(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】無線給電システム
(51)【国際特許分類】
H02J 50/20 20160101AFI20240409BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20240409BHJP
B64C 39/02 20060101ALI20240409BHJP
B64F 1/36 20240101ALI20240409BHJP
B64F 3/02 20060101ALN20240409BHJP
【FI】
H02J50/20
H02J7/00 P
H02J7/00 301D
B64C39/02
B64F1/36
B64F3/02
(21)【出願番号】P 2021010341
(22)【出願日】2021-01-26
【審査請求日】2023-03-09
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的イノベーション創造プログラム「電解結合方式による駐機時近距離WPTシステム」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】市川 中
【審査官】田中 慎太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-195186(JP,A)
【文献】特開2015-012689(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0203997(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 50/20
H02J 7/00
B64C 39/02
B64F 1/36
B64F 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
屋外に設けられている駐機場(11)と、前記駐機場に着陸した飛行装置との間において、電界結合を用いて非接触で電力を伝達する無線給電システムであって、
高周波の電力を生成する高周波生成部(21)と、
前記駐機場に設けられ、前記高周波生成部で生成した高周波を出力する複数の送電電極(13,42,44)と、
複数の送電電極に対応して設けられ、前記高周波生成部からの給電経路中に配置される複数のスイッチ(22)と、
前記飛行装置が前記駐機場に着陸した位置を検出する位置センサ(17,45,46)と、
この位置センサにより検出された前記飛行装置の位置に応じて、前記複数の送電電極のうち1つ以上を選択し、対応するスイッチをオンにする制御部(20)とを備え、
前記制御部は、送電効率が最大となる送電電極,又は漏洩電磁界が最小となる送電電極を調整して選択し、対応するスイッチをオンにする無線給電システム。
【請求項2】
前記複数の送電電極の少なくとも一部の電極(42,44)は、その他の電極と形状が異なっている請求項1記載の無線給電システム。
【請求項3】
前記複数の送電電極のうち前記飛行装置が有している受電電極と相対する可能性が高いと想定される電極の面積は、その他の電極の面積よりも大きく設定されている請求項2記載の無線給電システム。
【請求項4】
前記位置センサは、変位センサ,圧力センサ又はスクリーンセンサの何れかである請求項1から
3の何れか一項に記載の無線給電システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屋外に設けられている駐機場に着陸した飛行装置との間において、電界結合を用いて非接触で電力を伝達する無線給電システムに関する。
【背景技術】
【0002】
飛行装置の一例であるドローンは、例えばビルや橋梁,送電線等の建造物の点検や巡回監視等への適用が期待されているが、その飛行時間は機体を駆動するために搭載されているバッテリの容量によって制限される。ドローンの飛行時間を延ばすために容量が大きなバッテリを搭載すると、その重量が飛行性能に影響を及ぼしてしまう。
【0003】
