(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】ヒューズ素子
(51)【国際特許分類】
H01H 85/06 20060101AFI20240409BHJP
【FI】
H01H85/06
(21)【出願番号】P 2021057020
(22)【出願日】2021-03-30
【審査請求日】2023-07-25
(73)【特許権者】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】弁理士法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上木 美里
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 裕
【審査官】関 信之
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-050184(JP,A)
【文献】特開2009-259724(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01H 85/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性の基材と、
前記基材の表面に設けられた導体層と、
発泡剤を含有し、前記導体層の表面を被覆する発泡層と、を有し、
前記導体層に通電し、前記導体層が発熱した際に、
前記発泡剤が加熱時に発泡することで、前記導体層が溶断を起こすよりも低い温度で、前記導体層が物理的に破断される、ヒューズ素子。
【請求項2】
前記ヒューズ素子は、フレキシブルプリント基板を用いて構成され、
前記ヒューズ素子の前記基材および前記導体層はそれぞれ、前記フレキシブルプリント基板のベース層および金属箔より構成されている、請求項1に記載のヒューズ素子。
【請求項3】
前記金属箔の表面を保護する保護層、および
前記金属箔と前記基材の間を接着する接着剤層の、少なくとも一方が、
前記発泡剤を含有し、前記発泡層として機能する、請求項
2に記載のヒューズ素子。
【請求項4】
前記発泡剤は200℃以上の発泡温度を有し、前記発泡層に10質量%以上含有される、
請求項1から請求項3
のいずれか1項に記載のヒューズ素子。
【請求項5】
前記ヒューズ素子は、前記基材、前記導体層、前記発泡層を含む積層体の外周を包囲するシート層をさらに有する、請求項
1から請求項
4のいずれか1項に記載のヒューズ素子。
【請求項6】
前記発泡剤は、発泡時に水を発生しない、請求項
1から請求項
5のいずれか1項に記載のヒューズ素子。
【請求項7】
前記発泡剤は、アゾ化合物、ニトロソ化合物、ヒドラジン誘導体の少なくとも1種を含有する、請求項
1から請求項
6のいずれか1項に記載のヒューズ素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ヒューズ素子に関する。
【背景技術】
【0002】
電気回路において、異常電流からの保護を目的として、小型ヒューズが用いられる。小型ヒューズの例としては、チップヒューズが挙げられる。チップヒューズにおいては、絶縁基板に1対の端子電極が設けられ、それら端子電極の間を溶断導体で接続している。異常電流が発生した際には、溶断導体自体の発熱により、あるいは特許文献1に開示されるように、溶断導体とともに端子電極間に設けられた発熱導体膜の発熱により、溶断導体が溶断を起こす。
【0003】
また、フレキシブルプリント基板(FPC)が、小型ヒューズとして使用される場合もある。FPCの構造は、例えば特許文献2に開示されているが、ベース材の表面に回路パターンを構成する導体層が設けられている。1対の電極の間にFPCを配置し、電極間をFPCの導体層によって接続する構造としておけば、電極間に異常電流が発生した際に、導体層が発熱し、溶断を起こす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平10-50184号公報
【文献】特開2001-339126号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
