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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】モールド
(51)【国際特許分類】
   B29C 33/02 20060101AFI20240409BHJP
   B29C 35/02 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
B29C33/02
B29C35/02
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020126288
(22)【出願日】2020-07-27
(65)【公開番号】P2022023379
(43)【公開日】2022-02-08
【審査請求日】2023-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新川 耕司
(72)【発明者】
【氏名】山田 吉博
【審査官】▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-114603(JP,A)
【文献】特開2008-126457(JP,A)
【文献】特開2007-269005(JP,A)
【文献】特開平11-320566(JP,A)
【文献】特開2016-097519(JP,A)
【文献】特開2005-246803(JP,A)
【文献】特開2020-082511(JP,A)
【文献】中国実用新案第210940550(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/00-33/76
B29C 35/02-35/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤのトレッド面を成形する複数のセグメントと、
前記タイヤの一対のサイドウォール外面の一方を成形する第一サイドプレートと、
いずれかのセグメントに固定された第一係合具と、
前記第一サイドプレートに固定されており、前記第一係合具の硬さH1よりも小さい硬さH2を有し、且つ前記第一係合具と係合しうる第二係合具と
を備えるモールド。
【請求項2】
前記第一係合具が固定された前記セグメントの硬さが前記第一サイドプレートの硬さより小さい、請求項1に記載のモールド。
【請求項3】
前記第一係合具が凹部を備え、前記第二係合具が前記凹部と係合する突起を備える、請求項1又は2に記載のモールド。
【請求項4】
複数のセグメントが軸方向を上下方向にして配置され、
前記第一サイドプレートが前記複数のセグメントの下側に配置され、
前記凹部が前記第一係合具の下面に開口する、請求項3に記載のモールド。
【請求項5】
前記第二係合具が前記第一サイドプレートに着脱可能に取り付けられた、請求項1から4のいずれかに記載のモールド。
【請求項6】
前記硬さH1と前記硬さH2との差H1-H2が、350HBW以上450HBW以下である、請求項1から5のいずれかに記載のモールド。
【請求項7】
前記第一係合具の材質がクロムモリブデン鋼である、請求項1から6のいずれかに記載のモールド。
【請求項8】
前記第二係合具の材質が合金工具鋼である、請求項1から7のいずれかに記載のモールド。
【請求項9】
前記一対のサイドウォール外面の他方を形成する第二サイドプレートと、
いずれかのセグメントに固定された第三係合具と、
前記第二サイドプレートに固定されており、前記第三係合具の硬さH3よりも小さい硬さH4を有し、且つ前記第三係合具と係合しうる第四係合具と
を備える、請求項1から8のいずれかに記載のモールド。
【請求項10】
タイヤのトレッド面を成形する複数のセグメントと、前記タイヤの一対のサイドウォール外面の一方を成形する第一サイドプレートと、いずれかのセグメントに固定された第一係合具と、前記第一サイドプレートに固定されており前記第一係合具の硬さH1よりも小さい硬さH2を有し且つ前記第一係合具と係合しうる第二係合具とを備えたモールドを準備する工程、
ローカバーを準備する工程、
前記ローカバーを前記モールドに投入する工程
及び
前記ローカバーを加圧及び加熱する工程
を含むタイヤの製造方法。
【請求項11】
セグメント素材を加工治具に固定する工程、
