(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】モータ制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 5/46 20060101AFI20240409BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20240409BHJP
H02P 29/024 20160101ALI20240409BHJP
【FI】
H02P5/46 J
H02M7/48 M
H02P29/024
(21)【出願番号】P 2020179533
(22)【出願日】2020-10-27
【審査請求日】2023-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110003214
【氏名又は名称】弁理士法人服部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柴田 悠祐
【審査官】保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-055760(JP,A)
【文献】特開2003-083373(JP,A)
【文献】国際公開第2016/063367(WO,A1)
【文献】実開平05-020976(JP,U)
【文献】特開2012-170276(JP,A)
【文献】特開2007-295661(JP,A)
【文献】特開2005-140165(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T13/00-13/74
H02M7/42-7/98
H02P4/00-5/753
7/00
7/03-7/347
25/08-25/098
29/00-31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の制動装置(90)において、通電方向に応じて制動方向もしくは非制動方向にトルクを出力する第1モータ(71)及び第2モータ(72)を駆動するモータ制御装置であって、
直流電源(Bt)の正極端子(Tp)と負極端子(Tn)との間に並列に接続された第1レッグ(51)、第2レッグ(52)及び第3レッグ(53)の三つのレッグを有し、各前記レッグは、前記正極端子に接続された正側スイッチ素子(S1H、S2H、S3H)と前記負極端子に接続された負側スイッチ素子(S1L、S2L、S3L)とが素子間接続点(N1、N2、N3)を介して直列接続されており、前記直流電源の電力を変換して前記第1モータ及び前記第2モータに供給可能な電力変換器(45)と、
各前記レッグの前記正側スイッチ素子及び前記負側スイッチ素子を操作し、前記第1モータ及び前記第2モータへの通電を制御する制御部(40)と、
を備え、
前記第1レッグの前記素子間接続点は、前記第1モータの一方の端子に接続され、
前記第3レッグの前記素子間接続点は、前記第2モータの一方の端子に接続され、
前記第2レッグの前記素子間接続点は、前記第1モータの他方の端子、及び、前記第2モータの他方の端子に接続され、
前記制御部が前記第1レッグの前記正側スイッチ素子から前記第2レッグの前記負側スイッチ素子に通電し、且つ、前記第3レッグの前記正側スイッチ素子から前記第2レッグの前記負側スイッチ素子に通電したとき、前記第1モータ及び前記第2モータは制動方向もしくは非制動方向のいずれか同じ方向にトルクを出力するように構成されており、
前記三つのレッグの前記正側スイッチ素子の前記正極端子側における接続点を正側接続点(N0u)とし、前記三つのレッグの前記負側スイッチ素子の前記負極端子側における接続点を負側接続点(N0d)とすると、
前記三つのレッグと前記第1モータ及び前記第2モー
タとを含む電流経路、又は、前記正極端子と前記正側接続点との間もしくは前記負極端子と前記負側接続点との間、のうち少なくともいずれか一箇所に電流検出器(R1u、R1d、R3u、R3d、R2u、R2d、R0u、R0d、Rm1、Rm2)が設けられており、
前記制御部は、
いずれかのレッグの前記正側スイッチ素子もしくは前記負側スイッチ素子の短絡もしくは開放、いずれかのレッグの前記素子間接続点の天絡もしくは地絡、前記第1モータ又は前記第2モータの電流経路の短絡もしくは断線、又は、前記電流検出器の異常、のうち少なくとも一種類の異常を検出可能な異常検出部(41)を有し、
前記異常検出部により異常が検出されたとき、当該異常に起因する影響を抑制するように、正常時とは異なる制御に切り替えるモータ制御装置。
【請求項2】
前記異常検出部は、いずれかのレッグの前記正側スイッチ素子もしくは前記負側スイッチ素子の短絡、又は、いずれかのレッグの前記素子間接続点の天絡もしくは地絡、のうち少なくとも一つの異常を検出可能であり、
前記制御部は、当該異常による過電流の発生を防止するように、少なくとも一つのスイッチ素子を遮断する請求項
1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
車両の制動装置(90)において、通電方向に応じて制動方向もしくは非制動方向にトルクを出力する第1モータ(71)及び第2モータ(72)を駆動するモータ制御装置であって、
直流電源(Bt)の正極端子(Tp)と負極端子(Tn)との間に並列に接続された第1レッグ(51)、第2レッグ(52)及び第3レッグ(53)の三つのレッグを有し、各前記レッグは、前記正極端子に接続された正側スイッチ素子(S1H、S2H、S3H)と前記負極端子に接続された負側スイッチ素子(S1L、S2L、S3L)とが素子間接続点(N1、N2、N3)を介して直列接続されており、前記直流電源の電力を変換して前記第1モータ及び前記第2モータに供給可能な電力変換器(45)と、
各前記レッグの前記正側スイッチ素子及び前記負側スイッチ素子を操作し、前記第1モータ及び前記第2モータへの通電を制御する制御部(40)と、
を備え、
前記第1レッグの前記素子間接続点は、前記第1モータの一方の端子に接続され、
前記第3レッグの前記素子間接続点は、前記第2モータの一方の端子に接続され、
前記第2レッグの前記素子間接続点は、前記第1モータの他方の端子、及び、前記第2モータの他方の端子に接続され、
前記三つのレッグの前記正側スイッチ素子の前記正極端子側における接続点を正側接続点(N0u)とし、前記三つのレッグの前記負側スイッチ素子の前記負極端子側における接続点を負側接続点(N0d)とすると、
前記三つのレッグと前記第1モータ及び前記第2モー
タとを含む電流経路、又は、前記正極端子と前記正側接続点との間もしくは前記負極端子と前記負側接続点との間、のうち少なくともいずれか一箇所に電流検出器(R1u、R1d、R3u、R3d、R2u、R2d、R0u、R0d、Rm1、Rm2)が設けられており、
前記制御部は、
いずれかのレッグの前記正側スイッチ素子もしくは前記負側スイッチ素子の短
絡、又は、いずれかのレッグの前記素子間接続点の天絡もしくは地絡
、のうち少なくとも一種類の異常を検出可能な異常検出部(41)を有し、
前記異常検出部により異常が検出されたとき、
当該異常による過電流の発生を防止するように、少なくとも一つのスイッチ素子を遮断し、正常時とは異なる制御に切り替える
ものであり、
前記異常検出部により、
いずれかのレッグの前記正側スイッチ素子もしくは前記負側スイッチ素子の短絡が検出されたとき、そのレッグの短絡したスイッチ素子と対となるスイッチ素子を遮断し、
いずれかのレッグの前記素子間接続点の天絡が検出されたとき、そのレッグの前記負側スイッチ素子を遮断し、
いずれかのレッグの前記素子間接続点の地絡が検出されたとき、そのレッグの前記正側スイッチ素子を遮断するモータ制御装置。
【請求項4】
前記異常検出部は、過電流異常に関する前記第2レッグについての異常検出閾値を、前記第1レッグ及び前記第3レッグについての異常検出閾値とは異なる値とする請求項
3に記載のモータ制御装置。
【請求項5】
