(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】内燃機関の点火装置
(51)【国際特許分類】
F02P 15/10 20060101AFI20240409BHJP
F02B 19/12 20060101ALI20240409BHJP
F02P 13/00 20060101ALI20240409BHJP
H01T 13/54 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
F02P15/10 301D
F02B19/12 D
F02P13/00 301J
H01T13/54
(21)【出願番号】P 2020140349
(22)【出願日】2020-08-21
【審査請求日】2023-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 明光
【審査官】小関 峰夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-280229(JP,A)
【文献】特開2004-44404(JP,A)
【文献】特開2012-41846(JP,A)
【文献】特開2017-103179(JP,A)
【文献】特開2019-190362(JP,A)
【文献】特開2020-159355(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0025670(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第102017221517(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 19/12
F02P 13/00
F02P 15/10
H01T 13/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放電ギャップ(G)が配される副燃焼室(50)を有するスパークプラグ(1)と、
上記スパークプラグに電圧を印加する点火コイル(7)と、
上記スパークプラグにおける放電を制御する制御部(8)と、
を有する内燃機関の点火装置(10)であって、
上記制御部は、上記内燃機関の圧縮行程から膨張行程までの間に、上記放電ギャップに、放電休止期間(DP)を挟んで複数回の放電を生じさせる、複数放電モードを実行できるよう構成されて
おり、
上記複数放電モードにおいて、上記制御部は、少なくとも1回の放電を上記膨張行程にて生じさせるよう構成されており、
少なくとも1回の上記放電休止期間は、当該放電休止期間の直前及び直後の放電期間よりも、上記放電ギャップにおける気流の速度(vg)が低く、
上記制御部は、上記放電ギャップにおける気流の速度が所定の流速閾値(vth)よりも低い低流速期間(LP)を、上記放電休止期間とするよう構成されている、内燃機関の点火装置。
【請求項2】
上記制御部は、圧縮上死点(TDC)後、上記放電ギャップにおける気流の速度が所定の流速閾値(vth)よりも低い低流速期間(LP)を、上記放電休止期間とするよう構成されている、請求項1に記載の内燃機関の点火装置。
【請求項3】
上記制御部は、上記放電休止期間を特定の期間として記憶している、請求項
1又は2に記載の内燃機関の点火装置。
【請求項4】
少なくとも1回の上記放電休止期間は、その直前の放電の放電維持電圧(V2)又は放電電流(I2)の減衰速度(ΔI2/Δt)が所定の閾値(Vth,Fth)を下回った時点にて、開始されるよう構成されている、請求項
1又は2に記載の内燃機関の点火装置。
【請求項5】
放電ギャップ(G)が配される副燃焼室(50)を有するスパークプラグ(1)と、
上記スパークプラグに電圧を印加する点火コイル(7)と、
上記スパークプラグにおける放電を制御する制御部(8)と、
を有する内燃機関の点火装置(10)であって、
上記制御部は、上記内燃機関の圧縮行程から膨張行程までの間に、上記放電ギャップに、放電休止期間(DP)を挟んで複数回の放電を生じさせる、複数放電モードを実行できるよう構成されて
おり、
上記複数放電モードにおいて、上記制御部は、少なくとも1回の放電を上記膨張行程にて生じさせるよう構成されており、
少なくとも1回の上記放電休止期間は、その直前の放電の放電維持電圧(V2)又は放電電流(I2)の減衰速度(ΔI2/Δt)が所定の閾値(Vth,Fth)を下回った時点にて、開始されるよう構成されている、内燃機関の点火装置。
