(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】テンショナ
(51)【国際特許分類】
F16H 7/08 20060101AFI20240409BHJP
【FI】
F16H7/08 B
(21)【出願番号】P 2021062748
(22)【出願日】2021-04-01
【審査請求日】2023-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中川 琢麻
【審査官】藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】実公平7-47632(JP,Y2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に延在して底部を有するガイド穴が形成されたハウジングと、
前記軸方向に摺動可能に前記ガイド穴内に挿入され、前記ガイド穴内への挿入端が開口し、前記ガイド穴からの突出端が閉塞した筒状のプランジャと、
前記プランジャの内部に配置され、前記プランジャを前記ガイド穴から突出させる方向に付勢するリターンスプリングと、
前記ガイド穴の前記底部に形成された作動油の給油孔に設けられた逆止弁とを備え、
前記プランジャの外周面の周方向の一部に、前記軸方向において突出端側から挿入端側に延在しつつ前記挿入端とは離間している切欠部が形成されており、
前記プランジャの前記外周面における前記切欠部と前記挿入端との間に位置する曲面部と、前記ガイド穴の内周面との間の隙間が、前記作動油が外部にリークする主経路であるリーク隙間となり、
前記切欠部は、前記プランジャの中心軸を対称軸として回転対称に形成されている、テンショナ。
【請求項2】
前記切欠部は、180°の回転対称に形成されている、請求項1に記載のテンショナ。
【請求項3】
前記切欠部は、120°の回転対称に形成されている、請求項1に記載のテンショナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テンショナに関する。
【背景技術】
【0002】
油圧式チェーンテンショナの構成を開示した先行文献として、特開2002-54701号公報(特許文献1)がある。特許文献1に記載された油圧式チェーンテンショナは、ハウジングと、プランジャと、リターンスプリングと、チェックバルブとを備える。
【0003】
ハウジングには、有底のガイド穴と、ガイド穴の底部で開口する給油孔とが形成されている。ガイド穴内にプランジャが摺動自在に組み込まれている。プランジャの背部に、油圧ダンパ室が設けられている。油圧ダンパ室内に、リターンスプリングとチェックバルブとが組み込まれている。リターンスプリングは、プランジャを外方向に押圧する。チェックバルブは、油圧ダンパ室内の作動油が給油孔側に逆流するのを防止する。プランジャの後退時に、油圧ダンパ室内の作動油がプランジャとガイド穴との摺動面間に形成されたリーク隙間から外部にリークされる。ハウジングおよびプランジャのいずれか一方に、油圧ダンパ室と外部とを連通させる作動油リーク用のオリフィスが設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された油圧式チェーンテンショナにおいては、リーク隙間の大きさおよび長さの各々の寸法管理を容易にするためにオリフィスを設けているが、オリフィスの流路断面積および長さの寸法を管理する必要があり、さらにリークダウン値の管理を容易にできる余地がある。また、リーク隙間を構成しているプランジャの外周面およびハウジングの内周面が摺動することによって摩耗した場合、リークダウン値を適切な範囲内に維持することができなくなる。
【0006】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであって、リークダウン値を容易に管理しつつ長く維持することができる、テンショナを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に基づくテンショナは、ハウジングと、プランジャと、リターンスプリングと、逆止弁とを備える。ハウジングは、ハウジングの軸方向に延在して底部を有するガイド穴が形成されている。プランジャは、上記軸方向に摺動可能にガイド穴内に挿入され、ガイド穴内への挿入端が開口し、ガイド穴からの突出端が閉塞した筒状である。リターンスプリングは、プランジャの内部に配置され、プランジャをガイド穴から突出させる方向に付勢する。逆止弁は、ガイド穴の底部に形成された作動油の給油孔に設けられている。プランジャの外周面の周方向の一部に、上記軸方向において突出端側から挿入端側に延在しつつ挿入端とは離間している切欠部が形成されている。プランジャの外周面における切欠部と挿入端との間に位置する曲面部と、ガイド穴の内周面との間の隙間が、作動油が外部にリークする主経路であるリーク隙間となる。切欠部は、プランジャの中心軸を対称軸として回転対称に形成されている。
【0008】
本発明の一形態においては、切欠部は、180°の回転対称に形成されている。
