(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】表面分析装置
(51)【国際特許分類】
G01N 23/2252 20180101AFI20240409BHJP
G01N 23/2209 20180101ALI20240409BHJP
G06T 7/00 20170101ALI20240409BHJP
【FI】
G01N23/2252
G01N23/2209
G06T7/00 610
(21)【出願番号】P 2020192221
(22)【出願日】2020-11-19
【審査請求日】2023-02-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大越 暁
【審査官】比嘉 翔一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-219217(JP,A)
【文献】特開2010-091523(JP,A)
【文献】特開2019-028718(JP,A)
【文献】特開2000-076464(JP,A)
【文献】特開2011-153858(JP,A)
【文献】特開2003-240739(JP,A)
【文献】特表2004-501358(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00 -G01N37/00
G01B15/00 -G01B15/08
H01L21/64 -H01L21/66
G06T 7/00 -G06T 7/90
G06V10/00 -G06V20/90
G06V30/418
G06V40/16
G06V40/20
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDream3)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料上の複数の位置においてそれぞれ分析対象である複数の成分又は元素の量を反映した信号を取得する測定部と、
前記測定部による測定結果に基いて散布図を作成する散布図作成部と、
前記散布図中の点をク
ラスタリングするクラスター分析部と、
前記クラスター分析部により前記散布図中の各点に与えられたクラスタリング情報に基き、クラスター毎に、その頂点の数が
後記頂点数設定部で設定された上限数以下である多角形状のクラスター領域境界情報を求めるクラスター領域検出部と、
ユーザーによる操作に応じて前記多角形状のクラスター領域境界情報の頂点の上限数を設定する頂点数設定部と、
前記散布図上のクラスター毎に求めたクラスター領域境界情報を該散布図上に重畳して表示するとともに、ユーザーによる、該散布図上でのクラスター領域境界情報の頂点の選択、及び、選択した頂点を移動させる操作を受けて、クラスター領域境界情報を変形させる表示処理部と、
を備える表面分析装置。
【請求項2】
前記クラスター領域検出部は、前記散布図において一つのクラスターに属する点を全て抽出し、該点の集合を表す2値画像から該集合に対応する一つのオブジェクトの輪郭線を求め、該輪郭線をその頂点の数が
前記上限数以下である多角形で近似することでクラスター領域境界情報を求める、請求項1に記載の表面分析装置。
【請求項3】
前記クラスター領域検出部は、Douglas-Peuckerアルゴリズムを用いて多角形の近似を行う、請求項2に記載の表面分析装置。
【請求項4】
前記クラスター領域検出部は、前記散布図において一つのクラスターに属する点を全て抽出し、該散布図における該点の位置情報を利用して該点の全てを含む凸包多角形を算出することでクラスター領域境界情報を求める、請求項1に記載の表面分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料上の1次元又は2次元の測定領域に存在する成分や元素の分布を調べる表面分析装置に関する。この表面分析装置は、電子線プローブマイクロアナライザ(Electron Probe Micro Analyzer:EPMA)、走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)、蛍光X線分析装置などを含む。
【背景技術】
【0002】
EPMAを用いた元素マッピング分析では、試料上の2次元領域内の多数の微小領域それぞれについて、含有元素の種類と量を調べることができる。こうした元素マッピング分析で得られた結果を解析する際には、2元素又は3元素についての特性X線強度又はその強度から計算される元素濃度の散布図を作成し、その図上のプロット点の分布から、試料に含まれる化合物の種類や含有割合を確認する手法、即ち、相解析(又は相分析)がしばしば用いられる(特許文献1、2参照)。例えば、特許文献2の
