(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】通信制御装置、通信制御方法、及び中継サーバ
(51)【国際特許分類】
H04L 47/24 20220101AFI20240409BHJP
H04L 45/302 20220101ALI20240409BHJP
H04L 12/28 20060101ALI20240409BHJP
H04W 76/18 20180101ALI20240409BHJP
H04W 88/06 20090101ALI20240409BHJP
H04W 4/44 20180101ALI20240409BHJP
H04W 40/02 20090101ALI20240409BHJP
H04W 48/18 20090101ALI20240409BHJP
【FI】
H04L47/24
H04L45/302
H04L12/28 100A
H04W76/18
H04W88/06
H04W4/44
H04W40/02
H04W48/18 110
(21)【出願番号】P 2020201138
(22)【出願日】2020-12-03
【審査請求日】2023-04-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】星野 正幸
(72)【発明者】
【氏名】生島 佳祐
【審査官】前田 健人
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-260540(JP,A)
【文献】特開2006-261924(JP,A)
【文献】特開2018-093396(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04L 47/24
H04L 45/302
H04L 12/28
H04W 76/18
H04W 88/06
H04W 4/44
H04W 40/02
H04W 48/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの通信回線を利用可能に構成されてあって、車両で実行される複数のアプリケーション(81)のそれぞれと外部装置(4)との前記通信回線を用いた通信を制御する通信制御装置であって、
前記アプリケーションから前記外部装置とのデータ通信の開始要求を受け付ける要求受付部(S12A)と、
前記開始要求の要求元である前記アプリケーションから、前記外部装置との前記データ通信に係る条件を示す通信条件を取得する通信条件取得部(F33)と、
前記通信条件に応じた前記データ通信を実施可能であるか否かを、前記通信回線の状態、及び、通信実行中の他の前記アプリケーションである先行アプリの前記通信条件の少なくとも何れか一方に基づいて判断する通信可否判断部(S13)と、
前記通信可否判断部によって前記要求元と前記外部装置との前記通信が可能であると判定されたことに基づき、前記要求元から前記外部装置までの通信経路を設定する処理を行う経路設定部(F34)と、
前記通信可否判断部の判断結果を示す情報を前記要求元に返送する応答部(S15、S21)と、を備え、
前記通信経路の設定は、前記要求元へのソースポート番号の割当を含み、
前記応答部は、前記通信可否判断部によって前記データ通信は可能であると判定された場合には、前記ソースポート番号を前記要求元に通知するように構成されている通信制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の通信制御装置であって、
前記応答部は、前記通信可否判断部によって前記データ通信は可能ではないと判定された場合には、通信不可であることを示す割当不可応答として、前記通信条件を充足する通信を実施可能となるまでの待機時間の見込み値、及び、現在の状況において実施可能な通信条件の少なくとも何れか一方を含むメッセージを前記要求元に返送するように構成されている通信制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の通信制御装置であって、
前記応答部は、前記通信可否判断部によって前記データ通信は可能であると判定された場合には、前記ソースポート番号とともに、通信の実施権があることを示すトークンを前記要求元に送出するように構成されている通信制御装置。
【請求項4】
請求項1から3の何れか1項に記載の通信制御装置であって、
前記通信条件は、通信開始まで許容可能な待ち時間を示す許容待ち時間、許容可能な応答遅延時間を示す許容遅延時間、前記アプリケーションが利用可能なキャッシュ領域に送信用データを保持できる残り時間を示すデータ保持可能時間、送受信するデータサイズの想定値、及び、データの欠損を許容するか否かの少なくとも何れか1つの項目についての情報を含んでいる通信制御装置。
【請求項5】
請求項1から4の何れか1項に記載の通信制御装置であって、
前記通信可否判断部は、前記要求元の前記通信条件と前記先行アプリの前記通信条件とを比較して、前記先行アプリと前記要求元の通信のどちらを優先するべきかを判断し、
前記経路設定部は、前記要求元を優先するべきと判断した場合には、前記先行アプリに割り当てている通信帯域の一部又は全部を前記要求元の通信に割り当てるように構成されている通信制御装置。
【請求項6】
請求項1から5の何れか1項に記載の通信制御装置であって、
前記通信条件は、通信開始まで許容可能な待ち時間を示す許容待ち時間を含み、
前記経路設定部は、前記要求元の前記通信条件に含まれる前記許容待ち時間が所定の割り込み閾値未満となっている場合には、前記先行アプリに割り当てている通信帯域の一部又は全部を前記要求元の通信に割り当てるように構成されている通信制御装置。
【請求項7】
請求項1から6の何れか1項に記載の通信制御装置であって、
前記通信条件は、許容可能な応答遅延時間を示す許容遅延時間を含み、
前記通信回線の前記応答遅延時間を観測する回線特性取得部(F32)を備え、
前記通信可否判断部は、前記回線特性取得部によって取得されている前記応答遅延時間の観測値が、前記要求元の前記通信条件に含まれる前記許容遅延時間よりも小さい前記通信回線が存在しない場合には、前記通信条件に応じた通信を実施できないと判定する通信制御装置。
【請求項8】
請求項1から7の何れか1項に記載の通信制御装置であって、
前記通信条件は、前記アプリケーションが利用可能なキャッシュ領域に送信用データを保持できる残り時間を示すデータ保持可能時間を含み、
前記経路設定部は、前記要求元の前記通信条件に含まれる前記データ保持可能時間が所定の割り込み閾値未満となっている場合には、前記先行アプリに割り当てていた通信帯域の一部又は全部を前記要求元の通信に割り当てるように構成されている通信制御装置。
【請求項9】
請求項1から8の何れか1項に記載の通信制御装置であって、
前記通信条件は、データの欠損を許容するか否かを含み、
前記経路設定部は、前記要求元の前記通信条件がデータの欠損を許容しないことを含んでいる場合には、前記先行アプリに割り当てていた通信帯域の一部又は全部を前記要求元の通信に割り当てるように構成されている通信制御装置。
【請求項10】
請求項1から9の何れか1項に記載の通信制御装置であって、
複数の前記アプリケーションのそれぞれには固有の識別情報であるアプリ識別子が設定されており、
前記開始要求には前記要求元の前記アプリ識別子が含まれており、
前記要求元に割り当てた前記ソースポート番号と、前記ソースポート番号を用いて送受信された通信回線毎のデータ量とを紐付けて管理する通信量管理部(F35)を備える通信制御装置。
【請求項11】
少なくとも1つの通信回線を用いて実行される、車両で使用される少なくとも1つのアプリケーション(81)と前記車両の外部に存在する通信装置である外部装置(4)との通信の実施状況を制御する通信制御方法であって、
前記アプリケーション(81)が、前記車両で使用される無線通信装置(7)に向けて、前記外部装置とのデータ通信の開始要求を送信すること(S10)と、
前記無線通信装置が、前記開始要求の要求元である前記アプリケーションから、前記外部装置との前記データ通信に係る条件を示す通信条件を取得すること(S101)と、
前記無線通信装置が、前記通信回線の状態、及び、通信実行中の他の前記アプリケーションである先行アプリの前記通信条件の少なくとも何れか一方に基づいて、前記要求元の前記通信条件に応じた通信を実施可能であるか否かを判断すること(S13)と、
前記要求元と前記外部装置との前記通信が可能であると判定されたことに基づき、前記無線通信装置が、前記要求元のためのソースポート番号を確保するとともに、前記要求元から前記外部装置までの通信経路を設定すること(S14)と、
前記無線通信装置が、前記要求元から前記外部装置までの通信経路に関する情報として少なくとも前記ソースポート番号を含む経路情報を、前記要求元に対して通知すること(S15)と、
前記要求元は、前記ソースポート番号を用いて前記外部装置と暗号通信を実行すること(S19)と、を含む通信制御方法。
【請求項12】
車両で使用されるアプリケーション(81)と、前記アプリケーションと連携して動作する外部装置(4)とのデータ通信を中継する中継サーバ(5)であって、
前記アプリケーションとの通信は、前記車両に搭載されている無線通信装置(7)を介して通信するように構成されており、
前記無線通信装置は、所定の複数の通信回線の中から前記アプリケーションが指定する通信条件を充足する通信回線を選択的に用いるように構成されており、
前記無線通信装置から、前記アプリケーションに割り当てているソースポート番号を含む通信経路情報を、前記アプリケーションの識別情報であるアプリ識別子と対応付けて取得する経路情報取得部(G1)と、
前記アプリケーションに割り当てられている前記ソースポート番号を用いて送受信された通信回線毎のデータ量を、前記アプリ識別子またはソースポート番号と紐付けて管理する通信量管理部(G3)と、を備える中継サーバ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両で使用されるアプリケーションとサーバとの通信を中継する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車両が備える複数のECU(Electronic Control Unit)が、通信装置を介して、車両外部に配されているサーバとデータ通信を行う構成が開示されている。また、特許文献1に開示の通信装置は、通信装置からサーバへのデータの送信の効率化を図るために、予めECU毎に設定されている優先度に基づいてデータの送信順を調整する構成が開示されている。具体的には、優先度の高いECUから入力されたデータを、優先度が相対的に低いECUからのデータよりも先にサーバに送信する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、予め設定された優先度に基づいてアプリケーション毎のパケット送信順を調整する構成は開示されている。しかしながら、特許文献1には、アプリケーション毎に通信回線/通信帯域の割り当て状態を動的に制御する技術については何ら言及されていない。
【0005】
アプリケーション毎の通信回線/通信帯域の割当状態を動的に制御する方法としては、例えば、アプリケーション毎に予め優先度を設定しておき、当該優先度を用いてアプリケーション毎の割当状態を調整する方法が考えられる。
【0006】
しかしながら、今後は、車両に搭載されるアプリケーションは動的に変更されうる。また、車両毎に搭載されるアプリケーションの組み合わせは異なることが想定される。故に、無線通信を制御する通信制御装置に、アプリケーション毎の優先順位を事前に登録しておくことは難しい。加えて、アプリケーション毎に、例えば要求する通信速度や、レイテンシ、セキュリティレベル、許容可能な通信料の上限値などといった、データ通信に係る特性や設定(つまり通信条件)は異なりうる。そのため、優先度という1つのパラメータでは、アプリケーション毎の通信回線の割当状態を適正に制御することは難しい。
【0007】
本開示は、この事情に基づいて成されたものであり、その目的とするところは、アプリケーション毎の通信特性に応じた通信経路を設定可能な通信制御装置、通信制御方法、及び中継サーバを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
その目的を達成するための通信制御装置は、少なくとも1つの通信回線を利用可能に構成されてあって、車両で実行される複数のアプリケーション(81)のそれぞれと外部装置(4)との通信回線を用いた通信を制御する通信制御装置であって、アプリケーションから外部装置とのデータ通信の開始要求を受け付ける要求受付部(S12A)と、開始要求の要求元であるアプリケーションから、外部装置とのデータ通信に係る条件を示す通信条件を取得する通信条件取得部(F33)と、通信条件に応じたデータ通信を実施可能であるか否かを、通信回線の状態、及び、通信実行中の他のアプリケーションである先行アプリの通信条件の少なくとも何れか一方に基づいて判断する通信可否判断部(S13)と、通信可否判断部によって要求元と外部装置との通信が可能であると判定されたことに基づき、要求元から外部装置までの通信経路を設定する処理を行う経路設定部(F34)と、通信可否判断部の判断結果を示す情報を要求元に返送する応答部(S15、S21)と、を備え、通信経路の設定は、要求元へのソースポート番号の割当を含み、応答部は、通信可否判断部によってデータ通信は可能であると判定された場合には、ソースポート番号を要求元に通知するように構成されている。
【0009】
上記構成によれば、予め設定された優先度ではなく、通信開始の要求元としてのアプリケーションから通知される通信条件と、通信回線の状態と、先行アプリの通信条件とに基づいて、要求元の通信条件に応じたデータ通信が実施可能か否かを判断する。また、通信可能であると判定した場合には、要求元に対する通信経路を要求元の通信条件に基づいて設定する。このような構成によれば、車両で使用されるアプリケーションが変更されたり、車両毎に搭載アプリケーションの組み合わせが異なっていたりしても、アプリケーション毎の通信特性に応じた通信経路を設定可能となる。
