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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】車両
(51)【国際特許分類】
   B60K 1/02 20060101AFI20240409BHJP
   B60L 9/18 20060101ALI20240409BHJP
   B60L 15/00 20060101ALI20240409BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20240409BHJP
   H02P 5/46 20060101ALI20240409BHJP
   H02K 7/116 20060101ALI20240409BHJP
   B60K 1/04 20190101ALI20240409BHJP
   F16H 57/04 20100101ALI20240409BHJP
   F16H 57/023 20120101ALI20240409BHJP
【FI】
B60K1/02
B60L9/18 P
B60L15/00 Z
B60L15/20 S
H02P5/46 H
H02K7/116
B60K1/04 Z
F16H57/04 J
F16H57/04 N
F16H57/023
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021158215
(22)【出願日】2021-09-28
(65)【公開番号】P2023048736
(43)【公開日】2023-04-07
【審査請求日】2023-09-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】花井 孝佳
(72)【発明者】
【氏名】高橋 望
【審査官】渡邊 義之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/079615(WO,A1)
【文献】特開2014-84102(JP,A)
【文献】特開2010-149811(JP,A)
【文献】特開2013-233018(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 1/02
B60L 9/18
B60L 15/00
B60L 15/20
H02P 5/46
H02K 7/116
B60K 1/04
F16H 57/04
F16H 57/023
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の前輪を駆動する前輪駆動ユニットと、一対の後輪を駆動する後輪駆動ユニットと、を備えた車両であって、
前記前輪駆動ユニットは、
第1ロータを備えた第1回転電機と、
第1差動入力ギヤに伝達される駆動力を一対の前記前輪に分配する第1差動歯車機構と、
前記第1ロータと前記第1差動入力ギヤとの間で駆動力の伝達を行う第1伝達ギヤ機構と、
前記第1回転電機、前記第1差動歯車機構、及び前記第1伝達ギヤ機構を収容する第1収容室を形成する第1ケースと、を備え、
前記第1ロータが第1軸上に配置され、前記第1差動入力ギヤが前記第1軸と平行且つ前記第1軸とは異なる第2軸上に配置され、
前記後輪駆動ユニットは、
第2ロータを備えた第2回転電機と、
第2差動入力ギヤに伝達される駆動力を一対の前記後輪に分配する第2差動歯車機構と、
前記第2ロータと前記第2差動入力ギヤとの間で駆動力の伝達を行う第2伝達ギヤ機構と、
前記第2回転電機、前記第2差動歯車機構、及び前記第2伝達ギヤ機構を収容する第2収容室を形成する第2ケースと、を備え、
前記第2ロータが第3軸上に配置され、前記第2差動入力ギヤが前記第3軸と平行且つ前記第3軸とは異なる第4軸上に配置され、
車両前後方向における前記後輪に対して前記前輪の側を前後方向前側とし、その反対側を前後方向後側とし、
車両幅方向における一方側を幅方向第1側とし、他方側を幅方向第2側として、
前記前輪駆動ユニットでは、前記第1軸が前記第2軸に対して前記前後方向前側に配置されると共に、前記第1ロータが前記第1伝達ギヤ機構に対して前記幅方向第1側に配置され、
前記後輪駆動ユニットでは、前記第3軸が前記第4軸に対して前記前後方向後側に配置されると共に、前記第2ロータが前記第2伝達ギヤ機構に対して前記幅方向第2側に配置され、
前記第1軸と前記第2軸との軸間距離と、前記第3軸と前記第4軸との軸間距離とが同じであり、
前記第1伝達ギヤ機構の側から見た前記第1ロータの回転方向と、前記第2伝達ギヤ機構の側から見た前記第2ロータの回転方向とが、当該車両の走行時に逆方向である、車両。
【請求項2】
前記第1伝達ギヤ機構は、前記第1軸及び前記第2軸と平行且つこれらとは異なる第5軸上に配置された第1カウンタギヤ機構を備え、
前記第2伝達ギヤ機構は、前記第3軸及び前記第4軸と平行且つこれらとは異なる第6軸上に配置された第2カウンタギヤ機構を備え、
前記第1軸と前記第2軸と前記第5軸との相互の軸間距離と、前記第3軸と前記第4軸と前記第6軸との相互の軸間距離とが同じである、請求項1に記載の車両。
【請求項3】
前記第1軸と前記第2軸とを含む平面と、前記第1軸と前記第5軸とを含む平面との角度と、前記第3軸と前記第4軸とを含む平面と、前記第3軸と前記第6軸とを含む平面との角度とが同じであり、且つ、
前記第2軸と前記第1軸とを含む平面と、前記第2軸と前記第5軸とを含む平面との角度と、前記第4軸と前記第3軸とを含む平面と、前記第4軸と前記第6軸とを含む平面との角度とが同じであり、且つ、
前記第5軸と前記第1軸とを含む平面と、前記第5軸と前記第2軸とを含む平面との角度と、前記第6軸と前記第3軸とを含む平面と、前記第6軸と前記第4軸とを含む平面との角度とが同じである、請求項2に記載の車両。
【請求項4】
前記第1伝達ギヤ機構は、前記第1ロータと一体的に回転する第1ロータ出力ギヤと、前記第1カウンタギヤ機構と、を備え、
前記第1カウンタギヤ機構は、第1ギヤと、当該第1ギヤと一体的に回転する第2ギヤとを備え、
前記第1ギヤと前記第1ロータ出力ギヤとが噛み合い、前記第2ギヤと前記第1差動入力ギヤとが噛み合い、
前記第2伝達ギヤ機構は、前記第2ロータと一体的に回転する第2ロータ出力ギヤと、前記第2カウンタギヤ機構と、を備え、
前記第2カウンタギヤ機構は、第3ギヤと、当該第3ギヤと一体的に回転する第4ギヤとを備え、
前記第3ギヤと前記第2ロータ出力ギヤとが噛み合い、前記第4ギヤと前記第2差動入力ギヤとが噛み合い、
前記車両幅方向において前記第1ギヤに対して前記第2ギヤが配置されている側と、前記第3ギヤに対して前記第4ギヤが配置されている側とが反対側である、請求項2又は3に記載の車両。
【請求項5】
前記第1回転電機を駆動制御する第1制御装置と、前記第2回転電機を駆動制御する第2制御装置とを備え、
前記第1制御装置と前記第2制御装置とは、電気的特性が同じ回路部品により構成された同一の回路構成を備え、
前記第1ケースは前記第1制御装置を収容する第3収容室を備え、
前記第2ケースは前記第2制御装置を収容する第4収容室を備える、請求項1から4の何れか一項に記載の車両。
【請求項6】
前記前輪駆動ユニットは、前記第1差動入力ギヤ及び前記第1伝達ギヤ機構を構成するギヤの回転によって掻き上げられた油が貯留される第1キャッチタンクを備え、
前記後輪駆動ユニットは、前記第2差動入力ギヤ及び前記第2伝達ギヤ機構を構成するギヤの回転によって掻き上げられた油が貯留される第2キャッチタンクを備え、
前記前輪及び前記後輪が、当該車両が前進する方向に回転している状態を正転状態とし、当該車両が後進する方向に回転している状態を逆転状態として、
前記第1キャッチタンクは、前記前輪の正転状態及び逆転状態のいずれの状態でも、前記第1差動入力ギヤ及び前記第1伝達ギヤ機構を構成するギヤの少なくとも一方により掻き上げられた油が貯留されるように構成され、
前記第2キャッチタンクは、前記後輪の正転状態及び逆転状態のいずれの状態でも、前記第2差動入力ギヤ及び前記第2伝達ギヤ機構を構成するギヤの少なくとも一方により掻き上げられた油が貯留されるように構成されている、請求項1から5の何れか一項に記載の車両。
【請求項7】
前記前輪駆動ユニットにおける前記第1軸に平行な方向、及び、前記後輪駆動ユニットにおける前記第3軸に平行な方向を軸方向とし、前記軸方向の一方側を軸方向第1側とし、前記軸方向の他方側を軸方向第2側として、
