(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】スパークプラグ
(51)【国際特許分類】
H01T 13/02 20060101AFI20240409BHJP
H01T 13/20 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
H01T13/02
H01T13/20 B
(21)【出願番号】P 2020125490
(22)【出願日】2020-07-22
【審査請求日】2023-05-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100140486
【氏名又は名称】鎌田 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100170058
【氏名又は名称】津田 拓真
(72)【発明者】
【氏名】高田 健一朗
【審査官】内田 勝久
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-210447(JP,A)
【文献】特開平05-114458(JP,A)
【文献】特開2006-286612(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01T 7/00 - 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の中心軸を中心に円筒状に形成されるハウジング(11)と、前記ハウジングの内部に絶縁碍子(12)を介して配置される中心電極(13)と、前記中心電極に対して所定の火花放電ギャップを有して対向して配置される接地電極(14)とを有し、電圧の印加に基づいて前記中心電極と前記接地電極との間に火花放電を形成するスパークプラグ(10)であって、
前記接地電極は、その基端部が前記ハウジングの先端部において片持ち支持されるように設けられるとともに、その先端部が前記中心電極の先端部に対向するように配置され、
前記ハウジングの先端部において前記接地電極の基端部を支持している部分を固定部(113)とし、前記固定部に対して前記ハウジングの中心軸を挟んで反対側に位置する部分を非固定部(114)とし、前記ハウジングの先端部から基端部に向かう方向を所定方向とするとき、
前記固定部の内面には、前記所定方向に向かうほど前記ハウジングの中心軸に近づくように傾斜する傾斜面(111b)が形成され、
前記傾斜面が前記ハウジングの中心軸に対してなす角度は、前記非固定部の内面が前記ハウジングの中心軸に対してなす角度よりも大き
く、
前記ハウジングの先端部の開口部は、
前記ハウジングの先端面よりも内側の部分において、その中心軸が前記ハウジングの中心軸に一致するように円筒状に形成されるとともに、
前記円筒状に形成されている部分から前記ハウジングの先端面に向かうほど、その中心軸が前記固定部寄りにずれた位置に変化するように偏心円錐台形状に形成されており、
偏心円錐台形状に形成された前記ハウジングの開口部の内面が、前記傾斜面を形成している
スパークプラグ。
【請求項2】
前記ハウジングの前記非固定部には、その先端面から突出するように突出部(115)が形成されている
請求項
1に記載のスパークプラグ。
【請求項3】
前記突出部において前記接地電極に対向する内面には、先端部に向かうほど前記ハウジングの中心軸から離間するように傾斜する傾斜面(115a)が形成されている
請求項
2に記載のスパークプラグ。
【請求項4】
前記ハウジングの前記固定部から前記火花放電ギャップに向かって流れるように気流の流れを整える整流構造(19,20,142)を更に備える
請求項1~
3のいずれか一項に記載のスパークプラグ。
【請求項5】
前記固定部は、前記ハウジングの先端部の内面から前記中心軸に向かって突出するように形成され、
前記固定部の表面には、前記接地電極が挿入されて接合される凹状の挿入部(113a)が形成され、
前記凹状の挿入部の側壁の内面と前記接地電極の側面との間には、前記整流構造としての溝(20)が形成されている
請求項
4に記載のスパークプラグ。
【請求項6】
前記固定部は、前記ハウジングの先端部の内面から前記中心軸に向かって突出するように形成され、
前記固定部の表面には、前記接地電極が接合され、
