(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】電機子の製造方法及び電機子
(51)【国際特許分類】
H02K 15/085 20060101AFI20240409BHJP
H02K 3/12 20060101ALI20240409BHJP
H02K 1/16 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
H02K15/085
H02K3/12
H02K1/16 A
(21)【出願番号】P 2021005533
(22)【出願日】2021-01-18
【審査請求日】2023-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】竹本 雅昭
【審査官】三澤 哲也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/021070(WO,A1)
【文献】特開2014-039455(JP,A)
【文献】特開2014-180128(JP,A)
【文献】特開2014-030332(JP,A)
【文献】特開平08-298756(JP,A)
【文献】特開平02-285953(JP,A)
【文献】国際公開第2018/079151(WO,A1)
【文献】特開平02-311149(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111130233(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 15/085
H02K 3/12
H02K 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のスロットが形成された鉄心と、該鉄心の前記スロットに組付けられたコイルとを備える電機子の製造方法であって、
前記スロットは、周方向における幅が一定に形成された一定部、及び該一定部よりも径方向外側に配置されていて径方向外側ほど前記幅が拡がった形状の拡張部を有し、
前記コイルを構成するとともに外周面が絶縁被膜によって覆われた複数の導体を前記スロット内において前記一定部及び前記拡張部に跨がって一列に配置する配置工程と、
前記配置工程において配置された前記導体を前記一定部の幅と同一の幅の第1プレス治具によって押圧して塑性変形させる第1プレス工程とを備え、
前記第1プレス工程では、前記第1プレス治具を、前記スロットにおける前記一定部の範囲内で移動させることで、一列に配置された前記複数の導体を塑性変形させ
、前記拡張部に配置された前記導体を前記周方向における前記拡張部の内周面と密着させる電機子の製造方法。
【請求項2】
前記配置工程は、前記第1プレス工程によって押圧される前記複数の導体を前記スロットの前記一定部及び前記拡張部に跨がって一列に配置する第1配置工程と、前記第1プレス工程の実行後に前記スロットの前記一定部に新たな導体を配置する第2配置工程とを含み、
前記第2配置工程において配置された前記導体を前記一定部の幅よりも狭い幅の第2プレス治具によって押圧して塑性変形させる第2プレス工程をさらに備え、
前記第2プレス工程では、前記一定部内において径方向の最も内側に位置する前記導体を前記第2プレス治具によって径方向外側に押圧することで、前記導体の断面形状をC字状に塑性変形させる
請求項1に記載の電機子の製造方法。
【請求項3】
複数のスロットが形成された鉄心と、該鉄心のスロットに組付けられたコイルとを備える電機子であって、
前記スロットは、周方向における幅が一定に形成された一定部と、該一定部よりも径方向外側に配置されていて径方向外側ほど前記幅が拡がった形状の拡張部とを有し、
前記コイルは、前記スロット内に配置された配置部と、前記スロット外に配置されたコイルエンドとを有し、
前記配置部は、前記コイルを構成するとともに外周面が絶縁被膜によって覆われた複数の導体が前記スロットの前記一定部及び前記拡張部に跨がって一列に配置されて構成されており、
前記配置部を構成する前記導体は、他の導体との接触面の前記周方向における幅が隣り合う前記導体において同一であり、前記スロットの内周面と対向する対向面が該内周面と密着して
おり、