前記前輪駆動ユニットは、前記軸方向に沿って延在すると共に前記第1回転電機の外周面に対向するように配置され、内部に油が流通する第1油路が形成された第1油路形成部を備え、
前記第1油路形成部には、前記第1油路に連通していると共に前記第1回転電機に向かって開口する第1油供給孔が複数形成され、
前記後輪駆動ユニットは、前記軸方向に沿って延在すると共に前記第2回転電機の外周面に対向するように配置され、内部に油が流通する第2油路が形成された第2油路形成部を備え、
前記第2油路形成部には、前記第2油路に連通していると共に前記第2回転電機に向かって開口する第2油供給孔が複数形成され、
前記第1回転電機と前記第2回転電機との前記軸方向の寸法が異なり、
前記第1回転電機の前記軸方向第1側の端部を基準とした複数の前記第1油供給孔の位置関係と、前記第2回転電機の前記軸方向第1側の端部を基準とした複数の前記第2油供給孔の位置関係と、が互いに異なる、請求項1から6の何れか一項に記載の車両。
【請求項8】
前記第1軸と前記第5軸とを含む平面と水平面との角度と、前記第3軸と前記第6軸とを含む平面と水平面との角度とが同じである、請求項2又は3に記載の車両。
【請求項9】
前記第1軸と前記第2軸とを含む平面と水平面との角度と、前記第3軸と前記第4軸とを含む平面と水平面との角度とが同じである、請求項1から8の何れか一項に記載の車両。
【請求項10】
前記第1ケースと前記第2ケースとは、共通の金型を用いて鋳造されている、請求項1から9の何れか一項に記載の車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一対の前輪を駆動する前輪駆動ユニットと、一対の後輪を駆動する後輪駆動ユニットとを備えた車両に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2015-61414号公報には、前輪駆動ユニットと後輪駆動ユニットとを備えた電動車両が開示されている。この電動車両は、通常走行時には前輪駆動ユニットによる二輪駆動で走行し、雪道等の特定走行時に後輪駆動ユニットの駆動力も用いて四輪駆動可能なように構成されている。この電動車両では、前輪駆動用ユニットと後輪駆動ユニットとは、回転電機の仕様、ギヤなどの伝達機構の構造、軸の配置関係等、駆動ユニットの構造が異なる駆動ユニットである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-61414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したように、上記の電動車両では、前輪駆動ユニットと後輪駆動ユニットとで駆動ユニットの構造が異なり、前輪駆動ユニットと後輪駆動ユニットとをそれぞれ別々に設計、製造する必要がある。このため、4輪駆動の車両を実現するための開発コスト及び製造コストが高くなる傾向がある。
【0005】
上記に鑑みて、より低コストで4輪駆動用の駆動ユニットを備えた車両を実現する技術の提供が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記に鑑みた、一対の前輪を駆動する前輪駆動ユニットと、一対の後輪を駆動する後輪駆動ユニットとを備えた車両は、前記前輪駆動ユニットが、第1ロータを備えた第1回転電機と、第1差動入力ギヤに伝達される駆動力を一対の前記前輪に分配する第1差動歯車機構と、前記第1ロータと前記第1差動入力ギヤとの間で駆動力の伝達を行う第1伝達ギヤ機構と、前記第1回転電機、前記第1差動歯車機構、及び前記第1伝達ギヤ機構と、を収容する第1収容室を形成する第1ケースと、を備え、前記第1ロータが第1軸上に配置され、前記第1差動入力ギヤが前記第1軸と平行且つ前記第1軸とは異なる第2軸上に配置され、前記後輪駆動ユニットが、第2ロータを備えた第2回転電機と、第2差動入力ギヤに伝達される駆動力を一対の前記後輪に分配する第2差動歯車機構と、前記第2ロータと前記第2差動入力ギヤとの間で駆動力の伝達を行う第2伝達ギヤ機構と、前記第2回転電機、前記第2差動歯車機構、及び前記第2伝達ギヤ機構と、を収容する第2収容室を形成する第2ケースと、を備え、前記第2ロータが第3軸上に配置され、前記第2差動入力ギヤが前記第3軸と平行且つ前記第3軸とは異なる第4軸上に配置され、車両前後方向における前記後輪に対して前記前輪の側を前後方向前側とし、その反対側を前後方向後側とし、車両幅方向における一方側を幅方向第1側とし、他方側を幅方向第2側として、前記前輪駆動ユニットでは、前記第1軸が前記第2軸に対して前記前後方向前側に配置されると共に、前記第1ロータが前記第1伝達ギヤ機構に対して前記幅方向第1側に配置され、前記後輪駆動ユニットでは、前記第3軸が前記第4軸に対して前記前後方向後側に配置されると共に、前記第2ロータが前記第2伝達ギヤ機構に対して前記幅方向第2側に配置され、前記第1軸と前記第2軸との軸間距離と、前記第3軸と前記第4軸との軸間距離とが同じであり、前記第1伝達ギヤ機構の側から見た前記第1ロータの回転方向と、前記第2伝達ギヤ機構の側から見た前記第2ロータの回転方向とが、当該車両の走行時に逆方向である。
【0007】
この構成によれば、4輪駆動用の駆動ユニットの駆動力源として回転電機をそれぞれ備えた前輪駆動ユニットと後輪駆動ユニットとを備えた車両において、これらの駆動ユニットのケースにおいて回転電機が配置された軸と差動歯車機構が配置された軸との2つの軸の位置関係が共通である。従って、前輪駆動ユニットと後輪駆動ユニットとで、内部構造の一部又は全部、及び、ケース構造の一部又は全部を共通化し易い。これにより、4輪駆動用の駆動ユニットの部品種類数の削減、及び、低コスト化を図り易い。また、前輪駆動ユニットにおいては、前輪が連結される車軸である第2軸よりも前後方向前側に第1回転電機が配置され、後輪駆動ユニットにおいては、後輪が連結される車軸である第4軸よりも前後方向後側に第2回転電機が配置されているため、前輪の車軸と後輪の車軸との間にスペースを確保し易い。これにより、当該スペースに蓄電装置などを搭載し易く、車室も確保し易い。例えば、前輪駆動ユニットと同じように、第4軸よりも前後方向前側に第2回転電機が配置されていると、後席の足元の空間が確保しにくくなる可能性がある。しかし、本構成によると、後席の足元の空間も確保し易く、居住性の高い車両を実現することができる。即ち、本構成によれば、低コストで4輪駆動用の駆動ユニットを備えた車両を実現することができる。
【0008】
車両のさらなる特徴と利点は、図面を参照して説明する例示的且つ非限定的な実施形態についての以下の記載から明確となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】駆動ユニットの基本構造の一例を示す軸方向断面図
図2】駆動ユニットの基本構造の一例を示すスケルトン図
図3】駆動ユニットの基本構造の一例を模式的に示す軸直交断面図
図4】前輪駆動ユニットと後輪駆動ユニットとを搭載した車両の一例を模式的に示す側面図
図5】前輪駆動ユニットと後輪駆動ユニットとを搭載した車両の一例を模式的に示す平面図
図6】前輪駆動ユニット及び後輪駆動ユニットの軸の配置関係(軸間距離等)を示す図
図7】前輪駆動ユニット及び後輪駆動ユニットの軸の配置関係(配置角度)を示す図
図8】第1回転電機及び第2回転電機を駆動制御するシステムの模式的ブロック図
図9】正転状態における前輪駆動ユニットの第1キャッチタンクへの油の導入例を示す図
図10】正転状態における後輪駆動ユニットの第2キャッチタンクへの油の導入例を示す図
図11】第1油路を介した第1回転電機への油の供給例を示す図
図12】第2油路を介した第2回転電機への油の供給例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、車両の実施形態を図面に基づいて説明する。図4に示すように、本実施形態の車両100は、一対の前輪WFを駆動する前輪駆動ユニット1Fと、一対の後輪WRを駆動する後輪駆動ユニット1Rとを備えている。本実施形態では、前輪駆動ユニット1Fと後輪駆動ユニット1Rとは、細部を除いてほぼ同一の構成であり、それぞれの駆動ユニットの詳細部分の説明については、特に断りのない場合は、一対の車輪Wを駆動する駆動ユニット1として説明する。図1図2図3は、駆動ユニット1の構造について示している。
