(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】モータ制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 6/182 20160101AFI20240409BHJP
【FI】
H02P6/182
(21)【出願番号】P 2021017438
(22)【出願日】2021-02-05
【審査請求日】2023-05-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【氏名又は名称】三上 敬史
(74)【代理人】
【識別番号】100148013
【氏名又は名称】中山 浩光
(74)【代理人】
【識別番号】100162640
【氏名又は名称】柳 康樹
(72)【発明者】
【氏名】蓑島 紀元
【審査官】保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-143894(JP,A)
【文献】特開2006-166677(JP,A)
【文献】特開2018-133890(JP,A)
【文献】特開2001-339999(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P6/00-6/34
21/00-25/03
25/04
25/10-27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定子、及び永久磁石を有する回転子を備えるモータと、
前記モータに指令信号を送信する指令部と、
高調波を前記指令信号に重畳する高調波重畳部と、
高調波重畳によって前記回転子の位置を推定する位置推定部と、
前記モータの回転パルスを検出する回転パルスセンサと、
前記位置推定部で推定された推定位置、及び前記回転パルスを用いて、前記回転子の位置を演算する回転子位置演算部と、を備え、
前記指令部は、前記回転子の初期位置が推定された状態で前記モータの回転を始動させる始動処理を行い、
前記回転子位置演算部は、
前記位置推定部で推定された前記回転子の位置と前記回転パルスに基づく前記回転子の位置との位相差を演算する位相差演算処理を行い、
前記回転パルスに基づく前記回転子の位置、及び前記位相差に基づいて、前記回転子の位置を演算する回転子位置演算処理を行
い、
前記始動処理の前段階で、前記回転子位置演算部は、前記位置推定部によって推定された前記回転子の初期位置と、前記回転パルスセンサの刻み角度との対応関係に基づいて、前記回転パルスの初期値を演算する初期値演算処理を行う、モータ制御装置。
【請求項2】
固定子、及び永久磁石を有する回転子を備えるモータと、
前記モータに指令信号を送信する指令部と、
高調波を前記指令信号に重畳する高調波重畳部と、
高調波重畳によって前記回転子の位置を推定する位置推定部と、
前記モータの回転パルスを検出する回転パルスセンサと、
前記位置推定部で推定された推定位置、及び前記回転パルスを用いて、前記回転子の位置を演算する回転子位置演算部と、を備え、
前記指令部は、前記回転子の初期位置が推定された状態で前記モータの回転を始動させる始動処理を行い、
前記回転子位置演算部は、
前記位置推定部で推定された前記回転子の位置と前記回転パルスに基づく前記回転子の位置との位相差を演算する位相差演算処理を行い、
前記回転パルスに基づく前記回転子の位置、及び前記位相差に基づいて、前記回転子の位置を演算する回転子位置演算処理を行い、
前記回転子位置演算処理では、前記回転子位置演算部は、パルス間における前記回転子の微小位置変化量にも基づいて、前記回転子の位置を演算する回転子位置演算処理を行う、モータ制御装置。
【請求項3】
前記位相差演算処理では、前記回転子位置演算部は、前記モータの始動後の前記回転パルスのカウントごとに、当該回転パルスに基づく回転子の位置と、前記推定位置との差分を積算し、積算値の平均値から前記位相差を演算する、請求項1又は2に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記回転子位置演算処理では、回転子位置演算部は、前記回転パルスのカウントがなされた時点から計測したタイマー値と、角速度とを掛け合わせることで、前記微小位置変化量を演算する、
請求項2に記載のモータ制御装置。
【請求項5】
前記回転子位置演算部は、所定回転数以上の場合、回転パルスを用いて前記回転子の位置を演算し、前記所定
回転数未満の場合、前記位置推定部による前記推定位置を前記回転子の位置とするように、切り替えを行う、
請求項1~4の何れか一項に記載のモータ制御装置。
【請求項6】
前記回転子位置演算部は、前記回転パルスに基づく前記回転子の位置と、前記位置推定部による前記推定位置と、を合成する、
請求項1~4の何れか一項に記載のモータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のモータ制御装置としては、例えば特許文献1に記載されているような技術が知られている。特許文献1に記載のモータ制御装置は、固定子、及び永久磁石を有する回転子を備えるモータと、モータに指令信号を送信する指令部と、回転子の位置を推定する位置推定部と、を備える。また、このモータ制御装置は、回転するモータの回転子の位置を検出するためのレゾルバを備えている。モータ制御装置は、レゾルバからの出力を用いた外乱オブザーバに基づいて、位相角の誤差角度を推定することで、回転子位置を補正した上で、電流制御を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記従来技術においては、レゾルバを用いているため、レゾルバの基準位置と回転子の位置を調整した上で組立を行う必要がある。また、レゾルバは、インバータ側に信号処理を行う回路が必要となる。以上より、従来のモータ制御装置においては、コストを低減しつつ回転子の位置を演算することが求められていた。
