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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】モータ制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 27/08 20060101AFI20240409BHJP
   H02P 21/14 20160101ALI20240409BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20240409BHJP
【FI】
H02P27/08
H02P21/14
H02M7/48 E
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020116587
(22)【出願日】2020-07-06
(65)【公開番号】P2022014314
(43)【公開日】2022-01-19
【審査請求日】2023-06-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 駿介
(72)【発明者】
【氏名】三鴨 悟
(72)【発明者】
【氏名】加藤 裕太
【審査官】島倉 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-19378(JP,A)
【文献】国際公開第2006/103869(WO,A1)
【文献】特開2008-48504(JP,A)
【文献】特開2014-11944(JP,A)
【文献】特開2012-50252(JP,A)
【文献】特開2017-28763(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 27/08
H02P 21/14
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のスイッチング素子を有する駆動回路と、前記スイッチング素子のオンオフを規定するデューティ比を設定するための電圧指令値を生成することで三相の巻線を有するモータへの給電を制御する制御部とを備え、
前記複数のスイッチング素子は、相毎にスイッチングアームを構成するように一対のスイッチング素子が直列に接続され、
各スイッチングアームは、並列に接続されており、
前記各スイッチングアームの高電位側あるいは低電位側のいずれか一方の第1電位側の電流値を検出するための電流センサを更に備え、
前記制御部は、
各相の前記電圧指令値がハイレベル及びローレベルの変化を繰り返す搬送波よりも大きい場合に、前記第1電位側に接続された前記スイッチング素子をオンとし、各相の前記電圧指令値が前記搬送波よりも小さい場合に、前記第1電位側とは他方の第2電位側に接続された前記スイッチング素子をオンとするように制御するものであり、
前記第1電位側に接続された前記スイッチング素子がオンされている状況での前記電流センサの検出値である第1検出値と、前記第2電位側に接続された前記スイッチング素子がオンされている状況での前記電流センサの検出値である第2検出値とを取得する電流取得処理部と、
前記電流取得処理部で取得された前記第1検出値と、前記第2検出値との差を対応する相の前記電流値として算出する電流値算出処理部とを有し、
前記電流値算出処理部は、各相のうちの一相について前記第1検出値を検出することができなくなることに起因して前記電流値を算出することができなくなる状況で、残り二相の前記電流値に基づいて、前記一相の前記電流値を推定するブラインド補正を実行するものであり、
前記制御部は、前記ブラインド補正を実行する状況で、前記電圧指令値を生成する際に得ることができる出力電圧波を補正するものであって、前記一相の前記出力電圧波を前記第1検出値が検出できなくなる側の限界値である第1限界値に固定する一方で、前記残り二相の前記出力電圧波を前記第1限界値と反対側の限界値である第2限界値側に全体的にずらすようにオフセット補正をするオフセット補正処理部を更に有するモータ制御装置。
【請求項2】
前記電流値算出処理部は、各相について前記第2検出値を検出することができなくなる状況で、当該状況になる直前に検出した前記第2検出値を用いて前記電流値を算出する請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記電圧指令値に高調波を重畳して重畳後電圧指令値を生成する重畳部を有し、
前記オフセット補正処理部がオフセット補正をする前記出力電圧波は、前記重畳後電圧指令値である請求項1または請求項2に記載のモータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に示すように、複数のスイッチング素子の駆動を通じてモータに対する給電を制御するモータ制御装置が知られている。モータ制御装置では、三相の各相に対応するコイルに実際に流れている電流値を検出する必要がある。こうした電流値の検出は、低電位側のスイッチング素子のオンオフの切替状態に関わって行われる。具体的には、複数のスイッチング素子のオンオフの切替状態は、PWM制御のなかで設定されるデューティ比に基づき規定されるところ、デューティ比が大きい状況になると、対応する相についての電流値を検出することができなくなることが知られている。これは、デューティ比の設定に用いられる搬送波である三角波の高電位側の頂点である山のタイミングから対応するスイッチング素子が次にオフに切り替えられるまでの間で、電流値の検出が行われるからである。
【0003】
これに対処する方法として、特許文献1のモータ制御装置は、三相のうちの電流値を検出することができなくなる相以外の二相の電流値に基づいて、電流値を検出することができなくなる相の電流値を推定するようにブラインド補正を実行する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-19378号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電流値の検出に要する時間に応じて、PWM制御のなかで設定することのできないデューティ比の範囲が決まることで、デューティ比の上限値が設定される。つまり、電流値の検出に要する時間が長くなるほど、PWM制御のなかで設定することのできないデューティ比の範囲が広くなり、デューティ比の上限値が低くなる。デューティ比の上限値が低くなる場合、PWM制御のなかで設定することのできるデューティ比の範囲が狭くなり、モータに印加できる最大の電圧が下がる。この場合、電源が出力する電圧に対するモータに印加できる最大の電圧の比である電圧利用率は低下する。このため、モータトルクと、モータ回転数との関係である、周知のN-T特性に示されるモータの出力特性は低下する。
【0006】
