(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】無機繊維用サイズ剤組成物及び繊維材
(51)【国際特許分類】
D06M 15/263 20060101AFI20240409BHJP
D06M 15/53 20060101ALI20240409BHJP
D06M 13/144 20060101ALI20240409BHJP
D06M 101/00 20060101ALN20240409BHJP
【FI】
D06M15/263
D06M15/53
D06M13/144
D06M101:00
(21)【出願番号】P 2020165538
(22)【出願日】2020-09-30
【審査請求日】2022-12-13
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、次世代構造部材創製・加工技術開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高島 宏明
(72)【発明者】
【氏名】河原 真梨
【審査官】大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-157632(JP,A)
【文献】特開昭57-061645(JP,A)
【文献】特開2020-158908(JP,A)
【文献】特開2011-208324(JP,A)
【文献】特開2010-180293(JP,A)
【文献】特開2012-193474(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M13/00-15/715、
B29B11/16、15/08-15/14、C08J5/04-5/10、5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンカーバイドを含む無機繊維に付着させる皮膜を形成するための無機繊維用サイズ剤組成物であり、
下記式(1)で示されるポリオキシアルキレンアルキルエーテル型界面活性剤(A)、
水(B)、及び
重合反応生成物(C)を含有し、
RO-(AO)
n
-R’ …(1)
式(1)において、Rは炭素数4から36のアルキル基であり、R’は水素原子又は炭素数1以上のアルキル基であり、AOはオキシアルキレン基であり、nは1分子当たりのAO単位数の数平均であって2以上の値であり、
前記重合反応生成物(C)は、前記ポリオキシアルキレンアルキルエーテル型界面活性剤(A)、前記水(B)、及び重合開始剤(D)の存在下で、エチレン性二重結合を有するモノマー(c)を乳化重合させることで生成する生成物であり、
前記重合開始剤(D)は、アゾ系重合開始剤(D1)を含み、前記重合開始剤(D)に対する前記アゾ系重合開始剤(D1)の百分比は50質量%以上であり、
前記モノマー(c)は、(メタ)アクリル系モノマー(c1)を含
み、
前記(メタ)アクリル系モノマー(c1)は、メタクリル酸2-エチルヘキシルを含み、
不飽和高級アルコールと不飽和高級脂肪酸とのうち少なくとも一方からなる不飽和高級炭化水素系化合物(E)を更に含有する、
無機繊維用サイズ剤組成物
。
【請求項2】
シリコンカーバイドを含む無機繊維に付着させる皮膜を形成するための無機繊維用サイズ剤組成物であり、
下記式(1)で示されるポリオキシアルキレンアルキルエーテル型界面活性剤(A)、
水(B)、及び
重合反応生成物(C)を含有し、
RO-(AO)
n
-R’ …(1)
式(1)において、Rは炭素数4から36のアルキル基であり、R’は水素原子又は炭素数1以上のアルキル基であり、AOはオキシアルキレン基であり、nは1分子当たりのAO単位数の数平均であって2以上の値であり、
前記重合反応生成物(C)は、前記ポリオキシアルキレンアルキルエーテル型界面活性剤(A)、前記水(B)、及び重合開始剤(D)の存在下で、エチレン性二重結合を有するモノマー(c)を乳化重合させることで生成する生成物であり、
前記重合開始剤(D)は、アゾ系重合開始剤(D1)を含み、前記重合開始剤(D)に対する前記アゾ系重合開始剤(D1)の百分比は50質量%以上であり、
前記モノマー(c)は、(メタ)アクリル系モノマー(c1)を含み、
前記(メタ)アクリル系モノマー(c1)は、メタクリル酸2-エチルヘキシルを含み、
下記式(2)で表される化合物(F)を更に含有し、
RO-(AO)
m
-H …(2)
式(2)においてRは水素原子、又は炭素数1から3のアルキル基であり、AOはオキシアルキレン基であり、mは1分子当たりのAO単位数の数平均であって3以上の値であり、
前記無機繊維用サイズ剤組成物の固形分に対する前記化合物(F)の百分比は、1質量%以上50質量%以下である、
無機繊維用サイズ剤組成物。
【請求項3】
不飽和高級アルコールと不飽和高級脂肪酸とのうち少なくとも一方からなる不飽和高級炭化水素系化合物(E)を更に含有する、
請求項2に記載の無機繊維用サイズ剤組成物。
【請求項4】
前記化合物(F)は、25℃で固体である成分と、25℃で液体である成分とを含有する、
請求項2又は3に記載の無機繊維用サイズ剤組成物。
【請求項5】
前記25℃で固体である成分と、前記25℃で液体である成分との質量比は、10:1から1:2までである、
請求項4に記載の無機繊維用サイズ剤組成物。
【請求項6】
前記(メタ)アクリル系モノマー(c1)に対する前記ポリオキシアルキレンアルキルエーテル型界面活性剤(A)の百分比は、10質量%以上140質量%以下である、
請求項1から5のいずれか一項に記載の無機繊維用サイズ剤組成物。
【請求項7】
シリコンカーバイドを含む無機繊維と、
前記無機繊維に付着している皮膜とを備え、
前記皮膜は、請求項1から6のいずれか一項に記載の無機繊維用サイズ剤組成物から形成
された、
繊維材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機繊維用サイズ剤組成物及び繊維材に関し、より詳細には、無機繊維に付着する皮膜を形成するための無機繊維用サイズ剤組成物及びこの無機繊維用サイズ剤組成物から形成された皮膜が付着した無機繊維を含む繊維材に関する。
【背景技術】
【0002】
無機繊維、中でもシリコンカーバイド繊維は、優れた耐熱性があり軽量で高強度であるとの特性から、織物にして三次元プリフォームを形成したり、セラミックスとコンポジット化するなどして自動車産業、航空機産業、航空宇宙産業、エンジン等へ適用したりするなど、幅広い展開が期待され、開発が進められている。
【0003】
無機繊維のフィラメントを集束させてストランドを作製する際、及びストランドを製織して織物を作製する際などに、無機繊維の破断、毛羽立ちなどの損傷を抑制するために、無機繊維のフィラメント及びストランドの表面にサイズ剤を付着させることがある。また、サイズ剤を付着させた後、排水低減及び織物組織の目ずれの防止などの目的で、無機繊維をヒートクリーニングするなどして、無機繊維の表面からサイズ剤を除去することもある。
【0004】
例えば、特許文献1には、臨界表面張力が40mN/m以下であるポリエステル樹脂を含有するセラミック繊維用処理剤が開示されており、これを炭化ケイ素繊維に使用できることも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発明者の研究によると、特にシリコンカーバイド繊維は、無機繊維の中でも非常に硬くかつ脆く、特に毛羽が発生しやすい傾向がある。このため、シリコンカーバイド繊維はストランドの作製時、及び製織時などに、特に破断しやすく、取り扱いが非常に困難である。このためシリコンカーバイド繊維を使用する場合には、設計の自由度が低くなりがちである。
【0007】
また、特にシリコンカーバイド繊維は、サイズ剤を用いる場合の破損抑制の作用が得られにくく、この作用を得るためにはサイズ剤の付着率を高くする必要がある。一方でシリコンカーバイド繊維はガラス繊維等の一般的な無機繊維と比べ耐熱性に優れるが、大気中で加熱されると酸化による強度低下が起こるため、シリコンカーバイド繊維を大気中でヒートクリーニングをすることは繊維の特徴を損なうため現実的に困難である。しかし、サイズ剤による処理の後、不活性ガス雰囲気下でヒートクリーニングを行うと、サイズ剤に由来するタール等の残留物が生じやすい。
【0008】
本発明の課題は、特に、不活性ガス雰囲気下でヒートクリーニングするときの熱分解性にすぐれ、かつ熱分解の際にタール分等の残留物が生じにくく、さらにシリコンカーバイドを含む無機繊維の表面に付着させた場合に無機繊維の集束性及び柔軟性を高めやすい無機繊維用サイズ剤組成物及びこの無機繊維用サイズ剤組成物を付着させた、シリコンカーバイドを含む無機繊維を備える繊維材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係る無機繊維用サイズ剤組成物は、シリコンカーバイドを含む無機繊維に付着させる皮膜を形成するための無機繊維用サイズ剤組成物であり、下記式(1)で示されるポリオキシアルキレンアルキルエーテル型界面活性剤(A)、水(B)、及び重合反応生成物(C)を含有する。前記重合反応生成物(C)は、前記ポリオキシアルキレンアルキルエーテル型界面活性剤(A)、前記水(B)、及び重合開始剤(D)の存在下で、エチレン性二重結合を有するモノマー(c)を乳化重合させることで生成する生成物である。前記重合開始剤(D)は、アゾ系重合開始剤(D1)を含み、前記重合開始剤(D)に対する前記アゾ系重合開始剤(D1)の百分比は、50質量%以上である。前記モノマー(c)は、(メタ)アクリル系モノマー(c1)を含む。
