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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】ターゲット回収装置
(51)【国際特許分類】
   G21G 1/10 20060101AFI20240409BHJP
   G21K 5/08 20060101ALI20240409BHJP
   H05H 6/00 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
G21G1/10
G21K5/08 R
H05H6/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021102370
(22)【出願日】2021-06-21
(65)【公開番号】P2023001565
(43)【公開日】2023-01-06
【審査請求日】2023-08-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000004123
【氏名又は名称】JFEエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋本 有佳子
【審査官】後藤 大思
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-204428(JP,A)
【文献】特開2013-167489(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0075180(US,A1)
【文献】特開2013-160689(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21K 5/08
G21G 1/10
H05H 6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状のターゲットを、前記ターゲットの一方の面が露出した状態で内部に収納可能なターゲット保持具から、収納されている前記ターゲットを取り出すターゲット回収装置であって、
前記ターゲット保持具を投入可能な開口を有する投入部と、
前記投入部から投入された前記ターゲット保持具を所定位置に保持し、前記所定位置に保持された前記ターゲット保持具の内部の前記ターゲットが露出している側に開口部を有する受容部と、
前記受容部の前記開口部に外部からアクセス可能に構成され、前記受容部に配置された前記ターゲット保持具における前記ターゲットの露出側から前記ターゲットを吸着して保持する吸引部を有し、前記吸引部で保持された前記ターゲットを前記ターゲット保持具から取り出し可能に構成したターゲット回収手段と、
前記受容部に保持された前記ターゲット保持具の前記ターゲットの露出側から内部の前記ターゲットに前記ターゲット回収手段の前記吸引部を案内するよう構成された案内部と、を備える
ターゲット回収装置。
【請求項2】
前記吸引部は、前記ターゲットとの接触部分に吸盤形状の緩衝部材を有し、前記ターゲットに密着させて吸引して保持する構成である
請求項1に記載のターゲット回収装置。
【請求項3】
前記投入部が、前記ターゲット保持具の投入側から前記受容部の受容側に向かう方向に対して直角な断面において、前記投入部の断面積が減少するように構成される漏斗形状を有する
請求項1または2に記載のターゲット回収装置。
【請求項4】
前記案内部は、前記受容部に一体的に設けられており、前記案内部は前記ターゲット回収手段の前記吸引部が前記受容部の前記開口部に向かう方向に徐々に縮径するテーパ形状を構成している
請求項1~3のいずれか1項に記載のターゲット回収装置。
【請求項5】
前記投入部の前記断面の形状が、矩形状、円形状、楕円形状、トラック形状、または多角形状である
請求項3に記載のターゲット回収装置。
【請求項6】
前記受容部の前記開口部は、内部に保持される前記ターゲット保持具の外形よりも小さい開口を形成しており、前記ターゲット回収手段による前記ターゲットの取り出し時に前記ターゲット保持具が取り出されないように構成される
請求項1~5のいずれか1項に記載のターゲット回収装置。
【請求項7】
前記ターゲット回収手段は、所定の操作機構により把持可能な把持部を連結可能な連結部を有する
請求項1~6のいずれか1項に記載のターゲット回収装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性ターゲットを回収するためのターゲット回収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、放射性薬剤の合成や放射性物質を用いた実験を行うために、サイクロトロンにおいて固体ターゲットであるイットリウム(Y)ターゲットに陽子線を照射して原子核反応をさせ、Yターゲットに目的の放射性物質としてジルコニウム-89(89Zr)を形成している。89Zrが形成されたYターゲットは、無機酸によって溶解されて、目的の放射性物質を含む溶解液として回収される。