本発明の目的は、モータの出力特性の向上を図ることのできるモータ制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するモータ制御装置は、複数のスイッチング素子を有する駆動回路と、前記スイッチング素子のオンオフを規定するデューティ比を設定するための電圧指令値を生成することで三相の巻線を有するモータへの給電を制御する制御部とを備え、前記複数のスイッチング素子は、相毎にスイッチングアームを構成するように一対のスイッチング素子が直列に接続され、各スイッチングアームは、並列に接続されており、前記各スイッチングアームの高電位側あるいは低電位側のいずれか一方の第1電位側の電流値を検出するための電流センサを更に備え、前記制御部は、各相の前記電圧指令値がハイレベル及びローレベルの変化を繰り返す搬送波よりも大きい場合に、前記第1電位側に接続された前記スイッチング素子をオンとし、各相の前記電圧指令値が前記搬送波よりも小さい場合に、前記第1電位側とは他方の第2電位側に接続された前記スイッチング素子をオンとするように制御するものであり、前記第1電位側に接続された前記スイッチング素子がオンされている状況での前記電流センサの検出値である第1検出値と、前記第2電位側に接続された前記スイッチング素子がオンされている状況での前記電流センサの検出値である第2検出値とを取得する電流取得処理部と、前記電流取得処理部で取得された前記第1検出値と、前記第2検出値との差を対応する相の前記電流値として算出する電流値算出処理部とを有し、前記電流値算出処理部は、各相のうちの一相について前記第1検出値を検出することができなくなることに起因して前記電流値を算出することができなくなる状況で、残り二相の前記電流値に基づいて、前記一相の前記電流値を推定するブラインド補正を実行するものであり、前記制御部は、前記ブラインド補正を実行する状況で、前記電圧指令値を生成する際に得ることができる出力電圧波を補正するものであって、前記一相の前記出力電圧波を前記第1検出値が検出できなくなる側の限界値である第1限界値に固定する一方で、前記残り二相の前記出力電圧波を前記第1限界値と反対側の限界値である第2限界値側に全体的にずらすようにオフセット補正をするオフセット補正処理部を更に有している。
【0008】
ここで、第2検出値は基本的にゼロ値であり、第1検出値と比較すると変化しない値である。このため、第2検出値については、検出の精度が低くても、第1検出値を的確に検出することができていれば、各相の電流値の算出への影響は小さい。このため、上記構成を用いては、ブラインド補正を実行する状況で、ブラインド補正の対象でない二相について、当該二相の出力電圧波を第2限界値側に全体的にずらすようにオフセット補正するようにしている。これは、これまで第2検出値の検出の精度が低くなることから使用していなかった領域の一部を含むように出力電圧波をずらすことに相当し、各限界値側で使用できる電圧値の振幅の中点をゼロ値とする場合、当該ゼロ値を第2限界値側にずらすことに相当する。この場合、オフセット補正をしない場合と比較して、出力電圧波のゼロ値から第1限界値側で使用できる電圧値の範囲は広くなる。これは、第2限界値側で使用できる電圧値についても同様である。これにより、オフセット補正をしない場合と比較して、出力電圧波の振幅を広げることができるようになる。したがって、モータに印加できる最大の電圧を大きくすることができるため、電圧利用率を向上でき、モータの出力特性を向上させることができる。
【0009】
なお、第2検出値は基本的にゼロ値であり、第1検出値と比較すると変化しない値であるといっても、当該第2検出値の検出の精度を確保することができる方が好ましいことは言うまでもない。
【0010】
そこで、上記のモータ制御装置において、前記電流値算出処理部は、各相について前記第2検出値を検出することができなくなる状況で、当該状況になる直前に検出した前記第2検出値を用いて前記電流値を算出することが好ましい。
【0011】
上記構成によれば、各相について第2検出値を検出することができなくなる状況であっても、当該状況になる直前に検出された第2検出値であれば、検出の精度が確保された条件下で検出された値である可能性が高いと言える。つまり、各相について第2検出値を検出することができなくなる状況であっても、当該第2検出値の検出の精度の著しい低下を抑えることができ、ひいては各相の電流値の算出の精度を確保するのに効果的である。
【0012】
上記のモータ制御装置において、前記制御部は、前記電圧指令値に高調波を重畳して重畳後電圧指令値を生成する重畳部を有し、前記オフセット補正処理部がオフセット補正をする前記出力電圧波としては、具体的には前記重畳後電圧指令値を採用することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明のモータ制御装置によれば、モータの出力特性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】電動パワーステアリング装置の概略構成図。
図2】モータ制御装置の概略構成を示すブロック図。
図3】制御部の概略構成を示すブロック図。
図4】モータ制御信号の生成及び電流値の検出の態様を示す図。
図5】オフセット補正の処理手順を示すフローチャート。
図6】ブラインド補正の処理手順を示すフローチャート。
図7】補正後の電圧指令値及び重畳後の電圧指令値の変化態様を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
モータ制御装置を電動パワーステアリング装置(以下、「EPS」という。)の操舵制御装置に具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、EPS1は、運転者のステアリングホイール10の操作に基づいて転舵輪15を転舵させる操舵機構2、運転者のステアリング操作を補助するアシスト機構3、及びアシスト機構3を制御するモータ制御装置40を備えている。
【0016】
操舵機構2は、運転者により操作されるステアリングホイール10及びステアリングホイール10と一体回転するステアリング軸11を備えている。ステアリング軸11は、ステアリングホイール10と連結されたコラム軸11a、コラム軸11aの下端部に連結された中間軸11b、及び中間軸11bの下端部に連結されたピニオン軸11cを有している。ピニオン軸11cの下端部は、ラックアンドピニオン機構13を介してラック軸12に連結されている。ステアリング軸11の回転運動は、ラックアンドピニオン機構13を介してラック軸12の軸方向の往復直線運動に変換される。ラック軸12の往復直線運動は、ラック軸12の両端にそれぞれ連結されたタイロッド14を介して左右の転舵輪15にそれぞれ伝達されることにより、転舵輪15の転舵角が変化し、車両の進行方向が変更される。
【0017】
アシスト機構3は、回転軸21を有するモータ20と、減速機構22とを備えている。モータ20は、ステアリング軸11にモータトルクを付与する。モータ20としては、例えばU相、V相、及びW相の三相の巻線を有するブラシレスモータが採用されている。モータ20は、モータ制御装置40から三相の駆動電力が供給されることにより回転する。モータ20の回転軸21は、減速機構22を介してコラム軸11aに連結されている。減速機構22はモータ20の回転を減速し、当該減速した回転力をコラム軸11aに伝達する。すなわち、ステアリング軸11にモータ20のモータトルクが付与されることにより、運転者のステアリング操作が補助される。
【0018】