前記セグメント素材が前記加工治具に固定された状態で、前記セグメント素材から得られるセグメントのキャビティ面と前記セグメントに固定される第一係合具の位置決めとを加工する工程、
前記セグメントに、前記第一係合具を固定する工程、
タイヤの一対のサイドウォール外面の一方を成形する第一サイドプレートを準備する工程
及び
前記第一係合具の硬さH1より小さい硬さH2を有し前記第一係合具に係合しうる第二係合具を前記第一サイドプレートに固定する工程
を含む、モールドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ用モールドに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤの製造方法では、タイヤ用モールドに、ローカバーが投入され、ローカバーが加圧及び加熱され、このローカバーからタイヤが得られる。このモールドの一種として、トレッド面を成形するセグメントと、それぞれがサイドウォール外面を成形する一対のサイドプレートとを備えるモールドがある。
【0003】
このモールドでは、セグメントとサイドプレートとが周方向に位置ずれを生じることがある。この周方向の位置ずれは、タイヤのトレッド面とサイドウォール外面との位置ずれを生じさせる。特に、トレッド面とサイドウォール外面とに跨る溝やブロック等のパターン模様を備えるタイヤでは、その外観が損なわれる。
【0004】
特許文献1には、セグメントから突出する係合ピンを、サイドプレートの溝に係合させて、セグメントとサイドプレートとが周方向に位置決めされたモールドが開示されている。このモールドでは、セグメントとサイドプレートとが周方向に位置ずれすることが抑制されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-269005公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このモールドでは、セグメントとサイドプレートとに位置ずれが生じると、係合ピンに大きな力が作用する。この大きな外力は、係合ピンを変形させ、破損させることがある。また、この大きな外力は、係合ピンが突出するセグメントを変形させる恐れがある。この様な変形は、セグメントとサイドプレートとの周方向に位置ずれを生じさせる。
【0007】
本発明の目的は、周方向の位置ずれを抑制しうるモールドの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るモールドは、
タイヤのトレッド面を成形する複数のセグメントと、
前記タイヤの一対のサイドウォール外面の一方を成形する第一サイドプレートと、
いずれかのセグメントに固定された第一係合具と、
前記第一サイドプレートに固定されており、前記第一係合具の硬さH1よりも小さい硬さH2を有し、且つ前記第一係合具と係合しうる第二係合具と
を備える。
【0009】
好ましくは、前記第一係合具が固定された前記セグメントの硬さは、前記第一サイドプレートの硬さより小さい。
【0010】
好ましくは、前記第一係合具は凹部を備える。前記第二係合具は前記凹部と係合する突起を備える。
【0011】
好ましくは、複数のセグメントは軸方向を上下方向にして配置され、前記第一サイドプレートは前記複数のセグメントの下側に配置される。前記凹部は、前記第一係合具の下面に開口する。
【0012】
好ましくは、前記第二係合具は、前記第一サイドプレートに着脱可能に取り付けられている。
【0013】
好ましくは、前記硬さH1と前記硬さH2との差H1-H2は、350HBW以上450HBW以下である。
【0014】
好ましくは、前記第一係合具の材質は合金工具鋼である。
【0015】
好ましくは、前記第二係合具の材質はクロムモリブデン鋼である。
【0016】
好ましくは、このモールドは、
前記一対のサイドウォール外面の他方を形成する第二サイドプレートと、
いずれかのセグメントに固定された第三係合具と、
前記第二サイドプレートに固定されており、前記第三係合具の硬さH3よりも小さい硬さH4を有し、且つ前記第三係合具と係合しうる第四係合具と
を備える。
【0017】
本発明に係るタイヤの製造方法は、
タイヤのトレッド面を成形する複数のセグメントと、前記タイヤの一対のサイドウォール外面の一方を成形する第一サイドプレートと、いずれかのセグメントに固定された第一係合具と、前記第一サイドプレートに固定されており前記第一係合具の硬さH1よりも小さい硬さH2を有し且つ前記第一係合具と係合しうる第二係合具とを備えたモールドを準備する工程、
