(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】熱硬化性樹脂組成物、樹脂シートおよび金属ベース基板
(51)【国際特許分類】
C08L 63/00 20060101AFI20240409BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20240409BHJP
C08K 3/28 20060101ALI20240409BHJP
C08K 3/34 20060101ALI20240409BHJP
C08K 3/38 20060101ALI20240409BHJP
C08L 65/00 20060101ALI20240409BHJP
C08L 71/10 20060101ALI20240409BHJP
B32B 15/092 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
C08L63/00 C
C08K3/22
C08K3/28
C08K3/34
C08K3/38
C08L65/00
C08L71/10
B32B15/092
(21)【出願番号】P 2022167853
(22)【出願日】2022-10-19
(62)【分割の表示】P 2021576537の分割
【原出願日】2021-02-24
【審査請求日】2023-05-29
(31)【優先権主張番号】P 2020031440
(32)【優先日】2020-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 忠相
(72)【発明者】
【氏名】樫野 智将
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/085223(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/061980(WO,A1)
【文献】特開2014-156531(JP,A)
【文献】国際公開第2015/141797(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L,C08K,B32B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂(A
1)と、
エポキシ樹脂(A2)と、
硬化剤(B)と、
熱伝導性粒子(C)と、
フェノキシ樹脂(D)と、を含み、
エポキシ樹脂(A
1)は、メソゲン骨格
としてビフェニル骨格またはナフタレン骨格を含み、かつ軟化点が60℃以下であ
り、
エポキシ樹脂(A2)は、メソゲン骨格を含み、かつ軟化点が60℃を超える、熱硬化性樹脂組成物であって、
エポキシ樹脂(A1)を、前記熱硬化性樹脂組成物の樹脂成分(100質量%)に対して、10質量%~30質量%含み、
フェノキシ樹脂(D)を、前記熱硬化性樹脂組成物の樹脂成分(100質量%)に対して、0.5質量%~10質量%含み、
前記熱硬化性樹脂組成物の硬化物の200℃における熱伝導率λ
200は12.0W/(m・K)以上である、熱硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
エポキシ樹脂(A1)は、2官能ナフタレン型エポキシ樹脂またはビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂である、請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
熱伝導性粒子(C)を、前記熱硬化性樹脂組成物の樹脂成分(100質量%)に対して、100質量%~400質量%含む、請求項1または2に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
熱伝導性粒子(C)は、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化珪素、炭化珪素および酸化マグネシウムから選択される少なくとも1種を含む、請求項1
~3のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
熱伝導性粒子(C)は前記窒化ホウ素を含み、
前記窒化ホウ素は、鱗片状窒化ホウ素の、単分散粒子、顆粒状粒子、凝集粒子またはこれらの混合物を含む、請求項4に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
硬化剤(B)は、シアネート樹脂を含む、請求項1~5のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