図2に示すように、モータ20は、回転軸21を中心に回転するロータ23、及びロータの外周に配置されるステータ24を備えている。ロータ23には、その表面に永久磁石が固定されている。永久磁石は、ロータ23の周方向に異なる極性が交互に並んで配置されている。こうした永久磁石は、モータ20が回転する際に磁界を形成する。ステータ24には、U相モータコイル25u、V相モータコイル25v、及びW相モータコイル25wが円環状に配置されている。U相モータコイル25u、V相モータコイル25v、及びW相モータコイル25wは、スター結線により接続されている。モータ20には、モータ20の駆動を制御するモータ制御装置40が接続されている。特許請求の範囲に記載した三相の巻線は、U相モータコイル25u、V相モータコイル25v、及びW相モータコイル25wに相当する。
【0019】
図1に示すように、モータ制御装置40は、車両に設けられた各種のセンサの検出結果に基づいてモータ20を制御する。各種のセンサとしては、例えばトルクセンサ31、回転角センサ32、及び車速センサ33が設けられている。トルクセンサ31は、コラム軸11aに設けられている。トルクセンサ31は、運転者のステアリング操作に伴いステアリング軸11に付与される操舵トルクτを検出する。回転角センサ32は、モータ20に設けられている。回転角センサ32は、モータ20の回転軸21の回転角θを検出する。車速センサ33は、車両の走行速度である車速Vを検出する。モータ制御装置40は、各センサの出力値に基づいて、操舵機構2に対して付与するモータ20の目標となる目標モータトルクを設定し、実際のモータ20のモータトルクが目標モータトルクとなるように、モータ20に供給される電流を制御する。
【0020】
モータ制御装置40は、モータ制御信号を生成する制御部41と、制御部41の生成するモータ制御信号に基づいてモータ20に三相の駆動電力を供給する駆動回路42とを備えている。制御部41としては、例えばマイコンが採用される。
【0021】
駆動回路42は、複数のスイッチング素子として、上側スイッチング素子42a~42c、及び下側スイッチング素子42d~42fを有している。上側スイッチング素子42a~42c及び下側スイッチング素子42d~42fとしては、MOS-FET(電界効果トランジスタ:metal-oxide-semiconductor field-effect-transistor)が採用されている。上側スイッチング素子42a~42c及び下側スイッチング素子42d~42fは、相毎にスイッチングアームを構成している。U相スイッチングアーム42uは、上側スイッチング素子42a及び下側スイッチング素子42dが直列に接続されることにより構成されている。V相スイッチングアーム42vは、上側スイッチング素子42b及び下側スイッチング素子42eが直列に接続されることにより構成されている。W相スイッチングアーム42wは、上側スイッチング素子42c及び下側スイッチング素子42fが直列に接続されることにより構成されている。U相スイッチングアーム42u、V相スイッチングアーム42v、及びW相スイッチングアーム42wは、それぞれ並列に接続されている。駆動回路42は、各スイッチングアームを並列に3つ接続することにより構成されている周知のPWMインバータである。
【0022】
上側スイッチング素子42aと下側スイッチング素子42dとの間の配線は、U相動力線43uを介してU相モータコイル25uに接続されている。上側スイッチング素子42bと下側スイッチング素子42eとの間の配線は、V相動力線43vを介してV相モータコイル25vに接続されている。上側スイッチング素子42cと下側スイッチング素子42fとの間の配線は、W相動力線43wを介してW相モータコイル25wに接続されている。
【0023】
上側スイッチング素子42a~42c及び下側スイッチング素子42d~42fは、それぞれゲート電極を有している。各スイッチング素子のゲート電極は、それぞれ制御部41に接続されている。制御部41は、各スイッチング素子のゲート電極に対してモータ制御信号を出力することによって、上側スイッチング素子42a~42c及び下側スイッチング素子42d~42fのオンオフを制御する。モータ制御信号は、各スイッチング素子のゲート電極に電圧を印加することで各スイッチング素子のオンオフを規定する電圧信号である。
【0024】
上側スイッチング素子42a~42c及び下側スイッチング素子42d~42fは、各ゲート電極に印加される電圧に応じてオンオフし、U相モータコイル25u、V相モータコイル25v、及びW相モータコイル25wへの通電パターンが切り替わる。これにより、車載電源44の直流電圧が三相の駆動電力に変換されて、モータ20へと供給される。
【0025】
また、モータ制御装置40は、U相モータコイル25uに通電されるU相電流値Iuを検出するためのU相電流センサ45uを備えている。U相電流センサ45uは、U相スイッチングアーム42uの低電位側に設けられている。具体的には、U相電流センサ45uは、U相スイッチングアーム42uにおける下側スイッチング素子42dよりも低電位側の部分に設けられている。U相電流センサ45uは、制御部41に接続されている。
【0026】
モータ制御装置40は、V相モータコイル25vに通電されるV相電流値Ivを検出するためのV相電流センサ45vを備えている。V相電流センサ45vは、V相スイッチングアーム42vの低電位側に設けられている。具体的には、V相電流センサ45vは、V相スイッチングアーム42vにおける下側スイッチング素子42eよりも低電位側の部分に設けられている。V相電流センサ45vは、制御部41に接続されている。
【0027】
モータ制御装置40は、W相モータコイル25wに通電されるW相電流値Iwを検出するためのW相電流センサ45wを備えている。W相電流センサ45wは、W相スイッチングアーム42wの低電位側に設けられている。具体的には、W相電流センサ45wは、W相スイッチングアーム42wにおける下側スイッチング素子42fよりも低電位側の部分に設けられている。W相電流センサ45wは、制御部41に接続されている。
【0028】
U相電流センサ45u、V相電流センサ45v、及びW相電流センサ45wは、シャント抵抗の端子間電圧に基づき電流値の検出を行う周知の構成を有している。具体的には、各抵抗は、上側スイッチング素子及び下側スイッチング素子を並列接続する接続点43H,43Lのうちグランド側の接続点43Lと上記各相に対応する下側スイッチング素子との間において、各相のスイッチングアームに対して直列に接続されている。U相電流センサ45uは、検出値Iudを検出する。V相電流センサ45vは、検出値Ivdを検出する。W相電流センサ45wは、検出値Iwdを検出する。
【0029】
制御部41は、検出値Iud,Ivd,Iwdとともに、操舵トルクτ、車速V、及び回転角θを取得する。制御部41は、検出値Iud,Ivd,Iwdに基づいて、各相の電流値Iu,Iv,Iwを算出するようにしている。制御部41は、操舵トルクτ及び車速Vに基づいて、操舵機構2に付与する目標のアシスト力を決定する。制御部41は、当該目標のアシスト力をモータ20に発生させるべく、各相の電流値Iu,Iv,Iw及び回転角θに基づいて電流フィードバック制御を実行することにより、駆動回路42に対するモータ制御信号の出力を実行する。本実施形態において、制御部41は、各電流センサを通じて検出値Iud,Ivd,Iwdを3つ同時に取得する、所謂、同時サンプル&ホールド機能を有している。なお、制御部41は、同時サンプル&ホールド機能を有しないものであってもよい。
