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特許7468379合金微粒子担持触媒の製造方法、電極、燃料電池、合金微粒子の製造方法、膜電極接合体の製造方法、及び燃料電池の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】合金微粒子担持触媒の製造方法、電極、燃料電池、合金微粒子の製造方法、膜電極接合体の製造方法、及び燃料電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/89 20060101AFI20240409BHJP
   B01J 23/648 20060101ALI20240409BHJP
   B01J 37/00 20060101ALI20240409BHJP
   B01J 37/04 20060101ALI20240409BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20240409BHJP
   B22F 9/24 20060101ALI20240409BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20240409BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20240409BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20240409BHJP
   H01M 4/90 20060101ALI20240409BHJP
   H01M 4/92 20060101ALI20240409BHJP
   C22C 5/04 20060101ALN20240409BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20240409BHJP
   H01M 8/12 20160101ALN20240409BHJP
【FI】
B01J23/89 M
B01J23/648 M
B01J37/00 F
B01J37/04 102
B22F1/00 K
B22F9/24 E
B82Y30/00
B82Y40/00
H01M4/88 K
H01M4/90 M
H01M4/92
C22C5/04
H01M8/10 101
H01M8/12 101
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021010750
(22)【出願日】2021-01-27
(65)【公開番号】P2022114486
(43)【公開日】2022-08-08
【審査請求日】2023-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】矢野 啓
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 航太
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-120981(JP,A)
【文献】特開2008-031554(JP,A)
【文献】特開2009-097038(JP,A)
【文献】特開2002-146235(JP,A)
【文献】特開2010-253408(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
B22F 1/00
B22F 9/24
B82Y 30/00
B82Y 40/00
H01M 4/88
H01M 4/90
H01M 4/92
C22C 5/04
H01M 8/10
H01M 8/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
貴金属を含む合金微粒子を担持した合金微粒子担持触媒の製造方法であって、
貴金属塩と、卑金属塩と、炭素数1~5のアルコールと、担体と、を混合して混合物とする工程と、
前記混合物を150℃以上800℃以下で加熱して合金微粒子担持触媒を生成する加熱工程と、を備え
前記貴金属塩及び前記卑金属塩が前記アルコールに溶解したアルコール溶液における前記貴金属塩及び前記卑金属塩の合計濃度は、2molL -1 以上100molL -1 以下である、合金微粒子担持触媒の製造方法。
【請求項2】
貴金属を含む合金微粒子を担持した合金微粒子担持触媒の製造方法であって、
貴金属塩と、卑金属塩と、炭素数1~5のアルコールと、担体と、を混合して混合物とする工程と、
前記混合物を150℃以上800℃以下で加熱して合金微粒子担持触媒を生成する加熱工程と、を備え
前記合金微粒子の平均粒径は、0.7nm以上2nm未満である、合金微粒子担持触媒の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の製造方法により製造される前記合金微粒子担持触媒を含む、電極。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の製造方法により製造される前記合金微粒子担持触媒を含む、燃料電池。
【請求項5】
貴金属塩と、卑金属塩と、炭素数1~5のアルコールと、を混合して混合物とする工程と、
前記混合物を150℃以上800℃以下で加熱して貴金属を含む合金微粒子を生成する加熱工程と、を備え、
前記貴金属塩及び前記卑金属塩が前記アルコールに溶解したアルコール溶液における前記貴金属塩及び前記卑金属塩の合計濃度は、2molL -1 以上100molL -1 以下である、合金微粒子の製造方法。
【請求項6】
貴金属塩と、卑金属塩と、炭素数1~5のアルコールと、を混合して混合物とする工程と、
前記混合物を150℃以上800℃以下で加熱して貴金属を含む合金微粒子を生成する加熱工程と、を備え、
前記合金微粒子の平均粒径は、0.7nm以上2nm未満である、合金微粒子の製造方法。
【請求項7】
請求項5又は請求項6に記載の製造方法により製造される前記合金微粒子を含む、電極。
【請求項8】
請求項5又は請求項6に記載の製造方法により製造される前記合金微粒子を含む、燃料電池。
【請求項9】
電解質膜及び電極を有する膜電極接合体の製造方法であって、
貴金属塩と、卑金属塩と、炭素数1以上5以下のアルコールから選ばれた少なくとも1種以上の溶媒と、担体と、を混合した混合物を、前記電解質膜に噴霧し乾燥させて貴金属を含む合金微粒子とすることで、前記電解質膜の表面に、前記合金微粒子を含んだ前記電極を形成する工程を有し、
前記貴金属塩及び前記卑金属塩が前記アルコールに溶解したアルコール溶液における前記貴金属塩及び前記卑金属塩の合計濃度は、2molL -1 以上100molL -1 以下である、膜電極接合体の製造方法。