前記接地電極において前記固定部が接合されている表面、及び前記固定部において前記接地電極が接合されている表面の少なくとも一方には、前記整流構造としての溝(142)が形成されている
請求項
4に記載のスパークプラグ。
【請求項7】
前記溝は、前記接地電極の基端部から先端部まで貫通するように前記接地電極の表面に形成されている
請求項
6に記載のスパークプラグ。
【請求項8】
前記接地電極は、所定の隙間を有して配置される複数の接地電極片(140A,140B)からなる接地電極母材(140)と、前記接地電極母材に固定される接地電極チップ(141)とを有し、
前記整流構造は、複数の前記接地電極片の間に形成される隙間(19)からなる
請求項
4に記載のスパークプラグ。
【請求項9】
前記固定部は、前記ハウジングの先端部の内面から前記中心軸に向かって突出するように形成されるとともに、
前記固定部において前記ハウジングの内部に対向する内面とは反対側の外面には、前記接地電極が接合され、
前記固定部の内面には、前記固定部において前記ハウジングの内面に固定されている基端部から先端部に向かうほど、前記接地電極に近づくように傾斜する傾斜面(113b)が形成されている
請求項1~
8のいずれか一項に記載のスパークプラグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スパークプラグに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、下記の特許文献1に記載のスパークプラグがある。このスパークプラグは、筒状のハウジングと、ハウジング内部に保持される中心電極と、ハウジングの一端に溶接される接地電極とを備えている。接地電極は、放電ギャップを介して中心電極の先端部に対向している。接地電極は抵抗溶接によりハウジングに溶接されている。具体的には、スパークプラグの製造時、ハウジングの一端面には、基準面と、基準面からハウジング軸に平行に突出する突出部とが形成されている。ハウジングに接地電極を抵抗溶接する際には、まず、接地電極をハウジングの突出部に加圧した状態でそれらに電流を流す。この際、ハウジングの突出部に電流が集中して流れるため、突出部が溶融する。突出部が溶融している際に、接地電極がハウジングに押し込まれるため、接地電極がハウジングの突出部に沈み込むように溶接される。以上のような工程を経て接地電極がハウジングに抵抗溶接されることにより、それらの接合強度を確保することができる。また、特許文献1に記載のスパークプラグによれば、接地電極をハウジング先端面に立設させずに水平に寝かせて配置できるため、接地電極を短くすることが可能となる。よって、接地電極の熱引き性能を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載のスパークプラグでは、ハウジングの先端部付近に接地電極が配置されているため、中心電極と接地電極との間に形成される火花放電により内燃機関の混合気が着火した際に、その火炎が接地電極に接触し易い。そのため、火炎の熱が接地電極に奪われ易く、失火する懸念がある。特に、特許文献1に記載のスパークプラグは、接地電極を短くすることにより接地電極の熱がハウジングに逃げ易い構造となっているため、火炎の熱が更に接地電極を介してハウジングに奪われ易く、失火の発生率が高くなる傾向がある。失火の発生率が高くなると、内燃機関の熱交換効率が低下する等の不具合を招くおそれがある。
【0005】
本開示は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、着火性を向上させることが可能なスパークプラグを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するスパークプラグ(10)は、所定の中心軸を中心に円筒状に形成されるハウジング(11)と、ハウジングの内部に絶縁碍子(12)を介して配置される中心電極(13)と、中心電極に対して所定の火花放電ギャップを有して対向して配置される接地電極(14)とを有し、電圧の印加に基づいて中心電極と接地電極との間に火花放電を形成する。接地電極は、その基端部がハウジングの先端部において片持ち支持されるように設けられるとともに、その先端部が中心電極の先端部に対向するように配置される。ハウジングの先端部において接地電極の基端部を支持している部分を固定部(113)とし、固定部に対してハウジングの中心軸を挟んで反対側に位置する部分を非固定部(114)とし、ハウジングの先端部から基端部に向かう方向を所定方向とするとき、固定部の内面には、所定方向に向かうほどハウジングの中心軸に近づくように傾斜する傾斜面(111b)が形成される。傾斜面がハウジングの中心軸に対してなす角度は、非固定部の内面がハウジングの中心軸に対してなす角度よりも大きい。