前記拡張部に配置された前記導体は、前記周方向における前記拡張部の内周面と密着している電機子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電機子の製造方法及び電機子に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、電機子としてのステータの製造方法が開示されている。ステータは、交流発電機の一部を構成する。ステータは、複数のスロットが形成された鉄心と、該鉄心のスロットに組付けられたステータコイルとを備えている。特許文献1に記載のステータの製造方法は、ステータコイルを構成する導体を予め所定の形状に曲げ変形させた状態でその一部を鉄心のスロット内に配置し、スロット内において導体をプレス加工することで断面形状を塑性変形させる。これにより、導体とスロットとの隙間を小さくして、ステータコイルのスロット内における占積率を高めている。
【0003】
また、特許文献2には、複数のスロットが形成された鉄心を備えるステータが開示されている。鉄心は、周方向に一定間隔で配置された複数のティースを有している。ティースは、周方向における両側の側面部が平行に形成されている。そのため、ティースの間に形成されるスロットは、周方向における幅が径方向外側ほど拡がった形状に形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-125338号公報
【文献】特開2015-082952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のステータの製造方法を、特許文献2に記載のステータに適用した場合、以下のような課題が生じることが考えられる。
すなわち、
図14に示すように、スロット100の周方向における幅が径方向外側ほど拡がった形状となっている場合、スロット100内に配置された導体110をプレス加工するためのプレス治具120の幅は、その移動を可能とするためにスロット100の幅よりも小さくなる。
【0006】
そのため、
図15に示すように、プレス治具120は、導体110に食い込むようにして該導体110を塑性変形させる。その結果、導体110は、周方向(
図15の上下方向)に延びる本体部111と、本体部111の両端から径方向内側へ突出した形状の第1片部112及び第2片部113とを有する断面C字状に成形される。
【0007】
図16に示すように、こうした状態で、スロット100内に新たに導体140を配置してプレス治具120によって押圧する。この場合、
図16に矢印で示すように、新たに配置された導体140は、第1片部112及び第2片部113をティース130の側面部に押し付けるように塑性変形する。この場合、第1片部112及び第2片部113において、作用する圧縮力が過大となり、導体110の外周面を覆っている絶縁被膜が破壊される虞がある。こうした点については、特許文献1及び2には開示がなく、改善の余地がある。
【0008】
本発明の目的は、周方向における幅が径方向外側ほど拡がった形状のスロット内に配置されるコイルの絶縁性を確保しつつ、該コイルの占積率を向上させることを可能にした電機子の製造方法及び電機子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための電機子の製造方法は、複数のスロットが形成された鉄心と、該鉄心の前記スロットに組付けられたコイルとを備える電機子の製造方法であって、前記スロットは、周方向における幅が一定に形成された一定部、及び該一定部よりも径方向外側に配置されていて径方向外側ほど前記幅が拡がった形状の拡張部を有し、前記コイルを構成するとともに外周面が絶縁被膜によって覆われた複数の導体を前記スロット内において前記一定部及び前記拡張部に跨がって一列に配置する配置工程と、前記配置工程において配置された前記導体を前記一定部の幅と同一の幅の第1プレス治具によって押圧して塑性変形させる第1プレス工程とを備え、前記第1プレス工程では、前記第1プレス治具を、前記スロットにおける前記一定部の範囲内で移動させることで、一列に配置された前記複数の導体を塑性変形させる。
【0010】
上記構成では、複数の導体を一列に並べて、第1プレス治具によって押圧することで各導体を塑性変形させる。第1プレス治具は、一定部の範囲内で移動すると共に、一定部の幅と同一の幅であることから、一定部において押圧される導体に第1プレス治具は食い込みにくい。また、拡張部では、導体が互いに接触した状態で塑性変形することから、導体の幅がスロットの幅となるまで拡がって行く過程において、導体同士の接触面が一様に変形することとなる。これにより、塑性変形の際に導体の接触面の幅が同一に維持され、一方の導体が他方の導体に食い込むことが抑えられる。このように、上記構成によれば、導体に他の導体や第1プレス治具が食い込むことが抑制されるため、導体の一部に過度な圧縮力が作用することを抑えることが可能になる。したがって、導体をスロットの内周面と密着するように塑性変形させた場合であっても、導体の外周面に設けられた絶縁被膜が破壊されることを抑えることが可能になる。その結果、周方向における幅が径方向外側ほど拡がった形状のスロット内に配置されるコイルの絶縁性を確保しつつ、該コイルの占積率を向上させることが可能になる。