フェノキシ樹脂(D)は、ビスフェノール骨格を有するフェノキシ樹脂、ナフタレン骨格を有するフェノキシ樹脂、アントラセン骨格を有するフェノキシ樹脂、およびビフェニル骨格を有するフェノキシ樹脂から選択される少なくとも1種である、請求項1~6のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
フェノキシ樹脂(D)は、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂である、請求項1~7のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1~
8のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物からなる樹脂シート。
【請求項10】
金属基板と、
請求項
9に記載の前記樹脂シートからなる絶縁層と、
金属層と、をこの順で備える、金属ベース基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性樹脂組成物、当該組成物からなる樹脂シート、および当該樹脂シートを含む金属ベース基板に関する。
【背景技術】
【0002】
電気・電子機器等を構成する絶縁材料に対して放熱性が要求されている。絶縁材料の放熱性について様々な開発がなされてきた。
【0003】
この種の技術として、たとえば、特許文献1に記載の技術が知られている。特許文献1には、熱硬化性樹脂としてビスフェノールA型エポキシ樹脂を使用し、熱伝導性粒子として鱗片状または球形状の窒化ホウ素粒子を使用した熱硬化性樹脂組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の従来の技術においては、熱硬化性樹脂組成物から得られる樹脂シートは柔軟性が低く、この樹脂シートを絶縁層として備える金属ベース基板において回路加工等の際に、樹脂シートに亀裂が入る場合等があり、加工プロセス耐性に改善に余地があった。
【0006】
樹脂シートに可撓性を付与して加工プロセス耐性を改善するために液状のエポキシ樹脂等を用いることが考えられるが、液状の樹脂を用いた場合、高熱伝導率化を達成できなかった。すなわち、樹脂シートの加工プロセス耐性の改善と高熱伝導率化とはトレードオフの関係にあった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、特定の組み合わせにおいて上記の課題を解決できることを見出し、以下に提供される発明を完成させた。
本発明によれば
エポキシ樹脂(A)と、
硬化剤(B)と、
熱伝導性粒子(C)と、を含み、
エポキシ樹脂(A)は、メソゲン骨格を含み、かつ軟化点が60℃以下である、熱硬化性樹脂組成物であって、
前記熱硬化性樹脂組成物の硬化物の200℃における熱伝導率λ200は12.0W/(m・K)以上である、熱硬化性樹脂組成物が提供される。
本発明によれば、熱硬化性樹脂組成物からなる樹脂シートが提供される。
本発明によれば、金属基板と、前記樹脂シートからなる絶縁層と、金属層と、をこの順で備える、金属ベース基板が提供される。
【0008】
なお、本発明において、加工プロセス耐性とは、例えば樹脂シート上に回路を形成する場合に、加工形成時の応力により発生する樹脂シートの割れが抑制される等を意味する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、加工プロセス耐性におよび高熱伝導性に優れた樹脂シートが得られる熱硬化性樹脂組成物、当該組成物からなる樹脂シート、および当該樹脂シートを含む金属ベース基板を提供することができる。言い換えれば、本発明の熱硬化性樹脂組成物から得られる樹脂シートは、これらの特性のバランスに優れる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態に係る金属ベース基板の構成を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。また、「~」は特に断りがなければ「以上」から「以下」を表す。
【0012】
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、エポキシ樹脂(A)と、硬化剤(B)と、熱伝導性粒子(C)と、を含み、エポキシ樹脂(A)は、メソゲン骨格を含み、かつ軟化点が60℃以下である。そして、前記熱硬化性樹脂組成物の硬化物の200℃における熱伝導率λ200は12.0W/(m・K)以上である。
【0013】
[エポキシ樹脂(A)]
本実施形態のエポキシ樹脂(A)は、メソゲン骨格を含み、かつ軟化点が60℃以下、好ましくは55℃以下、さらに好ましくは52℃以下である。エポキシ樹脂(A)は、その軟化点が上記範囲であることにより、得られる樹脂シートに可撓性を付与して加工プロセス耐性を改善することができる。さらに、メソゲン骨格を含むことにより、硬化時の熱伝導性(放熱性)を高めることができる。