【0005】
本発明の目的は、コストを低減しつつ回転子の位置を演算することができるモータ制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係るモータ制御装置は、固定子、及び永久磁石を有する回転子を備えるモータと、モータに指令信号を送信する指令部と、高調波を指令信号に重畳する高調波重畳部と、高調波重畳によって回転子の位置を推定する位置推定部と、モータの回転パルスを検出する回転パルスセンサと、位置推定部で推定された推定位置、及び回転パルスを用いて、回転子の位置を演算する回転子位置演算部と、を備え、指令部は、回転子の初期位置が推定された状態でモータの回転を始動させる始動処理を行い、回転子位置演算部は、位置推定部で推定された回転子の位置と回転パルスに基づく回転子の位置との位相差を演算する位相差演算処理を行い、回転パルスに基づく回転子の位置、及び位相差に基づいて、回転子の位置を演算する回転子位置演算処理を行う。
【0007】
このようなモータ制御装置は、高調波重畳によって回転子の位置を推定する位置推定部と、モータの回転パルスを検出する回転パルスセンサと、を備える。ここで、位置推定部による推定位置のみだと、回転数が高くなってきた場合に対応することができない。また、回転パルスのみでも、センサ歯車の構造上、刻み角度の単位でしか回転子の位置を把握できないため、正確に回転子の位置を演算することができない。これに対し、本発明に係るモータ制御装置は、位置推定部で推定された推定位置、及び回転パルスを用いて、回転子の位置を演算する回転子位置演算部を備える。従って、回転子位置演算部は、回転パルスを用いて回転子位置を行うときに、位置推定部の推定位置も有効に利用した上で、演算を行うことができる。すなわち、モータの回転の始動がなされたら、回転子位置演算部は、位置推定部で推定された回転子の位置と回転パルスに基づく回転子の位置との位相差を演算する位相差演算処理を行う。これにより、刻み角度の範囲内において、回転子の基準位置がどこに存在しているかを把握することが可能となる。従って、回転子位置演算処理において、回転子位置演算部は、回転パルスに基づく回転子の位置に加えて、位相差に基づいて演算することで、正確に回転子位置を演算することができる。以上より、レゾルバのように高価な装置を設けることなく、正確に回転子位置を演算することが可能となる。従って、コストを低減しつつ回転子の位置を演算することができる。
【0008】
始動処理の前段階で、回転子位置演算部は、位置推定部によって推定された回転子の初期位置と、回転パルスセンサの刻み角度との対応関係に基づいて、回転パルスの初期値を演算する初期値演算処理を行ってよい。この場合、回転子位置演算部は、モータの回転始動時に、パルスの初期値を把握した上で、回転子位置の演算を行うことができる。そのため、回転子位置演算部による、回転子位置の演算が行い易くなる。
【0009】
位相差演算処理では、回転子位置演算部は、モータの始動後の回転パルスのカウントごとに、当該回転パルスに基づく回転子の位置と、推定位置との差分を積算し、積算値の平均値から位相差を演算してよい。この場合、回転子位置演算部は、単一のパルスのカウント時の差分だけでなく、カウントごとの差分を総合的に考慮した上で、位相差を演算することができる。従って、センサ歯車の歯ごとの製造誤差によらず、位相差が演算可能となる。
【0010】
回転子位置演算処理では、回転子位置演算部は、パルス間における回転子の微小位置変化量にも基づいて、回転子の位置を演算する回転子位置演算処理を行ってよい。回転パルスのみに基づく回転子の位置は、パルス間の位置変化が不明であるため一定となる(例えば
図8の破線のグラフ参照)。これに対し、回転子位置演算処理において、回転子位置演算部は、回転パルスに基づく回転子の位置に加えて、パルス間における回転子の微小位置変化量に基づくことで、パルス間の位置変化も反映させて、正確に回転子位置を演算することができる。
【0011】
回転子位置演算処理では、回転子位置演算部は、回転パルスのカウントがなされた時点から計測したタイマー値と、角速度とを掛け合わせることで、微小位置変化量を演算してよい。このように、角速度とタイマー値を用いることで、微小位置変化量を容易に演算することが可能となる。
【0012】
回転子位置演算部は、所定回転数以上の場合、回転パルスを用いて回転子の位置を演算し、所定回数未満の場合、位置推定部による推定位置を回転子の位置とするように、切り替えを行ってよい。これにより、モータの回転の始動直後は、位置推定部による推定位置を回転子の位置として採用しつつ、前述の位相差演算処理や回転子位置演算処理などを行うことで、回転パルスを用いた回転子の位置の演算の準備を行うことができる。そして、ある程度回転数が上がった後は、回転パルスを用いることで、高周波重畳による位置推定よりも正確に、回転子の位置を演算することができる。
