(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】ノイズフィルタ
(51)【国際特許分類】
H03H 7/09 20060101AFI20240409BHJP
H02M 3/00 20060101ALI20240409BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20240409BHJP
【FI】
H03H7/09 A
H02M3/00 Z
H02M7/48 Z
(21)【出願番号】P 2020162967
(22)【出願日】2020-09-29
【審査請求日】2022-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】秋田 義文
【審査官】竹内 亨
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/170819(WO,A1)
【文献】特開2018-182832(JP,A)
【文献】国際公開第2019/057736(WO,A1)
【文献】特開2019-041531(JP,A)
【文献】特開2004-032938(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 7/00-7/54
H02M 3/00
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1周波数でスイッチング動作をする第1電力変換装置と前記第1周波数より高い第2周波数でスイッチング動作をする第2電力変換装置との間に設けられ、
コンデンサと、
コモンモードチョークコイルと、
を備えるノイズフィルタであって、
前記コモンモードチョークコイルは、
コアと、
前記コアに巻きつけられる第1巻線及び第2巻線と、
を備え、
前記コモンモードチョークコイルは、前記コアが磁気飽和した場合の前記ノイズフィルタの共振周波数が、前記第1周波数より大きくかつ前記第2周波数より小さくなるインダクタンスを有するノイズフィルタ。
【請求項2】
前記第1巻線及び前記第2巻線は、エッジワイズ巻線である請求項1に記載のノイズフィルタ。
【請求項3】
前記第1電力変換装置は、DC/ACインバータであり、
前記第2電力変換装置は、DC/DCコンバータであり、
前記DC/DCコンバータの入力端と、外部電源に接続される充電端子との間に設けられている請求項1又は請求項2に記載のノイズフィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノイズフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
ノイズフィルタとしては、例えば、特許文献1に記載されている。特許文献1に記載のノイズフィルタは、第1電力変換装置と第2電力変換装置の間に接続されている。ノイズフィルタは、コンデンサと、コモンモードチョークコイルと、を備える。コモンモードチョークコイルは、コアと、第1巻線と、第2巻線と、を備える。また、コモンモードチョークコイルは、漏れインダクタンスを有する。ノイズフィルタは、伝導ノイズを低減する。伝導ノイズには、ノーマルモードノイズ及びコモンモードノイズが含まれる。コモンモードチョークコイルは、主にコモンモードノイズの低減に用いられるが、漏れインダクタンスであるノーマルモードインダクタンスを備えているため、ノーマルモードノイズの低減にも効果がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、コアが、磁気飽和を起こすことがある。コアが磁気飽和した状態では、コアの透磁率が低下する。これに伴い、コモンモードチョークコイルのノーマルモードインダクタンスが低下する。コモンモードチョークコイルのノーマルモードインダクタンスが低下することにより、ノイズフィルタの共振周波数が上昇する。ノイズフィルタに伝わるノーマルモードノイズがノイズフィルタの共振周波数と一致する場合、ノイズフィルタ内で共振が起こる。この場合、ノイズの共振がノイズフィルタに接続された機器に伝わるという問題が生じ得る。ノイズフィルタの共振を防ぐために、ノーマルモードコイルが別途設けられることがある。しかし、ノーマルモードコイルを別途設けることでノイズフィルタの体格が大きくなるという問題が生じる。
