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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】軸受および過給機
(51)【国際特許分類】
   F16C 17/02 20060101AFI20240409BHJP
   F02B 39/14 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
F16C17/02 Z
F02B39/14 C
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022563639
(86)(22)【出願日】2021-10-18
(86)【国際出願番号】 JP2021038388
(87)【国際公開番号】W WO2022107524
(87)【国際公開日】2022-05-27
【審査請求日】2023-01-04
(31)【優先権主張番号】P 2020191119
(32)【優先日】2020-11-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上田 朗弘
【審査官】鈴木 貴晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-219866(JP,A)
【文献】実開昭58-172114(JP,U)
【文献】特開平06-288411(JP,A)
【文献】特開2002-206522(JP,A)
【文献】特開2014-101826(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 17/00-17/26,
33/00-33/28
F02B 33/00-33/00,
33/32-33/44,
37/00-37/24,
39/00-39/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフトが挿通される環状の本体と、
前記本体の内周面に設けられ、前記本体の軸方向に延在する複数の給油溝と、
前記本体の端面に設けられるスラスト軸受面と、
前記スラスト軸受面の外周縁と離隔して前記本体の周方向に間隔を空けて前記スラスト軸受面に設けられ、前記給油溝と連通し、前記周方向に進むにつれて浅くなる複数のテーパ部と、
前記スラスト軸受面に設けられ、前記複数のテーパ部のうちの1つの前記テーパ部を通過し、前記給油溝と前記外周縁とを接続する排油溝と、
を備え
前記排油溝は、前記複数のテーパ部のうちの1つの前記テーパ部のみに対して設けられ、前記1つのテーパ部以外の前記テーパ部に対しては設けられておらず、前記スラスト軸受面のうち鉛直方向の下側に設けられる、
軸受。
【請求項2】
前記スラスト軸受面の面積に対する前記排油溝の前記外周縁側の開口の流路断面積の比率は、0.01以下である、
請求項1に記載の軸受。
【請求項3】
前記スラスト軸受面の面積に対する前記排油溝の前記外周縁側の開口の流路断面積の比率は、0.003以上である、
請求項1または2に記載の軸受。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の軸受を備える過給機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、軸受および過給機に関する。本出願は2020年11月17日に提出された日本特許出願第2020-191119号に基づく優先権の利益を主張するものであり、その内容は本出願に援用される。
【背景技術】
【0002】
種々の装置において、シャフトを軸支する軸受が利用されている。例えば、特許文献1には、シャフトを軸支する軸受を備える過給機が開示されている。過給機等に用いられる軸受には、潤滑油が供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5807436号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