【0010】
また上記目的を達成するための通信制御方法は、少なくとも1つの通信回線を用いて実行される、車両で使用される少なくとも1つのアプリケーション(81)と車両の外部に存在する通信装置である外部装置(4)との通信の実施状況を制御する通信制御方法であって、アプリケーション(81)が、車両で使用される無線通信装置(7)に向けて、外部装置とのデータ通信の開始要求を送信すること(S10)と、無線通信装置が、開始要求の要求元であるアプリケーションから、外部装置とのデータ通信に係る条件を示す通信条件を取得すること(S101)と、無線通信装置が、通信回線の状態、及び、通信実行中の他のアプリケーションである先行アプリの通信条件の少なくとも何れか一方に基づいて、要求元の通信条件に応じた通信を実施可能であるか否かを判断すること(S13)と、要求元と外部装置との通信が可能であると判定されたことに基づき、無線通信装置が、要求元のためのソースポート番号を確保するとともに、要求元から外部装置までの通信経路を設定すること(S14)と、無線通信装置が、要求元から外部装置までの通信経路に関する情報として少なくともソースポート番号を含む経路情報を、要求元に対して通知すること(S15)と、要求元は、ソースポート番号を用いて外部装置と暗号通信を実行すること(S19)と、を含む。
【0011】
さらに上記目的を達成するための中継サーバは、車両で使用されるアプリケーション(81)と、アプリケーションと連携して動作する外部装置(4)とのデータ通信を中継する中継サーバ(5)であって、アプリケーションとの通信は、車両に搭載されている無線通信装置(7)を介して通信するように構成されており、無線通信装置は、所定の複数の通信回線の中からアプリケーションが指定する通信条件を充足する通信回線を選択的に用いるように構成されており、無線通信装置から、アプリケーションに割り当てているソースポート番号を含む通信経路情報を、アプリケーションの識別情報であるアプリ識別子と対応付けて取得する経路情報取得部(G1)と、アプリケーションに割り当てられているソースポート番号を用いて送受信された通信回線毎のデータ量を、アプリ識別子またはソースポート番号と紐付けて管理する通信量管理部(G3)と、を備える。
【0012】
なお、特許請求の範囲に記載した括弧内の符号は、一つの態様として後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであって、本開示の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】車両用通信システム100の全体構成を説明するための図である。
【
図2】ACPサーバ5の構成及び機能を説明するためのブロック図である。
【
図3】車載通信システム1の構成を示すブロック図である。
【
図4】無線通信装置7の機能を説明するためのブロック図である。
【
図5】通信条件に含まれうる項目の一例を示す図である。
【
図6】通信条件に適合する通信経路を割当可能な場合のシーケンス図である。
【
図7】通信条件に適合する通信経路を割当不能な場合のシーケンス図である。
【
図8】経路割当処理についてのフローチャートである。
【
図9】許容RTTを用いて割当回線を選定する処理についてのフローチャートである。
【
図10】許容待ち時間を用いて先行アプリの通信を維持するか否かを判断する処理についてのフローチャートである。
【
図11】データ保持可能時間を用いて先行アプリの通信を維持するか否かを判断する処理についてのフローチャートである。
【
図12】データ欠損フラグを用いて先行アプリの通信を維持するか否かを判断する処理についてのフローチャートである。
【
図13】通信量管理部の作動を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の実施形態について図を用いて説明する。
図1は、本開示に係る車両用通信システム100の概略的な構成の一例を示す図である。車両用通信システム100は、例えばLTE(Long Term Evolution)に準拠した無線通信を提供する。実施形態で説明を省略している部分は、LTEの規格で定められている方法で行われるものとする。なお、車両用通信システム100は、3G規格や、4G規格、5G規格などに準拠した無線通信を提供するものであってもよい。以降ではLTE、3G、4G、5GなどをまとめてLTE等とも記載する。以下の実施形態は、3Gや4G、5Gなどに準拠するように適宜変更して実施可能である。
【0015】
<全体構成>
図1に示すように車両用通信システム100は、車載通信システム1、セルラー基地局2、コアネットワーク3、サーバ4、及びACPサーバ5を含む。また、車両用通信システム100は、任意の要素としてWi-Fi基地局6を含みうる。なお、
図1にはセルラー基地局2、Wi-Fi基地局6を1つずつしか示していないが、これらは複数存在しうる。
【0016】
車載通信システム1は、車両Hvに構築されている通信システムである。車載通信システム1は、以下の説明の通り、複数のアプリケーション(以降、アプリ81)を備え、各アプリ81に対応する複数のサーバ4のそれぞれとデータ通信を実施する。サーバ4が外部装置に相当する。
【0017】
車載通信システム1を搭載した車両Hvもまた、
図1には1つしか示していないが、システム全体としては複数存在しうる。各車両Hvに搭載されているECU(Electronic Control Unit)の仕様や、ECUにインストールされているアプリ81のバージョン等は異なりうる。ECUの仕様には、OS(Operating System)や、車両電源オフ時のアプリ81の起動状態などが含まれうる。
【0018】
車載通信システム1はセルラー回線及びWi-Fi回線といった、通信方式が異なる複数種類の無線通信サービス(換言すれば通信回線)を利用可能に構成されている。ここでのセルラー回線とは、セルラー基地局2を介した通信回線、換言すればLTE/4G/5G規格に準拠した通信回線を指す。また、Wi-Fi回線とは、Wi-Fi基地局6を経由する通信回線を指す。Wi-Fi回線は、Wi-Fi基地局6の通信エリア内に車両Hvが存在する場合に実施可能となる。
【0019】
セルラー基地局2は、車載通信システム1とLTE等の規格に準拠した無線信号を送受信する設備である。セルラー基地局2は、eNB(evolved NodeB)とも称される。セルラー基地局2は、5Gで使用されるgNB(next generation NodeB)であってもよい。セルラー基地局2は、所定のセル毎に配置されている。セルは、1つのセルラー基地局2がカバーする通信可能な範囲を指す。なお、セルラー基地局2そのものがセルと呼ばれる場合もある。
【0020】
セルラー基地局2は、IP(Internet Protocol)ネットワーク等のアクセス回線を介してコアネットワーク3と接続されている。セルラー基地局2は、無線通信装置7とコアネットワーク3との間でトラフィックを中継する。セルラー基地局2は、例えば車載通信システム1からの要求に基づいて送信機会の割り当てなどを実施する。送信機会は、データ送信に使用可能な周波数帯や時間、変調方式などによって構成される。
【0021】
セルラー基地局2は、各種参照信号(RS:Reference Signal)を随時送信する。参照信号としては、CRS(Cell-specific RS)や、SRS(Sounding RS)、CSI-RS(CSI-Reference Signal)、DMRS(DeModulation RS)などがある。CRSはセル選択用の制御信号である。SRSやCSI-RS、DMRSは、上り又は下り方向の伝送路の状態を推定するためのRSである。伝搬路状態を示す情報はCSI(Channel State Information)とも称される。各種RSは、1つの側面において、無線通信装置7が、通信回線の信頼性を評価するための制御信号に相当する。ここでの通信の信頼性とは、例えば通信速度やレイテンシ、パケットロス率などを指す。各種RSの送信は、定期的に実施されてもよいし、所定のイベントが生じたことを受けて実施されても良い。RSの送信は、例えばユーザ装置(UE:User Equipment)からの問い合わせを受けたことや、通信エラーの発生頻度が所定の閾値を超過したことなどをトリガとして実行されても良い。
【0022】
コアネットワーク3は、いわゆるEPC(Evolved Packet Core)である。コアネットワーク3では、ユーザの認証、契約分析、データパケットの転送経路の設定、QoS(Quality of Service)の制御などの機能を提供する。コアネットワーク3は、例えばIPネットワークや携帯電話網等の、通信事業者によって提供される公衆通信ネットワークを含みうる。
【0023】
コアネットワーク3は、例えば、MMEや、S-GW、P-GW、PCRFなどを含む。MMEは、Mobility Management Entityの略であって、セル内のUEの管理や、セルラー基地局2の制御を担当する。MMEは、例えばセルラー基地局2とS-GW(Serving Gateway)との間における制御信号のゲートウェイとしての役割を担う。S-GWは、UEからのデータのゲートウェイに相当する構成である。P-GWは、Packet Data Network Gatewayの略であって、インターネットなどのPDN(Packet Data Network)に接続するためのゲートウェイに相当する。P-GWは、IPアドレスの割当などや、S-GWへのパケット転送を実施する。PCRFは、Policy and Charging Rules Functionの略であって、ユーザデータの転送のQoS及び課金のための制御を行う論理ノードである。PCRFは、ネットワークポリシーや課金のルールをもつデータベースを含む。
【0024】
その他、コアネットワーク3は、HLR(Home Location Register)/HSS(Home Subscriber Server)などを含んでいてもよい。コアネットワーク3を構成する装置の名称や組み合わせなどは、例えば5Gなど、車両用通信システム100が採用する通信規格に対応するように適宜変更可能である。また、コアネットワーク3における機能配置は適宜変更可能である。例えばPCRFが提供する機能は別の装置が備えていても良い。
【0025】
以降では、例えばMMEやS-GWなどのコアネットワーク3を構成する各装置、及び、セルラー基地局2を区別しない場合には、ネットワーク側装置とも記載する。なお、例えばPCRFなどの通信設備は、APN(Access Point Name)毎又は電気通信事業者毎に配置されうる。APNは、1つの側面において通信サービスの識別子である。APNには、通信サービスを提供する通信事業者(いわゆるキャリア)が紐付いている。コアネットワーク3内においてデータの転送経路はAPN毎に異なるものとなる。
【0026】
サーバ4は、車両とデータ通信を実行することで、所定のサービスを提供するための処理を実行する設備である。車両Hvには各サーバ4に対応するアプリ81がインストールされている。
図1に示す各サーバ4は、車両Hvで使用される複数のアプリ81のそれぞれに対応する処理を実行する、アプリケーションサーバに相当する。
【0027】
ACPサーバ5は、車両Hvとサーバ4との通信を中継するサーバである。ACPサーバ5は中継サーバと呼ぶこともできる。部材名称中のACPは、Automotive Communication Platformの略である。ACPサーバ5は、車両Hvとサーバ4との通信接続制御と、通信状態の監視を統合的に行う。
【0028】
ACPサーバ5は、
図2に示すように通信装置51、プロセッサ52、RAM53、及びストレージ54を用いて構成されている。通信装置51は、無線通信装置7や各種サーバ4と通信を実施するための構成である。プロセッサ52は、例えばCPU(Central Processing Unit)などの演算コアである。RAM53は、書き換え可能な揮発性メモリである。ストレージ54は、書き換え可能な不揮発性メモリである。ストレージ54には、無線通信装置7とサーバ4とのデータ通信を中継するためのプログラムである中継サーバプログラムが保存されている。
【0029】
ACPサーバ5は、プロセッサ52がストレージ54に保存されている中継サーバプログラムを実行することにより発現される機能モジュールとして、例えば経路管理部G1、中継処理部G2、及び通信量管理部G3を備える。経路管理部G1は、無線通信装置7から各種サーバ4までの通信経路情報を管理する構成である。ここでの通信経路情報には、例えば、送信元IPアドレスや、ソースポート番号、宛先IPアドレス、宛先ポート番号、プロトコル番号など、いわゆる5-tapleを含む。
【0030】
ソースポート番号は、無線通信装置7によってアプリ81毎に固有の番号が割り当てられる。ポート番号は、例えば16ビットの数値によって表現されうる。各ソースポート番号は、アプリ81毎の識別情報であるアプリID(アプリ識別子)と対応付けられて保存される。ソースポート番号は送信元ポート番号と呼ぶこともできる。経路管理部G1は、無線通信装置7やサーバ4と制御信号をやり取りすることで通信経路情報を取得する。経路管理部G1としてのACPサーバ5は、アプリ81に割り当てられているソースポート番号など、通信上必要な情報をサーバ4に通知する。経路管理部G1が経路情報取得部に相当する。
【0031】
中継処理部G2は、経路管理部G1が取得している通信経路情報を元に、無線通信装置7から送信されてきたデータを、ヘッダ等に記載の宛先情報に応じて定まるサーバ4に転送する。また、サーバ4から送信されてきたデータを無線通信装置7に転送する。
【0032】
通信量管理部G3は、アプリ81毎のソースポート番号とアプリIDとを用いて、アプリ81毎の通信量を管理する。すなわち、同一のソースポートを用いてやり取りされるデータの量を、通信に使用された回線毎に区別して管理する。アプリ81とソースポートとは1対1で対応するため、或るソースポートを経由するデータ通信の総量は、当該ソースポートに対応付けられているアプリ81の通信量に相当する。また、アプリ81の通信量を通信回線毎に区別して管理する構成によれば、別途後述するようにアプリ81毎の通信料も算出可能となる。