【0005】
本発明の目的は、小型化を図ることができるノイズフィルタを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するノイズフィルタは、第1周波数でスイッチング動作をする第1電力変換装置と前記第1周波数より高い第2周波数でスイッチング動作をする第2電力変換装置との間に設けられ、コンデンサと、コモンモードチョークコイルと、を備えるノイズフィルタであって、前記コモンモードチョークコイルは、コアと、前記コアに巻きつけられる第1巻線及び第2巻線と、を備え、前記コモンモードチョークコイルは、前記コアが磁気飽和した場合の前記ノイズフィルタの共振周波数が、前記第1周波数より大きくかつ前記第2周波数より小さくなるインダクタンスを有する。
【0007】
これによれば、コモンモードチョークコイルが磁気飽和した場合であっても、ノイズフィルタの共振周波数が、第1周波数より大きく第2周波数より小さくなる。ゆえに、ノイズフィルタに別途ノーマルモードコイルを設けることなく、ノイズフィルタの共振周波数が第1周波数及び第2周波数と一致することを抑制することができる。したがって、ノイズフィルタの小型化を図ることができる。
【0008】
上記ノイズフィルタについて、前記第1巻線及び前記第2巻線は、エッジワイズ巻線であることが好ましい。
上記ノイズフィルタについて、前記第1電力変換装置は、DC/ACインバータであり、前記第2電力変換装置は、DC/DCコンバータであり、前記DC/DCコンバータの入力端と、外部電源に接続される充電端子との間に設けられていることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ノイズフィルタの小型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態におけるノイズフィルタが用いられるシステムの回路全体の概略図。
【
図5】コモンモードチョークコイルの重畳電流特性を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、ノイズフィルタの一実施形態について
図1~
図5に従って説明する。本実施形態のノイズフィルタは、例えば、電気自動車、ハイブリッド自動車のような車両に用いられる。
【0012】
図1に示すように、車両Veは、スタートスイッチSと、電源ライン10と、バッテリBと、第1電力変換装置としてのDC/ACインバータ20と、走行用モータMと、充電端子30と、充電スイッチ31と、ノイズフィルタ40と、第2電力変換装置としてのDC/DCコンバータ50と、負荷60と、を備える。車両Veは、例えば、走行用モータMによって走行する電気自動車や、ハイブリッド自動車である。
【0013】
スタートスイッチSは、車両Veの起動状態と停止状態とを切り替えるためのスイッチである。スタートスイッチSは、例えば、車両Veの搭乗者により操作される。起動状態とは、車両Veの走行が可能な状態である。停止状態とは、車両Veの走行を行えない状態である。スタートスイッチSは、イグニッションスイッチやシステム起動スイッチ等と呼称されることもある。起動状態はイグニッションオン、停止状態はイグニッションオフと呼称されることもある。
【0014】
電源ライン10は、車両Veの電気系統に電力を供給するものである。電源ライン10は、高圧ライン11と低圧ライン12を備える。
バッテリBは、例えば、公称電圧が200[V]のバッテリである。バッテリBは、走行用モータMや負荷60などの車載電気機器に電力を供給する電力源となる。バッテリBとしては、例えば、リチウムイオン蓄電池などの充放電可能な蓄電装置を複数接続したものが挙げられる。
【0015】
バッテリBの正極は、高圧ライン11に接続されている。
バッテリBの負極は、低圧ライン12に接続されている。