シャフトを軸支する軸受として、軸受に対して軸方向に隣り合う部材をスラスト方向に支持するスラスト軸受面を有する軸受(つまり、スラスト軸受)がある。軸受の内部に供給された潤滑油は、シャフトの回転に伴って、軸受のスラスト軸受面に供給される。スラスト軸受面に供給される潤滑油の油膜圧力によってスラスト荷重(つまり、スラスト方向の荷重)が支持される。このような軸受では、スラスト方向の耐荷重(言い換えると、負荷容量)を向上させることが望まれている。
【0005】
本開示の目的は、軸受のスラスト方向の耐荷重を向上させることが可能な軸受および過給機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示の軸受は、シャフトが挿通される環状の本体と、本体の内周面に設けられ、本体の軸方向に延在する複数の給油溝と、本体の端面に設けられるスラスト軸受面と、スラスト軸受面の外周縁と離隔して本体の周方向に間隔を空けてスラスト軸受面に設けられ、給油溝と連通し、周方向に進むにつれて浅くなる複数のテーパ部と、スラスト軸受面に設けられ、複数のテーパ部のうちの1つのテーパ部を通過し、給油溝と外周縁とを接続する排油溝と、を備え、排油溝は、複数のテーパ部のうちの1つのテーパ部のみに対して設けられ、1つのテーパ部以外のテーパ部に対しては設けられておらず、スラスト軸受面のうち鉛直方向の下側に設けられる
【0007】
スラスト軸受面の面積に対する排油溝の外周縁側の開口の流路断面積の比率は、0.01以下であってもよい。
【0008】
スラスト軸受面の面積に対する排油溝の外周縁側の開口の流路断面積の比率は、0.003以上であってもよい。
【0009】
上記課題を解決するために、本開示の過給機は、上記の軸受を備える。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、軸受のスラスト方向の耐荷重を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本開示の実施形態に係る過給機の概略断面図である。
図2図2は、図1の一点鎖線部分の抽出図である。
図3図3は、本開示の実施形態に係る軸受におけるスラスト軸受面を示す正面図である。
図4図4は、図3のA-A断面を示す断面図である。
図5図5は、図3のB矢印方向から軸受を見た図である。
図6図6は、本開示の実施形態に係る軸受におけるスラスト軸受面の面積に対する排油溝の外周縁側の開口の流路断面積の比率と、軸受から排出される潤滑油の流量との関係を示すグラフである。
図7図7は、本開示の実施形態に係る軸受におけるスラスト軸受面の面積に対する排油溝の外周縁側の開口の流路断面積の比率と、スラスト軸受面に形成される油膜の温度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に添付図面を参照しながら、本開示の一実施形態について説明する。実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本開示を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本開示に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0013】
図1は、過給機TCの概略断面図である。図1では、矢印U方向が鉛直上方向であり、矢印D方向が鉛直下方向である。以下では、図1に示す矢印L方向を過給機TCの左側として説明する。図1に示す矢印R方向を過給機TCの右側として説明する。図1に示すように、過給機TCは、過給機本体1を備える。過給機本体1は、ベアリングハウジング3と、タービンハウジング5と、コンプレッサハウジング7とを含む。タービンハウジング5は、ベアリングハウジング3の左側に締結機構9によって連結される。コンプレッサハウジング7は、ベアリングハウジング3の右側に締結ボルト11によって連結される。
【0014】
ベアリングハウジング3の外周面には、突起3aが設けられる。突起3aは、タービンハウジング5側に設けられる。突起3aは、ベアリングハウジング3の径方向に突出する。タービンハウジング5の外周面には、突起5aが設けられる。突起5aは、ベアリングハウジング3側に設けられる。突起5aは、タービンハウジング5の径方向に突出する。ベアリングハウジング3とタービンハウジング5は、締結機構9によってバンド締結される。締結機構9は、例えば、Gカップリングである。締結機構9は、突起3aおよび突起5aを挟持する。
