(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】弾性波装置
(51)【国際特許分類】
H03H 9/145 20060101AFI20240409BHJP
H03H 9/25 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
H03H9/145 Z
H03H9/25 C
H03H9/145 C
(21)【出願番号】P 2021573044
(86)(22)【出願日】2020-12-29
(86)【国際出願番号】 JP2020049270
(87)【国際公開番号】W WO2021149471
(87)【国際公開日】2021-07-29
【審査請求日】2022-05-25
(31)【優先権主張番号】P 2020006852
(32)【優先日】2020-01-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大門 克也
(72)【発明者】
【氏名】谷口 康政
【審査官】竹内 亨
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-092095(JP,A)
【文献】特開2010-178198(JP,A)
【文献】国際公開第2014/171369(WO,A1)
【文献】特開2019-102896(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 9/00-9/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電体層と、
前記圧電体層上に設けられており、複数本の電極指を有するIDT電極と、
を備え、
前記複数本の電極指は、Alと、Cu、Mg、Ag及びNdからなる群から選択された少なくとも1種とを含む合金膜からなり、
前記複数本の電極指は、間挿し合う第1の電極指と第2の電極指とを有し、前記第1の電極指と前記第2の電極指とが、弾性波伝搬方向に視たときに重なり合っている領域が交差領域であり、
前記交差領域は、電極指の延びる方向中央に位置している中央領域と、前記中央領域の電極指の延びる方向両外側に位置している第1,第2のエッジ領域とを有し、
前記複数本の電極指のうち少なくとも1本の電極指において、前記第1,第2のエッジ領域の少なくとも一部における当該電極指中のCu、Mg、Ag及びNdの少なくとも1種の濃度が、前記中央領域におけるCu、Mg、Ag及びNdの少なくとも1種の濃度よりも高
く、
前記複数本の電極指のうち少なくとも1本の電極指の、前記第1,第2のエッジ領域に位置する部分に設けられた、質量付加膜をさらに備え、
前記質量付加膜が、前記圧電体層と、前記第1,第2の電極指との間に積層されている、弾性波装置。
【請求項2】
圧電体層と、
前記圧電体層上に設けられており、複数本の電極指を有するIDT電極と、
を備え、
前記複数本の電極指は、Alと、Cu、Mg、Ag及びNdからなる群から選択された少なくとも1種とを含む合金膜からなり、
前記複数本の電極指は、間挿し合う第1の電極指と第2の電極指とを有し、前記第1の電極指と前記第2の電極指とが、弾性波伝搬方向に視たときに重なり合っている領域が交差領域であり、
前記交差領域は、電極指の延びる方向中央に位置している中央領域と、前記中央領域の電極指の延びる方向両外側に位置している第1,第2のエッジ領域とを有し、
前記複数本の電極指のうち少なくとも1本の電極指において、前記第1,第2のエッジ領域の少なくとも一部における当該電極指中のCu、Mg、Ag及びNdの少なくとも1種の濃度が、前記中央領域におけるCu、Mg、Ag及びNdの少なくとも1種の濃度よりも高く、
前記複数本の電極指のうち少なくとも1本の電極指の、前記第1,第2のエッジ領域に位置する部分に設けられた、質量付加膜をさらに備え、
前記質量付加膜が誘電体からなる、弾性波装置。
【請求項3】
前記第1,第2の電極指の全てにおいて、前記第1,第2のエッジ領域の少なくとも一部における当該電極指中のCu、Mg、AgまたはNdの濃度が、前記中央領域の少なくとも一部におけるCu、Mg、AgまたはNdの濃度よりも高い、請求項1
または2に記載の弾性波装置。
【請求項4】
前記複数本の電極指は、前記中央領域における前記合金膜がエピタキシャル膜である、請求項1
~3のいずれか1項に記載の弾性波装置。
【請求項5】
前記複数本の電極指のうち、少なくとも1本の電極指において、前記中央領域における、前記Cu、Mg、Ag及びNdの少なくとも1種からなる成分の濃度が、10重量%以下である、請求項1~
4のいずれか1項に記載の弾性波装置。
【請求項6】
前記質量付加膜が誘電体からなる、請求項
1に記載の弾性波装置。
【請求項7】
前記質量付加膜が金属からなる、請求項
1に記載の弾性波装置。
