(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】演算装置及びモータ駆動装置
(51)【国際特許分類】
H02P 6/18 20160101AFI20240409BHJP
【FI】
H02P6/18
(21)【出願番号】P 2021011263
(22)【出願日】2021-01-27
【審査請求日】2023-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】妹尾 佑一
【審査官】保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-268966(JP,A)
【文献】特開2019-205269(JP,A)
【文献】特開2019-009964(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P6/00-6/34
21/00-25/03
25/04
25/10-27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス信号に応じてオンオフされる複数のスイッチ(21u,21v,21w,22u,22v,22w)を有し、電源部(4)から電源線(15,16)を通じて3相のモータ(5)に供給される電力を変換する電力変換部(19)、を介して前記パルス信号により矩形波駆動される前記モータについて、演算を行う演算装置(30)であって、
前記パルス信号が前記スイッチをオン状態にするためのオンレベル(Lon)にあるオン期間(Ton)と、前記パルス信号が前記スイッチをオフ状態にするためのオフレベル(Loff)にあるオフ期間(Toff)とのうち前記オン期間において、前記モータの相電圧(Vu,Vv,Vw)のゼロクロス
が生じる直前又は直後のタイミングである対応タイミング(tx,tx1~tx6)に前記電源線を流れる電源電流(Is)を、ゼロクロス電流値(Ix,Ix1~Ix6)として取得するゼロクロス電流部(S101~S107)と、
前記ゼロクロス電流部により取得された前記ゼロクロス電流値を用いて、前記モータを流れるモータ電流(Iu,Iv,Iw)を示すモータ電流値(Irms)を算出するモータ電流部(S108,S109)と、を備えている演算装置。
【請求項2】
パルス信号に応じてオンオフされる複数のスイッチ(21u,21v,21w,22u,22v,22w)を有し、電源部(4)から電源線(15,16)を通じて3相のモータ(5)に供給される電力を変換する電力変換部(19)、を介して前記パルス信号により矩形波駆動される前記モータについて、演算を行う演算装置(30)であって、
前記パルス信号が前記スイッチをオン状態にするためのオンレベル(Lon)にあるオン期間(Ton)と、前記パルス信号が前記スイッチをオフ状態にするためのオフレベル(Loff)にあるオフ期間(Toff)とのうち前記オン期間において、前記モータの相電圧(Vu,Vv,Vw)のゼロクロス
が生じる直前又は直後のタイミングである対応タイミング(tx,tx1~tx6)に前記電源線を流れる電源電流(Is)を
取得し、
前記電源電流を用いてゼロクロス電流値(Ix,Ix1~Ix6)
を算出するゼロクロス電流部(S101~S107)と、
前記ゼロクロス電流部により取得された前記ゼロクロス電流値を用いて、前記モータを流れるモータ電流(Iu,Iv,Iw)を示すモータ電流値(Irms)を算出するモータ電流部(S108,S109)と、を備えている演算装置。
【請求項3】
前記ゼロクロス電流部は、
前記対応タイミングを前記パルス信号のデューティ比(D)に応じて設定するタイミング設定部(S102)を有している、請求項1
又は2に記載の演算装置。
【請求項4】
前記オン期間の開始から前記対応タイミングまでの待ち期間(Ton1)は、前記オン期間の1/2である、請求項1
~3のいずれか1つに記載の演算装置。
【請求項5】
前記ゼロクロス電流部は、
前記オン期間のたびに前記電源電流を電源電流値(Isd,Isd1~Isd6)として取得する電源電流部(S103~S105)と、
前記電源電流部が前記ゼロクロスの直前に既に取得済みの直前電流値(Isd3)を前記ゼロクロス電流値として選択する電流選択部(S106,S107)と、を有している請求項1~
4のいずれか1つに記載の演算装置。
【請求項6】
前記モータ電流部は、前記モータ電流値として前記モータ電流の実効値を算出する、請求項1~
5のいずれか1つに記載の演算装置。
【請求項7】
前記ゼロクロス電流部は、
前記ゼロクロス電流値として、前記3相の相電圧のうち第1相電圧(Vu)のゼロクロスに対応した第1ゼロクロス電流値(Ix3,Ix6)と、第2相電圧(Vv)のゼロクロスに対応した第2ゼロクロス電流値(Ix2,Ix5)と、第3相電圧(Vw)のゼロクロスに対応した第3ゼロクロス電流値(Ix1,Ix4)と、を取得し、
前記モータ電流値は、
前記第1ゼロクロス電流値、前記第2ゼロクロス電流値及び前記第3ゼロクロス電流値の平均値を算出する平均算出部(S108)を有している、請求項1~
6のいずれか1つに記載の演算装置。
【請求項8】
前記ゼロクロス電流部は、前記3相の相電圧において前記ゼロクロスが生じるたびに前記ゼロクロス電流値を取得し、
前記モータ電流部は、
電気角の1周期(T)において前記ゼロクロス電流部が取得した複数の前記ゼロクロス電流値の平均値を算出する電気周期部(S108)を有している、請求項1~
7のいずれか1つに記載の演算装置。
【請求項9】
前記モータ電流部は、前記ゼロクロス電流値を補正係数(K)により補正する補正部(S109)を有している、請求項1~
8のいずれか1つに記載の演算装置。
【請求項10】
3相のモータ(5)をパルス信号により矩形波駆動するモータ駆動装置(6)であって、
前記パルス信号に応じてオンオフされる複数のスイッチ(21u,21v,21w,22u,22v,22w)を有し、電源部(4)から電源線(15,16)を介して前記モータに供給される電力を変換する電力変換部(19)と、
前記パルス信号が前記スイッチをオン状態にするためのオンレベル(Lon)にあるオン期間(Ton)と、前記パルス信号が前記スイッチをオフ状態にするためのオフレベル(Loff)にあるオフ期間(Toff)とのうち前記オン期間において、前記モータの相電圧(Vu,Vv,Vw)のゼロクロス
が生じる直前又は直後のタイミングである対応タイミング(tx,tx1~tx6)に前記電源線を流れる電源電流(Is)を、ゼロクロス電流値(Ix,Ix1~Ix6)として取得するゼロクロス電流部(S101~S107)と、
前記ゼロクロス電流部により取得された前記ゼロクロス電流値を用いて、前記モータを流れるモータ電流(Iu,Iv,Iw)を示すモータ電流値(Irms)を算出するモータ電流部(S108,S109)と、を備えているモータ駆動装置。
【請求項11】
3相のモータ(5)をパルス信号により矩形波駆動するモータ駆動装置(6)であって、
前記パルス信号に応じてオンオフされる複数のスイッチ(21u,21v,21w,22u,22v,22w)を有し、電源部(4)から電源線(15,16)を介して前記モータに供給される電力を変換する電力変換部(19)と、
前記パルス信号が前記スイッチをオン状態にするためのオンレベル(Lon)にあるオン期間(Ton)と、前記パルス信号が前記スイッチをオフ状態にするためのオフレベル(Loff)にあるオフ期間(Toff)とのうち前記オン期間において、前記モータの相電圧(Vu,Vv,Vw)のゼロクロス
が生じる直前又は直後のタイミングである対応タイミング(tx,tx1~tx6)に前記電源線を流れる電源電流(Is)を
取得し、
前記電源電流を用いてゼロクロス電流値(Ix,Ix1~Ix6)
を算出するゼロクロス電流部(S101~S107)と、
