(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】樹脂状態推定装置および成形条件決定支援装置
(51)【国際特許分類】
B29C 45/76 20060101AFI20240409BHJP
B29C 45/00 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
B29C45/76
B29C45/00
(21)【出願番号】P 2020098737
(22)【出願日】2020-06-05
【審査請求日】2023-05-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】溝口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】大久保 勇佐
(72)【発明者】
【氏名】立花 幸子
(72)【発明者】
【氏名】馬場 紀行
(72)【発明者】
【氏名】木村 幸治
(72)【発明者】
【氏名】足立 智也
【審査官】▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】特開平8-118443(JP,A)
【文献】特開2020-049843(JP,A)
【文献】特開平3-266622(JP,A)
【文献】特開2020-049929(JP,A)
【文献】特表2008-506564(JP,A)
【文献】特開2014-069382(JP,A)
【文献】特開2017-030152(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00-45/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
射出成形機の型のキャビティ内の樹脂の溶融状態を推定する樹脂状態推定装置であって、
前記射出成形機に取り付けられたセンサにより成形時に検出された検出データを取得する検出データ取得部と、
前記検出データに基づいて、前記検出データに関する複数種の特徴量により構成される特徴量群を生成する特徴量生成部と、
前記射出成形機において制御に用いる複数種の制御パラメータ値により構成される制御パラメータ値群を取得する制御パラメータ取得部と、
前記樹脂の溶融状態が前記特徴量群および前記制御パラメータ値群により表されると定義して、前記特徴量群および前記制御パラメータ値群に基づいて、それぞれの前記特徴量に対応する前記樹脂の溶融状態を表す樹脂状態識別パラメータ値を演算する識別パラメータ値演算部と、
前記樹脂の溶融状態が複数のグループに分類されると定義した場合に、前記樹脂状態識別パラメータ値に基づいて、前記樹脂状態識別パラメータ値を説明変数とする多変量解析を適用することにより、前記樹脂の溶融状態のグループを取得するグループ取得部と、
を備える、樹脂状態推定装置。
【請求項2】
前記樹脂状態推定装置は、さらに、
前記樹脂状態識別パラメータ値を説明変数とし、前記樹脂の溶融状態のグループを目的変数とし、前記多変量解析としてクラスター解析を適用し、前記説明変数および前記目的変数を含む訓練データセットを用いて前記クラスター解析の機械学習を行うことにより生成された学習済みモデルを記憶する学習済みモデル記憶部を備え、
前記グループ取得部は、前記樹脂状態識別パラメータ値を入力した場合に、前記学習済みモデルの出力としての前記樹脂の溶融状態のグループを取得する、請求項1に記載の樹脂状態推定装置。
【請求項3】
前記識別パラメータ値演算部は、式(1)(2)により、前記樹脂状態識別パラメータ値を演算する、請求項1または2に記載の樹脂状態推定装置。
【数1】
【数2】
【請求項4】
前記識別パラメータ値演算部は、それぞれの前記特徴量において、前記特徴量と当該特徴量に対して影響度の高い1または複数の前記制御パラメータ値とを用いて、当該特徴量に対応する前記樹脂状態識別パラメータ値を演算する、請求項1-3の何れか1項に記載の樹脂状態推定装置。
【請求項5】
前記特徴量に対して影響度の高い1または複数の前記制御パラメータ値は、対象の前記特徴量と前記制御パラメータ値群とを用いて機械学習により抽出される、請求項4に記載の樹脂状態推定装置。
【請求項6】
前記樹脂状態推定装置は、さらに、
前記説明変数および前記目的変数を含む訓練データセットを用いて前記クラスター解析の機械学習を行うことにより、前記学習済みモデルを生成する学習済みモデル生成部を備え、
前記学習済みモデル生成部は、
前記樹脂の溶融状態のグループ数を初期設定数に設定した状態で、取得した前記検出データについての前記樹脂の溶融状態のグループを取得し、
取得した前記樹脂の溶融状態のグループに対応する前記制御パラメータ値の修正量に基づいて前記制御パラメータ値を修正した場合に、成形品の品質が所定範囲を満たすか否かを判定し、
前記成形品の品質が所定範囲を満たさない場合には、前記グループ数を増加させて、前記樹脂の溶融状態のグループの取得および前記成形品の品質が所定範囲を満たすか否かの判定を繰り返し、前記成形品の品質が所定範囲を満たすときのグループ数を、前記学習済みモデルにおけるグループ数に設定する、請求項2に記載の樹脂状態推定装置。
【請求項7】
射出成形機の型のキャビティに樹脂を溶融した溶融材料を供給することにより成形品を成形する成形方法に適用され、前記成形品の成形条件を決定する成形条件決定支援装置であって、
請求項1-6の何れか1項に記載の樹脂状態推定装置と、
前記検出データに基づいて機械学習により前記成形品の品質を推定する品質推定部と、
推定された前記成形品の品質を蓄積し、蓄積された複数個の前記成形品についての品質推移を記憶する品質推移記憶部と、
前記品質推移に基づいて所定の品質基準に対する品質変化傾向を評価する傾向評価部と、
前記品質変化傾向と前記品質を前記品質基準に戻すための成形条件の修正量との関係を、前記樹脂の溶融状態のグループに対応付けて記憶する関係記憶部と、
前記傾向評価部により評価された前記品質変化傾向と、前記グループ取得部により取得された前記樹脂の溶融状態のグループと、前記関係記憶部に記憶されている前記関係とに基づいて、前記成形条件の修正量を決定する修正条件決定部と、
を備える、成形条件決定支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂状態推定装置および成形条件決定支援装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
