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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】特性予測装置
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/27 20200101AFI20240409BHJP
   G16C 20/70 20190101ALI20240409BHJP
   G06F 113/26 20200101ALN20240409BHJP
【FI】
G06F30/27
G16C20/70
G06F113:26
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021553561
(86)(22)【出願日】2020-10-23
(86)【国際出願番号】 JP2020039900
(87)【国際公開番号】W WO2021079985
(87)【国際公開日】2021-04-29
【審査請求日】2023-06-27
(31)【優先権主張番号】P 2019194086
(32)【優先日】2019-10-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成31年3月20日東京理科大学神楽坂キャンパスにおいて開催されたFuture Trend in Polymer Science 2018で公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成31年3月15日公益社団法人高分子学会が発行したFuture Trend in Polymer Science 2018(FTiPS)で公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和1年7月4日石川県加賀温泉郷瑠璃光において開催された第57回高分子材料自由討論会で公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成31年1月31日にウェブサイトのhttps://www.konicaminolta.jp/about/research/technology_report/2019/pdf/16_ikeda.pdfで公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成31年1月31日コニカミノルタ株式会社が発行したKONICA MINOLTA TECHNOLOGY REPORT VOL.16(2019)で公開
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池田 祐子
(72)【発明者】
【氏名】奥山 倫弘
(72)【発明者】
【氏名】中澤 幸仁
(72)【発明者】
【氏名】押山 智寛
(72)【発明者】
【氏名】船津 公人
【審査官】合田 幸裕
(56)【参考文献】
【文献】特開平6-3243(JP,A)
【文献】国際公開第2019/172280(WO,A1)
【文献】吉田亮 ほか,マテリアルズ・インフォマティクス概説,日本化学会情報化学部会誌,日本,日本化学会 情報化学部会,2018年,Vol. 36, No.1 (2018),pages 9-13,<DOI: https://doi.org/10.11546/cicsj.36.9>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/27
G16C 20/70
G06F 113/26
IEEE Xplore
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子複合材料の材料に関する材料情報の入力に対して、製造される高分子複合材料の機械的な特性を出力する予測モデルを記憶する、予測モデル記憶部と、
前記材料情報と、前記材料から製造された高分子複合材料の機械的な特性とを含むデータを学習データとして、前記予測モデルに学習処理を施す学習処理部と、
を有し、
前記材料情報は、物理化学的な特性を示す情報を全ての候補材料について揃えることが困難な情報であり、
前記材料情報として、物理化学的な特性を直接的には示さない情報と、前記材料の配合率と、を含む情報を用いる、
特性予測装置。
【請求項2】
高分子複合材料の材料に関する材料情報を取得する材料情報取得部と、
入力された材料情報に対し、学習された予測モデルを用いて、製造される高分子複合材料の機械的な特性を出力する特性情報出力部と、
を有し、
前記材料情報は、物理化学的な特性を示す情報を全ての候補材料について揃えることが困難な情報であり、
前記入力された材料情報は、物理化学的な特性を直接的には示さない情報と、前記材料の配合率と、を含み、
前記予測モデルは、前記材料情報と、前記材料から製造された高分子複合材料の機械的な特性と、を含む学習データを用いた学習処理が施されている、