チップヒューズや、FPCを用いて構成されるヒューズ(FPCヒューズ)のように、絶縁性の基材の上に設けた導体を溶断させる形態のヒューズ素子においては、溶断時の熱により、導体の近傍に存在する有機ポリマーを含む部材が、炭化物を形成する場合がある。導体の近傍に存在し、導体の溶断時に炭化物を形成する可能性のある部材としては、チップヒューズやFPCを構成する基材(ベース材)に加え、FPCの場合はさらに、導体層を保護する保護層や、導体層とベース材の間を接着する接着剤層が挙げられる。それら有機ポリマーを含む層において、導体の溶断に伴って形成される炭化物には、導電性を有する炭化物も含まれる。導電性を有する炭化物は、電極間に導電経路を形成する可能性がある。すると、電極間に異常電流が流れた際に、導体が溶断しても、炭化物によって新たな導電経路が形成されることになり、電気回路を遮断することができない。つまり、ヒューズとしての機能を十分に発揮できなくなる。
【0006】
以上に鑑み、異常電流が発生した際に、炭化物の形成を抑制しながら、電気回路を遮断することができるヒューズ素子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示のヒューズ素子は、絶縁性の基材と、前記基材の表面に設けられた導体層と、を有し、前記導体層に通電し、前記導体層が発熱した際に、前記導体層が溶断を起こすよりも低い温度で、前記導体層が物理的に破断される。
【発明の効果】
【0008】
本開示にかかるヒューズ素子は、異常電流が発生した際に、炭化物の形成を抑制しながら、電気回路を遮断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態にかかるヒューズ素子を電極とともに模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、上記ヒューズ素子の層構成を示す断面図である。
【
図3】
図3は、発泡剤の発泡によって金属箔が破断した状態のヒューズ素子を示す断面の顕微鏡写真である。
【0010】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施形態を列記して説明する。
本開示のヒューズ素子は、絶縁性の基材と、前記基材の表面に設けられた導体層と、を有し、前記導体層に通電し、前記導体層が発熱した際に、前記導体層が溶断を起こすよりも低い温度で、前記導体層が物理的に破断される。
【0011】
上記ヒューズ素子を、異常電流が発生した際に遮断すべき電気回路の途中に設け、ヒューズ素子の導体層を介して回路電流が流れるように構成しておけば、異常電流が発生して導体層において発熱が起こった際に、導体層が溶断するよりも前に、導体層が物理的に破断され、電気回路が遮断される。つまり、導体層が溶断を起こすほどの高温の発熱に至る前に、回路が遮断される。そのため、基材等、導体層の近傍に存在する有機ポリマーを含む部材が、導体層から発せられる高熱によって炭化物を形成し、導電性炭化物を介した導電経路の形成によって回路の遮断が妨げられる事態が、起こりにくい。
【0012】
ここで、前記ヒューズ素子は、フレキシブルプリント基板(FPC)を用いて構成され、前記ヒューズ素子の基材および前記導体層はそれぞれ、前記FPCのベース層および金属箔より構成されているとよい。FPCを利用することで、小型のヒューズ素子を、簡便に、また安価に形成することができる。
【0013】
前記ヒューズ素子は、前記導体層の表面を被覆する発泡層をさらに有し、前記発泡層は、発泡剤を含有しており、前記発泡剤が加熱時に発泡することで、前記導体層を物理的に破断するものであるとよい。多くの発泡剤は、導体層が溶断するよりも低い温度で発泡を起こす。発泡剤が発泡すると、発泡時に生じたガスの圧力により、導体層に衝撃が印加され、導体層を物理的に破断することができる。そのため、導体層の表面に発泡剤を含有する層を設けるという簡便な手段により、導体層の溶断に伴う炭化物の形成を抑制しながら、電気回路を遮断することができるヒューズ素子を構成できる。
【0014】