RO-(AO)n-R’ …(1)
式(1)において、Rは炭素数4から36のアルキル基であり、R’は水素原子又は炭素数1以上のアルキル基であり、AOはオキシアルキレン基であり、nは1分子当たりのAO単位数の数平均であって2以上の値である。
【0010】
本発明の一態様に係る繊維材は、シリコンカーバイドを含む無機繊維と、前記無機繊維に付着している皮膜とを備え、前記皮膜は、前記無機繊維用サイズ剤組成物から形成されている。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によると、特に、不活性ガス雰囲気下でヒートクリーニングするときの熱分解性にすぐれ、かつ熱分解の際にタール分等の残留物が生じにくく、さらにシリコンカーバイドを含む無機繊維の表面に付着させた場合に無機繊維の集束性及び柔軟性を高めやすい無機繊維用サイズ剤組成物及びこの無機繊維用サイズ剤組成物から形成された皮膜を付着させたシリコンカーバイドを含む無機繊維を備える繊維材を、提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態に係る繊維用サイズ剤組成物について説明する。なお、以下の説明において、「(メタ)アクリ-」とは、「アクリ-」と「メタクリ-」のうち少なくとも一方を意味する。例えば、(メタ)アクリレートは、アクリレートとメタクリレートとのうち少なくとも一方を意味する。
【0013】
本実施形態に係る無機繊維用サイズ剤組成物(以下、組成物(X)ともいう)は、無機繊維に付着させる皮膜を形成するために使用される。
【0014】
組成物(X)は、下記式(1)に示すポリオキシアルキレンアルキルエーテル型界面活性剤(A)、水(B)、及び重合反応生成物(C)を含有する。重合反応生成物(C)は、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル型界面活性剤(A)、水(B)、及び重合開始剤(D)の存在下で、エチレン性二重結合を有するモノマー(c)を乳化重合させることで生成する生成物である。重合開始剤(D)は、アゾ系重合開始剤(D1)を含む。モノマー(c)は、(メタ)アクリル系モノマー(c1)を含む。
RO-(AO)n-R’ …(1)
式(1)において、Rは炭素数4から36のアルキル基であり、R’は水素原子又は炭素数1以上のアルキル基であり、AOはオキシアルキレン基であり、nは1分子当たりのAO単位数の数平均であって2以上の値である。
【0015】
また、本実施形態に係る繊維材は、無機繊維と、無機繊維に付着している皮膜とを備え、皮膜は組成物(X)から形成されている。
【0016】
本実施形態では、組成物(X)から形成された皮膜を無機繊維に付着させた場合、無機繊維の集束性及び柔軟性を高めやすい。このため、例えば無機繊維のフィラメントを集束させてストランドを作製する際にフィラメントに組成物(X)を付着させると、無機繊維を集束させやすく、かつ無機繊維の折れ、毛羽立ちなどの破損を生じさせにくい。また、例えば無機繊維のストランドを織製することで織物等を作製する際にストランドに組成物(X)を付着させると、無機繊維を織製しやすく、かつ無機繊維の折れ、毛羽立ちなどの破損を生じさせにくい。このため、無機繊維の取り扱い性及び加工性を高めやすい。
【0017】
さらに、組成物(X)の皮膜を不活性ガス雰囲気下で加熱した場合に、皮膜が熱分解しやすく、かつ熱分解時にタールなどの残留物が生じにくい。そのため、皮膜を付着させた無機繊維、すなわち繊維材を、不活性ガス雰囲気下でヒートクリーニングすることで、無機繊維の表面から皮膜を除去しやすく、かつ残留物が生じにくい。
【0018】
特に、本実施形態では、組成物(X)は、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル型界面活性剤(A)、水(B)、及び重合開始剤(D)の存在下で、エチレン性二重結合を有するモノマー(c)を乳化重合させて生成する重合反応生成物(C)を含有するため、不活性ガス雰囲気下でヒートクリーニングを行っても、無機繊維から組成物(X)の皮膜を容易に除去することができる。
【0019】
このように、無機繊維から組成物(X)の皮膜を容易に除去することができるため、組成物(X)は、無機繊維の加工時に皮膜の除去が必要な場合に特に適している。また、無機繊維の加工時には皮膜の除去が必要でない場合であっても、例えば無機繊維のリサイクル時に皮膜をヒートクリーニングによって容易に除去して、無機繊維をリユースすることが可能である。
【0020】
さらに、組成物(X)は水系のサイズ剤として用いることができるため、環境に優しく、組成物(X)を付着させた無機繊維は、人体に悪影響を及ぼしにくい。そのため、健康を害するおそれが低いため、組成物(X)をサイズ剤として用いて加工した無機繊維を安全に使用することができる。
【0021】
なお、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル型界面活性剤(A)の不存在下で、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル型界面活性剤(A)以外の界面活性剤を存在させて(メタ)アクリル系モノマー(c1)を含むモノマー(c)を乳化重合させて重合反応生成物を得た後に、この重合反応生成物とポリオキシアルキレンアルキルエーテル型界面活性剤(A)とを混合して組成物を調製しても、この組成物を、本実施形態の組成物(X)の場合のように無機繊維から容易に除去することはできない。これは、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル型界面活性剤(A)を配合するタイミングによって、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル型界面活性剤(A)と重合反応生成物(C)との間に生じる相互作用に差違が生じるためであると推察される。
【0022】
しかし、発明者らが赤外線吸光法、高速液体クロマトグラフィ、ゲル浸透クロマトグラフィ、及び核磁気共鳴分光法で分析しても、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル型界面活性剤(A)を配合するタイミングの違いによる有意な差異は認められなかった。そのため、組成物(X)の構造、又は特性を文言上特定することはできない。
【0023】
組成物(X)が含有する成分の詳細について、以下に説明する。
【0024】
組成物(X)は、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル型界面活性剤(A)(以下、「界面活性剤(A)」ともいう)、水(B)、及び重合反応生成物(C)を含有する。
【0025】
界面活性剤(A)は、組成物(X)に含有される必須成分であるとともに、重合反応生成物(C)を合成する際に使用される必須成分である。ポリオキシアルキレンアルキルエーテル型界面活性剤(A)とは、親水基として一種類以上のポリオキシアルキレン基を含有し、疎水基として炭素元素を1~36個含む炭化水素を主とした少なくとも一種類のアルキル基又は分岐アルキル基を含有する、ポリオキシアルキレン付加型ノニオン性界面活性剤を意味する。疎水基のアルキル基及び分岐アルキル基は、ヘテロ原子を含んでいてもよい。
【0026】
界面活性剤(A)は、上述のとおり、式(1)に示す構造を有する。
RO-(AO)n-R’ …(1)
式(1)におけるRは上述のとおり炭素数4から36のアルキル基である。この炭素数は6以上であればより好ましく、8以上であれば更に好ましい。またこの炭素数は30以下であればより好ましく20以下であれば更に好ましい。R’は上記のとおり水素原子、又は炭素数1以上のアルキル基である。R’がアルキル基である場合、その炭素数は1以上であればより好ましい。またこの炭素数は10以下であればより好ましく、5以下であれば更に好ましい。AOは上述のとおりオキシアルキレン基である。界面活性剤(A)の1分子中の複数のオキシアルキレン基AOの構造は、互いに同一であっても異なっていてもよい。オキシアルキレン基AOにおけるアルキレン基Aは、例えばエチレン基、プロピレン基、及びブチレン基からなる群から選択される少なくとも一種の基である。nは上述のとおり1分子当たりのAO単位数の数平均であり、2以上の値である。nは3以上であることがより好ましく、4以上であることが更に好ましい。またnは100以下であることが好ましく、80以下であることが更に好ましい。
【0027】
界面活性剤(A)は、例えばポリオキシエチレンヘキシルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルエーテル、ポリオキシエチレンノニルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンエイコシルエーテル、ポリオキシプロピレンヘキシルエーテル、ポリオキシプロピレンオクチルエーテル、ポリオキシプロピレンノニルエーテル、ポリオキシプロピレンラウリルエーテル、ポリオキシプロピレンステアリルエーテル、及びポリオキシプロピレンエイコシルエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルエーテル;並びにポリオキシエチレン2-エチルヘキシルエーテル及びポリオキシプロピレン2-エチルヘキシルエーテル等のポリオキシアルキレン分岐アルキルエーテルからなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有することが好ましい。
