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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】二次電池の制御装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/392 20190101AFI20240409BHJP
   G01R 31/389 20190101ALI20240409BHJP
   G01R 31/3828 20190101ALI20240409BHJP
   G01R 31/388 20190101ALI20240409BHJP
   H01M 10/42 20060101ALI20240409BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20240409BHJP
   H01M 10/44 20060101ALI20240409BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
G01R31/392
G01R31/389
G01R31/3828
G01R31/388
H01M10/42 P
H01M10/48 P
H01M10/48 301
H01M10/44 P
H02J7/00 Q
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021023024
(22)【出願日】2021-02-17
(65)【公開番号】P2022125441
(43)【公開日】2022-08-29
【審査請求日】2023-04-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梅本 久
(72)【発明者】
【氏名】山上 雄史
(72)【発明者】
【氏名】吉田 周平
(72)【発明者】
【氏名】内山 正規
【審査官】島田 保
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-299137(JP,A)
【文献】特開2018-190502(JP,A)
【文献】特開2016-48213(JP,A)
【文献】特開2020-34426(JP,A)
【文献】特開2008-241246(JP,A)
【文献】特開2014-157662(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/36-31/396
H01M 10/42
H01M 10/48
H01M 10/44
H02J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電池(10)の劣化の状態を診断する診断部(20)を備える制御装置(1)であって、
上記二次電池は、電極(11、12)及び電解質(13)を含む単電池を複数組み合わせた電池モジュールとして構成されており、
上記診断部は、
交流インピーダンス法による上記二次電池のインピーダンス測定結果から、複数の上記単電池のそれぞれについて、直流抵抗(Rs)と反応抵抗(Rct)とを算出する抵抗算出部(21)と、
算出された上記直流抵抗及び上記反応抵抗に関係する指標値を算出する指標値算出部(22)と、
算出された上記指標値と、上記二次電池の通常劣化時のインピーダンス特性に基づく判定閾値とを比較して、上記二次電池の充放電に伴う特異劣化の発生有無を判定する劣化判定部(23)とを備え
上記指標値算出部において、上記指標値は、算出された複数組の上記直流抵抗及び上記反応抵抗の関係を表す式の傾き又は切片であり、
上記劣化判定部において、
上記判定閾値は、通常劣化時の複数の上記単電池における上記直流抵抗と上記反応抵抗との関係を表す式に基づいて定められる傾き閾値(TH2)又は切片閾値(TH20)であり、
上記傾きが上記傾き閾値以下であるか、又は、上記切片が上記切片閾値以上であるときに、特異劣化の発生有と判定される、二次電池の制御装置。
【請求項2】
二次電池(10)の劣化の状態を診断する診断部(20)を備える制御装置(1)であって、
上記二次電池は、電極(11、12)及び電解質(13)を含む単電池を複数組み合わせた電池モジュールとして構成されており、
上記診断部は、
交流インピーダンス法による上記二次電池のインピーダンス測定結果から、複数の上記単電池のそれぞれについて、直流抵抗(Rs)と反応抵抗(Rct)とを算出する抵抗算出部(21)と、
算出された上記直流抵抗及び上記反応抵抗に関係する指標値を算出する指標値算出部(22)と、
算出された上記指標値と、上記二次電池の通常劣化時のインピーダンス特性に基づく判定閾値とを比較して、上記二次電池の充放電に伴う特異劣化の発生有無を判定する劣化判定部(23)とを備え、
上記指標値算出部において、上記指標値は、算出された複数組の上記直流抵抗及び上記反応抵抗の関係を表す値であり、
上記劣化判定部は、複数の上記単電池に対応する、複数の上記直流抵抗及び複数の上記反応抵抗の少なくとも一方のばらつきが、基準値以上であるときに、劣化判定を許可する、二次電池の制御装置。
【請求項3】
上記劣化判定部は、複数の上記単電池に対応する、複数の上記直流抵抗及び複数の上記反応抵抗の少なくとも一方のばらつきが、基準値以上であるときに、劣化判定を許可する、請求項に記載の二次電池の制御装置。
【請求項4】
上記指標値算出部において、経時的な上記直流抵抗の変化量(ΔRs)又は変化率(ΔRs/Δt)、及び、経時的な上記反応抵抗の変化量(ΔRct)であり、
上記劣化判定部において、
上記判定閾値は、通常劣化時に対する特異劣化時の上記直流抵抗の変化に基づいて定められる第1変化閾値(TH3)、及び、通常劣化時に対する特異劣化時の上記反応抵抗の変化に基づいて定められる第2変化閾値(TH4)であり、
上記直流抵抗の変化量又は変化率が上記第1変化閾値以下であり、かつ、上記直流抵抗の変化量が上記第2変化閾値以下であるときに、特異劣化の発生有と判定される、請求項2又は3に記載の二次電池の制御装置。
【請求項5】
上記劣化判定部は、上記二次電池が無通電の安定状態にあるか、上記二次電池の温度ばらつき又は温度ばらつきの経時的な変化量が、基準値以下であるときに、劣化判定を許可する、請求項4に記載の二次電池の制御装置。
【請求項6】
上記二次電池の充放電を制御する充放電制御部(30)をさらに備えており、
上記劣化判定部にて特異劣化の発生有と判定されたときに、充放電電流を制限する制御を行う、請求項1~5のいずれか1項に記載の二次電池の制御装置。
【請求項7】
上記抵抗算出部において、上記インピーダンス測定結果を取得するために印加される電流は、上記二次電池の容量をCとしたとき、1/10C以上のCレートを有する周波数成分を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の二次電池の制御装置。
【請求項8】