本発明の一形態においては、切欠部は、120°の回転対称に形成されている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、リークダウン値を容易に管理しつつ長く維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係るテンショナを備えるチェーン伝動装置の構成を示す部分断面図である。
【
図2】
図1のテンショナの周辺を拡大して示す部分断面図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係るテンショナが備えるプランジャの外形を示す斜視図である。
【
図4】変形例に係るテンショナが備えるプランジャの外形を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態に係るテンショナについて図を参照して説明する。以下の説明においては、図中の同一または相当部分には同一符号を付して、その説明は繰り返さない。
【0012】
図1は、本発明の一実施形態に係るテンショナを備えるチェーン伝動装置の構成を示す部分断面図である。
図2は、
図1のテンショナの周辺を拡大して示す部分断面図である。
【0013】
図1および
図2に示すように、本発明の一実施形態に係るテンショナ100を備えるチェーン伝動装置においては、エンジンのクランクシャフト2に固定されたスプロケット3と、カムシャフト4に固定されたスプロケット5とがチェーン6を介して連結されている。チェーン6は、クランクシャフト2の回転をカムシャフト4に伝達する。カムシャフト4の回転により、図示しない燃焼室のバルブの開閉を行なう。
【0014】
チェーン6には、支点軸7を中心として揺動可能に支持されたチェーンガイド8が接触しており、テンショナ100は、チェーンガイド8を介してチェーン6を押圧している。
【0015】
図2に示すように、テンショナ100は、ハウジング110と、プランジャ120と、リターンスプリング130と、逆止弁140とを備える。
【0016】
ハウジング110は、ハウジング110の軸方向Aに延在して底部112を有するガイド穴111が形成されている。ガイド穴111の内周面114は、円筒状の形状を有している。ガイド穴111の底部112に、作動油の給油孔113が形成されている。給油孔113からハウジング110の内部に作動油が供給される。給油孔113には、逆止弁140が設けられている。逆止弁140によって、ハウジング110内の作動油の給油孔113への逆流が防止されている。逆止弁140は、ハウジング110の底部112に固定された取付座141の内側に配置されている。逆止弁140と取付座141の内面との間にばね142が配置されている。ばね142がたわむことにより逆止弁140が開放状態となり、ばね142の反力によって逆止弁140が給油孔113を塞ぐことにより逆止弁140が閉鎖状態になる。
【0017】
ハウジング110の外側に、複数の取り付け片150が一体に形成されている。複数の取り付け片150の各々をボルト160によって締結することにより、ハウジング110が図示しないエンジンブロックの側面またはチェーンケースに固定されている。ハウジング110は、金属材料で構成されている。
【0018】
図3は、本発明の一実施形態に係るテンショナが備えるプランジャの外形を示す斜視図である。
図1および
図2に示すように、プランジャ120は、軸方向Aに摺動可能にガイド穴111内に挿入されている。プランジャ120の中心軸Cは、軸方向Aに沿っている。
図1~
図3に示すように、プランジャ120は、ガイド穴111内への挿入端122が開口し、ガイド穴111からの突出端123が閉塞した筒状である。プランジャ120のガイド穴111からの突出端123は、チェーンガイド8に当接している。
【0019】
図3に示すように、プランジャ120の外周面は、円筒面部124、切欠部125および曲面部126から構成されている。切欠部125は、プランジャ120の外周面の周方向の一部にて、軸方向Aにおいて突出端123側から挿入端122側に延在しつつ挿入端122とは離間している。切欠部125は、プランジャ120の中心軸Cを対称軸として回転対称に形成されている。本実施の形態においては、切欠部125は、180°の回転対称に形成されている。
【0020】
曲面部126は、プランジャ120の外周面における切欠部125と挿入端122との間に位置している。円筒面部124は、円筒面からプランジャ120の外周面の周方向の上記一部を除いた部分である。すなわち、円筒面部124は、円筒面から切欠部125および曲面部126を除いた部分である。
【0021】
プランジャ120の外周面の直径は、ガイド穴111の内周面114の直径より、たとえば、0.03mm以上0.16mm以下の範囲で小さい。
図2に示す軸方向Aにおける曲面部126の長さLの寸法は、たとえば、10cm以上20cm以下である。
【0022】
プランジャ120の内周面127は、円筒状の形状を有している。プランジャ120は、金属材料で構成されている。
【0023】
リターンスプリング130は、プランジャ120の内部121に配置され、プランジャ120をガイド穴111から突出させる方向に付勢する。具体的には、リターンスプリング130は、プランジャ120の内底とハウジング110の底部112との間に挟まれている。