【0015】
ベアリングハウジング3には、軸受孔3bが形成される。軸受孔3bは、過給機TCの左右方向に貫通する。軸受孔3bには、軸受13が配される。軸受13は、セミフローティング軸受である。ただし、軸受13は、後述するように、セミフローティング軸受以外の軸受であってもよい。軸受13は、シャフト15を回転自在に軸支する。シャフト15の左端部には、タービン翼車17が設けられる。タービン翼車17は、タービンハウジング5に回転自在に収容される。シャフト15の右端部には、コンプレッサインペラ19が設けられる。コンプレッサインペラ19は、コンプレッサハウジング7に回転自在に収容される。ベアリングハウジング3の下部には、軸受13から飛散する潤滑油を排出する排油口3cが形成されている。
【0016】
コンプレッサハウジング7には、吸気口21が形成される。吸気口21は、過給機TCの右側に開口する。吸気口21は、不図示のエアクリーナに接続される。ベアリングハウジング3とコンプレッサハウジング7の対向面によって、ディフューザ流路23が形成される。ディフューザ流路23は、空気を昇圧する。ディフューザ流路23は、環状に形成される。ディフューザ流路23は、径方向内側において、コンプレッサインペラ19を介して吸気口21に連通している。
【0017】
コンプレッサハウジング7には、コンプレッサスクロール流路25が設けられる。コンプレッサスクロール流路25は、環状に形成される。コンプレッサスクロール流路25は、例えば、ディフューザ流路23よりもシャフト15の径方向外側に位置する。コンプレッサスクロール流路25は、不図示のエンジンの吸気口と、ディフューザ流路23とに連通している。コンプレッサインペラ19が回転すると、吸気口21からコンプレッサハウジング7内に空気が吸気される。吸気された空気は、コンプレッサインペラ19の翼間を流通する過程において加圧加速される。加圧加速された空気は、ディフューザ流路23およびコンプレッサスクロール流路25で昇圧される。昇圧された空気は、エンジンの吸気口に導かれる。
【0018】
タービンハウジング5には、吐出口27が形成される。吐出口27は、過給機TCの左側に開口する。吐出口27は、不図示の排気ガス浄化装置に接続される。タービンハウジング5には、連通路29と、タービンスクロール流路31とが形成される。タービンスクロール流路31は、環状に形成される。タービンスクロール流路31は、例えば、連通路29よりもタービン翼車17の径方向外側に位置する。タービンスクロール流路31は、不図示のガス流入口と連通する。ガス流入口には、不図示のエンジンの排気マニホールドから排出される排気ガスが導かれる。連通路29は、タービン翼車17を介してタービンスクロール流路31と吐出口27とを連通させる。ガス流入口からタービンスクロール流路31に導かれた排気ガスは、連通路29、タービン翼車17を介して吐出口27に導かれる。吐出口27に導かれる排気ガスは、流通過程においてタービン翼車17を回転させる。
【0019】
タービン翼車17の回転力は、シャフト15を介してコンプレッサインペラ19に伝達される。コンプレッサインペラ19が回転すると、上記のとおりに空気が昇圧される。こうして、空気がエンジンの吸気口に導かれる。
【0020】
図2は、図1の一点鎖線部分を抽出した図である。図2に示すように、ベアリングハウジング3の内部には軸受構造BSが設けられる。軸受構造BSは、軸受孔3bと、軸受13と、シャフト15とを含む。
【0021】
ベアリングハウジング3には、油路3dが形成される。油路3dには、潤滑油が供給される。油路3dは、軸受孔3bに開口(連通)する。油路3dは、潤滑油を軸受孔3bに導く。潤滑油は、油路3dから軸受孔3b内に流入する。
【0022】
軸受孔3bには、軸受13が配される。軸受13は、環状の本体13aを有する。本体13aには、挿通孔13bが形成される。挿通孔13bは、本体13aをシャフト15の軸方向に貫通する。シャフト15の軸方向は、鉛直方向に対して交差(具体的には、直交)する。挿通孔13bには、シャフト15が挿通される。本体13aは、鉛直方向に対して交差する方向(具体的には、直交する方向)に延びる。以下、軸受13の軸方向、径方向および周方向(つまり、本体13aおよびシャフト15の軸方向、径方向および周方向)をそれぞれ単に軸方向、径方向および周方向とも呼ぶ。
