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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】板ガラス洗浄装置
(51)【国際特許分類】
   B08B 1/34 20240101AFI20240409BHJP
   B08B 1/20 20240101ALI20240409BHJP
   C03C 23/00 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
B08B1/34
B08B1/20
C03C23/00 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020203975
(22)【出願日】2020-12-09
(65)【公開番号】P2022091256
(43)【公開日】2022-06-21
【審査請求日】2023-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】田中 哲也
【審査官】東 勝之
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-113663(JP,A)
【文献】特開2015-030570(JP,A)
【文献】特開2003-163441(JP,A)
【文献】実公昭45-003978(JP,Y1)
【文献】特開2006-075718(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B08B 1/00 - 1/54
C03C 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗浄液を用いて板ガラスの表面を洗浄する板ガラス洗浄装置であって、
前記板ガラスを挟んだ状態で回転することにより、前記板ガラスを搬送する搬送ローラと、
前記板ガラスを挟んだ状態で回転することにより、前記板ガラスの表面を擦り洗浄する洗浄ローラと、を備え、
前記搬送ローラの弾性率は、前記洗浄ローラの弾性率よりも小さい
ことを特徴とする板ガラス洗浄装置。
【請求項2】
前記洗浄ローラの弾性率を、前記搬送ローラの弾性率で除した値である弾性率比は、7.5以上80以下である
請求項1に記載の板ガラス洗浄装置。
【請求項3】
前記搬送ローラの材質は、ポリオレフィン系エラストマーであり、
前記洗浄ローラの材質は、ポリビニルアルコール系ポリマーである
請求項2に記載の板ガラス洗浄装置。
【請求項4】
前記洗浄ローラと前記板ガラスとの接触面積を、前記搬送ローラと前記板ガラスとの接触面積で除した値である面積比は、5以上75以下である
請求項1~請求項3の何れか一項に記載の板ガラス洗浄装置。
【請求項5】
前記洗浄ローラは、前記板ガラスに接触する周面に溝を有する
請求項4に記載の板ガラス洗浄装置。
【請求項6】
前記搬送ローラは、少なくとも前記板ガラスと接触する部位が多孔質部材により構成される
請求項1~請求項5の何れか一項に記載の板ガラス洗浄装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板ガラス洗浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、板ガラスを挟んだ状態で搬送する2つの搬送ローラと、板ガラスを挟んだ状態で板ガラスの表面を擦り洗浄する2つの洗浄ローラと、板ガラスに洗浄液を供給する供給ノズルと、を備える板ガラス洗浄装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-113663号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような板ガラス洗浄装置は、板ガラスの洗浄不良を抑制する点において、改善の余地が残されていた。本発明の目的は、板ガラスの洗浄不良の発生を抑制できる板ガラス洗浄装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