DC/ACインバータ20は、電源ライン10に接続されている。DC/ACインバータ20は、電源ライン10を介してバッテリBの直流電圧が入力される。DC/ACインバータ20は、スイッチング素子21を備える。DC/ACインバータ20は、車両Veが起動状態の場合、DC/ACインバータ20のスイッチング素子21がスイッチング動作することで、バッテリBから供給される直流電力を交流電力に変換して出力する。DC/ACインバータ20は、例えば、パルス幅変調(PWM)により、電力の変換を行う。パルス幅変調には、例えば、三角波をキャリア波とする三角波比較方式がある。DC/ACインバータ20のスイッチング素子21は、第1周波数f1でスイッチング動作をする。本実施形態での第1周波数f1とは、DC/ACインバータ20のスイッチング素子21のスイッチング周波数である。第1周波数f1は、例えば、10[kHz]である。DC/ACインバータ20は、スイッチング素子21のスイッチング動作により、第1周波数f1を主成分にもつ伝導ノイズを発生させる。DC/ACインバータ20から発生した伝導ノイズは、電源ライン10に伝搬する。
【0016】
走行用モータMは、車両Veの車輪を駆動する動力源である。走行用モータMは、DC/ACインバータ20が出力する電力によって駆動する。走行用モータMには、例えば、三相交流モータが用いられる。
【0017】
充電端子30は、外部電源100から車両Veに電力を供給するための端子である。充電端子30は、外部電源100と接続されている。外部電源100は、直流電圧を出力するものであれば任意であるが、例えば、商用電源101と、充電用AC/DCコンバータ102と、を備える。商用電源101は、分電盤を介して複数の需要家設備に交流電力を供給する系統電源である。本実施形態において、商用電源101の交流電力は、充電用AC/DCコンバータ102に供給される。すなわち、充電用AC/DCコンバータ102は、需要家設備の一つといえる。
【0018】
充電用AC/DCコンバータ102は、入力された交流電圧を直流電圧に変換して出力する。充電用AC/DCコンバータ102が出力する直流電圧は、充電端子30を介してバッテリBに供給される。すなわち、外部電源100は、バッテリBを充電する充電装置として機能する。車両Veが外部電源100と接続されている場合、車両Veは、停止状態にされる。以下、外部電源100がバッテリBを充電している状態を充電状態と称する。
【0019】
充電スイッチ31は、充電端子30と電源ライン10との接続状態を切り替えるスイッチである。充電スイッチ31は、電源ライン10に接続されている。また、充電スイッチ31は、充電端子30と電源ライン10との間に設けられている。充電スイッチがOnのとき、充電端子30と電源ライン10が導通する。充電スイッチ31がOffのとき、充電端子30と電源ライン10が絶縁される。充電スイッチ31は、外部電源100が車両Veに電力を供給する際にOnとなる。充電スイッチ31には、例えば、リレースイッチが挙げられるが、MOSFET、IGBTなどの任意のスイッチを用いてよい。
【0020】
ノイズフィルタ40は、ノイズフィルタ40を通過する伝導ノイズを低減するためのフィルタ回路である。ノイズフィルタ40は、電源ライン10に接続されている。ノイズフィルタ40の詳細は、後述する。
【0021】
DC/DCコンバータ50は、スイッチング素子51と、入力端52と、出力端53と、を備える。DC/DCコンバータ50のスイッチング素子51は、第2周波数f2でスイッチング動作をする。すなわち、本実施形態における第2周波数f2は、スイッチング素子51のスイッチング周波数である。第2周波数f2は、第1周波数f1より大きく、例えば、170[kHz]である。
【0022】
DC/DCコンバータ50の入力端52は、ノイズフィルタ40を介して、電源ライン10に接続されている。電源ライン10には、DC/ACインバータ20が接続されている。したがって、ノイズフィルタ40は、DC/ACインバータ20とDC/DCコンバータ50との間に設けられているといえる。また、電源ライン10には、充電端子30が設けられている。したがって、ノイズフィルタ40は、DC/DCコンバータ50の入力端52と外部電源100に設けられている充電端子30との間に設けられているといえる。