前記ゼロクロス電流部により取得された前記ゼロクロス電流値を用いて、前記モータを流れるモータ電流(Iu,Iv,Iw)を示すモータ電流値(Irms)を算出するモータ電流部(S108,S109)と、を備えているモータ駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この明細書における開示は、演算装置及びモータ駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、3相のモータを正弦波駆動するモータ駆動装置が開示されている。このモータ駆動装置では、モータに供給される電力を変換するインバータが母線を介して電源装置に接続されている。モータ駆動装置では、3相のうち1相の相電流がゼロクロスになるタイミングで、母線を流れる母線電流が検出される。そして、この母線電流を用いて、3相のうち他の2相の相電流値が算出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1について、3相のモータが正弦波駆動ではなく矩形波駆動される構成を想定すると、モータを流れる相電流の算出精度が低下することが懸念される。
【0005】
本開示の主な目的は、モータを流れる電流の演算精度を高めることができる演算装置及びモータ駆動装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この明細書に開示された複数の態様は、それぞれの目的を達成するために、互いに異なる技術的手段を採用する。また、特許請求の範囲およびこの項に記載した括弧内の符号は、一つの態様として後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例であって、技術的範囲を限定するものではない。
【0007】
上記目的を達成するため、開示された1つの態様は、
パルス信号に応じてオンオフされる複数のスイッチ(21u,21v,21w,22u,22v,22w)を有し、電源部(4)から電源線(15,16)を通じて3相のモータ(5)に供給される電力を変換する電力変換部(19)、を介してパルス信号により矩形波駆動されるモータについて、演算を行う演算装置(30)であって、
パルス信号がスイッチをオン状態にするためのオンレベル(Lon)にあるオン期間(Ton)と、パルス信号がスイッチをオフ状態にするためのオフレベル(Loff)にあるオフ期間(Toff)とのうちオン期間において、モータの相電圧(Vu,Vv,Vw)のゼロクロスが生じる直前又は直後のタイミングである対応タイミング(tx,tx1~tx6)に電源線を流れる電源電流(Is)を、ゼロクロス電流値(Ix,Ix1~Ix6)として取得するゼロクロス電流部(S101~S107)と、
ゼロクロス電流部により取得されたゼロクロス電流値を用いて、モータを流れるモータ電流(Iu,Iv,Iw)を示すモータ電流値(Irms)を算出するモータ電流部(S108,S109)と、を備えている演算装置である。
開示された1つの態様は、
パルス信号に応じてオンオフされる複数のスイッチ(21u,21v,21w,22u,22v,22w)を有し、電源部(4)から電源線(15,16)を通じて3相のモータ(5)に供給される電力を変換する電力変換部(19)、を介してパルス信号により矩形波駆動されるモータについて、演算を行う演算装置(30)であって、
パルス信号がスイッチをオン状態にするためのオンレベル(Lon)にあるオン期間(Ton)と、パルス信号がスイッチをオフ状態にするためのオフレベル(Loff)にあるオフ期間(Toff)とのうちオン期間において、モータの相電圧(Vu,Vv,Vw)のゼロクロスが生じる直前又は直後のタイミングである対応タイミング(tx,tx1~tx6)に電源線を流れる電源電流(Is)を取得し、電源電流を用いてゼロクロス電流値(Ix,Ix1~Ix6)を算出するゼロクロス電流部(S101~S107)と、
ゼロクロス電流部により取得されたゼロクロス電流値を用いて、モータを流れるモータ電流(Iu,Iv,Iw)を示すモータ電流値(Irms)を算出するモータ電流部(S108,S109)と、を備えている演算装置である。
【0008】
上記演算装置では、ゼロクロスに対応した対応タイミングでの電源電流がゼロクロス電流値として取得され、このゼロクロス電流値を用いてモータ電流値が算出される。ここで、モータの矩形波駆動については、対応タイミングがパルス信号のオン期間に含まれていることでモータ電流値の演算精度が高くなる、という知見が得られた。これに対して、上記演算装置によれば、対応タイミングがパルス信号のオン期間に含まれているため、モータを流れる電流について演算精度を高めることができる。
【0009】
開示された1つの態様は、
3相のモータ(5)をパルス信号により矩形波駆動するモータ駆動装置(6)であって、
パルス信号に応じてオンオフされる複数のスイッチ(21u,21v,21w,22u,22v,22w)を有し、電源部(4)から電源線(15,16)を介してモータに供給される電力を変換する電力変換部(19)と、
パルス信号がスイッチをオン状態にするためのオンレベル(Lon)にあるオン期間(Ton)と、パルス信号がスイッチをオフ状態にするためのオフレベル(Loff)にあるオフ期間(Toff)とのうちオン期間において、モータの相電圧(Vu,Vv,Vw)のゼロクロスが生じる直前又は直後のタイミングである対応タイミング(tx,tx1~tx6)に電源線を流れる電源電流(Is)を、ゼロクロス電流値(Ix,Ix1~Ix6)として取得するゼロクロス電流部(S101~S107)と、
ゼロクロス電流部により取得されたゼロクロス電流値を用いて、モータを流れるモータ電流(Iu,Iv,Iw)を示すモータ電流値(Irms)を算出するモータ電流部(S108,S109)と、を備えているモータ駆動装置である。
開示された1つの態様は、
3相のモータ(5)をパルス信号により矩形波駆動するモータ駆動装置(6)であって、
パルス信号に応じてオンオフされる複数のスイッチ(21u,21v,21w,22u,22v,22w)を有し、電源部(4)から電源線(15,16)を介してモータに供給される電力を変換する電力変換部(19)と、
パルス信号がスイッチをオン状態にするためのオンレベル(Lon)にあるオン期間(Ton)と、パルス信号がスイッチをオフ状態にするためのオフレベル(Loff)にあるオフ期間(Toff)とのうちオン期間において、モータの相電圧(Vu,Vv,Vw)のゼロクロスが生じる直前又は直後のタイミングである対応タイミング(tx,tx1~tx6)に電源線を流れる電源電流(Is)を取得し、電源電流を用いてゼロクロス電流値(Ix,Ix1~Ix6)を算出するゼロクロス電流部(S101~S107)と、
ゼロクロス電流部により取得されたゼロクロス電流値を用いて、モータを流れるモータ電流(Iu,Iv,Iw)を示すモータ電流値(Irms)を算出するモータ電流部(S108,S109)と、を備えているモータ駆動装置である。
【0010】
上記モータ駆動装置によれば、上記演算装置と同様の効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1実施形態における駆動システムの構成を示す図。
【
図2】相電流及びシャント電流の変化態様を示す図。
【
図4】検出タイミング及び待ち時間について説明するための図。
【
図5】ゼロクロスタイミング及び対応タイミングについて説明するための図。
【
図6】シャント電流値及びゼロクロス電流値について説明するための図。
【
図7】第2実施形態における演算処理の手順を示すフローチャート。
【
図8】第3実施形態における演算処理の手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、図面を参照しながら本開示を実施するための複数の形態を説明する。各形態において先行する形態で説明した事項に対応する部分には同一の参照符号を付して重複する説明を省略する場合がある。各形態において構成の一部のみを説明している場合は、構成の他の部分については先行して説明した他の形態を適用することができる。各実施形態で具体的に組み合わせが可能であることを明示している部分同士の組み合わせばかりではなく、特に組み合わせに支障が生じなければ、明示していなくても実施形態同士を部分的に組み合せることも可能である。