この場合に、前記発泡剤は200℃以上の発泡温度を有し、前記発泡層に10質量%以上含有されるとよい。発泡剤が200℃以上の発泡温度を有することで、ヒューズ素子の製造工程等において、意図しない発泡剤の発泡を回避しやすくなる。また、発泡層における発泡剤の含有量が10質量%以上となっていることで、発泡剤が200℃以上と比較的高い発泡温度を有していても、また、発泡層が導体層に直接接していない構成等、発泡剤が発泡温度まで加熱されにくい構成をとる場合にも、異常電流が発生した際に、発泡剤の発泡による導体層の破断を効果的に起こすことができる。
【0015】
前記ヒューズ素子は、FPCを用いて構成され、前記ヒューズ素子の基材および前記導体層はそれぞれ、前記FPCのベース層および金属箔より構成されており、前記金属箔の表面を保護する保護層、および前記金属箔と前記基材の間を接着する接着剤層の、少なくとも一方が、前記発泡剤を含有し、前記発泡層として機能するとよい。発泡層を備えない一般的なFPCをヒューズ素子として利用するとすれば、導体層(金属箔)の溶断に伴って、ベース層や、保護層、接着剤層を構成する有機ポリマーが、導電性の炭化物を形成し、ヒューズとしての役割を十分に果たせない事態が生じやすいが、発泡層を設けておき、発泡剤の発泡に伴う金属箔の破断によって電気回路を遮断する構成とすることで、そのような事態を効果的に抑制することができる。また、保護層および接着剤層の少なくとも一方を発泡層とすることで、従来のFPCの構造を大きく変えることなく、導体層の溶断によらずに電気回路を遮断するヒューズ素子として、FPCを利用できるようになる。
【0016】
前記ヒューズ素子は、前記基材、前記導体層、前記発泡層を含む積層体の外周を包囲するシート層をさらに有するとよい。この場合には、発泡層に含有される発泡剤が発泡してガスを放出した際に、そのガスがシート層に包囲された空間の中に閉じ込められることになる。すると、ガスの圧力による衝撃が、導体層に効率的に伝達され、導体層の破断を起こすものとなる。その結果、ヒューズ素子が、異常電流を感度良く検知して、電気回路を遮断できるようになる。
【0017】
前記発泡剤は、発泡時に水を発生しないものであるとよい。すると、発泡剤が発泡した際に、導体層の破断箇所に、水を介した導電経路が形成され、電気回路を正常に遮断できなくなる事態を、避けることができる。
【0018】
前記発泡剤は、アゾ化合物、ニトロソ化合物、ヒドラジン誘導体の少なくとも1種を含有するとよい。これらの発泡剤は、加熱によって窒素ガスを効率的に発するものであり、導体層の破断による回路の遮断に、好適に利用することができる。
【0019】
[本開示の実施形態の詳細]
以下に、本開示の実施形態にかかるヒューズ素子について、図面を用いて詳細に説明する。
【0020】
<FPCヒューズの構造>
まず、本開示にかかるヒューズ素子の一例として、フレキシブル回路基板(FPC)を用いて構成されるFPCヒューズについて説明する。
図1に、本開示の一実施形態にかかるFPCヒューズ10を、電極30,30等とともに、断面図にて模式的に表示する。また、
図2に、FPCヒューズ10の断面の層構成を示す。
【0021】
図1のように、FPCヒューズ10は、回路基板35の上に設けられた電気回路の途中の箇所において、1対の電極30,30の間を接続して設けられる。
図2のように、FPCヒューズ10は、複数の層が積層された構造を有している。具体的には、FPCヒューズ10は、ベース層(基材)3と、ベース層3の少なくとも一方の面を被覆する金属箔(導体層)1と、を有している。ベース層3と金属箔1の間は、接着剤層2によって接着されている。金属箔1の表面には、保護層4が設けられている。保護層4は、接着剤の層(図略)を介して金属箔1の表面に固定されていてもよい。このような積層構造は、従来一般の汎用的なFPCにおいて採用されているものである。
【0022】
ベース層3は、絶縁性の基材として構成されている。ベース層3を構成する材料は特に限定されるものではないが、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリイミド(PI)等、一般的なFPCのベース層3として用いられる可撓性のポリマー材料を好適に用いることができる。金属箔1としては、一般的なFPCにおいて用いられる材料である銅箔を用いることが好ましい。金属箔1の厚さとしては、十分な導電性を確保する観点から、10μm以上としておくとよい。一方、後に説明する発泡剤の発泡によって破断させやすくする観点から、金属箔1の厚さは、50μm以下としておくとよい。接着剤層2の構成材料も特に限定されるものではなく、アクリル系、エポキシ系、ウレタン系、シリコーン系等の接着剤を適用すればよい。