【0033】
その他、ACPサーバ5は、通信の中継機能だけでなく、例えばサーバ4や車両Hvを認証する処理を実行するように構成されていても良い。なお、ACPサーバ5が提供する機能は、各サーバ4が有していてもよい。ACPサーバ5は、サーバ4と統合されていても良い。ACPサーバ5は、車両Hvの外部に設けられたサーバ4の一種と解することもできる。加えて、ACPサーバ5は任意の要素であって省略されても良い。つまり、車両Hvとサーバ4とはACPサーバ5を介さずにデータ通信を実施するように構成されていても良い。
【0034】
Wi-Fi基地局6は、Wi-Fi(登録商標)に準拠した無線LAN(Local Area Network)を形成するための通信設備である。Wi-Fiの規格としては、IEEE802.11nやIEEE802.11ac、IEEE802.11ax(いわゆるWi-Fi6)など、多様な規格を採用可能である。Wi-Fi基地局6は、インフラ設備として、多様なサービス事業者によって任意の箇所に配置されている。なお、本開示のWi-Fiは、無料のWi-Fiや、ユーザ或いは車両メーカが利用契約済みのWi-Fiなど、無線通信装置7が利用可能なWi-Fiを指す。
【0035】
<サーバ4の一例について>
サーバ4Aは、例えば、車両Hvの制御の参考となる動的又は準動的な交通情報(以降、制御支援情報)を配信するサーバ4である。制御支援情報とは、例えば、車両周辺に存在する他の移動体の現在位置や移動速度、進行方向などを示す情報などである。制御支援情報は、例えば通行規制がなされている区間や、渋滞の末尾位置、路上落下物の位置などといった、走行上の障害物の位置や種別を示す準動的な地図要素についての情報であってもよい。制御支援情報は、車両Hvの前方に存在する信号機の位置とその点灯状態を示す情報や、交差点内における進行方向に応じた走行軌道を示す情報であっても良い。このようなサーバ4Aは、先進運転支援(ADAS:Advanced Driver-Assistance Systems)系アプリケーションに対応するサーバ4に相当する。
【0036】
サーバ4Bは、所定のデータベースに格納されている地図データを、車両Hvからの要求に基づき配信するサーバである。サーバ4Bが配信する地図データは、高精度地図データでもよいし、ナビ地図データでもよい。高精度地図データは、道路構造、及び、道路沿いに配置されている地物についての位置座標等を、自動運転に利用可能な精度で示す地図データに相当する。ナビ地図データは、ナビゲーション用の地図データであって、高精度地図データよりも相対的に精度の劣る地図データに相当する。なお、サーバ4Bは、車両Hvからアップロードされるプローブデータに基づいて、地図データを生成及び更新するサーバであってもよい。このようなサーバ4Bは、地図データを取り扱う地図系アプリに対応するサーバ4に相当する。なお、地図系アプリには、地図データを用いた経路案内等を行うナビゲーションアプリを含めることができる。
【0037】
サーバ4Cは、例えばクラウド上に保存されている音楽データを車両Hvに送信するサーバ4である。このようなサーバ4Cは、車両Hvにおいて音楽を再生する音楽アプリに対応するサーバ4に相当する。
【0038】
なお、サーバ4としては、その他、多様なサーバ/センタを採用可能である。車両用通信システム100は、サーバ4として、車両Hvを遠隔制御する遠隔制御サーバを含んでいても良い。遠隔制御サーバは、車両Hvから送信されてきた車載カメラ画像や車速、現在位置などの車両情報を所定のディスプレイに表示するとともに、オペレータが入力装置に行った操作信号を車両Hvに送信する。ここでのオペレータとは、車両Hvの外部から遠隔操作によって車両を制御する権限を有する人物を指す。
【0039】
<車載通信システム1の構成について>
車載通信システム1は、
図3に示すように無線通信装置7と複数のECU8を含む。無線通信装置7は、上述した無線通信機能を提供する装置であって、コアネットワーク3にとってのUEに相当する。無線通信装置7は、少なくとも1つの加入者識別モジュール(以降、SIM:Subscriber Identity Module)75を備える。これにより無線通信装置7は、当該SIM75に対応する少なくとも1つのAPNを用いたデータ通信を実施可能に構成されている。SIM75に対応するAPNとは、当該SIM75の情報に基づき利用可能なAPNを指す。
【0040】
本実施形態の無線通信装置7は一例として、それぞれAPNが異なる複数のセルラー回線を利用可能に構成されている。APNが異なれば、仮に通信相手となるサーバ4が同一であっても、当該サーバ4までデータが流れる経路は、実体的、又は、仮想的に相違する。複数のセルラー回線は、それぞれ異なる通信経路を実現する。つまり、無線通信装置7は、複数の通信経路を用いてサーバ4とデータ通信可能に構成されている。
【0041】
加えて、無線通信装置7は、Wi-Fi通信可能に構成されており、各ECU8での通信トラフィックの発生状況に応じて、複数のセルラー回線及びWi-Fi回線を使い分ける。つまり、無線通信装置7は、多様な通信回線を、通信の用途や通信状況に基づいて使い分ける。無線通信装置7が利用可能な通信回線あるいは通信経路の概念には、各APNに対応するセルラー回線だけでなく、Wi-Fi回線を含めることができる。
【0042】
各ECU8は、車両内に構築された通信ネットワークである車両内ネットワークNwを介して無線通信装置7と接続されている。車両内ネットワークNwに接続された装置同士は相互に通信可能である。つまり、無線通信装置7は、複数のECU8のそれぞれと相互通信可能に構成されている。なお、車載通信システム1が備える特定の装置同士は、車両内ネットワークNwを介することなく直接的に通信可能に構成されていてもよい。
図3において車両内ネットワークNwはバス型に構成されているが、これに限らない。ネットワークトポロジは、メッシュ型や、スター型、リング型などであってもよい。車両内ネットワークNwの規格としては、例えばController Area Network(CANは登録商標)や、イーサネット(登録商標)、FlexRay(登録商標)など、多様な規格を採用可能である。
【0043】
各ECU8は、CPUなどの演算コアとRAMなどのメモリとを備えるコンピュータとして構成されており、各ECU8に割り当てられたプログラムを実行することで、当該プログラムに応じた処理を実行する。以降では複数のECU8を区別して記載する場合には、ECU8A、ECU8B、ECU8Cとも記載する。なお、車両Hvが備えるECU8は、3つに限定されない。1個や2個であってもよいし、4個以上であってもよい。
【0044】
複数のECU8はそれぞれ異なる機能を提供するアプリ81を備える。すなわち、ECU8A~8Cは、それぞれアプリ81A~81Cを備える。また、各ECU8はACPクライアント82を備える。
【0045】
各アプリ81は、CPU等のハードウェアが所定のアプリケーションソフトウェアを実行することで実現される。本開示の「アプリケーション(アプリ81)」との記載は、アプリケーションを実行する装置/演算コアと読み替えることができる。演算コアは、CPUなどのプロセッサに相当する。
【0046】
各アプリ81A~81Cはサーバ4A~4Cに順に対応するアプリ81である。例えばECU8Aが備えるアプリ81Aはサーバ4Aとの協働によって運転支援を行うアプリケーションである。より具体的には、アプリ81Aは、例えば所定のイベントが生じた場合に、サーバ4Aから、制御計画の作成の参考となるリアルタイムな情報(つまり制御支援情報)を受信する。制御支援情報を要求するイベントとは例えば交差点や合流分岐地点までの残り時間/距離が所定値未満となったことを採用することができる。またアプリ81Aは、一定時間おきに現在位置に応じた制御支援情報をサーバ4Aに問い合わせるように構成されていても良い。このようなアプリ81Aは、ADAS系のアプリケーションの一例に相当する。
【0047】
アプリ81Bは、例えば、ディスプレイを含むHMI(Human Machine Interface)システムと連携し、乗員によって設定された目的地までの経路案内を実施するアプリである。アプリ81Bは、例えばサーバ4Bから現在位置や走行予定経路に応じた範囲の地図をダウンロードするとともに、当該地図データを用いて経路案内処理を実施する。このようなアプリ81Bは地図データに基づく経路案内等を行う地図系アプリケーションに相当する。アプリ81Cは、オーディオ機能を提供するアプリ、すなわち音楽アプリケーションである。アプリ81Cは、例えばユーザから指定された音楽データ、或いは、アプリ81C又はサーバ4Cが選定した音楽データをサーバ4Cから取得してストリーミング再生する処理を行う。
【0048】
もちろん、以上で述べた各ECU8が備えるアプリ81の内容や役務は一例であって適宜変更可能である。車両Hvには、上述した機能以外にも、動画アプリや、通話アプリ、緊急通報アプリ、遠隔制御アプリ、音声認識アプリ、プローブアプリ、ソフト更新アプリなど、多様なアプリ81が搭載されうる。動画アプリはクラウド上に保存されている動画をストリーミング再生するためのアプリ81であり、通話アプリは電話機能を提供するアプリ81である。緊急通報アプリは事故や乗員の異常などをトリガに所定のセンタに連絡するアプリ81であり、遠隔制御アプリは車両Hvを遠隔制御するためのアプリ81である。音声認識アプリは車載マイクで取得したユーザの発話内容を認識するアプリ81であり、プローブアプリは車載カメラなどで認識した道路形状などのプローブデータをサーバにアップロードするアプリ81である。ソフト更新アプリはサーバ4から取得したデータに基づいて任意のECU8のソフトウェアの更新を行うアプリ81である。
【0049】
また、ここでは一例として1つのECU8が1つのアプリ81に対応するものとするがこれに限らない。1つのECU8が複数のアプリ81を備えていても良い。さらに、複数のECU8が連携して1つのアプリ81を実行するように構成されていても良い。
【0050】
各アプリ81にはアプリ81毎に固有の識別情報であるアプリIDが割り当てられている。アプリIDは、アプリ81の設計者が割り当てても良いし、車両Hv(実体的にはECU8)へのインストール時に、車両Hvへのソフトウェアのインストール等を統括的に管理する所定のECU8によって割り当てられても良い。
【0051】
各アプリ81は、当該アプリ81に対応するサーバ4を宛先とする送信用データを無線通信装置7に出力するとともに、対応するサーバ4からのデータを無線通信装置7から取得する。また、各アプリ81は、サーバ4へ向けた送信用データの発生等に伴って、ACPクライアント82に向けて通信開始要求を出力する。通信開始要求は、例えば所定の電気信号、メッセージ、又は通信フレームに相当する。通信開始要求は、アプリIDを含む。また、通信開始要求は、サーバ4とのデータ通信に係る条件を示す通信条件を含んでいても良い。
【0052】
ACPクライアント82は、アプリ81と無線通信装置7との通信を仲介する役割を担う構成である。ACPクライアント82は、車両内中継モジュールと呼ぶこともできる。ACPクライアント82は、アプリ81毎或いはECU8毎に配置されうる。ACPクライアント82もまた、CPU等のハードウェアが、所定のソフトウェアであるACPクライアントソフトウェアを実行することで実現される。ACPクライアント82は、アプリ81からの通信開始要求を無線通信装置7に伝達するとともに、当該通信開始要求に対する無線通信装置7からの回答をアプリ81に伝達する。
【0053】
なお、ACPクライアント82は任意の要素であって省略されても良い。また、ACPクライアント82の機能はアプリ81自身が備えていても良い。ACPクライアント82はアプリ81の一部として構成されていても良い。加えて、ACPクライアント82は無線通信装置7の一部として構成されていても良い。各構成の機能配置は適宜変更可能である。ACPクライアント82は、対応するアプリ81の通信要求及び通信条件を管理する機能を有する。通信条件の詳細については別途後述する。
【0054】
<無線通信装置7の構成について>
無線通信装置7は、車両Hvに搭載される複数のアプリ81の要求に従ってサーバ4A~4Cにデータ送信を行うと共に、サーバ4A~4Cから送信されたデータの受信を行う。このような無線通信装置7は、各ECU8が所定の通信相手としてのサーバ4と無線通信するための無線インターフェースに相当する。車両Hvは無線通信装置7の搭載により、インターネットに接続可能なコネクテッドカーとなる。無線通信装置7は、DCM(Data Communication Module)やTCU(Telematics Control Unit)などと呼ぶこともできる。無線通信装置7は、例えばインストゥルメントパネル内に収容されている。なお、無線通信装置7は、ユーザが取り外し可能に構成されていてもよい。また、無線通信装置7は、ユーザによって車室内に持ち込まれた、スマートフォン等の携帯端末であってもよい。
【0055】
当該無線通信装置7は、処理部71、RAM72、ストレージ73、通信インターフェース74、SIM75、及びこれらを接続するバス等を備えたコンピュータを主体として構成されている。処理部71は、RAM72と結合された演算処理のためのハードウェアである。処理部71は、CPU等の演算コアを少なくとも一つ含む構成である。処理部71は、RAM72へのアクセスにより、種々の処理を実行する。
【0056】
ストレージ73は、フラッシュメモリ等の不揮発性の記憶媒体を含む構成である。ストレージ73には、処理部71によって実行されるプログラムとして、通信制御プログラムが格納されている。処理部71が上記プログラムを実行することは、通信制御プログラムに対応する方法である通信制御方法を実行することに相当する。ストレージ73には、無線通信装置7が利用可能なAPNについての情報(例えばプロファイル等)が登録されている。例えばAPNについての情報には、インターネットなどのネットワークへの接続先を指定する情報が含まれうる。
【0057】