【請求項6】
少なくとも1回の上記放電休止期間は、当該放電休止期間の直前及び直後の放電期間よりも、上記放電ギャップにおける気流の速度(vg)が低い、請求項
5に記載の内燃機関の点火装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の点火装置に関する。
【背景技術】
【0002】
副燃焼室を備えたスパークプラグが、特許文献1に開示されている。
かかるスパークプラグにおいては、副燃焼室内の放電ギャップにおいて生じさせた放電によって、副燃焼室内の混合気に着火する。そして、副燃焼室にて形成された火炎が、噴孔を介して主燃焼室に火炎ジェットとして噴出する。これにより、主燃焼室における燃焼を促進することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】独国特許出願公開第102017221517号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、副燃焼室を備えたスパークプラグは、副燃焼室内における着火性の観点において改善の余地がある。それゆえ、かかるスパークプラグを有する内燃機関の点火装置においては、副燃焼室から主燃焼室への火炎ジェットを強化して、主燃焼室の燃焼効率を向上させる余地があるといえる。
【0005】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、燃焼効率の向上を図ることができる、内燃機関の点火装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、放電ギャップ(G)が配される副燃焼室(50)を有するスパークプラグ(1)と、
上記スパークプラグに電圧を印加する点火コイル(7)と、
上記スパークプラグにおける放電を制御する制御部(8)と、
を有する内燃機関の点火装置(10)であって、
上記制御部は、上記内燃機関の圧縮行程から膨張行程までの間に、上記放電ギャップに、放電休止期間(DP)を挟んで複数回の放電を生じさせる、複数放電モードを実行できるよう構成されており、
上記複数放電モードにおいて、上記制御部は、少なくとも1回の放電を上記膨張行程にて生じさせるよう構成されており、
少なくとも1回の上記放電休止期間は、当該放電休止期間の直前及び直後の放電期間よりも、上記放電ギャップにおける気流の速度(vg)が低く、
上記制御部は、上記放電ギャップにおける気流の速度が所定の流速閾値(vth)よりも低い低流速期間(LP)を、上記放電休止期間とするよう構成されている、内燃機関の点火装置にある。
本発明の他の態様は、放電ギャップ(G)が配される副燃焼室(50)を有するスパークプラグ(1)と、
上記スパークプラグに電圧を印加する点火コイル(7)と、
上記スパークプラグにおける放電を制御する制御部(8)と、
を有する内燃機関の点火装置(10)であって、
上記制御部は、上記内燃機関の圧縮行程から膨張行程までの間に、上記放電ギャップに、放電休止期間(DP)を挟んで複数回の放電を生じさせる、複数放電モードを実行できるよう構成されており、
上記複数放電モードにおいて、上記制御部は、少なくとも1回の放電を上記膨張行程にて生じさせるよう構成されており、
少なくとも1回の上記放電休止期間は、その直前の放電の放電維持電圧(V2)又は放電電流(I2)の減衰速度(ΔI2/Δt)が所定の閾値(Vth,Fth)を下回った時点にて、開始されるよう構成されている、内燃機関の点火装置にある。
【発明の効果】
【0007】
上記内燃機関の点火装置において、上記制御部は、内燃機関の圧縮行程から膨張行程までの間に、放電ギャップに、放電休止期間を挟んで複数回の放電を生じさせる、複数放電モードを実行できるよう構成されている。それゆえ、複数放電モードにおいては、複数回の放電によって、複数の初期火炎を、副燃焼室内に生じさせることができる。そのため、副燃焼室内において、これら複数の初期火炎を重合させ、副燃焼室における着火性を向上させることができる。これにより、副燃焼室から内燃機関の主燃焼室への火炎ジェットを強化することができ、主燃焼室における燃焼効率を向上させることができる。
【0008】
以上のごとく、上記態様によれば、燃焼効率の向上を図ることができる、内燃機関の点火装置を提供することができる。