前記制御部が前記第1モータ及び前記第2モータに同時に通電するとき、
前記異常検出部は、過電流異常に関する前記第2レッグについての異常検出閾値を、前記第1レッグ及び前記第3レッグについての異常検出閾値とは異なる値に切り替える請求項
3または4に記載のモータ制御装置。
【請求項6】
車両の制動装置(90)において、通電方向に応じて制動方向もしくは非制動方向にトルクを出力する第1モータ(71)及び第2モータ(72)を駆動するモータ制御装置であって、
直流電源(Bt)の正極端子(Tp)と負極端子(Tn)との間に並列に接続された第1レッグ(51)、第2レッグ(52)及び第3レッグ(53)の三つのレッグを有し、各前記レッグは、前記正極端子に接続された正側スイッチ素子(S1H、S2H、S3H)と前記負極端子に接続された負側スイッチ素子(S1L、S2L、S3L)とが素子間接続点(N1、N2、N3)を介して直列接続されており、前記直流電源の電力を変換して前記第1モータ及び前記第2モータに供給可能な電力変換器(45)と、
各前記レッグの前記正側スイッチ素子及び前記負側スイッチ素子を操作し、前記第1モータ及び前記第2モータへの通電を制御する制御部(40)と、
を備え、
前記第1レッグの前記素子間接続点は、前記第1モータの一方の端子に接続され、
前記第3レッグの前記素子間接続点は、前記第2モータの一方の端子に接続され、
前記第2レッグの前記素子間接続点は、前記第1モータの他方の端子、及び、前記第2モータの他方の端子に接続され、
前記三つのレッグの前記正側スイッチ素子の前記正極端子側における接続点を正側接続点(N0u)とし、前記三つのレッグの前記負側スイッチ素子の前記負極端子側における接続点を負側接続点(N0d)とすると、
前記三つのレッグと前記第1モータ及び前記第2モー
タとを含む電流経路、又は、前記正極端子と前記正側接続点との間もしくは前記負極端子と前記負側接続点との間、のうち少なくともいずれか一箇所に電流検出器(R1u、R1d、R3u、R3d、R2u、R2d、R0u、R0d、Rm1、Rm2)が設けられており、
前記制御部は、
いずれかのレッグの前記正側スイッチ素子もしくは前記負側スイッチ素子の短絡もしくは開放、いずれかのレッグの前記素子間接続点の天絡もしくは地絡、前記第1モータ又は前記第2モータの電流経路の短絡もしくは断線、又は、前記電流検出器の異常、のうち少なくとも一種類の異常を検出可能な異常検出部(41)
と、
検出された異常の状態、及び、異常検出に伴って遮断されたスイッチ素子に応じて、前記第1モータ及び前記第2モータのそれぞれについて制動方向及び非制動方向への通電可否を判定する通電可否判定部(42)と、を有し、
前記異常検出部により異常が検出されたとき、当該異常に起因する影響を抑制するように、正常時とは異なる制御に切り替えるモータ制御装置。
【請求項7】
前記第1モータ又は前記第2モータについて、前記通電可否判定部が制動方向の通電可、且つ、非制動方向の通電不可であると判定したとき、前記制御部は制動方向の通電を非実施とする請求項
6に記載のモータ制御装置。
【請求項8】
前記第1モータ又は前記第2モータについて、前記通電可否判定部が制動方向の通電可、且つ、非制動方向の通電不可であると判定し、さらに車速が所定の速度閾値より小さいとき、前記制御部は制動方向の通電を非実施とする請求項
6に記載のモータ制御装置。
【請求項9】
前記制御部が前記第1レッグの前記正側スイッチ素子から前記第2レッグの前記負側スイッチ素子に通電し、且つ、前記第3レッグの前記正側スイッチ素子から前記第2レッグの前記負側スイッチ素子に通電したとき、前記第1モータ及び前記第2モータは制動方向もしくは非制動方向のいずれか同じ方向にトルクを出力するように構成されている請求項
3~8のいずれか一項に記載のモータ制御装置。
【請求項10】
前記正極端子と前記正側接続点との間、又は、前記負極端子と前記負側接続点との間の少なくとも一方にリレー(RYu、RYd)が設けられており、
前記制御部は、前記異常検出部により少なくとも一つの異常が検出されたとき、前記リレーを遮断する請求項1
~9のいずれか一項に記載のモータ制御装置。
【請求項11】
前記電流検出器(R1u、R1d、R3u、R3d、R2u、R2d、R0u、R0d)は、
三つのレッグの前記素子間接続点と前記正側接続点との間、及び、三つのレッグの前記素子間接続点と前記負側接続点との間の少なくとも六箇所に配置されているか、又は、
いずれか二つのレッグの前記素子間接続点と前記正側接続点との間、いずれか二つのレッグの前記素子間接続点と前記負側接続点との間、前記正極端子と前記正側接続点との間、及び、前記負極端子と前記負側接続点との間、の少なくとも六箇所に配置されている請求項1~10のいずれか一項に記載のモータ制御装置。
【請求項12】
前記電流検出器(Rm1、Rm2、R0u、R0d)は、
前記第1レッグの前記素子間接続点と前記第2レッグの前記素子間接続点との間において前記第1モータと直列になる箇所、前記第3レッグの前記素子間接続点と前記第2レッグの前記素子間接続点との間において前記第2モータと直列になる箇所、前記正極端子と前記正側接続点との間、及び、前記負極端子と前記負側接続点との間、の少なくとも四箇所に配置されている請求項1~10のいずれか一項に記載のモータ制御装置。
【請求項13】
前記正極端子といずれかのレッグの前記素子間接続点との間にプルアップ抵抗(Rp)が接続されており、
前記異常検出部は、少なくとも一つのレッグの前記素子間接続点の電圧を検出する請求項1~12のいずれか一項に記載のモータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一式で用いられる二つの直流モータへの通電を制御する装置が知られている。
【0003】
例えば特許文献1、2に開示された装置では、各直流モータに対応するHブリッジ回路の一方のハーフブリッジ回路が共用され、三つのハーフブリッジ回路により電力変換器が構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5772726号公報
【文献】特許第6052028号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1、2の「ハーフブリッジ回路」に相当する一対の正側(もしくは上アーム)スイッチ素子と負側(もしくは下アーム)スイッチ素子との組を本明細書では「レッグ」と表す。特許文献1、2に開示された3レッグ式のブリッジ回路は、一つの共有レッグと二つの非共有レッグとから構成される。3レッグ式のブリッジ回路では、二つのHブリッジ回路に比べスイッチ素子数が8個から6個に低減する。また、電力変換器の回路面積が低減する。
【0006】
しかし特許文献1、2には、スイッチ素子の短絡もしくは開放、モータ端子の天絡もしくは地絡、電源回路の異常、電流検出器の異常等、実用上課題となる各種異常のフェールセーフに関して何ら言及されていない。
【0007】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、二つの直流モータに対しブリッジ回路の一レッグを共有する構成において、フェールセーフにより信頼性を確保するモータ制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によるモータ制御装置は、車両の制動装置(90)において、通電方向に応じて制動方向もしくは非制動方向にトルクを出力する第1モータ(71)及び第2モータ(72)を駆動する。このモータ制御装置は、電力変換器(45)と、制御部(40)と、を備える。
【0009】
電力変換器は、直流電源(Bt)の正極端子(Tp)と負極端子(Tn)との間に並列に接続された第1レッグ(51)、第2レッグ(52)及び第3レッグ(53)の三つのレッグを有する。各レッグは、正極端子に接続された正側スイッチ素子(S1H、S2H、S3H)と負極端子に接続された負側スイッチ素子(S1L、S2L、S3L)とが素子間接続点(N1、N2、N3)を介して直列接続されている。電力変換器は、直流電源の電力を変換して第1モータ及び第2モータに供給可能である。制御部は、各レッグの正側スイッチ素子及び負側スイッチ素子を操作し、第1モータ及び第2モータへの通電を制御する。