【0007】
この構成によれば、ハウジングの外側から固定部に向かって流れる気流が、固定部の内面に形成された傾斜面に沿って流れることにより、その気流の流れ方向が、ハウジングの内部に向かう方向であって、且つハウジングの中心軸に向かう方向に変化する。この気流がハウジングの非固定部の内面に衝突することにより、その気流の流れ方向が非固定部の内面に沿ってハウジングの開口部の外側に向かう方向に変化する。このような気流の流れにより、中心電極と接地電極との間に形成される火花放電を、非固定部の周辺においてハウジングの開口部の外側にあたる部分に誘導することができる。その部分で混合気が火花放電により着火すれば、生成される火炎の熱が接地電極等に奪われ難くなるため、着火性を向上させることができる。
【0008】
なお、上記手段、特許請求の範囲に記載の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【発明の効果】
【0009】
本開示のスパークプラグによれば、着火性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、第1実施形態のスパークプラグの破断断面構造を示す断面図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態のスパークプラグにおけるハウジングの先端部周辺の斜視構造を示す斜視図である。
【
図3】
図3は、第1実施形態のスパークプラグにおけるハウジングの先端部の正面構造を示す正面図である。
【
図4】
図4は、
図3のIV-IV線に沿った断面構造を示す断面図である。
【
図5】
図5は、第1実施形態のスパークプラグの動作例を示す断面図である。
【
図6】
図6は、第2実施形態のスパークプラグにおけるハウジングの先端部周辺の断面構造を示す断面図である。
【
図7】
図7は、第2実施形態のスパークプラグにおけるハウジングの先端部周辺の側面構造を示す側面図である。
【
図8】
図8は、第3実施形態のスパークプラグにおけるハウジングの先端部周辺の斜視構造を示す斜視図である。
【
図9】
図9は、第3実施形態のスパークプラグにおけるハウジングの先端部周辺の断面構造を示す断面図である。
【
図10】
図10は、第4実施形態のスパークプラグにおけるハウジングの先端部周辺の斜視構造を示す斜視図である。
【
図11】
図11は、第4実施形態のスパークプラグにおけるハウジングの先端部周辺の正面構造を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、スパークプラグの実施形態について図面を参照しながら説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
<第1実施形態>
はじめに、
図1に示される第1実施形態のスパークプラグ10について説明する。このスパークプラグ10は内燃機関のエンジンヘッド内に配置される。スパークプラグ10は、電圧の印加に基づき火花放電を形成することによりシリンダ内の混合気を着火する。スパークプラグ10は、ハウジング11と、絶縁碍子12と、中心電極13と、接地電極14とを備えている。
【0012】
ハウジング11は、炭素鋼等の金属材料により、軸線m10を中心に円筒状に形成されている。以下では、軸線m10を「中心軸m10」と称する。ハウジング11の下部の外周には、ねじ部11aが形成されている。内燃機関のエンジンヘッドブロックに形成されるねじ穴にねじ部11aをねじ込むことにより、スパークプラグ10をエンジンヘッドブロックに固定することができる。ハウジング11の内部に形成される貫通孔116には、絶縁碍子12が同軸に挿入されている。
【0013】
絶縁碍子12は、アルミナ等の絶縁材料により、ハウジング11の中心軸m10を中心に円筒状に形成されている。絶縁碍子12の下端部の外周部分にはハウジング11が一体的に組み付けられている。絶縁碍子12の下部に形成される貫通孔120には、中心電極13が収容されて保持されている。