【請求項10】
電解質膜及び電極を有する膜電極接合体の製造方法であって、
貴金属塩と、卑金属塩と、炭素数1以上5以下のアルコールから選ばれた少なくとも1種以上の溶媒と、担体と、を混合した混合物を、前記電解質膜に噴霧し乾燥させて貴金属を含む合金微粒子とすることで、前記電解質膜の表面に、前記合金微粒子を含んだ前記電極を形成する工程を有し、
前記合金微粒子の平均粒径は、0.7nm以上2nm未満である、膜電極接合体の製造方法。
【請求項11】
電解質膜及び電極を有する膜電極接合体を備えた燃料電池の製造方法であって、
貴金属塩と、卑金属塩と、炭素数1以上5以下のアルコールから選ばれた少なくとも1種以上の溶媒と、担体と、を混合した混合物を、前記電解質膜に噴霧し乾燥させて貴金属を含む合金微粒子とすることで、前記電解質膜の表面に、前記合金微粒子を含んだ前記電極を形成する工程を有し、
前記貴金属塩及び前記卑金属塩が前記アルコールに溶解したアルコール溶液における前記貴金属塩及び前記卑金属塩の合計濃度は、2molL -1 以上100molL -1 以下である、燃料電池の製造方法。
【請求項12】
電解質膜及び電極を有する膜電極接合体を備えた燃料電池の製造方法であって、
貴金属塩と、卑金属塩と、炭素数1以上5以下のアルコールから選ばれた少なくとも1種以上の溶媒と、担体と、を混合した混合物を、前記電解質膜に噴霧し乾燥させて貴金属を含む合金微粒子とすることで、前記電解質膜の表面に、前記合金微粒子を含んだ前記電極を形成する工程を有し、
前記合金微粒子の平均粒径は、0.7nm以上2nm未満である、燃料電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、合金微粒子担持触媒の製造方法、電極、燃料電池、合金微粒子の製造方法、合金微粒子担持触媒、合金微粒子、膜電極接合体の製造方法、及び燃料電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
活性金属担持触媒は、センサー、石油精製、水素製造、その他、環境関連分野、エネルギー分野等で適用されている。中でも自動車、定置コジェネレーション等の電源として近年研究開発が進められている燃料電池がその代表例として挙げられる。
このような状況の下、下記特許文献1~5では、触媒の製造方法が検討されている。
また、下記特許文献6~11及び非特許文献1-2では、Pt等の貴金属の合金が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-253408号公報
【文献】特開2001-224968号公報
【文献】特開2015-17317号公報
【文献】特開2018-44245号公報
【文献】特開2009-164142号公報
【文献】特開2002-95969号公報
【文献】特開2007-27096号公報
【文献】特開2009-263719号公報
【文献】特開2019-30846号公報
【文献】特開2009-218196号公報
【文献】特開2012-38543号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】T. Toda, H. Igarashi, H.Uchida and M. Watanabe, j. Electrochem. Soc., 146, 3750 (1999)
【文献】N. Wakabayashi, M.Takeichi, M. Itagaki, H. Uchida and M. Watanabe, J. phys. chem. B, 109, 5836(2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の文献の技術では、触媒の製造が必ずしも簡便とは言えない場合があった。
また、上述の文献の技術では、触媒の性能が必ずしも十分とは言えない場合があった。
本開示は、上記課題の少なくとも一部を解決するためのものであり、以下の形態として実現できる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
貴金属を含む合金微粒子を担持した合金微粒子担持触媒の製造方法であって、
貴金属塩と、卑金属塩と、炭素数1~5のアルコールと、担体と、を混合して混合物とする工程と、
前記混合物を150℃以上800℃以下で加熱して合金微粒子担持触媒を生成する加熱工程と、を備える、合金微粒子担持触媒の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本製造方法によれば、簡素化された手法で高活性の合金微粒子担持触媒を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例の合成工程数と各特許文献の工程数とを比較して示した説明図である。
図2】PtCo/CのTEM像及び粒径分布を示す図である。
図3】PtV/CのTEM像、粒径分布及び組成分析値を示す図である。
図4】PtNi/CのTEM像及び粒径分布を示す図である。
図5】PtCo/C及びPt/CのTEM像及び粒径分布を示す図である。
図6】PtCo/Cの電気化学特性を示す図である。
図7】酸素還元反応(ORR)の活性を比較する図である。
図8】H発生率を比較する図である。
図9】固体高分子形燃料電池の一例の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
ここで、本開示の他の例を示す。
【0010】
2.前記貴金属塩及び前記卑金属塩が前記アルコールに溶解したアルコール溶液における前記貴金属塩及び前記卑金属塩の合計濃度は、2molL-1以上100molL-1以下である、合金微粒子担持触媒の製造方法。
本製造方法によれば、粒子径が小さく高活性の合金微粒子担持触媒が製造できる。
3.前記合金微粒子の平均粒径は、0.7nm以上2nm未満である、合金微粒子担持触媒の製造方法。
本製造方法によれば、粒子径が小さく高活性の合金微粒子担持触媒が製造できる。
4.製造方法により製造される前記合金微粒子担持触媒を含む、電極。
本電極は、粒子径が小さく高活性の合金微粒子担持触媒を含むから高性能である。
5.製造方法により製造される前記合金微粒子担持触媒を含む、燃料電池。
本燃料電池は、粒子径が小さく高活性の合金微粒子担持触媒を含むから高性能である。
6.貴金属塩と、卑金属塩と、炭素数1~5のアルコールと、を混合して混合物とする工程と、
前記混合物を150℃以上800℃以下で加熱して貴金属を含む合金微粒子を生成する加熱工程と、を備える、合金微粒子の製造方法。
本製造方法によれば、簡素化された手法で高活性の合金微粒子を製造できる。