【0010】
第1レッグの素子間接続点は、第1モータの一方の端子に接続される。第3レッグの素子間接続点は、第2モータの一方の端子に接続される。第2レッグの素子間接続点は、第1モータの他方の端子、及び、第2モータの他方の端子に接続される。すなわち、第2レッグが共有レッグをなし、第1レッグ及び第3レッグが非共有レッグをなす。本発明の一態様では、制御部が第1レッグの正側スイッチ素子から第2レッグの負側スイッチ素子に通電し、且つ、第3レッグの正側スイッチ素子から第2レッグの負側スイッチ素子に通電したとき、第1モータ及び第2モータは制動方向もしくは非制動方向のいずれか同じ方向にトルクを出力するように構成されている。
【0011】
三つのレッグの正側スイッチ素子の正極端子側における接続点を正側接続点(N0u)とし、三つのレッグの負側スイッチ素子の負極端子側における接続点を負側接続点(N0d)とする。三つのレッグと第1モータ及び第2モータ72とを含む電流経路、又は、正極端子と正側接続点との間もしくは負極端子と負側接続点との間、のうち少なくともいずれか一箇所に電流検出器(R1u、R1d、R3u、R3d、R2u、R2d、R0u、R0d、Rm1、Rm2)が設けられている。
【0012】
制御部は、いずれかのレッグの正側スイッチ素子もしくは負側スイッチ素子の短絡もしくは開放、いずれかのレッグの素子間接続点の天絡もしくは地絡、前記第1モータ又は前記第2モータの電流経路の短絡もしくは断線、又は、電流検出器の異常、のうち少なくとも一種類の異常を検出可能な異常検出部(41)を有する。なお、「モータの電流経路」には、モータ巻線、及び、電力変換器からモータまでの配線やコネクタ端子を含む。
【0013】
異常検出部により異常が検出されたとき、制御部は、当該異常による影響を抑制するように、正常時とは異なる制御に切り替える。よって本発明のモータ制御装置は、フェールセーフにより信頼性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】一実施形態のモータ制御装置が適用される車両の制動装置の全体構成図。
【
図4】正方向/負方向の同時通電時に各レッグに流れる電流量を説明する図。
【
図8】プルアップ抵抗及びモータ端子電圧モニタ回路の構成例を示す図。
【
図9】起動時におけるショート系異常検出のフローチャート。
【
図10】起動時におけるオープン系異常検出のフローチャート。
【
図16】通電状態に応じて第2レッグの過電流異常検出閾値を切り替えるフローチャート。
【
図18】異常検出時に「正常時とは異なる制御」に切り替えるフローチャート。
【
図19】ショート系異常発生時における処置を示すフローチャート。
【
図20】ショート系異常時における異常箇所に応じた通電可否判定表。
【
図21】オープン系異常時における異常箇所に応じた通電可否判定表。
【
図22】制動/非制動方向の通電可否に基づき制御を切り替えるフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明のモータ制御装置の一実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態のモータ制御装置は、車両の制御装置において、駐車時に右左後輪をロックする二つの電動パーキングブレーキモータを駆動する「電動パーキングブレーキモータ制御装置」として機能する。
【0016】
[制動装置の全体構成]
最初に
図1、
図2を参照し、車両の制動装置の全体構成について説明する。制動装置90は、「電動液圧制御機能」及び「電動パーキングブレーキ機能」を有する。自動車技術分野において一般に「電動液圧制御」は、「ESC」すなわち電動安定化制御に関連する制御として知られている。安定化制御には、狭義の制動制御の他、システムにより、アンチロックブレーキ制御、車両挙動安定化制御、坂道発進補助制御、トラクション制御、車両追従制御、車線逸脱回避制御、障害物回避制御等が含まれる場合がある。電動パーキングブレーキ(以下「EPB」)機能は、駐車時に車輪をロックする機能である。
【0017】
図1に示すように、制動装置90は、制動制御ECU10、液圧発生装置80、ブレーキペダル91、EPBスイッチ94、各車輪の制動部95R、95L、96R、96L、車輪速センサ97等を備える。また、
図1に示す、いわゆる「モータ・オン・キャリパタイプ」の制動装置では、右左の後輪に一つずつ、計二つのEPBモータ71、72が設けられている。
【0018】
図1において太実線は液圧経路を示し、破線矢印は電気信号を示す。ブレーキペダル91が踏まれると、液圧発生装置80に液圧が供給されるとともに制動制御ECU10に電気信号が送信される。EPBスイッチ94が操作されると、制動制御ECU10内のEPBモータ制御装置400に電気信号が送信される。
【0019】
制動制御ECU10は、電動液圧制御に関する構成として、ESC(電動液圧)制御部20及びESC電力変換器25を含む。ESC制御部20は、ESC電力変換器25からの電力供給によりESCモータ83を回転させて液圧アクチュエータ85を駆動することで、液圧発生装置80の制動用液圧を制御する。代表的に液圧は油圧であり、液圧アクチュエータは油圧ポンプや油圧シリンダである。また、ESCモータ83は例えば三相モータであり、ESC電力変換器25は三相インバータ回路である。
【0020】
また制動制御ECU10は、EPB制御に関する構成として、EPB制御部40及びEPB電力変換器45を含む。EPB制御部40は、EPB電力変換器45からの電力供給により二つのEPBモータ71、72を駆動し、駐車時に右左の後輪をロックする。本実施形態では、EPBモータ71、72は直流モータで構成されている。EPB電力変換器45は、後述する「3レッグブリッジ回路」で構成されている。制動制御ECU10のうち、EPB制御部40及びEPB電力変換器45を含む部分を「EPBモータ制御装置400」と表す。
【0021】
液圧発生装置80の液圧アクチュエータ85は、ESCモータ83の出力により駆動され、前輪制動部95R、95L、及び、後輪制動部96R、96Lに制動用液圧を供給する。後輪制動部96R、96Lには、駐車時にそれぞれ第1EPBモータ71及び第2EPBモータ72の出力が作用する。車輪速センサ97は、各車輪の回転速度を検出して制動制御ECU10に通知する。
【0022】
図2に右後輪制動部96Rの構成を例示する。第1EPBモータ71の出力により後輪制動部96Rのブレーキパッド965がブレーキディスク966に押し付けられることにより、車輪がロックされる。また、停車時及び走行時を通じ、液圧発生装置80から供給される液圧によりブレーキパッド965がブレーキディスク966に押し付けられることにより、車輪がロックされる。
【0023】
[EPBモータ制御装置の構成]
次に
図3を参照し、EPBモータ制御装置400の構成を説明する。以下では、
図1の要素名称における「EPB」を省略する。つまり、EPBモータ制御装置400、EPB制御部40及びEPB電力変換器45を、「モータ制御装置400」、「制御部40」及び「電力変換器45」と表す。また、第1EPBモータ71を「第1モータ71」と表し、第2EPBモータ72を「第2モータ72」と表す。
【0024】
制御部40は、マイコン、駆動回路等で構成され、図示しないCPU、ROM、RAM、I/O、及び、これらの構成を接続するバスライン等を備えている。制御部40は、ROM等の実体的なメモリ装置(すなわち、読み出し可能非一時的有形記録媒体)に予め記憶されたプログラムをCPUで実行することによるソフトウェア処理や、専用の電子回路によるハードウェア処理による制御を実行する。
【0025】