通信インターフェース74は、車両内ネットワークNwを介してECU8と通信するための回路モジュールである。通信インターフェース74は、アナログ回路素子やIC、車両内ネットワークNwの通信規格に準拠したPHYチップなどを用いて実現されている。通信インターフェース74には、例えばECU8から入力された送信用データのほか、車速センサが検出した車速データなど、多様なデータが入力される。ここでの送信用データとは、サーバ4向けの通信トラフィック(換言すればデータ)に相当する。
【0058】
SIM75は、回線の契約者を識別するための情報が記録されたICモジュールであって、例えばICカードとして構成されている。例えばSIM75には、IMSI(International Mobile Subscriber Identity)と呼ばれる固有番号が、契約者の電話番号と結びついて記録されている。また、SIM75には、利用可能な周波数や、在圏セルを決定するために観測する周波数の優先順位などといった、無線通信接続に係る設定データも登録されている。SIM75は、図示しないカードスロットに挿入されたものでもよいし、eSIM(Embedded SIM)であってもよい。ここでのSIM75の概念には、着脱可能なカードタイプのものと、組み込み型のもの(つまりeSIM)の両方が含まれる。
【0059】
本実施形態では一例として、無線通信装置7が備えるSIM75は、2つのAPNが利用可能に構成されている。換言すればSIM55は、2つのセルラー回線が利用可能なSIMである。以降では無線通信装置7がSIM75を用いて利用可能な2つセルラー回線のことを第1回線、第2回線と称する。また、第1、第2回線のうち、相対的にQoSが低いセルラー回線のことを低QoSセルラー回線と称するとともに、相対的にQoSが高いセルラー回線のことを高QoSセルラー回線とも称する。
【0060】
QoSが低いセルラー回線とは、例えば、コアネットワーク3内におけるデータ転送の優先順位が低い、あるいは、帯域保証がされないなどの通信設定(換言すればポリシー条件)に由来して、通信速度が遅い/通信遅延が起きやすいセルラー回線に相当する。低QoSセルラー回線は例えばプローブデータのアップロードなど、即時性があまり要求されないデータ通信に適したセルラー回線と解する事ができる。一方、QoSが高いセルラー回線とは、通信遅延が起きにくいセルラー回線である。高QoSセルラー回線は、車両Hvの遠隔制御等といった高い即時性が要求されるデータ通信に適したセルラー回線と解することができる。
【0061】
なお、ここでは一例としてSIM75は、品質や伝送容量等の通信特性が異なる複数のセルラー回線を利用可能に設定されているものとするが、これに限らない。SIM75は、利用可能なセルラー回線は1つだけであってもよい。ただし、ECU8からの多様な通信要件に柔軟に対応するために、無線通信装置7は、複数のセルラー回線を利用可能に構成されていることが好ましい。また、無線通信装置7は複数のSIM75を備えていても良い。
【0062】
<無線通信装置7の機能について>
ここでは無線通信装置7の機能及び作動について説明する。無線通信装置7は、
図4に示すように機能ブロックとして、車内通信部F1、無線通信部F2、及び通信制御部F3を備える。無線通信部F2は、セルラー通信部F21とWi-Fi通信部F22を備える。通信制御部F3が通信制御装置に相当する。
【0063】
車内通信部F1は、各ECU8が出力した送信用データを受け取り、無線通信部F2へ出力するとともに、無線通信部F2が受信したデータを、転送すべきECU8に向けて出力する構成である。例えば車内通信部F1は、各ECU8から多重化されて入力されたデータを、所定の方式で分離することで、本来のデータを取得する。なお、車内通信部F1は、各ECU8から入力されたデータをセルラー基地局2又はWi-Fi基地局6に無線送信するまで一時的に保持する記憶領域であるバッファを含む。バッファは、RAM等の書き換え可能な記憶媒体を用いて実現されればよい。車内通信部F1は、バッファに滞留しているデータの量やそれらのデータのヘッダに格納された情報を監視する機能も備える。
【0064】
バッファに入っているデータは、順次、無線通信部F2にて取り出され、データの入力元(つまりECU8)に応じた通信経路で宛先となるサーバ4に向けて送信される。ECU8毎の通信経路の割当状態は、通信制御部F3によって制御される。なお、通信経路を設定することは、例えば複数のセルラー回線及びWi-Fiといった、複数種類の通信回線のうちの何れを用いるかを選択することを含む。ECU8毎、換言すればアプリ81毎の通信経路の割当方法については別途後述する。
【0065】
セルラー通信部F21は、例えばLTE等の無線通信プロトコルにおけるデータリンクレイヤ及び物理レイヤを担当する通信モジュールである。セルラー通信部F21は、LTEで用いられる周波数帯の電波を送受信可能なアンテナを含む。また、セルラー通信部F21は、LTEの通信規格に準拠してベースバンド信号から高周波信号への変換およびその逆変換に相当する信号処理を行うトランシーバと、IPパケットと物理チャネルの信号との変換を行うパケット処理部と、を含む。なお、アンテナは受信ダイバーシティ等のために複数設けられていても良い。
【0066】
セルラー通信部F21は、車内通信部F1から入力されたIPパケットに対して、PDCP・RLC・MACの各データリンクサブレイヤでの処理を行う。また、符号化や、変調、デジタルアナログ変換等の処理を施すことで、入力されたデータに対応する搬送波信号を生成する。そして、生成した搬送波信号をアンテナに出力することで電波として放射させる。PDCPはPacket Data Convergence Protocolの略であり、RLCはRadio Link Controlの略であり、MACはMedia Access Controlの略である。加えて、セルラー通信部F21は、アンテナにて受信した受信信号に対して、アナログデジタル変換処理や復調処理といった所定の処理を施すことでデジタル値によって表現された情報系列(つまりデジタルデータ)に変換する。そして、その受信信号に対応するデータを、車内通信部F1に出力する。
【0067】
Wi-Fi通信部F22は、Wi-Fi基地局6を介してインターネットに接続し、サーバ4と通信するための通信モジュールである。Wi-Fi通信部F22は、例えば2.4GHz帯や5GHz帯など、Wi-Fi規格で使用される周波数帯の電波を送受信するためのアンテナと、変調回路、復調回路などを用いて構成されている。Wi-Fi通信部F22は、車内通信部F1又は通信制御部F3から入力されたデータに対応する無線信号を放射する。また、Wi-Fi通信部F22は、アンテナにて受信した受信信号に対応するデータを、車内通信部F1又は通信制御部F3に出力する。
【0068】
なお、Wi-Fi通信部F22は、Wi-Fi基地局6から発せられるビーコンを受信することによって、Wi-Fi基地局6の存在を認識する。Wi-Fi通信部F22とWi-Fi基地局6との通信接続は、通信制御部F3によって制御される。
【0069】
通信制御部F3は、各セルラー回線の通信状態を監視及び制御する。通信制御部F3は、所定の接続イベントが生じたことを受けて、APN毎の通信回線を確立する手続きを実行する。通信接続を確立するための手続きには、アタッチ要求の送信やAPN情報の送信などが含まれる。なお、例えばMME31などのネットワーク側装置は、無線通信装置7から通知されたAPN等の情報などに基づき、S-GW、P-GWと連携し、契約内容に応じた無線ベアラ及びPDNコネクションを用意する。
【0070】
接続イベントとしては、車両電源がオンとなった場合や、車両Hvが備える操作部材に対する所定のユーザ操作に基づき無線通信機能が有効化された場合などを採用可能である。ここでの車両電源は、アクセサリ電源であってもよいし、走行用電源であってもよい。走行用電源は、車両Hvが走行するための電源であって、車両Hvがガソリン車である場合にはイグニッション電源を指す。車両Hvが電気自動車やハイブリッド車である場合、走行用電源とはシステムメインリレーを指す。
【0071】
また、通信制御部F3は、Wi-Fi通信部F22の動作を制御する。通信制御部F3は、Wi-Fi通信部F22がビーコンを受信したことに基づいて、Wi-Fi基地局6との通信接続を開始する。すなわち、IPアドレスの取得や、セキュリティ設定(暗号鍵の交換など)のための制御信号をWi-Fi基地局6とやり取りする。
【0072】
さらに、通信制御部F3は、機能部として、移動管理部F31、経路特性取得部F32、通信条件取得部F33、経路設定部F34、及び通信量管理部F35を備える。また、通信制御部F3は、例えばRAM72などの書き換え可能な記憶媒体を用いて実現される経路特性保持部M1を備える。
【0073】
移動管理部F31は、SIM75で指定されるセルラー回線毎の在圏セルを特定するとともに、セルの移動管理を実施する構成である。移動管理部F31は、在圏セルを選択するための指標として、セル毎のRSRPや、RSSI、RSRQなどを算出する。RSRPは、Reference Signal Received Powerの略である。RSSIはReceived Signal Strength Indicatorの略である。RSRQはReference Signal Received Qualityの略である。RSRPは、単位リソースエレメント当たりのRSの平均受信電力である。RSSIは、RSを収容するOFDMシンボルにおいてLTEシステム帯域全体の電力を測定した値である。RSRQは、セル固有の参照信号の受信電力と、受信帯域幅内の総電力との比である。RSRQは、大きいほどセルラー基地局2からの信号の受信品質が良いことを示す。
【0074】
そして、移動管理部F31は、SIM75に対応するセル毎のRSRPなどの指標に基づき、必要に応じて在圏セルを切り替えるための処理を実施する。或るSIM75に対応するセルとは、当該SIM75の情報に基づき接続可能なセルラー基地局、及び、そのセルを指す。移動管理部F31が算出した各SIM55に対応するセル毎のRSRPやRSRQなどの情報は経路特性保持部M1に一時的に保持される。経路特性保持部M1が保持する情報は随時更新される。
【0075】
経路特性取得部F32は、通信回線毎の通信特性を示す種々の情報を取得する構成である。例えば経路特性取得部F32は、ネットワーク側装置からセルラー回線毎の通信設定に係るパラメータを取得する。セルラー回線毎の通信設定パラメータとしては、割当周波数や、パケット転送の優先順位、目標遅延時間、パケットロス率などが挙げられる。目標遅延時間は、ネットワーク側装置が想定する通信遅延時間の最大値である。目標遅延時間は、PCRF等のネットワーク側装置によって設定される遅延特性設定値(delayThreshold)に対応する。経路特性取得部F32が取得した通信設定パラメータは、例えば経路特性保持部M1に保存される。
【0076】
また、経路特性取得部F32は、セルラー回線毎の通信事業者(いわゆるキャリア)の情報を取得して経路特性保持部M1に保存しても良い。仮に通信事業者毎に、保有する通信設備等に由来して、通信速度や通信の安定性が異なる場合には、通信事業者の情報が、セルラー回線毎の信頼性、換言すればQoSを評価するための材料となりうる。例えば他の通信事業者が提供する通信設備を利用するMVNO(Mobile Virtual Network Operator)が提供する通信回線は、通信設備を保有する通信事業者が提供する通信回線よりも下り通信速度が小さくなる傾向がある。そのように通信事業者の情報はセルラー回線毎の通信速度の優劣の指標となりうる。
【0077】
その他、経路特性取得部F32は、セルラー回線毎の状態情報として、セルラー回線毎のラウンドトリップタイム(RTT:Round-Trip Time)やスループットを逐次評価し、経路特性保持部M1に保存しても良い。RTTは、通信相手に信号やデータを発信してから、応答が返ってくるまでにかかる時間、すなわち応答遅延時間である。RTTは、往復レイテンシとも称される。スループットは、伝送路を通じて単位時間あたりに送受信できるデータ量を表す。スループットは通信速度を示す指標に相当する。なお、スループットは上り通信と下り通信とで別々に評価されてもよい。また、RTTやレイテンシなどに関し、直近所定時間以内における観測値の平均値を以ってセルラー回線毎の状態を評価しても良い。なお、第1回線が第2回線よりも下り通信速度が大きい傾向にある場合、第1回線はサーバ4へのアップロードよりもサーバ4からのデータ取得を頻繁に行うアプリ81に適した通信回線と解することができる。また、RTTが非常に小さい回線は、通話アプリやウェブ会議アプリ、遠隔制御アプリなど、リアルタイム性が重要なアプリ81に適した回線と解することができる。
【0078】
また、経路特性取得部F32は、例えば割当周波数やRTTなどのパラメータに基づいて、セルラー回線毎のQoSを評価する。故に、経路特性取得部F32は、1つの側面において無線通信サービス毎のQoSを評価するサービス品質評価部と解することができる。経路特性取得部F32は、移動管理部F31と統合されていても良い。経路特性取得部F32が回線特性取得部に相当する。
【0079】
通信条件取得部F33は、各アプリ81から通信条件を取得する。通信条件を構成する項目としては例えば
図5に示すように、許容待ち時間、許容RTT、最小帯域、想定データサイズ、データ保持可能時間、課金対象、データ欠損可否、プライバシー性、緊急性、機密性、及び制御利用性などを採用することができる。
【0080】
許容待ち時間は、いつまでに通信を開始する必要が有るか、換言すれば、通信開始まで許容可能な待ち時間を示す。例えば音声認識アプリの許容待ち時間は1秒や3秒などに設定されうる。また、プローブアプリであれば、許容待ち時間は10分などに設定されうる。ソフト更新アプリの許容待ち時間は、8時間や1日などに設定されうる。緊急通報アプリ等の緊急性の高いアプリにおいては、例えば0秒や100ミリ秒などに設定されうる。なお、
図5中の設定値例の欄に示す「d」、「h」、「min」、「s」、「ms」は順に「日」、「時」、「分」、「秒」、「ミリ秒」など、時間の単位を示す。
【0081】