【0028】
この場合、組成物(X)をサイズ剤として無機繊維に付着させた際に、組成物(X)から形成された皮膜をヒートクリーニングによって無機繊維から容易に除去することができる。界面活性剤(A)は、上記の成分のうちの一種のみを単独で含んでもよく、二種以上を含んでいてもよい。
【0029】
界面活性剤(A)は、ポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコールのブロック共重合体を含むことがより好ましい。この場合、組成物(X)から形成された皮膜の除去が更に容易になる。ポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコールのブロック共重合体の例は、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンのブロック共重合体、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレンのブロック共重合体、ポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンのブロック共重合体を含む。ポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコールのブロック共重合体では、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン共重合体の片末端又は両末端にアルキル及び分岐アルキル等の脂肪族官能基がエーテル基により結合される。脂肪族官能基の例は、ヘキシル、オクチル、ノニル、ラウリル、ステアリル、及びエイコシル等の炭素原子数が6~20のアルキル基を含む。上記の化合物以外に、ポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコールのブロック共重合体に適し、乳化重合反応を阻害しない化合物があれば、この化合物もポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコールのブロック共重合体に含ませることができる。これらのうち、1種又は2種以上の化合物をポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコールのブロック共重合体として用いることができる。
【0030】
組成物(X)は、界面活性剤(A)のみを含有してもよく、界面活性剤(A)と界面活性剤(A)以外の界面活性剤との両方を含有してもよい。すなわち、組成物(X)を合成する際には、界面活性剤(A)のみを使用してもよく、界面活性剤(A)と界面活性剤(A)以外の界面活性剤との両方を使用してもよい。
【0031】
界面活性剤(A)以外の界面活性剤の例は、アニオン性界面活性剤(a1)、カチオン性界面活性剤(a2)、ノニオン性界面活性剤(a3)、両性界面活性剤(a4)、及び半極性界面活性剤(a5)を含む。
【0032】
アニオン性界面活性剤(a1)は、例えば高級脂肪酸塩型界面活性剤、スルホン酸塩型界面活性剤、硫酸エステル塩型界面活性剤、及びアルキルリン酸エステル塩型界面活性剤等からなる群から選択される少なくとも一種を含む。
【0033】
高級脂肪酸塩型界面活性剤は、例えばラウリン酸カリウム、ラウリルエーテルカルボン酸ナトリウム、N-ラウロイルサルコシンナトリウム、N-ラウロイルグルタミン酸ナトリウム、及びN-ラウロイルメチル-β-アラニントリエタノールアミン等のC12~C18の飽和又は不飽和脂肪酸塩;ヤシ油脂肪酸塩、硬化ヤシ油脂肪酸塩、パーム油脂肪酸塩、硬化パーム油脂肪酸塩、牛脂脂肪酸塩、及び硬化牛脂脂肪酸塩等の脂肪酸塩;N-アシルサルコシン塩;並びにN-アシルグルタミン酸塩等からなる群から選択される少なくとも一種を含む。
【0034】
スルホン酸塩型界面活性剤の例は、N-ココイルメチルタウリンナトリウム等のN-アシルアミノスルホン酸塩;及びポリオキシエチレンアルキルスルホコハク酸ナトリウム等のポリオキシエチレンスルホコハク酸塩を含む。
【0035】
硫酸エステル塩型界面活性剤の例は、高級アルキル硫酸塩、及びポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩等を含む。
【0036】
アルキルリン酸エステル塩型界面活性剤は、例えばモノラウリルリン酸トリエタノールアミン、及びモノラウリルリン酸ジカリウム等からなる群から選択される少なくとも一種を含む。
【0037】
上記の化合物以外に、アニオン性界面活性剤に適し、乳化重合反応を阻害しない化合物があれば、この化合物もアニオン性界面活性剤(a1)に含ませることができる。
【0038】
カチオン性界面活性剤(a2)は、例えばセトリモニウムクロリド、ステアリルトリモニウムクロリド、ベヘントリモニウムクロリド、ベヘントリモニウムメトサルフェート、ベヘンアミドプロピルトリモニウムメトサルフェート、塩化ステアラミドプロピルトリモニウム、塩化アラキドトリモニウム、塩化ジステアリルジモニウム、塩化ジセチルジモニウム、塩化トリセチルモニウム、オレアミドプロピルジメチルアミン、リノレアミドプロピルジメチルアミン、イソステアラミドプロピルジメチルアミン、オレイルヒドロキシエチルイミダゾリン、ステアラミドプロピルジメチルアミン、ベヘンアミドプロピルジメチルアミン、ベヘンアミドプロピルジエチルアミン、ベヘンアミドエチルジエチルアミン、ベヘンアミドエチルジメチルアミン、アラキドアミドプロピルジメチルアミン、アラキドアミドプロピルジエチルアミン、アラキドアミドエチルジエチルアミン、及びアラキドアミドエチルジメチルアミン等からなる群から選択される少なくとも一種を含む。
【0039】
上記の化合物以外に、カチオン性界面活性剤に適し、乳化重合反応を阻害しない化合物があれば、この化合物もカチオン性界面活性剤(a2)に含ませることができる。
【0040】
ノニオン性界面活性剤(a3)は、例えばポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレンノニルフェノールエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシプロピレンオレイルエーテル、及びポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等のポリオキシアルキレン付加型ノニオン性界面活性剤;ラウリン酸モノエタノールアミド等のモノエタノールアミド型ノニオン性界面活性剤;ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド等のジエタノールアミド型ノニオン性界面活性剤;N-メチルラウリルグルカミド及びN-メチルアルキルグルカミド等のアルキルサッカライド系ノニオン性界面活性剤;糖アミド系ノニオン性界面活性剤;モノイソステアレン酸ソルビタン及びモノオレイン酸ソルビタン等のソルビタン脂肪酸エステル系ノニオン性界面活性剤;ラウリン酸ショ糖エステル、ショ糖モノステアレート、及びPOPショ糖モノラウレート等のショ糖脂肪酸エステル系ノニオン性界面活性剤;セスキオレイン酸グリセリン及びポリオキシエチレングリセリルモノステアレート等のモノグリセリン脂肪酸エステル系ノニオン性界面活性剤;モノイソステアリン酸ポリグリセリル等の脂肪酸エステル型ポリグリセリン系ノニオン性界面活性剤;並びにポリグリセリル・ポリオキシブチレンステアリルエーテル等のアルキルエーテル型ポリグリセリン系ノニオン性界面活性剤等からなる群から選択される少なくとも一種を含む。
【0041】
上記の化合物以外に、ノニオン性界面活性剤に適し、乳化重合反応を阻害しない化合物があれば、この化合物もノニオン性界面活性剤(a3)に含ませることができる。
【0042】
両性界面活性剤(a4)は、例えばヤシ油アルキル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン等のイミダゾリン型(アミドアミン型)、アミドアミノ酸塩、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、及びヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン等のカルボベタイン型(アルキルベタイン型、アルキルアミドベタイン型)等のカルボン酸型両性界面活性剤;ヤシ油脂肪酸ジメチルスルホプロピルベタイン等のスルホベタイン型(アルキルスルホベタイン型、アルキルヒドロキシスルホベタイン型)両性界面活性剤;ラウリルヒドロキシホスホベタイン等のホスホベタイン型両性界面活性剤;ラウリルジメチルアミンオキサイド等のアシル第3級アミンオキサイド;並びにラウリルジメチルホスフォンオキサイド等のアシル第3級ホスフォンオキサイド等からなる群から選択される少なくとも一種を含む。
