(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】エレクトレットメルトブロー不織布、これを用いてなるフィルター濾材およびエアフィルター、ならびにエレクトレットメルトブロー不織布の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01D 39/14 20060101AFI20240409BHJP
D04H 3/16 20060101ALI20240409BHJP
D04H 1/413 20120101ALI20240409BHJP
【FI】
B01D39/14 E
D04H3/16
D04H1/413
(21)【出願番号】P 2021503183
(86)(22)【出願日】2021-01-15
(86)【国際出願番号】 JP2021001218
(87)【国際公開番号】W WO2021149606
(87)【国際公開日】2021-07-29
【審査請求日】2023-06-21
(31)【優先権主張番号】P 2020008919
(32)【優先日】2020-01-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】林 晋吾
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 智雄
(72)【発明者】
【氏名】羽根 亮一
【審査官】瀧 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-132627(JP,A)
【文献】特開2011-132628(JP,A)
【文献】特開2008-075226(JP,A)
【文献】特開平05-190389(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 39/00-41/04
B01D 46/00-46/90
B01D 53/00-53/96
D04H 3/14-3/16
D04H 3/007
D04H 1/413
B03C 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン系樹脂繊維で構成されるエレクトレットメルトブロー不織布であって、前記エレクトレットメルトブロー不織布中に、前記エレクトレットメルトブロー不織布100質量%に対してヒンダードアミン系化合物を0.1質量%以上5.0質量%以下と
、金属酸化物から構成され、
前記金属酸化物は酸化亜鉛粒子であり、
平均粒子径が500nm以下である
酸化亜鉛粒
子を0.01質量%以上1質量%以下と、を含む、エレクトレットメルトブロー不織布。
【請求項2】
前記繊維の平均単繊維径が1.5μm以下である、請求項
1に記載のエレクトレットメルトブロー不織布。
【請求項3】
前記エレクトレットメルトブロー不織布がフィルター用である、請求項1
又は2に記載のエレクトレットメルトブロー不織布。
【請求項4】
前記ポリオレフィン系樹脂繊維に含まれる前記金属酸化物粒子の、一次粒子の断面積をS
0、SEM-EDXにて求められる二次粒子の面積をS
1としたとき、S
1/S
0が1000~50000である金属酸化物粒子が、前記繊維1.0×10
-2mm
2の範囲に1個以上、1000個以下含まれている請求項1~
3のいずれかに記載のエレクトレットメルトブロー不織布。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれかに記載のエレクトレットメルトブロー不織布を用いてなる、フィルター濾材。
【請求項6】
請求項
5に記載のフィルター濾材を用いてなる、エアフィルター。
【請求項7】
以下(1)~(3)の工程をこの順に有する、請求項1~
4のいずれかに記載のエレクトレットメルトブロー不織布の製造方法。
(1)少なくとも2種以上のポリオレフィン系樹脂組成物(ポリオレフィン系樹脂Aおよびポリオレフィン系樹脂B)を混合する工程、
ここで、ポリオレフィン系樹脂A
は、平均粒子径が500nm以下
の酸化亜鉛粒
子を、エレクトレットメルトブロー不織布100質量%に対して0.01質量%以上1質量%以下となるように含有し、ポリオレフィン系樹脂Bは、ヒンダードアミン系化合物を、前記エレクトレットメルトブロー不織布100質量%に対して0.1質量%以上5.0質量%以下となるように含有
し、かつ
前記ポリオレフィン系樹脂Aのメルトフローレートと前記ポリオレフィン系樹脂Bのメルトフローレートとの差の絶対値が650g/10分以上である、
(2)前記ポリオレフィン系樹脂Aおよび前記ポリオレフィン系樹脂Bの混合物をメルトブローにより不織布を作製する工程、および
(3)前記不織布をエレクトレット加工する工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不織布に関するものである。さらに詳しくは、本発明は、捕集効率に優れたエレクトレットメルトブロー不織布と、これを用いてなるフィルター濾材、および、エアフィルターに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、気体中の花粉や塵等を除去するためにエアフィルターが使用されており、そのエアフィルターの濾材として不織布が多く用いられている。
【0003】
一般に、不織布を用いたフィルターにおいて、捕集効率を高くしつつ、圧力損失を低くすることが困難であることから、不織布をエレクトレット加工して、物理的作用に加えて静電気的作用を利用することにより、フィルターの構成要素として用いた場合に好適な不織布を得る試みがなされている。
【0004】
例えば、アース電極上に不織布を接触させた状態で、このアース電極と不織布を共に移動させながら、非接触型印加電極で高圧印加を行なって連続的にエレクトレット化するエレクトレット不織布の製造方法が提案されている(特許文献1参照)。その他に、水を繊維に接触させて帯電させる方法として、不織布に対して水の噴流もしくは水滴流を不織布内部まで水が浸透するのに十分な圧力で噴霧させてエレクトレット化し、正極性と負極性の電荷を均一に混在させる方法(特許文献2参照)や、不織布をスリット状のノズル上を通過させ、ノズルで水を吸引することにより繊維シートに水を浸透させて、正極性と負極性の電荷を均一に混在させる方法(特許文献3参照)のような、いわゆるハイドロチャージ法が提案されている。
