(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】成膜装置、成膜方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
C23C 14/34 20060101AFI20240409BHJP
【FI】
C23C14/34 U
(21)【出願番号】P 2020136398
(22)【出願日】2020-08-12
【審査請求日】2022-11-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121382
【氏名又は名称】山下 託嗣
(72)【発明者】
【氏名】上野 真義
【審査官】有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-226965(JP,A)
【文献】特開2004-194420(JP,A)
【文献】特開平09-170079(JP,A)
【文献】特開2006-328510(JP,A)
【文献】特開平10-088338(JP,A)
【文献】特開2009-284733(JP,A)
【文献】特開2015-113513(JP,A)
【文献】特開平06-132095(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00-14/58
C23C 16/00-16/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極および、ターゲットに電気的に接続可能な第2電極を少なくとも含む複数の電極を備える成膜部と、
前記第1電極と前記第2電極との間に直流電圧を印加し、前記ターゲットに接続される回路において測定された電流および電圧の少なくとも一方に基づいて、前記直流電圧の印加を一時的に停止する電圧印加部とを備える成膜装置であって、
前記停止の頻度の時間による変化を傾きにより算出し、算出された値に基づいて、前記成膜装置のメンテナンス時期の予測値を算出する情報生成部を備える成膜装置。
【請求項2】
請求項1に記載の成膜装置において、
前記情報生成部は、成膜条件に基づいて前記メンテナンス時期の導出方法が異なる、請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
請求項2に記載の成膜装置において、
前記成膜条件は、前記ターゲットを構成する材料の種類および導電性、ならびに反応ガスの種類の少なくとも一つである、成膜装置。
【請求項4】
請求項2または3に記載の成膜装置において、
前記情報生成部は、前記成膜条件に基づいて前記ターゲットの交換時期についての情報を生成する、成膜装置。
【請求項5】
第1電極および、ターゲットに電気的に接続可能な第2電極を少なくとも含む複数の電極を備える成膜部と、
前記第1電極と前記第2電極との間に直流電圧を印加し、前記ターゲットに接続される回路において測定された電流および電圧の少なくとも一方に基づいて、前記直流電圧の印加を一時的に停止する電圧印加部とを備える成膜装置であって、
成膜条件に応じて異なるメンテナンス閾値が設定されている記憶媒体と、
ユーザ操作に基づいて設定された成膜条件に対応する前記メンテナンス閾値を参照し、前記停止の回数、頻度および間隔の少なくとも一つが、参照されたメンテナンス閾値に基づく条件を満たすか否かに基づいて、前記成膜装置のメンテナンス時期の予測値を算出する情報生成部と、
を備える成膜装置。
【請求項6】
請求項1から5までのいずれか一項に記載の成膜装置において、
前記予測値、ならびに、
前記予測値に基づく予告および警告の少なくとも一つを画面に表示させる表示制御部を備える成膜装置。
【請求項7】
請求項1から6までのいずれか一項に記載の成膜装置において、
前記成膜部は、CVD電極をさらに備える、成膜装置。
【請求項8】
第1電極および、ターゲットに電気的に接続可能な第2電極を少なくとも含む複数の電極を備える成膜部を備える成膜装置による成膜方法であって、
前記第1電極と前記第2電極との間に直流電圧を印加し、前記ターゲットに接続される回路において測定された電流および電圧の少なくとも一つに基づいて、前記直流電圧の印加を一時的に停止することと、