【0014】
中心電極13は、中心電極母材130と、中心電極チップ131とを有している。中心電極母材130は、耐熱性に優れるニッケル(Ni)合金等により、ハウジング11の中心軸m10を中心に円柱状に形成されている。具体的には、中心電極母材130の内材は銅で形成され、その外材はニッケル合金で形成されている。中心電極母材130の中心軸m10はスパークプラグ10の中心軸m10に一致している。中心電極母材130の先端部は絶縁碍子12の下端から露出している。中心電極チップ131は、レーザ溶接や抵抗溶接等の接合加工により中心電極母材130の先端部に接合されている。中心電極チップ131は、ハウジング11の中心軸m10を中心に円柱状に形成されている。中心電極チップ131は、高融点で耐消耗性に優れたイリジウム(Ir)を主材料として、イリジウムの高温揮発性を抑制するためにロジウム(Rh)を含むイリジウム合金等により形成されている。なお、中心電極チップ131は、イリジウム合金に限らず、白金(Pt)を主材料とする白金合金等の貴金属により形成されていてもよい。
【0015】
接地電極14は、接地電極母材140と、接地電極チップ141とを有している。接地電極母材140は、ニッケル合金等により形成されている。接地電極母材140は、ハウジング11の先端部11bにおいて片持ち支持されるように接合されている。接地電極母材140は、ハウジング11の先端部11bからハウジング11の中心軸m10に向かって、中心軸m10に直交する方向Xに延びるように配置されている。以下では、接地電極母材140が延びる方向を「接地電極延伸方向X」と称する。接地電極母材140の先端部は中心電極チップ131に対向するように配置されている。接地電極チップ141は、レーザ溶接や抵抗溶接等の接合加工により接地電極母材140の先端部に接合されている。接地電極チップ141も、中心電極チップ131と同様に、イリジウム合金や白金合金等の貴金属により形成されている。接地電極チップ141は、所定の隙間18を有して中心電極チップ131に対向して配置されている。以下では、中心電極チップ131と接地電極チップ141との間に形成される隙間18を「火花放電ギャップ18」と称する。
【0016】
このスパークプラグ10では、中心電極13の上部に中心軸部材15及び端子部16が電気的に接続されている。端子部16には、高電圧を印加する外部回路が接続される。外部回路により端子部16に高電圧が印加されると、中心電極13の中心電極チップ131と接地電極14の接地電極チップ141との間に火花放電が形成される。このスパークプラグ10が形成する火花放電により内燃機関のシリンダ内の混合気が着火することにより、混合気が燃焼する。
【0017】
なお、以下では、ハウジング11の先端部11bの反対側の端部を「基端部11c」と称する。また、ハウジング11の先端部11bから基端部11cに向かう方向を「所定方向Z」と称する。
次に、
図2~
図4を参照して、ハウジング11の先端部11bの周辺の構造について詳しく説明する。なお、
図1では、所定方向Zが紙面上で下から上に向かう方向となっていたが、
図2~
図4では、所定方向Zが紙面上で上から下に向かう方向となっている。
【0018】
図2及び
図3に示されるように、ハウジング11の先端部11bには開口部111が形成されている。
図4に示されるように、ハウジング11の内部に形成される貫通孔116は、開口部111からハウジング11の内部に向かって、縮径部116aと、縮径部116aよりも内径の大きい拡径部116bとを有して構成されている。縮径部116aと拡径部116bとの境界には段差部116cが形成されている。段差部116cにはパッキン17を介して絶縁碍子12が着座している。
【0019】
図2及び
図3に示されるように、ハウジング11の開口部111の内面111aには、ハウジング11に対して接地電極14を固定するための固定部113が形成されている。固定部113は、ハウジング11の開口部111の内面111aからハウジング11の中心軸m10に向かって突出するように形成されている。以下では、固定部113においてハウジング11の内部に対向する表面を「内面」と称し、その反対側に位置する表面を「外面」と称する。固定部113の外面には凹状の挿入部113aが形成されている。挿入部113aには接地電極母材140の基端部140aが挿入されて接合されている。固定部113の内面には傾斜面113bが形成されている。
