(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】吸音材用不織布、吸音材、および吸音材用不織布の製造方法
(51)【国際特許分類】
G10K 11/162 20060101AFI20240409BHJP
G10K 11/168 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
G10K11/162
G10K11/168
(21)【出願番号】P 2020129976
(22)【出願日】2020-07-31
【審査請求日】2023-06-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中原 誠
(72)【発明者】
【氏名】唐崎 秀朗
【審査官】大石 剛
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/031798(WO,A1)
【文献】特開2009-209496(JP,A)
【文献】特開2011-208346(JP,A)
【文献】国際公開第2020/116139(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 11/162
G10K 11/168
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊度が0.4~0.9dtexの短繊維Aを30~80質量%含有し、
繊度が1.1~20.0dtexであり、繊維断面の扁平度が2.0~4.0である短繊維Bを20~70質量%含有し、
前記短繊維Aの下記の式(1)に示す通過係数は、15~260の範囲内である、吸音材用不織布。
通過係数=(繊度×強度×√伸度×√捲縮数×√捲縮度)/(繊維長) (1)
<繊度(dtex)、強度(cN/dtex)、伸度(%)、捲縮数(山/25mm)、捲縮度(%)、繊維長(cm)>
【請求項2】
前記短繊維Bの繊維断面が、異形度1.0~5.0の多葉扁平断面である、請求項1に記載の吸音材用不織布。
【請求項3】
目付が、150g/m
2以上500g/m
2以下であり、
厚さが、0.6mm以上4.0mm以下である、請求項1または2に記載の吸音材用不織布。
【請求項4】
密度が、0.07g/cm
3以上0.40g/cm
3以下である、請求項1~3のいずれか一つに記載の吸音材用不織布。
【請求項5】
前記短繊維Aが、ポリエステル系短繊維である、請求項1~4のいずれか一つに記載の吸音材用不織布。
【請求項6】
前記短繊維Aの引張強度が5cN/dtex以上であり、前記短繊維Aの引張伸度が20~35%である、請求項1~5のいずれか一つに記載の吸音用不織布。
【請求項7】
前記短繊維Bの繊度が、1.1~1.8dtexであり、かつ前記短繊維Aと前記短繊維Bの繊度の比(短繊維Aの繊度/短繊維Bの繊度)が0.30~0.60である、請求項1~6のいずれかに記載の吸音用不織布。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の吸音材用不織布と、
繊維系多孔質体層、発泡体層、または空気層からなる層状物とを、有し、
前記層状物は、前記吸音材用不織布の一方の面に積層されており、
前記層状物の厚さが、5~50mmである、吸音材。
【請求項9】
短繊維Aおよび短繊維Bに開繊処理を施し、短繊維Aおよび短繊維Bの混繊ウェブを得る工程と、
前記混繊ウェブがウォータージェットパンチノズルを3回以上通過する工程とを有し、
前記短繊維Aの繊度が0.4~0.9dtexであり、
前記短繊維Aの下記の式(1)に示す通過係数は15~260の範囲内であり、
前記短繊維Bの繊度が1.1~20.0dtexであり、
前記短繊維Bの繊維断面の扁平度が2.0~4.0であり、
前記混繊ウェブの全体に対し、前記短繊維Aの含有量が30~80質量%であり、
前記混繊ウェブの全体に対し、前記短繊維Bの含有量が20~70質量%である、吸音材用不織布の製造方法。
通過係数=(繊度×強度×√伸度×√捲縮数×√捲縮度)/(繊維長) (1)
<繊度(dtex)、強度(cN/dtex)、伸度(%)、捲縮数(山/25mm)、捲縮度(%)、繊維長(cm)>
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸音材用不織布、吸音材、および吸音材用不織布の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車や電気製品などにおいて静粛性が製品の商品価値の一つとしてこれまで以上に重要視されてきている。一般に騒音対策には対策部品となる吸音材の質量および厚みを増すことが有効とされるが、自動車室内や居室内の空間を広く保つことや自動車では低燃費化の観点から、吸音材の軽量化・コンパクト化が要求されている。
【0003】
特許文献1には、繊度が0.1~1.0dtexの極細繊維と繊度が1.2~5.0dtexの短繊維とを含むシート状の基材の片面を加熱および加圧して、通気調整膜を形成した車両用防音材の製造方法が提案されている。
【0004】
また、特許文献2には、繊度が0.4~0.8dtexの合成繊維とセルロース繊維を主成分とするフェイスマスク用混繊不織布が提案されている。
【0005】
また、特許文献3には熱圧着された熱可塑性合成繊維不織布からなる表面材と、合成繊維不織布からなる裏面材との接合不織布からなる吸音材が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016―34828号公報
【文献】国際公開第2020/31798号
【文献】特開2006―28709号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らの知見によると、特許文献1に開示された車両用防音材は、極細繊維を含有するため、防音性能も比較的、優れたものとなる傾向がみられる。
【0008】
しかし、吸音材用不織布などは、これらの製造工程において、極細繊維を含有する繊維にカード機やフリースマシンによる開繊処理を施す工程(以下、カード工程)を経て得られるものである。そして、上記のカード工程では、極細繊維は、繊度が比較的大きい繊維に比べて糸切れや針布への巻き付きが発生する傾向がみられる。以上のことから、極細繊維を使用する吸音材用不織布などは生産性に劣るとの課題がある。また、吸音材用不織布などの内部に切れた極細繊維が繊維塊として発生する傾向もみられ、この場合には、吸音材用不織布などを用いた吸音材の吸音性能が劣ったものとなるとともに、上記の吸音材の品位も劣ったものとなるとの課題がある。
【0009】
上記の生産性の課題について、特許文献2では、不織布に使用する極細繊維の物性を特定の範囲とすることで、カード工程における糸切れや針布への巻き付きの抑制が図れるとされている。しかし、特許文献2には、極細繊維の捲縮度と生産性の関係を示す開示は無く、吸音材用不織布を製造する際の生産性には劣るとの課題がある。また、極細繊維が繊維塊として発生する傾向もみられ、この場合には、吸音材としての吸音性能が劣ったものとなるとともに、品位も劣ったものとなるとの課題がある。
【0010】
他方、特許文献3には、優れた吸音効果を得るために、吸音材に用いる表面材用不織布を構成する繊維として異形断面繊維を用いる開示がある。しかし、不織布に極細繊維を用いる開示は無く、実質的に吸音性能が劣ったものとなる。
【0011】
そこで、本発明は、上記の事情に鑑み、低周波領域と高周波域の吸音性能、および生産性に優れるとともに、品位にも優れた吸音材を得るための吸音材用不織布、および上記の吸音材用不織布を用いた吸音材などを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)繊度が0.4~0.9dtexの短繊維Aを30~80質量%含有し、繊度が1.1~20.0dtexであり、繊維断面の扁平度が2.0~4.0である短繊維Bを20~70質量%含有し、前記短繊維Aの下記の式(1)に示す通過係数は、15~260の範囲内である、吸音材用不織布。 通過係数=(繊度×強度×√伸度×√捲縮数×√捲縮度)/(繊維長) (1)
<繊度(dtex)、強度(cN/dtex)、伸度(%)、捲縮数(山/25mm)、捲縮度(%)、繊維長(cm)>