【0013】
回転子位置演算部は、回転パルスに基づく回転子の位置と、位置推定部による推定位置と、を合成してよい。このように、高調波波重畳による位置推定から、回転パルスを用いた演算に非連続的に切替を行うのではなく、高調波重畳による演算と回転パルスを用いた演算との影響が徐々に変化していくように、連続的な切替を行う事が可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、コストを低減しつつ回転子の位置を演算することができるモータ制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係るモータ制御装置を示す概略構成図である。
【
図2】モータの具体的な構成の一例を示す概略図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係るモータ制御装置によるモータの起動時における制御処理を示すフローチャートである。
【
図5】時間経過に伴うd軸電流の推移、及び推定結果の推移を示すグラフである。
【
図6】誘起電圧と回転パルスの関係を示すグラフである。
【
図7】時間経過に伴う回転パルスカウント値に基づく回転子位置の演算結果の推移と、位置推定部の推定位置の推移と、回転パルスと、の関係を示すグラフである。
【
図8】回転子位置演算部による演算結果の時間の推移を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態に係るモータ制御装置1を示す概略構成図である。本実施形態に係るモータ制御装置1は、モータ2を起動させるときに、レゾルバなどの電気角位置を検出するセンサなどを用いることなく、高性能なモータ制御を行うことができる装置である。モータ制御装置1は、モータ2と、電流指令部3(指令部)と、電圧指令部4(指令部)と、変換部5と、検出部6と、高調波重畳部7と、回転パルスセンサ8と、位置推定部9と、角速度推定部11と、回転パルスカウント部12と、角速度演算部13と、回転パルス回転子位置演算部14と、回転子位置演算部15と、を備える。
【0018】
モータ2は、三相の交流電力によって駆動する電動機である。モータ2は、固定子、及び永久磁石を有する回転子を有しており、回転子を回転させる。モータ2には、当該モータ2の回転パルスを検出する回転パルスセンサ8が設けられている。モータ2の具体的な構成の一例を
図2に示す。
図2に示すように、U相、V相及びW相の固定子22と、回転子20と、を備える。各固定子22は、所定のインダクタンスを有するインダクタンス部23と、所定の抵抗値を有する抵抗部24と、を有する。回転子20は、永久磁石21を有する。各固定子22は、交流電流が流されることで回転子20の周囲に回転磁界を作ることで、回転子20を回転させる。モータ2は、モータ定数として、R(抵抗値)、L(インダクタンス)、K
E(誘起電圧定数)を有する。
【0019】
ここで、モータ2に対しては、回転子20と同期する回転座標系と、固定された固定座標系が設定される。回転座標系では、主磁束方向(永久磁石21のN極方向)をd軸にとり、d軸と直交するq軸をとっている。固定座標系は、互いに直交するα軸及びβ軸を有する。なお、固定座標系のα軸に対して回転座標系のd軸がなす角度をθreとする。
【0020】
図1に示すように、電流指令部3及び電圧指令部4は、変換部5を介してモータ2へ指令信号を送信する指令部として機能する。電流指令部3は、回転数指令を受信し、当該回転数指令に対応する電流指令信号を演算すると共に、当該電流指令信号を電圧指令部4へ送信する。電流指令部3は、例えば速度PI制御を用いて電流指令信号を演算する。電流指令部3は、回転座標系のd軸上の電流の指令値(i
d指令)を演算し、回転座標系のq軸上の電流の指令値(i
q指令)を演算する。
【0021】
電圧指令部4は、電流指令部3からの電流指令信号を受信し、当該電流指令に対応する電圧指令信号を演算すると共に、当該電圧指令信号を変換部5へ送信する。電圧指令部4は、例えば電流PI制御を用いて電圧指令信号を演算する。電圧指令部4は、回転座標系のd軸上の電流の指令値(id指令)及びq軸上の電流の指令値(iq指令)に基づいて、d軸上の電圧の指令値及びq軸上の電圧を演算し、それらを三相のU相、V相及びW相の固定子22のそれぞれに対する電圧の指令値(Vu指令、Vv指令、Vw指令)に変換する。
【0022】
変換部5は、モータ2の固定子22に任意の交流を印加する機器である。変換部5は、電圧指令部4からの電圧の指令値をPWM信号へと変換する。また、変換部5は、PWM信号に基づいてスイッチング動作を行い直流電力を交流電力に変換し、電圧指令部4で演算された電圧指令に相当する電圧を、モータ2に印加する。
【0023】
検出部6は、モータ2に通電する電流を検出する。また、検出部6は、検出した電流を電圧指令部4と位置推定部9へ送信する。
【0024】
高調波重畳部7は、高調波を指令信号に重畳する。高調波重畳部7は、電流指令部3の電流指令信号に対して高調波を重畳する。高調波重畳部7は、所定の周波数、所定の電流値(振幅)に設定された高調波を重畳する。例えば、
図5に示すように、モータ2に対して-50Aのd軸電流を通電するような指令信号がなされているものに対して高調波重畳部7が高調波を重畳した場合、d軸電流は-50Aを基準として振幅するような波形を描く。高調波重畳部7を重畳することで、どのように回転子20の初期位置を推定するかについては、後述する。