前記停止の頻度の時間による変化を傾きにより算出し、算出された値に基づいて、前記成膜装置のメンテナンス時期の予測値を算出することとを備える、成膜方法。
【請求項9】
第1電極および、ターゲットに電気的に接続可能な第2電極を少なくとも含む複数の電極を備える成膜部を備える成膜装置の処理装置に処理を行わせるためのプログラムであって、
前記処理は、
前記第1電極と前記第2電極との間に直流電圧を印加し、前記ターゲットに接続される回路において測定された電流および電圧の少なくとも一方に基づいて、前記直流電圧の印加を一時的に停止する電圧制御処理と、
前記停止の頻度の時間による変化を傾きにより算出し、算出された値に基づいて、前記成膜装置のメンテナンス時期の予測値を算出する情報生成処理とを備える、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置、成膜方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
真空容器の内部に複数の電極を備え、電極間に印加される電圧により放電を発生させ、スパッタリングを行う成膜装置が知られている。このような成膜装置では、真空容器の内部にターゲットと成膜対象物が配置される。放電により生じたイオンの衝突によりターゲットから原子あるいは分子の状態で粒子が出射し、当該粒子または、当該粒子と真空容器中に導入されたガスとが反応して得られた粒子が成膜対象物に入射し、成膜対象物の表面に膜が形成される。
【0003】
成膜装置では、形成される膜の品質悪化を防止するため、ターゲットの交換等のメンテナンスが行われる。メンテナンス時期を予測し、適切な時期にメンテナンスを行うことが形成される膜の品質を保つために重要である。特許文献1では、ターゲット交換時期を知る上の重要な情報として、異常なアーク放電の発生回数が挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
成膜条件に応じ、成膜装置のメンテナンス時期を正確に予測する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様は、第1電極および、ターゲットに電気的に接続可能な第2電極を少なくとも含む複数の電極を備える成膜部と、前記第1電極と前記第2電極との間に直流電圧を印加し、前記ターゲットに接続される回路において測定された電流および電圧の少なくとも一方に基づいて、前記直流電圧の印加を一時的に停止する電圧印加部とを備える成膜装置であって、前記停止の回数、頻度および間隔の少なくとも一つに基づいて、前記成膜装置のメンテナンス時期についての情報を生成する情報生成部を備える、成膜装置に関する。
本発明の第2の態様は、第1電極および、ターゲットに電気的に接続可能な第2電極を少なくとも含む複数の電極を備える成膜部を備える成膜装置による成膜方法であって、前記第1電極と前記第2電極との間に直流電圧を印加し、前記ターゲットに接続される回路において測定された電流および電圧の少なくとも一方に基づいて、前記直流電圧の印加を一時的に停止することと、前記停止の回数、頻度および間隔の少なくとも一つに基づいて、前記成膜装置のメンテナンス時期についての情報を生成することとを備える、成膜方法に関する。
本発明の第3の態様は、第1電極および、ターゲットに電気的に接続可能な第2電極を少なくとも含む複数の電極を備える成膜部を備える成膜装置の処理装置に処理を行わせるためのプログラムであって、前記処理は、前記第1電極と前記第2電極との間に直流電圧を印加し、前記ターゲットに接続される回路において測定された電流および電圧の少なくとも一方に基づいて、前記直流電圧の印加を一時的に停止する電圧制御処理と、前記停止の回数、頻度および間隔の少なくとも一つに基づいて、前記成膜装置のメンテナンス時期についての情報を生成する情報生成処理とを備える、プログラムに関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、成膜条件等に応じ、成膜装置のメンテナンス時期を正確に予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、一実施形態の成膜装置の構成を示す概念図である。
【
図3】