(2)前記短繊維Bの繊維断面が、異形度1.0~5.0の多葉扁平断面である、(1)に記載の吸音材用不織布。
(3)目付が、150g/m2以上500g/m2以下であり、厚さが、0.6mm以上4.0mm以下である、(1)または(2)に記載の吸音材用不織布。
(4)密度が、0.07g/cm3以上0.40g/cm3以下である、(1)~(3)のいずれか一つに記載の吸音材用不織布。
(5)前記短繊維Aが、ポリエステル系短繊維である、(1)~(4)のいずれか一つに記載の吸音材用不織布。
(6)前記短繊維Aの引張強度が5cN/dtex以上であり、前記短繊維Aの引張伸度が20~35%である、(1)~(5)のいずれか一つに記載の吸音用不織布。
(7)前記短繊維Bの繊度が、1.1~1.8dtexであり、かつ前記短繊維Aと前記短繊維Bの繊度の比(短繊維Aの繊度/短繊維Bの繊度)が0.30~0.60である、(1)~(6)のいずれかに記載の吸音用不織布。
(8)(1)~(7)のいずれかに記載の吸音材用不織布と、繊維系多孔質体層、発泡体層、または空気層からなる層状物とを、有し、前記層状物は、前記吸音材用不織布の一方の面に積層されており、前記層状物の厚さが、5~50mmである、吸音材。
(9)短繊維Aおよび短繊維Bに開繊処理を施し、短繊維Aおよび短繊維Bの混繊ウェブを得る工程と、前記混繊ウェブがウォータージェットパンチノズルを3回以上通過する工程とを有し、前記短繊維Aの繊度が0.4~0.9dtexであり、前記短繊維Aの下記の式(1)に示す通過係数は15~260の範囲内であり、前記短繊維Bの繊度が1.1~20.0dtexであり、前記短繊維Bの繊維断面の扁平度が2.0~4.0であり、前記混繊ウェブの全体に対し、前記短繊維Aの含有量が30~80質量%であり、前記混繊ウェブの全体に対し、前記短繊維Bの含有量が20~70質量%である、吸音材用不織布の製造方法。
【0013】
通過係数=(繊度×強度×√伸度×√捲縮数×√捲縮度)/(繊維長) (1)
<繊度(dtex)、強度(cN/dtex)、伸度(%)、捲縮数(山/25mm)、捲縮度(%)、繊維長(cm)>
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、所定の物性を有する極細繊維と、扁平繊維とを使用することにより、低周波領域と高周波域の吸音性能、および生産性に優れるとともに、品位にも優れた吸音材を得るための吸音材用不織布を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】繊維断面が多葉扁平断面である短繊維Bの繊維断面の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の吸音材用不織布は、繊度が0.4~0.9dtexの短繊維Aを30~80質量%含有し、さらに、繊度が1.1~20.0dtexであり、繊維断面の扁平度が2.0~4.0である短繊維Bを20~70質量%含有し、上記の短繊維Aの下記の式(1)に示す通過係数は15~260の範囲内である。
通過係数=(繊度×強度×√伸度×√捲縮数×√捲縮度)/(繊維長) (1)
<繊度(dtex)、強度(cN/dtex)、伸度(%)、捲縮数(山/25mm)、捲縮度(%)、繊維長(cm)>
このような吸音材用不織布(以下、単に「不織布」と称することがある)は、その製造工程におけるカード機などによるカード工程で、短繊維Aの糸切れや短繊維Aの針布への巻き付きの発生が抑制される。そして、短繊維Aの糸切れや短繊維Aの針布への巻き付きの発生が抑制されることで、吸音材用不織布の生産性が優れたものとなるとともに、吸音材用不織布の内部に切れた短繊維Aが繊維塊として発生することも抑制されるので、低周波領域および高周波域の両方で高い吸音性能が得られる。また、吸音材用不織布の内部に切れた短繊維Aが繊維塊として発生することも抑制されるので、吸音材用不織布の品位も優れたものとなるとの効果が得られることを本発明者は見出した。なお、これらの効果を総じて「本発明の効果」と称することがある。本発明の吸音材用不織布が上記の効果を奏することができるのは、短繊維Aの通過係数が15~260の範囲内であるためと推測する。
【0017】
本発明の吸音材用不織布は、繊度が1.1~20.0dtexであり、繊維断面の扁平度が2.0~4.0である短繊維Bを吸音材用不織布の全質量に対して20~70質量%含有するとの特徴(特徴点1)を有する。本発明の吸音材用不織布の構成において、吸音材用不織布が上記の特徴点1を満たすことで、本発明の効果が得られる。上記のとおり、繊度の小さい短繊維Aは、短繊維Bと比較して、カード工程において糸切れを起こしたり、針布へ巻き付いたり、吸音材用不織布の内部において繊維塊となり易い傾向がみられる。その一方で、繊度が1.1~20.0dtexの短繊維Bは上記の糸切れや巻き付き、繊維塊の現象が発生しにくい。
【0018】
さらに、詳細なメカニズムは定かではないものの、短繊維Bの断面形状が扁平であり、その扁平度が2.0~4.0の範囲であることにより、カード工程における繊維塊の発生が抑制される。また、短繊維Bが上記範囲の扁平度を有する扁平断面繊維であることにより、微細な孔を多数有する多孔質部を吸音材用不織布の内部に形成することができ、この不織布を用いた吸音材の吸音性能が優れたものとなる。扁平度を2.0以上とすることで、カード工程における繊維塊の発生が抑制され、かつ吸音材の吸音性能が優れたものとなる。一方、短繊維Bの繊維断面の扁平度を4.0以下とすることで、カード工程における繊維塊の発生が抑制される。上記の点で、扁平度は、2.2以上であることが好ましく、2,4以上であることがより好ましい。また、上記の点で、扁平度は、3.8以下であることが好ましく、3.5以下であることが好ましい。なお、繊維断面の扁平度は
図1に示す短繊維Bの断面の、最大長さをA、最大幅をBとし、下記の式(2)で示される。
扁平度 = A/B (2)
また、短繊維Bが、異形度が1.0~5.0の多葉扁平断面であることにより、短繊維Bの表面積が大きくなり、吸音材用不織布の内部における音の粘性損失による吸音作用が向上し、吸音性能が優れたものとなるため好ましい。異形度(C/D)は、前記の多葉扁平形において、凸部と凸部の間にある凹部の大きさを表しており、その値が大きいと凹部が小さく、その値が小さいと凹部は大きいことを意味している。異形度(C/D)が大きくなりすぎると凹部は浅くなることから、異形度を5.0以下とすることで、上記の粘性損失による吸音作用が向上する。一方、異形度を1.0以上とすることで、凹部の増加による短繊維Bの強度低下を抑制でき、カード工程での短繊維Bの糸切れや短繊維Bの針布への巻き付きの発生が抑制される。前記の点で、異形度は1.5~4.5の範囲が好ましく、2.0~4.0の範囲が好ましい。なお、本発明の異形度は
図1に示す短繊維Bの断面の、最大凹凸部において隣り合う凸部の頂点間を結ぶ線の長さをC、前記凸部の頂点間を結ぶ線Cから凹部の底点に下ろした垂線の最大の長さをDとするとき、下記の式(3)で示される。
異形度 = C/D (3)
よって、そのような短繊維Bを吸音材用不織布の全質量に対して20質量%以上含有することで、吸音材用不織布全体で発生する糸切れや針布への巻き付き、繊維塊の発生の頻度が低下し、結果として、生産性や品位に優れた吸音材用不織布が得られるものと推測する。一方で、吸音材用不織布を構成する短繊維Bの含有量が多すぎると、吸音材用不織布の多孔質部が粗く大きいものとなり、吸音材用不織布を吸音材として使用する際の吸音性能が低下する傾向にある。したがって、短繊維Bの含有量は吸音材用不織布の全質量に対して70質量%以下である。また、60質量%以下であることが好ましく、55質量%以下であることがさらに好ましい。上記の点で、短繊維Bの含有量は、吸音材用不織布の全質量に対して、25質量%以上であることが好ましく、30%質量以上であることがさらに好ましい。
【0019】