【0011】
以下の説明における各部材についての方向は、駆動ユニット1が車両100に組み付けられた状態(車両搭載状態)での方向を表す。また、各部材についての寸法、配置方向、配置位置等に関する用語は、誤差(製造上許容され得る程度の誤差)による差異を有する状態を含む概念である。車両搭載状態において、駆動ユニット1の回転軸(本実施形態では互いに平行な別軸である各軸(例えば、A1(A1F又はA1R)、A2(A2F又はA2R)、A3(A3F又はA3R)、詳細は後述する)に沿った方向を軸方向Lと称する。また、上記の各軸のそれぞれに直交する方向を、各軸を基準とした「径方向」とする。また、駆動ユニット1が車両100に取り付けられた状態で鉛直方向に沿う方向を「上下方向Z」とする。軸方向Lが水平面に平行な状態で駆動ユニット1が車両100に取り付けられる場合には、径方向の1方向と上下方向Zとが一致する。
【0012】
図1図2図4等に示すように、前輪駆動ユニット1Fは、第1ロータ21Fを備えた第1回転電機2Fと、第1差動入力ギヤ51Fに伝達される駆動力を一対の前輪WFに分配する第1差動歯車機構5Fと、第1ロータ21Fと第1差動入力ギヤ51Fとの間で駆動力の伝達を行う第1伝達ギヤ機構6Fと、第1ケース10Fとを備えている。第1ケース10Fは、第1回転電機2F、第1差動歯車機構5F、及び第1伝達ギヤ機構6Fを収容する第1収容室E1Fを形成する。第1ロータ21Fは、前輪側入力軸A1F(第1軸)上に配置され、第1差動入力ギヤ51Fは、前輪側入力軸A1Fと平行且つ前輪側入力軸A1Fとは異なる前輪側出力軸A2F(第2軸)上に配置されている。
【0013】
後輪駆動ユニット1Rは、第2ロータ21Rを備えた第2回転電機2Rと、第2差動入力ギヤ51Rに伝達される駆動力を一対の後輪WRに分配する第2差動歯車機構5Rと、第2ロータ21Rと第2差動入力ギヤ51Rとの間で駆動力の伝達を行う第2伝達ギヤ機構6Rと、第2ケース10Rとを備えている。第2ケース10Rは、第2回転電機2R、第2差動歯車機構5R、及び第2伝達ギヤ機構6Rを収容する第2収容室E1Rを形成する。第2ロータ21Rは、後輪側入力軸A1R(第3軸)上に配置され、第2差動入力ギヤ51Rは、後輪側入力軸A1Rと平行且つ後輪側入力軸A1Rとは異なる後輪側出力軸A2R(第4軸)上に配置されている。
【0014】
ここで、図4に示すように、車両前後方向Xにおける後輪WRに対して前輪WFの側を前後方向前側XFとし、その反対側を前後方向後側XRとする。また、上下方向Zに沿う上下方向視で車両前後方向Xに直交する方向を車両幅方向Yとし、当該車両幅方向Yにおける一方側を幅方向第1側Y1とし、他方側を幅方向第2側Y2とする。図4に示すように、前輪駆動ユニット1Fでは、前輪側出力軸A2F(第2軸)に対して前輪側入力軸A1F(第1軸)が前後方向前側XFに配置されている。また、後輪駆動ユニット1Rでは、後輪側出力軸A2R(第4軸)に対して後輪側入力軸A1R(第3軸)が前後方向後側XRに配置されている。つまり、前輪駆動ユニット1Fと後輪駆動ユニット1Rとは、車両前後方向Xにおける軸の位置関係が反対となる状態で車両100に搭載されている。
【0015】
また、図5に示すように、前輪駆動ユニット1Fでは、第1ロータ21Fが第1伝達ギヤ機構6Fに対して幅方向第1側Y1(図4においては紙面奥側)に配置されており、後輪駆動ユニット1Rでは、第2ロータ21Rが前記第2伝達ギヤ機構6Rに対して幅方向第2側Y2(図4においては紙面手前側)に配置されている。つまり、前輪駆動ユニット1Fと後輪駆動ユニット1Rとは、車両幅方向Y(軸方向L)における第1回転電機2Fと第1差動歯車機構5Fとの位置関係と、第2回転電機2Rと第2差動歯車機構5Rとの位置関係とが、反対となる状態で車両100に搭載されている。そして、図6に示すように、前輪側入力軸A1F(第1軸)と前輪側出力軸A2F(第2軸)との軸間距離である前輪側第1軸間距離D12Fと、後輪側入力軸A1R(第3軸)と後輪側出力軸A2R(第4軸)との軸間距離である後輪側第1軸間距離D12Rとが同じである。また、第1伝達ギヤ機構6Fの側から見た第1ロータ21Fの回転方向と、第2伝達ギヤ機構6Rの側から見た第2ロータ21Rの回転方向とが、当該車両100の走行時に逆方向である(詳細は図8及び図9を参照して後述する)。
【0016】
詳細は後述するが、上述したように、本実施形態では、前輪駆動ユニット1Fと後輪駆動ユニット1Rとは、細部を除いてほぼ同一の構成である。そして、上述したように、前輪駆動ユニット1Fと後輪駆動ユニット1Rとは、車両前後方向Xにおける軸の位置関係が反対となる状態で車両100に搭載されていると共に、車両幅方向Y(軸方向L)における第1回転電機2Fと第1差動歯車機構5Fとの位置関係と、第2回転電機2Rと第2差動歯車機構5Rとの位置関係とが、互いに反対となる状態で車両100に搭載されている。即ち、前輪駆動ユニット1Fと後輪駆動ユニット1Rとは、上下方向Zに沿った仮想軸を対象軸として、ほぼ同一の構成の2つの駆動ユニット1が、180度回転対称の関係となる状態で車両100に搭載されている。
【0017】
詳細は後述するが、本実施形態では、4輪駆動用の駆動ユニット1の駆動力源として回転電機2(第1回転電機2F、第2回転電機2R)をそれぞれ備えた前輪駆動ユニット1Fと後輪駆動ユニット1Rとを備えた車両100において、これらの駆動ユニット1のケース10(第1ケース10F、第2ケース10R)における回転電機2が配置された入力軸A1(前輪側入力軸A1F、後輪側入力軸A1R)と、差動歯車機構5(第1差動歯車機構5F、第2差動歯車機構5R)が配置された出力軸A2(前輪側出力軸A2F、後輪側出力軸A2R)との2つの軸の位置関係が共通である。従って、前輪駆動ユニット1Fと後輪駆動ユニット1Rとで、内部構造の一部又は全部、及び、ケース構造の一部又は全部を共通化し易い。これにより、4輪駆動用の駆動ユニット1の部品種類数の削減、及び、低コスト化を図り易い。即ち、本実施形態によれば、低コストで4輪駆動用の駆動ユニット1を備えた車両100を実現することができる。
【0018】
また、前輪駆動ユニット1Fにおいては、前輪WFが連結される車軸である前輪側出力軸A2F(第2軸)よりも前後方向前側XFに第1回転電機2Fが配置され、後輪駆動ユニット1Rにおいては、後輪WRが連結される車軸である後輪側出力軸A2R(第4軸)よりも前後方向後側XRに第2回転電機2Rが配置されているため、前輪WFの車軸と後輪WRの車軸との間にスペースを確保し易い。これにより、当該スペースに高圧直流電源BHなどを搭載し易く、車室も確保し易い。例えば、前輪駆動ユニット1Fと同じように、後輪側出力軸A2Rよりも前後方向前側XFに第2回転電機2Rが配置されていると、後部座席の足元の空間が確保しにくくなる可能性がある。しかし、本実施形態では、後席の足元の空間も確保し易く、居住性の高い車両を実現することができる。
【0019】
以下、前輪駆動ユニット1Fと後輪駆動ユニット1Rとで共通する駆動ユニット1の詳細な構造について説明する。駆動ユニット1は、ロータ21を備えた回転電機2と、差動入力ギヤ51に伝達される駆動力を一対の車輪Wに分配する差動歯車機構5と、ロータ21と差動入力ギヤ51との間で駆動力の伝達を行う伝達ギヤ機構6と、ケース10とを備えている。ケース10は、回転電機2、差動歯車機構5、及び伝達ギヤ機構6を収容する機器収容室E1を形成する。ここで、ロータ21は第1ロータ21F及び第2ロータ21Rに対応し、回転電機2は、第1回転電機2F及び第2回転電機2Rに対応し、差動入力ギヤ51は、第1差動入力ギヤ51F及び第2差動入力ギヤ51Rに対応し、差動歯車機構5は、第1差動歯車機構5F及び第2差動歯車機構5Rに対応し、車輪Wは、前輪WF及び後輪WRに対応し、伝達ギヤ機構6は、第1伝達ギヤ機構6F及び第2伝達ギヤ機構6Rに対応し、機器収容室E1は、第1収容室E1F及び第2収容室E1Rに対応する。
【0020】
ロータ21は、入力軸A1上に配置され、差動入力ギヤ51は、入力軸A1と平行且つ入力軸A1とは異なる出力軸A2上に配置されている。入力軸A1は、前輪側入力軸A1F(第1軸)及び後輪側入力軸A1R(第3軸)に対応する。出力軸A2は、前輪側出力軸A2F(第2軸)及び後輪側出力軸A2R(第4軸)に対応する。
【0021】