【0043】
上記の化合物以外に、両性界面活性剤に適し、乳化重合反応を阻害しない化合物があれば、この化合物も両性界面活性剤(a4)に含ませることができる。
【0044】
半極性界面活性剤(a5)は、例えばラウリルトリメチルアミンオキシド、及びラウリン酸アミドプロピルアミンオキシド等からなる群から選択される少なくとも一種を含む。
【0045】
上記の化合物のうち以外に、半極性界面活性剤に適し、乳化重合反応を阻害しない化合物があれば、この化合物も半極性界面活性剤(a5)に含ませることができる。
【0046】
界面活性剤(A)のHLB値は7以上であることが好ましい。この場合、乳化重合の際に系中の乳化状態が良好になる。界面活性剤(A)のHLB値は9以上であることがより好ましい。また、界面活性剤(A)のHLB値は13以下であることが好ましい。この場合、組成物(X)の皮膜がヒートクリーニングによって特に除去されやすくなる。界面活性剤(A)のHLB値は11以下であることがより好ましい。
【0047】
水(B)は、組成物(X)に含有される必須成分であるとともに、重合反応生成物(C)を合成する際に使用される必須成分である。水(B)は、溶媒として組成物(X)に含有される。すなわち、水(B)は、重合反応生成物(C)の合成の際に、溶媒として使用される。水(B)は、常水であってもよく、精製水であってもよい。
【0048】
組成物(X)は、溶媒として水(B)以外の成分を更に含有してもよい。例えば、重合反応生成物(C)を合成する際に、水(B)と水(B)以外の溶媒との混合溶媒を用いてもよい。水(B)以外の溶媒として、例えば、親水性有機溶媒を用いてもよい。親水性有機溶媒とは、水と容易に混和する、又は水に容易に溶解する有機溶媒を意味する。親水性有機溶媒の例は、メタノール、エタノール、1-プロパノール、及び2-プロパノール等のアルコール系溶剤;エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、プロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ペンチレングリコール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、及びテトラエチレングリコール等のグリコール系溶剤;メチルグリコール、メチルジグリコール、イソプロピルジグリコール、ブチルグリコール、、イソブチルグリコール、ヘキシルグリコール、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、メチルプロピレングリコール、メチルプロピレンジグリコール、プロピルプロピレングリコール、及びプロピルプロピレンジグリコール等のグリコールエーテル系溶剤;N-メチル-2-ピロリドン、N-ヒドロキシエチル-2-ピロリドン、2-ピロリドン、及びε-カプロラクタム等のラクタム系溶剤;並びにホルムアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、及び3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド等のアミド系溶剤を含む。ただし、安全性及び環境への影響を低減する観点から、溶媒として水(B)のみを用いることが好ましい。
【0049】
組成物(X)は、重合反応生成物(C)を含有する。重合反応生成物(C)は、界面活性剤(A)、水(B)、及び重合開始剤(D)の存在下で、モノマー(c)を乳化重合させることで生成する生成物である。重合反応生成物(C)を重合させる際に用いられる界面活性剤(A)及び水(B)については、上記の通りである。
【0050】
重合開始剤(D)は、重合反応生成物(C)の合成の際に、モノマー(c)を乳化重合させるために重合開始剤として使用される必須成分である。
【0051】
本実施形態では、重合開始剤(D)は、アゾ系重合開始剤(D1)を含有する。このため、組成物(X)の皮膜を不活性ガス雰囲気下でのヒートクリーニングによって無機繊維から容易に除去することができ、しかもタールなどの残留物を生じさせにくい。
【0052】
重合開始剤(D)に対するアゾ系重合開始剤(D1)の百分比は、50質量%以上であることが好ましい。この場合、組成物(X)をヒートクリーニングにより特に除去しやすくなる。重合開始剤(D)に対するアゾ系重合開始剤(D1)の百分比の上限は特に限定されないが、例えば100質量%であってよい。
【0053】
アゾ系重合開始剤(D1)は、水溶性アゾ系重合開始剤を含有することが好ましい。水溶性アゾ系重合開始剤は、例えば2,2-アゾビス(2-アミジノプロパン)二塩酸塩、2,2-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩、2,2-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二硫酸塩・二水和物、2,2-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]四水和物、2,2-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、2,2-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、及び4,4-アゾビス(4-シアノ吉草酸)等からなる群から選択される少なくとも一種を含有する。アゾ系重合開始剤(D1)は、油溶性アゾ系重合開始剤を更に含有してもよい。油溶性アゾ系重合開始剤は、例えば2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、及び2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)等からなる群から選択される少なくとも一種を含有する。
【0054】
重合開始剤(D)は、アゾ系重合開始剤(D1)に加えて、アゾ系重合開始剤(D1)以外の重合開始剤を含んでもよい。アゾ系重合開始剤(D1)以外の重合開始剤は、例えば2,2’-(2,4-ジメチル-4-メトキシバレロニトリル)、4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシピバレート、ベンゾイルパーオキサイド、o-メチルベンゾイルパーオキサイド、ビス-3,5,5-トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、シクロヘキサノンパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、及びt-ブチルパーオキサイド等からなる群から選択される少なくとも一種を含む。
【0055】
アゾ系重合開始剤(D1)以外の重合開始剤は、硫黄原子を有さないことが好ましい。すなわち、重合開始剤(D)は、硫黄原子を有する化合物を含まないことが好ましい。この場合、繊維材のヒートクリーニング時にタールなどの残留物が更に生じにくくなる。
【0056】
上述のように、重合反応生成物(C)は、界面活性剤(A)、水(B)、及び重合開始剤(D)の存在下で、モノマー(c)を乳化重合させることで生成する生成物である。すなわち、モノマー(c)は、重合反応生成物(C)の主成分である。モノマー(c)は、エチレン性二重結合を有する。
【0057】
モノマー(c)は、(メタ)アクリル系モノマー(c1)を含む。モノマー(c)が(メタ)アクリル系モノマー(c1)を含むことで、組成物(X)の皮膜がヒートクリーニングにより特に容易に除去される。これは、モノマー(c)が(メタ)アクリル系モノマー(c1)を含むことで、重合反応生成物(C)が比較的低温で解重合を起こしやすくなるためであると考えられる。モノマー(c)に対する(メタ)アクリル系モノマー(c1)の量は、45質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることが特に好ましい。モノマー(c)に対する(メタ)アクリル系モノマー(c1)の量の上限は特に限定されず、例えば100質量%であってよい。
【0058】