【0025】
回転パルスセンサ8は、モータ2の回転パルスを検出するセンサである。具体的には、
図3に示すように、回転パルスセンサ8は、センサ歯車16と、検出部17と、を備える。センサ歯車16は、所定のピッチで設けられた複数の歯18を有する。センサ歯車16は、モータ2の回転子20と同期して回転するため、回転子20と同じ回転速度で回転する。検出部17は、センサ歯車16の回転に伴って発生する回転パルスを検出する機器である。検出部17は、センサ歯車16に対して外周側に離間した位置に配置される。センサ歯車16が回転すると、磁性体であるセンサ歯車16の各歯18が検出部17に対して近づく挙動と離れる挙動を繰り返す。これにより検出部17内の磁路の状態が変化し、検出コイルを貫通する磁束が変化する。具体的に、歯18の接近に伴い磁束が増えて行き、遠ざかるとともに磁束が減って行くという状態を繰り返すことになる。このとき、検出部17内では、ファラデーの電磁誘導の法則で示される誘導起電力を発生することになる。センサ歯車16の回転により検出部17の検出コイルを貫通する磁束が連続的に増減を繰り返すことで、検出コイルに発生する起電力も極性を変えながら増減を繰り返す。検出部17は、このような電力の波形を回転パルスとして検出する。例えば、歯18のエッジ18a,18bのうち、回転方向の前側のエッジ18aで波形が立ち上がり、回転方向の後側のエッジ18bで波形が立ち下がる(
図6の下段側のグラフ参照)。
【0026】
位置推定部9は、モータ2の回転子20の位置を推定する。モータ2の起動時においては、回転子20が回転方向におけるどのような電気角の位置(初期位置)に配置されているかが不明な状態であるため、位置推定部9は、モータ2の回転子20の初期位置を推定する。位置推定部9は、電圧指令部4からモータ2に対する指令信号を取得すると共に、検出部6から検出結果を取得し、それらの情報に基づいて回転子20の初期位置を推定する。d軸に高調波を重畳すれば、q軸上に高調波分の電圧が励起するため、位置推定部9は、当該信号を固定座標系(αβ座標系)で検出することにより、回転子20の位置推定を行う。なお、初期位置推定時にはd軸の位置が不明であるが、位置推定部9は、後述の方法によって、初期位置を推定する。また、位置推定部9は、モータ2の回転が始動した後も、高周波重畳された信号に基づいて、回転子20の位置推定を行う。位置推定部9は、推定した推定位置の情報を回転子位置演算部15へ出力する。
【0027】
角速度推定部11は、モータ2の回転子20の角速度を推定する。角速度推定部11は、位置推定部9によって推定された推定位置に基づいて、角速度を推定する。角速度推定部11は、推定した角速度の情報を回転子位置演算部15へ出力する。
【0028】
回転パルスカウント部12は、回転パルスセンサ8で検出された回転パルスをカウントする。例えば、回転パルスセンサ8が、1回転で32パルスの信号を出力する場合、回転パルスカウント部12は、パルスの立ち上がりと立ち下りでカウントするとして、1回転で64パルスのカウントを行う。モータ2が2極のモータである場合、回転パルスカウント部12のカウントにより、1カウントで「電気角360°/32=11.25°」の刻み角度で、回転子20の相対位置を把握することが可能となる。
図6の下段側に示す回転パルスの例において、角度p1及び角度p2のうち、角度p1が刻み角度に該当する。回転パルスカウント部12は、回転パルスのカウント数の情報を回転パルス回転子位置演算部14へ出力する。
【0029】
角速度演算部13は、モータ2の回転子20の角速度を演算する。角速度演算部13は、回転パルスセンサ8で検出された回転パルスに基づいて、角速度を演算する。角速度演算部13は、演算した角速度の情報を回転パルス回転子位置演算部14へ出力する。
【0030】
回転パルス回転子位置演算部14は、回転パルスカウント部12でカウントされた回転パルスのカウント数を取得して、回転子20の位置を演算する。回転パルス回転子位置演算部14は、演算した回転子位置、及び角速度を回転子位置演算部15へ出力する。
【0031】
回転子位置演算部15は、位置推定部9で推定された推定位置、及び回転パルスを用いて、回転子20の位置を演算する。回転子位置演算部15は、位置推定部9からの推定位置、及び回転パルス回転子位置演算部14からの回転子位置を取得し、それらの情報を用いて演算を行うことによって、回転子20の実回転位置を演算する。なお、回転子位置演算部15が採用した回転子位置を、回転パルス回転子位置演算部14の回転パルス(だけ)に基づいて演算された回転子位置と区別するため、「実回転子位置」と称する場合がある。回転子位置演算部15は、角速度を電流指令部3へ出力する。
【0032】
本実施形態では、回転子位置演算部15は、所定回転数以上の場合、回転パルスに基づいて回転子20の実回転子位置を演算し、所定回数未満の場合、位置推定部9による推定位置を実回転子位置とするように、切り替えを行う。従って、初期状態からモータ2の始動時までは、回転子位置演算部15は、位置推定部9が推定した推定位置を、回転子20の実回転子位置として採用する。また、モータ2の始動直後も、所定回転数未満の間は、回転子位置演算部15は、位置推定部9が推定した推定位置を、回転子20の実回転子位置として採用する。一方、回転子位置演算部15は、所定回転数以上の場合、後述の方法によって、回転パルスに基づいて演算した回転子20の位置を、実回転子位置として採用するように、切り替える。ここで、回転子位置演算部15は、回転パルスに基づいて実回転子位置を演算する前段階において、位置推定部9の推定位置を利用して、回転パルスによる実回転子の演算の精度を上げるための前処理を行う。