図10には2元散布図の一例が、同文献の
図11には3元散布図の一例が示されている。
【0003】
散布図上の一つの点は試料上の一点(微小領域)に対応する。したがって、散布図上で点が密集している領域は、試料上において含有元素が同じような割合で含まれている部位に対応していると推定される。そこで、相解析では一般に、分析者は、散布図上でプロットされた点が密集している領域を一つのクラスターつまりは関連する点の集合であると認識し、マウスなどのポインティングデバイスを用いてその領域を多角形等の適当な図形で囲む操作を行い、さらに、その領域毎に、異なる表示色を指定する操作を行う。こうした操作がなされると、EPMAの表示装置の画面上には、一又は複数のクラスター領域に含まれる各点にそれぞれ対応した試料上の位置が、指定された色で以て彩色された相マップが表示される。
【0004】
近年、AI(人工知能)技術の急速な進展に伴って、こうした技術を利用して、上述したような散布図上の多数の点を自動的に複数の集合に割り振る処理を行うことが試みられている。こうした処理には、教師無し機械学習の代表的な手法であるクラスター分析が好適である。クラスター分析には様々なアルゴリズムのものが知られているが、散布図上の点をその密度に応じて複数のクラスターに分けるための手法としては、例えば非特許文献1、2等に開示されている密度準拠型クラスター分析(Density-Based Clustering)が有用である。実測により得られた2元散布図に対し、密度準拠型クラスター分析を用いてクラスターを自動的に抽出した例を
図6に示す。この例では、6個のクラスターが抽出されていることが分かる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-125952号公報
【文献】特開2011-153858号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Ester M.、ほか3名、「A Density-Based Algorithm for Discovering Clusters in Large Spatial Databases with Noise」、Proceedings of 2nd International Conference on Knowledge Discovery and Data Mining (KDD-96)、pp.226-231、1996年
【文献】Ricardo J.G.B. Campello、ほか2名、「Density-Based Clustering Based on Hierarchical Density Estimates」、Springer、pp. 160-172、2013年
【文献】「Ramer-Douglas-Peucker algorithm」、Wikipedia、[online]、[2020年11月11日検索」、インターネット<URL: https://en.wikipedia.org/wiki/Ramer%E2%80%93Douglas%E2%80%93Peucker_algorithm>
【文献】Wu S.、ほか1名、「A non-self-intersection Douglas-Peucker algorithm」、Computer Science, Mathematics 16th Brazilian Symposium on Computer Graphics and Image Processing、pp.60-66、2003年
【文献】「Convex hull algorithms」、Wikipedia、[online]、[2020年11月11日検索」、インターネット<URL: https://en.wikipedia.org/wiki/Convex_hull_algorithms>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
散布図に対して上述したような自動的なクラスタリングを行った場合、その結果が分析者によるクラスター領域の判断と一致しないことがしばしば起こる。その理由の一つは、分析者はその試料にどのような元素がどのような割合で含まれるかの事前知識を持っており、その知識の下で判断を行うのに対し、自動的なクラスタリングにはこうした知識に基く情報が反映されにくいことによる。また、相解析では、自動的にクラスタリングされた散布図上の一部の点をクラスターから除外したり複数のクラスターを一つに統合したりする操作を分析者が行いながら、その操作に対応した相マップを確認するという作業も重要である。
【0008】