電力変換器45は、直流電源Btの正極端子Tpと負極端子Tnとの間に並列に接続された第1レッグ51、第2レッグ52及び第3レッグ53の三つのレッグを有する。直流電源Btの電圧は例えば12[V]である。三つのレッグ51、52、53は一つの筐体600内に収容されており、例えば同一の基板上に実装されている。このように電力変換器45は、「3レッグブリッジ回路」で構成されており、直流電源Btの電力を変換して第1モータ71及び第2モータ72に供給可能である。
【0026】
第1レッグ51は、正極端子Tpに接続された正側スイッチ素子S1Hと、負極端子Tnに接続された負側スイッチ素子S1Lとが素子間接続点N1を介して直列接続されている。第2レッグ52は、正極端子Tpに接続された正側スイッチ素子S2Hと、負極端子Tnに接続された負側スイッチ素子S2Lとが素子間接続点N2を介して直列接続されている。第3レッグ53は、正極端子Tpに接続された正側スイッチ素子S3Hと、負極端子Tnに接続された負側スイッチ素子S3Lとが素子間接続点N3を介して直列接続されている。正側スイッチ素子S1H、S2H、S3H、及び、負側スイッチ素子S1L、S2L、S3Lは、例えばMOSFETで構成されている。以下では、同一レッグの正側及び負側スイッチ素子をまとめて「S1H/L」のように記す。
【0027】
第1レッグ51の素子間接続点N1は、第1モータ71の一方の端子に接続される。第3レッグ53の素子間接続点N3は、第2モータ72の一方の端子に接続される。第2レッグ52の素子間接続点N2は、第1モータ71の他方の端子、及び、第2モータ72の他方の端子に接続される。制御部40は、各レッグ51、52、53の正側スイッチ素子S1H、S2H、S3H及び負側スイッチ素子S1L、S2L、S3Lを操作し、第1モータ71及び第2モータ72への通電を制御する。なお、後述の電圧検出回路の説明では、素子間接続点N1、N2、N3を「モータ端子」と称する。
【0028】
三つのレッグ51、52、53の正側スイッチ素子S1H、S2H、S3Hの正極端子Tp側における接続点を正側接続点N0uとする。また、三つのレッグ51、52、53の負側スイッチ素子S1L、S2L、S3Lの負極端子Tn側における接続点を負側接続点N0dとする。
図3の構成例では、各レッグの素子間接続点N1、N2、N3と正側接続点N0uとの間、及び、各レッグの素子間接続点N1、N2、N3と負側接続点N0dとの間に「電流検出器」としてのシャント抵抗R1u、R1d、R2u、R2d、R3u、R3dが配置されている。電流検出に関する詳細は後述する。なお、
図3のシャント抵抗の配置構成は、
図5に示す第1配置例に相当する。
【0029】
ここで、実線矢印で示すように、第1レッグ51の正側スイッチ素子S1Hから第1モータ71を通って第2レッグ52の負側スイッチ素子S2Lに流れる電流方向を正方向とする。同じく、第3レッグ53の正側スイッチ素子S3Hから第2モータ72を通って第2レッグ52の負側スイッチ素子S2Lに流れる電流方向を正方向とする。
【0030】
逆に、破線矢印で示すように、第2レッグ52の正側スイッチ素子S2Hから第1モータ71を通って第1レッグ51の負側スイッチ素子S1Lに流れる電流方向を負方向とする。同じく、第2レッグ52の正側スイッチ素子S2Hから第2モータ72を通って第3レッグ53の負側スイッチ素子S3Lに流れる電流方向を負方向とする。
【0031】
第1モータ71及び第2モータ72に「正方向に同時通電」するとは、第1レッグ51の正側スイッチ素子S1Hから第2レッグ52の負側スイッチ素子S2Lに通電し、且つ、第3レッグ53の正側スイッチ素子S3Hから第2レッグ52の負側スイッチ素子S2Lに通電することをいう。第1モータ71及び第2モータ72に「負方向に同時通電」するとは、第2レッグ52の正側スイッチ素子S2Hから第1レッグ51の負側スイッチ素子S1Lに通電し、且つ、第2レッグ52の正側スイッチ素子S2Hから第3レッグ53の負側スイッチ素子S3Lに通電することをいう。
【0032】
一構成例では、制御部40が正方向に同時通電したとき、第1モータ71及び第2モータ72はいずれも制動方向にトルクを出力し、制御部40が負方向に同時通電したとき、第1モータ71及び第2モータ72はいずれも非制動方向にトルクを出力する。モータ71、72が制動方向にトルクを出力すると、後輪制動部96R、96Lは車輪をロックし、非制動方向にトルクを出力すると、後輪制動部96R、96Lはロックを解除する。
【0033】
他の構成例では逆に、制御部40が正方向に同時通電したとき、第1モータ71及び第2モータ72はいずれも非制動方向にトルクを出力し、制御部40が負方向に同時通電したとき、第1モータ71及び第2モータ72はいずれも制動方向にトルクを出力してもよい。
【0034】
要するに本実施形態のモータ制御装置400は、制御部40が正方向に同時通電したとき、第1モータ71及び第2モータ72は制動方向もしくは非制動方向いずれかの同じ方向にトルクを出力するように構成されている。また、制御部40が負方向に同時通電したとき、第1モータ71及び第2モータ72は、正方向に同時通電したときとは反対方向にトルクを出力するように構成されている。
【0035】
図4の上側には正方向同時通電時、下側には負方向同時通電時の電流経路及び電流量を示す。太いブロック矢印は、電流量が大きいことを表す。二つのモータ71、72に同時に同じ大きさの電流を通電したとき、共有レッグである第2レッグ52には、第1レッグ51及び第3レッグ53に流れる電流の2倍の電流が流れる。
【0036】
図3に戻る。正極端子Tpと正側接続点N0uとの間にはリレーRYuが設けられており、負極端子Tnと負側接続点N0dとの間にはリレーRYdが設けられている。なお、
図3ではスイッチ記号を用いてリレーRYu、RYdを図示しているが、リレーRYu、RYdは、MOSFET等の半導体スイッチング素子で構成されてもよい。また、
図3に示す構成例では正側及び負側の両方にリレーRYu、RYdが設けられているが、他の構成例では正側又は負側の一方のみにリレーが設けられてもよい。
【0037】
制御部40は、異常検出部41、通電可否判定部42、及び駆動指令部43を有する。異常検出部41は、次のうち少なくとも一種類の異常を検出可能である。(iii)に記す「モータの電流経路」には、モータ巻線、及び、電力変換器45からモータ71、72までの配線やコネクタ端子を含む。
(i)いずれかのレッグの正側スイッチ素子もしくは負側スイッチ素子の短絡もしくは開放
(ii)いずれかのレッグの素子間接続点の天絡もしくは地絡
(iii)第1モータ又は第2モータの電流経路の短絡もしくは断線
(iv)電流検出器(すなわちシャント抵抗)の異常
【0038】
駆動指令部43は、各レッグの正側及び負側スイッチ素子S1H/L、S2H/L、S3H/L、並びにリレーRYu、RYdに、オン/オフ(すなわち駆動/遮断)信号を指令する。制御部40は、異常検出部41により異常が検出されたとき、当該異常に起因する影響を抑制するように、正常時とは異なる制御に切り替える。
【0039】
例えば制御部40は、異常検出部41により少なくとも一つの異常が検出されたとき、駆動指令部43からの指令によりリレーRYu、RYdを遮断し、両モータ71、72の駆動を停止する。或いは制御部40は、検出された異常の種類や異常箇所に応じて、駆動指令部43からの指令により一部のスイッチ素子を遮断し、残りのスイッチ素子でのモータ駆動を継続する。
【0040】
通電可否判定部42は、検出された異常の状態、及び、異常検出に伴って遮断されたスイッチ素子に応じて、第1モータ71及び第2モータ72のそれぞれについて制動方向及び非制動方向への通電可否を判定する。制御部40は、通電可否判定部42の判定結果に基づき制御を切り替える、すなわち駆動指令部43による指令を切り替える場合がある。これらの処理例の詳細は後述する。
【0041】
[電流検出器の配置例]
次に
図5~