特性予測装置。
【請求項3】
前記高分子複合材料は、高分子樹脂と添加剤とを含有する複合材料である、請求項1または2に記載の特性予測装置。
【請求項4】
前記添加剤は、フィラーである、請求項3に記載の特性予測装置。
【請求項5】
前記物理化学的な特性を直接的には示さない情報は、前記材料の銘柄を示す情報である、請求項1~4のいずれか1項に記載の特性予測装置。
【請求項6】
前記機械的な特性は、前記高分子複合材料の弾性率である、請求項1~5のいずれか1項に記載の特性予測装置。
【請求項7】
前記予測モデルは、以下の線形回帰式(1)を用いる予測モデルである、請求項1~6のいずれか1項に記載の特性予測装置。
【数1】
(式(1)中、βは定数項であり、cはi番目の偏回帰係数であり、xはi番目の説明変数であり、yは目的変数であり、Nは説明変数の個数である。)
【請求項8】
前記偏回帰係数は、部分的最小二乗回帰を用いて求められた係数である、請求項7に記載の特性予測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特性予測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
マテリアルズ・インフォマティクス(MI)によれば、過去の実験結果やシミュレーションデータに基づいて、所望の特性を実現する材料の設計や探索を機械的に行うことができるため、新規材料の開発をより効率的に行うことできると期待されている。
【0003】
たとえば、非特許文献1には、分子構造を数値化したデータであるフィンガープリントにより得られる記述子を説明変数として、有機分子の物性値を予測する予測モデルのライブラリを機械学習により作成し、これを転移学習に用い得ることが記載されている。
【0004】
また、非特許文献2には、高分子樹脂の物性値やフィラーの混合比率などと、得られる高分子複合材料の物性と、を含むデータベースを機械学習によりクラス分類し、高分子複合材料の物性に寄与する特性を探索したことが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】山田ら, "機械学習を用いた有機分子の物性値予測モデルライブラリの作成とその予測" 統計関連学会連合大会報告集、2018年9月
【文献】Mcbride et al., "Solving Materials' Data Problem with Dynamic Experimental Databases," Processes, 2018, Vol. 6(7), No. 79
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1および非特許文献2にも記載のように、MIを用いての、高分子樹脂を含む複合材料の特性の予測や解析が試みられている。しかし、以下に述べる理由により、高分子複合材料へのMIの適用は非常に困難であり、これらの文献に記載の方法でも、未だ所望の効率化が達成されているといえない。
【0007】
まず、非特許文献1で記述子に用いている分子構造や、非特許文献2でクラス分類に用いている物性値などに関して、これまでに報告された実験データが同じ実験方法により得られたものではなく、これらを同じ条件で比較できないという問題がある。たとえば、平均分子量の実験値は、測定に使用する溶離液の温度、流速、種類によって変動することが知られている。また、分解温度の実験値も、測定の際の昇温温度、ガスの流速によって変動することが知られている。また、非特許文献2でクラス分類に用いている物性値については、材料を提供するメーカーによって開示している物性値の種類が異なっており、全ての材料について当該物性値が判明しているわけではない。さらには、材料の購入の条件として、物性値を測定しないことが求められることなどもあり、物性値のデータを揃えることは非常に困難である。
【0008】
低分子化合物の場合には、分子構造の情報を数値化する手法であるフィンガープリントに変換した記述子を説明変数とし、機械学習を駆使して目的の物性値を予測することで、新規材料の提案が行なわれている。しかしながら、高分子化合物やフィラーの場合には、市販品であっても、上述したように、物理化学的な特性の一つである分子構造の情報が十分に開示されない場合が多い。モノマー構造を代替指標としてフィンガープリントに変換する場合もあるが、同じポリプロピレンでも、その重合度、平均分子量、分子量分布、共重合比等の違いで、粘度、ガラス転移温度、分解温度等の基本物性が変化するため機械特性に大きな影響を与える。そのため、高分子材料に対してMIを用いた解析をするための適切なデータを揃えることは非常に困難である。
【0009】