こうしたことから、自動的なクラスタリングの結果を分析者が手動で修正する或いは変更するという操作は、相解析を行ううえで欠くことができないものである。従来のように分析者が散布図上で多角形等の適当な図形で複数の点を囲むようにクラスター領域を設定していた場合、その領域を変更する等の処理は非常に簡単であった。ところが、自動的なクラスタリングによって得られるクラスタリング情報は、散布図上の各点がいずれのクラスターに属するか(又はいずれのクラスターにも属さないか)という識別情報にすぎず、クラスターの領域としての位置情報は得られない。そのため、自動的に求まったクラスターについて、分析者がクラスター領域の移動や変形、分割、或いは複数クラスターの統合といった操作を行うことは困難である。こうした操作を行う場合、分析者は自動的なクラスタリング結果を一旦リセットし、その結果を参考にしつつ手動でクラスター領域を指定し直す必要がある。そのため、クラスター領域の変形等の作業はかなり面倒であって、作業効率も悪い。
【0009】
本発明はこうした課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、散布図に基いてクラスター領域を特定して相解析等を行う場合に、分析者によるクラスター領域の修正、変更、分割、統合等の作業を簡便に行えるようにすることで、分析者の負担を軽減するとともに、作業効率を改善することができる表面分析装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために成された本発明に係る表面分析装置の一態様は、
試料上の複数の位置においてそれぞれ分析対象である複数の成分又は元素の量を反映した信号を取得する測定部と、
前記測定部による測定結果に基いて散布図を作成する散布図作成部と、
前記散布図中の点をクラスタリングするクラスター分析部と、
前記クラスター分析部により前記散布図中の各点に与えられたクラスタリング情報に基き、クラスター毎に、その頂点の数が所定数以下である多角形状のクラスター領域境界情報を求めるクラスター領域検出部と、
を備える。
【0011】
本発明に係る表面分析装置は例えば、EPMA、SEM、蛍光X線分析装置などの分析装置である。こうした分析装置では、試料上で励起線(電子線やX線など)を照射する位置を変更しながら測定を繰り返すことで、試料上の2次元領域又は1次元領域内の多数の位置それぞれにおける複数の元素の存在量を反映した信号を取得することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る表面分析装置の上記態様において、クラスター分析部は例えば密度準拠型クラスター分析のアルゴリズムを用いて散布図上の全ての点のクラスタリングを行う。これにより、散布図上の全ての点にはそれぞれ、いずれのクラスターに属するのか(又はどこにも属さないのか)のラベル付けがなされる。このラベルがクラスタリング情報である。クラスター領域検出部は、少なくとも各点のクラスタリング情報に基いて、クラスター毎に、そのクラスター領域の内部と外部との境界線となる多角形状の図形をクラスター領域境界情報として求める。このクラスター領域境界情報は、必ずしもそのクラスターのラベル付けがなされた点の全てを包含するとは限らない。
【0013】
本発明に係る表面分析装置の上記態様では、散布図において自動的にクラスタリングされた複数のクラスターそれぞれが占める領域を確定することができる。この確定されたクラスター領域は散布図において大きさと位置情報とを有するものである。したがって、本発明に係る表面分析装置の上記態様によれば、例えばクラスター領域の変形、移動、分割、統合などの図形としての操作に対応する処理を容易に行うことができる。それにより、相解析に際しての分析者の作業の負担が軽減され、作業効率も改善される。また本発明に係る表面分析装置の上記態様では、クラスター毎の領域の面積値、周囲長などの数値を計算し、異なるクラスター間でこれらを比較することも容易である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態であるEPMAの要部の構成図。
【
図2】本実施形態のEPMAにおけるクラスター領域検出のための処理手順の一例を示すフローチャート。
【
図3】本実施形態のEPMAにおけるクラスター領域検出のための処理手順の他の例を示すフローチャート。
【
図4】
図2に示した処理手順により生成されたクラスター領域境界線を示す図。
【
図5】
図3に示した処理手順により生成されたクラスター領域境界線を示す図。
【
図6】2元散布図に対して自動的にクラスタリングを行った例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る表示分析装置の一実施形態であるEPMAについて、添付図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態のEPMAの要部の構成図である。
