(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】組成物、基板の製造方法及び重合体
(51)【国際特許分類】
C08L 15/00 20060101AFI20240409BHJP
C08C 19/10 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
C08L15/00
C08C19/10
(21)【出願番号】P 2021526043
(86)(22)【出願日】2020-06-03
(86)【国際出願番号】 JP2020021991
(87)【国際公開番号】W WO2020250783
(87)【国際公開日】2020-12-17
【審査請求日】2022-12-08
(31)【優先権主張番号】P 2019108156
(32)【優先日】2019-06-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004178
【氏名又は名称】JSR株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【氏名又は名称】天野 一規
(72)【発明者】
【氏名】小松 裕之
(72)【発明者】
【氏名】白谷 宗大
(72)【発明者】
【氏名】酒井 達也
【審査官】尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-257329(JP,A)
【文献】特開2009-148685(JP,A)
【文献】国際公開第2018/043304(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/043729(WO,A1)
【文献】特開2007-269961(JP,A)
【文献】特開2013-047782(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08F 6/00-246/03
C08C 19/00-19/44
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表層に金属原子を含む基材の表面の化学修飾に用いられる組成物であって、
環構造を含む構造単位及び上記金属原子と結合する官能基を有する重合体と、
溶媒と
を含有し、
上記環構造を構成する原子鎖が上記重合体の主鎖の一部を構成
し、
上記重合体が上記官能基を主鎖の末端に有し、
上記官能基がシアノ基又はホスホノ基であり、
上記構造単位が下記式(1)で表される組成物。
【化1】
(式(1)中、R
1
~R
6
は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1~10の1価の有機基である。R
7
は、水素原子又は炭素数1~10の1価の有機基である。pは、0~4の整数である。pが1の場合、R
8
は、炭素数1~20の1価の有機基、ヒドロキシ基又はハロゲン原子である。pが2以上の場合、複数のR
8
は、互いに同一又は異なり、炭素数1~20の1価の有機基、ヒドロキシ基若しくはハロゲン原子であるか、又は複数のR
8
のうちの2つ以上が互いに合わせられこれらが結合する炭素鎖と共に構成される環員数4~20の環構造の一部である。)
【請求項2】
表層に金属原子を含む基材に直接又は間接に
請求項1に記載の組成物を塗工する工程と、
上記塗工工程により形成された塗膜を加熱する工程と
を備
える基板の製造方法。
【請求項3】
上記基材が、表層に上記金属原子を含む第1領域と、表層に上記金属原子を含まない第2領域とを有する請求項
2に記載の基板の製造方法。
【請求項4】
上記金属原子が、金属単体、合金、導電性窒化物又はシリサイドを構成している請求項
2又は請求項
3に記載の基板の製造方法。
【請求項5】
上記金属原子が、銅、鉄、亜鉛、コバルト、アルミニウム、チタン、スズ、タングステン、ジルコニウム、タンタル、ゲルマニウム、モリブデン、ルテニウム、金、銀、白金、パラジウム又はニッケルである請求項
2、請求項
3又は請求項
4に記載の基板の製造方法。
【請求項6】
上記加熱工程後に、
上記加熱工程により形成された膜に除去液を接触させる工程
をさらに備える請求項
2から請求項
5のいずれか1項に記載の基板の製造方法。
【請求項7】
上記除去液が酸及び塩基から選ばれる少なくとも一種を含有する請求項
6に記載の基板の製造方法。
【請求項8】
環構造を含む構造単位を有する重合体であって、
上記環構造を構成する原子鎖が上記重合体の主鎖の一部を構成し、
主鎖の末
端にシアノ基
又はホスホノ
基を有
し、
上記構造単位が下記式(1)で表される重合体。
【化2】
(式(1)中、R
1
~R
6
は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1~10の1価の有機基である。R
7
は、水素原子又は炭素数1~10の1価の有機基である。pは、0~4の整数である。pが1の場合、R
8
は、炭素数1~20の1価の有機基、ヒドロキシ基又はハロゲン原子である。pが2以上の場合、複数のR
8
は、互いに同一又は異なり、炭素数1~20の1価の有機基、ヒドロキシ基若しくはハロゲン原子であるか、又は複数のR
8
のうちの2つ以上が互いに合わせられこれらが結合する炭素鎖と共に構成される環員数4~20の環構造の一部である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物、基板の製造方法及び重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスのさらなる微細化に伴い、30nmを切る微細パターンを形成する技術が要求されている。しかし、従来のリソグラフィーによる方法では、光学的要因等により技術的に困難になってきている。
【0003】
そこで、いわゆるボトムアップ技術を用いて微細パターンを形成することが検討されている。このボトムアップ技術としては、重合体の自己組織化を利用する方法の他、微細な領域を表層に有する基材を選択的に修飾する方法が検討されるようになってきている。この選択的修飾方法には、簡便かつ高選択的に表面領域を修飾することができる材料が必要であり、種々のものが検討されている(特開2016-25355号公報、特開2003-76036号公報、ACS Nano,9,9,8710,2015、ACS Nano,9,9,8651,2015、Science,318,426,2007及びLangmuir,21,8234,2005参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-25355号公報
【文献】特開2003-76036号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】ACS Nano,9,9,8710,2015
【文献】ACS Nano,9,9,8651,2015
【文献】Science,318,426,2007
【文献】Langmuir,21,8234,2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
最近では、基材の表面に、ALD(Atomic Layer Deposition)法又はCVD(Chemical Vapor Deposition)法を用いる金属オキサイド形成によってパターンを堆積させることが行われており、このパターンの堆積を、領域を区別して高選択的に行うことが求められている。一方、基材の表面に行った化学修飾を、簡便にかつ基材への影響を低減しつつ、wet剥離により除去できることも求められている。しかし、上記従来の材料では、これらの要求を満たすことはできていない。
【0007】