本発明は、上記知見に基づいてなされたものであり、材料の分子構造や物性値を記述子として用いずに、高分子複合材料の特性を予測できる特性予測装置を提供することを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題は、高分子複合材料の材料に関する材料情報の入力に対して、製造される高分子複合材料の機械的な特性を出力する予測モデルを記憶する、予測モデル記憶部と、前記材料情報と、前記材料から製造された高分子複合材料の機械的な特性とを含むデータを学習データとして、前記予測モデルに学習処理を施す学習処理部と、を有する、特性予測装置によって解決される。前記材料情報は、物理化学的な特性を示す情報を全ての候補材料について揃えることが困難な情報であり、前記特性予測装置は、前記材料情報として、物理化学的な特性を直接的には示さない情報と、前記材料の配合率と、を含む情報を用いる。
【0011】
また、上記課題は、高分子複合材料の材料に関する材料情報を取得する材料情報取得部と、前記入力された材料情報に対し、学習された予測モデルを用いて、製造される高分子複合材料の機械的な特性を出力する特性情報出力部と、を有する、特性予測装置によって解決される。前記材料情報は、物理化学的な特性を示す情報を全ての候補材料について揃えることが困難な情報であり、前記特性予測装置において、前記入力された材料情報は、物理化学的な特性を直接的には示さない情報と、前記材料の配合率と、を含み、前記予測モデルは、前記材料情報と、前記材料から製造された高分子複合材料の機械的な特性と、を含む学習データを用いた学習処理が施されている。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、材料の分子構造や物性値を記述子として用いずに、高分子複合材料の特性を予測できる特性予測装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の一実施形態に関する特性予測装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
図2図2は、本発明の一実施形態に関する特性予測装置の機能構成の一例を示すブロック図である。
図3図3は、本発明の一実施形態に関する特性予測装置の学習動作例を示すフローチャートである。
図4図4は、本発明の一実施形態に関する特性予測装置の予測動作例を示すフローチャートである。
図5図5は、具体例で構築した予測モデル2の構築時における潜在変数の数とεとの関係を表すグラフである。
図6図6は、具体例で構築した予測モデル2を用いて180個の実験データのそれぞれの材料情報から出力された弾性率の予測値と、180個の実験データのそれぞれにおける弾性率の実測値と、の関係を表すグラフである。
図7図7は、図6に示した予測値と実測値とのデータから算出した、高分子複合材料の弾性率の予測値と、予測値と実測値との間の残差の絶対値と、の関係を示すグラフである。
図8図8は、予測モデル2の検証に用いた9個の水準についての、予測モデル2を用いてそれぞれの材料情報から出力された弾性率の予測値と、弾性率の実測値と、の関係を表すグラフである。
図9図9は、高弾性率領域において弾性率に寄与する要因の検討に用いた5つのデータについての、フィラーの含有量と、弾性率の実測値および予測値と、の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、以下の形態に限定されるものではない。
【0015】
[特性予測装置]
本発明の一実施形態は、高分子複合材料の材料に関する情報である材料情報の入力に対して、製造される高分子複合材料の機械的な特性を出力する、特性予測装置に関する。上記特性予測装置は、上記予測を行うための予測モデルを有し、機械学習により、上記予測モデルを学習(新規構築または更新)する。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態に関する特性予測装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
【0017】
特性予測装置100は、例えば、CPU110、ROM120、RAM130、外部記憶装置140、通信インターフェイス150、入力装置160、および出力装置170などを備えたコンピュータである。外部記憶装置140の例には、HDD、SSD、およびフラッシュメモリなどが含まれる。通信インターフェイス150の例には、LAN回線用の通信コントローラなどが含まれる。入力装置160の例には、キーボード、マウス、タッチパネル、スキャナ、およびバーコードリーダなどが含まれる。出力装置170の例には、CRTおよび液晶などのディスプレイ装置、ならびにプリンタなどが含まれる。
【0018】
特性予測装置100の後述する各機能は、たとえば、CPU110がROM120、RAM130、および外部記憶装置140などに記憶された処理プログラムや各種データを参照することによって実現される。ただし、上記した各機能の一部または全部は、ソフトウェアによる処理に代えて、またはソフトウェアによる処理と共に、専用のハードウェア回路による処理によって実現されてもよい。