また、短繊維Bの繊度は1.1~20.0dtexである。短繊維Bの繊度を20.0dtex以下とすることで、吸音材用不織布が、繊度の小さい短繊維Aを特定の含有量含むことで実現する、微細な多孔質部の形成を阻害することなく、吸音材として使用した際に優れた吸音性を得ることができる。一方、短繊維Bの繊度を1.1dtex以上とすることで、カード工程において、短繊維Aが不織布の内部で均一に分散し、吸音材用不織布の内部に、短繊維Aが繊維塊として発生することが抑制され、吸音材用不織布の品位が向上する。また、短繊維Aが均一に分散することで微細な孔を多数有する多孔質部を吸音材用不織布の内部に形成することができ、この不織布を吸音材とした際の吸音性能が優れたものとなる。さらに、短繊維Aのカード工程での糸切れや、針布への巻き付きを抑制し、結果として、吸音材用不織布の生産性を向上させることができる。前記の点で、短繊維Bの繊度は1.3dtex以上であることが好ましく、1.4dtex以上であることがより好ましい。一方で、短繊維Bの繊度は18.0dtex以下であることが好ましく、15.0dtexであることがより好ましい。
【0020】
次に、本発明の吸音材用不織布は、繊度が0.4~0.9dtexの短繊維Aを30~80質量%含有し、かつ、上記の短繊維Aの下記の式(1)に示す通過係数は15~260の範囲内であるとの特徴(特徴点2)を有する。
通過係数=(繊度×強度×√伸度×√捲縮数×√捲縮度)/(繊維長) (式1)
<繊度(dtex)、強度(cN/dtex)、伸度(%)、捲縮数(山/25mm)、捲縮度(%)、繊維長(cm)>
本発明の吸音材用不織布が上記の特徴点2を満たすことで、本発明の効果が得られる。上記のとおり、繊度の小さい短繊維Aは、カード工程において糸切れを起こしたり、針布へ巻き付いたり、吸音材用不織布の内部にて繊維塊を形成し易い傾向がある。しかし、繊度が0.4~0.9dtexの短繊維Aであっても、通過係数が15~260の範囲内である場合には、カード工程における短繊維Aの糸切れ等の発生は抑制される。すなわち、短繊維Aの繊度が0.4~0.9dtexであり、かつ、通過係数が15~260であることで、その短繊維Aを特定の含有量にて含有する吸音材用不織布は、カード工程における短繊維Aの糸切れ等の発生が抑制され、吸音材用不織布は生産性に優れると共に、その吸音材用不織布を用いた吸音材の吸音性能が優れたものとなる。そのメカニズムは以下のとおりと推測する。短繊維Aの特性である、繊度、強度、伸度、捲縮数、捲縮度と、繊維長のバランスを最適化する(すなわち、短繊維Aの通過係数が15~260である)ことで、カード工程における短繊維Aと針布との間の摩擦による糸切れが抑制されたり(このことには、特に、短繊維Aの強度や短繊維Aの伸度の影響が大きいと考えられる)、カード工程における短繊維Aの針布への巻き付きが低減する(このことには、特に、短繊維Aの繊維長の影響が大きいと考える)ものと推測する。そして、カード工程において、不織布の内部で短繊維Aと短繊維Bとが均一に分散、交絡し、吸音材用不織布の内部にて、短繊維Aが繊維塊として発生することも抑制され(このことは、特に、短繊維Aの捲縮数および捲縮度の影響が大きいと考えられる)、吸音材用不織布の品位が向上するとともに、短繊維Aが不織布の内部で均一に分散することで微細な孔を多数有する多孔質部を吸音材用不織布の内部に形成することができ、この不織布を用いた吸音材の吸音性能が優れたものとなる。
【0021】
また、前記の短繊維Aの通過係数は、短繊維Aの繊度、強度、伸度、捲縮数、捲縮度および繊維長の全てを考慮した調整により、所望のものとすることができる。そして、上記の理由から、短繊維Aの通過係数は25以上であることが好ましく、150以下であることがさらに好ましい。また、35以上であることがより好ましく、100以下であることがより好ましい。
【0022】
短繊維Aの繊度、強度、伸度、捲縮数、捲縮度および繊維長の各々が取り得る範囲については、上記の通過係数が15~260の範囲となる限りにおいては特に限定されるものではないが、これらの個々についての好ましい範囲は以下のとおりである。
【0023】
短繊維Aの繊度は0.4~0.9dtexである。短繊維Aの繊度を0.9dtex以下とすることで、繊度の小さい短繊維Aにより、吸音材用不織布の内部に、微細な孔を多数有する多孔質部を形成することができる。これにより、音が繊維の間の空隙(すなわち、多孔質部)を通過する際に空隙の周辺の繊維との空気摩擦によって音を熱に効率よく変換することができ、吸音材として使用した際に優れた吸音性を得ることができる。
【0024】
一方、短繊維Aの繊度を0.4dtex以上とすることで、カード工程において、不織布内部において短繊維Aが均一に分散し、吸音材用不織布の内部に、短繊維Aが繊維塊として発生することが抑制されるため、吸音材用不織布の品位が向上する。また、短繊維Aが不織布内部で均一に分散することで微細な孔を多数有する多孔質部を吸音材用不織布の内部に形成することができ、吸音材とした際の吸音性能が優れたものとなる。前記の点で、短繊維Aの繊度は0.5~0.8dtexであることが好ましく、0.5~0.7dtexであることがさらに好ましい。なお、0.4~0.9dtexよりも繊度の小さい極細繊維を得るためには、海島繊維を脱海する手法やエレクトロスピニング法を採用する必要があるが、これらの手法は短繊維等を製造する溶融紡糸法や湿式紡糸法等に比べ生産性に劣るとの課題がある。本発明の吸音材用不織布で用いる短繊維Aは、繊度が0.4~0.9dtexである。よって、この短繊維Aは溶融紡糸法や湿式紡糸法で生産することが可能である。すなわち、本発明の吸音材用不織布を得るのに海島繊維を脱海する手法やエレクトロスピニング法を用いる必要がない。よって、本発明の吸音材用不織布の生産性は、製造工程において海島繊維を脱海する手法やエレクトロスピニング法を用いる必要がある吸音材用不織布の生産性と比較し、優れたものとなる。
【0025】
吸音材用不織布の吸音性を更に高めるためには、繊度が0.4~0.9dtexの短繊維Aと、繊度が1.1~1.8dtexの短繊維Bとを使用し、かつ短繊維Aと短繊維Bの繊度の比(短繊維Aの繊度/短繊維Bの繊度)が0.30~0.60とすることが好ましい。短繊維Aと短繊維Bの繊度を上記の範囲とすることで、繊度の小さい短繊維Aと、短繊維Aよりは大きい繊度であるが、比較的繊度の小さい短繊維Bによって、吸音材用不織布の内部に、微細な孔を多数有する多孔質部を形成することができ、特に優れた吸音性を備える吸音材とすることができる。
【0026】
また、短繊維Aと短繊維Bの繊度の比(短繊維Aの繊度/短繊維Bの繊度)を0.30以上とすることで、短繊維Aの相対的な繊度が小さくなることによるカード通過工程での繊維塊の発生が抑制されると共に、短繊維Bの相対的な繊度が大きくなることによる吸音性の低下が抑制されるため好ましい。また、短繊維Aと短繊維Bの繊度の比(短繊維Aの繊度/短繊維Bの繊度)を0.60以下とすることで、相対的に繊度の小さな短繊維Aと、相対的に繊度の大きい短繊維Bにより、カード工程において、短繊維Aと短繊維Bが不織布の内部で均一に分散し、吸音材用不織布の内部に、短繊維Aが繊維塊として発生することが抑制され、短繊維Aが均一に分散することで微細な孔を多数有する多孔質部を吸音材用不織布の内部に形成することができ、結果的にこの不織布を吸音材とした際の吸音性能が優れたものとなる。
【0027】
短繊維Aの引張強度(本明細書等においては、単に「強度」と称することがある)は2.5cN/dtex以上であることが好ましい。短繊維Aの引張強度を2.5cN/dtex以上とすることで、吸音材用不織布の製造工程における、カード工程での短繊維Aと針布との摩擦による糸切れがより抑制され、結果として、吸音材用不織布の生産性をより向上させることができる。前記の点で短繊維の引張強度については2.8cN/dtex以上であることがさらに好ましい。
【0028】
短繊維Aの引張伸度(本明細書等においては、単に「伸度」と称することがある。)は20~40%であることが好ましい。短繊維Aの引張伸度を20%以上とすることで、カード工程での短繊維Aと針布との摩擦による糸切れがより抑制され、結果として、吸音材用不織布の生産性をより向上させることができる。一方、短繊維Aの引張伸度を40%以下とすることでカード工程での針布との摩擦による短繊維Aの伸びから発生する、針布への巻き付きがより低減し、結果として、吸音材用不織布の生産性をより向上させることができる。前記の点で短繊維Aの引張伸度については22%~35%であることがさらに好ましい。
