(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】印刷装置
(51)【国際特許分類】
B41J 15/16 20060101AFI20240409BHJP
B65H 23/188 20060101ALI20240409BHJP
B41J 15/04 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
B41J15/16
B65H23/188
B41J15/04
(21)【出願番号】P 2020062276
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2023-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】鷲澤 岳人
【審査官】後藤 健志
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-163117(JP,A)
【文献】特開2007-276929(JP,A)
【文献】特開2012-056241(JP,A)
【文献】特開2004-307185(JP,A)
【文献】特開2011-016240(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 23/18-23/198
B41J 15/16
B41J 15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
媒体を搬送する搬送部と、
前記媒体を支持する支持部にて前記媒体を吸引する吸引部と、
前記支持部に支持される前記媒体に印刷を行う印刷部と、
前記搬送部、前記吸引部及び前記印刷部を制御する制御部と、
外部装置と通信可能な通信インターフェースと、を備え、
前記制御部は、前記吸引部が一定の吸引力で吸引する状態で、前記搬送部により前記媒体を搬送させる予備搬送を行い、前記予備搬送で前記媒体の搬送負荷に応じて変化する負荷特定値を測定し、当該負荷特定値と前記吸引力とに基づいて、前記吸引部による吸引力と前記搬送負荷との関係を示す搬送パラメーターを取得し、取得した搬送パラメーター又は測定した前記負荷特定値と前記吸引力とを含むパラメーター特定情報を、前記媒体の種別に係る媒体種別情報と合わせて、前記通信インターフェースを介して前記外部装置に送信することを特徴とする印刷装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記予備搬送として、前記吸引部が一定の第1吸引力で吸引する状態で、前記搬送部により前記媒体を搬送させる第1予備搬送を行い、前記吸引部が一定の第2吸引力で吸引する状態で、前記搬送部により前記媒体を搬送させる第2予備搬送を行い、前記第1予備搬送で測定した第1負荷特定値及び前記第1吸引力と、前記第2予備搬送で測定した第2負荷特定値及び前記第2吸引力とに基づいて、前記搬送パラメーターを取得することを特徴とする請求項1に記載の印刷装置。
【請求項3】
前記第1予備搬送において前記媒体を搬送させる目標搬送速度と、前記第2予備搬送において前記媒体を搬送させる目標搬送速度とが同じであることを特徴とする請求項2に記載の印刷装置。
【請求項4】
前記搬送部は、前記制御部により駆動が制御される搬送モーターを有し、
前記負荷特定値は、前記搬送モーターの負荷電流値であり、
前記制御部は、前記予備搬送における前記搬送モーターの負荷電流値と前記吸引力とに基づいて前記搬送パラメーターを取得する請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の印刷装置。
【請求項5】
前記媒体の表面画像を撮像する撮像部を備え、
前記負荷特定値は、前記媒体の搬送距離であり、
前記制御部は、前記予備搬送において前記撮像部が前記媒体の表面画像を撮像した撮像結果に基づいて、前記媒体の搬送距離を測定し、当該搬送距離と前記吸引力とに基づいて前記搬送パラメーターを取得することを特徴とする請求項1~
3のいずれか一項に記載の印刷装置。
【請求項6】
前記媒体に搬送距離を特定可能に印刷された測定用パターンを検出する検出部を備え、
前記負荷特定値は、前記媒体の搬送距離であり、
前記制御部は、前記予備搬送において前記測定用パターンを前記印刷部により前記媒体に印刷させ、前記検出部が前記媒体の前記測定用パターンを検出した検出結果に基づいて、前記媒体の搬送距離を取得し、当該搬送距離と前記吸引力とに基づいて前記搬送パラメーターを取得することを特徴とする請求項1~
3のいずれか一項に記載の印刷装置。
【請求項7】
前記媒体の表面画像を撮像する撮像部を備え、
前記搬送部は、前記制御部により駆動が制御される搬送モーターを有し、
前記負荷特定値として、前記媒体の搬送距離と前記搬送モーターの負荷電流値とを用い、
前記制御部は、前記予備搬送において前記撮像部が前記媒体の表面画像を撮像した撮像結果に基づいて、前記媒体の搬送距離を測定し、当該搬送距離と前記吸引力とに基づいて第1搬送パラメーターを取得し、前記予備搬送における前記搬送モーターの負荷電流値と前記吸引力とに基づいて第2搬送パラメーターを取得する請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の印刷装置。
【請求項8】
前記媒体に搬送距離を特定可能に印刷された測定用パターンを検出する検出部を備え、
前記搬送部は、前記制御部により駆動が制御される搬送モーターを有し、
前記負荷特定値として、前記媒体の搬送距離と前記搬送モーターの負荷電流値とを用い、
前記制御部は、前記予備搬送において前記測定用パターンを前記印刷部により前記媒体に印刷させ、前記検出部が前記媒体の前記測定用パターンを検出した検出結果に基づいて、前記媒体の搬送距離を取得し、当該搬送距離と前記吸引力とに基づいて第1搬送パラメーターを取得し、前記予備搬送における前記搬送モーターの負荷電流値と前記吸引力とに基づいて第2搬送パラメーターを取得する請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の印刷装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、媒体に印刷を行う印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、用紙等の媒体を所定の搬送経路に沿って搬送するとともに、媒体に記録ヘッドがインク等の液体を吐出して印刷するインクジェットプリンター等の印刷装置が開示されている。このような印刷装置では、媒体は記録ヘッドと対向して位置する搬送面に沿って搬送される。しかし、媒体に液体を吐出する際に、搬送面に対する媒体の浮きが発生してしまうと、記録ヘッドと媒体との距離がばらつくことが原因で、印刷の品質が低下してしまうことがある。
【0003】
そこで、このような印刷装置は、媒体が搬送される搬送面に開口する複数の吸引孔から媒体を吸引する吸引部を備え、媒体を吸引する吸引力を調整可能なように構成されており、適切な吸引力で媒体が吸引されることによって、搬送面に対する媒体の浮きを抑制することができる。特許文献1に記載の印刷装置では、媒体の搬送時に、先ず、媒体のサイズと媒体の種類に基づいて吸引抗力が算出され、算出された吸引抗力により媒体の搬送量が補正されて制御される。次に、媒体の印刷途中の搬送位置に基づいて吸引抗力が算出され、算出された吸引抗力により媒体の搬送量が補正され、その補正された搬送量で搬送が制御される。これにより、媒体の搬送量を常に一定に維持する。吸引抗力は、媒体と搬送面との摩擦係数と吸引力との積により算出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の印刷装置では、媒体と搬送面との摩擦係数、及び吸引抗力と搬送量の累積誤差との関係を示す搬送パラメーターが未知である媒体の種類については、吸引抗力に応じて搬送量を補正することができない。このため、媒体に吸引力が付与された状態で媒体が搬送されるときの搬送負荷に応じて搬送系の指令値を補正するために用いられる搬送パラメーターが未知である媒体の種類については、媒体の種類と吸引力とに応じた適切な搬送制御を行うことができないという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する印刷装置は、媒体を搬送する搬送部と、前記媒体を支持する支持部にて前記媒体を吸引する吸引部と、前記支持部に支持される前記媒体に印刷を行う印刷部と、前記搬送部、前記吸引部及び前記印刷部を制御する制御部と、外部装置と通信可能な通信インターフェースと、を備え、前記制御部は、前記吸引部が一定の吸引力で吸引する状態で、前記搬送部により前記媒体を搬送させる予備搬送を行い、前記予備搬送で前記媒体の搬送負荷に応じて変化する負荷特定値を測定し、当該負荷特定値と前記吸引力とに基づいて、前記吸引部による吸引力と前記搬送負荷との関係を示す搬送パラメーターを取得し、取得した搬送パラメーター又は測定した前記負荷特定値と前記吸引力とを含むパラメーター特定情報を、前記媒体の種別に係る媒体種別情報と合わせて、前記通信インターフェースを介して前記外部装置に送信する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1実施形態における印刷システムを示す模式側断面図。
【
図3】印刷システムの電気的構成を示すブロック図。
【
図4】印刷装置における吸引部による吸引負圧と搬送モーターの制御に用いられる電流指令値との関係を示す模式図。
【
図5】搬送負荷係数測定処理を示すフローチャート。
【
図7】第2実施形態の印刷装置における吸引部による吸引負圧と媒体の搬送距離との関係を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(第1実施形態)
以下、第1実施形態の印刷装置について図面を参照しながら説明する。
図1に示す印刷システム10は、媒体に液体を吐出することにより媒体に印刷する印刷装置11と、印刷装置11を管理するためのホスト装置150と、ホスト装置150を介して印刷装置11と各種情報の通信を行うサーバー装置200とを備える。ホスト装置150は、一又は複数の印刷装置11と通信可能に接続される。外部装置の一例としてのサーバー装置200は、一又は複数のホスト装置150とネットワークNTを介して通信可能に接続される。
【0009】
印刷装置11は、例えば、用紙等の媒体に液体の一例であるインクを吐出することによって、文字、写真等の画像を印刷するインクジェット式のプリンターである。印刷装置11は、筐体12と、筐体12を支持する基台13とを備える。なお、
図1等では、印刷装置11が水平面上に置かれているものとして、互いに直交する3つの仮想軸を、X軸、Y軸及びZ軸とする。X軸は後述する印刷部28の走査方向と平行な仮想軸であり、Y軸は印刷領域における媒体99の搬送方向と平行な仮想軸である。また、Z軸は鉛直方向と平行な仮想軸である。
【0010】
印刷装置11は、媒体99を搬送する搬送部14を備える。搬送部14は、筐体12内に設けられ、媒体99を所定の搬送経路に沿って搬送する。印刷装置11は、液体が吐出される前の媒体99が巻き重ねられたロール体101を支持可能な給送部15を備える。給送部15は、例えば基台13に取り付けられ、ロール体101を回転可能な状態で支持する。給送部15は、ロール体101を繰り出し方向に回転させるときに駆動される給送モーター16を備える。搬送部14は、給送部15がロール体101から繰り出した長尺状の媒体99を搬送する。なお、本実施形態において、媒体99の搬送方向とは、ロール体101から繰り出された媒体99が、搬送経路に沿って搬送される方向である。
【0011】
印刷装置11は、搬送部14により搬送される媒体99に液体を吐出することにより媒体99に画像を印刷する印刷部28を備える。印刷部28は、キャリッジ29の下部に備えられる。印刷部28は、例えば、インク等の液体を吐出するノズル28A(
図2参照)を有する印刷ヘッドである。キャリッジ29は、搬送される媒体99に対して媒体99の搬送方向と交差する幅方向に走査する。すなわち、印刷装置11は、印刷部28が媒体99に対して走査するシリアルプリンターである。印刷装置11は、印刷部28が媒体99の幅方向に亘る範囲に一斉に液体を吐出可能な長尺状に配置されたラインプリンターでもよい。なお、印刷部28及びキャリッジ29は、筐体12内に配置される。
【0012】
印刷装置11は、媒体99の表面を撮像する撮像部62を備える。本実施形態の撮像部62は、キャリッジ29の搬送方向の下流側に位置するように、キャリッジ29の搬送経路の下流を向く面に取り付けられている。撮像部62は、媒体99に向けて光を照射し、媒体99によって反射された光を受けることによって、媒体99に印刷された画像を撮像することができる。
【0013】
印刷装置11は、液体が吐出されることで画像が印刷された媒体99を巻き取る巻取部17を備える。巻取部17は、例えば基台13に取り付けられている。巻取部17は、液体の吐出により印刷された媒体99をロール体102として巻取り可能なリール機構18を備える。リール機構18は、ロール体102を巻き取るときに駆動される巻取モーター19を備える。このように、本実施形態において、印刷装置11は、媒体99の搬送経路において支持部22の下流側に巻取部17を備え、巻取部17により媒体99の先端が固定された状態で媒体99が搬送される。
【0014】
印刷装置11は、媒体99にテンションを付与するテンションバー20を備える。巻取部17における媒体99の送り量と、搬送部14における媒体99の送り量との差に応じて、巻取部17と搬送部14との間の媒体99の長さが変わる。テンションバー20は、巻取部17と搬送部14との間の媒体99の長さに応じて変位する。このように、媒体99に接触するテンションバー20が変位することによって媒体99に適切なテンションが付与される。テンションバー20が媒体99にテンションを付与することにより、媒体99に対して精度よく液体を着弾させることができる。テンションバー20は、媒体99において乾燥装置40を通過した部分かつ巻取部17に巻き取られる前の部分に接触する。テンションバー20は、例えば基台13に取り付けられる。テンションバー20は、基台13に対して変位可能に取り付けられている。テンションバー20が変位することによって、媒体99に付与されるテンションの大きさが調節される。
【0015】