【0023】
本体13a(具体的には、挿通孔13b)の内周面13cには、2つのラジアル軸受面13d、13eが形成される。2つのラジアル軸受面13d、13eは、軸方向に離隔して配される。本体13aには、油孔13fが形成される。油孔13fは、本体13aの内周面13cから外周面13gまで貫通する。油孔13fは、2つのラジアル軸受面13d、13eの間に配される。油孔13fは、軸受13の径方向において、油路3dの開口と対向する。
【0024】
潤滑油は、本体13aの外周面13g側から、油孔13fを通って内周面13c側に流入する。本体13aの内周面13c側に流入した潤滑油は、内周面13cとシャフト15との間を、周方向に沿って移動する。また、本体13aの内周面13c側に流入した潤滑油は、内周面13cとシャフト15との間を、軸方向(図2中、左右方向)に沿って移動する。潤滑油は、シャフト15と2つのラジアル軸受面13d、13eとの間隙に供給される。潤滑油の油膜圧力によってシャフト15が軸支される。2つのラジアル軸受面13d、13eは、シャフト15のラジアル荷重(つまり、ラジアル方向の荷重)を受ける。
【0025】
本体13aには、貫通孔13hが形成される。貫通孔13hは、本体13aの内周面13cから外周面13gまで貫通する。貫通孔13hは、2つのラジアル軸受面13d、13eの間に配される。貫通孔13hは、本体13aのうち油孔13fが形成される側とは反対側に配される。ただし、これに限定されず、貫通孔13hの位置は、周方向において油孔13fの位置と異なっていればよい。
【0026】
ベアリングハウジング3には、ピン孔3eが形成される。ピン孔3eは、軸受孔3bのうち貫通孔13hと対向する位置に形成される。ピン孔3eは、軸受孔3bを形成する壁部を貫通する。ピン孔3eは、軸受孔3bの内部空間と外部空間とを連通する。ピン孔3eには、位置決めピン33が挿通される。具体的には、ピン孔3eには、位置決めピン33が圧入される。位置決めピン33の先端は、本体13aの貫通孔13hに挿通される。位置決めピン33は、本体13aの回転方向および軸方向の移動を規制する。
【0027】
シャフト15は、大径部15aと、中径部15bと、小径部15cとを備える。大径部15aは、本体13aよりもタービン翼車17(図1参照)側に位置する。大径部15aは、円柱形状である。大径部15aの外径は、本体13aの内周面13c(具体的には、ラジアル軸受面13d)の内径より大きい。大径部15aの外径は、本体13aの外周面13gの外径より大きい。ただし、大径部15aの外径は、本体13aの外周面13gの外径と等しくてもよいし、小さくてもよい。大径部15aは、本体13aと軸方向に対向する。大径部15aは、一定の外径を有する。ただし、大径部15aの外径は、一定でなくてもよい。
【0028】
中径部15bは、大径部15aよりもコンプレッサインペラ19(図1参照)側に位置する。中径部15bは、円柱形状である。中径部15bは、本体13aの挿通孔13bに挿通される。したがって、中径部15bは、径方向において挿通孔13bの内周面13cと対向する。中径部15bは、大径部15aより小さい外径を有する。中径部15bの外径は、本体13aのラジアル軸受面13d、13eの内径より小さい。中径部15bは、一定の外径を有する。ただし、中径部15bの外径は、一定でなくてもよい。
【0029】
小径部15cは、中径部15bよりもコンプレッサインペラ19(図1参照)側(つまり、本体13aよりもコンプレッサインペラ19側)に位置する。小径部15cは、円柱形状である。小径部15cは、中径部15bより小さい外径を有する。小径部15cは、一定の外径を有する。ただし、小径部15cの外径は、一定でなくてもよい。
【0030】
小径部15cには、環状の油切り部材35が挿通される。油切り部材35は、シャフト15を伝ってコンプレッサインペラ19側に流れる潤滑油を径方向外側に飛散させる。つまり、油切り部材35は、コンプレッサインペラ19側への潤滑油の漏出を抑制する。
【0031】