射出成形機の型のキャビティに樹脂を溶融した溶融材料を供給することにより成形品を成形する方法において、不良品が発生した場合には、作業者は、成形条件を修正する必要がある。成形条件の修正には、熟練技術が要求される。未熟練者にとっては、どの成形条件をどの程度変更するべきかについて判断することが容易ではない。
【0003】
そこで、近年では人工知能に関する研究が進んでおり、例えば、特許文献1,2には、機械学習により成形条件の修正量を決定することが開示されている。特許文献1に記載の技術においては、成形品の品質の種と成形条件の種との関係を機械学習により取得しておくことにより、ある品質の種において不良が発生した場合に、どの成形条件を修正すれば良いかが出力される。特許文献2に記載の技術においては、成形機に取り付けられたセンサにより成形時に検出された検出データに基づいて、機械学習により、成形条件の修正量を決定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-49843号公報
【文献】特開2020-49929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、射出成形においては、キャビティ内の樹脂の溶融状態によって成形品の品質が異なることが分かった。例えば、キャビティ内の樹脂の流動性が高い状態と、流動性が低い状態とでは、出来上がる成形品の品質が異なる。
【0006】
キャビティ内の樹脂の溶融状態は、射出成形機において制御に用いる制御パラメータに影響を受けるのは当然ではあるが、その他の要因、例えば、射出成形機を構成する部品の構成や機能、環境温度等の影響を受けると考えられる。つまり、キャビティ内の樹脂の溶融状態を把握することができれば、成形条件の適切な修正量を決定することができるようになる。しかしながら、キャビティ内の樹脂の溶融状態を把握することは容易ではない。
【0007】
本発明は、キャビティ内の樹脂の溶融状態を推定することができる樹脂状態推定装置を提供することを目的の一つとする。さらに、樹脂状態推定装置を用いて、成形品の品質を品質基準に近づけるように成形条件を修正することができる成形条件決定支援装置を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1.樹脂状態推定装置)
樹脂状態推定装置は、射出成形機の型のキャビティ内の樹脂の溶融状態を推定する樹脂状態推定装置であって、射出成形機に取り付けられたセンサにより成形時に検出された検出データを取得する検出データ取得部と、検出データに基づいて、検出データに関する複数種の特徴量により構成される特徴量群を生成する特徴量生成部と、射出成形機において制御に用いる複数種の制御パラメータ値により構成される制御パラメータ値群を取得する制御パラメータ取得部と、樹脂の溶融状態が特徴量群および制御パラメータ値群により表されると定義して、特徴量群および制御パラメータ値群に基づいて、それぞれの特徴量に対応する樹脂の溶融状態を表す樹脂状態識別パラメータ値を演算する識別パラメータ値演算部と、樹脂の溶融状態が複数のグループに分類されると定義した場合に、樹脂状態識別パラメータ値に基づいて、樹脂状態識別パラメータ値を説明変数とする多変量解析を適用することにより、樹脂の溶融状態のグループを取得するグループ取得部とを備える。
【0009】
射出成形機に取り付けられたセンサにより成形時に検出される検出データは、射出成形機の制御パラメータと、キャビティ内の樹脂の溶融状態との影響を受けると考える。換言すると、樹脂の溶融状態が、検出データから生成される特徴量群および制御パラメータ値群により表されると定義している。
【0010】
この定義を利用して、識別パラメータ値演算部が、検出データの特徴量群および制御パラメータ値群に基づいて、それぞれの特徴量に対応する樹脂の溶融状態を表す樹脂状態識別パラメータ値を演算する。つまり、樹脂状態識別パラメータ値は、特徴量の種類数と同数だけ生成される。
【0011】
そして、グループ取得部が、樹脂の溶融状態が複数のグループに分類されると定義した場合に、樹脂状態識別パラメータ値に基づいて、樹脂状態識別パラメータ値を説明変数とする多変量解析を適用することにより、樹脂の溶融状態のグループを取得する。ここで、樹脂の溶融状態のグループは、明確に定義する必要はないが、例えば、流動性の程度を要素の1つとして分類することができる。
【0012】
つまり、樹脂状態推定装置によれば、検出データと制御パラメータとを用いて演算処理を行うことにより、当該成形品の成形時におけるキャビティ内の樹脂の溶融状態のグループ、例えば、樹脂の流動性の程度等を要素の1つとして分類することができる。このようにキャビティ内の樹脂の溶融状態のグループ分けができることにより、当該グループに応じた成形条件の修正量を決定することができる。
【0013】
(2.成形条件決定支援装置)
成形条件決定支援装置は、射出成形機の型のキャビティに樹脂を溶融した溶融材料を供給することにより成形品を成形する成形方法に適用され、成形品の成形条件を決定する成形条件決定支援装置であって、上述した樹脂状態推定装置と、検出データに基づいて機械学習により成形品の品質を推定する品質推定部と、推定された成形品の品質を蓄積し、蓄積された複数個の成形品についての品質推移を記憶する品質推移記憶部と、品質推移に基づいて所定の品質基準に対する品質変化傾向を評価する傾向評価部と、品質変化傾向と品質を品質基準に戻すための成形条件の修正量との関係を、樹脂の溶融状態のグループに対応付けて記憶する関係記憶部と、傾向評価部により評価された品質変化傾向と、グループ取得部により取得された樹脂の溶融状態のグループと、関係記憶部に記憶されている関係とに基づいて、成形条件の修正量を決定する修正条件決定部とを備える。
【0014】
つまり、上述した樹脂状態推定装置により取得された樹脂の溶融状態のグループを用いて、成形条件の修正量を決定している。これにより、適切な成形条件の修正量を容易に決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】第一例の成形機システムの全体構成を示す図である。
【
図2】制御パラメータ、樹脂の溶融状態、検出データの関係を示す図である。
【
図3】樹脂状態識別パラメータ値の関係式を模式的に表現したものである。
【
図5】樹脂の溶融状態のグループを示す模式図である。
【
図6】樹脂状態推定装置の機能ブロック構成を示す図である。
【
図7】第二例の成形機システムの全体構成を示す図である。
【
図8】成形条件決定支援装置の機能ブロック構成を示す図である。
【
図11】樹脂の溶融状態のグループを示す図である。