図3は、一実施形態の成膜方法の流れを示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、変形例の成膜装置の構成を示す概念図である。
【
図5】
図5は、プログラムの提供を説明するための概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図を参照して本発明を実施するための形態について説明する。
【0010】
-第1実施形態-
図1は、本実施形態の成膜装置の構成を示す概念図である。成膜装置1は、真空容器10と、第1電極21と、第2電極22と、電圧印加部30と、真空排気系40と、ガス供給部50と、表示部60と、制御部100とを備える。電圧印加部30は、直流電源部31と、停止部32とを備える。第1電極21の第2電極側には、成膜対象物Wpが配置されている。第2電極22の第1電極側には、ターゲットTが配置されている。第2電極22とターゲットTとは、電気的に接続されており、ターゲット電極220を構成する。
【0011】
真空容器10は、内部で成膜を行う成膜部として機能する。真空容器10は、内部に第1電極21と、第2電極22とを備える。成膜の際、真空容器10にはターゲットTおよび成膜対象物Wpが内部に配置される。真空容器10は、接地部E1により接地されている。
【0012】
以下の実施形態において、成膜装置1は、アノードである第1電極21とカソードである第2電極22との間に直流電圧を印加可能な直流方式のスパッタリング装置とする。第1電極21は、接地部E2により接地されている。第2電極22は、第1電極21と向かい合って配置され、第1電極21の対向電極として機能する。第2電極22は、不図示の絶縁部材を介して真空容器10に設置され、電圧印加部30と電気的に接続されている。第1電極21および第2電極22は、互いに略平行に配置された平板電極であることが好ましいが、所望の精度で成膜対象物Wpの成膜を行うことができれば、その形状、位置等は、特に限定されない。
【0013】
電圧印加部30は、第1電極21と第2電極22との間に電圧を印加する。直流電源部31は、直流電源を備え、第1電極21と第2電極22との間に直流電圧を印加する。
図1の例では、接地部E3により接地された直流電源部31が第2電極22に数百V等の負の電圧を印加する。第1電極21も接地されているから、第1電極21に対して第2電極22には数百V等の負の電圧が印加されることとなる。
【0014】
第1電極21と第2電極22との間に印加された電圧により、真空容器10の内部でグロー放電が発生する。グロー放電により、後述するガス供給部50から真空容器10に導入されたアルゴンガス等の不活性ガスがイオン化する。イオン化された不活性ガスはターゲットTに衝突する。この衝突により、ターゲットTを構成するターゲット材料が原子の状態でターゲットTから出射される。この原子をターゲット原子と呼ぶ。ターゲット原子は成膜対象物Wpに入射し、その表面に膜を形成する。反応性スパッタリングの場合、後述するガス供給部50から真空容器10に導入された酸素ガス等の反応ガスとターゲット原子とが反応し、この反応でできた分子が成膜対象物Wpに入射し、その表面に膜を形成する。
【0015】
停止部32は、アークカウント装置を備え、ターゲットTに電気的に接続される回路において測定された電流及び電圧の少なくとも一方に基づいて、第1電極21と第2電極22との間に発生する直流電圧の印加を一時的に停止する。ここで、測定された上記電流および電圧を、それぞれ測定電流および測定電圧と呼ぶ。停止部32は、真空容器10の内部において異常な放電が発生する前に起きる測定電流または測定電圧の変化を検出し、異常な放電を抑制するように直流電源部31の出力を一時的に停止する。停止部32が直流電源部31の出力を停止する方法は特に限定されず、例えば直流電源部31とターゲット電極220との間を流れる電流を遮断することができる。ここで、直流電源部31の出力の一時的な停止とは、異常な放電を抑制できる程度に第1電極21と第2電極22との間の電圧を減少させることも含む。
【0016】
ここでいう異常な放電とは、例えばアーク放電である。アーク放電時には、ターゲットTにおいてエネルギーが局所的に集中し、ターゲットTから塊状の粒子が飛散し、成膜対象物Wpに成膜された膜の性能に悪影響をおよぼす。
【0017】