【0030】
制御部41の機能について説明する。
制御部41は、図示しない中央処理装置(CPU)やメモリを備えており、所定の演算周期毎にメモリに記憶されたプログラムをCPUが実行する。これにより、各種の処理が実行される。
【0031】
図3に、制御部41が実行する処理の一部を示す。図3に示す処理は、メモリに記憶されたプログラムをCPUが実行することで実現される処理の一部を、実現される処理の種類毎に記載したものである。
【0032】
図3に示すように、制御部41は、電流指令値演算部51と、減算器52,53と、F/B制御部54,55と、二相/三相変換部56と、三次高調波重畳部57と、オフセット補正処理部58と、PWM演算部59と、PWM出力部60と、電流取得処理部61と、電流値算出処理部62と、三相/二相変換部63とを有している。
【0033】
電流指令値演算部51は、操舵トルクτ及び車速Vを取得する。電流指令値演算部51は、操舵トルクτ及び車速Vに基づいて、目標のアシスト力を演算する。具体的には、電流指令値演算部51は、操舵トルクτが大きいほど、また車速Vが小さいほど、より大きな目標のアシスト力を演算する。そして、電流指令値演算部51は、当該目標のアシスト力に基づいて、d/q軸上のd軸電流指令値Id*及びq軸上のq軸電流指令値Iq*を演算する。d軸電流指令値Id*はd/q座標系におけるd軸上の電流指令値を示し、q軸電流指令値Iq*はq軸上の電流指令値を示している。なお、本実施形態では、d軸電流指令値Id*は、基本的にゼロに設定されている。
【0034】
減算器52は、d軸電流指令値Id*及び後述の三相/二相変換部63により演算されたd軸電流値Idを取得する。減算器52は、d軸電流指令値Id*からd軸電流値Idを減算することにより、d軸電流偏差ΔIdを演算する。
【0035】
減算器53は、q軸電流指令値Iq*及び後述の三相/二相変換部63により演算されたq軸電流値Iqを取得する。減算器53は、q軸電流指令値Iq*からq軸電流値Iqを減算することにより、q軸電流偏差ΔIqを演算する。
【0036】
F/B制御部54は、d軸電流偏差ΔIdを取得する。F/B制御部54は、d軸電流値Idをd軸電流指令値Id*に追従させるべくd軸電圧指令値Vd*を演算する。F/B制御部54は、d軸電流偏差ΔIdに所定のフィードバックゲインを乗算することにより、d軸電圧指令値Vd*を演算する。
【0037】
F/B制御部55は、q軸電流偏差ΔIqを取得する。F/B制御部55は、q軸電流値Iqをq軸電流指令値Iq*に追従させるべくq軸電圧指令値Vq*を演算する。F/B制御部55は、q軸電流偏差ΔIqに所定のフィードバックゲインを乗算することにより、q軸電圧指令値Vq*を演算する。
【0038】
二相/三相変換部56は、d軸電圧指令値Vd*、q軸電圧指令値Vq*、及び回転角θを取得する。二相/三相変換部56は、d/q座標系のd軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を、回転角θに基づいてU相電圧指令値Vu*、V相電圧指令値Vv*、及びW相電圧指令値Vw*の三相の電圧指令値に変換する。
【0039】
三次高調波重畳部57は、U相電圧指令値Vu*、V相電圧指令値Vv*、及びW相電圧指令値Vw*を取得する。三次高調波重畳部57は、U相電圧指令値Vu*、V相電圧指令値Vv*、W相電圧指令値Vw*に対して対応する三次高調波を重畳することで、重畳後U相電圧指令値Vhu*、重畳後V相電圧指令値Vhv*、重畳後W相電圧指令値Vhw*を演算する。三次高調波は、各電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*を基本正弦波としたとき、当該基本正弦波の第三次の高調波のことである。なお、各電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*に対して三次高調波を重畳する方式は、公知(例えば、「ACサーボの理論と設計の実際」松本他著、総合電子出版社の3章p.44~47)である。こうして演算された重畳後U相電圧指令値Vhu*、重畳後V相電圧指令値Vhv*、及び重畳後W相電圧指令値Vhw*は、正弦波状の三次高調波を擬似的に表した擬似三次高調波であり、各電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*を生成する際に得ることができる出力電圧波である。特許請求の範囲に記載した重畳部は、三次高調波重畳部57に相当する。
【0040】
オフセット補正処理部58は、重畳後U相電圧指令値Vhu*、重畳後V相電圧指令値Vhv*、重畳後W相電圧指令値Vhw*を取得する。また、オフセット補正処理部58は、後述のPWM演算部59により演算されたU相デューティ指令値Du、V相デューティ指令値Dv、及びW相デューティ指令値Dwを取得する。オフセット補正処理部58は、U相デューティ指令値Du、V相デューティ指令値Dv、及びW相デューティ指令値Dwに基づいて、重畳後U相電圧指令値Vhu*、重畳後V相電圧指令値Vhv*、重畳後W相電圧指令値Vhw*にオフセット補正をする。オフセット補正についての詳細は後述する。オフセット補正処理部58は、オフセット補正を通じて補正後U相電圧指令値Vhu´*、補正後V相電圧指令値Vhv´*、及び補正後W相電圧指令値Vhw´*を演算する。
【0041】
PWM演算部59は、補正後U相電圧指令値Vhu´*、補正後V相電圧指令値Vhv´*、及び補正後W相電圧指令値Vhw´*を取得する。PWM演算部59は、補正後U相電圧指令値Vhu´*、補正後V相電圧指令値Vhv´*、及び補正後W相電圧指令値Vhw´に基づいて、U相デューティ指令値Du、V相デューティ指令値Dv、及びW相デューティ指令値Dwを演算する。
【0042】
PWM出力部60は、U相デューティ指令値Du、V相デューティ指令値Dv、及びW相デューティ指令値Dwを取得する。PWM出力部60は、U相デューティ指令値Du、V相デューティ指令値Dv、及びW相デューティ指令値Dwに示されるデューティ比と、三角波δ1,δ2との比較に基づいて、モータ制御信号を生成する。PWM出力部60は、生成したモータ制御信号を駆動回路42に対して出力する。
【0043】
ここで、PWM出力部60によるモータ制御信号の生成について説明する。
図4中、一点鎖線で示すように、2つの三角波δ1,δ2は、縦軸方向にずれた位相の等しい、ハイレベル及びローレベルの変化を繰り返す搬送波である。図4において、横軸は時間を示し、縦軸はデューティ比を示す。三角波δ1は、三角波δ2よりも縦軸の正側にずれている。三角波δ1,δ2の縦軸方向のシフト量は、各相のスイッチングアームの上側スイッチング素子及び下側スイッチング素子の両方がオフになるデッドタイムを補償するためのものである。
【0044】