【
図12】品質のずれ度合いと修正量との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(1.適用対象)
樹脂状態推定装置および成形条件決定支援装置は、射出成形機の型のキャビティに、成形材料(樹脂)を溶融した溶融材料を供給することにより、成形品を成形する成形方法に適用される。成形材料である樹脂については、単体のポリアミド等の熱可塑性樹脂や、熱可塑性樹脂の基材に充填剤を添加した強化樹脂を例示することができる。充填剤としては、ミクロンサイズまたはナノサイズのフィラーを挙げることができる。フィラーとしては、例えば、ガラス繊維や炭素繊維等を挙げることができる。
【0017】
(2.第一例の成形機システム1A)
樹脂状態推定装置3を含む第一例の成形機システム1Aについて、
図1を参照して説明する。
図1に示すように、成形機システム1Aは、射出成形機2(以下、「成形機」とする)と、樹脂状態推定装置3とを備える。
【0018】
成形機2は、樹脂の成形品を成形する。樹脂状態推定装置3は、成形機2の型40のキャビティC内の樹脂の溶融状態を推定する。推定された樹脂の溶融状態は、例えば、成形機2における成形条件を決定するために用いられる。
【0019】
樹脂状態推定装置3は、成形機2とは別体の装置としても良いし、成形機2の組込み装置としても良い。また、樹脂状態推定装置3は、一部を成形機2に組み込み、残りを成形機2とは別体としても良い。樹脂状態推定装置3の全部または一部が成形機2と別体である場合において、当該別体部分は、1つの成形機2のみに接続される構成としても良いし、複数の成形機2に接続される構成としても良い。後者の場合には、樹脂状態推定装置3の当該別体部分と複数の成形機2とは、同一ネットワークを構成し、相互に通信可能な構成となる。
【0020】
(3.成形機2)
(3-1.成形機2の構成)
成形機2の構成について
図1を参照して説明する。成形機2は、ベッド20と、射出装置30と、型40と、型締装置50と、制御装置60とを主に備える。
【0021】
射出装置30は、ベッド20上に配置される。射出装置30は、成形材料(樹脂)を溶融し、溶融材料に圧力を加えて溶融材料を型40のキャビティに供給する装置である。射出装置30は、ホッパ31と、加熱シリンダ32と、スクリュ33と、ノズル34と、ヒータ35と、駆動装置36と、射出装置用センサ37とを主に備える。
【0022】
ホッパ31は、成形材料の素材であるペレット(粒状の成形材料)の投入口である。加熱シリンダ32は、ホッパ31に投入されたペレットを加熱溶融してできた溶融材料を加圧する。また、加熱シリンダ32は、ベッド20に対して加熱シリンダ32の軸方向に移動可能に設けられる。スクリュ33は、加熱シリンダ32の内部に配置され、回転可能かつ軸方向への移動可能に設けられる。ノズル34は、加熱シリンダ32の先端に設けられた射出口であり、スクリュ33の軸方向移動によって、加熱シリンダ32の内部の溶融材料を型40に供給する。
【0023】
ヒータ35は、例えば、加熱シリンダ32の外側に設けられ、加熱シリンダ32の内部のペレットを加熱する。駆動装置36は、加熱シリンダ32の軸方向への移動、スクリュ33の回転および軸方向移動等を行う。射出装置用センサ37は、溶融材料の貯留量、保圧力、保圧時間、射出速度、駆動装置36の状態等を取得するセンサを総称する。ただし、射出装置用センサ37は、上記に限られず、種々の情報を取得するようにしても良い。
【0024】
型40は、固定側である第一型41と、可動側である第二型42とを備えた金型である。型40は、第一型41と第二型42とを型締めすることで、第一型41と第二型42との間にキャビティCを形成する。第一型41は、ノズル34から供給された溶融材料をキャビティCまで導く供給路43(スプルー、ランナー、ゲート)を備える。さらに、型40は、圧力センサ44および温度センサ45を備える。圧力センサ44は、供給路43における溶融材料から受ける圧力を検出する。温度センサ45は、供給路43における溶融材料の温度を直接検出する。
【0025】
型締装置50は、ベッド20上において射出装置30に対向配置される。型締装置50は、装着された型40の開閉動作を行うと共に、型40を締め付けた状態において、キャビティCに射出された溶融材料の圧力により型40が開かないようにする。
【0026】
型締装置50は、固定盤51、可動盤52、ダイバー53、駆動装置54、型締装置用センサ55を備える。固定盤51には、第一型41が固定される。固定盤51は、射出装置30のノズル34に当接可能であり、ノズル34から射出される溶融材料を型40へ導く。可動盤52には、第二型42が固定される。可動盤52は、固定盤51に対して接近および離間可能である。ダイバー53は、可動盤52の移動を支持する。駆動装置54は、例えば、シリンダ装置によって構成されており、可動盤52を移動させる。型締装置用センサ55は、型締力、金型温度、駆動装置54の状態等を取得するセンサを総称する。
【0027】
制御装置60は、射出装置30の駆動装置36および型締装置50の駆動装置54を制御する。例えば、制御装置60は、射出装置用センサ37および型締装置用センサ55から各種情報を取得して、動作指令データに応じた動作を行うように、射出装置30の駆動装置36および型締装置50の駆動装置54を制御する。
【0028】
(3-2.成形方法)
成形機2による成形品の成形方法について説明する。成形機2による成形方法では、1サイクルにおいて、計量工程、型締工程、射出充填工程、保圧工程、冷却工程、離型取出工程が順次実行される。つまり、次の成形品の成形において、再び、上記工程が順次実行される。ここで、計量工程および型締工程は、開始準備工程を構成し、射出充填工程、保圧工程、および、冷却工程は、成形工程を構成し、離型取出工程は、終了処理工程を構成する。なお、離型取出工程の初期(型開放直後)を成形工程に含めるようにし、後期を終了処理工程としても良い。
【0029】
計量工程において、ヒータ35の加熱およびスクリュ33の回転に伴うせん断摩擦熱によってペレットが溶融されながら、溶融材料が加熱シリンダ32の先端とノズル34との間に貯留される。溶融材料の貯留量の増加に伴ってスクリュ33が後退するため、スクリュ33の後退位置から溶融材料の貯留量の計量が行われる。
【0030】