上記抵抗算出部において、上記インピーダンス測定結果は、上記二次電池に複数の周波数成分が重畳されてなる重畳電流を印加したときに、複数の周波数成分ごとに取得される、請求項1~7のいずれか1項に記載の二次電池の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動車両等に搭載される二次電池(例えば、リチウムイオン二次電池)の劣化モードとして、経年による通常劣化とは異なる特異劣化(例えば、ハイレート劣化)が知られている。二次電池の安全性を向上させるために、特異劣化の発生を速やかに検出して、その進行を抑制することが望まれている。
【0003】
ハイレート劣化は、高い入出力値にて充放電動作を行う際に見られる一時的な内部抵抗の上昇であり、電池内部で電解液の偏りが発生することに起因すると考えられている。ハイレート劣化の検出と制御に関して、例えば、特許文献1には、測定装置により測定された二次電池の交流インピーダンスから二次電池の直流抵抗を取得し、二次電池の初期直流抵抗との差を用いて、ハイレート劣化の状態を推定するシステムが開示されている。初期直流抵抗は、予め記憶された温度との対応関係から求められ、ハイレート劣化と判定されると、二次電池の充放電電流を抑制する制御が行われるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-190502号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されるシステムでは、二次電池の複数のインピーダンス成分のうち、直流抵抗の変化をハイレート劣化の進行を示す指標として用いる。具体的には、交流インピーダンスの測定結果の複素インピーダンスプロットにおいて、円弧の始点として表される直流抵抗を求め、初期直流抵抗との差(すなわち、始点のシフト量)をハイレート劣化トリガとして、その大きさが所定の基準値以上であるときに、ハイレート劣化と判定している。
【0006】
上記従来のシステムは、通常の経年による劣化時に直流抵抗の変化がないことを前提としている。ところが、通常劣化時においても、例えば、電極活物質の表面におけるSEI(すなわち、Solid Electrolyte Interphase)被膜の形成に起因して、直流抵抗の増加が見られる場合があることが判明した。その場合には、通常劣化とハイレート劣化とを正確に切り分けることが困難となり、通常劣化が進行している状態であってもハイレート劣化と誤診断するおそれがある。
【0007】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、劣化診断の精度を向上させて、安全性を向上可能な二次電池の制御装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、
二次電池(10)の劣化の状態を診断する診断部(20)を備える制御装置(1)であって、
上記二次電池は、電極(11、12)及び電解質(13)を含む単電池を複数組み合わせた電池モジュールとして構成されており、
上記診断部は、
交流インピーダンス法による上記二次電池のインピーダンス測定結果から、複数の上記単電池のそれぞれについて、直流抵抗(Rs)と反応抵抗(Rct)とを算出する抵抗算出部(21)と、
算出された上記直流抵抗及び上記反応抵抗に関係する指標値を算出する指標値算出部(22)と、
算出された上記指標値と、上記二次電池の通常劣化時のインピーダンス特性に基づく判定閾値とを比較して、上記二次電池の充放電に伴う特異劣化の発生有無を判定する劣化判定部(23)とを備え
上記指標値算出部において、上記指標値は、算出された複数組の上記直流抵抗及び上記反応抵抗の関係を表す式の傾き又は切片であり、
上記劣化判定部において、
上記判定閾値は、通常劣化時の複数の上記単電池における上記直流抵抗と上記反応抵抗との関係を表す式に基づいて定められる傾き閾値(TH2)又は切片閾値(TH20)であり、
上記傾きが上記傾き閾値以下であるか、又は、上記切片が上記切片閾値以上であるときに、特異劣化の発生有と判定される、二次電池の制御装置にある。
本発明の他の態様は、
二次電池(10)の劣化の状態を診断する診断部(20)を備える制御装置(1)であって、
上記二次電池は、電極(11、12)及び電解質(13)を含む単電池を複数組み合わせた電池モジュールとして構成されており、
上記診断部は、
交流インピーダンス法による上記二次電池のインピーダンス測定結果から、複数の上記単電池のそれぞれについて、直流抵抗(Rs)と反応抵抗(Rct)とを算出する抵抗算出部(21)と、
算出された上記直流抵抗及び上記反応抵抗に関係する指標値を算出する指標値算出部(22)と、
算出された上記指標値と、上記二次電池の通常劣化時のインピーダンス特性に基づく判定閾値とを比較して、上記二次電池の充放電に伴う特異劣化の発生有無を判定する劣化判定部(23)とを備え、
上記指標値算出部において、上記指標値は、算出された複数組の上記直流抵抗及び上記反応抵抗の関係を表す値であり、
上記劣化判定部は、複数の上記単電池に対応する、複数の上記直流抵抗及び複数の上記反応抵抗の少なくとも一方のばらつきが、基準値以上であるときに、劣化判定を許可する、二次電池の制御装置にある。
【発明の効果】
【0009】
上記構成の二次電池の制御装置において、診断部は、充放電に伴う特異劣化の発生を、抵抗算出部にて算出された直流抵抗及び反応抵抗に関係する指標値を用いて、診断する。特異劣化時の抵抗増加は、インピーダンス成分のうちの直流抵抗に主に起因しており、反応抵抗は変化しにくい。この関係は、特異劣化時に特有のものであり、通常劣化時における直流抵抗と反応抵抗の関係とは異なっている。この関係を利用し、劣化判定部において、通常劣化時と切り分け可能な判定閾値を予め定めて、指標値算出部にて算出された指標値と比較することにより、特異劣化の発生の有無を判定することが可能になる。
【0010】
上記構成によれば、劣化診断の精度を向上させて、安全性を向上可能な二次電池の制御装置を提供することができる。
なお、特許請求の範囲及び課題を解決する手段に記載した括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであり、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1参考形態1における、二次電池の制御装置の構成を示すブロック図。
図2参考形態1における、二次電池の概略構成を示す図。
図3参考形態1における、二次電池の制御装置の車両への適用例を示す概略構成図。
図4参考形態1における、二次電池の特異劣化時におけるインピーダンス特性の一例を示す複素インピーダンスプロット図。
図5参考形態1における、二次電池の通常劣化時におけるインピーダンス特性の一例を示す複素インピーダンスプロット図。
図6参考形態1における、二次電池の通常劣化時及び特異劣化時における直流抵抗と反応抵抗との関係を示すグラフ図。
図7参考形態1における、制御装置の診断部における診断手順を表すフローチャート図。
図8参考形態1における、制御装置の診断部において二次電池に印加される多重正弦波の電流を示す概念図。