許容RTTは、許容可能な応答遅延時間を示す。例えば遠隔制御アプリであれば許容RTTは1ミリ秒などに設定されうる。また、通話アプリであれば許容RTTは100ミリ秒などに設定されうる。許容RTTが許容遅延時間に相当する。最小帯域は、確保されるべき通信帯域の最小値を示す。最小帯域は例えば10Mbpsや1Mbpsといった通信速度の概念で表現されうる。最小帯域は、想定データサイズや、データ保持可能時間、送信用データの生成頻度などに基づいて通信条件取得部F33が算出及び設定しても良い。
【0082】
想定データサイズは、アプリ81とサーバ4との間でやり取りされる1つのデータセットのサイズの想定値を示す。データ保持可能時間は、各アプリ81が備えるキャッシュ領域に、送信用データを保持できる残り時間を示す。データ保持可能時間は逐次変動しうる。課金対象は、サーバ4との通信に伴う費用(いわゆる通信費)を誰が負担するべきかを示す。課金対象は、例えば、車両メーカ、ユーザ、及びその他に大別されうる。課金対象には通信の受益者が設定されることが好ましい。例えば車両メーカが車両Hvに予めインストールしているアプリ81など、車両メーカの都合で搭載されているアプリ81については、課金対象は車両メーカに設定されうる。例えば地図を生成するためのプローブアプリにおいては、課金対象は車両メーカ又は所定の地図プロバイダに設定されうる。アプリ81が行う通信の課金先を車両メーカとするか否かは車両メーカによって選定されうる。
【0083】
データ欠損可否は、データの連続性が重要な通信であるか否か、換言すれば、データの欠損を抑制すべき通信であるか否かを示す。データ欠損可否は、例えばフラグで表現されうる。例えばデータ欠損フラグが1(オン)の場合はデータの欠損を禁止又は低減すべきタイプの通信であることを示し、データ欠損フラグが0(オフ)の場合はデータの欠損等を許容するタイプの通信であることを示す。
【0084】
データ欠損が許容されないアプリ81とは、例えば急ブレーキや急ハンドルなどの運転操作の履歴に基づいて保険料を管理するサービスに係るアプリである。急ブレーキ等の有無は加速度等の連続的なデータをもとに検出される。仮に急ブレーキが行われたタイミングの挙動データが欠損してしまうと、急ブレーキの発生を検出することが困難となり、保険料等を適正に判断できなくなってしまう。また、事故の責任割合を判定する上でも、事故発生前後における車両挙動を連続的に示すデータが重要となる。そのように車両Hvやユーザの経時的な振る舞いを連続的に報告するようなアプリ81においては、データ欠損フラグはオンに設定されうる。遠隔制御アプリにおいてもデータ欠損フラグはオンに設定されうる。なお、音楽アプリなどでは、データ欠損フラグはオフに設定されうる。
【0085】
プライバシー性は、ユーザのプライバシー情報を含む通信であるか否かを示す。プライバシー性は、例えばフラグで表現されうる。例えばプライバシーフラグが1の場合はプライバシー情報を含むタイプの通信であることを示し、プライバシーフラグが0の場合はプライバシー情報を含まないタイプの通信であることを示す。なお、ここでのプライバシー情報とは、個人情報とも言い換えることができる。プライバシー情報には例えばユーザの顔画像や、住所、電話番号、名前などが含まれうる。
【0086】
緊急性は、緊急性の高い通信であるか否か、換言すれば、直ちに通信が開始されるべき通信であるか否かを示す。緊急性は、例えばフラグで表現されうる。例えば緊急性フラグが1(オン)の場合は緊急性の高い通信であることを示し、緊急性フラグが0(オフ)の場合は緊急性の低い通信であることを示す。緊急性フラグがオンに設定されるアプリ81とは緊急通報アプリや、事故データをサーバ4にアップロードするアプリ、盗難検知アプリ等である。なお、盗難検知アプリは、車両Hvの盗難又は不正使用を検知すると、ユーザ又は所定の管理者に通報するアプリである。緊急性の高さは、上述した許容待ち時間に基づいて通信条件取得部F33が判断しても良い。例えば許容待ち時間が所定の緊急閾値未満に設定されている場合に、緊急性の高いデータ通信及びアプリ81であると判定しても良い。緊急閾値は例えば200ミリ秒などに設定されうる。
【0087】
機密性は、機密情報を含む通信であるか否かを示す。機密性は、例えばフラグで表現されうる。例えば機密性フラグが1(オン)の場合は機密情報を含むタイプの通信であることを示し、機密性フラグが0(オフ)の場合は機密情報を含まないタイプの通信であることを示す。機密性フラグは、通信制御部F3において、例えばデータを複数の経路で分散して送受信するべきか否か、又は、通信経路としてVPN(Virtual Private Network)などの専用線を使用するべきか否かの判断材料として用いられうる。機密性フラグをオンに設定するアプリ81とは、例えば、クラウド上に保存されている仕事上の機密書類を閲覧又は編集するアプリ81や、車両Hvで使用される鍵情報を更新するアプリ81などである。
【0088】
制御利用性は、サーバ4とやり取りされるデータが車両Hvの走行制御に使用されるデータであるか否かを示す。制御利用性は、例えばフラグで表現されうる。例えば制御利用性フラグが1(オン)の場合は、車両制御に使用されるデータを取り扱う通信であることを示し、制御利用性フラグが0(オフ)の場合は、車両制御には関係ない/関係性が薄いデータを取り扱う通信であることを示す。
【0089】
なお、通信条件は、上記全ての項目を含む必要はない。上記の項目群は一例であって、通信条件の具体的な項目の組み合わせは適宜変更可能である。また、上記以外にも通信条件は、例えばWi-Fiを積極的に使うことを希望するか、或いは、ユーザへの通信費請求が発生する回線の使用を禁止するかなどのフラグを含んでいても良い。通信条件は、アプリ81における送信用データの生成頻度などの参考情報を含んでいても良い。
【0090】
アプリ81毎の通信条件は、例えばACPクライアント82から所定の制御信号として無線通信装置7に入力される。例えば、通信条件は、車両電源のオンに伴ってECU8と無線通信装置7とが通信接続したタイミングで、ACPクライアント82から無線通信装置7に向けて通知されてもよい。また、アプリ81においてサーバ4向けの通信トラフィック(換言すれば送信用データ)が発生したことに基づいて、ACPクライアント82から無線通信装置7に通知されても良い。通信条件は通信トラフィック毎に指定されても良い。なお、通信条件は、所定のタイミング又は定期的に無線通信装置7が各アプリ81に対して通信条件を問い合わせることで取得しても良い。その他、通信条件は、各アプリ81から無線通信装置7に向けて送信されたデータのヘッダなどに記述されていても良い。
【0091】
経路設定部F34は、アプリ81毎の通信条件及びセルラー回線毎の特性に基づいて、各アプリ81のデータ通信に用いる通信経路を設定する構成である。経路設定部F34の詳細は別途後述する。通信経路を構成する要素には、通信回線の種別のほか、割り当てる通信帯域の大きさ(幅)や、割当周波数、通信プロトコルの種別などを含めることができる。通信プロトコルにはTCP(Transmission Control Protocol)やUDP(User Datagram Protocol)などが含まれる。
【0092】
通信量管理部F35は、ACPサーバ5が備える通信量管理部G3と同様に、アプリケーション毎のソースポート番号とアプリIDとを用いて、アプリ81毎の通信量を管理する構成である。なお、本実施形態では一例として無線通信装置7とACPサーバ5の両方でアプリ81毎の回線別の通信量を管理するものとするがこれに限らない。アプリ81毎の無線通信装置7とACPサーバ5の何れか一方で管理されればよい。例えば無線通信装置7は通信量管理部F35を備えていなくとも良い。
【0093】
<システム全体の処理の流れ>
次に、
図6及び
図7に示すシーケンス図を用いて、アプリ81、ACPクライアント82、無線通信装置7、ACPサーバ5、及びサーバ4の相互作用について説明する。
図6に示すECU8は任意のECU8とすることができる。また、
図6に示すサーバ4は、
図6に示すECU8が備えるアプリ81に対応するサーバ4である。
図7に示すアプリ81及びサーバ4も互いに対応するもの、換言すれば同一のサービスを提供するための構成である。
図6はアプリ81からの要求に対応する通信経路を割り当てることができた場合のシーケンス図であり、
図7はアプリ81からの要求に対応する通信経路を割り当てることができなかった場合のシーケンス図である。以下における処理の実行主体としての無線通信装置7は、通信制御部F3と読み替えることができる。以下では便宜上、通信開始要求の出力元であるアプリ81のことを要求元アプリとも記載する。
【0094】
まず、無線通信装置7は、所定の接続イベントが生じたタイミングで、APN毎の通信回線を確立する(ステップS01)。無線通信装置7とACPサーバ5との間の通信接続が確立されている状態においては、無線通信装置7とACPサーバ5は適宜所定のタイミングで所定の制御信号を送受信することで疎通確認を実施する(ステップS02)。また、ACPサーバ5とサーバ4も、例えば一定時間おきに所定の制御信号を送受信することで疎通確認を実施する(ステップS03)。すなわち、無線通信装置7はアプリ81からの通信開始要求に先立って、ACPサーバ5との通信経路を確保する。
【0095】
なお、無線通信装置7の通信制御部F3は、
図6に示す処理フローと並行して、車両Hvの移動に伴うハンドオーバーなどを実行する。また、通信制御部F3は、
図6に示す処理フローと並行して、車両Hvの移動に伴うWi-Fi基地局6との通信接続~切断を繰り返し実行する。
【0096】
その後、アプリ81において送信用データが発生すると、アプリ81はACPクライアント82に通信開始要求を出力する(ステップS10)。アプリ81からACPクライアント82へと出力される通信開始要求は、例えばアプリIDを含む。なお、通信開始要求には、初期通信条件を含んでいても良い。初期通信条件は、通信開始要求が発生した時点での通信条件である。初期通信条件はアプリ81毎に固定であってもよいし、送信用データの量や内容に応じて可変であってもよい。初期通信条件を固定値とする場合、初期通信条件はデフォルト通信条件と呼ぶこともできる。
【0097】
ACPクライアント82は、アプリ81からの通信開始要求を受信すると、当該要求を受け付ける(ステップS11)。具体的には、アプリIDと通信条件とを紐付けて所定の記憶領域に一時保存する。通信開始要求の受付状態を示すデータは、例えばECU8が備えるRAMなどに保存される。通信条件は、事前にACPクライアント82がアプリ81と通信することで取得しておいても良いし、上述の通り通信開始要求として受信しても良い。また、ECU8が備える不揮発性メモリ等にデフォルト通信条件が登録されている場合には、ACPクライアント82が当該保存データを参照することで通信条件を取得してもよい。アプリIDと通信条件との紐付けが完了すると、アプリIDと通信条件とを含む通信開始要求を無線通信装置7に送信する(ステップS12)。
【0098】
無線通信装置7は、ACPクライアント82からの通信開始要求が入力されたことに基づいて、アプリ81の通信開始要求を受け付ける(ステップS12A)。ステップS12Aを実行する無線通信装置7が要求受付部に相当する。そして、ACPクライアント82から通知された通信条件を充足する通信経路の割り当てが可能かどうかを、通信回線毎の使用状況や品質などに基づいて判断する(ステップS13)。ステップS13を実行する無線通信装置7が通信可否判断部に相当する。
【0099】
なお、上記の通り本実施形態では、アプリ81のデータ通信を収容する通信回線の候補としては、第1回線と第2回線とがある。また、車両Hvが利用可能なWi-Fi基地局6の通信範囲内に車両Hvが存在する場合には、Wi-Fi回線も採用可能な通信経路の選択肢に含めることができる。通信回線の割当の可否を判断する処理である経路割当処理については別途後述する。
【0100】
ステップS13の判断処理の結果、通信条件を充足する通信回線が存在すると判定した場合には、ステップS14を実行する。ステップS14では経路設定部F34が要求元アプリ用のソースポートを確保するとともに、ルーティング処理を実行し、アプリ81からサーバ4までの通信経路を設定する。これにより、送信元IPアドレスや、ソースポート番号、宛先IPアドレス、宛先ポート番号、プロトコルなどが決定される。なお、ソースポートはアプリ81毎に割り当てられる。つまり、ソースポート番号とアプリIDとは1対1の関係を有するように設定される。なお、1つのソースポートに対応するアプリ81が1つであればよい。他の態様として、1つのアプリに対して複数のソースポート番号が割り当てられても良い。例えば機密性が高いデータを複数の経路で分散して送受信する必要があるアプリ81に対しては複数のソースポート番号が割り当てられても良い。
【0101】
無線通信装置7は、サーバ4までの通信経路の設定が完了すると、ACPクライアント82に対して通信開始要求に対する応答として、通信を許可する旨のメッセージである通信許可応答を返送する(ステップS15)。ステップS15及び後述するステップS21を実行する無線通信装置7が応答部に相当する。
【0102】
通信許可応答には、例えばソースポート番号が含まれる。また、無線通信装置7は要求応答として、ソースポート番号に加えて、通信の実施権の有無を示すトークンを送信しても良い。トークンは、いま通信してもよいか否かを示す制御信号に相当する。アプリ81は、無線通信装置7からトークンが入力されている間は通知されているソースポートを用いてサーバ4と通信可能となる。
【0103】
なお、ソースポートは維持しつつ、トークンの有無は動的に切り替えられても良い。アプリ81は、いったんトークンが入力されたら、その後トークンを取り下げる趣旨の信号が入力されるまでは通信権を保持しているものと判断するように構成されていてもよい。通信制御部F3は、回線の使用状況や他のアプリ81の通信需要を鑑みて、個々のアプリ81のトークンの有無を動的に制御しうる。
【0104】