計量工程に続く型締工程では、可動盤52を移動させて、第一型41に第二型42を合わせ、型締めを行う。さらに、加熱シリンダ32を軸方向に移動させて型締装置50に近づけ、ノズル34を型締装置50の固定盤51に接続する。続いて、射出充填工程において、スクリュ33の回転を停止した状態において、スクリュ33をノズル34に向けて所定の押し込み力で移動させることにより、溶融材料を高い圧力で型40に射出充填する。キャビティCに溶融材料が充填されると、引き続き、保圧工程に移行する。
【0031】
保圧工程では、キャビティCに溶融材料が充填された状態でさらに溶融材料をキャビティCに押し込み、キャビティC内の溶融材料に所定の圧力(保圧力)を所定時間加える保圧処理を行う。具体的には、スクリュ33に一定の押し込み力を付与することにより、溶融材料に所定の保圧力を付与する。
【0032】
そして、所定の保圧力により所定時間の保圧処理を行った後、冷却工程へ移行する。冷却工程では、溶融材料の押し込みを停止して保圧力を減少させる処理を行い、型40を冷却する。型40を冷却することにより、型40に供給された溶融材料が固化する。最後に、離型取出工程において、第一型41から第二型42を離間させて、成形品を取り出す。
【0033】
(4.樹脂の溶融状態の推定の基本)
キャビティC内における樹脂の溶融状態の推定の基本について、
図2-
図5を参照して説明する。本例では、樹脂の溶融状態が複数のグループに分類されると定義しており、樹脂の溶融状態の推定として、樹脂の溶融状態のグループを推定することとする。
【0034】
図2には、制御パラメータと樹脂の溶融状態とが、成形時の検出データに影響を及ぼすことを表している。ここで、樹脂の溶融状態は、成形材料の素材の含有成分に依存する。例えば、成形材料の素材における含有成分のばらつきには、水分量、強化繊維の長さ、強化繊維の割合、主成分の分子量等が含まれる。そして、上記のとおり、キャビティC内における樹脂の溶融状態は、成形時における検出データに影響を及ぼす。
【0035】
詳細には、成形機2に取り付けられたセンサ44,45により成形時に検出される検出データは、成形機2において制御に用いる制御パラメータと、キャビティC内の樹脂の溶融状態との影響を受けると考える。換言すると、樹脂の溶融状態は、検出データと制御パラメータとに影響を受ける。
【0036】
上記関係について、値を持つ関係式として表現したものが、
図3となる。ここで、成形時の検出データに関する値としての情報は、検出データに関する複数種の特徴量により構成される特徴量群[F]とする。特徴量とは、各成形工程(射出充填工程、保圧工程、冷却工程等)における圧力センサ44の検出データにおける統計量(最大値、最小値、平均値、分散、微分の最大値、微分の最小値、積分値等)、各成形工程における温度センサ45の検出データにおける上記統計量である。圧力センサ44および温度センサ45が、複数個設けられる場合には、それぞれのセンサ44,45における統計量を特徴量とする。このように、多数の特徴量を得ることができ、これら複数種の特徴量を、まとめて特徴量群[F]と称する。
【0037】
例えば、
図4に示す圧力センサ44の検出データを用いて、特徴量の一部を説明する。圧力センサ44の検出データにおいて、
図4に示すように、時刻T1は、充填開始時刻、時刻T2は、充填終了時刻であり保圧開始時刻、時刻T3は、保圧終了時刻であり冷却開示時刻、時刻T4は、冷却終了時刻であり型開放時刻である。つまり、T1-T2間が射出充填工程であり、T2-T3間が保圧工程であり、T3-T4間が冷却工程である。
図4には、保圧工程における圧力最大値はPmaxであり、保圧工程における圧力積分値である保圧面積はSaであり、冷却工程における圧力積分値である冷却面積はSbである。そして、最大値Pmax、保圧面積Sa、冷却面積Sbが、特徴量の一部である。
【0038】
また、制御パラメータに関する値としての情報は、成形機2において制御に用いる複数種の制御パラメータ値そのものであって、複数種の制御パラメータ値により構成される制御パラメータ値群[A]とする。なお、それぞれの制御パラメータ値の単位は、制御パラメータ値の桁数が設定された所定値となるように調整されるようにしても良い。制御パラメータ値の種類は、例えば、射出速度、保圧力、保圧時間、保圧時の型温度、冷却時間、ノズル温度、射出圧力(ノズル圧力)等である。
【0039】
また、樹脂の溶融状態に関する値としての情報は、樹脂の溶融状態を表す樹脂状態識別パラメータ値とする。ここで、樹脂状態識別パラメータ値は、値そのものが意味を有するというものではなく、樹脂の溶融状態のグループ分けに用いる指標である。そして、樹脂状態識別パラメータ値は、それぞれの特徴量に対応する値である。つまり、樹脂状態識別パラメータ値は、特徴量の種類数と同数だけ存在する。そこで、複数種の樹脂状態識別パラメータ値を、樹脂状態識別パラメータ値群[P]とする。
【0040】
そして、
図3に示すように、樹脂状態識別パラメータ値群[P]は、成形時の検出データの特徴量群[F]と、制御パラメータ値群[A]とにより表される。詳細には、樹脂状態識別パラメータ値群[P]は、成形時の検出データの特徴量群[F]を、制御パラメータ値群[A]により除算した値として定義される。
【0041】
ここで、数式として表現したものが式(1)となる。式(1)のただし書きに示すように、樹脂状態識別パラメータ値群[P]、特徴量群[P]、制御パラメータ値群[A]は、それぞれ、樹脂状態識別パラメータ値P1-Pm、特徴量F1-Fm、制御パラメータ値A(F1)-A(Fm)により表される行列である。
【0042】
【0043】
制御パラメータ値A(F1)-A(Fm)は、式(2)により表される。制御パラメータ値A(Fj)は、複数の制御パラメータ値Akの総乗値である。制御パラメータ値A(Fj)は、以下に説明する2種類のうち何れか1つを適用する。
【0044】
【0045】
第一の制御パラメータ値A(Fj)は、全ての制御パラメータ値Akの総乗値である。例えば、A(F1)、A(F2)は、式(3)(4)に示すようになる。
【0046】
【0047】
【0048】
第二の制御パラメータ値A(Fj)は、一部の制御パラメータ値Akの総乗値である。例えば、A(F1)、A(F2)は、式(3)(4)に示すようになる。
【0049】
【0050】
【0051】
第二の制御パラメータ値A(Fj)において、一部の制御パラメータ値Akは、特徴量Fjに影響度の高い1または複数の制御パラメータ値である。
【0052】
続いて、多数の検出データを用いてそれぞれの検出データについての樹脂状態識別パラメータ値群が得られると、樹脂状態識別パラメータ値群を用いて多変量解析を行うことにより、樹脂の溶融状態のグループ分けが行われる。つまり、複数種の樹脂状態識別パラメータ値をそれぞれ説明変数とする多変量解析を行う。