図9】実施形態2における、二次電池の制御装置の構成を示すブロック図。
図10】実施形態2における、二次電池の通常劣化時及び特異劣化時における直流抵抗と反応抵抗との関係を示すグラフ図。
図11】実施形態2における、制御装置の診断部における診断手順を表すフローチャート図。
図12】実施形態2における、二次電池の温度分布による特異劣化時の単電池ごとの直流抵抗と反応抵抗との関係を示すグラフ図。
図13】実施形態3における、二次電池の制御装置の構成を示すブロック図。
図14】実施形態3における、二次電池の通常劣化時及び特異劣化時における直流抵抗と反応抵抗との関係を示すグラフ図。
図15】実施形態3における、制御装置の診断部における診断手順を表すフローチャート図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
参考形態1)
二次電池の制御装置に係る参考形態について、図1図8を用いて説明する。
図1に示すように、本形態の制御装置1は、二次電池10の劣化の状態を診断する診断部20を備えており、診断部20は、抵抗算出部21と、指標値算出部22と、劣化判定部23とを備える。図2に示すように、二次電池10は、電極11、12及び電解質13を含んで構成されている。
【0013】
診断部20において、抵抗算出部21は、交流インピーダンス法による二次電池10のインピーダンス測定結果から直流抵抗Rsと反応抵抗Rctとを算出する。指標値算出部22は、抵抗算出部21にて算出された直流抵抗Rs及び反応抵抗Rctに関係する指標値を算出する。指標値は、例えば、直流抵抗Rsと反応抵抗Rctとの関係や、直流抵抗Rs及び反応抵抗Rctの変化を表す値を採用することができる。
【0014】
劣化判定部23は、指標値算出部22にて算出された指標値と、二次電池10の通常劣化時のインピーダンス特性に基づく判定閾値とを比較して、二次電池10の充放電に伴う特異劣化の発生有無を判定する。特異劣化は、例えば、ハイレート劣化である。判定閾値は、採用される指標値に応じて設定することができる。
【0015】
本形態においては、劣化判定のための指標値の一例として、直流抵抗Rsと反応抵抗Rctとの比率Rs/Rctが用いられる。また、劣化判定部23における判定閾値として、通常劣化時における直流抵抗Rsと反応抵抗Rctとの比率Rs/Rctに基づいて定められる、比率閾値TH1が用いられる。劣化判定部23は、算出された比率Rs/Rctが、比率閾値TH1以上であるときに、特異劣化の発生有と判定することができる。
【0016】
本形態において、制御装置1は、二次電池10の充放電を制御する充放電制御部30を、さらに備える。充放電制御部30は、劣化判定部23にて特異劣化の発生有と判定されたときに、充放電電流を制限する制御を行うことができる。また、制御装置1は、電池状態監視部40及び記憶部50を備えており、通常制御時や診断部20による劣化診断時に利用される。電池状態監視部40は、二次電池10の状態を監視し、記憶部50には、制御装置1による制御のプログラムや制御に必要な特性データ等が記憶されている。
【0017】
以下、本参考形態の二次電池10の制御装置1について、詳述する。
図3に示す車両への適用例において、制御装置1は、二次電池10と共に車両に搭載して用いられる。制御装置1は、診断部20と、充放電制御部30と、電池状態監視部40と、記憶部50とを備える。二次電池10は、例えば、リチウムイオン二次電池であり、電気自動車やハイブリッド車等の電動車両の電源部を構成する。具体的には、二次電池10は、車載用のモータジェネレータ(すなわち、Motor/Generator;以下、MG)と、スイッチ回路部102及びパワーコントロールユニット(すなわち、Power control unit;以下、PCU)を介して接続されており、MG駆動用の電力を供給する一方、回生時の発電電力を回収可能となっている。
【0018】
二次電池10は、複数の単電池(以下、適宜、セルとも称する)101が直列に接続された電池モジュールを構成している。二次電池10には、電流センサS1、電圧センサS2、温度センサS3が設けられ、各センサの検出信号は、随時、電池状態監視部40へ出力されている。電池状態監視部40は、各センサの検出信号を取得する電流値・電圧値取得部41と温度取得部42と、それら取得値に基づいて二次電池10の充電状態又は劣化状態を推定する状態推定部43を備えている。状態推定部43は、二次電池10の電池残量を示す充電率(すなわち、State of Charge;以下、SOC)、及び、二次電池10の劣化量を示す健全度(すなわち、State of Health;以下、SOH)といった状態量を算出する。SOHは、例えば、初期状態の満充電容量に対する劣化時の満充電容量の割合で表される。
【0019】
二次電池10の電池モジュールの構成や各センサの配置は、概念を示すものであり、用途等に応じて任意に設定される。電池モジュールのセル数は、特に制限されず、複数の電池モジュールが並列又は直列に接続されて二次電池10を構成していてもよいし、各センサがセル101ごとに設けられていてもよい。
【0020】
状態推定部43における状態量の推定には、任意の手法を用いることができる。例えば、SOCの推定には、二次電池10の開回路電圧(Open Circuit Voltage;以下、OCV)との関係や、充放電電流の積算値との関係が用いられる。また、SOHの推定には、電池状態や使用環境を表す積算電流量や温度との関係が用いられる。具体的には、これらの関係を表す特性データを予め取得して、マップ値や関係式として記憶部50に記憶しておき、各センサによる取得値に基づいて、SOCやSOHを推定することができる。
【0021】
二次電池10とPCUとの間には、スイッチ回路部102が介設されている。スイッチ回路部102は、MGの駆動(放電)又は発電(充電)時にオンとなる充電スイッチや、発電(充電)時にオンとなる放電スイッチを含む。PCUは、二次電池10の直流電力を交流電力に変換するインバータや昇降圧用のコンバータ等を含む電力変換装置として構成されている。充放電制御部30は、スイッチ回路部102の充放電用スイッチの開閉と、PCUの動作を制御し、電池状態監視部40によって推定されるSOCやSOHに応じて、二次電池10の充電電力又は放電電力が許容範囲となるように、スイッチ回路部102及びPCUへ制御信号を出力する。
【0022】
図2に模式的に示すように、二次電池10を構成する複数のセル101は、それぞれ、電極である正極11及び負極12と、電解質である電解液13と、電極間に配置されるセパレータ14とを備える、公知の構成とすることができる。正極11は、正極活物質として、例えば、Ni、Co、Fe、Mn等の遷移金属とリチウムとを含有するリチウム複合酸化物を含み、負極12は、負極活物質として、例えば、黒鉛等の炭素系材料を含む。電解液13としては、例えば、エチレンカーボネート等の溶媒にリチウム塩が溶解された非水電解液が用いられる。セパレータ14は、正極11と負極12とを電気的に絶縁可能な多孔膜からなる。
【0023】