【0016】
図1に示すように、電子線照射部1は電子銃100や図示しない偏向コイル等を含み、微小径の電子線を試料ステージ2上に載置された試料3に照射する。この電子線を受けて、元素に特有の波長を有する特性X線が試料3の表面から放出される。また、試料3の表面からは2次電子なども放出される。
【0017】
試料3から放出された特性X線は分光結晶4で波長分散され、特定の波長の回折X線がX線検出器5により検出される。試料3上の電子線照射位置と分光結晶4とX線検出器5とは常にローランド円上に位置しており、図示しない駆動機構によって分光結晶4は直線的に移動しつつ傾斜され、この移動に連動してX線検出器5は回動される。これにより、ブラッグの回折条件を満たすように、つまり分光結晶4に対する特性X線の入射角と回折X線の出射角とが等しい状態に保たれながら、分析対象であるX線の波長走査が達成される。X線検出器5によるX線強度の検出信号は、データ処理部9に入力される。また、電子検出器6は試料3から放出された2次電子を検出し、その電子強度である検出信号をデータ処理部9に入力する。
【0018】
試料ステージ2は試料ステージ駆動部7により互いに直交するX軸、Y軸の二軸方向にそれぞれ移動可能であり、この移動によって、試料3上での電子線の照射位置が2次元的に走査される。また、試料ステージ2を移動させるのではなく、電子線照射部1において電子線の射出方向の偏向させることで、試料3上での電子線の照射位置を走査することもできる。
【0019】
データ処理部9は、機能ブロックとして、元素強度算出部90、データ保存部91、散布図作成部92、クラスター分析部93、クラスター領域検出部94、観察画像作成部95、表示処理部96などを含む。分析制御部8は試料3に対する分析を実行するために、試料ステージ駆動部7、分光結晶4やX線検出器5を移動させる駆動機構などの動作を制御する。中央制御部10は装置全体の制御や入出力処理を担うものであり、中央制御部10には、キーボードやマウス(又はそれ以外のポインティングデバイス)を含む操作部11、及び表示部12が接続されている。
【0020】
なお、例えば、中央制御部10、分析制御部8、及びデータ処理部9の全て又は一部は、パーソナルコンピューターにより構成され、該コンピューターにインストールされた専用の制御・処理ソフトウェアを該コンピューターで実行することにより、それぞれの機能が達成されるものとすることができる。
【0021】
本実施形態のEPMAにおいて元素マッピング分析を行う場合、分析制御部8は、目的とする元素の特性X線波長に対応して分光結晶4の位置を固定し、試料3上の所定の(通常は分析者により指定された)2次元領域内で電子線の照射位置(微小領域)を所定の順序で変更しつつ、特性X線及び2次電子の検出を繰り返すように、試料ステージ駆動部7等を動作させる。そして、一つの元素についての強度分布の取得を終了したならば、他の目的元素について同様の測定を実行する。元素強度算出部90は、試料3上の微小領域毎に目的元素の強度(濃度)を取得する。この強度データがデータ保存部91に格納される。なお、エネルギー分散型X線分光器を用いた場合には、元素強度算出部90は、2次元領域内の微小領域毎にそれぞれX線スペクトルを作成し、そのX線スペクトル上で目的元素に対応する特定波長のピークを検出し、そのピーク強度を求めることによって目的元素の強度(濃度)を算出することができる。
【0022】
試料3上の2次元領域内の全ての微小領域についての測定が終了し、分析者が操作部12から所定の操作を行うと、散布図作成部92はデータ保存部91から所定のデータを読み出し、二つの元素の強度の関係を示す散布図(2元散布図)を作成する。散布図上の各点はそれぞれ試料3上の微小領域に対応する。したがって、例えば試料3上で1000個の微小領域に対して測定が実行されれば、散布図上にプロットされる点の数は1000である。
【0023】
クラスター分析部93は、作成された散布図上の点について所定のアルゴリズムに従ってクラスタリングを実行し、各点に、一又は複数のクラスターのいずれに属するか又はいずれにも属さないかのラベル付けを行う。
【0024】
クラスター分析には様々な手法が知られている。一般に、こうした散布図上の点のクラスタリングでは、点間の距離を利用したクラスタリングが行われる。EPMA等の表面分析で得られる散布図では、点が極端に高い密度で存在する部分と低い密度で存在する部分とが生じることがしばしばある。こうした場合、点が高い密度で存在する部分では点間の距離が相対的に短くても別のクラスターに分離しないと、極端に点の数が大きなクラスターが形成されてしまう。逆に、点が低い密度で存在する部分では点間の距離が相対的に長くても同一のクラスターに含めないと、極端に点の数が少ないクラスターが多数形成されてしまう。こうしたことに対応するため、ここでは、非特許文献2に開示されている階層的な密度推算に基く密度準拠型クラスター分析の手法を採用している。この手法は、非特許文献1に開示されている一般的な密度準拠型クラスター分析を改良したものであり、本発明者の検討によれば、散布図における点をかなり良好にクラスタリングすることが可能である。