【0053】
説明を容易にするために、仮に、樹脂状態識別パラメータ値がP1,P2の2種類とする。この場合、
図5に示すように、P1,P2を説明変数とする二次元座標系にて表される。この二次元座標系に、それぞれの検出データについてのP1,P2の点がプロットされる。
【0054】
図5は、学習フェーズにおいて取得した検出データと制御パラメータ値とを用いて得られた樹脂状態識別パラメータ値をプロットしたものであり、樹脂の溶融状態のグループが、例えば、2個のグループG1,G2に分けられている。この場合、新たに取得した検出データと制御パラメータ値とを用いて得られた樹脂の溶融状態のグループが、G1,G2の何れかに分類される。
【0055】
特に、樹脂状態識別パラメータ値を説明変数とし、樹脂の溶融状態のグループを目的変数とし、多変量解析としてクラスター解析を適用すると良い。この場合、説明変数および目的変数を含む訓練データセットを用いてクラスター解析の機械学習を行うことにより、学習済みモデルを生成することができる。そして、生成された学習済みモデルを用いて、樹脂の溶融状態のグループを決定することができる。
【0056】
ここで、クラスター解析において、樹脂の溶融状態のグループ数は、予め設定されている。つまり、予め設定されたグループ数に分類するように、学習済みモデルが生成される。なお、グループ数は、後述するが、樹脂の溶融状態のグループ毎に設定された成形条件の修正量によって成形条件を修正した場合に、所望の成形品の品質が得られることが可能となる数に設定すると良い。
【0057】
(5.樹脂状態推定装置3の構成)
樹脂状態推定装置3の構成について
図6を参照して説明する。樹脂状態推定装置3は、上述した樹脂の溶融状態のグループを取得するための装置である。樹脂状態推定装置3は、例えば、プロセッサ、記憶装置、インターフェース等を備える演算処理装置と、演算処理装置のインターフェースに接続可能な入力機器と、演算処理装置のインターフェースに接続可能な出力機器とを備える。出力機器は、例えば、表示装置を含むようにしてもよい。また、演算処理装置、入力機器、および、出力機器が、インターフェースを介さずに、1つのユニットを構成するようにしてもよい。また、演算処理装置の一部および記憶装置の一部は、物理サーバやクラウドサーバを適用することもできる。
【0058】
図6に示すように、樹脂状態推定装置3は、検出データ取得部101、特徴量生成部102、制御パラメータ取得部103、識別パラメータ値演算部104、学習済みモデル生成部105、学習済みモデル記憶部106、グループ取得部107を備える。
【0059】
検出データ取得部101は、成形機2に取り付けられたセンサ44,45により成形時に検出された検出データを取得する。例えば、圧力センサ44により検出された検出データは、
図4に示すような時系列データとなる。図示しないが、温度センサ45により検出された検出データも時系列データとして取得される。
【0060】
特徴量生成部102は、検出データに基づいて、検出データに関する複数種の特徴量により構成される特徴量群[A]を生成する(式(1)参照)。つまり、それぞれの検出データについて複数種の特徴量が生成される。特徴量は、各成形工程(射出充填工程、保圧工程、冷却工程等)におけるセンサ44,45のそれぞれの検出データにおける統計量(最大値、最小値、平均値、分散、微分の最大値、微分の最小値、積分値等)である。
【0061】
制御パラメータ取得部103は、成形機2において制御に用いる複数種の制御パラメータ値により構成される制御パラメータ値群[F]を取得する(式(1)参照)。制御パラメータ値の種類は、例えば、射出速度、保圧力、保圧時間、保圧時の型温度、冷却時間、ノズル温度、射出圧力(ノズル圧力)等である。
【0062】
識別パラメータ値演算部104は、特徴量群[A]および制御パラメータ値群[F]に基づいて、それぞれの特徴量に対応する樹脂の溶融状態を表す樹脂状態識別パラメータ値P1-Pmを演算する。識別パラメータ値演算部104は、上述した式(1)(2)により、樹脂状態識別パラメータ値P1-Pmを演算する。
【0063】
識別パラメータ値演算部104は、上述した式(3)(4)のように、それぞれの特徴量F1-Fmにおいて、全ての制御パラメータ値Akを用いて樹脂状態識別パラメータ値Pjを演算するようにしても良い。この場合、樹脂状態識別パラメータ値Pjは、全ての制御パラメータ値Akの総乗値となる。
【0064】
識別パラメータ値演算部104は、上述した式(5)(6)のように、それぞれの特徴量F1-Fmにおいて、特徴量Fjと当該特徴量Fjに対して影響度の高い1または複数の制御パラメータ値Akとを用いて、当該特徴量Fjに対応する樹脂状態識別パラメータ値Pjを演算するようにしても良い。この場合、樹脂状態識別パラメータ値Pjは、一部の制御パラメータ値Akの総乗値となる。
【0065】
例えば、特徴量Fjに対して影響度の高い1または複数の制御パラメータ値Akは、対象の特徴量Fjと制御パラメータ値群[A]とを用いて機械学習により抽出しても良い。例えば、機械学習により得られた影響度係数を用いて、影響度係数が高い方から所定数の制御パラメータ値Akを抽出することができる。影響度係数は、例えば、lasso回帰により得られるlasso係数や、リッジ回帰により得られるリッジ係数等である。
【0066】
学習済みモデル生成部105は、学習フェーズとして、機械学習の学習済みモデルを生成する。学習済みモデル生成部105は、樹脂の溶融状態が複数のグループG1,G2,・・・に分類されると定義した場合に、樹脂状態識別パラメータ値P1-Pmを説明変数とし、樹脂の溶融状態のグループG1,G2,・・・を目的変数とし、多変量解析としてクラスター解析を適用する。
【0067】
学習済みモデル生成部105は、上記の説明変数および目的変数を含む訓練データセットを用いてクラスター解析の機械学習を行うことにより、学習済みモデルを生成する。生成された学習済みモデルは、学習済みモデル記憶部106に記憶される。つまり、学習済みモデルは、樹脂状態識別パラメータ値を入力した場合に、グループを出力する。
【0068】
グループ取得部107は、樹脂状態識別パラメータ値P1-Pmに基づいて、樹脂の溶融状態のグループG1,G2,・・・を取得する。本例では、グループ取得部107は、樹脂状態識別パラメータ値P1-Pmを説明変数とする多変量解析としてのクラスター解析を適用することにより生成された学習済みモデルを用いる。つまり、グループ取得部107は、機械学習の適用フェーズ(推論フェーズともいう)として、樹脂状態識別パラメータ値P1-Pmを入力した場合に、学習済みモデルの出力としての樹脂の溶融状態のグループG1,G2,・・・を取得する。