二次電池10の複数のセル101は、それぞれケース15内に収容され、ケース外部に取り出される正極端子及び負極端子によって、外部回路と電気的に接続される。ケース内において、正極端子は、各セル101の正極11と一体的に設けられる正極集電体11aの一端に接続し、負極端子は、負極12と一体的に設けられる負極集電体12aの一端に接続される。正極集電体11a及び負極集電体12aは、例えば、金属箔等からなる。
【0024】
二次電池10の充電時には、正極11に含まれるリチウムが電解液13に溶解し、リチウムイオンが電解液13中を移動して、負極12へ挿入され負極活物質内に保持される。一方、放電時には、負極12からリチウムイオンが脱離し、電解液13中を移動して、正極11へ挿入され正極活物質内に保持される。二次電池10の劣化モードには、経年による充放電の繰り返しによって内部抵抗が増加する通常劣化と、特異劣化とがある。
【0025】
通常劣化は、電極構造の変化や電解液13の分解等に起因する、不可逆的な劣化であり、経時的に劣化が進行する。これに対して、特異劣化は、一時的な内部抵抗の増加を示す可逆的な劣化であり、劣化状態からの回復が可能である。特異劣化の一例であるハイレート劣化は、高い入力値での充電動作又は高い出力値での放電動作が、いずれかに偏って行われる際に生じる現象であり、電解液13中にリチウムイオン濃度分布が生じることに起因して内部抵抗が増加する。充放電動作が停止されると、時間経過と共に電解液13の偏りが緩和され、ハイレート劣化状態も解消する。ハイレート劣化が進むと、例えば、負極12におけるリチウム析出等のおそれがあり、ハイレート劣化を速やかに検出して、ハイレート劣化の進行を抑制する制御を行うことが望ましい。
【0026】
図3において、制御装置1は、このような劣化の状態を診断する診断部20を備え、劣化の状態に応じて、二次電池10を安全に使用できるように充放電を適切に制御する。具体的には、診断部20は、インピーダンス計測により得られる直流抵抗と反応抵抗との関係が、劣化の状態によって異なることを利用して、特異劣化であるハイレート劣化の進行を、通常劣化と区別して診断する。そのために、診断部20は、抵抗算出部21と、指標値算出部22と、劣化判定部23とを備えており、後述する制御フロー(例えば、図7参照)に基づく診断を行うことができる。
【0027】
図4は、ハイレート劣化時の交流インピーダンス測定結果を、実数成分Zreを横軸とし虚数成分Zimを縦軸とする複素インピーダンスプロット(Cole-Coleプロット)として、初期状態と比較して表したものである。内部インピーダンスの抵抗成分は、原点から実数軸との交点までの大きさで表される直流抵抗Rsと、交点を始点とする円弧部の大きさで表される反応抵抗Rctとを含む。直流抵抗Rsは、充放電中の電解液13の抵抗の変化を反映し、反応抵抗Rctは、電解液13と電極活物質との界面における反応に伴う抵抗を含む。図示されるように、初期状態からの経年による劣化がないとき、ハイレート劣化による抵抗増加は、これら抵抗成分のうち直流抵抗Rsの増加として表れ、反応抵抗Rctの増加は見られない。
【0028】
これに対して、図5に示されるように、通常劣化時の複素インピーダンスプロットにおいては、初期状態と比較して、反応抵抗Rctの増加がより大きくなっており、直流抵抗Rsの増加は相対的に小さい。直流抵抗Rsの増加が見られるのは、経年によって、電極活物質表面のSEI(すなわち、Solid Electrolyte Interphase)被膜が成長すると、SEI被膜にリチウムイオンが出入りする際の膨張・収縮に伴う体積変化で、電解液13の偏りが生じやすくなることが要因の一つと推測される。
【0029】
このとき、図6に示すように、直流抵抗Rsと反応抵抗Rctとの関係は、劣化状態によって変化する。すなわち、通常劣化時の直流抵抗Rsと反応抵抗Rctとの関係は、略直線的に変化し(例えば、図中に破線で示す)、時間経過と共に、直流抵抗Rsと反応抵抗Rctとが増加する。これに対して、ハイレート劣化時には、初期状態からハイレート劣化が生じたときには、直流抵抗Rsのみが増加する。つまり、通常劣化時の特性線が、直流抵抗Rsが増加する側へシフトするように変化する(例えば、図中に点線で示す)。
【0030】
そこで、これらの関係を表す指標値を用いることにより、通常劣化とハイレート劣化とを切り分け可能となる。例えば、ハイレート劣化時には、反応抵抗Rctの増加に対する直流抵抗Rsの増加が大きくなるので、指標値として、直流抵抗Rsと反応抵抗Rctとの比率Rs/Rctを用いることができる。あるいは、図中に示すように、ハイレート劣化時の直流抵抗Rsと反応抵抗Rctとの関係を、原点を通る直線で表したときの傾きが、通常劣化時の特性線の傾きに対して増加するので、この傾きの値を指標値とすることもできる。
【0031】
なお、図6に示す初期状態とは、例えば、二次電池10の工場出荷時の状態であり、劣化状態とは、初期状態の二次電池10がある程度使用されて抵抗変化が生じた状態とすることができる。また、図6に破線又は点線で示した特性線は、直流抵抗Rsと反応抵抗Rctとの関係を簡略に示したもので、劣化による直流抵抗Rsと反応抵抗Rctの関係が、必ずしも図示のように直線的に変化することを示すものではない。
【0032】
診断部20において、抵抗算出部21は、複数の計測周波数におけるインピーダンス(例えば、少なくとも2点ないしそれ以上)の算出結果に基づいて、直流抵抗Rsと反応抵抗Rctとを算出する。指標値算出部22は、これらの関係を表す指標値として、直流抵抗Rsと反応抵抗Rctとの比率Rs/Rctを算出する。劣化判定部23は、図4図6に示される関係に基づいて、ハイレート劣化時と通常劣化時とを区別可能な比率閾値TH1を予め設定し、算出された指標値と比較する。
【0033】
具体的には、抵抗算出部21は、重畳電流印加部211と、インピーダンス測定部212と、直流抵抗算出部213と、反応抵抗算出部214とを有する。重畳電流印加部211は、複数の周波数成分が重畳されてなる重畳電流を、二次電池10に印加する。重畳電流を用いることにより、複数の周波数の電流を印加したときの電池電圧をまとめて取得することができる。
【0034】
好適には、重畳電流として、図8に示す多重正弦波を採用することができる。重畳電流としては、矩形波、鋸波及び三角波を用いることもできるが、重畳周波数としての基本周波数に対する高調波は、次数が高まるごとに電流値が大幅に低減するのに対し、多重正弦波では低減しないため、高い測定精度を維持できる。多重正弦波において、重畳する周波数は特に限定されず、直流抵抗Rs及び反応抵抗Rctに対応する周波数領域において、任意に設定することができる。
【0035】
抵抗算出部21において、電流供給部の構成は限定されず、複数の計測周波数又はそれらを重畳した重畳電流は、例えば、車載用のPCUを構成する電力変換装置を利用して生成することができる。このようにすると、抵抗算出用の重畳電流の生成部を含むインピーダンス測定装置を、別途設ける必要がなく、大電流の重畳電流を生成することができるので、車載用の二次電池10のオンボード診断に適した装置構成とすることができる。あるいは、図示しない車載用の充電装置又は外部に設けられる充電装置に、重畳電流の生成部を配置する構成とすることもできる。