【0029】
短繊維Aは、引張強度が5cN/dtex以上であり、かつ引張伸度が20~35%であることが、カード工程での短繊維Aと針布との摩擦による糸切れの抑制と、針布との摩擦による短繊維Aの伸びから発生する、針布への巻き付きがより低減し、吸音材用不織布の生産性をより向上させることができるため好ましい。また、摩擦による糸切れと針布への巻き付きを抑制することで、繊維塊の発生が抑制され、短繊維Aが均一に分散することで微細な孔を多数有する多孔質部を吸音材用不織布の内部に形成することができ、結果的にこの不織布を吸音材とした際の吸音性能が優れたものとなる。さらに、前記の点で、短繊維Aの引張強度は、6.0cN/dtex以上であることが特に好ましい。
【0030】
短繊維Aの捲縮数は10.0山/25mm以上であることが好ましい。短繊維Aの捲縮数を10.0山/25mm以上とすることで、カード工程において、不織布の内部で短繊維Aと短繊維Bが均一に分散し、吸音材用不織布の内部に、短繊維Aが繊維塊として発生することが抑制され、吸音材用不織布の品位が向上する。また、短繊維Aが均一に分散することで微細な孔を多数有する多孔質部を吸音材用不織布の内部に形成することができ、この不織布を用いた吸音材の吸音性能が優れたものとなる。前記の点で短繊維Aの捲縮数は12.0山/25mm以上であることがさらに好ましく、12.5山/25mm以上であることが特に好ましい。短繊維Aの捲縮数の上限は特に限定はされないが、短繊維Aの分散性などの観点からは18山/25mm以下であることが好ましい。
【0031】
短繊維Aの捲縮度は12.0%以上であることが好ましい。短繊維Aの捲縮度を12.0%とすることで、カード工程において、短繊維Aと短繊維Bが均一に分散し、吸音材用不織布の内部に、短繊維Aが繊維塊として発生することが抑制され、吸音材用不織布の品位が向上する。また、短繊維Aが均一に分散することで微細な孔を多数有する多孔質部を吸音材用不織布の内部に形成することができ、吸音材とした際の吸音性能が優れたものとなる。前記の点で短繊維Aの捲縮度は13.0%以上であることがさらに好ましく、14.0%以上であることが特に好ましい。短繊維Aの捲縮度の上限は特に限定はされないが、短繊維Aの分散性などの観点からは19%以下であることが好ましい。
【0032】
短繊維Aの繊維長は2.5~4.5cmの範囲であることが好ましい。短繊維Aの繊維長を4.5cm以下とすることで、吸音材用不織布の製造工程におけるカード工程での針布への巻き付きを抑制することができ、結果として、吸音材用不織布の生産性を向上させることができる。一方、2.5cm以上とすることで、カード通過後のウェブにおいて、短繊維同士の交絡が高まり、後述のニードルパンチ工程やスパンレース工程へのウェブの搬送性が良好となり、結果として、吸音材用不織布の生産性を向上させることができる。上記の点で、短繊維Aの繊維長は、3.0~4.5cmの範囲であることがさらに好ましい。
【0033】
本発明にかかる吸音材用不織布では、上記のような短繊維Aを吸音材用不織布の全質量に対して、30質量%以上含有することで、繊度の小さい短繊維Aにより、吸音材用不織布の内部に、微細な孔を多数有する多孔質部を形成することができ、音が繊維の間の空隙(すなわち、多孔質部)を通過する際に空隙の周辺の繊維との空気摩擦によって音を熱に効率よく変換することができ、吸音材として使用した際に優れた吸音性を得ることができる。一方、上記のような短繊維Aの含有量を吸音材用不織布の全質量に対して、80質量%以下とすることで、カード工程において発生する短繊維Aの糸切れなどの発生を極めて効果的に抑制することができる。前記の点で、短繊維Aの含有量は、吸音材用不織布の全質量に対して、40質量%以上であることが好ましく、45%質量以上であることがさらに好ましい。また、75質量%以下であることが好ましく、70%質量以下であることがさらに好ましい。
【0034】
ここで、短繊維Aを構成する素材については、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂等の熱可塑性樹脂を使用することができる。これらの中でも、短繊維Aは、耐熱性に優れる、すなわち、自動車などのエンジンルームに使用する際の吸音材用不織布の高温環境下における変形や変色が少なくできる点で、ポリエステル系樹脂からなる短繊維(ポリエステル系短繊維)であることが好ましく、中でも特に耐熱性に優れる、ポリエチレンテレフタレート樹脂からなる短繊維(ポリエチレンテレフタレート短繊維)であることが好ましい。
【0035】
また、短繊維Bを構成する素材については、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂等の熱可塑性樹脂を使用することができる。これらの中でも、短繊維Bは、耐熱性に優れる、すなわち、自動車などのエンジンルームに使用する際の吸音材用不織布の高温環境下における変形や変色が少なくできる点でポリエステル系樹脂からなる短繊維(ポリエステル系短繊維)であることが好ましく、中でも特に耐熱性に優れる、ポリエチレンテレフタレート樹脂からなる短繊維(ポリエチレンテレフタレート短繊維)であることが好ましい。
【0036】
本発明の吸音材用不織布の目付は、150g/m2以上500g/m2以下であることが好ましい。目付を150g/m2以上とすることにより、空気摩擦による吸音性能を向上することができる。一方で、目付を500g/m2以下とすることで柔軟性を向上させることができ、自動車部材などとして使用する際の立体追従性に優れた吸音材用不織布が得られる。前記の観点から、目付は、170g/m2以上が好ましく、190g/m2以上がさらに好ましい。また目付の上限については400g/m2以下が好ましく、350g/m2以下がさらに好ましい。
【0037】
また、吸音材用不織布の厚さは、0.6mm以上4.0mm以下であることが好ましい。厚さを0.6mm以上とすることで、吸音材用不織布に十分なサイズの多孔質部が形成され、吸音材用不織布の厚さ方向に音が貫通する際の、空気摩擦による音の熱への変換を、より効率的なものとすることができる。一方で厚さを4.0mm以下とすることで、吸音材用不織布がより緻密な構造となり、短繊維Aによる微細な多孔質部が形成され、空気摩擦による音の熱への変換を、より効率的なものとすることができ、結果として、吸音材用不織布を吸音材として用いた際の吸音性能がより優れたものとなる。前記の観点から、厚さは0.7mm以上が好ましく、0.8mm以上がさらに好ましい。また厚さの上限については3.0mm以下が好ましく、2.5mm以下がさらに好ましい。なお、本発明の厚さはJIS L1913:1998 6.1.2 A法に基づき、不織布に0.36kPaの圧力をかけた際の厚さによって測定される。
【0038】
吸音材用不織布の密度は、0.07g/cm3以上0.40g/cm3以下であることが好ましい。密度を0.07g/cm3以上とすることで、吸音材用不織布が緻密な構造となり、短繊維Aによる微細な多孔質部が形成され、空気摩擦による音の熱への変換を、より効率的なものとすることができ、結果として、吸音材用不織布を吸音材として用いた際の吸音性能がより優れたものとなる。一方で密度を0.40g/cm3以下とすることで、吸音材用不織布に十分なサイズの多孔質部が形成され、空気摩擦による吸音性能がより優れたものとなる。前記の観点から、密度は0.09g/cm3以上が好ましく、0.10g/cm3以上がさらに好ましい。また密度の上限については0.35g/cm3以下が好ましく、0.32g/cm3以下がさらに好ましい。
【0039】
吸音材用不織布は、5μm以上10μm未満の径の細孔が10~80%、10μm以上15μm未満の径の細孔が5~70%である細孔径分布を有することが好ましい。このような細細孔径分布を有することにより、空気摩擦による音の熱への変換を、より効率的なものとすることができ、結果として、吸音材用不織布を吸音材として用いた際の吸音性能がより優れたものとなる。前記の点で、5μm以上10μm未満の径の細孔が15~75%、10μm以上15μm未満の径の細孔が10~60%である細孔径分布を有することがさらに好ましい。特に、5μm以上10μm未満の径の細孔が20~70%、10μm以上15μm未満の径の細孔が15~50%である細孔径分布を有することがさらに好ましい。なお、前記の細孔径分布は、ASTM F316-86に規定される方法によって測定される。