【請求項8】
前記質量付加膜が、前記圧電体層と、前記第1,第2の電極指との間に積層されている、請求項
2に記載の弾性波装置。
【請求項9】
前記合金膜が、Alを主体とし、Cuを含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の弾性波装置。
【請求項10】
前記合金膜が、Alを主体とし、Mgを含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の弾性波装置。
【請求項11】
前記合金膜が、Alを主体とし、Agを含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の弾性波装置。
【請求項12】
前記合金膜が、Alを主体とし、Ndを含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の弾性波装置。
【請求項13】
前記第1,第2のエッジ領域における音速が、前記中央領域における音速よりも低い、請求項1~12のいずれか1項に記載の弾性波装置。
【請求項14】
前記圧電体層を伝搬する弾性波の音速よりも、伝搬するバルク波の音速が高い高音速材料からなる高音速材料層をさらに備え、前記高音速材料層上に、直接または間接に前記圧電体層が積層されている、請求項1~13のいずれか1項に記載の弾性波装置。
【請求項15】
前記高音速材料層が、前記高音速材料からなる高音速支持基板である、請求項14に記載の弾性波装置。
【請求項16】
前記高音速材料層と、前記圧電体層との間に積層されており、伝搬するバルク波の音速が、前記圧電体層を伝搬するバルク波の音速よりも低い低音速材料からなる低音速膜をさらに備える、請求項14または15に記載の弾性波装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Alを主体とし、Cu、Mg、AgまたはNdのうちの少なくとも1種を含む合金膜からなるIDT電極を有する弾性波装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記の特許文献1には、IDT電極が、Alを主体とする合金膜からなる弾性波装置が開示されている。上記合金膜として、Alと、Cu、Mg、Ndなどとの合金からなるものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記Alを主体とする合金からなるIDT電極では、Cu、MgまたはNdなどの成分の濃度が低い場合、耐電力性が低くなるという問題があった。他方、上記Cu、MgまたはNdなどの濃度を高めると、耐電力性を高めることができる。しかしながら、IDT電極の電極指における抵抗損失が大きくなり、弾性波装置の損失が増加するという問題があった。
【0005】
本発明の目的は、耐電力性を高めることができ、かつ損失の増大を抑制することができる、弾性波装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る弾性波装置は、圧電体層と、前記圧電体層上に設けられており、複数本の電極指を有するIDT電極と、を備え、前記複数本の電極指は、Alと、Cu、Mg、Ag及びNdからなる群から選択された少なくとも1種とを含む合金膜からなり、前記複数本の電極指は、間挿し合う第1の電極指と第2の電極指とを有し、前記第1の電極指と前記第2の電極指とが、弾性波伝搬方向に視たときに重なり合っている領域が交差領域であり、前記交差領域は、電極指の延びる方向中央に位置している中央領域と、前記中央領域の電極指の延びる方向両外側に位置している第1,第2のエッジ領域とを有し、前記複数本の電極指のうち少なくとも1本の電極指において、前記第1,第2のエッジ領域の少なくとも一部におけるCu、Mg、Ag及びNdの少なくとも1種の濃度が、前記中央領域における当該Cu、Mg、Ag及びNdの少なくとも1種の濃度よりも高い。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る弾性波装置では、耐電力性を高めることができ、かつ弾性波装置の損失の増大を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1(a)は、本発明の一実施形態の弾性波装置を説明するための正面断面図であり、
図1(b)は、その電極構造を示す平面図である。
【
図2】
図2は、AlCu合金におけるCuの含有割合(重量%)と、弾性波装置の比抵抗との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施形態を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0010】