【0025】
図4及び
図5には、実測により得られた散布図に対し上記手法によるクラスタリングを実施した結果(但し、後述するクラスター領域境界線を除く)を示している。この例では、点が密集する部分について9個のクラスターが抽出されている。
【0026】
上記のクラスタリングの結果は、散布図上の各点にそれぞれクラスターを示すラベル付けがされた状態であって、各クラスターはあくまでも点の集合でしかない。そこで、次にクラスター領域検出部94は、散布図上で各クラスターが占める領域をそれぞれ求める。一つのクラスターに対応する領域は、その頂点の数が所定個数以下に制限された多角形状の領域である。
【0027】
頂点の数を制限するのは、あとでクラスター領域の形状を変形させたり、その領域を分割或いは統合したりする際に、その操作及び処理を簡単にするためである。但し、頂点の数を少なくしすぎるとクラスター領域の形状が単純になりすぎ、抽出された点が存在する領域との乖離が大きくなる。逆に、頂点の数を多くするとクラスター領域の形状が複雑になりすぎ、上述した変形等の操作及び処理の簡単化が達成できなくなる。そこで、この装置では、頂点の数の上限の範囲を予め決めておき、その範囲内でユーザー(分析者)が上限数を選択できるようにしている。具体的には、画面上に表示するパラメータ設定ウインドウ内にスライダーを設けておき、そのスライダーの操作によって頂点の上限数を変更できるようにしている。
【0028】
散布図におけるクラスター領域の検出には、輪郭検出法と凸包法という二つの手法のいずれかを用いることができる。これらについてそれぞれ説明する。
【0029】
(1)輪郭検出法
この輪郭検出法では、散布図上で一つのクラスターに属する点の集合を一つのオブジェクトとして扱い、そのオブジェクトの画像に対し画像処理によって輪郭を抽出し、さらに抽出された輪郭を多角形で近似する。このときの処理の手順を
図2により具体的に述べる。
【0030】
まず、クラスター領域検出部94は、散布図上でクラスターとして抽出された各点にクラスター毎に異なる表示色を割り当てることで、彩色された散布図を作成する(ステップS1)。次にクラスター領域検出部94は、その彩色散布図から処理対象である一つのクラスターの表示色の点のみを抽出して抽出画像を得る(ステップS2)。
【0031】
この抽出画像は、いわば点描画である。そこで、クラスター領域検出部94は、抽出画像上の各点に所定の大きさを与え、そのうえで2値化して2値化画像を得る(ステップS3)。但し、抽出画像上で各点に所定の大きさを与えるのは、抽出画像上でごく近傍に隣接する二つの点にそれぞれ対応する画素が繋がるようにするためであるので、もともと抽出画像においてそうした画素が繋がっていれば、上記処理は単なる2値化のみでよい。
【0032】
上記2値化画像は、処理対象のクラスターに対応する一つのオブジェクトが白色、背景が黒色である画像である。クラスター領域検出部94は、例えば、画像全体の左上端の画素から1画素ずつ順番にスキャンを行って、最初に見つかった白色の画素を一つのオブジェクトの輪郭の開始点として認識する。そして、その開始点の画素から反時計回りに、黒色の画素に接する白色の画素を順番に辿る。そして、開始点の画素に戻ったならば、そのオブジェクトの輪郭線の探索を終了する。こうして、クラスター領域検出部94は、一つのオブジェクトの輪郭線を構成する輪郭画素を抽出する(ステップS4)。但し、
図4、
図5の例でもそうであるように、一つのオブジェクトの全体が白色の画素になっているとは限らず、内側の一部の画素が黒色である場合もある。したがって、そうしたオブジェクトの内側に孤立して存在する黒色画素の領域に接している白色画素を抽出しないように、探索の際に条件を課すとよい。
【0033】
ステップS4の画像処理によって、一つのクラスター領域に対応するオブジェクトの輪郭線が求まる。但し、多くの場合、この輪郭線は実質的には曲線に近い、非常に多くの頂点を有する多角形状である。そこで、クラスター領域検出部94は、得られた輪郭線を頂点が所定個数以下の多角形で近似する処理を行って近似輪郭線を得る。この処理には、よく知られているDouglas-Peuckerアルゴリズム(非特許文献3、4参照)を利用することができる(ステップS5)。一般的に、Douglas-Peuckerアルゴリズムは複数の点を有する折れ線分を単純化するアルゴリズムであるが、多角形の場合に頂点から適宜2点を選択して初期の折れ線分として設定することにより、Douglas-Peuckerアルゴリズムを多角形に拡張可能であることはよく知られている。
