(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】血液流量測定方法、透析装置、および、プログラム
(51)【国際特許分類】
A61M 1/36 20060101AFI20240409BHJP
A61M 1/16 20060101ALI20240409BHJP
A61B 5/145 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
A61M1/36 107
A61M1/16 111
A61B5/145
(21)【出願番号】P 2020163349
(22)【出願日】2020-09-29
【審査請求日】2023-06-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 将太
(72)【発明者】
【氏名】鴨下 洋一
【審査官】瀧本 絢奈
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-029882(JP,A)
【文献】特開2010-131146(JP,A)
【文献】特開2015-165880(JP,A)
【文献】特表2017-536929(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0112289(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/00 - 1/38
A61M 60/00 -60/90
A61B 5/145
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータによって実行される方法であって、
血液浄化器に血液を流入するための動脈側血液回路または前記血液浄化器から血液を流出させるための静脈側血液回路における、第1の箇所および第2の箇所のそれぞれにおいて血液の圧力の差を取得するステップと、
前記圧力の差、血液の粘性に関する指標、前記第1の箇所と前記第2の箇所の距離、および、前記動脈側血液回路または前記静脈側血液回路の径に基づいて、前記動脈側血液回路または前記静脈側血液回路における血液の流量を取得するステップと、を備える、血液流量測定方法。
【請求項2】
前記第1の箇所および前記第2の箇所の双方は、前記血液浄化器に対して一方側に配置されている、請求項1に記載の血液流量測定方法。
【請求項3】
前記動脈側血液回路および前記静脈側血液回路の血液を送る血液ポンプにおける送液量の設定値と前記血液の流量との差異が所与の閾値以上である場合に動作異常用の工程を実行するステップと、をさらに備える、請求項1または請求項2に記載の血液流量測定方法。
【請求項4】
前記血液ポンプは、前記動脈側血液回路において血液を送り、
前記第1の箇所および前記第2の箇所は、前記動脈側血液回路上に位置する、請求項3に記載の血液流量測定方法。
【請求項5】
前記血液の流量を取得するステップは、前記動脈側血液回路または前記静脈側血液回路において測定された血液濃度に基づいて前記血液の粘性に関する指標を取得することを含む、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の血液流量測定方法。
【請求項6】
血液浄化器と、
前記血液浄化器に血液を流入するための動脈側血液回路と、
前記血液浄化器から血液を流出させるための静脈側血液回路と、
前記動脈側血液回路および前記静脈側血液回路の血液を送る血液ポンプと、
前記血液ポンプの動作を制御するコントローラと、を備え、
前記コントローラは、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の血液流量測定方法を実施するように構成されている、透析装置。
【請求項7】
コンピュータによって実行されることにより、前記コンピュータに請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の血液流量測定方法を実施させる、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、体外での血液の循環における流量の計測に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、透析治療などにおける体外での血液循環について、種々の技術が提案されている。たとえば、再公表2015-141621号公報(特許文献1)は、体外での血液循環において血液ポンプを利用する血液透析システムを開示する。従来の透析治療では、血液流量として、血液を送るポンプの送液量の設定値が採用される場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
透析治療において、血液流量は処方にも含まれる重要な測定項目の1つである。したがって、血液流量をより正確に測定するための技術が求められている。
【0005】
本開示は、係る実情に鑑み考え出されたものであり、その目的は、体外での血液循環における血液流量を正確に測定するための技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のある局面に従うと、コンピュータによって実行される方法であって、血液浄化器に血液を流入するための動脈側血液回路または血液浄化器から血液を流出させるための静脈側血液回路における、第1の箇所および第2の箇所のそれぞれにおいて血液の圧力の差を取得するステップと、圧力の差、血液の粘性に関する指標、第1の箇所と第2の箇所の距離、および、動脈側血液回路または静脈側血液回路の径に基づいて、動脈側血液回路または静脈側血液回路における血液の流量を取得するステップと、を備える、血液流量測定方法が提供される。
【0007】
第1の箇所および第2の箇所の双方は、血液浄化器に対して一方側に配置されていてもよい。
【0008】
血液流量測定方法は、動脈側血液回路および静脈側血液回路の血液を送る血液ポンプにおける送液量の設定値と血液の流量との差異が所与の閾値以上である場合に動作異常用の工程を実行するステップをさらに備えていてもよい。
【0009】
血液ポンプは、動脈側血液回路において血液を送るように構成されていてもよい。第1の箇所および第2の箇所は、動脈側血液回路上に位置していてもよい。