ローカバーを準備する工程、
前記ローカバーを前記モールドに投入する工程
及び
前記ローカバーを加圧及び加熱する工程
を含む。
【0018】
本発明に係るモールドの製造方法は、
セグメント素材を加工治具に固定する工程、
前記セグメント素材が前記加工治具に固定された状態で、前記セグメント素材から得られるセグメントのキャビティ面と前記セグメントに固定される第一係合具の位置決めとを加工する工程、
前記セグメントに、前記第一係合具を固定する工程、
タイヤの一対のサイドウォール外面の一方を成形する第一サイドプレートを準備する工程
及び
前記第一係合具の硬さH1より小さい硬さH2を有し前記第一係合具に係合しうる第二係合具を前記第一サイドプレートに固定する工程
を含む。
【発明の効果】
【0019】
本発明にモールドでは、サイドプレートに固定された第二係合具は、セグメントに固定された第一係合具の硬さH1よりも小さい硬さH2を有する。この第二係合具は、第一係合具に比べて、変形や摩耗を生じ易い。このモールドでは、変形や摩耗を生じた第二係合具を交換することで、周方向の位置ずれが抑制されうる。このモールドでは、セグメントに固定された第一係合具の交換が抑制されている。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本発明の一実施形態に係るモールドが示された断面図である。
図2図2は、図1のモールドの底面図である。
図3図3は、図1のモールドの第二係合具の斜視図である。
図4図4は、図3の第二係合具が固定されたサイドプレートの一部が示された斜視図である。
図5図5は、図1のモールドの第一係合具の斜視図である。
図6図6は、セグメントから取り外した第一係合具が示されたセグメントの分解図である。
図7図7は、図5の第一係合具が固定されたセグメントが示された説明図である。
図8図1のモールドのキャビティ面の一部が示された説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0022】
図1及び図2には、モールド2が示されている。図1は、図2の線分I-Iに沿った断面が示されている。図2にはモールド2の底面が示されている。図1には、モールド2にセットされたローカバー4と、加硫装置が備えるブラダー6との一部が、共に示されている。このローカバー4は、モールド2とブラダー6とが形成するキャビティ内で加圧及び加熱され、このローカバー4からタイヤが得られる。
【0023】
図2に示される様に、このモールド2は、リング形状を備える。図2の両矢印Aは、モールド2の周方向を表す。図1の上下方向がモールド2の軸方向であり、図1の左右方向がモールド2の半径方向であり、紙面垂直な方向がモールド2の周方向である。
【0024】
図1及び図2に示される様に、このモールド2は、複数のセグメント8、一対のサイドプレート10、一対のビードリング12、第一係合具14及び第二係合具16を備える。
【0025】
図2では、9枚のセグメント8が周方向に並べられ、リング状にされている。図1に示される様に、リング状にされたセグメント8の内周面8Aにサイドプレート10の外周面10Aが当接している。サイドプレート10の内周面にビードリング12の外周面が当接している。
【0026】
リング状に並べられた複数のセグメント8は、タイヤのトレッド面を成形する。このトレッド面には、複数の溝と陸部とからなるトレッドパターンが形成される。図1には示されないが、このトレッドパターンを成形するセグメント8のキャビティ面8Cには、溝と陸部とを形成する複雑な凹凸が形成されている。
【0027】
この様なセグメント8は、好ましくは、加工性に優れる材料が用いられる。その素材が鋳造で得られるセグメント8は、好ましくは鋳造性に優れる材料が用いられる。また、モールド2に用いられるため、セグメント8は、好ましくは熱伝導率が高い材料が用いられ、好ましくは軽量な材料が用いられる。このセグメント8の材料として、特に限定されないが、アルミ合金が例示される。
【0028】
