(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】高圧燃料ポンプ
(51)【国際特許分類】
F02M 59/44 20060101AFI20240409BHJP
F04B 53/14 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
F02M59/44 D
F04B53/14 A
(21)【出願番号】P 2020139355
(22)【出願日】2020-08-20
【審査請求日】2023-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100093779
【氏名又は名称】服部 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】井上 宏史
【審査官】北村 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-269461(JP,A)
【文献】特開2005-299619(JP,A)
【文献】国際公開第02/099320(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 59/44
F04B 53/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加圧室(15)を有するシリンダ(13)と、
前記シリンダに対して軸方向へ往復移動することにより前記加圧室の容積を変化させるプランジャ(14)と、
前記シリンダ外で前記プランジャとの間にシール室(25)を区画しているシール室形成部(22)と、
前記シール室内に設けられ、前記プランジャの外周面に接する円筒面を有するシールリング(27)と、
前記シールリングと比べて耐燃料性が低く、燃料に浸ると膨潤する材料からなり、前記シール室内で前記シールリングに対して径方向外側に設けられ、前記シールリングを前記プランジャに付勢している付勢リング(28)と、
を備え、
前記シールリングのうち前記プランジャへの面圧が最大となる部分の軸方向位置のことを最大面圧位置(Zpmax)と定義すると、
前記シールリングのうち前記付勢
リングと対向する径方向外側の面は、前記最大面圧位置に対して軸方向の一方または両方に、前記最大面圧位置に対応する部分(271)よりも外径が小さくなるように形成された径変更部(31、32、33)を有する、高圧燃料ポンプ。
【請求項2】
前記シールリングは、前記最大面圧位置において径方向厚みが最大となっており、
前記径変更部は、テーパ面、凸曲面、または凹面である、請求項1に記載の高圧燃料ポンプ。
【請求項3】
前記径変更部は、前記最大面圧位置に対して、前記付勢リングの前記シール室形成部への組付け方向に設けられている、請求項1または2に記載の高圧燃料ポンプ。
【請求項4】
加圧室を有するシリンダと、
前記シリンダに対して軸方向へ往復移動することにより前記加圧室の容積を変化させるプランジャと、
前記シリンダ外で前記プランジャとの間にシール室を区画しているシール室形成部と、
前記シール室内に設けられ、前記プランジャの外周面に接しているシールリング(29)と、
前記シールリングと比べて耐燃料性が低い材料からなり、前記シール室内で前記シールリングに対して径方向外側に設けられ、前記シールリングを前記プランジャに付勢している付勢リング(30)と、
を備え、
前記シールリングのうち前記プランジャへの面圧が最大となる部分の軸方向位置のことを最大面圧位置と定義し、
前記プランジャの中心軸(AX)を通る断面のことを縦断面と定義し、
縦断面に表れる非圧縮状態の前記付勢リングの切断部端面の片方に外接する円のことを仮想外接円(Cv)と定義し、
前記仮想外接円を前記中心軸まわりに一回転してできる立体を仮想標準リング(Rv)と定義すると、
非圧縮状態の前記付勢リングは、前記最大面圧位置に対して軸方向の一方または両方に、前記仮想標準リングよりも外径が小さくなるように、または前記仮想標準リングよりも内径が大きくなるように形成された径変更部(36、37)を有する、高圧燃料ポンプ。
【請求項5】
前記付勢リングは、前記最大面圧位置において径方向厚みが最大となっており、
前記径変更部は、テーパ面、凸曲面、または凹面である、請求項4に記載の高圧燃料ポンプ。
【請求項6】