本開示の板ガラス洗浄装置は、洗浄液を用いて板ガラスの表面を洗浄する板ガラス洗浄装置であって、前記板ガラスを挟んだ状態で回転することにより、前記板ガラスを搬送する搬送ローラと、前記板ガラスを挟んだ状態で回転することにより、前記板ガラスの表面を擦り洗浄する洗浄ローラと、を備え、前記搬送ローラの弾性率は、前記洗浄ローラの弾性率よりも小さいことを特徴とする。
【0006】
本開示の板ガラス洗浄装置において、搬送ローラの弾性率は洗浄ローラの弾性率よりも小さいため、搬送ローラが板ガラスを搬送する際に、搬送ローラが板ガラスの表面に追従変形しやすくなる。このため、板ガラスに洗浄液が付着していても、搬送ローラが板ガラスに対してスリップしにくくなり、板ガラスの搬送が安定する。その結果、洗浄ローラが板ガラスを効果的に擦るため、板ガラスの洗浄性が向上する。こうして、板ガラス洗浄装置は、板ガラスの洗浄不良の発生を抑制できる。
【0007】
本開示の板ガラス洗浄装置において、前記洗浄ローラの弾性率を前記搬送ローラの弾性率で除した値である弾性率比は、7.5以上80以下であることが好ましい。これによれば、本開示の板ガラス洗浄装置は、板ガラスの搬送をより安定させることができる。つまり、本開示の板ガラス洗浄装置は、板ガラスの洗浄性を向上できる。
【0008】
本開示の板ガラス洗浄装置において、前記搬送ローラの材質は、ポリオレフィン系エラストマーであり、前記洗浄ローラの材質は、ポリビニルアルコール系ポリマーであることが好ましい。
【0009】
本開示の板ガラス洗浄装置は、前述の材質の選定により、搬送ローラ及び洗浄ローラの弾性率に差を設けることができる。
本開示の板ガラス洗浄装置において、前記洗浄ローラと前記板ガラスとの接触面積を、前記搬送ローラと前記板ガラスとの接触面積で除した値である面積比は、5以上75以下であることが好ましい。
【0010】
面積比が小さ過ぎると、洗浄不良が発生するおそれがある。一方、面積比が大き過ぎると、板ガラスの搬送を妨げる力が板ガラスに過剰に作用する結果、搬送不良が発生するおそれがある。つまり、洗浄不良が発生するおそれがある。この点、本開示の板ガラス洗浄装置は、面積比を上記の範囲に規定しているため、前述の懸念を回避できる。
【0011】
本開示の板ガラス洗浄装置において、前記洗浄ローラは、前記板ガラスに接触する周面に溝を有することが好ましい。本開示の板ガラス洗浄装置は、洗浄ローラに溝を設けることにより、前述の面積比を調整できる。
【0012】
本開示の板ガラス洗浄装置において、前記搬送ローラは、少なくとも前記板ガラスと接触する部位が多孔質部材により構成されることが好ましい。これによれば、本開示の板ガラス洗浄装置において、搬送ローラは、板ガラスとの間に存在する洗浄液を吸収することにより、過剰に存在する洗浄液を除去できる。このため、本開示の板ガラス洗浄装置は、搬送ローラが板ガラスに対してスリップすることをより抑制できる。
【発明の効果】
【0013】
本開示の板ガラス洗浄装置は、板ガラスの洗浄不良の発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】一実施形態に係る板ガラス洗浄装置の概略構成を示す側面図。
図2】上記板ガラス洗浄装置の概略構成を示す平面図。
図3】搬送ローラ及び洗浄ローラにおける弾性率比と面積比との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示の板ガラス洗浄装置の一実施形態について説明する。
図1及び図2に示すように、板ガラス洗浄装置10は、板ガラスGを搬送する複数の搬送部20と、板ガラスGを洗浄する複数の洗浄部30と、複数の搬送部20を駆動する第1駆動部40と、複数の洗浄部30を駆動する第2駆動部50と、板ガラスGの搬送経路に洗浄液を供給する複数の供給部60と、を備える。
【0016】
図1及び図2に示すように、搬送部20は、複数の第1搬送ローラ21と、複数の第2搬送ローラ22と、複数の第1搬送ローラ21を支持する第1搬送ローラ支持軸23と、複数の第2搬送ローラ22を支持する第2搬送ローラ支持軸24と、を有する。以降の説明では、第1搬送ローラ21又は第2搬送ローラ22を総称して搬送ローラ21,22ともいう。