本発明は、上述のような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、表層に金属原子を含む基材の表面に領域選択的に、耐熱性に優れかつwet剥離可能な膜を形成することができ、この膜によってALD法又はCVD法による金属オキサイド形成に対する高いブロッキング性能を発揮することができる組成物、基板の製造方法及び重合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた発明は、表層に金属原子(以下、「金属原子(M)」ともいう)を含む基材(以下、「基材(S)」ともいう)の表面の化学修飾に用いられる組成物であって、環構造を含む構造単位(以下、「構造単位(I)」ともいう)及び上記金属原子(M)と結合する官能基(以下、「官能基(X)」ともいう)を有する重合体(以下、「[A]重合体」ともいう)と、溶媒(以下、「[B]溶媒」ともいう)とを含有し、上記環構造を構成する原子鎖が上記重合体の主鎖の一部を構成する組成物である。
【0009】
上記課題を解決するためになされた別の発明は、表層に金属原子(M)を含む基材(S)に直接又は間接に当該組成物を塗工する工程と、上記塗工工程により形成された塗膜を加熱する工程とを備える基板の製造方法である。
【0010】
上記課題を解決するためになされたさらに別の発明は、環構造を含む構造単位(構造単位(I))を有する重合体であって、上記環構造を構成する原子鎖が上記重合体の主鎖の一部を構成し、主鎖の末端又は側鎖の末端にシアノ基、ホスホノ基又はジヒドロキシボリル基(以下、「官能基(X’)」ともいう)を有する重合体である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の組成物及び基板の製造方法によれば、表層に金属原子を含む基材の表面に領域選択的に、耐熱性に優れかつwet剥離可能な膜を形成することができ、この膜によってALD法又はCVD法による金属オキサイド形成に対する高いブロッキング性能を発揮することができる。本発明の重合体は、当該組成物の重合体成分として好適に用いることができる。従って、当該組成物、基板の製造方法及び重合体は、今後ますます微細化が進行すると予想される半導体デバイスの加工プロセス等に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の組成物により表層に金属原子を含む基材の表面を領域選択的に化学修飾することを説明する模式図である。
【
図2】
図2は、ALD法による金属オキサイド形成のブロッキング性能について説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<組成物>
当該組成物は、表層に金属原子を含む基材(S)の表面の化学修飾に用いられる。当該組成物は、[A]重合体と、[B]溶媒とを含有する。当該組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、任意成分を含有していてもよい。
【0014】
当該組成物は、[A]重合体と[B]溶媒とを含有し、[A]重合体が構造単位(I)を有し、官能基(X)を有することで、表層に金属原子(M)を含む基材(S)の表面に領域選択的に、耐熱性に優れかつwet剥離可能な膜を形成することができ、この膜によってALD法又はCVD法による金属オキサイド形成に対する高いブロッキング性能を発揮することができる。当該組成物が上記構成を備えることで上記効果を奏する理由については必ずしも明確ではないが、例えば以下のように推察することができる。すなわち、[A]重合体は、構造単位(I)において、環構造を構成する原子鎖が上記重合体の主鎖の一部を構成するので、耐熱性に優れている。また、[A]重合体は、金属原子(M)と結合する官能基(X)を有するので、
図1に示すように、表層に金属原子(M)を含む基材(S)の表面に領域選択的に化学修飾する膜を形成することができ、また、この膜は、酸含有液等を用いてwet剥離可能なものとなる。さらに、
図2に示すように、このような耐熱性に優れる膜を用いることにより、ALD法又はCVD法による金属オキサイド形成に対するブロッキング性能をより向上させることができる。
以下、基材(S)、及び当該組成物の各成分について説明する。
【0015】
<基材>
基材(S)は、表層に金属原子(M)を含む。
【0016】
金属原子(M)としては、金属元素の原子であれば特に限定されない。なお、ケイ素は、非金属原子であり、金属原子に該当しない。金属原子(M)としては、例えば銅、鉄、亜鉛、コバルト、アルミニウム、スズ、タングステン、ジルコニウム、チタン、タンタル、ゲルマニウム、モリブデン、ルテニウム、金、銀、白金、パラジウム、ニッケル等が挙げられる。これらの中で、銅、コバルト又はタングステンが好ましい。
【0017】
表層における金属原子(M)の含有形態としては、例えば金属単体、合金、導電性窒化物、金属酸化物、シリサイド等が挙げられる。
【0018】
金属単体としては、例えば銅、鉄、コバルト、タングステン、タンタル等の金属の単体等が挙げられる。
合金としては、例えばニッケル-銅合金、コバルト-ニッケル合金、金-銀合金等が挙げられる。
導電性窒化物としては、例えば窒化タンタル、窒化チタン、窒化鉄、窒化アルミニウム等が挙げられる。
金属酸化物としては、例えば酸化タンタル、酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化銅等が挙げられる。
シリサイドとしては、例えば鉄シリサイド、モリブデンシリサイド等が挙げられる。
これらの中で、金属単体、合金、導電性窒化物又はシリサイドが好ましく、金属単体又は導電性窒化物がより好ましく、銅単体、コバルト単体、タングステン単体、タンタル単体、窒化チタン又は窒化タンタルがさらに好ましく、銅単体、コバルト単体又はタングステン単体が特に好ましい。
【0019】
基材(S)は、好ましくは、表層に金属原子(M)を含む領域(以下、「領域(I)」ともいう)と、表層に金属原子(M)を含まない領域(以下、「領域(II)」ともいう)とを有する。領域(II)は、実質的に非金属原子(以下、「非金属原子(N)」ともいう)のみからなることが好ましい。
【0020】
領域(II)中における非金属原子(N)の含有形態としては、例えば非金属単体、非金属酸化物、非金属窒化物、非金属酸化物窒化物等が挙げられる。
【0021】
非金属単体としては、例えばケイ素、炭素等の単体などが挙げられる。
非金属酸化物としては、例えば酸化ケイ素等が挙げられる。
非金属窒化物としては、例えばSiNx、Si3N4等が挙げられる。
非金属酸化物窒化物としては、例えばSiON等が挙げられる。
これらの中で、非金属酸化物が好ましく、酸化ケイ素がより好ましい。
【0022】
基材(S)における領域(I)及び領域(II)の存在形状としては特に限定されず、例えば平面視で面状、点状、ストライプ状等が挙げられる。領域(I)及び領域(II)の大きさは特に限定されず、適宜所望の大きさの領域とすることができる。
【0023】
基材(S)の形状としては、特に限定されず、板状(基板)、球状等、適宜所望の形状とすることができる。
【0024】
<[A]重合体>
[A]重合体は、構造単位(I)を有し、官能基(X)を有する重合体である。[A]重合体は、構造単位(I)以外の構造単位(以下、「構造単位(II)」ともいう)を有していてもよい。
以下、各構造単位について説明する。
【0025】
[構造単位(I)]
構造単位(I)は、環構造を含む構造単位であって、この環構造を構成する原子鎖が[A]重合体の主鎖の一部を構成する。換言すると、構造単位(I)は、主鎖に環構造を含む構造単位である。「主鎖」とは、重合体を構成する原子鎖のうち、最も長いものをいう。
【0026】
構造単位(I)に含まれる環構造としては、例えば脂環構造、芳香環構造、脂肪族複素環構造、芳香族複素環構造、又はこれらの環構造の組み合わせが挙げられる。
【0027】
脂環構造としては、例えばシクロプロパン構造、シクロブタン構造、シクロペンタン構造、シクロヘキサン構造、シクロへプタン構造、シクロオクタン構造、シクロデカン構造等の環員数3~20の単環の脂環構造;