【0040】
本発明の吸音材用不織布の通気度は4~35cm3/cm2/sであることが好ましい。吸音材用不織布の通気度が4cm3/cm2/s以上であることにより、空気摩擦による吸音材用不織布の吸音性能がより優れたものとなるため好ましい。前記の観点で通気度は5cm3/cm2/s以上が好ましく、6cm3/cm2/s以上であることが特に好ましい。一方で、吸音材用不織布の通気度が35cm3/cm2/s以下であることにより、空気摩擦による吸音性能が向上するため好ましい。前記の観点で通気度は30cm3/cm2/s以下が好ましく、20cm3/cm2/s以下がさらに好ましい。なお、通気度はJIS L 1096-1999 8.27.1 A法(フラジール形法)に準じて測定される。
【0041】
次に、本発明の吸音材用不織布を製造するための好ましい製造方法について説明する。本発明の不織布の好ましい製造方法は、以下の工程を有する。
(a)短繊維Aと短繊維Bを開繊させる工程
(b)短繊維Aと短繊維Bとをウェブ状にする工程
(c)ニードルまたは水流により短繊維Aと短繊維Bとを交絡し不織布を得る工程
以下、これら(a)~(c)の工程の詳細について説明する。
【0042】
まず、(a)短繊維Aと短繊維Bを開繊させる工程(オープナー工程)ついて説明する。
【0043】
オープナー工程は、吸音材用不織布における短繊維Aの含有量と短繊維Bの含有量が所望のものとなるように短繊維Aおよび短繊維B(以下、各短繊維ともいう)を計量した後、エアー等を用いて各短繊維を十分に開繊させ混繊する。
【0044】
次に、(b)短繊維Aと短繊維Bとをウェブ状にする工程(カード工程)について説明する。
【0045】
カード工程は、オープナー工程で得た混繊された各短繊維を針布ローラーで引き揃えてウェブを得る。
【0046】
次に、(c)ニードルまたは水流により短繊維Aと短繊維Bとを交絡し不織布を得る工程(交絡工程)について説明する。
【0047】
交絡工程において、各短繊維同士の交絡は、ニードルパンチ法、またはウォータージェットパンチ法(水流交絡法)で機械的交絡法を実施することが好ましい。この方法は、ケミカルボンド法などに比べ吸音材用不織布を緻密化することができ、好ましい厚さ、および密度の吸音材用不織布が得られやすいため好ましく採用される。
【0048】
また、ニードルパンチ法で各短繊維を交絡させる場合は、その針密度を200本/cm2以上とし、交絡処理させることが好ましい。さらに好ましくは、250本/cm2以上、特に好ましくは、300本/cm2以上の針密度で交絡させることが好ましい。上記の針密度とすることで、吸音材用不織布を緻密化することができ、吸音材用不織布を吸音材として用いる際の吸音性能を向上できるため好ましい。
【0049】
ウォータージェットパンチ法で各短繊維を交絡させる場合は、ウォータージェットパンチノズルの圧力を12.0MPa以上の圧力で、3回以上ウォーターノズルを通過させることが好ましい。ウォータージェットパンチノズルの圧力を12.0MPa以上とすることで、吸音材用不織布を緻密化することができ、吸音材用不織布を吸音材として用いる際の吸音性能を向上できるため好ましい。また、3回以上ウォーターノズルを通すことで、前記と同様に吸音材用不織布を緻密化することができ、吸音材用不織布を吸音材として用いる際の吸音性能を向上できるため好ましい。ウォーターノズルを通す方法としては、連続して3回以上ウォーターノズルを通したり、1回ウォーターノズルを通して不織布を巻き取った後に再びウォーターノズルを通す方法があり、生産性を向上する点で好ましくは連続して3回以上通す方法である。
【0050】
ウォータージェットパンチ法で繊維を交絡させる場合に、最初に上向きでノズル面に接する面を表面とし、その逆面を裏面とした場合、ノズルから水流を流す面は表面/裏面/表面や表面/裏面/裏面、表面/表面/裏面/表面/裏面など任意に設定することができる。
【0051】
特に、ウォータージェットパンチ法は、細繊度の短繊維をその交絡工程で糸切れなく効率的に交絡することができ、繊度が0.4~0.9dtexの短繊維Aを含む本発明の吸音材用不織布を製造するために好適に利用できる。
【0052】
次に、吸音材について説明する。本発明の吸音材用不織布を備える吸音材は、本発明の吸音材用不織布と、繊維系多孔質体層、発泡体層、または空気層からなる層状物とを、有しており、上記の層状物は、上記の吸音材用不織布の一方の面に積層されている。このような吸音材においては、吸音材用不織布の音が入射する側の面の反対側の面に、上記の層状物が位置するようにして吸音材を用いることで、吸音材の吸音性能が優れたものとなる。また、上記の層状物の厚さは、5~50mmであることが好ましい。そして、上記の層状物は、繊維系多孔質体、発泡体または空気層であることが好ましい。すなわち、本発明の吸音材用不織布は、音が入射する側の面の反対側の面に、厚さが5~50mmの熱塑性樹脂繊維を用いた繊維系多孔質体または無機繊維を用いた繊維系多孔質体からなる基材や、発泡ウレタンなどの発泡体からなる基材等を貼り合わせて使用することで、これらの複合製品(吸音材)の吸音性能は極めて優れたものとなる。また、本発明の吸音材用不織布の音が入射する側の面の反対側の面に厚さ5~50mmの空気層を設けることで、吸音材用積層不織布と空気層との複合製品(吸音材)の吸音性能が極めて優れたものとなる。
【実施例】
【0053】
本実施例で用いた測定法を後述する。
【0054】
(測定方法)
(1)吸音材用不織布を構成する各短繊維と含有量
JIS L 1030-1:2006「繊維製品の混用率試験方法-第1部:繊維識別」、およびJIS L 1030-2:2005「繊維製品の混用率試験方法-第2部:繊維混用率」に基づいて、正量混用率(標準状態における各短繊維の質量比)を測定し、これを吸音材用不織布を構成する繊維の含有量(質量%)とした。これにより、吸音材用不織布を構成する繊維素材と、その含有量(質量%)を特定した。
【0055】
(2)吸音材用不織布を構成する短繊維の繊度と含有量
上記(1)のJIS L 1030-2:2005「繊維製品の混用率試験方法-第2部:繊維混用率」の6.溶解法における、残留不織布について、その断面を走査型電子顕微鏡(SEM)(日立ハイテク社製S-3500N型)で観察し、無作為に30箇所の観察範囲を抽出し、倍率1,000倍の断面写真を撮影した。さらに断面写真内に存在する全ての繊維について単繊維直径を測定した。また、繊維の断面形状が異形断面形状の場合は、断面写真から繊維の断面積を、プラニメータを用いて測定し、前記の断面積から真円直径に換算することで、繊維の単繊維直径とした。得られた単繊維直径データを、0.1μmの区間毎に峻別し、区間毎の平均単繊維直径と区間毎の繊維本数を集計した。得られた区間毎の平均単繊維直径と、上記(1)にて特定した各短繊維の比重から、下記式(2)により区間毎の繊維の繊度を算出した。
【0056】
繊度(dtex)=(平均単繊維直径(μm)/2)2×3.14×短繊維の比重/100 (2)
上記の繊維の繊度の内、繊度が0.4~0.9dtexの繊維について、その区間毎の繊度と区間毎の繊維本数、繊維素材の比重から、繊度が0.4~0.9dtexの繊維の含有量(質量%)を算出した。
【0057】
繊度が0.4~0.9dtexの繊維の含有量(質量%)=((繊度が0.4~0.9dtexの繊維の区間毎の繊度(dtex)×同区間毎の繊維本数(本))/(繊度が0.4~0.9dtex以外の繊維の区間毎の繊度(dtex)×同区間毎の繊維本数(本))×100 (3)
同様にして、繊度が1.1~20.0dtexの繊維の含有量(質量%)を求めた。
【0058】
また、吸音材用不織布を構成する繊維素材が複数である場合は、上記の繊度、含有量の測定を、溶解法における残留不織布を用いて、各繊維素材について実施し、吸音材用不織布を構成する繊維の繊度と含有量を求めた。
【0059】
(3)吸音材用不織布を構成する短繊維の扁平度
上記(2)にて特定した、繊度が1.1~20.0dtexの繊維について、SEMによる断面写真を用いて、