【0003】
特許文献1には、原子核反応が行われた固体ターゲットを回収するために、受容部材と、案内部材と、振動モータとを備える固体ターゲット回収装置が開示されている。特許文献1に記載された受容部材は、固体ターゲットを受容し、入口側開口の開口面積が出口側開口の開口面積よりも大きくなっており、案内部材は、受容部材と接続されると共に受容部材から離れる方向に向かって下方に傾斜して、固体ターゲットを放射線遮蔽容器まで案内するように構成されている。特許文献2には、固体ターゲットを受容又は搬送する搬送部材を備え、搬送部材の内表面の少なくとも一部を、固体ターゲットよりも柔らかい材質によって構成し、固体ターゲットと接触するおそれのある搬送部材の内表面の少なくとも一部を、固体ターゲットよりも柔らかい材質によって構成する固体ターゲット回収装置が開示されている。非特許文献1には、固体ターゲットを保持するためのターゲットホルダから固体ターゲットを取り外すことなく、溶解部に投入する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-268127号公報
【文献】特開2013-167489号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】S. Poniger, 2015, Australia, Fully automated production of Zr-89 using IBA Nitra and Pinctada systems
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したサイクロトロンにおいて陽子線などの粒子線を照射したターゲットは、搬送用のカプセルに投入されてホットセル室に送られる。ホットセル室に到着したターゲットは、用途に応じて自動合成装置または作業者による手技によって溶解処理が行われる。放射性薬剤の合成のために自動合成装置を用いる場合、ターゲットホルダやCリングなどのターゲット保持具を一体にした状態で自動合成装置の溶解装置に配置して無機酸を通液させている。この場合、溶解液がターゲット保持具と接触して、ターゲット保持具が汚染されるという問題があった。また、手技による実験のためにホットセル室から他の処理室に移動させる場合、汚染を防ぐためにディスポーザブル容器に投入してから遮蔽容器に搬送する必要がある。ところが、搬送の開始時に搬送用のカプセルを傾けてディスポーザブル容器にターゲットを投入する際に、ディスポーザブル容器に投入されずに、下に落下させてしまう可能性がある。落下場所がホットセル内の作業台の場合などは、グローブボックスに手を入れてピンセットなどを用いて、ターゲットを把持する必要がある。この場合、線量の高いグローブボックスに手を入れると被曝する可能性が生じる。そのため、固体のターゲットをターゲット保持具から安全に回収することができる技術が求められていた。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、その目的は、ターゲット保持具からターゲットを安全に回収できるターゲット回収装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一態様に係るターゲット回収装置は、板状のターゲットを、前記ターゲットの一方の面が露出した状態で内部に収納可能なターゲット保持具から、収納されている前記ターゲットを取り出すターゲット回収装置であって、前記ターゲット保持具を投入可能な開口を有する投入部と、前記投入部から投入された前記ターゲット保持具を所定位置に保持し、前記所定位置に保持された前記ターゲット保持具の内部の前記ターゲットが露出している側に開口部を有する受容部と、前記受容部の前記開口部に外部からアクセス可能に構成され、前記受容部に配置された前記ターゲット保持具における前記ターゲットの露出側から前記ターゲットを吸着して保持する吸引部を有し、前記吸引部で保持された前記ターゲットを前記ターゲット保持具から取り出し可能に構成したターゲット回収手段と、前記受容部に保持された前記ターゲット保持具の前記ターゲットの露出側から内部の前記ターゲットに前記ターゲット回収手段の前記吸引部を案内するよう構成された案内部と、を備える。
【0009】
本発明の一態様に係るターゲット回収装置は、上記の発明において、前記吸引部は、前記ターゲットとの接触部分に吸盤形状の緩衝部材を有し、前記ターゲットに密着させて吸引して保持する構成である。
【0010】
本発明の一態様に係るターゲット回収装置は、上記の発明において、前記投入部が、前記ターゲット保持具の投入側から前記受容部の受容側に向かう方向に対して直角な断面において、前記投入部の断面積が減少するように構成される漏斗形状を有する。
【0011】