PWM出力部60は、三角波δ1よりもデューティ指令値に示されるデューティ比が大きい間、対応する相のスイッチングアームの上側スイッチング素子をオンとするためのモータ制御信号を生成する。また、PWM出力部60は、三角波δ1よりもデューティ指令値に示されるデューティ比が小さい間、対応する相のスイッチングアームの上側スイッチング素子をオフとするためのモータ制御信号を生成する。
【0045】
また、PWM出力部60は、三角波δ2よりもデューティ指令値に示されるデューティ比が小さい間、対応する相のスイッチングアームの下側スイッチング素子をオンとするためのモータ制御信号を生成する。また、PWM出力部60は、三角波δ2よりもデューティ指令値に示されるデューティ比が大きい間、対応する相のスイッチングアームの下側スイッチング素子をオフとするようなモータ制御信号を生成する。
【0046】
図3の説明に戻り、電流取得処理部61は、検出値Iud,Ivd,Iwd、U相デューティ指令値Du、V相デューティ指令値Dv、及びW相デューティ指令値Dwを取得する。
【0047】
具体的には、図3に示すように、電流取得処理部61は、各相のスイッチングアームの下側スイッチング素子42d,42e,42fがオンされている状況で、検出値Iudを第1検出値Iud1として、検出値Ivdを第1検出値Ivd1として、検出値Iwdを第1検出値Iwd1として取得する。第1検出値Iud1,Ivd1,Iwd1は、三角波δ1が、所謂、「山」となるタイミングで各電流センサにより検出された値である。第1検出値Iud1,Ivd1,Iwd1は、モータコイルから下側スイッチング素子を通じて各電流センサに流れてくる電流の値である。
【0048】
電流取得処理部61は、上側スイッチング素子42a,42b,42cがオンされている状況で、検出値Iudを第2検出値Iud2として、検出値Ivdを第2検出値Ivd2として、検出値Iwdを第2検出値Iwd2として取得する。第2検出値Iud2,Ivd2,Iwd2は、三角波δ1が、所謂、「谷」となるタイミングで各電流センサにより検出された値である。第2検出値Iud2,Ivd2,Iwd2は、モータコイルから下側スイッチング素子を通じて各電流センサに流れてこない場合に、各電流センサが検出する電流の値である。第2検出値Iud2,Ivd2,Iwd2は、第1検出値Iud1,Ivd1,Iwd1に含まれる定常的な誤差を打ち消すための補正値である。
【0049】
ここで、各相のデューティ指令値のうちいずれか一相のデューティ指令値に示されるデューティ比が閾値Dth1よりも大きくなる場合がある。閾値Dth1は、これ以上大きいと第1検出値Iud1,Ivd1,Iwd1を検出することができなくなると判断することができる範囲の値として実験等により設定される。デューティ比が閾値Dth1よりも大きい状況は、各電流センサの検出値の検出時間が下側スイッチング素子42d,42e,42fがオンされている時間の半分(1/2)よりも大きくなる状況であり、第1検出値Iud1,Ivd1,Iwd1を検出することができない状況である。これは、デューティ比の設定に用いられる三角波δ1が「山」となるタイミングから下側スイッチング素子42d,42e,42fが次にオフに切り替えられるまでの時間に、第1検出値Iud1,Ivd1,Iwd1の検出が行われるからである。電流センサが第1検出値Iud1,Ivd1,Iwd1の検出を行う途中で下側スイッチング素子42d,42e,42fがオフに切り替えられた場合には、オフに切り替えられた相の電流センサにモータコイルから下側スイッチング素子を通じて電流が流れてこない。このため、当該オフに切り替えられた後の電流センサの検出値は、下側スイッチング素子がオンされている場合の第1検出値に該当しない。特許請求の範囲に記載した各相のうちの一相について第1検出値を検出することができなくなる状況は、電流センサにモータコイルから下側スイッチング素子を通じて電流が流れてこない状況に相当する。なお、第1検出値Iud1,Ivd1,Iwd1を検出することができなくなる状況は、制御部41が電流センサから検出値を得ることができない状況を含む。
【0050】
また、各相のデューティ指令値のうちいずれか一相のデューティ指令値に示されるデューティ比が閾値Dth2よりも小さくなる場合がある。閾値Dth2は、これ以上小さいと第2検出値Iud2,Ivd2,Iwd2を検出することができなくなると判断することができる範囲の値として実験等により設定される。デューティ比が閾値Dth2よりも小さい状況は、各電流センサの検出値の検出時間が上側スイッチング素子42a,42b,42cがオンされている時間の半分よりも大きくなる状況であり、第2検出値Iud2,Ivd2,Iwd2を検出することができない状況である。当該状況は、言い換えると、下側スイッチング素子42d,42e,42fがオンに切り替えられるまでの時間の半分よりも大きくなる状況でもある。電流センサが第2検出値Iud2,Ivd2,Iwd2の検出を行う途中で下側スイッチング素子42d,42e,42fがオンに切り替えられた場合には、オンに切り替えられた相の電流センサにモータコイルから下側スイッチング素子を通じて電流が流れてくる。このため、当該オンに切り替えられた相について、電流センサの検出値は、下側スイッチング素子がオフされている場合の第2検出値に該当しない。特許請求の範囲に記載した各相について第2検出値を検出することができなくなる状況は、電流センサにモータコイルから下側スイッチング素子を通じて電流が流れてくる状況に相当する。なお、第2検出値Iud2,Ivd2,Iwd2を検出することができなくなる状況は、制御部41が電流センサから検出値を得ることができない状況を含む。
【0051】
上記のような状況は、デューティ比が閾値Dth1よりも大きいと第1検出値Iud1,Ivd1,Iwd1を検出することができない状況であるところ、デューティ比を使用できる範囲をなるべく大きくするためデューティ比が閾値Dth1よりも大きい範囲も使用するようにしているために生じている。これは、デューティ比が閾値Dth2よりも小さい状況についても同様である。
【0052】
ただし、第2検出値Iud2,Ivd2,Iwd2は、基本的にゼロ値であり、第1検出値Iud1,Ivd1,Iwd1と比較すると変化が小さい値である。このため、第2検出値Iud2,Ivd2,Iwd2については検出の精度が低くても、第1検出値Iud1,Ivd1,Iwd1を的確に検出することができていれば、各相の電流値Iu,Iv,Iwの算出の精度への影響は小さいと言える。
【0053】
一方、第1検出値Iud1,Ivd1,Iwd1は、第2検出値Iud2,Ivd2,Iwd2と比較すると変化が大きい値である。このため、第1検出値Iud1,Ivd1,Iwd1については検出の精度が低いと、各相の電流値Iu,Iv,Iwの算出の精度への影響は大きくなる。このように、第1検出値Iud1,Ivd1,Iwd1を的確に検出することは比較的に重要である。これに対処するべく、制御部41は、オフセット補正を実行するオフセット補正処理部58の機能と、ブラインド補正を実行する電流値算出処理部62の機能とを有している。
【0054】
電流値算出処理部62は、取得した検出値Iud,Ivd,Iwd、U相デューティ指令値Du、V相デューティ指令値Dv、及びW相デューティ指令値Dwに基づいて、補正後U相電流値Iu´、補正後V相電流値Iv´、及び補正後W相電流値Iw´を演算する。
【0055】