アーク放電等の異常な放電の際には、第1電極21と第2電極22の間の抵抗値が小さくなり、短絡したような状態となる。このような放電の直前には抵抗値の低下が起きる。第2電極22は第1電極21に対して負電圧が印加されているため、上記抵抗値の低下は、ターゲット電極220の電流または電圧の変化を伴う。従って、例えばターゲット電極220やその近傍等、ターゲットTに電気的に接続される部位の電流または電圧を測定することにより、成膜装置1においてアーク放電が起きやすい状態となっていることを予め検出することができる。
【0018】
停止部32により直流電源部31の出力を一時的に停止する時間の長さは特に限定されないが、例えば数msecとすることができる。停止部32による直流電源部31の出力の一時的な停止の回数を停止回数と呼ぶ。この停止回数は、制御部100から参照可能に接続された不図示の記憶媒体に記憶される。停止回数は、成膜を行う度に0にリセットすることができるが、これに限定されない。
【0019】
真空排気系40は、真空容器10の内部を10Pa以下等の圧力に減圧する。真空排気系40は、真空容器10を所望の圧力に維持できればその構成は特に限定されない。例えば、真空排気系40は、ターボ分子ポンプと、ロータリーポンプ等の補助ポンプとを含むことができる。真空排気系40は、例えば、補助ポンプにより真空容器10の内部の圧力を100Pa程度まで減圧(粗引き)した後、ターボ分子ポンプにより10Pa以下の圧力まで減圧する。
【0020】
ガス供給部50は、成膜処理の際に必要なガスを真空容器10の内部に供給する。ガス供給部50は、不図示のガス格納容器と、ガス格納容器から真空容器10に導入されるガスの流量を調整する不図示の流量調整弁等を備える。ガス供給部50は、アルゴン等の不活性ガスや、酸素ガス等の、ターゲット原子と反応させる反応ガスを、真空容器10の内部に導入する。
なお、反応ガスを真空容器10に導入するためのガス供給部を、ガス供給部50とは別に設けてもよい。
【0021】
表示部60は、表示モニタ等の表示装置を備え、後述するメンテナンス情報や、成膜装置1の分析条件等を表示する。
【0022】
制御部100は、成膜装置1の動作を実行するためのプログラマブルロジックコントローラ(Programmable Logic Controller;PLC)等の処理装置、プログラムが記憶された記憶媒体、および動作に必要なデータを一時的に記憶するメモリを備え、成膜装置1の各部の動作を制御する主体となる。
なお、以下の実施形態における制御部100の処理を行うことができれば、制御部100の物理的構成は特に限定されない。
【0023】
図2は、制御部100の構成を示す概念図である。制御部100は、電圧制御部110と、情報生成部120と、表示制御部130とを備える。
【0024】
電圧制御部110は、電圧印加部30を制御し、第1電極21と第2電極22との間に印加される直流電圧の制御を行う。電圧制御部110には、不図示の電流計または電圧計により測定された、ターゲットTに接続される回路における測定電流または測定電圧が入力される。電圧制御部110は、測定電流または測定電圧の所定の変化を検出する。例えば、電圧制御部110は、ターゲット電極220の測定電圧が所定の閾値以上であることを検出したとする。この場合、電圧制御部110は、異常な放電が起こりやすくなっているとして、停止部32に制御信号を送信して直流放電部31からの出力を遮断させ、さらに、停止回数が記憶されている記憶媒体にアクセスして停止回数を1加算する。
【0025】
情報生成部120は、加算された停止回数に基づいて、成膜装置1のメンテナンス時期についての情報を生成する。以下では、この情報を、メンテナンス情報と呼ぶ。メンテナンス情報は、メンテナンス時期を示すことができればその表現方法は特に限定されない。例えば、メンテナンス情報は、メンテナンス時期が迫っている場合に1、メンテナンス時期が迫っていない場合に0とする二値の情報とすることができる。これらに加え、メンテナンスが必要な場合を2として各場合を数字で示してもよく、これらの各場合を記号で示してもよい。メンテナンス情報は、何日以内にメンテナンスした方がよいかを日数で示してもよい。あるいは、メンテナンス情報は、メンテナンスについての情報を文章等で示してもよい。
【0026】