本実施形態において、回転電機2は、一対の車輪Wを駆動する駆動源である。また、本実施形態では、ロータ21と差動入力ギヤ51との間で駆動力の伝達を行う伝達ギヤ機構6として、ロータ21と一体的に回転するロータ出力ギヤ31と、カウンタギヤ機構4とを備えている。後述するように、ロータ出力ギヤ31は、入力軸A1上に配置され、カウンタギヤ機構4は、入力軸A1及び出力軸A2と平行且つこれらとは異なるカウンタ軸A3上に配置されている。後述するように、ロータ出力ギヤ31は、前輪駆動ユニット1Fにおける第1ロータ出力ギヤ31F、及び後輪駆動ユニット1Rにおける第2ロータ出力ギヤ31Rに対応する。カウンタギヤ機構4は、前輪駆動ユニット1Fにおける第1カウンタギヤ機構4F、及び後輪駆動ユニット1Rにおける第2カウンタギヤ機構4Rに対応する。そして、カウンタ軸A3は、前輪駆動ユニット1Fにおける前輪側カウンタ軸A3F(第5軸)、及び後輪駆動ユニット1Rにおける後輪側カウンタ軸A3R(第6軸)に対応する。
【0022】
回転電機2は、例えば複数相の交流(例えば3相交流)により動作する回転電機(Motor/Generator)であり、電動機としても発電機としても機能することができる。回転電機2は、直流電源(図8に示す高圧直流電源BH)から電力の供給を受けて力行し、又は、車両100の慣性力により発電した電力を当該直流電源に供給する(回生する)。回転電機2は、直流電力と複数相の交流電力との間で電力を変換するインバータ回路PMを備えた回転電機制御装置9(図8参照)により駆動制御される。本実施形態では、図1に示すように、この回転電機制御装置9もケース10内に収容される。ケース10には、機器収容室E1とは別に、回転電機制御装置9を収容するためのインバータ収容室E2(第3収容室E2F、第4収容室E2R)が形成されている。
【0023】
インバータ回路PM(後述するパワーモジュール)は、交流の回転電機2及び直流電源に接続されて、複数相(例えば3相)の交流と直流との間で電力を変換する。直流電源としての高圧直流電源BHは、例えば、ニッケル水素電池やリチウムイオン電池などの二次電池(バッテリ)や、電気二重層キャパシタなどにより構成されている。本実施形態のように回転電機2が、車輪Wの駆動源の場合、高圧直流電源BHの定格の電源電圧は、例えば200~400[V]である。
【0024】
図8に示すように、インバータ回路PMは、複数のスイッチング素子SDを有して構成されている。スイッチング素子SDには、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)やパワーMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)やSiC-MOSFET(Silicon Carbide - Metal Oxide Semiconductor FET)やSiC-SIT(SiC - Static Induction Transistor)、GaN-MOSFET(Gallium Nitride - MOSFET)などの高周波での動作が可能なパワー半導体素子を適用すると好適である。例えば、インバータ回路PMは、フリーホイールダイオードFDも含めて1つのパワーモジュールに一体化されて構成されている。また、インバータ回路PMの直流側には正負両極間電圧(直流リンク電圧)を平滑する直流リンクコンデンサC(平滑コンデンサ)が備えられている。
【0025】
インバータ回路PMは、インバータ制御装置91(第1インバータ制御装置91F、第2インバータ制御装置91R)により制御される。インバータ制御装置91は、インバータ制御装置91よりも上位の制御装置であり、車両100の走行を制御する車両制御装置92からの速度やトルクについての指令に基づいてインバータ回路PMを介して回転電機2を制御する。インバータ制御装置91は、マイクロコンピュータ等の論理回路を中核部材として構築され、例えば回転センサS1及び電流センサS2による検出結果に基づき、電流フィードバック制御によりインバータ回路PMを介して回転電機2を駆動制御する。回転センサS1は、ロータ21の回転(回転速度及び回転位置(ロータ21が備える永久磁石の磁極位置))を検出するレゾルバなどのセンサであり、電流センサS2は、回転電機2のステータコイル25(後述する)を流れる交流電流を検出するセンサである。
【0026】
インバータ制御装置91を構成するマイクロコンピュータ等は、インバータ回路PMに接続される高圧直流電源BHよりも低電圧(例えば12~24[V])の低圧直流電源BLから電力を供給されて動作する。このため、インバータ制御装置91には、各スイッチング素子SDに対するスイッチング制御信号(IGBTの場合、ゲート駆動信号)の駆動能力(例えば電圧振幅や出力電流など、後段の回路を動作させる能力)をそれぞれ高めて中継する駆動回路が備えられている。インバータ制御装置91は、1枚、又は複数の基板に、上述したようなマイクロコンピュータ、その周辺回路、並びに駆動回路を構成する回路部品が実装されて構成されている。
【0027】
回転電機制御装置9は、上述したようなインバータ制御装置91、直流リンクコンデンサC、インバータ回路PM(パワーモジュール)を含んだユニットとして構成されている。回転電機制御装置9は、ケース10内部のインバータ収容室E2に配置され、例えばボルト等の締結部材によってケース10に固定されている。
【0028】
第1回転電機2Fと第2回転電機2Rとは、それぞれ独立して駆動制御される。従って、回転電機制御装置9として、第1回転電機2Fを駆動制御する第1制御装置9Fと、第2回転電機2Rを駆動制御する第2制御装置9Rとが備えられている。同様に、インバータ制御装置91として、第1制御装置9Fには第1インバータ制御装置91Fが備えられ、第2制御装置9Rには第2インバータ制御装置91Rが備えられている。第1インバータ制御装置91Fと第2インバータ制御装置91Rとは、同一構成の制御装置として構成されている。また、第1制御装置9Fと第2制御装置9Rとは、同一構成のインバータ回路PM(パワーモジュール)及び直流リンクコンデンサCを備えて構成されている。即ち、第1制御装置9Fと第2制御装置9Rとは、電気的特性が同じ回路部品により構成された同一の回路構成を備えている。
【0029】
上述したインバータ収容室E2として、第1ケース10Fには、第1制御装置9Fを収容する第3収容室E2Fが備えされている。また、第2ケース10Rには、第2制御装置9Rを収容する第4収容室E2Rが備えられている。第1制御装置9Fと第2制御装置9Rとは、電気的特性が同じ回路部品により構成された同一の回路構成を備えた共通の構成であることで、前輪駆動ユニット1Fと後輪駆動ユニット1Rとのケース構造を共通化し易い。
【0030】
このようにケース構造を共通化することができると、前輪駆動ユニット1Fの第1ケース10Fと、後輪駆動ユニット1Rの第2ケース10Rとを、共通の金型を用いて鋳造することができる。換言すれば、第1ケース10Fと第2ケース10Rとを共通の金型を用いて鋳造することによって、前輪駆動ユニット1Fと後輪駆動ユニット1Rとを、内部構造の一部又は全部を共通化して構成し易い。また、前輪駆動ユニット1Fと後輪駆動ユニット1Rとが、ケース構造の一部又は全部を共通化して構成し易い。
【0031】
尚、本実施形態では、機器収容室E1とインバータ収容室E2とが一体的に形成されている。即ち、ケース10は、回転電機2等を収容する機器収容室E1と、回転電機制御装置9を収容するインバータ収容室E2とを内部に有して一体形成された本体部分を有して構成されている。ここで、「一体形成」とは、例えば1つの金型鋳造品(die casting)として、共通の材料により形成された一体部材のことを言う。
【0032】
回転電機2は、ケース10などに固定されたステータ23と、当該ステータ23の径方向内側に回転自在に支持されたロータ21とを有する。本実施形態では、ステータ23は、ステータコア24とステータコア24に巻き回されたステータコイル25とを含み、ロータ21は、ロータコア22とロータコア22に配置された永久磁石26とを含む。ロータ21(第1ロータ21F及び第2ロータ21R)と同様に、第1回転電機2Fと第2回転電機2Rとを区別する場合、第1回転電機2Fのステータ23を第1ステータ23Fと称し、第2回転電機2Rのステータ23を第2ステータ23Rと称する。