本発明の一態様に係るターゲット回収装置は、上記の発明において、前記案内部は、前記受容部に一体的に設けられており、前記案内部は前記ターゲット回収手段の前記吸引部が前記受容部の前記開口部に向かう方向に徐々に縮径するテーパ形状を構成している。
【0012】
本発明の一態様に係るターゲット回収装置は、上記の発明において、前記投入部の前記断面の形状が、矩形状、円形状、楕円形状、トラック形状、または多角形状である。
【0013】
本発明の一態様に係るターゲット回収装置は、上記の発明において、前記受容部の前記開口部は、内部に保持される前記ターゲット保持具の外形よりも小さい開口を形成しており、前記ターゲット回収手段による前記ターゲットの取り出し時に前記ターゲット保持具が取り出されないように構成される。
【0014】
本発明の一態様に係るターゲット回収装置は、上記の発明において、前記ターゲット回収手段は、所定の操作機構により把持可能な把持部を連結可能な連結部を有する。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るターゲット回収装置は、ターゲット保持具からターゲットを安全に回収することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明の一実施形態によるターゲット回収装置を示す斜視図である。
図2図2は、本発明の一実施形態によるターゲット回収装置を示す正面図である。
図3図3は、本発明の一実施形態によるターゲット回収装置を示す上面図である。
図4図4は、本発明の一実施形態によるターゲット回収装置を示す側面図である。
図5A図5Aは、本発明の一実施形態によるターゲット回収装置によって回収されるターゲットホルダの平面図である。
図5B図5Bは、本発明の一実施形態によるターゲット保持具に用いられるCリングの平面図である。
図6図6は、図5AのVI-VI線に沿ったターゲット保持具の断面図である。
図7図7は、本発明の一実施形態によるターゲット回収装置を適用可能な従来のターゲット処理装置を示す部分斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の実施形態の全図においては、同一または対応する部分には同一の符号を付す。また、本発明は以下に説明する実施形態によって限定されるものではない。
【0018】
まず、本発明の理解を容易にするために、従来技術の問題点について説明する。図7は、本発明を適用する従来のターゲット処理装置を示す図である。ターゲット処理装置100は、ホットセル内に設置される。図7に示すように、ターゲット処理装置100は、ターゲット回収漏斗101、ターゲット回収操作部102、ターゲット操作部103a,103b、格納扉104、空気圧式アクチュエータ105、および取付フランジ106を備える。
【0019】
ターゲット40を保持したターゲット保持具50(図7中、いずれも図示せず)は、ターゲット格納容器107に格納されて、気送管を通じてターゲット処理装置100に搬送される。次に、格納扉104を開けることにより、搬送されたターゲット格納容器107を開放する。続いて、マニピュレータ(図示せず)によってターゲット格納容器107を把持しつつ、空気圧式アクチュエータ105によってインターセプトピン105aが操作され、ターゲット格納容器107の保持が解放される。次に、マニピュレータを操作することにより、ターゲット格納容器107を外部に取り出し、取り出したターゲット格納容器107の蓋をスリット108の部分に引っ掛けて、下方に引っ張る。これにより、ターゲット格納容器107の蓋が外されて、ターゲット40を保持したターゲット保持具50が開放される。マニピュレータは、ターゲット格納容器107をターゲット回収漏斗101まで移動させて傾けることにより、格納されていたターゲット保持具50をターゲット回収漏斗101に投入する。その後、ターゲット回収漏斗101の下部からターゲット40を保持したターゲット保持具50を回収する。回収されたターゲット保持具50は、自動合成装置の溶解部まで移動されて投入される。
【0020】
しかしながら、ターゲット保持具50により保持された状態でターゲット40を自動合成装置の溶解部に投入して無機酸を通液させると、ターゲット保持具50は、無機酸に接触することで汚染されてしまう。また、手技実験のために、ターゲット40およびターゲット保持具50をホットセルから別の位置に移動させる場合、容器内の汚染を防ぐために、ディスポーザブル容器に入れてから遮蔽容器に移す必要がある。この場合、ターゲット格納容器107を傾けて、ターゲット保持具50をディスポーザブル容器に投入する際に、所望しない位置に落下する可能性がある。ホットセル内の作業台などの、所望しない場所に落下した場合、グローブボックスに手を入れてピンセットなどでターゲット保持具50を把持する必要があるが、線量の高いグローブボックスに手を入れると被曝する可能性が生じる。
【0021】