図1に示す繊維断面の、最大長さA、および最大幅Bを測定し、下記の式(4)を用いて扁平度を算出した。
【0060】
扁平度 = A/B (4)
(4)吸音材用不織布を構成する短繊維の異形度
上記(2)にて特定した、繊度が1.1~20.0dtexの繊維について、SEMによる断面写真を用いて、
図1に示す繊維断面の、最大凹凸部において隣り合う凸部の頂点間を結ぶ線の長さC、前記凸部の頂点間を結ぶ線Cから凹部の底点に下ろした垂線の最大の長さDを測定し、下記の式(5)を用いて異形度を算出した。
異形度 = C/D (5)
(5)吸音材用不織布を構成する短繊維の繊維長
JIS L 1015:2010 8.4.1 直接法(C法)で単位をcmで測定した。
【0061】
(6)吸音材用不織布を構成する短繊維の強度、および伸度
JIS L 1015(1999)8.7.1に基づき、空間距離20mm、短繊維を一本ずつ区分線に緩く張った状態で両端を接着剤で紙片にはり付けて固着し、区分ごとを1試料とする。試料を引張試験器のつかみに取り付け、上部つかみの近くで紙片を切断し、つかみ間隔20mm、引張速度20mm/分の速度で引っ張り、試料が切断したときの荷重(N)及び伸び(mm)を測定、次の式により引張強度(cN/dtex)及び伸度(%)を算出した。
Tb=SD/F0
Tb:引張強度(cN/dtex)
SD:破断時の荷重(cN)
F0:試料の正量繊度(dtex)
S={(E2-E1)/(L+E1)}×100
S:伸度(%)
E1:緩み(mm)
E2:切断時の伸び(mm)又は最大荷重時の伸び(mm)
L:つかみ間隔(mm)
(7)吸音材用不織布を構成する短繊維の捲縮数
JIS L 1015-8-12-1,2(2010年改正版)の方法に準じて不織布を構成する繊維の捲縮数(山/25mm)を測定した。
【0062】
(8)吸音材用不織布を構成する短繊維の捲縮度
JIS L 1015-8-12-1,2(2010年改正版)の方法に準じて不織布を構成する繊維の捲縮率(%)を測定し、これを繊維の捲縮度(%)とした。
【0063】
(9)カード工程通過率(生産性および品質)
使用する短繊維比率に調整し、オープナー工程に処した原綿を20gに計量して、ラボカードマシン(シリンダー回転数300rpm、ドッファー速度10m/min)に投入し、糸切れによるカード工程での落綿や針布に巻き付かずにカードから出てきたウェブの質量(g)を測定する。測定したウェブの質量等を用いて、以下式にてカード工程通過率を求めた。このカード工程通過率の値が大きいほど、カード工程通過率は優れているといえる
カード工程通過率(%)=ウェブ質量(g)/投入量(g)×100。
【0064】
また、得られた吸音材用不織布について目視にて外観観察を行った。吸音材用不織布の試料から300mm×300mmの試験片を、鋼製定規とかみそり刃とを用いて3枚採取し、繊維塊の個数を数え、繊維塊の個数(個/m2)に換算した。
【0065】
(10)吸音材用不織布の目付
JIS L 1913:1998 6.2に基づいて測定した。吸音材用不織布の試料から300mm×300mmの試験片を、鋼製定規とかみそり刃とを用いて3枚採取した。標準状態における試験片の質量を測定して、単位面積当たりの質量である目付を次の式によって求め、平均値を算出した。
ms=m/S
ms:単位面積当たりの質量(g/m2)
m:吸音材用不織布の試験片の平均質量(g)
S:吸音材用不織布の試験片の面積(m2)
(11)吸音材用不織布の厚さ
JIS L1913:1998 6.1.2 A法に基づいて測定した。吸音材用不織布の試料から50mm×50mmの試験片を5枚採取した。厚さ測定器(TECLOCK社製定圧厚さ測定器、型式PG11J)を用いて標準状態で試験片に0.36kPaの圧力を10秒間かけて厚さを測定した。測定は各試験片(5枚)について行い、平均値を算出した。
【0066】
(12)吸音材用不織布の密度
上記(10)の吸音材用積層不織布の目付と、上記(11)の吸音材用積層不織布の厚さから、次の式によって求めた。
【0067】
吸音材用不織布の密度(g/cm3)=吸音材用不織布の目付(g/m2)/吸音材用不織布の厚さ(mm)/1000
(13)吸音材用不織布の細孔径分布
ASTM F316-86に規定される方法によって測定した。測定装置としてはPorous Materials,Inc(米国)社製“パームポロメーター”を用い、測定試薬としてはPMI社製の“ガルヴィック”を用い、シリンダー圧力を100kPaとし、測定モードとしてはWET UP-DRY UPの条件にて細孔径分布(%)を測定し、5μm以上10μm未満、10μm以上15μm未満の細孔径分布(%)を示した。
【0068】
(14)吸音材用不織布の通気度
JIS L 1096-1999 8.27.1 A法(フラジール形法)に準じて測定した。吸音材用不織布の試料から、200mm×200mmの試験片を5枚採取した。フラジール形試験機を用い、円筒の一端(吸気側)に試験片を取り付けた。試験片の取り付けに際し、円筒の上に試験片を置き、試験片上から吸気部分を塞がないように均等に約98N(10kgf)の荷重を加え試験片の取り付け部におけるエアーの漏れを防止した。試験片を取り付けた後、加減抵抗器によって傾斜形気圧計が125Paの圧力を示すように吸込みファンを調整し、そのときの垂直形気圧計の示す圧力と、使用した空気孔の種類とから、試験機に付属の表によって試験片を通過する通気量(cm3/cm2/s)を求め、5枚の試験片についての平均値を算出した。
【0069】
(15)吸音材用不織布の垂直入射吸音率
JIS A 1405(1998)の垂直入射吸音測定法(管内法)に準じて測定した。吸音材用不織布の試料から直径92mmの円形の試験片を3枚採取した。試験装置としては、電子測器株式会社製の自動垂直入射吸音率測定器(型式10041A)を用いた。試験片を、測定用のインピーダンス管の一端に、試験片と金属反射板との間に20mmの厚さの空気層ができるようにスペーサーを設置し、試験片を取り付けた。周波数毎の吸音率は測定で得られた吸音係数を100倍した値を採用した。そして、得られた1000Hzの吸音率の平均値を低周波吸音率(%)とし、得られた2000Hzの吸音率の平均値を高周波吸音率(%)とした。
【0070】
(実施例1)
短繊維Aとして繊度0.56dtex、繊維長3.8cm、強度5.4cN/dtex、伸度23%、捲縮数13.4山/25mm、捲縮度15.3%で通過係数が55のポリエチレンテレフタレート(PET)短繊維を50質量%、短繊維Bとして繊度1.70dtex、繊維長5.1cm、扁平度2.8、異形度2.7、断面形状が8個の凸部を有する多葉扁平断面のポリエチレンテレフタレート(PET)短繊維を50質量%使用し、各短繊維をオープナー工程に処した後、カード工程(シリンダー回転数300rpm、ドッファー速度10m/min)に処した。その後、下記の条件の水流交絡工程(圧力条件:上面8.0MPa、上面10.0MPa、下面13.5MPa、上面16.0MPa、下面13.5MPaの5回通し)に処した後、乾燥工程にて120℃で乾燥し、短繊維Aと短繊維Bの繊度の比0.33、目付200g/m2、厚さ1.3mm、不織布密度0.153g/cm3の吸音材用不織布を得た。
【0071】
実施例1の吸音材用不織布は、カード工程での糸切れによる落綿や針布への巻き付きも無く、カード工程通過性も98%と良好であった。また、各短繊維の分散は良好であり、繊維塊の発生が少なく品位が良好であった。
【0072】
得られた吸音材用積層不織布の低周波吸音率、および高周波吸音率は高かった。
【0073】
(実施例2)
短繊維Aとして実施例1の短繊維Aを用い、短繊維Bとして実施例1の短繊維Bを用い、含有量をそれぞれ35質量%、65質量%に変更した以外は、実施例1と同一の工程、条件で処理し、短繊維Aと短繊維Bの繊度の比0.33、目付200g/m2、厚さ1.4mm、不織布密度0.143g/cm3の吸音材用不織布を得た。
【0074】
実施例2の吸音材用不織布は、カード工程での糸切れによる落綿や針布への巻き付きも無く、カード工程通過性も98%と良好であった。また、各短繊維の分散は良好であり、繊維塊の発生が無く品位が良好であった。
【0075】
