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  • 特許-米粉パンの製造方法 図1
  • 特許-米粉パンの製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】米粉パンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A21D 8/02 20060101AFI20240409BHJP
   A21D 2/36 20060101ALI20240409BHJP
   A21D 13/066 20170101ALI20240409BHJP
【FI】
A21D8/02
A21D2/36
A21D13/066
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020556729
(86)(22)【出願日】2019-10-17
(86)【国際出願番号】 JP2019040967
(87)【国際公開番号】W WO2020100516
(87)【国際公開日】2020-05-22
【審査請求日】2022-08-04
(31)【優先権主張番号】P 2018214580
(32)【優先日】2018-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001812
【氏名又は名称】株式会社サタケ
(74)【代理人】
【識別番号】110001151
【氏名又は名称】あいわ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 弘道
(72)【発明者】
【氏名】水野 忠男
(72)【発明者】
【氏名】徳井 圭裕
(72)【発明者】
【氏名】塚元 惇平
(72)【発明者】
【氏名】藤島 壮
(72)【発明者】
【氏名】野田 圭太
【審査官】神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-189786(JP,A)
【文献】山口智子,グルテンフリー米粉パンの生地の膨化と食味に対する電解水の影響,新潟大学教育学部研究紀要,2016年,9(1),pp.113-123
【文献】香田 智則、西岡 昭博,グルテンを用いない米粉パンの製造技術,日本調理科学会誌,50(1),pp.1-5
【文献】東機産業,ハンディタイプのデジタル粘度計TVC-10,https://tokisangyo.co.jp/wp-content/uplorads/2022/01/TVC10.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
米粉、砂糖、塩、イースト、油、増粘多糖類及び水からなる材料を混合する一次ミキシング工程、一次ミキシング工程後の材料を温度30℃~50℃、時間30~60分で一次発酵する一次発酵工程、一次発酵後の材料を所望する形状に成形する成形工程、成形工程後の材料を温度30~50℃、時間30~60分で二次発酵する二次発酵工程及び二次発酵後の材料を温度180℃~250℃、時間30~40分で焼成する焼成工程を備え、前記一次発酵工程後の材料の粘度を、30~70[Pa・S]となるように予め材料を調製し、かつ、前記二次発酵工程後の材料の粘度を、30~70[Pa・S]となるように予め材料を調製してなることを特徴とする米粉パンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グルテンを使用しない米粉パンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、小麦粉による食物アレルギー対策や、コメの消費を拡大させることを目的に、小麦粉から米粉に原料を代替した米粉パンが知られてきている。
小麦粉にはタンパク質の一種であるグルテンが含まれている。グルテンがパンの弾性や柔軟性を決定し、パンの膨張を助ける働きをする。グルテンは食物アレルギーの原因になることが知られている。そのため、グルテンの代替物として大豆粉を用いたり(特許文献1)、バナナを用いたり(特許文献2)、ヤマイモを用いたり(特許文献3)したものがある。
【0003】
しかしながら、これらの代替物を用いたものであっても、食物アレルギーの原因となることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-61480号公報