【0014】
メソゲン骨格を含むエポキシ樹脂の硬化時に、そのメソゲン骨格により高次構造(液晶相または結晶相)が形成されると考えられる。そして、その高次構造を熱が伝わることで熱伝導性(放熱性)が一層高まると考えられる。硬化物中の高次構造の存在は、偏光顕微鏡による観察によって調べることができる。
【0015】
メソゲン骨格としては、分子間相互作用の働きにより、液晶性や結晶性を発現しやすくする骨格全般を挙げることができる。メソゲン骨格は、好ましくは共役構造を含む。メソゲン骨格として具体的には、ビフェニル骨格、フェニルベンゾエート骨格、アゾベンゼン骨格、スチルベン骨格、ナフタレン骨格、アントラセン骨格、フェナントレン骨格などが挙げられる。
エポキシ樹脂(A)は、メソゲン骨格としてビフェニル骨格、またはナフタレン骨格を含むことが好ましい。
【0016】
例えばビフェニル骨格(-C6H4-C6H4-)は、高温下では、熱運動により左記構造の中心の炭素-炭素の単結合部分が「回転」し、液晶性が低下する可能性がある。フェニルベンゾエート骨格(-C6H4-COO-C6H4-)も、同様に、高温下ではエステル結合が回転する可能性がある。しかし、ナフタレン骨格のような縮合多環芳香族炭化水素骨格では、原理的にはそのような回転による液晶性の低下は無い。つまり、エポキシ樹脂が縮合多環芳香族炭化水素骨格を含むことで、λ200を12.0W/(m・K)以上に設計しやすく、それゆえ高温環境下での放熱性を一層高めやすい。
【0017】
また、多環芳香族炭化水素骨格として特にナフタレン骨格を採用することで、前記メリットを得つつ、エポキシ樹脂が剛直になりすぎることを抑えることもできる。これは、ナフタレン骨格はメソゲン骨格としては比較的小さいためである。エポキシ樹脂が剛直になりすぎないことは、本実施形態の熱硬化性樹脂組成物の硬化時の応力が緩和されやすくなることによるクラック等の抑制、などの点で好ましい。
【0018】
エポキシ樹脂(A)としては、メソゲン骨格を含み、かつ軟化点が60℃以下であれば特に限定されず用いることができる。例えば、ナフタレン型エポキシ樹脂、ビフェノール型エポキシ樹脂などが挙げられ、少なくとも1種用いることができる。
【0019】
エポキシ樹脂(A)は、2官能以上のエポキシ樹脂を含むことが好ましい。つまり、エポキシ樹脂1分子中には2以上のエポキシ基が含まれることが好ましい。エポキシ樹脂の官能基数は、好ましくは2~6、より好ましくは2~4である。
【0020】
本実施形態におけるエポキシ樹脂は、本発明の効果の観点から、下記式で表される化合物および例示される樹脂から選択される1または2以上を含むことが好ましい。
【0021】
【0022】
エポキシ樹脂(A)としては、例えば、DIC社製HP-4032D(2官能ナフタレン型液状エポキシ樹脂)、HP-6000L(ナフタレン骨格含有多官能固形エポキシ樹脂)、日本化薬社製NC-3000/NC-3000L(ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂)等が挙げられる。
【0023】
エポキシ樹脂(A)は、熱伝導性粒子(C)を含まない熱硬化性樹脂組成物の樹脂成分(100質量%)に対して、例えば5質量%~40質量%、好ましくは7質量%~35質量%、より好ましくは10質量%~30質量%である。これにより、十分な加工プロセス耐性を担保することができ、さらにλ200が12.0W/(m・K)以上を容易に達成することができ、高熱伝導性および絶縁性により優れた樹脂シートを得ることができる。
【0024】
本実施形態においてはエポキシ樹脂(A)以外にその他のエポキシ樹脂を含むことができる。その他のエポキシ樹脂は、その軟化点が60℃を超えていても良いが、高熱伝導性および絶縁性の観点からからメソゲン骨格を含むことが好ましい。
その他のエポキシ樹脂としては、例えば下記式で表される化合物から選択される1または2以上を含むことができる。
【0025】
【0026】
[硬化剤(B)]
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、硬化剤(B)を含む。硬化剤(B)としては、フェノール樹脂、シアネート樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、活性エステル樹脂などを用いることができ、シアネート樹脂を含むことが好ましい。熱硬化性樹脂組成物の硬化物について、低線膨張化や、弾性率および剛性の向上を図ることができる。また、得られる金属ベース基板の耐熱性や耐湿性の向上に寄与することも可能である。