メンテナンス情報におけるメンテナンスは、特に限定されないが、例えば所定の出力でグロー放電を行い、ターゲットTの表面にグロー放電で生じたイオンを衝突させてクリーニングすることや、ターゲットの交換、または防着板の交換等が適宜行われる。
【0027】
情報生成部120は、停止回数が所定の閾値に基づく条件を満たす場合、メンテナンス時期が迫っていることを示すメンテナンス情報を生成する。この閾値をメンテナンス閾値と呼ぶ。メンテナンス閾値は、メンテナンス時期と停止回数との関係に基づいて予め設定されており、制御部100から参照可能な不図示の記憶媒体に記憶されている。例えば、1回の成膜または1日の成膜装置1の使用における停止回数がメンテナンス閾値を超える場合、情報生成部120は、メンテナンス時期が迫っていることを示すメンテナンス情報を生成する。メンテナンス情報は、成膜終了後に行うことができるが、これに限定されない。
【0028】
情報生成部120は、成膜条件に基づいてメンテナンス時期の導出方法が異なるように設定される。ここで、メンテナンス時期の導出とは、メンテナンス時期が迫っているか否かの判定や、メンテナンスが必要か否かの判定等を適宜含むことができる。例えば、制御部100から参照可能な記憶媒体には、成膜条件に応じて異なる上記メンテナンス閾値が設定されている。情報生成部120は、成膜装置1のユーザー(以下、単にユーザーと呼ぶ)が設定した成膜条件に対応するメンテナンス閾値を参照する。
【0029】
この成膜条件の例としては、ターゲットTを構成するターゲット材料の種類および導電性、または反応ガスの種類とすることができる。これらを組み合わせて場合分けしメンテナンス閾値を設定してもよい。
【0030】
ターゲット材料の種類によりメンテナンス時期の導出方法を異ならせる場合、ターゲット材料の種類ごとに対応するメンテナンス閾値が設定される。情報生成部120は、ユーザーが設定した成膜条件からターゲットTの種類を取得する。情報生成部120は、制御部100から参照可能な記憶媒体に記憶されている、取得したターゲットTの種類に対応するメンテナンス閾値を取得する。情報生成部120は、停止回数が当該メンテナンス閾値を超える場合、メンテナンス時期、特にターゲットの交換時期が迫っていることを示すメンテナンス情報を生成することができる。
【0031】
ターゲット材料の導電性によりメンテナンス時期の導出方法を異ならせる場合、ターゲット材料の導電率により異なるメンテナンス閾値を設定することができる。情報生成部120は、ユーザーが設定した成膜条件を基に、制御部100により参照可能な記憶媒体から、ターゲットTの導電率についての情報を取得する。情報生成部120は、制御部100から参照可能な記憶媒体に記憶されている、導電率に対応するメンテナンス閾値を取得する。情報生成部120は、停止回数が当該メンテナンス閾値を超える場合、メンテナンス時期、特にターゲットの交換時期が迫っていることを示すメンテナンス情報を生成することができる。
【0032】
反応ガスの種類によりメンテナンス時期の導出方法を異ならせる場合、反応ガスの種類ごとに対応するメンテナンス閾値が設定される。情報生成部120は、ユーザーが設定した成膜条件から反応ガスの種類を取得する。情報生成部120は、制御部100から参照可能な記憶媒体に記憶されている、反応ガスの種類に対応するメンテナンス閾値を取得する。情報生成部120は、停止回数が当該メンテナンス閾値を超える場合、メンテナンス時期が迫っていることを示すメンテナンス情報を生成することができる。
【0033】
表示制御部130は、表示部60を制御し、メンテナンス情報、ならびに、メンテナンス情報に基づく予告および警告の少なくとも一つを表示部60の表示画面に表示させる。表示制御部130は、メンテナンス情報を参照し、例えばメンテナンス情報においてメンテナンス時期が迫っていることが示されている場合、表示画面にその旨を示す予告を表示する。表示制御部130は、メンテナンス情報においてメンテナンスの必要があることが示されている場合には、表示画面にその旨を示す警告を表示する。表示制御部130は、メンテナンス情報が文章で表現されている場合は、メンテナンス情報の文章をそのまま表示してもよい。
【0034】