【0023】
DC/DCコンバータ50は、DC/DCコンバータ50の入力端52に入力された電圧を、DC/DCコンバータ50のスイッチング素子51のスイッチング動作によって降圧して出力する。DC/DCコンバータ50の出力端53の出力電圧は、例えば12[V]である。DC/DCコンバータ50のスイッチング素子51のスイッチング動作により、第2周波数f2を主成分にもつ伝導ノイズがDC/DCコンバータ50の入力端52から生じる。
【0024】
負荷60は、車両Veに搭載された電装品である。負荷60には、例えば、照明、オーディオなどが挙げられる。負荷60は、DC/DCコンバータ50の出力端53から出力された直流電圧によって駆動する。負荷60の駆動電圧は、例えば、12[V]である。
【0025】
以下、ノイズフィルタ40の詳細について説明する。
図2に示すように、ノイズフィルタ40は、コモンモードチョークコイル70と、第1バイパスコンデンサ80と、第2バイパスコンデンサ81と、コンデンサ82と、を備える。
【0026】
図2~
図4に示すように、コモンモードチョークコイル70は、コア71と、第1巻線72と、第2巻線73と、を備える。
コア71は、例えば、フェライトコアのような強磁性体により形成されている。本実施形態において、コア71は、環状に形成されている。この説明で使用される「環状」という用語は、ループを形成する任意の構造、または端部のない連続形状、並びに、C字形のようなギャップを有する、一般的にループ形状の構造を指すことがある。「環状」の形状には、円形、楕円形、及び、尖ったまたは丸い角を有する多角形が含まれるが、これらに限定されない。
【0027】
第1巻線72は、コア71に巻かれている。第1巻線72の第1端は、高圧ライン11に接続されている。
第2巻線73は、コア71に巻かれている。第2巻線73の第1端は、低圧ライン12に接続されている。
【0028】
第1巻線72及び第2巻線73は、第1巻線72及び第2巻線73に同一方向の電流であるコモンモード電流が流れる場合には互いに強め合う磁束が発生する一方、第1巻線72及び第2巻線73に互いに逆方向の電流であるノーマルモード電流が流れる場合には互いに打ち消しあう磁束が発生するようにコア71に巻かれている。
【0029】
コモンモードチョークコイル70は、第1巻線72及び第2巻線73にノーマルモード電流が流れた場合に漏れ磁束を発生させる。このため、コア71が磁気飽和していない場合のコモンモードチョークコイル70は、漏れインダクタンスであるノーマルモードインダクタンスLaをもつ仮想ノーマルモードコイルL1を有しているとみなすことができる。仮想ノーマルモードコイルL1は、第1巻線72の漏れインダクタンスであるノーマルモードインダクタンスをもつ第1仮想ノーマルモードコイルL11と、第2巻線73の漏れインダクタンスであるノーマルモードインダクタンスをもつ第2仮想ノーマルモードコイルL12と、により構成されている。第1仮想ノーマルモードコイルL11は、第1巻線72の第1端と直列に接続されている。第2仮想ノーマルモードコイルL12は、第2巻線73の第1端と直列に接続されている。
【0030】
図2に示すように、第1バイパスコンデンサ80と第2バイパスコンデンサ81は、互いに直列に接続されている。第1バイパスコンデンサ80と第2バイパスコンデンサ81の間は、接地されている。第1バイパスコンデンサ80と第2バイパスコンデンサ81は、直列接続体C1を構成する。直列接続体C1の第1端は、第1巻線72の第2端に接続されている。直列接続体C1の第2端は、第2巻線73の第2端に接続されている。
【0031】
コンデンサ82の第1端は、第1巻線72の第2端と接続されている。コンデンサ82の第2端は、第2巻線73の第2端に接続されているに接続されている。すなわち、コンデンサ82は、直列接続体C1と並列に接続されている。
【0032】
本実施形態のノイズフィルタ40は、電源ライン10からDC/DCコンバータ50の入力端52に向かって順にコモンモードチョークコイル70、直列接続体C1、コンデンサ82を有する。
【0033】