(メタ)アクリル系モノマー(c1)は、例えば(メタ)アクリル酸、クロトン酸等の不飽和モノカルボン酸、イタコン酸等の不飽和ジカルボン酸、(メタ)アクリル酸2-(ホスホノオキシ)エチル等のリン酸基含有不飽和単量体、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルコハク酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフタル酸、(メタ)アクリル酸2-カルボキシエチル、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルテトラヒドロフタル酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸、ω-カルボキシ-ポリカプロラクトン(n=2)モノアクリレート、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸等のアニオン性不飽和単量体;(メタ)アクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(ジエチルアミノ)エチル、(メタ)アクリル酸3-(ジメチルアミノ)プロピル等のアミノ基含有不飽和単量体;(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシエチルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルアミノエチルトリメチルアンモニウムクロライド等のカチオン性不飽和単量体;N-メタクリロイルエチル-N,N-ジメチルアンモニウム-α-N-メチルカルボキシベタイン、4-{[3-(メタクリルアミド)プロピル](ジメチル)アンモニオ}ブタン-1-スルホナート等の両性不飽和単量体;アクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N-t-ブチルアクリルアミド、N-オクチルアクリルアミド、及びN-t-オクチルアクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド化合物;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸ミリスチル、(メタ)アクリル酸ペンタデシル、(メタ)アクリル酸パルミチル、(メタ)アクリル酸ヘプタデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸イソステアリル、(メタ)アクリル酸オレイル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、及び(メタ)アクリル酸グリシジル等の(メタ)アクリル酸のエステル類;(メタ)アクリル酸グリセリル;(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシエチル及び(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシプロピル等の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル;(メタ)アクリル酸エトキシエチル及び(メタ)アクリル酸メトキシエチル等の(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル;ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート及びポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコールと(メタ)アクリル酸とのモノエステル類;メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコールと(メタ)アクリル酸とのモノエステル類の水酸基末端がアルキルエーテル化されたもの;ポリエチレングリコール(m=5)-ポリプロピレングリコール(n=2)モノメタクリレート;ブレンマー70PEP-350B(日油株式会社製)、プロピレングリコールポリブチレングリコール(n=6)モノメタクリレート;ブレンマー10PPB-500B(日油株式会社製)、オクトキシポリエチレングリコール(m=8)ポリプロピレングリコール(n=6)モノメタクリレート;ブレンマー50POEP-800B(日油株式会社製)、オクトキシポリエチレングリコール(m=8)ポリプロピレングリコール(n=6)モノアクリレート;ブレンマー50AOEP-800B(日油株式会社製)等のオキシエチレン(エチレンオキサイドともいう)、オキシプロピレン(プロピレンオキサイドともいう)及びオキシブチレン(ブチレンオキサイドともいう)の構成単位からなるブロックコポリマーが側鎖に結合した構造を有しているもの;ポリ(エチレングリコール(m=3.5)-プロピレングリコール(n=2.5))モノメタクリレート;ブレンマー50PEP-300(日油株式会社製)、ポリ(エチレングリコール(m=5)-テトラメチレングリコール(n=2))モノメタクリレート;ブレンマー55PET-400(日油株式会社製)、ポリ(エチレングリコール(m=6)-テトラメチレングリコール(n=10))モノメタクリレート;ブレンマー30PET-800(日油株式会社製)、ポリ(エチレングリコール(m=10)-テトラメチレングリコール(n=5))モノメタクリレート;ブレンマー55PET-800(日油株式会社製)、ポリ(プロピレングリコール(m=4)-テトラメチレングリコール(n=8))モノメタクリレート;ブレンマー30PPT-800(日油株式会社製)、ポリ(プロピレングリコール(m=7)-テトラメチレングリコール(n=6))モノメタクリレート;ブレンマー50PPT-800(日油株式会社製)、ポリ(プロピレングリコール(m=10)-テトラメチレングリコール(n=3))モノメタクリレート;並びにブレンマー70PPT-800(日油株式会社製)等のオキシエチレン(エチレンオキサイドともいう)、オキシプロピレン(プロピレンオキサイドともいう)及びオキシブチレン(ブチレンオキサイドともいう)の構成単位からなるランダムコポリマーが側鎖に結合した構造を有しているもの等の単官能不飽和単量体等からなる群から選択される少なくとも一種を含有することができる。
【0059】
(メタ)アクリル系モノマー(c1)は、上記の中でも特に、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸ミリスチル、(メタ)アクリル酸ペンタデシル、(メタ)アクリル酸パルミチル、(メタ)アクリル酸ヘプタデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸イソステアリル、(メタ)アクリル酸オレイル、等の(メタ)アクリル酸アルキル、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシー2-メチルプロピル(メタ)アクリレート、及びポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート(n≒4~13)からなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含有することが好ましい。(メタ)アクリル系モノマー(c1)に対する上記のアクリル系モノマーの量は、60質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましい。(メタ)アクリル系モノマー(c1)に対する上記(メタ)アクリル系モノマーの量の上限は特に限定されず、例えば100質量%であってよい。この場合、組成物(X)の皮膜をヒートクリーニングによって特に容易に除去できる。
【0060】
さらに、(メタ)アクリル系モノマー(c1)は、メタクリル酸2-エチルヘキシルを含有することが好ましい。この場合、組成物(X)の皮膜はヒートクリーニングにより特に除去されやすくなる。さらに、重合反応生成物(C)を乳化重合にて合成する際に、(メタ)アクリル系モノマー(c1)はモノマー(c)の滴下時に系中にて存在する未反応のモノマー(c)の液滴同士の凝集を起こりにくくさせる特性があるため、重合反応生成物(C)を良好に合成することができる。また、組成物(X)の皮膜のフレキシブル性を向上させることができるため、組成物(X)をサイズ剤として無機繊維に付着させた際の無機繊維の屈曲に対する靭性が向上し、無機繊維の加工時に無機繊維が特に折れにくくなる。
【0061】
(メタ)アクリル系モノマー(c1)がメタクリル酸2-エチルヘキシルを含む場合、(メタ)アクリル系モノマー(c1)に対するメタクリル酸2-エチルヘキシルの百分比は、40質量%以上であることが好ましい。メタクリル酸2-エチルヘキシルの百分比が40質量%以上であることで、重合反応生成物(C)を合成する際に、モノマー(c)の乳化状態が向上し、重合反応生成物(C)を良好に合成することができる。また、組成物(X)の皮膜のフレキシブル性をより向上させることができる。(メタ)アクリル系モノマー(c1)に対するメタクリル酸2-エチルヘキシルの百分比は、45質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることが特に好ましい。(メタ)アクリル系モノマー(c1)に対するメタクリル酸2-エチルヘキシルの百分比の上限は特に限定されないが、例えば100質量%以下であってよい。
【0062】
モノマー(c)は、(メタ)アクリル系モノマー(c1)以外のエチレン性二重結合を有するモノマーを含んでよい。(メタ)アクリル系モノマー(c1)以外のエチレン性二重結合を有するモノマーの例は、ビニル系モノマーを含む。ビニル系モノマーの例はスチレン;(メタ)アクリロニトリル;酢酸ビニル:ビニルピロリドン;ビニルピリジン;ビニルスルホン酸;及びスチレンスルホン酸を含む。モノマー(c)に対する(メタ)アクリル系モノマー(c1)以外のモノマーの量は、10質量%未満であることが好ましい。
【0063】
重合反応生成物(C)は、具体的には、以下のようにして合成することができる。まず、界面活性剤(A)と、水(B)と、重合開始剤(D)と、モノマー(c)とを混合して混合物を調製する。混合物中のモノマー(c)を乳化重合させることで、重合反応生成物(C)を合成できる。乳化重合の前に、混合物中の溶存酸素を低減することが好ましい。そのためには、混合物に、例えば窒素ガスなどの不活性ガスでバブリングさせることが好ましい。モノマー(c)を配合する前の混合物にバブリングしてから、モノマー(c)を配合して混合物を調製してもよい。