【0036】
インピーダンス測定部212は、重畳電流印加部211によって二次電池10に印加される重畳電流の電流値を取得し、二次電池10に重畳電流が印加されたときの電池電圧を取得して、離散フーリエ変換を用いて、複数の周波数成分ごとのインピーダンスを算出する。重畳電流印加時の電流値と電池電圧は、電流センサS1及び電圧センサS2の検出値を用いることができ、離散フーリエ変換としては、高速離散フーリエ変換(FFT)を採用することができる。
【0037】
直流抵抗算出部213及び反応抵抗算出部214は、周波数成分ごとのインピーダンスに基づく複素インピーダンスプロットから、直流抵抗Rs及び反応抵抗Rctを算出する。具体的には、図4に示したように、実数軸と円弧部との交点の値を、直流抵抗Rsとして取得し、交点を始点とする円弧部の大きさを、反応抵抗Rctとして取得する。
【0038】
指標値算出部22は、これら取得値の関係を表す指標値として、直流抵抗Rsと反応抵抗Rctとの比率Rs/Rctを算出する。劣化判定部23は、得られた比率Rs/Rctと予め設定した比率閾値TH1とを比較することにより、ハイレート劣化の発生の有無を判定することができる。
【0039】
次に、図7を用いて、本形態の制御装置1の診断部20にて実施される、二次電池10の劣化診断の制御フローについて説明する。まず、ステップS101において、抵抗算出部21の重畳電流印加部211により、二次電池10に、複数の周波数成分が重畳された重畳電流を印加する。重畳電流の波形は、多重正弦波とすることができ、各重畳成分の電流値を維持して、測定精度の低下を防止することができる。
【0040】
印加電流は、診断対象の二次電池10の容量をCとしたとき、1/10C以上のCレートを有する周波数成分を含むことが望ましい。これは、印加電流を0~5/10Cレートの範囲で変更したときの測定バラツキを、従来のインピーダンス測定装置における測定バラツキと比較した試験結果に基づくものであり、1/10C以上のCレートで従来と同等以上の測定精度が得られる。好適には、印加される重畳電流が、2/10C以上のCレートを有する周波数成分を含むことが望ましく、測定精度をより向上することができる。また、複数の周波数成分は、直流抵抗Rsと反応抵抗Rctの算出に必要な周波数領域を含むように設定され、最高周波数に対する最低周波数の比が50以上であることが望ましい。
【0041】
次いで、ステップS102において、インピーダンス測定部212により、複数の周波数の電流を印加したときの電池電圧を取得し、複素インピーダンスプロットから、インピーダンスを算出する。具体的には、電池状態監視部40によって取得される電流値及び電圧値を周波数成分で分離して、それぞれを複素ベクトルI(ω)、V(ω)として取得し、下記の式1、式2に基づいて、複素インピーダンスプロットを作成する。
(式1)Z=|I(ω)|/|V(ω)|、及びcosθ=I・V/|I||V|
(式2)Zre=Zcosθ、及びZim=Zsinθ
【0042】
さらに、ステップS103において、直流抵抗算出部213及び反応抵抗算出部214により、複素インピーダンスプロットから、直流抵抗Rs及び反応抵抗Rctを算出する。その後、ステップS104において、これらの比率Rs/Rctを算出する。
【0043】
そして、ステップS105において、劣化判定部23により、算出された比率Rs/Rctが比率閾値TH1以上であるか否か(すなわち、Rs/Rct≧TH1?)に基づいて、ハイレート劣化の有無を判定する。比率閾値TH1は、ハイレート劣化時の比率Rs/Rctの取り得る値以下であり、通常劣化時の比率Rs/Rctの取り得る値よりも大きい値となるように、適宜設定される。例えば、ハイレート劣化時の比率Rs/Rctの最小値と、通常劣化時の比率Rs/Rctの最大値とから、これらの間の値となるように設定することができる。
【0044】
ここで、表1に、通常のサイクル試験及び保存試験を行って得られた、通常劣化時の直流抵抗Rs、反応抵抗Rct及び比率Rs/Rctの算出値の一例を示す。また、表2に、ハイレート劣化試験を行って得られた、ハイレート劣化時の直流抵抗Rs、反応抵抗Rct及び比率Rs/Rctの算出値の一例を示す。ハイレート劣化試験は、充電電流あるいは放電電流のいずれか一方が大きくなるように設定された充放電試験である。インピーダンス測定は、各劣化試験の初期から寿命末期までの間に定期的に実施され、各算出値の変化を、表1、表2に比較して示した。なお、表1、表2は、25℃、SOC50%における値である。
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
【0047】
表1、表2から、通常劣化時とハイレート劣化時のいずれも、初期状態から劣化が進行するのに伴い、直流抵抗Rs及び反応抵抗Rctが増加している。このうち、反応抵抗Rctについては、通常劣化時とハイレート劣化時とで差異がないのに対して、直流抵抗Rsについては、ハイレート劣化時の値が、同等の経時的な劣化状態にある通常劣化時の値よりも大きくなっている。そのため、ハイレート劣化時の比率Rs/Rctは、2.15~2.23の範囲となり、通常劣化時の比率Rs/Rctの範囲である1.95~2.09よりも大きい。
【0048】
この結果から、比率閾値TH1を、ハイレート劣化時の比率Rs/Rctの範囲以下で、通常劣化時の比率Rs/Rctの範囲よりも大きい値、好適には、それらの範囲の間の値(例えば、2.10)に設定することができる。これにより、比率閾値TH1は、ハイレート劣化時の比率Rs/Rctの最小値よりも小さく、通常劣化時の比率Rs/Rctの最大値よりも大きい値となり、ハイレート劣化を、通常劣化と切り分けて正確に検出できる。
【0049】
また、比率閾値TH1は、電池状態監視部40にて監視される電池状態を考慮して、設定値が変更されるようにしてもよい。指標値である比率Rs/Rctは、例えば、温度等の周辺環境の変化や、SOC又はSOH等の状態量の変化の影響を受けるので、これらの1つ以上をパラメータとして比率閾値TH1を定めることによって、指標値の算出における誤差を低減することができる。
【0050】
具体的には、SOC及びSOHが同等である場合には、温度が高いほど比率Rs/Rctは大きくなる。そこで、予め試験を行って各温度における比率Rs/Rctの範囲を求めて、温度ごとの比率閾値マップ等を作成しておき、温度取得部42によって取得される温度に応じて、比率閾値TH1を設定するようにすればよい。また、温度及びSOHが同等である場合には、低SOC(例えば、10%以下)又は高SOC(例えば、90%以上)において、比率Rs/Rctは小さくなる。その場合も同様にしてマップ等を作成しておき、状態推定部43にて推定されるSOCに応じて、比率閾値TH1を設定するようにすることができる。
【0051】