【文献】特表2002-516565号公報
【文献】特開2004-65250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、可能な限り食物アレルギーの原因物質を使用せずに、原料粉が米粉の米粉パンの製造方法を提供することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一つの態様では、米粉、砂糖、塩、イースト、油、増粘多糖類及び水からなる材料を混合する一次ミキシング工程、一次ミキシング工程後の材料を温度30℃~50℃、時間30~60分で一次発酵する一次発酵工程、一次発酵後の材料を所望する形状に成形する成形工程、成形工程後の材料を温度30~50℃、時間30~60分で二次発酵する二次発酵工程及び二次発酵後の材料を温度180℃~250℃、時間30~40分で焼成する焼成工程を備え、前記一次発酵工程後の材料の粘度を、30~70[Pa・S]となるように予め材料を調製し、かつ、前記二次発酵工程後の材料の粘度を、30~70[Pa・S]となるように予め材料を調製してなるという技術的手段を講じた。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一の態様によれば、小麦粉に含まれるグルテンや、その他の代替用のパンの膨張を助ける働きをする物質を使用することなく、また、アレルギー表示の特定原材料等27品目(えび、かに、小麦、そば、卵、乳、落花生、あわび、いか、いくら、オレンジ、カシューナッツ、キウイフルーツ、牛肉、くるみ、ごま、さけ、さば、大豆、鶏肉、バナナ、豚肉、まつたけ、もも、やまいも、りんご、ゼラチン)も含まず、原料粉が米粉でありながら、十分に膨化する米粉のみを使用した米粉パンを得ることが可能となった。
【0011】
本発明の他の態様によれば、前記一次発酵工程後の材料の粘度を、10~700[Pa・S]となるように予め材料を調製すると、焼成後は十分に膨張し、味、食感、香りともに優れた米粉パンを製造することが可能になった。
【0012】
また、前記一次発酵工程後の材料の粘度を、30~70[Pa・S]となるように予め材料を調製することや、前記二次発酵工程後の材料の粘度を、30~70[Pa・S]となるように予め材料を調製するといった条件を加えると、さらに、味、食感、香りともに優れた米粉パンを製造することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の米粉パンの製造工程を示すフロー図である。
図2】加水量の条件を実施例1、比較例1~6としたときの米粉パンの外観を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の一実施形態にかかる米粉パンの製造方法の一例を説明する。本発明の米粉パンの製造方法は以下の方法に限定されるものではなく、本発明を逸脱しないものであれば、適宜手順等を変更してもよい。すなわち、所望のパンの種類、形状等により、製造方法を適宜変更することができる。また、以下の製造方法は、その他の粘度の米粉パンを製造する場合にも適用することができる。
【0015】
図1に示すように、米粉パンの製造は、例えば、一次ミキシング工程S1、一次発酵工程S2、二次ミキシング工程S3、成形工程(型入れ)S4、二次発酵工程S5及び焼成工程S6の順で行うことができる。製造工程の大半においては、通常の小麦粉を用いたパンの製造方法と同様の方法により行うことができる。また、必要に応じて、副材料等を混合するミキシング工程、分割工程を追加して行うことができる。
【0016】
まず、必要な原材料を計量(図1のT1)した後に全ての材料を混合し、一次ミキシング工程S1を行う。ミキシング条件は、製造するパンの種類、材料、製造量、材料の温度、製造環境の温度や湿度等に応じて適宜設定することができる。
【0017】
次に、一次発酵工程S2を行う。例えば、30℃~50℃程度で30分~60分程度(具体的には、38℃において、30分間)保温することにより、一次発酵を行うことができる。一次発酵の条件は、所望のパンの種類、パン生地の状態、環境条件により適宜変更することができる。
【0018】
必要に応じて二次ミキシング工程S3を行う。このとき、ドライフルーツ(干しブドウなど)、チョコチップ等の副材料をパン生地に混合することができる。