印刷装置11は、媒体99を搬送する搬送経路を構成する上流支持部21、支持部22及び下流支持部23を備える。上流支持部21、支持部22及び下流支持部23は、搬送部14によって搬送される媒体99を支持する。搬送経路の上流から下流に向かって、上流支持部21、支持部22、下流支持部23の順に位置する。支持部22は、筐体12内に位置する。詳しくは、上流支持部21は、搬送経路の上流部分を構成し、給送部15から搬送部14までの部分で媒体99を支持する。支持部22は、搬送経路の中流部分を構成し、搬送部14よりも下流において印刷部28と対向する部分で媒体99を支持する。特に、支持部22は、媒体99のうち印刷部28の吐出によって液体が吐出される部分を支持する。支持部22は、媒体99を支持する例えばプラテンである。下流支持部23は、搬送経路の下流部分を構成し、搬送部14により下流へ搬送された媒体99のうち、印刷部28により吐出された液体が付着した印刷後の部分を支持する。
図1に示す例では、支持部22が水平に配置され、支持部22に対して搬送方向の両側に位置する上流支持部21と下流支持部23とが傾斜した状態に配置されることで、水平方向に広がる頂面を有する山型の搬送経路を形成している。なお、搬送経路が水平に延びる印刷装置11であってもよい。
【0016】
搬送部14は、搬送ローラー対25を有する。搬送ローラー対25は、搬送経路において上流支持部21と支持部22との間に位置する。搬送ローラー対25は、駆動ローラー25Aと従動ローラー25Bとからなる。つまり、搬送ローラー対25は、駆動ローラー25Aと従動ローラー25Bとの間に媒体99をニップ可能なローラー対である。搬送ローラー対25は、駆動ローラー25Aと従動ローラー25Bとが互いに離間する離間状態と、駆動ローラー25Aと従動ローラー25Bとが媒体99を間に挟み込むニップ状態とに切り替えられる。本実施形態において、印刷装置11には、ユーザーにより操作される操作レバー(図示略)が設けられており、操作レバーの操作により、駆動ローラー25Aと従動ローラー25Bが、離間状態とニップ状態とに切り替え可能である。搬送ローラー対25は、駆動ローラー25A及び従動ローラー25Bが媒体99を挟み込むニップ状態で回転することにより媒体99を搬送する。駆動ローラー25Aは、搬送モーター65(
図3参照)を動力源として媒体99を搬送する。このように、搬送部14は、媒体99を搬送するための搬送モーター65を有している。なお、搬送部14は、駆動ローラー25Aと従動ローラー25Bとの間に媒体99を挟み込む力であるニップ力を変更可能に構成されるニップ力調整機構を備えてもよい。搬送部14がニップ力調整機構を備える構成である場合、ニップ力調整機構により、媒体99の種類に応じてニップ力を調整してもよい。
【0017】
印刷装置11は、支持部22に支持された媒体99に液体を吐出する前述の印刷部28を備える。印刷部28は、筐体12内に位置する。印刷部28は、支持部22と対向する位置に配置される。そのため、印刷部28は、支持部22に支持される媒体99に液体を吐出することにより印刷を行う。
【0018】
支持部22の下方には、媒体99を負圧により支持部22に吸引する吸引部30が設けられる。吸引部30は、支持部22に支持される媒体99が接触する面である支持面22Aに開口する吸引孔36(
図2参照)に負圧を作用させることにより、媒体99を負圧による吸引力により支持面22Aに吸着させる。このように、吸引部30は、支持部22にて媒体99を吸引する。
【0019】
また、上流支持部21、支持部22及び下流支持部23は、それぞれヒーター31,32,33を有する。詳しくは、上流支持部21の裏面には上流支持部21を加熱するプレヒーター31が設けられ、支持部22の裏面には支持部22を加熱するプラテンヒーター32が設けられ、下流支持部23の裏面には下流支持部23を加熱するアフターヒーター33が設けられている。プレヒーター31は媒体99の印刷前の部分を予備加熱する。プラテンヒーター32は、媒体99において印刷部28のノズル28A(
図2参照)から液体が吐出される被吐出領域の部分を加熱する。アフターヒーター33は、媒体99における印刷後の部分を加熱する。なお、各ヒーター31~33は、例えば面状ヒーターである。
【0020】
印刷装置11は、液体が付着した状態で搬送される媒体99を加熱する加熱部34を備える。加熱部34は、搬送経路において印刷部28によって液体が吐出される位置よりも下流に位置する。そのため、加熱部34は、液体が付着した媒体99を加熱して乾燥させる。
【0021】
本実施形態では、加熱部34は、ヒーター管41を有する乾燥装置40である。ヒーター管41は、印刷後の媒体99を支持する下流支持部23に対向して位置する。ヒーター管41は、下流支持部23に支持されて搬送される媒体99の印刷面を加熱する。ヒーター管41は、媒体99に付着した液体を適切に乾燥するように所定の加熱設定温度に制御される。この場合、加熱設定温度が高いほど、ヒーター管41の出力が大きくなる。
【0022】
乾燥装置40は、ヒーター管41を収容するケース42と、ケース42内において気体を循環させる循環部43とを有する。ケース42は、下流支持部23と対向する位置に配設されている。循環部43は、気体が流れる循環路44と、循環路44の途中に位置する送風ファン45とを有する。循環路44は、気体を取り込む吸気口46と、気体を送り出す送風口47とを繋ぐ流路である。循環部43は、ヒーター管41によって加熱された気体をケース42内において媒体99の表面に沿って流れる経路を一部に含む循環経路に沿って循環させる。乾燥装置40は、ヒーター管41の熱を下流支持部23に向けて反射する反射板48を有する。なお、加熱部34を備えない印刷装置11であってもよい。
【0023】
印刷装置11は、印刷後の媒体99を切断するカッター装置51を備える。
図1は、印刷後の媒体99を巻取部17によってロール体102として巻き取る使用例を示す。印刷装置11は、印刷された媒体99をカッター装置51により切断し、複数枚の所定サイズにカットすることもできる。カッター装置51は、例えば可動刃と固定刃とを有し、可動刃が媒体99の幅方向に移動することで媒体99を搬送方向に所定長さごとに切断する。
【0024】
印刷装置11は、制御部60を備える。制御部60は、印刷装置11を統括的に制御する。このように、制御部60は、搬送部14、給送部15、巻取部17、印刷部28、吸引部30及び加熱部34などを制御する。また、印刷装置11は、ユーザーが印刷装置11に指示を与えるときに操作される操作部35を備える。操作部35が操作されたときの信号は制御部60に出力される。
【0025】
次に、
図2を参照して吸引部30の詳細な構成を説明する。
図2に示すように、支持部22は、媒体99が接触する支持面22Aに開口する吸引孔36を有する。印刷装置11は、吸引孔36に媒体99を吸引する吸引力を作用させるための負圧を発生させる吸引部30を備える。支持部22の下部には、負圧室形成部材30Aが組み付けられている。そして、支持部22と負圧室形成部材30Aとで負圧室37が囲み形成されている。吸引孔36は、支持部22を貫き、負圧室37に連通している。支持面22Aには、負圧室37に連通する複数の吸引孔36が開口している。吸引部30は、負圧室37内の空気を外部に排出する排気ファン38を備える。排気ファン38が駆動されると、負圧室37内の空気が外部に排出され、負圧室37内が負圧になる。したがって、媒体99は、支持面22Aに開口する複数の吸引孔36に作用する負圧によって支持面22Aに吸着される。
【0026】
印刷装置11では、印刷部28から液体が吐出されて媒体99に画像が印刷される印刷時は、排気ファン38が駆動され、媒体99は支持面22Aに吸着される。また、負圧室37内には、圧力を検出する圧力センサー39が設けられている。本実施形態では、媒体99が搬送されるときも吸引孔36に負圧が作用し、搬送中の媒体99には支持面22Aに吸引する吸引力が作用する。この場合、媒体99の搬送過程における過大な吸引力は媒体99の搬送負荷を高める原因ともなる。
【0027】
次に、
図3を参照して、印刷システム10の電気的構成について説明する。印刷システム10は、印刷装置11と、ホスト装置150と、サーバー装置200とを備える。
印刷装置11は、制御部60を備える。制御部60は、CPU70と、ASIC(Application Specific Integrated Circuit(特定用途向けIC))(図示略)と、RAM及び不揮発性メモリー等からなる記憶部71(メモリー)とを備える。CPU70は、記憶部71に記憶されたプログラムPRを実行することにより、印刷制御を含む各種の制御を司る。記憶部71には、このプログラムPRが記憶されており、印刷装置11の電源投入後、制御部60により実行される。
【0028】
制御部60には、通信インターフェース61、撮像部62、エンコーダー63及び圧力センサー39が電気的に接続されている。制御部60は、通信インターフェース61を介してホスト装置150と通信可能に接続される。また、ホスト装置150とサーバー装置200とが通信可能であることから、通信インターフェース61は、サーバー装置200と通信可能であるといえる。撮像部62は、媒体の表面の画像を撮像し、撮像した画像データを制御部60に出力する。エンコーダー63は、搬送モーター65の駆動量を検出し、搬送モーター65の駆動量を示す信号を制御部60に出力する。圧力センサー39は、吸引部30の負圧室37の圧力を検出し、検出した圧力を示す信号を制御部60に出力する。
【0029】
また、制御部60は、搬送モーター65を駆動制御する駆動回路72をはじめとする複数の駆動回路(図示略)を備える。制御部60には、複数の駆動回路(図示略)を介して、ヒーター管41、送風ファン45、給送モーター16、搬送部14の駆動ローラー25Aの駆動源である搬送モーター65、巻取モーター19、印刷部28、吸引部30、プレヒーター31、プラテンヒーター32及びアフターヒーター33が電気的に接続されている。特に、搬送モーター65は、制御部60により駆動ローラー25Aの駆動が制御されるモーターである。また、印刷装置11がシリアルプリンターである本例では、キャリッジ29の駆動源であるキャリッジモーター(図示略)が制御部60と電気的に接続されている。なお、印刷装置11をラインプリンターで構成した場合は、キャリッジモーターがないので、
図3に示す電気的構成となる。
【0030】
ホスト装置150は、表示部160とユーザーにより操作される操作部170とを備える。なお、ホスト装置150は、例えば、パーソナルコンピューター、携帯情報端末(PDA(Personal Digital Assistants))、タブレットPC、スマートフォン、携帯電話等のうちいずれか1つにより構成される。
【0031】
また、ホスト装置150とサーバー装置200とは、ネットワークNTを介して通信可能に接続される。サーバー装置200は、制御部210と、記憶部220とを備える。サーバー装置200において、記憶部220には、印刷装置11に関するデータを集中的に管理するデータベースDBが記憶されている。
【0032】
本実施形態において、ホスト装置150は、操作部170を操作してユーザーにより印刷が指示されたときに印刷ジョブのデータを生成し、生成した印刷ジョブを制御部60に送信する印刷ドライバー(図示略)を有する。以下では、「印刷ジョブ」を単に「ジョブ」ともいう。ジョブには、印刷制御に必要な各種のコマンドと、ユーザーにより指定された印刷条件情報と、印刷画像データとが含まれる。また、本実施形態において、印刷条件情報には、印刷モード及び媒体の種別に関する情報が含まれる。
【0033】
印刷モードは、媒体99に画像を印刷する制御に関するモードである。本実施形態において、印刷モードには、例えば、高速印刷モード及び高精細印刷モードを含む複数のモードがある。例えば、高精細印刷モードは、印刷速度よりも印刷画質を優先する印刷モードであり、高速印刷モードは、印刷画質よりも印刷速度を優先する印刷モードである。高精細な画像を印刷するためには印刷解像度を高くする必要があり、その一方で印刷解像度を高くすると印刷速度が低下する。印刷モードは、印刷画質と印刷速度との優先度合に応じて複数段階設定されている。制御部60は、複数の印刷モードのうちユーザーにより選択された印刷モードに応じた印刷速度で印刷制御を行う。印刷速度には、媒体99を搬送する搬送速度が含まれる。また、シリアルプリンターでは、印刷部28が走査方向Xに移動するときの走査速度と搬送速度とが、印刷速度に含まれる。このように、印刷モードは、媒体99の搬送速度を規定する情報でもある。
【0034】
また、媒体の種別は、媒体99の形状、サイズ、厚さ、材質、繊維形態及び表面形態等によって分類される。媒体の種別は、例えば、媒体種と媒体サイズとにより分類される。具体的な一例をあげると、媒体99が紙である場合、媒体種としては、媒体99の厚さ及び表面形態の違いに応じて分けられ、例えば、普通紙、写真紙、光沢紙等の種別がある。媒体サイズには、媒体99がロール紙である場合、用紙幅寸法により分類される。また、媒体99が布帛である場合、媒体種は、媒体99の材質(繊維の材質等)や繊維形態(織り形態等)の違いに応じて分けられ、例えば、綿、ウール、絹、化学繊維等の材質に関する種別がある他、平織、綾織、朱子織等の織物組織に関する種別がある。この場合、糸の太さによって更に分類されてもよい。また、織目(目の大きさ)に関する種別で分類されてもよい。織物組織に関する種別、糸の太さによる種別、織目に関する種別は、媒体99の通気特性を規定する。
【0035】
本実施形態において、制御部60は、通信インターフェース61を介してホスト装置150からジョブのデータを受信すると、印刷条件情報に基づいて各種のモーター16,19,65等を制御するとともに、画像データに基づいて印刷部28を制御して画像をドットで描画可能なノズル28Aから液体を吐出する。本実施形態において、ホスト装置150は、印刷条件情報と印刷画像データとを異なるタイミングで別々に制御部60に送信してもよく、制御部60は、印刷条件情報と画像データとを、ホスト装置150から別々に受信してもよい。また、本実施形態において、印刷条件情報は、ユーザーが印刷装置11の操作部35又はホスト装置150の操作部170を操作して入力した印刷条件に基づき作成されてもよい。
【0036】
特に、本実施形態において、制御部60は、印刷モードに応じた搬送速度で媒体99を搬送させる。記憶部71には、印刷モードと搬送速度との対応関係を示す参照データが記憶されている。制御部60は、指定された印刷モードを基に参照データを参照して印刷モードに応じた目標搬送速度を取得する。ここで、媒体99の搬送過程には、加速域と定速域と減速域とがある。目標搬送速度は、定速域における定速度を指す。記憶部71には、搬送制御用の速度制御データが記憶されている。速度制御データは、加速域と定速域と減速域との各区域における目標速度が設定されたデータである。速度制御データは、搬送開始位置を原点とし、原点から搬送終了位置までの範囲を微小距離ごとに分割した位置である複数の搬送位置と、複数の搬送位置ごとに対応する複数の目標速度とにより構成される。目標搬送速度は、定速域の目標速度である。
【0037】