前記径変更部は、前記付勢リングの径方向外側に設けられている、請求項4または5に記載の高圧燃料ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧燃料ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高圧燃料ポンプにおいては、プランジャの外周側を伝う燃料の漏れをシールリングにより抑制している。特許文献1では、矩形断面をもつシールリングと、付勢リングとしてシールリングに対して径方向外側に設けられた円形断面のOリングとを組み合わせて燃料シールを構成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
Oリングの太さとその最大つぶし量は、シールリングの摺動部のプランジャへの最大面圧として燃料のリーク量に影響する。そのため、燃料のリーク量の限界値よりOリングの太さとシールリングの径方向厚さが決まる。
【0005】
ここで高圧ポンプの体格による制約により、燃料シールの設置スペースには限界がある。そのため、シールリングと比べて耐燃料性が低い材料からなるOリングは、圧縮率最大値を超えるほど過大に膨潤して圧縮割れを起こす可能性がある。特に、燃料性状の良くない地域において、例えばエタノール含有燃料や添加物含有燃料を使用した場合に圧縮割れ発生が顕著になる。
【0006】
本発明は、上述の点に鑑みてなされたものであり、その目的は、付勢リングの圧縮割れを抑制できる高圧燃料ポンプを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の高圧燃料ポンプは、加圧室(15)を有するシリンダ(13)と、シリンダに対して軸方向へ往復移動することにより加圧室の容積を変化させるプランジャ(14)と、シリンダ外でプランジャとの間にシール室(25)を区画しているシール室形成部(22)と、シール室内に設けられたシールリング(27、29)および付勢リング(28、30)とを備える。シールリングは、プランジャの外周面に接している。付勢リングは、シールリングと比べて耐燃料性が低い材料からなり、シール室内でシールリングに対して径方向外側に設けられ、シールリングをプランジャに付勢している。
【0008】
ここで、「シールリングのうちプランジャへの面圧が最大となる部分」の軸方向位置のことを最大面圧位置(Zpmax)と定義する。プランジャの中心軸(AX)を通る断面のことを縦断面と定義する。「縦断面に表れる非圧縮状態の付勢リングの切断部端面の片方」に外接する円のことを仮想外接円(Cv)と定義する。仮想外接円を中心軸まわりに一回転してできる立体を仮想標準リング(Rv)と定義する。
【0009】
本発明の第1態様では、シールリング(27)は、プランジャの外周面に接する円筒面を有する。付勢リング(28)は、燃料に浸ると膨潤する材料からなる。シールリングのうち付勢リングと対向する径方向外側の面は、最大面圧位置に対して軸方向の一方または両方に、「最大面圧位置に対応する部分(271)」よりも外径が小さくなるように形成された径変更部(31、32、33)を有する。
【0010】
本発明の第2態様では、非圧縮状態の付勢リング(30)は、最大面圧位置に対して軸方向の一方または両方に、仮想標準リングよりも外径が小さくなるように、または仮想標準リングよりも内径が大きくなるように形成された径変更部(36、37)を有する。
【0011】
これにより、燃料シールの設置スペース(すなわちシール室の容積)が従来形態と同じであったとしても、径変更部の外径が小さい分、または径変更部の内径が大きい分だけ付勢リングの膨潤への許容スペースが増加する。そのため、付勢リングの許容膨潤限界が高まり、エタノール含有燃料や添加物含有燃料を使用した場合にも、付勢リングの膨潤による圧縮割れを抑制できる。
【0012】
さらに、シールリングのプランジャへの面圧分布が改善されることから、シールリングとプランジャとの摺動抵抗を低減することができ、両者の摺動性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1実施形態の高圧燃料ポンプを示す模式的な断面図。
【
図3】
図2の燃料シールの切断部端面図であって、非圧縮状態の付勢リングを示す図。
【
図4】
図2のシールリングのプランジャへの面圧分布図。
【
図6】
図5の燃料シールに対して非圧縮状態の付勢リングを示す図。
【
図7】