【0023】
保護層4は、金属箔1の表面を被覆して、FPCヒューズ10の最表層として設けられている。保護層は、カバーレイとも称され、FPCにおいて、金属箔の表面を絶縁しながら保護する役割を果たす。従来一般のFPCにおいては、保護層は、ポリイミドフィルム等、有機ポリマーを主成分とするシート材として構成されるが、本実施形態にかかるFPCヒューズ10においては、保護層4が、発泡剤を含有する発泡層として構成されている。発泡層としての保護層4の構成と役割については、後に詳しく説明する。後述するように、本開示のヒューズ素子は、FPCヒューズ10以外の形態で構成することもできるが、FPCヒューズ10とすることで、ヒューズ素子に可撓性を付与できるとともに、安価に大量生産が可能なFPCを利用して、簡便にヒューズ素子を形成することができる。
【0024】
さらに、本実施形態にかかるFPCヒューズ10においては、任意ではあるが、
図1に示すように、FPCヒューズ10の本体部の外周を包囲するシート層20を設けておくことが好ましい。シート層20は、上記で説明したFPCヒューズ10の本体部全体の外周を、気密に取り囲んで設けられる。シート層20を構成する材料は特に限定されるものではないが、ポリオレフィンや塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレンをはじめとするフッ素樹脂等を例示することができる。それらのポリマー材料よりなるシート(フィルム)を、2つの電極30,30をまたぐ領域に巻き付ければよい。なお、
図1では、分かりやすいように、FPCヒューズ10とシート層20の間に空間を設けて表示しているが、実際には、なるべくFPCヒューズ10に密着させて、シート層20を配置することが好ましい。
【0025】
<発泡層としての保護層>
本実施形態にかかるFPCヒューズ10においては、保護層4が、発泡剤を含有する発泡層として構成されている。発泡剤は、加熱によって発泡する物質、つまり熱分解に伴ってガスを発生する物質である。保護層4において、発泡剤は、未発泡の状態で含有されている。好ましくは、有機ポリマー材料中に発泡剤の粒子が分散されているとよい。
【0026】
図1のように、1対の電極30,30の間にFPCヒューズ10を配置し、保護層4に被覆された金属箔1によって、電極30,30の間を電気的に接続する構成とする。この際、電極30,30の間に、異常電流(異常な大電流)が発生する場合を考える。
【0027】
異常電流が金属箔1に流れると、電気抵抗により、金属箔1が発熱する。金属箔1で発生した熱は、保護層4にも伝達され、保護層4が加熱される。すると、保護層4に含まれる発泡剤が加熱され、発泡を起こす。つまり、発泡剤が、ガスを発生しながら熱分解を起こす。発生したガスは、膨張しながら、周囲に勢いよく拡散する。膨張するガスの圧力により、周囲の部材に衝撃が加えられる。金属箔1にも、ガスの発生に伴う衝撃が印加され、その衝撃によって金属箔1が物理的に破断される。なお、金属箔1の破断とは、金属箔1の面内における材料の連続性が分断されることを指す。
【0028】
発泡剤の発泡に伴って、金属箔1が厚み方向全域にわたって破断すると、金属箔1を介した電極30,30の間の導通が遮断される。すると、電気回路がFPCヒューズ10の箇所で遮断されることになる。このようにして、異常電流が発生した際に、保護層4に含有される発泡剤の発泡によって電気回路を遮断することで、電気回路を異常電流から保護することができる。一般に、発泡剤が発泡を起こす分解温度は、金属の融点や昇華点よりも大幅に低い。よって、異常電流によって金属箔1が発熱した際に、金属箔1が自身の発熱により溶断するよりも先に、発泡剤の発泡が起こる。つまり、金属箔1が発熱し始めると、早い段階で発泡剤の発泡が起こり、金属箔1が破断される。金属箔1が破断した後は、金属箔1に電流が流れなくなるので、金属箔1の溶断が起こることはない。
【0029】