図3は、本実施形態に係る成膜方法の流れを示すフローチャートである。この成膜方法は、成膜装置1により行われる。ステップS101において、真空排気系40は、成膜対象物Wpが搬入された真空容器10の内部を減圧する。ステップS101が終了したら、ステップS103が開始される。ステップS103において、ガス供給部50は、真空容器10の内部に不活性ガスを導入する。ステップS103が終了したら、ステップS105が開始される。
【0035】
ステップS105において、電圧印加部30は、スパッタリング用の電極である第1電極21および第2電極22に直流電圧を印加し、停止部32は、測定電流または測定電圧に基づいて出力停止を行い、制御部100は、停止回数を記録する。ステップS105が終了したら、ステップS107が開始される。ステップS107において、制御部110は、電圧印加部30による直流電圧の印加を終了する等により、成膜処理を終了する。ステップS107が終了したら、ステップS109が開始される。
【0036】
ステップS109において、情報生成部120は、メンテナンス情報を生成する。ステップS109が終了したら、ステップS111が開始される。ステップS111において、表示制御部130は、表示部60を制御して、メンテナンス情報を表示する。ステップS111が終了したら、処理が終了される。
【0037】
本実施形態の成膜装置1は、正確なメンテナンス時期の予測を行うことができる。本実施形態の成膜装置1は、特に、真空容器10が大気に開放される時間が長く、成膜装置1の内部に配置されたターゲットT等が劣化しやすい場合に、劣化による影響を検知することができるためより効果的である。この観点から、成膜装置1は、真空容器10と大気との間に前室(ロードロック室)を持たない場合に劣化を特に効果的に抑制することができる。
【0038】
次のような変形も本発明の範囲内であり、上述の実施形態と組み合わせることが可能である。以下の変形例において、上述の実施形態と同様の構造、機能を示す部位等に関しては、同一の符号で参照し、適宜説明を省略する。
【0039】
(変形例1)
上述の実施形態において、成膜装置が真空容器の内部にCVD(Chemical Vapor Deposition)電極を備えてもよい。このような場合では、CVDの影響により成膜装置1の内部に配置されたターゲットT等が劣化しやすくなるが、上述の実施形態の方法により劣化を特に効果的に抑制することができる。
【0040】
図4は、本変形例の成膜装置2の構成を示す概念図である。成膜装置2は、上述の実施形態の成膜装置1と部分的に同様の構成を有している。しかし、成膜装置2は、CVD電極34と、CVD電極34に高周波を印加するための整合器35および高周波電源36とを備える点、ならびに、第1電極21aが図の左右方向に移動可能となっている点が成膜装置1とは異なる。さらに、成膜装置2は、真空容器10の代わりに真空容器10aを備える。また、成膜装置2は、ガス供給部50の代わりにガス供給部50aを備え、上述の不活性ガスおよび反応ガスに加え、ヘキサメチルジシロキサン(hexamethyldisiloxane; HMDSO)等のシラン化合物の気体を導入可能に構成されている。
【0041】
真空容器10aは、開閉部12が閉状態(
図4)にあるとき、真空容器本体11と開閉部12との間に挟まれたパッキン13によりシールされる。第1電極21aは、載置面210に成膜対象物Wpを載置可能であり、成膜対象物WpがCVD電極34に向かい合う位置P1と、成膜対象物Wpがターゲット電極220と向かい合う位置P2との間を移動可能に構成されている。
なお、成膜装置2は、CVDの際にターゲットTを覆うための着脱可能なシャッターを備えていてもよい。
【0042】
(変形例2)
上述の実施形態では、情報生成部120は、停止回数に基づいてメンテナンス情報を算出する構成とした。しかし、情報生成部120は、停止部32による直流電源部31の出力停止の頻度または間隔に基づいてメンテナンス情報を算出することができる。この場合、情報生成部120は、出力停止の頻度または平均の間隔等を算出し、算出された値が対応するメンテナンス閾値に基づく条件を満たすか否かにより、メンテナンス時期が迫っているか否か等を判定してメンテナンス情報を生成することができる。平均値の計算は日毎の平均値または、週ごと、月ごとの平均値を求めても良いし、時間による平均以外にも1度の連続可動中に発生する停止回数から求めても良い。メンテナンス閾値の決め方は例えば、条件を設定するための方法として、制御部100が製品出荷時の出力停止の頻度等を記憶部に記憶しておき、記憶した頻度と実測した頻度に許容できない差が生じる値をメンテナンス閾値として設定することができる。