また、無線通信装置7は、ACPサーバ5に対して要求元アプリのアプリIDをソースポート番号と対応付けて通知する(ステップS16)。無線通信装置7は、ACPサーバ5に対して、ソースポート番号以外の通信経路情報を通知しても良い。ソースポート番号以外の通信経路情報とは例えば送信元及び宛先IPアドレス、宛先ポート番号などである。また、例えば第1回線、第2回線、及びWi-Fi回線の何れを用いたかといった、無線通信に使用した回線情報も、通信経路情報に含まれる。
【0105】
ACPクライアント82は、無線通信装置7からの応答を受領すると、要求管理処理として、アプリIDと、ソースポート番号と、トークンの有無を紐付けて保存する(ステップS17)。なお、ACPクライアント82は要求応答として、無線通信装置7からソースポート番号以外の通信経路情報も通知された場合には、ソースポート番号とともに、他の通信経路情報も紐付けて保存する。そして、ACPクライアント82は、アプリ81に対して通信開始要求に対する無線通信装置7からの応答の報告として、ソースポート番号やトークンの有無を通知する(ステップS18)。また、ACPクライアント82は、無線通信装置7からIPアドレスなどの通信経路情報も通知されている場合には、それらの情報をアプリ81に通知しても良い。
【0106】
アプリ81は、ステップS17においてACPクライアント82から応答報告を受信すると、当該応答報告に示されるソースポート番号を用いて、サーバ4と暗号通信を開始する(ステップS19)。例えば、アプリ81とサーバ4とはTLS(Transport Layer Security)暗号化通信を実施する。暗号通信の実施パターンとしては多様なパターンを採用可能である。例えばアプリ81でデータ本体(いわゆるペイロード)を暗号化し、ソースポート番号とともに無線通信装置7に出力し、無線通信装置7側でソースポート番号に対応するヘッダを付加し、パケット化して無線送信する。また、他の態様としては、アプリ81が暗号化したデータ本体に、5tapleを含むヘッダを付加して無線通信装置7に出力してもよい。その場合、無線通信装置7は、アプリ81から入力されたデータセットのヘッダのソースポート番号を参照し、当該ソースポート番号に対応する通信経路で無線出力すればよい。
【0107】
なお、前述の通り、アプリ81とサーバ4との通信は、ACPサーバ5を介して実施される。ACPサーバ5は、無線通信装置7から通知されてきたソースポート番号を用いて、アプリ81毎の通信量を管理する(ステップS20)。すなわち、ソースポートを用いてやり取りされるデータの量を計測する。データ量は別途後述するように、通信に使用された回線毎に区別して管理される。
【0108】
以上がアプリ81から通知された通信条件を充足する通信回線が存在する場合のパターンである。ステップS13において通信条件を充足する通信回線が存在しなかった場合には、割当不可であることを示すメッセージである割当不可応答をACPクライアント82に返送する(
図7 ステップS21参照)。なお、割当不可と判定することは、通知された通信条件に応じた通信を実施不能であると判定することに相当する。割当不可は通信不可と言い換えることができる。
【0109】
割当不可応答は、単に要求された通信条件を充足する通信回線が存在しないことだけを示すメッセージであっても良い。割当不可応答は、通信条件を充足する通信を実施可能となるまでの待機時間の見込み値を含んでいても良い。換言すれば、無線通信装置7は割当不可応答として待機時間を指示しても良い。待機時間の見込み値は、他のアプリ81の通信状況などを元に推定すれば良い。例えば、各アプリ81に対して通信が必要な残り時間やトラフィックの残量などを問い合わせ、それらの回答結果を元に待機時間の見込み値を算定しても良い。その他、割当不可応答は、現在の状況において実施可能な通信条件を含んでいても良い。例えば現時点で提供可能な通信サービスのRTTや送信可能なデータサイズなどを通知しても良い。
【0110】
ACPクライアント82は、無線通信装置7からの割当不可応答を受領すると、要求管理処理として、通信開始待ちであることを示すフラグをオンに設定し(ステップS22)、通信開始待ち状態であることをアプリ81に報告する(ステップS23)。
【0111】
さらに、ACPクライアント82は、通信開始待ち状態の間は、通信条件に含まれる許容待ち時間やデータ保持可能時間等の諸元を随時更新する(ステップS24)。そして、所定のリトライ周期で、更新された通信条件を含む通信開始要求を無線通信装置7に出力する(ステップS25)。便宜上、ステップS24~S25の一連の処理をリトライ処理(ステップS30)とも称する。リトライ処理を実行するたびに、許容待ち時間は減少していくとともに、データ保持可能時間も短くなっていく。なお、ステップS25以降においては、ステップS13と同様に無線通信装置7にて通信状況を充足する通信回線を割り当て可能かどうかの判断がなされる。
【0112】
リトライ周期は、例えば5秒や10秒等、一定値であってもよい。また、リトライ周期は、初期通信条件に示される許容待ち時間の10%や20%に相当する値などに設定されてもよい。リトライ周期を初期通信条件に含まれる許容待ち時間に応じた値に設定する構成によれば、アプリ81の特性に応じた周期で通信開始要求が再送されることとなる。その結果、必要以上に通信の開始を待機する恐れを低減することができる。なお、リトライ周期は、無線通信装置7から通知された待機時間の見込み値に応じた長さに設定されても良い。
【0113】
<経路割当処理について>
ここでは
図8に示すフローチャートを用いて通信制御部F3が実行する経路割当処理について説明する。
図8に示すフローチャートに対応する経路割当処理は、例えばECU8から通信開始要求が入力されたこと(
図6 ステップS12)に基づいて開始される。経路割当処理は、
図6のステップS13~S15、及び、
図7のステップS13、S21を含む一連の処理に対応する。ここでは一例として経路割当処理はステップS101~S112を含む。もちろん、経路割当処理が備えるステップ数や処理順序などは適宜変更可能である。
【0114】
まずステップS101では、通信開始要求として、ACPクライアント82を介してアプリ81からアプリIDと通信条件とを取得してステップS102に移る。このようなステップS101は通信条件取得ステップと呼ぶことができる。
【0115】
ステップS102では通信制御部F3が、通信回線毎のステータスを確認する。ここでのステータスには、ネットワーク側装置から割り当てられている通信帯域の大きさや、空き容量、割当周波数、現在適用されている通信規格(4Gか5Gか等)などを含めることができる。また、通信回線毎のステータスには、経路特性取得部F32によって逐次評価されている通信回線毎のスループットやRTTなども含めることができる。もちろん、セルラー回線のステータス情報には、ネットワーク側装置から通知されるパケット転送の優先順位や、目標遅延時間、パケットロス率などを含めることができる。また、在圏セル毎のRSRPや、RSSI、RSRQなどもセルラー回線のステータスとして援用可能である。
【0116】
その他、通信回線毎のステータスには、その通信回線を提供する通信事業者や、専用回線であるか否かなどといった属性情報を含めることができる。また、Wi-Fi回線が利用可能であるか否かも通信状況の概念に含まれる。このようなステップS102は各通信経路の現況を確認する通信状況確認ステップと呼ぶことができる。ステップS102が完了するとステップS103に移る。
【0117】
ステップS103では経路設定部F34が、ステップS101で取得した回線毎のステータスに基づいて、要求元アプリに割り当てる通信回線である割当回線を選択する。割当回線は、アプリ81から通知された通信条件を充足する通信回線、或いは、通信条件を充足する見込みがある通信回線であることが好ましい。なお、割当回線の選択肢は、ステップS102実行時点においてWi-Fi回線が利用可能であるか否かに応じて変更することができる。
【0118】
例えば、通信条件として許容待ち時間が所定のWi-Fi待機時間以上に設定されている場合には、ステップS102の実行時点でWi-Fi通信が利用不可である場合であっても、通信費用抑制の観点からWi-Fi回線を割当回線に設定することが好ましい。Wi-Fi待機時間は、例えば1時間や2時間など、当該設定時間が経過するまでにWi-Fiスポットに進入することが期待できる長さに設定されればよい。そのような構成によれば、開始待ち時間が十分に大きいアプリ81の通信は、いったん保留となり、Wi-Fiスポットに入ったタイミングで実行される事となる。その結果、通信費用の抑制効果が期待できる。
【0119】
また、ステップS102実行時点においてWi-Fi通信が利用不可であり、かつ、通信条件として許容待ち時間がWi-Fi待ち時間未満に設定されている場合には、セルラー回線としての第1回線や第2回線が、割当回線の候補となりうる。例えば開始待ち時間が10秒や5分、20分などに設定されている場合、セルラー回線が割当回線の候補となりうる。複数のセルラー回線のなかでは、許容RTTや、最小帯域、想定データサイズ、課金対象、データ欠損可否など、通信条件を充足する回線が割当回線として選択されることが好ましい。
【0120】
その他、通信制御部F3は、通信事業者やAPN、割当周波数に基づいて割当回線を選択しても良い。その場合、通信条件には参考情報として、優先的に使用するべき通信事業者やAPN、割当周波数などを含みうる。無線通信装置7が複数のセルラー回線を利用可能に構成されていることを前提とする場合、通信条件は、複数のセルラー回線の中からアプリ81が使用するべき回線を決定するための情報を含んでいればよい。
【0121】
なお、ステップS102実行時点においてWi-Fi通信が利用可能である場合には、Wi-Fi回線もまた割当回線の候補となりうる。その場合、Wi-Fi回線を割当回線として選択するか否かは、当該Wi-Fi回線の通信速度やセキュリティレベル等が通信条件を充足するか否かによる。仮にWi-Fi回線でも通信条件を充足する場合には、Wi-Fi回線が割当回線に設定されうる。
【0122】
割当可能な通信回線が複数存在する場合には、それら複数の通信回線のうち、スループットがより大きいものを割当回線として採用してもよい。また、複数の通信回線のうち、RTTがより小さいものを割当回線に設定してもよい。スループットとRTTのどちらを優先的に用いて要求元アプリ用の回線を選定するかは、要求元アプリが要求する通信の特性、すなわち低遅延性と大容量性のどちらを優先するかによって決定されることが好ましい。低遅延性は許容RTTに対応し、大容量性は想定データサイズに対応する。その他、無線通信装置7が複数のセルラー回線を利用可能に構成されている場合、どのセルラー回線を優先的に使用するかが無線通信装置7に予め設定されていても良い。その場合、優先順位が高いセルラー回線から通信開始要求の到着順に割り当てていっても良い。セルラー回線毎の優先順位は事前に設定された一定値であってもよいし、QoSに基づいて動的に変更されても良い。
【0123】
なお、ここでは一例として、ステップS103での判断においては、実際に要求元アプリのデータ通信を収容できるほどの空き容量(つまり余裕)が割当回線にあるかどうかまでは判断しない。すなわち、割当回線は、属性情報やネットワーク側装置から通知されている情報などをもとに選択されうる。
【0124】
もちろん、他の態様として、経路設定部F34は、RTTの観測値等のステータスを鑑みて通信条件を充足する回線を割当回線として選定するように構成されていても良い。通信条件を充足する回線は、適合回線と呼ぶことができる。例えば
図9に示すように、或る通信回線におけるRTTの観測値が、要求元アプリの許容RTTよりも小さい場合には(S301 YES)、当該通信回線を割当回線の候補として採用する(S303)。一方、注目している通信回線のRTTの観測値が要求元アプリの許容RTT以上である場合には(S301 NO)、当該通信回線を割当回線の候補から除外する(S303)。仮に、実際のRTTが要求元アプリの許容RTT未満である通信回線が1つも存在しない場合には、割当不可と判定してもよい。その場合はステップS109に移る。
【0125】
同様に、経路設定部F34は、スループットの観測値等のステータスを鑑みて通信条件を充足するものを割当回線として選定するように構成されていても良い。想定データサイズで規定される空き容量を有する通信回線が存在しない場合には、割当不可と判断しても良い。ステップS103が完了するとステップS104に移る。
【0126】
ステップS104では経路設定部F34は、ステップS103で決定した割当回線を使用中の他のアプリ81である先行アプリが存在するかを判断する。先行アプリは、割当回線を用いた通信を実行中の、要求元アプリ以外のアプリ81に相当する。先行アプリが存在する場合にはステップS104を肯定判定してステップS105に移る。一方、先行アプリが存在しない場合にはステップS104を否定判定してステップS106に移る。なお、先行アプリが存在するか否かを判定することは、割当回線が使用中であるか否かを判定することに相当する。また、先行アプリは必ずしも1つとは限らない。複数の先行アプリが存在する場合もありうる。
【0127】
ステップS105では経路設定部F34は、割当回線に要求元アプリの通信を収容しても先行アプリと要求元アプリの両方の通信条件を満たす事ができるか否か、換言すれば、先行アプリと要求元アプリの通信が共存できるか否かを判定する。複数のアプリ81のデータ通信が共存できる状態とは、それぞれの通信条件を充足しつつ、各データ通信を同時に/並列的に実行可能であることに相当する。
【0128】
例えば経路設定部F34は、割当回線における現状のスループット及びRTTのそれぞれの観測値と、要求元アプリの想定データサイズとに基づいて、各アプリの許容RTTなどの要件を充足できるか否かを判定する。例えば現状のRTTの観測値が、割当回線を使用する各アプリの許容RTTの最小値よりもさらに所定の収容可能閾値以上小さい場合に、先行アプリと要求元アプリの通信は共存可能であると判定してもよい。収容可能閾値は、例えば要求元アプリの想定データサイズが大きいほど大きい値に設定されていることが好ましい。例えば収容可能閾値は、想定データサイズと現在のスループットで除算した値である影響時間とすることができる。また、収容可能閾値は、影響時間から所定の尤度を加えた値とすることもできる。影響時間は、要求元アプリのトラフィックを割当回線に収容した場合に生じうる、RTTの増加量の概算値に相当する。