【0019】
(各構成部の機能)
図2は、本実施の形態における特性予測装置100の機能構成の一例を示すブロック図である。
【0020】
図2に示すように、特性予測装置100は、材料情報取得部210、特性情報出力部220、実験データ取得部230、学習処理部240、および予測モデル記憶部250を備える。
【0021】
材料情報取得部210は、入力装置160から入力された材料情報を取得する。
【0022】
上記材料情報は、製造しようとする高分子複合材料の製造に用いる材料に関する情報である。本実施形態において、上記高分子複合材料は、高分子樹脂と、フィラーなどの添加剤と、を含有する複合材料である。そのため、本実施形態において、上記材料情報は、少なくとも高分子樹脂に関する情報と、フィラーに関する情報と、を有する。
【0023】
製造される高分子複合材料の機械的な特性(たとえば弾性率)は、材料である高分子樹脂および添加剤の物理化学的な特性を示す情報の影響を大きく受けることが予想される。そのため、高分子複合材料の機械的な特性を予測したいときには、上記物理化学的な特性を示す情報を識別子とした予測モデルを構築および使用することが望ましいと考えられる。なお、上記物理化学的な特性を示す情報とは、たとえば高分子樹脂の重量平均分子量および数平均分子量、分子量分布、共重合度、架橋度、その他の各種物性値や、添加剤のサイズその他の各種物性値などである。また、上記添加剤とは、フィラー、可塑剤、着色剤、難燃剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤およびエラストマーなどの、製造される高分子複合材料の機械的な特性に影響を与える、高分子樹脂以外の配合物である。
【0024】
しかし、一般に、高分子複合材料の製造に用いる可能性がある材料の候補(以下、単に「候補材料」ともいう。)の全てについて、これらの物理化学的な特性を示す情報を揃えることは、困難である。たとえば、これらの物理化学的な特性を示す情報のうち、いずれを開示していずれを非開示としているかは、材料を提供するメーカーによって異なっている。そのため、これらの物理化学的な特性を示す情報を識別子とする予測モデルを構築しようとしても、識別子のデータと、当該材料から製造された高分子複合材料の機械的な特性(弾性率)を含む実験結果のデータと、が揃った教師データを揃えることは、困難である。
【0025】
これに対し、本実施形態では、物理化学的な特性を直接的には示さない情報と、前記材料の配合率と、を識別子として用いる。上記物理化学的な特性を直接的には示さない情報は、たとえば前記材料の銘柄を示す情報などの、上記材料の物理化学的な特性を直接的には示さないものの、上記材料を特定することができるような付帯情報とすることができる。
【0026】
特性情報出力部220は、学習された予測モデルを用いて、製造される高分子複合材料の機械的な特性を出力する。具体的には、特性情報出力部220は、材料情報取得部210が材料情報、具体的には材料の銘柄およびその配合率を取得すると、上記材料情報を上記予測モデルに入力し、製造される高分子複合材料の機械的な特性の出力を得る。
【0027】
出力された機械的な特性は、出力装置に送信されて外部から認識可能なように出力される。
【0028】
実験データ取得部230は、入力装置160から入力された実験データを取得する。
【0029】
上記実験データは、上記高分子材料を製造し、その機械的な特性を測定した実験によって得られた、上記材料情報および機械的な特性を含むデータである。上記実験データは、物理化学的な特性を直接的には示さない情報と、前記材料の配合率と、得られた高分子複合材料から測定された機械的な特性と、を含むデータであり、学習処理部240が予測モデルを学習処理するための、教師データとして用いられる。
【0030】
学習処理部240は、実験データ取得部230が取得した実験データを学習データとして、予測モデル記憶部250に記憶されている予測モデルに、機械的な学習処理を施し、上記学習処理を施された予測モデルを、予測モデル記憶部250に記憶させる。
【0031】
本実施形態において、上記予測モデルは、部分的最小二乗回帰(Partial Least Squares regression:PLS)を用いて構築された、以下の線形回帰式(1)を用いる予測モデルである。
【0032】
【数1】
【0033】
式(1)中、βは定数項であり、cはi番目の偏回帰係数であり、xはi番目の説明変数であり、yは目的変数であり、Nは説明変数の個数である。
【0034】
なお、上記予測モデルは、公知の任意の統計モデルで構成されてよく、ニューラルネットワーク、決定木、およびランダムPPおよびフィラーを二フォレスト、Kernel-Based PLS(KPLS)サポートベクター回帰などの方法により構築された予測モデルであってもよい。また、主成分回帰(Principal Component Regression:PCR)やリッジ回帰などの、PLS以外の回帰分析法により構築された予測モデルであってもよい。