図7を参照し、「電流検出器」としてのシャント抵抗の配置例、及び、正常時を前提とした電流算出について説明する。各レッグに配置されるシャント抵抗の符号について、1文字目は「R」、2文字目はレッグの番号とし、3文字目は正側を「u」、負側を「d」とする。正極端子Tpと正側接続点N0uとの間に配置されるシャント抵抗を「正極経路のシャント抵抗R0u」と表し、負極端子Tnと負側接続点N0dとの間に配置されるシャント抵抗を「負極経路のシャント抵抗R0d」と表す。
【0042】
また、モータ71、72と直列に接続されるシャント抵抗の符号を「Rm1、Rm2」とする。各正側スイッチ素子に流れる正側電流、及び、各負側スイッチ素子に流れる負側電流は、対応する箇所のシャント抵抗の「R」を「I」に代えた記号で表す。正極経路のシャント抵抗R0uに流れる電流を「正側合計電流I0u」といい、負極経路のシャント抵抗R0dに流れる電流を「負側合計電流I0d」という。
【0043】
図5に示す第1配置例451では、シャント抵抗R1u、R2u、R3uは、三つのレッグ51、52、53の素子間接続点N1、N2、N3と正側接続点N0uとの間に配置されている。シャント抵抗R1d、R2d、R3dは、三つのレッグ51、52、53の素子間接続点N1、N2、N3と負側接続点N0dとの間に配置されている。つまり、シャント抵抗R1u、R1d、R2u、R2d、R3u、R3dは、計六箇所に配置されている。上述の通り、第1配置例は
図3に示されている。
【0044】
図6に示す第2配置例452では、シャント抵抗R1u、R3uは、第1レッグ51及び第3レッグ53の素子間接続点N1、N3と正側接続点N0uとの間に配置されている。シャント抵抗R1d、R3dは、第1レッグ51及び第3レッグ53の素子間接続点N1、N3と負側接続点N0dとの間に配置されている。シャント抵抗R0u、R0dは、正極端子Tpと正側接続点N0uとの間、及び、負極端子Tnと負側接続点N0dとの間に配置されている。つまり、シャント抵抗R1u、R1d、R3u、R3d、R0u、R0dは、計六箇所に配置されている。
【0045】
なお、第2配置例の変形例として、六箇所のうち四箇所のシャント抵抗は、第1レッグ51及び第3レッグ53に代えて、いずれか二つのレッグの素子間接続点と正側接続点N0uとの間、及び、いずれか二つのレッグの素子間接続点と負側接続点N0dとの間に配置されてもよい。
【0046】
第2配置例において、第1レッグ51及び第3レッグ53の検出電流から第1モータ電流Im1及び第2モータ電流Im2を算出する処理を説明する。シャント抵抗R1u、R1d、R3u、R3dにより電流I1u、I1d、I3u、I3dが検出される。モータ電流Im1、Im2は、式(1.1)、(1.2)により算出される。
Im1=I1u-I1d ・・・(1.1)
Im2=I3u-I3d ・・・(1.2)
【0047】
第2レッグ52の電流I2u、I2dは直接検出されず、以下の式で算出可能である。「Im1+Im2≧0」のとき、第2レッグ52の正側電流I2uは、負側スイッチ素子S2Lのスイッチタイミングに応じて式(2.1a)で表される。負側電流I2dは式(2.2)で表される。
I2u=0(S2Lオン時),-Im1-Im2(S2Lオフ時)・・・(2.1a)
I2d=Im1+Im2+I2u ・・・(2.2)
【0048】
「Im1+Im2<0」のとき、第2レッグ52の正側電流I2uは、正側スイッチ素子S2Hのスイッチタイミングに応じて式(2.1b)で表される。負側電流I2dは式(2.2)で表される。
I2u=-Im1-Im2(S2Hオン時),0(S2Hオフ時)・・・(2.1b)
I2d=Im1+Im2+I2u ・・・(2.2)
【0049】
第2配置例では、正極経路のシャント抵抗R0u、及び、負極経路のシャント抵抗R0dにより正側合計電流I0u及び負側合計電流I0dが検出されるため、第2レッグ52の電流I2u、I2dは、式(3.1)、(3.2)によっても算出可能である。
I2u=I0u-I1u-I3u ・・・(3.1)
I2d=I0d-I1d-I3d ・・・(3.2)
【0050】
なお、第1配置例では、第2レッグ52のシャント抵抗R2u、R2dにより第2レッグ52の電流I2u、I2dが直接検出される。
【0051】
図7に示す第3配置例453では、シャント抵抗Rm1は、第1レッグ51の素子間接続点N1と第2レッグ52の素子間接続点N2との間において第1モータ71と直列になる箇所に配置されている。シャント抵抗Rm2は、第3レッグ53の素子間接続点N3と第2レッグ52の素子間接続点N2との間において第2モータ72と直列になる箇所に配置されている。シャント抵抗R0u、R0dは、正極端子Tpと正側接続点N0uとの間、及び、負極端子Tnと負側接続点N0dとの間に配置されている。つまり、シャント抵抗Rm1、Rm2、R0u、R0dは、計四箇所に配置されている。
【0052】
第3配置例において、モータ71、72の検出電流から第1レッグ51及び第3レッグ53の電流を算出する処理を説明する。シャント抵抗Rm1、Rm2によりモータ電流Im1、Im2が検出される。第1モータ71について「Im1≧0」のとき、第1レッグ51の正側電流I1uは、正側スイッチ素子S1Hのスイッチタイミングに応じて式(4.1a)で表される。負側電流I1dは式(4.2a)で表される。
I1u=Im1(S1Hオン時),0(S1Hオフ時)・・・(4.1a)
I1d=-Im1+I1u ・・・(4.2a)
【0053】
「Im1<0」のとき、第1レッグ51の負側電流I1dは、負側スイッチ素子S1Lのスイッチタイミングに応じて式(4.2b)で表される。正側電流I1uは式(4.1b)で表される。
I1d=-Im1(S1Lオン時),0(S1Lオフ時)・・・(4.2b)
I1u=Im1+I1d ・・・(4.1b)
【0054】
第2モータ72について「Im2≧0」のとき、第3レッグ53の正側電流I3uは、正側スイッチ素子S3Hのスイッチタイミングに応じて式(5.1a)で表される。負側電流I3dは式(5.2a)で表される。
I3u=Im2(S3Hオン時),0(S3Hオフ時)・・・(5.1a)
I3d=-Im2+I3u ・・・(5.2a)
【0055】
「Im2<0」のとき、第3レッグ53の負側電流I3dは、負側スイッチ素子S3Lのスイッチタイミングに応じて式(5.2b)で表される。正側電流I3uは式(5.1b)で表される。
I3d=-Im2(S3Lオン時),0(S3Lオフ時)・・・(5.2b)
I3u=Im2+I3d ・・・(5.1b)
【0056】
第2レッグ52の電流I2u、I2dについては第2配置例と同様に算出される。
【0057】
[プルアップ抵抗及びモータ端子電圧モニタ回路の構成例]
次に
図8を参照し、プルアップ抵抗及びモータ端子電圧モニタ回路の構成例について説明する。
図8には、第1配置例でシャント抵抗が配置された電力変換器45にプルアップ抵抗Rp及びモータ端子電圧モニタ回路61、62、63が接続された構成例を示す。ここで、各レッグの素子間接続点N1、N2、N3を「モータ端子N1、N2、N3」と称する。プルアップ抵抗、上側抵抗、下側抵抗の符号「Rp、Rru、Rrd」は、抵抗素子を示すとともに各抵抗の抵抗値を示す。
【0058】
プルアップ抵抗Rpは、正極端子Tpと第2モータ端子N2との間に接続される。ただし、プルアップ抵抗の抵抗値Rpはモータ71、72の巻線抵抗より十分に大きい。そのため、モータ巻線の断線故障の場合を除き、プルアップ抵抗Rpは、正極端子Tpと第1モータ端子N1との間、又は、正極端子Tpと第3モータ端子N3との間に接続されても同様の異常検出が可能である。
【0059】
代表としてモータ端子N1についてのモニタ回路61の構成を示す。モニタ回路62、63の構成も同様である。モニタ回路61、62、63は、各モータ端子N1、N2、N3の電圧を上側抵抗Rru及び下側抵抗Rrdで分圧した分圧点の端子電圧V1、V2、V3を異常検出部41に出力する。異常検出部41は、端子電圧V1、V2、V3に基づき各レッグのモータ端子N1、N2、N3の電圧を検出する。他の実施形態では、異常検出部41は少なくとも一つのレッグのモータ端子の電圧を検出するようにしてもよい。
【0060】
[異常発生時の影響])