なお、特許請求の範囲及び課題を解決する手段に記載した括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであり、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
参考形態1における、内燃機関の点火装置の説明図。
【
図2】
参考形態1における、スパークプラグの先端部の断面図。
【
図3】
参考形態1における、点火信号、一次電流、二次電流のタイミングチャート図。
【
図4】
参考形態1における、TDC付近の、点火信号、一次電流、二次電流のタイミングチャート図。
【
図5】
参考形態1における、
図2のV-V線矢視断面相当の、圧縮行程のスワール流の説明図。
【
図6】
参考形態1における、膨張行程のスワール流の説明図。
【
図7】
実施形態1における、気流の流速、一次電流、二次電流のタイミングチャート図。
【
図8】
実施形態2における、放電維持電圧のタイミングチャート図。
【
図9】
実施形態2における、放電維持電圧を利用した放電休止判断方法のフロー図。
【
図10】
実施形態2における、放電電流のタイミングチャート図。
【
図11】
実施形態2における、放電電流減衰速度を利用した放電休止判断方法のフロー図。
【
図12】
参考形態2における、TDC付近の、点火信号、一次電流、二次電流のタイミングチャート図。
【
図13】
参考形態2における、スパークプラグの先端部の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(
参考形態1)
内燃機関の点火装置に係る
参考形態について、
図1~
図6を参照して説明する。
本形態の内燃機関の点火装置10は、
図1に示すごとく、スパークプラグ1と点火コイル7と制御部8とを有する。
【0011】
スパークプラグ1は、
図2に示すごとく、放電ギャップGが配される副燃焼室50を有する。点火コイル7は、スパークプラグ1に電圧を印加する。制御部8は、スパークプラグ1における放電を制御する。
制御部8は、
図3、
図4に示すごとく、複数放電モードを実行できるよう構成されている。複数放電モードは、内燃機関の圧縮行程から膨張行程までの間に、放電ギャップGに、放電休止期間DPを挟んで複数回の放電を生じさせる。
【0012】
制御部8は、例えば、車両用のECU(すなわち、電子制御ユニット)にて構成することができる。制御部8は、所定のタイミングにて、点火コイル7へ点火信号IGtを送信する。この点火信号IGtに基づいて、点火コイル7は、高電圧をスパークプラグ1に印加する。これにより、スパークプラグ1における放電ギャップGに、放電が生じる。
【0013】
本形態の点火装置10は、例えば、自動車、コージェネレーション等の内燃機関における着火手段として用いることができる。そして、
図1に示すごとく、スパークプラグ1の軸方向Zの一端を、内燃機関の主燃焼室11に配置する。スパークプラグ1の軸方向Zにおいて、主燃焼室11に露出する側を先端側、その反対側を基端側というものとする。
【0014】
スパークプラグ1は、
図2に示すごとく、筒状の絶縁碍子3と、中心電極4と、筒状のハウジング2と、接地電極6と、プラグカバー5と、を有する。
中心電極4は、絶縁碍子3の内周側に保持されると共に絶縁碍子3から先端側に突出している。本形態において、中心電極4の先端部には、径方向外側へ突出する側方突出部41が設けてある。側方突出部41と接地電極6との間に放電ギャップGが形成されている。ハウジング2は、絶縁碍子3を内周側に保持する。ハウジング2は、スパークプラグ1を内燃機関に取り付けるための取付ネジ部23を備えている。プラグカバー5は、ハウジング2の先端部に設けられている。プラグカバー5は、噴孔51を複数有している。
【0015】
本形態において、複数の噴孔51は、噴孔51を通じて副燃焼室50に導入される気流によって、副燃焼室50にスワール流(
図5の矢印A1参照)が生じるように形成されている。具体的には、
図5に示すごとく、スパークプラグ1を軸方向Zから見たとき、噴孔軸51Lが、プラグ中心軸PCを通らない状態にて、噴孔51が形成されている。本形態において、噴孔軸51Lは、中心電極4を通らない。
【0016】
図2に示すごとく、接地電極6は、中心電極4の側方突出部41の突出端に、外周側から対向して配置されている。本形態において、接地電極6は、ハウジング2の先端とプラグカバー5の基端との接合部から、中心電極4に向かって、プラグ径方向に突出している。そして、放電ギャップGは、ハウジング2の先端よりも先端側に配置されている。