【0035】
予測モデル記憶部250は、学習処理部240により学習された予測モデルを記憶する。
【0036】
予測モデル記憶部250は、1つの予測モデルのみを記憶してもよいし、入力される材料情報の種類または出力される機械的な特性の種類が異なる複数の予測モデルを記憶してもよい。
【0037】
(学習動作例)
次に、本実施形態に関する特性予測装置100の学習動作例について説明する。図3は、特性予測装置100の学習動作例を示すフローチャートである。
【0038】
まず、実験データ取得部230は、入力装置160に入力された、物理化学的な特性を直接的には示さない情報と、前記材料の配合率と、得られた高分子複合材料から測定された機械的な特性と、を含む実験データを取得する(ステップS110)。実験データ取得部230は、取得した実験データを学習処理部240に出力する。なお、実験データ取得部230は、1つの実験データを取得するたびに学習処理部240に出力してもよいし、複数の実験データを取得した後に学習処理部240に出力してもよい。
【0039】
次に、学習処理部240は、予測モデル記憶部250に、上記実験データに含まれる材料情報(物理化学的な特性を直接的には示さない情報、および上記材料の配合率)を説明変数として、上記実験データに含まれる機械的な特性を出力値とする予測モデルが存在するか否かを判定する(ステップS120)。
【0040】
判定の結果、上記予測モデルが存在するときは(ステップS120、YES)、学習処理部240は、実験データに含まれる材料情報と、機械的な特性と、を学習データとして、予測モデルの学習処理を行う(ステップS130)。その後、処理はステップS150に遷移する。なお、ステップS130における学習処理は、大量の実験データを使用して、実験データに含まれる実験ごとの機械的な特性と、予測モデルからの出力値と、の間の誤差が小さくなる(収束する)まで繰り返し行われてもよい。
【0041】
一方で、上記予測モデルが存在しないときは(ステップS120、NO)、学習処理部240は、実験データに含まれる材料情報を説明変数とし、機械的な特性を出力値とする予測モデルを新規に構築する(ステップS140)。
【0042】
その後、学習処理部240は、学習された(または新規に構築された)予測モデルを、予測モデル記憶部250に記憶させる(ステップS150)。
【0043】
(予測動作例)
次に、本実施の形態における特性予測装置100の予測動作例について説明する。図4は、特性予測装置100の予測動作例を示すフローチャートである。
【0044】
実験データは、以下の手順で作成した。
【0045】
1-1.高分子複合材料の作製
PPおよびフィラーを二軸混練機(Xplore Instruments社製、製品名MC15)により混練して、混練物を得た。混練時の温度は200℃、材料投入時の回転数は80rpm、材料投入後は130rpmに上げ、5分間混練した。射出成形機(Xplore Instruments社製、製品名IM12)により、ISO527-2-1BA(2012年)に準じた形状の成形体を作製した。成形条件は、シリンダー温度200℃、金型温度60℃、射出圧力、時間は10barr~15barr、18秒とした。
【0046】
1-2.弾性率の測定
弾性率は、テンシロン万能材料試験機(エー・アンド・ディ社製)を用い、初荷重0.3N、移動速度1mm/minに準じて引張試験により測定を行った。
【0047】
2.予測モデルの構築
2-1.説明変数の設定
PPの説明変数は、以下の式(2)によって記述した。
【0048】
【数2】
【0049】
式(2)中、xpiはPPの説明変数、pはPPの銘柄(i=1~11)、αは当該説明変数が示す材料を添加したことを示す。
まず、材料情報取得部210は、入力装置160に入力された、製造しようとする高分子複合材料の材料に関する、物理化学的な特性を直接的には示さない情報と、前記材料の配合率と、を含む材料情報を取得する(ステップS210)。材料情報取得部210は、取得した材料情報を特性情報出力部220に出力する。
【0050】
次に、特性情報出力部220は、予測モデル記憶部250が記憶している予測モデルに上記材料情報を入力した結果として出力される、高分子複合材料の予測される機械的な特性値を取得する(ステップS220)。
【0051】
次に、特性情報出力部220は、取得された機械的な特性値を出力装置170に出力する(ステップS230)。出力された機械的な特性値は、材料情報から予測される機械的な特性値として、出力装置170に表示等される。
【0052】
[具体例]
以下に、特性予測装置100による予測モデルの構築および実際の予測について行った具体的な方法およびその結果を示す。
【0053】
1.実験データの作成