ステップS105が肯定判定されたときには、ステップS106において、ハイレート劣化の判定フラグをオンとし、ステップS108へ進む。ステップS105が否定判定されたときには、ステップS107において、ハイレート劣化の判定フラグをオフとして、ステップS108へ進む。ステップS108では、ハイレート劣化の判定フラグがオンか否かを判定し(すなわち、ハイレート劣化判定オン?)、肯定判定されたときには、ステップS109へ進む。ステップS108が否定判定されたときには、そのまま制御フローを終了する。
【0052】
ステップS109に進んだ場合は、ハイレート劣化判定がオン状態であり、ハイレート劣化有と判断されるので、入出力制限を実施する。具体的には、充放電制御部30によって入出力電流の上限値が制限されるように充放電動作を制御することにより、ハイレート劣化の進行を抑制することができる。その後、この制御フローを終了する。
【0053】
以上のごとく、本形態の制御装置1によれば、二次電池10のハイレート劣化の有無を、直流抵抗Rsと反応抵抗Rctとの関係を表す指標値と判定閾値を用いて、通常劣化と切り分けて正確に診断することができる。そして、ハイレート劣化が検出されたときに充放電制御を行うことにより、安全性を向上させることができる。また、インピーダンス測定に重畳電流を用いることにより、複数の周波数の電流を順次印加する場合に比べて、診断速度の高速化を図ると共に、劣化診断のための構成を簡易にすることができる。
【0054】
本形態の指標値である比率Rs/Rctと判定閾値である比率閾値TH1を用いる手法は、二次電池10の全体としてのハイレート劣化診断のみならず、電池モジュールを構成する各セルや、複数の電池モジュールを含む場合には電池モジュール単位でのハイレート劣化診断にも利用することができる。いずれの場合も、診断対象となる単位ごとに電池電流及び電池電圧を取得してインピーダンスを求め、指標値を算出することにより、同様にして精度よいハイレート劣化診断を行うことができる。
【0055】
(実施形態2)
次に、二次電池10の制御装置1の実施形態2について、図9図12を用いて説明する。図9に示す本形態の制御装置1は、参考形態1と同様に、診断部20と、充放電制御部30と、電池状態監視部40と、記憶部50とを有し、診断部20は、抵抗算出部21と、指標値算出部22と、劣化判定部23とを備える。二次電池10と共に制御装置1を車両に搭載したシステムの基本構成は、上記参考形態1と同様であり、図示を省略する。以下、相違点を中心に説明する。
なお、実施形態2以降において用いた符号のうち、既出の実施形態、参考形態において用いた符号と同一のものは、特に示さない限り、既出の実施形態、参考形態におけるものと同様の構成要素等を表す。
【0056】
本形態において、二次電池10の構成は上記参考形態1と同様であり、正負電極11、12及び電解液13を含むセル101を複数組み合わせた電池モジュールとして構成されている。診断部20は、二次電池10を構成する複数のセル101について、それぞれインピーダンスを取得して比較することにより、ハイレート劣化の有無を判定する。抵抗算出部21は、重畳電流印加部211と、インピーダンス測定部212と、直流抵抗算出部213と、反応抵抗算出部214とを有し、複数のセル101のそれぞれについて、上記参考形態1と同様にして、直流抵抗Rsと反応抵抗Rctとを算出する。
【0057】
指標値算出部22は、直流抵抗Rsと反応抵抗Rctとの関係を表す指標値として、複数のセル101のそれぞれについて算出された、複数組の直流抵抗Rs及び反応抵抗Rctの関係を表す値を用いる。具体的には、複数組の直流抵抗Rs及び反応抵抗Rctの関係を表す式の傾き又は切片を用いることができる。劣化判定部23において、指標値に対応する判定閾値は、通常劣化時の複数のセル101における直流抵抗Rsと反応抵抗Rctとの関係を表す式に基づいて定められる。指標値が式の傾きであるときには、傾き閾値TH2が用いられ、切片であるときには、切片閾値TH20が用いられる。劣化判定部23において、式の傾きが傾き閾値TH2以下であるか、又は、切片が切片閾値TH20以上であるときに、特異劣化の発生有と判定される。
【0058】
図10に示すように、二次電池10を構成する複数のセル101の劣化状態が異なり、インピーダンス特性のばらつきが生じることがある。これは、セル数が多くなると、電池パック内の配置等によって複数のセル101に温度分布が生じることに起因するもので、温度が低くなるほどハイレート劣化が進行しやすくなる。これに対して、通常劣化は、温度が高い方が生じやすくなる。
【0059】
図10は、反応抵抗Rctを横軸とし直流抵抗Rsを縦軸とする座標平面に、各セル101に対応する直流抵抗Rsと反応抵抗Rctとの組み合わせを一組の座標(Rct,Rs)としてプロットしたもので、セル101の劣化状態に応じたばらつきを生じる。すなわち、低温となる頻度が多いセル101では、通常劣化の度合いは小さくなる一方、ハイレート劣化の度合いは大きくなる。これに対して、低温となる頻度が少ないセル(すなわち、高温となる頻度が多いセル)101では、通常劣化の度合いが大きくなる一方、ハイレート劣化の度合いは小さくなる。このとき、複数組の座標は、図中に示す通常劣化時の特性線からハイレート劣化の特性線へ向けて、負の傾きを有する略直線上に並ぶ。
【0060】
そこで、これら複数のセル101に対応する複数組の座標から、直流抵抗Rsと反応抵抗Rctとの関係を表す式を、例えば、最小二乗法を用いて近似した一次式として求め、その傾きa又は切片bを用いて、複数のセル101の一部にハイレート劣化が生じている状態を検出することができる。指標値算出部22は、例えば、一次式の傾きaを指標値とし、劣化判定部23において、指標値に対応する傾き閾値TH2を用いて、ハイレート劣化を判定することができる。
【0061】
次に、図11を用いて、本形態の制御装置1の診断部20にて実施される制御フローについて説明する。ステップS201~S203は、上記参考形態1におけるステップS101~S103と同様にして実施される。まず、ステップS201において、抵抗算出部21の重畳電流印加部211により、二次電池10に、複数の周波数成分が重畳された重畳電流が印加される。重畳電流の波形は、多重正弦波とすることができる。次いで、ステップS202において、インピーダンス測定部212により、重畳電流が印加されたときの電池電圧をセル101ごとに取得し、複素インピーダンスプロットから、セル101ごとのインピーダンスを算出する。
【0062】
さらに、ステップS203において、直流抵抗算出部213及び反応抵抗算出部214により、複素インピーダンスプロットから、セル101ごとに直流抵抗Rs及び反応抵抗Rctを算出する。続いて、ステップS204において、算出された複数の直流抵抗Rsのばらつき又は複数の反応抵抗Rctのばらつきが、基準値以上であるか否かを判定する。
【0063】