そこで、本発明者は鋭意検討を行い、上述したターゲット処理装置100に搬送されてきたターゲット格納容器107からターゲット保持具50を取り出して収納した後、ターゲット保持具50からターゲット40を取り外すことができる技術を案出した。本発明者の案出によれば、ターゲット保持具50を収納するターゲット受容手段と、ターゲット受容手段に収納されたターゲット保持具50からターゲット40を分離させるためのターゲット回収手段とを設けることが望ましい。また、ターゲット保持具50から取り外したターゲット40を、ターゲット回収手段によって所望とする位置まで搬送することができれば、所望しない位置に落下することを抑制することができる。以下に説明する一実施形態は、上述した本発明者の鋭意検討により案出されたものである。
【0022】
図1図2図3、および図4はそれぞれ、本実施形態によるターゲット回収装置を示す斜視図、正面図、上面図、および側面図である。図1図4に示すように、本実施形態によるターゲット回収装置1は、ターゲット受容部10およびターゲット回収部20を備える。なお、説明の便宜上、図1図4において、ターゲット回収装置1に対して、X方向、Y方向、およびZ方向を規定する。X方向は、水平方向であって、ターゲット回収部20をターゲット受容部10に挿入する方向である。Y方向は、水平方向であって、X方向に直交する方向である。Z方向は、X方向およびY方向に直交する方向である。
【0023】
ターゲット受容手段としてのターゲット受容部10は、ホットセルに搬送されたカプセル容器(いずれも図示せず)からターゲット40を保持したターゲット保持具50を受容可能に構成される。ターゲット受容部10は、漏斗部11、受容部12、およびアクセス部13を有して構成される。ターゲット受容部10は、硬度が回収対象となるターゲット40の硬度よりも小さい材料、具体的に例えば、ポリプロピレンやエポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂などの高分子材料から構成される。これにより、ターゲット40がターゲット受容部10の部分に接触して変形する可能性を低減できる。
【0024】
投入部としての漏斗部11は、Z方向に沿って上方側から下方側に向かって、開口11aのXY平面に沿った断面積が受容部12の上部の開口12aの大きさまで小さくなる漏斗形状に構成される。すなわち、漏斗部11において、入口側の開口11aの開口面積が、出口側の開口12aの開口面積より大きくなるように構成されている。換言すると、漏斗部11は、Z方向上方から下方に向かってすぼまった形状を有する。また、図3に示すように、漏斗部11および受容部12の上方視において、受容部12の開口12aが開口11aの上部より内側に位置するように構成するのが好ましい。これにより、ターゲット40を保持したターゲット保持具50を漏斗部11に投入した場合に、受容部12にターゲット保持具50を安定して収納させることができる。なお、ターゲット40、およびターゲット40を保持するターゲット保持具50の詳細について後述する。
【0025】
漏斗部11の上面における開口11aの内周部の形状は、例えば、Y方向に沿った幅W0が50mm、X方向に沿った長さL0が30mmの矩形状(長方形状)である。漏斗部11は、ターゲット保持具50の投入側から受容部12に向かう方向(Z方向)に対して直角な断面(XY平面)において、開口11aの断面積が減少するように構成される。漏斗部11の上面形状およびXY平面に沿った断面形状は、ターゲット40を保持したターゲット保持具50を投入可能であれば、必ずしも矩形状に限定されず、例えば円形状、楕円形状、多角形状、またはトラック形状など種々の形状を採用できる。
【0026】
受容部12は、ターゲット保持具50の盤面がYZ平面に略平行になる起立状態で収納可能に構成される。受容部12の上部には、漏斗部11と連続した開口12aが形成されている。受容部12の下部の内周は、ターゲット保持具50の外周形状に沿った形状、ここでは例えば扇状に形成されている。また、受容部12の内面寸法は、ターゲット保持具50が起立状態で受容可能な寸法が選択される。すなわち、受容部12の内面寸法のX方向に沿った長さL2は、ターゲット保持具50の厚さ以上に形成される。また、ターゲット保持具50を略起立状態で収納する必要がある場合、受容部12の内面の長さL2は、本実施形態においては、例えば3mm以上5mm以下の範囲から選択される。これにより、盤形状のターゲット保持具50の側面は、受容部12の下部の内周部分によって支持されるため、受容部12は、ターゲット保持具50を、その盤面がYZ平面に略平行になる起立状態で受容可能になる。
【0027】