【0034】
ステップS5の処理により、一つのクラスター領域を画定する近似輪郭線を求めることができる。この近似輪郭線は、その輪郭を表す多角形の頂点の座標で表現される。この場合の頂点の座標は、散布図の画像上における画素の位置である。次に、クラスター領域検出部94は、散布図において抽出された全てのクラスターについての処理が終了したか否かを判定し(ステップS6)、未処理のクラスターがあればステップ2に戻り、次の処理対象クラスターについてステップS2~S6の処理を実施する。
【0035】
ステップS2~S6の処理を抽出されたクラスターの数だけ繰り返すことで、散布図上の全てのクラスターについて近似輪郭線を求めることができる。そして、表示処理部96は、近似輪郭線をクラスター領域境界線として散布図上に表示する(ステップS7)。
【0036】
図4には、この輪郭検出法によって得られたクラスター領域境界線を示している。
図4から分かるように、この輪郭検出法により生成されたクラスター領域境界線では、そのクラスターに属する点が境界線の外側になる場合があり得るものの、そのクラスターに属する点の集合の範囲を良好に画定している。
【0037】
(2)凸包法
凸包とは、与えられた点を全て包含する最小の凸多角形のことである。非特許文献5に開示されているように、凸包法には様々なアルゴリズムが知られているが、いずれのアルゴリズムでも、指定された全ての点を内包するような多角形を求めることができる。このときの処理の手順を
図3により具体的に述べる。
【0038】
まず、クラスター領域検出部94は、散布図上の全ての点から処理対象である一つのクラスターに属する全ての点を抽出し、その点集合における各点の位置情報(散布図画像上のx、y座標)を取得する(ステップS11)。そのあと、クラスター領域検出部94は、頂点の数が所定個数以下であるという条件を課して凸包法により、上記点集合に含まれる全ての点を包含する凸包多角形を求める(ステップS12)。
【0039】
次に、クラスター領域検出部94は、散布図において抽出された全てのクラスターについての処理が終了したか否かを判定し(ステップS13)、未処理のクラスターがあればステップ11に戻り、次の処理対象クラスターについてステップS11~S13の処理を実施する。ステップS11~S13の処理を抽出されたクラスターの数だけ繰り返すことで、散布図上の全てのクラスターについて凸包多角形を求めることができる。この場合にも、凸包多角形は、その多角形の頂点の座標で表現される。そして、表示処理部96は、凸包多角形をクラスター領域境界線として散布図上に表示する(ステップS14)。
【0040】
図5には、この凸包法によって得られたクラスター領域境界線を示している。
図5から分かるように、この凸包法により生成されたクラスター領域境界線では、輪郭検出法に比べてそのクラスターに属さない点を包含し易くなるものの、そのクラスターに属する点を漏らすことなくクラスター領域を画定することができる。
【0041】
本実施形態のEPMAでは、上述のようにして散布図における各点を自動的にクラスタリングした結果に基いて多角形状のクラスター領域を確定することができる。例えば相解析を行う際に、分析者がクラスター領域の形状を変形したり複数のクラスター領域を統合したりする場合には次のような処理を行う。
【0042】
分析者が相解析を行うべく操作部11で所定の操作を行うと、表示処理部96は、散布図と分布図とを並べた相解析画面を表示部12の画面上に表示する。分布図としては、観察画像作成部95が2次電子強度データに基いて作成した試料3上の測定領域のSEM画像などが表示される。散布図としては、
図4又は
図5に示したようにクラスター領域境界線が重畳された散布図が表示される。
【0043】
分析者が例えばクラスター領域の形状を変形したい場合、分析者は操作部11により、散布図上で変形させたいクラスター領域境界線の頂点を指定する。そして、分析者は、その頂点をドラッグする操作を行って散布図上の任意の位置まで移動させる。これにより、クラスター領域境界線の形状が変形する。また、複数のクラスター領域を統合して一つのクラスター領域としたい場合には、例えば、複数のクラスター領域においてそれぞれのクラスター領域境界線における二つの頂点の間を繋ぐ直線を削除する操作を行い、それに代えて異なるクラスター領域境界線の頂点間に新たな直線を加える操作を行う。これにより、複数のクラスター領域を統合することができる。このようにクラスター領域の移動、変形、分割、統合等のための操作は非常に簡便である。また、こうした操作に対応した処理は実質的には、多角形状のクラスター領域境界線の頂点の座標を変更するだけであるので、コンピューターにおける処理も非常に簡単であってその負荷は小さい。