【0011】
また、上記課題を解決するための電機子は、複数のスロットが形成された鉄心と、該鉄心のスロットに組付けられたコイルとを備える電機子であって、前記スロットは、周方向における幅が一定に形成された一定部と、該一定部よりも径方向外側に配置されていて径方向外側ほど前記幅が拡がった形状の拡張部とを有し、前記コイルは、前記スロット内に配置された配置部と、前記スロット外に配置されたコイルエンドとを有し、前記配置部は、前記コイルを構成するとともに外周面が絶縁被膜によって覆われた複数の導体が前記スロットの前記一定部及び前記拡張部に跨がって一列に配置されて構成されており、前記配置部を構成する前記導体は、他の導体との接触面の周方向における幅が隣り合う導体において同一であり、前記スロットの内周面と対向する対向面が該内周面と密着している。
【0012】
上記構成では、配置部を構成する導体は、隣り合う導体との接触面の幅が同一であるため、隣り合う導体において一方の導体が他方の導体に食い込むことが抑えられる。これにより、導体の一部に過度な圧縮力が作用することを抑えることが可能になり、導体の外周面に設けられた絶縁被膜が破壊されることを抑えることが可能になる。また、導体はスロットの内周面と密着している。したがって、上記構成によれば、周方向における幅が径方向外側ほど拡がった形状のスロット内に配置されるコイルの絶縁性を確保しつつ、該コイルの占積率を向上させることが可能になる。
【0013】
また、上記課題を解決するための鉄心は、円環状のバックヨークと、該バックヨークから径方向内側に突出する複数のティースとを含み、前記ティースの周方向における側面部と前記バックヨークの内周面部とによって構成される複数のスロットが形成された鉄心であって、前記スロットは、周方向における幅が一定に形成された一定部、及び該一定部よりも径方向外側に配置されていて径方向外側ほど前記幅が拡がった形状の拡張部を有する。
【0014】
上記構成の鉄心を用いて、上述した電機子の製造方法と同様の方法でコイルを組付けて電機子を構成することで、周方向における幅が径方向外側ほど拡がった形状のスロット内に配置されるコイルの絶縁性を確保しつつ、該コイルの占積率を向上させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】ステータの一部の構成を拡大して示す断面図。
【
図3】ステータコアに導体を挿通した状態を示す斜視図。
【
図4】第1配置工程においてスロット内に導体を配置した状態を示す断面図。
【
図5】スロット内に第1プレス治具を配置した状態を示す断面図。
【
図6】第1プレス治具によって導体を塑性変形させたときの断面図。
【
図7】第2配置工程においてスロット内に導体を配置した状態を示す断面図。
【
図8】スロット内に第2プレス治具を配置した状態を示す断面図。
【
図9】第2プレス治具によって導体を塑性変形させたときの断面図。
【
図10】ステータコアのスロットの形状を模式的に示す平面図。
【
図11】境界位置と出力トルクとの関係の一例を示すグラフ。
【
図12】他の例のステータコアにおけるスロットの形状を示す平面図。
【
図13】他の例のステータコアにおけるスロットの形状を示す平面図。
【
図14】従来の構成のステータにおいてステータコアのスロットに導体とプレス治具とを配置した状態を示す平面図。
【
図15】プレス治具によって導体を塑性変形させたときの平面図。
【
図16】新たに配置した導体をプレス治具によって押圧するときの状態を示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
電機子の製造方法及び電機子の一実施形態について、
図1~
図13を参照して説明する。なお、本実施形態では、電機子の一例としてステータを例に説明する。
図1に示すように、ステータ10は、鉄心としてのステータコア20と、ステータコア20に組付けられたステータコイル30とを備えている。ステータコア20は、略円筒状に形成されている。ステータコア20は、例えば薄板円環形状の電磁鋼板を複数積層して構成されている。
【0017】
図2に示すように、ステータコア20には、複数のスロット21が形成されている。スロット21は、バックヨーク22と、ティース23とによって構成されている。バックヨーク22は、円環状に形成されている。ティース23は、バックヨーク22の内周面部22Aからステータコア20の径方向(以下、単に「径方向」という。)における内側に突出した形状に形成されている。ティース23は、周方向に間隔を隔てて複数設けられている。バックヨーク22の内周面部22Aと、ティース23の周方向における側面部24とによってスロット21が構成されている。