【0069】
以上のようにして、樹脂状態推定装置3は、対象の成形品の成形時における検出データ、および、当該対象の成形品の成形に用いた制御パラメータ値を用いて、当該対象の成形品の成形時におけるキャビティC内における樹脂の溶融状態のグループを決定する。
【0070】
(6.樹脂状態推定装置3による効果)
成形機2に取り付けられたセンサ44,45により成形時に検出される検出データは、上述したように、成形機2の制御パラメータと、キャビティC内の樹脂の溶融状態との影響を受けると考える。換言すると、樹脂の溶融状態が、検出データから生成される特徴量群[F]および制御パラメータ値群[A]により表されると定義している。
【0071】
この定義を利用して、識別パラメータ値演算部104が、検出データの特徴量群[F]および制御パラメータ値群[A]に基づいて、それぞれの特徴量F1-Fmに対応する樹脂の溶融状態を表す樹脂状態識別パラメータ値P1-Pmを演算する。つまり、樹脂状態識別パラメータ値P1-Pmは、特徴量F1-Fmの種類数と同数だけ生成される。
【0072】
そして、グループ取得部107が、樹脂の溶融状態が複数のグループG1,G2,・・・に分類されると定義した場合に、樹脂状態識別パラメータ値P1-Pmに基づいて、樹脂状態識別パラメータ値P1-Pmを説明変数とする多変量解析を適用することにより、樹脂の溶融状態のグループG1,G2,・・・を取得する。ここで、樹脂の溶融状態のグループG1,G2,・・・は、明確に定義する必要はないが、例えば、流動性の程度を要素の1つとして分類することができる。
【0073】
つまり、樹脂状態推定装置3によれば、検出データと制御パラメータとを用いて演算処理を行うことにより、当該成形品の成形時におけるキャビティC内の樹脂の溶融状態のグループG1,G2,・・・、例えば、樹脂の流動性の程度等を要素の1つとして分類することができる。このようにキャビティC内の樹脂の溶融状態のグループ分けができることにより、当該グループG1,G2,・・・に応じた成形条件の修正量を決定することができる。
【0074】
(7.第二例の成形機システム1B)
成形条件決定支援装置4を含む第二例の成形機システム1Bについて、
図7を参照して説明する。
図7に示すように、成形機システム1Bは、成形機2と、成形条件決定支援装置4とを備える。
【0075】
成形条件決定支援装置4は、成形機2における成形条件を決定するための装置である。特に、本例では、成形条件決定支援装置4は、既に適用された成形条件によって成形品の成形が行われた場合に、当該成形品の品質を向上させることができるようにするための成形条件の修正量を決定する。さらに、成形条件決定支援装置4は、上述した樹脂状態推定装置3を含んでおり、樹脂状態推定装置3により得られた樹脂の溶融状態のグループを利用した処理がなされる。
【0076】
(8.成形条件決定支援装置4の構成)
成形条件決定支援装置4の構成について
図8-
図12を参照して説明する。成形条件決定支援装置4は、例えば、プロセッサ、記憶装置、インターフェース等を備える演算処理装置と、演算処理装置のインターフェースに接続可能な入力機器と、演算処理装置のインターフェースに接続可能な出力機器とを備える。出力機器は、例えば、表示装置を含むようにしてもよい。また、演算処理装置、入力機器、および、出力機器が、インターフェースを介さずに、1つのユニットを構成するようにしてもよい。また、演算処理装置の一部および記憶装置の一部は、物理サーバやクラウドサーバを適用することもできる。
【0077】
図8に示すように、成形条件決定支援装置4は、樹脂状態推定装置3、品質推定部201、品質推移記憶部202、傾向評価部203、関係記憶部204、修正条件決定部205を備える。なお、樹脂状態推定装置3は、第一例の成形機システム1Aにて説明した樹脂状態推定装置3と同一構成である。
【0078】
品質推定部201は、検出データ取得部101により取得された検出データに基づいて、機械学習により成形品の品質を推定する。例えば、品質推定部201は、成形品において、1または複数の品質種における数値を推定する。成形品の品質種は、成形品の質量、成形品の寸法、成形品におけるボイド体積の少なくとも1つである。
【0079】
品質推定部201は、予め機械学習により、検出データと成形品の品質との関係を学習した学習済みモデルを生成しておく。学習済みモデルは、品質種毎に生成される。そして、品質推定部201は、学習済みモデルを記憶しておき、新たに取得した検出データと学習済みモデルとを用いて成形品の品質を推定する。
【0080】
品質推移記憶部202は、品質推定部201により推定された成形品の品質を蓄積し、蓄積された複数個の成形品についての品質推移を記憶する。品質推移とは、複数個の成形品の品質を、成形順に配列した情報である。品質推移は、例えば、
図9に示すようなデータである。
図9は、成形品の質量の例である。
図9において、所定の品質基準をStdとし、品質許容範囲の上限値をThmaxとし、品質許容範囲の下限値をThminとする。つまり、上限値Thmaxと下限値Thminとの間は、良品であることを意味し、外れ範囲は、不良品となる。良品であっても理想的には、所定の品質基準Stdとなる場合である。
【0081】
図9では、成形初期において、ほとんどの成形品の品質は、品質基準Std付近の値を示している。ただし、突発異常として、上限値Thmaxを超えた値を示した成形品が存在する(
図9のD2)。つまり、突発異常の成形品を除外したときには、成形初期の成形品の品質は、品質基準Std付近の値を示している(
図9のD1)。その後、成形を継続していくと、成形品の品質は、徐々に品質基準Stdから離れている。そして、成形品の品質は、品質基準Stdから+N%上昇した値付近を示すようになっている(
図9のD3)。
【0082】
傾向評価部203は、品質推移記憶部202に記憶されている品質推移に基づいて、品質基準Stdに対する品質変化傾向を評価する。
図10に示すように、傾向評価部203は、品質変化傾向として、複数の品質種、品質種毎において品質基準Stdに対する品質のずれ度合い、および、品質種毎において複数個の成形品の品質のばらつき度合いを評価する。
【0083】