図8の回路構成において、(i)スイッチ素子の短絡もしくは開放、(ii)モータ端子の天絡もしくは地絡、(iii)モータ電流経路の短絡もしくは断線、(iv)電流検出器の異常が発生したとき、電圧又は電流検出値に及ぼす影響について列挙する。この部分に記載する「閾値」は各パラメータに対して独立して設定されるものとし、各閾値の相互の関係には言及しない。
【0061】
<1.スイッチ素子の短絡(ショート)>
例えば第1レッグ51の正側スイッチ素子S1Hが短絡した場合、以下のようになる。
・非通電時:V1、V2、V3>閾値
・S1H/LのDuty駆動時:I1u、I1d>閾値
・S1Lオン時:I1u、I1d>閾値
・S1Hオン時:影響なし
第2、第3レッグの正側スイッチ素子S2H、S3H、各レッグの負側スイッチ素子S1L、S2L、S3Lの短絡の場合も同様である。
【0062】
<2.スイッチ素子の開放(オープン)>
例えば第1レッグ51の正側スイッチ素子S1Hが開放した場合、以下のようになる。
・非通電時:影響なし
・S1H/LのDuty駆動時:|I1u|<閾値、V1<閾値、Im1<閾値
・S1Lオン時:影響なし
・S1Hオン時:|I1u|<閾値、V1<閾値、Im1<閾値
第2、第3レッグの正側スイッチ素子S2H、S3H、各レッグの負側スイッチ素子S1L、S2L、S3Lの開放の場合も同様である。
【0063】
<3.モータ端子の天絡、地絡>
例えば第1レッグ51のモータ端子N1が天絡した場合、以下のようになる。
・非通電時:V1、V2、V3>閾値
・S1H/LのDuty駆動時:I1d>閾値、I1u<閾値、
|I0u-I0d|>閾値
・S1Lオン時:I1d>閾値、|I0u-I0d|>閾値
・S1Hオン時:|I0u-I0d|>閾値
第2、第3レッグのモータ端子N2、N3の天絡、各レッグのモータ端子N1、N2、N3の地絡の場合も同様である。
【0064】
<4.モータ電流経路の短絡>
例えば第1モータ71の電流経路が短絡した場合、以下のようになる。
・非通電時:V1>閾値
・通電時 :|Im1|>閾値
第2モータ72の電流経路が短絡した場合も同様である。
【0065】
<5.モータ電流経路の断線>
例えば第1モータ71の電流経路が断線した場合、以下のようになる。
・非通電時:V1<閾値
・通電時 :|Im1|<閾値
第2モータ72の電流経路が断線した場合も同様である。
【0066】
<6.電流検出器による正側電流又は負側電流の検出異常>
例えば第1レッグ51の正側電流I1u、又は正側合計電流I0uの検出異常の場合、以下のようになる。
・非通電時:|I1u|>閾値、電圧は正常
・S1H/LのDuty駆動時:|I1u|>閾値、|I0u-I0d|>閾値
・S1Lオン時:|I1u|>閾値
・S1Hオン時:|I0u-I0d|>閾値
第2、第3レッグの正側電流I2u、I3u、各レッグの負側電流I1d、I2d、I3d、負側合計電流I0dの検出異常の場合も同様である。
【0067】
[異常検出処理例]
次に
図9~
図17を参照し、異常検出部41による異常検出処理例について説明する。まず
図9、
図10のフローチャートを参照し、起動時のイニシャルチェックにおけるショート系異常及びオープン系異常の検出について説明する。この異常検出処理では
図8の回路が用いられる。以下のフローチャートの説明で記号「S」はステップを意味する。第1レッグ51について例示するが、第2レッグ52及び第3レッグ53についても同様である。また、正側スイッチ素子を「正側SW」、負側スイッチ素子を「負側SW」と記す。
【0068】
図9の処理では、三つのレッグ51、52、53のスイッチ素子S1H/L、S2H/L、S3H/Lが全てオフの状態でショート系異常検出を行う。以下の式中、直流電源Btの電圧をVbtと表す。
図8の回路において、各抵抗素子の抵抗値の大小関係は以下の通りであることを前提とする。
Rp、Rru、Rrd>>巻線抵抗>>スイッチ素子、シャント抵抗
【0069】
正常時の端子電圧V1は、式(6.1)で表される。正側スイッチ素子S1Hの短絡もしくはモータ端子N1の天絡、又はプルアップ抵抗Rpのショート時の端子電圧V1は、式(6.2)で表される。上側抵抗Rruのショート時の端子電圧V1は、式(6.3)で表される。負側スイッチ素子S1Lの地絡もしくはモータ端子N1の地絡、又は、下側抵抗Rrdのショート時の端子電圧V1は、式(6.4)で表される。
【0070】
式(6.1)、(6.2)、(6.3)の右辺の値をそれぞれα、β、γとする。ここで、α、β、γの大小関係は、Rru<Rpのとき、0<α<γ<β<Vbtとなる。一方、Rp≦Rruのとき、0<α<β≦γ<Vbtとなる。
【0071】
V1=Vbt×(Rrd)÷(Rp+Rru+Rrd)=α ・・・(6.1)
V1=Vbt×(Rrd)÷(Rru+Rrd)=β ・・・(6.2)
V1=Vbt×(Rrd)÷(Rp+Rrd)=γ ・・・(6.3)
V1=0 ・・・(6.4)
【0072】
また、プルアップ抵抗Rpもしくは上側抵抗Rruもしくはモータ巻線、コネクタ等のオープン時の端子電圧V1は、上記と同じ式(6.4)で表される。下側抵抗Rrdのオープン時の端子電圧V1は式(6.5)で表される。
V1=Vbt ・・・(6.5)
【0073】
また、例えばRp≦Rru、すなわちβ≦γとすると、式(7.1)、(7.2)の範囲に高電位閾値VthH及び低電位閾値VthLが設定される。
α<VthH<β ・・・(7.1)
0<VthL<α ・・・(7.2)
【0074】
以下、「暫定正常」とは、それまでの検出段階で異常が検出されていないことを意味する。S12では、端子電圧V1が高電位閾値VthHより低いか判断される。S12でYESの場合、S13で暫定正常と判定される。S12でNOの場合、S14で、正側スイッチ素子S1Hの短絡もしくはモータ端子N1の天絡と判断される。なお、プルアップ抵抗Rpもしくは上側抵抗Rruのショート異常、又は、下側抵抗Rrdのオープン異常の可能性は無視できるものとする。
【0075】
S16では、端子電圧V1が低電位閾値VthLより高いか判断される。S16でYESの場合、S17で暫定正常と判定される。S16でNOの場合、S18で、負側スイッチ素子S1Lの短絡もしくはモータ端子N1の地絡と判断される。なお、下側抵抗Rrdのショート異常、又は、プルアップ抵抗Rpもしくは上側抵抗Rruもしくはモータ巻線、コネクタ等のオープン異常の可能性は無視できるものとする。
【0076】
なお、異常箇所を特定するためにさらにスイッチ素子を駆動してもよい。例えばモータ電流経路の短絡の場合、いずれかのレッグの正側スイッチ素子を瞬間的にONし、その際の電流値から短絡箇所を特定してもよい。
【0077】
ショート系異常が検出されず暫定正常の場合、次にオープン系異常検出処理に進む。
図10の処理では、正側スイッチ素子S1H及び負側スイッチ素子S1Lのオープン異常を検出する。S21では、正側スイッチ素子S1Hをオン、負側スイッチ素子S1Lをオフする。この状態で正常時の端子電圧V1は、上記の式(6.2)で表される。正側スイッチ素子S1Hがオープン時の端子電圧V1は、上記の式(6.1)で表される。S22では、端子電圧V1が高電位閾値VthHより高いか判断される。S22でYESの場合、S23で暫定正常と判定される。S22でNOの場合、S24で、正側スイッチ素子S1Hのオープン異常と判定される。
【0078】
S25では、負側スイッチ素子S1Lをオン、正側スイッチ素子S1Hをオフする。この状態で正常時の端子電圧V1は上記の式(6.4)で表される。負側スイッチ素子S1Lがオープン時の端子電圧V1は上記の式(6.1)で表される。S26では、端子電圧V1が低電位閾値VthLより低いか判断される。S26でYESの場合、S27で、ショート系及びオープン系異常について正常と判定される。S26でNOの場合、S28で、負側スイッチ素子S1Lのオープン異常と判定される。なお、S12とS22の高電位閾値VthH、及びS16とS26の低電位閾値VthLはそれぞれ同じ値に限らず、ハードばらつきの影響を加味した異なる値としてもよい。