油切り部材35は、中径部15bより大きな外径を有する。油切り部材35の外径は、本体13aの内周面13c(具体的には、ラジアル軸受面13e)の内径より大きい。油切り部材35の外径は、本体13aの外周面13gの外径より小さい。ただし、油切り部材35の外径は、本体13aの外周面13gの外径と等しくてもよいし、大きくてもよい。油切り部材35は、本体13aと軸方向に対向する。
【0032】
本体13aは、油切り部材35および大径部15aによって軸方向に挟まれている。本体13aの端面には、スラスト軸受面13i、13jが設けられる。スラスト軸受面13iは、本体13aのタービン翼車17(図1参照)側の端面に設けられる。スラスト軸受面13jは、本体13aのコンプレッサインペラ19(図1参照)側の端面に設けられる。スラスト軸受面13iには、内周面13cを通って、潤滑油が供給される。それにより、本体13aと大径部15aとの間隙に、潤滑油が供給される。スラスト軸受面13jには、内周面13cを通って、潤滑油が供給される。それにより、本体13aと油切り部材35との間隙に、潤滑油が供給される。
【0033】
シャフト15が軸方向(図2中、左側)に移動すると、スラスト軸受面13iに供給される潤滑油(つまり、本体13aと大径部15aとの間の潤滑油)の油膜圧力によってスラスト方向(軸方向)の荷重が支持される。シャフト15が軸方向(図2中、右側)に移動すると、スラスト軸受面13jに供給される潤滑油(つまり、本体13aと油切り部材35との間の潤滑油)の油膜圧力によってスラスト方向(軸方向)の荷重が支持される。このように、2つのスラスト軸受面13i、13jは、スラスト荷重を受ける。
【0034】
本体13aの外周面13gには、ダンパ部13k、13mが形成される。ダンパ部13k、13mは、互いに軸方向に離隔する。ダンパ部13k、13mは、外周面13gのうち軸方向の両端部に形成される。ダンパ部13k、13mの外径は、外周面13gのうち他の部位の外径よりも大きい。ダンパ部13k、13mと軸受孔3bの内周面3fとの間隙には、潤滑油が供給される。潤滑油の油膜圧力によってシャフト15の振動が抑制される。
【0035】
図3は、本実施形態に係る軸受13におけるスラスト軸受面13iを示す正面図である。図3は、スラスト軸受面13iを図2中の左側から見た図である。なお、スラスト軸受面13jの形状は、スラスト軸受面13iと大凡等しい形状である。したがって、スラスト軸受面13jの形状については、説明を省略する。ラジアル軸受面13eの形状は、ラジアル軸受面13dと大凡等しい形状である。したがって、ラジアル軸受面13eの形状については、説明を省略する。
【0036】
図3に示すように、ラジアル軸受面13dには、複数の円弧面37と、複数の給油溝39とが形成される。図3の例では、ラジアル軸受面13dは、4つの円弧面37と、4つの給油溝39を有する。ただし、これに限定されず、円弧面37および給油溝39の数は、4つ以外であってもよい。
【0037】
複数の円弧面37は、シャフト15から径方向に離隔している。複数の円弧面37は、周方向に並んで配される。複数の円弧面37の曲率中心の位置は、互いに一致している。つまり、複数の円弧面37は、同一の円筒面上に位置する。ただし、複数の円弧面37の曲率中心の位置は、互いに異なっていてもよい。周方向に隣り合う2つの円弧面37の間には、給油溝39が形成される。給油溝39は、周方向に間隔を空けてラジアル軸受面13dに形成される。給油溝39は、軸方向に延在する。給油溝39の流路断面の形状(つまり、軸方向に直交する断面における形状)は、周方向の幅が径方向外側ほど細くなる形状(具体的には、三角形状)である。ただし、給油溝39の流路断面の形状は、三角形状以外の多角形状(例えば、矩形状)または半円形状等であってもよい。
【0038】
給油溝39は、ラジアル軸受面13dのうち、2つのラジアル軸受面13d、13e(図2参照)が近接する側の端部から、2つのラジアル軸受面13d、13eが離隔する側の端部まで延在している。給油溝39は、スラスト軸受面13i(すなわち、本体13aの軸方向の端面)に開口している。給油溝39は、潤滑油を流通させる。給油溝39は、ラジアル軸受面13dに潤滑油を供給する。また、給油溝39は、スラスト軸受面13iに潤滑油を供給する。
【0039】