ノルボルナン構造、アダマンタン構造、トリシクロデカン構造、テトラシクロドデカン構造、デカヒドロナフタレン構造等の環員数7~20の多環の脂環構造などが挙げられる。
【0028】
芳香環構造としては、例えばベンゼン構造、ナフタレン構造、アントラセン構造、フェナントレン構造、テトラセン構造、ピレン構造等の環員数6~20の芳香環構造などが挙げられる。
【0029】
脂肪族複素環構造としては、例えばテトラヒドロフラン構造、テトラヒドロピラン構造、ピロリジン構造、ピペリジン構造、ピペラジン構造、モルホリン構造、テトラヒドロチオフェン構造、クロマン構造、インドリン構造等の環員数5~20の脂肪族複素環構造などが挙げられる。
【0030】
芳香族複素環構造としては、例えばフラン構造、ピラン構造、ピロール構造、ピリジン構造、ピラジン構造、ピリミジン構造、チオフェン構造、キノリン構造等が挙げられる。
【0031】
環構造としては、脂環構造を含むことが好ましい。
【0032】
環構造としては、脂環構造及び芳香環構造を含む多環構造がより好ましい。換言すると、環構造としては、脂環構造と芳香環構造とが縮環した多環構造がより好ましい。このような多環構造としては、例えばテトラヒドロナフタレン構造などが挙げられる。このような多環構造の場合、脂環構造を構成する原子鎖が上記重合体の主鎖の一部を構成することが好ましい。
【0033】
構造単位(I)としては、例えば下記式(1)で表される構造単位(以下、「構造単位(I-1)」ともいう)等が挙げられる。構造単位(I-1)は、下記式(1)で示されるように、環構造としてシクロヘキサン構造とベンゼン構造とが縮環した多環構造を含んでおり、シクロヘキサン構造を構成する原子鎖が主鎖の一部を構成している。
【0034】
【0035】
上記式(1)中、R1~R6は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1~10の1価の有機基である。R7は、水素原子又は炭素数1~10の1価の有機基である。pは、0~4の整数である。pが1の場合、R8は、炭素数1~20の1価の有機基、ヒドロキシ基又はハロゲン原子である。pが2以上の場合、複数のR8は、互いに同一又は異なり、炭素数1~20の1価の有機基、ヒドロキシ基若しくはハロゲン原子であるか、又は複数のR8のうちの2つ以上が互いに合わせられこれらが結合する炭素鎖と共に構成される環員数4~20の環構造の一部である。
【0036】
R1~R6及びR7で表される炭素数1~10の1価の有機基としては、例えばメチル基、エチル基等の炭素数1~10のアルキル基などが挙げられる。
【0037】
R1~R6及びR7としては、水素原子又はアルキル基が好ましく、水素原子又はメチル基がより好ましい。
【0038】
R8で表される炭素数1~20の1価の有機基としては、例えば炭素数1~20の1価の炭化水素基、この炭化水素基の炭素-炭素間に2価のヘテロ原子含有基を含む1価の基(α)、上記炭化水素基及び基(α)が有する水素原子の一部又は全部を1価のヘテロ原子含有基で置換した1価の基(β)、上記炭化水素基、基(α)又は基(β)と2価のヘテロ原子含有基とを組み合わせた1価の基(γ)等が挙げられる。なお、上記ヘテロ原子含有基に炭素原子が含まれる場合、その炭素原子の数も、有機基の炭素数1~20に含まれるものとする。
【0039】
炭素数1~20の1価の炭化水素基としては、例えば炭素数1~20の1価の鎖状炭化水素基、炭素数3~20の1価の脂環式炭化水素基、炭素数6~20の1価の芳香族炭化水素基等が挙げられる。
【0040】
「炭化水素基」には、鎖状炭化水素基、脂環式炭化水素基及び芳香族炭化水素基が含まれる。この「炭化水素基」は、飽和炭化水素基でも不飽和炭化水素基でもよい。「鎖状炭化水素基」とは、環状構造を含まず、鎖状構造のみで構成された炭化水素基をいい、直鎖状炭化水素基及び分岐状炭化水素基の両方を含む。「脂環式炭化水素基」とは、環構造としては脂環構造のみを含み、芳香環構造を含まない炭化水素基をいい、単環の脂環式炭化水素基及び多環の脂環式炭化水素基の両方を含む。但し、脂環構造のみで構成されている必要はなく、その一部に鎖状構造を含んでいてもよい。「芳香族炭化水素基」とは、環構造として芳香環構造を含む炭化水素基をいう。但し、芳香環構造のみで構成されている必要はなく、その一部に鎖状構造や脂環構造を含んでいてもよい。
【0041】
炭素数1~20の1価の鎖状炭化水素基としては、例えば
メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、t-ブチル基等のアルキル基;
エテニル基、プロペニル基、ブテニル基等のアルケニル基;
エチニル基、プロピニル基、ブチニル基等のアルキニル基などが挙げられる。
【0042】
炭素数3~20の1価の脂環式炭化水素基としては、例えば
シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の単環の脂環式飽和炭化水素基;
シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等の単環の脂環式不飽和炭化水素基;
ノルボルニル基、アダマンチル基、トリシクロデシル基等の多環の脂環式飽和炭化水素基;
ノルボルネニル基、トリシクロデセニル基等の多環の脂環式不飽和炭化水素基などが挙げられる。
【0043】
炭素数6~20の1価の芳香族炭化水素基としては、例えば
フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、アントリル基等のアリール基;
ベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基、アントリルメチル基等のアラルキル基などが挙げられる。
【0044】
1価又は2価のヘテロ原子含有基に含まれるヘテロ原子としては、例えば酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子、ケイ素原子、ハロゲン原子等が挙げられる。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
【0045】
2価のヘテロ原子含有基としては、例えば-O-、-CO-、-S-、-CS-、-NR’-、-SO-、-SO2-、これらのうちの2つ以上を組み合わせた基等が挙げられる。R’は、水素原子又は1価の炭素水素基である。
【0046】
1価のヘテロ原子含有基としては、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子、ヒドロキシ基、カルボキシ基、シアノ基、アミノ基、スルファニル基等が挙げられる。
【0047】
R8としては、炭素数1~10の1価の炭化水素基、ヒドロキシ基又はハロゲン原子が好ましく、アルキル基、ヒドロキシ基又はフッ素原子がより好ましく、メチル基、ヒドロキシ基又はフッ素原子がさらに好ましい。
【0048】
複数のR8のうちの2つ以上が構成する環員数4~20の環構造としては、例えば
シクロペンタン構造、シクロヘキサン構造等の脂環構造;
ベンゼン構造、ナフタレン構造等の芳香環構造などが挙げられる。
これらの中で、芳香環構造が好ましく、ベンゼン構造がより好ましい。
【0049】
pとしては、0~2が好ましく、0又は1がより好ましく、0がさらに好ましい。
【0050】
構造単位(I-1)は、例えばスチレン等の芳香族ビニル化合物と、イソプレン等のジエン化合物とを用いて重合を行い、側鎖に芳香環を有し、主鎖に炭素-炭素二重結合を有する芳香族ビニル-ジエン構造単位を形成させ、この芳香族ビニル-ジエン構造単位において、トリフルオロメタンスルホン酸等の酸存在下で、シクロヘキサン構造を形成させる環化反応を行うことにより形成することができる。
【0051】