【0079】
続いて
図11~
図17のフローチャートを参照し、通電中の各種異常検出処理について説明する。これらの異常検出処理は、異常判定後に制御を停止する場合を除き、通電中繰り返し実行される。
図11~
図15、
図17の各フローチャートは、いずれも異常判定条件の成否を判断するステップと、異常判定ステップS37及び正常判定ステップS38とを含む。以下の文中、異常判定及び正常判定についてステップ番号の記載を省略する。
【0080】
通電時異常検出に用いる電圧、電流値について、端子電圧V1、V2、V3は、
図8のモニタ回路により直接検出されてもよいし、Duty比から算出されてもよい。正側合計電流I0u及び負側合計電流I0dは、シャント抵抗R0u、R0dにより直接検出されてもよいし、各レッグの正側電流I1u、I2u、I3u及び負側電流I1d、I2d、I3d等から算出されてもよい。
【0081】
全ての通電時異常検出に共通し、各閾値は直流電源電圧Vbtによって、或いは通電しているモータ数によって変更してもよい。判断ステップにおける条件成否の判断は、条件が成立した状態が所定時間又は所定回数以上継続したときにYESと判断するようにしてもよい。
【0082】
図11の通電中異常検出(1)では、モータ端子N1-N2間、N3-N2間に電圧を印加しているにもかかわらずモータ電流Im1、Im2が過小であるか、又は、逆向きに流れる異常を検出する。以下の式で、ΔVth(+)、ΔVth(-)は、正負の電位差閾値を示し、Imth(+)、Imth(-)は、正負のモータ電流閾値を示す。
【0083】
図11(a)のS31Aでは、端子電圧の差(V1-V2)及び第1モータ電流Im1について、正方向通電時の式(8.1a)、又は、負方向通電時の式(8.2a)が成立するか判断される。S31AでYESの場合、異常と判定され、NOの場合、正常と判定される。
V1-V2>ΔVth(+) and Im1<Imth(+) ・・・(8.1a)
V1-V2<ΔVth(-) and Im1>Imth(-) ・・・(8.2a)
【0084】
図11(b)のS31Bでは、端子電圧の差(V3-V2)及び第2モータ電流Im2について、正方向通電時の式(8.1b)、又は、負方向通電時の式(8.2b)が成立するか判断される。S31BでYESの場合、異常と判定され、NOの場合、正常と判定される。
V3-V2>ΔVth(+) and Im2<Imth(+) ・・・(8.1b)
V3-V2<ΔVth(-) and Im2>Imth(-) ・・・(8.2b)
【0085】
図12の通電中異常検出(2)では、正極経路と負極経路との電流収支が一致しない異常を検出する。S32では、正側合計電流と負側合計電流との差の絶対値|I0u-I0d|が電流差閾値より大きいか判断される。この式に代えて、その他の正常時前提の電流算出の式に対し所定の閾値を超える誤差が生じているか判断されてもよい。S32でYESの場合、異常と判定され、NOの場合、正常と判定される。
【0086】
図13の通電中異常検出(3)では三レッグ全体での過電流異常を検出する。S33では、正側合計電流の絶対値|I0u|が合計過電流閾値を超えているか、又は、負側合計電流の絶対値|I0d|が合計過電流閾値を超えているか判断される。S33でYESの場合、異常と判定され、NOの場合、正常と判定される。
【0087】
図14の通電中異常検出(4)では、電流が0のはずであるにもかかわらず流れている異常を検出する。ここで、第1~第3レッグをまとめて第xレッグ(x=1、2、3)と記し、第xレッグの正側スイッチ素子SxHを流れる正側電流をIxu、負側スイッチ素子SxLを流れる負側電流をIxdと記す。正常時には、正側スイッチ素子SxHがオンのとき負側スイッチ素子SxLはオフのはずであり、負側スイッチ素子SxLがオンのとき正側スイッチ素子SxHはオフのはずである。
【0088】
図14(a)のS34Aでは、第xレッグの正側スイッチSxHがオン、且つ、負側電流の絶対値|Ixd|が有意電流閾値を超えているか判断される。「有意電流閾値」は、検出誤差の範囲を超えて明らかに電流が流れていると認められる値である。S34AでYESの場合、異常と判定され、NOの場合、正常と判定される。同様に、
図14(b)のS34Bでは、第xレッグの負側スイッチSxLがオン、且つ、正側電流の絶対値|Ixu|が有意電流閾値を超えているか判断される。S34BでYESの場合、異常と判定され、NOの場合、正常と判定される。
【0089】
図15の通電中異常検出(5)ではレッグ毎の過電流異常を検出する。S35では、第xレッグの正側電流の絶対値|Ixu|が個別過電流閾値を超えているか、又は、負側電流の絶対値|Ixd|が個別過電流閾値を超えているか判断される。S35でYESの場合、異常と判定され、NOの場合、正常と判定される。
【0090】
ところで、
図4を参照して上述した通り、第1モータ71及び第2モータ72に同時通電したとき、共有レッグである第2レッグ52に流れる電流の絶対値は、第1レッグ51及び第3レッグ53に流れる電流の絶対値より大きくなる。そのため異常検出部41は、過電流異常に関する第2レッグ52についての異常検出閾値を、第1レッグ51及び第3レッグ53についての異常検出閾値とは異なる値とする。具体的には、S35における第2レッグ52の個別過電流閾値を、第1レッグ51及び第3レッグ53の個別過電流閾値より大きな値とする。
【0091】
或いは異常検出部41は、過電流異常に関する第2レッグ52についての異常検出閾値を、通電状態に応じて切り替えてもよい。
図16のS41では、制御部40が第1モータ71及び第2モータ72が同時通電中である、又は、今後同時通電するか判断される。S41でYESのとき、S42で異常検出部41は、過電流異常に関する第2レッグ52についての異常検出閾値を、第1レッグ51及び第3レッグ53についての異常検出閾値とは異なる値に切り替える。これにより、通電状態に応じて適切な異常検出閾値を設定することができる。なお、第2レッグ52のスイッチ素子は、第1レッグ51及び第3レッグ53の素子よりも定格の高い素子が用いられてもよい。
【0092】
図17の通電中異常検出(6)ではスイッチング状態とモータ端子電圧とのアンマッチを検出する。例えばDuty比制御でのDuty比が100%のとき、第xレッグの正側スイッチ素子SxHが常時オンし、Duty比が0%のとき、負側スイッチ素子SxLが常時オンする。ここで、
図8に参照される第xレッグのモータ端子Nxの端子電圧をVxと記す。
【0093】
図17(a)のS36Aでは、第xレッグの正側スイッチSxHが常時オン、且つ、端子電圧Vxが正常時下限閾値より小さいか判断される。S36AでYESの場合、異常と判定され、NOの場合、正常と判定される。同様に、
図17(b)のS36Bでは、第xレッグの負側スイッチSxLが常時オン、且つ、端子電圧Vxが正常時上限閾値より大きいか判断される。S36BでYESの場合、異常と判定され、NOの場合、正常と判定される。
【0094】
[異常検出時の処置]
次に
図18、
図19を参照し、異常検出時の処置について説明する。
図18のS51で制御部40は、異常検出部41により異常が検出されたか判断する。S51でYESの場合、S52で制御部40は、当該異常に起因する影響を抑制するように、「正常時とは異なる制御」に切り替える。例えば制御部40は、三つのレッグの全てのスイッチ素子をオフしてもよいし、イニシャルチェックで異常箇所を特定し、異常箇所に応じた制御を継続してもよい。或いは制御部40は、モータ71、72への通電を何ら変更することなく、ランプ点灯などによるドライバへの通知のみを実施してもよい。
【0095】
図19に、ショート系異常発生時における異常箇所に応じた処置を示す。上述の通り、異常検出部41は、いずれかのレッグの正側スイッチ素子SxHもしくは負側スイッチ素子SxLの短絡、又は、いずれかのレッグのモータ端子Nxの天絡もしくは地絡、のうち少なくとも一つのショート系異常を検出可能である。制御部40は、当該異常による過電流の発生を防止するように、少なくとも一つのスイッチ素子を遮断する。