【0017】
複数の第1搬送ローラ21と第1搬送ローラ支持軸23とは、板ガラスGの搬送経路の上方に配置され、複数の第2搬送ローラ22と第2搬送ローラ支持軸24とは、板ガラスGの搬送経路の下方に配置される。第1搬送ローラ21及び第2搬送ローラ22は円筒状をなし、第1搬送ローラ支持軸23及び第2搬送ローラ支持軸24は円柱状をなしている。複数の第1搬送ローラ21は、第1搬送ローラ支持軸23の軸方向に間隔をあけた状態で第1搬送ローラ支持軸23に固定され、複数の第2搬送ローラ22は、第2搬送ローラ支持軸24の軸方向に間隔をあけた状態で第2搬送ローラ支持軸24に固定される。板ガラスGの搬送方向は、第1搬送ローラ21及び第2搬送ローラ22の軸方向と直交する方向である。
【0018】
搬送ローラ21,22は、例えば、ポリエチレン及びポリプロピレンなどのポリオレフィン系エラストマーにより構成される。搬送ローラ21,22は、少なくとも板ガラスGと接する部分が多孔質構造であることが好ましい。詳しくは、搬送ローラ21,22の気孔率は、好ましくは30%以上90%以下、より好ましくは40%以上80%以下、さらに好ましくは50%以上70%以下である。搬送ローラ21,22の気孔率が30%未満になると、板ガラスGと搬送ローラ21,22の間に過剰に存在する洗浄液を除去できず、搬送ローラ21,22が板ガラスGに対してスリップすることで搬送性が悪化する。つまり、板ガラスGの洗浄性が悪化する。一方、気孔率が90%を超過すると、搬送ローラ21,22の機械的強度が下がる。なお、搬送ローラ21,22の気孔率は、搬送ローラ21,22の全体積に占める空間の体積の割合である。
【0019】
洗浄部30は、第1洗浄ローラ31と、第2洗浄ローラ32と、第1洗浄ローラ31を支持する第1洗浄ローラ支持軸33と、第2洗浄ローラ32を支持する第2洗浄ローラ支持軸34と、を有する。複数の洗浄部30は、搬送方向において、複数の搬送部20と交互に配置される。以降の説明では、第1洗浄ローラ31又は第2洗浄ローラ32を総称して洗浄ローラ31,32ともいう。
【0020】
第1洗浄ローラ31と第1洗浄ローラ支持軸33とは、板ガラスGの搬送経路の上方に配置され、第2洗浄ローラ32と第2洗浄ローラ支持軸34とは、板ガラスGの搬送経路の下方に配置される。第1洗浄ローラ31及び第2洗浄ローラ32は円筒状をなし、第1洗浄ローラ支持軸33及び第2洗浄ローラ支持軸34は円柱状をなしている。洗浄ローラ31,32は、搬送ローラ21,22に比較して長尺である。第1洗浄ローラ31は、第1洗浄ローラ支持軸33に固定され、第2洗浄ローラ32は、第2洗浄ローラ支持軸34に固定される。
【0021】
図2に示すように、洗浄ローラ31,32は、板ガラスGとの接触面となる周面に洗浄ローラ31,32の軸線に向かって凹む溝35を含む。詳しくは、洗浄ローラ31,32は、周方向に延びる複数の第1の溝351と、軸方向に延びる複数の第2の溝352と、を含む。この点で、洗浄ローラ31,32は、格子状の溝を含んでいるともいえる。なお、洗浄ローラ31,32は、周方向及び軸方向の両方向と交差する方向に延びる複数の溝を含んでいてもよい。
【0022】
板ガラスGの搬送経路の上方に位置する複数の第1洗浄ローラ31又は板ガラスGの搬送経路の下方に位置する複数の第2洗浄ローラ32において、複数の第1の溝351を搬送方向に投影したとき、複数の第1の溝351は重複しないように軸方向にずれて設けられている。図1及び図2は、搬送ローラ21,22を模式的に図示しているが、現実には、板ガラスGが洗浄装置を通過する場合、板ガラスGの幅方向における何れの部分も同じ回数だけ洗浄ローラ31,32の第1の溝351の直下又は直上を通過することが好ましい。言い換えれば、板ガラスGの幅方向における何れの部分も洗浄ローラ31,32の周面に対する接触頻度が等しいことが好ましい。
【0023】