図4に示されるように、傾斜面113bは、ハウジング11の内面111aに固定されている基端部113cから先端部113dに向かうほど接地電極14に近づくように傾斜している。
【0020】
図3に示されるように、挿入部113aの両側壁の内面と接地電極14の両側面との間には、凹状の溝20が形成されている。本実施形態では、溝20が、気流の流れを整える整流構造に相当する。
図2及び
図3に示されるように、ハウジング11の開口部111は円錐台状に形成されている。詳しくは、ハウジング11の開口部111において絶縁碍子12の外側に位置している部分は、その中心軸がハウジング11の中心軸m10に一致するように円筒状に形成されている。また、ハウジング11の開口部111は、円筒状に形成されている部分からハウジング11の先端面112に向かうほど、その中心軸が固定部113寄りにずれた位置に変化するように偏心円錐台形状に形成されている。
図3に示されるように、ハウジング11の先端面112における開口部111の中心軸m11は、ハウジング11の中心軸m10よりも固定部113寄りに所定距離Lだけずれている。偏心円錐台形状に形成されたハウジング11の開口部111の内面には、傾斜面111bが形成されている。傾斜面111bは、所定方向Zに向かうほどハウジング11の中心軸m10に近づくように傾斜している。
図4に示されるように、ハウジング11の先端部11bにおいて固定部113に対してハウジング11の中心軸m10を挟んで反対側に位置する部分を非固定部114とするとき、非固定部114の内面はハウジング11の中心軸m10に平行である。したがって、固定部113の内面に形成される傾斜面111bがハウジング11の中心軸m10に対してなす角度は、非固定部114の内面がハウジング11の中心軸m10に対してなす角度よりも大きくなっている。
【0021】
ハウジング11の非固定部114には、その先端面から突出するように突出部115が形成されている。突出部115において接地電極14に対向する内面には、先端部に向かうほどハウジング11の中心軸m10から離間するように傾斜する傾斜面115aが形成されている。
【0022】
次に、本実施形態のスパークプラグ10の動作例について説明する。
スパークプラグ10が配置される内燃機関のシリンダ内には、様々な向きの気流が形成される。火花放電ギャップ18に形成される火花放電は、シリンダ内の気流の流れに応じて変形する。例えば、
図2に矢印W10で示される方向に流れる気流が形成されている場合、すなわち接地電極延伸方向Xに対して直交する方向に流れる気流が形成されている場合、火花放電ギャップ18に形成される火花放電は、気流により流されることで、中心電極13や接地電極14から離間する方向に変形する。そのため、火花放電により混合気が着火することで火炎が形成されたときに、その火炎が接地電極14に接触し難い。すなわち、火炎の熱が接地電極14に奪われ難いため、失火する可能性は低い。
図2に矢印W11で示される方向の気流が形成されている場合も同様である。
【0023】
これに対して、
図2に矢印W12で示される方向に流れる気流が形成されている場合、すなわち接地電極延伸方向Xに平行な方向に流れる気流が形成されている場合、気流が固定部113に衝突するため、火花放電ギャップ18に気流が流れ難い。そのため、火花放電が火花放電ギャップ18の周辺に留まり易くなることから、仮に火花放電により混合気が着火した場合、その火炎が接地電極14に接触する可能性が高い。火炎が接地電極14に接触することにより火炎の熱が接地電極14に奪われると、失火するおそれがある。
【0024】
この点、本実施形態のスパークプラグ10では、矢印W12で示される方向に流れる気流が形成された場合、
図3に示されるように、その一部の気流が、矢印W120で示されるように、固定部113の挿入部113aの両側壁の内面と接地電極母材140の両側面との間に形成される溝20に沿って流れることにより、火花放電ギャップ18に向かって流れる。すなわち、気流の流れが、溝20により、火花放電ギャップ18に向かう方向である矢印W120で示される方向に整流される。よって、火花放電ギャップ18に火花放電が形成された場合、その火花放電が気流の流れにより矢印W120で示される方向に流れる。
【0025】