【0096】
S61で制御部40は、異常検出部41によりショート系異常が検出されたか判断し、YESの場合、次に進む。いずれかのレッグの正側スイッチ素子SxHもしくは負側スイッチ素子SxLの短絡が検出されたとき、S62でYESと判断される。この場合、S65で制御部40は、そのレッグの短絡したスイッチ素子と対となるスイッチ素子を遮断する。つまり、正側スイッチ素子SxHが短絡したときは負側スイッチ素子SxLをオフし、負側スイッチ素子SxLが短絡したときは正側スイッチ素子SxHをオフする。
【0097】
いずれかのレッグのモータ端子Nxの天絡が検出されたとき、S62でNO、S63でYESと判断される。この場合、S66で制御部40は、そのレッグの負側スイッチ素子SxLを遮断する。また、いずれかのレッグのモータ端子Nxの地絡が検出されたとき、S63でNO、S64でYESと判断される。この場合、S67で制御部40は、そのレッグの正側スイッチ素子SxHを遮断する。なお、S64でNOと判断された場合については言及を省略する。
【0098】
このように、短絡、天絡もしくは地絡の異常箇所に応じて遮断するスイッチ素子を選択することで、異常素子及び周辺素子の発熱や故障を適切に防止することができる。また、正常なスイッチ素子を用いて一部の制御を継続することができる。例えば制動装置90において片輪のEPBのみを使用して車両を駐車することができる。
【0099】
[通電可否判定]
次に
図20~
図22を参照し、通電可否判定部42による通電可能方向の判定について説明する。通電方向の正方向、負方向の定義は、
図3に示す通りである。
図20にはショート系異常時、
図21にはオープン系異常時における異常箇所に応じた方向毎の通電可否判定表を示す。ショート系異常はさらに、異常経路(すなわち天絡又は地絡経路)に電流が流れることを許容して通電継続を優先する場合と、異常経路に電流が流れないようにフェールセーフを優先する場合とに分けられる。各場合の通電可否判定表を
図20(a)、(b)に示す。(a)では「可」であり(b)では「不可」である箇所に丸印を付ける。
【0100】
(a)、(b)共通に、モータ端子N2の天絡時、第1モータ71及び第2モータ72の正方向通電は不可となる。また、モータ端子N2の地絡時、第1モータ71及び第2モータ72の負方向通電は不可となる。モータ端子N1の地絡時及び天絡時、それぞれ、第1モータ71の正方向及び負方向の通電が不可となる。ただし、モータ端子N1の地絡時における第2モータ72の正方向通電、モータ端子N1の天絡時における第2モータ72の負方向通電は可である。モータ端子N3の地絡時、天絡時は、モータ端子N1の地絡時、天絡時と対称の関係になる。
【0101】
モータ端子N2の天絡時における第1モータ71及び第2モータ72の負方向通電、並びに、モータ端子N2の地絡時における第1モータ71及び第2モータ72の正方向通電については(a)通電継続優先の場合は可、(b)フェールセーフ優先の場合は不可となる。モータ端子N1の地絡時における第1モータ71及び第2モータ72の負方向通電、並びに、モータ端子N1の天絡時における第1モータ71及び第2モータ72の正方向通電についても、(a)通電継続優先の場合は可、(b)フェールセーフ優先の場合は不可となる。モータ端子N3の地絡時、天絡時は、モータ端子N1の地絡時、天絡時と対称の関係になる。
【0102】
次に
図21において、第2レッグ52の負側スイッチ素子S2Lの開放時、第1モータ71及び第2モータ72の正方向通電は不可となる。また、第2レッグ52の正側スイッチ素子S2Hの開放時、第1モータ71及び第2モータ72の負方向通電は不可となる。第1レッグ51の正側又は負側スイッチ素子S1H/Lの開放時、それぞれ、第1モータ71の正方向又は負方向の通電が不可となるが、第2モータ72の通電は正負方向とも可である。第3レッグ53のスイッチ素子S3H/Lの開放時は、第1レッグ51のスイッチ素子S1H/Lの開放時と対称の関係となる。
【0103】
図20、
図21の表では、第1モータ71及び第2モータ72の通電可否を独立に判定しているが、第1モータ71及び第2モータ72がいずれも同方向に通電可能なときのみ通電するようにしてもよい。ショート系異常でフェールセーフ優先の場合、いずれのモータ端子が天絡又は地絡しても、両モータ71、72に同時に通電できる場合はない。
【0104】
次に
図22を参照し、EPBモータ制御装置400における通電可能方向判定の応用処理について説明する。
図22には、破線で示すS74を含まない処理例Aと、S74を含む処理例Bとの2通りの例を併記する。車両の走行中を想定した開始段階のS71では非制動状態である。S72では、第1モータ71又は第2モータ72について、「制動方向の通電可、且つ、非制動方向の通電可」であるか判断される。S72でYESの場合、S75で制御部40は、通常の通電を行う。
【0105】
S72でNOの場合、S73では、第1モータ71又は第2モータ72について、「制動方向の通電可、且つ、非制動方向の通電不可」であるか判断される。処理例AではS73でYESの場合、S76で制御部40は、制動方向の通電を非実施とする。処理例BではS73でYESの場合、S74で車速が速度閾値未満であるか判断される。車速が速度閾値未満のときS74でYESと判断され、S76で制御部40は、制動方向の通電を非実施とする。一方、車速が速度閾値以上のときS74でNOと判断され、S75で制御部40は、通常の通電を行う。
【0106】
非制動側に通電不可のとき、一度制動してしまうと車輪ロック状態を解除できず、故障後の退避走行や修理工場までの移動が困難になる。そこで、制動方向の通電を禁止することでそれを回避する。また、処理例Bでは車速を判定条件に加えることで、速度閾値以上の車速での走行中に制動を可能とする。例えば走行中に油圧ブレーキが故障し、緊急手段としてパーキングブレーキを用いた制動が試みられるシーンを想定する。このシーンでは退避走行の実現よりも車両を緊急に制動して停止させることを優先し、制動方向の通電を許可することが求められる。
【0107】
S73でNOの場合、非制動方向の通電可否にかかわらず制動方向の通電不可の状態であり、S77に進む。この場合、否応なく制動方向の通電は実施されない。このように、制動方向及び非制動方向の通電可否を判定することで、EPBの制御を適切に実施することができる。
【0108】
(効果)
以上のように本実施形態では、異常検出部41により異常が検出されたとき、制御部40は、当該異常による影響を抑制するように、正常時とは異なる制御に切り替える。よって本発実施形態のモータ制御装置400は、フェールセーフにより信頼性を確保することができる。
【0109】
(その他の実施形態)
(a)シャント抵抗は、上記第1配置例の六箇所、又は、第2配置例の六箇所、又は、第3配置例の四箇所に少なくとも配置された上で、さらにそれ以外の箇所に配置されてもよい。
【0110】
(b)異常検出部41は、電流経路の電流や素子間接続点の電圧に基づき異常検出することに加え、温度検出器を用いて環境温度やスイッチ素子の温度を検出してもよい。例えば、環境温度やスイッチ素子の温度に応じて、過電流異常に関する異常検出閾値を下げるようにしてもよい。
【0111】
(c)電流検出器はシャント抵抗に限らず、他の電流検出器が用いられてもよい。
【0112】
本発明はこのような実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において、種々の形態で実施することができる。
【符号の説明】
【0113】
400・・・(EPB)モータ制御装置、
40 ・・・(EPB)制御部、
41 ・・・異常検出部、
45 ・・・(EPB)電力変換器、
51 ・・・第1レッグ、 52 ・・・第2レッグ、 53 ・・・第3レッグ、
71 ・・・第1モータ、 72 ・・・第2モータ、
90 ・・・車両の制動装置。