【0010】
血液の流量を取得するステップは、動脈側血液回路または静脈側血液回路において測定された血液濃度に基づいて血液の粘性に関する指標を取得することを含んでいてもよい。
【0011】
本開示の他の局面に従うと、血液浄化器と、血液浄化器に血液を流入するための動脈側血液回路と、血液浄化器から血液を流出させるための静脈側血液回路と、動脈側血液回路および静脈側血液回路の血液を送る血液ポンプと、血液ポンプの動作を制御するコントローラと、を備え、コントローラは、上述の血液流量測定方法を実施するように構成されている、透析装置が提供される。
【0012】
本開示のさらに他の局面に従うと、コンピュータによって実行されることにより、コンピュータに上述の血液流量測定方法を実施させる、プログラムが提供される。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、血液回路における2箇所の血液の圧力を用いて血液の流量が測定される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】ハーゲン・ボアズイユの法則に従って血流量Qを求めるための式を示す図である。
【
図3】コントローラ200が透析ユニット100における血液の流量を計測するための実行する処理の一例のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、図面を参照しつつ、透析装置の一実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品および構成要素には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがって、これらの説明は繰り返さない。
【0016】
[1.透析装置の構成]
図1は、透析装置の構成の一例を示す図である。
図1に示されるように、透析装置1は、透析ユニット100とコントローラ200とを含む。
【0017】
(透析ユニット100)
透析ユニット100は、ダイアライザ103と、患者の動脈とダイアライザ103とをつなぐ動脈側血液回路110と、患者の静脈とダイアライザ103とをつなぐ静脈側血液回路120とを含む。ダイアライザ103は、血液浄化器の一例である。透析装置1は、さらに、動脈側血液回路110においてダイアライザ103へ血液を送る血液ポンプ102と、動脈側血液回路110における血液濃度を測定する濃度測定装置101と、静脈側血液回路120における血液濃度を測定する濃度測定装置104とを含む。
【0018】
透析装置1は、さらに、ダイアライザ103に透析液を供給する機構である除水機構150を含む。除水機構150では、上流側透析液ライン151を介してダイアライザ103へ透析液が供給され、下流側透析液ライン152を介してダイアライザ103から透析液が排出される。除水機構150は、ダイアライザ103からの透析液の排出を促す透析液ポンプ155を含む。除水機構150による透析液の供給方式として、種々の供給方式が採用され得る。
【0019】
透析装置1は、さらに、圧力計131,132を含む。圧力計131,132は、いずれも動脈側血液回路110を流れる血液の圧力を計測するように、動脈側血液回路110上に配置されている。
【0020】
圧力計131は、濃度測定装置101より上流側に配置されている。圧力計132は、濃度測定装置101より下流側に配置されている。これにより、透析ユニット100の大型化を極力抑えた上で、圧力計131と圧力計132との間の距離が長く設定され得る。
【0021】
圧力計131,132は、静脈側血液回路120上に配置されていてもよい。なお、圧力計131と圧力計132とは、いずれもが動脈側血液回路110または静脈側血液回路120の一方側に流れる血液の圧力を計測するように配置されることが好ましい。すなわち、圧力計131の測定位置と圧力計132の測定位置とは、ダイアライザ103を挟まないように配置されることが好ましい。これにより、圧力計131と圧力計132における計測結果の相違にダイアライザ103によるハウリングやダイアライザ103における目詰まりなどの影響が反映されることが回避され得る。
【0022】
(コントローラ200)
コントローラ200は、プロセッサ201と、記憶装置202と、入力装置203と、出力装置204と、入出力インターフェース205とを含む。
【0023】
プロセッサ201は、記憶装置202に格納されたまたは外部の記憶装置に格納された、プログラムを実行する。記憶装置202は、ハードディスクドライブまたはソリッドステートドライブなどによって構成される。記憶装置202は、プログラムの実行に利用される種々のデータを格納していてもよい。
【0024】
入力装置203は、ユーザが透析装置1に情報を入力するために利用され、たとえば、キーボード、マウス、ハードウェアボタン、および/または、タッチセンサによって実現される。
【0025】
出力装置204は、透析装置1から情報を出力するために利用され、たとえば、ディスプレイ、LED(Light Emitting Diode)ランプ、および/または、スピーカによって実現される。
【0026】
入出力インターフェース205は、透析ユニット100内の各要素からコントローラ200へのデータの出力、および、コントローラ200から透析ユニット100内の各要素へのデータの出力のための、インターフェースである。一例では、コントローラ200は、入出力インターフェース205を介して、血液ポンプ102へ制御指示を出力する。他の例では、コントローラ200は、入出力インターフェース205を介して、濃度測定装置101,104および圧力計131,132からそれぞれの測定結果を取得する。
【0027】
本実施の形態では、コントローラ200は、透析ユニット100を制御するとともに、圧力計131,132の測定結果を用いて透析ユニット100における血流量を計測する。コントローラ200は、計測された血流量と血液ポンプ102によって単位時間に送られる血液の量の設定値との間に乖離がある場合、その旨を報知し得る。この意味において、圧力計131,132は、ダイアライザ103に対して、血液ポンプ102が配置されている側と同じ側の位置の血液の圧力を計測するように配置されることが好ましい。