ノイズフィルタ40は、コモンモードチョークコイル70と直列接続体C1とによって、コモンモード電流に対するローパスフィルタ回路として機能する。また、ノイズフィルタ40は、仮想ノーマルモードコイルL1とコンデンサ82とによってノーマルモード電流に対するローパスフィルタ回路としても機能する。すなわち、ノイズフィルタ40は、コモンモードノイズ及びノーマルモードノイズをともに低減する。
【0034】
ところで、充電状態において、外部電源100は、充電端子30を介してDC/DCコンバータ50の入力端52に電力を供給する。DC/DCコンバータ50の入力端52に供給された電力は、DC/DCコンバータ50の出力端53から負荷60に向かって出力される。そのため、充電状態においてDC/DCコンバータ50の入力端52から生じる伝導ノイズは、ノイズフィルタ40を介して電源ライン10に伝搬する。電源ライン10に伝搬した伝導ノイズは、充電端子30を介して外部電源100に伝搬する。外部電源100に伝搬した伝導ノイズは、分電盤を介して他の需要家設備に伝搬するおそれがある。このような場合、車両Veから外部電源100に伝搬する伝導ノイズの強度は、所定の規格、例えばECE regulation 10などで定められた所定の基準値を下回る必要がある。
【0035】
ここで、コモンモードチョークコイル70に流れる電流は、バッテリBまたは外部電源100から供給される直流電流成分と、DC/DCコンバータ50から発生する交流電流成分を有する。交流電流成分は、DC/DCコンバータ50から生じる伝導ノイズを含む。当該直流電流成分が、コア71を励磁する。以下では、当該直流電流成分を、直流重畳電流Idcと称する。
【0036】
図5は、本実施形態におけるコモンモードチョークコイル70の直流重畳特性Xを示す。なお、本実施形態における直流重畳特性とは、コモンモードチョークコイルに流れる直流重畳電流Idcとコモンモードチョークコイルのノーマルモードインダクタンスとの関係を意味する。
【0037】
図2~
図5に示すように、コモンモードチョークコイル70に一定以上の直流重畳電流Idcが流れると、コア71が磁気飽和を起こす。これにより、第1巻線72と第2巻線73との間のコア71を介した磁気結合が失われる。また、コア71の透磁率が空芯コイルの透磁率と同程度まで減少する。以下では、コモンモードチョークコイル70のノーマルモードインダクタンスが減少し始める直流重畳電流Idcの値を、磁気飽和許容電流Isat1と称する。また、直流重畳電流Idcが磁気飽和許容電流Isat1である場合のコモンモードチョークコイル70のノーマルモードインダクタンスを、臨界インダクタンスLbと称する。
【0038】
直流重畳電流Idcが磁気飽和許容電流Isat1を超えると、ノーマルモードインダクタンスは臨界インダクタンスLbから減少していき、一定の残留インダクタンスLcに収束する。以下では臨界インダクタンスLbから残留インダクタンスLcまでの間のインダクタンスを、インダクタンスLdと称する。ノーマルモードインダクタンスが減少すると、ノイズフィルタ40のノイズ除去性能が低下する。
【0039】
負荷60は、車両Veが走行状態でも充電状態でも駆動している。そのため、車両Veが走行状態でも充電状態でも、バッテリBまたは外部電源100がDC/DCコンバータ50に電力を供給する必要がある。走行状態に負荷60を駆動するために必要な電力は、充電状態のものより大きい。したがって、充電時最大電流Idc1は、走行時最大電流Idc2よりも小さい。なお、充電時最大電流Idc1とは、充電状態における直流重畳電流Idcの最大値である。また、走行時最大電流とは、走行状態における直流重畳電流Idcの最大値である。
【0040】
本実施形態のノイズフィルタ40は、DC/DCコンバータ50から外部電源100に伝導ノイズが伝搬することを抑制するためのものである。本実施形態において、外部電源100に伝導ノイズが伝搬するおそれがあるのは、車両Veが充電状態の場合である。言い換えれば、車両Veが走行状態の場合、ノイズフィルタ40のノイズ低減機能は、充電状態と比較して低下してもよい。
【0041】