図2に示される様に、それぞれのサイドプレート10は、リング形状を備える。サイドプレート10は、複数のセグメント8の半径方向内側に配置される。図1に示される様に、軸方向一方のサイドプレート10は下側に配置され、他方のサイドプレート10は上側に配置される。一対のサイドプレート10は、タイヤのサイドウォール外面を成形する。このサイドプレート10には、耐久性の観点から、セグメント8の材料より硬い材料が用いられることが好ましい。このサイドプレート10の材料として、特に限定されないが、合金工具鋼などの鉄合金が、例示される。
【0029】
それぞれのビードリング12はリング形状を備える。ビードリング12は、サイドプレート10の半径方向内側に配置される。軸方向一方のビードリング12は下側に配置され、他方のビードリング12は上側に配置される。一対のビードリング12は、タイヤのビード部外面を成形する。このビードリング12の材料として、特に限定されないが、サイドプレート10の材料と同様の材料が用いられる。
【0030】
図1に示される様に、第一係合具14は、セグメント8に取付けられ固定されている。第一係合具14は、凹部としての溝18を備える。溝18は、第一係合具14の内周面14Aと下面14Bとに開口している。このセグメント8では、溝18は、セグメント8の内周面8Aと下面8Bとにも開口している。
【0031】
第二係合具16は、第一サイドプレートとしての下側のサイドプレート10に取付けられ固定されている。第二係合具16は、サイドプレート10に固定される固定部20と、サイドプレート10の外周面10Aから突出する突起22とを備える。この第二係合具16では、固定部20がネジ24でサイドプレート10に取付けられている。第二係合具16は、サイドプレート10に位置決め固定され着脱可能であればよい。この第二係合具16の取付構造は、例示であって、特に限定されない。
【0032】
第二係合具16の突起22が第一係合具14の溝18に挿入されている。この第二係合具16は第一係合具14に係合している。この係合によって、第一係合具14が固定されたセグメント8は、サイドプレート10に対して周方向に位置決めされている。それぞれのセグメント8は、周方向に隣り合う他のセグメント8と互いに当接している。これにより、複数のセグメント8は、サイドプレート10に対して周方向に位置決めされている。
【0033】
図3には、第二係合具16が示されている。第二係合具16の固定部20には、着脱可能に取付けるための雌ネジ26が形成されている。第二係合具16の突起22の先端部の幅は、その先端に向かって漸減している。
【0034】
第二係合具16は、第一係合具14と係合する。位置決め精度を維持する観点から、第二係合具16の材料として、好ましくは硬く耐摩耗性に優れる材料が用いられる。第二係合具16は、SCM435からなる。第二係合具16の材料は特に限定されないが、この材料として、クロムモリブデン鋼が例示される。
【0035】
図4には、この第二係合具16が取付けられたサイドプレート10の一部が示されている。この第二係合具16では、固定部20の側面20Aがサイドプレート10の挿入孔10Bの内壁に当接して、周方向の位置決めがされる。第二係合具16の突起22は、サイドプレート10の外周面10Aから半径方向外向きに突出している。この突起22の周方向幅は、その先端に向かって漸減している。サイドプレート10の損傷や変形を抑制する観点から、第二係合具16は、好ましくは、サイドプレート10の材料より軟らかい材料が用いられる。
【0036】
図5には、第一係合具14が示されている。第一係合具14の溝18は、内周面14Aに開口している。この溝18は、更に、下面14Bにも開口している。溝18の幅は、内周面14Aに開口する開口部28を除き、一定である。この開口部28では、溝18の幅は、半径方向内側向きに、内周面14Aに向かって漸増している。この第一係合具14は、一対のネジ用孔14Cと一対のピン用孔14Dとを備える。
【0037】
第一係合具14は、第二係合具16と係合する。位置決め精度を維持する観点から、第一係合具14の材料として、好ましくは硬く耐摩耗性に優れる材料が用いられる。第一係合具14は、SKD11からなる。第一係合具14の材料は特に限定されないが、この材料として、合金工具鋼が例示される。
【0038】
図6に示される様に、セグメント8には、内周面8A及び下面8Bに開口する取付凹部30が形成されている。取付凹部30には、一対の雌ネジ30Aと一対のピン孔30Bが形成されている。この取付凹部30に、第一係合具14が配置される。一対の雄ネジ32のそれぞれが、ネジ用孔14Cに通されて、雌ネジ30Aにねじ込まれる。一対の固定ピン34のそれぞれが、ピン用孔14Dとピン孔30Bとに挿入される。この様にして、セグメント8に、第一係合具14が取付けられ、固定される。