【0028】
[2.複数の位置における圧力の計測結果を利用した血流量の計測]
次に、透析装置1における圧力計131,132の計測結果を利用した血流量の計測について説明する。以下の説明では、透析装置1に関連した物理量の名称を次のように規定する。
【0029】
「Px」は、圧力計131の計測結果を表す。
【0030】
「Py」は、圧力計132の計測結果を表す。
【0031】
「r」は、圧力計131,132が配置された回路(動脈側血液回路110または静脈側血液回路120)の径を表す。
【0032】
「η」は、血液の粘性係数であって、ハーゲン・ポアズイユの法則において利用される粘性係数を表す。
【0033】
「l」は、動脈側血液回路110または静脈側血液回路120における、圧力計131の測定位置と圧力計132の測定位置との間の距離を表す。
【0034】
図2は、ハーゲン・ボアズイユの法則に従って血流量Qを求めるための式を示す図である。
図2に示された式(1)では、上記の「Px」「Py」「r」「η」および「l」ならびに円周率(π)によって血流量Qが表される。「r」および「l」の値は、予め記憶装置202に格納されていてもよい。
【0035】
コントローラ200は、濃度測定装置101または濃度測定装置104によって計測される血液の濃度を既知の関係に従って式(1)の「η」へと変換する。なお、圧力計131,132が動脈側血液回路110上の血液の圧力を計測するように配置された場合には、コントローラ200は、「η」の導出に濃度測定装置101の計測結果を利用し、圧力計131,132が静脈側血液回路120上の血液の圧力を計測するように配置された場合には、コントローラ200は、「η」の導出に濃度測定装置104の計測結果を利用する。
【0036】
[3.処理の流れ]
図3は、コントローラ200が透析ユニット100における血液の流量を計測するための実行する処理の一例のフローチャートである。コントローラ200は、たとえば透析治療の開始とともに
図3の処理を開始する。コントローラ200は、プロセッサ201に所与のプログラムを実行させることにより
図3の処理を実現してもよい。コントローラ200は、
図3の処理を実行するASIC(application specific integrated circuit)またはFPGA(field-programmable gate array)などの専用回路を含んでいてもよい。
【0037】
図3を参照して、ステップS100にて、コントローラ200は、圧力計131,132の計測結果(PxおよびPy)および濃度測定装置101(または濃度測定装置101)の計測結果(Ht)を取得する。
【0038】
ステップS102にて、コントローラ200は、ステップS100にて取得した血液の濃度の計測結果(Ht)を粘性係数ηに変換した後、式(1)に従って、血液の流量Qを導出する。
【0039】
ステップS104にて、コントローラ200は、ステップS102において導出された流量Qを記憶装置202に格納する。
【0040】
ステップS106にて、コントローラ200は、血液ポンプ102の流量BP(たとえば血液ポンプ102に対する設定値)を取得し、流量BPとステップS102において導出された流量Qとを比較し、これらの差異が所与の閾値以上であるか否かを判断する。コントローラ200は、上記差異が閾値未満であれば(ステップS106にてNO)、ステップS108へ制御を進め、上記差異が閾値以上であれば(ステップS106にてYES)、ステップS110へ制御を進める。
【0041】
閾値は、透析装置1が利用される現場において適宜設定され得る。閾値は、ステップS102において導出された流量Qの値に基づいて設定されてもよい。一例では、閾値として、流量Qの値の10%の値が設定され得る。この場合、流量BPが流量Qに対して10%以上差異を有する場合にはステップS110へ制御が進められる。
【0042】
ステップS108にて、コントローラ200は、ステップS100において測定結果が取得されてから一定時間(たとえば、1分間)が経過したか否かを判断し、一定時間が経過したと判断するとステップS100へ制御を戻す。これにより、流量Qと流量BPの差異が閾値未満である間、一定時間ごとにステップS100~ステップS108の制御が繰り返される。
【0043】
ステップS110にて、コントローラ200は、血液ポンプ102を停止させる。
【0044】
ステップS112にて、コントローラ200は、透析液ポンプ155を停止させる。
【0045】
ステップS114にて、コントローラ200は、血液ポンプ102の異常を報知して、
図3の処理を終了させる。報知は、出力装置204による表示および/または音声の出力であってもよいし、外部の機器(たとえば、医療従事者が携帯する通信機器)への通知であってもよいし、これらの組合せであってもよい。
【0046】
以上説明された処理において、コントローラ200は、ステップS104において、(一定時間ごとの)流量Qを記憶装置202に格納する。ステップS104において、コントローラ200は、流量Qとともに流量BPを記憶装置202に格納する。これにより、医療従事者は、流量Qと流量BPの差異の経過を解析することによって、処方された透析治療が達成されたか否かを判断することができ、また、達成されなかった場合にその原因を検討がし得る。
【0047】
以上説明された処理において、ステップS110の血液ポンプ102の停止、ステップS112の透析液ポンプ155の停止、および、ステップS114における報知、のそれぞれは、動作異常用の工程の一例である。
【0048】
今回開示された各実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。また、実施の形態および各変形例において説明された発明は、可能な限り、単独でも、組合わせても、実施することが意図される。
【符号の説明】
【0049】
1 透析装置、100 透析ユニット、101,104 濃度測定装置、102 血液ポンプ、103 ダイアライザ、110 動脈側血液回路、120 静脈側血液回路、131,132 圧力計、150 除水機構、151 上流側透析液ライン、152 下流側透析液ライン、155 透析液ポンプ、200 コントローラ。