構造単位(I)の含有割合の下限としては、[A]重合体を構成する全構造単位に対して、0.1モル%が好ましく、1モル%がより好ましく、5モル%がさらに好ましく、10モル%が特に好ましい。上記含有割合の上限としては、80モル%が好ましく、50モル%がより好ましく、40モル%がさらに好ましく、30モル%が特に好ましい。構造単位(I)の含有割合を上記範囲とすることで膜の耐熱性をより向上させることができる。
【0052】
[構造単位(II)]
構造単位(II)は、構造単位(I)以外の構造単位である。構造単位(II)としては、例えば置換又は非置換のスチレンに由来する構造単位、(メタ)アクリル酸又は(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位、置換又は非置換のエチレンに由来する構造単位、架橋性基を含む構造単位等が挙げられる。[A]重合体は、これらの構造単位をそれぞれ1種又は2種以上有していてもよい。「架橋性基」とは、加熱条件下、活性エネルギー線照射条件下、酸性条件下等における反応により、架橋構造を形成する基をいう。
【0053】
置換又は非置換のスチレンに由来する構造単位を与える単量体としては、例えばスチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-t-ブチルスチレン、2,4,6-トリメチルスチレン、p-メトキシスチレン、p-t-ブトキシスチレン、o-ビニルスチレン、m-ビニルスチレン、p-ビニルスチレン、o-ヒドロキシスチレン、m-ヒドロキシスチレン、p-ヒドロキシスチレン、m-クロロメチルスチレン、p-クロロメチルスチレン、p-クロロスチレン、p-ブロモスチレン、p-ヨードスチレン、p-ニトロスチレン、p-シアノスチレン等が挙げられる。
【0054】
(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位を与える単量体としては、例えば
(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;
(メタ)アクリル酸シクロペンチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸1-メチルシクロペンチル、(メタ)アクリル酸2-エチルアダマンチル、(メタ)アクリル酸2-(アダマンタン-1-イル)プロピル等の(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステル;
(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ナフチル等の(メタ)アクリル酸アリールエステル;
(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシアダマンチル、(メタ)アクリル酸3-グリシジルプロピル、(メタ)アクリル酸3-トリメチルシリルプロピル等の(メタ)アクリル酸置換アルキルエステルなどが挙げられる。
【0055】
置換又は非置換のエチレンに由来する構造単位を与える単量体としては、例えば
エチレン;
プロペン、ブテン、ペンテン等のアルケン;
ビニルシクロペンタン、ビニルシクロヘキサン等のビニルシクロアルカン;
シクロペンテン、シクロヘキセン等のシクロアルケン;
4-ヒドロキシ-1-ブテン、ビニルグリシジルエーテル、ビニルトリメチルシリルエーテル等が挙げられる。
【0056】
架橋性基としては、例えば
ビニル基、ビニロキシ基、アリル基、(メタ)アクリロイル基、スチリル基等の重合性炭素-炭素二重結合含有基;
オキシラニル基、オキシラニルオキシ基、オキセタニル基、オキセタニルオキシ基等の環状エーテル基;
シクロブタン環が縮環したフェニル基、シクロブタン環が縮環したナフチル基等のシクロブタン環が縮環したアリール基;
アセトキシフェニル基、t-ブトキシフェニル基等のアシル基又は熱解離性基で保護された芳香族性ヒドロキシ基が結合したアリール基;
アセトキシメチルフェニル基、メトキシメチルフェニル基等のアシル基又は熱解離性基で保護されたメチロール基(-CH2OH)が結合したアリール基;
スルファニルメチルフェニル基、メチルスルファニルメチルフェニル基等の置換又は非置換のスルファニルメチル基(-CH2SH)が結合したアリール基などが挙げられる。
【0057】
シクロブタン環が縮環したアリール基同士は、加熱条件下、共有結合を形成する。
【0058】
「アシル基」とは、カルボン酸からOHを除いた基であって、芳香族性ヒドロキシ基又はメチロール基の水素原子を置換して保護する基をいう。「熱解離性基」とは、芳香族性ヒドロキシ基、メチロール基又はスルファニルメチル基の水素原子を置換する基であって、加熱により解離する基をいう。
【0059】
保護された芳香族性ヒドロキシ基、メチロール基又はスルファニルメチル基が結合したアリール基におけるアシル基としては、例えばホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、ベンゾイル基等が挙げられる。
【0060】
保護された芳香族性ヒドロキシ基が結合したアリール基における熱解離性基としては、例えばt-ブチル基、t-アミル基等の3級アルキル基などが挙げられる。保護されたメチロール基又はスルファニルメチル基が結合したアリール基における熱解離性基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基などが挙げられる。
【0061】
架橋性基を含む構造単位としては、例えば架橋性基を有するビニル化合物に由来する構造単位、架橋性基を有する(メタ)アクリル化合物に由来する構造単位等が挙げられる。
【0062】
[A]重合体が構造単位(II)を有する場合、構造単位(II)の含有割合の下限としては、[A]重合体を構成する全構造単位に対して、20モル%が好ましく、50モル%がより好ましく、60モル%がさらに好ましく、70モル%が特に好ましい。上記含有割合の上限としては、99.9モル%が好ましく、99モル%がより好ましく、95モル%がさらに好ましく、90モル%が特に好ましい。
【0063】
[官能基(X)]
官能基(X)は、金属原子(M)と結合する官能基である。この結合としては、例えば化学結合であり、共有結合、イオン結合、配位結合等が挙げられる。これらの中で、金属原子(M)-官能基(X)間の結合力がより大きい観点から、配位結合が好ましい。
【0064】
官能基(X)としては、例えばシアノ基、ホスホノ基(-P(=O)(OH)2)、ジヒドロキシボリル基(-B(OH)2)、ヒドロキシ基、スルファニル基(-SH)、スルホ基(-SO3H)、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子などが挙げられる。これらの中で、化学修飾の領域選択性がより高くなる観点から、シアノ基、ホスホノ基又はヒドロキシボリル基が好ましい。
【0065】
[A]重合体は、例えば官能基(X)を含む基(以下、「基(I)」ともいう)を主鎖の末端又は側鎖の末端に有する。「側鎖」とは、[A]重合体の原子鎖のうち主鎖以外のものをいう。
【0066】
基(I)としては、例えば*-X、*-Y-X(Xは、官能基(X)である。Yは、炭素数1~20のアルカンジイル基である。*は、[A]重合体の末端に結合する部位を示す。)等が挙げられる。Yとしては、メタンジイル基、エタンジイル基又はプロパンジイル基が好ましい。
【0067】
主鎖の末端の基(I)は、例えばリビングアニオン重合等の重合末端を、基(I)を与える末端処理剤で処理することにより導入することができる。
【0068】
基(I)を与える末端処理剤としては、例えば3-ブロモプロピオニトリル、クロロリン酸ジエチルエステル、ジイソプロピルブロモメチルボレート、ジエチルブロモメチルボレート等が挙げられる。官能基(X)としてのホスホノ基は、クロロリン酸ジエチルエステルを用いて形成した基を、例えばトリエチルアミン等の塩基存在下、プロピレングリコールモノメチルエーテル等の溶媒中で加水分解することにより形成することができる。官能基(X)としてのジヒドロキシボリル基は、例えばジイソプロピルブロモメチルボレート又はジエチルブロモメチルボレートを用いて形成した基を、トリエチルアミン等の塩基存在下、プロピレングリコールモノメチルエーテル等の溶媒中で加水分解することにより形成することができる。