【0039】
このモールド2では、固定ピン34が一対のピン孔30Bに挿入されて、第一係合具14の位置決めがされている。一対のピン孔30Bは、セグメント8における第一係合具14の位置決めとして機能している。この位置決めは、セグメント8に第一係合具14を位置決めできればよく、特に限定されない。例えば、取付凹部30の壁面30Cが、第一係合具14を位置決めしてもよい。
【0040】
図7には、セグメント8と、セグメント8に固定された第一係合具14とが示されている。第一係合具14の溝18は、内周面14Aに開口している。溝18は、更に下面14Bに開口している。言い換えると、この溝18は、セグメント8の内周面8Aに開口し、下面8Bに開口している。
【0041】
図8には、図1のモールド2における、セグメント8のキャビティ面8Cとサイドプレート10のキャビティ面10Cとの一部が示されている。このモールド2では、セグメント8の内周面8Aとサイドプレート10の外周面10Aとが当接している。
【0042】
このキャビティ面8Cは、表面36と表面36から凹む複数の凹部38とを備える。この表面36と凹部38とによって、トレッドパターンの溝と陸部とが成形される。このモールド2では、サイドプレート10のキャビティ面10Cも、表面40と表面40から凹む凹部42とを備える。このモールド2では、タイヤのサイドウォール外面にも、トレッド面に形成された陸部や溝に連続する凹凸形状が形成される。
【0043】
このモールド2を用いたタイヤの製造方法が説明される。このモールド2が準備される(STEP1)。このモールド2が図示されない加硫装置に取付けられる。ローカバー4が準備される(STEP2)。加硫装置が、一対のサイドプレート10を上下方向に離す。加硫装置が、それぞれのセグメント8を半径方向外向きに移動させる。それぞれのセグメント8は互いに離れる。この様にして、モールド2が開かれる(STEP3)。
【0044】
開かれたモールド2にローカバー4が投入される(STEP4)。加硫装置が、一対のサイドプレート10を近づける。加硫装置が、それぞれのセグメント8を半径方向内向きに移動させる。セグメント8に取付けられた第一係合具14がサイドプレート10の第二係合具16に係合する。それぞれのセグメント8は周方向に隣合う他のセグメント8と当接する。この様にして、図1に示される様に、モールド2が閉じられる(STEP5)。ローカバー4がモールド2内で、加圧及び加熱される(STEP6)。この様にして、ローカバー4からタイヤが得られる。
【0045】
ここで、セグメント8の製造方法が説明される。図示されないが、セグメント素材が準備される(STEP1’)。セグメント素材が加工治具に取付けられ固定される(STEP2’)。加工治具に固定された状態で、セグメント素材に、セグメント8のキャビティ面8C及び取付凹部30が切削加工される(STEP3’)。この工程(STEP3’)では、キャビティ面8Cと共に、第一係合具14の位置決めとしての一対のピン孔30B(図6参照)が、切削加工等で加工される。このセグメント素材が加工されて、セグメント8が得られる(STEP4’)。セグメント8に、第一係合具14が取付けられ固定される(STEP5’)。
【0046】
同様に、サイドプレート10の製造方法が説明される。図示されないが、サイドプレート素材が準備される(STEP1”)。サイドプレート素材が加工治具に取付けられ固定される(STEP2”)。加工治具に固定された状態で、サイドプレート素材に、キャビティ面10Cと共に、位置決めとしての挿入孔10Bが、切削加工等で加工される(STEP3”)。このサイドプレート素材が加工されて、サイドプレート10が得られる(STEP4”)。サイドプレート10に、第二係合具16が取付けられ固定される(STEP5”)。
【0047】
このモールド2は、複数のセグメント8の、少なくとも1つのセグメント8に固定された第一係合具14と、サイドプレート10に固定された第二係合具16と備える。第二係合具16は、前記第一係合具14と係合しうる。この係合によって、セグメント8は、サイドプレート10に対して、周方向に位置決めされる。
【0048】