さらに、
図4に示されるように、本実施形態のスパークプラグ10では、矢印W12で示される方向に流れる気流の残りの一部は、矢印W121に示されるように、ハウジング11の傾斜面111bに沿って流れる。これにより、この気流の流れ方向は、ハウジング11の内部に向かう方向であって、且つハウジング11の中心軸m10に向かう方向に変化する。これにより気流は、絶縁碍子12の外周を通り抜けて、ハウジング11の非固定部114側に配置される縮径部116aの内面に衝突することにより、ハウジング11の開口部111に向かって流れる。さらに、この気流が、矢印W120で示される方向に流れる気流と衝突することにより、その気流の流れが矢印W122で示される方向に、すなわちハウジング11の開口部111から外部に向かう方向に変更される。これにより、火花放電ギャップ18に形成された火花放電SPは、
図4に示されるように、ハウジング11の先端面112よりも外側の領域A10に流れるようになる。この火花放電により混合気が着火して火炎が形成されることで、火炎が接地電極14に接触し難くなる。結果的に、安定した火炎の成長が得られ易くなるため、良好な着火性を実現できる。また、矢印W121で示される方向に流れる気流が形成されることで、矢印W120に示されるように接地電極14に沿って流れる気流の一部がハウジング11の内部に潜り込むことを抑制できる。すなわち、ハウジング11の外側に向かって気流が流れ易くなるため、領域A10に火炎を誘導し易くなる。
【0026】
一方、
図2に矢印W13で示される方向の気流が形成されている場合、火花放電ギャップ18に形成される火花放電は気流により接地電極14に向かって流れ易い。そのため、火花放電により形成される火炎が接地電極14に接触し易く、同様に失火が生じ易い。
この点、本実施形態のスパークプラグ10では、矢印W13で示される気流が形成された場合、
図5に示されるように、その気流は矢印W130,W131で示されるように流れる。すなわち、気流は、突出部115の両脇を通過した後、矢印W130に示されるようにハウジング11の内部に向かって流れた後、ハウジング11の固定部113側に配置される縮径部116aの内面に衝突することにより、ハウジング11の開口部111に向かって流れる。また、ハウジング11の開口部111に向かって流れる気流は、矢印W131に示されるように固定部113の傾斜面113bに沿って流れることで、火花放電ギャップ18に向かって流れるようになる。この矢印W131に示される気流の流れにより、火花放電ギャップ18に形成された火花放電は、ハウジング11の先端面112よりも外側の空間に流れるようになる。よって、火花放電により形成される火炎が接地電極14に接触し難くなるため、良好な着火性を確保することができる。
【0027】
以上説明した本実施形態のスパークプラグ10によれば、以下の(1)~(5)に示される作用及び効果を得ることができる。
(1)
図4に矢印W121で示されるような気流の流れが形成されることにより、中心電極13及び接地電極14との間に形成される火花放電を、非固定部114の周辺においてハウジング11の開口部111の外側にあたる部分に誘導することができる。その部分で混合気が火花放電により着火すれば、生成される火炎の熱が接地電極14に奪われ難くなるため、着火性を向上させることができる。
【0028】
(2)ハウジング11の先端部11bの開口部111は、ハウジング11の先端面112よりも内側の部分にいて、その中心軸がハウジング11の中心軸m10に一致するように円筒状に形成されている。また、ハウジング11の先端部11bの開口部111は、円筒状に形成されている部分からハウジング11の先端面112に向かうほど、その中心軸が固定部113寄りにずれた位置に変化するように偏心円錐台形状に形成されている。偏心円錐台形状に形成されたハウジング11の開口部111の内面が傾斜面113bを構成している。この構成によれば、固定部113の内面に傾斜面113bを容易に形成することができる。
【0029】