また、シアネート樹脂は1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよく、1種類または2種類以上と、それらのプレポリマーとを併用してもよい。
【0027】
上記シアネート樹脂は、例えばノボラック型シアネート樹脂;ビスフェノールA型シアネート樹脂、ビスフェノールE型シアネート樹脂、テトラメチルビスフェノールF型シアネート樹脂等のビスフェノール型シアネート樹脂;ナフトールアラルキル型フェノール樹脂とハロゲン化シアンとの反応で得られるナフトールアラルキル型シアネート樹脂;ジシクロペンタジエン型シアネート樹脂;ビフェニレン骨格含有フェノールアラルキル型シアネート樹脂から選択される一種または二種以上を含むことができる。これらの中でも、本発明の効果の観点から、ノボラック型シアネート樹脂およびナフトールアラルキル型シアネート樹脂のうちの少なくとも一方を含むことがより好ましく、ノボラック型シアネート樹脂を含むことが特に好ましい。
ノボラック型シアネート樹脂としては、例えば、下記一般式(I)で示されるものを使用することができる。
【0028】
【0029】
一般式(I)で示されるノボラック型シアネート樹脂の平均繰り返し単位nは任意の整数である。平均繰り返し単位nは、特に限定されないが、1以上が好ましく、2以上がより好ましい。平均繰り返し単位nが上記下限値以上であると、ノボラック型シアネート樹脂の耐熱性が向上し、加熱時に低量体が脱離、揮発することをより一層抑制できる。また、平均繰り返し単位nは、特に限定されないが、10以下が好ましく、7以下がより好ましい。nが上記上限値以下であると、溶融粘度が高くなるのを抑制でき、樹脂シートの成形性を向上させることができる。
【0030】
また、シアネート樹脂としては、下記一般式(II)で表わされるナフトールアラルキル型シアネート樹脂も好適に用いられる。下記一般式(II)で表わされるナフトールアラルキル型シアネート樹脂は、例えば、α-ナフトールあるいはβ-ナフトール等のナフトール類とp-キシリレングリコール、α,α’-ジメトキシ-p-キシレン、1,4-ジ(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼン等との反応により得られるナフトールアラルキル型フェノール樹脂とハロゲン化シアンとを縮合させて得られるものである。一般式(II)の繰り返し単位nは10以下の整数であることが好ましい。繰り返し単位nが10以下であると、より均一な樹脂シートを得ることができる。また、合成時に分子内重合が起こりにくく、水洗時の分液性が向上し、収量の低下を防止できる傾向がある。
【0031】
【0032】
上記一般式(II)中、Rはそれぞれ独立に水素原子またはメチル基を示し、nは1以上10以下の整数を示す。
【0033】
硬化剤(B)の含有量は、熱伝導性粒子(C)を含まない熱硬化性樹脂組成物の樹脂成分(100質量%)に対して、例えば、10質量%~70質量%、好ましくは20質量%~60質量%である。これにより、熱硬化性樹脂組成物の硬化物のより効果的な低線膨張化、高弾性率化を図ることができる。熱硬化性樹脂組成物の特性のバランスを図ることができる。
【0034】
[熱伝導性粒子(C)]
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、熱伝導性粒子(C)を含む。
【0035】
熱伝導性粒子(C)は、たとえば、20W/m・K以上の熱伝導率を有する高熱伝導性無機粒子を含むことができる。高熱伝導性無機粒子としては、例えば、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化珪素、炭化珪素及び酸化マグネシウムから選択される少なくとも1種以上を含むことができる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
前記窒化ホウ素は、鱗片状窒化ホウ素の、単分散粒子、凝集粒子またはこれらの混合物を含むことができる。鱗片状窒化ホウ素は顆粒状に造粒されていてもよい。鱗片状窒化ホウ素の凝集粒子を用いることによって、一層に熱伝導性を高められる。凝集粒子は、焼結粒子であっても、非焼結粒子であってもよい。
【0037】
熱伝導性粒子(C)の含有量は、熱硬化性樹脂組成物の樹脂成分(100質量%)に対して、100質量%~400質量%であり、好ましくは150質量%~350質量%であり、より好ましくは200質量%~320質量%である。前記下限値以上とすることにより、熱伝導性を向上させることができる。前記上限値以下とすることにより、プロセス性(生産性)の低下を抑制することができる。すなわち、上記範囲であることにより、熱伝導性およびプロセス性にバランスよく優れる。