この第二係合具16は、第一係合具14の硬さH1よりも小さい硬さH2を有する。このモールド2では、第一係合具14より、第二係合具16が摩耗し易く、損傷し易い。このモールド2では、第一係合具14の摩耗や損傷が抑制される。このモールド2では、セグメント8に固定された第一係合具14の交換が、抑制されうる。
【0049】
なお、本発明での硬さは、JISZ2243の「ブリネル硬さ試験-試験法」に準拠して、超硬合金の直径10mmの圧子を用い、試験力29.4(kN)で測定した値で比較している。
【0050】
このモールド2では、セグメント8の硬さはサイドプレート10の硬さより小さい。この様なセグメント8に固定された第一係合具14の交換は、第一係合具14の位置精度を損ない易い。第一係合具14の硬さH1よりも小さい硬さH2を有する第二係合具16は、この様なセグメント8を備えるモールド2に適している。
【0051】
このモールド2では、第一係合具14は、凹部としての溝18を備える。第二係合具16は、溝18と係合する突起22を備える。サイドプレート10から突出する突起22を備える第二係合具16は、外力が作用し易い。第一係合具14は、セグメント8から突出することなく、固定されうる。この第一係合具14は第二係合具16に比べ外力が作用し難い。このモールド2では、第一係合具14の交換が、更に抑制されうる。
【0052】
なお、このモールド2では、セグメント8に固定される第一係合具14に溝18が形成されたが、これに限定されない。サイドプレート10に固定される第二係合具16に溝18が形成され、第一係合具14に突起22が形成されてもよい。
【0053】
特に、セグメント8の硬さがサイドプレート10の硬さより小さいモールド2では、第一係合具14の交換により、第一係合具14の位置精度を損ない易い。この様なモールド2では、第一係合具14が凹部としての溝18を備え、第二係合具16は溝18と係合する突起22を備えることが好ましい。
【0054】
このモールド2では、複数のセグメント8が軸方向を上下方向にして配置され、一方のサイドプレート10が複数のセグメント8の下側に配置されている。第一係合具14の溝18は、下面14Bに開口する。このモールド2では、溝18に異物が残留し難い。モールド2にローカバー4を投入し、モールド2からタイヤを取り出すときにも、異物が溝18に残留し難い。このモールド2では、異物の残留による、セグメント8とサイドプレート10との位置ずれの発生が抑制されている。
【0055】
このモールド2では、第二係合具16は、サイドプレート10に着脱可能に取り付けられている。第二係合具16を交換することで、位置ずれが抑制されうる。特に、セグメント8の硬さがサイドプレート10の硬さより小さいモールド2では、第二係合具16を交換することで、セグメント8の第一係合具14の交換を抑制しうる。このモールド2は、セグメント8とサイドプレート10との位置ずれを、長期に亘り抑制しうる。
【0056】
第一係合具14の摩耗や損傷を抑制する観点から、ブリネル硬さH1は、好ましくは600HBW以上であり、更に好ましくは620HBW以上であり、特に好ましくは640HBW以上である。この硬さH1は、好ましい上限値はないが、例えば660HBW以下である。この第一係合具14の材質は、好ましくは合金工具鋼である。
【0057】
第二係合具16の摩耗や損傷を抑制する観点から、ブリネル硬さH2は、好ましくは200HBW以上であり、更に好ましくは220HBW以上であり、特に好ましくは240HBW以上である。一方で、係合する第一係合具14の摩耗及び損傷を抑制する観点から、硬さH2は、好ましくは300HBW以下であり、更に好ましくは280HBW以下であり、特に好ましくは260HBW以下である。第二係合具16の材質は、好ましくはクロムモリブデン鋼である。
【0058】
第一係合具14の摩耗及び損傷を抑制する観点から、硬さH1と硬さH2との差H1-H2は、好ましくは350HBW以上であり、更に好ましくは370HBW以上であり、特に好ましくは390HBW以上である。一方で、硬度差が大きい第二係合具16は摩耗や損傷を生じ易い。この摩耗や損傷を抑制する観点から、この差H1-H2は、好ましくは450HBW以下であり、更に好ましくは430HBW以下であり、特に好ましくは410HBW以下である。
【0059】