そこで、ドローンに比較的容量が小さいバッテリを搭載し、飛行経路中に充電設備を備えた複数の駐機場を設置して、ドローンのバッテリを充電しながら飛行を継続することが考えられる。一般に駐機場は無人の屋外に設置されるため、充電を接触式で行うことを想定すると、接点の腐食や遺物による接触不良等の不具合が生じるおそれがあるため、充電は非接触式で行う方が望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ドローンを駐機場に着陸させる際には、操縦者の操縦技術や風のような外乱の影響を受けるため、着陸する位置にばらつきが発生する可能性が高い。そのばらつきの発生を考慮して、ドローンが備える受電電極に対して送電側の電極面積を大きく設定すると、送電効率が低下したり漏洩電磁界の発生が問題となってしまう。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、飛行装置に対する非接触式での電力の送電を、効率良く且つ漏洩電磁界の発生を抑制して行うことができる無線給電システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の無線給電システムによれば、駐機場において、高周波生成部で生成した高周波を出力する送電電極を複数設け、それら複数の送電電極に対応する複数のスイッチを、高周波生成部からの給電経路中に配置する。そして、位置センサにより、飛行装置が駐機場に着陸した位置を検出し、制御部は、検出された飛行装置の位置に応じて複数の送電電極のうち1つ以上を選択し、対応するスイッチをオンにする。このように構成すれば、飛行装置が駐機場に着陸した位置に応じて最適となる送電電極を選択的に用いて、飛行装置に電力を非接触式で送電することが可能になる。また、制御部は、対応するスイッチをオンにする際に、送電効率が最大となる送電電極,又は漏洩電磁界が最小となる送電電極を調整して選択する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1実施形態であり、送電システムの構成を示す機能ブロック図
【
図2】送電及び受電システムの構成を示す機能ブロック図
【
図5】中継基地に配置される送電電極部を示す平面図
【
図8】ドローンが中継基地に駐機した際に、送電電極部と受電電極9が重なり合う状態の一例を示す図(その1)
【
図9】ドローンが中継基地に駐機した際に、送電電極部と受電電極9が重なり合う状態の一例を示す図(その2)
【
図10】ドローンが中継基地に駐機した際に、送電電極部と受電電極9が重なり合う状態の一例を示す図(その3)
【
図11】ドローンを用いて、送電線を支える複数の鉄塔の巡回監視を行う状態を示す図
【
図12】第2実施形態であり、送電電極の形状のバリエーションを示す図
【
図13】第3実施形態であり、送電電極の形状のバリエーションを示す図
【
図14】2つの受電電極がハの字状に配置された場合を示す図
【
図15】第4実施形態であり、位置センサのバリエーションを示す図
【
図16】第5実施形態であり、位置センサのバリエーションを示す図
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1実施形態)
以下、第1実施形態について説明する。
図11に示すように、本実施形態では、飛行装置であるドローン1を用いて、発電所において発電された電力を架空送電するため、送電線Wを支える複数の鉄塔Tの巡回監視を行う場合を想定する。そのため、駐機場である中継基地11を、送電経路に沿って例えば数km間隔で複数個所に配置する。中継基地11には、ドローン1が駐機した際に、ドローン1に搭載されているバッテリに電界結合方式により非接触で電力を送電し、充電を行わせるための設備が設けられている。
【0010】
図3及び
図4に示すように、ドローン1においては、短円筒状の本体2の上側方から四方向に延びるモータ支持部3の各先端に、モータ4が配置されている。モータ4の回転軸には、プロペラ5が接続されており、プロペラ5を回転させることで得られる浮力によりドローン1を浮上させて飛行を行う。本体2の下側方からは4つの脚支持部6が伸びており、左側2つの脚支持部6の先端には矩形板状の脚部7Lが固定され、右側2つの脚支持部6の先端には同形状の脚部7Rが固定されている。
【0011】
また、本体2の下方からは2つの電極支持部8が伸びており、左側の脚支持部8の先端には矩形板状の受電電極9Lが固定され、右側の電極支持部8の先端には同形状の受電電極9Rが固定されている。ドローン1が中継基地11に駐機して脚部7の下面が接地した際に、受電電極9は、その下面が接地面より若干離間するように支持されている。
【0012】
図5に示す送電電極部12L,12Rは概ね矩形状であり、中継基地11にドローン1が駐機した際に、受電電極9L,9Rの位置に対応するように配置される。送電電極部12は、複数の送電電極13の集合として構成されており、格子状に区切られている各電極13の間は絶縁されている。ドローン1に非接触式で送電を行う際には、複数の送電電極13の何れか1つ以上が選択される。送電電極部12の全体は、受電電極9よりも面積が大きくなるように設定されている。