【0043】
(変形例3)
変形例2において情報生成部120が出力停止の頻度に基づいてメンテナンス情報を生成する場合、成膜中の所定の時間ごとに当該頻度を算出し、頻度の変化に基づいてメンテナンス情報を生成してもよい。例えば、情報生成部120は、頻度の時間による変化を差分や微分係数に対応する傾きにより算出し、算出された値によりメンテナンス時期の予測値を算出することができる。あるいは、情報生成部120は、算出された値が対応するメンテナンス閾値に基づく条件を満たすか否かにより、メンテナンス時期が迫っているか否か等を判定してメンテナンス情報を生成することができる。
【0044】
(変形例4)
成膜装置1および2の情報処理機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録された、上述した制御部100の処理およびそれに関連する処理の制御に関するプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行させてもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OS(Operating System)や周辺機器のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、光ディスク、メモリカード等の可搬型記録媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスクまたはソリッドステートドライブ(Solid State Drive; SSD)等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持するものを含んでもよい。また上記のプログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせにより実現するものであってもよい。
【0045】
また、パーソナルコンピュータ(以下、PCと記載)等に適用する場合、上述した制御に関するプログラムは、CD-ROM等の記録媒体やインターネット等のデータ信号を通じて提供することができる。
図5はその様子を示す図である。PC950は、CD-ROM953を介してプログラムの提供を受ける。また、PC950は通信回線951との接続機能を有する。コンピュータ952は上記プログラムを提供するサーバーコンピュータであり、ハードディスク等の記録媒体にプログラムを格納する。通信回線951は、インターネット、パソコン通信などの通信回線、あるいは専用通信回線などである。コンピュータ952はハードディスクを使用してプログラムを読み出し、通信回線951を介してプログラムをPC950に送信する。すなわち、プログラムをデータ信号として搬送波により搬送して、通信回線951を介して送信する。このように、プログラムは、記録媒体や搬送波などの種々の形態のコンピュータ読み込み可能なコンピュータプログラム製品として供給できる。
【0046】
(態様)
上述した複数の例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0047】
(第1項)一態様に係る成膜装置は、第1電極および、ターゲットに接続される第2電極を少なくとも含む複数の電極を備える成膜部と、前記第1電極と前記第2電極との間に直流電圧を印加し、前記ターゲットに接続される回路において測定された電流および電圧の少なくとも一つに基づいて、前記直流電圧の印加を一時的に停止する電圧印加部とを備える成膜装置であって、前記停止の回数、頻度および間隔の少なくとも一つに基づいて、前記成膜装置のメンテナンス時期についての情報を生成する情報生成部を備える。これにより、成膜条件等に応じ、成膜装置のメンテナンス時期を正確に予測することができる。
【0048】
(第2項)他の一態様に係る成膜装置では、第1項の態様の成膜装置において、前記情報生成部は、成膜条件に基づいて前記メンテナンス時期の導出方法が異なる。これにより、成膜条件に応じ、成膜装置のメンテナンス時期を正確に予測することができる。