CPU70は、搬送制御を行うときに駆動回路72に指令値を出力する。指令値には電流指令値と距離指令値とがある。電流値指令値は、搬送モーター65への供給電流を指令する指令値である。距離指令値は、1回の搬送動作で媒体99を搬送させる搬送距離を指令する指令値である。CPU70は、目標搬送速度に応じた電流指令値を駆動回路72に出力する。駆動回路72は、搬送モーター65に電流指令値に応じた値の供給電流を供給する。搬送モーター65は、供給電流に応じた速度で制御される。具体的には、CPU70は、エンコーダー63の検出値から現在の搬送位置を取得する。加速域と減速域では、CPU70は、速度制御データを参照して現在の搬送位置に対応する目標速度を取得し、目標速度に応じた値の電流指令値を駆動回路72に出力する。
【0038】
制御部60は、電流指令値に対応する目標速度と、エンコーダー63により検出された搬送モーター65の実速度との差分を小さくするフィードバック制御を行う。詳しくは、CPU70は、プログラムに従って、エンコーダー63からの検出信号に基づく実速度と目標速度との差分に応じた補正量で次回の電流指令値を補正し、その補正後の電流指令値を次回の指令タイミングに駆動回路72に出力するフィードバック制御を行う。なお、フィードバック制御は、CPU70がプログラムに従って実行するソフトウェアの構成に替え、駆動回路72が行うハードウェアの構成であってもよい。
【0039】
また、本実施形態において、制御部60は、給送モーター16がロール体101から繰り出す送り量を、搬送モーター65の搬送量に合わせるように、給送モーター16及び搬送モーター65を制御するシンクロ制御を行う。ここで、媒体99の搬送負荷が大きく駆動ローラー25Aの回転速度が目標速度よりも遅くなると、給送モーター16及び搬送モーター65のシンクロ制御が行われていても、ロール体101から繰り出される媒体99の単位時間当たりの送り量と、搬送ローラー対25が搬送する媒体99の単位時間当たりの搬送量とが一致しない。このため、媒体99に過度なテンションまたは弛みが発生する可能性がある。電流指令値は、搬送ローラー対25とロール体101との間における部分の媒体99に所定のテンションがかかることを前提に、搬送モーター65が適切な駆動トルクを出力できるように設定される。しかし、この種の過度なテンションまたは弛みがあると、搬送ローラー対25が搬送する媒体99の搬送量にばらつきが生じ、シンクロ制御を適切に行うことができなくなる。これは、媒体99に皺を発生させ、皺によって媒体99に印刷された画像の印刷品質を低下させる原因になる。シンクロ制御を適切に行うためには、媒体99の搬送負荷に起因する実速度の目標速度に対する追従遅れやオーバーシュートを解消する必要がある。
【0040】
また、媒体99の搬送負荷が大きい場合、実速度が目標速度に対して遅れる追従遅れが発生する。この場合、制御部60は、追従遅れを解消すべく電流指令値の値を大きくする。この結果、搬送モーター65への供給電流が大きくなる。つまり、制御部60は、基準電流指令値よりも大きな電流指令値を指令し、搬送モーター65が目標速度で駆動されるように搬送負荷に応じて搬送モーター65への供給電流を増大させる。制御部60は出力する電流指令値の値から、搬送モーター65の負荷電流を取得可能である。
【0041】
また、印刷装置11は、3段階以上の複数段階の吸引負圧の中から1つの吸引負圧が設定可能に構成される。制御部60は、印刷条件情報のうち印刷モード及び媒体の種類を含む複数の情報に基づいて目標の吸引負圧を設定する。本実施形態において、制御部60は、目標の吸引負圧に対応する目標の回転速度で回転させるように排気ファン38を制御することで、負圧室37に負圧を発生させる。これにより、支持部22の支持面22Aに開口する吸引孔36に吸引負圧が及ぶ。制御部60は、圧力センサー39の検出圧力が目標の吸引負圧に達した後、媒体99の予備搬送および印刷のための媒体99の本搬送を開始する。搬送部14により搬送される媒体99は、吸引負圧に応じた所定の吸引力で支持部22に吸引される。
【0042】
ここで、吸引部30による吸引力は、媒体99に吸引負圧が及ぶ総受圧面積と吸引負圧との積で示される。例えば、支持部22には、媒体99が支持される支持面に吸引孔36が開口する形態と、支持面に吸引孔に連通する凹部を有する形態とがある。媒体99の総受圧面積は、前者の形態では、媒体99が塞ぐ吸引孔36の総開口面積に等しく、後者の形態では、凹部の総開口面積に等しい。吸引力により媒体99が受ける吸引方向の力は、圧力損失を無視できれば、吸引力に等しい。媒体99の先端が支持面22A上に位置する搬送位置の範囲では、媒体99により塞がれる吸引孔36の数が変化するので、媒体99が受ける吸引方向の力が変化する。搬送方向に媒体99の先端と後端とが支持面22Aを挟む状態となる搬送位置の範囲では、媒体99の搬送位置が変化しても、媒体99により塞がれる吸引孔36の数が一定であるので、媒体99が受ける吸引方向の力が一定となる。また、媒体99の幅が異なると、媒体99により塞がれる吸引孔36の数が異なるので、媒体99が受ける吸引方向の力は、媒体99のサイズによって異なる。
【0043】
また、媒体99を搬送する場合、搬送モーター65には、駆動ローラー25Aを介して媒体99の搬送負荷に応じた負荷電流が流れる。排気ファン38が駆動される場合、吸引孔36を介して媒体99に及ぶ吸引負圧に応じた吸引力で媒体99は支持面22Aに向かう吸引方向に吸引される。これにより、媒体99は支持面22Aに吸着される。支持面22Aに吸着される媒体99が搬送されるときの搬送負荷には、吸引力に基づく搬送負荷の分が加わる。このため、媒体99の搬送負荷は、吸引力に応じて変化する。また、媒体99の搬送負荷は、印刷装置11の機種と、媒体種とに応じて異なる。
【0044】
具体的な一例をあげると、印刷装置11の機種によって、支持部22の材質、吸引孔36の形状・サイズ、支持面22Aの単位面積当たりの吸引孔36の数、負圧室37の形状及び排気ファン38の性能などが異なる。よって、同じ種別の媒体99及び同じ吸引負圧であっても、機種が異なれば、媒体99の搬送負荷が異なる。
【0045】
また、媒体99が紙や合成樹脂フィルムである場合、媒体種によって、支持面22Aに対する媒体99の摩擦係数が異なる。媒体99が紙やである場合、媒体の種別には、普通紙、写真紙等がある。また、媒体99が布帛や編物である場合、媒体の種別によって、摩擦係数及び通気度が異なる。ここで、通気度は、媒体99の表裏両側に所定の圧力が加えられたときに、媒体99の組織に存在する隙間から空気が通過する通過し易さを表す。通気度は、例えば、媒体99の表裏両側に所定の圧力が加えられたときに、媒体99の組織に存在する隙間から空気が通過するときの単位面積当たりの流速で示される。通気度が小さいほど通気性が高い。吸引部30の吸引負圧が同じであっても、媒体99の通気度が小さい通気性の高い媒体の種別では、媒体99の組織の隙間を単位時間当たりに通過する空気量が多いことによる空気漏れに起因する圧力損失によって、媒体99が受ける吸引方向の力が小さくなる。よって、同じ機種及び同じ吸引負圧であっても、通気性の異なる媒体の種別間では、媒体99の搬送負荷が異なる。
【0046】
ここで、搬送中の媒体99が支持面22Aから受ける-Y方向の摩擦力は、媒体99が支持面22Aから受ける垂直抗力と摩擦係数との積で示される。垂直抗力は、媒体99の自重による垂直抗力成分と、媒体99が受ける吸引方向の力による垂直抗力成分とを加えた値となる。このため、垂直抗力は、吸引部30による吸引力に応じて変化する。吸引力により媒体99が受ける吸引方向の力による垂直抗力に基づく摩擦力成分は、その垂直抗力成分と摩擦係数との積で表される。通気性の極めて低い媒体99では、吸引力により媒体99が受ける吸引方向の力は、吸引力に等しい。また、用紙に比べ通気性の高い布帛等の媒体99では、吸引力により媒体99が受ける吸引方向の力が、吸引力よりも、媒体99を空気が通過することによる圧力損失の分だけ小さくなる。
【0047】
また、搬送中の媒体99が、支持面22A以外の接触部分から受ける摩擦力は、ほぼ一定とみなすことができる。印刷装置11では、電源が投入されたとき、吸引部30の停止状態で媒体99を一定の搬送速度で搬送する初期搬送が行われる。制御部60は、初期搬送中の定速過程で出力した電流指令値に基づいて負荷を検出し、検出した負荷に応じて基準電流指令値を決める。基準電流指令値は、吸引力以外を要因とする搬送負荷が考慮された値である。
【0048】
吸引部30による吸引力が与えられた状態で媒体99を目標搬送速度で搬送するための電流指令値は、吸引部30による吸引力が与えられていないときに媒体99を目標搬送速度で搬送するための基準電流指令値よりも大きな値に設定される。また、吸引部30による吸引力が同じであっても、媒体の種別が異なると、支持面22Aに対する媒体99の摩擦係数が異なるため、吸引力による搬送負荷の増加分は媒体の種別に応じて異なる。このため、吸引負圧及び媒体の種別に応じた電流指令値を設定する必要がある。
【0049】
本実施形態の印刷装置11では、媒体99を目標搬送速度で搬送させる場合、制御部60により設定される電流指令値は、基準電流指令値と、吸引部30による吸引負圧と、搬送負荷係数とに基づいて算出される。基準電流指令値は、吸引負圧が「0」である場合において媒体99を目標搬送速度で搬送させるための電流指令値である。基準電流指令値は、設定される電流指令値を算出するための基準となる電流指令値である。1回の搬送動作は加速域と定速域と減速域とを含む。目標搬送速度は、定速域の定速度である。目標搬送速度は、印刷モードや搬送距離等により決められる。基準電流指令値は、印刷装置11が初期搬送を行って測定した機械的な搬送負荷に基づいて決定される。
【0050】
搬送負荷係数は、吸引部30による吸引力と媒体99の搬送負荷との関係を示す搬送パラメーターである。本実施形態における搬送負荷係数は、吸引負圧と、制御部60により設定される電流指令値との関係(割合)を示す係数である。本実施形態では、搬送モーター65はフィードバック制御されるため、吸引力によって媒体99の搬送負荷が増えても、媒体99を目標搬送速度で搬送できるように電流指令値が基準電流指令値よりも増大する。よって、基準電流指令値に対する電流指令値の増分は、吸引負圧に比例する。搬送負荷係数は、この比例関係における比例定数に相当し、吸引部30の吸引負圧に対応する電流指令値を算出するための係数である。つまり、搬送負荷係数は、制御部60が搬送モーター65を制御する指令値を算出するための搬送パラメーターである。
【0051】
具体的には、
図4に示すように、媒体の種別が媒体Aである場合、搬送負荷係数がμ1であり、基準電流指令値がC10である。この場合、搬送負荷係数μ1と、吸引負圧pxとを乗算した結果を基準電流指令値C10に加算することにより、設定する電流指令値C1xを算出することができる。なお、
図4に示すグラフでは、横軸は吸引負圧を絶対値pで示しており、0<p1<px<p2の関係にある。
【0052】
一方、媒体の種別が媒体Bである場合、搬送負荷係数がμ2であり、基準電流指令値がC20である。この場合、搬送負荷係数μ2と、吸引負圧pxとを乗算した結果を基準電流指令値C20に加算することにより、設定する電流指令値C2xを算出することができる。
【0053】
このように、媒体の種別によって、搬送負荷係数と、基準電流指令値とが異なる。また、前述のように、印刷装置11の機種によって、支持部22の材質、吸引孔36の形状・サイズ、数及び排気ファン38の性能などが異なるので、
図4に示す媒体の種別に応じた搬送負荷係数は、同じ媒体の種別であっても印刷装置11の機種ごとに異なる。つまり、搬送負荷係数は、印刷装置11の機種と、媒体の種別と、吸引負圧とに依存する。したがって、印刷装置11の機種ごとに、媒体の種別に対応する搬送負荷係数が算出されることによって、印刷装置11の機種と、媒体の種別と、吸引負圧とに応じて適切に媒体99を搬送することができる。
【0054】
本実施形態において、印刷装置11では、印刷ジョブに含まれる印刷画像データに基づいて印刷が行われる本搬送とは別に、搬送負荷係数を算出するための予備搬送が行われる。本実施形態では、制御部60は、ユーザーによる操作部35,170の操作で自動調整モードが選択されたときに予備搬送を行う。予備搬送では、吸引部30が所定の吸引負圧で駆動される状態で媒体99を所定の目標搬送速度で搬送し、制御部60は、搬送負荷係数の算出に必要な媒体99の搬送負荷に応じて変化する負荷特性値を測定する。本実施形態の負荷特定値は、予備搬送における搬送モーター65の負荷電流値である。搬送モーター65には、フィードバック制御による電流指令値に応じた負荷電流が供給されるので、制御部60は、CPU70が出力する電流指令値の値から搬送モーター65の負荷電流値を認識できる。なお、制御部60は、記憶部71に過去に印刷で使用された媒体の種別に対応する搬送負荷係数を記憶し、記憶部71に搬送負荷係数が記憶された媒体の種別以外のはじめての媒体種が指定されたと判定したときに、予備搬送を行ってもよい。
【0055】
予備搬送において負荷特定値として測定された電流指令値と、そのとき適用された吸引負圧とを用いて、媒体の種別に対応する搬送負荷係数が制御部60により算出される。算出した搬送負荷係数は、媒体の種別に紐付けて記憶部71に記憶される。特に、本実施形態の印刷装置11では、第1吸引負圧p1である場合に媒体99を目標搬送速度で搬送する第1予備搬送で測定された電流指令値と、第2吸引負圧p2である場合に媒体99を目標搬送速度で搬送する第2搬送で測定された電流指令値とから搬送負荷係数が算出される。
【0056】
このように、印刷装置11では、第1予備搬送と第2予備搬送とが行われた媒体の種別については、媒体の種別に対応する搬送負荷係数が記憶部71に記憶されている。記憶部71に、搬送負荷係数と紐付けされて記憶されている媒体の種別については、印刷動作における本搬送において、基準電流指令値がそのとき設定される吸引負圧と、媒体の種別に紐付けられた搬送負荷係数とに基づいて補正されることで電流指令値が特定される。
【0057】
なお、本搬送において、吸引負圧が考慮されていない基準電流指令値に基づいて搬送モーター65が制御された場合、次の問題がある。フィードバック制御における実速度と目標速度との差分が大きく、加速域で追従遅れが発生したり、定速域に到達したときにオーバーシュート等が発生したりして搬送制御が不安定になるおそれがある。これに対して、本実施形態においては、制御部60は、搬送パラメーターである搬送負荷係数を用いて、媒体種と吸引負圧とに対応する電流指令値を設定する。よって、本搬送において、フィードバック制御の精度が高くなり、加速域における追従遅れやオーバーシュート等が発生しにくく、安定した搬送制御を行うことができる。
【0058】