【0038】
[フェノキシ樹脂(D)]
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、必要に応じて、フェノキシ樹脂(D)を含むことができる。フェノキシ樹脂(D)を含むことにより樹脂シートの加工プロセス耐性をさらに改善することができる。
【0039】
フェノキシ樹脂(D)としては、たとえば、ビスフェノール骨格を有するフェノキシ樹
脂、ナフタレン骨格を有するフェノキシ樹脂、アントラセン骨格を有するフェノキシ樹脂、およびビフェニル骨格を有するフェノキシ樹脂等が挙げられる。また、これらの骨格を複数種有した構造のフェノキシ樹脂を用いることもできる。
【0040】
フェノキシ樹脂(D)の含有量は、本発明の効果の観点から、熱伝導性粒子(C)を含まない熱硬化性樹脂組成物の樹脂成分(100質量%)に対して、例えば、0.5質量%~10質量%、好ましくは1質量%~10質量%である。
【0041】
[硬化促進剤(E)]
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、必要に応じて、硬化促進剤(E)を含むことができる。
硬化促進剤(E)の種類や配合量は特に限定されないが、反応速度や反応温度、保管性などの観点から、適切なものを選択することができる。
【0042】
硬化促進剤(E)としては、例えば、イミダゾール類、有機リン化合物、3級アミン類、フェノール化合物、有機酸等が挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。この中でも、耐熱性を高める観点から、イミダゾール類などの窒素原子含有化合物を用いることが好ましい。
【0043】
前記イミダゾール類としては、例えば、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、2,4-ジエチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシイミダゾール、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾリウムトリメリテート等が挙げられる。
【0044】
前記3級アミン類としては、例えば、トリエチルアミン、トリブチルアミン、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7等が挙げられる。
【0045】
前記フェノール化合物としては、例えば、フェノール、ビスフェノールA、ノニルフェノール、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン等が挙げられる。
前記有機酸としては、例えば、酢酸、安息香酸、サリチル酸、p-トルエンスルホン酸等が挙げられる。
【0046】
硬化促進剤(E)の含有量は、熱伝導性粒子(C)を含まない熱硬化性樹脂組成物の樹脂成分(100質量%)に対して、0.01質量%~10質量%程度である。
【0047】
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、上述した成分以外の他の成分を含むことができる。この他の成分としては、例えば、酸化防止剤、レベリング剤が挙げられる。
【0048】
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物の製造方法として、例えば、次のような方法がある。
上記の各成分を、溶剤中に溶解、混合、撹拌することにより樹脂ワニス(ワニス状の熱硬化性樹脂組成物)を調製することができる。この混合は、超音波分散方式、高圧衝突式分散方式、高速回転分散方式、ビーズミル方式、高速せん断分散方式、および自転公転式分散方式などの各種混合機を用いることができる。
【0049】
上記溶剤としては特に限定されないが、アセトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、酢酸エチル、シクロヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、エチレングリコール、セルソルブ系、カルビトール系、アニソール、およびN-メチルピロリドン等が挙げられる。
【0050】
[樹脂シート]
本実施形態の樹脂シートは、前記熱硬化性樹脂組成物を硬化してなる。樹脂シートの具体的な形態は、キャリア基材と、キャリア基材上に設けられた、本実施形態の熱硬化性樹脂組成物からなる樹脂層と、を備えるものである。
【0051】
上記樹脂シートは、たとえばワニス状の熱硬化性樹脂組成物をキャリア基材上に塗布して得られた塗布膜(樹脂層)に対して、溶剤除去処理を行うことにより得ることができる。上記樹脂シート中の溶剤含有率が、熱硬化性樹脂組成物全体に対して10質量%以下とすることができる。たとえば80℃~200℃、1分間~30分間の条件で溶剤除去処理を行うことができる。