【0017】
内燃機関は、いわゆる4サイクルエンジンであり、吸気行程、圧縮行程、膨張行程、排気行程を、順次繰り返すように、
図1に示すピストン14の往復運動と、吸気バルブ12及び排気バルブ13の開閉が行われる。同図において、符号120は吸気ポートを示し、符号130は排気ポートを示す。そして、点火装置10は、
図3、
図4に示すごとく、ピストン14の所定のクランク角において、スパークプラグ1に、複数回、放電を生じさせる。すなわち、制御部8は、ピストン14のクランク角に対する所定のタイミングにて、点火信号IGtを発信し、点火コイル7からスパークプラグ1に高電圧を印加する。
【0018】
点火コイル7は、図示を省略するが、互いに磁気的に結合した一次コイル及び二次コイルを有する。一次コイルは、直流電源に接続されており、制御部8による点火信号IGtに基づいて、直流電源から一次電流が供給される。一次コイルに流れる一次電流を遮断することにより、誘導起電力によって二次コイルに二次電圧が発生し、この二次電圧がスパークプラグ1に印加され放電ギャップGに放電が生じる。
【0019】
図3は、複数放電モードにおける、クランク角に対する、点火信号IGt、一次電流I1、二次電流I2のタイミングの一例を示すタイミングチャートである。同図の下段に付した「TDC」は、圧縮上死点を示す。以下において、圧縮上死点を、適宜、TDCともいう。BTDC180°は、圧縮上死点に対して180°前のクランク角を示し、ATDC180°は、圧縮上死点に対して180°後のクランク角を示す。
【0020】
特に本形態においては、運転状態に応じて、TDC付近において放電を生じさせる。例えば、エンジンの高負荷時や、触媒早期暖機からアイドルへの移行時などにおいては、TDC付近において混合気に点火することが、一般に行われる。具体的には、例えば、BTDC10°~ATDC10°の間、更に好ましくは、BTDC5°~ATDC7°の間において、放電を生じさせる。
【0021】
このような、TDC付近において放電を生じさせる場合において、特に副燃焼室50を備えたスパークプラグ1の着火性の低下が懸念されることを、本願発明者らは見出した。すなわち、副燃焼室50には、噴孔51を通じて主燃焼室11から気流が流入したり、主燃焼室11へ気流が流出したりする。それゆえ、
図5、
図6に示すごとく、副燃焼室50内においても気流A1、A2が生じる。この気流によって、放電ギャップGに生じた放電Sが引き伸ばされると、副燃焼室50における着火性が高まる。ところが、圧縮行程と膨張行程との境であるTDC付近においては、副燃焼室50における気流の速度が低下しやすい。つまり、副燃焼室50への気流の流入と、副燃焼室50からの気流の流出とが切り替わるタイミングに近いため、副燃焼室50における気流が弱まったり、乱流となったりして、気流の速度が一時的に低下する。このようなタイミングで放電ギャップGに生じた放電は、気流によって引き伸ばされにくいため、着火性の低下が懸念される。
【0022】
そこで、本形態においては、特にTDC付近にて放電を行う場合に、複数放電モードを実行し、上述のように、複数回の放電を生じさせることで、副燃焼室50内における着火性の向上を図る。
すなわち、上述したように、制御部8は、スパークプラグ1の放電ギャップGに、
図4に示すごとく、放電休止期間DPを挟んで複数回の放電を生じさせる。また、複数放電モードにおいて、制御部8は、少なくとも1回の放電を膨張行程にて生じさせるよう構成されている。なお、
図3、
図4に示す二次電流I2の発生が、放電の発生を意味することとなる。つまり、同図における二次電流I2を示す線が下方へ突出した部分が、放電の発生を表す。
【0023】
ここで、「放電休止期間DP」は、1サイクル中に断続的に生じる複数の放電の間において、放電を生じさせない期間を意味する。したがって、1サイクル中の複数の放電の最初の放電の前や、最後の放電の後の期間は、「放電休止期間DP」ではない。
【0024】
具体的には、
図4に示すごとく、放電休止期間DPを挟んで、2回の放電を生じさせる。この2回の放電がTDCを跨いで生じるようにする。つまり、1回目の放電開始時点がTDCの前であり、2回目の放電終了時点がTDCの後となるようにしている。また、この2回の放電の間の放電休止期間DPが、TDCを跨いで存在しているようにする。なお、この2回の放電は、BTDC10°~ATDC10°の間、更に好ましくは、BTDC5°~ATDC7°の間に生じさせることができる。