【0005】
また、これらとは別に、不織布を構成する繊維の高分子重合体に対してヒンダードアミン系、含窒素ヒンダードフェノール系、金属塩ヒンダードフェノール系あるいはフェノール系の安定剤から選ばれた少なくとも1種の安定剤を配合し、かつ100℃以上の温度における熱刺激脱分極電流からのトラップ電荷量が2.0×10-10クーロン/cm2以上であるという耐熱性エレクトレット材料が提案されている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭61-289177号公報
【文献】米国特許第6119691号明細書
【文献】特開2003-3367号公報
【文献】特開昭63-280408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の特許文献1~4に記載の提案のように、不織布をエレクトレット化することによって、比較的低い圧力損失を維持しつつも、捕集効率をある程度向上させることができるものの、不織布を単にエレクトレット加工しただけでは、更に高性能なフィルターのニーズが高まる現状において、その効果は充分と言えるものではなかった。
【0008】
そこで本発明の課題は、上記のような問題点に着目し、低い圧力損失でありながらも、これまでにない高い捕集効率を有するエレクトレットメルトブロー不織布を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の目的を達成するべく鋭意検討を重ねた結果、特定の金属種で、特定の平均粒子径である金属酸化物微粒子を用いた場合、エレクトレット加工しても、帯電特性が劣化しないことを見出し、低い圧力損失を維持しつつも捕集効率をさらに向上できるという知見を得た。
【0010】
本発明は、これら知見に基づいて完成に至ったものであり、本発明によれば、以下の発明が提供される。
【0011】
本発明のエレクトレットメルトブロー不織布は、ポリオレフィン系樹脂繊維で構成されるエレクトレットメルトブロー不織布であって、前記のエレクトレットメルトブロー不織布中にヒンダードアミン系化合物を0.1質量%以上5.0質量%以下と、銅、コバルト、アルミニウム、ニッケル、亜鉛、パラジウム、モリブデン、タングステンの中から選ばれる金属元素の酸化物から構成され、平均粒子径が500nm以下である金属酸化物粒子1種以上を0.01質量%以上1質量%以下と、を含む。
【0012】
本発明のエレクトレットメルトブロー不織布の好ましい態様によれば、前記の金属酸化物粒子が酸化亜鉛粒子である。
【0013】
本発明のエレクトレットメルトブロー不織布の好ましい態様によれば、構成する繊維の平均単繊維径が1.5μm以下である。
【0014】
本発明のエレクトレットメルトブロー不織布の好ましい様態によれば、ポリオレフィン系樹脂繊維に含まれる金属酸化物粒子の、一次粒子の断面積をS0、SEM-EDXにて求められる二次粒子の面積をS1としたとき、S1/S0が1000~50000である金属酸化物粒子が、繊維1.0×10-2mm2の範囲に1個以上、1000個以下含まれている。
【0015】
また、本発明のフィルター濾材は、前記のエレクトレットメルトブロー不織布を用いてなり、本発明のエアフィルターは、前記のフィルター濾材を用いてなる。
【0016】
さらに、本発明のエレクトレットメルトブロー不織布の製造方法は、以下(1)~(3)の工程をこの順に有する。
(1)少なくとも2種以上のポリオレフィン系樹脂組成物(ポリオレフィン系樹脂Aおよびポリオレフィン系樹脂B)を混合する工程、
ここで、ポリオレフィン系樹脂Aは、銅、コバルト、アルミニウム、ニッケル、亜鉛、パラジウム、モリブデン、タングステンの中から選ばれる金属元素の酸化物から構成され、平均粒子径が500nm以下の金属酸化物粒子1種以上を、エレクトレットメルトブロー不織布100質量%に対して0.01質量%以上1質量%以下となるように含有し、ポリオレフィン系樹脂Bは、ヒンダードアミン系化合物を、エレクトレットメルトブロー不織布100質量%に対して0.1質量%以上5.0質量%以下となるように含有する、
(2)ポリオレフィン系樹脂Aおよびポリオレフィン系樹脂Bの混合物をメルトブローにより不織布を作製する工程、および
(3)不織布をエレクトレット加工する工程。
【0017】
本発明のエレクトレットメルトブロー不織布の製造方法の好ましい態様によれば、前記のポリオレフィン系樹脂Aのメルトフローレートと前記のポリオレフィン系樹脂Bのメルトフローレートとの差の絶対値が650g/10分以上である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、エレクトレットメルトブロー不織布を構成する繊維中に、特定の金属種で、特定の平均粒子径である金属酸化物粒子を、繊維中の局所に含有させることにより、低い圧力損失でありながらも、これまでにない高い捕集効率を有するエレクトレットメルトブロー不織布を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】捕集効率および圧力損失の測定装置の一例を示す概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係るエレクトレットメルトブロー不織布の好適な実施の形態を詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、目的や用途に応じて種々に変更して実施することができる。
【0021】
本発明の不織布は、ポリオレフィン系樹脂繊維で構成されるエレクトレットメルトブロー不織布であって、前記エレクトレットメルトブロー不織布中にヒンダードアミン系化合物を0.1質量%以上5.0質量%以下と、銅、コバルト、アルミニウム、ニッケル、亜鉛、パラジウム、モリブデン、タングステンの中から選ばれる金属元素の酸化物から構成され、平均粒子径が500nm以下である金属酸化物粒子1種以上を0.01質量%以上1質量%以下と、を含む。以下に、その構成要素について詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下に説明する範囲に何ら限定されるものではない。