【0019】
その後、本発明の特徴点となる生地の粘度測定(図1のT2)を行う。粘度とは、物質のねばりの度合を示すものである。粘度値としてはSI単位系であればPa・S(パスカル秒)が利用される。
【0020】
ここで、物質の粘度の一例を挙げる(20~25℃、単位はいずれも[Pa・S]、出所はインターネット情報[http://www.ace-giken.co.jp/photo/NENDO_M.pdf#search=%27%E7%B2%98%E5%BA%A6+%E4%BE%8B%27]を参照した。)。
マスタード 150
ハンドクリーム 100
ストロベリージャム 55
トマトケチャップ 30
水あめ 20~25
マヨネーズ 15~20
シロップ 10
ドレッシング 5~10
ウスターソース 0.005~0.01
水 0.001
【0021】
次に、粘度測定装置について説明する。 粘度の測定には東機産業株式会社製のハンディタイプのデジタル粘度計、型式TVC-10を用いた。
【0022】
ここで、上記パン生地の粘度としては、加水率を調整して、10[Pa・S](流動性のあるシロップ、マヨネーズのような粘度)から700[Pa・S](非流動性の工作用粘土のような粘度)の範囲とするのが好ましい。より好ましくは、加水率を調整して、30~70[Pa・S](流動性のあるストロベリーシャムのような粘度)の範囲とするのがよい。
【0023】
次に、成形工程S4を行う。成形工程S4では、パン生地を所望する形状に成形する。食パン形状に焼き上げるときには、焼成用の型に入れるのが良い。また、パン生地の加水量が多くて流動性がある場合は、型に入れた方が焼き上がったときの美感が良くなる。
【0024】
次に、二次発酵工程S5を行う。二次発酵工程S5では、一次発酵工程S2同様に、温度、湿度及び時間を指定して保温することにより、二次発酵を行うことができる。例えば、30℃~50℃程度で30分~60分程度(具体的には、38℃において、40分間)保温することにより、二次発酵を行うことができる。
【0025】
二次発酵工程後は、上記同様、二回目の生地の粘度測定(図1のT3)を行うことが好ましい。ここで、上記パン生地の粘度としては、30~70[Pa・S]の範囲とするのが望ましい。
【0026】
次に焼成工程S6を行う。焼成条件(温度、時間等)は、製造する米粉パンに合わせて、例えば、焼いたときの体積の減少率等を指標にして適宜設定することができる。例えば、180℃~250℃程度で30分~40分程度焼成することにより、焼成工程を行うことができる。以上により本実施形態の米粉パンが製造される。
【0027】
上記の一次ミキシング工程、一次発酵工程、二次ミキシング工程、成形工程(型入れ)、二次発酵工程及び焼成工程は、全自動のホームベーカリーなどの機器で行ってもよい。また、それぞれの工程を行うための個別の機器(ミキサー、混練機、成形機、ホイロ等の保温器、オーブンなどの焼成機)を用いて行ってもよい。
【0028】
その他、本発明を実施するための最良の構成、方法などは、これに限定されるものではない。
【実施例
【0029】
以下、実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。ただし、以下の実施例により限定されるものではない。
【0030】
[米粉パン(食パン)の製造]
(実施例1)
以下の材料を用いて米粉パン(食パン)を調製した。米粉原料は平成29年(2017年)岡山県産「ひのひかり」を用いた。これを粒度50~60μmとなるよう製粉機(製粉機はサタケ製の小型製粉ユニット:型式CMU30A)にて製粉した。そして、増粘多糖類としては、アルギン酸エステル及びメトセル(登録商標)K4Mを用いた。
白米粉(粒度50~60μm) 660.0g
砂糖(上白糖、三井製糖株式会社) 30.4g
塩(食塩、株式会社日本海水) 9.9g
キャノーラ油(日清キャノーラ油) 39.6g
イースト 9.2g
水 700.0g
アルギン酸エステル(昆布酸501、株式会社キミカ) 3.3g
メトセル(登録商標)K4M(ユニテックフーズ(株)) 3.3g
なお、白米粉の質量に対する加水量は、標準で106%(実施例1)とした。この加水量は変更可能とし、加水量のみを変更した以下の6つの比較例を作成した。加水量80%(比較例1)、加水量70%(比較例2)、加水量60%(比較例3)、加水量130%(比較例4)、加水量140%(比較例5)、加水量150%(比較例6)。