【0052】
また、本実施形態において、上記キャリア基材としては、例えば、高分子フィルムや金属箔などを用いることができる。当該高分子フィルムとしては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリカーボネート、シリコーンシート等の離型紙、フッ素系樹脂、ポリイミド樹脂などの耐熱性を有した熱可塑性樹脂シート等が挙げられる。当該金属箔としては、特に限定されないが、例えば、銅および/または銅系合金、アルミおよび/またはアルミ系合金、鉄および/または鉄系合金、銀および/または銀系合金、金および金系合金、亜鉛および亜鉛系合金、ニッケルおよびニッケル系合金、錫および錫系合金などが挙げられる。
【0053】
本実施形態の樹脂基板は、上記熱硬化性樹脂組成物の硬化物で構成された絶縁層を備えるものである。この樹脂基板は、LED、パワーモジュールなどの電子部品を搭載するためのプリント基板の材料として用いることができる。
【0054】
(金属ベース基板)
本実施形態の金属ベース基板100について
図1に基づいて説明する。
図1は、金属ベース基板100の構成の一例を示す概略断面図である。
【0055】
上記金属ベース基板100は、
図1に示すように、金属基板101と、金属基板101上に設けられた絶縁層102と、絶縁層102上に設けられた金属層103と、を備えることができる。この絶縁層102は、上記の熱硬化性樹脂組成物からなる樹脂層、熱硬化性樹脂組成物の硬化物および積層板からなる群から選択される一種で構成することが可能である。これらの樹脂層、積層板のそれぞれは、金属層103の回路加工の前では、Bステージ状態の熱硬化性樹脂組成物で構成されていてもよく、回路加工の後では、それを硬化処理されてなる硬化体であってもよい。
【0056】
金属層103は絶縁層102上に設けられ、回路加工されるものである。この金属層103を構成する金属としては、例えば、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、鉄、錫等から選択される一種または二種以上が挙げられる。これらの中でも、金属層103は、好ましくは銅層またはアルミニウム層であり、特に好ましくは銅層である。銅またはアルミニウムを用いることで、金属層103の回路加工性を良好なものとすることができる。金属層103は、板状で入手できる金属箔を用いてもよいし、ロール状で入手できる金属箔を用いてもよい。
金属層103の厚みの下限値は、例えば、0.01mm以上であり、好ましくは0.035mm以上であれば、高電流を要する用途に適用できる。
【0057】
また、金属層103の厚みの上限値は、例えば、10.0mm以下であり、好ましくは5mm以下である。このような数値以下であれば、回路加工性を向上させることができ、また、基板全体としての薄型化を図ることができる。
【0058】
金属基板101は、金属ベース基板100に蓄積された熱を放熱する役割を有する。金属基板101は、放熱性の金属基板であれば特に限定されないが、例えば、銅基板、銅合金基板、アルミニウム基板、アルミニウム合金基板であり、銅基板またはアルミニウム基板が好ましく、銅基板がより好ましい。銅基板またはアルミニウム基板を用いることで、金属基板101の放熱性を良好なものとすることができる。
金属基板101の厚さは、本発明の目的が損なわれない限り、適宜設定できる。
【0059】
金属基板101の厚さの上限値は、例えば、20.0mm以下であり、好ましくは5.0mm以下である。この数値以下の金属ベース基板100の外形加工や切り出し加工等における加工性を向上させることができる。
【0060】
また、金属基板101の厚さの下限値は、例えば、0.01mm以上であり、好ましくは0.6mm以上である。この数値以上の金属基板101を用いることで、金属ベース基板100全体としての放熱性を向上させることができる。
【0061】
本実施形態において、金属ベース基板100は、各種の基板用途に用いることが可能であるが、熱伝導性及び耐熱性に優れることから、LEDやパワーモジュールを用いるプリント基板として用いることが可能である。
【0062】
金属ベース基板100は、パターンにエッチング等することによって回路加工された金属層103を有することができる。この金属ベース基板100において、最外層に不図示のソルダーレジストを形成し、露光・現像により電子部品が実装できるよう接続用電極部が露出されていてもよい。
【0063】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、本発明の効果を損なわない範囲で、上記以外の様々な構成を採用することができる。