受容部12のアクセス部13側には、図2に示すX方向視において、ターゲット40の径よりやや大きい開口径φの開口部である吸引口12bが形成されている。換言すると吸引口12bはYZ平面に略平行に開口されている。吸引口12bは、ターゲット保持具50を受容した状態で、ターゲット40の盤面の略全面が吸引口12bから露出可能な位置に形成される。これにより、ターゲット保持具50が受容部12に受容された際に、ターゲット回収部20が、吸引口12bを通じて、外部からターゲット40にアクセスして密着させることが可能となる。そのため、吸引口12bの開口径φは、ターゲット保持具50の最大径未満、かつターゲット40の径より大きい範囲から選択される。これにより、ターゲット40の露出側である吸引口12bからターゲット保持具50が取り外し不能な状態となる。ここで、ターゲット40の外径は例えば8mm以上12mm以下であり、厚さは例えば0.125mm以上0.55mm以下である。本実施形態におけるターゲット40の寸法の一例を挙げると、外径が例えば12mmであり厚さが例えば0.55mmである。そこで、吸引口12bの開口径φは、ターゲット40の外径に対して、1倍より大きく1.5倍以下、本実施形態においては具体的に、12mmより大きく18mm以下から選択され、具体的には例えば15mmに選択される。
【0028】
アクセス部13は、受容部12の吸引口12b側に設けられる。アクセス部13は、ターゲット回収部20における吸引部23を挿入可能な、開口13aおよび案内部13bを有する。
【0029】
案内部13bにおける開口13aの近傍は、受容部12側に向かって縮径する例えばテーパ形状に形成されている。これにより、ターゲット回収部20の吸引部23を受容部12における吸引口12bまで移動させる際に、案内部13bによって吸引部23を吸引口12bまで円滑に案内することができる。なお、案内部13bの内周のYZ断面の形状は、基本形状が円形状であり、これにより吸引部をより正確に受容部に位置案内することができる。
【0030】
アクセス部13のX方向に沿った長さL1は、漏斗部11および受容部12を含めてターゲット受容部10が自立可能な長さ、例えば20mm以上から選択され、具体的には例えば30mmに選択される。また、アクセス部13のY方向に沿った幅W1は、長さL1とともにターゲット受容部10が自立可能な幅とすることができ、具体的には例えば40mmに選択される。なお、アクセス部13を所定の位置や作業台に固定させて使用する場合、ターゲット受容部10は自立不能であっても良いため、必ずしも長さL1や幅W1は上述した範囲に限定されない。また、必要に応じて、アクセス部13に比重が高い材料を用いても良い。
【0031】
ターゲット回収手段としてのターゲット回収部20は、吸引部カバー21、連結部22、および吸引部23を有して構成される。カバー部を構成する吸引部カバー21および連結部22は、連続して互いに固着されている。吸引部カバー21は、開口部21bを通じて嵌入部21aに吸引部23を着脱可能に構成されている。開口部21bの寸法は、例えばX方向に30mm、Y方向に15mmである。吸引部23の着脱は、開口部21bを通じて、2つのナット23aを締めたり緩めたりして行うことができる。また、吸引部カバー21のYZ断面の外周形状は部分的な円形状(扇形状)であるが、必ずしも部分的な円形状(扇形状)に限定されるものではなく、部分的な矩形状や多角形状などの他の形状であっても良い。
【0032】
吸引部カバー21は、回収対象となるターゲット40の硬度よりも小さい硬度の材料、具体的に例えば、ポリプロピレンやエポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂などの高分子材料から構成される。これにより、ターゲット40が吸引部カバー21の部分に接触して変形する可能性を低減できる。
【0033】
連結部22は、外周部に形成された開孔22aをねじ穴として使用することにより、ねじを用いて種々の操作用部材(いずれも図示せず)を自在に連結可能に構成される。なお、開孔22aの開口径は例えば4mm程度であり、連結部22には、1面当たり6穴、側面の4面で24穴の開孔22aが形成されている。複数の開孔22aを用いて、連結部22に、ターゲット回収部20の把持や移動などの操作を容易にするための操作用部材を連結することで、所定の操作機構として例えばマニピュレータ(図示せず)などの外部の操作機構による、ターゲット回収部20のロボットアーム操作が容易になる。換言すると、吸引部23に対して吸引部カバー21を被せ、連結部22に外部の操作機構が把持などの操作を行うための、把持部などの操作用部材を連結することによって、操作機構を用いて、吸引部カバー21、連結部22、および吸引部23を一体として操作できる。
【0034】
ターゲット40を密着可能かつ固定可能に構成された固定部としての吸引部23の周囲を囲む吸引部カバー21の外径Φ0は、ターゲット受容部10におけるアクセス部13の案内部13bの最も小さい内径と略同径であり、本実施形態においては例えば20mmである。これにより、案内部13bに挿入してターゲット40を吸着する場合に、案内部13bの内面に沿って吸引部23を安定して、前後(X方向)に抜き差しできる。