シャフト15とラジアル軸受面13dとの間の潤滑油は、シャフト15の回転に伴って、シャフト15の回転方向RDに移動する。このとき、潤滑油は、ラジアル軸受面13dの円弧面37とシャフト15との間で圧縮される。圧縮された潤滑油は、シャフト15を径方向内側(つまり、ラジアル方向)に押圧する(くさび効果)。これにより、ラジアル荷重がラジアル軸受面13dによって支持される。
【0040】
図3に示すように、スラスト軸受面13iには、複数のテーパ部41(具体的には、テーパ部41-1、41-2、41-3、41-4)と、ランド部43とが形成される。テーパ部41は、スラスト軸受面13iにおいて、軸方向に直交する平面に対して窪んでいる部分である。ランド部43は、スラスト軸受面13iのうち、テーパ部41が形成されていない部分(つまり、軸方向に直交する平面状の部分)である。図3の例では、スラスト軸受面13iは、4つのテーパ部41を有する。ただし、これに限定されず、テーパ部41の数は、4つ以外であってもよい。
【0041】
テーパ部41は、スラスト軸受面13iの外周縁と離隔する。スラスト軸受面13iにおいて、テーパ部41よりも径方向外側にはランド部43が存在する。テーパ部41は、ラジアル軸受面13dと接続されている。テーパ部41は、周方向に延在している。テーパ部41の径方向の長さは一定である。ただし、テーパ部41の径方向の長さは一定でなくてもよい。
【0042】
複数のテーパ部41は、本体13aの周方向に間隔を空けて設けられる。テーパ部41-1、41-2、41-3、41-4は、この順に等間隔に並んでいる。ただし、テーパ部41-1、41-2、41-3、41-4は、不等間隔に並んでいてもよい。テーパ部41-1、41-4は、スラスト軸受面13iの鉛直方向上側(具体的には、鉛直方向の上半分)に形成される。テーパ部41-4は、テーパ部41-1よりも、スラスト軸受面13iにおける鉛直方向の最上部に近い。テーパ部41-2、41-3は、スラスト軸受面13iの鉛直方向下側(具体的には、鉛直方向の下半分)に形成される。テーパ部41-2は、テーパ部41-3よりも、スラスト軸受面13iにおける鉛直方向の最下部に近い。
【0043】
テーパ部41は、給油溝39と連通する。テーパ部41-1、41-2、41-3、41-4の各々は、1つの給油溝39と連通する。
【0044】
図4は、図3のA-A断面を示す断面図である。図3のA-A断面は、テーパ部41-2を通り、本体13aの周方向に沿った断面である。つまり、図4では、テーパ部41-2の周方向に沿った断面形状が示されている。テーパ部41-2には、後述するように、排油溝45が設けられている。一方、テーパ部41-1、41-3、41-4には、排油溝45が設けられていない。テーパ部41-1、41-3、41-4の形状は、排油溝45の有無以外の点に関しては、テーパ部41-2と大凡等しい形状である。したがって、テーパ部41-1、41-3、41-4の形状については、説明を省略する。
【0045】
図4に示すように、テーパ部41は、周方向(具体的には、シャフト15の回転方向RD)に進むにつれて浅くなる。テーパ部41は、一定の傾斜角で周方向に対して傾斜する。ただし、テーパ部41の傾斜角は、周方向位置によって異なっていてもよい。スラスト軸受面13iに供給された潤滑油は、シャフト15の回転に伴って、シャフト15の回転方向RDに移動する。このとき、潤滑油は、スラスト軸受面13iのテーパ部41と大径部15a(図2参照)との間で圧縮される。圧縮された潤滑油は、大径部15aを軸方向(つまり、スラスト方向)に押圧する(くさび効果)。これにより、油膜圧力が発生しやすくなり、スラスト軸受面13iによるスラスト方向の耐荷重が大きくなる。
【0046】
図3および図4に示すように、スラスト軸受面13iには、排油溝45が設けられる。排油溝45は、複数のテーパ部41のうちの1つのテーパ部41-2を通過する。排油溝45は、給油溝39(具体的には、テーパ部41-2と連通する給油溝39)とスラスト軸受面13iの外周縁とを接続する。スラスト軸受面13iに供給された潤滑油は、排油溝45を通って、排油溝45のうちスラスト軸受面13iの外周縁側の開口45a(以下、排油溝45の外周縁側の開口45aとも呼ぶ)から排出される。排油溝45は、スラスト軸受面13iに供給された潤滑油をスラスト軸受面13iから排出することによって、スラスト軸受面13iにおける潤滑油の流動を促進する。それにより、スラスト軸受面13iに形成される油膜の温度の上昇が抑制され、温度の上昇に伴う粘度の低下が抑制される。ゆえに、スラスト軸受面13iによるスラスト方向の耐荷重の低下が抑制される。