【0033】
回転電機2のロータ21は、ロータ21と一体的に回転するロータ軸20に連結されている。ロータ軸20には、当該ロータ軸20と一体回転するように、ロータ連結軸30が連結されている。ロータ軸20は、ロータ軸受B2を介して回転可能にケース10に支持され、ロータ連結軸30は、入力軸受B3を介して回転可能にケース10に支持されている。ロータ連結軸30には、ロータ出力ギヤ31がロータ連結軸30と一体的に回転するように設けられている。即ち、駆動ユニット1は、ロータ連結軸30とロータ出力ギヤ31とを備えた動力入力機構3を備えている。
【0034】
回転電機2のロータ軸20は、ロータ21に対して軸方向Lにおけるロータ連結軸30(ロータ出力ギヤ31)の側とは反対側で第1ロータ軸受B21により支持され、ロータ21に対して軸方向Lにおけるロータ連結軸30(ロータ出力ギヤ31)の側で第2ロータ軸受B22により支持される。ロータ出力ギヤ31は、後述するように、カウンタギヤ機構4の第1カウンタギヤ41に噛み合っている。即ち、ロータ出力ギヤ31は、伝達ギヤ機構6の一部として機能し、ロータ21と一体的に回転して、カウンタギヤ機構4に回転電機2の駆動力を伝達する。
【0035】
前輪駆動ユニット1Fと後輪駆動ユニット1Rとで軸受を区別する場合、前輪駆動ユニット1Fには、ロータ軸受B2として前輪側ロータ軸受B2F、及び、入力軸受B3として前輪側入力軸受B3Fが備えられ、後輪駆動ユニット1Rには、ロータ軸受B2として後輪側ロータ軸受B2R、及び、入力軸受B3として後輪側入力軸受B3Rが備えられている。同様に、動力入力機構3及びロータ出力ギヤ31として、前輪駆動ユニット1Fには第1動力入力機構3F及び第1ロータ出力ギヤ31Fが備えられ、後輪駆動ユニット1Rには第2動力入力機構3R及び第2ロータ出力ギヤ31Rが備えられている。
【0036】
差動歯車機構5は、出力軸A2上に配置され、回転電機2の側から伝達される駆動力を一対の車輪Wに分配する。差動歯車機構5は、互いに噛み合う複数の傘歯車(ピニオンギヤ53、差動出力ギヤ54)と、当該複数の傘歯車を収容した差動ケース52とを含んで構成されている。差動ケース52は、差動軸受B5により回転可能にケース10に支持されている。そして、差動歯車機構5は、回転電機2の側から差動入力ギヤ51に入力された回転及びトルクを、出力軸A2の径方向に沿って配置されていると共に差動入力ギヤ51と一体的に回転するピニオン軸55に回転自在に支持されたピニオンギヤ53に噛み合う一対の差動出力ギヤ54を介して一対の出力部材70に分配して伝達する。出力部材70は出力軸受B7を介してケース10に回転可能に支持されている。前輪駆動ユニット1Fと後輪駆動ユニット1Rとで区別する場合、前輪駆動ユニット1Fは、前輪側出力軸A2F上に、第1差動入力ギヤ51Fを備えた第1差動歯車機構5Fを備え、後輪駆動ユニット1Rは、後輪側出力軸A2R上に、第2差動入力ギヤ51Rを備えた第2差動歯車機構5Rを備える。
【0037】
カウンタギヤ機構4は、カウンタ軸A3上に配置され、ロータ出力ギヤ31を介して回転電機2と差動歯車機構5(差動入力ギヤ51)とを駆動連結している。カウンタ連結軸40は、カウンタ軸受B4を介して回転可能にケース10に支持されている。本実施形態では、カウンタギヤ機構4は、カウンタ連結軸40によって連結された第1カウンタギヤ41と第2カウンタギヤ42とを有して構成されている。第1カウンタギヤ41はロータ出力ギヤ31と噛み合い、カウンタ連結軸40によって第1カウンタギヤ41に連結された第2カウンタギヤ42は、差動入力ギヤ51に噛み合っている。即ち、カウンタギヤ機構4は、伝達ギヤ機構6の一部として機能し、ロータ出力ギヤ31を介して回転電機2から伝達された駆動力を差動入力ギヤ51に伝達する。
【0038】
前輪駆動ユニット1Fと後輪駆動ユニット1Rとで区別する場合、前輪駆動ユニット1Fは、カウンタギヤ機構4として、前輪側第1カウンタギヤ41F(第1ギヤ)と前輪側第2カウンタギヤ42F(第2ギヤ)とを備えた第1カウンタギヤ機構4Fを備える。また、後輪駆動ユニット1Rは、カウンタギヤ機構4として、後輪側第1カウンタギヤ41R(第3ギヤ)と後輪側第2カウンタギヤ42R(第4ギヤ)とを備えた第2カウンタギヤ機構4Rを備えている。
【0039】
即ち、前輪駆動ユニット1Fの第1伝達ギヤ機構6Fは、第1ロータ21Fと一体的に回転する第1ロータ出力ギヤ31Fと、第1カウンタギヤ機構4Fとを備える。第1カウンタギヤ機構4Fは、前輪側第1カウンタギヤ41F(第1ギヤ)と、前輪側第1カウンタギヤ41F(第1ギヤ)と一体的に回転する前輪側第2カウンタギヤ42F(第2ギヤ)とを備える。そして、前輪側第1カウンタギヤ41F(第1ギヤ)と第1ロータ出力ギヤ31Fとが噛み合い、前輪側第2カウンタギヤ42F(第2ギヤ)と第1差動入力ギヤ51Fとが噛み合っている。第2伝達ギヤ機構6Rは、第2ロータ21Rと一体的に回転する第2ロータ出力ギヤ31Rと、第2カウンタギヤ機構4Rとを備える。第2カウンタギヤ機構4Rは、後輪側第1カウンタギヤ41R(第3ギヤ)と、後輪側第1カウンタギヤ41R(第3ギヤ)と一体的に回転する後輪側第2カウンタギヤ42R(第4ギヤ)とを備える。そして、後輪側第1カウンタギヤ41R(第3ギヤ)と第2ロータ出力ギヤ31Rとが噛み合い、後輪側第2カウンタギヤ42R(第4ギヤ)と第2差動入力ギヤ51Rとが噛み合っている。
【0040】
上述したように、前輪駆動ユニット1Fと後輪駆動ユニット1Rとは、車両幅方向Y(軸方向L)における第1回転電機2Fと第1差動歯車機構5Fとの位置関係と、第2回転電機2Rと第2差動歯車機構5Rとの位置関係とが、反対となる状態で車両100に搭載されている。即ち、前輪駆動ユニット1Fと後輪駆動ユニット1Rとは、上下方向Zに沿った仮想軸を対象軸として、ほぼ同一の構成の2つの駆動ユニット1が、180度回転対称の関係となる状態で車両100に搭載されている。カウンタギヤ機構4も同様に、車両幅方向Yにおいて前輪側第1カウンタギヤ41F(第1ギヤ)に対して前輪側第2カウンタギヤ42F(第2ギヤ)が配置されている側と、後輪側第1カウンタギヤ41R(第3ギヤ)に対して後輪側第2カウンタギヤ42R(第4ギヤ)が配置されている側とが反対側である。上述したように、第1伝達ギヤ機構6Fと第2伝達ギヤ機構6Rとが共通の構成であるため、前輪駆動ユニット1Fと後輪駆動ユニット1Rとの内部構造を共通化し易い。
【0041】
上述したように、本実施形態では、前輪駆動ユニット1Fと後輪駆動ユニット1Rとは、上下方向Zに沿った仮想軸を対象軸として、ほぼ同一の構成の2つの駆動ユニット1が、180度回転対称の関係となる状態で車両100に搭載されている。このため、図6を参照して上述したように、前輪側入力軸A1F(第1軸)と前輪側出力軸A2F(第2軸)との前輪側第1軸間距離D12Fと、後輪側入力軸A1R(第3軸)と後輪側出力軸A2R(第4軸)との後輪側第1軸間距離D12Rとが同じである。さらに、図6に示すように、前輪側入力軸A1F(第1軸)と前輪側出力軸A2F(第2軸)とを含む平面と水平面との角度である前輪側第1角度θf1と後輪側入力軸A1R(第3軸)と後輪側出力軸A2R(第4軸)とを含む平面と水平面との角度である後輪側第1角度θr1とが同じである。即ち、回転電機2と差動歯車機構5との配置関係が、前輪駆動ユニット1Fと後輪駆動ユニット1Rとで共通であるため、前輪駆動ユニット1Fと後輪駆動ユニット1Rとの内部構造を共通化し易い。尚、本例において角度が同じとは、向きに関係しない角度の大きさ(絶対値)が同じという意味である。
【0042】
上述したように、第1伝達ギヤ機構6Fは、前輪側入力軸A1F(第1軸)及び前輪側出力軸A2F(第2軸)と平行且つこれらとは異なる前輪側カウンタ軸A3F(第5軸)上に配置された第1カウンタギヤ機構4Fを備える。また、第2伝達ギヤ機構6Rは、後輪側入力軸A1R(第3軸)及び後輪側出力軸A2R(第4軸)と平行且つこれらとは異なる後輪側カウンタ軸A3R(第6軸)上に配置された第2カウンタギヤ機構4Rを備える。図6に示すように、前輪側入力軸A1F(第1軸)と前輪側出力軸A2F(第2軸)と前輪側カウンタ軸A3F(第5軸)との相互の軸間距離「D12F,D23F、D13F」と、後輪側入力軸A1R(第3軸)と後輪側出力軸A2R(第4軸)と後輪側カウンタ軸A3R(第6軸)との相互の軸間距離「D12R,D23R、D13R」とが同じである。