【0035】
吸引部23は、内部を真空引き可能な例えば金属接手から構成できる。本実施形態において金属接手としては、例えば、真空パッドソフトベローズタイプ(日本ピスコ社製)を用いることができるが、限定されない。吸引部23としては、ターゲット40を変形させることなく把持するために、スライド機能を有し、吸引側とは反対側の端部には、吸引力を発生する真空引き可能な吸引力発生装置(図示せず)と接続されるチューブを接続可能な接手が接続されていることが望ましい。なお、ターゲット40の変形を抑制するための機能として、スライド機能を備えていることが望ましい。
【0036】
吸引部23におけるターゲット40と接触する先端、すなわちターゲット40との接触部分には、例えば吸盤状の緩衝部材23bが設けられている。緩衝部材23bは例えばシリコーンなどにより構成される。緩衝部材23bは、ターゲット40を密着させて固定した場合に、ターゲット40を傷つけない材料から構成される。緩衝部材23bのYZ平面に沿った径は、例えば10mmである。吸引部23の先端部に緩衝部材23bを設けることによって、ターゲット40の吸着を容易に行うことができる。さらに、吸盤形状の緩衝部材23bによって、吸引部23によるターゲット40の変形を抑制しつつ、吸着をより一層容易に行うことができる。
【0037】
図5Aおよび図5Bはそれぞれ、本実施形態によるターゲット保持具に用いられるターゲットホルダおよびCリングの平面図である。図6は、図5AのVI-VI線に沿ったターゲット保持具の断面図である。
【0038】
図5A図5B、および図6に示すように、ターゲット保持具50を構成するターゲットホルダ51は、断面が逆テーパ形状の凹部51aが形成され、凹部51a内にターゲット40を収納可能に構成されている。ターゲットホルダ51の外径φ0は、ターゲット40の外径より大きく、例えば24mmである。ターゲット保持具50を構成するCリング52は、内径φ1が例えばターゲット40の外径と略同径の例えば12mm程度であるが、角度θで一部が切欠けた状態から縮径されて、設置時の内径がターゲット40の外径より小さくなるように構成される。図6に示すように、Cリング52は、ターゲット40がターゲットホルダ51から落下することを抑制するために、ターゲットホルダ51とターゲット40を挟む位置に設置される。なお、本実施形態においては、ターゲット保持具50をターゲットホルダ51およびCリング52から構成しているが、必ずしもCリング52を用いる必要はない。また、ターゲット保持具50は、本実施態様においては略円形のもので構成しているが、必ずしも円形に限定されるものではなく、矩形形状などの他の形状であっても良く、特に形状が限定されるものではない。
【0039】
本発明者は、ターゲット40として、外径が12.8mm、質量が0.3gのターゲットを用い、ターゲット回収部20の吸引部23に発生させる吸引力、すなわち吸引圧力について実験および検討を行った。なお、吸引力は、例えばポンプなどの吸引力発生装置によって得られるが、吸引部23における吸引圧力が低下するほど吸引力は増加する。本発明者の実験によれば、吸引圧力が450hPa以下、好適には350hPa以下であれば、ターゲット保持具50からターゲット40を離脱させて吸引できることが判明した。吸引圧力が450hPaより大きく500hPa以下の場合には、ターゲット回収部20の吸引部23の先端と、ターゲット40との接触状態によって吸引できない場合が生じることが判明した。さらに、吸引圧力が500hPa以上の場合には、ターゲット40が吸引できない場合が増加した。
【0040】
以上の実験から、ターゲット40の重量が0.3gの場合において、吸引圧力を450hPa以下、好適には350hPa以下にすることによって、ターゲット回収部20によってターゲット40を吸着して回収できることが判明した。なお、ターゲット40の重量が0.3gより大きい場合、吸引圧力をさらに低下させたり、吸引部23の先端の緩衝部材23bのターゲット40との接触面積を大きくしたりすることで、ターゲット40の吸着の確実性を向上させることができる。
【0041】
以上のように構成されたターゲット回収装置1に、ターゲット40を保持したターゲット保持具50を投入する。ここで、ターゲット保持具50を、保持しているターゲット40が開放された盤面側が吸引口12bの側になるように、漏斗部11に投入する。漏斗部11から落下したターゲット保持具50は、ターゲット40が吸引口12bから露出した状態で、受容部12において起立状態で受容される。
【0042】
一方、例えばマニピュレータ(図示せず)を用いて、ターゲット回収部20を把持し、ロボットアーム操作によって、吸引部23をターゲット受容部10のアクセス部13に挿入させる。ターゲット40が吸引口12bから露出した状態で、吸引部23の吸引圧力を所定の圧力まで低下させて、いわゆる負圧にし、先端の緩衝部材23bをターゲット40の露出面の部分に密着させる。これによって、ターゲット40が吸引部23に吸引される。