搬送負荷係数が記憶部71に記憶されていない媒体の種別については、印刷モードに応じた一定の搬送速度かつ一定の吸引負圧の下で媒体99を予備搬送し、予備搬送で出力した電流指令値を負荷特定値として測定することで取得する。予備搬送は1つの媒体の種別について異なる吸引負圧で2回行い、2回の予備搬送で取得した電流指令値と吸引負圧との2組のセットデータに基づいて搬送負荷係数μを算出する。2回の予備搬送を終えて搬送負荷係数μを記憶部71に記憶する媒体の種別については、はじめての吸引負圧であっても、3回目の予備搬送を行わない。
【0059】
なお、本実施形態の印刷装置11では、印刷装置11の電源が投入された場合と、媒体の種別を変更した場合とにおいて、排気ファン38の回転速度が「0」、つまり吸引負圧が「0」である場合に媒体99を目標搬送速度で搬送するための基準電流指令値が制御部60により算出され、記憶部71に記憶される。
【0060】
ここで、
図5を参照して、搬送負荷係数測定処理について説明する。この搬送負荷係数測定処理は、ユーザーにより自動調整モードが選択されたときに、そのときの媒体の種別に対応する搬送負荷係数が記憶部71に記憶されていない未設定である場合、制御部60により実行される処理である。ユーザーは、ロール体101から引き出した媒体99を搬送ローラー対25にニップさせるとともに媒体99の先端部をロール体102として巻取り可能な状態に巻取部18に固定した状態にセットする。ユーザーは、媒体99をセットし終わると、操作部35,170を操作して、媒体の種別と印刷モードと吸引負圧とを含む印刷条件を設定する。制御部60は、印刷ジョブで指定された媒体の種別に対応する搬送負荷係数が記憶部71に記憶されていない未設定であると判定した場合、搬送負荷係数測定処理を行う。また、制御部60は、印刷ジョブで指定された媒体の種別に対応する搬送負荷係数が記憶部71に記憶されている設定済みあると判定した場合、搬送負荷係数測定処理を行わない。この場合、制御部60は、記憶部71から読み出した媒体の種別に対応する搬送負荷係数を用いて、指定の吸引負圧の下で媒体99を搬送するときの搬送制御で指令すべき電流指令値を算出する。
【0061】
また、記憶部71には、印刷モードと搬送速度との対応関係を示す参照データが記憶されている。制御部60は、参照データを参照することで、印刷モードに応じた搬送速度を選択してもよい。あるいは、予備搬送で採用する搬送速度の情報が、予め記憶部71に記憶されていてもよい。また、記憶部71には、媒体の種別と吸引負圧との対応関係を示す参照データが記憶され、制御部60は、参照データを参照することで、媒体の種別に応じた吸引負圧を選択してもよい。このように、予備搬送で採用する吸引負圧は、ユーザーが操作部35,170を操作して選択した値が決定されてもよいし、印刷条件情報のうち1つ又は複数の情報を基に当該情報に対応する吸引負圧が決定されてもよい。制御部60は、指定された媒体の種別について搬送負荷係数が未設定であると判定すると、
図5にフローチャートで示される搬送負荷係数測定処理を実行する。このとき、第1予備搬送と第2予備搬送は、媒体99の先端部が巻取部18に固定され、搬送部14により搬送された媒体99がロール体102に巻き取られながら行われる。
【0062】
図5に示すように、ステップS11において、制御部60は、第1予備搬送処理を実行する。第1予備搬送処理は、一定の吸引負圧の下で媒体99を搬送するときの搬送負荷(以降、「第1搬送負荷」と示す。)を測定するための第1予備搬送を行う処理である。この処理において、制御部60は、排気ファン38を第1回転速度で回転させることにより第1吸引負圧を発生させる。これにより、媒体99は、吸引孔36を塞ぐ総開口面積と吸引負圧との積に相当する第1吸引力で支持部22に向かって吸引される。このとき、媒体99は第1吸引負圧により吸引方向の力を受ける。なお、制御部60は、圧力センサー39の検出圧力が第1吸引負圧になるように排気ファン38の回転速度を制御してもよい。
【0063】
また、制御部60は、初期搬送で設定された基準電流指令値を記憶部71から読み出す。基準電流指令値は、吸引部30が駆動されていない状態で、機械的な搬送負荷があっても、媒体99を定速域において目標搬送速度で搬送しうる指令値である。制御部60は、定速域で目標搬送速度に至るように設定された速度制御データを参照する。制御部60は、エンコーダー63からの信号に基づいて、媒体99の現在の搬送位置を逐次取得するとともに搬送モーター65の実速度を取得する。さらに、制御部60は、速度制御データを参照して現在の搬送位置に対応する目標速度を取得する。制御部60は、実速度を目標速度に近づけるフィードバック制御を行い、搬送負荷に応じて電流指令値を変更する。これにより、制御部60は、第1吸引負圧に応じた吸引力で支持面22Aに吸着される媒体99が吸引力に応じた搬送負荷を受ける状態の下で、搬送モーター65の実速度を目標速度に近づける補正がなされた電流指令値を出力する。そして、制御部60は、媒体99に塞がれる吸引孔36の総開口面積が一定の状態で媒体99が搬送され、かつ媒体99の搬送速度が定速域の目標搬送速度にあるときの電流指令値を第1搬送負荷に相当する電流指令値(以降、「第1電流指令値」と記す。)として取得する。制御部60は、第1電流指令値を記憶部71に記憶する。
【0064】
ここで、第1予備搬送中の媒体99が受ける摩擦力は、媒体99が支持面22A以外の部分から受ける第1摩擦力と、媒体99が支持面22Aから受ける第2摩擦力との和で示される。第2摩擦力は、媒体99が支持面22Aから受ける垂直抗力と摩擦係数との積で示される。この垂直抗力は、媒体99の自重分の第1垂直抗力と、媒体99により塞がれる吸引孔36の総開口面積と第1吸引負圧との積で表される第2垂直抗力との和で示される。
図4に示すように、媒体の種別が媒体Aである場合、第1吸引負圧p1の下で媒体99を目標搬送速度で搬送する第1予備搬送において第1電流指令値C11が得られる。
【0065】
このように、制御部60は、吸引部30が一定の第1吸引力で吸引する状態で、搬送部14に媒体99を目標搬送速度で搬送させるように搬送モーター65を制御する第1予備搬送を行う。そして、制御部60は、第1予備搬送において、媒体99の搬送負荷に応じて変化する負荷特定値の一例である電流指令値を測定する。第1予備搬送で測定された第1電流指令値は、第1吸引負圧による搬送負荷がかかる状態で媒体99を目標搬送速度で予備搬送したときの搬送モーター65の負荷電流を示す値となる。
【0066】
次に、ステップS12において、制御部60は、第2測定搬送処理を実行する。第2測定搬送処理は、一定の吸引負圧の下で媒体99を搬送するときの搬送負荷(以降、「第2搬送負荷」と示す。)を測定するための第2予備搬送を行う処理である。この処理において、制御部60は、排気ファン38を第2回転速度で回転させることにより第2吸引負圧を発生させる。これにより、媒体99は、吸引孔36を塞ぐ総開口面積と吸引負圧との積に相当する第2吸引力で支持部22に向かって吸引される。このとき、媒体99は第2吸引負圧により吸引方向の力を受ける。なお、制御部60は、圧力センサー39の検出圧力が第2吸引負圧になるように排気ファン38の回転速度を制御してもよい。
【0067】
また、制御部60は、媒体99に対応する基準電流指令値を記憶部71から読み出し、その基準電流指令値に基づく電流を搬送モーター65に出力する。この場合、制御部60は、ステップS11の処理と同様に、実速度を目標速度に近づけるフィードバック制御を行う。制御部60は、第2吸引負圧に応じた吸引力で支持面22Aに吸着される媒体99が吸引力に応じた搬送負荷を受ける状態の下で、搬送モーター65の実速度を目標速度に近づける補正がなされた電流指令値を出力する。そして、制御部60は、媒体99に塞がれる吸引孔36の総開口面積が一定の状態で媒体99が搬送され、かつ媒体99の搬送速度が定速域の目標搬送速度にあるときの電流指令値を第2搬送負荷に相当する電流指令値(以降、「第2電流指令値」と示す)として取得する。制御部60は、第2電流指令値を記憶部71に記憶する。
【0068】
ここで、第2予備搬送中の媒体99が受ける摩擦力は、媒体99が支持面22A以外の部分から受ける第1摩擦力と、媒体99が支持面22Aから受ける第2摩擦力との和で示される。第2摩擦力は、媒体99が支持面22Aから受ける垂直抗力と摩擦係数との積で示される。この垂直抗力は、媒体99の自重分の第1垂直抗力と、媒体99により塞がれる吸引孔36の総開口面積と第2吸引負圧との積で表される第2垂直抗力との和で示される。
図4に示すように、媒体の種別が媒体Aである場合、第2吸引負圧p2の下で媒体99を目標搬送速度で搬送する第2予備搬送において第2電流指令値C12が得られる。
【0069】
このように、制御部60は、吸引部30が一定の第2吸引力で吸引する状態で、搬送部14に媒体99を目標搬送速度で搬送させるように搬送モーター65を制御する第2予備搬送を行う。そして、制御部60は、第2予備搬送において媒体99の搬送負荷に応じて変化する負荷特定値の一例である電流指令値を測定する。第1予備搬送で測定された第2電流指令値は、第2吸引負圧による搬送負荷がかかる状態で媒体99を目標搬送速度で予備搬送したときの搬送モーター65の負荷電流を示す値となる。また、本実施形態では、ステップS11の第1予備搬送において媒体99を搬送させる目標搬送速度と、ステップS12の第2予備搬送において媒体99を搬送させる目標搬送速度とが同じである。
【0070】
次に、ステップS13において、制御部60は、搬送負荷係数を算出する搬送負荷係数算出処理を実行する。すなわち、
図4に示す例では、制御部60は、媒体Aの搬送負荷係数μ1を、式μ1=(C12-C11)/(p2-p1)により算出する。搬送負荷係数μ1は、
図4に示された点(p1,C11)と点(p2,C12)とを通る直線の傾きを示す。この搬送負荷係数μ1は、吸引負圧に対する電流指令値の増加率を示す係数である。搬送負荷係数μ1は、吸引負圧との積が、基準電流指令値に対する電流指令値の増分値となる係数である。搬送負荷係数μ1は、制御部60が搬送制御を行うときの指令値である電流指令値の算出に用いられる搬送パラメーターである。
【0071】
このように、制御部60は、第1予備搬送と第2予備搬送とで測定した各電流指令値と設定された各吸引力とに基づいて、吸引力に応じた搬送負荷係数を取得することとなる。また、制御部60は、各予備搬送において電流指令値に基づいて搬送負荷係数を取得するため、搬送モーター65の負荷電流に基づいて搬送負荷係数を取得するともいえる。
【0072】
次に、ステップS14において、制御部60は、算出した搬送負荷係数を、媒体の種別を示す媒体種別情報に対応するように記憶部71に記憶させる搬送負荷係数記憶処理を実行する。記憶部71には、媒体の種別と対応付けて搬送負荷係数が記憶される。
【0073】
また、ステップS15において、制御部60は、搬送負荷係数送信処理を実行する。この処理において、制御部60は、搬送負荷係数を算出した日時情報と、印刷装置11の機種を示す機種情報と、媒体の種別を示す媒体種別情報と、算出した搬送負荷係数とを、ホスト装置150を介してサーバー装置200に送信する。このように、制御部60は、取得された搬送負荷係数を、印刷装置11の機種情報と、媒体99の種別に係る媒体種別情報と合わせて、通信インターフェース61を介してサーバー装置200に送信する。なお、制御部60は、予備搬送を行ったときの条件である、目標搬送速度、吸引負圧、及び目標搬送速度にあるときに出力された測定値である電流指令値又は搬送モーター65の負荷電流値等の情報を、搬送負荷係数と一緒にサーバー装置200に送信してもよいし、あるいは、搬送負荷係数に替えてサーバー装置200に送信してもよい。後者の場合、搬送負荷係数を特定可能な電流指令値と吸引負圧との組み合わせよりなる組合せ情報が、搬送パラメーターの一例に相当する。
【0074】
一方、サーバー装置200において、制御部210は、印刷装置11から送信された情報に基づいて、算出した搬送負荷係数と、印刷装置11の機種を示す機種情報と、媒体の種別を示す媒体種別情報とを対応付けた情報を搬送負荷係数データベースとして記憶部220に記憶する。搬送負荷係数データベースでは、搬送負荷係数を算出した日時情報と、搬送負荷係数を算出した印刷装置11の機種を示す機種情報と、搬送負荷係数を算出した媒体の種別を示す媒体種別情報と、算出した搬送負荷係数とが対応付けられている。このように、印刷装置11において算出された搬送負荷係数に関する情報が搬送負荷係数データベースとしてサーバー装置200の記憶部220に記憶されることにより、搬送負荷係数に関する情報が集中的に管理できる。
【0075】
また、サーバー装置200は、複数の印刷装置11から受信した搬送負荷係数を含む情報を解析して、機種ごとに最適な搬送負荷係数を特定する。サーバー装置200は、通信インターフェース61を介して任意の印刷装置11から要求を受け付けると、その要求元の印刷装置11の機種に対応する搬送負荷係数の情報を要求元の印刷装置11に送信する。つまり、サーバー装置200は、インターネット上で登録済みの複数の印刷装置11から取得した搬送負荷係数を含む情報を解析し、その解析で得た最適な搬送負荷係数を含む有益な情報を、未設定の他の印刷装置11に提供する。搬送負荷係数は、印刷装置11ごとの個体差によって適した値が異なる場合があるため、予備搬送を行って印刷装置11ごとに個別に算出することが好ましいが、簡易自動調整モードを設け、簡易自動調整モードが選択されたときにサーバー装置200から受信した搬送負荷係数を用いて印刷時の本搬送で出力する電流指令値を算出してもよい。
【0076】
次に、
図6を参照して、制御部60が実行する印刷処理について説明する。この印刷処理は、ホスト装置150から印刷ジョブのデータを受信した場合に制御部60により実行される処理である。制御部60は、印刷ジョブに含まれる印刷条件情報を取得するか、操作部35の操作で設定された印刷条件情報を取得する。印刷条件情報には、印刷モード、媒体の種別、媒体サイズ及び吸引負圧等の情報が含まれる。
【0077】
図6に示すように、ステップS21において、制御部60は、媒体種別と吸引負圧とを取得する。本実施形態において、制御部60は、印刷条件情報に含まれる媒体種別と吸引負圧とを取得する。吸引負圧が印刷条件情報に含まれない場合、印刷条件情報のうちの他の情報を基に参照データを参照することで吸引負圧を取得してもよい。例えば、制御部60が、媒体の種別と吸引負圧との対応関係を示す参照テーブルを参照することで吸引負圧を取得してもよい。
【0078】
また、ステップS22において、制御部60は、媒体種に応じた搬送負荷係数を記憶部71から読み出すことにより取得する。また、制御部60は、媒体の種別に対応する基準電流指令値を記憶部71から読み出すことにより取得する。
【0079】
次に、ステップS23において、制御部60は、吸引負圧と搬送負荷係数とに基づいて基準電流指令値を補正することで電流指令値を算出する。具体的に、本実施形態において、制御部60は、搬送負荷係数と吸引負圧とを乗算し、乗算した結果を基準電流指令値に加算することによって、電流指令値を算出する。