図5のシールリングのプランジャへの面圧分布図。
【
図9】
図8の燃料シールに対して非圧縮状態の付勢リングを示す図。
【
図10】
図8のシールリングのプランジャへの面圧分布図。
【
図11】第4実施形態の燃料シールの切断部端面図。
【
図13】第5実施形態の燃料シールの切断部端面図。
【
図15】第6実施形態の燃料シールの切断部端面図。
【
図16】
図15の燃料シールに対して非圧縮状態の付勢リングを示す図。
【
図18】第7実施形態の燃料シールの切断部端面図。
【
図19】
図18の燃料シールに対して非圧縮状態の付勢リングを示す図。
【
図21】比較形態の燃料シールの切断部端面図を示す図。
【
図22】
図21の燃料シールに対して非圧縮状態の付勢リングを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、高圧燃料ポンプの複数の実施形態を図面に基づき説明する。実施形態同士で実質的に同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。
【0015】
[第1実施形態]
図1に示すように、第1実施形態の高圧燃料ポンプ10は、エンジン90のカム軸91のカム92の回転動力を利用して、図示しない燃料タンクから送られてくる燃料を加圧して図示しない燃料レールに吐出する装置である。
【0016】
エンジン90の貫通孔94には、貫通孔94の上端側を塞ぐようにしてハウジング12が挿入されている。カム室93および貫通孔94内の空間には、潤滑用のオイルが充満している。
【0017】
シリンダ13は、高圧燃料ポンプ10の外郭を構成するハウジング12と一体に形成されている。他の実施形態では、シリンダはハウジングや燃料通路形成部材とは別体に形成されてもよい。シリンダ13には、円柱状空間のプランジャ挿入孔131が形成されている。プランジャ挿入孔131には、円柱状のプランジャ14が摺動自在に挿入されている。プランジャ14の上端面とシリンダ13の内周面とにより加圧室15が区画形成されている。
【0018】
プランジャ14の下端にシート16が連結されている。シート16はスプリング17によりタペット18に押し付けられている。タペット18は、貫通孔94に摺動自在に挿入されている。また、タペット18にはローラ19が回転自在に取り付けられている。ローラ19はカム92に当接している。
【0019】
カム軸91の回転によりカム92が回転すると、シート16、タペット18およびローラ19とともに、プランジャ14が軸方向へ往復駆動されるようになっている。プランジャ14は、シリンダ13に対して軸方向へ往復移動することにより加圧室15の容積を変化させる。
【0020】
ハウジング12には、加圧室15に燃料を導く吸入通路121、および加圧室15の燃料を外部に吐出する吐出通路122が形成されている。吸入通路121には、吸入行程の時に開弁する吸入弁20が配置されている。吐出通路122には、吐出行程の時に開弁する吐出弁21が配置されている。
【0021】
図1、
図2に示すように、ハウジング12の端部にはシールホルダ22が装着されている。シールホルダ22は、プランジャ14に嵌合する環状の嵌合部221と、ハウジング12に圧入された筒状の圧入部222と、嵌合部221から圧入部222まで延びる筒状の接続部223とを有する。軸方向において接続部223の内壁の段差部とハウジング12との間には、円盤状のプランジャストッパ23が配置されている。
【0022】
嵌合部221のシート16側には、オイルシール24が装着されている。オイルシール24によって、貫通孔94内の空間から後述のシール室25へ伝うオイルの漏れが抑制される。
【0023】
シールホルダ22は、シリンダ13外でプランジャ14との間にシール室25を区画している。具体的には、シール室25は、プランジャ14の外周面と、接続部223の内壁面と、嵌合部221の端面と、プランジャストッパ23の端面とにより区画形成された環状空間である。シール室25には、燃料シール26が配置されている。燃料シール26によって、プランジャ14周囲の燃料油膜の厚さが調整され、加圧室15からプランジャ14の外周側を通って貫通孔94内の空間へ伝う燃料の漏れが抑制される。
【0024】