背景技術として述べたように、保護層に発泡剤を含有しない従来一般のFPCも、ヒューズとして転用されることがある。この場合には、異常電流が発生した際に、金属箔が発熱により溶断することをもって、電気回路を遮断する。この形態では、異常電流が生じた際に、FPCにおいて、金属箔の融点以上または昇華点以上の高温に至る加熱が、局所的に起こることになる。すると、その高温により、金属箔の近傍に存在する有機ポリマーを含有する層、つまりベース層や接着剤層、保護層において、炭化物が形成される場合がある。炭化物には、導電性を有するものも含まれる。導電性を有する炭化物が形成されると、溶断によって金属箔の導通が遮断された箇所に、導電性炭化物を介した導電経路が形成される可能性がある。すると、金属箔の導通が遮断されなくなったり、金属箔の溶断によって一旦は遮断された導通が再形成されたりする。その結果、金属箔を溶断させたにもかかわらず、実際には電気回路における導通が遮断されなくなったり、一旦遮断された導通が再度形成されたりするため、電気回路を異常電流から保護できなくなる。
【0030】
これに対し、本実施形態にかかるFPCヒューズ10においては、高温で金属箔1を溶断させるのではなく、発泡剤の発泡によって、金属箔1を物理的に破断させており、周囲の層で炭化物が形成されるほどの高温に至る前に、金属箔1の導通を遮断することができる。つまり、導通を遮断した箇所に、導電性炭化物の寄与によって、再び導通経路が形成されるような事態は起こりにくく、電気回路を異常電流から適切に保護することができる。また、発泡剤の発泡による金属箔1の破断が、金属箔1の厚み方向全域には至らず、厚み方向の一部の箇所で、金属箔1が連続した箇所が残った場合には、金属箔1の溶断を経ないと導通を遮断できないが、既に金属箔1の厚みが小さくなった状態で溶断を起こすことになるので、溶断までの発熱量が小さく抑えられる。よって、発泡剤を使用せず、金属箔1の溶断のみで導通を遮断する場合と比較して、炭化物の生成、および炭化物による導通経路の形成を少なく抑えることができる。このように、金属箔1に隣接する保護層4を、発泡剤を含有する発泡層として構成し、発泡剤の発泡によって、金属箔1を厚み方向の少なくとも一部の領域で破断させることで、電気回路に異常電流が発生した際に、炭化物の形成を抑制しながら、電気回路を遮断することができる。
【0031】
さらに、FPCヒューズ10の外周をシート層20で包囲しておけば、発泡剤の熱分解によって生じたガスが、外部に拡散せずに、シート層20に囲まれた空間の中に閉じ込められる。それにより、シート層20に囲まれた空間の圧力が高くなり、金属箔1にも高いガス圧が印加されることになる。すると、ガス圧による衝撃で、金属箔1が破断されやすくなる。つまり、異常電流が発生した際に、FPCヒューズ10が高感度に異常電流に応答して、回路を破断させるものとなる。
【0032】
保護層4に含有させる発泡剤の種類は、特に限定されるものではないが、熱分解温度が、150℃以上、さらには170℃以上、200℃以上であることが好ましい。すると、外部環境の温度上昇や、異常電流とみなされない程度の電流の増大による軽度の発熱、保護層4を作製する際の工程等、異常電流以外の要因による加熱によって発泡が起こるのを、抑制することができる。一方、発泡剤の熱分解温度は、250℃以下であることが好ましい。すると、異常電流の発生に敏感に反応して、電気回路を遮断しやすくなるとともに、金属箔1が破断するまでの有機ポリマー材料の炭化を、効果的に抑制することができる。また、発泡剤は、発泡時に発生するガスが、水(水蒸気)を含まないものであることが好ましい。金属箔1の破断箇所およびその近傍に水が付着して、水を介した導通経路が形成されるのを抑制するためである。
【0033】
具体的な発泡剤の種類も、特に限定されるものではなく、アゾ化合物、ニトロソ化合物、ヒドラジン誘導体、炭化水素等の有機化合物、また炭酸ナトリウム等の無機化合物を例示することができる。これらのうち、アゾ化合物、ニトロソ化合物、ヒドラジン誘導体よりなる発泡剤を用いることが好適である。これらの化合物は、発泡時に、水を含まずに窒素ガスを発生することが多く、また発泡の効率も高い場合が多い。アゾ化合物の例としては、アゾジカルボンアミドやバリウムアゾジカルボキシレート等が挙げられる。ニトロソ化合物としては、N,N’-ニトロソペンタメチレンテトラミン等が挙げられ、ヒドラジン誘導体としては、ヒドラゾジカルボンアミド、4,4’-オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)等が挙げられる。発泡剤は、1種のみを用いても、2種以上を併用してもよい。