【0064】
混合物中の(メタ)アクリル系モノマー(c1)に対する界面活性剤(A)の百分比は、10質量%以上140質量%以下であることが好ましい。界面活性剤(A)の百分比がこの範囲内であることで、組成物(X)をサイズ剤として繊維に塗布した場合に、繊維はより優れた集束性を有しうる。界面活性剤(A)の百分比は、(メタ)アクリル系モノマー(c1)に対して、50質量%以上100質量%以下であることがより好ましい。この場合、組成物(X)は、均一で連続性の高い皮膜を形成しうる。そのため、組成物(X)を繊維に塗布した際に、繊維は特に優れた集束性を有するため、繊維ストランドのフィラメント断裂を抑制し、耐毛羽性を向上することができる。
【0065】
混合物中の水(B)の含有量は、特に限定されず、組成物(X)の安定性、及び組成物(X)から形成される皮膜の均一性などを考慮して適宜設定される。例えば混合物中の(メタ)アクリル系モノマー(c1)に対する水(B)の百分比は、100質量%以上2000質量%以下であることが好ましい。この場合、混合物中の分散性が均一に保たれやすくなるとともに、組成物(X)中での重合反応生成物(C)の分散性を向上することができる。混合物中の水(B)の百分比は、(メタ)アクリル系モノマー(c)に対して、100質量%以上1000質量%以下であることがより好ましい。なお、組成物(X)は、混合物中に含まれる水(B)、すなわち重合反応生成物(C)を生成する際に用いられた水(B)以外の溶媒を必要に応じて更に含有してもよい。
【0066】
混合物中の(メタ)アクリル系モノマー(c1)に対する重合開始剤(D)の百分比は、0.01質量%以上5質量%以下であることが好ましい。重合開始剤(D)の百分比がこの範囲内であることで、組成物(X)はより優れた焼却性を有しうるため、組成物(X)の除去をより容易にすることができる。重合開始剤(D)の百分比は、(メタ)アクリル系モノマー(c1)に対して、0.05質量%以上0.5質量%以下であることがより好ましい。
【0067】
なお、混合物には、乳化重合反応を阻害しない限り、添加剤等を含有させてもよい。添加剤の例は、連鎖移動剤、pH調整剤、分散安定剤、平滑剤、可塑剤、及び消泡剤を含む。
【0068】
連鎖移動剤は、例えばn-ドデシルメルカプタン、オクチルメルカプタン、ラウリルメルカプタンチオグリコール酸、チオグリコール酸2-エチルヘキシル、グリシジルメルカプタン、チオグリセロール、メルカプト酢酸、2-メルカプトエタノール、及び2,3-ジメルカプト-1-プロパノール等のメルカプタン類;アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、n-ブチルアルデヒド、及びベンズアルデヒド等のアルデヒド類;メタノール、エタノール、プロパノール、及びブタノール等のアルコール類からなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有することができる。上記の化合物以外に、連鎖移動剤に適し、再重合可能なドーマント種が得られる化合物であれば、この化合物も連鎖移動剤に含ませることができる。
【0069】
pH調整剤は、例えば炭酸水素アンモニウム、リン酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、及びギ酸アンモニウム等からなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有することができる。上記の化合物以外に、pH調整剤に適し、乳化重合反応を阻害しない化合物があれば、この化合物も連鎖移動剤に含ませることができる。
【0070】
乳化重合は混合物を加熱することで進行させることができる。例えば、水(B)と重合開始剤(D)とを混合した後に、界面活性剤(A)とモノマー(c)とを滴下し、加熱して乳化重合を進行させてもよい。加熱温度は、例えば45~95℃の範囲内、加熱時間は例えば3~24時間の範囲内である。反応時の条件は、本実施形態に係る重合反応生成物(C)の作用を阻害しない範囲で適宜設定される。これにより、重合反応生成物(C)、界面活性剤(A)、及び水(B)を含有する組成物(X)を得ることができる。
【0071】
組成物(X)は、界面活性剤(A)、水(B)及び重合反応生成物(C)以外の成分を更に含有していてもよい。
【0072】
例えば、組成物(X)は、不飽和高級アルコールと不飽和高級脂肪酸とのうち少なくとも一方からなる不飽和高級炭化水素系化合物(E)を含有することができる。不飽和高級炭化水素系化合物(E)は、組成物(X)の皮膜の可塑性を高めることができるため、繊維材の柔軟性を高めることができる。また不飽和高級炭化水素系化合物(E)は、組成物(X)の皮膜から適度にブリードアウトしやすいため、皮膜の表面の動摩擦係数が低減することで、繊維材の耐擦過性を高め、繊維材の折れ及び毛羽立ちなどの破損を生じにくくできる。さらに、繊維材をヒートクリーニングする場合に、不飽和高級炭化水素系化合物(E)はタール等の残留物を生じさせにくい。
【0073】
不飽和高級炭化水素系化合物(E)は液状であることが好ましい。不飽和高級炭化水素系化合物(E)の炭素数は6以上20以下であることが好ましく、16以上18以下であることがより好ましい。この場合、繊維材の柔軟性と集束性とがバランス良く高められやすい。
【0074】
不飽和高級炭化水素系化合物(E)は、不飽和高級炭化水素鎖に結合した官能基を有してもよい。官能基は、例えば水酸基、カルボキシル基、エステル基、及びアミド基よりなる群から選択される少なくとも一種である。
【0075】
特に、不飽和高級炭化水素系化合物(E)が、不飽和高級アルコールを含有することが好ましい。不飽和高級炭化水素系化合物(E)が不飽和高級アルコールを含有する場合、上記の不飽和高級炭化水素系化合物(E)による作用が特に得られやすい。これは、重合反応生成物(C)と不飽和高級アルコールとの相溶性が良好であるためであると推察される。
【0076】
高級不飽和アルコールは、例えば2-ヘキセン-1-オール、2-ヘプテン-1-オール、2-オクテン-1-オール、2-ドデセン-1-オール、2-テトラデセン-1-オール、2-ペンタデセン-1-オール、2-オクタデセン-1-オール等のα、β-不飽和第一級アルコール;5-ヘキセン-1-オール、8-ノネン-1-オール、15-ヘキサデセン-1-オール等の末端不飽和アルコール;オレイルアルコール、リノレイルアルコール、エレオステアリルアルコール、リシノイルアルコール等の長鎖不飽和アルコール等からなる群から選択される少なくとも一種を含有することが好ましい。
【0077】
組成物(X)全体に対する不飽和高級炭化水素系化合物(E)の百分比は、0.01質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。この百分比が0.01質量%以上であると、組成物(X)の皮膜の可塑性を高めることができるという利点がある。またこの百分比が10.0質量%以下であると組成物(X)から分離しないという利点がある。不飽和高級炭化水素系化合物(E)の百分比は0.5質量%以上であればより好ましく、1.0質量%以上であれば更に好ましい。また不飽和高級炭化水素系化合物(E)の百分比は、5.0質量%以下であればより好ましく、2.0質量%以下であれば更に好ましい。
【0078】
組成物(X)は、下記式(2)で表される化合物(F)を更に含有してもよい。
RO-(AO)m-H …(2)
式(2)においてRは水素原子、又は炭素数1から3のアルキル基である。AOはオキシアルキレン基である。mは1分子当たりのAO単位数の数平均であって3以上の値である。
【0079】
化合物(F)の1分子中の複数のオキシアルキレン基AOの構造は、互いに同一であっても異なっていてもよい。オキシアルキレン基AOにおけるアルキレン基Aは、例えばエチレン基、プロピレン基及びブチレン基からなる群から選択される少なくとも一種の基である。mは100000以下であることが好ましく、50000以下であることが更に好ましい。
【0080】
化合物(F)は界面活性剤として作用しうる。化合物(F)の少なくとも一部を、モノマー(c)を乳化重合させる際に、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル型界面活性剤(A)と一緒に使用されてもよい。また、モノマー(c)を乳化重合させることで重合反応生成物(C)を生成した後に、化合物(F)の少なくとも一部が重合反応生成物(C)と混合されてもよい。すなわち、化合物(F)は、モノマー(c)を重合させて重合反応生成物(C)を合成する際に使用される成分と、重合反応生成物(C)を合成してから、重合反応生成物(C)と混合される成分とのうち、少なくとも一方を含む。
【0081】
組成物(X)が化合物(F)を含有すると、組成物(X)を無機繊維の表面に均一に塗布しやすくなる。すなわち、組成物(X)を無機繊維の表面に塗布する際、ローラー等の金属表面、シリコンカーバイドなどの無機繊維の表面などにおける、組成物(X)の塗膜のレベリング性が高くなり、無機繊維の表面上で皮膜を連続的に形成しやすくなる。このため、無機繊維の表面の安定的な保護が可能となる。これは、化合物(F)が重合反応生成物(C)を組成物(X)中で、より安定的に乳化分散させやすくするためであると、推察される。