【0033】
図4を参照して、本実施形態に係るモータ制御装置1によるモータ2の起動時及び回転始動直後における制御処理について説明する。この制御処理は、モータ2を起動させて、回転子20を実際に回転させる段階において、レゾルバなどのセンサを用いることなく、センサレスで回転子20の実回転子位置を演算するためになされる制御処理である。また、以降の説明では、
図5~
図8を適宜参照しながら説明を行う。
図5は、時間経過に伴うd軸電流の推移、及び推定結果の推移を示すグラフである。
図5の上段側のグラフがd軸電流を示し、下段側のグラフが推定結果を示す。なお、
図5に示す例では、実際の回転子20のN極の電気角が-270°であるものとしている。なお、推定位置のグラフは、直線の組み合わせで示されているが、実際は推定結果の揺らぎや検出値のぶれなどによって変動が生じる箇所もあるが、理解を容易とするためにそれらの変動は省略している。
図6は、誘起電圧と回転パルスの関係を示すグラフである。
図6の上段側のグラフは、位置推定部9が推定に用いる誘起電圧を示すグラフである。
図6の下段側のグラフは、回転パルスを示すグラフである。
図7は、時間経過に伴う回転パルスカウント値に基づく回転子位置の演算結果の推移と、位置推定部9の推定位置の推移と、回転パルスと、の関係を示すグラフである。
図7の上段側のグラフは、時間経過に伴う回転パルスカウント値に基づく回転子位置の演算結果の推移と、位置推定部9の推定位置の推移とを示すグラフである。
図7の下段側のグラフは、回転パルスを示すグラフである。
図8は、回転子位置演算部15による演算結果の時間の推移を示すグラフである。
【0034】
図3に示すように、モータ制御装置1は、位置推定処理S10と、通電処理S60と、初期値演算処理S70と、回転始動処理S80と、位相差演算処理S90と、回転子位置演算処理S110と、切替処理S120と、を実行する。
【0035】
まず、モータ制御装置1は、位置推定処理S10を実行する。位置推定処理S10は、位置推定部9が、高調波を重畳した状態で回転子20の位置を推定する処理である。位置推定処理S10では、位置推定部9は、初期位置仮定処理S20と、判別処理S30と、確定処理S40と、を実行する。
【0036】
モータ制御装置1は、初期位置仮定処理S20を実行する。初期位置仮定処理S20は、位置推定部9が、高調波が重畳された状態で回転子20の初期位置を仮定する処理である。すなわち、位置推定処理S10を開始する時点では、d軸の位置が不明であるため、初期位置を仮定する必要がある。初期位置仮定処理S20では、電流指令部3が指令する電流値は0Aである。高調波重畳部7は、当該電流指令信号に対して高調波を重畳する。従って、
図5の上段のグラフにおいて「S20」で示されるように、d軸電流は、0Aを基準として振幅を行う。この状態で、位置推定部9は、指令信号及び検出部6の検出結果に基づいて、回転子20の初期位置がどこにあるかを仮定する。なお、初期位置仮定処理S20の段階では、回転子20の永久磁石の極性までは不明であるため、N極が0~360°のどの位置に存在するかまでは推定することができず、N極またはS極の何れかが、0~180°のいずれかに存在するかまでしか推定できない。従って、位置推定部9は、0~180°の何れかの位置を把握したら、当該位置がN極の初期位置であると仮定する。
図5の下段に示すグラフでは、N極の位置が120°であると仮定されている。
【0037】
具体的には、初期位置仮定処理S20では、高調波重畳部7は、数θre=0°として高調波の重畳を開始する。これに対し、位置推定部9は、αβ座標系における拡張誘起電圧eα、eβを算出し、検波処理やバンドパスフィルタの処理を行いtan-1(eα/eβ)を随時計算することで、N極の初期位置を仮定することができる。
【0038】
モータ制御装置1は、判別処理S30を実行する。判別処理S30は、位置推定部9が、仮定された初期位置に基づいて、回転子20の磁極を判別する処理である。判別処理S30では、高調波重畳部7は、仮定した初期位置に基づいて、d軸に正・負の電圧パルスを印加する。そして、位置推定部9は、当該電圧パルスによって生じたd軸電流の変化を観察することで、仮定した初期位置における永久磁石21の極性を判別する。具体的に、120°の位置がd軸であるものとしてd軸に対して正・負の電圧パルスを印加する。d軸電流が小さい方がN極であるところ、
図4の下段のグラフでは、負側の方に小さくd軸電流が変動している。従って、位置推定部9は、120°の位置に存在する磁極は、S極であると判別する。
【0039】
モータ制御装置1は、確定処理S40を実行する。確定処理S40は、位置推定部9が、判別処理S30での判別結果に基づいて、位置推定処理S10における初期位置を確定させる処理である。確定処理S40では、位置推定部9は、N極の初期位置を120°と仮定していたものを、180°足して、300°がN極の初期位置であると推定する(
図5の下段のグラフのS40~S60)。そして、高調波重畳部7は、推定されたN極、すなわちd軸(φ=0)を基準として高調波を重畳する。これによって、d軸推定位置を収束させて、初期位置を確定させることができる。以上により、位置推定処理S10が完了する。