【0069】
側鎖の末端に基(I)を有する[A]重合体は、例えば構造単位(II)を与える単量体として、末端に官能基(X)を有しかつエチレン性炭素-炭素二重結合を有する単量体を用いることにより形成することができる。
【0070】
末端に官能基(X)を有しかつエチレン性炭素-炭素二重結合を有する単量体としては、例えばp-シアノスチレン、4-シアノメチルスチレン、ビニルリン酸等が挙げられる。
【0071】
化学修飾の領域選択性をより向上させる観点から、[A]重合体は基(I)を主鎖の末端に有することが好ましく、基(I)を主鎖の一方の末端に有することがより好ましい。
【0072】
[A]重合体のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算重量平均分子量(Mw)の下限としては、1,000が好ましく、2,000がより好ましく、4,000がさらに好ましく、4,500が特に好ましい。上記Mnの上限としては、50,000が好ましく、30,000がより好ましく、15,000がさらに好ましく、8,000が特に好ましい。
【0073】
[A]重合体のGPCによるポリスチレン換算数平均分子量(Mn)のMwに対する比(Mw/Mn、分散度)の上限としては、5が好ましく、2がより好ましく、1.5がより好ましく、1.3が特に好ましい。上記比の下限としては、通常1であり、1.05が好ましい。
【0074】
本明細書における重合体のMw及びMnは、東ソー(株)のGPCカラム(「G2000HXL」2本、「G3000HXL」1本及び「G4000HXL」1本)を使用し、以下の条件によるゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定した値である。
溶離液:テトラヒドロフラン(富士フイルム和光純薬(株))
流量:1.0mL/分
試料濃度:1.0質量%
試料注入量:100μL
カラム温度:40℃
検出器:示差屈折計
標準物質:単分散ポリスチレン
【0075】
[A]重合体の含有割合の下限としては、当該組成物における[B]溶媒以外の全成分に対して、80質量%が好ましく、90質量%がより好ましく、95質量%がさらに好ましい。上記含有量の上限としては、例えば100質量%である。
【0076】
[[A]重合体の合成方法]
構造単位(I-1)を有し、主鎖の末端に基(I)を有する[A]重合体は、例えばまず、スチレン等の芳香族ビニル化合物と、イソプレン等のジエン化合物と、必要に応じてその他の単量体とを、sec-ブチルリチウム等の開始剤を用い、テトラヒドロフラン(THF)等の溶媒中で、リビングアニオン重合を行い、その重合末端を、基(I)を与える末端処理剤で処理することにより、芳香族ビニル-ジエン構造単位を有し、主鎖の末端に基(I)を有する重合体を合成し、次に、得られた重合体を、トリフルオロメタンスルホン酸等の酸存在下、シクロヘキサン等の溶媒中で、環化反応させ、構造単位(I-1)を形成することにより合成することができる。官能基(X)がホスホノ基の場合は、末端処理剤として、クロロリン酸ジエチルエステル等のエステル化されたホスホノ基を有する化合物を用いて主鎖の末端にエステル化されたホスホノ基を有する重合体を合成し、得られた重合体を、トリエチルアミン等の塩基存在下、プロピレングリコールモノメチルエーテル等の溶媒中で加水分解反応を行うことにより、ホスホノ基とすることができる。
【0077】
構造単位(I-1)を有し、側鎖の末端に官能基(X)を有する[A]重合体は、例えばまず、スチレン等の芳香族ビニル化合物と、イソプレン等のジエン化合物と、p-シアノスチレン等の末端に官能基(X)を有しかつエチレン性炭素-炭素二重結合を有する単量体と、必要に応じてその他の単量体とを、ラジカル重合、アニオン重合等により重合させることで、芳香族ビニル-ジエン構造単位を有し、側鎖の末端に官能基(X)を有する重合体を合成し、次に、得られた重合体を、トリフルオロメタンスルホン酸等の酸存在下、シクロヘキサン等の溶媒中で、環化反応させ、構造単位(I-1)を形成することにより合成することができる。
【0078】
上記以外の[A]重合体についても、上記同様、公知の方法により合成することができる。
【0079】
<[B]溶媒>
[B]溶媒としては、少なくとも[A]重合体及び他の成分を溶解又は分散可能な溶媒であれば特に限定されない。
【0080】
[B]溶媒としては、例えばアルコール系溶媒、エーテル系溶媒、ケトン系溶媒、アミド系溶媒、エステル系溶媒、炭化水素系溶媒等が挙げられる。
【0081】
アルコール系溶媒としては、例えば
4-メチル-2-ペンタノール、n-ヘキサノール等の炭素数1~18の脂肪族モノアルコール系溶媒;
シクロヘキサノール等の炭素数3~18の脂環式モノアルコール系溶媒;
1,2-プロピレングリコール等の炭素数2~18の多価アルコール系溶媒;
プロピレングリコールモノメチルエーテル等の炭素数3~19の多価アルコール部分エーテル系溶媒などが挙げられる。
【0082】
エーテル系溶媒としては、例えば
ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジペンチルエーテル、ジイソアミルエーテル、ジヘキシルエーテル、ジヘプチルエーテル等のジアルキルエーテル系溶媒;
テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン等の環状エーテル系溶媒;
ジフェニルエーテル、アニソール(メチルフェニルエーテル)等の芳香環含有エーテル系溶媒などが挙げられる。
【0083】
ケトン系溶媒としては、例えば
アセトン、メチルエチルケトン、メチル-n-プロピルケトン、メチル-n-ブチルケトン、ジエチルケトン、メチル-iso-ブチルケトン(MIBK)、2-ヘプタノン(メチル-n-ペンチルケトン)、エチル-n-ブチルケトン、メチル-n-ヘキシルケトン、ジ-iso-ブチルケトン、トリメチルノナノン等の鎖状ケトン系溶媒;
シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロヘプタノン、シクロオクタノン、メチルシクロヘキサノン等の環状ケトン系溶媒;
2,4-ペンタンジオン、アセトニルアセトン、アセトフェノン等が挙げられる。
【0084】
アミド系溶媒としては、例えば
N,N’-ジメチルイミダゾリジノン、N-メチルピロリドン等の環状アミド系溶媒;
N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、アセトアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルプロピオンアミド等の鎖状アミド系溶媒などが挙げられる。
【0085】
エステル系溶媒としては、例えば
酢酸n-ブチル、乳酸エチル等のモノカルボン酸エステル系溶媒;
プロピレングリコールアセテート等の多価アルコールカルボキシレート系溶媒;
プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等の多価アルコール部分エーテルカルボキシレート系溶媒;
γ-ブチロラクトン、δ-バレロラクトン等のラクトン系溶媒;
シュウ酸ジエチル等の多価カルボン酸ジエステル系溶媒;
ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒などが挙げられる。
【0086】
炭化水素系溶媒としては、例えば
n-ペンタン、n-ヘキサン等の炭素数5~12の脂肪族炭化水素系溶媒;
トルエン、キシレン等の炭素数6~16の芳香族炭化水素系溶媒等が挙げられる。
【0087】