【0013】
<第1実施形態>
図1に示すモータシステム1は、例えばハイブリッド自動車(HV)などの車両に搭載されている。この車両は、燃料を消費する内燃機関を有している。モータシステム1は、バッテリ4、モータ5、モータ駆動装置6を有している。モータシステム1は、バッテリ4の電力によりモータ5を駆動するためのシステムである。バッテリ4は、モータ駆動装置6に直流電力を供給する直流電源であり、電源部に相当する。バッテリ4は、例えば充放電可能な2次電池である。バッテリ4は、正極である高電位側の端子と、負極である低電位側の端子とを有している。
【0014】
モータ5は、複数相の巻線L1,L2,L3を含むステータと、複数の磁極対を有するロータとを有している。モータ5は、例えば、U相、V相、W相を有する3相のモータである。モータ5は、ブラシレスモータである。また、モータ5は、位置センサが設けられていないセンサレスモータである。
【0015】
モータ5では、巻線L1、L2、L3がデルタ結線により互いに接続されている。巻線L1は、U相端子5uとV相端子5vとに接続されたU-V間巻線である。巻線L2は、V相端子5vとW相端子5wとに接続されたV-W間巻線である。巻線L3は、W相端子5wとU相端子5uとに接続されたW-U間巻線である。なお、巻線L1,L2,L3はスター結線により互いに接続されていてもよい。
【0016】
モータ駆動装置6は、バッテリ4からモータ5に供給される電力を変換し、バッテリ4からの電力によりモータ5を駆動する。モータ駆動装置6は電力変換装置と称されることがある。モータ駆動装置6は、モータ端子11、バッテリ端子12、グランド端子13、Pライン15、Nライン16を有している。
【0017】
モータ端子11は、3つの巻線L1、L2、L3のそれぞれに電気接続されている。バッテリ端子12は、バッテリ4の高電位側の端子に電気接続されている。グランド端子13は、バッテリ4の低電位側の端子やグランドに電気接続されている。Pライン15は、バッテリ端子12に電気接続されており、高電位側の電源線である。Nライン16は、グランド端子13に電気接続されており、低電位側の電源線である。
【0018】
モータ駆動装置6は、インバータ回路19、制御部30、昇圧コイル40、比較回路50、シャント抵抗60を有している。昇圧コイル40は、Pライン15に設けられている。昇圧コイル40は、バッテリ端子12から供給されるバッテリ電圧を所定の昇圧電圧に昇圧し、インバータ回路19に印加する。
【0019】
インバータ回路19は、バッテリ4からモータ5に供給される電力を直流から交流に変換する。インバータ回路19は、3相インバータであり、3相のそれぞれについて電力変換を行う。インバータ回路19は電力変換部に相当する。インバータ回路19は、モータ5のU相、V相、W相のうち通電する相を通電相として順番に切り替えることにより、モータ5のロータを回転駆動させる。インバータ回路19は、端子5u,5v,5wのうち昇圧電圧を印加する端子を印加端子として順番に切り替えることにより、通電相を順番に切り替える。
【0020】
インバータ回路19は、DC-AC変換回路である。インバータ回路19は、3相分の上下アーム回路20u、20v、20wを有している。上下アーム回路20u,20v,20wは、レグと称されることがある。上下アーム回路20u,20v,20wは、上アーム及び下アームをそれぞれ有している。これら上アームと下アームは、上アームをPライン15側として、Pライン15とNライン16との間で直列接続されている。上アームと下アームとの接続点は、モータ端子11を介して巻線L1,L2,L3に接続されている。
【0021】
上下アーム回路20u,20v,20wにおいては、上アームが上アームスイッチ21u,21v,21wを有している。下アームは、下アームスイッチ22u,22v,22wを有している。これらアームスイッチ21u,21v,21w,22u,22v,22wは、半導体素子等のスイッチング素子により形成されている。このスイッチング素子は、ゲートを有するトランジスタであり、例えばIGBTやMOSFETにより形成されている。
【0022】
U相については、上下アーム回路20uにおいて上アームスイッチ21uと下アームスイッチ22uとの接続点がU相端子5uに接続されている。V相については、上下アーム回路20vにおいて上アームスイッチ21vと下アームスイッチ22vとの接続点がV相端子5vに接続されている。W相については、上下アーム回路20wにおいて上アームスイッチ21wと下アームスイッチ22wとの接続点がW相端子5wに接続されている。
【0023】
上下アーム回路20u,20v,20wは、アームスイッチ21u,21v,21w,22u,22v,22wに寄生するボデーダイオードを有している。上アームにおいては、ボデーダイオードが、バッテリ端子12からモータ端子11への電流の流れを規制する向きに設けられている。下アームにおいては、ボデーダイオードが、モータ端子11からバッテリ端子12への電流の流れを規制する向きに設けられている。
【0024】
制御部30は、例えばECUであり、インバータ回路19の駆動を制御する制御装置である。ECUは、Electronic Control Unitの略称である。制御部30は、演算処理装置としてのCPU31と、記憶装置としてのメモリ32とを有している。CPU31はプロセッサである。制御部30は、例えばCPU31、メモリ32、I/O、これらを接続するバスを備えるマイクロコンピュータを主体として構成される。制御部30は、メモリ32に記憶された制御プログラムを実行することで、インバータ回路19の駆動に関する各種の処理を実行する。このメモリ32は、コンピュータによって読み取り可能なプログラム及びデータを非一時的に格納する非遷移的実体的記憶媒体(non-transitory tangible storage medium)である。また、非遷移的実体的記憶媒体は、半導体メモリ又は磁気ディスクなどによって実現される。
【0025】
比較回路50は、制御部30に電気的に接続されている。比較回路50は、モータ5を流れる電流の位相を電気角として検出するためのセンサ回路である。比較回路50は、モータ5において巻線L1,L2,L3に誘起される誘起電圧を検出する。比較回路50は、U相、V相、W相のそれぞれについて、誘起電圧と基準電圧とを比較し、この比較結果を制御部30に対して出力する。
【0026】
基準電圧は、比較回路50がモータ5について相電圧Vu,Vv,Vwのゼロクロスを検出可能な値に設定されている。相電圧Vu,Vv,Vwのゼロクロスは、相電圧Vu,Vv,Vwの極性が反転する時に相電圧Vu,Vv,Vwがゼロになることである。基準電圧は例えばゼロに設定されている。モータ5では、U相端子5uの電圧がU相電圧Vuであり、V相端子5vの電圧がV相電圧Vvであり、W相端子5wの電圧がW相電圧Vwである。また、U相端子5uを流れる電流がU相電流Iuであり、V相端子5vを流れる電流がV相電流Ivであり、W相端子5wを流れる電流がW相電流Iwである。なお、相電圧Vu,Vv,Vwがモータ電圧に相当し、相電流Iu,Iv,Iwがモータ電流に相当する。
【0027】
例えば、比較回路50は、U相電圧Vuがゼロより大きい場合にハイレベルの信号を出力し、U相電圧Vuがゼロより小さい場合にローレベルの信号を出力する。比較回路50から出力される信号が、ハイレベル及びローレベルのうち一方から他方に切り替わったタイミングが、相電圧Vu,Vv,Vwのゼロクロスが生じたゼロクロスタイミングtzeroである。すなわち、比較回路50の比較結果の極性が反転したタイミングが、ゼロクロスタイミングtzeroである。
【0028】