【0080】
そして、ステップS24において、制御部60は、電流指令値に基づく印刷制御処理を実行する。制御部60は、吸引負圧情報に基づく吸引負圧が得られる所定の回転速度で排気ファン38を回転させる。制御部60は、圧力センサー39からの検出信号により負圧室37内の圧力が指定の吸引負圧に達したと判断した後、印刷を開始する。CPU70は、媒体99を1回の搬送動作で搬送すべき搬送距離を指定する距離指令値を駆動回路72に出力する。CPU70は、算出した電流指令値を駆動回路72に出力することにより、搬送モーター65を速度制御する。詳しくは、CPU70は、速度制御データを参照して現在の搬送位置と対応する目標速度を取得し、取得した目標速度に対応する電流指令値を逐次出力する。このときの電流指令値は、吸引負圧と搬送負荷係数とに基づいて補正された指令値である。CPU70は、エンコーダー63からの信号に基づき取得した実速度を目標速度に近づけるフィードバック制御を行う。このフィードバック制御では、基準電流指令値を出力する構成に比べ、目標速度に対する実速度の追従遅れやオーバーシュート等が発生しにくく、媒体99はほぼ目標どおりの加速度で安定に加速する。
【0081】
本実施形態では、搬送ローラー対25による送り量とロール体101からの送り量とを合わせることで、搬送ローラー対25とロール体101との間の部分の媒体99のテンションを所定範囲内に維持するシンクロ制御が行われる。搬送ローラー対25の搬送力は、媒体99のテンションが所定範囲内にあることを前提に決められている。つまり、制御部60内のCPU70が出力する基準電流指令値D0は、媒体99のテンションが所定範囲内にあることを前提に決められている。例えば、搬送ローラー対25が搬送する媒体99の実速度が目標速度よりも遅れる追従遅れやオーバーシュート等が発生すると、搬送ローラー対25による送り量とロール体101からの送り量とを合わせることができず、媒体99のテンションが所定範囲から逸脱する可能性がある。この場合、媒体99のテンションの所定範囲からの逸脱は、媒体99に皺を発生させる原因となる。これに対して、本実施形態では、制御部60内のCPU70が、吸引負圧と搬送負荷係数とに基づいて基準電流指令値D0を補正した電流指令値を出力するので、搬送中の媒体99のテンションが所定範囲内に収まり易くなる。このため、媒体99に皺が発生することが抑制される。制御部60は、エンコーダー63からの信号に基づき搬送開始位置から計測した距離が指定された目標搬送距離に達すると、搬送モーター65の駆動を停止させる。こうして1回の搬送動作が適切に行われる。
【0082】
制御部60は、媒体99を次の印刷位置まで搬送する搬送動作と、印刷部28により媒体99に1パス分の印刷を行わせる印刷動作とを交互に行うことで、媒体99に印刷ジョブに基づく画像を印刷させる。例えば、搬送ローラー対25による送り量とロール体101からの送り量とを合わせることができず、搬送ローラー対25とロール体101との間の部分の媒体99のテンションが所定範囲内から逸脱する場合、これが原因で、媒体99にできた皺が搬送動作ごとに徐々に成長する。この場合、印刷部28により印刷された媒体99の皺の部分が印刷不良となる。これに対して、本実施形態では、媒体99に皺が発生することを抑制できるので、この種の印刷不良を抑制可能である。
【0083】
次に、印刷装置11の作用について説明する。
印刷装置11では、搬送負荷係数が未設定である媒体の種別として媒体Aが指定されたとき、搬送負荷係数の算出に必要な負荷特定値を測定するために予備搬送が行われる。本実施形態では、負荷特定値は、搬送モーター65の負荷電流値である。この負荷電流値は、制御部60が搬送モーター65を速度制御するときにCPU70が駆動回路72に出力する電流指令値として取得される。
【0084】
まず、第1予備搬送において、排気ファン38が第1回転速度で回転され、第1吸引負圧p1(
図4参照)により媒体99が支持部22に向かって第1吸引力で吸引される。印刷モードに応じた目標搬送速度が設定される。CPU70は基準電流指令値を駆動回路72に出力する。駆動回路72は基準電流指令値に基づく電流を搬送モーター65に供給する。CPU70は、実速度と目標速度との差分を小さくする値に基準電流指令値を補正し、その補正した電流指令値を駆動回路72に出力するフィードバック制御を行う。このとき、媒体99には、吸引力に応じた摩擦力により搬送負荷が生じるため、その搬送負荷による目標速度に対する実速度の遅れを補う分の増分値だけ基準電流指令値よりも大きな電流指令値に補正される。そして、制御部60は、一定の目標搬送速度で媒体99を搬送する定速域で出力した電流指令値を、第1予備搬送で測定した第1電流指令値C11(
図4参照)として記憶部71に記憶する。
【0085】
次に、第2予備搬送において、排気ファン38が第2回転速度で回転され、第2吸引負圧p2(
図4参照)により媒体99が支持部22に向かって第2吸引力で吸引される。CPU70は基準電流指令値を駆動回路72に出力する。基準電流指令値に基づく電流が搬送モーター65に供給される。CPU70は、実速度と目標速度との差分を小さくする値に電流指令値を補正し、その補正した電流指令値を駆動回路72に出力するフィードバック制御を行う。このとき、媒体99には、吸引力に応じた摩擦力により搬送負荷が生じるため、その搬送負荷による目標速度に対する実速度の遅れ分を補う増分値だけ基準電流指令値よりも大きな電流指令値に補正される。そして、制御部60は、一定の目標搬送速度で媒体99を搬送する定速域で出力した電流指令値を、第2予備搬送で測定した第2電流指令値C12(
図4参照)として記憶部71に記憶する。
【0086】
そして、制御部60は、第1予備搬送における第1吸引負圧p1及び第1電流指令値C11と、第2予備搬送における第2吸引負圧p2及び第2電流指令値C12(それぞれ
図4参照)とを用いて、式μ1=(C12-C11)/(p2-p1)により、搬送負荷係数μ1を算出する。制御部60は、媒体の種別である媒体Aと紐付けて搬送負荷係数μ1を記憶部71に記憶する。また、制御部60は、搬送負荷係数μ1を、日時情報、機種情報及び媒体種別情報と合わせて、通信インターフェース61、ホスト装置150を介して、サーバー装置200に送信する。
【0087】
印刷装置11では、搬送負荷係数が未設定である媒体の種別である媒体Bが指定されたとき、搬送負荷係数の算出に必要な負荷特定値を測定するために予備搬送が行われる。すなわち、第1予備搬送と、第2予備搬送とが行われる。そして、制御部60は、第1予備搬送における第1吸引負圧p1及び第1電流指令値C21と、第2予備搬送における第2吸引負圧p2及び第2電流指令値C22(それぞれ
図4参照)とを用いて、式μ2=(C22-C21)/(p2-p1)により、搬送負荷係数μ2を算出する。制御部60は、媒体の種別である媒体Bと紐付けて搬送負荷係数μ2を記憶部71に記憶する。また、制御部60は、搬送負荷係数μ2を、日時情報、機種情報及び媒体種別情報と合わせて、通信インターフェース61、ホスト装置150を介して、サーバー装置200に送信する。
【0088】
一方、サーバー装置200では、搬送負荷係数は、日時情報、機種情報及び媒体種別情報と合わせて、搬送負荷係数データベースとして記憶部220に記憶される。これにより、搬送負荷係数は、日時情報、機種情報及び媒体種別情報に対応するように集中的に管理できる。
【0089】
また、印刷装置11では、ホスト装置150から印刷ジョブのデータを受信して本搬送が行われる場合、制御部60は、指定された媒体の種別に対応する搬送負荷係数が設定済みであるか否かを判定する。制御部60は、搬送負荷係数が設定済みであれば、媒体種に対応する搬送負荷係数を記憶部71から読み出す。制御部60は、印刷条件情報から決まる吸引負圧と搬送負荷係数とを用いて電流指令値を算出し、CPU70が算出された電流指令値を駆動回路72に出力することで搬送モーター65が速度制御される。この結果、媒体99が搬送されるときに吸引される吸引負圧が異なっても、本搬送では、媒体99の加速域で目標速度に対する実速度の追従遅れやオーバーシュート等が抑制された加速を伴って目標搬送速度に到達し、媒体99は目標搬送速度で搬送される。このため、媒体99に皺が発生することが抑制され、媒体99に高品質の画像が印刷される。
【0090】
以上、詳述したように、本実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)吸引部30による吸引力を一定とした状態で、搬送部14に媒体99を搬送させる予備搬送で媒体99の搬送負荷に応じて変化する電流指令値が測定され、その電流指令値と吸引力とに基づいて、吸引部30による吸引力に応じた搬送負荷係数を搬送パラメーターとして取得することができる。このため、吸引部30による吸引力を変更し、媒体99の搬送負荷が変化した場合であっても、搬送負荷係数を搬送パラメーターとして吸引力に応じた電流指令値を算出することができる。よって、吸引力の大きさに応じて搬送負荷が変化しても、搬送負荷に応じた適切な電流指令値に基づいて媒体99を追従遅れやオーバーシュートなく適切な速度で搬送することができる。
【0091】
(2)取得した搬送パラメーターの1つである搬送負荷係数が、媒体99の種別に係る媒体種別情報と合わせて、通信インターフェース61を介してサーバー装置200に送信される。このため、サーバー装置200は、ネットワークNTに接続された複数の印刷装置11から取得した搬送負荷係数を媒体の種別と紐付けて管理することができる。
【0092】
(3)特に、予備搬送として、吸引部30による吸引力を一定の第1吸引力とした状態で、搬送部14に媒体99を搬送させる第1予備搬送と、吸引部30による吸引力を一定の第2吸引力とした状態で、搬送部14に媒体99を搬送させる第2予備搬送とが行われる。そして、第1予備搬送で測定した第1電流指令値と、第2予備搬送で測定した第2電流指令値とに基づいて、吸引部30による吸引力に応じた搬送負荷係数を取得することができる。このため、各予備搬送で測定された電流指令値と吸引部30による吸引力とに基づく搬送負荷係数を取得することができ、媒体99を搬送負荷に応じた搬送負荷係数の精度を高めることができる。例えば、予め汎用の搬送負荷係数が記憶部71に記憶される構成である場合、搬送負荷係数には印刷装置11の個体差による影響が反映されていないため精度が低い。本実施形態では、吸引力の異なる第1予備搬送と第2予備搬送とで測定された電流指令値と吸引力とに基づいて、印刷装置11の個体差による影響が反映された搬送負荷係数を算出するので、印刷装置11の個体差に合った適切な搬送負荷係数を取得できる。
【0093】
(4)第1予備搬送と第2予備搬送とで同じ目標搬送速度で媒体99を搬送させる。よって、搬送負荷に関係する目標搬送速度という要因を同じとすることにより、吸引力と搬送負荷との関係を示す搬送負荷係数の精度を高めることができる。
【0094】
(5)各予備搬送における搬送モーター65の負荷電流値に基づいて、搬送負荷係数を取得するため、各予備搬送において媒体99に画像を印刷せずに、搬送モーター65を直接的に制御する搬送モーター65の負荷電流値から搬送負荷係数を取得することができる。
【0095】
(6)予備搬送において、排気ファン38の回転速度と電流指令値との関係を特定可能な搬送負荷係数を媒体の種別に応じて取得することができ、搬送負荷係数に基づいて吸引部30による吸引力と搬送モーター65との関係を特定可能となる。このため、媒体の種別を変更せずに、排気ファン38の回転速度を変更し、吸引部30による吸引力が変化した場合であっても、媒体の種別に対応する搬送負荷係数に基づいて、変更後の回転速度に対応する電流指令値を算出することができる。したがって、媒体の種別に対応する搬送負荷係数が取得できていれば、排気ファン38の回転速度を変更しても、回転速度に対応する電流指令値を測定する処理を実行することなく、適切な電流指令値を算出することができる。
【0096】
(7)本搬送とは別である予備搬送において、搬送負荷係数を取得することができ、予備搬送において取得した搬送負荷係数に基づいて、本搬送を行うことができる。したがって、本搬送において、最初から、搬送負荷係数に基づいて搬送モーター65の制御を行うことができ、非定常期間を短縮することができるとともに、非定常期間においても安定して搬送制御を行うことができ、本搬送における搬送精度を高めることができる。
【0097】
(第2実施形態)
次に、本発明を具体化した第2実施形態について説明する。
第1実施形態では、媒体99を目標搬送速度で搬送させるための電流指令値に基づいて、搬送負荷係数が算出されたが、第2実施形態では、目標搬送距離を指定する距離指令値が出力された場合、媒体99が実際に搬送される実搬送距離が測定され、実搬送距離に基づいて搬送負荷係数が算出される。つまり、予備搬送において、実搬送距離が負荷特定値の一例として測定される。第1予備搬送と第2予備搬送は、媒体99の先端部が巻取部18に固定され、搬送部14により搬送された媒体99がロール体102に巻き取られながら行われる。以下の説明では、既に説明した実施形態と同じ構成及び同じ制御内容について同一符号を付し、その重複する説明を省略又は簡略する。
【0098】
第2実施形態において、印刷装置11では、制御部60内のCPU70は、基準電流指令値及び距離指令値を駆動回路72に出力することで、媒体99を指定の目標搬送速度でかつ指定の搬送距離だけ搬送する搬送制御を行う。印刷条件情報に基づき目標搬送速度が決まると、目標搬送速度に応じた速度制御データに基づき基準電流指令値が決められる。基準電流指令値は、前記第1実施形態と同様に電流指令値補正用の搬送負荷係数μ1,μ2を用いて補正してもよいが、本実施形態では電流指令値については補正しない例で説明する。つまり、本実施形態の基準電流指令値は、前記第1実施形態において、排気ファン38の回転速度が「0」、つまり吸引負圧が「0」である場合の電流指令値に相当する。
【0099】
ここで、距離指令値は、目標搬送距離を指令する指令値である。駆動回路72は、CPU70から入力した距離指令値で指示された搬送距離を目標搬送距離とする。そして、駆動回路72は、電流指令値に基づく電流を供給して搬送モーター65の駆動を開始した後、エンコーダー63からの信号に基づき計測する搬送距離が目標搬送距離に達すると、搬送モーター65の駆動を停止させる。
【0100】
本実施形態では、予備搬送において、媒体99が実際に搬送された実搬送距離を負荷特定値の一例として測定する。予備搬送では、基準搬送距離だけ媒体99を搬送する。制御部60は、予備搬送を行うとき、基準搬送距離を目標搬送距離とする距離指令値を駆動回路72に出力する。ここで、基準搬送距離は、予備搬送で測定用パターンを印刷する構成である場合、予め定められた所定のパス数に相当する距離である。パス数とは、印刷部28が媒体99に液体を吐出しながら移動する走査回数を示す。予備搬送は、印刷時と同様に媒体99を間欠搬送させる構成の他、測定用パターンを印刷しない構成であれば、印刷モードに応じた目標搬送速度で媒体99を1回搬送する構成でもよい。