そのため、本実施形態におけるコア71は、コモンモードチョークコイル70の磁気飽和許容電流Isat1が充電時最大電流Idc1より大きく、かつ、走行時最大電流Idc2より小さくなるよう、設計されている。
【0042】
一方、コモンモードチョークコイル70のノーマルモードインダクタンスは、コア71が磁気飽和すると、臨界インダクタンスLbから減少していき、一定の残留インダクタンスLcに収束する。
【0043】
コモンモードチョークコイル70のノーマルモードインダクタンスとコンデンサ82の容量とによって決まる共振周波数f0が、ノーマルモードインダクタンスの減少によって第2周波数f2に近づくと、ノイズフィルタ40がDC/DCコンバータ50の伝導ノイズにより、共振するおそれがある。
【0044】
そのため、コモンモードチョークコイル70のインダクタンスLdは、共振周波数f0が第1周波数f1より大きく第2周波数f2より小さい値となるように設定されている。具体的には、第1巻線72の種類及び第2巻線73の種類は、エッジワイズ巻線であり、第1巻線72のインダクタンスの巻き数と第2巻線73のインダクタンスの巻き数は、共振周波数f0が第1周波数f1より大きく第2周波数f2より小さい値となるように設定されている。
【0045】
本実施形態の作用について説明する。
図5の本実施形態のコモンモードチョークコイル70の直流重畳特性Xに示されるように、本実施形態におけるコモンモードチョークコイル70の充電時最大電流Idc1は、磁気飽和許容電流Isat1より小さい。したがって、充電状態ではコア71が磁気飽和しない。また、本実施形態におけるコモンモードチョークコイル70の走行時最大電流Idc2は、磁気飽和許容電流Isat1より大きい。したがって、走行状態ではコア71が磁気飽和する場合がある。コア71が磁気飽和した場合、コモンモードチョークコイル70のノーマルモードインダクタンスが臨界インダクタンスLbから減少していき、一定の残留インダクタンスLcに収束する。したがって、ノイズフィルタ40のノイズ除去性能が減少する。しかし、コア71が磁気飽和した場合でも、本実施形態のコモンモードチョークコイル70は、ノイズフィルタ40の共振周波数f0が第1周波数f1より大きく第2周波数f2より小さい値となるように設定されている。すなわち、ノイズフィルタ40の共振周波数f0が、第1周波数f1及び第2周波数f2と一致することが抑制される。DC/DCコンバータ50から発生する伝導ノイズは、第2周波数f2を主成分とするものであるため、コア71が磁気飽和している場合であっても、DC/DCコンバータ50から発生する伝導ノイズによるノイズフィルタ40の共振が抑制される。
【0046】
一方、
図5の比較例のコモンモードチョークコイルの重畳電流特性Yに示されるように、比較例のコモンモードチョークコイルの磁気飽和許容電流Isat2は、走行時最大電流Idc2より大きい。したがって、充電状態及び走行状態のいずれにおいても比較例におけるコモンモードチョークコイルのコアは磁気飽和をしないよう設計されている。しかし、ノーマルモードインダクタンスを保ちつつ磁気飽和許容電流を大きくするには、コアの体格を大きくする必要がある。
【0047】
本実施形態の効果について説明する。
(1)コア71が磁気飽和した場合でも、コモンモードチョークコイル70は、ノイズフィルタ40の共振周波数f0が第1周波数f1より大きく第2周波数f2より小さい値となるインダクタンスLdを有する。これにより、ノイズフィルタ40に別途ノーマルモードコイルを設けることなく、ノイズフィルタ40がDC/DCコンバータ50から生じる伝導ノイズによって共振することが抑制される。したがって、ノイズフィルタ40の小型化を図ることができる。
【0048】
(2)コモンモードチョークコイル70の磁気飽和許容電流Isat1は、充電時最大電流Idc1より大きく、走行時最大電流Idc2より小さい。したがって、少なくとも充電状態ではノイズフィルタ40のノイズ除去性能が保たれる。また、磁気飽和許容電流Isat1がIdc2より小さくすることにより、コア71の体格が小さくなる。これにより、充電状態でのノイズフィルタ40のノイズ除去性能を維持しつつ、ノイズフィルタ40の小型化を図ることができる。