シャント抵抗60は、Nライン16に設けられた抵抗素子であり、Nライン16を流れる電流を検出する電流センサである。シャント抵抗60は、Nライン16においてインバータ回路19とグランド端子13との間に設けられている。シャント抵抗60の両端に印加される電圧がシャント電圧Vsであり、シャント抵抗60を流れる電流がシャント電流Isである。シャント電流Isは、電源線としてのNライン16を流れる電流であり、電源電流に相当する。シャント抵抗60は制御部30に電気的に接続されており、シャント電圧Vsを含む情報が制御部30に入力される。制御部30はA/D変換回路を有しており、制御部30に入力されたシャント電圧Vsは、A/D変換回路にてアナログ信号からデジタル信号に変換される。
【0029】
モータシステム1においては、モータ5がインバータ回路19を介して制御部30により矩形波駆動される。制御部30は、PWM信号を用いてモータ5の矩形波駆動を行う。制御部30は、車両に搭載された統合ECUなどの上位ECUから入力される信号などに応じて、モータ5の矩形波駆動を行うための駆動指令を生成する。制御部30は、駆動指令に応じて、アームスイッチ21u,21v,21w,22u,22v,22wをオン状態やオフ状態にする。
【0030】
制御部30は、モータ5の矩形波駆動を行う。矩形波駆動では、U相、V相、W相のそれぞれにおいて、端子5u,5v,5wへの通電と通電停止とが繰り返し行われる。
図2に示すように、U相電流Iu、V相電流Iv、W相電流Iwのそれぞれについて増減が繰り返し行われる。制御部30は、モータ5を矩形波駆動するために矩形波制御を行う。矩形波制御では、端子5u,5v,5wへの通電が行われる期間が通電期間であり、端子5u,5v,5wへの通電が停止される期間が通電停止期間である。
【0031】
制御部30は、矩形波駆動として120度通電駆動を行う。120度通電駆動では、U相、V相、W相のそれぞれについて、電気角で120度の通電と60度の通電停止とが繰り返し行われる。120度通電駆動では、通電を行う電気角である通電角が120度になっている。120度通電駆動では、3相のうち2相を通電相とした2相通電が、通電相を循環的に切り替えて行われる。120度通電駆動では、U相電流IuとV相電流IvとW相電流Iwとの間に電気角で120度ずつ位相差がある。制御部30は、矩形波制御として120度通電制御を行うことでモータ5を120度通電駆動させる。120度通電駆動では、120度の通電角やこの通電角に対応する時間が通電期間である。また、60度の通電停止角やこの通電停止角に対応する時間が通電停止期間である。
【0032】
制御部30は、PWM制御として、120度通電駆動をPWM信号により行う。PWM制御では、U相、V相、W相のそれぞれについて、駆動指令に応じて指令電圧を算出し、この指令電圧に応じてパルス状の電圧信号Vrefを生成する。電圧信号VrefはPWM信号であり、パルス信号に相当する。電圧信号Vrefは矩形波の信号である。電圧信号Vrefの1周期Tは、指令電圧の1周期であり、電気角の1周期である。電圧信号VrefのPWM周期Tpwmは、パルス信号の1周期である(
図4参照)。制御部30は、指令電圧とキャリアとを比較し、U相、V相、W相のそれぞれについて電圧信号Vrefを生成する。キャリアは、矩形波や三角波、鋸波などの搬送波である。指令電圧の絶対値がデューティ比Dであり、制御部30は、デューティ比Dに応じて電圧信号Vrefを生成する。制御部30は、U相、V相、W相のそれぞれの電圧信号Vrefに応じてインバータ回路19を駆動させる。
【0033】
デューティ比Dは、オンデューティである。
図4に示すように、キャリアの1周期が電圧信号Vrefの1周期Tpwmであり、デューティ比Dは、周期Tpwmに対するオン時間Tonの割合である。周期Tpwmにデューティ比Dをかけた値がオン時間Tonである。電圧信号VrefはオンレベルLonとオフレベルLoffとに移行可能である。オンレベルLonは、アームスイッチ21u,21v,21w,22u,22v,22wをオン状態にするためのレベルであり、ハイレベルと称されることがある。オフレベルLoffは、アームスイッチ21u,21v,21w,22u,22v,22wをオフ状態にするためのレベルであり、ローレベルと称されることがある。オン時間Tonは、電圧信号VrefがオンレベルLonにある時間であり、パルス幅である。周期Tpwmにおいては、オフレベルLoffにある時間がオフ時間Toffである。オン時間Tonはオン期間に相当し、オフ時間Toffはオフ期間に相当する。
【0034】
制御部30は、モータ5の電流実効値Irmsを算出するための演算処理を行う。電流実効値Irmsは、相電流Iu,Iv,Iwの実効値である。相電流Iu,Iv,Iwの理想値は、U相電流Iuの実効値とV相電流Ivの実効値とW相電流Iwの実効値とが一致する値である。
【0035】
例えば、本実施形態とは異なり、制御部30が電流実効値Irmsを算出するために
図2の式1を用いる構成を想定する。式1では、Tが相電流Iu,Iv,Iwの周期であり、I
Mが相電流Iu,Iv,Iwである。この構成では、電流実効値Irmsの算出に相電流Iu,Iv,Iwが用いられることなどに起因して、制御部30の処理負担が過剰に大きくなることが懸念される。
【0036】
これに対して、本実施形態では、演算処理において、制御部30が電流実効値Irmsの算出にシャント電流Isを用いる。演算処理について、
図3のフローチャートを参照しつつ説明する。制御部30は、演算処理を所定周期で繰り返し実行する。制御部30は、演算処理の各ステップを実行する機能を有しており、演算装置に相当する。
【0037】
図3において、ステップS101では、デューティ比Dを取得する。このデューティ比Dは、制御部30が電圧信号Vrefの生成に用いた値である。ステップS102では、待ち時間Ton1を算出する。ここでは、オン時間Tonに待ち係数をかけて待ち時間Ton1を算出する。待ち係数は、あらかじめ定められた値であり、例えば0.5である。待ち時間Ton1が待ち期間に相当する。
【0038】
図4に示すように、待ち時間Ton1は、電圧信号Vrefのオン時間Tonが開始した後、シャント電圧Vsを検出する検出タイミングtdを待つ時間である。タイミングt1にてオン時間Tonが開始され、タイミングt2が検出タイミングtdである場合、タイミングt1からタイミングt2までの時間が待ち時間Ton1である。タイミングt3にてオン時間Tonが終了する場合、タイミングt2からタイミングt3までの時間が残り時間Ton2である。待ち係数が0.5の場合、待ち時間Ton1はオン時間Tonの1/2になる。また、この場合、待ち時間Ton1と残り時間Ton2とは同じ長さになる。タイミングt4にて1周期Tpwmが終わる場合、タイミングt3からタイミングt4までの時間がオフ時間Toffである。
【0039】
また、待ち時間Ton1は、オン時間Tonが開始した後、後述する対応タイミングtxを待つ時間である。上述したように、オン時間Tonはデューティ比Dに応じて設定されている。このため、上記ステップS102では、待ち時間Ton1及び対応タイミングtxをデューティ比Dに応じて設定することになる。なお、制御部30におけるステップS102の処理を実行する機能がタイミング設定部に相当する。
【0040】
図3に戻り、ステップS103では、オン時間Tonが開始されてからの経過時間TEが、待ち時間Ton1に達したか否かを判定する。経過時間TEが待ち時間Ton1に達していない場合、達するまでステップS103の判定処理を繰り返し行って待機する。経過時間TEが待ち時間Ton1に達した場合、ステップS104に進む。ステップS104では、検出タイミングtdでのシャント電圧Vsをシャント電圧値Vsdとして検出する。
【0041】
ステップS105では、シャント電圧値Vsdを用いて、検出タイミングtdでのシャント電流Isをシャント電流値Isdとして検出する。ここでは、シャント電圧値Vsdをシャント抵抗60の抵抗値で割ってシャント電流値Isdを算出する。シャント電流値Isdは電源電流値に相当する。ステップS103~S105では、電圧信号Vrefのオン時間Tonのたびにシャント電流値Isdを取得する。制御部30におけるステップS103~S105を実行する機能が電源電流部に相当する。