【0018】
ティース23は、周方向における側面部24に、平行部24Aとテーパ部24Bとを有している。平行部24Aは、径方向に延びるとともに隣合うティース23の中間を通過する第1仮想線L1に沿って延びていて、対向するティース23の側面部24(より詳しくは平行部24A)に対して平行に設けられている。そのため、対向する平行部24A間の距離は一定である。側面部24における平行部24Aによって、スロット21の一定部21Aが構成されている。すなわち、スロット21の一定部21Aでは、周方向における幅が一定となっている。
【0019】
テーパ部24Bは、平行部24Aよりも径方向外側に設けられている。テーパ部24Bは、径方向外側ほど対向するティース23の側面部24(より詳しくはテーパ部24B)から離間するように上記第1仮想線L1に対して傾斜して設けられている。対向するテーパ部24Bの間の距離は、径方向外側ほど長くなっている。ティース23における側面部24のテーパ部24B、及びバックヨーク22の内周面部22Aによって、スロット21の拡張部21Bが構成されている。すなわち、スロット21の拡張部21Bでは、周方向における幅が径方向外側ほど拡がった形状となっている。
【0020】
ティース23には、側面部24において平行部24Aよりも径方向内側に位置する開口突部24Cが設けられている。開口突部24Cは、平行部24Aよりも対向するティース23側に突出した形状に形成されている。そのため、対向する開口突部24C間の距離は、対向する平行部24A間の距離よりも短い。側面部24における開口突部24Cによって、スロット21の開口部21Cが構成されている。すなわち、スロット21の開口部21Cでは、周方向における幅が、一定部21Aにおける幅よりも狭くなっている。
【0021】
このように、スロット21は、径方向に延びていて、径方向内側から順に、開口部21C、一定部21A、及び拡張部21Bが設けられている。
図1及び
図2に示すように、ステータコイル30は、スロット21内に配置された配置部31と、スロット21外に配置されたコイルエンド32とを有している。ステータコイル30は、U相コイル、V相コイル、及びW相コイルに対応する三本のステータコイル30を含む。なお、U相コイル、V相コイル、及びW相コイルの構成は略同一のため、以下では区別せずに単にステータコイル30として説明する。
【0022】
図3に示すように、ステータコイル30は、導体40によって構成されている。本実施形態では、導体40として断面矩形状の角線を採用している。なお、導体40としては、断面が矩形以外の多角形状の角線を採用してもよいし、断面丸形状の丸線を採用してもよい。導体40は、例えばアルミニウム等の金属によって形成されている。導体40の外周面は、絶縁被膜によって覆われている。導体40は、平行に延びる2本の直線部41と、各直線部41の基端(
図3の下端)同士を繋ぐように湾曲して延びる湾曲部42とを有している。直線部41は、ステータコア20の軸方向(以下、単に「軸方向」という。)に沿って先端(
図3の上端)側からスロット21に挿通される。直線部41は、基端部がスロット21内に配置され、先端部がスロット21の外部へ配置される。導体40において、スロット21内に配置されている部分を内置部50といい、スロット21の外部に位置する部分を外置部51という。すなわち、内置部50は、直線部41の上記基端部によって構成されており、外置部51は、直線部41の上記先端部または湾曲部42によって構成されている。
【0023】
図2に示すように、スロット21には、導体40の直線部41が径方向に8本並んで配置される。なお、1つの導体40における2本の直線部41は、それぞれ異なるスロット21に挿通される。導体40は、ステータコア20に組付けられた後、プレス工程及び曲げ工程等を経て所望の形状に成形される。その後、導体40における直線部41の先端は、他の導体40における直線部41の先端と接合される。これにより、複数の導体40が一続きとなり、ステータコア20に巻回されたステータコイル30が構成される。
【0024】
次に、ステータ10の製造方法について詳細を説明する。本実施形態では、第1配置工程、第1プレス工程、第2配置工程、及び第2プレス工程を順に行うことで、スロット21内に導体40が組付けられる。
【0025】