7.前記貴金属塩及び前記卑金属塩が前記アルコールに溶解したアルコール溶液における前記貴金属塩及び前記卑金属塩の合計濃度は、2molL-1以上100molL-1以下である、請求項6に記載の合金微粒子の製造方法。
本製造方法によれば、粒子径が小さく高活性の合金微粒子担持触媒が製造できる。
8.前記合金微粒子の平均粒径は、0.7nm以上2nm未満である、合金微粒子の製造方法。
本製造方法によれば、粒子径が小さく高活性の合金微粒子が製造できる。
9.製造方法により製造される前記合金微粒子を含む、電極。
本電極は、粒子径が小さく高活性の合金微粒子を含むから高性能である。
10.製造方法により製造される前記合金微粒子を含む、燃料電池。
本燃料電池は、粒子径が小さく高活性の合金微粒子を含むから高性能である。
11.担体に貴金属を含む合金微粒子を担持した合金微粒子担持触媒であって、
前記合金微粒子の平均粒径は、0.7nm以上2nm未満である、合金微粒子担持触媒。
本合金微粒子担持触媒は、高い活性を有する。
12.合金微粒子担持触媒を含む、電極。
本電極は、高活性の合金微粒子担持触媒を含むから高性能である。
13.合金微粒子担持触媒を含む、燃料電池。
本燃料電池は、高活性の合金微粒子担持触媒を含むから高性能である。
14.平均粒径が0.7nm以上2nm未満であり、かつ貴金属を含む、合金微粒子。
本合金微粒子は、高い活性を有する。
15.合金微粒子を含む、電極。
本電極は、高活性の合金微粒子を含むから高性能である。
16.合金微粒子を含む、燃料電池。
本燃料電池は、高活性の合金微粒子を含むから高性能である。
17.電解質膜及び電極を有する膜電極接合体の製造方法であって、
貴金属塩と、卑金属塩と、炭素数1以上5以下のアルコールから選ばれた少なくとも1種以上の溶媒と、担体と、を混合した混合物を、前記電解質膜に噴霧し乾燥させて貴金属を含む合金微粒子とすることで、前記電解質膜の表面に、前記合金微粒子を含んだ前記電極を形成する工程を有する、膜電極接合体の製造方法。
本製造方法によれば、簡素化された手法で膜電極接合体を製造できる。従来は、予め作製した触媒を電解質膜に噴霧して膜電極接合体としていた。つまり、従来の手法では触媒の生成工程、触媒層(電極)の形成工程が必要であった。本開示の製造方法によれば、混合物を電解質膜に噴霧し乾燥させる工程は、触媒の生成工程及び触媒層(電極)の形成工程を兼ねるので、より少ない工程で膜電極接合体を製造できる。
18.電解質膜及び電極を有する膜電極接合体を備えた燃料電池の製造方法であって、
貴金属塩と、卑金属塩と、炭素数1以上5以下のアルコールから選ばれた少なくとも1種以上の溶媒と、担体と、を混合した混合物を、前記電解質膜に噴霧し乾燥させて貴金属を含む合金微粒子とすることで、前記電解質膜の表面に、前記合金微粒子を含んだ前記電極を形成する工程を有する、燃料電池の製造方法。
本製造方法によれば、簡素化された手法で燃料電池を製造できる。従来は、予め作製した触媒を電解質膜に噴霧して触媒層(電極)を形成していた。つまり、従来の手法では触媒の生成工程、触媒層(電極)の形成工程が必要であった。本開示の製造方法によれば、混合物を電解質膜に噴霧し乾燥させる工程は、触媒の生成工程及び触媒層(電極)の形成工程を兼ねるので、より少ない工程で燃料電池を製造できる。
【0011】
以下、本開示の実施形態を詳しく説明する。なお、本明細書において、数値範囲について「~」を用いた記載では、特に断りがない限り、下限値及び上限値を含むものとする。例えば、「10~20」という記載では、下限値である「10」、上限値である「20」のいずれも含むものとする。すなわち、「10~20」は、「10以上20以下」と同じ意味である。
【0012】
本発明者らは、鋭意研究した結果、次の事実を見いだした。ナノ粒子形状の電極触媒の性能指標としては、Pt 1グラムあたりの質量活性(mass activity;MA [A gPt-1])が一般的に用いられる。MAは比活性(specific activity;j[A m-2])と電気化学表面積(electro active surface area;ECA[m gPt-1])の積で(MA[A gPt-1]=j[A m-2]×ECA[m gPt-1])表される。すなわち、触媒性能向上のためにはjとECAの2因子の向上が必要となる。本発明者らは、触媒粒子の粒径を所定範囲内で精度よく制御し、かつサイズを揃えることによって、ECA値を増大させてMAを向上できることを見いだした。その上で、合金化によるj値の向上によって、質量活性を効率よく高めることができることを見いだした。
【0013】
比活性(j)の向上には、Ptと卑金属(卑貴金属)等の第二成分金属元素との合金化が最も効果的であった。これは、合金表面から第二成分金属元素が溶出し、電位サイクル中のPtの溶解・再析出により自発的に形成されたPtスキン層(シェル)への下地合金(コア)からの電子修飾効果によるものと推測される。この電子修飾効果を最大限に引きだすための重要因子は、[第1因子]均一粒子径(粒子サイズ分布)とすること、及び[第2因子]金属組成を制御することであった。更に、他の重要因子は、[第3因子]微細な粒子(例えば、2nm以下の粒子)を形成することであった。しかし、これら3因子を満たす合金合成法は従来技術には開示も示唆もされていなかった。[第1因子]及び[第2因子]の両者を満たさない場合、合金触媒は例えばシステム作動時の温度雰囲気や電位変動等の物理的影響を受け、脱合金化が起きやすかった。その結果、Pt単体と同等まで性能低下が起きることが分かった。更に脱合金化した第二元素と酸素とが、酸素還元反応の副反応で発生したHと反応し、OHラジカルが発生していた。例えば、固体高分子形燃料電池中では、OHラジカルが原因で電解質膜が分解し、結果、電池性能が低下するおそれがあった。このような背景の下、発明者らは、粒子径の均一性を向上させ、かつ、所望の金属組成の組み合わせが可能で、脱合金化に対して安定した合金微粒子(Pt合金ナノ粒子)の調製を可能にする技術を開発した。この技術では、更に、合金効果を持続させてHの発生を抑制し、従来からの諸課題を解決できることを見いだした。
本開示の技術は、以上の本発明者ら独自の思想に基づくものである。
【0014】
1.合金微粒子担持触媒の製造方法
本開示の合金微粒子担持触媒の製造方法は、貴金属を含む合金微粒子を担持した合金微粒子担持触媒の製造方法である。本開示の合金微粒子担持触媒の製造方法は、貴金属塩と、卑金属塩と、炭素数1~5のアルコールと、担体と、を混合して混合物とする工程と、混合物を150℃以上800℃以下で加熱して合金微粒子担持触媒を生成する加熱工程と、を備える。
【0015】
(1)合金微粒子