三相/二相変換部63は、補正後U相電流値Iu´、補正後V相電流値Iv´、及び補正後W相電流値Iw´を取得する。また、三相/二相変換部63は、回転角θを取得する。三相/二相変換部63は、補正後U相電流値Iu´、補正後V相電流値Iv´、及び補正後W相電流値Iw´を、回転角θに基づいてd/q座標系のd軸電流値Id及びq軸電流値Iqに変換する。
【0056】
次に、オフセット補正処理部58について詳しく説明する。
図5に示すように、オフセット補正処理部58は、取得したU相デューティ指令値Du、V相デューティ指令値Dv、及びW相デューティ指令値Dwのうち最も大きいデューティ指令値Dhが上記閾値Dth1以下であるか否かを判定する(ステップS101)。ステップS101は、第1検出値Iud1,Ivd1,Iwd1を検出できない状況であるか否かを判断するための処理である。
【0057】
オフセット補正処理部58は、デューティ指令値Dhが上記閾値Dth1以下である場合(ステップS101:YES)、オフセット補正を実行しないで(ステップS102)、一連の処理を終了する。この場合、オフセット補正処理部58は、第1検出値Iud1,Ivd1,Iwd1を検出できない状況でないことを判断している。ステップS102において、オフセット補正処理部58は、重畳後U相電圧指令値Vhu*の値となる補正後U相電圧指令値Vhu´*を演算し、重畳後V相電圧指令値Vhv*の値となる補正後V相電圧指令値Vhv´*を演算し、重畳後W相電圧指令値Vhw*の値となる補正後W相電圧指令値Vhw´*を演算する。
【0058】
オフセット補正処理部58は、デューティ指令値Dhが上記閾値Dth1よりも大きい場合(ステップS101:NO)、U相デューティ指令値Duが閾値Dth1よりも大きいか否かを判定する(ステップS103)。この場合、オフセット補正処理部58は、第1検出値Iud1,Ivd1,Iwd1を検出できない状況であることを判断している。ステップS103は、第1検出値Iud1,Ivd1,Iwd1を検出できない相がU相であるか否かを判断するための処理である。
【0059】
オフセット補正処理部58は、U相デューティ指令値Duが閾値Dth1よりも大きい場合(ステップS103:YES)、U相以外の残り二相についてオフセット補正を実行し(ステップS104)、一連の処理を終了する。
【0060】
ステップS104において、オフセット補正処理部58は、U相について、設定することができるとして定めている高電位側の限界値である第1限界値Vmaxの値に固定されるように重畳後U相電圧指令値Vhu*を演算する。これにより、U相のブラインド補正を実行する場合に、上側スイッチング素子42aがオン、下側スイッチング素子42dがオフに維持されることになる。このことから、上側スイッチング素子42a及び下側スイッチング素子42dがオンオフすることに起因した検出値Ivd,Iwdへのノイズの混入を抑制している。
【0061】
一方、ステップS104において、オフセット補正処理部58は、残り二相のV相及びW相について、設定することができるとして定めている低電位側の限界値である第2限界値Vmin側に重畳後の電圧指令値を全体的にずらすようにオフセット補正する。この場合、オフセット補正処理部58は、オフセット量Vost分だけ第2限界値Vmin側にずらすように、重畳後の電圧指令値に加算して得られる値となる補正後の電圧指令値を演算する。ここで、オフセット量Vostは、負値である。なお、オフセット量Vostは、正値であってもよい。この場合、オフセット量Vostは、重畳後の電圧指令値から減算して得られる値となる補正後の電圧指令値を演算すればよい。
【0062】
オフセット補正処理部58は、U相デューティ指令値Duが閾値Dth1以下である場合(ステップS103:NO)、V相デューティ指令値Dvが閾値Dth1よりも大きいか否かを判定する(ステップS105)。この場合、オフセット補正処理部58は、第1検出値Iud1,Ivd1,Iwd1を検出できない相がU相でないことを判断している。ステップS105は、第1検出値Iud1,Ivd1,Iwd1を検出できない相がV相であるか否かを判断するための処理である。
【0063】
オフセット補正処理部58は、V相デューティ指令値Dvが閾値Dth1よりも大きい場合(ステップS105:YES)、V相以外の残りの二相についてオフセット補正を実行し(ステップS106)、一連の処理を実行する。この場合、オフセット補正処理部58は、第1検出値Iud1,Ivd1,Iwd1を検出できない相がV相であることを判断している。
【0064】
ステップS106において、オフセット補正処理部58は、V相について、第1限界値Vmaxの値に固定されるように重畳後V相電圧指令値Vhv*を演算する。これにより、上側スイッチング素子42b及び下側スイッチング素子42eがオンオフすることに起因した検出値Iud,Iwdへのノイズの混入を抑制している。
【0065】
一方、ステップS106において、オフセット補正処理部58は、残り二相のU相及びW相について、第2限界値Vmin側に重畳後の電圧指令値を全体的にずらすようにオフセット補正する。この場合、オフセット補正処理部58は、オフセット量Vost分だけ第2限界値Vmin側にずらすように、重畳後の電圧指令値に加算して得られる値となる補正後の電圧指令値を演算する。
【0066】
オフセット補正処理部58は、V相デューティ指令値Dvが閾値Dth1以下である場合(ステップS105:NO)、W相デューティ指令値Dwが閾値Dth1よりも大きいとして(ステップS107)、W相以外の残りの二相についてオフセット補正を実行し(ステップS108)、一連の処理を実行する。この場合、オフセット補正処理部58は、第1検出値Iud1,Ivd1,Iwd1を検出できない相がW相であることを判断している。
【0067】
ステップS108において、オフセット補正処理部58は、W相について、第1限界値Vmaxの値に固定されるように重畳後W相電圧指令値Vhw*を演算する。これにより、上側スイッチング素子42c及び下側スイッチング素子42fがオンオフすることに起因した検出値Iud,Iudへのノイズの混入を抑制している。
【0068】
一方、ステップS108において、オフセット補正処理部58は、残り二相のU相及びV相について、第2限界値Vmin側に重畳後の電圧指令値を全体的にずらすようにオフセット補正する。この場合、オフセット補正処理部58は、オフセット量Vost分だけ第2限界値Vmin側にずらすように、重畳後の電圧指令値に加算して得られる値となる補正後の電圧指令値を演算する。
【0069】
次に、電流値算出処理部62について詳しく説明する。
図6に示すように、電流値算出処理部62は、オフセット補正処理部58が実行するステップS101、S103、S105、S107の処理と同様の処理を実行する。これにより、電流値算出処理部62は、オフセット補正処理部58と同様、第1検出値Iud1,Ivd1,Iwd1を検出できない状況であるか否かを判断し、第1検出値Iud1,Ivd1,Iwd1を検出できない状況であることを判断する場合に、第1検出値Iud1,Ivd1,Iwd1を検出できない相が何れの相であるかを判断する。
【0070】