図8に示される様に、このモールド2では、セグメント8のキャビティ面8Cの凹部38に連続する様に、サイドプレート10のキャビティ面10Cの凹部42が形成されている。このモールド2では、タイヤのトレッド面に形成された陸部や溝に連続する凹凸形状が、サイドウォール外面に形成される。この様なタイヤでは、セグメント8とサイドプレート10との周方向の位置ずれは、タイヤの外観を損なう。このモールド2は、この様なタイヤの製造に適している。
【0060】
図示されないが、このモールド2は、複数のセグメント8のいずれかに固定された第三係合具を備えて、上側に位置する他方のサイドプレート10に固定された第四係合具を備えてもよい。この第四係合具は、第三係合具の硬さH3よりも小さい硬さH4を有する。この第三係合具と第四係合具とを備えることで、セグメント8と、第二サイドプレートとしての上側のサイドプレート10との、周方向の位置ずれが、抑制されうる。
【0061】
例えば、セグメント8の上面及び上方の内周面8Aに開口する様に、第一係合具14と同様の第三係合具が取付けられ固定される。他方のサイドプレート10に、第二係合具16と同様の第四係合具が取付けられ固定される。
【0062】
この第三係合具は、第一係合具14が固定されたセグメント8に固定されてもよいし、他のセグメント8に固定されてもよい。例えば、第三係合具は、第一係合具14が固定されたセグメント8から周方向において最も離れたセグメント8に固定されてもよい。また、複数のセグメント8に更には全てのセグメント8のそれぞれに、第一係合具14や第三係合具が、固定されてもよい。サイドプレート10には、複数の第一係合具14や第三係合具に係合する、複数の第二係合具16及び第四係合具が固定されてもよい。
【0063】
このモールド2の製造方法では、第一係合具14の位置精度を容易に向上させる観点から、セグメント素材がセグメント加工治具に固定された状態で、キャビティ面8Cと一対のピン孔30Bとが加工されることが、好ましい。同様に、第二係合具16の位置精度を容易に向上させる観点から、サイドプレート素材がサイドプレート加工治具に固定された状態で、キャビティ面10Cと位置決めとしての挿入孔10Bとが、加工されることが好ましい。
【実施例
【0064】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0065】
[実施例]
図1のモールドが準備された。このモールドは、9枚のセグメントを備えていた。周方向に並べられた1番目のセグメントの下側に第一係合具が固定された。更に、周方向に並べられた5番目のセグメントの上側に、第一係合具と同様の第三係合具が固定された。一対のサイドプレートの一方(下側のサイドプレート)には、第一係合具と係合する第二係合具が固定された。他一方(上側のサイドプレート)には、第三係合具と係合する第二係合具と同様の第四係合具が固定された。その他は、従来のモールドと同様であった。このモールドが用いられて、1400本のタイヤが製造された。
【0066】
[実施例]
従来のモールドが用いられた他は、実施例と同様にして、1400本のタイヤが製造された。
【0067】
[位置ずれの評価]
製造された実施例のタイヤの100本毎に、無作為に15本のタイヤが抽出された。これらのタイヤについて、セグメントで成形された部分とサイドプレートで成形された部分との境界で、周方向の位置ずれが測定された。同様にして、比較例のタイヤについても、周方向の位置ずれが測定された。その結果が、表1に示されている。表1には、実施例及び比較例での最大値、最小値及び平均が、比較例での位置ずれ量を100とする指数で示されている。この指数は小さいほど位置ずれ量が小さい。
【0068】
【表1】
【0069】
表1に示されるように、実施例のモールドを用いた製造方法では、比較例のそれに比べて評価が高い。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0070】
以上説明された方法は、リング状のセグメントと一対のサイドプレートを備えるモールドを用いたタイヤの製造に広く適用されうる。
【符号の説明】
【0071】
2・・・モールド
4・・・ローカバー
8・・・セグメント
8B・・・下面
10・・・サイドプレート
14・・・第一係合具
14B・・・下面
16・・・第二係合具
18・・・溝(凹部)
22・・・突起
24・・・中間列圧延機
26・・・仕上列圧延機
28・・・冷却床
30・・・取付凹部
30B・・・ピン孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8