洗浄ローラ31,32は、例えば、ポリビニルアルコール系ポリマー、アクリル酸系ポリマー、アクリルアミド系ポリマー、ポリオキシエチレン系ポリマー、ポリエーテル系ポリマー、縮合系ポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリスチレンスルホン酸、ウレタン樹脂及びポリウレタン樹脂などのエラストマーにより構成されている。本実施形態では、洗浄ローラ31,32は、ポリビニルアルコール系ポリマーにより構成されている。洗浄ローラ31,32は、洗浄液を吸収したり洗浄液を保有したりできるように、少なくとも板ガラスGと接する部分が多孔質構造であることが好ましい。詳しくは、洗浄ローラ31,32の気孔率は、好ましくは60%以上95%以下、より好ましくは70%以上92%以下、さらに好ましくは80%以上90%以下である。洗浄ローラ31,32の気孔率が60%未満になると、洗浄ローラ31,32が保有する洗浄液量が少なくなり、板ガラスGの洗浄性が悪化する。一方、気孔率が95%を超過すると、洗浄ローラ31,32の機械的強度が下がる。なお、洗浄ローラ31,32の気孔率は、洗浄ローラ31,32の全体積に占める空間の体積の割合である。
【0024】
また、板ガラス洗浄装置10において、全ての洗浄ローラ31,32と板ガラスGとの接触面積は、全ての搬送ローラ21,22と板ガラスGとの接触面積よりも大きい。言い換えれば、板ガラス洗浄装置10が板ガラスGを洗浄しているとき、板ガラスGの表面及び裏面の面積のうち、洗浄ローラ31,32と接する面積は、搬送ローラ21,22と接する面積よりも大きい。
【0025】
本実施形態では、搬送ローラ21,22及び洗浄ローラ31,32の外径が等しく、搬送ローラ21,22及び洗浄ローラ31,32の板ガラスGに対する潰れ具合が略等しいため、全ての搬送ローラ21,22と板ガラスGの接触面積及び全ての洗浄ローラ31,32と板ガラスGとの接触面積を以下のように表現できる。
【0026】
詳しくは、搬送ローラ21,22と板ガラスGとの接触面積は、単一の搬送ローラ21,22の周面の面積に、搬送部20が有する搬送ローラ21,22の数と、搬送部20の数と、を乗じた値で表現できる。図2に示す例では、搬送ローラ21,22と板ガラスGとの接触面積は、単一の搬送ローラ21,22の周面の面積に、搬送部20が有する搬送ローラ21,22の数である14と、搬送部20の数である3と、を乗じた値で表現できる。
【0027】
洗浄ローラ31,32と板ガラスGとの接触面積は、単一の洗浄ローラ31,32の周面の面積から溝35の形成面積を差し引いた値に、洗浄部30が有する洗浄ローラ31,32の数と、洗浄部30の数と、を乗じた値で表現できる。図2に示す例では、洗浄ローラ31,32と板ガラスGとの接触面積は、単一の洗浄ローラ31,32の周面の面積から溝35の形成面積を差し引いた値に、洗浄部30が有する洗浄ローラ31,32の数である2と、洗浄部30の数である3と、を乗じた値で表現できる。
【0028】
第1駆動部40は、例えば、モータと、モータの動力を複数の搬送部20の第1搬送ローラ21及び第2搬送ローラ22に伝達する伝達機構と、を含んで構成される。第1駆動部40は、複数の搬送部20の第1搬送ローラ21及び第2搬送ローラ22を回転させることにより、第1搬送ローラ21及び第2搬送ローラ22に板ガラスGを搬送させる。また、第1駆動部40は、複数の搬送部20の第1搬送ローラ支持軸23及び第2搬送ローラ支持軸24の間隔を調整する。言い換えれば、第1駆動部40は、複数の搬送部20の第1搬送ローラ21及び第2搬送ローラ22が板ガラスGを挟む力を調整する。
【0029】
第2駆動部50は、例えば、モータと、モータの動力を複数の洗浄部30の第1洗浄ローラ31及び第2洗浄ローラ32に伝達する伝達機構と、を含んで構成される。第2駆動部50は、複数の洗浄部30の第1洗浄ローラ31及び第2洗浄ローラ32を回転させることにより、第1洗浄ローラ31及び第2洗浄ローラ32に板ガラスGを擦り洗浄させる。第1洗浄ローラ31の回転方向は、第1搬送ローラ21の回転方向の逆方向であり、第2洗浄ローラ32の回転方向は、第2搬送ローラ22の回転方向の逆方向である。このため、板ガラスGに対する第1洗浄ローラ31及び第2洗浄ローラ32の周面の相対的な移動速度が速くなり、複数の洗浄部30による擦り洗浄の効果が高まる。