【0043】
続いて、ロボットアーム操作によってターゲット回収部20をターゲット受容部10から離す方向に移動させることによって、吸引部23がアクセス部13から抜き出される。これにより、ターゲット保持具50が受容部12内に残る一方、ターゲット40は、ターゲット保持具50から取り外され、吸引部23の先端に吸着された状態で回収される。ターゲット40は、吸引部23に吸着されてターゲット回収部20に保持された状態で、所定位置に移動される。
【0044】
次に、所定位置において、吸引部23の吸引圧力をターゲット40が吸引部23から離脱する圧力まで上昇させてターゲット40を離脱させ、自動合成装置の溶解部や使い捨て容器(ディスポーザブル容器)に投入する。以上により、人間の手技などを用いることなく、原子核反応が行われた状態の放射性を有するターゲット40だけをターゲット保持具50から取り外して、後段の目的とする放射性物質の精製処理のために、無機酸などに投入する作業を安全に行うことが可能になる。
【0045】
以上説明したように、一実施形態によれば、ターゲット保持具50から、安全にターゲット40のみを取り出して回収できるので、ターゲット保持具50ごと溶解液に投入する必要がなくなるため、溶解液によるターゲット保持具50の腐食や、溶解液による汚染を抑制できる。また、ターゲット保持具50からのターゲット40の取り出しを安定して行うことができるので、ターゲット40の所望しない落下を抑制できる。また、搬送用カプセル(図示せず)からターゲット受容部10にターゲット40を保持したターゲット保持具50を投入して、ターゲット回収部20における吸引部23の先端部をターゲット40に押し付けて吸引し、ターゲット40を引き出すことによって、回収することができる。そのため、ターゲット40を吸引部23に吸着させた状態で、自動合成装置の溶解部やディスポーザブル容器に投入することができるので、放射性を有するターゲット40を安全に移動させることができる。なお、特許文献1,2に記載の技術は、固体ターゲットを放射線遮蔽容器によって回収するための技術であって、遮蔽容器から取り出す技術に関する本実施形態とは適用する対象が異なる。
【0046】
以上、本発明の実施形態について具体的に説明したが、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。例えば、上述の実施形態において挙げた数値はあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる数値を用いてもよい。上述した実施形態の構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。また、さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付のクレームおよびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。
【0047】
例えば、上述した固体のターゲット40としては、89Y以外にも、ニッケル-64(64Ni)、亜鉛-68(68Zn)、カドミウム-111(111Cd)、タリウム-203(203Tl)などを挙げることができる。ターゲット40としては、ターゲット40の吸着に対して所定強度以上の強度を有していれば、これらの材料に限定されない。また、これらのターゲットによって製造可能な核種および原子核反応式としては、64Ni(p,n)64Cu、68Zn(p,2n)67Ga、89Y(p,n)89Zr、111Cd(p,n)111In、203Tl(p,3n)201Pb→201Tlなどを挙げることができる。
【0048】
例えば、ターゲットホルダ51の材料としては、アルミニウム(Al)、ニオブ(Nb)、プラチナ(Pt)、金(Au)などを挙げることができるが、必ずしもこれらの材料に限定されない。ターゲットホルダ51の材料としては、以下の(1)~(6)の要件を全て満足する材料を採用することが好ましい。
(1)強度が十分に高い。
(2)熱伝導度が高い。
(3)融点が高い。
(4)化学的に安定であって酸化しにくい。
(5)無機酸によって侵されない。
(6)放射化しても速やかに減衰する娘核種のみを生成する。
【符号の説明】
【0049】
1 ターゲット回収装置
10 ターゲット受容部
11 漏斗部
11a,12a,13a 開口
12 受容部
12b 吸引口
13 アクセス部
13b 案内部
20 ターゲット回収部
21 吸引部カバー
21a 嵌入部
21b 開口部
22 連結部
22a 開孔
23 吸引部
23a ナット
23b 緩衝部
40 ターゲット
50 ターゲット保持具
51 ターゲットホルダ
51a 凹部
52 Cリング
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7