【0022】
まず、本発明のエレクトレットメルトブロー不織布は、ポリオレフィン系樹脂繊維で構成される。本発明においてポリオレフィン系樹脂繊維とは、構成する繊維がポリオレフィン系樹脂組成物からなることを指す。体積抵抗率が高く、吸水性が低いポリオレフィン系樹脂繊維とすることで、メルトブロー不織布をエレクトレット加工した際の帯電性および電荷保持性を強くすることができ、これらの効果によって高い捕集効率を達成することができる。
【0023】
本発明において、ポリオレフィン系樹脂繊維に用いられるポリオレフィン系樹脂組成物としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテンおよびポリメチルペンテン等のホモポリマーなどが挙げられる。また、これらのホモポリマーに異なる成分を共重合したコポリマーや、異なる2種以上のポリマーブレンド品等の樹脂を用いることもできる。これらの中でも、帯電保持性の観点から、ポリプロピレン系樹脂およびポリメチルペンテン系樹脂が好ましく用いられる。特に、安価に利用できること、繊維径の細径化が容易という観点から、ポリプロピレン系樹脂が好ましく用いられる。なお、ポリプロピレン系樹脂とは、ポリプロピレンのホモポリマー、他成分との共重合体(コポリマー)および異種樹脂とのポリマーブレンドなどの樹脂のうち、ポリプロピレンホモポリマーおよびプロピレン単位が80質量%以上含有する樹脂のことを指す。
【0024】
なお、本発明に用いられるポリプロピレン系樹脂繊維には、本発明の効果を損なわない限り、ポリオレフィン系樹脂繊維中に熱安定剤、耐候剤および重合禁止剤等の添加剤を含むことができる。
【0025】
次に、本発明のエレクトレットメルトブロー不織布は、エレクトレットメルトブロー不織布中に、ヒンダードアミン系化合物を0.1質量%以上5.0質量%以下含有する。ヒンダードアミン系化合物を0.1質量%以上、好ましくは0.7質量%以上含有することで、エレクトレット加工を施した際の帯電性、電荷保持性に優れるエレクトレットメルトブロー不織布を得ることができる。一方、ヒンダードアミン系化合物を5.0質量%以下、好ましくは3.0質量%以下含有することで、より低コストで上記帯電性と電荷保持性を発現させることが可能となる。
【0026】
ヒンダードアミン系化合物の含有量は、例えば、次のようにして求めることができる。すなわち、不織布をメタノール/クロロホルム混合溶液でソックスレー抽出後、その抽出物についてHPLC分取を繰り返し、各分取物についてIR測定、GC測定、GC/MS測定、MALDI-MS測定、1H-NMR測定、および13C-NMR測定で構造を確認する。該添加剤の含まれる分取物の質量を合計し、不織布全体に対する割合を求め、これをヒンダードアミン系化合物の含有量とする。
【0027】
本発明に用いられるヒンダードアミン系化合物は、次の一般式(1)で表される構造単位を有する化合物である。
【0028】
【0029】
一般式(1)中、R1は水素原子、メチル基であり、*は結合部を表す。
【0030】
この構造を有するヒンダードアミン系化合物としては、例えば、ポリ[(6-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)イミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル)((2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ)ヘキサメチレン((2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ)](BASF・ジャパン(株)製、“キマソーブ”(登録商標)944LD)、コハク酸ジメチル-1-(2-ヒドロキシエチル)-4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン重縮合物(BASFジャパン(株)製、“チヌビン”(登録商標)622LD)、および2-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-2-n-ブチルマロン酸ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)(BASFジャパン(株)製、“チヌビン”(登録商標)144)などが挙げられる。
【0031】
さらに、本発明のエレクトレットメルトブロー不織布は、エレクトレットメルトブロー不織布中に、トリアジン系化合物を0.1質量%以上5.0質量%以下含有することも好ましい。トリアジン系化合物を0.1質量%以上、より好ましくは0.7質量%以上含有することで、エレクトレット加工を施した際の帯電性、電荷保持性に優れるエレクトレットメルトブロー不織布を得ることができる。一方、トリアジン系化合物を5.0質量%以下、好ましくは3.0質量%以下含有することで、より低コストで上記帯電性と電荷保持性を発現させることが可能となる。
【0032】
本発明において、トリアジン系化合物の含有量は、ヒンダードアミン系化合物と同様に、例えば、次のようにして求めることができる。すなわち、不織布をメタノール/クロロホルム混合溶液でソックスレー抽出後、その抽出物についてHPLC分取を繰り返し、各分取物についてIR測定、GC測定、GC/MS測定、MALDI-MS測定、1H-NMR測定、および13C-NMR測定で構造を確認する。該トリアジン系化合物の含まれる分取物の質量を合計し、不織布全体に対する割合を求め、これをトリアジン系化合物の含有量とする。
【0033】
本発明に用いられるトリアジン系化合物は、次の一般式(2)で示されるトリアジン環構造を有する化合物である。
【0034】
【0035】
なお、一般式(2)中、*は結合部を表す。
【0036】