【0082】
また、特に組成物(X)が不飽和高級炭化水素系化合物(E)と化合物(F)とを含有すると、組成物(X)と無機繊維との濡れ性が特に高くなりやすい。そのため、例えば無機繊維のストランドにおいては、ストランドに組成物(X)が十分に含浸しやすくなり、ストランドを構成するフィラメント間の密着性が向上、並びにストランドと製織機のガイドやローラー等の他の部材との間の摩擦抵抗が抑制される。これにより、繊維材の損傷、毛羽立ちなどが特に生じにくくなる。これは、組成物(X)中で化合物(F)が不飽和高級炭化水素系化合物(E)を特に乳化分散させやすくできるためであると、推察される。
【0083】
化合物(F)は、例えばアルキル基の炭素数1~3のポリオキシアルキレンモノアルキルエーテルとポリオキシアルキレングリコールとのうち、少なくとも一方を含む。
【0084】
化合物(F)は、ポリオキシアルキレングリコールを含有することが好ましい。この場合、組成物(X)を無機繊維の表面に特に均一に塗布しやすくなる。また、組成物(X)が不飽和高級炭化水素系化合物(E)を含有する場合、組成物(X)が化合物(F)を更に含有すれば、組成物(X)と無機繊維との濡れ性が特に高くなりやすい。これは、ポリオキシアルキレングリコールが、不飽和高級炭化水素系化合物(E)を特に乳化分散させやすいためであると推察される。
【0085】
組成物(X)の固形分に対する化合物(F)の百分比は1質量%以上50質量%以下であることが好ましい。この百分比が1質量%以上50質量%以下であると組成物(X)の乳化状態が安定化するという利点がある。化合物(F)の百分比は3質量%以上であればより好ましく、5質量%以上であれば更に好ましい。また化合物(F)の百分比は、40質量%以下であればより好ましく、30質量%以下であれば更に好ましい。
【0086】
化合物(F)は、高分子量の成分と低分子量の成分とを含有することが好ましい。特に化合物(F)は、25℃で固体の成分と25℃で液状の成分とを含有することが好ましい。この場合、組成物(X)と無機繊維との濡れ性が特に高くなりやすい。化合物(F)全体に対して、25℃で固体の成分と25℃で液状の成分との質量比は、10:1から1:2までであることが好ましい。この場合、組成物(X)と無機繊維との濡れ性が更に高くなりやすい。この質量比は、10:1から1:1までであればより好ましく、5:1から1:1までであれば更に好ましい。
【0087】
組成物(X)には、溶媒や添加剤等を更に配合してもよい。添加剤の例は、上記に挙げたpH調整剤、分散安定剤、平滑剤、可塑剤、消泡剤に加え、湿潤剤、チキソ付与剤、レベリング剤、防黴剤、防腐剤、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、帯電防止剤、その他各種添加剤を含む。
【0088】
上記のようにして合成された組成物(X)中では、重合反応生成物(C)は粒子状であり、組成物(X)中に重合反応生成物(C)が分散している。
【0089】
重合反応生成物(C)の平均粒径は、100nm以上300nm以下であることが好ましい。この場合、組成物(X)の安定性がより向上するとともに、組成物(X)中での重合反応生成物(C)の分散性を高めることができる。重合反応生成物(C)の平均粒径は、100nm以上250nm以下であることがより好ましく、100nm以上200nm以下であることが特に好ましい。
【0090】
重合反応生成物(C)のガラス転移温度は、-40℃以上50℃以下であることが好ましい。この場合、組成物(X)をサイズ剤として無機繊維に塗布した際に、無機繊維同士がブロッキングしにくくなり、無機繊維の集束性をより向上させることができる。また、組成物(X)から形成される皮膜のフレキシブル性を向上させることができるため、組成物(X)をサイズ剤として無機繊維に付着させた際の無機繊維の屈曲に対する靭性が向上し、無機繊維の加工時に無機繊維が折れにくくなる。重合反応生成物(C)のガラス転移温度は、-20℃以上25℃以下の範囲内であることが好ましい。
【0091】
なお、ガラス転移温度(Tg)は、モノマー(c)の組成割合から理論的に計算される値であり、下記のFoxの式で算出した値である。
1/Tg=W1/Tg1+W2/Tg2+・・・+Wn/Tgn
上記Foxの式において、nは1以上の整数であり、モノマー(c)として用いるモノマーの種類を示す。すなわち、n種類のモノマーの重合によって組成物(X)中の重合反応生成物(C)を得た場合の計算式である。W1,W2,・・・Wnは、n種類のモノマーの各質量分率を示し、Tg1,Tg2,・・・Tgnは、n種類のモノマーの各ガラス転移温度を示す。上記Foxの式におけるガラス転移温度の計算値は絶対温度「K」であり、計算値をセルシウス温度「℃」に変換した値を重合反応生成物(C)のガラス転移温度とする。
【0092】
繊維材は、上述のとおり、無機繊維と、無機繊維に付着している皮膜とを備え、皮膜は、組成物(X)から形成される。
【0093】
繊維材は、例えば無機繊維のフィラメントの表面に組成物(X)の皮膜を付着させてから集束させることで得られたストランド、又は無機繊維のストランドの表面に組成物(X)の皮膜を付着させてから織製することで得られた織物である。ストランドを作製する際に使用される組成物(X)を一次サイズ剤ともいう。また、織物を作製する際に使用される組成物(X)を二次サイズ剤ともいう。なお、繊維材の形態は前記のみには限られない。
【0094】
皮膜を形成するためには、例えば無機繊維の表面に組成物(X)を塗布して塗膜を形成する。この塗膜を、熱風を吹き付けるなどして加熱することで乾燥させることで、皮膜を形成できる。
【0095】
本実施形態では、既に説明したとおり、組成物(X)の皮膜と無機繊維とを備える繊維材に、良好な集束性と柔軟性とが付与されるとともに、不活性雰囲気下でのヒートクリーニングによって皮膜を無機繊維から容易に除去可能である。
【0096】
ヒートクリーニングの条件は特に限定されない。ヒートクリーニングが不活性ガス雰囲気下で行われる場合、不活性ガス雰囲気下とは、例えば窒素雰囲気下、アルゴン雰囲気下等の不活性ガス雰囲気下のことである。また、ヒートクリーニングにおける加熱温度は例えば270℃以上1000℃以下である。加熱温度は350℃以上であればより好ましく、500℃以上であれば更に好ましい。また加熱温度は800℃以下であることがより好ましく、600℃以下であれば更に好ましい。
【0097】
無機繊維の種類は特に限定されない。無機繊維は、例えばガラス、炭素、シリコンカーバイド、鉱物、バサルト、アルミナ、及び金属等からなる群から選択される少なくとも一種を含有する。
【0098】
無機繊維は、シリコンカーバイドを含有することが好ましい。シリコンカーバイドは、優れた耐熱性があり軽量で高強度であるとの特性を有することから、これらの特性を繊維材に付与できる。この場合、無機繊維は、シリコンカーバイドのみを含有してもよく、シリコンカーバイドとシリコンカーバイド以外の成分とを含有してもよい。
【0099】
無機繊維がシリコンカーバイドを含有する場合において、無機繊維が複数のフィラメントを有する場合には、例えば複数のフィラメントは、シリコンカーバイドを含むフィラメントとシリコンカーバイド以外の材料を含むフィラメントとを含んでもよく、無機繊維がシリコンカーバイドを含むフィラメントのみを含んでもよい。また、無機繊維の有する一つのフィラメントが、シリコンカーバイドとシリコンカーバイド以外の材料とを含んでもよく、シリコンカーバイドのみを含んでもよい。
【0100】
無機繊維がシリコンカーバイドを含有する場合、無機繊維に対する無機繊維中のシリコンカーバイドの百分比が70質量%以上であり、又は無機繊維に対する無機繊維中のケイ素原子と炭素原子との和が70質量%以上であれば、より好ましい。この場合、繊維材に、優れた耐熱性があり軽量で高強度であるとの特性が、特に付与されやすい。
【0101】
また、無機繊維がシリコンカーバイドを含有すると、無機繊維が硬く脆くなりやすいことから、無機繊維に折れ、毛羽立ちなどの破損が生じやすいが、そのような場合でも、本実施形態では、組成物(X)から形成される皮膜が、繊維材の集束性及び柔軟性を効果的に高めることができる。さらに、シリコンカーバイドは大気雰囲気下で加熱されると劣化しやすいが、本実施形態では、皮膜を除去するためのヒートクリーニングを不活性雰囲気下で行っても、皮膜が熱分解によって除去されやすく、かつタールなどの残留物が生じにくいので、シリコンカーバイドを含有する無機繊維を劣化させにくい。
【0102】
なお、本実施形態においては、無機繊維がシリコンカーバイドを含有すれば上記の効果が得られるが、無機繊維は必ずしもシリコンカーバイドを含んでいなくてもよい。また、本実施形態においては不活性雰囲気下でヒートクリーニングを行えば上記の効果が得られるが、必ずしも繊維材のヒートクリーニングを不活性雰囲気下で行わなくてもよく、また繊維材をヒートクリーニングしなくてもよい。
【実施例】
【0103】
以下、本発明の具体的な実施例を示す。但し、この実施例に本発明は制限されず、種々の形態に設計変更が可能である。
【0104】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0105】