【0129】
先行アプリと要求元アプリの通信は共存可能であると判定した場合にはステップS105を肯定判定してステップS106に移る。一方、先行アプリと要求元アプリの通信は共存できないと判定した場合、すなわち、何れかのアプリにおける通信条件が充足されなくなる場合にはステップS105を否定判定してステップS107に移る。
【0130】
ステップS106では経路設定部F34が、ステップS103で選定された割当回線を用いて、ネットワーク側装置やACPサーバ5、サーバ4などと経路設定のための制御信号をやり取りし、無線通信装置7からサーバ4までの通信経路を確保する。すなわちソースポート番号の確保や、宛先ポート番号の取得、送信元及び宛先IPアドレスの取得などを実行する。当該ステップS106が完了するとステップS112に移る。
【0131】
ステップS107では通信要求元のアプリ81の通信条件と先行アプリの通信条件と比較し、先行アプリの通信を維持させるべきか否かを判断する(ステップS108)。先行アプリの通信を維持させることは、要求元アプリの通信開始要求を却下するということに相当する。また、先行アプリの通信を維持しないということは、要求元アプリの通信開始要求を承諾し、先行アプリに割り当てている通信リソースの一部又は全部を要求元アプリに割り当てることに相当する。ここでの通信リソースとは、例えば通信帯域である。通信帯域には、例えばリソースブロックの概念を含めることができる。
【0132】
例えば
図10に示すように、要求元アプリの許容開始待ち時間が所定の割り込み閾値以上である場合には(S401 NO)、先行アプリを維持することを決断する(SS403)。その場合、
図8のステップS108は肯定判定されて、ステップS109に移り、要求元アプリに割当不可応答を返送する。割り込み閾値は、例えば1分や30秒など、比較的に速やかに通信を開始する必要がある状態を想定した値に設定されている。もちろん、割り込み閾値は5分や10分などであってもよい。一方、要求元アプリの許容開始待ち時間が割り込み閾値未満である場合には(S401 YES)、要求元アプリに帯域を割り当てることを決定する。その場合、
図8のステップS108は否定判定されて、ステップS110に移る。
【0133】
なお、先行アプリを維持するかどうか、換言すれば先行アプリと要求元アプリの通信のどちらを優先させるかを判断するためのパラメータとしては、許容待ち時間の他に、データ保持可能時間も使用可能である。例えば
図11に示すように、要求元アプリのデータ保持可能時間が所定の割り込み閾値以上である場合には(S501 NO)、先行アプリを維持すると判断してもよい(S503)。また、要求元アプリのデータ保持可能時間が割り込み閾値未満である場合には(S501 YES)、要求元アプリの通信を優先させると判断してもよい(S502)。データ保持可能時間に対する割り込み閾値もまた、例えば2分や4分など、すぐに通信を開始する必要がある状態を想定した値に設定されている。なお、データ保持可能時間の減少速度は、要求元アプリでの送信用データの発生速度に応じて異なりうる。故にデータ保持可能時間に対する割り込み閾値は、許容待ち時間に対する割り込み閾値よりも長めに設定されることが好ましい。その他、通信条件に示される緊急性フラグや制御利用性フラグなどに基づいて先行アプリと要求元アプリの通信のどちらを優先させるかを判断してもよい。要求元アプリの通信条件に応じたデータ通信を実施可能と判断する場合には、先行アプリの通信を退避させた上で、要求元アプリの通信を開始する場合も含まれる。
【0134】
ステップS110では、要求元アプリの通信を実施可能であると判定するとともに、例えば先行アプリの通信をいったん切断する。先行アプリの通信をいったん切断した場合には、先行アプリが使用していた通信帯域が解放される。なお、ステップS110の処理内容は、要求元アプリのトラフィックを収容可能なように先行アプリの通信パラメータを変更する処理であってもよい。また、要求元アプリのトラフィックを収容可能なように先行アプリの通信パラメータを変更するということは、例えば、要求元アプリの想定データサイズに応じた分だけ、先行アプリに割り当てていた帯域を縮小することに相当する。なお、先行アプリの通信を別回線に収容可能である場合には、先行アプリに別回線を割り当ててもよい。ステップS110での処理が完了するとステップS111に移る。
【0135】
ステップS111では、ステップS106と同様に、経路設定部F34が、ステップS103で選定された割当回線を用いて、ネットワーク側装置やサーバ4などと経路設定のための制御信号をやり取りし、無線通信装置7からサーバ4までの通信経路を確保する。当該ステップS111が完了するとステップS112に移る。
【0136】
ステップS112では要求元アプリに対応するACPクライアント82に向けて通信許可応答を返送して本フローを終了する。通信許可応答にはソースポート番号が含まれる。
【0137】
なお、以上では先行アプリが存在する場合には、先行アプリと要求元アプリの通信条件を比較するステップを含む態様を開示したがこれに限らない。先行アプリが存在する場合であっても、割当回線のスループットや空き容量、RTTなどが、要求元アプリの通信条件を充足する状態となっている場合には、先行アプリの通信条件との比較を省略してステップS106を実行しても良い。つまり、先行アプリとの通信条件の比較処理は任意の要素とすることができる。
【0138】
<作動の具体例>
ここでは上記の経路割当処理の具体例をいくつか例示する。なお、ここで述べるそれぞれ異なるアプリ81である第1アプリと第2アプリは、何れも同一の通信回線、例えば第1回線を使う場合を想定している。
【0139】
例えば第1アプリが通信を実施している状態において、第2アプリから、許容待ち時間が10分に設定されている通信開始要求を受領した場合には、第1アプリの通信を継続させる。また、第2アプリに対応するACPクライアント82に向けて割当不可応答を出力する。第2アプリに対応するACPクライアント82は、第2アプリに通信の許可が出なかったことを報告するとともに、通信条件を随時更新し、定期的にリトライ処理を実行する。
【0140】
なお、リトライ処理を実行する際、通信条件に含まれる許容待ち時間は、最初に通信開始要求を出力した時点からの経過時間に応じて短くなっていく。故に、いつかは通信条件に規定される許容待ち時間が割り込み閾値未満となって、第2アプリに対する通信回線の割当が実行される。なお、データ保持可能時間もまた、最初に通信開始要求を出力した時点からの経過時間、及び、要求元アプリでのトラフィックの生成速度に応じて短くなっていく。故に、時間の経過に伴って通信条件に規定されるデータ保持可能時間が割り込み閾値未満となって、第2アプリへの通信回線の割当が実行される場合もありうる。
【0141】
以上の制御態様によれば、複数のアプリ81が同時通信可能な構成においても、許容通信待ち時間の大きいアプリ81の通信が、すでに通信中のアプリ81の通信に影響を及ぼすことを抑制可能となる。
【0142】
また、他の例として、第1アプリが通信している状態において、第2アプリの通信開始要求を受領した場合、両方のアプリ81の許容RTTが両立できるかを判定する。そして、両方のアプリの許容RTTを両立できる見込みがある場合には、第2アプリのソースポートを確保し、ルーティング処理を実行する。なお、仮に第2アプリのほうが第1アプリよりも許容RTTが小さい場合には、第2アプリの通信品質が確保されやすいように、先行アプリに相当する第1アプリに割り当てている帯域を縮小してもよい。つまり、許容RTTが小さい方のアプリ81の通信を優先させてもよい。
【0143】
このような制御態様によれば、先行アプリと同時通信した際に見込まれる通信品質(主としてRTT)を考慮した上で要求元アプリの通信接続を提供できる。
【0144】
さらなる他の例としては、第1アプリが通信を実施している状態において、データ保持可能時間が所定の割り込み閾値未満である第2アプリからの通信開始要求を受領した場合には、通信制御部F3は第2アプリの通信開始が必要であると判断する。そして、第2アプリへの経路設定を実施する。また、先行アプリとしての第1アプリに対しては、第2アプリの通信が迅速に実行されるよう、第1アプリの通信パラメータの変更あるいは通信切断を実施しても良い。
【0145】
上記の制御態様によれば、先行して通信している第1アプリとの同時通信を勘案しつつ、データ保持可能時間の短い第2アプリに通信接続を提供できる。その結果、第2アプリにおいてバッファあふれが生じる恐れを低減できる。
【0146】
また、他の例として、経路設定部F34は、要求元アプリのデータ欠損フラグがオンに設定された通信開始要求を取得した場合には、先行アプリの通信がデータの欠損を許容するタイプのものであるかどうかに基づいて応答を変更する。
図12に示すように先行アプリがデータの欠損を許容している場合には(S601 YES)、要求元アプリを先行アプリよりも優先して帯域を割り当てる(S602)。一方、先行アプリもまたデータの欠損を不可としている場合には(S601 NO)、例えば先行アプリの通信を維持する(S603)。
【0147】
より具体的には、データ欠損フラグがオンの第1アプリの通信中に、データ欠損フラグがオフの第2アプリからの通信開始要求を受領した場合には、通信制御部F3は第2アプリのACPクライアント82に対して割当不可応答を送信する。第2アプリのACPクライアント82は、所定のリトライ周期で通信条件の諸元をアップデートした上で通信開始要求を再送する。
【0148】
このような制御態様によれば、複数のアプリ81が同時に通信可能な構成において、データ欠損不可のアプリ81の通信品質が、他のアプリ81の通信によって損なわれる恐れを低減できる。なお、データ欠損フラグがオフの第2アプリの通信中に、データ欠損フラグがオンの第1アプリからの通信開始要求を受領した場合には、通信制御部F3は第2アプリ用の帯域を縮小又は解放するとともに、第1アプリ用の経路を確保する。そして第1アプリのACPクライアント82に対して通信許可応答を返送する。なお、第2アプリに対して通信切断を行った場合にはその旨を第2アプリのACPクライアント82に通知する。
【0149】
また、先行アプリも要求元アプリも両方ともデータの欠損を許容しない場合には、他の通信パラメータに基づいて、どちらの通信を優先させるかを決定してもよい。例えば先行アプリも要求元アプリも両方ともデータの欠損を許容しない場合には、データ保持可能時間が短い方の通信を優先させる。なお、本実施形態のように複数のセルラー回線を利用可能である場合には、より信頼度が高い回線に、より通信条件が厳しいアプリ81を優先的に割り当てることが好ましい。信頼度が高い回線とは、スループットやRSRQなどのパラメータが相対的に高品質な回線を指す。
【0150】
その他、先行アプリの通信開始要求時に受け取った想定データサイズが所定の制限閾値以上である場合、以降において当該回線の使用を許可するアプリ81は、想定データサイズが所定値未満のものに限定してもよい。そのような構成によれば、無線通信装置7で合算した通信速度を所定値以上に維持可能となる。
【0151】
また、緊急通信フラグが緊急と設定されたアプリの通信開始要求は、即座に割当可と応答するとともに通信経路確保に際して、当該通信の信頼度が最も高い回線を割り当てることが好ましい。
【0152】
<ソースポート毎の割当回線についての補足>
各アプリ81に割り当てる通信回線は、一定ではなく動的に変更されうる。換言すれば、ソースポートに紐づく通信回線は動的に通信制御部F3によって動的に変更されうる。例えば、Wi-Fi回線を積極的に使用することが通信条件として指定されている場合には、Wi-Fi回線が利用可能となったタイミングでセルラー回線からWi-Fi回線へと変更する場合もある。
【0153】
また、通信制御部F3は、セルラー回線の中でもスループットの低下や、レイテンシの劣化などの通信品質の変動を受けて、アプリ81毎の通信回線の割り当て状態を変更しうる。加えて、アプリ81毎の通信状況、例えば或るアプリ81の通信が終了したことや緊急性が高いアプリ81からの通信開始要求を受けて、他のアプリ81への通信回線の割り当てを変更することもある。
【0154】
なお、回線毎のステータスの変動や、アプリ81毎の通信状態の変化以外にも、車両Hvの所定挙動や、車両Hvに対するユーザ操作に基づいて、アプリ81への通信回線状態を変更するように構成されていてもよい。例えば車両Hvが信号待ち等で一時停車したことを受けて、アプリ81毎の通信回線を割り当てし直してもよい。通信回線の切り替えには通信の瞬断が伴う場合があるが、車両Hvが停車中であれば通信の瞬断が車両Hvの走行制御に影響を与える恐れを低減できるためである。
【0155】
<通信量/通信料の管理について>
アプリ81からサーバ4までのルーティング設定が完了すると、アプリ81は、無線通信装置7から通知されているソースポート番号を用いて、サーバ4と暗号通信を開始する。通信自体が暗号化されると、例えばアプリIDなど、無線通信装置7に入力されたデータの生成元を示す情報も暗号化されて不明となる。そのため、無線通信装置7は、どのアプリ81がどれくらい通信しているのかが不明となる。なお、暗号通信においても暗号化されない情報とは、例えばソースポート番号と、送信元IPアドレス、宛先ポート番号、宛先IPアドレスなどである。アプリID等を含むペイロード、換言すればアプリケーションデータは暗号化されて不明となる。
【0156】
そこで、本実施形態の通信制御部F3及びACPサーバ5は、ソースポート番号とアプリIDとを対応付けて記憶するとともに、ソースポート毎の通信量を、使用回線毎に区分して管理する(
図6のS20)。例えばACPサーバ5は、
図13に示すように、アプリIDと、ソースポート番号と、回線毎の通信量とを記録する。このようにソースポート毎の割当回線及びその通信量の履歴を保持する構成によれば、ソースポートとアプリ81が対応しているため、アプリ81毎の通信量を特定する事ができる。特に通信量を回線毎に区別して記録するため、回線毎の料金体系を考慮した通信料金の合計値を算出可能となる。