【0024】
ガイド穴111の内部とプランジャ120の内部121とに高圧の作動油が貯えられていることにより、油圧ダンパ室R1が形成されている。油圧ダンパ室R1内に、リターンスプリング130が収容されている。
【0025】
プランジャ120の円筒面部124とガイド穴111の内周面114との間に、油圧ダンパ室R1と連通した長隙間が形成されている。プランジャ120の曲面部126とガイド穴111の内周面114との間に、油圧ダンパ室R1と連通した隙間R2が形成されている。プランジャ120の切欠部125とガイド穴111の内周面114との間に、隙間R2と連通した隙間R3が形成されている。
【0026】
軸方向Aにおいて、長隙間の長さの寸法は、隙間R2の長さLの寸法より大きい。ガイド穴111の径方向において、隙間R3の大きさの寸法は、隙間R2および長隙間の各々の大きさの寸法より大きい。
【0027】
その結果、油圧ダンパ室R1内の作動油は、主に隙間R2および隙間R3を通じて外部にリークする。リークダウン値は、軸方向Aにおける隙間R2の長さLの寸法、および、ガイド穴111の径方向における隙間R2の大きさの寸法によって決まる。
【0028】
すなわち、プランジャ120の外周面における切欠部125と挿入端122との間に位置する曲面部126と、ガイド穴111の内周面114との間の隙間R2が、作動油が外部にリークする主経路であるリーク隙間となる。
【0029】
仮に、長隙間がリーク隙間となる場合、プランジャ120の軸方向Aの移動に伴って軸方向Aにおける長隙間の長さの寸法が変化するため、リークダウン値の管理が難しくなる。一方、隙間R2がリーク隙間となることにより、プランジャ120の軸方向Aの移動に関わらず、軸方向Aにおける隙間R2の長さLの寸法は一定となるため、リークダウン値の管理が容易になる。
【0030】
長隙間をリークする作動油の圧力は、隙間R2をリークする作動油の圧力より高いため、仮に、切欠部125がプランジャ120の中心軸Cを対称軸とした回転対称に形成されていない場合、プランジャ120は、リークする作動油の圧力差によって、曲面部126がガイド穴111の内周面114に接近する方向に、変位する。その結果、プランジャ120が軸方向Aに移動した際の、プランジャ120の曲面部126とガイド穴111の内周面114との摺動面圧は、プランジャ120の円筒面部124とガイド穴111の内周面114との摺動面圧より高くなる。この場合、プランジャ120の曲面部126、および、プランジャ120の曲面部126と繰り返し摺動したガイド穴111の内周面114の一部の少なくとも一方が摩耗する。
【0031】
そこで、本実施形態に係るテンショナ100においては、切欠部125は、プランジャ120の中心軸Cを対称軸として回転対称に形成されている。これにより、リークする作動油の圧力差によって曲面部126がガイド穴111の内周面114に接近する方向にプランジャ120が変位することを抑制することができる。
【0032】
その結果、プランジャ120の曲面部126、および、プランジャ120の曲面部126と繰り返し摺動したガイド穴111の内周面114の一部の少なくとも一方が摩耗することを抑制することができる。ひいては、リークダウン値を容易に管理しつつ長く維持することができる。
【0033】
本実施形態においては、切欠部125は、180°の回転対称に形成されている。これにより、形成する切欠部125の数を少なくしつつ、リークする作動油の圧力バランスをとることができる。
【0034】
図4は、変形例に係るテンショナが備えるプランジャの外形を示す斜視図である。
図4に示すように、変形例に係るテンショナが備えるプランジャ120Aの切欠部125は、120°の回転対称に形成されている。
【0035】
本変形例においても、リークする作動油の圧力差によって曲面部126がガイド穴111の内周面114に接近する方向にプランジャ120Aが変位することを抑制することができる。その結果、プランジャ120Aの曲面部126、および、プランジャ120Aの曲面部126と繰り返し摺動したガイド穴111の内周面114の一部の少なくとも一方が摩耗することを抑制することができる。
【0036】
また、プランジャ120Aの切欠部125が120°の回転対称に形成されていることにより、リークする作動油の圧力バランスを精度よくとることができる。
【0037】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0038】
2 クランクシャフト、3,5 スプロケット、4 カムシャフト、6 チェーン、7 支点軸、8 チェーンガイド、100 テンショナ、110 ハウジング、111 ガイド穴、112 底部、113 給油孔、114,127 内周面、120,120A プランジャ、121 内部、122 挿入端、123 突出端、124 円筒面部、125 切欠部、126 曲面部、130 リターンスプリング、140 逆止弁、141 取付座、142 ばね、150 取り付け片、160 ボルト、A 軸方向、C 中心軸、L 長さ、R1 油圧ダンパ室、R2,R3 隙間。