【実施例】
【0064】
以下に、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0065】
<熱硬化性樹脂組成物(ワニス状)の製造>
表1に記載の配合割合に従い、各成分と溶媒を撹拌してワニス状の熱硬化性樹脂組成物を得た。表1中、熱伝導性粒子の含有量は、熱伝導性フィラーを含まない熱硬化性樹脂組成物の樹脂成分に対する重量%である。
表1中の各成分の詳細は以下のとおりである。なお、表1中の各成分の量の単位は質量部である。
【0066】
(エポキシ樹脂(A))
・エポキシ樹脂1:2官能ナフタレン型エポキシ樹脂(メソゲン構造あり、DIC社製、HP-4032D、常温25℃で液状(軟化点25℃以下))
・エポキシ樹脂2:ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂(メソゲン構造あり、日本化薬社製、NC-3000L、軟化点51℃)
【0067】
(その他のエポキシ樹脂)
・エポキシ樹脂3:ビスフェノールF型エポキシ樹脂(メソゲン構造なし、DIC社製、EPICLON 830S、常温25℃で液状(軟化点25℃以下))
・エポキシ樹脂4:4官能ナフタレン型エポキシ樹脂(メソゲン構造あり、DIC社製、HP-4710、軟化点96℃)
【0068】
(硬化剤(B))
・硬化剤1:ノボラック型シアネート樹脂(メソゲン構造なし、ロンザジャパン社製、PT-30)
【0069】
(熱伝導性粒子(C))
・熱伝導性粒子1:凝集窒化ホウ素(水島合金鉄社製、HP40)
【0070】
(フェノキシ樹脂(D))
・フェノキシ樹脂1:ビスフェノールA型フェノキシ樹脂(日鉄ケミカル&マテリアル社製、YP-55)
【0071】
(硬化触媒)
・硬化触媒1:ノボラック型フェノール化合物(明和化成(株)製、MEH-8000H、常温25℃で液状)
【0072】
<測定/評価用の試料(測定用硬化物)の作製>
ワニス状の樹脂組成物(P)をPETフィルム上に塗布し、100℃で30分間熱処理することにより、膜厚が200μm(0.2mm)の、Bステージ状(半硬化状態)の熱伝導性シートを作製した。これを、PETフィルムから剥がして200℃で90分間熱処理して熱伝導性シート硬化物を得た。
この熱伝導性シート硬化物を、以下では「測定用硬化物」とも表記する。
【0073】
<熱硬化性樹脂組成物の硬化物の特性の測定>
(200℃における熱伝導率λ200)
熱伝導率は、α×Cp×Spの式により求められる(αは熱拡散係数、Cpは比熱、Spは密度)。よって、α、CpおよびSpをそれぞれ測定して、熱伝導率を求めた。具体的には以下のとおりである。
【0074】
・200℃における熱拡散係数αの測定
測定用硬化物を、厚さ約0.2mm、10mm×10mmの大きさに切り出した。これを、NETZSCH社製の装置「LFA447 NanoFlash」にセットし、空気下、200℃で保持した。そして、レーザフラッシュ法により、200℃における熱拡散係数αを測定した。
【0075】
・200℃における比熱Cpの測定
JIS K 7123(プラスチックの比熱容量測定方法)に準拠し、DSC法により、測定用硬化物の、200℃での比熱(Cp)を測定した。
【0076】
・密度Spの測定
JIS K 6911(熱硬化性プラスチック一般試験方法)に準拠して行った。試験片は、測定用硬化物を、縦2cm×横2cm×厚み0.2mmに切り出したものを用いた。
なお、密度Spは23℃で測定した。厳密にはλ200を求めるにあたっては密度Spも200℃で求める必要があるが、測定の困難性などから、23℃と200℃での密度Spの変化は無視した。
【0077】
・200℃における熱伝導率λ200の算出
上記のようにして求めたα、CpおよびSpを掛け算して、200℃における熱伝導率λ200を算出した。
【0078】
(樹脂シートの加工プロセス耐性)
Bステージ状の熱伝導性シートをPETから剥がして、200℃90分の熱処理後の樹脂シートの外観を以下の基準で評価した。
(基準)
○:樹脂シートに割れ、欠けなし。
×:樹脂シートに割れ、欠けあり。
【0079】
【0080】
表1に記載のように、メソゲン骨格を含んでいない液状エポキシ樹脂を用いた比較例1は熱伝導率が低かった。軟化点が96℃であるメソゲン骨格を含む液状エポキシ樹脂を用いた比較例2は樹脂シートに割れが認められた。
これに対し、軟化点が60℃以下であるメソゲン骨格を含む液状エポキシ樹脂を用いた実施例においては、熱伝導率が高く、割れが認められず加工プロセス耐性に優れた樹脂シートを得ることができた。
【符号の説明】
【0081】
100 金属ベース基板
101 金属基板
102 絶縁層
103 金属層