【0047】
排油溝45は、本体13aの径方向に延在する。ただし、排油溝45は、本体13aの径方向に対して傾斜する方向に延在してもよい。排油溝45は、スラスト軸受面13iのうちベアリングハウジング3の排油口3c(図1参照)側に設けられる。それにより、軸受13から排油口3cに向けて潤滑油が飛散し、ベアリングハウジング3を介した潤滑油の排出が円滑化される。潤滑油を円滑に排出する観点では、例えば、本体13aの軸方向に軸受13を見た場合、排油溝45の延長線上に、ベアリングハウジング3の排油口3c(図1参照)が位置することが好ましい。
【0048】
排油溝45の流路断面の形状(つまり、排油溝45の延在方向に直交する断面における形状)は、矩形状である。ただし、排油溝45の流路断面の形状は、矩形状以外の多角形状(例えば、三角形状)または半円形状等であってもよい。
【0049】
図3および図4の例では、排油溝45は、テーパ部41-2における回転方向RD側の端部(具体的には、図4中の左側の端部)と離隔している。ただし、テーパ部41-2と排油溝45との位置関係は、図3および図4の例に限定されない。例えば、排油溝45は、テーパ部41-2における回転方向RD側の端部を通過してもよい。
【0050】
以上説明したように、本実施形態に係る軸受13では、スラスト軸受面13iに複数のテーパ部41が設けられる。それにより、油膜圧力が発生しやすくなり、スラスト軸受面13iによるスラスト方向の耐荷重が大きくなる。ここで、仮に、複数のテーパ部41の各々に対して排油溝45を設けた場合、スラスト軸受面13iにおける潤滑油の流動が過度に促進され、軸受13からの潤滑油の排出量が過度に大きくなる。それにより、過給機TCにおけるオイルシール性が低下する。
【0051】
一方、本実施形態に係る軸受13では、複数のテーパ部41のうちの1つのテーパ部41-2に対してのみ排油溝45が設けられる。それにより、軸受13からの潤滑油の排出量が過度に大きくなることが抑制され、オイルシール性の低下が抑制される。その上で、スラスト軸受面13iにおける潤滑油の流動が促進されることによって、油膜の温度の上昇が抑制され、温度の上昇に伴う粘度の低下が抑制される。ゆえに、スラスト軸受面13iによるスラスト方向の耐荷重の低下が抑制される。上記のように、本実施形態によれば、軸受13のスラスト方向の耐荷重を適切に向上させることができる。
【0052】
ここで、排油溝45の外周縁側の開口45aの流路断面積が大きくなるほど、開口45aからの潤滑油の排出量は大きくなる。一方、排油溝45の外周縁側の開口45aの流路断面積が小さくなるほど、開口45aからの潤滑油の排出量は小さくなる。ゆえに、過給機TCにおけるオイルシール性の低下の抑制、および、スラスト軸受面13iにおける油膜の温度の上昇に伴う粘度の低下の抑制をより適切に両立させる観点では、排油溝45の外周縁側の開口45aの流路断面積を適正化することが好ましい。
【0053】
図5は、図3のB矢印方向から軸受13を見た図である。具体的には、図5は、スラスト軸受面13iの外周縁よりも径方向外側からテーパ部41-2を見た図である。図5の例では、排油溝45の外周縁側の開口45aの形状は、矩形状である。ゆえに、排油溝45の外周縁側の開口45aの流路断面積は、開口45aの幅W(つまり、周方向の長さ)および深さH(つまり、軸方向の長さ)に応じて決まる。つまり、開口45aの幅Wおよび深さHを設定することによって、開口45aの流路断面積が設定される。
【0054】
図6は、本実施形態に係る軸受13におけるスラスト軸受面13iの面積S1(具体的には、スラスト軸受面13iの軸方向への投影面積)に対する排油溝45の外周縁側の開口45aの流路断面積S2の比率S2/S1と、軸受13から排出される潤滑油の流量Q1[L/min]との関係を示すグラフである。図6は、数値解析シミュレーションにより得られたグラフである。
【0055】