燃料シール26は、シール室25に設けられたシールリング27および付勢リング28から構成される。シールリング27は、例えば四フッ化エチレン(PTFE)等の樹脂から形成され、プランジャ14の外周面に接している。付勢リング28は、シールリング27と比べて耐燃料性が低い例えばゴム等の弾性体から形成され、シール室25内でシールリング27に対して径方向外側に設けられている。付勢リング28は、接続部223とシールリング27との間で径方向に圧縮されており、シールリング27をプランジャ14に付勢している。
【0025】
次に、燃料シール26について詳しく説明する。プランジャ14の中心軸AXを通る断面のことを縦断面と定義する。また、中心軸AXと平行な方向を軸方向と定義する。
図3に示すように、付勢リング28は、非圧縮状態における縦断面形状が円形となるOリングである。付勢リング28は、軸方向中心において径方向厚みが最大となっている。付勢リング28の径方向厚みが最大となる部分のことを付勢側最大厚み部281と定義する。他の実施形態では、付勢側最大厚み部は付勢リングの軸方向中心から外れていてもよい。また、付勢リングは、付勢側最大厚み部に対する軸方向一方と軸方向他方とが非対称形状となるように形成されてもよい。
【0026】
シールリング27は、全体的には筒状に形成されている。シールリング27の内側の摺動面は円筒面である。シールリング27は、軸方向中心であって、付勢側最大厚み部281に対応する軸方向位置において径方向厚みが最大になっている。シールリング27の径方向厚みが最大となる部分のことをシール側最大厚み部271と定義する。他の実施形態では、シール側最大厚み部はシールリングの軸方向中心から外れていてもよい。また、シールリングは、シール側最大厚み部に対する軸方向一方と軸方向他方とが非対称形状となるように形成されてもよい。
【0027】
図4に示すように、シールリング27のプランジャ14への面圧Pは、付勢側最大厚み部281に対応する軸方向位置において最大面圧Pmaxとなる。最大面圧Pmaxに対応する軸方向位置、すなわち「シールリング27のうちプランジャ14への面圧Pが最大となる部分」の軸方向位置のことを最大面圧位置Zpmaxと定義する。面圧Pは、最大面圧位置Zpmaxから軸方向の一方および他方に離れるほど小さくなる。
【0028】
図2、
図3に示すように、シールリング27は、最大面圧位置Zpmaxにおいて径方向厚みが最大になっている。また、シールリング27は、最大面圧位置Zpmaxに対して軸方向の両方に、「最大面圧位置Zpmaxに対応する部分」としてのシール側最大厚み部271よりも外径が小さくなるように形成された径変更部31を有する。第1実施形態では、径変更部31は、シール側最大厚み部271から離れるほど外径が小さくなるテーパ面である。
【0029】
第1実施形態では、シール側最大厚み部271は最大面圧位置Zpmaxのみに形成され、径変更部31は最大面圧位置Zpmaxに隣接して形成されている。これに対して他の実施形態では、シール側最大厚み部は最大面圧位置Zpmaxを含む軸方向の一定範囲にわたって形成され、径変更部は最大面圧位置Zpmaxから離れて形成されてもよい。また径変更部が複数のテーパ面から構成されてもよい。またシール側最大厚み部と径変更部との境界の角部が丸みをもつように形成されてもよい。
【0030】
(効果)
以下、従来形態との比較により第1実施形態の有利な効果を説明する。
図21、
図22に示すように、従来形態の燃料シール81は、第1実施形態の付勢リング28と同様な付勢リング82と、シールリング83とから構成される。シールリング83は、軸方向全域において第1実施形態のシール側最大厚み部271と同じ径方向厚みをもつように円筒状に形成されている。つまり、シールリング83の外周面は円筒面である。
【0031】
第1実施形態では、シールリング27は、最大面圧位置Zpmaxに対して軸方向の両方に、「最大面圧位置Zpmaxに対応する部分」よりも外径が小さくなるように形成された径変更部31を有する。比較形態では、そのような径変更部31が形成されていない。
【0032】
これにより、燃料シール26の設置スペース(すなわちシール室25の容積)が従来形態と同じであったとしても、径変更部31の外径が小さい分だけ付勢リング28の許容膨潤スペースが増加する。シールリング27と従来形態のシールリング83とを比べると、シールリング27の径変更部31の外側には、付勢リング28の膨潤への許容スペースが生み出されている。そのため、付勢リング28の許容膨潤限界が高まり、エタノール含有燃料や添加物含有燃料を使用した場合にも、付勢リング28の膨潤による圧縮割れを抑制できる。