【0043】
具体的には、前輪側第1軸間距離D12Fと後輪側第1軸間距離D12Rとが同じであると共に、前輪側出力軸A2F(第2軸)と前輪側カウンタ軸A3F(第5軸)との軸間距離である前輪側第2軸間距離D23Fと、後輪側出力軸A2R(第4軸)と後輪側カウンタ軸A3R(第6軸)との軸間距離である後輪側第2軸間距離D23Rとが同じである。さらに、前輪側入力軸A1F(第1軸)と前輪側カウンタ軸A3F(第5軸)との軸間距離である前輪側第3軸間距離D13Fと、後輪側入力軸A1R(第3軸)と後輪側カウンタ軸A3R(第6軸)との軸間距離である後輪側第3軸間距離D13Rとが同じ長さである。即ち、本実施形態では、回転電機2が配置された軸(入力軸A1)と差動歯車機構5が配置された軸(出力軸A2)との2つの軸の位置関係が共通であることに加えて、これら2つの軸とカウンタギヤ機構4の軸(カウンタ軸A3)との位置関係も同じである。従って、前輪駆動ユニット1Fと後輪駆動ユニット1Rとで、内部構造の一部又は全部、及び、ケース構造の一部又は全部を、共通化し易い。
【0044】
また、図6を参照して、前輪側第1角度θf1と後輪側第1角度θr1とが同じであると上述したが、さらに、前輪側第2角度θf2と後輪側第2角度θr2とも同じである。具体的には、前輪側入力軸A1F(第1軸)と前輪側カウンタ軸A3F(第5軸)とを含む平面と水平面との角度である前輪側第2角度θf2と、後輪側入力軸A1R(第3軸)と後輪側カウンタ軸A3R(第6軸)とを含む平面と水平面との角度である後輪側第2角度θr2とが同じである。即ち、回転電機2と差動歯車機構5との配置関係に加え、回転電機2とカウンタギヤ機構4との配置関係が、前輪駆動ユニット1Fと後輪駆動ユニット1Rとで共通であるため、前輪駆動ユニット1Fと後輪駆動ユニット1Rとの内部構造を共通化し易い。
【0045】
また、別の観点では、下記に説明するように、前輪駆動ユニット1Fにおける第1夾角θ1と、後輪駆動ユニット1Rにおける第3夾角θ3とが同じであり、且つ、前輪駆動ユニット1Fにおける第2夾角θ2と、後輪駆動ユニット1Rにおける第4夾角θ4とが同じであり、且つ、前輪駆動ユニット1Fにおける第5夾角θ5と、後輪駆動ユニット1Rにおける第6夾角θ6とが同じである。第1夾角θ1は、前輪側入力軸A1F(第1軸)と前輪側出力軸A2F(第2軸)とを含む平面と、前輪側入力軸A1F(第1軸)と前輪側カウンタ軸A3F(第5軸)とを含む平面との角度であり、第3夾角θ3は、後輪側入力軸A1R(第3軸)と後輪側出力軸A2R(第4軸)とを含む平面と、後輪側入力軸A1R(第3軸)と後輪側カウンタ軸A3R(第6軸)とを含む平面との角度である。また、第2夾角θ2は、前輪側出力軸A2F(第2軸)と前輪側入力軸A1F(第1軸)とを含む平面と、前輪側出力軸A2F(第2軸)と前輪側カウンタ軸A3F(第5軸)とを含む平面との角度であり、第4夾角θ4は、後輪側出力軸A2R(第4軸)と後輪側入力軸A1R(第3軸)とを含む平面と、後輪側出力軸A2R(第4軸)と後輪側カウンタ軸A3R(第6軸)とを含む平面との角度である。また、第5夾角θ5は、前輪側カウンタ軸A3F(第5軸)と前輪側入力軸A1F(第1軸)とを含む平面と、前輪側カウンタ軸A3F(第5軸)と前輪側出力軸A2F(第2軸)とを含む平面との角度であり、第6夾角θ6は、後輪側カウンタ軸A3R(第6軸)と後輪側入力軸A1R(第3軸)とを含む平面と、後輪側カウンタ軸A3R(第6軸)と後輪側出力軸A2R(第4軸)とを含む平面との角度である。このように、回転電機2と差動歯車機構5とカウンタギヤ機構4との配置関係が、前輪駆動ユニット1Fと後輪駆動ユニット1Rとで共通であると、前輪駆動ユニット1Fと後輪駆動ユニット1Rとの内部構造を共通化し易い。
【0046】
また、図1に示すように、回転電機制御装置9が収容されるインバータ収容室E2は、回転電機2と上下方向視で重複するように、機器収容室E1の上下方向Zにおける上方Z1に配置されている。従って、図4に示すように、前輪駆動ユニット1F、高圧直流電源BH、後輪駆動ユニット1Rが車両前後方向Xに沿って並んだ場合でも、前輪駆動ユニット1Fと高圧直流電源BHとを適切に電気的に接続することができると共に、後輪駆動ユニット1Rと高圧直流電源BHとも適切に電気的に接続することができる。
【0047】
ところで、駆動ユニット1には、不図示のオイルポンプが搭載されており、回転電機2、伝達ギヤ機構6、差動歯車機構5、及びこれらを支持する軸受へ、潤滑用及び冷却用の油を供給している。さらに、これらの一部には、ケース10の内部に収容されたギヤにより掻き上げられた油も供給される。ケース10の内部、特に機器収容室E1の下部には、潤滑及び冷却に用いられた油が落下し、貯留される油貯留部が形成されている。油貯留部に溜まった油は、駆動ユニット1が備えるギヤ(例えば差動入力ギヤ51)により掻き上げられる。掻き上げられた油は、直接、軸受等の潤滑対象箇所に供給されると共に、ケース10内に形成されたキャッチタンク7(図3参照)に貯留される。そして、キャッチタンク7を介して潤滑対象箇所に供給される。図3に示すように、本実施形態では、駆動ユニット1には、相対的に上下方向Zの上方Z1に形成された上段キャッチタンク71と、下方Z1に形成された下段キャッチタンク72とが備えられている。上段キャッチタンク71と下段キャッチタンク72とは連通しており、オリフィスによって上段キャッチタンク71に貯留された油が下段キャッチタンク72に供給できるように構成されている。また、上段キャッチタンク71及び下段キャッチタンク72に貯留された油は、オリフィスによって供給対象の各部へ供給される。
【0048】
図3図9図10に示すように、前輪駆動ユニット1Fは、第1差動入力ギヤ51F及び第1伝達ギヤ機構6Fを構成するギヤの回転によって掻き上げられた油が貯留される第1キャッチタンク7Fを備えている。また、後輪駆動ユニット1Rは、第2差動入力ギヤ51R及び前記第2伝達ギヤ機構6Rを構成するギヤの回転によって掻き上げられた油が貯留される第2キャッチタンク7Rを備えている。ここで、前輪WF及び後輪WRが、車両100が前進する方向に回転している状態を正転状態とし、車両100が後進する方向に回転している状態を逆転状態とする。図9は、正転状態における前輪駆動ユニット1Fの第1キャッチタンク7Fへの油の導入例を示している。また、図10は、正転状態における後輪駆動ユニット1Rの第2キャッチタンク7Rへの油の導入例を示している。尚、見方を変えると、図9は、逆転状態における後輪駆動ユニット1Rの第2キャッチタンク7Rへの油の導入例を示しているとも言え、図10は、逆転状態における前輪駆動ユニット1Fの第1キャッチタンク7Fへの油の導入例を示しているとも言える。
【0049】
第1キャッチタンク7Fは、前輪WFが正転状態の場合、図9に示すように、第1差動入力ギヤ51Fにより掻き上げられた油が貯留されるように構成されている。大径の第1差動入力ギヤ51Fにより掻き上げられた油は、上段キャッチタンク71に到達しやすく、上段キャッチタンク71には十分に油が供給される。
【0050】
また、第2キャッチタンク7Rは、後輪WRが正転状態の場合、図10に示すように、第2差動入力ギヤ51R及び第2伝達ギヤ機構6Rを構成するギヤ(特に後輪側第1カウンタギヤ41R及び後輪側第2カウンタギヤ42R)により掻き上げられた油が貯留されるように構成されている。具体的には、主に第2差動入力ギヤ51Rが掻き上げた油が、当該第2差動入力ギヤ51Rと噛み合う後輪側第2カウンタギヤ42R及び後輪側第1カウンタギヤ41Rによって更に掻き上げられて第2キャッチタンク7Rに導かれる。大径の第2差動入力ギヤ51Rの回転方向が前輪駆動ユニット1Fとは反対方向となるため、第2差動入力ギヤ51Rから直接、上段キャッチタンク71に掻き上げられる油は前輪駆動ユニット1Fよりも少なくなる。しかし、カウンタギヤ機構4のギヤと連携することによって少なくとも下段キャッチタンク72に油を導くことができる。尚、第1カウンタギヤ41の上方Z1には上段キャッチタンク71の底部が形成されておらず、車両100が高速で走行し駆動ユニット1も高速回転するような場合には、上段キャッチタンク71にも油が導かれる。
【0051】