合金は、貴金属を含む。貴金属は、特に制限されない。貴金属は、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、金(Au)、銀(Ag)、イリジウム(Ir)、及びルテニウム(Ru)からなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。これらの中でも、触媒性能という観点から、Pt、Rh、Pd、Ir、及びRuからなる群から選択される少なくとも一種がより好ましく、Pt及びPdからなる群から選択される少なくとも一種が更に好ましい。
合金は、卑金属を含む。卑金属は、特に限定されない。卑金属は、コバルト、バナジウム、ニッケル、鉄、マンガン、クロム、チタン、ニオブ、モリブデン、鉛、及びタングステンからなる群から選択される少なくとも一種が好ましい。触媒を高活性とする観点から、卑金属は、コバルト、バナジウム、及びニッケルからなる群から選択される少なくとも一種が好ましい。
合金としては、例えば、PtCo(x=0.5~9)、PtV(x=0.5~9)、PtNi(x=0.5~9)が例示される。好ましくは、PtCo(x=1~3)、PtV(x=1~3)、PtNi(x=1~3)が例示される。
【0016】
(2)貴金属塩
貴金属塩に含まれる貴金属は、特に制限されない。貴金属は、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、金(Au)、銀(Ag)、イリジウム(Ir)、及びルテニウム(Ru)からなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。これらの中でも、触媒性能という観点から、Pt、Rh、Pd、Ir、及びRuからなる群から選択される少なくとも一種がより好ましく、Pt及びPdからなる群から選択される少なくとも一種が更に好ましい。
【0017】
貴金属塩としては、ヘキサクロロ白金(IV)酸六水和物(HPtCl・6HO)、テトラアンミンジクロロ白金(Pt(NHCl・xHO)、臭化白金(IV)(PtBr)、及び、ビス(アセチルアセトナト)白金(II)([Pt(C])からなる群から選択される少なくとも一種を好適に使用できる。
【0018】
(3)卑金属塩
卑金属塩に含まれる卑金属は、特に限定されない。卑金属は、コバルト、バナジウム、ニッケル、鉄、マンガン、クロム、チタン、ニオブ、モリブデン、鉛、及びタングステンからなる群から選択される少なくとも一種が好ましい。触媒を高活性とする観点から、卑金属は、コバルト、バナジウム、及びニッケルからなる群から選択される少なくとも一種が好ましい。
【0019】
卑金属塩としては、塩化コバルト(II)六水和物(CoCl・6HO)、硝酸コバルト(II)六水和物 (Co(NO・6HO)、バナジルアセチルアセトナート(Vanadyl acetylacetonate, VO(acac))、塩化ニッケル(II)六水和物(CoCl・6HO)、及び硝酸ニッケル(II)六水和物(Ni(NO・6HO)、及び酢酸ニッケル(II)四水和物(Ni(CHCOO)・4HO)からなる群から選択される少なくとも一種を好適に使用できる。
【0020】
(4)炭素数1~5のアルコール
炭素数1~5のアルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、1-ブタノール、2-ブタノール、t-ブチルアルコール、1-ペンタノール、及び3-ペンタノールからなる群から選択される少なくとも一種を好適に使用できる。これらの中でも、環境負荷を低減する観点から、エタノールが好ましい。
【0021】
アルコールと、金属塩(貴金属塩及び卑金属塩)の量比は特に限定されない。貴金属塩及び卑金属塩がアルコールに溶解したアルコール溶液における貴金属塩及び卑金属塩の合計濃度は、特に限定されない。貴金属塩及び卑金属塩の合計濃度は、粒径が0.7nm~2nmで、かつサイズが揃った高活性な合金微粒子とする観点から、2molL-1以上100molL-1以下であることが好ましく、5molL-1以上70molL-1以下であることがより好ましく、10molL-1以上60molL-1以下であることが更に好ましい。貴金属塩と卑金属塩の濃度比は特に限定されない。貴金属塩:卑金属塩の濃度比(モル比)は、3.3:1.0~0.9:1.0が好ましく、3.0:1.0~1.0:1.0がより好ましい。
【0022】
(5)担体
担体は、合金微粒子を担持できるものであれば、特に限定されない。担体は、カーボンブラック、アモルファスカーボン、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、希土類、アルカリ土類、遷移金属、ニオブ、ビスマス、スズ、アンチモン、ジルコニウム、モリブデン、インジウム、タンタル、及びタングステンから選ばれる一種以上の金属酸化物、から選択される少なくとも一種を好適に使用できる。これらの中でも、表面積の観点から、カーボンブラックが好ましい。
担体としてカーボンブラックを用いる場合には、カーボンブラックの窒素吸着比表面積は特に限定されない。カーボンブラックの窒素吸着比表面積は、合金微粒子の担持の観点から、10m-1以上1800m-1以下が好ましく、150m-1以上800m-1以下がより好ましい。
【0023】
(6)担体とアルコールとの混合比
担体とアルコールとの混合比は特に限定されない。担体とアルコールを十分に馴染ませて、粒径が0.7nm~2nmで、かつサイズが揃った高活性な合金微粒子とする観点から、担体は、アルコール1mLに対して、2mg以上200mg以下の割合で混合されることが好ましく、10mg以上100mg以下の割合で混合されることがより好ましく、30mg以上80mg以下の割合で混合されることが更に好ましい。
【0024】
(7)混合
混合の方法は特に限定されない。乳鉢と乳棒を用いて粉砕混合してもよく、例えばボールミル、振動ミル、ハンマーミル、ロールミル、ジェットミル等の乾式粉砕機を用いて粉砕混合してもよく、例えばリボンブレンダー、ヘンシェルミキサー、V型ブレンダー等の混合機を用いて混合してもよい。
【0025】
混合時間は特に限定されない。混合は、アルコールが揮発して、混合物が乾くまで行うことが好ましい。
【0026】
(8)加熱
加熱温度は、粒径が0.7nm~2nmで、かつサイズが揃った高活性な合金微粒子とする観点から、150℃以上800℃以下であり、150℃以上400℃以下が好ましく、150℃以上250℃以下がより好ましい。
加熱は、不活性ガス雰囲気中で行うことが好ましい。不活性ガスとしては、アルゴンガス等の希ガス、窒素ガスを好適に用いることができる。加熱は、空気中で行ってもよい。
【0027】
(9)合金微粒子の平均粒径
合金微粒子の平均粒径は、特に限定されない。合金微粒子の平均粒径は、高活性にする観点から、0.7nm以上2nm未満であることが好ましく、1.0nm以上1.6nm以下がより好ましい。