【0101】
媒体99が実際に搬送される実搬送距離は、吸引部30の吸引負圧に反比例する傾向にある。吸引負圧が大きくなると実搬送距離が短くなるのは、吸引負圧に応じた吸引力が媒体99に働くことで媒体99が支持面22Aから受ける摩擦力が大きくなって、搬送ローラー対25と媒体99との間に滑りが発生することによる。
【0102】
搬送負荷係数は、吸引部30による吸引力と媒体99の搬送負荷との関係を示す搬送パラメーターである。本実施形態における搬送負荷係数は、吸引負圧と実搬送距離との関係(割合)を示す係数である。搬送負荷係数は、単位吸引負圧当たりの実搬送距離の減少率を示す係数である。搬送負荷係数は、距離指令値で指令する目標搬送距離を吸引負圧に応じて補正する算出に用いられる係数である。つまり、搬送負荷係数は、距離指令値の算出に用いられる搬送パラメーターである。
【0103】
具体的には、
図7に示すように、媒体種が媒体Aである場合、搬送負荷係数がμ3である。距離D0は、基準搬送距離である。吸引負圧が「0」で媒体Aに対応する目標搬送速度で搬送モーター65が制御されるときには、搬送ローラー対25と媒体99との間に滑りがないと仮定すると、媒体99の実搬送距離が基準搬送距離D0に一致する。なお、
図7に示すグラフでは、横軸は吸引負圧を絶対値pで示しており、0<p1<px<p2の関係にある。
【0104】
搬送負荷係数μ3と吸引部30の吸引負圧pxとを乗算した結果を距離D0に加算することにより、吸引負圧pxに対応する媒体99の搬送距離D3xが算出される。なお、本実施形態において、搬送負荷係数μ3は負の係数であり、実質的には、搬送負荷係数μ3の絶対値|μ3|と吸引負圧pxとを乗算した結果を距離D0から減算することとなる。そして、距離D0を目標搬送距離とする距離指令値を出力することで媒体99を搬送した場合、基準搬送距離D0と搬送距離D3xとの差分(D0-D3x)が、吸引負圧「0」のときに比べ増加する搬送ローラー対25と媒体99との滑り量に相当する。距離D0を搬送距離D3xで徐算した搬送距離の比率が算出される。その算出された比率D0/D3xと、基準搬送距離D0とを乗算することにより、媒体の種別が媒体Aである場合、吸引負圧がpxであるときに、媒体99の目標搬送距離が算出される。
【0105】
一方、媒体の種別が媒体Bである場合、搬送負荷係数がμ4であり、この場合、搬送負荷係数μ4と吸引負圧pxとを乗算した結果を距離D0に加算することにより、吸引負圧pxに対応する媒体99の搬送距離D4xが算出される。なお、本実施形態において、搬送負荷係数μ4は負の係数である(μ4<0)。そして、基準搬送距離D0と搬送距離D4xとの差分(D0-D4x)が、吸引負圧「0」のときに比べ増加する搬送ローラー対25と媒体99との滑り量に相当する。距離D0を搬送距離D4xで徐算した搬送距離の比率が算出される。その算出された比率D0/D4xと、基準搬送距離D0とを乗算することにより、媒体の種別が媒体Bである場合、吸引負圧がpxであるときに、媒体99の目標搬送距離が算出される。
【0106】
図7では、吸引負圧「0」のときに滑りが発生している場合がある。本実施形態では、制御部60は、吸引部30の駆動時に滑り量を吸引負圧「0」のときの滑り量に合わせるべく、搬送負荷係数を用いて基準搬送距離を補正する。吸引負圧「0」のときに滑りが発生していない場合、例えば、
図7に媒体Aについて二点鎖線で示すように、吸引負圧「0」から所定負圧p0までの範囲で滑りが発生せず、実搬送距離が基準搬送距離D0と等しい一定値となる。そして、吸引負圧が所定負圧p0を超えると、滑りによって実搬送距離は吸引負圧が大きくなるほど小さくなる。吸引負圧が0~p0の範囲では媒体Aについて直線の傾きがμ3とはならず「0」になる。吸引負圧が0~p0の範囲内の吸引負圧である場合、滑りがないので、基準搬送距離D0を目標搬送距離とする。
【0107】
そのため、制御部60は、指定された吸引負圧の絶対値p(>0)が、p>p0であるか否かを判定する。p≦p0である場合、目標搬送距離を基準搬送距離D0とする。一方、p>p0である場合、指定の吸引負圧と搬送負荷係数とを用いて基準搬送距離D0を補正することで目標搬送距離を算出する。
【0108】
例えば、
図7に示す搬送負荷係数がμ3である例では、制御部60は、指定された吸引負圧の絶対値p(>0)が、p>p0であるか否かを判定する。p≦p0である場合、基準搬送距離D0を目標搬送距離とする。一方、p>p0である場合、指定の吸引負圧と搬送負荷係数とを用いて基準搬送距離D0を補正することで目標搬送距離を算出する。つまり、制御部60は、目標搬送距離Dgを、式Dg=D0・(D0/D3x)により算出する。ここで、D3xは、式D3x=D0+μ3・(px-p0)により与えられる。よって、目標搬送距離Dgは、式Dg=D0・(D0/(D0+μ3・(px-p0)))により算出される。
【0109】
図5の搬送負荷係数測定処理では、ステップS11において、制御部60は、第1予備搬送処理を実行する。第1予備搬送処理は、排気ファン38を第1回転速度で回転させることで負圧室37を第1吸引負圧としたときに媒体99を搬送するための搬送負荷(以降、「第1搬送負荷」と示す)を測定するための第1予備搬送を行う処理である。この処理において、制御部60は、排気ファン38を第1回転速度で回転させるための信号を排気ファン38に出力する。これにより、媒体99は、支持部22に向かって第1吸引力で吸引される。
【0110】
そして、制御部60は、印刷部28により測定用パターンを媒体99に印刷させる。本実施形態において、測定用パターンとしては、媒体99の搬送距離を特定可能なパターンであり、媒体99の搬送方向と交差する幅方向に延びる罫線パターンである。このため、制御部60は、第1予備搬送において搬送させる前に搬送距離の測定開始位置となる第1基準位置を特定可能な測定用パターンを媒体99に印刷させる。
【0111】
次に、制御部60は、媒体99に対応する基準電流指令値を記憶部71から読み出し、その基準電流指令値に基づく電流を搬送モーター65に出力する。この場合、制御部60は、エンコーダー63からの信号に基づいて、搬送モーター65の実速度を基準電流指令値に対応する目標速度に近づけるフィードバック制御を行う。また、制御部60は、エンコーダー63からの信号に基づいて、基準搬送距離だけ媒体99を搬送させたか否かを判定し、基準搬送距離だけ媒体99を搬送させたと判定した場合には、媒体99の搬送を終了させる。
【0112】
そして、制御部60は、印刷部28により搬送距離の測定終了位置を特定可能な測定用パターンを媒体99に印刷させる。つまり、制御部60は、第1予備搬送において媒体99を搬送させた後の第2基準位置を特定可能な測定用パターンを媒体99に印刷させる。このように、制御部60は、第1予備搬送において媒体99の搬送距離を特定可能な測定用パターンを印刷部28により媒体99に印刷させる。
【0113】
次に、制御部60は、所定の電流指令値に基づく電流を搬送モーター65に出力し、媒体99に印刷された第1基準位置と第2基準位置とが撮像部62により撮像可能な位置まで媒体99を搬送させる。そして、制御部60は、撮像部62により媒体99に印刷された測定用パターンを撮像し、撮像した画像データを記憶部71に記憶する。続いて、制御部60は、撮像した画像データを解析し、媒体99に印刷された測定用パターンの位置である第1基準位置と第2基準位置との距離を算出し、算出した距離を、第1搬送負荷で搬送されたときの第1実搬送距離として記憶部71に記憶する。このように、制御部60は、吸引部30による吸引力を一定の第1吸引力とした状態で、搬送部14に媒体99を搬送させるように搬送モーター65を制御する第1予備搬送を行い、第1予備搬送において撮像部62が媒体99に印刷された測定用パターンを撮像した撮像結果に基づいて、媒体99の搬送距離を取得する。このように、本実施形態の撮像部62は、測定用パターンを検出する検出部の一例に相当する。
【0114】
次に、ステップS12において、制御部60は、第2予備搬送処理を実行する。第2予備搬送処理は、排気ファン38を第2回転速度で回転させることで負圧室37を第2吸引負圧としたときに媒体99を搬送するための搬送負荷(以降、「第2搬送負荷」と示す)を測定するための第2予備搬送を行う処理である。この処理において、制御部60は、排気ファン38を第2回転速度で回転させるための信号を排気ファン38に出力する。これにより、媒体99は、支持部22に向かって第2吸引力で吸引される。
【0115】
そして、制御部60は、印刷部28により測定用パターンを媒体99に印刷させる。本実施形態において、測定用パターンとしては、媒体99の搬送距離を特定可能なパターンであり、媒体99の搬送方向と交差する幅方向に延びる罫線パターンである。このため、制御部60は、第1予備搬送において媒体99を搬送させる前に搬送距離の測定開始位置となる第3基準位置を特定可能な測定用パターンを媒体99に印刷させる。
【0116】
次に、制御部60は、媒体99に対応する基準電流指令値を記憶部71から読み出し、その基準電流指令値に基づく電流を搬送モーター65に出力する。この場合、制御部60は、エンコーダー63からの信号に基づいて、搬送モーター65の実速度を基準電流指令値に対応する目標速度に近づけるフィードバック制御を行う。また、制御部60は、エンコーダー63からの信号に基づいて、基準搬送距離だけ媒体99を搬送させたか否かを判定し、基準搬送距離だけ媒体99を搬送させたと判定した場合には、媒体99の搬送を終了させる。
【0117】
そして、制御部60は、印刷部28により搬送距離の測定終了位置を特定可能な測定用パターンを媒体99に印刷させる。つまり、制御部60は、第2予備搬送において媒体99を搬送させた後の第4基準位置を特定可能なように、測定用パターンを媒体99に印刷させる。このように、制御部60は、第2予備搬送において媒体99の搬送距離を特定可能な測定用パターンを印刷部28により媒体99に印刷させる。
【0118】
次に、制御部60は、所定の電流指令値に基づく電流を搬送モーター65に出力し、媒体99に印刷された第3基準位置と第4基準位置とが撮像部62により撮像可能な位置まで媒体99を搬送させる。そして、制御部60は、撮像部62により媒体99を撮像し、撮像した画像データを記憶部71に記憶する。続いて、制御部60は、撮像した画像データを解析し、媒体99に印刷された第3基準位置と第4基準位置との距離を算出し、算出した実際の距離を、第2搬送負荷で搬送されたときの第2実搬送距離として記憶部71に記憶する。このように、制御部60は、吸引部30による吸引力を一定の第2吸引力とした状態で、搬送部14に媒体99を搬送させるように搬送モーター65を制御する第2予備搬送を行い、第2予備搬送において撮像部62が媒体99の表面画像を撮像した撮像結果に基づいて、媒体99の搬送距離を取得する。本実施形態では、媒体99の搬送距離が負荷特定値の一例に相当する。
【0119】
ステップS13において、制御部60は、搬送負荷係数を算出する搬送負荷係数算出処理を実行する。この処理において、制御部60は、第1予備搬送に適用された第1吸引負圧と第2予備搬送に適用された第2吸引負圧との差分である吸引負圧の差分を算出する。また、制御部60は、第1予備搬送時に媒体99が実際に搬送された第1搬送距離と第2予備搬送時に媒体99が実際に搬送された第2搬送距離との差分である搬送距離の差分を算出する。そして、制御部60は、吸引負圧の差分と、搬送距離の差分との割合から、搬送負荷係数を算出する。このように、制御部60は、第1予備搬送と第2予備搬送とを行って測定した測定結果に基づいて搬送負荷係数を取得する。特に、制御部60は、搬送負荷係数測定処理において、2回の予備搬送の過程で媒体99に印刷されている測定用パターンが撮像部62により撮像された撮像結果からそれぞれ搬送距離を測定し、それらの測定された搬送距離データに基づいて、搬送負荷係数を取得する。ステップS14において、制御部60は、搬送負荷係数を記憶部71に記憶する。ステップS15において、制御部60は、搬送負荷係数を送信する搬送負荷係数送信処理を行う。制御部60は、日時情報、機種情報、媒体種別情報、及び搬送負荷係数を、ホスト装置150を介してサーバー装置200に送信する。
【0120】
一方、
図6の印刷処理では、ステップS21において、制御部60は、媒体種別、吸引負圧を取得する。ステップS22において、制御部60は、媒体種別に応じた搬送負荷係数を取得する。ステップS23において、制御部60は、吸引負圧と搬送負荷係数に基づいて基準距離指令値を補正することで距離指令値を算出する。具体的に、本実施形態において、制御部60は、吸引負圧と搬送負荷係数とを乗算し、乗算した結果を基準搬送距離D0に加算し、搬送距離を算出する。そして、制御部60は、媒体の種別に対応する基準距離指令値に対して、基準搬送距離を搬送距離で徐算して得られる比率を乗算することによって、距離指令値を算出する。
【0121】
次に、印刷装置11の作用について説明する。
印刷装置11では、第1予備搬送において、排気ファン38が第1回転速度で回転され、媒体99が支持部22に向かって第1吸引力で吸引される。そして、基準電流指令値に基づく電流が搬送モーター65に出力されるが、現状の駆動量が、基準電流指令値に対応する目標の駆動量となるようにフィードバック制御が行われる。また、第1予備搬送において印刷部28により測定用パターンが媒体99に印刷される。媒体99は、エンコーダー63からの信号に基づいて、基準搬送距離だけ搬送させた場合に、媒体99の搬送が終了する。また、媒体99は、吸引力に応じた摩擦力を受けることによる搬送負荷が原因で、搬送ローラー対25と媒体99との間に滑りが発生する場合、基準搬送距離よりも短い距離だけ搬送される。また、第1予備搬送では、媒体99に印刷された測定用パターンが撮像部62の撮像域に達した後、撮像部62が撮像した測定用パターンの撮像画像に基づき、撮像画像データが解析され、測定用パターン中の第1基準位置の線から第2基準位置の線までの距離である第1搬送距離D31が測定される。第1搬送距離D31は、記憶部71に記憶される。
【0122】
印刷装置11では、第2予備搬送において、排気ファン38が第2回転速度で回転され、媒体99が支持部22に向かって第2吸引力で吸引される。そして、基準電流指令値に基づく電流が搬送モーター65に出力されるが、現状の駆動量が、基準電流指令値に対応する目標の駆動量となるようにフィードバック制御が行われる。また、第2予備搬送において印刷部28により測定用パターンが媒体99に印刷される。媒体99は、エンコーダー63からの信号に基づいて、基準搬送距離だけ搬送させた場合に、媒体99の搬送が終了する。また、媒体99は、吸引力に応じた摩擦力を受けることによる搬送負荷が原因で、搬送ローラー対25と媒体99との間に滑りが発生する場合、基準搬送距離よりも短い距離だけ搬送される。また、第2予備搬送では、媒体99に印刷された測定用パターンが撮像部62の撮像域に達した後、撮像部62が撮像した測定用パターンの撮像画像に基づき、画像データが解析され、測定用パターン中の第3基準位置の線から第4基準位置の線までの距離である第2搬送距離D32が測定される。第2搬送距離D32は、記憶部71に記憶される。