電流値算出処理部62は、上記ステップS101と同様の処理として、ステップS201の処理を実行する。そして、電流値算出処理部62は、デューティ指令値Dhが上記閾値Dth1以下である場合(ステップS201:YES)、ブラインド補正を実行しないで(ステップS202)、一連の処理を終了する。
【0071】
ステップS202において、電流値算出処理部62は、第1検出値Iud1から第2検出値Iud2を減算して得られる差分の値であるU相電流値Iuの値となる補正後U相電流値Iu´を演算する。また、電流値算出処理部62は、第1検出値Ivd1から第2検出値Ivd2を減算して得られる差分の値であるV相電流値Ivの値となる補正後V相電流値Iv´を演算する。また、電流値算出処理部62は、第1検出値Iwd1から第2検出値Iwd2を減算して得られる差分の値であるW相電流値Iwの値となる補正後W相電流値Iw´を演算する。
【0072】
電流値算出処理部62は、デューティ指令値Dhが上記閾値Dth1よりも大きい場合(ステップS201:NO)、上記ステップS103と同様の処理として、ステップS203の処理を実行する。そして、電流値算出処理部62は、U相デューティ指令値Duが閾値Dth1よりも大きい場合(ステップS203:YES)、U相のブラインド補正を実行し(ステップS204)、一連の処理を終了する。
【0073】
ステップS204において、電流値算出処理部62は、第1検出値Iud1,Ivd1,Iwd1を検出できない相でないV相について、第1検出値Ivd1から第2検出値Ivd2を減算して得られる差分の値であるV相電流値Ivの値となる補正後V相電流値Iv´を演算する。また、電流値算出処理部62は、第1検出値Iud1,Ivd1,Iwd1を検出できない相でないW相について、第1検出値Iwd1から第2検出値Iwd2を減算して得られる差分の値であるW相電流値Iwの値となる補正後V相電流値Iw´を演算する。続いて、電流値算出処理部62は、U相について、中性点電流値CからV相電流値Iv及びW相電流値Iwを減算した値を補正後U相電流値Iu´として演算する。なお、中性点電流値Cは、U相モータコイル25u、V相モータコイル25v、及びW相モータコイル25wのスター結線の中性点の電流値に相当する。中性点電流値Cは、固定値でもよいし、その時々に応じた値でもよい。
【0074】
ステップS204では、オフセット補正を通じてV相及びW相について、第2検出値Iud2,Ivd2,Iwd2を検出できなくなる状況が生じうる。このため、ステップS204において、電流値算出処理部62は、U相デューティ指令値Duが閾値Dth1よりも大きい状況になる直前である1周期前の三角波δ2の「谷」のタイミングで検出した第2検出値Iud2,Ivd2,Iwd2の前回値を、今回の演算の第2検出値Iud2,Ivd2,Iwd2として用いるようにしている。
【0075】
電流値算出処理部62は、U相デューティ指令値Duが閾値Dth1以下である場合(ステップS203:NO)、上記ステップS105と同様の処理として、ステップS205の処理を実行する。そして、電流値算出処理部62は、V相デューティ指令値Dvが閾値Dth1よりも大きい場合(ステップS205:YES)、V相のブラインド補正を実行し(ステップS206)、一連の処理を終了する。
【0076】
ステップS206において、電流値算出処理部62は、第1検出値Iud1,Ivd1,Iwd1を検出できない相でないU相について、第1検出値Iud1から当該状況になる直前に検出した第2検出値Iud2を減算して得られる差分の値であるU相電流値Iuの値となる補正後U相電流値Iu´を演算する。また、電流値算出処理部62は、第1検出値Iud1,Ivd1,Iwd1を検出できない相でないW相について、第1検出値Iwd1から当該状況になる直前に検出した第2検出値Iwd2を減算して得られる差分の値であるW相電流値Iwの値となる補正後V相電流値Iw´を演算する。続いて、電流値算出処理部62は、V相について、中性点電流値CからU相電流値Iu及びW相電流値Iwを減算した値を補正後V相電流値Iv´として演算する。
【0077】
ステップS206では、オフセット補正を通じてU相及びW相について、第2検出値Iud2,Ivd2,Iwd2を検出できなくなる状況が生じうる。このため、ステップS206において、電流値算出処理部62は、V相デューティ指令値Dvが閾値Dth1よりも大きい状況になる直前である1周期前の三角波δ2の「谷」のタイミングで検出した第2検出値Iud2,Ivd2,Iwd2を、今回の演算の第2検出値Iud2,Ivd2,Iwd2として用いるようにしている。
【0078】
電流値算出処理部62は、V相デューティ指令値Dvが閾値Dth1以下である場合(ステップS205:NO)、上記ステップS107と同様の処理として、ステップS207の処理を実行し、W相のブラインド補正を実行し(ステップS208)、一連の処理を終了する。
【0079】
ステップS208において、電流値算出処理部62は、第1検出値Iud1,Ivd1,Iwd1を検出できない相でないU相について、第1検出値Iud1から当該状況になる直前に検出した第2検出値Iud2を減算して得られる差分の値であるU相電流値Iuの値となる補正後U相電流値Iu´を演算する。また、電流値算出処理部62は、第1検出値Iud1,Ivd1,Iwd1を検出できない相でないV相について、第1検出値Ivd1から当該状況になる直前に検出した第2検出値Ivd2を減算して得られる差分の値であるV相電流値Ivの値となる補正後V相電流値Iv´を演算する。続いて、電流値算出処理部62は、W相について、中性点電流値CからU相電流値Iu及びV相電流値Ivを減算した値を補正後W相電流値Iw´として演算する。
【0080】
ステップS208では、オフセット補正を通じてU相及びV相について、第2検出値Iud2,Ivd2,Iwd2を検出できなくなる状況が生じうる。このため、ステップS208において、電流値算出処理部62は、W相デューティ指令値Dwが閾値Dth1よりも大きい状況になる直前である1周期前の三角波δ2の「谷」のタイミングで検出した第2検出値Iud2,Ivd2,Iwd2を、今回の演算の第2検出値Iud2,Ivd2,Iwd2として用いるようにしている。なお、ステップS204、S206、S208では、電圧指令値も考慮して、オフセット補正の状況で閾値Dth2よりも小さい場合に前回値を用いるようにしてもよい。
【0081】
本実施形態の作用を説明する。
ここで、第2検出値Iud2,Ivd2,Iwd2は基本的にゼロ値であり、第1検出値Iud1,Ivd1,Iwd1と比較すると変化しない値である。このため、第2検出値Iud2,Ivd2,Iwd2については、検出の精度が低くても、第1検出値Iud1,Ivd1,Iwd1を的確に検出することができていれば、各相の電流値Iu,Iv,Iwの算出への影響は小さい。
【0082】
このため、本実施形態では、ブラインド補正を実行する状況で、ブラインド補正の対象でない二相について、当該二相の重畳後の電圧指令値を第2限界値Vmin側に全体的にずらすようにオフセット補正するようにしている。これは、これまで第2検出値Iud2,Ivd2,Iwd2の検出の精度が低くなることから使用していなかった領域の一部を含むように、第2限界値Vmin側に重畳後の電圧指令値を全体的にずらすことに相当し、各限界値側で使用できる電圧指令値の振幅の中点をゼロ値とする場合、当該ゼロ値を第2限界値Vmin側にずらすことに相当する。重畳後の電圧指令値を全体的にずらすことは、言い換えると、スター結線の中性点の電圧値をずらすことに相当する。