平均粒径は、次の方法(平均粒径の求め方)で求めることができる。透過型電子顕微鏡(TEM)により合成した触媒を観察する。TEM写真を用紙にプリントアウトし、合金微粒子(黒い円形の像)を球形とみなして、合金微粒子の端から端までを直径とみなして、合計300粒子を数視野(3~5視野)の画像から無作為に測定する。300個数えた直径の平均を平均粒子径とする。
また、合金微粒子は、平均粒子径値に対する標準偏差値が0%以上20%以下であることが好ましい。なお、標準偏差値は、300個の粒子径から分布図を作成して、計算する。
【0028】
(10)本実施形態の製造方法の効果
本実施形態の製造方法は、揮発性の高いアルコール中(例えばエタノール)で貴金属塩と卑金属塩と担体材料を混合させ、熱処理をするのみという非常に簡単な手法で超微細化した高活性の担持触媒の製造が可能となり、製造工程上で廃液も一切出ない環境に優しい製造方法である。
また、本実施形態の製造方法は、貴金属塩及び卑金属塩の濃度のみで粒径が0.7nm~2nmの間で極めて精度よく制御可能で、かつ、サイズが揃ったナノレベル構造体からなる高活性合金をカーボンなどの担体に高分散担持した合金微粒子担持触媒を製造できる。この合金微粒子担持触媒は、電極触媒として極めて有用である。
更に、本実施形態の製造方法で製造した合金微粒子担持触媒は、活性金属が2nm未満の粒径、且つ担体上に高分散担持されているため、原子レベルで金属の利用率が高く、高い性能が得られる。よって、合金微粒子担持触媒は、例えば、貴金属使用量削減が求められている家庭用あるいは自動車用電源として使用される例えば固体高分子形の燃料電池の電極触媒に適しており、従来品(3nm程度のPtナノ粒子をカーボンに担持したPt/C触媒)に比べて10倍の活性を発現する触媒となる。更にこの合金微粒子担持触媒では、酸素還元反応の副反応である過酸化水素発生を従来の半分以下に抑制できる。
【0029】
2.電極
合金微粒子担持触媒を含む電極は、カソードとして使用してもよいし、アノードとして使用してもよいし、カソード及びアノードの両方として使用してもよい。
【0030】
3.燃料電池
燃料電池は、合金微粒子担持触媒を含む。燃料電池としては、例えば、固体高分子形燃料電池(PEFC)、りん酸形燃料電池(PAFC)、溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)、固体酸化物形燃料電池(SOFC)、アルカリ電解質形燃料電池(AFC)、直接形燃料電池(DFC)を挙げることができる。
【0031】
4.合金微粒子の製造方法
本開示の合金微粒子の製造方法は、貴金属塩と、卑金属塩と、炭素数1~5のアルコールと、を混合して混合物とする工程と、混合物を150℃以上800℃以下で加熱して貴金属を含む合金微粒子を生成する加熱工程と、を備える。
【0032】
(1)説明の援用
本開示の合金微粒子の製造方法は、「1.合金微粒子担持触媒の製造方法」の項目で説明した「(1)合金微粒子」、「(2)貴金属塩」、「(3)卑金属塩」、「(4)炭素数1~5のアルコール」、「(7)混合」、「(8)加熱」、「(9)合金微粒子の平均粒径」をそのまま適用し、これらの記載を省略する。
【0033】
(2)本実施形態の製造方法の効果
本実施形態の製造方法は、揮発性の高いアルコール中(例えばエタノール)で貴金属塩と卑金属塩とを混合させ、熱処理をするのみという非常に簡単な手法で超微細化した高活性の合金微粒子の製造が可能となり、製造工程上で廃液も一切出ない環境に優しい製造方法である。
また、本実施形態の製造方法は、貴金属塩及び卑金属塩の濃度のみで粒径が0.7nm~2nmの間で極めて精度よく制御可能で、かつ、サイズが揃ったナノレベル構造体からなる高活性合金微粒子を製造できる。この合金微粒子は、電極触媒として極めて有用である。
更に、本実施形態の製造方法で製造した合金微粒子は、活性金属が2nm未満の粒径とされているため、原子レベルで金属の利用率が高く、高い性能が得られる。よって、合金微粒子は、例えば、貴金属使用量削減が求められている家庭用あるいは自動車用電源として使用される例えば固体高分子形の燃料電池の電極触媒に適しており、従来品(3nm程度のPtナノ粒子をカーボンに担持したPt/C触媒)に比べて10倍の活性を発現する触媒となる。更にこの合金微粒子は、酸素還元反応の副反応である過酸化水素発生を従来の半分以下に抑制できる。
【0034】
5.電極
合金微粒子を含む電極は、カソードとして使用してもよいし、アノードとして使用してもよいし、カソード及びアノードの両方として使用してもよい。
【0035】
6.燃料電池
燃料電池は、合金微粒子を含む。燃料電池としては、例えば、固体高分子形燃料電池(PEFC)、りん酸形燃料電池(PAFC)、溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)、固体酸化物形燃料電池(SOFC)、アルカリ電解質形燃料電池(AFC)、直接形燃料電池(DFC)を挙げることができる。
【0036】
7.合金微粒子担持触媒
本開示の合金微粒子担持触媒は、担体に貴金属を含む合金微粒子を担持してなる。合金微粒子の平均粒径は、0.7nm以上2nm未満である。合金微粒子担持触媒は、「1.合金微粒子担持触媒の製造方法」によって製造できる。
【0037】
(1)説明の援用
本開示の合金微粒子担持触媒は、「1.合金微粒子担持触媒の製造方法」の項目で説明した「(1)合金微粒子」、「(2)貴金属塩」の中の「貴金属」、「(5)担体」、「(9)合金微粒子の平均粒径」の中の平均粒径の求め方をそのまま適用し、これらの記載を省略する。
【0038】
(2)合金の担持量
合金の担持量は、特に制限されず、目的とする設計等に応じて適宜必要量担持させればよい。合金の担持量としては、触媒性能とコストの観点から、金属換算で、前記担体100質量部に対して5質量部以上70質量部以下であることが好ましく、10質量部以上50質量部以下であることがより好ましい。
【0039】
(3)本実施形態の合金微粒子担持触媒の効果
本実施形態の合金微粒子担持触媒は、揮発性の高いアルコール中(例えばエタノール)で貴金属塩と卑金属塩と担体材料を混合させ、熱処理をするのみという非常に簡単な手法で製造が可能であり、製造工程上で廃液も一切出ない環境に優しい製造方法で製造できる。
本実施形態の合金微粒子担持触媒は、平均粒径は、0.7nm以上2nm未満であるため、原子レベルで金属の利用率が高く、高い性能が得られる。よって、合金微粒子担持触媒は、例えば、貴金属使用量削減が求められている家庭用あるいは自動車用電源として使用される例えば固体高分子形の燃料電池の電極触媒に適しており、従来品(3nm程度のPtナノ粒子をカーボンに担持したPt/C触媒)に比べて10倍の活性を発現する触媒となる。更にこの合金微粒子担持触媒は、酸素還元反応の副反応である過酸化水素発生を従来の半分以下に抑制できる。