これらの中で、エステル系溶媒が好ましく、多価アルコール部分エーテルカルボキシレート系溶媒がより好ましく、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートがさらに好ましい。当該組成物は、[B]溶媒を1種又は2種以上含有していてもよい。
【0088】
<任意成分>
当該組成物は、任意成分として、酸発生剤、界面活性剤等を含有していてもよい。
【0089】
[酸発生剤]
酸発生剤は、加熱又は活性エネルギー線の照射により酸を発生する化合物である。酸発生剤としては、イオン性の化合物、非イオン性の化合物等が挙げられる。
【0090】
イオン性の酸発生剤としては、例えばトリフェニルスルホニウム、1-ジメチルチオナフタレン、1-ジメチルチオ-4-ヒドロキシナフタレン、1-ジメチルチオ-4,7-ジヒドロキシナフタレン、4-ヒドロキシフェニルジメチルスルホニウム、ベンジル-4-ヒドロキシフェニルメチルスルホニウム、2-メチルベンジル-4-ヒドロキシフェニルメチルスルホニウム、2-メチルベンジル-4-アセチルフェニルメチルスルホニウム、2-メチルベンジル-4-ベンゾイルオキシフェニルメチルスルホニウム、1-(4-n-ブトキシナフタレン-1-イル)テトラヒドロチオフェニウム、1-(4,7-ジブトキシ-1-ナフタレニル)テトラヒドロチオフェニウム、ジフェニルヨードニウム、ジ(t-ブチルフェニル)ヨードニウム等のカチオンと、メタンスルホネート、トリフルオロメタンスルホネート、ノナフルオロブタンスルホネート等のフッ素化アルキルスルホネート、カンファースルホネート、p-トルエンスルホン酸イオンなどのスルホネートイオン、ヘキサフルオロリン酸イオン等のリン酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン等のホウ酸イオン、ヘキサフルオロアンチモン酸イオン等のアンチモン酸イオンなどのアニオンとの塩などが挙げられる。これらの中で、トリフェニルスルホニウムカチオンとフッ素化アルキルスルホネートイオンとの塩が好ましく、トリフェニルスルホニウムノナフルオロブタン-1-スルホネートがより好ましい。
【0091】
非イオン性の酸発生剤としては、例えばハロゲン含有化合物、ジアゾメタン化合物、スルホン化合物、スルホン酸エステル化合物、カルボン酸エステル化合物、リン酸エステル化合物、N-スルホニルオキシイミド化合物、スルホンベンゾトリアゾール化合物等が挙げられる。
【0092】
N-スルホニルオキシイミド化合物としては、例えばN-(トリフルオロメチルスルホニルオキシ)スクシンイミド、N-(2-トリフルオロメチルフェニルスルホニルオキシ)フタルイミド等が挙げられる。
【0093】
当該組成物が酸発生剤を含有する場合、酸発生剤の含有量の下限としては、[A]重合体100質量部に対して、0.1質量部が好ましく、0.5質量部がより好ましく、1質量部がさらに好ましく、2質量部が特に好ましい。上記含有量の上限としては、50質量部が好ましく、30質量部がより好ましく、10質量部がさらに好ましく、6質量部が特に好ましい。
【0094】
[組成物の調製方法]
当該組成物は、例えば[A]重合体、[B]溶媒及び必要に応じて任意成分を所定の割合で混合し、好ましくは0.45μm程度の細孔を有する高密度ポリエチレンフィルター等で濾過することにより調製することができる。当該組成物の固形分濃度の下限としては、0.1質量%が好ましく、0.5質量%がより好ましく、0.7質量%がさらに好ましい。上記固形分濃度の上限としては、30質量%が好ましく、10質量%がより好ましく、3質量%がさらに好ましい。「固形分濃度」とは、当該組成物における[B]溶媒以外の全成分の濃度(質量%)をいう。
【0095】
<基板の製造方法>
当該基板の製造方法は、表層に金属原子を含む基材に直接又は間接に組成物を塗工する工程(以下、「塗工工程」ともいう)と、上記塗工工程により形成された塗膜を加熱する工程(以下、「加熱工程」ともいう)とを備える。当該基板の製造方法においては、上記組成物として、上述の当該組成物を用いる。
【0096】
当該基板の製造方法によれば、上述の当該組成物を用いるので、表層に金属原子を含む基材の表面に領域選択的に、耐熱性に優れかつwet剥離可能な膜を形成することができ、この膜によってALD法又はCVD法による金属オキサイド形成に対する高いブロッキング性能を発揮することができる。
【0097】
当該基板の製造方法は、加熱工程後に、加熱工程後の塗膜のうち領域(II)上に形成された部分をリンス液により除去する工程(以下、「リンス工程」ともいう)を備えることができる。
【0098】
当該基板の製造方法は、リンス工程後に、リンス工程後の基材(S)の表面に、CVD法又はALD法によりパターンを堆積させる工程(以下、「堆積工程」ともいう)を備えていてもよい。
【0099】
また、当該基板の製造方法は、加熱工程後に、加熱工程により形成された膜に除去液を接触させる工程(以下、「除去工程」ともいう)を備えることができる。これにより、形成された膜をwet剥離することができる。
以下、各工程について説明する。
【0100】
[塗工工程]
本工程では、表層に金属原子を含む基材(S)に直接又は間接に当該組成物を塗工する。これにより、基材(S)上に直接又は他の層を介して塗膜が形成される。
【0101】
基材(S)は、表層に金属原子(M)を含む領域(I)と、表層に金属原子(M)を含まない領域(II)とを有することが好ましい。基材(S)が領域(I)と領域(II)とを共に有する場合、表層に金属原子(M)を含む領域(I)の表面を選択的に化学修飾することができる。
【0102】
基材(S)の表層の金属原子(M)は、金属単体、合金、導電性窒化物又はシリサイドを構成していることが好ましい。また、金属原子(M)としては、銅、鉄、亜鉛、コバルト、アルミニウム、チタン、スズ、タングステン、ジルコニウム、タンタル、ゲルマニウム、モリブデン、ルテニウム、金、銀、白金、パラジウム又はニッケルが好ましい。
【0103】
当該組成物の塗工方法としては、例えばスピンコート法等が挙げられる。
【0104】
[加熱工程]
本工程では、上記塗工工程により形成された塗膜を加熱する。これにより、基材(S)の表層の金属原子(M)と、当該組成物の[A]重合体の官能基(X)との結合形成が促進される。
【0105】
加熱の手段としては、例えばオーブン、ホットプレート等が挙げられる。加熱の温度の下限としては、80℃が好ましく、100℃がより好ましく、130℃がさらに好ましい。加熱の温度の上限としては、400℃が好ましく、300℃がより好ましく、200℃がさらに好ましい。加熱の時間の下限としては、10秒が好ましく、1分がより好ましく、2分がさらに好ましい。加熱の時間の上限としては、120分が好ましく、10分がより好ましく、5分がさらに好ましい。
【0106】
形成される膜の平均厚みは、当該組成物における[A]重合体の種類及び濃度、並びに加熱工程における加熱温度、加熱時間等の条件を適宜選択することで、所望の値にすることができる。膜の平均厚みの下限としては、0.1nmが好ましく、1nmがより好ましく、3nmがさらに好ましい。上記平均厚みの上限としては、例えば20nmである。
【0107】
[リンス工程]
本工程では、加熱工程後の塗膜のうち領域(II)上に形成された部分をリンス液により除去する。これにより、加熱工程後の塗膜のうち、金属原子(M)と結合していない[A]重合体を含む部分が除去され、領域(I)の部分が選択的に化学修飾された基材(S)が得られる。
【0108】
リンス液としては、通常、有機溶媒が用いられ、例えばプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等の多価アルコール部分エーテルカルボキシレート系溶媒、イソプロパノール等のモノアルコール系溶媒などが用いられる。
【0109】
以上により、基材(S)における表層に金属原子(M)を含む領域(I)に、選択的に耐熱性に優れる膜を形成することができる。得られた基材は、例えば以下の堆積工程を行うことにより、処理することができる。