【0042】
図4に示すように、シャント電流Isは、PWM周期Tpwmにおいて、電圧信号VrefがオンレベルLonとオフレベルLoffとに切り替わることに合わせて増減する。シャント電流Isは、電圧信号VrefのオンレベルLonへの移行に伴って増加を開始し、電圧信号VrefのオフレベルLoffへの移行に伴って減少を開始する。シャント電流Isは、電圧信号Vrefのオン時間Tonにおいて増加し続け、オフ時間Toffにおいて減少し続ける。シャント電圧値Vsd及びシャント電流値Isdが検出される検出タイミングtdは、シャント電流Isが増加するオン時間Tonの中間地点である。U相、V相、W相においては、それぞれの電圧信号Vrefが互いに同期している。シャント電流Isは、U相、V相、W相のうち通電期間にある相の電圧信号Vrefに合わせて増減する。
【0043】
図2に示すように、相電圧Vu,Vv,Vwは、U相、V相、W相のそれぞれの通電停止期間において、モータ5にて生じる誘起電圧により増減し、極性が反転する。すなわち、相電圧Vu,Vv,Vwのゼロクロスは、U相、V相、W相のそれぞれの通電停止期間において生じる。シャント電流Isは、相電圧Vu,Vv,Vwの増減に合わせて増減する。シャント電流Isは、3相のうち1相での通電停止期間の開始と共に増加を開始し、その通電停止期間の終了と共に減少する。例えば、
図5に示すように、シャント電流Isは、U相電圧Vuが増加する通電停止期間と、U相電圧Vuが減少する通電停止期間と、の両方において増加する。
【0044】
図3に戻り、ステップS106では、相電圧Vu,Vv,Vwのゼロクロスが生じたか否かを判定する。ここでは、比較回路50の比較結果を取得し、相電圧Vu,Vv,Vwのそれぞれについてゼロクロスが生じたか否かを比較結果に応じて判定する。例えば、U相、V相、W相のそれぞれについて、前回の演算処理によりステップS106にて取得した比較結果と、今回の演算処理によりステップS106にて取得した比較結果とで、極性が反転したか否かを判定する。比較結果の極性が反転していない場合、相電圧Vu,Vv,Vwのゼロクロスが生じていないとして、ステップS110に進む。ステップS110では、今回の演算処理においてステップS105にて取得したシャント電流値Isdをメモリ32に記憶する。演算処理では、相電圧Vu,Vv,Vwのゼロクロスが生じるまで、ステップS101~S106,S110の処理を繰り返し行う。
【0045】
なお、前回の演算処理によりステップS105にて取得したシャント電流値Isdを、「前回のシャント電流値Isd」と称する。また、今回の演算処理によりステップS105にて取得したシャント電流値Isdを、「今回のシャント電流値Isd」と称する。
【0046】
図6に示すように、シャント電流値Isdは、電圧信号Vrefのオン時間Tonのたびに検出タイミングtdにて繰り返し検出される。例えば、検出タイミングtd1~td6にてシャント電流値Isd1~Isd6が検出され、U相電圧Vuのゼロクロスが実際に生じたゼロクロスタイミングtzeroが検出タイミングtd3,td4の間にある場合を想定する。この場合、検出タイミングtd1~td3はU相電圧Vuのゼロクロスよりも前のタイミングであるため、シャント電流値Isd1~Isd3がメモリ32に記憶される。
【0047】
図3に戻り、ステップS106において比較結果の極性が反転していた場合、相電圧Vu,Vv,Vwのいずれかでゼロクロスが生じていたとして、ステップS107に進む。ステップS107では、前回のシャント電流値Isdをメモリ32から読み込み、このシャント電流値Isdをゼロクロス電流値Ixとして取得する。ゼロクロス電流値Ixの検出タイミングtdは、相電圧Vu,Vv,Vwのゼロクロスに対応した対応タイミングtxである。対応タイミングtxは、ゼロクロスタイミングtzeroの直前のタイミングである。すなわち、対応タイミングtxは、前回のシャント電流値Isdを検出した検出タイミングtdである。なお、本ステップS107では、ゼロクロス電流値Ixをメモリ32に記憶する。
【0048】
ステップS106,S107は、相電圧Vu,Vv,Vwのゼロクロスの直前にステップS105が既に取得済みのシャント電流値Isdをゼロクロス電流値Ixとして選択する。ここで、ステップS105が時系列でゼロクロスタイミングtzeroを介して前後に連続して並ぶ2つのタイミングでシャント電流値Isdを取得した場合を想定する。この場合、2つのタイミングのうちゼロクロスタイミングtzeroよりも前のタイミングで取得されたゼロクロス電流値Ixが、相電圧Vu,Vv,Vwのゼロクロスの直前に既に取得済みの直前電流値に相当する。制御部30におけるステップS106,S107の処理を実行する機能が電流選択部に相当する。ステップS101~S107の処理を実行する機能がゼロクロス電流部に相当する。
【0049】
図6に示すように、ゼロクロスタイミングtzeroが検出タイミングtd3,td4の間にある場合、検出タイミングtd3が対応タイミングtxとされる。この検出タイミングtd3にて検出されたシャント電流値Isd3がゼロクロス電流値Ixとされる。このシャント電流値Isd3が直前電流値に相当する。
【0050】
制御部30が演算処理を繰り返し行うことで、ステップS101~S107では、相電圧Vu,Vv,Vwのいずれかでゼロクロスが生じるたびに、ゼロクロス電流値Ixを取得してメモリ32に記憶する。すなわち、ステップS101~S107では、相電圧Vu,Vv,Vwのそれぞれのゼロクロスに対応したゼロクロス電流値Ixを取得する。
【0051】
図2、
図5に示すように、例えば、相電圧Vu,Vv,Vwのゼロクロスに対応した対応タイミングtx1~tx6が生じた場合、ゼロクロス電流値Ix1~Ix6が検出されてメモリ32に記憶される。対応タイミングtx3,tx6でのゼロクロス電流値Ix3,Ix6は、U相電圧Vuのゼロクロスに対応したU相のゼロクロス電流値Ixであり、第1ゼロクロス電流値に相当する。対応タイミングtx2,tx5でのゼロクロス電流値Ix2,Ix5は、V相電圧Vvのゼロクロスに対応したV相のゼロクロス電流値Ixであり、第2ゼロクロス電流値に相当する。対応タイミングtx1,tx4でのゼロクロス電流値Ix1,Ix4は、W相電圧Vwのゼロクロスに対応したW相のゼロクロス電流値Ixであり、第3ゼロクロス電流値に相当する。なお、U相電圧Vuが第1相電圧に相当し、V相電圧Vvが第2相電圧に相当し、W相電圧Vwが第3相電圧に相当する。
【0052】
図3に戻り、ステップS108では、ゼロクロス電流値Ixの平均値Ixaを算出する。ここでは、1周期Tに含まれる複数のゼロクロス電流値Ixを用いて、これらゼロクロス電流値Ixの平均値Ixaを算出する。本ステップS108では、U相のゼロクロス電流値Ixと、V相のゼロクロス電流値Ixと、W相のゼロクロス電流値Ixとを、同じ数ずつ用いて平均値Ixaを算出することになる。例えば、
図2に示すように、1周期Tにゼロクロス電流値Ix1~Ix6が含まれている場合、U相、V相、W相のそれぞれのゼロクロス電流値Ixを2つずつで合計6つ用いて平均値Ixaを算出することになる。平均値Ixaは、相電流Iu,Iv,Iwについて補正前の実効値である。
【0053】
1周期Tにおいては、相電圧Vu,Vv,Vwのゼロクロスが3の倍数の回数だけ生じる。このため、本ステップS108では、平均値Ixaの算出に、1周期Tに含まれる全てのゼロクロス電流値Ixを用いると、ゼロクロス電流値Ixを3の倍数の個数だけ用いることになる。この3の倍数の個数のゼロクロス電流値Ixには、U相のゼロクロス電流値IxとV相のゼロクロス電流値IxとW相のゼロクロス電流値Ixとが同じ数ずつ含まれている。制御部30におけるステップS108の処理を実行する機能が平均算出部及び電気周期部に相当する。
【0054】