【0040】
次に、モータ制御装置1は、通電処理S60を実行する。通電処理S60は、高調波重畳部7によって高調波を重畳した状態で、電流指令部3が、位置推定処理S10の結果に基づいて、所定の値のd軸電流をモータ2に通電する処理である。d軸電流の所定の値は、モータ2の通常停止、すなわち回転数指令を受けたら、速やかに回転子20を回転させることができる状態における電流値である。
図5の上段のグラフでは、d軸電流の所定の値は-50Aに設定されているが、特に限定されない。
【0041】
モータ制御装置1は、初期値演算処理S70を実行する。初期値演算処理S70は、始動処理S80の前段階で、回転子位置演算部15が、位置推定部9によって推定された回転子20の初期位置と、回転パルスセンサ8の刻み角度との対応関係に基づいて、回転パルスの初期値を演算する処理である。例えば、回転子位置演算部15は、推定された初期位置を刻み角度で割った商を回転パルスカウントの初期値として記憶する。例えば、推定された初期位置が68°であり、刻み角度が11.25°であった場合、「初期位置:68°÷ 刻み角度:11.25°=商:6」という演算によって、回転パルスカウントの初期値を「6」として記憶する。これにより、モータ2の回転の始動時において、回転パルスのカウントがどの程度進んでいるかを把握できる。
【0042】
次に、モータ制御装置1は、回転始動処理S80を実行する。回転始動処理S80は、電流指令部3及び電圧指令部4が、回転子20の初期位置が推定された状態でモータ2の回転を始動させる処理である。推定された角速度及び推定位置に基づいて、電流指令部3がid指令、iq指令を生成し、電圧指令部4がVu指令、Vv指令、及びVw指令を生成することで、モータ2の回転を始動させる。
【0043】
次に、モータ制御装置1は、位相差演算処理S90を実行する。位相差演算処理S90は、回転子位置演算部15が、位置推定部9で推定された回転子20の位置と、回転パルス回転子位置演算部14で演算した位置との位相差を演算する処理である。位相差演算処理S90では、回転子位置演算部15は、モータ2の始動後の回転パルスのカウントごとに、当該回転パルスに基づく回転子20の位置と、推定位置との差分を積算し、積算値の平均値から位相差を演算する。
【0044】
ここで、位置推定部9は、位置を連続的に推定できる。一方、回転パルスは、所定の間隔の電気角位置にて立ち上がり、立ち下がりを繰り返す不連続なものであり、回転パルスの立ち上がり位置(または立ち下がり位置)と
図6に示す誘起電圧が正から負に変化する回転子20の基準位置(d軸)とは、同期が取られているわけではないので、推定された位置と、回転パルスに基づく回転子の位置との間には、位相差が生じる。
【0045】
従って、位相差を演算するために、回転子位置演算部15は、回転パルスに基づく回転子20の位置と、推定位置との差分を取得する。具体的には、回転子位置演算部15は、回転パルスのエッジ毎(すなわち、カウント値毎)に、回転パルスに基づく回転子位置の値と推定位置の差分を計算することによって、当該カウント値における位相差を演算する。なお、回転子位置演算部15は、初期値演算処理S70で取得した初期値に対して、回転始動時にカウントした分のカウント値を加算することによって、現在のカウント値を演算できる。具体的には、カウント値が10であって、刻み角度が11.25°である場合、回転子位置演算部15は、「カウント値:10 × 刻み角度:11.25°= 回転パルスに基づく回転子位置:112.5°」という演算によって、回転パルスに基づく回転子位置を取得可能である。この時点における位置推定部9による推定位置が120°であった場合、回転子位置演算部15は、「推定位置:120°-回転パルスに基づく回転子位置:112.5°=位相差:7.5°」という演算によって、「カウント値:10」における位相差が7.5°であると演算できる。
【0046】
ここで、
図7の上段側のグラフに示すように、回転パルスのカウント値から演算される回転子位置は、位置推定部9によって推定された位置推定に対して位相差を持った状態で、そのまま推移する。そのため、横軸の各位置、すなわち各カウント値において、位相差が生じている。
図7の上段側のグラフでは、理解を容易とするために、位相差を大きくデフォルメして示している。なお、回転パルスのカウント値から演算される回転子位置の時間推移を拡大すると、
図8において破線で示すグラフのような形状となる。すなわち、ある回転パルスをカウントした瞬間は、演算結果に係る回転子位置の値が急激に立ち上がり、次の回転パルスをカウントするまでの間は、回転子位置の値は一定となる。
【0047】
ここで、センサ歯車16の歯18の製造誤差などの影響によって、回転パルスもカウント値ごとに僅かなずれが生じる場合もある。そのため、回転子位置演算部15は、一つのカウント値に係る位相差を演算したら、当該値で確定するのではなく、複数のカウント値に対応する位相差を総合的に判断して、位相差を確定する。
【0048】