【0110】
[堆積工程]
本工程では、リンス工程後の基材(S)の表面に、CVD法又はALD法によりパターンを堆積させる。これにより、[A]重合体で化学修飾されていない領域(II)に、選択的に金属オキサイドパターンを形成することができる。当該基板の製造方法によれば、上述の当該組成物を用いて、耐熱性に優れる膜を形成することにより、ALD toleranceをより大きくすることができ、その結果、領域(II)に、より領域選択的に金属オキサイドパターンを形成することができる。
【0111】
[除去工程]
本工程では、上記加熱工程により形成された膜に除去液を接触させる。これにより、形成された膜を、wet剥離により、簡便にかつ基材(S)への影響を低減しつつ除去することができる。
【0112】
除去液としては、酸を含有する液が好ましい。酸としては、例えば塩酸、硫酸、硝酸、フッ酸等の無機酸、酢酸、クエン酸、シュウ酸、マレイン酸、イソ酪酸、2-エチルヘキサン酸等のカルボン酸等が挙げられる。これらの中で、カルボン酸が好ましく、酢酸又はクエン酸がより好ましい。また、除去液としては、アンモニア過酸化水素水溶液、塩酸過酸化水素水溶液なども挙げられる。
【0113】
除去液の溶媒は、水を主成分とすることが好ましい。溶媒中の水の含有割合の下限としては、50質量%が好ましく、90質量%がより好ましく、99質量%がさらに好ましい。上記含有割合は、100質量%であってもよい。
【0114】
酸を含有する液中の酸の濃度の下限としては、0.1質量%が好ましく、1質量%がより好ましく、3質量%がさらに好ましい。上記濃度の上限としては、例えば100質量%であり、90質量%がより好ましく、50質量%がさらに好ましい。
【0115】
<重合体>
当該重合体は、環構造を含む構造単位(構造単位(I))を有する重合体であって、上記環構造を構成する原子鎖が上記重合体の主鎖の一部を構成し、主鎖の末端又は側鎖の末端にシアノ基、ホスホノ基又はジヒドロキシボリル基(官能基(X’))を有する。
【0116】
当該重合体は、上述の当該組成物の成分として用いることで、表層に金属原子を含む基材の表面に領域選択的に、耐熱性に優れかつwet剥離可能な膜を形成することができ、この膜によってALD法又はCVD法による金属オキサイド形成に対する高いブロッキング性能を発揮することができる。
【0117】
当該重合体は、上述の当該組成物における[A]重合体として説明している。
【実施例】
【0118】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。各物性値の測定方法を下記に示す。
【0119】
[Mw及びMn]
重合体のMw及びMnは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により東ソー(株)のGPCカラム(「G2000HXL」2本、「G3000HXL」1本及び「G4000HXL」1本)を使用し、以下の条件により測定した。
溶離液:テトラヒドロフラン(富士フイルム和光純薬(株))
流量:1.0mL/分
試料濃度:1.0質量%
試料注入量:100μL
カラム温度:40℃
検出器:示差屈折計
標準物質:単分散ポリスチレン
【0120】
[13C-NMR分析]
13C-NMR分析は、核磁気共鳴装置(日本電子(株)の「JNM-EX400」)を使用し、測定溶媒としてCDCl3を用いて行った。重合体における各構造単位の含有割合は、13C-NMRで得られたスペクトルにおける各構造単位に対応するピークの面積比から算出した。
【0121】
<[A]重合体の合成>
[合成例1](重合体(A-1)(PS-ω-CN)の合成)
500mLのフラスコ反応容器を減圧乾燥した後、窒素雰囲気下、蒸留脱水処理を行ったテトラヒドロフラン(THF)120gを注入し、-78℃まで冷却した。次に、このTHFにsec-ブチルリチウム(sec-BuLi)の1Nシクロヘキサン溶液2.38mLを注入し、次いで、重合禁止剤除去のためシリカゲルによる吸着濾別と蒸留脱水処理とを行ったスチレン13.3mLを30分かけて滴下注入し、重合系が橙色であることを確認した。この滴下注入のとき、反応溶液の内温が-60℃以上にならないように注意した。滴下終了後に30分間攪拌後、3-ブロモプロピオニトリル0.19mLを注入し重合末端の停止反応を行った。この反応溶液を室温まで昇温し、得られた反応溶液を濃縮してメチルイソブチルケトン(MIBK)で置換した。得られた溶液に、シュウ酸2質量%水溶液1,000gを注入し撹拌して、静置後、下層の水層を取り除いた。この操作を3回繰り返し、金属塩を除去した。その後、超純水1,000gを注入し撹拌して、下層の水層を取り除いた。この操作を3回繰り返し、シュウ酸を除去した後、溶液を濃縮してメタノール500g中に滴下することで重合体を析出させ、ブフナーロートにて固体を回収した。この固体を60℃で減圧乾燥させることで白色の下記式(A-1)で表される重合体11.9gを得た。
この重合体(A-1)は、Mwが5,600、Mnが5,200、Mw/Mnが1.08であった。
【0122】
【0123】
[合成例2](重合体(A-2)(PS-r-PIP-ω-CN)の合成)
500mLのフラスコ反応容器を減圧乾燥した後、窒素雰囲気下、蒸留脱水処理を行ったTHF120gを注入し、-78℃まで冷却した。次に、このTHFにsec-ブチルリチウム(sec-BuLi)の1Nシクロヘキサン溶液2.90mLを注入し、次いで、重合禁止剤除去のためシリカゲルによる吸着濾別と蒸留脱水処理とを行ったスチレン13.3mL、及びイソプレン2.90mLを30分かけて滴下注入し、重合系が橙色から徐々に黄色になることを確認した。この滴下注入のとき、反応溶液の内温が-60℃以上にならないように注意した。滴下終了後に30分間攪拌後、3-ブロモプロピオニトリル0.48mLを注入し重合末端の停止反応を行った。この反応溶液を室温まで昇温し、得られた反応溶液を濃縮してMIBKで置換した。得られた溶液に、シュウ酸2質量%水溶液1,000gを注入し撹拌して、静置後、下層の水層を取り除いた。この操作を3回繰り返し、Li塩を除去した。その後、超純水1,000gを注入し撹拌して、下層の水層を取り除いた。この操作を3回繰り返し、シュウ酸を除去した後、溶液を濃縮してメタノール500g中に滴下することで重合体を析出させ、ブフナーロートにて固体を回収した。この固体を60℃で減圧乾燥させることで白色の下記式(A-2)で表される重合体13.3gを得た。
この重合体(A-2)は、Mwが5,200、Mnが4,800、Mw/Mnが1.08であった。
【0124】
【0125】
[合成例3](重合体(A-3)(PS-r-Cycle-ω-CN)の合成)
上記合成した重合体(A-2)13.3gを130gのシクロヘキサンに溶解させ、トリフルオロメタンスルホン酸0.13gを加えて、常温で1時間撹拌し、環化反応を行った。環化反応後、100gの超純水を加え、トリフルオロメタンスルホン酸を除去する操作を4回行い、有機層を濃縮した後、得られた濃縮物をメタノール500g中に滴下することで重合体を析出させ、下記式(A-3)で表される重合体13.1gを得た。この重合体(A-3)は、主鎖環化ポリマーであり、環化反応が起こったことは、1H-NMRスペクトルにおいて、4.0-4.5ppm付近のイソプレン由来の不飽和オレフィンのピークが消失していることにより確認した。
【0126】
【0127】
[合成例4](重合体(A-4)(PS-r-IP-ω-PO3H2)の合成)