【0025】
まず、1回目の放電は、TDCの直前(例えばBTDC5°~1°の間)に生じさせる。その後、放電休止期間DPを、TDCの直前から直後までの間に設ける。そして、2回目の放電を、TDCの直後(例えばATDC3°~7°の間)に生じさせる。
【0026】
これを実現するために、制御部8は、まず、TDCの前の所定期間、点火信号IGtを点火コイル7(より具体的には点火コイル7のイグナイタ)に印加する。これにより、点火コイル7の一次コイルに一次電流I1を供給し、点火コイル7を充電する。この間、一次電流I1は徐々に大きくなる。そして、TDCの前(例えば、BTDC5°)に、点火信号IGtをオフにし、一次電流I1を遮断する。これにより、1回目の放電が放電ギャップGに生じ、二次電流I2が流れる。
【0027】
その後、TDCの直前(例えば、BTDC1°)にて、再び、点火信号IGtをオンにして、一次コイルに一次電流I1を供給し始める。これにより、1回目の放電は停止され、放電休止期間DPが始まる。そして、TDCの直後(例えば、ATDC3°)にて、点火信号IGtをオフにして、一次電流I1を遮断する。これにより、2回目の放電が放電ギャップGに生じる。つまり、TDCの直後に2回目の放電が行われ、二次電流I2が再び流れる。
【0028】
このように、TDCの前後に、1回目の放電と、2回目の放電とを生じさせ、これら2回の放電の間の放電休止期間DPがTDCを跨いで存在するようにする。放電休止期間DP(すなわち、2回目の点火信号IGtオンの期間)は、1回目の点火コイル7の充電期間(すなわち、1回目の点火信号IGtオンの期間)よりも短い。また、放電休止期間DPは、例えば、クランク角の進度にして、3°~6°に相当する長さとすることができる。
【0029】
TDC付近においては、上述のように、副燃焼室50内の気流の速度が低下し、放電ギャップGにおける気流の速度(以下において、適宜「ギャップ流速vg」ともいう。)が低下する。このように、ギャップ流速vgが低下するタイミングが、放電休止期間DP内となるようにする。つまり、放電休止期間DPに、ギャップ流速vgが低下し、1回目の放電の期間におけるギャップ流速vg、及び、2回目の放電の期間におけるギャップ流速vgは、放電休止期間DPにおけるギャップ流速vgよりも高くなるようにする。
【0030】
つまり、少なくとも1回の放電休止期間DPは、当該放電休止期間DPの直前及び直後の放電期間よりも、ギャップ流速vgが低い。なお、各期間の中でギャップ流速vgの変化が生じる場合には、その期間中の平均速度にて比較するものとする。
なお、制御部8は、すべてのサイクルにおいて複数放電モードを実行するわけではなく、内燃機関の運転状態に応じて、複数放電モードを実行したり、実行しなかったりする。例えば、エンジンの高負荷時、触媒早期暖機からアイドルへの移行時等、TDC付近での点火を行う場合に限って、複数放電モードを実行するよう構成することができる。
【0031】
次に、本形態の作用効果につき説明する。
上記内燃機関の点火装置10において、制御部8は、内燃機関の圧縮行程から膨張行程までの間に、放電ギャップGに、放電休止期間DPを挟んで複数回の放電を生じさせる、複数放電モードを実行できるよう構成されている。それゆえ、複数放電モードにおいては、複数回の放電によって、複数の初期火炎を、副燃焼室50内に生じさせることができる。そのため、副燃焼室50内において、これら複数の初期火炎を重合させ、副燃焼室50における着火性を向上させることができる。これにより、副燃焼室50から内燃機関の主燃焼室11への火炎ジェットを強化することができ、主燃焼室11における燃焼効率を向上させることができる。
【0032】
また、複数放電モードにおいて、制御部8は、少なくとも1回の放電を膨張行程にて生じさせるよう構成されている。これにより、少なくとも1回の放電が、膨張行程にて生じる気流によって引き伸ばされやすくなる。その結果、着火性を向上させることができる。
【0033】
少なくとも1回の放電休止期間DPは、当該放電休止期間DPの直前及び直後の放電期間よりも、ギャップ流速vgが低い。これにより、当該放電休止期間DPの前後に生じる放電を引き伸ばしやすくすることができる。その一方で、ギャップ流速vgが低いタイミングに放電休止期間DPを設けることで、放電が引き伸ばされやすい膨張行程に備えて放電エネルギーを蓄え、残しておくことができる。
【0034】