図10に示したように、複数のセル101の劣化状態のばらつきが大きいほど、通常劣化時の特性線からハイレート劣化時の特性線へ向けて直線的に座標がプロットされる。ハイレート劣化が生じていない場合には、通常劣化時の特性線に沿うように座標がプロットされる。複数のセル101のインピーダンスから、それらの関係を表す式を算出するには、インピーダンスがある程度のばらつきを持つことが望ましい。そこで、指標値の算出に先立って、直流抵抗Rsのばらつき又は反応抵抗Rctのばらつきが、関係式の算出に適した状態にあるか否かを、基準値を用いて判定する。
【0064】
ステップS204において、基準値は任意に設定することができる。例えば、電池パック内の温度分布から、反応抵抗Rctのばらつきが5%である状態を基準とし、基準値である5%以上であるとき、関係式の算出に適した状態にあるとすることができる。ステップS204が肯定判定されたときには、ステップS205へ進み、否定判定されたときには、そのまま制御フローを終了する。
【0065】
ステップS205では、セル101ごとに得られた直流抵抗Rs及び反応抵抗Rctの組み合わせから、指標値算出部22により、指標値となる関係式の傾きを算出する。具体的には、算出直流抵抗Rsを縦軸とし反応抵抗Rctを横軸として、セル数に対応する複数組の座標をプロットし、最小二乗法を用いて一次式に近似することにより傾きを算出する。続いて、ステップS206において、劣化判定部23により、算出された傾きが、傾き閾値TH2以下であるか否か(すなわち、傾き≦TH2?)に基づいて、ハイレート劣化の有無を判定する。
【0066】
図12は、温度分布によるハイレート劣化が生じた二次電池10について、インピーダンス測定により得られた複数のセル101の直流抵抗Rsと反応抵抗Rctの関係を、一例として示したものである。表3には、各セルの直流抵抗Rs及び反応抵抗Rctと、それらの比率Rs/Rctを示しており、それらの関係から得られる一次式の傾き、切片を、以下に示す。
傾き=-0.26
切片=1.32
【0067】
【表3】
【0068】
図12、表3から、高温側のセル101ほど、反応抵抗Rctが大きくなり、通常劣化時の特性線に近づく。これに対して、低温側のセル101ほど、反応抵抗Rctが小さくなると共に、直流抵抗Rsが大きくなる側へシフトする。これら複数の直流抵抗Rs及び反応抵抗Rctの組み合わせから得られる式の傾きは、負の値(すなわち、<0)となる。したがって、傾き閾値TH2を0又は0よりも小さい値に設定すれば、二次電池10の少なくとも一部にハイレート劣化が生じていると判定することができる。
【0069】
このように、二次電池10を構成する複数のセル101のインピーダンスを比較することにより、一定の傾き閾値TH2を用いて、ハイレート劣化の有無を精度よく判定することができる。この場合には、通常劣化による直流抵抗Rs及び反応抵抗Rctの変化分を考慮する必要がないので、ハイレート劣化の検出精度がより向上する。また、表3において、セル101ごとに得られた比率Rs/Rctは、低温側すなわちハイレート劣化が進行するほど、大きな値となっており、複数のセル101の比率Rs/Rctを比較することにより、通常劣化又はハイレート劣化の度合いを判断することができる。
【0070】
なお、図12、表3に基づいて、切片閾値TH20を設定し、切片の算出値に基づいて、ハイレート劣化の判定を行うようにしてもよい。その場合には、通常劣化の度合いによって、複数のセル101の関係を示す式がシフトし、切片の値が変化するので、例えば、切片閾値TH20を、反応抵抗Rctの最大値に応じて設定することにより、検出誤差を低減することができる。
【0071】
ステップS206が肯定判定されたときには、ステップS206において、ハイレート劣化の判定フラグをオンとし、ステップS209へ進む。ステップS206が否定判定されたときには、ステップS208において、ハイレート劣化の判定フラグをオフとして、ステップS209へ進む。ステップS209では、ハイレート劣化の判定フラグがオンか否かを判定し(すなわち、ハイレート劣化判定オン?)、肯定判定されたときには、ステップS210へ進む。ステップS209が否定判定されたときには、診断を終了する。
【0072】
ステップS210に進んだ場合は、ハイレート劣化の進行を抑制するために、充放電制御部30によって入出力電流の制限を実施する。その後、この制御フローを終了する。
【0073】
以上のごとく、本形態の制御装置1によれば、二次電池10の複数のセル101について、複数組の直流抵抗Rsと反応抵抗Rctとの関係を表す指標値と判定閾値を用いて、ハイレート劣化の有無を正確に診断することができる。その際には、インピーダンス測定に重畳電流を用いることにより、診断速度の高速化を図り、直流抵抗Rs又は反応抵抗Rctのばらつきに基づいて、ハイレート劣化の診断に適した状態にあることを条件とすることにより、検出精度をより向上させることができる。そして、ハイレート劣化の検出結果を充放電制御に反映させることにより、安全性を向上させることができる。
【0074】
(実施形態3)
次に、二次電池10の制御装置1の実施形態3について、図13図15を用いて説明する。図13に示す本形態の制御装置1は、参考形態1と同様に、診断部20と、充放電制御部30と、電池状態監視部40と、記憶部50とを有し、診断部20は、抵抗算出部21と、指標値算出部22と、劣化判定部23とを備える。二次電池10と共に制御装置1を車両に搭載したシステムの基本構成は、参考形態1と同様であり、図示を省略する。以下、相違点を中心に説明する。
【0075】
本形態において、二次電池10の構成は上記参考形態1と同様であり、正負電極11、12及び電解液13を含むセル101を複数組み合わせた電池モジュールとして構成されている。診断部20は、二次電池10又は二次電池10を構成する複数のセル101について、直流抵抗Rs及び反応抵抗Rctの変化を表す指標値を用いて、ハイレート劣化の有無を判定する。抵抗算出部21は、重畳電流印加部211と、インピーダンス測定部212と、直流抵抗算出部213と、反応抵抗算出部214とを有し、参考形態1と同様にして、二次電池10の直流抵抗Rsと反応抵抗Rctとを算出する。
【0076】
指標値算出部22は、直流抵抗Rs及び反応抵抗Rctの変化を表す指標値として、経時的な直流抵抗Rsの変化量ΔRs又は変化率ΔRs/Δt、及び、経時的な反応抵抗Rctの変化量ΔRctを用いる。劣化判定部23において、指標値に対応する判定閾値は、通常劣化時に対する特異劣化時の直流抵抗Rsの変化に基づいて定められる第1変化閾値TH3と、及び、通常劣化時に対する特異劣化時の反応抵抗Rctの変化に基づいて定められる第2変化閾値TH4とすることができる。
【0077】
劣化判定部23は、直流抵抗Rsの変化量ΔRs又は変化率ΔRs/Δtが、第1変化閾値TH3以下であり、かつ、反応抵抗Rctの変化量ΔRctが、第2変化閾値TH4以下であるときに、特異劣化の発生有と判定することができる。
【0078】