【0123】
そして、第1吸引負圧p1と第2吸引負圧p2との差分が算出される。また、第1搬送距離D31と第2搬送距離D32との差分が算出される。そして、各予備搬送における吸引負圧の差分(p2-p1)と、各予備搬送における搬送距離の差分(D32-D31)とから、搬送負荷係数が算出される。つまり、搬送負荷係数μ3は、μ3=(D32-D31)/(p2-p1)により算出される。搬送負荷係数μ3は、記憶部71に記憶される。同様に、媒体の種別が異なる媒体Bについても、同じ条件で第1予備搬送と第2予備搬送が行われる。各予備搬送における吸引負圧の差分(p2-p1)と、各予備搬送における搬送距離の差分(D42-D41)とから、搬送負荷係数μ4が算出される。つまり、搬送負荷係数μ4は、μ4=(D42-D41)/(p2-p1)により算出される。搬送負荷係数μ4は、記憶部71に記憶される。また、搬送負荷係数μ3,μ4は、日時情報、機種情報及び媒体種別情報と合わせて、通信インターフェース61及びホスト装置150を介して、サーバー装置200に送信される。
【0124】
また、印刷装置11では、ホスト装置150からジョブのデータを受信して本搬送が行われる場合、媒体の種別に対応する搬送負荷係数が記憶部71から読み出された後に、吸引部30の吸引負圧と搬送負荷係数とに対応する搬送距離が算出され、算出された搬送距離に基づいて搬送モーター65が制御される。例えば、種別が媒体Aである場合、吸引負圧がpxである場合、搬送距離D0よりも短い搬送距離D3xしか搬送されなくなるので、そのとき要求される基準搬送距離D0に対してD0/D3xを乗算する補正を行って、補正後の搬送距離を取得する。制御部60は、補正後の搬送距離を目標搬送距離とする距離指令値を駆動回路72に出力する。この結果、搬送ローラー対25と媒体99との間に滑りが生じても、その滑り分の距離が余分に加えられた補正後の搬送距離だけ媒体99は搬送されるので、媒体99は、要求された基準搬送距離D0だけ搬送された目標位置で停止する。
【0125】
以上、詳述したように、本実施形態によれば、第1実施形態における(1)、(2)及び(6)に加えて、以下の効果を得ることができる。
(7)予備搬送において媒体99に印刷された測定用パターンを撮像した撮像結果に基づいて、負荷特定値の一例として搬送距離が測定される。したがって、測定された搬送距離と吸引負圧とに基づいて、吸引負圧と搬送距離との関係を示す搬送負荷係数を取得することができる。よって、吸引力と搬送距離との関係を示す搬送パラメーターを用いることで、予備搬送時と異なる吸引負圧で媒体99を搬送するときでも、搬送距離の精度を高めることができる。
【0126】
(8)また、搬送中の媒体99に作用する搬送負荷が、搬送ローラー25と媒体99との間の摩擦の限界を超えると、搬送ローラー25と媒体99との間に滑りが発生する場合もある。滑りが発生した場合、媒体99の搬送距離は、滑りが発生しない場合に比べ短くなり、目標搬送距離よりも不足する。そこで、このように、滑りが発生する場合であっても、予備搬送において、吸引負圧と媒体99の搬送距離との関係を特定可能な搬送負荷係数を媒体の種別に対応付けて取得することができる。制御部60は、搬送負荷係数と吸引部30による吸引負圧とを用いて基準搬送距離D0を補正した目標搬送距離を特定可能となる。このため、搬送負荷係数が記憶部71に記憶されている設定済みの媒体の種別であれば、予備搬送で用いられていない吸引負圧であっても、媒体の種別に対応する搬送負荷係数に基づいてその吸引負圧に対応する搬送距離を算出することができる。したがって、媒体の種別に対応する搬送負荷係数が取得できていれば、予備搬送で用いた吸引負圧と異なる値の吸引負圧が設定されても、予備搬送を行うことなく、搬送負荷係数を用いて基準搬送距離を補正することで適切な目標搬送距離を取得することができる。よって、予備搬送とは異なる吸引負圧が設定された場合でも、その吸引負圧に対応する適切な搬送距離指令値を出力することで、適切な搬送制御を行うことができる。媒体99の実搬送距離が基準搬送距離からずれにくくなるので、搬送距離の精度が高まる。したがって、媒体99の搬送位置精度が高まる。この結果、印刷位置精度の高い印刷画像を取得できる。
【0127】
なお、上記実施形態は以下に示す変更例のような形態に変更することもできる。さらに、上記実施形態および以下に示す変更例を適宜組み合わせたものを更なる変更例とすることもできるし、以下に示す変更例同士を適宜組み合わせたものを更なる変更例とすることもできる。
【0128】
・第2実施形態において、撮像部62は、未印刷の媒体99の表面を撮像し、撮像した表面画像に基づいて媒体99の移動距離を検出する構成でもよい。撮像部62は、未印刷の媒体99のテクスチャーを撮像することによって単位時間ごとにテクスチャーの一部を特徴部とし、特徴部の単位時間ごとの移動量を途中で特徴部を変更しつつ累積することで、媒体99の搬送距離を検出する。例えば、撮像部62が媒体99のテクスチャーを撮像することによって媒体99の搬送距離が測定され、媒体99の搬送距離と吸引負圧とに基づいて搬送負荷係数が算出される。このため、測定用パターンの印刷が不要になるので、予備搬送時にインク及び媒体99を消費することなく、搬送パラメーターである搬送負荷係数を取得することができる。
【0129】
・上記変更例において、撮像部62の搬送方向における配置位置は、印刷部28よりも下流の位置に替え、印刷部28よりも上流の位置でもよい。また、上記変更例において、キャリッジ29に取り付けられた撮像部62が未印刷の媒体99の表面画像を撮像する構成に替え、例えば、支持部22に埋め込まれた撮像部62が、支持部22の支持面22A上を搬送される未印刷の媒体99の裏面画像を撮像する構成でもよい。この場合、撮像部62は、媒体99の裏面のテクスチャーを撮像した撮像結果に基づき搬送距離を測定する。
【0130】
・第2実施形態において、媒体99に印刷された測定用パターンを撮像する撮像部62に替え、媒体99に印刷された測定用パターンを検出する光学式センサーでもよい。この場合、光学式センサーが検出部の一例に相当する。光学式センサーは、媒体99の地の色と測定用パターンの色との濃度差に基づく光反射率の違いを利用して測定用パターンを検出する。測定パターンは、例えば、媒体99の搬送方向と直交する複数本の線であり、搬送距離の測定開始位置である第1基準位置と測定終了位置である第2基準位置とに印刷された線を含む。制御部60は、エンコーダー63からの信号に基づき媒体99を目標搬送距離だけ搬送する予備搬送を行う。制御部60は、光学式センサーが、第1基準位置の線を検出した位置から、第2基準位置の線を検出した位置までの搬送距離を測定する。この場合、測定用パターンは媒体99に予め印刷された目盛線であってもよい。予備搬送において、制御部60は、媒体99が測定開始位置から測定終了位置まで搬送される過程で光学式センサーが検出した目盛線の数をカウンター(図示略)により計数することにより実搬送距離を計測する。印刷部28が測定用パターンである線を印刷する印刷過程と、搬送距離を測定する測定過程とで搬送条件を変えてもよい。例えば、測定過程では、吸引負圧を「0」又は極力小さな値に設定し、吸引負圧が「0」であるときと同程度の滑り量で抑えられる搬送条件としてもよい。また、測定過程の搬送速度を印刷過程の搬送速度よりも低速に設定し、測定過程における媒体99の滑りを抑制してもよい。制御部60は、光学式センサーが測定用パターンを検出した検出結果から取得された搬送距離と、媒体99に付与された吸引負圧とに基づいて、吸引負圧と搬送距離との関係を示す搬送負荷係数を取得する。このように、制御部60は、測定用パターンの検出結果に基づいて、搬送負荷係数を取得する。
【0131】
・第2実施形態において、測定用パターンが予め印刷された媒体99を搬送し、印刷部28による印刷を行わない予備搬送を行ってもよい。この場合、撮像部62は、搬送方向において印刷部28よりも上流の位置に備えられてもよい。
【0132】
・第2実施形態において、測定用パターンとして、例えば、印刷の濃淡が特定可能なパッチパターンが媒体99に印刷されてもよい。撮像部62がパッチパターンを撮像することによって媒体99の搬送距離が測定され、媒体99の搬送距離と吸引負圧とに基づいて搬送負荷係数が取得されてもよい。
【0133】
・第2実施形態において、制御部60は、予備搬送で取得した搬送距離に基づき搬送ローラー対25と媒体99との間に閾値を超える滑り量の滑りがあると判定すると、ニップ力調整機構を制御して搬送ローラー対25のニップ力を強くする調整を行ってもよい。
【0134】
・制御部60は、算出された電流指令値に基づいて、搬送モーター65を制御したが、これに限らず、例えば、給送モーター16に対する電流指令値及び巻取モーター19に対する電流指令値のうち一方又は両方を算出し、算出された電流指令値に基づいて、給送モーター16及び巻取モーター19のうち一方又は両方を制御してもよい。すなわち、予備搬送において給送モーター16又は巻取モーター19を制御する電流指令値又は給送距離あるいは巻取距離を測定し、測定した電流指令値と吸引負圧とに基づいて搬送負荷係数を算出する、又は給送距離あるいは巻取距離と吸引負圧とに基づいて搬送負荷係数を算出する。媒体の種別と紐付けて搬送負荷係数を、記憶部71に記憶するとともにサーバー装置200に送信する。制御部60内のCPU70は、媒体の種別に応じた搬送負荷係数を用いて基準電流指令値を補正した電流指令値、又は基準搬送距離を補正した目標搬送距離を指定する距離指令値を駆動回路72に出力することで、媒体99を搬送する搬送制御を行う。搬送モーター65及び給送モーター16を適切な駆動速度又は適切な駆動量で制御できるので、ロール体101と搬送ローラー対25との間の部分の媒体99のテンションを適切な範囲内に抑えることができる。また、テンションバー20を備えない構成の印刷装置11において、搬送モーター65及び巻取モーター19を適切な駆動速度又は適切な駆動量で制御できるので、搬送ローラー対25とロール体102との間の部分の媒体99のテンションを適切な範囲内に抑えることができる。
【0135】
・制御部60は、媒体の種別に対応する搬送負荷係数が記憶部71に記憶されているか否かを判定し、搬送負荷係数が記憶部71に記憶されていると判定したときには、搬送負荷係数測定処理を実行せずに、新たに搬送負荷係数を算出しなくてもよい。
【0136】
・印刷装置11において、制御部60は、ホスト装置150を介してサーバー装置200から、印刷装置11の機種及び媒体の種別に対応する搬送負荷係数を受信し、記憶部71に記憶してもよい。この場合、サーバー装置200において、印刷装置11の機種及び媒体種に対応する搬送負荷係数が記憶部220に記憶されているが、サーバー装置200に記憶されていない新たな媒体種である場合、印刷装置11はサーバー装置200から搬送負荷係数を受信できない。そこで、印刷装置11において新たな媒体種に対応する搬送負荷係数が算出されたときには、算出された搬送負荷係数が印刷装置11からサーバー装置200に送信されることにより、サーバー装置200において、制御部210は、新たな媒体の種別に対応する搬送負荷係数を記憶部220に記憶する。また、制御部210は、新たな媒体の種別に対応する搬送負荷係数を、他の印刷装置11にも送信することができる。これにより、一方の印刷装置11において算出された搬送負荷係数が、他方の印刷装置11において参照することができる。
【0137】
・制御部60は、例えば媒体99の搬送エラーなどのエラーが発生した場合、エラーが発生したことを示すエラー情報を、印刷装置11の機種、エラー発生時における媒体の種別、印刷モード、吸引負圧及び搬送負荷係数等を含む運転条件情報と共に、サーバー装置200に送信してもよい。この場合、サーバー装置200において、制御部210は、印刷装置11の機種ごとに、媒体の種別、印刷モード、吸引負圧、搬送負荷係数等の運転パラメーターとエラー情報とを対応付けて記憶部220に記憶する。サーバー装置200の制御部210は、印刷装置11の機種ごとに、エラー情報に対応する媒体の種別、印刷モード、吸引負圧及び搬送負荷係数等の運転パラメーターから、その種類のエラーが発生したときの条件を認識することができる。そして、制御部210は、エラーが発生したときの条件に基づいて、例えばエラーの発生頻度が基準頻度以上になるエラー発生条件を運転パラメーターごとに推定し、この推定結果を基にエラーの発生を回避しうるエラー回避条件をパラメーターごとに求め、記憶部220に記憶する。制御部210は、印刷装置11からエラー情報及び運転条件情報を受け付けると、エラー情報から特定されるエラー内容と運転条件情報とを、記憶部220に記憶するエラー回避条件に照らし合わせる。制御部210は、照らし合わせの結果、その種類のエラーの原因となる運転パラメーターを特定するとともに特定した運転パラメーターの推奨される設定範囲を割り出し、その割り出したエラー解消情報をホスト装置150に送信する。ホスト装置150はモニター又は印刷装置11に備えられた表示部(図示略)に、エラー解消情報に基づいて、エラーを解消するために推奨される特定のパラメーターの設定範囲を表示させる。
【0138】
・制御部60は、排気ファン38の回転速度に加えて、環境情報に基づいて搬送負荷係数を測定してもよい。環境情報としては、温度及び湿度の少なくとも何れかが採用されてもよい。この場合、例えば、印刷装置11は、温度を検知する温度検知部と、湿度を検知する湿度検知部とのうち少なくとも一方を備え、検知結果に対応する搬送負荷係数が測定されてもよい。この場合、印刷時においても、制御部60は、温度及び湿度のうち少なくとも一方の検知結果を取得し、取得した検知結果に対応する搬送負荷係数を記憶部71から読み出し、設定する電流指令値を算出する。
【0139】
・印刷装置11の機種が異なる場合であっても、吸引部30の機能などが共通する類似の機種であれば、搬送負荷係数を共有することができる。また、媒体の種別が異なる場合であっても、摩擦係数及び通気度などが共通する類似の媒体であれば、搬送負荷係数を共有することができる。
【0140】
・前記各実施形態では、第1予備搬送と第2予備搬送を行ったが、1回の予備搬送を行うだけでもよい。例えば、初期搬送のときに、吸引負圧の絶対値pがp=0のときでも滑りがあったり、p=0で滑りがなくてもp>0において滑りがあったりする構成では、初期搬送で負荷特定値を測定する構成とする。そして、制御部60は、初期搬送で測定した負荷特定値と吸引負圧「0」とを含む情報と、1回の予備搬送で測定した負荷特定値と吸引負圧(≠0)とを含む情報とを用いて搬送負荷係数を算出してもよい。