【0157】
また、上記の構成によれば、ACPサーバ5は、各車両Hvでのアプリ81毎の回線別使用量を収集可能となる。故に、例えば、通信費を車両メーカが負担するように設定されているアプリ81が有る場合には、車両メーカは、各車両Hvでの当該アプリ81の総通信量に対応する料金をまとめて通信事業者に支払うことが可能となる。また、アプリ81毎の通信料金を算出可能となれば、通信料/通信量が所定の上限値に達しつつあるアプリ81の使用を控えるようにユーザに提案するなどのシステム応答の実施可能となる。或いは、所定の通信料金の上限値に達しつつあるアプリ81に関しては、積極的にWi-Fi通信を使用するように通信条件を変更するなどのシステム応答も採用可能となる。
【0158】
<効果>
以上の構成によれば、無線通信装置7は、要求元アプリから通知される通信条件と、他のアプリ81の通信状況及び通信条件をもとに、要求元アプリと外部装置とのデータ通信が実施可能かどうかを判断する。このような構成によれば、車両Hvで使用されるアプリ81が動的に変更されたり、車両Hv毎に搭載されるアプリ81の組み合わせが異なっていたりしても、アプリ81毎の通信特性に応じた通信回線の割り当てを柔軟に実施可能となる。
【0159】
また、無線通信装置7が要求元アプリに対して、すぐに通信可能かどうかの判断結果を応答として返送する。そのため、アプリ81としては、すぐに通信開始できるのか否かを把握可能となる。特に、通信可能と判断した場合には、通信に供されるソースポート番号を通知するため、要求元アプリは当該ソースポートを用いた暗号通信を実施することも可能となる。
【0160】
さらに、以上のシステム構成では無線通信装置7が、アプリ81毎のサーバ4とのデータ通信を統括的に制御し、アプリ81毎に、アプリ81が要求する通信条件に応じた通信経路を割り当てる。これにより、複数のアプリ81を含むシステム全体として、たとえば遅延時間など、アプリ81毎の通信状態が各アプリ81の許容範囲を逸脱する恐れを抑制できる。換言すれば、通信の遅延時間等にかかる要求が異なる複数種類のデータ通信を並列的に実行する必要が有る場合において、各データ通信のタイプに応じた回線を併用することで、全体として通信効率を高めることができる。
【0161】
また、無線通信装置7は、各アプリ81に対して通信開始のタイミングを調停する。例えば許容開始時間やデータ保持可能時間が十分に大きいアプリ81から通信開始要求が到着した時点において、通信回線の使用割合が高い場合には、割当不可応答を返送することにより、通信開始を保留状態とする。このような構成によれば、急いで通信を開始する必要がないアプリ81のデータ通信を開始することで、無線リソースが逼迫し、先行アプリの通信に支障が生じる恐れを低減できる。
【0162】
加えて、緊急性が高いアプリ81からデータ通信の開始が要求された場合には、優先的に当該アプリ81に対して経路割当を行う。これにより、緊急性が低いアプリ81が通信を実施していることに起因して緊急性が高いアプリ81の通信に支障が生じる恐れを低減できる。なお、緊急性が高いアプリとは、緊急通報アプリや、ADAS系のアプリ、遠隔制御アプリなどである。
【0163】
以上、本開示の実施形態を説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されるものではなく、以降で述べる種々の変形例も本開示の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。例えば下記の種々の変形例は、技術的な矛盾が生じない範囲において適宜組み合わせて実施することができる。なお、前述の実施形態で述べた部材と同一の機能を有する部材については、同一の符号を付し、その説明を省略する。また、構成の一部のみに言及している場合、他の部分については先に説明した実施形態の構成を適用することができる。
【0164】
<優先制御の補足>
先行アプリと要求元アプリの通信のどちらを優先させるかを判断材料は、開始待ち時間やデータ保持可能時間、データ欠損可否など、上述したパラメータに限定されない。例えば先行アプリと要求元アプリとでデータ保持時間やデータ欠損可否などの条件が同じである場合には、緊急性フラグがオンとなっている方を優先しても良い。また、先行アプリと要求元アプリとでデータ保持時間やデータ欠損可否などの条件が同じである場合には、制御利用性フラグがオンとなっている方を優先しても良い。プライバシーフラグや機密性フラグがオンに設定されているアプリ81には、それらのフラグがオフに設定されているアプリ81よりも優先的にVPN回線を割り当てることが好ましい。アプリ81とデータ通信の内容/特性は基本的に1対1で対応するため、ここでのアプリ81はデータ通信と読み替えることもできる。
【0165】
<各種アプリ81の補足説明>
上述した遠隔制御アプリは、例えば、車両外部に配置された遠隔制御センタから送信された遠隔制御用のデータに基づき、各種走行アクチュエータに制御信号を出力することにより、車両Hvの挙動を制御するアプリ81である。また、遠隔制御アプリは、車載カメラ画像などの画像や、車速センサなどの走行状態を示すセンサデータを遠隔制御センタに向けて送信すべく、無線通信装置7に出力する。
【0166】
上述したプローブアプリは、車両Hvには例えば周辺監視センサが特定した地物の観測位置を示すデータセットをプローブデータとしてサーバ4に逐次送信するアプリ81である。プローブデータは、例えば区画線や道路標識、信号機などのランドマーク等に対する一定時間(例えば400ミリ秒)以内の認識結果をパッケージ化したデータに相当する。プローブデータは、例えば、送信元情報や、走行軌道情報、走路情報、および地物情報を含んでもよい。走行軌道情報は、車両Hvが走行した軌道を示す情報である。地物情報は、ランドマーク等の地物の観測座標を示す。また、プローブデータには、車速や、舵角、ヨーレート、ウインカー作動情報、ワイパー作動情報などといった、車両挙動情報が含まれていてもよい。プローブデータはサーバ4が地図データを生成更新するための材料データに相当する。
【0167】
加えて、車両に搭載されるアプリ81の種類は以上で例示したものに限定されない。多様なアプリ81が車両Hvに搭載されうる。例えばアプリ81としては、ドライブレコーダ機能を提供するアプリや、自己診断機能(いわゆるOBD:On Board Diagnostics)としての機能を提供するアプリ、自動運転機能を提供する自動運転アプリなどを含めることができる。
【0168】
なお、自動運転アプリは、例えば、自動運転時の車両内、及び、車室外の状況を示すデータセットを走行状態報告として、無線通信装置7を介してサーバ4に逐次送信する。自動運転時の車両内の状況には、自動運転アプリの作動状態や、乗員の状態を含めることができる。自動運転アプリの作動状態を示すデータには、自動運転アプリにおける周辺環境の認識結果や、走行計画、各走行アクチュエータの目標制御量などの算出結果も含まれる。自動運転アプリは、所定のサーバ4より、中長期的な走行計画などを示すデータを受信するように構成されていても良い。なお、自動運転アプリに対応するサーバ4は、例えば車載通信システム1からアップロードされてくる走行状態報告を受信し、走行計画を作成及び修正して配信してもよい。
【0169】
<適用車両>
車載通信システム1は、四輪自動車のほか、二輪自動車、三輪自動車等、道路上を走行可能な多様な車両に搭載可能である。原動機付き自転車も二輪自動車に含めることができる。当該システムが適用される車両Hvは、個人によって所有されるオーナーカーであってもよいし、カーシェアリングサービスや車両貸し出しサービスに供される車両であってもよい。また、車両Hvは、サービスカーであってもよい。サービスカーには、タクシーや路線バス、乗り合いバスなどが含まれる。また、サービスカーは、運転手が搭乗していない、ロボットタクシー又は無人運行バスなどであってもよい。サービスカーには、荷物を所定の目的地まで自動運搬する無人配送ロボットとしての車両を含めることができる。さらに、車両Hvは、車両外部に存在するオペレータによって遠隔操作される遠隔操作車両であってもよい。
【0170】
<付言(1)>
本開示に記載の装置、システム、並びにそれらの手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサを構成する専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、本開示に記載の装置及びその手法は、専用ハードウェア論理回路を用いて実現されてもよい。さらに、本開示に記載の装置及びその手法は、コンピュータプログラムを実行するプロセッサと一つ以上のハードウェア論理回路との組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。例えば、無線通信装置7等が提供する手段および/又は機能は、実体的なメモリ装置に記録されたソフトウェアおよびそれを実行するコンピュータ、ソフトウェアのみ、ハードウェアのみ、あるいはそれらの組合せによって提供できる。例えば処理部71が備える機能の一部又は全部はハードウェアとして実現されても良い。或る機能をハードウェアとして実現する態様には、1つ又は複数のICなどを用いて実現する態様が含まれる。無線通信装置7は、CPUの代わりに、MPUやGPU、DFP(Data Flow Processor)を用いて実現されていてもよい。無線通信装置7は、CPUや、MPU、GPUなど、複数種類の演算処理装置を組み合せて実現されていてもよい。無線通信装置7は、システムオンチップ(SoC:System-on-Chip)を用いて実現されていても良い。さらに、無線通信装置7は、FPGA(Field-Programmable Gate Array)や、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)を用いて実現されていても良い。各ECU8や、アプリ81、サーバ4も同様である。各種プログラムは、非遷移的実体的記録媒体(non- transitory tangible storage medium)に格納されていればよい。プログラムの保存媒体としては、HDD(Hard-disk Drive)やSSD(Solid State Drive)、フラッシュメモリ、SD(Secure Digital)カード等、多様な記憶媒体を採用可能である。
【0171】
<付言(2)>
本開示には以下の構成も含まれる。
【0172】
[構成(1)]
車両で使用されるアプリケーションと車両の外部に存在する通信装置である外部装置とのデータ通信を制御するための、少なくとも1つのプロセッサを用いて実施される通信制御方法であって、
アプリケーションから外部装置との通信の開始要求を受け付けることと(S12A)と、
開始要求の要求元であるアプリケーションから、外部装置とのデータ通信の条件を示す通信条件を取得すること(S101)と、
通信条件に応じた通信を実施可能であるか否かを、他のアプリケーションによる通信回線の使用状況に基づいて判断すること(S13)と、
要求元と外部装置との通信が可能であると判定されたことに基づき、要求元用の通信帯域を確保するとともに、要求元から外部装置までの通信経路を設定すること(S14)と、
要求元の通信条件に応じた通信を開始可能であるか否かを示す応答メッセージを要求元に返送すること(S15)と、を含む表示制御方法。
【0173】
上記の方法は、無線通信装置7の通信制御部F3が行う処理フローに対応する方法である。上記の方法によれば、アプリケーション毎の通信特性に応じた通信回線を割り当て可能となる。
[構成(2)]
上記構成(1)として記載の表示制御方法であって、
通信経路を設定することには、要求元へのソースポート番号の割当が含まれており、
要求元の通信条件に応じた通信を開始可能と判断され、要求元から外部装置までの通信経路が設定された場合には、要求元に対してソースポート番号を通知することを含む表示制御方法。
【0174】
[構成(3)]
車両で使用されるアプリケーションと無線通信装置との通信を中継する車両内中継モジュールであって、
アプリケーションと外部装置とのデータ通信の条件を示す通信条件を取得すること(S11)と、
アプリケーションの作動状態に基づいて、上記の通信条件と、アプリケーションの識別情報であるアプリ識別子とを含む通信開始要求を無線通信装置に出力すること(S12)と、
無線通信装置から、上記の通信条件に応じた通信を開始可能であるか否かを示す応答メッセージを受信して、アプリケーションに通知すること(S18、S23)と、を含み、
通信経路を設定することには、要求元のためのソースポート番号の確保が含まれており、
通信条件に応じた通信を開始不能と判断された場合、通信条件を更新するとともに、更新した通信条件を含む通信開始要求を無線通信装置に再送信する処理を所定のタイミングで実行すること(S30)と、を実行可能に構成されている車両内中継モジュール。
【0175】
上記の車両内中継モジュールは、上述した実施形態におけるACPクライアント82に相当する。上記の構成によれば、仮にデータ通信をすぐに開始できない場合であっても、車両内中継モジュールが随時、通信開始要求を再送信する。このような構成によれば、アプリケーション毎の通信特性に応じた通信回線が割り当てられやすくなる。
【符号の説明】
【0176】
1 車載通信システム、2 セルラー基地局、3 コアネットワーク、4 サーバ(外部装置)、5 ACPサーバ(中継サーバ)、6 Wi-Fi基地局、7 無線通信装置、8 ECU、F3 通信制御部(通信制御装置)、F31 移動管理部、F32 経路特性取得部(回線特性取得部)、F33 通信条件取得部、F34 経路設定部、F35 通信量管理部、G1 経路管理部(経路情報取得部)、G2 中継処理部、G3 通信量管理部、81 アプリ(アプリケーション)、82 ACPクライアント、S12A 要求受付部、S101 通信条件取得部、S13 通信可否判断部、S14 経路設定部、S15 応答部、S21 応答部