すなわち、圧縮行程においては、
図5に示すごとく、副燃焼室50内にスワール流A1が生じる。このときのスワール流A1の向きは、同図における時計回りとなる。膨張行程においても、
図6に示すごとく、副燃焼室50内にスワール流A2が生じる。しかし、このときのスワール流A2の向きは、圧縮行程とは逆に、同図における反時計回りとなる。そして、圧縮行程から膨張行程に切り替わる時期、すなわち、TDCの近傍では、スワール流が弱まることとなる。
【0035】
副燃焼室50の中でも、噴孔51に近い位置と遠い位置とでは、スワール流の速度が低下するタイミングが若干異なる。噴孔51に近い位置においては、ギャップ流速vgが低下するタイミングが、TDCと略一致する。一方、噴孔51から遠い位置においては、ギャップ流速vgが低下するタイミングが、TDCから少し遅れる(後述する実施形態4参照)。本形態は、放電ギャップGが比較的噴孔51に近いため、ギャップ流速vgが低下するタイミングは、TDCと略一致する。
【0036】
本形態においては、上記のような、ギャップ流速vgの変化に応じて、1回目の放電と、2回目の放電を生じさせる。つまり、1回目の放電を、TDC直前の圧縮行程であって、ギャップ流速vgが維持されている時期において生じさせ、2回目の放電を膨張行程であって、ギャップ流速vgが速くなり始めた後において生じさせている。これにより、1回目の放電も、2回目の放電も、放電が引き伸ばされやすく、着火性を向上させることができる。その結果、副燃焼室50から主燃焼室11への火炎ジェットを強化して、燃焼効率を向上させることができる。
【0037】
以上のごとく、本形態によれば、燃焼効率の向上を図ることができる、内燃機関の点火装置を提供することができる。
【0038】
(
実施形態1)
本形態においては、
図7に示すごとく、TDC後、ギャップ流速vgが所定の流速閾値vthよりも低い低流速期間LPを、放電休止期間DPとするよう構成されている形態である。
【0039】
すなわち、低流速期間LPを放電休止期間DPに一致させる。ここで、低流速期間LPは、ギャップ流速vgが流速閾値vthよりも低い期間である。この流速閾値vthは、例えば、5m/秒とすることができる。この場合、TDC付近において、ギャップ流速vgが5m/秒未満となる期間を低流速期間LPとすることができる。
【0040】
本形態において、制御部8は、放電休止期間DPを特定の期間として記憶している。すなわち、例えば、エンジンの設計、試作段階におけるエンジン性能適合時に、ギャップ流速vgの時間変化(すなわち、クランク角に対するギャップ流速vgの変動)を測定又は推定する。測定又は推定されたギャップ流速vgの時間変化を基に、ギャップ流速vgが流速閾値vth未満となる時期、すなわち低流速期間LPを導く。そして、この低流速期間LPを放電休止期間DPとして、制御部8に記憶させる。つまり、予め、特定のタイミングの期間を、放電休止期間DPとして、制御部8に記憶させておく。
【0041】
ギャップ流速vgの計測は、例えば、熱線流速計等にて、直接測定することができる。また、CFD等の解析により、ギャップ流速vgを推定することもできる。なお、ギャップ流速vgを直接計測する場合には、サイクルごとに実測値が多少変動することがある。それゆえ、この場合、例えば、複数サイクル分の実測値の中で最小の実測値が流速閾値vth未満となる期間を低流速期間LPとし、放電休止期間DPとする。
【0042】
そして、制御部8は、上記のように記憶された放電休止期間DPが得られるように、点火信号IGtを制御する。
その他は、参考形態1と同様である。なお、実施形態1以降において用いた符号のうち、既出の形態において用いた符号と同一のものは、特に示さない限り、既出の形態におけるものと同様の構成要素等を表す。
【0043】
本形態の場合には、低流速期間LPを放電休止期間DPとするため、放電が引き伸ばされにくいタイミングでの放電を避けることとなる。そのため、着火性において不利な期間に放電エネルギーの投入を控え、その他の期間に放電エネルギーを投入することができる。その分、副燃焼室50内における着火性を向上させ、ひいては燃焼効率を向上させることができる。また、制御部8が放電休止期間DPを特定の期間として記憶しているため、点火制御を容易かつ確実に行うことができる。
その他、参考形態1と同様の作用効果を有する。
【0044】
(
実施形態2)
本形態は、
図8~
