ材の損失弾性率LMの鳴き性能への影響を確認した。
【0032】
鳴き試験に用いるブレーキ仕様として、2ピストンフローティング型ブレーキキャリパおよび鋳鉄ロータの組合せを使用し、ブレーキパッドにはクリップ型のシムおよび面取り加工部分を設けた。
【0033】
上記仕様により、冷間の鳴きマトリックス評価を実施した。
【0034】
図2は、鳴き発生率と平均損失弾性率LMとの相関性を示す説明図である。
【0035】
図2に示すように、曲げ振動モードにおけるアンダーレイヤ材12の平均損失弾性率LMが500MPa以上である場合、6.0%以下の鳴き発生率を達成することができ、これは、実用的な観点からすれば十分かつ望ましいものである。ここで、アンダーレイヤ材を、曲げモードにおいて-50℃~0℃で500MPa以上の平均損失弾性率を達成する組成物で構成すると、鳴き低減の点で望ましい結果が生じることがわかった。
【0036】
以下、具体例を述べる。
【0037】
図3は、本発明によるアンダーレイヤ材の実施例および比較例を示したものである。
【0038】
[1]実施例
[1.1]第1の実施例
以下、第1の実施例によるアンダーレイヤ材の組成について述べる。
【0039】
実施例の配合組成物としては、大別すると、アラミド繊維、ゴム、鉄繊維および鉱物繊維の他、熱硬化性樹脂、摩擦調整剤等を含むその他の材料が挙げられる。
【0040】
アラミド繊維は、耐熱性の比較的高い合成繊維である。鉱物繊維は、無機繊維であってもよく、例えば、ロックウールおよびスラグウールなどの様々なタイプのミネラルウールが挙げられる。アンダーレイヤ材に使用され得る摩擦調整剤および熱硬化性樹脂は、当業者において既知なものである。
【0041】
以下、第1の実施例におけるアンダーレイヤ材の組成について詳述する。
【0042】
第1の実施例においては、アラミド繊維が3体積%、ゴムが32体積%配合されている。
【0043】
また、上記の材料に対して鉄繊維および鉱物繊維として合計29体積%が配合されている。
【0044】
さらに、上記の材料に対して、熱硬化性樹脂や摩擦調整剤を含むその他の材料を混合して、合計100体積%とした。
【0045】
アラミド繊維、ゴム、鉄繊維、鉱物繊維および他の材料の混合物または組成物は、ブレーキパッド用の既知のアンダーレイヤ材を製造するための既知のプロセス/方法を用いて製造または成形されてもよい。
【0046】
[1.2]第2の実施例
以下、第2の実施例におけるアンダーレイヤ材の組成について詳述する。
【0047】
第2の実施例において、組成物は、6体積%のアラミド繊維および21体積%のゴムを含み、これらの2つの材料が混合されている。
【0048】
また、上記の混合された材料に対して鉄繊維および鉱物繊維として合計33体積%が配合されている。
【0049】
さらに、上記の材料に対して、熱硬化性樹脂や摩擦調整剤を含むその他の材料を40体積%配合し、合計100体積%とした。
【0050】
[2]比較例
[2.1]第1の比較例
以下、第1の比較例におけるアンダーレイヤ材の組成について詳述する。
【0051】
第1の比較例においては、アラミド繊維が15体積%、およびゴムが6体積%配合されている。
【0052】
また、上記の材料に対して鉄繊維および鉱物繊維として合計30体積%が配合されている。
【0053】
さらに、上記の材料に対して、熱硬化性樹脂や摩擦調整剤を含むその他の材料を49体積%配合し、合計100体積%とした。
【0054】
[2.2]第2の比較例
以下、第2の比較例におけるアンダーレイヤ材の組成について詳述する。
【0055】
第2の比較例においては、アラミド繊維が15体積%、ゴムが6体積%配合されている。
【0056】
また、上記の材料に対して鉄繊維および鉱物繊維として合計33体積%が配合されている。
【0057】
さらに、上記の材料に対して、熱硬化性樹脂や摩擦調整剤を含むその他の材料を46体積%配合し、合計100体積%とした。
【0058】
[2.3]第3の比較例
以下、第3の比較例におけるアンダーレイヤ材の組成について詳述する。
【0059】
第3の比較例においては、アラミド繊維が6体積%、ゴムが16体積%配合されている。
【0060】
また、上記の材料に対して鉄繊維および鉱物繊維として合計33体積%が配合されている。
【0061】
さらに、上記の材料に対して、熱硬化性樹脂や摩擦調整剤を含むその他の材料を45体積%配合し、合計100体積%とした。
【0062】
[2.4]第4の比較例
以下、第4の比較例におけるアンダーレイヤ材の組成について詳述する。
【0063】
第4の比較例においては、アラミド繊維が8体積%、ゴムが27体積%配合されている。
【0064】
また、上記の材料に鉄繊維および鉱物繊維として合計33体積%が配合されている。
【0065】
さらに、上記の材料に対して、熱硬化性樹脂や摩擦調整剤を含むその他の材料を32体積%配合し、合計100体積%とした。
【0066】
[3]特性および性能評価
上述の実施例および比較例の各々を、曲げ振動モードにおける損失弾性率LM、アンダーレイヤ材のみの圧縮変形量、摩擦材とアンダーレイヤ材との全体としての(合計)圧縮変形量、成形性および鳴き発生率について評価した。アンダーレイヤ材と摩擦材との合計圧縮変形量の測定に関しては、アンダーレイヤ材を通常通りバックプレート11(