このトリアジン環構造を有するトリアジン系化合物としては、例えば、ポリ[(6-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)イミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル)((2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ)ヘキサメチレン((2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ)](BASFジャパン(株)製、“キマソーブ”(登録商標)944LD)、および2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-((ヘキシル)オキシ)-フェノール(BASFジャパン(株)製、“チヌビン”(登録商標)1577FF)などを挙げることができる。
【0037】
これらのヒンダードアミン系化合物、トリアジン系化合物の中でも、一般式(1)、(2)の両方の構造を有する化合物を用いることが、ポリオレフィン系樹脂中に添加する化合物量を少なくすることができ、低コストで帯電性と電荷保持性を発現させることが可能となるため、より好ましい。このような化合物は、例えば、ポリ[(6-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)イミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル)((2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ)ヘキサメチレン((2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ)](BASFジャパン(株)製、“キマソーブ”(登録商標)944LD)である。
【0038】
さらに、本発明のエレクトレットメルトブロー不織布は、銅、コバルト、アルミニウム、ニッケル、亜鉛、パラジウム、モリブデン、タングステンの中から選ばれる金属元素の酸化物から構成され、平均粒子径が500nm以下である金属酸化物粒子1種以上を0.01質量%以上1質量%以下、含む。これについて、詳細を以下に説明する。
【0039】
まず、本発明に用いられる金属酸化物粒子を構成する金属元素の酸化物としては、メルトブロー不織布をエレクトレット化した際の捕集効率に優れるという観点から、銅、コバルト、アルミニウム、ニッケル、亜鉛、パラジウム、モリブデン、タングステンの中から選ばれる金属元素の酸化物が挙げられる。中でも、特に捕集効率に優れるという観点から亜鉛の酸化物であることが好ましい。複数の金属元素の酸化物からなる金属酸化物を用いてもよい。
【0040】
すなわち、本発明に用いられる金属元素の酸化物の具体例としては、例えば、酸化銅(I)、酸化銅(II)、酸化コバルト(II)、酸化コバルト(III)、酸化コバルト(II、III)、酸化アルミニウム(III)、酸化ニッケル(II)、酸化亜鉛(II)、酸化パラジウム(II)、酸化モリブデン(VI)、酸化タングステン(VI)などであり、好ましくは、酸化亜鉛(II)である。
【0041】
本発明のエレクトレットメルトブロー不織布は、この金属酸化物粒子を一種以上含有することも好ましい。
【0042】
また、本発明に用いられる金属酸化物粒子は、その平均粒子径が500nm以下である。金属酸化物粒子の平均粒子径を500nm以下、好ましくは300nm以下、さらに好ましくは100nm以下とすることで、捕集効率を向上させることができる。一方、本発明に用いられる金属酸化物粒子の平均粒子径については、特に下限があるわけではないが、一般的には1nm以上の粒子を用いることが、ナノマテリアル取り扱い上の観点から好ましい。
【0043】
なお、金属酸化物粒子の粒子径を測定する方法としては、まず、エレクトレットメルトブロー不織布をキシレンやデカリン、クロロベンゼンなどの非極性の炭化水素系溶媒に浸漬させてポリオレフィン樹脂を溶かし金属酸化物粒子を単離する。単離した金属酸化物粒子を一次粒子になるまで水中に均一に分散させ、従来のレーザー回折散乱式粒度測定装置等を用いればよく、体積基準の粒度分布により算出される算術平均値を金属酸化物粒子の平均粒径(nm)とすることができる。
【0044】
さらに、本発明のエレクトレットメルトブロー不織布中には、前記の金属酸化物粒子1種以上を0.01質量%以上1質量%以下、含む。金属酸化物粒子の含有量をエレクトレットメルトブロー不織布の質量に対して、0.01質量%以上、好ましくは0.1質量%以上とすることで、メルトブロー不織布をエレクトレット加工した際に、優れた捕集効率のエレクトレットメルトブロー不織布を得ることができる。一方、1質量%以下、好ましくは、0.5質量%以下とすることで、エレクトレットメルトブロー不織布の強度を保つことができるだけでなく、紡糸ノズルの詰まりや樹脂塊(ショット)の発生などの紡糸上の問題を抑制することができる。
【0045】
本発明において、金属酸化物粒子の含有量は、蛍光X線分析、原子吸光分析(FLAAS)、発光分光分析(ICP-AES)等の分析手法を用いることで求めることができる。例えば、蛍光X線分析は、不織布にX線を照射し、発生した蛍光X線を検出する方法である。この蛍光X線は元素固有のエネルギーを持つため、モズレー則による定性分析、蛍光X線強度から定量分析が可能である。定量分析においては分析したい元素の濃度と蛍光X線の関係(検量線)をあらかじめ作成し、その結果を元にして未知試料を測定して得られた蛍光X線強度から濃度を求めることができる。
【0046】
本発明のエレクトレットメルトブロー不織布においてポリオレフィン系樹脂繊維に含まれる金属酸化物粒子の、一次粒子の断面積をS0、SEM-EDXにて求められる二次粒子の面積をS1としたとき、S1/S0が1000~50000である金属酸化物粒子が、繊維1.0×10-2mm2の範囲に1個以上、1000個以下含まれていることが好ましい。S1/S0が1000未満ではエレクトレットメルトブロー不織布を構成するポリオレフィン樹脂の繊維表面への露出が減少し捕集効率が低下する。S1/S0の上限については特に限定されないが、通常、紡糸ノズルの詰まりや樹脂塊(ショット)の発生などの紡糸上の問題が発生しない範囲を考慮し、50000以下が好ましい。
【0047】