図11に示すごとく、少なくとも1回の放電休止期間DPは、その直前の放電の放電維持電圧V2又は放電電流I2の減衰速度ΔI2/Δtが所定の閾値を下回った時点にて、開始されるよう構成されている形態である。
【0045】
まず、放電維持電圧V2を利用した放電休止期間DPの開始判断手法につき、説明する。
放電維持電圧V2は、
図8に示すごとく、放電開始直後から逐次変動する。そして、放電が引き伸ばされると、放電維持電圧V2は高くなる。したがって、放電維持電圧V2が高いほど、ギャップ流速vgは高いと推定できる。逆に、放電維持電圧V2が低いほど、ギャップ流速vgが低いと推定できる。それゆえ、放電維持電圧V2が所定の電圧閾値Vthを下回ったとき、ギャップ流速vgが所定の流速閾値vth(例えば5m/秒)よりも低くなったと判断することができる。
【0046】
そこで、予め、放電維持電圧V2とギャップ流速vgとの相関を求めておき、ギャップ流速vgの流速閾値vthに対応する放電維持電圧V2を電圧閾値Vthとして求めておく。そして、計測される放電維持電圧V2が電圧閾値Vthを下回ったとき、1回目の放電を休止する。なお、
図8は、この積極的な放電休止を行わない場合の放電維持電圧V2の波形の一例を示すものである。
【0047】
なお、放電維持電圧V2は、微小時間単位でみると大きく変動する場合もある。それゆえ、放電維持電圧V2は、例えば直近の所定微小時間の放電維持電圧の平均値として、得る。所定微小時間は、例えば、1°CAとすることができる。ここで、1°CAとは、クランク角1°分の時間を意味する。また、
図8において、クランク角0°CAは、TDCを示し、-5°CAは、BTDC5°を示す。後述の
図10においても同様である。
【0048】
また、放電開始直後においては、放電が引き伸ばされる前の状態であるため、放電維持電圧V2は、比較的低い。つまり、放電開始直後において放電維持電圧V2が電圧閾値Vthよりも小さいとしても、ギャップ流速vgが低いとは限らない。それゆえ、放電開始直後の所定期間(例えば3°CA)は、放電休止を行わない。
【0049】
以上を考慮した、放電休止期間DPの開始判断(すなわち、1回目の放電の終了判断)のフローの一例を、
図9に示す。
同図に示すごとく、ステップS1において、放電維持電圧V2を逐次測定する。また、ステップS2において、放電開始後所定期間(例えば3°CA)経過したか否かを判断する。放電開始後所定期間が経過している場合に限り、ステップS3にて、放電維持電圧V2と電圧閾値Vthとを比較する。V2<Vthであると判断された場合に、ステップS4にて放電を休止する。すなわち、放電休止期間DPを開始する。
【0050】
上記の制御を実現するため、点火装置10は、放電維持電圧V2を測定するための電圧検出部を備えている。電圧検出部としては、例えば、点火コイル7の一次コイルの発生電圧V1を検出する電圧検出回路を用いることができる。一次コイルの発生電圧V1は、放電維持電圧V2そのものではない。しかし、放電維持電圧V2が、一次コイルの発生電圧V1と点火コイル7の巻数比とから容易に算出できることは、周知の通りである。
【0051】
次に、放電電流の減衰速度を利用した放電休止期間DPの開始判断手法につき、説明する。
放電電流I2は、
図10に示すごとく、放電開始直後から暫時減少する。しかし、放電電流I2の減衰速度ΔI2/Δtは、一定ではなく、放電維持電圧V2が大きいほど大きく、放電維持電圧V2が小さいほど小さくなる。つまり、放電電流I2の減衰速度ΔI2/Δtが高いほど、ギャップ流速vgは高いと推定できる。逆に、放電電流I2の減衰速度ΔI2/Δtが低いほど、ギャップ流速vgが低いと推定できる。それゆえ、放電電流I2の減衰速度ΔI2/Δtが所定の減衰閾値Fthを下回ったとき、ギャップ流速vgが流速閾値vth(例えば5m/秒)よりも低くなったと判断することができる。
【0052】
そこで、予め、減衰速度ΔI2/Δtとギャップ流速vgとの相関を求めておき、ギャップ流速vgの流速閾値vthに対応する減衰速度ΔI2/Δtを減衰閾値Fthとして求めておく。そして、計測される減衰速度ΔI2/Δtが減衰閾値Fthを下回ったとき、1回目の放電を休止する。なお、
図10は、この積極的な放電休止を行わない場合の放電電流I2の波形の一例を示すものである。
【0053】
なお、減衰速度ΔI2/Δtは、例えば直近の所定微小時間の減衰速度の平均値として、得る。所定微小時間は、例えば、1°CAとすることができる。