また、第1キャッチタンク7Fは、前輪WFが逆転状態の場合には、図10に示すように、第1差動入力ギヤ51F及び第1伝達ギヤ機構6Fを構成するギヤ(特に前輪側第1カウンタギヤ41F及び前輪側第2カウンタギヤ42F)により掻き上げられた油が貯留されるように構成されている。具体的には、主に第1差動入力ギヤ51Fが掻き上げた油が、当該第1差動入力ギヤ51Fと噛み合う前輪側第2カウンタギヤ42F及び前輪側第1カウンタギヤ41Fによって更に掻き上げられて第1キャッチタンク7Fに導かれる。また、第2キャッチタンク7Rは、後輪WRが逆転状態の場合、図9に示すように、第2差動入力ギヤ51Rにより掻き上げられた油が貯留されるように構成されている。それぞれ、詳細については正転状態を例として上述した通りであるから詳細な説明は省略する。
【0052】
このように、第1キャッチタンク7Fは、前輪WFの正転状態及び逆転状態のいずれの状態でも、第1差動入力ギヤ51F及び前記第1伝達ギヤ機構6Fを構成するギヤの少なくとも一方により掻き上げられた油が貯留されるように構成されている。また、第2キャッチタンク7Rは、後輪WRの正転状態及び逆転状態のいずれの状態でも、第2差動入力ギヤ51R及び第2伝達ギヤ機構6Rを構成するギヤの少なくとも一方により掻き上げられた油が貯留されるように構成されている。
【0053】
このような構成により、前輪駆動ユニット1Fと後輪駆動ユニット1Rとを、車両前後方向Xにおいて互いに反対方向に配置したとしても、キャッチタンク7に適切に油を貯留することができる。そして、キャッチタンク7を介して必要箇所に油を適切に供給することができる。このため、前輪駆動ユニット1Fと後輪駆動ユニット1Rとを共通化し易い。
【0054】
また、上述したように、駆動ユニット1には、不図示のオイルポンプが搭載されており、回転電機2、伝達ギヤ機構6、差動歯車機構5、及びこれらの軸受へ、潤滑用及び冷却用の油を供給することができる。ケース10には、ケース10と一体的に、或いは別部材をケース10に取り付けることによって、オイルポンプからの油が通流する油路が形成されている。図1図11図12に示すように、駆動ユニット1は、軸方向Lに沿って延在すると共に回転電機2の外周面2a(ステータコア24の外周面)に対向するように配置され、内部に油が流通する油路8が形成された油路形成部80を備えている。具体的には、図1及び図11に示すように、前輪駆動ユニット1Fは、軸方向Lに沿って延在すると共に第1回転電機2Fの外周面2aに対向するように配置され、内部に油が流通する第1油路8Fが形成された第1油路形成部80Fを備えている。また、図1及び図12に示すように、後輪駆動ユニット1Rは、軸方向Lに沿って延在すると共に第2回転電機2Rの外周面2aに対向するように配置され、内部に油が流通する第2油路8Rが形成された第2油路形成部80Rを備えている。
【0055】
図1図11図12に示すように、油路形成部80には、油路8に連通していると共に回転電機2に向かって開口する油供給孔89が複数形成されている。具体的には、図1及び図11に示すように、第1油路形成部80Fには、第1油路8Fに連通していると共に第1回転電機2Fに向かって開口する第1油供給孔89Fが複数形成されている。また、図1及び図12に示すように、第2油路形成部80Rには、第2油路8Rに連通していると共に第2回転電機2Rに向かって開口する第2油供給孔89Rが複数形成されている。
【0056】
上述したように、第1ケース10Fと第2ケース10Rとは、共通の金型を用いて鋳造されていると好適であるが、油路形成部80に形成される油供給孔89は、第1油路形成部80Fと第2油路形成部80Rとで異なる位置に形成されていてもよい。例えば、車両100が、通常走行時には前輪駆動ユニット1Fによる二輪駆動で走行し、雪道等の特定走行時に後輪駆動ユニット1Rの駆動力も用いて四輪駆動可能なように構成されている車両の場合、前輪駆動ユニット1Fに搭載される第1回転電機2Fと後輪駆動ユニット1Rに搭載される第2回転電機2Rとが同一の仕様である必要はない。第2回転電機2Rの定格出力を第1回転電機2Fよりも低くすることで、第2回転電機2Rのコストを低減させ、車両100のコストを低減することができる。
【0057】
一方、車両100の全体のコストを考慮すると、前輪駆動ユニット1Fと後輪駆動ユニット1Rとは可能な限り共通化することが好ましく、ケース10や軸の配置、軸受の位置等は、共通であることが望ましい。このような制限下において、第1回転電機2Fに比べて第2回転電機2Rの定格出力を小さく構成する場合には、第1回転電機2Fに比べて、第2回転電機2Rの軸方向長さを短くすることが考えられる。つまり、電磁鋼板を軸方向に複数枚積層して構成されるロータコア22及びステータコア24の積層数を少なくすることで、回転電機2の軸方向長さを短くすることが考えられる。この場合、ステータコア24から軸方向Lにおける両側に突出するステータコイル25のコイルエンド部25eの軸方向Lにおける位置が第1回転電機2Fと第2回転電機2Rとで異なることになる。
【0058】
車輪Wの駆動源となるような回転電機2では、ステータコイル25に流れる電流も大きく、ステータコイル25の電気抵抗により大きな発熱を伴い易い。ステータコイル25は、ステータコア24に巻き回されているが、ステータ23における軸方向Lの端部には、巻き回されたステータコイル25の屈曲部がステータコア24から軸方向Lに突出したコイルエンド部25eが形成される。ステータコイル25はステータコア24の内部も通っているため、しばしば、このコイルエンド部25eに冷媒となる油を掛けることによって、ステータコイル25が冷却される。このため、油路8に連通していると共に回転電機2に向かって開口する油供給孔89のいくつかは、コイルエンド部25eに油が供給されるように設けられている。
【0059】
ここで、車両幅方向Y(軸方向L)における前輪駆動ユニット1Fと後輪駆動ユニット1Rとの向きに関係なく、軸方向Lの一方側、本例ではロータ出力ギヤ31に対してロータ21が配置された側を軸方向第1側L1とし、軸方向Lの他方側を軸方向第2側L2とする。本実施形態では、図11及び図12に示すように、第1回転電機2Fと第2回転電機2Rとの前記軸方向Lの寸法が異なる。そのため、第1回転電機2Fの軸方向第1側L1の端部Pを基準とした複数の第1油供給孔89Fの位置関係と、第2回転電機2Rの軸方向第1側L1の端部Pを基準とした複数の第2油供給孔89Rの位置関係とが互いに異なっている。
【0060】
本実施形態では、第1回転電機2Fの軸方向第1側L1の端部Pと、第2回転電機2Rの軸方向第1側L1の端部Pとは、同じ位置である。従って、軸方向第1側L1におけるコイルエンド部25eの位置は、第1回転電機2Fと第2回転電機2Rとで共通である。よって、軸方向第1側L1におけるコイルエンド部25eに油を供給するための油供給孔89(符号81、82、83で示す油供給孔89)は、第1回転電機2Fと第2回転電機2Rとで共通する位置に形成されている。つまり、第1回転電機2Fの軸方向第1側L1におけるコイルエンド部25eに油を供給するための、符号81F、82F、83Fで示す第1油供給孔89Fと、第2回転電機2Rの軸方向第1側L1におけるコイルエンド部25eに油を供給するための、符号81R、82R、83Rで示す第2油供給孔89Rとは、軸方向Lにおける同じ位置に形成されている。
【0061】
図11に示すように、前輪駆動ユニット1Fには、第1回転電機2Fのステータコア24に冷却用の油を供給するための、符号84F、85Fで示す第1油供給孔89Fが形成されている。また、前輪駆動ユニット1Fには、第1回転電機2Fの軸方向第2側L2におけるコイルエンド部25eに油を供給するための、符号86F、87F、88Fで示す第1油供給孔89Fが形成されている。尚、前輪駆動ユニット1Fでは、上下方向視で軸方向第2側L2におけるコイルエンド部25eと、軸方向第2側L2におけるロータ軸受B2(第1ロータ軸受B21)とが重複している。従って、コイルエンド部25eを冷却した油が落下することで、ロータ軸受B2も潤滑することができる。
【0062】