【0049】
(3)第1巻線72にエッジワイズ巻線を用いることにより、コモンモードチョークコイル70の単位体積あたりのインダクタンスが大きくなる。これにより、ノイズフィルタ40をより小型化することができる。
【0050】
(4)ノイズフィルタ40は、DC/DCコンバータ50の入力端52と、充電端子30との間に設けられている。充電状態にDC/DCコンバータ50の入力端52から生じた伝導ノイズは、ノイズフィルタ40により低減される。外部電源100と車両Veとを接続する場合、車両Veで生じた伝導ノイズが、充電端子30を介して、車両Veから外部電源100に伝搬するおそれがある。そのため、このような伝導ノイズの伝搬を抑制するためのノイズフィルタ40を設ける必要がある。車両Veが外部電源100と接続されるのは、外部電源100がバッテリBの充電を行うとき、すなわち充電状態のときである。ノイズフィルタ40は、充電状態にノイズ除去性能を発揮できればよい。充電時最大電流Idc1は、走行時最大電流Idc2より小さい。コモンモードチョークコイル70は、充電状態では直流重畳電流Idcによってコア71が磁気飽和しなければよく、走行状態ではノイズフィルタ40の共振を抑制できればよい。したがって、DC/DCコンバータ50の入力端52と充電端子30との間のノイズフィルタ40を実施形態のように構成することで、走行状態でもコア71が磁気飽和しないようにする場合に比べてコア71を小型化しつつ、車両Veから外部電源100への伝導ノイズの伝搬を抑制することができる。これにより、ノイズフィルタ40の小型化を図ることができる。
【0051】
各実施形態は、以下のように変更して実施することができる。各実施形態及び以下の変形例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
○ノイズフィルタ40が設けられる場所は、DC/DCコンバータ50の入力端52と、充電端子30との間に限られない。例えば、DC/DCコンバータ50の出力端53と負荷60との間に接続されていてもよい。これによれば、DC/DCコンバータ50から負荷60に伝搬する伝導ノイズを抑制することができる。
【0052】
○第1電力変換装置は、DC/ACインバータ20に限られず、スイッチングノイズを発する任意の機器であってよい。
○第2電力変換装置は、DC/DCコンバータ50に限られず、第1電力変換装置よりも高い周波数のスイッチングノイズを生じるものであれば任意の機器であってよい。
【0053】
○第1巻線72及び第2巻線73は、コア71が磁気飽和した場合に所定のインダクタンスLdを有するものであれば、任意の構成でよい。例えば、第1巻線72及び第2巻線73は、エッジワイズ巻線でなく、丸線や四角線といった種々の巻線であってもよい。
【0054】
○第2巻線73が第1巻線72と同じ周波数特性および直流電流特性を有していれば、第2巻線73の巻き数は第1巻線72の巻数と一致していなくともよい。同様に、第2巻線73の巻線の種類は、第1巻線72の巻線の種類と同一でなくともよい。
【0055】
○コア71の形状は、第1巻線72と第2巻線73との磁気結合を担保できれば、環状に限られない。例えば、コア71の形状は、棒状であってもよい。
○コア71は、第1巻線72と第2巻線73との磁気結合を担保できれば、環状に閉じていなくともよい。例えば、コア71はギャップを有していてもよい。
【0056】
○充電スイッチ31は、車両Veに設けられていなくともよい。例えば、外部電源100に設けられていてもよい。
○充電端子30は、設けられていなくともよい。
【0057】
○ノイズフィルタ40を構成する素子の順序は、実施形態のものに限られず、任意である。
○直列接続体C1は、設けられていなくともよい。
【符号の説明】
【0058】
DC/ACインバータ…20、充電端子…30、ノイズフィルタ…40、DC/DCコンバータ…50、入力端…52、コモンモードチョークコイル…70、コア…71、第1巻線…72、第2巻線…73、コンデンサ…82、共振周波数…f0、第1周波数…f1、第2周波数…f2、インダクタンス…Ld。