【0013】
図2に示す中継基地11側の送電システムは、直流電力を供給する電源又はバッテリ14を備え、直流電力をインバータ15によって、例えば周波数MHz~10MHz程度の高周波電力に変換する。整合回路16は、インバータ15が生成した高周波電力を平衡-不平衡変換して送電電極部12L,12Rに分配する。
【0014】
電極位置検出センサ17,電力反射測定器18及び漏洩電磁界測定器19は、送電電極部12付近に配置されている。電極位置検出センサ17は、例えば
図6に示すように、ドローン1が駐機した際に、受電電極9L,9Rの位置をレーザ光を用いて検出する変位センサである。電力反射測定器18は、送電電極部12によりドローン1側に高周波電力を送電した際に発生する電力の反射量を測定し、漏洩電磁界測定器19は、その際に発生する漏洩電磁界を測定する。これらのセンサ等17~19によりセンシング又は測定された結果を出力する信号は、制御回路20に入力される。
【0015】
制御回路20は、マイクロコンピュータで構成され、上記のセンサ等17~19により入力された信号に応じて、送電電極部12における複数の送電電極13のうち、何れか1つ以上を選択して電力を送電する。
図1では、バッテリ14,インバータ15及び整合回路16を介して出力される高周波電力を、交流電源のシンボルにより高周波生成部21として示している。その高周波生成部21から各送電電極13に給電する経路中には、各送電電極13にそれぞれ対応したスイッチ22が配置されている。制御回路20は、複数のスイッチ22の何れか1つ以上を選択的にオンして、対応する送電電極13を用いて電力を送電する。
【0016】
ドローン1側の受電システムでは、受電電極9L,9Rに整流器31が接続されており、受電した高周波電力が整流されてDC-DCコンバータ32に入力される。DC-DCコンバータ32は数V程度の直流電力を生成し、充電器33を介してバッテリ34を充電する。バッテリ34は、例えばリチウムイオン電池のような二次電池である。バッテリ34には、モータ4を制御する制御部を含む例えばインバータのようなドライバ35が接続されており、ドライバ35はモータ4を駆動してプロペラ5を回転させる。
【0017】
次に、本実施形態の作用について説明する。
図7に示すように、制御回路20は、電極位置検出センサ17が出力するセンサ信号により、ドローン1が中継基地11に駐機したことを検知すると(S1)、同センサ信号によってドローン1の受電電極9L,9Rの位置を算出する(S2)。そして、受電電極9L,9Rの位置に応じて、電力を送電するのに最適と想定する送電電極13を1つ以上選択し、選択した送電電極13に対応するスイッチ22をオンにしてドローン1側に送電する(S3)。
【0018】
図8~
図11は、ドローン1が中継基地11に駐機した際に、送電電極部12と受電電極9とが重なり合う状態の例示であり、制御回路20は、送電電極部12の領域内で受電電極9が重なっている位置にある、図中にハッチングを付して示す送電電極13を選択することで、対応するスイッチ22をオンにして送電する。
【0019】
送電を開始すると、制御回路20は、電力反射測定器18及び漏洩電磁界測定器19の測定信号を参照する(S4)。尚、ここでは、ドローン1側に給電を行うが、バッテリ34の充電は行わないようにする。そして、送電効率が予め想定した最大値を示すと共に、漏洩電磁界が予め想定した最小値を示すか否かを判断する(S5)。ここでの最大値,最小値は、予め実測を行うことで決めた値でも良いし、それぞれに所定の閾値を定めておき、それぞれの閾値を上回った,下回った際に最大値,最小値を決定しても良い。上記の最大値及び最小値を示さなければ(NO)、ステップS3で選択した送電電極13を若干変更するように微調整して(S6)ステップS4に移行する。
【0020】
ステップS6において、送電電極13を再度選択して調整する手法については、例えば全ての面が受電電極9と重なっていない送電電極13を入れ替えたり、AI(Artificial Intelligence)により機械学習を行うことで、最大値及び最小値を示す送電電極13を決定すること等が考えられる。
【0021】