図6に示すように、比率S2/S1が高くなるほど、流量Q1は大きくなる。上述したように、本実施形態では、スラスト軸受面13iに複数のテーパ部41が設けられるので、スラスト方向の耐荷重が大きくなる。ここで、流量Q1が大きいほど、スラスト軸受面13iにおける潤滑油の流動が効果的に促進される。ゆえに、油膜の温度の上昇、および、温度の上昇に伴う粘度の低下が効果的に抑制され、スラスト方向の耐荷重が効果的に大きくなる。しかしながら、一般に、スラスト軸受では、オイルシール性を確保するために、流量Q1が0.8[L/min]程度(例えば、図6中で破線の横線で示される程度)より小さいことが求められている。図6のグラフによれば、比率S2/S1が0.01以下である場合、流量Q1が0.8[L/min]程度より小さくなる。つまり、比率S2/S1が0.01以下である場合、オイルシール性の低下が適切に抑制されることがわかる。
【0056】
ここで、仮に、複数のテーパ部41の各々に対して排油溝45を設けた場合においても、各排油溝45の開口45aを調整することによって、軸受13から排出される潤滑油の流量Q1を調整し得ることが考えられる。しかしながら、各排油溝45からの潤滑油の排出量の最小値には限界があることに加えて、ベアリングハウジング3の排油口3c側と異なる位置に排油溝45が存在した場合、オイルシール性を低下させる要因となる。ゆえに、本実施形態のように排油溝45の数を1つにすることによって、オイルシール性の低下が適切に抑制される程度に流量Q1を小さくすることが適切に実現される。さらには、排油溝45をスラスト軸受面13iのうちベアリングハウジング3の排油口3c側に設けることで、よりオイルシール性を高めることができる。
【0057】
図7は、本実施形態に係る軸受13におけるスラスト軸受面13iの面積S1に対する排油溝45の外周縁側の開口45aの流路断面積S2の比率S2/S1と、スラスト軸受面13iに形成される油膜の温度T1[℃]との関係を示すグラフである。図7は、数値解析シミュレーションにより得られたグラフである。
【0058】
図7に示すように、比率S2/S1が高くなるほど、温度T1は低くなる。上述したように、比率S2/S1が高いほど、流量Q1が大きくなり、スラスト軸受面13iにおける潤滑油の流動が効果的に促進される。それにより、油膜の温度T1の上昇、および、温度T1の上昇に伴う粘度の低下が効果的に抑制され、スラスト方向の耐荷重が効果的に大きくなる。ここで、一般に、スラスト軸受では、スラスト方向の耐荷重を確保するために、温度T1が170[℃]以下となることが求められている。図7のグラフによれば、比率S2/S1が0.003以上である場合、温度T1が170[℃]以下となる。つまり、比率S2/S1が0.003以上である場合、温度の上昇に伴う油膜の粘度の低下が適切に抑制され、スラスト軸受面13iによるスラスト方向の耐荷重の低下が適切に抑制されることがわかる。
【0059】
上記のように、過給機TCにおけるオイルシール性の低下の抑制、および、スラスト軸受面13iにおける油膜の温度の上昇に伴う粘度の低下の抑制をより適切に両立させる観点では、比率S2/S1が0.003以上、かつ、0.01以下であることが特に好ましい。
【0060】
以上、添付図面を参照しながら本開示の実施形態について説明したが、本開示はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載
された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【0061】
上記では、軸受13が過給機TCに設けられる例を説明した。ただし、軸受13は、過給機TC以外の他の装置(例えば、船舶等)に設けられてもよい。
【0062】
上記では、軸受13がセミフローティング軸受である例を説明した。ただし、軸受13は、スラスト軸受面を有していれば、セミフローティング軸受以外の軸受であってもよい。
【符号の説明】
【0063】
13:軸受 13a:本体 13i:スラスト軸受面 13j:スラスト軸受面 15:シャフト 39:給油溝 41:テーパ部 41-1:テーパ部 41-2:テーパ部 41-3:テーパ部 41-4:テーパ部 45:排油溝 45a:開口 S1:面積 S2:流路断面積 TC:過給機
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7