なお、本明細書に記載の実施形態は、例示的なものであり、異なる実施形態間において、構成の部分的な置換または組み合わせが可能であることを指摘しておく。
【0011】
図1(a)は、本発明の一実施形態に係る弾性波装置を説明するための正面断面図であり、
図1(b)は、その電極構造を示す平面図である。
【0012】
弾性波装置1は、圧電性基板2を有する。圧電性基板2は、支持基板3と、支持基板3上に積層された高音速材料層4と、高音速材料層4上に積層された低音速膜5と、低音速膜5上に積層された圧電体層6とを有する。
【0013】
圧電体層6は、例えば、タンタル酸リチウムまたはニオブ酸リチウムなどの圧電単結晶からなる。圧電体層6上に、IDT電極8及び反射器9,10が設けられている。弾性波装置1は、IDT電極8の両側に反射器9,10を配置してなる、1ポート型弾性波共振子である。もっとも、本発明においては、弾性波装置の電極構造は弾性波共振子を構成するものに限定されない。複数のIDT電極を有する弾性波フィルタなどであってもよい。
【0014】
IDT電極8及び反射器9,10を覆うように、誘電体膜11が設けられている。誘電体膜11は、本実施形態では酸化ケイ素からなる。誘電体膜11は、必ずしも設けられずともよいが、誘電体膜11により、耐湿性を高めたり、電極構造を保護したりすることができる。また、誘電体膜11の膜厚を調整することにより周波数特性を調整することもできる。さらに、酸化ケイ素などからなる誘電体膜11の場合には、温度特性を調整することもできる。
【0015】
IDT電極8は、複数本の第1の電極指12と、複数本の第2の電極指13とを有する。複数本の第1の電極指12の一端は、第1のバスバー14に接続されている。複数本の第2の電極指13の一端は、第2のバスバー15に接続されている。複数本の第1の電極指12と、複数本の第2の電極指13とは、互いに間挿し合っている。
【0016】
IDT電極8では、第1の電極指12と第2の電極指13とが延びる方向と直交する方向が弾性波伝搬方向である。この弾性波伝搬方向に視たときに、第1の電極指12と第2の電極指13とが重なり合っている領域が交差領域Kであり、この交差領域Kの第1,第2の電極指12,13の延びる方向の寸法が交差幅である。
【0017】
交差領域Kは、上記第1,第2の電極指12,13が延びる方向において中央に位置している中央領域Cと、中央領域Cの第1,第2の電極指12,13の延びる方向両外側に配置された第1,第2のエッジ領域E1,E2とを有する。第1のエッジ領域E1は、交差領域K内において、第1の電極指12の先端側に位置している。第2のエッジ領域E2は、第2の電極指13の先端側に位置している。なお、IDT電極8の電極指ピッチで定まる波長をλとしたときに、第1,第2のエッジ領域E1,E2の幅(第1,第2の電極指の延びる方向の寸法)は、2λ以下である。
【0018】
第1のエッジ領域E1及び第2のエッジ領域E2においては、それぞれ、第1,第2の質量付加膜16,17が設けられている。本実施形態では、第1,第2の質量付加膜16,17は誘電体からなる。
【0019】
第1の質量付加膜16は第1のエッジ領域E1において、例えば、IDT電極8の反射器9側端部から、反射器10側端部に至るように設けられている。第2の質量付加膜17は、例えば、IDT電極8の反射器9側端部から、反射器10側端部に至るように設けられている。従って、第1の電極指12及び第2の電極指13の双方において、第1のエッジ領域E1及び第2のエッジ領域E2において、第1,第2の質量付加膜16,17が配置されている。もっとも、複数本の電極指のうち少なくとも1本の電極指において、第1,第2のエッジ領域E1,E2に、第1の質量付加膜16または第2の質量付加膜17が設けられていればよい。
【0020】
また、第1,第2の質量付加膜16,17は、IDT電極8と圧電体層6との間に設けられている。すなわち、第1,第2の質量付加膜16,17が形成された後に、第1,第2の質量付加膜16,17の一部を覆うようにIDT電極8の第1,第2の電極指12,13が設けられている。
【0021】
なお、本実施形態では、第1,第2の質量付加膜16,17は、第1,第2の電極指12,13の下方に積層されていたが、第1,第2の質量付加膜16,17は、第1,第2の電極指12,13の上方、すなわち第1,第2の電極指12,13の上面に積層されていてもよい。
【0022】
第1,第2の質量付加膜16,17は、誘電体からなり、本実施形態では、酸化ケイ素からなる。もっとも、誘電体としては、酸化ケイ素に限らず、五酸化ニオブ、酸化タングステン、五酸化タンタル、酸化ハフニウムなどの適宜の絶縁物を用いることができる。
【0023】
また、第1,第2の質量付加膜16,17は、金属などの導電性材料からなるものであってもよい。その場合には、第1,第2の質量付加膜16,17は、第1の電極指12と第2の電極指13との間の領域には至らないように設けられる。すなわち、第1,第2の電極指12,13の直上または直下にのみ第1,第2の質量付加膜16,17が第1,第2のエッジ領域E1,E2において設けられることになる。