本発明において、金属酸化物粒子の凝集状態は実施例に記載の方法で詳細に述べるが、以下のように求めることができる。まず、SEM-EDX分析で前記エレクトレットメルトブロー不織布に対して、電子線照射を行い発生する特定X線を分光することで、構成する元素の同定を行う。さらに、検出された情報を基に元素マッピングを行うことで、前記エレクトレットメルトブロー不織布を構成する繊維中の、前記金属酸化物粒子を構成する金属元素を画像で可視化することができる。このとき、元素マッピングによって可視化された金属元素のうち、その検出強度が最も高い金属元素を特定し、その金属元素の可視部分の面積を算出し、これを前記金属酸化物粒子の二次粒子の面積S1とする。さらに、前記金属酸化物粒子の一次粒子の断面積をS0とし、以下の式から前記金属酸化物粒子の凝集状態を算出する。
・金属酸化物粒子の凝集状態=S1/S0
具体的な一次粒子の断面積S0の求め方は、金属酸化物粒子の一次粒子が球形または球形に近い形状である場合は、その一次粒子の平均粒径と同じ直径を有する円とみなし、その面積をS0とする。粉砕粒子など多角形の断面を有する場合は多角形を三角形に分割し、その面積の総和を求めるなど各形状に合わせて求めることができる。
【0048】
なお、SEM-EDX分析を行う場合、分析範囲が1.0×10-2mm2以上を確保できれば、前記エレクトレットメルトブロー不織布の表面を分析してもよいし、不織布断面を分析してもよい。
【0049】
本発明のエレクトレットメルトブロー不織布に用いられるポリオレフィン系樹脂組成物としては、JIS K7210-1:2014の「プラスチック-熱可塑性プラスチックのメルトマスフローレイト(MFR)及びメルトボリュームフローレイト(MVR)の求め方-第1部:標準的試験方法」の「8 A法:質量測定法」に準拠して求められる。ポリオレフィン系樹脂組成物は、温度230℃、荷重2.16kg、測定時間10分の条件化で測定したメルトフローレート(MFR)が50g/10分以上2500g/10分以下であることが好ましい。ポリオレフィン系樹脂組成物のメルトフローレートを好ましくは50g/10分以上、より好ましくは150g/10分以上とすることで、エレクトレットメルトブロー不織布を構成する繊維の細径化が容易となる。一方、ポリオレフィン系樹脂組成物のメルトフローレートを好ましくは2500g/10分以下、より好ましくは2000g/10分以下とすることで、不織布の強度を向上させることができる。
【0050】
本発明のエレクトレットメルトブロー不織布に用いられるポリオレフィン系樹脂繊維は、その平均単繊維径が0.1μm以上15.0μm以下であることが好ましい。平均単繊維径を好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.3μm以上、さらに好ましくは0.5μm以上とすることで、不織布の強度を向上させることができる。一方、15.0μm以下、より好ましくは5.0μm以下、さらに好ましくは1.5μm以下とすることで、エレクトレットメルトブロー不織布の捕集効率を向上させることができる。
【0051】
なお、本発明におけるエレクトレットメルトブロー不織布に用いられるポリオレフィン系樹脂繊維の平均単繊維径は、不織布の幅方向3点(側端部2点と中央1点)、それを長手方向5cmおきに5点、合計15点から、3mm×3mmの測定サンプルを15個採取し、走査型電子顕微鏡(例えば、株式会社キーエンス社製「VHX-D510」など)で倍率を3000倍に調節して、採取した測定サンプルから繊維表面写真を各1枚ずつ、計15枚を撮影した。写真の中の繊維直径(単繊維径)がはっきり確認できる繊維について単繊維径を測定し、平均した値の小数点以下第2位を四捨五入して得られる値のことを指すこととする。
【0052】
また、ポリオレフィン系樹脂繊維は、複合繊維であってもよく、例えば、芯鞘型、偏心芯鞘型、サイドバイサイド型、分割型、海島型、アロイ型などの複合繊維の形態をとってもよい。
【0053】
本発明のエレクトレットメルトブロー不織布は、その目付が3g/m2以上100g/m2以下であることが好ましい。エレクトレットメルトブロー不織布の目付を3g/m2以上、より好ましくは5g/m2以上、さらに好ましくは10g/m2以上とすることにより、エレクトレットメルトブロー不織布の捕集効率を向上させることができる。一方、100g/m2以下、より好ましくは、70g/m2以下、さらに好ましくは50g/m2以下とすることにより、エレクトレットメルトブロー不織布をフィルターユニットとしてプリーツ成型を施した際のプリーツ山の潰れを抑制することができる。
【0054】
なお、本発明におけるエレクトレットメルトブロー不織布の目付は、エレクトレットメルトブロー不織布から、タテ×ヨコ=15cm×15cmのサンプルを採取し、そのサンプルの質量を測定して得られた値を1m2当たりの値に換算し、小数点以下第1位を四捨五入して、不織布の目付(g/m2)を算出することとする。
【0055】
本発明のエレクトレットメルトブロー不織布は、上記の構成を取ることによって、高い捕集効率と低い圧力損失とを両立する。これらの捕集性能の指標として、QF値(Pa-1)がある。QF値は、以下の式で表されるように、捕集効率と圧力損失との関係を示し、QF値が高い程、捕集効率が高く、圧力損失が低いことを示している。
・QF値(Pa-1)=-[ln(1-(捕集効率(%))/100)]/(圧力損失(Pa))。
【0056】
ここで、本発明におけるエレクトレットメルトブロー不織布の捕集効率と圧力損失の測定方法は以下の手順で測定し、算出される値である。
(1)不織布の幅方向5カ所で、タテ×ヨコ=15cm×15cmの測定サンプルMをそれぞれ1つずつ(計5つ)採取する。
(2)
図1の概略側面図に示す捕集効率測定装置を準備する。この捕集効率測定装置は、測定サンプルMをセットするサンプルホルダー1の上流側に、ダスト収納箱2を連結し、下流側に流量計3、流量調整バルブ4およびブロワ5を連結している。また、サンプルホルダー1にパーティクルカウンター6を使用し、切替コック7を介して、測定サンプルMの上流側のダスト個数と下流側のダスト個数とをそれぞれ測定することができるものである。
(3)ポリスチレン粒子の10%水溶液(例えば、ThermoScientific社製「OptiBind、品番:9100079710290」)を蒸留水で200倍まで希釈し、ダスト収納箱2に充填する。