500mLのフラスコ反応容器を減圧乾燥した後、窒素雰囲気下、蒸留脱水処理を行ったTHF120gを注入し、-78℃まで冷却した。次に、このTHFにsec-ブチルリチウム(sec-BuLi)の1Nシクロヘキサン溶液2.56mLを注入し、次いで、重合禁止剤除去のためシリカゲルによる吸着濾別と蒸留脱水処理とを行ったスチレン11.1mL、及びイソプレン3.20mLを30分かけて滴下注入し、重合系が橙色から徐々に黄色になることを確認した。この滴下注入のとき、反応溶液の内温が-60℃以上にならないように注意した。滴下終了後に30分間攪拌後、クロロリン酸ジエチルエステル0.37mLを注入し重合末端の停止反応を行った。この反応溶液を室温まで昇温し、得られた反応溶液を濃縮してMIBKで置換した。得られた溶液に、シュウ酸2質量%水溶液1,000gを注入し撹拌して、静置後、下層の水層を取り除いた。この操作を3回繰り返し、Li塩を除去した。その後、超純水1,000gを注入し撹拌して、下層の水層を取り除いた。この操作を3回繰り返し、シュウ酸を除去した後、溶液を濃縮してメタノール500g中に滴下することで重合体を析出させ、ブフナーロートにて固体を回収した。この固体を60℃で減圧乾燥させることで、白色のリン酸ジエチル末端を有する重合体を得た。
次に、得られた重合体に、トリエチルアミン0.63g、及びプロピレングリコールモノメチルエーテル2gを加えて、80℃で3時間加熱撹拌することで加水分解反応を行った。得られた重合体の溶液を、メタノール500g中に滴下することで、重合体を析出させ、下記式(A-4)で表される重合体13.1gを得た。
この重合体(A-4)は、Mwが5,100、Mnが4,800、Mw/Mnが1.06であった。
【0128】
【0129】
[合成例5](重合体(A-5)(PS-r-cycle-ω-PO3H2)の合成)
上記重合体(A-4)の加水分解前の重合体13.1gを130gのシクロヘキサンに溶解させ、トリフルオロメタンスルホン酸0.13gを加えて、常温で1時間撹拌し、環化反応を行った。環化反応後、100gの超純水を加え、トリフルオロメタンスルホン酸を除去する操作を4回行い、有機層を濃縮した後、メタノール500g中に滴下することで重合体を析出させ、リン酸ジエチル末端を有する重合体11.6gを得た。この重合体は、主鎖環化ポリマーであり、環化反応が起こったことは、1H-NMRスペクトルにおいて、4.0-4.5ppm付近のイソプレン由来の不飽和オレフィンのピークが消失していることにより確認した。
次に、得られた重合体に、トリエチルアミン0.63g、及びプロピレングリコールモノメチルエーテル2gを加えて、80℃で3時間加熱撹拌することで加水分解反応を行った。得られた重合体の溶液を、メタノール500g中に滴下することで重合体を析出させ、下記式(A-5)で表される重合体10.8gを得た。
【0130】
【0131】
[耐熱性の評価]
上記合成した重合体について、熱分解温度測定を行い、耐熱性を評価した。熱分解温度測定は、セイコーインスツル(株)の「TG-DTA7300」を使用し、窒素雰囲気下(200mL/min)、30℃から500℃まで昇温レート10℃/10minで加熱して行い、3質量%重量減少温度(Td3)を測定した。
【0132】
Td3の測定値は、重合体(A-1)は380℃、重合体(A-2)は365℃、重合体(A-3)は400℃であった。
【0133】
<組成物の調製>
組成物の調製に用いた[B]溶媒、[C]酸発生剤について以下に示す。
【0134】
[[B]溶媒]
B-1:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)
【0135】
[[C]酸発生剤]
C-1:ジフェニルヨードニウムノナフルオロブタンスルホネート
【0136】
[比較例1]
[A]成分としての(A-1)1.30gに、[B]溶媒としての(B-1)98.7gを加え、撹拌した後、0.45μmの細孔を有する高密度ポリエチレンフィルターにて濾過することにより、組成物(S-1)を調製した。
【0137】
[実施例1及び2並びに比較例2~5]
下記表1に示す種類及び配合量の各成分を用いた以外は上記比較例1と同様にして、組成物(S-2)~(S-7)を調製した。
【0138】
【0139】
<膜の形成>
[比較例6]
8インチ銅基板を3cm×3cmに裁断し、スピンコーター(ミカサ株式会社の「MS-B300」)を用いて、上記調製した組成物(S-1)を1,500rpm、20秒間にてスピンコートした後、150℃で180秒間焼成した。次に、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを用いて未吸着の膜を除去した。
【0140】
[比較例7~20及び実施例3~8]
下記表3に示す基板(銅基板、コバルト基板、タングステン基板、Si oxide基板)及び組成物を用いた以外は、比較例6と同様にして、膜を形成した。
【0141】
<膜形成の領域選択性評価>
(表面の接触角値の測定)
上記組成物の塗工及び焼成を行った基板について、表面の接触角値を接触角計(協和界面化学(株)の「Drop master DM-501」)を用いて測定した。接触角値の測定値を下記表3に合わせて示す。
【0142】
<膜のwet剥離性評価>
8インチ基板(銅基板、コバルト基板、タングステン基板、Si oxide基板)を3cm×3cmに裁断し、スピンコーター(ミカサ株式会社の「MS-B300」)を用いて、下記表3に示す組成物を1,500rpm、20秒間にてスピンコートした後、150℃で180秒間焼成した。次に、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを用いて未吸着の膜を除去した。次に、表面の接触角値を接触角計(協和界面化学(株)の「Drop master DM-501」)を用いて測定した後、酢酸を注いだシャーレに3分間浸漬させた後、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート/乳酸エチル(8/2(質量比))混合溶液を用いて洗い流した後、基板表面の接触角値を上記接触角計を用いて測定した。接触角値の低下の値を下記表3に示す。接触角値が低下していることから膜の剥離を確認した。
【0143】
<金属オキサイドブロッキング評価>
上記<膜の形成>において組成物の塗工及び焼成を行った各基板の表面について、膜の形成の状態を評価するため、ALDによるオキサイド層形成の抑制度を測定する金属オキサイドブロッキング評価を行った。
【0144】
[ALD評価]
金属オキサイドブロッキング評価は、スタンフォード大学内のCambridge Nanotech FIJIを用い、下記表2に示す条件で行った。プレカーサーは、テトラキス(ジメチルアミノ)ハフニウムを用い、助触媒に水を用いた。ALDサイクルは、47cycleに固定し、上記組成物の塗工及び焼成を行った基材について、オキサイド層形成の有無を確認した。
【0145】
【0146】
[XPS評価]
上記ALD評価後の被服膜上のHf成分について、ESCA分析より定量した。ESCAは、(株)アルバックの「Quantum200」にて、100μmφの条件から被服膜成分及び基板成分を除いたHf成分をHf4fにて定量した後、パーセンテージを算出した。このとき、「ALD tolerance」の値が大きいほど、Hfブロッキング性能が高い膜であることを意味する。
【0147】
【0148】
表3の結果から、実施例の組成物によれば、表層に金属原子を含む基材の表面に領域選択的に、耐熱性に優れかつwet剥離可能な膜を形成することができ、この膜によってALD法による金属オキサイド形成に対する高いブロッキング性能を発揮することができることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0149】
本発明の組成物及び基板の製造方法によれば、表層に金属原子を含む基材の表面に領域選択的に、耐熱性に優れかつwet剥離可能な膜を形成することができ、この膜によってALD法又はCVD法による金属オキサイド形成に対する高いブロッキング性能を発揮することができる。本発明の重合体は、当該組成物の重合体成分として好適に用いることができる。従って、当該組成物、基板の製造方法及び重合体は、今後ますます微細化が進行すると予想される半導体デバイスの加工プロセス等に好適に用いることができる。