図14に示すように、初期状態から劣化が進行しているときに、ハイレート劣化が生じると、通常劣化時の特性線に対して、一時的に直流抵抗Rsが上昇する。その後、充放電が休止されると、ハイレート状態が徐々に解消され、直流抵抗Rsが減少する。直流抵抗Rsのうちハイレート劣化による上昇分が減少すると、通常劣化時の特性線上に戻る。これに対して、通常劣化時には、休止による抵抗変化は見られない。つまり、休止時におけるインピーダンスの変化を監視して、反応抵抗Rctが変化しないか変化が小さいときに、直流抵抗Rsの減少が見られた場合には、ハイレート劣化が生じていたものと判定することができる。
【0079】
そこで、経時的な直流抵抗Rsの変化を表す値として、直流抵抗Rsの変化量ΔRs、又は、単位時間当たりの変化量ΔRsである変化率ΔRs/Δtを用い、予め設定された第1変化閾値TH3と比較する。さらに、経時的な反応抵抗Rcの変化を表す値として、反応抵抗Rcの変化量ΔRctを用い、予め設定された第2変化閾値TH4と比較する。第1変化閾値TH3、第2変化閾値TH4は、図14に示される関係に基づいて、ハイレート劣化時と通常劣化時とを区別可能となるように設定されていればよく、これら両方の比較結果から、ハイレート劣化の有無を判定することができる。
【0080】
具体的には、ハイレート劣化状態が解消されて通常劣化状態へ移行する場合には、直流抵抗Rsが減少して変化量ΔRsが負の値となるので、第1変化閾値TH3も負の値となり(TH3<0)、測定ばらつき等を考慮して、直流抵抗Rsの減少を確実に判断可能な値となるように、適宜設定される。また、その場合には、反応抵抗Rcの変化はほとんどないので、第2変化閾値TH4は、自己放電等を考慮して、反応抵抗Rcの変化量ΔRctが十分小さいと判断可能な範囲(例えば、5%以内)となるように、適宜設定することができる。
【0081】
次に、図15を用いて、本形態の制御装置1の診断部20にて実施される制御フローについて説明する。この制御フローは、ハイレート劣化によって一時的に増加した直流抵抗Rsが、再び減少する現象を検出可能な状態、例えば、二次電池10の休止状態において実施されることが望ましい。休止状態は、具体的には、無通電の安定状態が15分以上、望ましくは30分以上続く状態である。このとき、充放電の停止に伴う直流抵抗Rsの減少を精度よく検出することができる。また、直流抵抗Rsへの影響を抑制可能な環境であることが望ましく、例えば、電池パック内の温度ばらつき、又は、温度ばらつきの経時による変化量が、所定範囲内にあるときに、劣化診断が許可されるようにしてもよい。例えば、温度ばらつきの許容範囲は、温度センサS3の検出精度に相当する±2℃程度とすることができる。
【0082】
図15において、ステップS301~S302は、上記参考形態1におけるステップS101~S103と同様にして実施される。まず、ステップS301において、抵抗算出部21の重畳電流印加部211により、二次電池10に、複数の周波数成分が重畳された重畳電流が印加される。次いで、インピーダンス測定部212により、重畳電流が印加されたときの電池電圧を取得し、複素インピーダンスプロットから、インピーダンスを算出する。さらに、ステップS302において、直流抵抗算出部213及び反応抵抗算出部214により、複素インピーダンスプロットから、直流抵抗Rs及び反応抵抗Rctを算出する。
【0083】
続いて、ステップS303において、初回判定フラグがオンとなっているか否かを判定する。初回判定フラグは、後述するステップS311、S312において設定されるものであり、ステップS303が肯定判定されたときには、ステップS303へ進む。この場合は、今回以前に算出された直流抵抗Rs及び反応抵抗Rctが格納されているので、ステップS303以降において、それら算出値の変化に基づいて指標値を算出する。
【0084】
ステップS304では、ステップS303にて算出された直流抵抗Rs及び反応抵抗Rctを、今回値[t]として、記憶部50に格納する。
Rs[t]=Rs,Rct[t]=Rct
続いて、ステップS305において、今回値[t]と前回値[t-1]を用いて、直流抵抗Rs及び反応抵抗Rctの変化量ΔRs、ΔRctを算出する。
ΔRs=Rs[t]-Rs[t-1]
ΔRct=Rct[t]-Rct[t-1]
さらに、ステップS306において、前回からの経過時間Δtを算出し、ステップS307において、単位時間当たりの直流抵抗Rsの変化量である変化率ΔRs/Δtを算出する。
【0085】
ステップS303が否定判定されたときには、ステップS311へ進む。この場合は、初回判定フラグがオフとなっており、今回の直流抵抗Rs及び反応抵抗Rctの算出が、初回と判断されるので、ステップS311において、算出値を初期値[0]として、記憶部50に格納する。
Rs[0]=Rs,Rct[0]=Rct
次いで、ステップS312へ進んで、初回判定フラグをオンとし、制御フローを終了する。
【0086】
ステップS308においては、変化率ΔRs/Δtが第1変化閾値TH3以下であり、かつ、変化量ΔRct/Δtが第2変化閾値TH4以下であるか否か(すなわち、ΔRs/Δt≦TH3かつΔRct≦TH4?)を判定する。ステップS308が肯定判定されたときには、ステップS309において、ハイレート劣化の判定フラグをオンとし、ステップS310へ進む。ステップS308が否定判定されたときには、ステップS313において、ハイレート劣化の判定フラグをオフとして、ステップS310へ進む。
【0087】
ステップS310では、ハイレート劣化の判定フラグがオンか否かを判定し(すなわち、ハイレート劣化判定オン?)、肯定判定されたときには、ステップS314へ進む。ステップS310が否定判定されたときには、診断を終了する。
【0088】
ステップS314に進んだ場合は、ハイレート劣化の進行を抑制するために、充放電制御部30によって入出力電流の制限を実施する。その後、この制御フローを終了する。
【0089】
以上のごとく、本形態の制御装置1によれば、二次電池10の直流抵抗Rs及び反応抵抗Rctの変化を表す指標値と判定閾値を用いて、ハイレート劣化の有無を正確に診断することができる。その際には、インピーダンス測定に重畳電流を用いることにより、診断速度の高速化を図り、ハイレート劣化の診断に適した状態にあることを条件とすることにより、検出精度をより向上させることができる。そして、ハイレート劣化の検出結果を充放電制御に反映させることにより、安全性を向上させることができる。
【0090】
本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の実施形態に適用することが可能である。例えば、二次電池10は、正負電極11、12と電解液13を含む構成としたが、固体電解質を有する全固体電池であってもよい。また、二次電池10を車両に搭載したシステムの構成は、任意に変更することができ、例えば、二次電池10は、車載又は外部の充電器によって充電可能に設けられていてもよい。
【符号の説明】
【0091】
1 制御装置
10 二次電池
11 正極(電極)
12 負極(電極)
13 電解液(電解質)
20 診断部
21 抵抗算出部
22 指標値算出部
23 劣化判定部
30 充放電制御部
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