(3)ハウジング11の非固定部114には、その先端面から突出するように突出部115が形成されている。この構成によれば、接地電極14に沿って流れる気流が突出部115に衝突することにより、その気流の流れ方向を、ハウジング11の外側に向かう方向に変化させることができる。特に、突出部115において接地電極14に対向する内面には、先端部に向かうほどハウジング11の中心軸m10から離間するように傾斜する傾斜面115aが形成されているため、気流の流れ方向が、ハウジング11の外側に向かう方向に更に変化し易くなっている。結果として、火花放電ギャップ18に形成される火花放電を、非固定部114の周辺においてハウジング11の開口部の外側にあたる部分に誘導し易くなるため、火炎が接地電極14に更に接触し難くなる。よって、着火性を更に向上させることができる。
【0030】
(4)スパークプラグ10には、ハウジング11の固定部113から火花放電ギャップ18に向かって流れるように気流の流れを整える整流構造として、固定部113の挿入部113aの両側壁の内面と接地電極14の側面との間に溝20が形成されている。この構成によれば、ハウジング11の外側から固定部113に向かうように流れる気流の流れ方向を、固定部113から火花放電ギャップ18に向かう方向に変化させ易くなるため、
図4に示されるような火花放電を形成し易くなる。よって、着火性を更に向上させることができる。
【0031】
(5)固定部113の内面には、そのハウジング11の内面111aに固定されている基端部113cから先端部113dに向かうほど接地電極14に近づくように傾斜する傾斜面113bが形成されている。この構成によれば、
図5に示されるように、ハウジング11の非固定部114側から進入する気流の流れを、非固定部114の周辺においてハウジング11の開口部111の外側にあたる部分に誘導することができる。結果的に、火花放電ギャップ18に形成される火花放電を、ハウジング11の開口部111の外側にあたる部分に誘導できるため、その部分で混合気が火花放電により着火することで、着火性を向上させることができる。
【0032】
<第2実施形態>
次に、スパークプラグの第2実施形態について説明する。以下、第1実施形態のスパークプラグとの相違点を中心に説明する。
図6及び
図7に示されるように、本実施形態のスパークプラグ10では、接地電極母材140において固定部113が接合されている表面140bに溝142が形成されている。溝142は、接地電極母材140の基端部140aの端面から接地電極チップ141の周辺まで延びるように形成されている。溝142の一端部は、接地電極母材140の基端部140aの端面において開口している。溝142の他端部は、接地電極母材140の表面140bにおける接地電極チップ141の付近で開口している。
【0033】
以上説明した本実施形態のスパークプラグ10によれば、以下の(6)に示される作用及び効果を更に得ることができる。
(6)本実施形態のスパークプラグ10では、
図6に矢印W13で示されるような気流が形成されている場合、その気流は、矢印W130で示されるように接地電極母材140の基端部140aの端面に形成される溝142の一端開口部に進入する。この気流は、溝142を通過することで、溝142の他端部の開口部から排出されて火花放電ギャップ18へと流れる。よって、本実施形態のスパークプラグ10では、
図7に示される挿入部113aの両側壁の内面と接地電極14の両側面との間に形成される溝20だけでなく、接地電極母材140に形成される溝142により、矢印W131で示される方向に流れる気流、すなわち火花放電ギャップ18からハウジング11の非固定部114に向かう方向に流れる気流が形成される。この気流の流れにより、火花放電ギャップ18に形成される火花放電が接地電極14から更に離間し易くなるため、火花放電により形成される火炎の失火が、より的確に抑制される。
【0034】
<第3実施形態>
次に、第3実施形態のスパークプラグ10について説明する。以下、第2実施形態のスパークプラグ10との相違点を中心に説明する。
図8及び
図9に示されるように、本実施形態のスパークプラグ10では、接地電極母材140に形成される溝142が、接地電極母材140の基端部140aから先端部140cまで貫通するように形成されている。
図9に示されるように、溝142は、接地電極チップ141の底面を通過するように設けられている。
【0035】
以上説明した本実施形態のスパークプラグ10によれば、以下の(7)に示される作用及び効果を更に得ることができる。
(7)本実施形態のスパークプラグ10では、