【0031】
上記材料を全てを混合し、一次ミキシングを行った。ミキサーは、関東混合機工業株式会社製の型式:SS-71を用いた。中速(回転数:公転で約60rpm、自転で約170rpm)で2分、高速(回転数:公転で約100rpm、自転で約280rpm)で2分混練した。
【0032】
次に、一次ミキシング後の材料(パン生地、ドウ)の一次発酵を行う。一次発酵を行うドウコンディショナは、戸倉商事株式会社製の型式:PEEE1-SKを用いた。ドウコンディショナの庫内温度を38℃、時間30分の一次発酵を行った。
【0033】
さらに、この一次発酵後のパン生地の二次ミキシングを行う。ミキサーは、上記同様、関東混合機工業株式会社製の型式:SS-71を用いた。高速(回転数:公転で約100rpm、自転で約280rpm)で2分混練した。
【0034】
次に、二次ミキシング後のパン生地の粘度を測定する。粘度計は東機産業株式会社製のハンディタイプのデジタル粘度計、型式TVC-10を用いた。実施例1の材料の場合、好ましい粘度の範囲は30~70[Pa・S]となった。加水量80%(比較例1)の場合、粘度は615[Pa・S]、加水量70%(比較例2)及び加水量60%(比較例3)の場合、粘度は測定不能、加水量130%(比較例4)の場合、粘度は11[Pa・S]、加水量140%(比較例5)の場合、粘度は6[Pa・S]、加水量150%(比較例6)の場合、粘度は3[Pa・S]であった。
【0035】
次に、成形(型入れ)を行い、ドウコンディショナの庫内温度を38℃、時間30分の条件で二次発酵を行った。その後、二回目の生地の粘度測定を行った。ここで、実施例1のパン生地の粘度は、30~70[Pa・S]であった。
【0036】
そして、二次発酵後、オーブンにて焼成を行った。オーブンは、戸倉商事株式会社製の型式:TOU-221SUUを用い、上火を220℃、下火を210℃に設定し、時間30分の条件で焼成を行った(実施例1、比較例1~比較例6)。
【0037】
[グルテンを使用しない米粉パンの評価]
<物性評価>
焼成後のパンの外観を図2に示す。図2を参照すれば、図2上段に示す加水量106%(実施例1)及び加水量80%(比較例1)のものは製パンが可能である。一方、加水量70%(比較例2)及び加水量60%(比較例3)のものは、焼成後も膨張せず、硬そうな印象であることが分かる。見た目や食感共にパンとは言い難い塊状のものになった。
【0038】
また、図2下段に示す加水量106%(実施例1)及び加水量130%(比較例4)のものは製パンが可能である。一方、加水量140%(比較例5)及び加水量150%(比較例6)のものは、焼成後の形も悪く、食感もブヨブヨになり、パンとは言い難いものになった。加水量130%(比較例4)までが製パン可能であると判断できる。
【0039】
<官能評価>
官能評価は、10名のパネル試験により行い、味、食感、香りの観点から評価を行った。その結果、加水量106%(実施例1)のものは、味、食感、香りともに◎であった。加水量80%(比較例1)及び加水量130%(比較例4)のものは、味、食感、香りともに○であった。加水量70%(比較例2)、加水量60%(比較例3)、加水量140%(比較例5)及び加水量150%(比較例6)のものは、味、食感、香りともに×であった。
【0040】
[実施例の考察]
以上の評価結果より、本実施形態の実施例においては、小麦粉に含まれるグルテンや、その他の代替用のパンの膨張を助ける働きをする物質を使用することなく、十分に膨化する米粉のみを使用した米粉パンを得られることが示された。
【0041】
特に、加水量を適切な範囲内に設定して材料を混合した後、一次ミキシング、一次発酵及び二次ミキシングの各工程を経た後に、パン生地の粘度を測定する工程を備え、そのときの粘度の数値が、10~700[Pa・S]にするのが好ましいことが分かった(東機産業株式会社製のハンディタイプのデジタル粘度計、型式TVC-10を使用した場合。)。より好ましくは、粘度の数値を、30~70[Pa・S]とするのがよい(東機産業株式会社製のハンディタイプのデジタル粘度計、型式TVC-10を使用した場合。)。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明を用いると、十分に膨化する米粉のみを使用した米粉パンを得ることができる。
図1
図2