(4)測定サンプルMを、サンプルホルダー1にセットし、風量をフィルター通過速度が4.5m/分になるように、流量調整バルブ4で調整し、ダスト濃度を1万~4万個/2.83×10
-4m
3(0.01ft
3)の範囲で安定させる。
(5)測定サンプルMの上流のダスト個数Dおよび下流のダスト個数dをパーティクルカウンター6(例えば、リオン株式会社製「KC-01D」など)で1個の測定サンプル当り3回測定し、JIS K0901:1991の「気体中のダスト試料捕集用ろ過材の形状、寸法並びに性能試験方法」に基づいて、下記の計算式を用いて、0.3~0.5μm粒子の捕集効率(%)を求める。
・捕集効率(%)=〔1-(d/D)〕×100
(ただし、dは下流ダストの3回測定トータル個数を表し、Dは上流のダストの3回測定トータル個数を表す。)
(6)併せて、測定サンプルMの上流と下流の静圧差を圧力計8で読み取り、測定サンプルMの圧力損失(Pa)を求める。
(7)5つの測定サンプルMについての捕集効率(%)の平均値を算出し、小数点第4位を四捨五入して得られる値をそのエレクトレットメルトブロー不織布の捕集効率(%)とする。
(8)5つの測定サンプルMについての圧力損失(Pa)の平均値を算出し、小数点第2位を四捨五入して得られる値をそのエレクトレットメルトブロー不織布の圧力損失(Pa)とする。
【0057】
本発明のエレクトレットメルトブロー不織布は、前記の高い捕集効率を活かすため、フィルターとして用いられることが好ましい。
【0058】
本発明のエアフィルター濾材は、前記の高い捕集効率であることを活かすことができるため、本発明のエレクトレットメルトブロー不織布からなることが好ましい。本発明の不織布から、本発明のエアフィルター濾材を得る方法としては、エレクトレットメルトブロー不織布と、それよりも剛性の高い骨材シートとを、スプレー法で湿気硬化型ウレタン樹脂などを散布して貼り合わせる方法や、熱可塑性樹脂、熱融着繊維を散布し熱路を通して貼り合わせる方法を用いることができる。
【0059】
この骨材シートは、比較的大きいダストを捕集するとともに、エレクトレットメルトブロー不織布に接合されて濾材として必要な剛性を得られるようにするためのものである。骨材シートとしては、例えば、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、レーヨン繊維、ガラス繊維および天然パルプ等からなる不織布、織編物等を用いることができる。
【0060】
本発明のフィルター濾材は、シート状のまま枠材に組み込んでフィルターユニットとして使用することができる。また、本発明でフィルター濾材を山折と谷折を繰り返してプリーツ加工を施して、枠材にセットしたプリーツ状のフィルターユニットとして使用することもできる。
【0061】
よって、本発明のエアフィルターは、前記のフィルター濾材であることが好ましい。より好ましくは、このエアフィルターが空調用フィルター、空気清浄機用フィルター、あるいは自動車キャビンフィルターである。すなわち、本発明のフィルター用エレクトレットメルトブロー不織布、あるいは、フィルター濾材は、これら高性能用途のフィルターに好適に用いることができる。
【0062】
続いて、本発明のエレクトレットメルトブロー不織布の製造方法を説明する。
【0063】
本発明のエレクトレットメルトブロー不織布の製造において、ポリオレフィン系樹脂中にヒンダードアミン系化合物、金属酸化物粒子を一度に混合してポリオレフィン樹脂組成物を形成し、これを用いてメルトブロー不織布を形成することも可能であるが、後述するポリオレフィン系樹脂Aと、ポリオレフィン系樹脂Bとを混合して、メルトブロー不織布を形成するのに供するポリオレフィン樹脂組成物を調製することが好ましい。このようにすることで、メルトブロー不織布を構成するポリオレフィン系樹脂繊維中に金属酸化物粒子を局所に存在させることができ、より捕集効率を高いものとすることができる。
【0064】
このポリオレフィン系樹脂Aは、ポリオレフィン系樹脂のほか、銅、コバルト、アルミニウム、ニッケル、亜鉛、パラジウム、モリブデン、タングステンの中から選ばれる金属元素の酸化物から構成され、平均粒子径が500nm以下の金属酸化物粒子1種以上を含有する。ポリオレフィン系樹脂Aは金属酸化物粒子1種以上をエレクトレットメルトブロー不織布の0.01質量%以上1質量%以下となるように含有することが好ましい。このようにすることで、前記の効果、すなわち、捕集効率に優れたエレクトレットメルトブロー不織布を得ることができ、かつ、ポリオレフィン系樹脂繊維中に金属酸化物粒子を局所に存在させることができることから、捕集効率をより向上させることができる。
【0065】
また、ポリオレフィン系樹脂Aおよび/またはBは、ヒンダードアミン系化合物を、形成するエレクトレットメルトブロー不織布の0.1質量%以上5.0質量%以下となるように含有することが好ましい。このようにすることで、帯電性、電荷保持性に優れたエレクトレットメルトブロー不織布とすることができる。
【0066】
さらに、前記のポリオレフィン系樹脂Aのメルトフローレート(MFRA)と前記のポリオレフィン系樹脂Bのメルトフローレート(MFRB)との差の絶対値(|MFRA-MFRB|)が650g/10分以上であることが好ましい。このようにすることで、金属酸化物粒子のポリオレフィン系樹脂中の分散状態をより良好なものとし、さらに帯電性、電荷保持性に優れたエレクトレットメルトブロー不織布とすることができる。
【0067】
ポリオレフィン系樹脂Aとポリオレフィン系樹脂Bとを用いて上記の方法で金属酸化物粒子を含有するポリオレフィン樹脂組成物を調製する方法としては、二軸押出機などを使用して押し出しながらポリオレフィン系樹脂に金属酸化物粒子を混合し、ポリオレフィン系樹脂Aを調製した後、これにポリオレフィン系樹脂Bを混合してもよいし、またはマスターバッチを用いてチップブレンドを作成した後に押し出してもよい。マスターバッチを用いる場合は、例えばポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂に金属酸化物粒子を練り込んだポリオレフィン系樹脂Aのマスターバッチを準備し、これにポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂Bをチップブレンドし、押出機内で練り込んで金属酸化物粒子を含有するポリオレフィン系樹脂組成物を調整することができる。