送電効率が最大値を示すと共に、漏洩電磁界が最小値を示すと(S5;YES)、その時点で選択している送電電極13に対応するスイッチ22をオンにして(S7)、通電すなわちドローン1への送電を開始する(S8)。これにより、バッテリ34への充電が行われる。ドローン1側において、バッテリ34の端子電圧が所定値に達したことでバッテリ34が満充電状態になると、ドローン1がその旨を制御回路20に、例えば通信等により伝える(S9;YES)。すると、制御回路20は、上記のスイッチ22をオフにして通電を停止する(S10)。
【0022】
以上のように本実施形態によれば、中継基地11において、高周波生成部21で生成した高周波を出力する送電電極13を複数設け、それら複数の送電電極13に対応する複数のスイッチ22を、高周波生成部21からの給電経路中に配置する。そして、電極位置検出センサ17により、ドローン1が中継基地11に着陸した位置を検出し、制御回路20は、検出されたドローン1の位置に応じて複数の送電電極13のうち1つ以上を選択し、対応するスイッチ22をオンにする。
【0023】
このように構成すれば、ドローン1が中継基地11に着陸した位置に応じて最適となる送電電極13を選択的に用いて、ドローン1に電力を非接触式で送電することが可能になる。その際に、制御回路20は、送電効率が最大となると共に漏洩電磁界が最小となる送電電極13を選択するので、非接触式による送電を効率良く行うことができる。
【0024】
(第2,第3実施形態)
以下、第1実施形態と同一部分には同一符号を付して説明を省略し、異なる部分について説明する。第2,第3実施形態は、送電電極の形状のバリエーションを示す。
図12に示す第2実施形態では、送電電極部41を構成する送電電極42の形状が、送電電極部41を複数のランダムな斜線で区切った結果として得られる多角形状であり、各送電電極42の形状が異なっている。このように構成すれば、送電電極42を選択するため送電効率や漏洩電磁界を考慮する際に、測定値の変化がより大きくなる。
【0025】
また、
図13に示す第3実施形態の送電電極部43は、周辺部分に第1実施形態と同様の送電電極13が複数配置されているが、中央部には、送電電極13よりも面積が大きい送電電極44が配置されている。これは、ドローン1が中継基地11に駐機した際に、受電電極9の位置が、送電電極部43の中央部付近となる可能性が比較的高くなると想定したためである。尚、
図14は、受電電極9L,9Rが互いに平行ではなく、ハの字状に配置された場合を示している。
【0026】
このように構成すれば、ドローン1が中継基地11に駐機した状態において、送電効率が良好となる可能性を高めることができ、第1実施形態のように送電電極13の選択を微調整する手間を省くことができる。
(第4,第5実施形態)
【0027】
第4,第5実施形態は、位置検出センサのバリエーションを示す。
図15に示す第4実施形態では、位置検出センサとして、帯状に照射したレーザ光により対象物の位置を検出するスクリーンセンサ45を用いた場合を示す。ドローン1が中継基地11に駐機した際に、上記のレーザ光が、脚部7又は受電電極9の一端側に係るように配置することで、ドローン1が着陸した位置を検出する。
【0028】
また、
図16に示す第5実施形態では、位置センサとして、圧力センサ46を用いた場合を示す。ドローン1が駐機した際に、脚部7が接地すると想定される範囲に係るように圧力センサ46を配置することで、ドローン1が着陸した位置を検出する。
【0029】
(その他の実施形態)
ステップS6での判断を、送電効率,漏洩電磁界の測定を何れか一方のみ行った結果に基づいて行っても良い。
また、上記の測定を行わず、位置センサによるセンシングの結果のみに基づいて送電電極13を選択しても良い。
電極位置検出センサ17を、1つだけ用いても良い。
受電電極を、脚部内に配置しても良い。
電界結合を用いて非接触で電力を伝達する必要がある飛行装置であれば、ドローンと称されるものに限ることなく適用が可能である。
【0030】
本開示は、実施例に準拠して記述されたが、本開示は当該実施例や構造に限定されるものではないと理解される。本開示は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらに一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範疇や思想範囲に入るものである。
【符号の説明】
【0031】
図面中、1はドローン、9は受電電極、11は中継基地、12は送電電極部、13は送電電極、20は制御回路、21は高周波生成部、22はスイッチを示す。