【0141】
・前記各実施形態では、第1予備搬送と第2予備搬送を行ったが、1回の予備搬送を行うだけでもよい。例えば、同じ機種の他の印刷装置11がサーバー装置200に送信した吸引負圧と負荷特定値との組合せ情報をサーバー装置200から受信する。制御部60は、サーバー装置200から受信した組合せ情報と、1回の予備搬送で測定した負荷特定値と吸引負圧とを含む組合せ情報とを用いて、搬送負荷係数を算出してもよい。
【0142】
・前記各実施形態では、第1予備搬送と第2予備搬送とを行って測定した各測定値を用いて搬送パラメーターの一例である搬送負荷係数を算出し、その搬送負荷係数を、機種情報及び媒体種別情報と合わせサーバー装置200に送信したが、搬送負荷係数をサーバー装置200に送信しない構成でもよい。例えば、搬送負荷係数に替え、予備搬送で測定した負荷特定値と吸引力(又は吸引負圧)との組合せ情報のみをサーバー装置200に送信してもよい。この場合、印刷装置11で行う予備搬送は、第1予備搬送と第2予備搬送との2回行ってもよいし、1回行うだけでもよい。また、予備搬送で測定した負荷特定値と吸引負圧との組合せ情報、及び搬送パラメーターの一例である搬送負荷係数を、媒体種別情報と合わせて、サーバー装置200に送信してもよい。なお、予備搬送で測定した負荷特定値と吸引負圧との組合せ情報は、搬送パラメーターを特定可能なパラメーター特定情報に相当する。また、パラメーター特定情報は、組合せ情報に限定されず、予備搬送で測定した負荷特定値と吸引負圧とを含む情報であればよい。
【0143】
・第1予備搬送における目標搬送速度と、第2予備搬送における目標搬送速度とが異なってもよい。例えば、異なる目標搬送速度であっても、吸引負圧が「0」であるときの搬送負荷の差が無視できる程度に小さければ、要求される精度の搬送負荷係数を取得できる。
【0144】
・前記第1実施形態では、電流指令値の搬送パラメーターを取得し、第2実施形態では、距離指令値の搬送パラメーターを取得したが、両方の搬送パラメーターを取得してもよい。すなわち、制御部60は、第1吸引力の下で媒体99を搬送する第1予備搬送において、負荷特定値の一例として、第1電流指令値と第1実搬送距離とを測定する。また、制御部60は、第2吸引力の下で媒体99を搬送する第2予備搬送において、第2電流指令値と第2実搬送距離とを測定する。制御部60は、第1電流指令値及び第1吸引力と、第2電流指令値及び第2吸引力とに基づいて電流指令値を規定する搬送パラメーターである搬送負荷係数を算出する。また、制御部60は、第1実搬送距離及び第1吸引力と、第2実搬送距離及び第2吸引力とに基づいて距離指令値を規定する搬送パラメーターである搬送負荷係数を算出する。
【0145】
・吸引部30は、吸引負圧により吸引力を発生する負圧吸引方式に替え、帯電した媒体99を静電気力により吸引する静電吸引方式としてもよい。静電吸引方式の場合、吸引部30と媒体99との間に電界を発生させてもよい。また、吸引部30のうち媒体99と対向する面に電源の高電圧側が接続される第1電極と、電源の低電圧側が接続される第2電極とを並べて配置し、第1電極と第2電極との間に電界を発生させることで静電気力を発生させてもよい。
【0146】
・前記第1実施形態では、搬送モーター65の負荷電流を電流指令値から間接的に取得したが、搬送モーター65の負荷電流をセンサーにより検出することで取得してもよい。
・前記第2実施形態において、印刷装置11が複合機である場合、測定用パターンが印刷された媒体99を、ユーザーが画像読取部にセットし、測定用パターンを画像読取部に読み取らせてもよい。この場合、制御部60は、画像読取部が読み取った画像を解析し、測定開始位置と測定終了位置とに印刷された線などの測定用パターン間の距離を実搬送距離として求める。
【0147】
・電流指令値は、搬送モーター65の負荷電流を制御するための指令値であればよく、搬送モーター65の負荷電流が制御される限りにおいて、PWM制御のデューティー値を指令する指令値でもよいし、駆動回路72に電圧を指令する指令値であってもよい。
【0148】
・前記各実施形態において、印刷装置11の制御部60がサーバー装置200に送信する情報は、媒体の種別を示す媒体種別情報と、算出した搬送負荷係数とを含めば足りる。例えば、媒体種別情報と搬送負荷係数のみでもよい。
【0149】
・印刷装置11の販売当初に既存の媒体の種別については、媒体の種別と紐付けられた搬送負荷係数が、予め記憶部71に記憶されていたり、印刷装置11の使用開始時にサーバー装置200からダウンロードされたりしてもよい。この場合、印刷装置11の販売後に発売された新しい媒体の種別については、印刷装置11が媒体99の予備搬送を行って媒体の種別と紐付けられた搬送負荷係数を取得する。なお、全ての媒体の種別について、予備搬送を行って媒体の種別に紐付けられた搬送負荷係数を取得する構成でもよい。
【0150】
・前記各実施形態において、ネットワークNTは、インターネットに限定されず、LAN(Local Area Network)でもよい。
・前記各実施形態において、外部装置は、サーバー装置200に限定されない。複数の印刷装置11と通信可能に接続されていれば、ホスト装置150でもよい。複数の印刷装置11がネットワークを介して通信可能に接続されている構成では、外部装置は、他の印刷装置でもよい。この場合、共通のネットワークに接続された印刷装置11間で搬送パラメーター又はパラメーター特定情報を送信し合うことで共有してもよい。この場合、複数の印刷装置11のうちの1台が管理用の印刷装置であり、印刷装置11は、搬送パラメーター又はパラメーター特定情報を管理用の印刷装置に送信する構成でもよい。
【0151】
・印刷装置11は、駆動ローラー25Aと従動ローラー25Bとのニップ力を切替えるニップ力調整機構を備えてもよい。この場合、制御部60がニップ力調整機構を制御することによってニップ力が切り替えられてもよいし、ユーザーにより操作レバー(図示略)が操作されることによってニップ力が切り替えられてもよい。搬送される媒体99をニップする搬送ローラー対25は、媒体99を押圧する押圧部と言える。ニップ力等の押圧部の押圧力が大きくなると、媒体99の搬送負荷が大きくなる。押圧部を一定の押圧力とした状態で媒体99を搬送させる予備搬送が行われることによって、予備搬送に基づいて搬送負荷係数が取得されてもよい。言い換えると、印刷装置11は、媒体99に対して搬送負荷を付与する搬送負荷付与部を備え、搬送負荷付与部は、吸引部30及び押圧部のうち少なくとも吸引部30を含めばよい。
【0152】
・印刷装置11は、印刷された媒体99を巻き取らない非巻取り方式が採用されてもよいし、印刷された媒体99を巻き取る巻取方式と非巻取方式とのうち一方を選択可能な構成でもよい。なお、非巻取り方式では、媒体99はカットされない長尺状のまま媒体受けユニット(図示略)内に収容されてもよいし、印刷後にカットされた媒体99を床上に置かれたシート(図示略)上に落下させてもよい。印刷装置11は、印刷後の媒体99を、巻取装置を備えた別の装置に搬送してもよい。また、印刷装置11は、給送部15を備えず、別の装置が備えた給送部15から給送された媒体99に印刷する印刷部28を備えた構成でもよい。
【0153】
・搬送経路は、側面視で台形状の搬送経路に限らず、水平に延びる全体がフラットな搬送経路など、どのような経路形状であってもよい。
・媒体99は、用紙に限定されず、合成樹脂製のフィルムやシート、布、不織布、ラミネートシートなどでもよい。また、媒体99は、ロール紙などの長尺状の媒体に限らず、単票紙でもよい。
【0154】
・印刷装置11は、印刷機能に加え、スキャナー機能及びコピー機能を有する複合機でもよい。
・上記実施形態において、ホスト装置150の機能の一部又は全部が印刷装置11に搭載されてもよい。
【0155】
・上記実施形態において、ホスト装置150を介さずに、印刷装置11とサーバー装置200とが直接的に通信可能に接続されてもよい。この場合、ホスト装置150を備えなくてもよい。
【0156】
以下、前記実施形態及び変更例から把握される技術思想を効果と共に記載する。
印刷装置は、媒体を搬送する搬送部と、前記媒体を支持する支持部にて前記媒体を吸引する吸引部と、前記支持部に支持される前記媒体に印刷を行う印刷部と、前記搬送部、前記吸引部及び前記印刷部を制御する制御部と、外部装置と通信可能な通信インターフェースと、を備え、前記制御部は、前記吸引部が一定の吸引力で吸引する状態で、前記搬送部により前記媒体を搬送させる予備搬送を行い、前記予備搬送で前記媒体の搬送負荷に応じて変化する負荷特定値を測定し、当該負荷特定値と前記吸引力とに基づいて、前記吸引部による吸引力と前記搬送負荷との関係を示す搬送パラメーターを取得し、取得した搬送パラメーター又は測定した前記負荷特定値と前記吸引力とを含むパラメーター特定情報を、前記媒体の種別に係る媒体種別情報と合わせて、前記通信インターフェースを介して前記外部装置に送信する。
【0157】
この構成によれば、吸引部が一定の吸引力で吸引する状態で、搬送部に媒体を搬送させる予備搬送で媒体の搬送負荷に応じて変化する負荷特定値が測定され、その負荷特定値と吸引力とに基づいて、吸引力と搬送負荷との関係を示す搬送パラメーターを取得することができる。搬送パラメーターは媒体の種別に対応付けて取得される。このため、吸引力と搬送負荷との関係を示すに搬送パラメーターが未知である媒体の種類についても、媒体の種別に対応する搬送パラメーターを取得することができる。例えば、制御部は、予備搬送時と異なる吸引力で媒体を搬送するときでも、予備搬送を行うことなく、搬送パラメーターに基づいて搬送部を適切に制御することができる。よって、予備搬送時と異なる吸引力で媒体を搬送するときに、予備搬送を行わなくても、媒体の種別と吸引力とに応じて媒体を適切に搬送することができる。
【0158】
また、取得した搬送パラメーター又は測定した負荷特定値と吸引力とを含むパラメーター特定情報が、媒体の種別に係る媒体種別情報と合わせて、通信インターフェースを介して外部装置に送信される。よって、媒体の種別と紐付けられた搬送パラメーターを外部装置と共有することができる。
【0159】
上記印刷装置においては、前記制御部は、前記予備搬送として、前記吸引部が一定の第1吸引力で吸引する状態で、前記搬送部により前記媒体を搬送させる第1予備搬送を行い、前記吸引部が一定の第2吸引力で吸引する状態で、前記搬送部により前記媒体を搬送させる第2予備搬送を行い、前記第1予備搬送で測定した第1負荷特定値及び前記第1吸引力と、前記第2予備搬送で測定した第2負荷特定値及び前記第2吸引力とに基づいて、前記搬送パラメーターを取得してもよい。
【0160】
この構成によれば、予備搬送として、吸引部が一定の第1吸引力で吸引する状態で媒体を搬送させる第1予備搬送で測定した第1負荷特定値及び第1吸引力と、吸引部が一定の第2吸引力で吸引する状態で媒体を搬送させる第2予備搬送で測定した第2負荷特定値及び第2吸引力とに基づいて、吸引部による吸引力と搬送負荷との関係を示す搬送パラメーターを取得することができる。このため、印刷装置の個体差に合った適切な搬送パラメーターを取得することができる。
【0161】
上記印刷装置においては、前記第1予備搬送において前記媒体を搬送させる目標搬送速度と、前記第2予備搬送において前記媒体を搬送させる目標搬送速度とが同じであってもよい。
【0162】
この構成によれば、第1予備搬送と第2予備搬送とで同じ目標搬送速度で媒体を搬送させることにより、搬送負荷に関係する目標搬送速度という要因を同じとすることにより、媒体を搬送負荷に応じた搬送パラメーターの精度を高めることができる。
【0163】
上記印刷装置においては、前記搬送部は、前記制御部により駆動が制御される搬送モーターを有し、前記負荷特定値は、前記搬送モーターの負荷電流値であり、前記制御部は、前記予備搬送における前記搬送モーターの負荷電流値と前記吸引力とに基づいて前記搬送パラメーターを取得してもよい。なお、センサー等により搬送モーターの負荷電流値を直接測定してもよいし、搬送モーターを制御するための指令値から搬送モーターの負荷電流を間接的に測定してもよい。
【0164】
この構成によれば、予備搬送において搬送モーターの負荷電流値を測定することにより、吸引力と負荷電流値との関係を示す搬送パラメーターを取得することができる。よって、搬送パラメーターを用いることで、予備搬送時と異なる吸引力で媒体を搬送するときでも、搬送モーターに供給すべき電流値の精度を高めることができる。
【0165】
上記印刷装置においては、前記媒体の表面を撮像する撮像部を備え、前記負荷特定値は、前記媒体の搬送距離であり、前記制御部は、前記予備搬送において前記撮像部が前記媒体の表面を撮像した撮像結果に基づいて、前記媒体の搬送距離を測定し、当該搬送距離と前記吸引力とに基づいて前記搬送パラメーターを取得してもよい。
【0166】
この構成によれば、予備搬送において媒体の表面を撮像した撮像結果に基づいて、媒体の搬送負荷に応じて変化する負荷特定値として搬送距離が測定される。測定された搬送距離と吸引力とを用いて吸引力と搬送距離との関係を示す搬送パラメーターを取得することができる。よって、搬送パラメーターを用いることで、予備搬送時と異なる吸引力で媒体を搬送するときでも、搬送距離の精度を高めることができる。
【0167】
上記印刷装置においては、前記媒体に搬送距離を特定可能に印刷された測定用パターンを検出する検出部を備え、前記負荷特定値は、前記媒体の搬送距離であり、前記制御部は、前記予備搬送において前記測定用パターンを前記印刷部により前記媒体に印刷させ、前記検出部が前記媒体の前記測定用パターンを検出した検出結果に基づいて、前記媒体の搬送距離を取得し、当該搬送距離と前記吸引力とに基づいて前記搬送パラメーターを取得してもよい。
【0168】
この構成によれば、予備搬送において媒体の搬送距離を特定可能な測定用パターンが媒体に印刷された結果、媒体の測定用パターンを検出した検出結果に基づいて、媒体の搬送負荷に応じて変化する搬送距離が測定される。測定された搬送距離と吸引力とを用いて吸引力と搬送距離との関係を示す搬送パラメーターを取得することができる。よって、搬送パラメーターを用いることで、予備搬送時と異なる吸引力で媒体を搬送するときでも、搬送距離の精度を高めることができる。
【符号の説明】
【0169】
11…印刷装置、14…搬送部、25…搬送ローラー対、25A…駆動ローラー、22…支持部、28…印刷部、30…吸引部、35…操作部、36…吸引孔、37…負圧室、38…排気ファン、39…圧力センサー、60…制御部、61…通信インターフェース、62…撮像部、63…エンコーダー、65…搬送モーター、70…CPU、71…記憶部、72…駆動回路、99…媒体、170…操作部、200…外部装置の一例であるサーバー装置、210…制御部。