【0034】
保護層4における発泡剤の含有量は、特に限定されないが、発泡によって効果的に金属箔1を破断させる観点から、保護層4全体の5質量%以上、さらには10質量%以上であることが好ましい。一方、保護層4と金属箔1の間の密着性を高める観点から、発泡剤の含有量は、30質量%以下に抑えておくとよい。次の「その他の形態」の項に挙げるように、保護層4と金属箔1の間に他の層が介在される場合等、金属箔1の発熱が保護層4に伝達されにくい構造をとる場合や、発泡剤の発泡温度が200℃以上のように高温である場合には、異常電流の発生時に、発泡剤の発泡による金属箔1の破断の確度を高める観点から、保護層4における発泡剤の含有量を、10質量%以上のように、多めの範囲に設定しておくとよい。保護層4の厚さも特に限定されないが、金属層1に対する保護効果を十分に発揮する観点から、30μm以上としておくとよい。一方、FPCヒューズの可撓性を高める等の観点から、1mm以下としておくとよい。
【0035】
保護層4において、発泡剤を分散させる有機ポリマーの種類は、特に限定されるものではないが、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等を例示することができる。特に、加熱時に炭化物を形成しにくい等の点で、シリコーン樹脂を用いることが好ましい。有機ポリマーは、1種のみを用いても、2種以上を混合してもよい。さらに、保護層4は、発泡剤の発泡を妨げないかぎりにおいて、発泡剤以外の添加剤を含んでもよい。そのような添加剤としては、ガラスバブル、炭酸カルシウム等の断熱性フィラーを例示することができる。
【0036】
<その他の形態>
上記では、本開示の実施形態の一例として、FPCヒューズ10において、金属箔1に接触する保護層4を、発泡剤を含有する発泡層とする形態について説明した。しかし、本開示のヒューズ素子は、そのような形態に限られない。
【0037】
本開示のヒューズ素子を、FPCヒューズ10として構成する場合に、保護層4に発泡剤が含有される形態のみならず、金属箔1とベース層3の間を接着する接着剤層2に、発泡剤が含有されてもよい。つまり、保護層4と接着剤層2の少なくとも一方が、発泡剤を含有し、発泡層として機能するものであるとよい。保護層4が発泡剤を含有する形態は、製造時の誤発泡の可能性が低い点において優れる一方、接着剤層2が発泡剤を含有する形態は、金属箔1の発熱が発泡剤に直接伝達されやすい点において優れる。金属箔1と保護層4の間に接着剤の層が設けられる場合に、その接着剤の層に発泡剤が含有されてもよい。
【0038】
また、発泡層は、上記で説明したFPCヒューズ10の保護層4や接着剤層2のように、金属箔1に直接接触するものであることが好ましいが、発泡剤の発泡による金属箔1の破断を妨げない層であれば、別の層を介して、発泡層が金属箔1を被覆するものであってもよい。例えば、後の実施例で用いている試料の保護層のように、発泡層が、基材(ベース層)および/または接着剤の層を介して、金属箔を被覆するものであってもよい。
【0039】
さらに、本開示のヒューズ素子は、FPCを用いて構成される形態に限られない。ヒューズ素子を、絶縁性の基材と、基材の表面に設けられた導体層と、導体層の表面を直接あるいは他の層を介して被覆する発泡層と、を有する積層構造として形成すればよい。発泡層は、発泡剤を含有し、発泡剤が加熱時に発泡することで、導体層を物理的に破断するように構成しておけばよい。上記積層構造を構成する基材、導体層、発泡層は、それぞれ、FPCヒューズ10では、ベース層3、金属箔1、保護層4に対応する。FPCを用いる形態以外に、上記積層構造を有するヒューズ素子の形態としては、プリント基板上に回路パターンとして設けられるパターンヒューズ、プリント基板上に実装されるチップヒューズ等の構造を有するものを挙げることができる。ヒューズ素子をFPCヒューズ10以外の形態で構成する場合にも、基材、導体層、発泡層を含む積層体の外周に、シート層等、発泡によって生じたガスを閉じ込めることができる包囲体を設けておくことが好ましい。さらに、本開示のヒューズ素子は、発泡剤の発泡を利用して導体層を破断させる形態に限られず、基材の表面に設けた導体層に通電し、導体層が発熱した際に、導体層が溶断を起こすよりも低い温度で、導体層が物理的に破断されるものであればよい。