候補材料を、11種類のポリプロピレン(PP)、18種類のフィラー、および20種類のその他の添加剤とした。上記候補材料から任意に選択した組み合わせにより作製した高分子複合材料の、材料の選択およびその配合率と、得られた180種類の高分子複合材料について測定された弾性率と、を含むデータを、実験データとして用いた。なお、その他の添加剤とは、着色剤、難燃剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤およびエラストマーなどの、フィラー以外の添加剤である。
【0054】
フィラーの説明変数は、以下の式(3)によって記述した。
【0055】
【数3】
【0056】
式(3)中、xfiはフィラーの説明変数、fはフィラーの銘柄(i=1~18)、cfiはPPの添加量に対する当該フィラーの添加量の割合(質量%)、αは当該説明変数が示す材料を添加したことを示す。
【0057】
その他の添加剤の説明変数は、以下の式(4)によって記述した。
【0058】
【数4】
【0059】
式(4)中、xaiはその他の添加剤の説明変数、aはその他の添加剤の銘柄(i=1~20)、caiはPPの添加量に対する当該その他の添加剤の添加量の割合(質量%)、αは当該説明変数が示す材料を添加したことを示す。
【0060】
式(2)~式(4)を用いて、式(5)に例示するベクトル表現による説明変数を設定した。なお、式(5)は、銘柄pのPP、PPの添加量に対して10質量%の銘柄fのフィラー、およびPPの添加量に対して5質量%の銘柄aのその他の添加剤を用いて高分子複合材料を作製したことを示す。
【0061】
【数5】
【0062】
2-2.予測モデルの構築
上記実験データを用いて、部分的最小二乗回帰(PLS)により、線形回帰式(1)を用いる予測モデルを構築した。このとき、潜在変数の数を変化させて、複数の予測モデルを構築した。
【0063】
2-2-1.予測モデル1の構築
予測モデル1の構築時には、180個の実験データのうち、ランダムに選択した153個(85%)を教師データとして予測モデルを構築し、残りの27個(15%)を試験データとした。
【0064】
このとき、潜在変数の数を、以下の式(6)により表される、試験データにおける平均平方二乗誤差ε(Root Mean Square Error:RMSE)が最小となる値とした。
【0065】
【数6】
【0066】
式(6)中、Nは実験データの数(180)、yobs,iは試験データiにおける弾性率の実測値、ypred,iは構築した学習データを用いて試験データiの材料情報から出力された弾性率の予測値、を示す。
【0067】
予測モデル1では、潜在変数が13個としたところ、εは最小である156MPaとなり、このときの決定係数Rは0.95であった。上記決定係数の値から、予測モデル1の精度は概ね良好であるといえた。
【0068】
2-2-2.予測モデル2の構築
予測モデル2の構築時には、潜在変数の数を予測モデル1より少なくし、教師データの選択によらない汎化性を高め、かつ、誤差もより少ない予測モデルの構築を試みた。
【0069】
具体的には、潜在変数の数を、Leave-One-Out交差検証(LOOCV)により求められる、以下の式(7)により表される誤差εが最小となる値とした。
【0070】
【数7】
【0071】
式(7)中、Nは実験データの数(180)、yは試験データiにおける弾性率の実測値、
【数8】
は試験データiを除いた179個のデータを教師データとして構築した予測モデルを用いて試験データiの材料情報から出力された弾性率の予測値、を示す。
【0072】
図5は、このときの潜在変数の数とεとの関係を表すグラフである。図5から、潜在変数の数が4個のときにεが最小値(309MPa)となることがわかる。そのため、潜在変数が4個のときの予測モデルを、予測モデル2とした。予測モデル2の決定係数Rは0.73だった。
【0073】
図6は、予測モデル2を用いて180個の実験データのそれぞれの材料情報から出力された弾性率の予測値と、180個の実験データのそれぞれにおける弾性率の実測値と、の関係を表すグラフである。上記決定係数の値および図5の結果から、予測モデル2の精度は概ね良好であるといえた。
【0074】
3.予測モデルの検証
3-1.予測値と実測値との間の残差の検証
図7は、図6に示した予測値と実測値とのデータから算出した、高分子複合材料の弾性率の予測値と、予測値と実測値との間の残差の絶対値と、の関係を示すグラフである。
【0075】
図7中、弾性率の予測値が2500MPa以下の範囲では、残差の絶対値を300MPa以下(予測モデルのεである309MPaよりも小さい値)とすることができたデータの個数が、全体の90%であった。なお、弾性率の予測値が2500MPaより大きい範囲では、残差の絶対値を300MPa以下とすることができたデータの個数はより少なかったが、これは教師データの個数が少なかった(図6参照)ことによると考えられる。
【0076】
3-2.追加実験結果の予測による精度の検証