【0068】
続いて、得られたポリオレフィン系樹脂組成物からメルトブロー不織布を形成する。メルトブロー不織布の製造方法としては、所定の孔径を有するメルトブロー用ノズルからポリオレフィン樹脂組成物を吐出させながら、糸条を形成する。その吐出部に対して一定の角度から熱風を噴射することで糸条を細径化し、その糸条を捕集部に体積させることでメルトブロー不織布を形成する。
【0069】
さらに、得られたメルトブロー不織布をエレクトレット加工する。本発明に係るメルトブロー不織布をエレクトレット化する方法としては、例えば、アース電極上にメルトブロー不織布を接触させた状態で、このアース電極と不織布を共に移動させながら、非接触型印加電極で高圧印加を行なって連続的にエレクトレット化する方法、メルトブロー不織布に対して水の噴流もしくは水滴流をメルトブロー不織布の内部まで水が浸透するのに十分な圧力で噴霧させてエレクトレット化し、正極性と負極性の電荷を均一に混在させる方法、あるいは、メルトブロー不織布をスリット状のノズル上を通過させ、ノズルで水を吸引することにより繊維シートに水を浸透させて、正極性と負極性の電荷を均一に混在させる方法(ハイドロチャージ法)などを用いることができる。
【実施例】
【0070】
次に、実施例に基づき本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、各物性の測定において、特段の記載がないものは、前記の方法に基づいて測定を行ったものである。
【0071】
[測定方法]
(1)エレクトレットメルトブロー不織布の目付(g/m2):
エレクトレットメルトブロー不織布から、タテ×ヨコ=15cm×15cmのサンプルを採取し、そのサンプルの質量を測定して得られた値を1m2当たりの値に換算し、小数点以下第1位を四捨五入して、不織布の目付(g/m2)を算出した。
(2)ポリオレフィン系樹脂繊維の平均単繊維径(μm):
不織布の幅方向3点(側端部2点と中央1点)、それを長手方向5cmおきに5点、合計15点から、3mm×3mmの測定サンプルを15個採取した。走査型電子顕微鏡(株式会社キーエンス社製「VHX-D510」)で倍率を3000倍に調節して、採取したサンプルから繊維表面写真を各1枚ずつ、計15枚を撮影した。写真の中の繊維直径(単繊維径)がはっきり確認できる繊維について単繊維径を測定し、平均した値の小数点以下第2位を四捨五入して得られる値を平均単繊維径とした。
(3)エレクトレットメルトブロー不織布の金属酸化物粒子の凝集状態
SEM-EDXによる測定:
測定装置(SEM)としてVE-9800(キーエンス社製)、検出装置(EDX)としてGenesis-XM1(EDAX社製)を用いた。
【0072】
不織布の幅方向3点(側端部2点と中央1点)から、3mm×3mmの測定サンプルを3個採取し、測定サンプルにプラチナコーティングを行った。
【0073】
走査型電子顕微鏡(SEM)で倍率を1000倍(測定視野:1.1×10-2mm2)に調節して、採取した測定サンプルから繊維表面を各1点ずつ、計3点を撮影し、EDX装置の積算時間を200secに設定し、分析、元素マッピングをおこなった。元素マッピングを行うことで、エレクトレットメルトブロー不織布を構成する繊維中の、前記金属酸化物粒子を構成する金属元素を画像で可視化させた。可視化された金属元素のうち、その検出強度が最も高い金属元素を特定し、その金属元素の可視部分の面積を算出し、これを金属酸化物粒子の二次粒子の面積S1とした。次に金属酸化物粒子の一次粒子の断面積S0に対して、1000倍以上50000倍以下である金属酸化物粒子の二次粒子の面積S1の個数をカウントした。具体的には、金属酸化物粒子の一次粒子が直径20nmの球形粒子である場合、二次粒子の直径が0.63μm以上4.5μm以下である箇所の個数をカウントした。このとき、直径を確認する目的で走査型電子顕微鏡(SEM)の倍率を一次的に10000倍などに拡大してカウントした。金属酸化物粒子の一次粒子の断面積をS0とし、以下の式から金属酸化物粒子の凝集状態を算出した。
金属酸化物粒子の凝集状態=S1/S0
金属酸化物粒子の一次粒子の断面積S0を測定する方法としては、まず、エレクトレットメルトブロー不織布を炭化水素系溶媒に浸漬させてポリオレフィン樹脂を溶かし金属酸化物粒子を単離した。単離した金属酸化物粒子を走査型電子顕微鏡(株式会社キーエンス社製「VE-9800」)を用いて100000倍に拡大して観察し、金属酸化物粒子の形状を確認した。金属酸化物粒子が球形であった場合は、単離した金属酸化物粒子を一次粒子になるまで水中に均一に分散させ、レーザー回折散乱式粒度測定装置(株式会社堀場製作所製)LA-920)を用いて、体積基準の粒度分布により算出される算術平均値を金属酸化物粒子の一次粒子の平均粒径(nm)とした。
【0074】
金属酸化物粒子の一次粒子が球形または球形に近い形状である場合は、その一次粒子の平均粒径と同じ直径を有する円とみなし、その面積をS0とした。粉砕粒子など多角形の断面を有する場合は多角形を三角形に分割し、その面積の総和をS0とした。
(4)エレクトレットメルトブロー不織布の捕集効率、圧力損失、QF値:
ポリスチレン粒子の10%水溶液は、ThermoScientific社製「OptiBind、品番:9100079710290」を用いた。また、捕集効率測定装置のパーティクルカウンターには、リオン株式会社製「KC-01D」を用いた。
(5)ポリオレフィン系樹脂繊維の紡糸性:
ポリオレフィン系樹脂繊維の紡糸性は、幅1m×長さ1m(1m2)の不織布を観察し、ショットが0個以上10個未満のものをA、ショットが10個以上30個未満のものをB、ショットが30個以上のものをCとして評価した。
【0075】
[実施例1]
ポリオレフィン系樹脂A、ポリオレフィン系樹脂Bとして、以下のポリオレフィン系樹脂原料を用いた。
・ポリオレフィン系樹脂A: ポリプロピレン樹脂に、粒子径が20nmの酸化亜鉛粒子を20質量%含むポリプロピレン系樹脂。なお、メルトフローレートは230g/10分である。