【0033】
またシールリング27では、最大面圧位置Zpmaxに対して軸方向の両方で、シール側最大厚み部271よりも径方向外側に突出する部分が無い。そのため、付勢リング28の許容膨潤限界が高まる。
【0034】
また
図4に示すように、最大面圧Pmaxが第1実施形態と比較形態とで同じ場合、破線で示す比較形態の面圧に比べて、実線で示す第1実施形態の面圧が径変更部31に対応する軸方向位置で小さくなっている。このようにシールリング27のプランジャ14への面圧分布が改善されることから、シールリング27とプランジャ14との摺動抵抗を低減することができ、両者の摺動性が向上する。
【0035】
また第1実施形態では、径変更部31はテーパ面である。これにより比較的簡易な形状により付勢リング28の許容膨潤スペースを増加させ、またシールリング27の面圧分布を改善できる。
【0036】
[第2実施形態]
図5、
図6に示すように、第2実施形態において、シールリング27は、径方向外側および径方向内側の角部が丸くなっている。シールリング27の径方向厚みは、軸方向中央部において最大になっており、軸方向両端部において軸方向中央部から離れるほど小さくなっている。
【0037】
径変更部32は、シール側最大厚み部271から離れるほど外径が小さくなる凸曲面である。これにより径変更部32の外径が小さい分だけ付勢リング28の許容膨潤スペースが増加し、またシールリング27の面圧分布を
図7に示すように改善できる。したがって、第2実施形態によると、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0038】
第2実施形態では、シール側最大厚み部271は最大面圧位置Zpmaxを含む軸方向の一定範囲にわたって形成され、径変更部32は最大面圧位置Zpmaxから離れて形成されている。これに対して他の実施形態では、シール側最大厚み部は最大面圧位置Zpmaxのみに形成され、径変更部は最大面圧位置Zpmaxに隣接して形成されてもよい。また径変更部である凸曲面の曲率半径は一定でなくてもよい。
【0039】
[第3実施形態]
図8、
図9に示すように、第3実施形態において、シールリング27は、軸方向両端部が軸方向中央部に比べて径方向内側に凹むように形成されている。シールリング27の径方向厚みは、軸方向中央部において最大になっており、軸方向両端部において軸方向中央部よりも小さくなっている。
【0040】
径変更部33は、傾斜面331および小径円筒面332を有する凹面である。凹面とは、シール側最大厚み部271よりも径方向内側に凹んでいることを意味する。傾斜面331は、シール側最大厚み部271から離れるほど外径が小さくなっている。小径円筒面332は、軸方向において傾斜面331に対してシール側最大厚み部271とは反対側に形成されている。これにより径変更部33の外径が小さい分だけ付勢リング28の許容膨潤スペースが増加し、またシールリング27の面圧分布を
図10に示すように改善できる。したがって、第3実施形態によると、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0041】
第2実施形態では、シール側最大厚み部271は最大面圧位置Zpmaxを含む軸方向の一定範囲にわたって形成され、径変更部32は最大面圧位置Zpmaxから離れて形成されている。これに対して他の実施形態では、シール側最大厚み部は最大面圧位置Zpmaxのみに形成され、径変更部は最大面圧位置Zpmaxに隣接して形成されてもよい。また径変更部である凹面は、テーパ面および円筒面の組合せに限らず、それらの加えて凹曲面を有していてもよく、また凹曲面のみから構成されてもよい。
【0042】
[第4実施形態]
図11に示すように、第4実施形態では、第3実施形態と同様の径変更部33が軸方向の一方(すなわちプランジャストッパ23側)のみに形成されている。このように軸方向の一方のみに径変更部33が形成されていても、径変更部33の外径が小さい分だけ付勢リング28の許容膨潤スペースが増加し、またシールリング27の面圧分布を
図12に示すように改善できる。
【0043】