ステップS109では、補正係数Kを用いて平均値Ixaの補正を行い、電流実効値Irmsを算出する。補正係数Kは、あらかじめ定められた係数値としてメモリ32に記憶されている。メモリ32には、モータ回転数や指令電圧などの補正パラメータの値に対応して複数の計数値が記憶されている。本ステップS109では、複数の係数値のうち、実際に検出した補正パラメータに対応した係数値を補正係数Kとしてメモリ32から読み込む。そして、平均値Ixaに補正係数Kをかけて電流実効値Irmsを算出する。電流実効値Irmsがモータ電流値に相当する。制御部30におけるステップS109の処理を実行する機能が補正部に相当する。ステップS108,S109の処理を実行する機能がモータ電流部に相当する。
【0055】
補正係数Kは、制御部30やモータ駆動装置6を製造する工程でメモリ32に記憶される。制御部30やモータ駆動装置6の製造方法には、作業者がシミュレーション等により補正係数Kを取得する工程が含まれている。この工程においては、作業者が、相電流Iu,Iv,Iwを検出するための電流センサをモータシステム1に設ける。電流センサは、例えばモータ5の端子5u,5v,5wに対して設けられる。作業者は、シミュレーション等を行うことで、電流センサにより相電流Iu,Iv,Iwを検出値として検出し、この検出値を用いて
図2の式1により電流実効値Irmsをシミュレーション実効値として算出する。作業者は、このシミュレーション実効値と共に補正パラメータを検出する。
【0056】
また、作業者は、シミュレーション等を行うことで、相電流Iu,Iv,Iwについて、演算処理のステップS108により補正前の実効値として平均値Ixaを算出する。作業者は、共通の補正パラメータの同一値で、シミュレーション実効値と平均値Ixaとを比較し、補正係数Kを算出する。作業者は、例えば、電流実効値Irmsを平均値Ixaで割って補正係数Kを算出する。
【0057】
モータ5の矩形波駆動については、待ち時間Ton1がオン時間Tonの1/2である場合に、シミュレーション実効値と平均値Ixaとがほぼ比例関係になる、という知見が得られた。この場合、平均値Ixaは、シミュレーション実効値に対して直線性を有している。この知見によれば、平均値Ixaの大きさに関係なく、平均値Ixaに補正係数Kをかけた値がほぼシミュレーション実効値になる。したがって、演算処理のステップS102において待ち係数が0.5に設定されていれば、単に平均値Ixaに補正係数Kをかけることで平均値Ixaを補正できる。
【0058】
また、待ち時間Ton1とオン時間Tonとの関係については、待ち時間Ton1がオン時間Tonの1/2より大きい値になるほど、シミュレーション実効値と平均値Ixaとが比例関係から離れる、という知見が得られた。加えて、待ち時間Ton1がオン時間Tonの1/2より小さい値になるほど、シミュレーション実効値と平均値Ixaとが比例関係から離れる、という知見が得られた。したがって、演算処理のステップS102とは異なり、待ち係数が0.5に対して大きすぎる値や小さすぎる値である場合、平均値Ixaの大きさに応じて補正係数Kの値を変更するなど、平均値Ixaを補正するための演算が複雑になることが懸念される。換言すれば、待ち係数が0.5に対して大きすぎる値や小さすぎる値である場合に、平均値Ixaを補正係数Kにより補正して電流実効値Irmsを算出すると、この電流実効値Irmsの算出精度が低下することが懸念される。
【0059】
ここまで説明した本実施形態では、相電圧Vu,Vv,Vwのゼロクロスに対応した対応タイミングtxでのシャント電流値Isdがゼロクロス電流値Ixとされる。そして、このゼロクロス電流値Ixを用いてモータ5の電流実効値Irmsが算出される。ここで、モータ5の矩形波駆動については、対応タイミングtxがオン時間Tonに含まれていると電流実効値Irmsの算出精度が高くなる、という知見が得られた。これに対して、本実施形態によれば、対応タイミングtxが電圧信号Vrefの周期Tにおいてオン時間Ton及びオフ時間Toffのうちオン時間Tonに含まれている。このように対応タイミングtxを適正に設定することで、電流実効値Irmsの算出精度を高めることができる。
【0060】
モータ5の矩形波駆動については、オン時間Tonにおける対応タイミングtxの時間的な位置に応じて電流実効値Irmsの算出精度が変化する、という知見が得られた。これに対して、本実施形態によれば、対応タイミングtxが電圧信号Vrefのデューティ比Dに応じて設定される。電圧信号Vrefにおいては、オン時間Tonの長さがデューティ比Dに応じて増減する。このため、対応タイミングtxをデューティ比Dに応じて設定することは、オン時間Tonにおいて対応タイミングtxの時間的な位置を設定することになる。このようにオン時間Tonにおいて対応タイミングtxを時間的な位置を適正に設定することで、電流実効値Irmsの算出精度を高めることができる。
【0061】
モータ5の矩形波駆動については、待ち時間Ton1がオン時間Tonの1/2に近いほど電流実効値Irmsの算出精度が高くなる、という知見が得られた。換言すれば、待ち時間Ton1がオン時間Tonの1/2に近いほど、シミュレーション実効値と平均値Ixaとの関係が比例関係に近くなる、という知見が得られた。これに対して、本実施形態によれば、待ち時間Ton1がオン時間Tonの1/2に設定されている。このため、平均値Ixaを補正して電流実効値Irmsを算出する場合に、平均値Ixaを補正するための演算を簡易化しても電流実効値Irmsの算出精度が低下しにくい。すなわち、制御部30の処理負担が増加すること、及び電流実効値Irmsの算出精度が低下すること、の両方を抑制できる。
【0062】
本実施形態によれば、ゼロクロスタイミングtzeroの直前に検出されたシャント電流値Isdがゼロクロス電流値Ixとして選択される。このため、仮に、モータシステム1において相電圧Vu,Vv,Vwのゼロクロスに合わせてノイズなどが発生したとしても、このノイズなどが含まれていないシャント電流値Isdがゼロクロス電流値Ixとして取得される。したがって、ゼロクロス電流値Ixの取得精度を高めることができる。
【0063】
本実施形態によれば、ゼロクロス電流値Ixを用いてモータ5の電流実効値Irmsが算出される。電圧信号Vrefのオン時間Tonのたびに検出されるシャント電流値Isdのうち、相電圧Vu,Vv,Vwのゼロクロスに対応したゼロクロス電流値Ixは、相電流Iu,Iv,Iwの実効値に近い値になりやすい。このため、電流実効値Irmsの算出にゼロクロス電流値Ixを用いることで電流実効値Irmsの算出精度を高めることができる。
【0064】
U相のゼロクロス電流値IxとV相のゼロクロス電流値IxとW相のゼロクロス電流値Ixとでは、それぞれの特性が互いに異なることが考えられる。これに対して、本実施形態によれば、U相、V相、W相のそれぞれについてのゼロクロス電流値Ixを用いて平均値Ixaが算出されている。したがって、この平均値Ixaは、例えば、U相、V相、W相のうち1相だけについてのゼロクロス電流値Ixを複数用いて算出された平均値に比べて、相電流Iu,Iv,Iwの実際の実効値に近い値になりやすい。このようにU相、V相、W相のそれぞれについてのゼロクロス電流値Ixが用いられることで、平均値Ixaの算出精度を高めることができる。
【0065】
1周期Tにおいては、相電圧Vu,Vv,Vwでゼロクロスタイミングtzeroが互いに異なることなどに起因して、シャント電流値Isdがばらつくことが考えられる。これに対して、本実施形態によれば、1周期Tにおいて取得された複数のゼロクロス電流値Ixを用いて平均値Ixaが算出される。したがって、この平均値Ixaは、例えば1周期Tの一部だけに含まれるゼロクロス電流値Ixを用いて算出された平均値に比べて、相電流Iu,Iv,Iwの実際の実効値に近い値になりやすい。このように1周期Tに含まれる複数のゼロクロス電流値Ixが用いられることで、平均値Ixaの算出精度を高めることができる。
【0066】
本実施形態によれば、ゼロクロス電流値Ixの平均である平均値Ixaの補正に補正係数Kが用いられている。このようにゼロクロス電流値Ixを補正するための演算を簡易化することで、制御部30の処理負担を低減できる。