【0040】
8.電極
合金微粒子担持触媒を含む電極は、カソードとして使用してもよいし、アノードとして使用してもよいし、カソード及びアノードの両方として使用してもよい。
【0041】
9.燃料電池
燃料電池は、合金微粒子担持触媒を含む。燃料電池としては、例えば、固体高分子形燃料電池(PEFC)、りん酸形燃料電池(PAFC)、溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)、固体酸化物形燃料電池(SOFC)、アルカリ電解質形燃料電池(AFC)、直接形燃料電池(DFC)を挙げることができる。
【0042】
10.合金微粒子
本開示の合金微粒子は、平均粒径が0.7nm以上2nm未満であり、かつ貴金属を含む。合金微粒子は、上述の「4.合金微粒子の製造方法」によって製造できる。
【0043】
(1)説明の援用
本開示の合金微粒子は、「1.合金微粒子担持触媒の製造方法」の項目で説明した「(1)合金微粒子」、「(2)貴金属塩」の中の「貴金属」、「(9)合金微粒子の平均粒径」の中の平均粒径の求め方をそのまま適用し、これらの記載を省略する。
【0044】
(2)本実施形態の合金微粒子の効果
本実施形態の合金微粒子は、揮発性の高いアルコール(例えばエタノール)と貴金属塩と卑金属塩を混合させ、熱処理をするのみという非常に簡単な手法で製造が可能であり、製造工程上で廃液も一切出ない環境に優しい製造方法で製造できる。
本実施形態の合金微粒子は、平均粒径は、0.7nm以上2nm未満であるため、原子レベルで金属の利用率が高く、高い性能が得られる。よって、合金微粒子は、例えば、貴金属使用量削減が求められている家庭用あるいは自動車用電源として使用される例えば固体高分子形の電極触媒に適している。
【0045】
11.電極
合金微粒子を含む電極は、カソードとして使用してもよいし、アノードとして使用してもよいし、カソード及びアノードの両方として使用してもよい。
【0046】
12.燃料電池
燃料電池は、合金微粒子を含む。燃料電池としては、例えば、固体高分子形燃料電池(PEFC)、りん酸形燃料電池(PAFC)、溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)、固体酸化物形燃料電池(SOFC)、アルカリ電解質形燃料電池(AFC)、直接形燃料電池(DFC)を挙げることができる。
【0047】
13.燃料電池の構成例
燃料電池の構成例について説明する。この燃料電池10は、好適例たる固体高分子形燃料電池である。図9に示すように、燃料電池10は、電解質膜たる固体高分子電解質膜12を備えている。固体高分子電解質膜12は例えば、パーフルオロスルホン酸樹脂から構成されている。固体高分子電解質膜12の両側には、これを挟むようにアノード電極14、カソード電極16が設けられている。固体高分子電解質膜12と、これを挟む一対のアノード電極14、カソード電極16とにより、膜電極接合体18が構成される。
【0048】
アノード電極14の外側には、ガス拡散層20が設けられている。ガス拡散層20は、カーボンペーパー、カーボンクロス、金属多孔体等の多孔質材から構成され、セパレータ22側から供給されたガスをアノード電極14に均一に拡散させる機能を有する。同様に、カソード電極16の外側には、ガス拡散層24が設けられている。ガス拡散層24は、セパレータ26側から供給されたガスをカソード電極16に均一に拡散させる機能を有する。本図においては、上記のように構成された膜電極接合体18、ガス拡散層20,24、セパレータ22,26を1組のみ示したが、実際の燃料電池10は、膜電極接合体18、ガス拡散層20,24がセパレータ22,26を介して複数積層されたスタック構造を有している場合もある。
【0049】
14.膜電極接合体18の製造方法
膜電極接合体18の製造方法は、貴金属塩と、卑金属塩と、炭素数1以上5以下のアルコールから選ばれた少なくとも1種以上の溶媒と、担体と、を混合した混合物を、固体高分子電解質膜12に噴霧し乾燥させて貴金属を含む合金微粒子とすることで、固体高分子電解質膜12の表面に、合金微粒子を含んだ電極を形成する工程を有する。なお、この製造方法では、アノード電極14及びカソード電極16の少なくとも一方を、混合物の噴霧乾燥により形成すればよい。アノード電極14及びカソード電極16の他方は、他の方法により形成してもよい。もちろん、アノード電極14及びカソード電極16の両方を、混合物の噴霧乾燥により形成してもよい。
本開示の膜電極接合体18の製造方法は、「1.合金微粒子担持触媒の製造方法」の項目で説明した「(1)合金微粒子」、「(2)貴金属塩」、「(3)卑金属塩」、「(4)炭素数1~5のアルコール」、「(5)担体」、「(6)担体とアルコールとの混合比」、「(7)混合」、「(8)加熱」、「(9)合金微粒子の平均粒径」、「(10)本実施形態の製造方法の効果」をそのまま適用し、これらの記載を省略する。
【0050】
噴霧の方法は、特に限定されない。噴霧は、例えば、スプレーノズルを用いて行われる。噴霧される混合物の温度は、特に限定されない。混合物の温度は、物質の状態維持の観点から、例えば、10℃以上40℃以下とされる。雰囲気中へ噴霧することによって合金微粒子(合金ナノ粒子)が形成される。噴霧時の雰囲気温度は、特に限定されない。この雰囲気温度は、混合物を乾燥させて合金微粒子とする観点から、10℃以上300℃以下が好ましく、15℃以上150℃以下がより好ましく、20℃以上100℃以下が更に好ましい。また、雰囲気の圧力は、常圧(大気圧)、減圧、加圧のいずれでもよい。
雰囲気としては、酸素が0ppm以上50000ppm以下含まれるガス雰囲気が好ましい。酸素濃度が低いガス雰囲気では、不本意な酸化反応が抑制される。不本意な酸化反応として、例えば、混合物に担体を含む場合に、酸素によって担体が酸化する酸化反応が例示される。具体的には、次のような酸化反応が抑制される。金属塩として貴金属塩を用いた場合には、貴金属を含む合金微粒子が担体上に形成される。この際、酸素が存在すると、合金微粒子が触媒として機能し、担体が酸化されてしまうのである。よって、このような酸化反応を抑制するために、酸素濃度が低いガス雰囲気とすることが好ましい。
【0051】
噴霧は、合金微粒子を効率的に収集する観点から、ターゲット(標的)に向けて行うことが好ましい。ターゲットは、合金微粒子を捕捉する捕捉材として機能する。ターゲットとしては、例えば板状部材が好適に用いられる。板状部材としては、フッ素樹脂の板が好適に用いられる。ターゲットを加熱する構成であってもよい。加熱には、例えばヒーターが用いられる。ターゲットを加熱する際の加熱温度は、特に限定されない。加熱温度は例えば30℃以上100℃以下である。