第4実施形態では、第3実施形態と同様の径変更部33が軸方向の一方のみに形成されている。これに対して他の実施形態では、第1実施形態の径変更部31または第2実施形態の径変更部32が軸方向の一方のみに形成されてもよい。それでも第4実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0044】
[第5実施形態]
図13に示すように、第5実施形態では、第3実施形態と同様の径変更部33が軸方向の他方(すなわち嵌合部221側)のみに形成されている。このように軸方向の他方のみに径変更部33が形成されていても、径変更部33の外径が小さい分だけ付勢リング28の許容膨潤スペースが増加し、またシールリング27の面圧分布を
図14に示すように改善できる。
【0045】
さらに、径変更部33が最大面圧位置Zpmaxに対して「付勢リング28のシールホルダ22への組付け方向」のみに設けられることで、組付け時にシールリング27により付勢リング28を押しながら装着可能である。そのため、付勢リング28のシールホルダ22への装着性が優れている。
【0046】
第5実施形態では、第3実施形態と同様の径変更部33が軸方向の他方のみに形成されている。これに対して他の実施形態では、第1実施形態の径変更部31または第2実施形態の径変更部32が軸方向の他方のみに形成されてもよい。それでも第5実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0047】
[第6実施形態]
図15、
図16に示すように、第6実施形態において、シールリング29は、従来形態のシールリング83と同様に、軸方向全域においてシール側最大厚み部291と同じ径方向厚みをもつように円筒状に形成されている。径変更部36は、シールリング29ではなく、付勢リング30の径方向内側に形成されている。
【0048】
ここで、
図16に示すように縦断面に表れる「非圧縮状態の付勢リング30の切断部端面の片方」に外接する円のことを仮想外接円Cvと定義する。また仮想外接円Cvを中心軸AX(
図1参照)まわりに一回転してできる立体を仮想標準リングRvと定義する。径変更部36は、付勢リング30の非圧縮状態において最大面圧位置Zpmaxに対して軸方向の両方に、仮想標準リングRvよりも内径が大きくなるように形成されている。これにより径変更部36の内径が大きい分だけ付勢リング30の許容膨潤スペースが増加し、またシールリング29の面圧分布を
図17に示すように改善できる。付勢リング30と従来形態の付勢リング82(
図20、
図21参照)とを比べると、付勢リング30の径変更部36の内側には、付勢リング30の膨潤への許容スペースが生み出されている。さらに、径変更部36は型で成形可能であるため、低コストで製造できる。
【0049】
第6実施形態では、径変更部36は、付勢側最大厚み部301から離れるほど内径が大きくなるテーパ面である。これに対して他の実施形態では、径変更部は凸曲面または凹面から構成されてもよい。
【0050】
[第7実施形態]
図18、
図19に示すように、第7実施形態において、径変更部37は付勢リング30の径方向外側に形成されている。つまり、径変更部37は、付勢リング30の非圧縮状態において最大面圧位置Zpmaxに対して軸方向の両方に、仮想標準リングRvよりも外径が小さくなるように形成されている。これにより径変更部37の外径が小さい分だけ付勢リング30の許容膨潤スペースが増加し、またシールリング29の面圧分布を
図20に示すように改善できる。さらに、径変更部37は型で成形可能であるため、低コストで製造できる。さらにまた、径変更部37は付勢リング30の径方向外側に形成されているため、付勢リング30の内側部分は従来形態と同様の形状になっており、付勢リング30とシールリング29との接触面積を確保できる。そのため、付勢リング30とシールリング29との間での軸方向ずれが抑制される。
【0051】
第7実施形態では、径変更部37は、付勢側最大厚み部301から離れるほど外径が小さくなるテーパ面である。これに対して他の実施形態では、径変更部は凸曲面または凹面から構成されてもよい。
【0052】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の形態で実施可能である。
【符号の説明】
【0053】
10 高圧燃料ポンプ、
13 シリンダ、
14 プランジャ、
22 シール室形成部、
27、29 シールリング、
28、30 付勢リング
31、32、33、36、37 径変更部、
Zpmax 最大面圧位置。