【0067】
<第2実施形態>
上記第1実施形態では、制御部30の演算処理において、シャント電流値Isdをゼロクロス電流値Ixとして取得する条件に、相電圧Vu,Vv,Vwのゼロクロスが生じた場合が含まれている。これに対して、第2実施形態では、シャント電流値Isdをゼロクロス電流値Ixとして取得する条件に、シャント電流値Isdが正常値である場合が含まれている。第2実施形態で特に説明しない構成、作用、効果については上記第1実施形態と同様である。第2本実施形態では、上記第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0068】
本実施形態の演算処理について、
図7のフローチャートを参照しつつ説明する。
図7において、ステップS101~S106では、上記第1実施形態と同様の処理を行う。ステップS106について相電圧Vu,Vv,Vwのゼロクロスが生じた場合、ステップS201に進む。
【0069】
ステップS201では、前回のシャント電流値Isdが正常値であるか否かを判定する。ここでは、前回のシャント電流値Isdが正常範囲に含まれているか否かを判定する。前回のシャント電流値Isdについては、正常範囲に含まれている場合に正常値であると判断し、正常範囲に含まれていない場合に正常値でないと判断する。正常範囲は、メモリ32に記憶された過去のシャント電流値Isdや過去のゼロクロス電流値Ixに応じて可変設定される。例えば、過去10回分など所定回数分の演算処理により取得されたシャント電流値Isdを用いて、増加率を算出するなどして正常範囲を設定する。また、所定回数分の演算処理により取得されたゼロクロス電流値Ixを用いて、脈動率を算出するなどして正常範囲を設定する。
【0070】
前回のシャント電流値Isdが正常値である場合、ステップS107に進み、前回のシャント電流値Isdをゼロクロス電流値Ixとして取得する。そして、ステップS108~S110では、上記第1実施形態と同様の処理を行う。前回のシャント電流値Isdが正常値でない場合、そのまま今回の演算処理を終了する。ステップS108,S109では、過去のゼロクロス電流値Ixを複数用いて平均値Ixaを算出し、その平均値Ixaを用いて電流実効値Irmsを算出する。このため、前回のシャント電流値Isdが正常値でない場合でも、平均値Ixaの算出に用いるゼロクロス電流値Ixの個数が減るだけであり、電流実効値Irmsを算出することは可能である。
【0071】
本実施形態によれば、対応タイミングtxで検出されたシャント電流値Isdであっても、このシャント電流値Isdが正常値でない場合には、このシャント電流値Isdがゼロクロス電流値Ixにされない。このため、異常値であるシャント電流値Isdがゼロクロス電流値Ixとして取得され、異常値であるゼロクロス電流値Ixにより電流実効値Irmsの算出精度が低下する、ということを回避できる。したがって、電流実効値Irmsの算出精度を高めることができる。
【0072】
なお、正常範囲は、シャント電流値Isdやゼロクロス電流値Ixの過去データに応じて可変設定されるのではなく、あらかじめ定められていてもよい。例えば、制御部30やモータ駆動装置6の製造工程において、シミュレーション等により正常範囲が設定され、この正常範囲に関する情報がメモリ32に記憶されてもよい。
【0073】
<第3実施形態>
第3実施形態では、制御部30の演算処理において、シャント電流値Isdをゼロクロス電流値Ixとして取得する条件に、デューティ比Dが許容値である場合が含まれている。第3実施形態で特に説明しない構成、作用、効果については上記第1実施形態と同様である。第3本実施形態では、上記第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0074】
本実施形態の演算処理について、
図8のフローチャートを参照しつつ説明する。
図8において、ステップS101では、上記第1実施形態と同様の処理を行う。ステップS101にてデューティ比Dを取得した後、ステップS301に進む。
【0075】
ステップS301では、デューティ比Dが許容値であるか否かを判定する。ここでは、デューティ比Dがあらかじめ定められた許容範囲に含まれているか否かを判定する。許容範囲は、制御部30やモータ駆動装置6の製造工程において、シミュレーション等により設定され、メモリ32に記憶されている。作業者は、シミュレーション実効値と、上記第1実施形態のステップS109により算出した電流実効値Irmsとを、デューティ比Dごとに比較する。作業者は、シミュレーション実効値に対する電流実効値Irmsのずれ量を算出し、このずれ量が過剰に大きくならない領域によりデューティ比Dの許容範囲を設定する。デューティ比Dの許容範囲については、デューティ比Dが小さいほどシミュレーション実効値に対する電流実効値Irmsのずれ量が増加する、という知見が得られた。この知見によれば、デューティ比Dが小さいほど電流実効値Irmsの算出精度が低下しやすい。例えば、デューティ比Dについて、小さすぎる値は許容範囲に含まれていない。
【0076】
デューティ比Dが許容値である場合、ステップS102~S110にて上記第1実施形態と同様の処理を行い、電流実効値Irmsを算出する。デューティ比Dが許容値でない場合、そのまま今回の演算処理を終了する。
【0077】
本実施形態によれば、デューティ比Dが許容値でない場合には、電流実効値Irmsの算出が行われない。このため、デューティ比Dが小さすぎるなど許容値でないことに起因して電流実効値Irmsの算出精度が低下するということを回避できる。また、デューティ比Dが許容値でない場合には、シャント電流値Isdの検出が行われない。このため、仮に、デューティ比Dが許容値でないことに起因してシャント電流値Isdが異常値になったとしても、このシャント電流値Isdがメモリ32に記憶されず、このシャント電流値Isdがゼロクロス電流値Ixとして取得されることもない。したがって、デューティ比Dに応じてシャント電流値Isdを検出しないことで、ゼロクロス電流値Ixの取得精度を高めることができる。
【0078】
なお、本実施形態では、シャント電流値Isdをゼロクロス電流値Ixとして取得する条件に、オン時間Tonが許容時間である場合が含まれていてもよい。例えばステップS301では、デューティ比Dが許容値であるか否かの判定、及びオン時間Tonが許容時間であるか否かの判定、の少なくとも一方を行ってもよい。例えばオン時間Tonが時間の許容範囲に含まれているか否かを判定する。オン時間Tonについての許容範囲は、デューティ比Dについての許容値と同様に、例えば、シミュレーション等により設定され、メモリ32に記憶されている。
【0079】
<他の実施形態>
この明細書の開示は、例示された実施形態に制限されない。開示は、例示された実施形態と、それらに基づく当業者による変形態様を包含する。例えば、開示は、実施形態において示された部品、要素の組み合わせに限定されず、種々変形して実施することが可能である。開示は、多様な組み合わせによって実施可能である。開示は、実施形態に追加可能な追加的な部分をもつことができる。開示は、実施形態の部品、要素が省略されたものを包含する。開示は、一つの実施形態と他の実施形態との間における部品、要素の置き換え、または組み合わせを包含する。開示される技術的範囲は、実施形態の記載に限定されない。開示される技術的範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内での全ての変更を含むものと解されるべきである。
【0080】
上記各実施形態において、制御部30は、ゼロクロスタイミングtzeroの直後の検出タイミングtdを対応タイミングtxとし、シャント電流値Isdをゼロクロス電流値Ixとして取得してもよい。例えば制御部30は、
図6において、検出タイミングtd4を対応タイミングtxとし、シャント電流値Isd4をゼロクロス電流値Ixとして取得してもよい。また、制御部30は、ゼロクロスタイミングtzeroの直前の検出タイミングtdと直後の検出タイミングtdとの少なくとも一方を対応タイミングtxとして、ゼロクロス電流値Ixを取得してもよい。例えば制御部30は、