得られた吸音材用積層不織布の低周波吸音率、および高周波吸音率は高かった。
【0076】
(実施例3)
短繊維Aとして実施例1の短繊維Aを用い、短繊維Bとして実施例1の短繊維Bを用い、含有量をそれぞれ65質量%、35質量%に変更した以外は、実施例1と同一の工程、条件で処理し、短繊維Aと短繊維Bの繊度の比0.33、目付200g/m2、厚さ1.3mm、不織布密度0.154g/cm3の吸音材用不織布を得た。
【0077】
実施例3の吸音材用不織布は、カード工程での糸切れによる落綿や針布への巻き付きも無く、カード工程通過性も96%と良好であった。また、各短繊維の分散は良好であり、繊維塊の発生が少なく品位が良好であった。
【0078】
得られた吸音材用積層不織布の低周波吸音率、および高周波吸音率は高かった。
【0079】
(実施例4)
短繊維Aとして実施例1の短繊維Aを用い、短繊維Bとして実施例1の短繊維Bを用い、含有量をそれぞれ75質量%、25質量%に変更した以外は、実施例1と同一の工程、条件で処理し、短繊維Aと短繊維Bの繊度の比0.33、目付200g/m2、厚さ1.4mm、不織布密度0.143g/cm3の吸音材用不織布を得た。
【0080】
実施例4の吸音材用不織布は、カード工程での糸切れによる落綿や針布への巻き付きも少なく、カード工程通過性も92%と比較的良好であった。また、各短繊維の分散は良好であり、繊維塊の発生が比較的少なく、品位も比較的良好であった。
【0081】
得られた吸音材用積層不織布の低周波吸音率、および高周波吸音率は高かった。
【0082】
(実施例5)
短繊維Aとして実施例1の短繊維Aを50質量%、短繊維Bとして、繊度1.71dtex、繊維長5.1cm、扁平度2.2、異形度2.7、断面形状が8個の凸部を有する多葉扁平断面のポリエチレンテレフタレート(PET)短繊維を50質量%使用した以外は、実施例1と同一の工程、条件で処理し、短繊維Aと短繊維Bの繊度の比0.33、目付200g/m2、厚さ1.3mm、不織布密度0.154g/cm3の吸音材用不織布を得た。
【0083】
実施例5の吸音材用不織布は、カード工程での糸切れによる落綿や針布への巻き付きも無く、カード工程通過性も96%と良好であった。また、各短繊維の分散は良好であり、繊維塊の発生が少なく品位が良好であった。
【0084】
得られた吸音材用積層不織布の低周波吸音率、および高周波吸音率は高かった。
【0085】
(実施例6)
短繊維Aとして実施例1の短繊維Aを50質量%、短繊維Bとして、繊度1.70dtex、繊維長5.1cm、扁平度2.8、異形度5.2、断面形状が8個の凸部を有する多葉扁平断面のポリエチレンテレフタレート(PET)短繊維を50質量%使用した以外は、実施例1と同一の工程、条件で処理し、短繊維Aと短繊維Bの繊度の比0.33、目付200g/m2、厚さ1.3mm、不織布密度0.154g/cm3の吸音材用不織布を得た。
【0086】
実施例6の吸音材用不織布は、カード工程での糸切れによる落綿や針布への巻き付きも無く、カード工程通過性も97%と良好であった。また、各短繊維の分散は良好であり、繊維塊の発生が少なく品位が良好であった。
【0087】
得られた吸音材用積層不織布の低周波吸音率、および高周波吸音率は高かった。
【0088】
(実施例7)
短繊維Aとして繊度0.56dtex、繊維長3.8cm、強度5.4cN/dtex、伸度24%、捲縮数7.5山/25mm、捲縮度9.1%で通過係数が32のポリエチレンテレフタレート(PET)短繊維を50質量%、短繊維Bとして実施例1の短繊維Bを50質量%使用した以外は、実施例1と同一の工程、条件で処理し、短繊維Aと短繊維Bの繊度の比0.33、目付200g/m2、厚さ1.4mm、不織布密度0.143g/cm3の吸音材用不織布を得た。
【0089】
実施例7の吸音材用不織布は、カード工程での糸切れによる落綿や針布への巻き付きも比較的少なく、カード工程通過性も87%と比較的良好であった。また、各短繊維の分散は良好であり、繊維塊の発生が比較的少なく品位が比較的良好であった。
【0090】
得られた吸音材用積層不織布の低周波吸音率、および高周波吸音率は高かった。
【0091】
(実施例8)
短繊維Aとして繊度0.56dtex、繊維長3.8cm、強度4.7cN/dtex、伸度24%、捲縮数13.5山/25mm、捲縮度15.2%で通過係数が49のポリエチレンテレフタレート(PET)短繊維を50質量%、短繊維Bとして実施例1の短繊維Bを50質量%使用した以外は、実施例1と同一の工程、条件で処理し、短繊維Aと短繊維Bの繊度の比0.33、目付200g/m2、厚さ1.4mm、不織布密度0.143g/cm3の吸音材用不織布を得た。
【0092】
実施例8の吸音材用不織布は、カード工程での糸切れによる落綿や針布への巻き付きも比較的少なく、カード工程通過性も94%と比較的良好であった。また、各短繊維の分散は良好であり、繊維塊の発生が少なく品位が良好であった。
【0093】
得られた吸音材用積層不織布の低周波吸音率、および高周波吸音率は高かった。
【0094】
(実施例9)
短繊維Aとして繊度0.57dtex、繊維長3.8cm、強度6.3cN/dtex、伸度24%、捲縮数13.5山/25mm、捲縮度15.3%で通過係数が67のポリエチレンテレフタレート(PET)短繊維を50質量%、短繊維Bとして実施例1の短繊維Bを50質量%使用した以外は、実施例1と同一の工程、条件で処理し、短繊維Aと短繊維Bの繊度の比0.34、目付200g/m2、厚さ1.3mm、不織布密度0.154g/cm3の吸音材用不織布を得た。
【0095】
実施例9の吸音材用不織布は、カード工程での糸切れによる落綿や針布への巻き付きも無く、カード工程通過性も99%と良好であった。また、各短繊維の分散は良好であり、繊維塊の発生が無く品位が良好であった。
【0096】
得られた吸音材用積層不織布の低周波吸音率、および高周波吸音率は高かった。
【0097】
(実施例10)
短繊維Aとして実施例1の短繊維Aを50質量%、短繊維Bとして、繊度2.20dtex、繊維長5.1cm、扁平度2.8、異形度2.7、断面形状が8個の凸部を有する多葉扁平断面のポリエチレンテレフタレート(PET)短繊維を50質量%使用した以外は、実施例1と同一の工程、条件で処理し、短繊維Aと短繊維Bの繊度の比0.25、目付200g/m2、厚さ1.3mm、不織布密度0.154g/cm3の吸音材用不織布を得た。
【0098】
実施例10の吸音材用不織布は、カード工程での糸切れによる落綿や針布への巻き付きも無く、カード工程通過性も99%と良好であった。また、各短繊維の分散は良好であり、繊維塊の発生が少なく品位が良好であった。
【0099】
得られた吸音材用積層不織布の低周波吸音率、および高周波吸音率は高かった。
【0100】
(実施例11)
短繊維Aとして繊度0.85dtex、繊維長5.1cm、強度5.3cN/dtex、伸度25%、捲縮数13.3山/25mm、捲縮度15.4%で通過係数が63のポリエチレンテレフタレート(PET)短繊維を50質量%、短繊維Bとして、繊度1.20dtex、繊維長5.1cm、扁平度2.8、異形度2.6、断面形状が8個の凸部を有する多葉扁平断面のポリエチレンテレフタレート(PET)短繊維を50質量%使用した以外は、実施例1と同一の工程、条件で処理し、短繊維Aと短繊維Bの繊度の比0.71、目付200g/m2、厚さ1.3mm、不織布密度0.154g/cm3の吸音材用不織布を得た。
【0101】
実施例11の吸音材用不織布は、カード工程での糸切れによる落綿や針布への巻き付きも比較的少なく、カード工程通過性も94%と比較的良好であった。また、各短繊維の分散は良好であり、繊維塊の発生が少なく品位が良好であった。
【0102】
得られた吸音材用積層不織布の低周波吸音率、および高周波吸音率は高かった。
【0103】
(実施例12)
短繊維Aとして実施例1の短繊維Aを50質量%、短繊維Bとして実施例1の短繊維Bを50質量%使用し、実施例1と同一の工程で、目付のみ変更し、他は実施例1と同一の条件で処理し、短繊維Aと短繊維Bの繊度の比0.33、目付140g/m2、厚さ1.1mm、不織布密度0.127g/cm3の吸音材用不織布を得た。
【0104】