【0030】
なお、第1洗浄ローラ31及び第2洗浄ローラ32の周面が板ガラスGの表面に対して相対的に移動していれば、板ガラスGの表面を洗浄することは可能である。この点で、第1洗浄ローラ31の回転方向は、第1搬送ローラ21の回転方向と同方向としてもよく、第2洗浄ローラ32の回転方向は、第2搬送ローラ22の回転方向と同方向としてもよい。
【0031】
また、第2駆動部50は、複数の洗浄部30の第1洗浄ローラ支持軸33及び第2洗浄ローラ支持軸34の間隔を調整する。言い換えれば、第2駆動部50は、複数の洗浄部30の第1洗浄ローラ31及び第2洗浄ローラ32が板ガラスGを挟む力を調整する。ただし、洗浄部30が板ガラスGを洗浄する際に板ガラスGに付与する力の方向は、板ガラスGの搬送方向の逆方向である。このため、板ガラスGの搬送不良が生じないように、第1洗浄ローラ31と第2洗浄ローラ32との間隔は、第1搬送ローラ21と第2搬送ローラ22との間隔以上に設定される。
【0032】
以上説明した板ガラス洗浄装置10は、洗浄不良の抑制、特に、板ガラスGの表面に付着する異物を除去することを目的としている。以降の説明では、板ガラス洗浄装置10が何枚かの板ガラスGを洗浄したときに、所定の大きさの異物が付着している板ガラスGがどの程度存在するかを示す指数を洗浄不良率とする。例えば、洗浄不良率が1%とは、100枚の板ガラスGを洗浄したときに99枚の板ガラスGに所定の大きさの異物が付着してない一方で、1枚の板ガラスGに所定の大きさの異物が付着していることを示す。なお、前述した所定の大きさは、板ガラスGに要求される品質により変化するが、本実施形態では、20μmとする。
【0033】
板ガラス洗浄装置10において、洗浄不良率を低減するためには、板ガラスGを一定の速度で搬送し続けることが求められる。そして、搬送ローラ21,22が板ガラスGに対してスリップしない状態、すなわち、搬送ローラ21,22が板ガラスGをしっかりと挟んだ状態で、洗浄ローラ31,32が板ガラスGの表面を擦ることが求められる。
【0034】
そこで、搬送ローラ21,22が板ガラスGに対してグリップしやすいように、搬送ローラ21,22の弾性率は、洗浄ローラ31,32の弾性率よりも小さく設定される。詳しくは、搬送ローラ21,22を構成する材料の弾性率は、洗浄ローラ31,32を構成する材料の弾性率よりも小さく設定される。洗浄ローラ31,32の弾性率を搬送ローラ21,22の弾性率で除した値である弾性率比は、好ましくは7.5以上80以下、より好ましくは、10以上70以下、さらに好ましくは20以上60以下、特に好ましくは、30以上50以下である。
【0035】
ここで、搬送ローラ21,22及び洗浄ローラ31,32の弾性率は、搬送ローラ21,22が板ガラスGを搬送したり洗浄ローラ31,32が板ガラスGを洗浄したりするときの歪に応じた弾性率である。例えば、搬送ローラ21,22及び洗浄ローラ31,32の弾性率は、搬送ローラ21,22及び洗浄ローラ31,32を構成する材料の引張試験をしたときに、歪が0.05%~0.25%であるときの弾性率である。搬送ローラ21,22の弾性率は、好ましくは10~80MPa、より好ましくは20~70MPa、さらに好ましくは30~60MPaである。一方、洗浄ローラ31,32の弾性率は、好ましくは300MPa~1200MPa、より好ましくは500~1000MPa、さらに好ましくは600~800MPaである。なお、弾性率は、圧縮弾性率でもよい。
【0036】
板ガラス洗浄装置10において、洗浄不良率を低減するためには、洗浄ローラ31,32の板ガラスGに対する接触頻度を高めることが重要である。ただし、洗浄ローラ31,32と板ガラスGとの接触頻度が高過ぎると、板ガラスGに搬送方向と逆方向に作用する力が大きくなることで、板ガラスGの搬送が安定しなくなるおそれがある。そして、搬送不良にともなう洗浄不良が発生するおそれがある。
【0037】