【実施例】
【0040】
以下に実施例を示す。なお、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
【0041】
<試料の作製>
銅箔の両面に、接着剤層を介してベース層が設けられ、さらにそれらベース層の一方の表面に保護層が設けられた、FPCヒューズを準備した。このFPCヒューズにおいては、ベース層は厚さ25μmのポリイミド樹脂、接着剤層は厚さ10μmのエポキシ樹脂、導体層は厚さ35μmの銅箔より構成されている。保護層としては、シリコーン樹脂(東レDOW社製「CV9204-20」)に、下記の発泡剤を添加した材料を用いて、厚さ50μmの層を作製した。試料1~5において、発泡剤の有無および種類、添加量を、下の表1に示す通りとした。さらに、形成したFPCヒューズの外周を、ポリテトラフルオロエチレン樹脂製のフィルムで気密に包囲した。
・発泡剤A:永和化成社製「ネオセルボン」(4,4’-オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)系;発泡温度160℃)
・発泡剤B:永和化成社製「ビニホール」(アゾジカルボンアミド系;発泡温度208℃)
【0042】
<試験方法>
作製したFPCヒューズを直流電源に接続し、1.5Aの電流を60秒間にわたって流した。この間に、FPCヒューズによって回路が遮断されるか否かを確認した。回路が遮断された場合については、FPCヒューズの外観を目視にて観察し、回路の遮断が、銅箔の溶断ではなく、物理的破断によって起こっていることを確認した。
【0043】
<結果>
下の表1に、保護層に添加した発泡剤の種類および添加量(保護層全体における割合)と、銅箔の破断による回路遮断の有無をまとめる。また、
図3に、試料4について、回路遮断後のFPCヒューズの断面を撮影した顕微鏡写真を示す。
【0044】
【0045】
表1によると、試料4において、通電によって回路の遮断が起こっている。そして、回路遮断後の試料4の断面を示す
図3において、三角形で表示するように、銅箔の面内で、銅箔の連続性が途切れている箇所が多数見られる。これらの箇所は、銅箔の破断に対応付けることができる。これらの結果から、FPCヒューズにおいて、銅箔の溶断ではなく、保護層に含有される発泡剤の発泡に伴う銅箔の破断によって、回路が遮断されることが確認される。
【0046】
表1によると、200℃以上の発泡温度を有する発泡剤Bを保護層に10質量%以上含有させた試料4,5では、回路の遮断が起こっているが、発泡温度が200℃未満の発泡剤Aを添加した試料2では、20質量%の発泡剤を添加しても、回路の遮断が起こっていない。これは、発泡剤の発泡温度が低いことにより、FPCヒューズにおいて保護層を形成している間に、発泡剤が既に発泡していたためであると考えられる。保護層の形成条件の検討等により、保護層作製時の発泡剤の発泡を抑えることができれば、発泡剤Aも、保護層に添加する発泡剤として、十分使用に耐えると考えられる。また、発泡剤Bの含有量が10質量%に満たない試料3では、回路の遮断が起こっていないが、これは、発泡剤Bの発泡温度が高いこと、また保護層と金属箔の間にベース層および接着剤層が介在され、金属箔から保護層への熱伝達の効率が悪いことにより、金属箔の破断に至る十分な発泡量が確保できなかったものと解釈される。発泡剤として発泡温度が低いものを用いた場合や、金属箔に直接接触させて保護層を設ける等、金属箔から保護層への熱伝達の効率を高めた場合には、発泡剤の含有量を10質量%未満としても、異常電流が発生した際に、十分に発泡を起こさせ、金属箔の破断による回路の遮断を行いうると考えられる。
【0047】
以上、本開示の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【符号の説明】
【0048】
10 FPCヒューズ(ヒューズ素子)
1 金属箔(導体層)
2 接着剤層
3 ベース層(基材)
4 保護層(発泡層)
20 シート層
30 電極
35 回路基板