図9に矢印W13で示されるような気流が形成されている場合、矢印W131で示される方向に流れる気流、すなわち火花放電ギャップ18からハウジング11の非固定部114に向かう方向に流れる気流が更に形成され易くなる。よって、火花放電ギャップ18に形成される火花放電が接地電極14から更に離間し易くなるため、火花放電により形成される火炎の失火が、より的確に抑制される。
【0036】
<第4実施形態>
次に、第4実施形態のスパークプラグ10について説明する。以下、第1実施形態のスパークプラグ10との相違点を中心に説明する。
図10及び
図11に示されるように、本実施形態のスパークプラグ10では、接地電極母材140が第1接地電極片140A及び第2接地電極片140Bにより構成されている。各接地電極片140A,140Bは、接地電極延伸方向Xに延びるように形成された棒状の部材からなる。第1接地電極片140A及び第2接地電極片140Bは、接地電極延伸方向Xに直交する方向において互いに離間して配置されている。よって、第1接地電極片140Aと第2接地電極片140Bとの間には隙間19が形成されている。
【0037】
以上説明した本実施形態のスパークプラグ10によれば、以下の(8)に示される作用及び効果を更に得ることができる。
(8)本実施形態のスパークプラグ10では、
図11に矢印W14で示されるような気流が形成されている場合、その気流は、挿入部113aの両側壁の内面と接地電極14の両側面との間に形成される溝20を矢印W140に示されるように流れるだけでなく、第1接地電極片140Aと第2接地電極片140Bとの間に形成される隙間19を矢印W141に示されるように流れる。これにより、火花放電ギャップ18からハウジング11の非固定部114に向かう方向に流れる気流が形成され易くなるため、火花放電ギャップ18に形成される火花放電が接地電極14から更に離間するようになる。そのため、火花放電により形成される火炎の失火が更に抑制される。
【0038】
<他の実施形態>
なお、各実施形態は、以下の形態にて実施することもできる。
・第2実施形態のスパークプラグ10では、接地電極母材140に溝142を形成するという構造に代えて、
図6に示される固定部113の表面113eに溝を形成するという構造、あるいは接地電極母材140の表面140b及び固定部113の表面113eの両方に溝を形成するという構造を採用してもよい。要は、スパークプラグ10では、接地電極14の表面140b及び固定部113の表面113eの少なくとも一方に溝が形成されていればよい。
【0039】
・第4実施形態のスパークプラグ10では、接地電極母材140が、2つの接地電極片140A,140Bにより構成されていたが、3つ以上の接地電極片により構成されていてもよい。要は、複数の接地電極片の間に隙間が形成されており、その隙間が、固定部113から火花放電ギャップ18に向かって流れるように気流の流れを整える整流構造として機能するものであればよい。
【0040】
・ハウジング11の非固定部114の内面は、ハウジング11の中心軸m10に平行な面に限らず、固定部113の内面に形成される傾斜面113bが中心軸m10に対してなす角度よりも小さい角度で傾斜する傾斜面であってもよい。要は、固定部113の内面に形成される傾斜面113bがハウジング11の中心軸m10に対してなす角度が、非固定部114の内面がハウジング11の中心軸m10に対してなす角度よりも大きければ、上記の各実施形態と同一又は類似の作用及び効果を得ることができる。
【0041】
・本開示は上記の具体例に限定されるものではない。上記の具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本開示の特徴を備えている限り、本開示の範囲に包含される。前述した各具体例が備える各要素、及びその配置、条件、形状等は、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。前述した各具体例が備える各要素は、技術的な矛盾が生じない限り、適宜組み合わせを変えることができる。
【符号の説明】
【0042】
10:スパークプラグ
11:ハウジング
12:絶縁碍子
13:中心電極
14:接地電極
19:隙間(整流構造)
20:溝(整流構造)
111b:傾斜面
113:固定部
113a:挿入部
113b:傾斜面
114:非固定部
115:突出部
115a:傾斜面
140A,140B:接地電極片
140:接地電極母材
141:接地電極チップ
142:溝(整流構造)