そこで、洗浄ローラ31,32の板ガラスGに対する接触頻度を適切なものとするために、板ガラスGの洗浄ローラ31,32に対する接触面積と搬送ローラ21,22に対する接触面積とを以下のようにする。詳しくは、全ての洗浄ローラ31,32と板ガラスGとの接触面積を、全ての搬送ローラ21,22と板ガラスGとの接触面積で除した値を面積比としたとき、面積比は、好ましくは5以上75以下、より好ましくは7以上60以下、さらに好ましくは15以上50以下、特に好ましくは20以上40以下である。
【0038】
本実施形態の作用について説明する。
詳しくは、板ガラス洗浄装置10において、弾性率比と面積比とに関する条件を変更しつつ、板ガラスGを洗浄したときの結果について説明する。
【0039】
図3において、X1~X8は、実施例を示し、Y1~Y5は、比較例を示す。各実施例及び各比較例において、第1搬送ローラ21と第2搬送ローラ22との間隔は一定であり、第1洗浄ローラ31と第2洗浄ローラ32との間隔は一定であった。詳しくは、板ガラスGの厚さをThとしたとき、第1搬送ローラ21と第2搬送ローラ22との間隔はTh-0.1mmであり、第1洗浄ローラ31と第2洗浄ローラ32との間隔はTh-0.1mmであった。また、各実施例及び各比較例において、搬送ローラ21,22の回転速度は一定であり、洗浄ローラ31,32の回転速度は一定であった。詳しくは、第1搬送ローラ21及び第2搬送ローラ22の回転速度は15mm/秒であり、第1洗浄ローラ31及び第2洗浄ローラ32の回転速度は600mm/秒であった。
【0040】
なお、実施例での第1搬送ローラ21及び第2搬送ローラ22の材質は、ポリエチレン(PE)であり、第1洗浄ローラ31及び第2洗浄ローラ32の材質は、ポリビニルアルコール(PVA)であった。
【0041】
実施例及び比較例の評価は、次のように行った。洗浄後の板ガラスGの両面を光学顕微鏡で観察し、20μm以上の異物の付着数が3以上のものを「不良」と判定し、20μm以上の異物の付着数が2以下のものを「良」と判定した。なお、板ガラスGは、直径が100mmであり板厚が0.4mmであった。また、光学顕微鏡の倍率は50倍であった。
【0042】
比較例Y1及び比較例Y2のように弾性率比が7.5よりも小さい場合、比較例Y3のように面積比が75よりも大きい場合並びに比較例Y4及び比較例Y5のように弾性率比が80よりも大きい場合には、洗浄不良率は比較的大きな1.5%以上となった。
【0043】
一方、実施例X1~実施例X8のように、弾性率比が7.5以上80以下かつ面積比が5以上75以下である場合には、洗浄不良率は1.5%未満となった。さらに、実施例X5及び実施例X6に示されるように、弾性率比が32.5以上50以下かつ面積比が10以上30以下である場合には、洗浄不良率は0%となった。
【0044】
以上より、枠FL1の外側の範囲は、洗浄不良率が比較的高い範囲となり、枠FL1の内側の範囲は、洗浄不良率が小さい範囲となり、枠FL2の内側の範囲は、洗浄不良が発生しない範囲となった。したがって、板ガラス洗浄装置10において、弾性率比及び面積比は、枠FL1の内側に位置するように選択されることが好ましく、枠FL2の内側に位置するように選択されることがさらに好ましい。
【0045】
本実施形態の効果について説明する。
(1)板ガラス洗浄装置10において、搬送ローラ21,22の弾性率は洗浄ローラ31,32の弾性率よりも小さいため、搬送ローラ21,22が板ガラスGを搬送する際に、搬送ローラ21,22が板ガラスGに追従変形しやすくなる。このため、搬送ローラ21,22が洗浄液の付いた板ガラスGに対してスリップしにくくなり、板ガラスGの搬送が安定しやすくなる。これにより、洗浄ローラ31,32が板ガラスGを効果的に擦るため、板ガラスGの洗浄性が向上する。その結果、板ガラス洗浄装置10は、板ガラスGの洗浄不良の発生を抑制できる。
【0046】
(2)板ガラス洗浄装置10において、洗浄ローラ31,32の弾性率を搬送ローラ21,22の弾性率で除した値である弾性率比は、好ましくは7.5以上80以下、より好ましくは10以上70以下、さらに好ましくは20以上60以下、特に好ましくは30以上50以下である。このため、板ガラス洗浄装置10は、板ガラスGの搬送をより安定させることができる。
【0047】