図6において、検出タイミングtd3のシャント電流値Isd3と、検出タイミングtd4のシャント電流値Isd4と、を平均した値をゼロクロス電流値Ixとして取得してもよい。加えて、制御部30は、ゼロクロスタイミングtzeroよりも前のタイミングで検出された複数のシャント電流値Isdを用いてゼロクロス電流値Ixを算出してもよい。制御部30は、ゼロクロスタイミングtzeroよりも後のタイミングで検出された複数のシャント電流値Isdを用いてゼロクロス電流値Ixを算出してもよい。
【0081】
上記各実施形態において、制御部30は、相電圧Vu,Vv,Vwのゼロクロスが生じた場合にだけシャント電流値Isdを検出してもよい。この場合、制御部30は、ゼロクロスタイミングtzeroの直後の検出タイミングtdを対応タイミングtxとして、ゼロクロス電流値Ixを取得することになる。
【0082】
上記各実施形態において、制御部30は、モータ5について電気角ではなく、機械角の1周期に含まれる複数のゼロクロス電流値Ixを用いて平均値Ixaを算出してもよい。また、制御部30は、平均値Ixaを算出してなくてもよい。例えば、制御部30は、1つのシャント電流値Isdを補正係数Kで補正して電流実効値Irmsを算出してもよい。
【0083】
上記各実施形態において、制御部30は、対応タイミングtxや待ち時間Ton1などを時系列で取得するのではなく、電気角や機械角として取得してもよい。
【0084】
上記各実施形態において、制御部30が平均値Ixaの算出に用いるシャント電流値Isdの個数は、3の倍数でなくてもよい。例えば、平均値Ixaの算出に用いられる複数のシャント電流値Isdには、U相のシャント電流値IsdとV相のシャント電流値IsdとW相のシャント電流値Isdとが互いに異なる数だけ含まれていてもよい。
【0085】
上記各実施形態において、制御部30は、モータ電流値として、相電流Iu,Iv,Iwの最大値や平均値を算出してもよい。例えば、制御部30が、電流実効値Irmsと、相電流Iu,Iv,Iwの最大値と、相電流Iu,Iv,Iwの平均値と、の少なくとも1つを算出してもよい。
【0086】
上記各実施形態において、制御部30は周期Tにおいてシャント電流値Isdを複数回検出してもよい。また、制御部30は、周期Tのオフ時間Toffにおいてシャント電流値Isdを検出してもよい。例えば、制御部30が1周期Tにおいてオン時間Ton及びオフ時間Toffの両方でシャント電流値Isdを検出してもよい。さらに、上記第3実施形態において、デューティ比Dが許容値でない場合や、オン時間Tonが許容時間でない場合に、制御部30がオフ時間Toffにおいてシャント電流値Isdを検出してもよい。
【0087】
上記各実施形態において、制御部30が電圧信号Vref等のパルス信号によりモータ5の矩形波駆動を行うのであれば、このパルス信号はPWM信号でなくてもよい。また、パルス信号としての電圧信号Vrefは、矩形波の信号でなくてもよく、例えば三角波や鋸波、台形波などの信号であってもよい。さらに、モータ5の矩形波駆動は、通電角が180度よりも小さい通電駆動であればよい。この矩形波駆動としては、例えば150度通電駆動などが挙げられる。上述したように、矩形波駆動は、矩形波によりモータ5を駆動する方式に限られず、三角波や鋸波、台形波などのパルス信号によりモータ5を駆動する方式であればよい。
【0088】
上記各実施形態において、シャント抵抗60等の電流センサは、Pライン15に設けられていてもよい。例えば、シャント抵抗60は、電源線に設けられていれば、Pライン15及びNライン16の少なくとも一方に設けられていてもよい。すなわち、制御部30がシャント電流値Isd等の電源電流値を検出できる構成であればよい。
【0089】
上記各実施形態において、3つの巻線L1、L2、L3は、デルタ結線ではなくY結線で接続されていてもよい。モータシステム1には、モータ5の機械角を検出する位置センサが設けられていてもよい。
【0090】
上記各実施形態において、制御部30は、少なくとも1つのコンピュータを含む制御システムによって提供される。制御システムは、ハードウェアである少なくとも1つのプロセッサ(ハードウェアプロセッサ)を含む。ハードウェアプロセッサは、下記(i)、(ii)、又は(iii)により提供することができる。
【0091】
(i)ハードウェアプロセッサは、ハードウェア論理回路である場合がある。この場合、コンピュータは、プログラムされた多数の論理ユニット(ゲート回路)を含むデジタル回路によって提供される。デジタル回路は、プログラム及びデータの少なくとも一方を格納したメモリを備える場合がある。コンピュータは、アナログ回路によって提供される場合がある。コンピュータは、デジタル回路とアナログ回路との組み合わせによって提供される場合がある。
【0092】
(ii)ハードウェアプロセッサは、少なくとも1つのメモリに格納されたプログラムを実行する少なくとも1つのプロセッサコアである場合がある。この場合、コンピュータは、少なくとも1つのメモリと、少なくとも1つのプロセッサコアとによって提供される。プロセッサコアは、例えばCPUと称される。メモリは、記憶媒体とも称される。メモリは、プロセッサによって読み取り可能な「プログラム及びデータの少なくとも一方」を非一時的に格納する非遷移的かつ実体的な記憶媒体である。
【0093】
(iii)ハードウェアプロセッサは、上記(i)と上記(ii)との組み合わせである場合がある。(i)と(ii)とは、異なるチップの上、又は共通のチップの上に配置される。
【0094】
すなわち、制御部30が提供する手段及び機能の少なくとも一方は、ハードウェアのみ、ソフトウェアのみ、又はそれらの組み合わせにより提供することができる。
【0095】
上記各実施形態において、モータ駆動装置6が搭載された車両としては、乗用車やバス、建設作業車、農業機械車両などがある。また、車両は移動体の1つであり、モータ駆動装置6が搭載される移動体としては、車両の他に電車や飛行機、船舶などある。モータ駆動装置6としては、インバータ装置やコンバータ装置などがある。このコンバータ装置としては、交流入力直流出力の電源装置、直流入力直流出力の電源装置、交流入力交流出力の電源装置などがある。
【符号の説明】
【0096】
4…電源部としてのバッテリ、5…モータ、6…モータ駆動装置、15…電源線としてのPライン、16…電源線としてのNライン、19…電力変換部としてのインバータ回路、21u,21v,21w…スイッチとしての上アームスイッチ、22u,22v,22w…スイッチとしての下アームスイッチ、30…演算装置としての制御部、D…デューティ比、Is…電源電流としてのシャント電流、Isd,Isd1,Isd2,Isd4~Isd6…電源電流値としてのシャント電流値、Isd3…電源電流値及び直前電流値としてのシャント電流値、Irms…モータ電流値としての電流実効値、Iu…U相電流、Iv…V相電流、Iw…W相電流、Ix…ゼロクロス電流値、Ix1,Ix4…第3ゼロクロス電流値としてのゼロクロス電流値、Ix2,Ix5…第2ゼロクロス電流値としてのゼロクロス電流値、Ix3,Ix6…第1ゼロクロス電流値としてのゼロクロス電流値、K…補正係数、Lon…オンレベル、Loff…オフレベル、T…周期、Ton…オン期間としてのオン時間、Ton1…待ち期間としての待ち時間、Toff…オフ期間としてのオフ時間、tx,tx1~tx6…対応タイミング、Vu…相電圧及び第1相電圧としてのU相電圧、Vv…相電圧及び第2相電圧としてのV相電圧、Vw…相電圧及び第3相電圧としてのW相電圧、S101…ゼロクロス電流部、S102…ゼロクロス電流部及びタイミング設定部、S103,S104,S105…ゼロクロス電流部及び電源電流部、S106,S107…ゼロクロス電流部及び電流選択部、S108…モータ電流部、平均算出部及び電気周期部、S109…モータ電流部及び補正部。