【0024】
弾性波装置1の特徴は、IDT電極8の材料にある。すなわち、IDT電極8の第1の電極指12及び第2の電極指13は、Alと、Cu、Mg、Ag及びNdからなる群から選択された少なくとも1種とを含む合金膜からなる。そして、複数本の第1,第2の電極指12,13のうち少なくとも1本の第1,第2の電極指12,13において、第1,第2のエッジ領域E1,E2の少なくとも一部における当該Cu、Mg、Ag及びNdの少なくとも1種の濃度が、中央領域Cにおける当該Cu、Mg、Ag及びNdの少なくとも1種の濃度よりも高くされている。それによって、IDT電極8における耐電力性を高めるとともに、損失の増大を抑制することができる。好ましくは、複数本の第1,第2の電極指12,13は、中央領域Cにおける成分がエピタキシャル膜である。その場合には、耐電力性をより一層高めることができる。
【0025】
本実施形態の弾性波装置1では、第1,第2の電極指12,13において、第1,第2のエッジ領域E1,E2におけるCu濃度が、中央領域CにおけるCu濃度よりも高くされている。また、第1,第2の質量付加膜16,17が設けられている第1,第2のエッジ領域E1,E2においては、第1,第2の電極指12,13はエピタキシャル成長しにくくなる。このとき、エピタキシャル成長していない第1,第2の電極指12,13の先端部においてCu濃度が高くされているため、耐電力性を高めることができる。本発明者らは、検討の結果、第1,第2の電極指12,13の先端側では、エピタキシャル成長しないことによりCuなどの濃度が相対的に低くなることが、耐電力性が低下する原因であると考えた。そこで、本発明では、上記第1,第2のエッジ領域E1,E2におけるCuなどの濃度が中央領域Cにおける濃度よりも高められている。従って、耐電力性を高め、かつ中央領域Cにおいては、Cuなどの濃度が低くなっているため損失の増大を抑制することができる。
【0026】
なお、上記中央領域Cと、第1,第2のエッジ領域E1,E2との境界部分は、第1,第2のエッジ領域E1,E2に含まれるものとする。境界部分において、Cu、Mg、AgまたはNdの濃度が中央領域Cにおける濃度よりも高い場合、本発明の効果が得られる。
【0027】
また、本発明においては、エッジ領域の全体におけるCu、Mg、AgまたはNdの濃度が中央領域CにおけるCu、Mg、AgまたはNdの濃度より高くなくてもよく、エッジ領域の少なくとも一部におけるCu、Mg、AgまたはNdの濃度が中央領域CにおけるCu、Mg、AgまたはNdの濃度より高ければよい。この場合においても、耐電力性を高めることができ、かつ弾性波装置の損失の増大を抑制することができる。
【0028】
また、複数本の第1,第2の電極指12,13のうち、少なくとも1本の第1,第2の電極指12,13において、中央領域CにおけるCu、Mg、Ag及びNdの少なくとも1種からなる成分の濃度は、10重量%以下であることが望ましい。その場合には、挿入損失の増大をより効果的に抑制することができる。これを、
図2を参照して説明する。
図2は、IDT電極8の第1,第2の電極指12,13の中央領域CにおけるAlCu合金中のCuの含有割合(重量%)と、弾性波装置の比抵抗との関係を示す図である。
【0029】
ここで、弾性波装置1の設計パラメータは以下の通りとした。
【0030】
支持基板3:Si
高音速材料層4:SiN膜、膜厚900nm
低音速膜5:SiO2膜、膜厚600nm
圧電体層6:50°YカットのLiTaO3、厚み=600nm
IDT電極8及び反射器9,10:Ti膜/AlCu膜/Ti膜の積層構造。下方のTi膜の膜厚4nm、上方のTi膜の膜厚12nm。AlCu膜の膜厚100nm。
【0031】
第1,第2の質量付加膜16,17:Ta2O5からなる誘電体。厚み=30nm。
【0032】
第1,第2の電極指12,13の中央領域Cは、EBSPで観察したところ、エピタキシャル膜であった。
【0033】
他方、第1,第2のエッジ領域E1,E2では、エピタキシャル膜でない部分が存在した。特に、第1,第2の電極指12,13の先端部では、エピタキシャル成長していないことが確かめられた。
【0034】
第1,第2の電極指12,13の中央領域Cにおける組成は、Alを主体とし、AlCu全体を100重量%としたときに、Cuの割合を1重量%、7重量%、8重量%、10重量%、12.5重量%、15重量%、17重量%、20重量%、26重量%または35重量%とした。
【0035】
EDXを用いて元素分析を行ったところ、第1,第2のエッジ領域E1,E2におけるCu析出量が中央領域CにおけるCu析出量よりも多いことが確認された。すなわち、第1,第2のエッジ領域E1,E2におけるCu濃度は、上記中央領域CにおけるCu濃度よりも高いことが確認された。