図4に示すように、第1配置工程では、スロット21の一定部21A及び拡張部21Bに跨がって導体40を一列に配置する。本実施形態では、拡張部21B側から7本の導体40をスロット21内に配置する。以下では、各導体40のうちバックヨーク22側から順に、第1導体40A、第2導体40B、第3導体40C、第4導体40D、第5導体40E、第6導体40F、及び第7導体40Gという。第1導体40Aから第3導体40Cまでがスロット21の拡張部21Bに配置されており、第4導体40Dがスロット21の拡張部21Bから一定部21Aに跨がって配置され、第5導体40Eから第7導体40Gまでがスロット21の一定部21Aに配置されている。
【0026】
その後、
図5に示すように、第1プレス工程では、第1プレス治具60をスロット21の一定部21A内に配置する。第1プレス治具60は、押圧部60Aと、該押圧部60Aに連結された駆動部60Bとからなる。第1プレス治具60は、押圧部60Aが一定部21A内において導体40と開口部21Cとの間に配置され、駆動部60Bが開口部21Cを通じて径方向内側に延びている。押圧部60Aの周方向における幅は、一定部21Aの幅と同一である。なお、押圧部60Aの幅と一定部21Aの幅とが同一であるとは、完全に同じである場合だけを意味するのではなく、押圧部60Aの一定部21A内への組付けや押圧部60Aの一定部21A内における径方向への移動を可能とする程度の隙間が生じるように、押圧部60Aの幅が一定部21Aの幅よりも若干狭くなっている場合も含む。
【0027】
図6に示すように、第1プレス工程では、第1プレス治具60を配置した後、駆動部60Bを径方向外側に移動させることにより、押圧部60Aによって第7導体40Gを径方向外側に向けて押圧する。第1プレス治具60の移動距離D1は、押圧部60Aが一定部21Aの範囲D2内に収まるように予め設定されている。各導体40は、第1プレス治具60によってバックヨーク22側に押圧されることで、内置部50の断面形状がスロット21の形状に合わせて塑性変形する。このとき、各内置部50は、その断面の幅がスロット21の幅と同じになるまで潰されて薄板状に変形する。各導体40は、互いに接触した状態で塑性変形することから、導体40の幅がスロット21の幅と同じになるまで拡がって行く過程において、導体40同士の接触面は一様に変形する。例えば、第1導体40Aにおいて第2導体40Bと接触する第1接触面S1は、第2導体40Bにおいて第1導体40Aと接触する第2接触面S2と同じ幅を維持したまま変形する。また、第2導体40Bにおいて第3導体40Cと接触する第3接触面S3は、第3導体40Cにおいて第2導体40Bと接触する第4接触面S4と同じ幅を維持したまま変形する。このように、導体40は、他の導体40との接触面の周方向における幅が隣り合う導体40において同一である。なお、ここでいう同一とは、完全に一致している場合だけを意味するのではなく、押圧時の塑性変形量のばらつきによって若干異なる場合も含む。
【0028】
第1プレス工程において各導体40を押圧した後の状態では、第1導体40Aは、バックヨーク22と対向する対向面(
図6の左面)、一方のティース23に対向する対向面(
図6の上面)、及び他方のティース23に対向する対向面(
図6の下面)が、スロット21の内周面に密着した状態となる。また、第1導体40Aを除く他の導体40、すなわち第2導体40Bから第7導体40Gでは、一方のティース23に対向する対向面(
図6の上面)と、他方のティース23に対向する対向面(
図6の下面)とがスロット21の内周面に密着した状態となる。
【0029】
このように、第1導体40Aから第7導体40Gを塑性変形させる第1プレス工程を実行すると、その後、第2配置工程を行う。
図7に示すように、第2配置工程では、第1プレス工程において導体40を塑性変形させることでスロット21内に生じた隙間に、新たな導体40を配置する。なお、本実施形態では、新たな導体40として、1本の導体40を配置している。以下では、新たに配置した導体40を第8導体40Hという。第8導体40Hは、第7導体40Gとスロット21の開口部21Cとの間に配置されている。
【0030】
その後、
図8に示すように、第2プレス工程では、第2プレス治具61をスロット21の開口部21C内に配置する。第2プレス治具61の周方向における幅は、一定部21Aの幅よりも狭く、開口部21Cの幅と同一である。なお、第2プレス治具61の幅とスロット21の開口部21Cの幅とが同一であるとは、完全に同じである場合だけを意味するのではなく、第2プレス治具61の開口部21C内への組付けや開口部21C内における径方向への移動を可能とする程度の隙間が生じるように、第2プレス治具61の幅が開口部21Cの幅よりも若干狭い場合も含む。