(3)搬送ローラ21,22の材質は、ポリオレフィン系エラストマーであり、洗浄ローラ31,32の材質は、ポリビニルアルコール系ポリマーである。この材質の選定により、板ガラス洗浄装置10は、搬送ローラ21,22及び洗浄ローラ31,32の弾性率に差を設けることができる。
【0048】
(4)洗浄ローラ31,32と板ガラスGとの接触面積が小さ過ぎると、洗浄不良が発生するおそれがあり、一方、洗浄ローラ31,32と板ガラスGとの接触面積が大き過ぎると、搬送不良が発生するおそれがある。この点、板ガラス洗浄装置10は、洗浄ローラ31,32と板ガラスGとの接触面積を搬送ローラ21,22と板ガラスGとの接触面積で除した値である面積比は、好ましくは5以上75以下、より好ましくは7以上60以下、さらに好ましくは8以上50以下、特に好ましくは10以上30以下である。このため、板ガラス洗浄装置10は、前述のおそれを抑制できる。
【0049】
(5)洗浄ローラ31,32は、板ガラスGに接触する周面に溝35を有する。このため、板ガラス洗浄装置10は、洗浄ローラ31,32と板ガラスGとの接触面積を容易に調整できる。つまり、板ガラス洗浄装置10は、面積比を容易に調整できる。
【0050】
また、第1の溝351は、洗浄ローラ31,32と板ガラスGとの間から洗浄液を排出するための溝として機能できる。また、第2の溝352を形成することで、洗浄ローラ31,32の周面上に軸方向に延びるエッジができる。このため、洗浄ローラ31,32は、上記エッジで板ガラスGを擦り洗浄することにより、板ガラスGの洗浄力を高めることができる。
【0051】
(6)搬送ローラ21,22は、少なくとも板ガラスGと接触する部位が多孔質部材により構成される。このため、搬送ローラ21,22は、板ガラスGとの間に存在する洗浄液を吸収することにより除去できる。したがって、板ガラス洗浄装置10は、搬送ローラ21,22が板ガラスGに対してスリップすることを抑制できる。
【0052】
(7)洗浄ローラ31、32は、少なくとも板ガラスGと接触する部位が多孔質部材により構成される。このため、洗浄ローラ31、32は、板ガラスGとの間に存在する洗浄液を吸収することにより、洗浄液を保有できる。したがって、板ガラス洗浄装置10は、洗浄ローラ31、32が板ガラスGに潤沢に洗浄液を供給できるため、洗浄効率を高めることができる。
【0053】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・搬送ローラ21,22及び洗浄ローラ31,32の板ガラスGと接触する部位は、空隙を有しない樹脂材料により構成することもできる。言い換えれば、搬送ローラ21,22及び洗浄ローラ31,32の板ガラスGと接触する部位は、必ずしも多孔質部材により形成する必要はない。
【0054】
・搬送部20の数及び洗浄部30の数は、適宜に変更することができる。例えば、搬送部20の数が洗浄部30の数よりも多い場合であっても、全ての搬送ローラ21,22と板ガラスGとの接触面積は、全ての洗浄ローラ31,32と板ガラスGとの接触面積よりも小さいことが好ましい。
【0055】
・搬送ローラ21,22の軸方向における長さは、洗浄ローラ31,32の軸方向における長さと等しくてもよい。
・搬送ローラ21,22の外径は、洗浄ローラ31,32の外径と異なっていてもよい。洗浄ローラ31,32の軸方向と直交する断面形状は、多角形状をなしていてもよい。
【0056】
・洗浄ローラ31,32は、第1の溝351及び第2の溝352の少なくとも一方を有さなくてもよいし、第1の溝351及び第2の溝352の双方を有さなくてもよい。
・板ガラス洗浄装置10が洗浄する板ガラスGの形状は、平面視において、多角形状をなしていてもよいし、楕円状をなしていてもよいし、他の形状であってもよい。
【符号の説明】
【0057】
10…板ガラス洗浄装置
20…搬送部
21…第1搬送ローラ(搬送ローラ)
22…第2搬送ローラ(搬送ローラ)
30…洗浄部
31…第1洗浄ローラ(洗浄ローラ)
32…第2洗浄ローラ(洗浄ローラ)
35…溝
351…第1の溝
352…第2の溝
G…板ガラス
図1
図2
図3