1.組成物の調製
[実施例1~22、比較例1~3]
還流冷却管、温度計、空気吹き込み管及び攪拌機を取り付けた四つ口フラスコ内に、75℃に加熱した表中の(A)欄、(B)欄に示す水130質量部を加えた。次いで、フラスコ内に、表中の(D)欄に示す成分を加えた後、表中の「組成」欄の(A)欄、(B)欄、(D)欄、(E)欄及び(F)欄以外の欄に示す成分をフラスコ内に滴下した。滴下終了後、6時間攪拌し、重合反応させた。これにより、重合反応生成物を含有する混合液を得た。この混合液に、(E)欄及び(F)欄に示す成分を加えることで、組成物を調製した。
【0106】
[比較例4]
還流冷却管、温度計、空気吹き込み管及び攪拌機を取り付けた四つ口フラスコ内に、ポリビニルアルコール(株式会社クラレ製、重合度1700、ケン化度88%)と水とを入れ、混合液を調製した。得られた混合液を90℃で、4時間加熱攪拌することで、組成物を調製した。
【0107】
[比較例5~7]
還流冷却管、温度計、空気吹き込み管及び攪拌機を取り付けた四つ口フラスコ内に、75℃に加熱した表中の(B)欄に示す水130質量部を加えた。次いで、フラスコ内に、表中の(D)欄に示す成分を加えた後、表中の「組成」欄の(A)欄、(B)欄、(D)欄、(E)欄及び(F)欄以外の欄に示す成分をフラスコ内に滴下した。滴下終了後、6時間攪拌し、重合反応させた。これにより、重合反応生成物を含有する混合液を得た。この混合液に、(A)欄、(E)欄及び(F)欄に示す成分を加えることで、組成物を調製した。
【0108】
なお、表に示す成分の詳細は以下の通りである。
【0109】
(1)界面活性剤
-XL-160:ポリオキシアルキレン分岐デシルエーテル、第一工業製薬株式会社製、品名ノイゲンXL-160、HLB値16.3。
-XL-400:ポリオキシアルキレンデシルエーテル、第一工業製薬株式会社製、品名ノイゲンXL-400、HLB値18.4。
-XL-40:ポリオキシアルキレンデシルエーテル、第一工業製薬株式会社製、品名ノイゲンXL-40、HLB値10.5。
-TDS-80:ポリオキシエチレントリデシルエーテル、第一工業製薬株式会社製、品名ノイゲンTDS-80、HLB値13.3。
-HT-510:ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、日油株式会社製、品名ノニオンHT-510、HLB値10。
-HT-505:ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、日油株式会社製、品名ノニオンHT-505、HLB値5。
-PBC-31:ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンセチルエーテル(1EO,4PO)、日光ケミカルズ株式会社製、品名NIKKOL PBC-31、HLB値9.5。
-PBC-33:ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンセチルエーテル(10EO,4PO)、日光ケミカルズ株式会社製、品名NIKKOL PBC-33、HLB値10.5。
-PBC-34:ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンセチルエーテル(20EO,4PO)、日光ケミカルズ株式会社製、品名NIKKOL PBC-34、HLB値16.5。
-PBC-44:ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンセチルエーテル(20EO,8PO)、日光ケミカルズ株式会社製、品名NIKKOL PBC-44、HLB値12.5。
-Y-100:ドデシル硫酸ナトリウム、第一工業製薬株式会社製、品名モノゲンY-100。
【0110】
(2)モノマー
-2-EHMA:メタクリル酸2-エチルヘキシル。
-iBMA:メタクリル酸イソブチル。
-MMA:メタクリル酸メチル。
-PP-500:ポリプロピレングリコールモノメタクリル酸エステル、日油株式会社製、品番ブレンマーPP-500。
-ST:スチレン。
【0111】
(3)重合開始剤
-V-50:2,2’-アゾビス[2-アミジンプロパン]二塩酸塩、富士フィルム和光純薬株式会社製。
-V-601:2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオン酸)ジメチル、富士フィルム和光純薬株式会社製。
-VA-086:2,2’-アゾビス[N-(2-ヒドロキシエチル)-2-メチルプロパンアミド]、富士フィルム和光純薬株式会社製。
-VA-057:2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]、富士フィルム和光純薬株式会社製。
-KPS:過硫酸カリウム。
【0112】
(4)ノニオン性界面活性剤
-PEG4000:富士フイルム和光純薬株式会社製、固体粒状のポリエチレングリコール、品名ポリエチレングリコール4000。
-ハイモールPM:東邦化学工業株式会社製、液状のポリエチレングリコールモノメチルエーテル、品名ハイモールPM。
【0113】
2.繊維材の作製
組成物に水を加えて、固形分(溶剤以外の成分)の濃度が30質量%の組成物溶液を調製した。組成物溶液を、シリコンカーバイド繊維(NGSアドバンストファイバー製、品番:HI-NICALON TypeS)の表面に、シリコンカーバイド繊維の質量に対する固形分の付着率が5.0質量%となるように塗布した。続いて、シリコンカーバイド繊維を、株式会社梶製作所製のミニサイザーを用いて、ローラータッチにて40m/分の糸速度で加工した。その後、チャンバー長4mのチャンバーを用いて、シリコンカーバイド繊維を120℃で熱風乾燥させた。これによりシリコンカーバイド繊維の表面に組成物の皮膜を付着させた繊維材を作製した。
【0114】
4.評価試験
(1)ガラス転移温度
組成物中の重合反応生成物のガラス転移温度(Tg)を、上述のFoxの式を用いて計算した。その値を後掲の表に示す。
【0115】
(2)粒径
組成物中の重合反応生成物の粒径を、レーザー解析・散乱式粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製、マイクロトラックMT3000II)を用いて測定した粒度分布の測定値から体積基準のメディアン径として算出した。その結果を後掲の表に示す。
【0116】
(3)フィルム外観
ポリエチレンテレフタレート製フィルム(東レ株式会社製、品名ルミラーT60、厚み100μm)上に、組成物(比較例4の場合はポリビニルアルコール)を膜厚200μmになるように塗布し、フィルムを形成した。このフィルムの外観を目視によって観察し、以下のように評価した。その結果を後掲の表に示す。
A:均一に連続したフィルムが形成される。
B:一部が不均一であるが、連続したフィルムが形成される。
C:連続していないフィルムが形成される。
【0117】
(4)ヒートクリーニング性
組成物を、TG-DTA(熱重量-示差熱)測定装置(株式会社リガク社製、Thermoplus EVO2 TG-DTA)を用いて、窒素雰囲気下で、500℃で0.5時間加熱した。加熱による質量の減少率を焼却率として評価した。その結果を、下記のとおり評価した。
A:焼却率が99.5%以上である。
B:焼却率が98.5%以上99.5%未満である。
C:焼却率が98.5%未満である。
【0118】
(5)残留物
組成物を、アルミニウム製のパンの上で、TG-DTA(熱重量-示差熱)測定装置(株式会社リガク社製、ThermoplusEVO2 TG-DTA)を用いて、窒素雰囲気下において10℃/分の速度で30℃から500℃まで昇温し、続けて500℃で1時間加熱した。続いて、アルミニウム製のパン上のタール分を目視により、下記のとおり評価した。その結果を後掲の表に示す。
A:残留物が確認されない。
B:残留物がわずかに確認される。
C:残留物が多く確認される。
【0119】
(6)フレキシブル性
繊維材を直径3cmのボビンに巻き取ってから、繊維材を目視で観察し、その結果、フレキシブル性を以下のように評価した。その結果を後掲の表に示す。
A:繊維をむらなく均一に巻き取ることができる。
B:繊維は、一部のみがボビンに追従しない。
C:繊維は、部分的にボビンに追従せず、繊維がやや折れ曲がる。
【0120】
(7)集束性
繊維材に10Nの張力をかけた状態で、繊維材をはさみで切断した。切断時の温度は20℃、相対湿度は70%であった。切断後の繊維材を観察し、解繊が生じている部分の切断面からの寸法(解繊距離)を測定した。その結果から、集束性を以下のように評価した。その結果を後掲の表に示す。
A:解繊距離が1.0cm未満である。
B:解繊距離が1.0cm以上1.5cm未満である。
C:解繊距離が1.5cm以上である。
【0121】
(8)耐毛羽性
繊維材中のフィラメント10本に15Nの張力をかけた状態で、糸摩擦抱合力試験機(インテック株式会社製、TM式抱合力試験機)を用いて、ストローク長5cmで繊維材を1000回しごいた。試験時の温度は20℃、相対湿度は70%であった。試験後の繊維材を目視で観察し、耐毛羽性を以下のように評価した。その結果を後掲の表に示す。
A:毛羽が確認されない。
B:毛羽が数本確認される。
C:全体的に毛羽が確認される。
【0122】
【0123】
【0124】