【0052】
15.燃料電池10の製造方法
燃料電池10の製造方法は、固体高分子電解質膜12、アノード電極14及びカソード電極16を有する膜電極接合体18を備えた燃料電池10に関する。この製造方法は、貴金属塩と、卑金属塩と、炭素数1以上5以下のアルコールから選ばれた少なくとも1種以上の溶媒と、担体と、を混合した混合物を、固体高分子電解質膜12に噴霧し乾燥させて貴金属を含む合金微粒子とすることで、固体高分子電解質膜12の表面に、合金微粒子を含んだ電極を形成する工程を有する。
なお、この製造方法では、アノード電極14及びカソード電極16の少なくとも一方を、混合物の噴霧乾燥により形成すればよい。アノード電極14及びカソード電極16の他方は、他の方法により形成してもよい。もちろん、アノード電極14及びカソード電極16の両方を、混合物の噴霧乾燥により形成してもよい。
本開示の燃料電池10の製造方法は、「1.合金微粒子担持触媒の製造方法」の項目で説明した「(1)合金微粒子」、「(2)貴金属塩」、「(3)卑金属塩」、「(4)炭素数1~5のアルコール」、「(5)担体」、「(6)担体とアルコールとの混合比」、「(7)混合」、「(8)加熱」、「(9)合金微粒子の平均粒径」、「(10)本実施形態の製造方法の効果」をそのまま適用し、これらの記載を省略する。また、噴霧に関しては、「14.膜電極接合体18の製造方法」における記載をそのまま適用し、この記載を省略する。
【実施例
【0053】
実施例により本開示を更に具体的に説明する。
図1に実施例の工程数と各特許文献の工程数とを比較して示す。実施例は最も工程数が少ないことが分かる。また、製造工程上で揮発性アルコール以外の有機物や水溶液を一切使用しないため、廃液が一切出ない環境に優しい製造方法であることも一つの特徴である。
【0054】
1.実施例1
実施例1では、Pt-Co(白金-コバルト)合金ナノ粒子の形成に関して、Co塩の種類、金属組成の影響について検討した。なお、合金ナノ粒子が、本開示の「合金微粒子」に相当する。
表1に示すように、Pt塩とCo塩をビーカーに採取し、エタノール(COH)を加え、所定の金属塩濃度となるように溶解した。黒鉛化カーボンブラック(GCB,比表面積150m-1:LION)を乳鉢に採取後、先のPt塩及びCo塩を溶解させたエタノール溶液を加え、エタノールが揮発し、乾くまで攪拌・混合した。得られた粉末をセラミックボートに移し、管状炉によって、アルゴン(Ar)雰囲気、200℃で2時間熱処理を行った。室温まで降温した後に、管状炉から取り出して、これを触媒として評価した。
Pt塩原材料には、ヘキサクロロ白金(IV)酸六水和物(HPtCl・6HO)を用いた。Co塩原材料には、[1]塩化コバルト(II)六水和物(CoCl・6HO)又は[2]硝酸コバルト(II)六水和物(Co(NO・6HO)を用いた。合金として、PtCo/C(X=3,1 atom比)となるように調整した。
【0055】
【表1】
【0056】
透過型電子顕微鏡(TEM)像、及び粒子径分布を図2に示す。各Co塩で作製したPtCo/Cに着目すると、カーボン(像内の薄い灰色部分)担体上にPtCoの合金ナノ粒子(黒い点々)が高分散で担持されていることが確認できる。その分布幅はいずれも狭く、両者とも平均粒子径と粒子径の標準偏差値は等しくd=1.1±0.2nmであった。また、PtCo/Cの場合においても、同様にCo塩の種類には影響されず、粒子径も同様に制御できていることが分かった。ここで、粒子径は合成時の金属塩濃度(合計濃度)と相関(直線関係)があり、容易に制御可能である。なお、合計濃度は、2molL-1以上50molL-1以下とすることが好ましい。図2で示したPtCo/C、PtCo/Cはいずれも金属塩濃度(HPtCl・6HOの濃度とCo塩の濃度の合計)を50molL-1で調整しており、図2に示した4種全ての平均粒子径が一致していることから、Pt合金において金属塩濃度により粒子サイズを精密に制御できることを証明できた。
【0057】
表1には、各触媒の物性値(仕込値及び分析値)をまとめている。金属担持量(表中、単に「担持量」と記載)については、4つの触媒の全てにおいて合成時の仕込値を30質量%(wt%)とした。合成後の分析値は、4つの触媒において27~30質量%(wt%)となった。このように、仕込値と分析値は略一致した。すなわち、合成段階において、ほとんどロスなく金属を還元できること、及び担持率も任意に制御可能であることが分かった。次に組成に着目すると、少なくともCoが25~50atom%の間で仕込値に対して、ほぼその通りの組成の合金が調製できることが分かった。粒子サイズに関しては、上述したとおり、4つの触媒の全てにおいてd=1.1nmで制御できている。このように、本開示の技術は、金属担持量、金属組成、粒径の3因子全てを任意に制御できることが分かった。
【0058】
2.実施例2
実施例2では、Pt-V(白金-バナジウム)合金ナノ粒子について検討した。
Pt塩原材料にヘキサクロロ白金(IV)酸六水和物(HPtCl・6HO)を用い、V塩にはバナジルアセチルアセトナート (Vanadyl acetylacetonate,VO(acac))を用いて実施例1と同様にPtV/C(X=3,1 atom比)を調製した。図3にPtV/CのTEM像、粒径分布および組成分析値を示す。第二成分がバナジウムであっても、組成に関係なく、PtV合金ナノ粒子が形成されており(黒い点)、カーボン上に高分散で担持されていることが確認された。粒子サイズも実施例1と同等であり、組成に関しても目的組成どおりの成分で合金が形成されていることが分かった。
【0059】
3.実施例3
実施例3では、Pt-Ni(白金-ニッケル)合金ナノ粒子について検討した。
Pt塩原材料にヘキサクロロ白金(IV)酸六水和物(HPtCl・6HO)を用いた。Ni塩材料には、[1]塩化ニッケル(II)六水和物(NiCl・6HO)、[2]硝酸ニッケル(II)六水和物:(Ni(NO・6HO)、又は[3]酢酸ニッケル(II)四水和物(Ni(CHCOO)・4HO)を用いてPtNi/Cを調製した。いずれも金属組成はPt/Ni=3/1である。図4のように、Pt-Ni合金の場合も、Ni塩の種類に関係なく、全てのPtNi/Cで粒径分布が狭く、平均粒子径が約1.5nmの合金ナノ粒子が高分散で担持されていた。
【0060】
4.実施例1~3のまとめ
実施例1~3の結果から、低級アルコール(炭素数1~5のアルコール)に溶解する金属塩を用いれば、第二元素の種類に関係なく、合金ナノ粒子を形成できることが確認された。