実施例12の吸音材用不織布は、カード工程での糸切れによる落綿や針布への巻き付きも無く、カード工程通過性も98%と良好であった。また、各短繊維の分散は良好であり、繊維塊の発生が無く品位も良好であった。
【0105】
得られた吸音材用積層不織布の低周波吸音率は比較的高く、高周波吸音率は高かった。
【0106】
(実施例13)
短繊維Aとして実施例1の短繊維Aを50質量%、短繊維Bとして実施例1の短繊維Bを50質量%使用し、実施例1と同一の工程で、水流交絡工程の圧力条件を上面8.0MPa、上面10.0MPa、下面11.0MPa、上面11.0MPa、下面11.0MPaの5回通しに変更し、他は実施例1と同一の条件で処理し、短繊維Aと短繊維Bの繊度の比0.33、目付200g/m2、厚さ4.3mm、不織布密度0.047g/cm3の吸音材用不織布を得た。
【0107】
実施例13の吸音材用不織布は、カード工程での糸切れによる落綿や針布への巻き付きも無く、カード工程通過性も98%と良好であった。また、各短繊維の分散は良好であり、繊維塊の発生が無く品位も良好であった。
【0108】
得られた吸音材用積層不織布の低周波吸音率は比較的高く、高周波吸音率は高かった。
【0109】
(実施例14)
短繊維Aとして繊度0.58dtex、繊維長3.8cm、強度3.5cN/dtex、伸度23%、捲縮数13.1山/25mm、捲縮度15.5%で通過係数が37のアクリル短繊維を50質量%、短繊維Bとして実施例1の短繊維Bを50質量%使用した以外は、実施例1と同一の工程、条件で処理し、短繊維Aと短繊維Bの繊度の比0.34、目付200g/m2、厚さ1.3mm、不織布密度0.153g/cm3の吸音材用不織布を得た。
【0110】
実施例14の吸音材用不織布は、カード工程での糸切れによる落綿や針布への巻き付きも比較的少なく、カード工程通過性も96%と良好であった。また、各短繊維の分散は良好であり、繊維塊の発生が少なく品位が良好であった。
【0111】
得られた吸音材用積層不織布の低周波吸音率、および高周波吸音率は高かった。
【0112】
(比較例1)
短繊維Aとして実施例1の短繊維Aを用い、短繊維Bとして実施例1の短繊維Bを用い、含有量をそれぞれ20質量%、80質量%に変更した以外は、実施例1と同一の工程、条件で処理し、短繊維Aと短繊維Bの繊度の比0.33、目付200g/m2、厚さ1.4mm、不織布密度0.143g/cm3の吸音材用不織布を得た。
【0113】
比較例1の吸音材用不織布は、カード工程での糸切れによる落綿や針布への巻き付きも無く、カード工程通過性も98%と良好であった。また、各短繊維の分散は良好であり、繊維塊の発生が無く品位が良好であった。
【0114】
得られた吸音材用積層不織布の低周波吸音率、および高周波吸音率は低かった。
【0115】
(比較例2)
短繊維Aとして実施例1の短繊維Aを用い、短繊維Bとして実施例1の短繊維Bを用い、含有量をそれぞれ90質量%、10質量%に変更した以外は、実施例1と同一の工程、条件で処理し、短繊維Aと短繊維Bの繊度の比0.33、目付200g/m2、厚さ1.3mm、不織布密度0.154g/cm3の吸音材用不織布を得た。
【0116】
比較例2の吸音材用不織布は、カード工程での糸切れによる落綿や針布への巻き付きが多く、カード工程通過性も72%と劣るものであった。また、繊維の分散性が低く、繊維塊の発生が多くなり、品位に劣るものであった。得られた吸音材用積層不織布の低周波吸音率、および高周波吸音率は低かった。
【0117】
(比較例3)
短繊維Aとして実施例1の短繊維Aを50質量%、短繊維Bとして、繊度1.70dtex、繊維長5.1cm、扁平度1.8、異形度2.7、断面形状が8個の凸部を有する多葉扁平断面のポリエチレンテレフタレート(PET)短繊維を50質量%使用した以外は、実施例1と同一の工程、条件で処理し、短繊維Aと短繊維Bの繊度の比0.33、目付200g/m2、厚さ1.3mm、不織布密度0.154g/cm3の吸音材用不織布を得た。
【0118】
比較例3の吸音材用不織布は、カード工程での糸切れによる落綿や針布への巻き付きも少なく、カード工程通過性も95%と良好であった。また、各短繊維の分散は良好であり、繊維塊の発生が少なく品位が良好であった。得られた吸音材用積層不織布の低周波吸音率、および高周波吸音率は低かった。
(比較例4)
短繊維Aとして繊度0.34dtex、繊維長3.8cm、強度5.4cN/dtex、伸度23%、捲縮数13.4山/25mm、捲縮度15.3%で通過係数が36のポリエチレンテレフタレート(PET)短繊維を50質量%、短繊維Bとして実施例1の短繊維Bを50質量%使用した以外は、実施例1と同一の工程、条件で処理し、短繊維Aと短繊維Bの繊度の比0.22、目付200g/m2、厚さ1.3mm、不織布密度0.154g/cm3の吸音材用不織布を得た。
【0119】
比較例4の吸音材用不織布は、カード工程での糸切れによる落綿や針布への巻き付きが多く、カード工程通過性も79%と劣るものであった。また、繊維の分散性も低く、繊維塊の発生が多くなり、品位に劣るものであった。
【0120】
得られた吸音材用積層不織布の低周波吸音率、および高周波吸音率は低かった。
【0121】
(比較例5)
短繊維Aとして繊度0.97dtex、繊維長3.8cm、強度5.4cN/dtex、伸度24%、捲縮数13.3山/25mm、捲縮度15.4%で通過係数が97のポリエチレンテレフタレート(PET)短繊維を50質量%、短繊維Bとして実施例1の短繊維Bを50質量%使用した以外は、実施例1と同一の工程、条件で処理し、短繊維Aと短繊維Bの繊度の比0.57、目付200g/m2、厚さ1.3mm、不織布密度0.154g/cm3の吸音材用不織布を得た。
【0122】
比較例5の吸音材用不織布は、カード工程での糸切れによる落綿や針布への巻き付きが無く、カード工程通過性も98%と良好であった。また、繊維の分散は良好であり、繊維塊の発生が無く品位が良好であった。
【0123】
得られた吸音材用積層不織布の低周波吸音率、および高周波吸音率は低かった。
【0124】
(比較例6)
短繊維Aとして繊度0.55dtex、繊維長3.8cm、強度1.5cN/dtex、伸度17%、捲縮数13.5山/25mm、捲縮度15.2%で通過係数が13のポリエチレンテレフタレート(PET)短繊維を50質量%、短繊維Bとして実施例1の短繊維Bを50質量%使用した以外は、実施例1と同一の工程、条件で処理し、短繊維Aと短繊維Bの繊度の比0.32、目付200g/m2、厚さ1.3mm、不織布密度0.154g/cm3の吸音材用不織布を得た。
【0125】
比較例6の吸音材用不織布は、カード工程での糸切れによる落綿や針布への巻き付きが多く、カード工程通過性も68%と劣るものであった。また、繊維の分散性が低く、繊維塊の発生が多くなり、品位に劣るものであった。
【0126】
得られた吸音材用積層不織布の低周波吸音率は低く、高周波吸音率は低かった。
【0127】
(比較例7)
短繊維Aとして繊度0.56dtex、繊維長3.8cm、強度4.8cN/dtex、伸度21%、捲縮数4.0山/25mm、捲縮度4.5%で通過係数が14のポリエチレンテレフタレート(PET)短繊維を50質量%、短繊維Bとして実施例1の短繊維Bを50質量%使用した以外は、実施例1と同一の工程、条件で処理し、短繊維Aと短繊維Bの繊度の比0.33、目付200g/m2、厚さ1.3mm、不織布密度0.154g/cm3の吸音材用不織布を得た。
【0128】
比較例7の吸音材用不織布は、カード工程での糸切れによる落綿や針布への巻き付きが多く、カード工程通過性も73%と劣るものであった。また、繊維の分散性が低く、繊維塊の発生が多くなり、品位に劣るものであった。
【0129】
得られた吸音材用積層不織布の低周波吸音率、および高周波吸音率は低かった。
【0130】
実施例および比較例の吸音材用不織布の構成と特性を表1~表4にまとめた。
【0131】
【0132】
【0133】
【0134】
【産業上の利用可能性】
【0135】
本発明の吸音材用不織布は、低周波領域と高周波域の吸音性能に優れ、生産性に優れるとともに、品位にも優れるため、特に自動車などの吸音材として好適に用いられる。
【符号の説明】
【0136】
A:最大長さ
B:最大幅
C:最大凹凸部において隣り合う凸部の頂点間を結ぶ線
D:線Cから凹部の底点に下ろした垂線