具体的に、回転子位置演算部15は、各カウント値における位相差を演算すると共に、それらの位相差を積算する。例えば、カウント値の初期値として6を記憶している場合、回転子位置演算部15は、カウント値7~9についても前述と同様の位相差を演算して積算しておく。そして、回転子位置演算部15は、当該積算値に対して、新たにカウント値10の位相差(7.5°)を加算する。同様に、回転子位置演算部15は、カウント値11以降も位相差の演算及び積算を行う。そして、回転子位置演算部15は、規定の回数に係る差分を積算したら、積算値から平均値を求め、当該平均値を回転パルスと位置推定における位置の位相差とする。具体的には、回転子位置演算部15は、位相差の演算を16回行うことで、「…7.5°+7.25°+…=118.4°」という積算値を取得したら、「積算値:118.4° ÷ 回数:16回 = 平均値:7.4°」という演算によって、7.4°を位相差として取得可能である。なお、積算値を求めるための回数は特に限定されない。また、複数の位相差から位相差を確定する方法は積算値から平均値を求める方法に限定されず、他の公知の統計処理によって算出してもよい。また、製造誤差等を無視する場合は、一つのカウント値から演算した値を位相差として確定させてもよい。
【0049】
回転子位置演算処理S110は、回転パルスに基づく回転子20の位置、位相差、及び角速度から演算された回転子20の微小回転量に基づいて、回転子20の位置を演算する処理である。
図8に示すように、回転子位置演算部15は、破線で示される回転パルスに基づく回転子位置の値に対して、二点鎖線で示す位相差の値と、二点鎖線で示す微小回転量と、を加算することによって、実線で示される。実回転子位置を演算する。
【0050】
すなわち、前述のように、回転パルスに基づく回転子位置の値は、推定位置の位置に対して位相差を含んでいる。従って、回転子位置演算部15は、このような位相差を解消するために、回転パルスに基づく回転子位置の値に対して、位相差の値を加算する。なお、位相差の値として、位相差演算処理S90で演算した値が用いられる。
【0051】
また、前述のように、
図8の破線のグラフに示すように、回転パルスに基づく回転子位置は、回転パルスがカウントされるタイミングに基づいて、段階的に増加していく。その一方、実際の回転子20の角度は、時間と共に連続的に変化するものである。従って、回転パルスに基づく回転子位置のうち、パルス間の微小区間(
図8参照)における微小な位置の変化量である微小位置変化量(Δθ)を加算する必要がある。具体的には、回転子位置演算部15は、回転パルスのカウントがなされた時点から計測したタイマー値と、角速度(ω)とを掛け合わせることで、「微小位置変化量Δθ=角速度ω × タイマー値Δt」という演算を行うことにより、微小回転量を取得する。なお、
図8に示すように、破線で示す回転子位置のグラフは、回転パルスをカウントしてから、微小な立ち上がり時間をかけて、値が増加している。そのため、二点鎖線で示す微小位置変化量のグラフは、当該立ち上がり時間に0に戻される。タイマー値Δtは、立ち上がり時間が経過してから、測定がスタートする。
【0052】
切替処理S120は、回転子位置演算部15が、指令部へ出力する実回転子位置として、位置推定部9による推定位置から、回転パルスに基づいて演算した実回転子位置(
図8参照)へ切り替える処理である。例えば、回転子位置演算部15は、所定の回転数(例えば100rpm)未満の状態では、位置推定部9から取得した推定位置を指令部3,4へ出力して、モータ2を回転制御する。これに対し、回転子位置演算部15は、所定の回転数に達したら、回転子位置演算処理S110で演算した実回転子位置、すなわち回転パルスに基づいて演算された実回転子位置を指令部3,4へ出力するように、切替を行う。当該切替が完了したら、位置推定部9による推定位置は用いる必要がなくなるため、回転子位置演算部15は、高調波重畳部7による高調波重畳を停止する。
【0053】
なお、モータ2の減速の場合は、所定の回転数(例えば、400rpm)から、高調波重畳を開始させて、位置推定部9が推定位置を求めるようにして、100rpm以下になった際に、回転パルスを用いた実回転子位置の演算結果から、位置推定部9による推定位置を用いるように切り替えてよい。
【0054】
次に、本発明の実施形態に係るモータ制御装置1の作用・効果について説明する。
【0055】
モータ制御装置1は、高調波重畳によって回転子の位置を推定する位置推定部9と、モータ2の回転パルスを検出する回転パルスセンサ8と、を備える。ここで、位置推定部9による推定位置のみだと、回転数が高くなってきた場合に対応することができない。また、回転パルスのみでも、センサ歯車16の構造上、刻み角度の単位でしか回転子20の位置を把握できないため、正確に回転子20の位置を演算することができない。これに対し、本実施形態に係るモータ制御装置1は、位置推定部9で推定された推定位置、及び回転パルスを用いて、回転子20の位置を演算する回転子位置演算部15を備える。従って、回転子位置演算部15は、回転パルスを用いて回転子位置を行うときに、位置推定部9の推定位置も有効に利用した上で、演算を行うことができる。すなわち、モータ2の回転の始動がなされたら、回転子位置演算部15は、位置推定部9で推定された回転子20の位置と回転パルスに基づく位置との位相差を演算する位相差演算処理S90を行う。これにより、刻み角度の範囲内において、回転子20の基準位置(d軸)がどこに存在しているかを把握することが可能となる。従って、回転子位置演算処理S110において、回転子位置演算部15は、回転パルスに基づく回転子20の位置に加えて、位相差に基づいて演算することで、正確に実回転子位置を演算することができる。以上より、レゾルバのように高価な装置を設けることなく、正確に実回転子位置を演算することが可能となる。従って、コストを低減しつつ回転子の位置を演算することができる。