図12に示すように、後輪駆動ユニット1Rには、第2回転電機2Rのステータコア24に冷却用の油を供給するための、符号84Rで示す第2油供給孔89Rが形成されている。また、後輪駆動ユニット1Rには、第2回転電機2Rの軸方向第2側L2におけるコイルエンド部25eに油を供給するための、符号85R、86R、87Rで示す第2油供給孔89Rが形成されている。さらに、後輪駆動ユニット1Rには、軸方向第2側L2におけるロータ軸受B2(第1ロータ軸受B21)に潤滑用の油を供給するための、符号88Rで示す第2油供給孔89Rも形成されている。軸方向Lにおける長さが第1回転電機2Fよりも短い第2回転電機2Rでは、構造の共通化のためにロータ軸受B2の配置位置を共通化した場合、上下方向視で軸方向第2側L2におけるコイルエンド部25eと、軸方向第2側L2におけるロータ軸受B2(第1ロータ軸受B21)とが重複しなくなる。コイルエンド部25eを冷却した油がロータ軸受B2へ落下することも限定的となるため、ロータ軸受B2の上方(入力軸A1を基準とした径方向においてロータ軸受B2と対向する位置)に符号88Rで示す第2油供給孔89Rが形成されていると好適である。
【0063】
このように、油供給孔89の軸方向Lにおける配置位置を可変とすることによって、前輪駆動ユニット1Fと後輪駆動ユニット1Rとで、ケース構造の一部又は全部を共通化しつつ、例えば第1回転電機2Fと第2回転電機2Rとの軸方向Lの寸法が異なる場合であっても、それぞれの回転電機2の寸法に合わせて適切な位置に油を供給し易い構造とすることができる。即ち、本実施形態によれば、内部構造の一部、及び、ケース構造の一部を共通化しつつ、低コストで4輪駆動用の駆動ユニットを備えた車両100を実現することができる。
【0064】
油供給孔89は、例えば鋳造されたケース10に対して追加工を施すことによって形成することができる。上述したように、油供給孔89の位置を調整可能とすることで、ケース10を共通化しつつ、車両100の要求仕様に応じた駆動ユニット1を構成することができる。
【0065】
〔その他の実施形態〕
以下、その他の実施形態について説明する。尚、以下に説明する各実施形態の構成は、それぞれ単独で適用されるものに限られず、矛盾が生じない限り、他の実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0066】
(1)上記においては、入力軸A1、出力軸A2、カウンタ軸A3の3軸構成の駆動ユニット1を例示して説明した。しかし、そのような構成に限らず、駆動ユニット1は2軸構成や4軸以上の構成であってもよい。
【0067】
(2)上記においては、第1ケース10Fと第2ケース10Rとが、共通の金型を用いて鋳造されている形態を例示した。しかし、第1ケース10Fと第2ケース10Rとは、少なくとも一部が異なる金型を用いて鋳造されていてもよい。
【0068】
(3)上記においては、前輪駆動ユニット1Fと後輪駆動ユニット1Rとが、入力軸A1、出力軸A2、カウンタ軸A3の相互の軸間距離が同じである形態を例示して説明した。しかし、入力軸A1と出力軸A2との軸間距離が同じであれば、カウンタ軸A3の配置位置が前輪駆動ユニット1Fと後輪駆動ユニット1Rとで異なっていてもよい。当然ながら、この場合には、図7を参照して上述したように、第1夾角θ1と第3夾角θ3とが同じであり、且つ、第2夾角θ2と第4夾角θ4とが同じであり、且つ、第5夾角θ5と第6夾角θ6とが同じでなくてもよい。
【0069】
(4)上記においては、前輪駆動ユニット1Fと後輪駆動ユニット1Rとが同一構成の伝達ギヤ機構6を備え、前輪駆動ユニット1Fの第1伝達ギヤ機構6Fと、後輪駆動ユニット1Rの第2伝達ギヤ機構6Rとが、上下方向Zに沿った仮想的な対称軸に対して180度回転した回転対称に配置されている形態を例示して説明した。しかし、伝達ギヤ機構6は、前輪駆動ユニット1Fと後輪駆動ユニット1Rとで異なる構成であってもよい。
【0070】
(5)上記においては、第1制御装置9Fと第2制御装置9Rとが、電気的特性が同じ回路部品により構成された同一の回路構成を備えている形態を例示して説明した。しかし、第1制御装置9Fと第2制御装置9Rとが、電気的特性の異なる回路部品により構成された異なる回路構成であることを妨げるものではない。尚、この場合においても、同一の構成のインバータ収容室E2に第1制御装置9Fと第2制御装置9Rとが収容されると好適である。
【0071】
(6)上記においては、駆動ユニット1がキャッチタンク7を備えた形態を例示して説明した。しかし、駆動ユニット1がキャッチタンク7を備えていなくてもよい。例えば、オイルポンプ等から供給される油によって、駆動ユニット1内の各部の冷却や潤滑が行われる形態であってもよい。
【0072】
(7)上記においては、第1回転電機2Fと第2回転電機2Rとの軸方向Lの長さが異なる形態を例示して説明した。しかし、第1回転電機2Fと第2回転電機2Rとは、軸方向Lの長さが同じ回転電機であってもよい。また、第1回転電機2Fと第2回転電機2Rとの軸方向Lの長さが異なる場合であっても、軸方向Lにおける同じ位置に油供給孔89が形成されていてもよい。
【0073】
(8)上記においては、前輪側入力軸A1Fと前輪側出力軸A2Fとを含む平面と水平面との角度である前輪側第1角度θf1と、後輪側入力軸A1Rと後輪側出力軸A2Rとを含む平面と水平面との角度である後輪側第1角度θr1とが同じである形態を例示して説明した。しかし、前輪側第1角度θf1と後輪側第1角度θr1とが異なる角度であることを妨げるものではない。例えば、前輪駆動ユニット1Fと後輪駆動ユニット1Rとの水平面(車体の水平面)に対する取付角度が異なる構成であっても良く、その場合には、前輪側第1角度θf1と後輪側第1角度θr1とが異なる角度となる。
【0074】
(9)上記においては、前輪側入力軸A1Fと前輪側カウンタ軸A3Fとを含む平面と水平面との角度である前輪側第2角度θf2と、後輪側入力軸A1Rと後輪側カウンタ軸A3Rとを含む平面と水平面との角度である後輪側第2角度θr2とが同じである形態を例示して説明した。しかし、前輪側第2角度θf2と後輪側第2角度θr2とが異なる角度でることを妨げるものではない。
【符号の説明】
【0075】
1F:前輪駆動ユニット、1R:後輪駆動ユニット、2F:第1回転電機、2R:第2回転電機、2a:外周面、4F:第1カウンタギヤ機構、4R:第2カウンタギヤ機構、5F:第1差動歯車機構、5R:第2差動歯車機構、6F:第1伝達ギヤ機構、6R:第2伝達ギヤ機構、7F:第1キャッチタンク、7R:第2キャッチタンク、8F:第1油路、8R:第2油路、9F:第1制御装置、9R:第2制御装置、10F:第1ケース、10R:第2ケース、21F:第1ロータ、21R:第2ロータ、31F:第1ロータ出力ギヤ、31R:第2ロータ出力ギヤ、41F:前輪側第1カウンタギヤ(第1ギヤ)、41R:後輪側第1カウンタギヤ(第2ギヤ)、42F:前輪側第2カウンタギヤ(第3ギヤ)、42R:後輪側第2カウンタギヤ(第4ギヤ)、51:差動入力ギヤ、51F:第1差動入力ギヤ、51R:第2差動入力ギヤ、80F:第1油路形成部、80R:第2油路形成部、89F:第1油供給孔、89R:第2油供給孔、100:車両、A1F:前輪側入力軸(第1軸)、A1R:後輪側入力軸(第3軸)、A2F:前輪側出力軸(第2軸)、A2R:後輪側出力軸(第4軸)、A3F:前輪側カウンタ軸(第5軸)、A3R:後輪側カウンタ軸(第6軸)、D12F:前輪側第1軸間距離(第1軸と第2軸との軸間距離)、D12R:後輪側第1軸間距離(第3軸と第4軸との軸間距離)、D13F:前輪側第3軸間距離(第1軸と第5軸との軸間距離)、D13R:後輪側第3軸間距離(第3軸と第6軸との軸間距離)、D23F:前輪側第2軸間距離(第2軸と第3軸との軸間距離)、D23R:後輪側第2軸間距離(第4軸と第6軸との軸間距離)、E1F:第1収容室、E1R:第2収容室、E2F:第3収容室、E2R:第4収容室、L:軸方向、L1:軸方向第1側、L2:軸方向第2側、P:端部(第1回転電機の軸方向第1側の端部、第2回転電機の軸方向第1側の端部)、WF:前輪、WR:後輪、X:車両前後方向、XF:方向前側、XR:方向後側、Y:車両幅方向、Y1:幅方向第1側、Y2:幅方向第2側、Z:上下方向、θf1:前輪側第1角度(第1軸と第2軸とを含む平面と水平面との角度)、θf2:前輪側第2角度(第1軸と第5軸とを含む平面と水平面との角度)、θr1:後輪側第1角度(第3軸と第4軸とを含む平面と水平面との角度)、θr2:後輪側第2角度(第3軸と第6軸とを含む平面と水平面との角度)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12