【0036】
図2から明らかなように、Cuの濃度が中央領域Cにおいて高くなると、比抵抗が高くなり、従って損失が大きくなることがわかる。好ましくは、Cu濃度は10重量%以下、より好ましくは5重量%以下である。それによって、比抵抗を著しく小さくすることができ、損失の増大をより効果的に抑制し得ることがわかる。
【0037】
なお、上記実施形態では、第1,第2の電極指12,13を構成している合金膜は、Alを主体とし、Cuを含むものであったが、Alを主体とし、Cu、Mg、Ag及びNdからなる群から選択された少なくとも1種とを含む合金膜であってもよい。
【0038】
従って、本発明では、合金膜は、Alを主体とし、Mgを含む組成を有するものであってもよく、Alを主体とし、Agを含む組成を有するものであってもよく、Alを主体とし、Ndを含む組成を有するものであってもよい。また、Cu、Mg、Ag及びNdのうち2種以上の元素を含む合金膜であってもよい。なお、Alを主体とし、Cu、Mg、Ag及びNdのうち2種以上の元素を含む合金膜である場合には、当該2種以上の元素のうち少なくとも1種の元素について、第1,第2のエッジ領域E1,E2における濃度が、中央領域Cにおける濃度よりも高くされていればよい。
【0039】
また、弾性波装置1では、上記第1,第2の質量付加膜16,17を設けることにより、第1,第2のエッジ領域E1,E2の音速が、中央領域Cの音速よりも低められている。そして、第1,第2のエッジ領域E1,E2の第1,第2の電極指12,13の延びる方向両外側には、第1,第2のギャップ領域G1,G2が設けられている。第1,第2のギャップ領域G1,G2の音速は、第1,第2のエッジ領域E1,E2の音速よりも高い。従って、弾性波装置1では、横モードによるリップルを音速差により効果的に抑圧することができる。
【0040】
もっとも、本発明においては、第1,第2のエッジ領域E1,E2の音速は中央領域Cの音速よりも必ずしも低められておらずともよい。
【0041】
弾性波装置1では、圧電性基板2が、支持基板3、高音速材料層4、低音速膜5及び圧電体層6の積層体であった。この場合、支持基板3の材料としてはSiに限らず、Si以外の半導体や、アルミナなどの絶縁体を用いることができる。高音速材料層4は、窒化ケイ素からなるが、高音速材料層4は、適宜の高音速材料を用いて構成することができる。高音速材料とは、伝搬するバルク波の音速が、圧電体層6を伝搬する弾性波の音速よりも高い材料をいう。このような高音速材料としては、酸化アルミニウム、炭化ケイ素、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素、シリコン、サファイア、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム、水晶、アルミナ、ジルコニア、コ-ジライト、ムライト、ステアタイト、フォルステライト、マグネシア、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)膜またはダイヤモンド、上記材料を主成分とする媒質、上記材料の混合物を主成分とする媒質等の様々な材料を用いることができる。低音速膜5は、低音速材料からなる。低音速材料とは、伝搬するバルク波の音速が、圧電体層6を伝搬するバルク波の音速よりも低い材料をいう。このような低音速材料としては、酸化ケイ素、ガラス、酸窒化ケイ素、酸化タンタル、また、酸化ケイ素にフッ素や炭素やホウ素、水素、あるいはシラノール基を加えた化合物、上記材料を主成分とする媒質等の様々な材料を用いることができる。
【0042】
なお、圧電体層6は高音速材料層上に直接積層されていてもよい。
【0043】
また、本発明においては、圧電性基板2において、低音速膜5が設けられていたが、低音速膜5が設けられずともよい。さらに、支持基板3上に高音速材料層4が積層されていたが、支持基板3が高音速材料からなる高音速支持基板であってもよい。その場合には、高音速材料層4は高音速支持基板である。
【0044】
また、本発明における圧電性基板は、
図1に示した圧電性基板2のような構造に限定されず、例えばアルミナなどの支持基板上に圧電体層が積層されている構造を有するものであってもよく、また圧電性基板2全体が圧電単結晶などからなる圧電基板であってもよい。
【符号の説明】
【0045】
1…弾性波装置
2…圧電性基板
3…支持基板
4…高音速材料層
5…低音速膜
6…圧電体層
8…IDT電極
9,10…反射器
11…誘電体膜
12,13…第1,第2の電極指
14,15…第1,第2のバスバー
16,17…第1,第2の質量付加膜
C…中央領域
E1,E2…第1,第2のエッジ領域
G1,G2…第1,第2のギャップ領域
K…交差領域