図1に示す)と摩擦材13(
図1に示す)との間に配置させて行った。アンダーレイヤ材のみの圧縮変形量の測定に関しては、アンダーレイヤ材のみの厚さがアンダーレイヤ材12の厚さと摩擦材13の厚さとを足し合わせた厚さと等しくなるよう行った。例えば
図1に示すバックプレート11が厚さt1を有し、
図1に示すアンダーレイヤ材12が厚さt2を有し、かつ
図1における摩擦材13が厚さt3を有するものとする。
アンダーレイヤ材と摩擦材との合計圧縮変形量は、厚さt1を有するバックプレート11と、厚さt3を有する摩擦材13と、その間に配置された、厚さt2を有するアンダーレイヤ材との全体を対象として測定される。一方で、
図3に示す、アンダーレイヤ材のみの圧縮変形量は、厚さt1を有するバックプレート11に貼り合わされた厚さt2+t3を有するアンダーレイヤ材を対象として測定される。
【0067】
[3.1]損失弾性率LM
曲げ振動モードにおける損失弾性率LMを、上述の方法で測定した。
【0068】
曲げ振動モードにおける損失弾性率LMは、第1の実施例(737MPa)および第2の実施例(513MPa)で500MPaを超えたが、第1、第2および第3の比較例では500MPaを大幅に下回った(311MPa~340MPa)。
【0069】
曲げ振動モードにおける第4の比較例の損失弾性率LMは、成形性が悪いことから評価することができなかった。
【0070】
[3.2]アンダーレイヤ材の圧縮変形量
2つの実施例および複数の比較例によるアンダーレイヤ材の圧縮変形量は、成形性が悪く評価できなかった第4の比較例を除いて、互いに略等しかった(59μm~74μm)。
【0071】
[3.3]全体の圧縮変形量(摩擦材およびアンダーレイヤ材)
2つの実施例および4つの比較例による、摩擦材とアンダーレイヤ材とを併せた全体の圧縮変形量は、成形性が悪く評価することができなかった第4の比較例を除いて、互いに略等しかった(88μm~90μm)。
【0072】
[3.4]成形性
各実施例および各比較例の成形性については、成形が容易である(良[○])、実用上成形に問題はない(可[△])および実用上成形に問題がある(不可[x])、の三段階で評価した。
【0073】
図3に示すように、第1の実施例の成形性および第1の比較例、第2の比較例および第3の比較例の成形性は、好ましく(良[○])、第2の実施例の成形性は、許容されるもの(可[△])であった。
【0074】
第4の比較例は、成形性が悪く、ブレーキパッドには使用できないレベルであった(不可[x])。
【0075】
[3.5]鳴き発生率
鳴き発生率を評価して、70dBを超える鳴きの発生率が6.0%を大きく下回る事例を非常に良い(優[◎])と評価し、この発生率が6.0%未満の事例を好ましい(良[○])と評価し、かつこの発生率が6.0%を超える事例を可(△)と評価した。
【0076】
図3に示すように、損失弾性率が500MPaを超えた第1の実施例および第2の実施例では、鳴き発生率が好ましかった(優[◎]または良[○]:鳴き発生率6.0%未満)。これに対して、第1、第2および第3の比較例の鳴き発生率は、許容される、または十分な鳴き抑制特性を示すが(可[△])、優または良好な鳴き抑制特性を示すものではない。
【0077】
[3.6]総合評価結果
総合評価については、上述の5つの評価、すなわち損失弾性率、アンダーレイヤ材のみの圧縮変形量、摩擦材とアンダーレイヤ材とを合わせた圧縮変形量、成形性および鳴き発生率に基づき判定した。
図3に示すように、第1の実施例の総合評価は優であり、第2の実施例の総合評価は良、その他の4つの比較例の総合評価は、全て不可であった。
【0078】
この結果、アンダーレイヤ材が熱硬化性樹脂、摩擦調整剤、ゴムおよびアラミド繊維を含み、ゴムの量が20体積%以上であって、アラミド繊維の量が0体積%より多く6体積%以下である場合、鳴きを抑制可能な曲げ振動モードにおける損失弾性率を得られることがわかった。なお、アンダーレイヤ材へのゴムの添加量は、20体積%~40体積%が好ましい。
【0079】
また、アンダーレイヤ材が鉄繊維および鉱物繊維を含み、鉄繊維および鉱物繊維の総合計量が25体積%以上である場合、鳴きを抑制可能な曲げ振動モードにおける損失弾性率を得られることがわかった。なお、アンダーレイヤ材中の鉄繊維の量と鉱物繊維の量との合計は、好ましくは25体積%~50体積%である。
【0080】
以上の説明のように、本実施形態によれば、曲げモードにおける減衰性が高いアンダーレイヤ材を用いることで、鳴き性能を向上させることができる。
【0081】
以上のブレーキパッドおよびアンダーレイヤ材組成物は、上述したフローティング型のディスクブレーキの他、押圧部材としてのピストンが対向配置され、これらピストンが一対のブレーキパッドをディスクロータ(被摩擦材)に押し付ける構成の所謂オポースド型(対向ピストン型)等のブレーキパッドにも適用が可能である。
【0082】
上述の詳細な説明は、本明細書に開示する本発明によるアンダーレイヤ材およびブレーキパッドの一例であり、記述通りの実施形態および変形例に限定されない。当業者は、添付の特許請求の範囲で規定される本発明の趣旨および範囲を逸脱することなく、様々な変更、改変および等価物を実行することができる。