・ポリオレフィン系樹脂B: ポリプロピレン樹脂に、ヒンダードアミン系化合物“キマソーブ”(登録商標)944(BASFジャパン株式会社製、表1、2では「C944」と表記)を1質量%含むポリプロピレン系樹脂。なお、メルトフローレートは1100g/10分である。
【0076】
ポリオレフィン系樹脂Aとポリオレフィン系樹脂Bをポリオレフィン系樹脂A:ポリオレフィン系樹脂B=1:99の質量割合で混合して、チップブレンドを得た。次いで、このチップブレンドを押出機の原料ホッパーに投入し、押出機で溶融、混練しながらギアポンプへ供給した。ギアポンプで計量したポリオレフィン系樹脂組成物を、直径が0.3mmの吐出孔が一直線上に配置した口金を用いて、メルトブロー法により、吐出量が320g/分、ノズル温度が280℃、エア圧力が0.19MPaの条件で噴射し、捕集コンベア速度を調整することによって、目付が20g/m2のメルトブロー不織布を得た。続いて、得られたメルトブロー不織布にエレクトレット化処理を施しエレクトレットメルトブロー不織布を得た。
【0077】
得られたエレクトレットメルトブロー不織布について、ポリオレフィン系樹脂組成物の構成などは表1に、測定結果および評価結果は表3に示す。
【0078】
[実施例2]
ポリオレフィン系樹脂Aとポリオレフィン系樹脂Bの混合割合を、ポリオレフィン系樹脂A:ポリオレフィン系樹脂B=5:95の質量割合とした以外は、実施例1と同様の方法によりエレクトレットメルトブロー不織布を得た。
【0079】
得られたエレクトレットメルトブロー不織布について、ポリオレフィン系樹脂組成物の構成などは表1に、測定結果および評価結果は表3に示す。
【0080】
[実施例3]
ポリオレフィン系樹脂Bに用いたポリプロピレン樹脂の種類を変更し、ポリオレフィン系樹脂Bのメルトフローレートを900g/10分となるようにした以外は、実施例1と同様の方法によりエレクトレットメルトブロー不織布を得た。
【0081】
得られたエレクトレットメルトブロー不織布について、ポリオレフィン系樹脂組成物の構成などは表1に、測定結果および評価結果は表3に示す。
【0082】
[実施例4]
ポリオレフィン系樹脂Aとして、以下のポリオレフィン系樹脂原料を用い、ポリオレフィン樹脂Aとポリオレフィン樹脂Bの混合割合を、ポリオレフィン系樹脂A:ポリオレフィン系樹脂B=0.5:99.5の質量割合とした以外は、実施例1と同様の方法によりエレクトレットメルトブロー不織布を得た。
・ポリオレフィン系樹脂A: ポリプロピレン樹脂に、粒子径が30nmの酸化亜鉛粒子を40質量%含むポリプロピレン系樹脂。なお、メルトフローレートは230g/10分である。
【0083】
得られたエレクトレットメルトブロー不織布について、ポリオレフィン系樹脂組成物の構成などは表1に、測定結果および評価結果は表3に示す。
【0084】
[実施例5]
直径が0.15mmの吐出孔が一直線上に配置した口金を用いて、メルトブロー法により、吐出量が160g/分、ノズル温度が280℃、エア圧力が0.19MPaの条件で噴射し、捕集コンベア速度を調整することによって、目付が20g/m2のメルトブロー不織布を得た以外は、実施例1と同様の方法によりエレクトレットメルトブロー不織布を得た。
【0085】
得られたエレクトレットメルトブロー不織布について、ポリオレフィン系樹脂組成物の構成などは表1に、測定結果および評価結果は表3に示す。
【0086】
[比較例1]
ポリオレフィン系樹脂Aを用いず、ポリオレフィン系樹脂Bのみを用いて、ポリオレフィン系樹脂組成物としたこと以外は実施例1と同様の方法によりエレクトレットメルトブロー不織布を得た。
【0087】
得られたエレクトレットメルトブロー不織布について、ポリオレフィン系樹脂組成物の構成などは表2に、測定結果および評価結果は表3に示す。
【0088】
[比較例2]
ポリオレフィン系樹脂原料として、以下のポリオレフィン系樹脂原料を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法によりエレクトレットメルトブロー不織布を得た。
・ポリオレフィン系樹脂A: ポリプロピレン樹脂に、粒子径が800nmの酸化亜鉛粒子を20質量%含むポリプロピレン系樹脂。なお、メルトフローレートは230g/10分である。
【0089】
得られたエレクトレットメルトブロー不織布について、ポリオレフィン系樹脂組成物の構成などは表2に、測定結果および評価結果は表3に示す。
【0090】
【0091】
【0092】
【0093】
表3から明らかなように、実施例1~5に記載のエレクトレットメルトブロー不織布は低い圧力損失でありながらも高い捕集効率を達成しており、優れた捕集性能(QF値)を有していることが分かる。
【0094】
これに対し、金属酸化物粒子を含有していない成分のみとした比較例1に記載のエレクトレットメルトブロー不織布は、実施例1~5に記載のエレクトレットメルトブロー不織布に対して、捕集性能(QF値)が低い結果であった。
【0095】
また、ポリオレフィン系樹脂Aに含まれる金属酸化物粒子の粒子径を800nmとした比較例2に記載のエレクトレットメルトブロー不織布は、実施例1~4に記載のエレクトレットメルトブロー不織布に対して、紡糸中の糸切れやショットが多発し紡糸性が悪化しただけでなく、金属酸化物粒子の凝集が多く確認され分散状態が不良であり、捕集性能(QF値)も低いものであった。
【0096】
以上のように本発明によれば、エレクトレットメルトブロー不織布を構成するポリオレフィン系樹脂繊維に、所定の粒子径を有する金属酸化物粒子を添加し、局所に存在させることによって、高い捕集効率と低い圧力損失とを両立するエレクトレットメルトブロー不織布が得られる。そして、このエレクトレットメルトブロー不織布は、フィルター濾材ならびに、エアフィルター全般、中でも空調用フィルター、空気清浄機用フィルター、および自動車キャビンフィルターの高性能用途や、マスクや防護服といった気体中の花粉や塵等の侵入抑制を目的とする衛生材料用途に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0097】
1:サンプルホルダー
2:ダスト収納箱
3:流量計
4:流量調整バルブ
5:ブロワ
6:パーティクルカウンター
7:切替コック
8:圧力計
M:測定サンプル