【0031】
図9に示すように、第2プレス工程では、第2プレス治具61を配置した後、径方向外側に移動させることにより、第8導体40Hを径方向外側に向けて押圧する。第1プレス工程において既に塑性変形させた第1導体40Aから第7導体40Gは加工硬化のために変形が生じ難くいことから、新たに配置した第8導体40Hの内置部50が塑性変形する。このとき、第8導体40Hの内置部50は、その断面の幅がスロット21の一定部21Aの幅と同じになるまで潰されて変形する。第2プレス治具61の幅は、一定部21Aの幅よりも狭いことから、第2プレス治具61は第8導体40Hに食い込むようにして該第8導体40Hを塑性変形させる。その結果、第8導体40Hの断面形状は、周方向に延びる薄板状の本体部40H1と、本体部40H1の両端から径方向内側へ突出した形状の第1片部40H2及び第2片部40H3とを有するC字状に塑性変形する。
【0032】
第2プレス工程において第8導体40Hを押圧した後の状態では、第7導体40Gにおいて第8導体40Hと接触する第5接触面S5は、第8導体40Hにおいて第7導体40Gと接触する第6接触面S6と同じ幅となる。このように、第7導体40G及び第8導体40Hにおいて、隣り合う導体40との接触面の周方向における幅は同一である。また、第8導体40Hは、一方のティース23に対向する対向面(
図9の上面)、及び他方のティース23に対向する対向面(
図9の下面)が、スロット21の内周面に密着した状態となる。
【0033】
このように、第1配置工程、第1プレス工程、第2配置工程、及び第2プレス工程を順に行うことで各導体40をスロット21内に組付けた後、各導体40の外置部51を径方向及び周方向に湾曲させる曲げ工程を行う。その後、各導体40の直線部41を他の導体40の直線部41と接合する。これにより、複数の導体40を一続きとしてステータコア20に巻回されたステータコイル30を構成する。
【0034】
図1及び
図2に示すように、このようにして構成されたステータコイル30では、各導体40の内置部50がスロット21内に配置された配置部31を構成し、各導体40における外置部51がスロット21外に配置されたコイルエンド32を構成する。配置部31は、上述したようにスロット21の一定部21A及び拡張部21Bに跨がって一列に配置された導体40により構成されている。そして、配置部31を構成する各導体40は、他の導体40との接触面の周方向における幅が隣り合う導体40において同一であり、スロット21の内周面と対向する対向面が該内周面と密着している。
【0035】
こうして構成されたステータ10の内周側には、永久磁石を有するロータが配置される。これにより、電動機や発電機などの回転電機が構成される。例えば電動機を構成した場合、ステータ10のステータコイル30へ通電制御を実行することによりロータを回転させることができる。
【0036】
なお、本実施形態では、スロット21の形状を次のようにして設定している。
すなわち、
図10に実線で示すように、本実施形態では、ティース23の側面部24に第1仮想線L1に沿って延びる平行部24Aと、第1仮想線L1に対して傾斜して延びるテーパ部24Bとが設けられている。テーパ部24Bの第1仮想線L1に対する傾斜角度θは、ティース23の中心を通って径方向に延びる第2仮想線L2とテーパ部24Bとが平行になる角度に設定されている。なお、第2仮想線L2は、
図10に破線で示すように、ティース23の側面部24を平行に形成した場合、すなわちティース23を平行ティースとした場合の側面部241と平行である。本実施形態では、平行部24Aとテーパ部24Bとの境界部分、すなわちスロット21の一定部21Aと拡張部21Bとの境界位置P1は、スロット21の径方向における中央位置あたりに配置されている。
【0037】
図10に一点鎖線で示す第1比較例は、本実施形態よりも平行部24Aを長くして径方向外側まで延ばしたときの形状を示している。すなわち、第1比較例のスロット21の一定部21Aと拡張部21Bとの境界位置P2は、本実施形態の境界位置P1と比較して径方向外側に配置されている。なお、第1比較例のテーパ部24Bは、第2仮想線L2と平行に延びている。
【0038】
図10に二点鎖線で示す第2比較例は、本実施形態よりも平行部24Aを短くしたときの形状を示している。すなわち、第2比較例のスロット21の一定部21Aと拡張部21Bとの境界位置P3は、本実施形態の境界位置P1と比較して径方向内側に配置されている。なお、第2比較例のテーパ部24Bは、第2仮想線L2と平行に延びている。
【0039】