傾向評価部203は、品質変化傾向の評価に用いる品質推移の成形品数は、予め設定されている。つまり、傾向評価部203は、予め設定された成形品数における品質のずれ度合いを算出する。例えば、傾向評価部203は、品質のずれ度合いとして、当該成形品数における品質の平均値が品質基準Stdからずれている程度(絶対値または相対値)を算出する。さらに、ばらつき度合いとは、予め設定された成形品数における品質がばらついているか、安定しているかの程度を示す。なお、ばらつき度合いは、例えば、標準偏差、分散等の値を用いても良い。
【0084】
図10に示すように、例えば、傾向評価部203は、質量について、ずれ度合い「+2.2%」、ばらつき度合い「安定」と評価し、寸法について、ずれ度合い「+0.3%」、ばらつき度合い「安定」と評価し、ボイド体積について、ずれ度合い「-0.5%」、ばらつき度合い「安定」と評価する。
【0085】
また、
図9に示す品質推移のD1においては、傾向評価部203は、品質変化傾向として、安定して品質基準Std付近に位置していると評価する。ここで、傾向評価部203は、
図9に示す品質推移のD1において、突発異常による品質変化を示すD2の成形品を除外して評価する。この場合、傾向評価部203は、対象の品質種について、品質基準Stdからのずれ度合いとして「0.1%」と評価し、ばらつき度合いとして「安定」と評価する。突発異常の後には、成形品の品質は正常に戻っていることからも、突発異常は、成形条件とは無関係である。そこで、突発異常を除外して評価している。
【0086】
また、
図9に示す品質推移のD3においては、傾向評価部203は、品質変化傾向として、安定して品質基準Stdに対して、+N%程度ずれた値を示していると評価される。この場合、傾向評価部203は、対象の品質種について、品質基準Stdからのずれ度合いとして「+N%」と評価し、ばらつき度合いとして「安定」と評価する。
【0087】
樹脂状態推定装置3におけるグループ取得部107は、上述したように、キャビティC内における樹脂の溶融状態のグループを取得する。ここでは、グループ取得部107において、樹脂の溶融状態のグループは、例えば、
図11に示すように、4種類、すなわち、Type-A、Type-B、Type-C、Type-Dに分類されるものとする。
【0088】
関係記憶部204は、品質変化傾向と品質を品質基準に戻すための成形条件の修正量との関係を、キャビティCにおける樹脂の溶融状態のグループに対応付けて記憶する。関係記憶部204は、例えば、
図12に示すように、樹脂の溶融状態のグループ毎に、品質変化傾向と成形条件の修正量との関係が記憶されている。詳細には、関係記憶部204は、樹脂の溶融状態のグループのそれぞれにおいて、品質種毎に、ずれ度合いの段階と成形条件の修正量とをマトリックスで表現した関係を記憶する。例えば、質量、寸法、ボイド体積のそれぞれについて、ずれ度合いの段階として6段階とする。また、修正対象の成形条件の種として、射出速度、保圧力、保圧時間、保圧時の型温度、冷却時間等の少なくとも1つとする。
【0089】
ここで、品質種と成形条件の種との関係の程度や、品質種のずれ度合いと成形条件の修正量との関係は、機械学習を用いて導き出すことができる。つまり、関係記憶部204に記憶される関係は、機械学習により生成することができる。もちろん、機械学習ではなく、実験や過去の経験等に基づいて、当該関係を設定しても良い。
【0090】
修正条件決定部205は、傾向評価部203により評価された品質変化傾向と、グループ取得部107により取得された樹脂の溶融状態のグループと、関係記憶部204に記憶されている関係とに基づいて、成形条件の修正量を決定する。
【0091】
修正条件決定部205は、まず、
図12に示す関係の中から、グループ取得部107により取得された樹脂の溶融状態のグループに対応するものを選択する。続いて、例えば、修正条件決定部205は、
図12に示すようなマトリックスで表現した関係において、傾向評価部203により評価されたずれ度合いに最も近い段階を決定し、当該段階に対応する成形条件の修正量を、決定する成形条件の修正量とする。例えば、
図10に示すように、質量のずれ度合いが「+2.2%」である場合には、
図12に示すマトリックスにおいて、質量のずれ度合いの段階「+2%」が選択される。
【0092】
ここで、修正条件決定部205は、複数の品質種のそれぞれについて、成形条件の修正量が決定される。そこで、修正条件決定部205は、同種の成形条件についての複数個の修正量に基づいて、当該成形条件について最終的な修正量を決定する。この場合、修正条件決定部205は、例えば、複数個の修正量を合算した値を最終的な修正量としても良いし、品質種に応じた重み付け係数を乗算した上で、さらに合算した値を最終的な修正量としても良い。
【0093】
さらに、修正条件決定部205は、最終的な修正量を成形機2の制御装置60に出力して、次の成形品における成形条件に対して当該修正量の分の修正を加える。従って、制御装置60は、修正された成形条件により次の成形品の成形を実行する。その結果、修正された成形条件により成形された成形品の品質を、品質基準Stdに近づかせることができる。
【0094】
(9.成形条件決定支援装置4による効果)
上述した成形条件決定支援装置4による効果について記載する。品質推移記憶部202が、機械学習により推定された成形品の品質を蓄積して、品質推移を記憶している。品質推移とは、複数個の成形品の品質を、成形順に配列した情報である。従って、傾向評価部203が、連続する複数個の成形品の品質推移に基づいて、品質変化傾向を評価することができる。
【0095】
特に、傾向評価部203は、所定の品質基準Stdに対する品質変化傾向を評価している。例えば、傾向評価部203は、品質変化傾向として、品質が所定の品質基準Stdからずれている状態を継続していることや、品質が所定の品質基準を含む品質許容範囲内を変動していること等を評価することができる。
【0096】
関係記憶部204には、予め、品質変化傾向と成形条件の修正量との関係を、キャビティCにおける樹脂の溶融状態のグループに対応付けて記憶している。つまり、関係記憶部204には、樹脂の溶融状態のグループ毎に、品質変化傾向と成形条件の修正量との関係が記憶されている。この関係は、熟練者のノウハウ、機械学習による出力結果、実験結果等を用いて設定されている。
【0097】
修正条件決定部205が、新たに評価された品質変化傾向と、新たに取得されたキャビティCにおける樹脂の溶融状態のグループと、関係記憶部204に記憶されている関係とに基づいて、成形条件の修正量を決定する。ここで、関係記憶部204に記憶されている関係は、品質を所定の品質基準Stdに戻すための成形条件の修正量に関するものである。特に、キャビティC内における樹脂の溶融状態のグループに応じて成形条件の修正量が決定されている。従って、修正条件決定部205が決定した成形条件の修正量に従って、成形機2の成形条件を修正した場合には、次に成形される成形品の品質を所定の品質基準Stdに近づけることが可能となる。