PP、フィラーおよびその他の添加剤の組み合わせ、ならびにフィラーおよびその他の添加剤の添加量を変化させた57万通りの高分子複合材料の材料情報について、予測モデル2を用いて弾性率の予測値を算出した。
【0077】
上記57万通りの組み合わせのうち、説明変数(式(5))が、(i)予測モデルの作成に用いた実験データに近い水準と、(ii)実験データから遠い水準とが含まれるように、9個の水準を選択して、高分子複合材料を作製して弾性率を測定した。高分子複合材料の作製および弾性率の測定は、実験データの作成時と同様に行った。
【0078】
図8は、上記9個の水準についての、予測モデル2を用いてそれぞれの材料情報から出力された弾性率の予測値と、弾性率の実測値と、の関係を表すグラフである。
【0079】
予測値が1500~3500MPaの範囲内にある水準B~H((i)説明変数が実験データに近い水準に該当)については、予測値と実測値との間の残差の絶対値が300MPa以内であり、予測モデル2の精度が良好であるといえた。なお、予測値が1500~3500MPaの範囲外である水準AおよびH((ii)説明変数が実験データから遠い水準に該当)については、予測値と実測値との間の残差の絶対値が300MPaより大きく、予測精度が低かった。これは、これは教師データの個数が少なかった(図6参照)ことによると考えられる。
【0080】
3-3.高弾性率領域において弾性率に寄与する要因の検討
180個の実験データ、およびこれらの材料情報から出力された弾性率の予測値について、弾性率の実測値と予測値との残差が最も大きいデータについて、説明変数の特徴を調べたところ、フィラーの含有率が高い(40質量%)データだった。
【0081】
そこで、180個の実験データおよび予測値から、材料情報における同一のフィラー(f)の含有量が40%、30%、20%、10%、および1%の5つのデータを抽出し、これらのデータの実測値および予測値を調べた。
【0082】
図9は、上記5つのデータについての、フィラーの含有量と、弾性率の実測値および予測値と、の関係を示すグラフである。
【0083】
図9に示すように、予測モデル2による弾性率の予測値は、フィラーの含有量が増えるにつれて予測値も直線的に増加する傾向がある。しかし、弾性率の実測値は、フィラーの含有量による弾性率の増加が頭打ちになる点(適正点)があることがわかる。
【0084】
なお、図8において同様に高弾性率で予測精度の低下がみられる水準Hは、図9のデータとは異なる種類のフィラー(f10)を添加した高分子複合材料である。このことから、フィラーの種類によらず、フィラーの含有量が高い水準では予測精度が低下している可能性が示唆される。
【0085】
これらの結果から、フィラーの含有量が0質量%より多く35質量%以下の範囲については、予測モデル2の精度が良好であるといえる。フィラーの含有量が多い範囲での予測精度を高めるために、説明変数に非線形項を導入したり、非線形の予測モデルを活用したりする方法が考えられる。
【0086】
[その他の実施形態]
なお、上記実施形態は、本発明を実施するにあたっての具体化の一例を示したものに過ぎず、上記実施形態によって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならない。本発明はその要旨、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【0087】
たとえば、上記実施の形態では、材料の銘柄を識別子として用いていたが、識別子は銘柄には限定されない。たとえば、カタログ番号、生産番号、ロット番号などを識別子としてもよい。また、これらに製造時期(製造年など)を組み合わせて、識別子としてもよい。
【0088】
また、上記実施の形態では、高分子複合材料の弾性率を目的変数としていたが、目的変数は弾性率には限定されない。たとえば、引張強さ、圧縮強さおよびせん断強さなどの強度、硬度、破断伸び、耐衝撃強度、耐摩耗性、難燃性、耐熱性、耐光性、耐候性、耐酸性、耐アルカリ性、耐溶剤性および色調などを目的変数としてもよい。
【0089】
本出願は、2019年10月25日出願の日本国出願番号2019-194086号に基づく優先権を主張する出願であり、当該出願の特許請求の範囲、明細書および図面に記載された内容は本出願に援用される。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明は、高分子複合材料の機械的な特性を予測する特性予測装置として好適である。
【符号の説明】
【0091】
100 特性予測装置
110 CPU
120 ROM
130 RAM
140 外部記憶装置
150 通信インターフェイス
160 入力装置
170 出力装置
210 材料情報取得部
220 特性情報出力部
230 実験データ取得部
240 学習処理部
250 予測モデル記憶部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9