図11に示すように、このようにテーパ部24Bの傾斜角度θは維持したまま、スロット21の一定部21Aと拡張部21Bとの境界位置を変化させると、ステータ10を電動機に用いた場合の出力トルクが変化する。
【0040】
すなわち、第2比較例のように境界位置P3が径方向の内側にあって開口部21Cに近い場合、スロット21において拡張部21Bの容積が大きくとれるため占積率は向上するが、ティース23の幅が狭いことから出力トルクは小さい状態となる。この状態から、境界位置を径方向外側に移動させた場合、すなわち、境界位置と開口部21Cとの距離を長くした場合、ティース23の幅が拡がることに起因した出力トルクの向上効果が、占積率の低下に起因した出力トルクの低減効果を上回るため、出力トルクは上昇する。しかし、境界位置がある所定位置Paよりも径方向の外側に移動した場合(例えば第1比較例における境界位置P2)、ティース23の幅が拡がることに起因した出力トルクの向上効果が、占積率の低下に起因した出力トルクの低減効果を下回るようになり、出力トルクは減少する。このように、出力トルクは、境界位置が所定位置Paにあるときに最大となり、その位置から遠ざかるほど低下する傾向を示す。本実施形態では、出力トルクが最大となる所定位置Paに境界位置P1が配置されるように平行部24Aの長さを予め求めて設定している。
【0041】
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
(1)本実施形態では、ステータコア20に形成されるスロット21に、周方向における幅が一定に形成された一定部21A、及び該一定部21Aよりも径方向外側に配置されていて径方向外側ほど幅が拡がった形状の拡張部21Bを設けている。そして、ステータコイル30を構成するとともに外周面が絶縁被膜によって覆われた複数の導体40をスロット21内において一定部21A及び拡張部21Bに跨がって一列に配置する第1配置工程を実行する。その後、第1配置工程において配置された導体40を一定部21Aの幅と同一の幅の第1プレス治具60によって押圧して塑性変形させる第1プレス工程を実行する。第1プレス工程では、第1プレス治具60を、スロット21における一定部21Aの範囲内で移動させることで、一列に配置された複数の導体40を塑性変形させる。
【0042】
第1プレス治具60は、一定部21Aの範囲内で移動すると共に、一定部21Aの幅と同一の幅であることから、一定部21Aにおいて押圧される導体40に第1プレス治具60は食い込みにくい。また、拡張部21Bでは、導体40が互いに接触した状態で塑性変形することから、導体40の幅がスロット21の幅となるまで拡がって行く過程において、導体40同士の接触面が一様に変形することとなる。これにより、塑性変形の際に導体40の接触面の幅が同一に維持され、一方の導体40が他方の導体40に食い込むことが抑えられる。このように、導体40に他の導体40や第1プレス治具60が食い込むことが抑制されるため、導体40の一部に過度な圧縮力が作用することを抑えることが可能になる。したがって、導体40をスロット21の内周面と密着するように塑性変形させた場合であっても、導体40の外周面に設けられた絶縁被膜が破壊されることを抑えることが可能になる。また、導体40はスロット21の内周面と密着している。その結果、周方向における幅が外周側ほど拡がった形状のスロット21内に配置されるステータコイル30の絶縁性を確保しつつも、該ステータコイル30の占積率を向上させることが可能になる。
【0043】
(2)本実施形態では、第1プレス工程の実行後にスロット21の一定部21Aに新たな導体40を配置する第2配置工程と、第2配置工程において配置された導体40を一定部21Aの幅よりも狭い幅の第2プレス治具61によって押圧して塑性変形させる第2プレス工程とをさらに備えている。そして、第2プレス工程では、一定部21A内において径方向の最も内側に位置する第8導体40Hを第2プレス治具61によって径方向外側に押圧することで、第8導体40Hの断面形状をC字状に塑性変形させている。
【0044】
第2プレス工程において、径方向の最も内側に位置する第8導体40Hが断面C字状に成形されると、第8導体40Hを断面C字状に成形せずに断面矩形状とする場合に比して、第8導体40Hを径方向外側に凹ませた形状とすることができる。これにより、ステータ10の内周側にロータを組付けて回転電機を構成した場合、ロータが備える永久磁石と第8導体40Hまでの距離が長くなり、ロータの回転に起因して発生する第8導体40H内での渦電流を小さくできる。したがって、こうしたステータ10を用いて回転電機を構成することで、回転電機における渦電流損の低減に貢献できる。
【0045】