【0056】
始動処理S80の前段階で、回転子位置演算部15は、位置推定部9によって推定された回転子の初期位置と、回転パルスセンサ8の刻み角度との対応関係に基づいて、回転パルスの初期値を演算する初期値演算処理S70を行ってよい。この場合、回転子位置演算部15は、モータ2の回転始動時に、パルスの初期値を把握した上で、実回転子位置の演算を行うことができる。そのため、回転子位置演算部15による、回転子位置の演算が行い易くなる。
【0057】
位相差演算処理S90では、回転子位置演算部15は、モータの始動後の回転パルスのカウントごとに、当該回転パルスに基づく回転子の位置と、推定位置との差分を積算し、積算値の平均値から位相差を演算してよい。この場合、回転子位置演算部15は、単一のパルスのカウント時の差分だけでなく、カウントごとの差分を総合的に考慮した上で、位相差を演算することができる。従って、センサ歯車16の歯18ごとの製造誤差によらず、位相差が演算可能となる。
【0058】
また、回転パルスのみに基づく回転子20の位置は、パルス間の位置変化が不明であるため一定となる(例えば
図8の破線のグラフ参照)。これに対し、回転子位置演算処理S110において、回転子位置演算部15は、回転パルスに基づく回転子20の位置に加えて、パルス間における回転子の微小位置変化量に基づくことで、パルス間の位置変化も反映させて、正確に実回転子位置を演算することができる。
【0059】
回転子位置演算処理S110では、回転子位置演算部15は、回転パルスのカウントがなされた時点から計測したタイマー値と、角速度とを掛け合わせることで、微小位置変化量を演算してよい。このように、角速度とタイマー値を用いることで、微小位置変化量を容易に演算することが可能となる。
【0060】
回転子位置演算部15は、所定回転数以上の場合、回転パルスを用いて回転子の位置を演算し、所定回数未満の場合、位置推定部による推定位置を回転子の位置とするように、切り替えを行ってよい。これにより、モータ2の回転の始動直後は、位置推定部9による推定位置を回転子の位置として採用しつつ、前述の位相差演算処理S90や回転子位置演算処理S110などを行うことで、回転パルスを用いた回転子の位置の演算の準備を行うことができる。そして、ある程度回転数が上がった後は、回転パルスを用いることで、高周波重畳による位置推定よりも正確に、回転子20の位置を演算することができる。
【0061】
本発明は、上述の実施形態に限定されるものではない。
【0062】
例えば、位置推定処理S10において、処理S20~S40が採用されたがこれらの方法に限定されるものではない。すなわち、他の公知の初期位置推定の方法を位置推定処理S10に対して適用してもよい。
【0063】
また、上述の回転子位置演算部15は、切替処理S120を行っていた。しかし、このような切替に代えて、回転子位置演算部15は、回転パルスに基づく回転子の位置と、位置推定部による推定位置と、を合成してよい。例えば、回転パルスを用いて演算した実回転子位置とモータータパラメータ(R、Lq、Ldなど)から、固定座標系のeα、eβを演算し、高調波信号の信号と合成して、高調波重畳の信号振幅を決めるという方法を採用してもよい。例えば、固定座標系(α-β)における拡張誘起電圧は、以下の式(1)(2)(3)で示される。e
ωreは速度起因の拡張誘起電圧であるが、実回転子位置と対応する項であり、式(4)のように示される。ehは高調波重畳起因の拡張誘起電圧であり、式(5)のように示される。回転子の位置を示すθreは、式(6)で示される。
【数1】
【数2】
【数3】
【数4】
【数5】
e
α:α軸拡張誘起電圧
e
β:β軸拡張誘起電圧
e
d:d軸拡張誘起電圧
e
q:q軸拡張誘起電圧
e
Jθre:回転行列
θre:固定座標系のα軸に対して回転座標系のd軸がなす角度
e
dωre:d軸上の速度起因の拡張誘起電圧
e
qωre:q軸上の速度起因の拡張誘起電圧
e
dh:d軸上の高調波重畳起因の拡張誘起電圧
e
qh:q軸上の高調波重畳起因の拡張誘起電圧
ωre:電気角速度
L
d:d軸インダクタンス
L
q:q軸インダクタンス
R:抵抗
i
d:回転座標系のd軸上の電流
i
q:回転座標系のq軸上の電流
ドット付きのi
q:回転座標系のq軸上の電流時間微分値
K
e:誘起電圧定数
【数6】
【0064】
回転数が上がるに従って、高周波重畳によるeα、eβの振幅よりも、回転パルスに基づく演算結果のeα、eβの振幅が支配的になる。このように、高周波重畳による位置推定から、回転パルスを用いた演算に非連続的に切替を行うのではなく、高調波重畳に演算と回転パルスを用いた演算との影響が徐々に変化していくように、連続的な切替を行う事が可能となる。
【0065】
また、
図1に示すモータ制御装置1の全体構成、及び
図2に示すモータ2の構成は、一例に過ぎず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0066】
1…モータ制御装置、2…モータ、3…電流指令部(指令部)、4…電圧指令部(指令部)、7…高調波重畳部、8…回転パルスセンサ、9…位置推定部、15…回転子位置演算部、20…回転子、21…永久磁石、22…固定子。