【0083】
例えば、図7中、実線、1点鎖線、2点鎖線で各相の補正後の電圧指令値を示している。図7において、横軸は時間を示し、縦軸は電圧指令値の振幅を示す。また、図7中、破線で各相の重畳後の電圧指令値を示している。実線、1点鎖線、2点鎖線で示す各相の補正後の電圧指令値と、破線で示す各相の重畳後の電圧指令値とは、電圧指令値の振幅方向においてオフセット量Vost分だけずれている。各相の補正後の電圧指令値は、重畳後の電圧指令値に対して、オフセット量Vost分だけ第2限界値Vmin側に全体的にずらされている。
【0084】
この場合、オフセット補正をしない場合と比較して、補正後の電圧指令値のゼロ値から第1限界値Vmax側で使用できる電圧値の範囲は広くなる。これは、第2限界値Vmin側で使用できる電圧指令値についても同様である。これにより、オフセット補正をしない場合と比較して、補正後の電圧指令値の振幅を広げることができるようになる。
【0085】
本実施形態の効果を説明する。
(1)オフセット補正をしない場合と比較して、補正後の電圧指令値の振幅を広げることができるようになることから、モータ20に印加できる最大の電圧を大きくすることができるため、電圧利用率を向上でき、モータ20の出力特性を向上させることができる。
【0086】
(2)第2検出値Iud2,Ivd2,Iwd2は基本的にゼロ値であり、第1検出値Iud1,Ivd1,Iwd1と比較すると変化しない値であるといっても、当該第2検出値Iud2,Ivd2,Iwd2の検出の精度を確保することができる方が好ましいことは言うまでもない。
【0087】
そこで、本実施形態では、電流値算出処理部62は、オフセット補正を実行する状況で、当該状況になる直前に検出した第2検出値Iud2,Ivd2,Iwd2を今回の演算に用いる第2検出値Iud2,Ivd2,Iwd2として、各相の電流値Iu,Iv,Iwを演算している。
【0088】
これにより、各相について第2検出値Iud2,Ivd2,Iwd2を検出することができなくなるオフセット補正を実行する状況であっても、当該状況になる直前に検出された第2検出値Iud2,Ivd2,Iwd2であれば、検出の精度が確保された条件下で検出された値である可能性が高いと言える。つまり、各相について第2検出値Iud2,Ivd2,Iwd2を検出することができなくなる状況であっても、当該第2検出値Iud2,Ivd2,Iwd2の検出の精度の著しい低下を抑えることができ、ひいては各相の電流値Iu,Iv,Iwの算出の精度を確保するのに効果的である。
【0089】
上記実施形態は次のように変更してもよい。また、以下の他の実施形態は、技術的に矛盾しない範囲において、互いに組み合わせることができる。
・U相電流センサ45uは、下側スイッチング素子42dよりも高電位側の部分に設けられるようにしてもよい。この場合、例えば、U相電流センサ45uは、U相動力線43uに設けられるようにすればよい。これは、V相電流センサ45v及びW相電流センサ45wについても同様である。
【0090】
・上側スイッチング素子42a~42c及び下側スイッチング素子42d~42fの一部、あるいは全ては、MOS-FET以外のスイッチング素子、例えば、IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)等であってもよい。
【0091】
・電流値算出処理部62は、上記ステップS204、S206、S208で、今回の演算の第2検出値Iud2,Ivd2,Iwd2として、ゼロ値等の固定値を用いるようにしてもよい。
【0092】
・PWM出力部60は、三角波δ1よりもデューティ比が大きい間、対応する相のスイッチングアームの下側スイッチング素子をオンとするためのモータ制御信号を生成し、三角波δ2よりもデューティ比が小さい間、対応する相のスイッチングアームの上側スイッチング素子をオンとするためのモータ制御信号を生成するようにしてもよい。この場合、オフセット補正処理部58は、第1検出値Iud1,Ivd1,Iwd1を検出することができなくなる相以外の残りの二相について、高電位側の第1限界値Vmax側に重畳後の電圧指令値を全体的にずらすようにオフセット補正するようにすればよい。
【0093】
・三次高調波重畳部57は、基本正弦波の第三次の高調波を重畳するものに限らず、第5次等、他の高調波を重畳するものであってもよい。
・オフセット補正処理部58がオフセット補正をする出力電圧波は、U相電圧指令値Vu*、V相電圧指令値Vv*、及びW相電圧指令値Vw*であってもよい。この場合、オフセット補正処理部58は、二相/三相変換部56と三次高調波重畳部57との間に設けられるようにすればよい。また、オフセット補正処理部58がオフセット補正をする出力電圧波は、電圧指令値を生成する際に用いるものに限らず、モータ20の制御では用いることなく演算上求められるものであってもよい。この場合、オフセット補正処理部は、演算上で出力電圧波を得た場合に、当該出力電圧波がオフセット補正されたものとなるようにモータ制御信号を補正するようにすればよい。
【0094】
・モータ20によってステアリング軸11にアシスト力を付与するEPS1に具体化して示したが、これに限らない。例えば、ラック軸12に平行に配置された回転軸21を有するモータ20によってラック軸12にアシスト力を付与するEPS1に具体化したステアリング装置であってもよい。また、EPSに限らず、例えばステアバイワイヤ式のステアリング装置に具体化してもよい。すなわち、モータ20によって操舵機構2に動力を付与するステアリング装置であれば、どのようなものであってもよい。
【0095】
・上記実施形態において、制御部41は、1)コンピュータプログラム(ソフトウェア)に従って動作する1つ以上のプロセッサ、2)各種処理のうち少なくとも一部の処理を実行する特定用途向け集積回路(ASIC)等の1つ以上の専用のハードウェア回路、あるいは、3)それらの組み合わせ、を含む処理回路によって構成することができる。プロセッサは、CPU並びに、RAM及びROM等のメモリを含み、メモリは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコードまたは指令を格納している。メモリすなわち非一時的なコンピュータ可読媒体は、汎用または専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。
【符号の説明】
【0096】
20…モータ
25u,25v,25w…U,V,W相モータコイル
40…モータ制御装置
41…制御部
42a,42b,42c…上側スイッチング素子
42d,42e,42f…下側スイッチング素子
42u,42v,42w…U,V,W相スイッチングアーム
45u,45v,45w…U,V,W相電流センサ
57…三次高調波重畳部
58…オフセット補正処理部
61…電流取得処理部
62…電流値算出処理部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7