【0049】
(第3項)他の一態様に係る成膜装置では、第2項の態様の成膜装置において、前記成膜条件は、前記ターゲットを構成する材料の種類および導電性、ならびに反応ガスの種類の少なくとも一つである。これにより、ターゲットまたは反応ガスについての条件に応じ、成膜装置のメンテナンス時期を正確に予測することができる。
【0050】
(第4項)他の一態様に係る成膜装置では、第2項または第3項の態様の成膜装置において、前記情報生成部は、前記成膜条件に基づいて前記ターゲットの交換時期についての情報を生成する。これにより、成膜条件に応じ、成膜装置におけるターゲットの交換時期を正確に予測することができる。
【0051】
(第5項)他の一態様に係る成膜装置では、第2項から第4項までのいずれかの態様の成膜装置において、前記情報生成部は、前記停止の回数、頻度および間隔の少なくとも一つが、所定の閾値に基づく条件を満たすか否かに基づいて、前記情報を生成し、前記情報生成部は、前記成膜条件に基づいて前記閾値が異なる。これにより、成膜条件に応じて設定された閾値により、成膜装置のメンテナンス時期をより正確に予測することができる。
【0052】
(第6項)他の一態様に係る成膜装置では、第1項から第4項までのいずれかの態様の成膜装置において、前記情報生成部は、前記停止の頻度の変化に基づいて、前記メンテナンス時期についての情報を生成する。これにより、成膜装置のメンテナンス時期をより正確に予測することができる。
【0053】
(第7項)他の一態様に係る成膜装置では、第1項から第6項までのいずれかの態様の成膜装置において、前記情報、ならびに、前記情報に基づく予告および警告の少なくとも一つを画面に表示させる表示制御部を備える。これにより、ユーザーにメンテナンス時期についての情報をわかりやすく伝えることができる。
【0054】
(第8項)他の一態様に係る成膜装置では、第1項から第7項までのいずれかの態様の成膜装置において、前記成膜部は、CVD電極をさらに備える。このような場合、ターゲット等の成膜に関する部材が劣化しやすくなりメンテナンス時期を正確に予測する必要性が高まるため、上述の各態様に係る成膜装置を好適に適用できる。
【0055】
(第9項)一態様に係る成膜方法では、第1電極および、ターゲットに接続される第2電極を少なくとも含む複数の電極を備える成膜部を備える成膜装置による成膜方法であって、前記第1電極と前記第2電極との間に直流電圧を印加し、前記ターゲットに接続される回路において測定された電流および電圧の少なくとも一つに基づいて、前記直流電圧の印加を一時的に停止することと、前記停止の回数、頻度および間隔の少なくとも一つに基づいて、前記成膜装置のメンテナンス時期についての情報を生成することとを備える。これにより、成膜条件等に応じ、成膜装置のメンテナンス時期を正確に予測することができる。
【0056】
(第10項)一態様に係るプログラムでは、第1電極および、ターゲットに接続される第2電極を少なくとも含む複数の電極を備える成膜部を備える成膜装置の処理装置に処理を行わせるためのプログラムであって、前記処理は、前記第1電極と前記第2電極との間に直流電圧を印加し、前記ターゲットに接続される回路において測定された電流および電圧の少なくとも一つに基づいて、前記直流電圧の印加を一時的に停止する電圧制御処理(
図3のフローチャートのステップS105に対応)と、前記停止の回数、頻度および間隔の少なくとも一つに基づいて、前記成膜装置のメンテナンス時期についての情報を生成する情報生成処理(ステップS109に対応)とを備える。これにより、成膜条件等に応じ、成膜装置のメンテナンス時期を正確に予測することができる。
【0057】
本発明は上記実施形態の内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0058】
1,2…成膜装置、10,10a…真空容器、11…真空容器本体、12…開閉部、21,21a…第1電極、22…第2電極、30…電圧印加部、31…直流電源部、32…停止部、34…CVD電極、35…整合器、36…高周波電源、40…真空排気系、50,50a…ガス供給部、60…表示部、100…制御部、110…電圧制御部、120…情報生成部、130…表示制御部、T…ターゲット、Wp…成膜対象物。