(3)本実施形態では、スロット21における一定部21Aと拡張部21Bとの境界位置P1が、出力トルクが最大となる所定位置Paと同じ位置となるように、スロット21の形状を設定している。そのため、回転電機の高トルク化や小型化に貢献できる。
【0046】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・上記実施形態では、スロット21内に導体40を8本組付けた例を説明したが、導体40の数は適宜変更が可能である。また、第1配置工程における導体40の配置数も、スロット21内において一定部21A及び拡張部21Bに跨がって一列に配置することができるのであれば、7本に限らず適宜変更してもよい。こうした構成であっても、第1プレス工程によって、スロット21の拡張部21Bに配置される複数の導体40を、絶縁性を確保しつつ該拡張部21Bの形状に合わせて変形させることはできる。また、第2配置工程における導体40の配置数も、スロット21の一定部21Aに配置可能な数であれば、1本に限らず2本以上であってもよい。こうした構成であっても、径方向の最も内側に位置する導体40を第2プレス治具61によって押圧することで、断面形状をC字状に変形することができる。
【0047】
・第2プレス工程では、第8導体40Hを断面形状がC字状となるように塑性変形させた。こうした構成は省略が可能である。例えば、第8導体40Hを断面形状が矩形状となるように塑性変形させてもよい。こうした構成は、第8導体40Hと開口部21Cとの間に一定部21Aと同一の幅のプレス治具を配置して押圧することなどで実現できる。
【0048】
・上記実施形態では、ティース23の側面部24に開口突部24Cを設けて、スロット21に一定部21Aよりも幅が狭い開口部21Cを設けるようにした。こうした構成に代えて、ティース23の側面部24に開口突部24Cを設けない構成とすることも可能である。
【0049】
・上記実施形態では、スロット21における一定部21Aと拡張部21Bとの境界位置P1を、出力トルクが最大となる所定位置Paと同じ位置となるように設定した。境界位置の設定はこれに限らない。例えば、上述した比較例1における境界位置P2や比較例2における境界位置P3と同じ位置とするなど、所定位置Paとは異なる位置に境界位置を設定してもよい。このように、ステータコア20の構成としては、比較例1及び比較例2に示す形状のスロット21を備えるものも含む。すなわち、比較例1及び比較例2に示す形状のスロット21の備えるステータコア20を採用したとしても上記(1)の作用及び効果と同様の作用及び効果を得ることは可能である。
【0050】
・上記実施形態では、テーパ部24Bの傾斜角度θを第2仮想線L2と平行になる角度に設定した。テーパ部24Bの傾斜角度θはこれに限らず、第2仮想線L2に対して傾斜していてもよい。こうした構成であっても、一定部21Aよりも径方向外側に配置されていて径方向外側ほど幅が拡がった形状の拡張部21Bとすることで、上記(1)の作用及び効果と同様の作用及び効果を得ることはできる。また、テーパ部24Bは、平面視において直線状に形成する必要はない。例えば、
図12に示すように、テーパ部24Bを、径方向外側ほど大きく離間するように内側に凸の曲線状に構成してもよい。また、
図13に示すように、テーパ部24Bを、径方向外側ほど離間する程度が小さくなるように外側に凸の曲線状に構成してもよい。
【0051】
・電機子としてステータコア20とステータコイル30とを備えるステータ10を例に説明した。電機子としてはステータ10に限らない。例えば、複数のスロット21が形成されたロータコアと、該ロータコアのスロット21に組付けられたロータコイルとを備えるロータを電機子として、上記実施形態の構成と同様の構成を適用することも可能である。
【符号の説明】
【0052】
10…ステータ(電機子)
20…ステータコア(鉄心)
21…スロット
21A…一定部
21B…拡張部
21C…開口部
22…バックヨーク
22A…内周面部
23…ティース
24,241…側面部
24A…平行部
24B…テーパ部
24C…開口突部
30…ステータコイル
31…配置部
32…コイルエンド
40…導体
40A…第1導体
40B…第2導体
40C…第3導体
40D…第4導体
40E…第5導体
40F…第6導体
40G…第7導体
40H…第8導体
40H1…本体部
40H2…第1片部
40H3…第2片部
41…直線部
42…湾曲部
50…内置部
51…外置部
60…第1プレス治具
60A…押圧部
60B…駆動部
61…第2プレス治具
100…スロット
110,140…導体
111…本体部
112…第1片部
113…第2片部
120…プレス治具
130…ティース