また、放電開始直後の所定期間(例えば3°CA)は、放電休止を行わない。
【0054】
以上を考慮した、放電休止期間DPの開始判断(すなわち、1回目の放電の終了判断)のフローの一例を、
図11に示す。
同図に示すごとく、ステップS11において、減衰速度ΔI2/Δtを逐次測定する。また、ステップS12において、放電開始後所定期間(例えば3°CA)経過したか否かを判断する。放電開始後所定期間が経過している場合に限り、ステップS13にて、減衰速度ΔI2/Δtと減衰閾値Fthとを比較する。ΔI2/Δt<Fthであると判断された場合に、ステップS14にて放電を休止する。すなわち、放電休止期間DPを開始する。
【0055】
上記の制御を実現するため、点火装置10は、放電電流I2を測定するための電流検出部を備えている。電流検出部としては、例えば、点火コイル7の二次コイルと接地との間の配線に流れる電流を検出する電流検出回路を用いることができる。
【0056】
なお、本形態において、2回目の放電開始は、例えば、放電休止期間DPの開始時点から所定時間経過後とするなど、種々の設定を行うことができる。なお、ここでの所定時間は、例えば、予め設定しておくことができる。
その他は、参考形態1と同様である。
【0057】
本形態のように、放電維持電圧V2或いは、放電電流の減衰速度ΔI2/Δtを用いて、1回目の放電の休止タイミングを設定することで、実際の運転状況に応じて、適切な制御を行うことができる。
【0058】
なお、例えば、V2とΔI2/Δtとの双方をモニタリングして、「V2<Vth」と「ΔI2/Δt<Fth」とのいずれか一方が満たされたときに、1回目の放電を休止させるようにすることもできる。また、V2とΔI2/Δtとの双方をモニタリングして、「V2<Vth」と「ΔI2/Δt<Fth」との双方が満たされたときに、1回目の放電を休止させるようにすることもできる。
その他、参考形態1と同様の作用効果を有する。
【0059】
(
参考形態2)
本形態は、
図12に示すごとく、放電休止期間DPをTDCよりも後に設けた形態である。
例えば、
図13に示すごとく、放電ギャップGが比較的噴孔51から遠い位置に設けられている場合は、上述したように、ギャップ流速vgが低下するタイミングが、TDCから少し遅れる。それゆえ、これに応じて、本形態においては、
図12に示すごとく、放電休止期間DPを、膨張行程に設ける。
【0060】
本形態においては、例えば、1回目の放電を、TDCを跨ぐように生じさせる。つまり、1回目の放電の開始時点をTDCの直前とし、1回目の放電の終了時点をTDCの直後とする。そして、放電休止期間DPを膨張行程に設け、その後に2回目の放電を生じさせる。
【0061】
また、1回目の放電の開始時点をTDCに一致させることもできる。あるいは、1回目の放電の開始時点を膨張行程とすることもできる。これらの場合にも、放電休止期間DPを膨張行程に設けることとなる。そして、この放電休止期間DPのギャップ流速vgよりも、その前後の放電期間のギャップ流速vgの方が高くなるようにする。
その他は、参考形態1と同様である。
【0062】
本形態のように、放電休止期間DPを、膨張行程、すなわちTDCよりも後に設ける場合もある。つまり、スパークプラグ1の形状等、種々の要因により、ギャップ流速vgが低いタイミングがTDCから遅れることもある。このような場合を含め、ギャップ流速vgが低下するタイミングに合わせて、放電休止期間DPを設けることで、その前後の放電によって、効率的な燃焼を実現することができる。
その他、参考形態1と同様の作用効果を有する。
【0063】
なお、上記実施形態においては、副燃焼室50内にスワール流が形成される場合について説明したが、本開示は、これに限らない。副燃焼室50内に流れる気流は、例えば、タンブル流、その他の流れ方をする場合にも、本開示は適用しうる。
また、上記実施形態においては、1サイクルに2回の放電を生じさせる複数放電モードについて説明したが、複数放電モードにおいて1サイクル中に3回以上の放電を生じさせる態様とすることもできる。
【0064】
本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の実施形態に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0065】
1 スパークプラグ
10 内燃機関の点火装置
50 副燃焼室
7 点火コイル
8 制御部
DP 放電休止期間
G 放電ギャップ