【0044】
なお、上記実施形態はEPMAであるが、本発明は、SEM、蛍光X線分析装置など、試料上の1次元的又は2次元的な領域内の多数の微小領域においてそれぞれ元素や成分(化合物など)の量を反映した信号を取得することが可能である様々な分析装置全般に適用可能である。即ち、本発明は測定手法や分析手法そのものは特に問わず、マッピング分析が可能である分析装置であればよい。
【0045】
また、上記実施形態は本発明の一例にすぎず、本発明の趣旨の範囲で適宜変形、修正、追加等を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは当然である。
【0046】
[種々の態様]
上述した例示的な実施形態が以下の態様の具体例であることは、当業者には明らかである。
【0047】
(第1項)本発明に係る表面分析装置の一態様は、
試料上の複数の位置においてそれぞれ分析対象である複数の成分又は元素の量を反映した信号を取得する測定部と、
前記測定部による測定結果に基いて散布図を作成する散布図作成部と、
前記散布図中の点をクラスタリングするクラスター分析部と、
前記クラスター分析部により前記散布図中の各点に与えられたクラスタリング情報に基き、クラスター毎に、その頂点の数が所定数以下である多角形状のクラスター領域境界情報を求めるクラスター領域検出部と、
を備える。
【0048】
第1項に記載の表面分析装置では、散布図において自動的にクラスタリングされた複数のクラスターそれぞれが占める領域を確定することができる。この確定されたクラスター領域は、散布図において大きさと位置情報とを有するものである。したがって、第1項に記載の装置によれば、例えばクラスター領域の変形、移動、分割、統合などの図形としての操作とそれに対応する処理を容易に行うことができる。それにより、相解析に際しての分析者の作業の負担が軽減され、作業効率も改善される。また第1項に記載の装置によれば、クラスター毎の領域の面積値、周囲長などの数値を計算し、異なるクラスター間でこれらを比較することも可能となる。
【0049】
(第2項)第1項に記載の表面分析装置において、前記クラスター領域検出部は、前記散布図において一つのクラスターに属する点を全て抽出し、該点の集合を表す2値画像に対する画像処理により該集合に対応する一つのオブジェクトの輪郭線を求め、該輪郭線をその頂点の数が所定数以下である多角形で近似することでクラスター領域境界情報を求めるものとすることができる。
【0050】
(第3項)第2項に記載の表面分析装置において、前記クラスター領域検出部は、Douglas-Peuckerアルゴリズムを用いて多角形の近似を行うものとすることができる。
【0051】
第2項及び第3項に記載の表面分析装置によれば、一つのクラスターに属する点の大部分を包含し、そのクラスターに属さない点を殆ど包含しないようなクラスター領域境界情報を得ることができる。
【0052】
(第4項)また第1項に記載の表面分析装置において、前記クラスター領域検出部は、前記散布図において一つのクラスターに属する点を全て抽出し、該散布図における該点の位置情報を利用して該点の全てを含む凸包多角形を算出することでクラスター領域境界情報を求めるものとすることができる。
【0053】
第4項に記載の表面分析装置によれば、一つのクラスターに属する全ての点を漏らさず包含するようなクラスター領域境界情報を得ることができる。
【0054】
(第5項)また第1項乃至第4項のいずれか1項に記載の表面分析装置は、前記散布図上のクラスター毎に求めたクラスター領域境界情報を該散布図上に重畳して表示するとともに、該散布図上でのクラスター領域境界情報の頂点の選択、及び、選択した頂点を移動させる操作を受けて、クラスター領域境界情報を変形させる表示処理部、をさらに備えるものとすることができる。
【0055】
上述したように、多角形状のクラスター領域境界情報は、実質的にはその多角形の頂点の位置情報から成り、クラスター領域境界情報における頂点の移動は、単なる位置情報の変更である。したがって、第5項に記載の表面分析装置によれば、クラスター領域の形状の変形、移動、分割、統合等の操作が容易であるのみならず、操作に対応した装置内部での処理も非常に簡単である。
【符号の説明】
【0056】
1…電子線照射部
100…電子銃
2…試料ステージ
3…試料
4…分光結晶
5…X線検出器
6…電子検出器
7…試料ステージ駆動部
8…分析制御部
9…データ処理部
90…元素強度算出部
91…データ保存部
92…散布図作成部
93…クラスター分析部
94…クラスター領域検出部
95…観察画像作成部
96…表示処理部
10…中央制御部
11…操作部
12…表示部