参考までに、図5に実験1のPtCo合金ナノ粒子と、Pt単味の場合のPtナノ粒子を対比して示す。Pt単味の場合は、実施例1に準じて実験を行った。合金ナノ粒子は、Pt単味のPtナノ粒子の場合と変わらない分散度合い、粒径分布幅を維持したまま、担体上に担持されることが分かった。
なお、各合金ナノ粒子について、次のようにして粒径分布(平均粒子径と粒径分布の標準偏差)を求めた。すなわち、透過型電子顕微鏡(TEM)により合成した合金ナノ粒子を観察した。TEM写真を用紙にプリントアウトし、合金ナノ粒子(黒い円形の像)を球形とみなして、合金ナノ粒子の端から端までを直径とみなして、合計300粒子を数視野(3~5視野)の画像から無作為に測定した。300個数えた直径を平均して平均粒子径とした。また、300粒子の粒子径から分布図を作成し、その標準偏差値を計算した。合成した各合金ナノ粒子の粒径の分布幅はいずれも非常に狭く、平均粒子径値に対して標準偏差値が0%~20%の間となった。
【0061】
5.触媒活性(酸素還元反応活性)比較
実施例1で調製した触媒の触媒活性を調べるため、回転リングディスク電極(RRDE)法により、0.1 M過塩素酸溶液中における酸素還元反応活性を調べた。以降、代表例として、PtCo/Cの結果を記載する。また、比較として、同手法で調製したPt単味触媒(Pt/C)及び市販のPt標準触媒(市販標準Pt/C)も同様に調べた。
図5にORR活性を比較評価したPtCo/CとPt/CのTEM像をおよび粒径分布を示す。いずれのナノ粒子も担体上に高分散で担持されており、平均粒子径はPtCo/Cがd=1.1nm,Pt/Cもd=1.1nmであり、同等の触媒であることが確認された。粒径分布幅も両触媒とも狭く、金属成分(合金かPt単味)のみが異なる触媒であることが分かった。
【0062】
作用極となるカーボン基板上にPtCo/Cを固定することで電極化し、0.1M HClO溶液中でサイクリックボルタモグラム(CV)を測定した。結果を図6に示す。また、図6には、各触媒のCVの水素吸着波から算出した電気化学比表面積(ECA)も併記する。PtCo/CのCV波形は、純Pt/CのCV波形に類似し、低電位側(0.05V~0.35V)に水素の脱着波、高電位側(0.8V~1.0V)でPtの酸化還元波が確認できた。水素の脱離波から電気量を求め、実表面積(cm)を算出し、それを電極化のために固定した金属量(g)で割ることで、電気化学比表面積(ECA)を求めた。ECA値はナノ粒子の半径に依存し、3種の触媒のECA値は、粒子サイズから求めた比表面積相当であることが分かった。
【0063】
6.酸素還元反応(ORR)の活性
図7は、酸素飽和した0.1M HClO(30℃)中で測定した酸素還元反応(ORR)の質量活性および比活性の結果を示している。市販標準Pt/C触媒(Ptナノ粒子のd=3nm)、Pt/C触媒(Ptナノ粒子のd=1nm)、及びPtCo/C触媒を比較検討している。
まず、質量活性(図7左図)に着目する。市販標準Pt/C触媒(d=3nm)に対してPt/C触媒(d=1nm)の方が、活性が高いことが分かる。これは、粒子サイズに伴う比表面積が影響しているためである。但し、比活性(図7右図)をみると、市販標準Pt/C触媒(d=3nm)とPt/C触媒(d=1nm)とは同程度であることが分かる。
一方、PtCo/C触媒の質量活性は、Pt/C触媒(d=1nm)の質量活性の約3倍高い。また、PtCo/C触媒の比活性も、Pt/C触媒(d=1nm)の比活性の約3倍高い。この結果から、合金化による効果、すなわち、合金化によって粒子の表面のPtが電子修飾効果を受けて、酸素の吸着をしやすくなる効果が発現していることが分かる。更に、比表面積効果も合わさって、PtCo/C触媒は、市販標準Pt/C触媒に対して質量活性が10倍に向上すると推測される。
【0064】
7.H発生率
図8は、酸素還元反応中で起こった副反応である過酸化水素(H)の発生の割合を調べた結果である。市販標準Pt/C触媒(Ptナノ粒子のd=3nm)、Pt/C触媒(Ptナノ粒子のd=1nm)、及びPtCo/C触媒を比較検討している。図8中に記載されているように、酸素還元反応は主反応として4電子還元で水が生成するが、副反応として、2電子還元でHが発生する。このHが、固体高分子形燃料電池の内部で発生すると、電解質膜を劣化させる要因となるため、なるべく発生を抑える触媒が必要になる。図8をみると、Pt触媒(市販標準Pt/C触媒(Ptナノ粒子のd=3nm)、Pt/C触媒(Ptナノ粒子のd=1nm))に対して、PtCo/C触媒のH発生率は半減以下に抑制できることが分かった。
【0065】
8.実施例の効果
触媒として、貴金属と卑金属(非貴金属)の合金を使用することで、貴金属の使用量を低減できる。例えば、貴金属:卑金属の組成比(atom%)が50:50の場合、ナノ粒子を構成するPtの質量を約7割まで削減できる場合がある。しかも、本実施例では、燃料電池触媒としての活性を高くできるので、Ptの使用量が現在よりも大幅に少なくなる可能性が示唆される。活性を従来の10倍まで高くできる場合があるので、Ptの使用量が現在の1/10以下になる可能性がある。従って、本実施例は、コスト削減、資源節約に関する効果が高い。更に、本実施例では、電池劣化要因であるH発生を抑制することで、システムの高寿命化をできる。また、本実施例では、環境に対してクリーンである。このように、本実施例によれば、燃料電池自体の普及の加速が期待されるとともに、燃料電池を用いる燃料電池自動車や定置コジェネレーションの普及の加速も大いに期待される。
【0066】
前述の例は単に説明を目的とするものでしかなく、本開示を限定するものと解釈されるものではない。本開示を典型的な実施形態の例を挙げて説明したが、本開示の記述及び図示において使用された文言は、限定的な文言ではなく説明的及び例示的なものであると理解される。ここで詳述したように、その形態において本開示の範囲又は本質から逸脱することなく、添付の特許請求の範囲内で変更が可能である。ここでは、本開示の詳述に特定の構造、材料及び実施例を参照したが、本開示をここにおける開示事項に限定することを意図するものではなく、むしろ、本開示は添付の特許請求の範囲内における、機能的に同等の構造、方法、使用の全てに及ぶものとする。
【0067】
本開示は上記で詳述した実施形態に限定されず、本開示の請求項に示した範囲で様々な変形又は変更が可能である。
【符号の説明】
【0068】
10…固体高分子形燃料電池
12…固体高分子電解質膜
14…アノード電極
16…カソード電極
18…膜電極接合体
20…ガス拡散層
22…セパレータ
24…ガス拡散層
26…セパレータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9