【0098】
つまり、環境温度等の外部要因や成形材料の素材の含有成分の僅かな違いによって成形品の品質が変化する場合であっても、品質変化傾向を把握することによって、さらにはキャビティC内における樹脂の溶融状態をグループ分けすることによって、成形品の品質を所定の品質基準Stdとすることができるように成形条件を修正することができる。従って、熟練者に限られず、未熟練者であっても、成形品の品質を良好にするように成形条件の修正が可能となる。
【0099】
(10.グループ数の設定方法)
学習済みモデル生成部105は、上述した学習済みモデルの生成に加えて、他の構成と協働して樹脂の溶融状態のグループ数の設定処理を行う。ここで、グループ数は、作業者が任意の数に設定することもできるが、上述した成形条件決定支援装置4を利用することにより適切な数に設定することができる。
【0100】
学習済みモデル生成部105は、樹脂の溶融状態のグループ数を初期設定数(例えば、2個)に設定した状態で、取得した検出データについての樹脂の溶融状態のグループ(G1,G2の何れか)を取得する(グループ取得工程)。
【0101】
そして、グループ数を初期設定数に設定したときにおける、品質変化傾向と成形条件の修正量との関係を、樹脂の溶融状態のグループに対応付けて設定する(関係設定工程)。そして、関係記憶部204に、当該関係を記憶させる。続いて、修正条件決定部205が、取得されたグループ(G1,G2の何れか)と関係記憶部204に記憶された関係とに基づいて、成形条件の修正量(制御パラメータ値の修正量)を決定する(修正量決定工程)。
【0102】
続いて、学習済みモデル生成部105は、取得した樹脂の溶融状態のグループG1,G2に対応する制御パラメータ値の修正量に基づいて制御パラメータ値を修正した場合に、成形品の品質が所定範囲を満たすか否かを判定する(判定工程)。
【0103】
成形品の品質が所定範囲を満たさない場合には、グループ数を増加させて、上述したグループ取得工程、関係設定工程、修正量決定工程、判定工程を繰り返す。つまり、学習済みモデル生成部105は、成形品の品質が所定範囲を満たさない場合には、グループ数を増加させて、樹脂の溶融状態のグループの取得および成形品の品質が所定範囲を満たすか否かの判定を繰り返し、成形品の品質が所定範囲を満たすときのグループ数を、学習済みモデルにおけるグループ数に設定する。
【0104】
このようにしてグループ数が設定されることにより、成形条件の修正量を、樹脂の溶融状態のグループに応じて決定することができる。つまり、適切な成形条件の修正量を決定することができる。
【0105】
(11.成形機システム1Bの構成例)
(11-1.第一例)
成形機システム1Bの第一例の構成について、
図13を参照して説明する。
図13に示すように、成形機システム1Bは、複数の成形機2,2と、成形機2,2のそれぞれに一体的に構成されたエッジコンピュータ5,5、複数の成形機2,2と同一ネットワークを構成するサーバ6とを備える。なお、エッジコンピュータ5,5は、成形機2,2の一部を構成しても良いし、成形機2,2とは別体に構成しても良い。
【0106】
そして、エッジコンピュータ5,5とサーバ6とが、成形条件決定支援装置4を構成する。エッジコンピュータ5,5は、検出データ取得部101を備える。サーバ6は、樹脂状態推定装置3における検出データ取得部101を除く構成、品質推定部201、品質推移記憶部202、傾向評価部203、関係記憶部204、修正条件決定部205を備える。
【0107】
つまり、サーバ6は、検出データ取得部101により取得された検出データを、エッジコンピュータ5または成形機2に内蔵されたエッジコンピュータ5から受信する。サーバ6は、受信した情報に基づいて成形条件の修正量を決定し、決定した成形条件の修正量を成形機2に送信する。
【0108】
この場合、サーバ6が、複数の成形機2に関する情報を蓄積することができる。さらに、サーバ6が高速処理を実行可能なプロセッサを有するようにすることで、特徴量生成部102の処理、識別パラメータ値演算部104の処理、グループ取得部107の処理、品質推定部201の処理、傾向評価部203の処理および修正条件決定部205の処理を高速処理可能となる。一方、それぞれのエッジコンピュータ5を高スペックとする必要がないため、低コスト化を図ることができる。
【0109】
(11-2.第二例)
成形機システム1Bの第二例は、第一例と同様に、成形機システム1Bは、複数の成形機2,2と、成形機2,2のそれぞれに接続されたエッジコンピュータ5,5、複数の成形機2,2と同一ネットワークを構成するサーバ6とを備える。
【0110】
エッジコンピュータ5,5は、樹脂状態推定装置3の全ての構成、品質推定部201を備える。サーバ6は、品質推移記憶部202、傾向評価部203、関係記憶部204、修正条件決定部205を備える。つまり、サーバ6は、樹脂状態推定装置3のグループ取得部107により取得された樹脂の溶融状態のグループ、および、品質推定部201により推定された成形品の品質を、エッジコンピュータ5または成形機2に内蔵されたエッジコンピュータ5から受信する。サーバ6は、受信した情報に基づいて成形条件の修正量を決定し、決定した成形条件の修正量を成形機2に送信する。
【0111】
(10-3.第三例)
成形機システム1Bの第三例は、成形条件決定支援装置4の全ての機能をサーバ6が有する。この場合、エッジコンピュータ5,5は不要となる。サーバ6における検出データ取得部101が、センサ44,45により検出された検出データを、成形機2から受信する。そして、サーバ6における修正条件決定部205が、成形条件の修正量を、成形機2に送信する。
【符号の説明】
【0112】
1A,1B:成形機システム、 2:射出成形機、 3:樹脂状態推定装置、 4:成形条件決定支援装置、 5:エッジコンピュータ、 6:サーバ、 20:ベッド、 30:射出装置、 40:型、 50:型締装置、 60:制御装置、 101:検出データ取得部、 102:特徴量生成部、 103:制御パラメータ取得部、 104:識別パラメータ値演算部、 105:学習済みモデル生成部、 106:学習済みモデル記憶部、 107:グループ取得部、 201:品質推定部、 202:品質推移記憶部、 203:傾向評価部、 204:関係記憶部、 205:修正条件決定部、 C:キャビティ